説明

酵素式センサー用の拡散および酵素層

酵素式センサー用途用の複合拡散および酵素層が提供され、その拡散および酵素層は(a)少なくとも1種類のポリマー材料および(b)酵素を担持した粒子、代表的には親水性粒子を含み、その親水性粒子は少なくとも1種類のポリマー材料中に分散している。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酵素式センサー用途向けの組み合わせた拡散および酵素層ならびにそれを含むセンサーに関するものである。
【背景技術】
【0002】
酵素式センサーは、血液および体液中で定性的ならびに定量的に対象物質を測定するのに広く用いられている。酵素式センサーは特に、酵素基質の測定に用いられる。酵素式センサーでは、いわゆる化学的トランスデューサー反応が起こって、そこでは測定対象物質が少なくとも1種類の酵素の関与下に別の物質に変換される。多くの酵素式センサーで、補基質が関与する必要がある。補基質の消費または他の物質の産生を、直接または間接に検出する。
【0003】
酵素式センサーには通常は、いくつかの層があり、その中に酵素層および拡散層(被覆膜、外層)がある。この拡散層はサンプルと直接接触し、検知反応に必要な物質、特に酵素基質または補基質の拡散を制限する。
【0004】
酵素式センサーは、電気化学センサーとして、または光学センサー(オプトード:optode)として提供することができる。グルコースオプトードの構築および機能が、例えば米国特許第6107083号に記載されている。
【0005】
特に、グルコース、ラクテートまたはクレアチニンの検出に用いられる酵素式センサーは好ましくは、酸化還元酵素を用いて構築され、検出は酸素消費に基づくものである。この場合、センサーは、酵素基質および酸素の両方の透過を制御する多孔質または少なくとも透過性のポリマー膜である被覆膜を必要とする。
【0006】
酵素を用いるグルコースセンサーは、サッカリド類の検出において最も知られた実際的手段である。この技術では、サンプルのセンサーとの接触、グルコースのセンサー中への拡散、酵素層中の酵素(グルコースオキシダーゼ)によるグルコースの分解、ならびに発光色素などの適切な手段による消費された酵素量の測定、または電流測定電極などの適切な手段による産生過酸化水素量の測定などを行う。
【0007】
従って、酵素式センサーは、電気化学センサー(電極)または光学センサー(オプトード)として提供することができる。グルコースオプトードの構築および機能については、例えば米国特許第6107083号(Collinsら)に記載されている。グルコース電極の構築および機能については、例えば米国特許第6214185号(Offenbacherら)に記載されている。
【0008】
特に、グルコース、ラクテートまたはクレアチニンの測定に用いられる酵素式オプトードは好ましくは、酸化還元酵素を用いて構築され、検出は主として酸素消費に基づくものである。発光式オプトードの基本的な設計概念は、
a)光透過性支持体、
b)光透過性で酸素透過性のマトリクス中の発光色素を含む酸素検知層、
c)親水性で水透過性および酸素透過性のマトリクスに固定化された酸化還元酵素または酵素カスケードを含む酵素層、
d)酵素基質および/または補基質の酵素層への拡散を制限する拡散層、そして場合により
e)光に対して不透過性である光絶縁層
をこの順序で有するものである。
【0009】
あるいは、酵素層または拡散層を光不透過性材料から構築して、光絶縁層として機能させることができる。
【0010】
サンプル測定に先立って、水または適切な塩溶液と一定レベル、すなわち150mmHgのOでセンサーを平衡状態としておく。測定を行うためには、センサーをサンプルと接触させる。グルコースがサンプルから酵素層中に拡散する。酵素層内でのグルコースおよび酸素の消費によって、隣接する色素層で酸素の欠乏が生じる。発光色素の場合、色素層内でのO欠乏速度が、相当する発光強度上昇(すなわち、ΔI/Δtとして表される)に変換される。後者の値、すなわちサンプル接触から一定時間内で測定した値を、適切な相関関数によってグルコース濃度に関連付ける。色素層で全てのOが消費された場合、発光強度はそれ以上上昇しないことからΔI/Δtはゼロとなる。色素負荷量の変動(すなわち、センサー間変動)または光源強度の変動(装置間変動)を計上するため、強度変化は好ましくは、ΔI/(IΔt)[式中、Iは既知pOでの強度(すなわち、サンプル接触前に測定される強度)である。]として表す。本発明者らは、後者の量を勾配と称し、勾配はサンプル測定後の所定時間ウィンドウで測定される。実際には、勾配の測定には多くの方法が知られている。発光強度に加えて、当業界で公知のパルス法または位相法によって測定される発光減衰時間(すなわち、Δτ/Δt)も同様に使用可能である。
【0011】
酵素層を形成するポリマーの選択は、a)それの水または水系サンプルでの不溶性、b)酵素活性を破壊しない溶媒での溶解度およびc)それの隣接色素層のポリマーへの付着性によって決まる。多くの非架橋親水性ポリマーが候補材料となり得る。低級アルコール(エタノールなど)またはアルコール−水混合液に可溶である種の低水分取り込みポリエーテル−ポリウレタン類(湿状態で含水率2.5%)が、ある種のシリコーンから製造される色素層に対する良好な付着性を提供する好ましい材料である。
【0012】
非常に親水性の高いポリマー(含水率50%以上)を使用する場合の一つの欠点は、グルコースおよびラクテート(lactate)などの水溶性が非常に高い基質が酵素層中に非常に速く浸透して変換反応が速く進み過ぎるために、色素層でのO欠乏が速すぎる(数秒以内)ことである。多くの他の欠点は別として、大きい速度の測定は実用的ではなくなる。拡散層は、酵素基質の透過を制御するものである。
【0013】
最新技術で知られている一つのアプローチによれば、ポリカーボネート、ポリプロピレンおよびポリエステルのようなポリマーの非水和性微細多孔質構造からなる成形被覆膜を用いて、酵素基質の透過を制御する。そのような膜の多孔性は、物理的手段、例えば中性子またはアルゴン軌跡エッチングによって提供される。グルコースは、主として、液体で満たされたこれらの孔を介して、そのような膜を透過する。補基質Oはセンサー層に充填されてから、サンプルと接触する。補基質(すなわち、O)は、前記孔とポリマーの両方を通って透過する。ポリマーを通過する透過の度合いは、Oに対するその透過性によって決まる。
【0014】
一つの主たる欠点は、成形薄膜は酵素層に取り付けなければならないという点である。非常に多くの場合、膜は酵素層に物理的に取り付けられる。物理的取り付けは、高価であって、しかも技術的に複雑である。気泡を発生させずに下地層上に膜を取り付けることが困難な場合には、さらに問題が起こる。膜を例えば下地層に接着する場合にも、同様の問題が起こる。
【0015】
最新技術で公知の別のアプローチは、酵素層にポリマー溶液を塗布し、溶媒を留去することで拡散層を形成するというものである。Offenbacherら(米国特許第6214185号)は、親水性コモノマー成分が存在することで透過率を十分満足できるだけ調節可能であるPVCコポリマー製の被覆膜について記載している。水または水系サンプルに曝露されると、親水性領域が水溶性酵素基質の透過経路として作用する膨潤構造を提供する。EP0690134には、樹脂層で酵素担持白金メッキカーボン粒子を用いる電気化学センサーについて記載されている。重要な点として、酵素層は別の拡散膜によって覆われており、その拡散膜は好ましくは、アニオン的に安定化された、コロイド状シリカを含む水系のヒドロキシル末端ブロックポリジメチルシロキサンエラストマーでスピンコーティングされている。
【発明の開示】
【0016】
上記の背景技術に対し、本発明は先行技術に対するある種の非自明な利点および進歩を提供する。特に本発明者は、酵素式センサー用途向けの拡散層または膜設計において改善が必要であることを認識していた。
【0017】
本発明は具体的な利点や機能性に限定されるものではないが、留意すべき点として、本発明は短い時間枠内での複数の測定に使用も可能な、酵素回復時間の短いセンサーを提供する。さらに、酵素反応の生成物を除去するための洗浄時間が短く、酵素層の水和(「濡らし」)も短時間である、センサーが提供される。
【0018】
本発明の一実施形態によれば、少なくとも1種類のポリマー材料および酵素担持粒子を含む複合拡散および酵素層が提供される。前記粒子は、前記少なくとも1種類のポリマー材料中に分散されている。粒子は親水性でありうる。
【0019】
本発明は、拡散層および酵素層を組み合わせて単一層とするという考え方に基づいたものである。
【0020】
本発明の別の実施形態によれば、前記拡散および酵素層はさらに、光絶縁のための粒子、例えば前記少なくとも1種類のポリマー材料中に分散した粒子を含んでいてもよい。
【0021】
本発明のさらに別の実施形態によれば、センサーの被覆層でありうる本発明による拡散および酵素層を含む酵素式センサーが提供される。
【0022】
本発明のさらに別の実施形態によれば、少なくとも一つの色素層を含む酵素式センサーが提供される。
【0023】
本発明のさらに別の実施形態によれば、前記センサーは電気化学センサーまたは光学センサーである。
【0024】
本発明の別の態様は、酵素基質、特にはグルコースおよび/または補基質の検出および/または定性的測定および/または定量的測定における前記酵素式センサーの使用である。本発明の酵素式センサーは、代表的には複数の測定を行う血液で使用可能である。
【0025】
本発明のさらに別の実施形態によれば、(i)少なくとも1種類のポリマー材料および酵素担持粒子を含む分散液を形成する工程;(ii)前記分散液を下地層上に直接塗布して酵素担持拡散層を形成する工程;および(iii)前記分散液を乾燥させる工程を有する、酵素式センサー用の複合拡散および酵素層を製造する方法が提供される。
【0026】
本発明の上記および他の特徴および利点については、添付の特許請求の範囲とともに下記の本発明の詳細な説明からさらに理解が深まるであろう。留意すべき点として、特許請求の範囲は、そこに記載の内容によって定義されるものであって、本明細書の説明に記載されている特徴および利点についての具体的な議論によって定義されるものではない。
【0027】
本発明の実施形態に関する下記の詳細な説明については、以下の図面と組み合わせて読むことで最も良く理解することができ、その図面において類似の構造は同様の参照番号で示している。
【0028】
当業者であれば、図中の構成要素は簡潔性および明瞭性を期して示されているものであって、必ずしも寸法通りに描かれているわけではないことは明らかである。例えば、図中の構成要素の一部のものの寸法を他の構成要素に対して拡大することで、本発明の実施形態についての理解を深めることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0029】
本発明の一実施形態によれば、酵素担持粒子および適宜に少なくとも1種類のポリマー材料中に分散した粒子を含む複合拡散および酵素層が提供される。その粒子は親水性でありうる。水溶性酵素基質のための調節可能な透過経路として作用する前記少なくとも1種類のポリマーの膨潤構造ならびに酵素担持粒子の膨潤構造によって、補基質に対して層は透過性を得ることができる。
【0030】
本発明の層に使用されるポリマー材料は、非酵素破壊性で無毒の、代表的には揮発しやすく容易に塗布可能な溶媒または溶媒混合物に可溶である、調節可能な膨潤構造を有するポリマー材料またはポリマー材料混合物でありうる。代表的には、前記ポリマーは、親水性ならびに疎水性ポリマー鎖配列を含む。本用途に特に好適なポリマーは、40重量%以下、より代表的には20重量%以下の吸水能力を有する。
【0031】
本発明によれば、低吸水性ポリマーに例えばポリウレタン型D4ポリマー(Tyndale Plains-Hunter Ltd.)(湿状態で含水率50%)などの高吸水性ポリマーを加えることも可能である。そのような添加によって、ポリマー混合物の含水率を調節することができる。利点は調節可能な勾配である(図6と比較)。酵素は、そのような層に組み込むことができ、例えば親水性粒子に固定化したり、酵素層を形成するポリマー中で分散させることができる。
【0032】
代表的なポリマー材料は、吸水率<40%、代表的には比較的低い吸水率<20重量%を特徴とする非架橋性で非水溶性のポリマーからなる群から選択することができる。そのポリマーが少なくとも2種類の混和性で非架橋性および非水溶性のポリマーであり、その少なくとも2種類の混和性で非架橋性および非水溶性のポリマーのうちの一方が40重量%未満(好ましくは10重量%未満)の吸水能力を有し、その少なくとも2種類の混和性で非架橋性および非水溶性のポリマーのうちの一方が20重量%より高い(好ましくは40重量%より高い)吸水能力を有することで、全体としてのポリマー層が前記2種類のポリマーの混合比によって決まる吸水能力を有するようにすることも可能である。
【0033】
ポリマー材料に関しての多様な選択肢があることから、溶液によって直接塗布可能な本発明の層を容易に提供することができる。その層は例えば、下地層の上に、代表的には酸素オプトードの酸素感受性層の上にコーティングすることができる。測定されるサンプル(すなわち、血清、血漿および血液などの体液)に不溶である複合拡散および酵素層を容易に提供可能であることが、本発明の層の一つの利点である。
【0034】
本発明による複合拡散および酵素層は、層形成ポリマー材料中に分散した親水性酵素担持粒子を含む。前記粒子および前記ポリマーのいずれも、補基質に対する透過性を提供することから、センサーにおいて酵素が迅速に回復する。
【0035】
酵素層は、酵素基質に対する所定の透過性を有し、それは基質−透過性粒子の密度によって提供され、該粒子は本発明による径および量を有する。その層の利用分野に応じて、粒子の径および量を変動させることができる。
【0036】
膜中の粒子としての使用に関しては、固有および所定の吸水率および酵素負荷量を有する実質的に全ての安定な親水性粒子およびそのような粒子の混合物が有用である。所望の用途および/または吸水率および酵素負荷量に応じて、好適な粒子を選択することができる。
【0037】
好適な粒子の例には、ゲル粒子などがある。代表的な粒子は、ポリアクリルアミド、ポリアクリルアミドとN−アクリルオキシコハク酸イミドのコポリマー、ポリビニルピロリドン、ポリビニルアセテートおよびアガロースビーズに基づくものである。表面結合した酵素を有する実質的に全ての安定な非親水性粒子およびそのような粒子の混合物も有用であり得ると考えられる。そのような粒子についての例には、ガラス、石英、セルロース、ポリスチレン、ナイロンおよび他のポリアミド類などがある。
【0038】
本発明による酵素層はさらに、光学センサーの光絶縁および回復特性向上のためにカーボンブラックおよび二酸化チタンなどの他の要素を含むことができる。
【0039】
本発明による酵素層の厚さは、所望の用途に応じて柔軟に選ぶことができる。厚さは、酵素担持粒子の径によって決まる。好適な厚さは、約1〜約100μm、代表的には約1〜約50μm、より代表的には約1〜約20μmの範囲内である。
【0040】
本発明による酵素層の一実施形態では、粒子の径は、少なくとも層の厚さに相当する。別の実施形態では、粒子の径は、単一粒子または単一粒子の集塊の径が層の厚さより小さくなるように選択される。
【0041】
本発明の酵素式センサーはさらに、少なくとも一つの下地色素層またはベース電極を有していてもよい。センサーの種類に応じて、さらなる層は例えば、干渉遮断層、光絶縁のための層、導電層またはベース電極でありうる。
【0042】
複合拡散および酵素層の透過性は、所望に応じて調節可能であることから、酵素層はセンサーの迅速な再生を提供するものである。例えば酸素消費に基づく検知反応の場合、センサー再生、例えば酸素貯留部の再生が非常に迅速となるように酸素透過を調節することができる。従って、本発明のセンサーを、複数測定に用いることもできる。
【0043】
酵素式センサーの複合拡散および酵素層は例えば、グルコースオキシダーゼ、コレステロールオキシダーゼまたは乳酸オキシダーゼなどの酸化酵素を含むことができる。その複合拡散および酵素層は、クレアチンなどの直接(一つの酵素反応を介して)検出できないアナライトの検出を可能とする酵素カスケードのような酵素混合物をも含むことができる。クレアチンは、単一の酵素によって酵素的に酸化することはできず、光学的または電流測定手段によって検出可能なアナライト誘導体を発生させるためのいくつかの酵素的段階を必要とする。クレアチニンの検出および/または測定に好適な酵素カスケード系は、例えばクレアチニンアミドヒドラーゼ、クレアチニンアミドヒドロラーゼおよびサルコシンオキシダーゼを含む。
【0044】
本発明の一実施形態によるセンサーでは、酵素層は代表的には被覆層として成膜される。この場合、分散液の溶媒留去後に、安定な被覆層が形成される。酵素層はさらに代表的には、下地層、代表的には色素層または電極上に直接コーティングされる。酵素層の直接コーティングにより、代表的には酵素層は、機械的固定および/または接着層の使用を行うことなく物理的付着によって下地層に付着する。
【0045】
本発明の酵素式センサーは、あらゆる種類のバイオセンサーを代表することができる。好適なバイオセンサーの例としては、例えば光学センサーがある。代表的な光学センサーを用い、酸素に対して感受性である適切な色素、例えば酸素によって消光可能な発光色素を用いて、酵素反応による酸素の消費を検出することができる。
【0046】
本発明のセンサーに好適な色素は、2,2′−ビピリジン、1,10−フェナントロリン、4,7−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジメチル−1,10−フェナントロリン、4,7−ジスルホン化−ジフェニル−1,10−フェナントロリン、5−ブロモ−1,10−フェナントロリン、5−クロロ−1,10−フェナントロリン、2,2′−ビ−2−チアゾリン、2,2′−ジチアゾールと錯形成したルテニウム(II)、オスミウム(II)、イリジウム(III)、ロジウム(III)およびクロム(III)イオン;ポルフィリン、塩素およびフタロシアニンと錯形成したVO2+、Cu2+、Zn2+、Pt2+およびPd2+、ならびにこれらの混合物からなる群から選択される。代表的な実施形態では、前記発光色素は、[Ru(ジフェニルフェナントロリン)]、オクタエチル−Pt−ポルフィリン、オクタエチル−Pt−ポルフィリンケトンまたはテトラベンゾ−Pt−ポルフィリンである。
【0047】
さらに、電気化学センサーが本発明の使用に好適である。
【0048】
本発明の別の態様は、物質、代表的には酵素基質の検出または定量的測定における上記の酵素式センサーの使用である。
【0049】
医学の分野では、その使用の可能性は、例えば生理パラメータの測定である。測定および/または検出は、例えば血液、血清、血漿、尿などの各種体液のような液体で行うことができる。前記センサーの代表的な使用は、血液中のアナライトの検出および/または測定である。
【0050】
本発明によるセンサーの可能な使用は、例えば糖尿病を患う患者での血糖測定である。本発明による酵素式センサーを用いて測定可能な他の代謝産物には、例えばコレステロールまたは尿素がある。
【0051】
本発明の酵素式センサーの別の可能な使用は、環境分析、バイオテクノロジーにおけるプロセス制御および食事管理の分野にある。
【0052】
酵素式センサーの本発明による使用により、非常に多様な物質、例えば酵素基質および/または補基質を測定および/または検出することができる。好適な酵素基質は、例えばコレステロール、ショ糖、グルタメート、エタノール、アスコルビン酸、果糖、ピルベート、グルコース、ラクテートまたはクレアチニンである。代表的には、グルコース、ラクテートまたはクレアチニンの測定および/または検出を行う。検出および/または測定対象であるより代表的な物質はグルコースである。
【0053】
酵素式センサーの再生は透過を調節することで影響を受け得ることから、その再生は複数の測定を可能とするのに十分なだけ迅速なものである。前記センサーの代表的な使用では、複数測定を行う。さらに、前記酵素式センサーは、単回使用用途や複数回使用用途などの当業界で公知の全てのセンサー用途に用いることができる。
【0054】
本発明のさらに別の実施形態によれば、上記で記載の酵素式センサー用の複合拡散および酵素層の製造方法が提供される。この方法は、
(i)
(a)少なくとも1種類のポリマー材料および
(b)代表的には親水性の酵素担持粒子
を含む分散液を形成する工程、
(ii)下地層上に前記分散液を直接塗布して酵素担持拡散層を形成する工程;および
(iii)前記分散液を乾燥させる工程
を含む。
【0055】
本発明の方法においては、ポリマー材料の選択肢が広いために前記層の直接キャスティングが可能である。さらに、前記材料は、分散液の加熱が必要なくなるように選択することができる。従って、本発明の方法によって、取り扱いが容易になる。
【0056】
本発明による方法では、前記分散液は代表的には、物理的接着によって下地層に付着させる。さらに、分散液の乾燥には、その分散液からの溶媒除去が含まれる。
【0057】
本発明をさらに容易に理解できるようにするため、下記の実施例を参照するが、それらは本発明を説明するためのものであって、本発明の範囲を限定するものではない。
【実施例】
【0058】
実施例1:酸素色素粒子の製造
【表1】

【0059】
色素トリス−(1,10−フェナントロリン)Ru(II)クロリドを、文献(O. S. Wolfbeis, M. J. P. Leiner and H.E. Posch, ″A new sensing material for optical oxygen measurement with the indicator embedded in an aqueous phase″, Microchim. Acta, III (1986) 359)で公表されている手順に従ってシリカゲル粒子に吸着させた。
【0060】
実施例2:酸素層混合物の製造
【表2】

【0061】
感圧接着剤にトルエンを加え、均一になるまで混合する。この溶液をO指示色素に加え、16時間混合する。
【0062】
実施例3:酵素担持親水性粒子の製造
【表3】

【0063】
過ヨウ素酸ナトリウムを100mMリン酸緩衝液5mLに加え、10分間撹拌した。この溶液にグルコースオキシダーゼを加え、この溶液を室温で30分間撹拌した。得られた溶液をピペット採取し、予め充填されたポリアクリルアミド脱塩カラムに加えた。脱塩されたグルコースオキシダーゼを適切な容器に回収した。カラムを100mMリン酸緩衝液10mLで洗浄して、残留グルコースオキシダーゼを洗い流した。次に、そのグルコースオキシダーゼをCarboLinkカップリングゲル5gに加え、緩やかに混合しながら室温で24時間インキュベートした。次に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを100mMリン酸緩衝液10mLに加えた。溶液を遠心し、上層を傾斜法によって除去した。
【0064】
実施例4:複合拡散および酵素層混合物A
【表4】

【0065】
ポリウレタンにエタノールを加え、溶解するまで混合した。カーボンブラックをこの溶液に加え、24時間混合した。この溶液に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを加え、均一になるまで混合した。
【0066】
実施例5:複合拡散および酵素層混合物B
【表5】

【0067】
138−03型ポリウレタンにエタノールを加え、溶解するまで混合した。次に、その溶液にポリウレタンD4型を加え、溶解するまで混合した。カーボンブラックをこの溶液に加え、24時間混合した。この溶液に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを加え、均一になるまで混合した。
【0068】
実施例6:複合拡散および酵素層混合物C
【表6】

【0069】
138−03型ポリウレタンにエタノールを加え、溶解するまで混合した。次に、その溶液にポリウレタンD4型を加え、溶解するまで混合した。カーボンブラックをこの溶液に加え、24時間混合した。この溶液に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを加え、均一になるまで混合した。
【0070】
実施例7:複合拡散および酵素層混合物D
【表7】

【0071】
138−03型ポリウレタンにエタノールを加え、溶解するまで混合した。次に、その溶液にポリウレタンD4型を加え、溶解するまで混合した。カーボンブラックをこの溶液に加え、24時間混合した。この溶液に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを加え、均一になるまで混合した。
【0072】
実施例8:複合拡散および酵素層混合物E
【表8】

【0073】
138−03型ポリウレタンにエタノールを加え、溶解するまで混合した。次に、その溶液にポリウレタンD4型を加え、溶解するまで混合した。カーボンブラックをこの溶液に加え、24時間混合した。この溶液に、グルコースオキシダーゼ−アガロースビーズを加え、均一になるまで混合した。
【0074】
実施例9:酸素感受性層の構築
酸素感受性蛍光色素を含むシリコーン接着剤(実施例2)を、126μmMelinex505ポリエステル基板の上面にナイフコーティングした(ナイフ高設定120μm)。酸素感受性層を乾燥させて、厚さ33μmとした。
【0075】
実施例10:複合拡散および酵素層の構築
複合拡散および酵素層を構築するため、混合物A、B、C、DおよびEそれぞれを、乾燥酸素感受性層(実施例9)の上面にナイフコーティングした(ナイフ高設定200μm)。1時間後、複合拡散および酵素層の厚さは38μmであった。
【0076】
実施例11
センサーディスクの製造、カットおよび測定の一般的方法については、文献(Trettnak et al., Analyst, 113 (1988) 1519-1523 (″Optical sensors″);Moreno-Bondi et al., Anal. Chem., 62 (1990) 2377-2380 (″Oxygen optode for use in a fiber-optic glucose biosensor″);M. J. P. Leiner and P. Hartmann, Sensors and Actuators B, 11 (1993) 281-289 (″Theory and practice in optical pH sensing″))に記載されている。
【0077】
個々の箔(実施例10)から、本発明のセンサーディスクを打ち抜き、ガスおよび溶液の導入のための透明壁、流路、注入口および排出口を有する37℃に加熱された気密フロースルーチャンバ(不図示)で用いた。
【0078】
実験結果は、添付の図1〜6で見ることができる。
【0079】
図1には、本発明の代表的な実施形態による光学測定システムを図示してある。Rは光源としての青色LEDを示し、Sは検出器としての光ダイオードを示し、AおよびBはそれぞれ励起波長および発光波長を選択するための光学フィルターを示しており、色素層Lへの励起光および光検出器Sへの発光光の伝導のための光学配置ならびに電子信号処理のための装置がある(不図示)。励起終了後には干渉フィルターA(480nmでピーク透過率)を、発光終了後には520nmカットオフフィルターBを用いた。Eは、酵素担持粒子PおよびD(黒色炭素)を含む酵素層を示す。Lは色素層を示し、Oは酸素感受性色素を示し、Tは光透過性支持体である。
【0080】
図2には、最新技術のグルコースセンサーの酸素回復時間を示している。酵素層の上面に取り付けられたRoTrac毛管孔隙膜を用いてグルコースおよび酸素のセンサー中への拡散を制御する最新技術の光学グルコースセンサーが入った測定チャンバに水系サンプルを導入した。酵素層は、固定化酵素(グルコースオキシダーゼ)を有する親水性アガロースビーズを含む親水性ポリマーからなるものである。測定に先立って、酵素層を水で活性化(水和)し、100mmHgのO分圧を含むガスで平衡状態とした(不図示)。セルに200mg/dLのグルコースを含むサンプルを導入し、蛍光を60秒間測定した。酵素層中の酵素グルコースオキシダーゼによって、サンプル由来のグルコースがグルコノラクトンに変換されることで、補基質としての酸素が消費された。Oの消費によって、隣接色素層に含まれる酸素の欠乏が生じる。色素層中に存在するO感受性発光色素が、発光強度の上昇に応答する。次に、グルコースセンサーをpH7.4の緩衝液で2分間洗浄して、未消費のグルコースを除去した。次に、90mmHgの酸素を含むガスをセルにポンプで送って、発光強度を初期の強度レベルに戻した(100mmHgOに相当)。図2には、測定発光強度−時間(秒)を示してある。酸素回復時間は、4分間より長かった。
【0081】
図3には、本発明によるグルコースセンサーの発光強度−酸素回復時間(秒)を示してある。そのセンサーは、複合拡散および酵素層混合物Aを用いて実施例9および10に従って製造した。基底線1は、初期O含有量による発光を示している。
【0082】
次に、200mg/dLのグルコースを含むサンプルを、本発明のグルコースセンサーに導入した。発光強度を60秒間測定したところ、線2に従って上昇した。センサー中の酵素(グルコースオキシダーゼ)により、サンプルに含まれるグルコースがグルコノラクトンに変換され、酸素が消費されることで、センサーにおける酸素貯留部が欠乏し、発光強度の上昇を生じたものである。
【0083】
次にグルコースセンサーをpH7.4の緩衝液で2分間洗浄して、未消費のグルコースを除去した。100Torrの酸素をセンサーにポンプ送りし、酸素蛍光強度が初期のものと同じ蛍光強度に戻るまでモニタリングした(線1′)。この手順を2回繰り返して、酸素回復の一貫性を調べた(線2′;1″および2″)。本発明のグルコースセンサーは、120秒の洗浄時間未満の酸素回復時間を示した。
【0084】
図4には、本発明によるグルコースセンサーを用いた30〜400mg/dLグルコースの範囲の水系サンプルに対する図3のセンサーの速度論的発光強度応答曲線を示している。
【0085】
図5は、図3および4で用いたものと同型のセンサーで得られた測定発光強度から計算された全血中の計算グルコース濃度を、Yellow Springsの電気化学グルコース装置を用いる電気化学基準法によって得られたグルコース濃度と比較したものである。この図は、基準装置と本発明によるグルコースセンサーの間での良好な一致を示している(R=0.9949)。
【0086】
図6は、それぞれ30、70、150、300および400mg/dLのグルコースを含む全血重量測定グルコース標準を用いた、本発明によるセンサー(複合拡散および酵素層混合物B(乾燥状態で3.9重量%D4)、C(乾燥状態で4.2重量%D4)、D(乾燥状態で4.6重量%D4)、E(乾燥状態で5.0重量%D4))で測定された計算勾配の比較である。表1には、ポリマー混合物A〜Eについての含水量および吸水値を示してある。最後の行は、非常に親水性が高いポリウレタンD4型(吸水率>50%)についての個々の値を示してある。
【表9】

【0087】
表1および図6からわかるように、ポリマー混合物中の高吸水ポリマー(D4)の割合が高いほど(すなわち、複合拡散および酵素層形成性ポリマーの吸水能力が高いほど、従ってその層の含水量が高いほど)、他の点では実質的に同じ条件下にある場合(ポリマーおよび粒子の総量)勾配が大きい。吸水能力がさらに上昇すると、勾配はさらに大きくなると考えられる。所定の選択時間ウィンドウ(サンプル接触から7〜13秒後)に関しては、許容される最大勾配に制限がある。
【0088】
勾配を求めるため、センサーをサンプルと接触させる前に90mmHgで平衡状態としたセンサーの発光強度Icalを測定した。次に、サンプルを導入し、サンプル接触からt=7秒、t=9秒、t=11秒、t=13秒での4つの強度I、I、I、Iを記録した。色素負荷量の変動(センサー間変動)を計上するため、4つの強度をそれぞれIcalで割ることで、強度I1c、I2c、I3c、I4cを得た。データペア(t,I;t,I;t,I;t,I)を用いて、式y=a+bx(式中、bは勾配を示す)に従って線形回帰を行った。
【0089】
留意すべき点として、「好ましくは」、「一般的には」および「代表的には」のような用語は、本明細書においては特許請求される発明の範囲を限定するか、あるいはある種の特徴が特許請求される発明の構造もしくは機能にとって必須、本質的または重要であることを示唆するために用いられるものではない。むしろ、これらの用語は単に、本発明の特定の実施形態で使用可能であるか使用可能ではない代替の特徴または追加の特徴を強調するためのものである。
【0090】
本発明の説明および定義に関して、留意すべき点として、「実質的に」という用語は、本明細書においては、何らかの量的比較、値、測定値その他の表現形態に起因し得る固有の不確定度を表すのに用いられるものである。「実質的に」という用語はまた、本明細書においては、問題となっている主題の基本的機能に変化を生じない限りにおいて、ある量的表現が記載されている言及内容から変動し得る度合いを表すのに用いられる。
【0091】
以上、本発明について詳細に、本発明の具体的な実施形態を参照しながら説明したが、添付の特許請求の範囲で定義の本発明の範囲から逸脱しない限りにおいて、修正および変更が可能であることは明らかであろう。より具体的には、本発明のいくつかの態様が好ましいまたは特に有利であると本明細書において確認されているが、本発明は必ずしも本発明のこれら好ましい態様に限定されるものではないことが想到される。
【図面の簡単な説明】
【0092】
【図1】本発明の一実施形態に従って示される光学測定系の模式図である。
【図2】最新技術のグルコースセンサーの酸素回復時間を示す図である。
【図3】本発明の一実施形態によるグルコースセンサーの発光強度−酸素回復時間(秒)を示す図である。
【図4】図3のセンサーの速度論的発光強度応答曲線を示す図である。
【図5】発光強度測定値から計算される全血中の計算グルコース濃度の比較である。
【図6】全血ならびにそれぞれ30、70、150、300および400mg/dLのグルコースを含む重量測定グルコース標準を用いて本発明の一実施形態によるセンサーから測定された計算勾配の比較(複合拡散および酵素層混合物B、C、D、E)である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種類のポリマー材料および酵素担持粒子を含み、前記粒子が前記少なくとも1種類のポリマー材料中に分散している複合拡散および酵素層。
【請求項2】
前記粒子が親水性である請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項3】
光絶縁用粒子をさらに含み、前記光絶縁用粒子が前記少なくとも1種類のポリマー材料中に分散している請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項4】
前記拡散および酵素層が約1〜約100μmの厚さを有する請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項5】
前記拡散および酵素層が約1〜約50μmの厚さを有する請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項6】
前記拡散および酵素層が約1〜約20μmの厚さを有する請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項7】
前記ポリマーが親水性ならびに疎水性ポリマー鎖配列を含む請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項8】
前記ポリマーが非架橋および非水溶性ポリマーである請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項9】
前記ポリマーが低吸水性ポリマー、好ましくは低吸水性ポリエーテル−ポリウレタンコポリマーである請求項1に記載の拡散および酵素層。
【請求項10】
高吸水性ポリマー、好ましくは高吸水性ポリエーテル−ポリウレタンコポリマーをさらに含む請求項9に記載の拡散および酵素層。
【請求項11】
請求項1に記載の拡散および酵素層を含む酵素式センサー。
【請求項12】
少なくとも一つの色素層を含む請求項11に記載の酵素式センサー。
【請求項13】
請求項1に記載の拡散および酵素層が被覆層である請求項11に記載の酵素式センサー。
【請求項14】
前記センサーが電気化学センサーまたは光学センサーである請求項11に記載の酵素式センサー。
【請求項15】
酵素基質および/または補基質の検出および/または定性的測定および/または定量的測定における請求項11に記載の酵素式センサーの使用。
【請求項16】
前記酵素基質がグルコースである請求項15に記載の使用。
【請求項17】
前記測定を血液中で行う請求項15に記載の使用。
【請求項18】
複数の測定を行う請求項15に記載の使用。
【請求項19】
酵素式センサー用の複合拡散および酵素層の製造方法であって、
(i)少なくとも1種類のポリマー材料および酵素担持粒子を含む分散液を形成する工程;
(ii)前記分散液を下地層上に直接塗布して、酵素担持拡散層を形成する工程;および
(iii)前記分散液を乾燥させる工程
を含む、前記方法。
【請求項20】
前記乾燥が、前記分散液から溶媒を除去することを含む請求項19に記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公表番号】特表2008−521418(P2008−521418A)
【公表日】平成20年6月26日(2008.6.26)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−543790(P2007−543790)
【出願日】平成17年12月2日(2005.12.2)
【国際出願番号】PCT/EP2005/012922
【国際公開番号】WO2006/058779
【国際公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【出願人】(591003013)エフ.ホフマン−ラ ロシュ アーゲー (1,754)
【氏名又は名称原語表記】F. HOFFMANN−LA ROCHE AKTIENGESELLSCHAFT
【Fターム(参考)】