説明

酸化エチレン製造用触媒およびその製造方法ならびに酸化エチレンの製造方法

【課題】エチレンから酸化エチレン製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、特に選択性の改良された酸化エチレン製造用触媒を提供する。
【解決手段】エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、担体に必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させ、次いで、AgとCsとReを担持させて得られ、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/gであり且つpKa5.0以下の酸点が存在する担体を使用し、上記Reの含有率(担体基準)が担体の上記比表面積1m/g当たり170〜600ppmであり、上記Cs/Reのモル比が0.3〜19である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸化エチレン製造用触媒およびその製造方法ならびに酸化エチレンの製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する触媒は、主成分が銀(Ag)であり、Agは担体に担持される。工業的には、触媒主成分であるAgに対し、アルカリ金属、レニウム(Re)等の元素が助触媒として添加され、触媒性能の向上が図られている(特許文献1)。
【0003】
アルカリ金属の作用効果に関し、担体上で存在し担体の酸点を中和する効果、または、Ag表面に存在しAgの触媒作用を修飾する効果などが報告されているが、詳細は不明である。一方、Reについては、触媒中での存在箇所、助触媒としての作用機構が不明であるが、助触媒として作用するためにはアルカリ金属との共存が必須であるとされている(特許文献2)。
【0004】
担体は、通常、α−アルミナを主成分とするものであり、α−アルミナは、原料粉、結合剤、気孔形成剤の混合物を焼成して製造される。こうして製造した担体には、通常、不純物として、ケイ素(Si)、ナトリウム(Na)等の不純物が含まれており、Siの含有率はSiO換算で0.1〜数十重量%、Naの含有率はNaO換算で0.01〜数重量%である。
【0005】
担体中のSiやNa量は、Ag、アルカリ金属、担体から成り、Reが含まれない触媒の性能に大きな影響を及ぼすことが報告されている(特許文献3及び4)。従って、α−アルミナ原料粉、結合剤、気孔形成剤中のSiやNa量を管理し、担体中のSiやNa量を調整する必要がある。また、Re含有触媒においては、Ag含有率を20重量%以上と規定した触媒が報告されている(特許文献5及び6)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0006】
【特許文献1】特開平9−150058号公報
【特許文献2】特開昭63−126552号公報
【特許文献3】特開昭63−116743号公報
【特許文献4】特開平1−123629号公報
【特許文献5】特開平3−207447号公報
【特許文献6】WO2005−097318号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明者らは、少なくとも、Ag、Cs、Re及び担体から成る改良された酸化エチレン製造用触媒の提供を目的として鋭意検討を重ねた結果、次の様な知見を得た。すなわち、高表面積担体、Ag、Cs、Reから成る触媒の場合、担体中のSiやNa成分は、通常、Reの助触媒としての性質に影響しないとされていた。しかしながら、担体中のSi成分とNa成分の比を一定の範囲にするならば、意外にも、Reの助触媒作用が高められて選択性が顕著に改良された触媒が得られる。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明は、上記の知見に基づき完成されたものであり、連関する1群の発明から成り、各発明の要旨は次の通りである。
【0009】
第1発明の要旨は、エチレンから酸化エチレン製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、担体に必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させ、次いで、AgとCsとReを担持させて得られ、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/g、Si及びNaの含有量の重量比がSiO/NaO換算値で2〜50である担体を使用し、上記Reの含有率(担体基準)が担体の上記比表面積1m/g当たり170〜600ppmであり、上記Cs/Reのモル比が0.3〜19であることを特徴とする酸化エチレン製造用触媒に存する。
【0010】
第2発明は、前記の知見に基づき更に検討を重ねてなされたものであり、その要旨は、エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、担体に必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させ、次いで、AgとCsとReを担持させて得られ、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/gであり且つpKa5.0以下の酸点が存在する担体を使用し、上記Reの含有率(担体基準)が担体の上記比表面積1m/g当たり170〜600ppmであり、上記Cs/Reのモル比が0.3〜19であることを特徴とする酸化エチレン製造用触媒に存する。
【0011】
本発明の他の要旨は、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成る第1発明に係る触媒の製造方法であって、上記のAgの担持操作を2回以上に分割して行い、触媒が含有するCsとReの量の少なくとも一部はAgの最後の担持操作の際に担持することを特徴とする製造方法に存し、本発明の更に他の要旨は、第1発明に係る触媒の存在下にエチレンを酸化することを特徴とする酸化エチレンの製造方法に存する。
【0012】
本発明の更に他の要旨は、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成る第2発明に係る触媒の製造方法であって、上記のAgの担持操作を2回以上に分割して行い、触媒が含有するCsとReの量の少なくとも一部はAgの最後の担持操作の際に担持することを特徴とする製造方法に存し、本発明の更に他の要旨は、第2発明に係る触媒の存在下にエチレンを酸化することを特徴とする酸化エチレンの製造方法に存する。
【発明の効果】
【0013】
第1発明または第2発明によれば、少なくとも、Ag、Cs、Re及び担体から成り、特に選択性の改良された酸化エチレン製造用触媒が提供される。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下、本発明を詳細に説明する。
【0015】
<第1発明に係る触媒>
第1発明に係る酸化エチレン製造用触媒は、少なくとも、Ag、Cs、Re及び担体から成り、好ましい態様として、Liを含有する。
【0016】
上記の担体としては、アルミナ、炭化珪素、チタニア、ジルコニア、マグネシア等の多孔性耐火物が挙げられるが、主成分がα−アルミナであるものが特に好適である。これらの多孔性耐火物は、原料粉、結合剤、気孔形成剤の混合物を焼成して製造され、不純物として、Si成分とNa成分を含有する。Si含有率は、SiO換算値として、通常0.5〜7.0重量%、好ましくは1.8〜7.0重量%であり、Na含有率は、NaO換算値として、通常0.05〜0.50重量%、好ましくは0.16〜0.45重量%である。上記のSi成分とNa成分の含有量の範囲は触媒の選択性向上の観点から決定された値である。
【0017】
第1発明においては、高表面積で且つSi成分とNa成分の比が一定の範囲の担体、すなわち、比表面積が0.6〜3.0m/g、Si及びNaの含有量の重量比がSiO/NaO換算値で2〜50である担体を使用する。斯かる条件を満足する担体を使用した場合にReの助触媒作用が高められて選択性が顕著に改良された触媒が得られる。
【0018】
担体の比表面積は、特に触媒の選択性維持などの触媒寿命の観点から、好ましくは0.8〜2.0m/g、更に好ましくは1.2〜1.6m/gであり、Si及びNaの含有量の重量比(SiO/NaO換算値)は、特に選択性の向上の観点から、好ましくは6〜27である。なお、上記の比表面積は、B.E.T.法により測定した値である。
【0019】
触媒担体用の多孔性耐火物、特に、α−アルミナは、比表面積や不純物含量の異なる各種のグレードのものが市販されている。従って、第1発明においては、市販の多孔性耐火物の中から上記の物性を満足するものを選択し、担体として使用することが出来る。また、担体中のSi成分とNa成分の含有量は、適当な濃度の酸水溶液で担体を洗浄することにより調節することが出来る。
【0020】
銀の含有量は、全触媒重量当たり、通常5〜40重量%であるが、触媒寿命の改良効果の観点から、好ましくは15〜30重量%である。Csの含有量は、従来公知の触媒と同様、全触媒重量当たり、通常10〜10000ppm、好ましくは50〜5000ppmである。
【0021】
Csの含有量は、後述するReの含有量に依存し、Cs/Reモル比が0.3〜19の範囲でなければならない。Cs/Reモル比は、好ましくは1.7〜4.5、更に好ましくは2.2〜4.5である。Cs/Reモル比が0.3未満の場合および19を超える場合は、何れも、触媒の選択性改良効果が不十分となる。
【0022】
また、Reの含有量は、使用する担体の比表面積に依存し、担体の前記の比表面積(触媒の中に組み込まれる前の担体としての比表面積)1m/g当たり170〜600ppmであり、好ましくは200〜500ppm、更に好ましくは250〜450ppmである。Reの含有量が170ppm/(m/g)未満の場合および600ppm/(m/g)を超える場合は触媒の選択性改良効果が不十分となる。
【0023】
第1発明においては、前記の担体には、必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させることが出来る。斯かる担体の前処理は触媒性能を一層高める観点から推奨される。ここで、前処理とは、銀化合物を担持させる前に行われるアルカリ金属の担持処理をいう。前処理に使用するアルカリとしては、通常Li及び/又はCsが使用され、好ましくはLiとCsが使用される。なお、上記の「Cs/Reモル比」におけるCsは、後処理(AgとReとCsを担持させる処理)において触媒に担持されたCs含量を意味する。後処理で触媒に担持されたCsは、Reと共にAgの表面に存在していると考えられる。
【0024】
Li及びCsの使用量は、前処理後の担体中のLi又はCs含有量として、通常100〜1000ppmである。Li含有量は、好ましくは400〜1000ppm、更に好ましくは550〜1000ppm、特に好ましくは585〜1000ppmである。Cs含有量は、好ましくは100〜500ppmである。担体中のLi及びCs含有量が100ppm未満の場合は触媒寿命の改良効果が不十分であり、1000ppmを超える場合は効果が頭打ちとなり経済的ではない。なお、ここで使用されるCsは担体に直接担持される点で上記の後処理のCsとは異なる。前述したように、後処理のCsはReと共にAgに付着していると推定されるからである。
【0025】
第1発明に係る酸化エチレン製造用触媒においては、触媒寿命の改良効果の観点から、Li/Reのモル比は、通常6〜63、好ましくは25〜63、更に好ましくは35〜63、特に好ましくは37〜63であり、Li/Agの重量比は、通常0.0007〜0.0073、好ましくは0.0029〜0.0073、更に好ましくは0.0040〜0.0073、特に好ましくは0.0043〜0.0073である。
【0026】
前記の前処理におけるアルカリ金属(Li及びCs)の担持は、従来公知の方法に従って、水溶性のアルカリ金属化合物を使用して行うことが出来る。上記のアルカリ金属化合物としては、例えば、硝酸塩、水酸化物、ハロゲン化物、炭酸塩、重炭酸塩、シュウ酸塩、カルボン酸塩などが挙げられ、特に炭酸塩が好ましい。これらは、含有量に合わせて適当な濃度の水溶液として使用される。
【0027】
前記の後処理においては、Agアミン錯体溶液に水溶性のRe化合物と水溶性のCs化合物と必要に応じて水溶性のLi化合物とを溶解して調製して得た触媒含浸液を使用するのが簡便である。
【0028】
Agアミン錯体溶液に使用するAg化合物としては、酸化銀、硝酸銀、炭酸銀、酢酸銀、シュウ酸銀などが挙げられ、アミンとしては、アンモニア、ピリジン、ブチルアミン等のモノアミン、エタノールアミン等のアルカノールアミン、エチレンジアミン、1,3−ジアミノプロパン等の多価アミンが挙げられる。水溶性のRe化合物としては、ハロゲン化レニウム、オキシハロゲン化レニウム、レニウム酸塩、過レニウム酸塩などが挙げられる。水溶性のCs化合物としては、前処理におけると同様の化合物が挙げられるが、硝酸塩または水酸化物が好ましい。触媒含浸液中の上記の各成分の濃度は、各成分毎の含有量に合わせて適宜決定される。
【0029】
前処理工程における含浸方法としては、溶液中に担体を浸漬する方法、または、担体に溶液を噴霧する方法が挙げられる。乾燥処理としては、含浸処理後、担体と余剰の溶液を分離した後、減圧乾燥または加熱処理による乾燥などが挙げられる。加熱処理としては、空気、窒素などの不活性ガス、過熱水蒸気を利用する方法が挙げられ、加熱温度は通常100〜300℃、好ましくは130〜270℃である。
【0030】
後処理工程における含浸方法としては、上記と同様の方法が挙げられる。含浸後の加熱処理は、Agが担体上に析出するのに必要な温度と時間を測定して実施する。担体上にAgができるだけ均一に且つ微細な粒子で存在する様に析出する条件を選ぶことが好ましい。加熱処理は、加熱した空気(又は窒素などの不活性ガス)又は過熱水蒸気を使用して行われる。加熱温度は通常130℃〜300℃、加熱時間は通常5〜30分である。
【0031】
特に、Ag担持率が高い触媒、例えばAg担持率15〜30重量%(触媒基準)の触媒は、本発明に係る触媒の製造方法、すなわち、Agの担持操作を2回以上に分割して行い、触媒が含有するCsとReの量の少なくとも一部はAgの最後の担持操作の際に担持することを特徴とする製造方法によって容易に得ることが出来る。触媒性能の観点からは、CsとReの量の半分以上をAgの最後の担持操作の際に担持するのが好ましい。Agの最後の担持操作の際に担持するCsとReの量は、より好ましくはCsとReの量の3/4以上、最適はCsとReの量の全量である。また、CsとRe以外の成分についても上記と同様である。本発明に係る触媒の製造方法によれば、Cs、Re等は、Agの最後の担持操作の際にAgと共に担持されることになるが、Agの最後の担持操作の後に当該操作とは別個にCs、Re等を担持させる方法では触媒の性能が低下する。
【0032】
第1発明に係る酸化エチレン製造用触媒を使用した酸化エチレンの製造方法は、公知の条件に従って行うことが出来る。反応圧力は、通常0〜3.5MPaGであり、反応温度は、通常180〜350℃、好ましくは200〜300℃である。反応原料ガスの組成としては、一般に、エチレンが1〜40容量%、分子状酸素が1〜20容量%の混合ガスが使用され、また、一般に、希釈剤、例えば、メタンや窒素などの不活性ガスを一定割合(例えば1〜70容量%)で存在させることが出来る。分子状酸素含有ガスとしては、通常、空気または工業用酸素が使用される。更に反応原料ガスに、反応調整剤として、例えばハロゲン化炭化水素を0.1〜50ppm程度加えることにより、触媒中のホットスポットの形成を防止でき、且つ、触媒の性能、特に選択性を大幅に改善させることが出来る。
【0033】
<第2発明に係る触媒>
第2発明に係る酸化エチレン製造用触媒は、エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、担体に必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させ、次いで、AgとCsとReを担持させて得られ、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/gであり且つpKa5.0以下の酸点が存在する担体を使用し、上記Reの含有率(担体基準)が担体の上記比表面積1m/g当たり170〜600ppmであり、上記Cs/Reのモル比が0.3〜19であることを特徴とする。すなわち、第2発明は、第1発明で担体について規定するSiO/NaO比の代わりに酸点を規定し、この点で第1発明と異なる。そして、上記の酸点の規定により、SiO/NaO比の規定の場合と同様にReの助触媒作用が高められる。
【0034】
第2発明で規定する適当な酸点とはpKaが5.0以下の強さであり、メチルレッドを指示薬とした呈色反応を示す。また、pKaが3.2以下の強さの酸点は、弱い呈色反応程度の量であれば触媒の選択性に影響しないが、強い呈色反応を起こす程に多くなると触媒の選択性を低下させるため好ましくない。pKa3.2以下の酸点とは、メチルイエローで呈色反応を示すものである。また、pKaが7.3以上の塩基点は好ましくなく、これはブロモチモールブルーで呈色反応を示すものである。
【0035】
担体表面の酸・塩基性は、指示薬法による呈色反応により容易に判定することが出来る(昭和41年4月26日、産業図書株式会社発行、田部浩三および竹下常一著「酸塩基触媒」161頁、昭和61年5月1日、講談社発行、触媒学会編「触媒講座別巻触媒実験ハンドブック」170頁、昭和59年6月25日丸善株式会社発行、日本化学会編「化学便覧 基礎編」第3版、II−342頁)。
【0036】
また、酸点の量は、上記の指示薬により呈色した試料をn−ブチルアミン等の塩基で滴定することにより求めることが出来る。指示薬による呈色反応および塩基による滴定の終点の判定は、通常、目視により十分可能である。
【実施例】
【0037】
以下、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明は、その要旨を超えない限り、以下の実施例に限定されるものではない。なお、以下の諸例で使用した物性の測定方法は次の通りである。
【0038】
(1)比表面積:
B.E.T.法により測定した。窒素の吸着は77Kで行い、比表面積はBET1点法で算出した。
【0039】
(2)担体中のSi及びNa含有率:
試料を粉砕した後に加圧成形し、蛍光X線分析法で測定した。
【0040】
(3)前処理担体および触媒中のCs、Re及びLiの含有率:
硝酸で上記の成分を抽出し、Cs及びLiは原子吸光法で測定し、ReはICP発光法で測定した。
【0041】
(4)触媒中のAg含有率:
硝酸でAgを抽出し、電位差滴定法で測定した。
【0042】
(5)担体の酸、塩基性度:
担体の酸、塩基性度の測定は以下のようにして実施した。すなわち、担体を120℃で3時間乾燥し、冷却後、乾燥したトルエン中に投入した。それに、トルエンに溶解した指示薬(0.001wt%)を数滴加え、よく振った後に静置した。そして、各指示薬ごとに呈色反応の有無を調査する。
【0043】
実施例1:
(1)担体の酸、塩基性度の測定:
α−アルミナ担体(表面積1.0m/g、吸水率35.7重量%、SiO3.0重量%、NaO0.35重量%、SiO/NaO重量比9、形状8mmφ×8mmのリング状)について、酸、塩基性度の測定を行った。
【0044】
pKaが3.2以下のメチルイエローでは赤色の呈色反応を示さなかったが、pKaが5.0以下のメチルレッドでは赤色の呈色反応を示した。また、pKaが7.3以上のブロモチモールブルーでは青色の呈色反応を示さなかった。以上より、上記の担体には、3.2<pKa≦5.0の酸点が存在するが、pKa≧7.3の塩基点は存在しないことが分かった。
【0045】
(2)担体の前処理:
上記のα−アルミナ担体100gを炭酸セシウム(CsCO)0.156gと炭酸リチウム(LiCO)1.69gとが溶解した水溶液200mLに浸漬させ、余分な液を切り、次いで、これを150℃の過熱水蒸気にて15分間、2m/秒の流速で加熱し、LiとCs成分を含浸させた担体を調製した。担体におけるLi含有率は500ppm、Cs含有率は230ppmであった。表1に使用した担体の物性を示す。
【0046】
(3)銀アミン錯体溶液の調製:
硝酸銀(AgNO)322gとシュウ酸カリウム一水和物(K・HO)192gを各々1.4L、1.6Lの水に溶解した後、湯浴中で60℃に加温しながら徐々に混合し、シュウ酸銀(AgC)の白色沈殿を得た。ろ過により沈殿物を回収し、蒸留水により洗浄し、含水シュウ酸銀(含水率23.3重量%)を得た。こうして得た含水シュウ酸銀375gを、エチレンジアミン103g、1,3−ジアミノプロパン28.1g、及び水133gより成る水溶液に徐々に添加して溶解させ、銀アミン錯体溶液を調製した。
【0047】
(4)Ag触媒の調製:
上記で得た銀アミン錯体溶液12.7gに、硝酸セシウム(CsNO)濃度5.54重量%の水溶液0.6mL、過レニウム酸アンモニウム(NHReO)濃度3.05重量%の水溶液0.6mL、水2.1mLを添加し、含浸溶液を得た。こうして得た含浸溶液を、LiとCsが含浸されたα−アルミナ担体30gに、エバポレーター中で減圧下、40℃に加温し含浸した。この含浸担体を200℃の過熱水蒸気にて15分間、2m/秒の流速で加熱し、触媒を得た。当該触媒におけるAg、Cs、Re、Liの含有率(担体基準)は、夫々、13.6重量%(触媒基準で12.0重量%)、980ppm、420ppm、500ppmであった。
【0048】
(5)エチレンの酸化反応:
上記で調製したAg触媒を6〜10メッシュに砕き、その3mLを内径7.5mmのSUS製反応管に充填し、反応ガス(エチレン30%、酸素8.5%、塩化ビニル1.5ppm、二酸化炭素6.0%、残り窒素)をGHSV4300hr−1、圧力0.7MPaGで流し、反応を行った。反応温度は、触媒単位体積、単位時間当たりの酸化エチレンの生産量(STY)が0.25kg−EO/h・L−catとなる様に調節した。酸化エチレンへの選択性は、評価時間が長くなるに従って向上し、その後、低下した。表3及び表4に触媒成分および触媒性能を示す。なお、酸化エチレンへの選択性はエチレン基準で表した。また、表3及び表4中の「Cs*/Re」におけるCs*は後処理において触媒に担持されたCsの含有量を意味する。また、触媒性能の「劣化速度」は累積酸化エチレン(EO)1000kg−EO/L−cat当たりの選択性低下を表し、単位は「%/EO1000」である。
【0049】
実施例2〜12及び比較例1〜11:
表1及び表2に示す物性の担体を使用し、表3及び表4に示した様な前処理時のLi及びCs含有率となる様に、炭酸リチウム及び炭酸セシウムの量を変更した以外は、実施例1と同様の前処理を行った。次いで、実施例1におけると同一組成の「銀アミン錯体溶液」を調製し、実施例1における「Ag触媒の調製」の際、硝酸セシウムと過レニウム酸アンモニウムの濃度を変更し、CsとReの含有率が表3及び表4に示す触媒を得た。なお、Agの含有率(担体基準)は何れの触媒も13.6重量%である。次いで、各触媒を使用し実施例1と同様にエチレンの酸化反応を行った。表3及び表4に触媒成分と触媒性能を示す。
【0050】
【表1】

【0051】
【表2】

【0052】
【表3】

【0053】
【表4】

【0054】
上記の表1〜表4から次のことが理解される。
【0055】
(1)Ag、Cs、Re及び担体から成る触媒においては、使用する担体のSiO/NaO重量比が2〜50(又はpKa5.0以下の酸点が存在)、Re含有率(担体基準)が担体比表面積1m/g当たり170〜600ppm、Cs*/Reモル比が0.3〜19を満たす実施例1〜12では、最高選択性が84.7〜86.5%である。
【0056】
(2)特に、使用する担体のSiO/NaO重量比が6〜27、Cs*/Reモル比が2.2〜4.5である実施例1〜8の場合に、最高選択性が85.7〜86.5%と高く、上記の範囲がより好ましいことが理解される。
【0057】
(3)担体のSiO/NaO重量比が2〜50の範囲外である比較例1〜3では、実施例1〜12の場合に比較し、最高選択性は80.8〜83.4%と低く、触媒の選択性を高くするためには、担体のSiO/NaO重量比が上記の範囲内であることが必要であることが理解される。なお、担体のSiO/NaO重量比2〜50の範囲内外における選択性差は、最高値で比較すると3.1%と非常に大きかった。
【0058】
(4)Re含有率(担体基準)が担体比表面積1m/g当たり170〜600ppmの範囲外である比較例4では、実施例1〜12の場合に比較し、最高選択性は81.9%と低かった。このことより、触媒の選択性を高くするためには、Re含有率が上記の範囲内であることが必要であることが理解される。
【0059】
(5)比較例5〜11は、Reを含有しない触媒に対しては、担体のSiO/NaO重量比が触媒の選択性に殆ど効果のないことを示している。すなわち、担体のSiO/NaO重量比が2〜50の範囲内、すなわち11である比較例5及び6では、Cs含有率を最適化した結果、最高選択性は81.9%であった。それに対し、担体のSiO/NaO重量比が0.6である比較例7及び8の最高選択性はCs含有率を最適化した結果、80.8%であり、担体のSiO/NaO重量比が68である比較例9〜11ではCs含有率を最適化した結果81.6%であり、担体のSiO/NaO重量比が2〜50の範囲外の触媒の選択性は80.8〜81.6%であった。すなわち、担体のSiO/NaO重量比が2〜50の範囲内外における選択性差は、最高値で比較すると0.3%であり、Reを含有した触媒に対して10分の1以下と非常に小さく、その効果は殆どないことが理解される。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
エチレンから酸化エチレンを製造するために使用する酸化エチレン製造用触媒であって、少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成り、担体に必要に応じ前処理としてアルカリ金属を担持させ、次いで、AgとCsとReを担持させて得られ、上記の担体として、比表面積が0.6〜3.0m/gであり且つpKa5.0以下の酸点が存在する担体を使用し、上記Reの含有率(担体基準)が担体の上記比表面積1m/g当たり170〜600ppmであり、上記Cs/Reのモル比が0.3〜19であることを特徴とする酸化エチレン製造用触媒。
【請求項2】
担体中のSi含有率がSiO換算値で0.5〜7.0重量%である請求項1に記載の触媒。
【請求項3】
担体中のNa含有率がNaO換算値で0.05〜0.50重量%である請求項1又は2に記載の触媒。
【請求項4】
Cs/Reのモル比が1.5〜4.5である請求項1〜3の何れかに記載の触媒。
【請求項5】
担体の前処理に使用するアルカリ金属がリチウム(Li)であり、前処理後の担体中のLi含有量が100〜1000ppmである請求項1〜4の何れかに記載の触媒。
【請求項6】
担体の前処理に使用するアルカリ金属がセシウム(Cs)であり、前処理後の担体中のCs含有量が100〜1000ppmである請求項1〜5の何れかに記載の触媒。
【請求項7】
銀の含有量が全触媒重量当たり5〜40重量%である請求項1〜6の何れかに記載の触媒。
【請求項8】
少なくとも、銀(Ag)、セシウム(Cs)、レニウム(Re)及び担体から成る請求項1〜7の何れかに記載の触媒の製造方法であって、上記のAgの担持操作を2回以上に分割して行い、触媒が含有するCsとReの量の少なくとも一部はAgの最後の担持操作の際に担持することを特徴とする製造方法。
【請求項9】
請求項1〜7の何れかに記載の触媒の存在下にエチレンを酸化することを特徴とする酸化エチレンの製造方法。

【公開番号】特開2011−212681(P2011−212681A)
【公開日】平成23年10月27日(2011.10.27)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−152600(P2011−152600)
【出願日】平成23年7月11日(2011.7.11)
【分割の表示】特願2007−93058(P2007−93058)の分割
【原出願日】平成19年3月30日(2007.3.30)
【出願人】(000005968)三菱化学株式会社 (4,356)
【Fターム(参考)】