説明

酸化チタン被膜の形成方法

【課題】 液相析出法により、容易に表面積が増加した酸化チタン被膜の形成方法を得ることを目的とする。
【解決手段】 コーティング液は、チタンフッ化水素酸もしくはその塩と、ホウ酸(HBO)等の水溶性のフッ素イオン捕捉剤を溶解し、シリカ微粒子1を含有するものである。上記コーティング液に基材4を浸漬することにより、上記基材4表面に、シリカ微粒子1を核とした微細構造が酸化チタン2で覆われた酸化チタン被膜3を形成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、液相での析出現象を利用した酸化チタン被膜の形成方法で、特に表面積が増加した酸化チタン被膜の形成方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
液相での析出現象を利用して、基材面に酸化チタンの被膜を形成する方法として、チタンフッ化水素酸水溶液にホウ酸などの添加剤を溶解してなる酸化チタンの過飽和溶液を処理液とし、これに基材を接触させて、上記基材面に酸化チタンの被膜を形成する方法がある(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
【特許文献1】特開平3−285822号公報(第1頁)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、上記従来のようにして形成された酸化チタン被膜は均質薄膜であり、表面積が小さく光触媒能や親水化の機能が十分ではないという課題があった。
【0005】
本発明は、かかる課題を解決するためになされたものであり、液相析出法により、容易に表面積が増加した酸化チタン被膜の形成方法を得ることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明に係る第1の酸化チタン被膜の形成方法は、チタンフッ化水素酸もしくはその塩を溶解し、フッ素イオンを捕捉するフッ素イオン捕捉剤を含有するコーティング液に、基材を浸漬して上記基材表面に酸化チタン被膜を形成する酸化チタン被膜の形成方法において、上記コーティング液が水溶性のフッ素イオン捕捉剤および少なくとも表面にシリカが存在する微粒子を含有することを特徴とする方法である。
【発明の効果】
【0007】
本発明の第1の酸化チタン被膜の形成方法は、チタンフッ化水素酸もしくはその塩を溶解し、フッ素イオンを捕捉するフッ素イオン捕捉剤を含有するコーティング液に、基材を浸漬して上記基材表面に酸化チタン被膜を形成する酸化チタン被膜の形成方法において、上記コーティング液が水溶性のフッ素イオン捕捉剤および少なくとも表面にシリカが存在する微粒子を含有することを特徴とする方法で、容易に酸化チタン被膜の表面積を増加できるという効果がある。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
実施の形態1.
本発明の実施の形態の酸化チタン被膜の形成方法は、コーティング液として、チタンフッ化水素酸もしくはその塩と、ホウ酸(HBO)等の水溶性のフッ素イオン捕捉剤とを溶解する水溶液に、少なくとも表面にシリカが存在する微粒子(以下、単に「シリカ微粒子」と記載することもある。)を含有するものを用意し、これに被コーティング基材を浸漬させることにより、上記基材に酸化チタン被膜を形成する方法である。
本発明の実施の形態に係わるコーティング液において、チタンフッ化水素酸の塩(チタンフッ化アンモニウム)は下式で示される溶液内平衡状態にある。
【0009】
【化1】

【0010】
ここで、水溶性のフッ素イオン捕捉剤はフッ素イオンと反応してフッ化物を形成する物質であり、これがHFと緩やかに反応してHFを消費し、HFの消費に伴い上式の平衡は右に進み、コーティング液内では酸化チタン(TiO)が生成する。以上の反応が緩やかに進行するため、水溶液との界面である被コーティング基材に酸化チタンが薄膜状に析出する。
【0011】
また、本実施の形態に係わるコーティング液のシリカ微粒子は、非水溶性であるとともに、少なくともシリカが表面に存在するために、上記シリカによりコーティング液中でフッ素イオン捕捉剤となるものである。
本発明の形成方法において、上記シリカ微粒子を用いることにより、酸化チタン被膜の表面積を増加させることができる理由は明確ではないが、以下のことが推定される。
つまり、コーティング液中の被コーティング基材表面で酸化チタンが成長して薄膜が形成されていく。この時、それ自体がフッ素イオン捕捉剤としての機能を有するシリカ微粒子が近傍にあれば、両者の隙間に酸化チタンはより生成しやすく、基材に形成された被膜表面にシリカ微粒子が次々に結合され、シリカ微粒子を核として表面が酸化チタンで覆われた状態となるので、上記シリカ微粒子は効率良く被膜中に取り込まれ、上記シリカ微粒子表面と基材表面を酸化チタンで被覆した構造とすることができる。
また、上記コーティング液において、シリカ微粒子はブラウン運動しているため、被コーティング基材の形状や方向によらず均一に付着するが、酸化チタン析出速度の速いコーティング初期の段階では効率よく付着する。コーティングの初期段階において被コーティング基材にシリカ微粒子が結合し、その後、被コーティング基材および付着したシリカ微粒子表面に形成された酸化チタン薄膜が厚くなっていくのである。
つまり、フッ素イオン捕捉剤としての機能を有していない微粒子を添加しても酸化チタン薄膜に取り込まれることは困難であり、水溶性のフッ素イオン捕捉剤がなければ、シリカ粒子表面へ酸化チタン析出は起るものの、被コーティング基材表面への被膜形成は困難となる。
【0012】
図1は本実施の形態により酸化チタン被膜3を形成した基材4の説明図であるが、上記のように反応初期にシリカ微粒子1を共存させることで、シリカ微粒子1を取り込むことにより表面積が増加した多孔性の酸化チタン被膜3が形成されるが、上記酸化チタン被膜3は、シリカ微粒子1を核として膜の微細表面が酸化チタン2で覆われた構造を有するものとなる。つまり、上記酸化チタン被膜は、被コーティング基材の形状によらずに、その表面を均質に覆うことができる薄膜であるので特に微小構造等の目詰まりなくコーティングでき、酸化チタン表面積が増大し親水性が高く、光触媒効果が得られるとともに、多孔質化により厚膜化しても膜に可撓性があり、柔軟な物体にコーティングした場合でも、クラックや剥離が生じにくい。
また、上記シリカ微粒子の粒径や濃度を選択することで多孔質膜の微細構造を容易に制御できる。
【0013】
本発明の実施の形態に係わる、少なくとも表面にシリカが存在する微粒子としては微粒子全体がシリカであっても良く、コスト、形成された被膜の強度の点からフュームドシリカ、コロイダルシリカが好ましく用いられる。シリカ微粒子の粒径はコーティング初期に、コーティング液中に均質に分散できるものであればどのようなものでも使用できるが、平均粒径が3nm〜0.3μmのものがコーティング時の凝集や沈澱が少なく、特別な撹拌がなくても均質な分散状態が容易に得られることから好適に用いられる。3nm未満ではコーティング液中に溶解しやすくなるとともに、粒径が小さすぎるため、表面積拡大の効果も十分でなくなる。
このシリカの粒径を変化させることで、形成された多孔質酸化チタン被膜の状態が変化する。粒径が大きいほど、微細孔の孔径が大きく、表面の凹凸も大きくなる。粒径が小さいほど得られる微細孔の孔径が小さく、表面の凹凸も小さくなり、平均粒径が0.1μm以下であれば、ほぼ透明な膜が得られる。
【0014】
図2は、本発明の実施の形態1に係わるコーティング液中のシリカ微粒子の添加量による、酸化チタン膜の表面積の変化を示す特性図である。
なお、上記特性図における表面積とは、コーティング液として、チタンフッ化水素酸アンモニウム(0.2mol/l)とホウ酸(0.2mol/l)を含有する水溶液に、平均粒径50nmのシリカ微粒子を各々の量添加したものを用いて得られた酸化チタン被膜の表面に、1μlの水を滴下し、広がった面積である。親水性が高いほど水滴の広がりが大きく、広がった面積から親水性を評価することができる。
図2に示されるように、シリカ微粒子の添加量が0.002重量%未満または20重量%を越えると十分な表面積増加の効果が得られないため、シリカ微粒子の添加量は、コーティング液に対して固形分濃度として0.002〜20重量%が望ましい。なお、シリカ微粒子の添加量が多くなればコーティング膜中に取り込まれるシリカ微粒子量が増え、形成される膜が厚くなるとともに膜強度が弱くなる傾向があり、20重量%を越える濃度では膜強度が小さくなりすぎ膜形成は困難となる。また、シリカ微粒子の添加により表面積が増加して親水性が向上する効果は、5重量%を越えると顕著ではなくなり、上記のようにシリカ微粒子の添加により膜強度が弱くなる傾向があることから、0.002重量%〜5重量%が実用上望ましい。
なお、図2は上記コーティング液として、平均粒径50nmのシリカ微粒子を用いた場合を示したが、平均粒径が3nm〜0.3μmのシリカ微粒子を用いた場合も同様の特性が得られた。
しかし、シリカ微粒子の添加量が1重量%に近づくとシリカ微粒子の表面積が大きくなるため、その表面に十分な酸化チタンコーティング膜が形成されにくくなることにより均一な膜形成が困難になる傾向があり、また、シリカ添加量が0.01重量%に近づくとシリカ微粒子の含有量が減少することにより、同様に均一な膜形成が困難になる傾向があるが、0.01重量%〜1重量%では安定して本実施の形態の効果が得られるためさらに望ましい。
【0015】
上記シリカ微粒子に要求される特性としては、本実施の形態に係わるコーティング液において、非水溶性であり、かつフッ素イオンを捕捉する作用を有するものが表面に存在しておれば、基本的にはシリカに限定されない。
例えばアルミニウム、チタニア等の微粒子は非水溶性ではあるが、フッ素イオン捕捉剤としての機能を有しないためため、上記シリカ微粒子を用いることにより得られた効果が見られなかった。
【0016】
本発明の実施の形態に係わるチタンフッ化水素酸の塩としては、例えばチタンフッ化アンモニウム、チタンフッ化ナトリウムまたはチタンフッ化カリウム等の塩がある。なお、チタンフッ化水素酸も使用可能であるが、この水溶液は酸性で腐食性が強いため腐食しやすい金属材料等に用いることが困難な場合があるが、特にアンモニウム塩はこのような影響が小さく、適用できる被コーティング材料の幅も広い。
チタンフッ化水素酸またはその塩の濃度は、0.01mol/lから飽和濃度が望ましく、0.1〜1.0mol/lがさらに望ましい。0.01mol/l未満であれば、酸化チタン膜の生成が困難である。
本発明の実施の形態に係わる水溶性のフッ化物イオン捕捉剤としては、水溶性で、かつフッ素イオンと反応してフッ化物を形成するものであれば各種のものが適用可能であるが、ホウ酸または塩化アルミニウムを用いた場合に、良好な酸化チタン膜が得られ、特にホウ酸は塩化アルミニウムに比べて廃液処理の観点から好ましい。
上記水溶性のフッ化物イオン捕捉剤の濃度は、0.02mol/lから飽和濃度が望ましく、0.05〜0.6mol/lがさらに望ましい。濃度がこれらの範囲より低い場合には被膜形成に時間がかかりすぎ好ましくない。濃度がこれらの範囲より高い場合には、被膜形成速度が高くなりすぎ、被膜量を制御することが困難になる。
また、チタンフッ化水素酸またはその塩が、フッ化物イオン捕捉剤に対してモル濃度の比として、0.2〜8であることが望ましく、1.5〜4の場合は得られる膜の均質性の点でさらに望ましい。この範囲外の濃度比においては、被膜形成速度が低くなりすぎ望ましくない。
【0017】
本発明の実施の形態に係わるコーティング液の温度は7〜60℃が望ましく、15〜40℃がさらに望ましい。これより低い温度では、反応速度が遅くコーティングに時間がかかるため望ましくない。これより高い温度では逆に反応速度が速すぎ、均質なコーティングを行おうとした時に制御が困難になる。
本実施の形態においては、被コーティング基材をコーティング液に浸漬するが、コーティング液を噴霧させ吹き付けたり、流し掛けたりする方法もある。この方法を用いることで、コーティング液の使用量を減らしたり、大きな被コーティング物に対してコーティングしたりできる利点がある。浸漬する場合にはシリカ微粒子等が沈澱し、コーティングが不均一になる場合があるため、必要に応じて撹拌を行う。
コーティング液との接触はコーティング液を調整した後できるだけ短時間で行う。液組成、温度等の条件によって異なるが、液調整後10分以内が望ましく、5分以内に行うことがさらに望ましい。これより時間が長くなると、シリカ微粒子が凝集したり沈澱したりしてしまい、良質な多孔質酸化チタンコーティングが得られない。接触までの時間をより短時間に管理する手法として、チタンフッ化水素酸またはその塩の水溶液、およびフッ化物イオン捕捉剤の水溶液にシリカ微粒子を混合したもののどちらかに被コーティング物を浸漬しておき、撹拌しながら他方を混合してコーティングを開始する方法もある。コーティングの時間は、所定の膜厚が得られる程度でよく、水溶液の組成によって変化するが1分〜10時間が望ましく、3分〜3時間程度がさらに望ましい。
コーティングの後、必要に応じて水等で洗浄を行う。この後、100〜500℃で加熱しても良い。加熱によってコーティング膜の強度が向上する効果が得られる。
【0018】
実施の形態2.
本発明の実施の形態2の酸化チタン被膜の形成方法は、実施の形態1において、基材を浸漬したコーティング液が白濁すると、上記コーティング液からシリカ微粒子を除去し、その後は所定時間基材を浸漬したままにする方法である。
つまり、酸化チタン膜を多孔質化した被膜を形成する場合、基材をコーティング液に浸漬する初期に、コーティング液にシリカ微粒子が存在していればよく、シリカ微粒子が取り込まれた被膜が形成された後は、その微細表面を覆うように酸化チタン膜が形成される。
このため、コーティング初期以外では、シリカ微粒子は必要ないばかりでなく、膜中に取り込まれなかった大部分のシリカ粒子に酸化チタンが形成されて消費されるため、チタン原料の無駄が多くなったり、反応初期には均質に分散していたシリカ微粒子が凝集や沈降してコーティングが不均一化したりとコーティングに都合の悪い現象も起ることがある。そのため、本実施の形態のように、シリカ微粒子を除去することで、シリカの凝集や沈降の影響が小さくなり均質なコーティングができるほか、コーティング原料の有効利用ができるという効果がある。なお、シリカ微粒子を除去する方法は、フィルター等による濾過、遠心分離等がある。
シリカ微粒子を除去するタイミングは、コーティング条件に依存するが、基材を浸漬したコーティング液が白濁し始めた時点、例えばコーティングの開始から10秒〜5分後以降、10〜30分後以前が望ましい。これより早い段階でシリカを除去してしまえば、多孔質化が十分に行えない。これより遅い段階で除去した場合には、酸化チタンの生成反応も相当起ってしまっており、十分な上記効果が得られない。
【0019】
実施の形態3.
本発明の実施の形態3の酸化チタン被膜の形成方法は、実施の形態1におけるコーティング液からシリカ微粒子を除いたものに相当するコーティング原液を用い、実施の形態1により多孔質の酸化チタン被膜が形成された基材を、上記コーティング原液に浸漬することによりさらに酸化チタン被膜を形成する方法である。
上記コーティング原液への浸漬は、実施の形態1と同様に行うが、接触時間を短縮しても良い。また、シリカ粒子の沈降がないため撹拌等の操作は省略しても良い場合が多い。
図3は本実施の形態により形成された多孔質の酸化チタン被膜の説明図であるが、図3に示すように、図1に示す実施の形態1により形成した酸化チタン膜に比べて、厚膜化が可能になり、親水性や光触媒性の効果を高めたり、膜強度を向上させたりする効果がある。
【図面の簡単な説明】
【0020】
【図1】実施の形態1により製造された酸化チタン被膜の説明図である。
【図2】本発明の実施の形態1に係わるコーティング液中のシリカ微粒子の添加量による、酸化チタン膜の表面積の変化を示す特性図である。
【図3】実施の形態3により製造された酸化チタン被膜の説明図である。
【符号の説明】
【0021】
1 シリカ微粒子、2 酸化チタン、3 酸化チタン被膜、4 基材。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
チタンフッ化水素酸もしくはその塩を溶解し、フッ素イオンを捕捉するフッ素イオン捕捉剤を含有するコーティング液に、基材を浸漬して上記基材表面に酸化チタン被膜を形成する酸化チタン被膜の形成方法において、上記コーティング液が水溶性のフッ素イオン捕捉剤および少なくとも表面にシリカが存在する微粒子を含有することを特徴とする酸化チタン被膜の形成方法。
【請求項2】
少なくとも表面にシリカが存在する微粒子が、コーティング液に対して固形分濃度として、0.002〜20重量%含有されることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン被膜の形成方法。
【請求項3】
少なくとも表面にシリカが存在する微粒子の粒径が3nm〜0.3μmであることを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン被膜の形成方法。
【請求項4】
基材を浸漬したコーティング液が白濁すると、少なくとも表面にシリカが存在する微粒子を上記コーティング液から除去することを特徴とする請求項1に記載の酸化チタン被膜の形成方法。
【請求項5】
請求項1ないし請求項4のいずれかに記載の酸化チタン被膜の形成方法により酸化チタン被膜が形成された基材を、チタンフッ化水素酸もしくはその塩、および水溶性のフッ素イオン捕捉剤を溶解するコーティング原液に浸漬することを特徴とする酸化チタン被膜の形成方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2006−8494(P2006−8494A)
【公開日】平成18年1月12日(2006.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−361474(P2004−361474)
【出願日】平成16年12月14日(2004.12.14)
【出願人】(000006013)三菱電機株式会社 (33,312)
【Fターム(参考)】