説明

酸化反応促進用の材料とそれを用いた酸化反応促進方法

【課題】常温・常圧下で活性酸素を発生する酸化反応促進材料を提供する
【解決手段】12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を含んでなることを特徴とする酸化反応促進材料であり、好ましくは、前記粉末を10〜70体積%含み残部が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする酸化反応促進材料である。また、1体積%以上の酸素を含む雰囲気中、5℃〜95℃、相対湿度50%以上の条件の下で、気体状、粉塵状又は霧状の被酸化性物質を、前記の酸化反応促進材料と接触させることを特徴とする酸化反応促進方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、気体状或いは気体中の粉塵状又は霧状の化学物質を酸化するに際し、その酸化反応を促進する方法に関するもので、特に、活性な負電荷酸素原子を含有する材料を用いる酸化反応促進方法に関する。また、前記酸化反応を促進する酸化反応促進用の材料に関する。
【背景技術】
【0002】
空気中の化学物質の中には、人体に直接被害を及ぼすばかりでなく、土壌や水資源に溶解して、地球環境に多大な負荷を及ぼすものがある。従来これらの有害な化学物質は、活性炭への吸着や除外塔を用いた液層への吸収によって、空気中から分離・除去されていた。
【0003】
しかしこのような方法は、化学物質を単に空気中から固相あるいは液相へ移動させるに過ぎず、化学物質の有害性を本質的に解消しているとは言い難い。
【0004】
化学物質の有害性を解消するための有効な方法として、燃焼あるいは紫外線照射等による酸化、又は分解処理があげられるが、このような方法は熱や光等のエネルギーを大量に消費するため、別の面で地球環境への負荷を増大してしまう。
【0005】
空気中の化学物質の有害性は、従来は鉱工業における廃棄物あるいは自動車の排気ガス等において問題とされてきたが、最近は住宅用建材から発生する揮発性有機物質(VOC)やたばこの煙等の、より身近な物質において問題視されるようになってきた。
【0006】
身近になってきた化学物質の有害性を解消する方法としては、できるだけ簡便な処理方法を用いることが望ましく、例えば空気中の酸素を利用した酸化処理方法が適すると考えられる。しかし、空気中の比較的安定な酸素分子を、酸化剤として使用可能にするためにはその活性化が必要になる。
【0007】
酸素を活性化していわゆる活性酸素を作り出すには、放電プラズマ、燃焼、紫外線照射等の方法が用いられるが、いずれも過分のエネルギーを要するか、常時太陽光のように紫外線を含む光を照射せねばならず、簡便な処理方法とは言い難い。
【0008】
一方、OやOの酸素ラジカルは、活性酸素の1種であり、有機物や無機物の酸化過程で重要な役割を果たすことが知られている。また、酸化物化合物の固体表面上に吸着したOについては、広範な研究が行われている(非特許文献1参照)。
【非特許文献1】J.H.Lunsford、Catal.Rev.8,135,1973、M.Che and A.J.Tench,Adv.Catal,32,1,1983。
【0009】
この研究では、γ線などの高エネルギーの放射線を酸化物化合物表面に照射することでOを作成している。
【0010】
を構成アニオンとする結晶はRO(R=アルカリ金属)が知られているが、これらの化合物はいずれも300℃以下の低温で容易に分解してしまうため、酸化促進材や殺菌材などの用途には使用できない。
【0011】
1970年にH.B.Bartlらは、12CaO・7Al(以下、C12という)結晶においては、2分子を含む単位胞にある66個の酸素のうち、2個はネットワークに含まれず、結晶の中に存在するケージ内の空間に「フリー酸素」として存在すると主張している(非特許文献2参照)。
【非特許文献2】H.B.Bartl and T.Scheller、Neues Jarhrb.Mineral.,Monatsh.1970、547。
【0012】
また、細野らは、CaCOとAlまたはAl(OH)を原料として空気中で1200℃の温度で固相反応により合成したC12結晶中に1×1019個/cm程度のOが包接されていることを電子スピン共鳴の測定から発見し、フリー酸素の一部がOの形でゲージ内に存在するというモデルを提案している(非特許文献3参照)。
【非特許文献3】H.Hosono and Y.Abe,Inorg.Chem.26、1193、1997。
【0013】
12は、融点1415℃の安定な酸化物であり、包接されるOの量を増加させ、可逆的な取り込み、放出が可能となれば、酸化促進材や殺菌材などとしての用途が開けるものと期待できる。
【0014】
細野らは、更に、前記Oを包接するC12について検討を行い、CaCO、Ca(OH)又はCaOと、Al又はAl(OH)とを原料に用い、酸素分圧10Pa以上、水蒸気分圧10Pa以下の乾燥酸化雰囲気下、1200℃以上1415℃未満に焼成し、固相反応させることで、活性酸素種であるO及びOを1020個/cm以上の高濃度で包接するC12を得ている(特許文献1参照)。
【特許文献1】特開2002―3218号公報。
【0015】
しかし、細野らの見いだした高濃度に活性酸素種を含有するC12をそのまま使用する場合、例えば700℃以上の高温度に加熱しながら、負電荷を有するOやOを固体外部に引き出すためには、電界を印加することが必要であるため、化学物質の簡便な処理方法への適用が困難であった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0016】
本発明は、上記のような公知技術の状況に鑑みてなされたものであり、C12固体中に安定に包蔵される活性酸素を常温・常圧下で有効に利用することで、空気中の有害な化学物質等の酸化反応を促進して、該化学物質を効率的に酸化・除去するための材料及び処理方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0017】
即ち、本発明は、12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を含んでなることを特徴とする材料である。
【0018】
本発明は、好ましくは、前記粉末を10〜70体積%含む複合体からなることを特徴とする材料である。
【0019】
本発明は、好ましくは、前記粉末を10〜70体積%含み、残部が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする材料である。
【0020】
本発明は、1体積%以上の酸素を含む雰囲気中、5℃〜95℃、相対湿度50%以上の条件の下で、気体状、粉塵状又は霧状の被酸化性物質を、前記の酸化反応促進材料と接触させることを特徴とする酸化反応促進方法である。
【発明の効果】
【0021】
本発明の材料は、後述するとおりに、常温常圧下において、活性酸素を固体表面及び/又は空気中に発生させることができるので、例えば、空気中の有害な化学物質を簡便に酸化、分解して除去するなどの用途に好適に用いることができる。
【0022】
また、本発明の酸化反応促進方法は、前記の活性酸素を常温常圧下で発生しえるという特徴を有する酸化反応促進用に好適な材料を用いているので、所望の酸化反応を確実に促進できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0023】
12はそのままでは、Oが安定に内部に包蔵されているため、700℃以上の高温及び電界を印加しない限りOは外部に出てこないが、本発明者はこれを比表面積1m/g以上の粉末として、所定量の酸素及び水分を含む雰囲気下で被酸化性物質からなる化学物質と接触させることによって、常温常圧(5〜95℃、0.8〜1.5atmの範囲を示すものとする)下であっても化学物質が酸化される効果が生じることを新たに見いだし、本発明に至ったものである。
【0024】
即ち、本発明は、活性酸素を固体表面及び/又は空気中に発生させることができる材料として、12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を含んでなることを特徴とする材料である。前記構成を満たすときに、化学物質を常温常圧下であっても酸化することができる。
【0025】
常温でしかも電界をかけずにOがC12内部から出てくることは考え難いが、1m/g以上の高比表面積粉末にして所定量の水分及び酸素を含む雰囲気下に配することによって、僅かではあるがC12表面が加水分解して結晶格子が壊れ、表面近傍に包蔵されていたOが露出し、そこでさらに雰囲気中の酸素と下式に示す反応が生じてOが放出されることによって被酸化性物質と反応すると考えられる。
2O(固体) + O(空気中) → O(固体)+ O(空気中)
なお、Oが空気中に放出されることによってC12中に負電荷の欠損が生じるが、これは加水分解で生じたOHによって補填されると考えられる。
【0026】
本発明者の検討によれば、12CaO・7Al(C12)の組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートは、85体積%以上であることが必要で、好ましくは90体積%以上含有するときに前記効果がより明瞭になる。
【0027】
また、負電荷酸素原子の含有量についても、酸化反応が明瞭に促進されるためには、1×1019個/cm以上であることが必要であり、1×1020個/cm以上であることが好ましい。
【0028】
比表面積値に関しては、同じ理由から、1m/g以上である必要があり、2m/g以上であることが好ましい。
【0029】
本発明において、前記の酸化反応促進効果のある材料(以下、酸化反応促進材料ともいう)を、例えば所望形状の容器内に充填したり、前記粉末からなる焼結体としたり、或いは酸化反応に耐性を有する有機質や無機質の材料中に混合したりする等の操作で、複合体として実用に供することが好ましい。
【0030】
この場合において、複合体中には前記酸化反応促進材料を10〜70体積%含ませることが、本発明の効果を一層得やすいことから好ましく、更に15〜60体積%とすることが尚一層好ましい。
【0031】
前記複合体においてマトリックスとなる有機質や無機質の材料に関して、例えば無機質の材料としては、ソーダガラス、Eガラス、ホウケイ酸ガラス、石英ガラス等のガラス類や、蛙目粘土、木節粘土等の粘土類、セメント、アルミナセメント、モルタル、石膏等が挙げられる。
【0032】
有機質の材料としては、樹脂、ゴム或いは塗料等に用いられるものであれば用いることができ、例えば、アクリル樹脂、ポリエチレン、ポリプロピレン、ビスフェノール型エポキシ樹脂、フェノールノボラック型エポキシ樹脂、脂環型エポキシ樹脂、複素環型エポキシ樹脂、グリシジルエステル型エポキシ樹脂、グリシジルアミン型エポキシ樹脂、ハロゲン化エポキシ樹脂などのエポキシ樹脂、ポリベンズイミダゾール、ポリベンズオキサゾール、ポリベンズチアゾール、ポリオキサジアゾール、ポリピラゾール、ポリキノキサリン、ポリキナゾリンジオン、ポリベンズオキサジノン、ポリインドロン、ポリキナゾロン、ポリインドキシル、シリコン樹脂、シリコン−エポキシ樹脂、フェノール樹脂、メラミン樹脂、ユリア樹脂、不飽和ポリエステル、ポリアミノビスマレイミド、ジアリルフタレート樹脂、フッ素樹脂、TPX樹脂(メチルペンテンポリマー「三井石油化学社製商品名」)、ポリイミド、ポリアミドイミド、ポリエーテルイミド、66−ナイロンおよびMXD−ナイロン、アモルファスナイロン等のポリアミド、ポリブチレンテレフタレートおよびポリエチレンテレフタレート等のポリエステル、ポリフェニレンスルフィド、変性ポリフェニレンエーテル、ポリアリレート、全芳香族ポリエステル、ポリスルホン、液晶ポリマー、ポリエーテルエーテルケトン、ポリエーテルスルホン、ポリカーボネート、マレイミド変性樹脂、ABS樹脂、AAS(アクリロニトリル・アクリルゴム・スチレン)樹脂、AES(アクリロニトリル−エチレン・プロピレン・ジエンゴム−スチレン)樹脂等の樹脂類、ブチルゴム、アクリルゴム、エチレンプロピレンゴム、シリコーンゴム、ポリエステルエラストマー、ポリブタジエン、クロロプレン、天然ゴム、ポリイソプレン等のエラストマー類及びこれらに必要に応じ、硬化剤、硬化促進剤、触媒、加硫剤、滑剤・離型剤、安定剤、光安定剤、着色剤、難燃剤、カップリング剤等を添加したものが挙げられる。
【0033】
これらのマトリックス材料に対して、C12粉末を添加・混合し、用途に応じフィルム、シート又は板等の成形品や、液状のままで塗料、充填材等の多用な形態の複合体として実用に供される。
【0034】
混合は少量の場合、手混合も可能であるが、プラネタリーミキサー、ハイブリッドミキサー、ヘンシェルミキサー、バンバリーミキサー、ニーダー、ボールミル、ミキシングロール等の一般的な混合機が用いられる。また、成形は形状に応じてドクターブレード等の成膜機、押出成形、射出成形、プレス成形等の各種成形機や、鋳込み成形法等が用いられる。
【0035】
本発明の複合体において、前記したとおりに、C12粉末の含有量は10〜70体積%である。マトリックス材料との混合により複合体を得ようとすると、C12粉末の含有量が10体積%よりも少ないと、複合体表面に露出するC12粉末が少なすぎて、本発明の効果が確実には得られなくなる。又、C12粉末の含有量が70体積%を超えると、複合体としての成形・保形が困難になる。
【0036】
また、前記の有機質材料のうち、取扱いが簡便であることから、アクリル樹脂を初めとする熱可塑性樹脂が好適に用いられる。
【0037】
本発明の酸化反応促進材料は、常温常圧下で負電荷酸素原子を発生し被酸化性物質を酸化することを促進するが、1体積%以上の酸素を含む雰囲気中、5℃〜95℃、相対湿度50%以上の条件を選択する場合には、気体状、粉塵状又は霧状の被酸化性物質を確実に酸化させることができるので好ましい条件の一つである。
【0038】
雰囲気中の酸素濃度については、本発明の効果を確実に得るために1体積%以上が選択され、5体積%以上が好ましい範囲である。
【0039】
温度範囲については、格別の技術的な制約はないが、実用性を考慮し5〜95℃が選択される。
【0040】
また、雰囲気中の湿度については、相対湿度50%以上が選択され、60%以上が好ましい。
【実施例】
【0041】
以下、実施例及び比較例をあげて、さらに本発明を説明する。
【0042】
(実施例1)炭酸カルシウム(CaCO)粉末と、アルミナ(γ−Al)粉末を、CaとAlのモル比がCa:Al=6:7になるように混合した後、大気中、1300℃で3時間焼成して白色粉末を得た。この粉末がC12を92体積%含み、残部がCaO・Al及び3CaO・Alの混合物であることをX線回折測定によって確認した。
【0043】
これをさらに酸素分圧8.1×10Paの雰囲気下、1250℃で2時間加熱し、冷却後焼結体の一部を粉砕して室温及び77KでのESRスペクトルを測定し、それぞれの吸収バンドの強度からOイオンラジカル及びOイオンラジカルの濃度を求めたところ、それぞれ1×1020cm−3であった。
【0044】
これを、ボールミルを用いてエタノール中で湿式粉砕し、乾燥することによって、比表面積2.1m/gの粉末を得た。
【0045】
この粉末50gを用い、金型成型器にて、10MPaの成形圧をかけて直径2cm、厚さ約1cmの成形体を10個作製した。これらの成形体をOイオンラジカルが放出されないように酸素雰囲気下にて、比表面積が低下しないように比較的低温の1000℃で2時間焼成してC12仮焼体を得た。
【0046】
大気圧下で気温40℃に保持したグローブボックス内を、酸素分約20%の乾燥空気で置換した。次いでこれと同じ乾燥空気を20質量%ホルマリン液中でバブリングさせた後、グローブボックス内に流通、循環させて相対湿度を湿度計で、ホルムアルデヒド(HCHO)の濃度をフーリエ変換型赤外分光分析計でそれぞれ測定した。
【0047】
循環開始後、1時間で相対湿度とHCHO濃度がそれぞれ65%と50ppmのほぼ一定値に達したので、予め密閉容器に入れてグローブボックス内に配しておいたC12仮焼体10個を、容器の蓋を外してグローブボックス内の雰囲気と接触させた。
【0048】
接触後バブリングガスの循環を止めて、1時間経過した時点におけるHCHO濃度を測定したところ、0.01ppmであった。
【0049】
(比較例1)炭酸カルシウム(CaCO)粉末と、アルミナ(γ−Al)粉末を、実施例1と同様にして、混合後大気中で焼成して得た白色粉末は、C12を90体積%含み、残部がCaO・Al及び3CaO・Alの混合物であることをX線回折測定によって確認した。
【0050】
この粉末をそのまま室温及び77KでのESRスペクトルを測定し、それぞれの吸収バンドの強度からOイオンラジカル及びOイオンラジカルの濃度を求めたところ、何れも5×1018cm−3未満であった。
【0051】
これを、ボールミルを用いてエタノール中で湿式粉砕し、乾燥することによって、比表面積2.5m/gの粉末を得た。
【0052】
この粉末50gを用い、金型成型器を用い10MPaの成形圧で直径2cm、厚さ約1cmの成形体を10個作製した。これらの成形体を大気中1000℃で2時間焼成して仮焼体を得た。
【0053】
その後実施例1と同様にしてグローブボックス内でホルマリン液中をバブリングさせた乾燥空気とこれらの仮焼体を接触させた後、HCHO濃度を測定したところ、50ppmであった。
【0054】
(実施例2)実施例1の粉末を、樹脂分に対して30体積%になるように、アクリルエマルジョン(高圧ガス工業製FX−851、樹脂分55質量%)100質量部、分散剤(サンノプコ製SNディスパーサント2060)2質量部及び消泡剤(サンノプコ製SNデフォーマー314)0.2質量部からなる液状マトリックスに添加した後、ハイブリッドミキサー(キーエンス製HM−500)を用いて混合し、スラリーを作製した。
【0055】
次いで、スラリーを0.5mm厚さのシート形状に成形した後、70℃で3時間加熱して固化させて、C12粉末とアクリル樹脂の複合体を得た。
【0056】
実施例1と同様にして大気圧下で気温40℃に保持したグローブボックス内を、酸素分約20%の乾燥空気で置換した。次いでこれと同じ乾燥空気を20%ホルマリン液中でバブリングさせた後、グローブボックス内に流通、循環させて相対湿度を湿度計で、ホルムアルデヒド(HCHO)の濃度をフーリエ変換型赤外分光分析計でそれぞれ測定した。
【0057】
循環開始後、1時間で相対湿度とHCHO濃度がそれぞれ65%と50ppmのほぼ一定値に達したので、予め密閉容器に入れてグローブボックス内に配しておいたC12粉末とアクリル樹脂の複合体(300×300×0.5mmのシート形状)を、容器の蓋を外してグローブボックス内の雰囲気と接触させた。
【0058】
接触後バブリングガスの循環を止めて、1時間経過した時点におけるHCHO濃度を測定したところ、0.02ppmであった。
【0059】
(比較例2)実施例2の乾燥空気のホルマリン液中でのバブリングの代わりに、60℃に加熱したパラホルムアルデヒド(固体)中を通過させた乾燥空気をグローブボックス内に流通、循環させることによって、雰囲気中の水分量を低減した以外は、実施例2と同様にして、循環開始後1時間におけるグローブボックス内の相対湿度とHCHO濃度を測定したところそれぞれ20%と50ppmのほぼ一定値に達していた。
【0060】
その後グローブボックス内に予め配しておいた実施例2と同じ複合体を、グローブボックス内の雰囲気と接触させて、バブリングガスの循環を止めて1時間経過した時点におけるHCHO濃度を測定したところ、40ppmであった。
【0061】
(実施例3)実施例1と同様にして大気中で焼成して得たC12粉末を、酸素分圧5.7×10Paの雰囲気下、1200℃で2時間加熱し、Oイオンラジカル濃度が5×1019cm−3の粉末を得た。
【0062】
これを、ボールミルを用いてエタノール中で湿式粉砕し、乾燥することによって、比表面積1.5m/gの粉末を得た。
【0063】
この粉末を、ゴム(エラストマー)分に対して50体積%になるように、トルエンに溶解させたシリコーンゴムに微量の難燃剤、シランカップリング剤及び加硫剤を添加して調製したマトリックスに分散させてスラリーを得た。
【0064】
このスラリーをドクターブレード成膜機を用いて厚さ0.3mmのシート状に成形した後、80℃で1時間加熱してトルエンを揮発させ、温度170℃、圧力9.8MPaで10分間プレス加硫を行い、さらに大気圧下200℃で5時間二次加硫を行いC12粉末とシリコーンゴムの複合体を得た。
【0065】
大気圧下で気温60℃に保持したグローブボックス内を、酸素量5%の酸素・窒素混合ガスで置換した。次いでこれと同じ混合ガスを20%ホルマリン液中でバブリングさせた後、グローブボックス内に流通、循環させて相対湿度を湿度計で、ホルムアルデヒド(HCHO)の濃度をフーリエ変換型赤外分光分析計でそれぞれ測定した。
【0066】
循環開始後、1時間で相対湿度とHCHO濃度がそれぞれ55%と60ppmのほぼ一定値に達したので、予め密閉容器に入れてグローブボックス内に配していたC12粉末とシリコーンゴムの複合体(400×400×0.3mmのシート形状)を、容器の蓋を外してグローブボックス内の雰囲気と接触させた。
【0067】
接触後バブリングガスの循環を止めて、1時間経過した時点におけるHCHO濃度を測定したところ、0.08ppmであった。
【0068】
(比較例3)酸素・窒素混合ガスの代わりに窒素ガスを用いて雰囲気中の酸素を0.5体積%に低減した以外は実施例3と同様にして、実施例3と同じ複合体とグローブボックス内の雰囲気を接触させた後、バブリングガスの循環を止めて1時間経過した時点におけるHCHO濃度を測定したところ、24ppmであった。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明によれば、樹脂等の有機物だけでなく、無機物も含めた多様なマトリックスと、特定のC12粉末を組み合わせた複合体が製造できる。この複合体は常温常圧下で、簡便に化学物質の酸化反応を促進することが可能である。従ってシックハウス症候群の原因物質とされるホルムアルデヒドをはじめとする揮発性有機物質(VOC)も常温・常圧下で酸化・無害化することが可能であるため、脱臭剤、家屋の壁材用材料等を初めいろいろな産業に利用でき有用である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を含んでなることを特徴とする材料。
【請求項2】
12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を10〜70体積%含む複合体からなることを特徴とする材料。
【請求項3】
12CaO・7Alの組成式で表される結晶質カルシウムアルミネートを85体積%以上含有し、しかも負電荷酸素原子(O)を1×1019個/cm以上含有する、比表面積1m/g以上の粉末を10〜70体積%含み、残部が熱可塑性樹脂からなることを特徴とする材料。
【請求項4】
1体積%以上の酸素を含む雰囲気中、5℃〜95℃、相対湿度50%以上の条件の下で、気体状、粉塵状又は霧状の被酸化性物質を、請求項1又は請求項2記載の酸化反応促進材料と接触させることを特徴とする酸化反応促進方法。

【公開番号】特開2006−240954(P2006−240954A)
【公開日】平成18年9月14日(2006.9.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−62285(P2005−62285)
【出願日】平成17年3月7日(2005.3.7)
【出願人】(000003296)電気化学工業株式会社 (1,539)
【Fターム(参考)】