説明

酸化物超電導線材およびその製造方法

【課題】本発明は、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材、及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材11と中間層12と酸化物超電導層13と銀層14とがこの順に積層されてなる超電導積層体5を準備する第1工程と、超電導線積層体5よりも幅広の第1金属テープ1および第2金属テープ2により超電導積層体5を基材11側と銀層14側から挟む第2工程と、第1金属テープ1と第2金属テープ2の幅方向端部1a、2aをシーム溶接する第3工程を備え、第1金属テープ1および第2金属テープ2の少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料よりなることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸化物超電導線材およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年になって発見されたRE−123系酸化物超電導体(REBaCu7−X:REはYを含む希土類元素)は、液体窒素温度以上で超電導性を示し、電流損失が低いため、実用上極めて有望な素材とされており、これを線材に加工して電力供給用の導体あるいは磁気コイル等として使用することが要望されている。この酸化物超電導体を線材に加工するための方法として、金属基材テープ上に酸化物超電導層を形成する方法が研究されている。
【0003】
酸化物超電導線材にあっては、酸化物超電導層上に薄い銀の安定化層を形成し、その上に銅などの良導電性金属材料からなる厚い安定化層を設けた2層構造の安定化層を積層する構造が採用されている。前記銀の安定化層は、酸化物超電導層を酸素熱処理する際に酸素量の変動を調節する目的のためにも設けられており、銅の安定化層は、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたとき、該酸化物超電導層の電流を転流させるバイパスとして機能させるための目的で設けられている。
【0004】
2層構造の安定化層を形成する技術の一例として、酸化物超電導層の上にスパッタリングにより薄い銀の安定化層を設けた後、線材全体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬し、電気めっきにより銀の安定化層上に銅の安定化層を形成する技術が知られている(特許文献1参照)。また、酸化物超電導層の上に銀の安定化層を設けた線材と銅製の安定化材テープとをはんだを介して重ね合わせて加熱・加圧ロールに通すことによって、銀の安定化層上に銅の安定化層を形成する技術も知られている(特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】特開2007−80780号公報
【特許文献2】特開2009−48987号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
RE−123系酸化物超電導層の特定組成のものは水分により劣化しやすく、線材を水分の多い環境に保管した場合や、線材に水分が付着した状態のまま放置した場合に、酸化物超電導層に水分が浸入すると、超電導特性が低下する要因となる。
引用文献1のようにめっき処理して銅の安定化層を形成した構造では、銅めっき部に欠陥があるとめっき欠陥部から水分が浸入して酸化物超電導層に達し、酸化物超電導層が劣化してしまう虞がある。
引用文献2のように銀の安定化層上に銅製の安定化材テープを積層して銅の安定化層を形成する技術では、銅の安定化層にめっき欠陥部が形成される問題はない。しかし、銀の安定化層の上面のみが銅の安定化層で保護される構造であるため、水分によりダメージを受けやすい酸化物超電導層の側面が外部に露呈しているため、製造工程中などに水分が浸入することにより超電導特性の低下を引き起こす虞がある。
【0007】
本発明は、以上のような従来の実情に鑑みなされたものであり、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、前記超電導線積層体よりも幅広の第1金属テープおよび第2金属テープにより該超電導積層体を前記基材側と前記銀層側から挟む第2工程と、前記第1金属テープと前記第2金属テープの幅方向端部をシーム溶接する第3工程を備え、前記第1金属テープおよび前記第2金属テープの少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料よりなることを特徴とする。
【0009】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体を第1金属テープおよび第2金属テープで挟み、第1金属テープと第2金属テープの端部をシーム溶接して連続的に接合する構成である。そのため、第1金属テープと第2金属テープの端部を隙間なく接合することができ、超電導積層体の周面全てが外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材を製造できる。従って、本発明の酸化物超電導線材の製造方法によれば、酸化物超電導層への水分の浸入を抑え、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる酸化物超電導線材を提供できる。また、シーム溶接により第1金属テープと第2金属テープを接合することにより、形成されるシーム溶接部の接合強度が強いので、機械的強度が高い酸化物超電導線材を提供できる。
また、本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、第1金属テープおよび第2金属テープのうち、少なくともいずれかは抵抗溶接可能な金属材料より構成されたものを用いることにより、溶接部分において確実に発熱させることができるので、抵抗溶接であるシーム溶接により第1金属テープと第2金属テープの端部を溶接することができる。
【0010】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法は、前記第2工程において、抵抗溶接可能な金属材料よりなる前記第1金属テープを前記基材側に配し、良導電性材料よりなる前記第2金属テープを前記銀層側に配し、前記第3工程において、前記第1金属テープがシーム溶接用のローラー電極に接するようにすることが好ましい。
この場合、第2金属テープが良導電性材料より構成されるので、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、第2金属テープが銀層とともに、酸化物超電導層の電流が転流するバイパスとして機能する。従って、酸化物超電導層が安定化された酸化物超電導線材を提供できる。また、第1金属テープがシーム溶接用のローラー電極に接する状態でシーム溶接を行うことにより、金属テープとローラー電極との接触部が抵抗発熱により充分に加熱されるので、第1金属テープと第2金属テープを溶接できる。
【0011】
本発明の酸化物超電導線材の製造方法において、前記銀層上に導電性の接合層を介して前記第1金属テープまたは前記第2金属テープを配することもできる。
この場合、製造される酸化物超電導線材は、銀層と金属テープが接合層により電気的および機械的に接合され、且つその接合が強固となるので、接続抵抗が低下して酸化物超電導層を安定化する効果が向上する。
【0012】
上記課題を解決するため、本発明の酸化物超電導線材は、基材と中間層と酸化物超電導層と銀層とがこの順に積層されて超電導積層体が構成され、前記超電導積層体が前記基材側に配され該超電導積層体より幅広の第1金属テープと前記銀層側に配され該超電導積層体より幅広の第2金属テープにより挟まれており、前記第1金属テープと前記第2金属テープの幅方向端部がシーム溶接部により接合されてなり、前記第1金属テープおよび前記第2金属テープの少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料よりなることを特徴とする。
【0013】
本発明の酸化物超電導線材は、超電導積層体が第1金属テープおよび第2金属テープで挟み込まれ、第1金属テープと第2金属テープの端部がシーム溶接によるシーム溶接部により連続的に接合された構成である。そのため、第1金属テープと第2金属テープの端部が隙間なく接合されており、超電導積層体の周面全てが外部から遮蔽された構造が実現できる。このような構成にすることで、酸化物超電導層への水分の浸入を抑え、酸化物超電導層が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。また、シーム溶接により第1金属テープと第2金属テープが接合されているため、接合強度が強く、機械的強度が高い酸化物超電導線材となる。よって、例えば、超電導コイル形成のためにコイル加工を行っても接合部が破れることがない。
【0014】
本発明の酸化物超電導線材において、前記第1金属テープが抵抗溶接可能な金属材料よりなり、前記第2金属テープが良導電性材料よりなり、前記銀層上に導電性の接合層を介して前記第2金属テープが配されてなることが好ましい。
この場合、第2金属テープが良導電性材料より構成されるので、酸化物超電導層が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、第2金属テープが銀層とともに、酸化物超電導層の電流が転流するバイパスとして機能する。さらに、第2金属テープと銀層が導電性の接合層により電気的および機械的に接続されることにより、銀層と第2金属テープとの接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導を安定化する効果を向上できる。
【発明の効果】
【0015】
本発明によれば、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができる酸化物超電導線材及びその製造方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明に係る酸化物超電導線材の一実施形態を示す断面斜視図である。
【図2】図1に示す酸化物超電導線材に組み込まれている超電導積層体の一例構造を示す断面斜視図である。
【図3】本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態の工程を説明するための工程説明図である。
【図4】本発明に係る酸化物超電導線材の他の実施形態を示す断面図である。
【図5】シーム溶接の他の例を示す模式図である。
【図6】実施例および比較例1、2の酸化物超電導線材の耐久試験結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明に係る酸化物超電導線材の実施形態について図面に基づいて説明する。
図1は本発明に係る酸化物超電導線材の一実施形態を模式的に示す概略断面図であり、図2は図1に示す酸化物超電導線材に組み込まれている超電導積層体の一例構造を示す断面斜視図である。
【0018】
図2に示す超電導積層体5は長尺テープ状の基材11の上に、中間層12と酸化物超電導層13と銀層14を順次積層してなる。図1に示す酸化物超電導線材10は、超電導積層体5の基材11側の面を覆うように第1金属テープ1が配され、超電導積層体5の銀層14側の面を覆うように第2金属テープ2が配され、第1金属テープ1と第2金属テープ2により超電導積層体5が挟まれた構造となっている。第1金属テープ1および第2金属テープ2は、超電導積層体5よりも幅広(幅方向の長さが長い)であり、第1金属テープ1と第2金属テープ2は、それらの幅方向の両側の端部1a、2aがシーム溶接部7により接合されている。第1金属テープ1は、基材11側から超電導積層体5の側面側へと曲げ部1Kで曲げられており、その端部1aにおいて平面形状の第2金属テープ2の端部2aと重ね合わせられて、シーム溶接部7により接合されている。
【0019】
基材11は、通常の超電導線材の基材として使用し得るものであれば良く、長尺のプレート状、シート状又はテープ状であることが好ましく、耐熱性の金属からなるものが好ましい。耐熱性の金属の中でも、合金が好ましく、ニッケル(Ni)合金又は銅(Cu)合金がより好ましい。中でも、市販品であればハステロイ(商品名、ヘインズ社製)が好適であり、モリブデン(Mo)、クロム(Cr)、鉄(Fe)、コバルト(Co)等の成分量が異なる、ハステロイB、C、G、N、W等のいずれの種類も使用できる。また、基材11としてニッケル(Ni)合金などに集合組織を導入した配向金属基材を用い、その上に中間層12および酸化物超電導層13を形成してもよい。
基材11の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良く、通常は、10〜500μmであることが好ましく、20〜200μmであることがより好ましい。下限値以上とすることで強度が一層向上し、上限値以下とすることでオーバーオールの臨界電流密度を一層向上させることができる。
【0020】
中間層12は、酸化物超電導層13の結晶配向性を制御し、基材11中の金属元素の酸化物超電導層13への拡散を防止するものである。さらに、基材11と酸化物超電導層13との物理的特性(熱膨張率や格子定数等)の差を緩和するバッファー層として機能し、その材質は、物理的特性が基材11と酸化物超電導層13との中間的な値を示す金属酸化物が好ましい。中間層12の好ましい材質として具体的には、GdZr、MgO、ZrO−Y(YSZ)、SrTiO、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等の金属酸化物が例示できる。
中間層12は、単層でも良いし、複数層でも良い。例えば、前記金属酸化物からなる層(金属酸化物層)は、結晶配向性を有していることが好ましく、複数層である場合には、最外層(最も酸化物超電導層13に近い層)が少なくとも結晶配向性を有していることが好ましい。
【0021】
中間層12は、基材11側にベッド層が介在された複数層構造でもよい。ベッド層は、耐熱性が高く、界面反応性を低減するためのものであり、その上に配される膜の配向性を得るために用いる。このようなベッド層は、必要に応じて配され、例えば、イットリア(Y)、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al、「アルミナ」とも呼ぶ)等から構成される。このベッド層は、例えばスパッタリング法等の成膜法により形成され、その厚さは例えば10〜200nmである。
【0022】
さらに、本発明において、中間層12は、基材11側に拡散防止層とベッド層が積層された複数層構造でもよい。この場合、基材11とベッド層との間に拡散防止層が介在された構造となる。拡散防止層は、基材11の構成元素拡散を防止する目的で形成されたもので、窒化ケイ素(Si)、酸化アルミニウム(Al)、あるいは希土類金属酸化物等から構成され、その厚さは例えば10〜400nmである。なお、拡散防止層の結晶性は問われないので、通常のスパッタ法等の成膜法により形成すればよい。
このように基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させることにより、中間層12を構成する他の層や酸化物超電導層13等を形成する際に、必然的に加熱されたり、熱処理される結果として熱履歴を受ける場合に、基材11の構成元素の一部がベッド層を介して酸化物超電導層13側に拡散することを効果的に抑制することができる。基材11とベッド層との間に拡散防止層を介在させる場合の例としては、拡散防止層としてAl、ベッド層としてYを用いる組み合わせを例示することができる。
【0023】
また中間層12は、前記金属酸化物層の上に、さらにキャップ層が積層された複数層構造でも良い。キャップ層は、酸化物超電導層13の配向性を制御する機能を有するとともに、酸化物超電導層13を構成する元素の中間層12への拡散や、酸化物超電導層13積層時に使用するガスと中間層12との反応を抑制する機能等を有するものである。
【0024】
キャップ層は、前記金属酸化物層の表面に対してエピタキシャル成長し、その後、横方向(面方向)に粒成長(オーバーグロース)して、結晶粒が面内方向に選択成長するという過程を経て形成されたものが好ましい。このようなキャップ層は、前記金属酸化物層よりも高い面内配向度が得られる。
キャップ層の材質は、上記機能を発現し得るものであれば特に限定されないが、好ましいものとして具体的には、CeO、Y、Al、Gd、Zr、Ho、Nd等が例示できる。キャップ層の材質がCeOである場合、キャップ層は、Ceの一部が他の金属原子又は金属イオンで置換されたCe−M−O系酸化物を含んでいても良い。
【0025】
中間層12の厚さは、目的に応じて適宜調整すれば良いが、通常は、0.1〜5μmである。
中間層12が、前記金属酸化物層の上にキャップ層が積層された複数層構造である場合には、キャップ層の厚さは、通常は、0.1〜1.5μmである。
【0026】
中間層12は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法、イオンビームアシスト蒸着法(以下、IBAD法と略記する)等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法);溶射等、酸化物薄膜を形成する公知の方法で積層できる。特に、IBAD法で形成された前記金属酸化物層は、結晶配向性が高く、酸化物超電導層13やキャップ層の結晶配向性を制御する効果が高い点で好ましい。IBAD法とは、蒸着時に、結晶の蒸着面に対して所定の角度でイオンビームを照射することにより、結晶軸を配向させる方法である。通常は、イオンビームとして、アルゴン(Ar)イオンビームを使用する。例えば、GdZr、MgO又はZrO−Y(YSZ)からなる中間層12は、IBAD法における配向度を表す指標であるΔΦ(FWHM:半値全幅)の値を小さくできるため、特に好適である。
【0027】
酸化物超電導層13は通常知られている組成の酸化物超電導体からなるものを広く適用することができ、REBaCu(REはY、La、Nd、Sm、Er、Gd等の希土類元素を表す)なる材質のもの、具体的には、Y123(YBaCu)又はGd123(GdBaCu)を例示することができる。また、その他の酸化物超電導体、例えば、BiSrCan−1Cu4+2n+δなる組成等に代表される臨界温度の高い他の酸化物超電導体からなるものを用いても良いのは勿論である。
酸化物超電導層13は、スパッタ法、真空蒸着法、レーザ蒸着法、電子ビーム蒸着法等の物理的蒸着法;化学気相成長法(CVD法);塗布熱分解法(MOD法)等で積層でき、なかでもレーザ蒸着法が好ましい。
酸化物超電導層13の厚みは、0.5〜5μm程度であって、均一な厚みであることが好ましい。
【0028】
酸化物超電導層13の上に積層されている銀層14は、スパッタ法などの成膜法により形成され、その厚さを1〜30μm程度とされる。
酸化物超電導層13上に銀層14を備える構成とする理由としては、銀は良導電性かつ酸化物超電導層13と接触抵抗が低くなじみの良い点、及び、酸化物超電導層13に酸素をドープするアニール工程においてドープした酸素を酸化物超電導層13から逃避し難くする性質を有する点を挙げることができる。
【0029】
第1金属テープ1および第2金属テープ2のうち、少なくともいずれかは抵抗溶接可能な金属材料よりなる。これにより、後述の製造方法で詳述する如く抵抗溶接可能な金属材料よりなる金属テープがシーム溶接用のローラー電極に接する状態でシーム溶接することで、第1金属テープ1と第2金属テープ2が接合でき、シーム溶接部7が形成できる。第1金属テープ1および第2金属テープ2は、予め長尺のテープ状に加工されたものが使用される。
【0030】
抵抗溶接可能な金属材料としては、抵抗溶接の被溶接材として従来公知の金属材料を使用することができ、熱伝導率が30W/(m・K)以下、且つ、電気抵抗が4×10−8Ω・m以上の金属材料が好ましい。熱伝導率が30W/(m・K)を超える、或は、電気抵抗が4×10−8Ω・m未満である材料より第1金属テープ1と第2金属テープ2の両方が形成されている場合、シーム溶接時にローラー電極から金属テープに電流が印加されても、金属テープでの抵抗発熱が小さい、又は抵抗発熱の放熱が速すぎるために、金属テープが十分に加熱されず、第1金属テープ1と第2金属テープ2が接合されない場合がある。そのため、熱伝導率が30W/(m・K)以下、且つ、電気抵抗が4×10−8Ω・m以上の金属材料より第1金属テープ1および第2金属テープ2のうち、少なくともいずれかが形成されていることが好ましい。
【0031】
抵抗溶接可能な金属材料としては、ニッケル合金、ステンレス鋼等が挙げられ、具体的には、例えばSUS301(熱伝導率16.3W/(m・K)、電気抵抗7.2×10−7Ω・m)、SUS304(熱伝導率16.3W/(m・K)、電気抵抗7.2×10−7Ω・m)、SUS310(熱伝導率14.2W/(m・K)、電気抵抗9.2×10−7Ω・m)、SUS316(熱伝導率16.3W/(m・K)、電気抵抗7.4×10−7Ω・m)等のオーステナイト系ステンレス鋼、SUS430(熱伝導率26.0W/(m・K)、電気抵抗6.0×10−7Ω・m)等のフェライト系ステンレス鋼、SUS403(熱伝導率24.9W/(m・K)、電気抵抗5.7×10−7Ω・m)等のマルテンサイト系ステンレス鋼、インコネル(スペシャルメタル社製商品名;熱伝導率15.1W/(m・K)、電気抵抗1.0×10−6Ω・m)、ハステロイB(米国ヘインズ社製商品名;熱伝導率11.3W/(m・K)、電気抵抗1.4×10−6Ω・m)、ハステロイC(米国ヘインズ社製商品名;熱伝導率11.3W/(m・K)、電気抵抗1.4×10−6Ω・m)等のニッケル合金、コバール(熱伝導率17.0W/(m・K)、電気抵抗4.9×10−8Ω・m)が挙げられる。
【0032】
本実施形態の超電導線材10において、基材11側に配された第1金属テープ1が抵抗溶接可能な金属材料より構成され、銀層14側に配された第2金属テープ2が良導電性材料より構成されることが好ましい。
第2金属テープ2が良導電性材料より構成される場合、酸化物超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、第2金属テープ2が銀層14とともに、酸化物超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能する。第2金属テープ2が良導電性材料より構成されることにより、酸化物超電導線材10が安定化され好ましい。
なお、酸化物超電導線材10を超電導限流器に使用する場合は、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両方が、抵抗溶接可能な金属材料より構成されることが好ましい。超電導限流器は、超電導状態と常電導状態の導体電気抵抗の差を利用して現流動作を行うので、使用する超電導線材には常電導状態における高い導体抵抗が求められるためである。この場合、第1金属テープ1と第2金属テープ2を構成する材料は同一であっても異なっていてもよい。
【0033】
第2金属テープ2を構成する良導電性材料としては、Cu、黄銅(Cu−Zn合金)、Cu−Ni合金等の銅合金、ステンレス等の比較的安価な材質からなるものを用いることが好ましく、中でも高い導電性を有し、安価であることがらCuが好ましい。
第2金属テープ2の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であるが、第2金属テープ2が良導電性材料より構成される場合、その厚さを10〜300μmとすることが好ましい。下限値以上とすることにより酸化物超電導層13を安定化する一層高い効果が得られ、上限値以下とすることにより酸化物超電導線材10を薄型化できる。
【0034】
第1金属テープ1の厚さは特に限定されず、適宜調整可能であり、例えば、10〜 300μm程度とされる。第2金属テープ2が抵抗溶接可能な金属材料から構成される場合、その厚さは特に限定されず、適宜調整可能であり、例えば、10〜300μm程度とされる。
第1金属テープ1および第2金属テープ2の幅は特に制限されず、超電導積層体5の幅および厚みに合わせて適宜調整可能である。第1金属テープ1および第2金属テープ2の幅は、超電導積層体6の幅よりも大きく設定され、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aがシーム溶接部7で接合されたされた状態で、第1金属テープ1と第2金属テープ2の間に超電導積層体5が収納されるような幅であればよい。
【0035】
第1金属テープ1の幅と、第2金属テープ2の幅は、同一でも異なっていてもよい。酸化物超電導線材の製造工程におけるシーム溶接のし易さを考慮すると、パラレルシーム溶接を行う場合には、シーム溶接用のローラー電極に接する金属テープの幅を、他の金属テープの幅よりも若干短くすることが好ましい。
図1においては、第1金属テープ1および第2金属テープ2の幅が、超電導積層体5の幅の2倍程度である例を示しているが、この例はシーム溶接部7付近が見えやすいように誇張して描いたものである。実際には、シーム溶接できる幅が確保されていればよい。酸化物超電導線材10をコイル加工して超電導コイルとする場合には、超電導コイルにおける超電導積層体5の割合が減少することを抑制するため、第1金属テープ1および第2金属テープ2の幅が、超電導積層体5の幅と比較して広くなり過ぎないように設定すること好ましい。一例として、超電導積層体5の幅が5mmの場合、第1金属テープ1の幅を5.5mm、第2金属テープ2の幅を6mmと設定できる。
【0036】
第2金属テープ2と銀層14は導電性の接合層9を介して積層されていることが好ましい。特に、第2金属テープ2が前記した良導電性材料より構成されている場合、第2安定化層2と銀層14が導電性の接合層9により電気的および機械的に接続されることにより、銀層14と第2金属テープ2との接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導13を安定化する効果を向上できる。
また、第2金属テープ2が良導電性材料より構成されない場合にも、接合層9を介して第2金属テープ2と銀層14が積層されることにより、超電導積層体5と第2金属テープ2の接合構造が強固となるので好ましい。
なお、第1金属テープ1と基材11との積層は、接合層を介していてもよいし、接合層を介していなくてもよい。また、第1金属テープ1と基材11との間に接合層が介在される場合、該接合層は導電性または非導電性のどちらでもよい。
【0037】
導電性の接合層9は、導電性を有する材料より構成され、第2金属テープ2と銀層14を接着固定している。導電性の接合層9は、半田、めっき、ろう材などより構成されている。
接合層9の厚さは、特に限定されず、適宜調整可能であるが、例えば、2〜20μm程度とすることができる。
接合層9は第2金属テープ2の銀層側の面全体に形成されていてもよく、銀層14と接する部分にのみ形成されていてもよい。
【0038】
導電性の接合層9が半田より構成される場合、従来公知の半田を使用することができ、例えば、Sn−Ag系合金、Sn−Bi系合金、Sn−Cu系合金、Sn−Zn系合金などの鉛フリー半田、Pb−Sn系合金半田、共晶半田、低温半田などが挙げられ、これらの半田を1種または2種以上組み合わせて使用することができる。これらの中でも、融点が300℃以下の半田を用いることが好ましい。これにより、300℃以下の温度で第2金属テープ2と銀層14を半田付けすることが可能となるので、半田付けの熱によって酸化物超電導層13の特性が劣化することを抑止することができる。
【0039】
第1金属テープ1と第2金属テープ2はその両側の端部1a、2aが重ね合わせられ、シーム溶接されており、シーム溶接部7により接合されている。本実施形態におけるシーム溶接とは、一対のローラー電極を被溶接材に適度な加圧で接触させ、ローラー電極に通電しながら該ローラー電極を回転走行させることにより、被溶接材に発生する抵抗熱により加熱する溶接を連続的に行う溶接法である。そのため、酸化物超電導線材10のシーム溶接部7近傍には、ローラー電極により加圧された痕跡が形成されており、シーム溶接部7周縁はローラー電極との接合面に倣った形状となる。
第1金属テープ1の一方の端部1aと他方の端部1aに、一対のテーパー状のローラー電極が配置されて行われるパラレルシーム溶接によりシーム溶接部7が形成された場合(後述する図3(b)参照)、シーム溶接部7周縁にはテーパー状のローラー電極のテーパー面に倣った形状の痕跡が形成される。また、第1金属テープ1と第2金属テープ2を重ね合わせた積層体を一対のローラー電極で挟み込んでおこなうシーム溶接によりシーム溶接部7が形成された場合(後述する図5参照)、シーム溶接部7周縁にはローラー電極の外周面に倣った形状の痕跡が形成される。
【0040】
本実施形態の酸化物超電導線材10は、超電導積層体5がそれよりも幅広の第1金属テープ1および第2金属テープ2で挟み込まれ、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aがシーム溶接によるシーム溶接部7により連続的に接合された構成である。そのため、第1金属テープ1と第2金属テープ2の端部1a、2aが隙間なく接合されており、超電導積層体5の周面全てが外部から遮蔽された構造が実現できる。このような構成にすることで、酸化物超電導層13への水分の浸入を抑え、酸化物超電導層13が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。また、シーム溶接により第1金属テープ1と第2金属テープ2が接合されているため、接合強度が強く、機械的強度が高い酸化物超電導線材10となる。よって、例えば、超電導コイル形成のためにコイル加工を行っても、接合部が破れることがない。
【0041】
本実施形態の酸化物超電導線材10において、銀層14に積層される第2金属テープ2は、予めテープ状に加工されたものを使用している。そのため、従来の超電導線材のようにめっきにより安定化層が形成されている場合とは異なり、第2金属テープ2にめっき欠陥部などのピンホールが形成されることがないため、超電導積層体5を外部から完全に遮蔽することができ、酸化物超電導層13に水分が浸入して超電導特性が劣化することがない。
【0042】
本実施形態の酸化物超電導線材10のように、超電導積層体が2枚の金属テープにより挟み込まれて保護される構造としては、2枚の金属テープの両端部を半田付けして接合する構造も考えられる。しかし、半田により2枚の金属テープが接合された構造の場合、線材の製造工程や加工工程において、何らかの理由により線材が半田の融点以上の高温環境に曝されたならば、半田が溶融してこの2枚の金属テープ間に形成された隙間より水分が浸入して酸化物超電導層13が劣化してしまう可能性がある。
これに対し、本実施形態の酸化物超電導線材10は、第1金属テープ1と第2金属テープ2により超電導積層体5が挟みこまれ、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aが重ね合わせられてシーム溶接によるシーム溶接部7により接合されている構造である。そのため、酸化物超電導線材10の製造工程や加工工程において、何らかの理由により酸化物超電導線材10が高温環境に曝された場合にも、シーム接合部7の接合が強固であり接合構造が保たれるため、酸化物超電導層13に水分が浸入して超電導特性が劣化することがない。
【0043】
次に、本発明に係る酸化物超電導線材10の製造方法の一実施形態について図面に基づいて説明する。
図3は本発明に係る酸化物超電導線材の製造方法の一実施形態の工程を説明するための工程説明図である。
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、基材11と中間層12と酸化物超電導層13と銀層14とがこの順に積層されてなる超電導積層体5を準備する第1工程と、超電導線積層体5よりも幅広の第1金属テープ1および第2金属テープ2により超電導積層体5を基材11側と銀層14側から挟む第2工程と、第1金属テープ1と第2金属テープ2の幅方向端部1a、1bをシーム溶接する第3工程を備える。
【0044】
まず、前述した長尺の酸化物超電導積層体5を準備する(第1工程)。
次に、前述した材質、幅および厚さの長尺テープ状の第1金属テープ1および第2金属テープ2を準備し、図3(a)に示す如く第2金属テープ2の上に超電導積層体5を銀層14を下にした状態で積層し、超電導積層体5の基材11の上に第1金属テープ1を積層する(第2工程)。これにより、超電導積層体5が第1金属テープ1と第2金属テープ2により挟まれた状態となる。
【0045】
ここで、第1金属テープ1および第2金属テープ2の幅は、超電導積層体5よりも幅広(幅方向の長さが長い)のものを使用し、第1金属テープ1および第2金属テープ2の両側の端部1a、2aが超電導積層体5の外側に位置するように配置する。また、第1金属テープ1の幅と、第2金属テープ2の幅は、同一でも異なっていてもよい。後述する第3工程におけるシーム溶接のし易さを考慮すると、図3(b)に示す如くパラレルシーム溶接を行う場合には、シーム溶接用のローラー電極に接する金属テープの幅を、他の金属テープの幅よりも若干短くすることが好ましい。図3に示す例では、上方に位置する金属テープである第1金属テープ1の幅が、第2金属テープ2の幅よりも若干短いことが好ましい。
【0046】
第2工程において、第2金属テープ2としてその表面に半田、めっき、ろう材などの導電性の接合層9が形成されているものを使用する場合、予め、超電導積層体5の銀層14上に接合層9を介して第2金属テープ2を積層させた状態で、加熱・加圧ロールを通過させることにより、銀層14と第2金属テープ2を接合層9により電気的および機械的に接合することが好ましい。これにより、特に、第2金属テープ2が前記した良導電性材料より構成されている場合、銀層14と第2金属テープ2との接合が強固となり、接続抵抗が低下するため、酸化物超電導層13を安定化する効果を向上できる。
また、第2金属テープ2が良導電性材料より構成されない場合にも、接合層9を介して第2金属テープ2と銀層14が積層されることにより、超電導積層体5と第2金属テープ2の接合構造が強固となるので好ましい。
なお、場合によっては、第1金属テープ1として、その表面に基材11との接合が可能な接合層が形成されたものを用い、該接合層を介して第1金属テープ1と基材11とを予め接合させてもよい。
【0047】
第2工程において、超電導積層体5の基材11側に抵抗溶接可能な金属材料より構成された第1金属テープ1を配し、超電導積層体5の銀層14側に良導電性材料より構成された第2金属テープ2を配すことが好ましい。この場合、製造される酸化物超電導線材10の銀層14に良導電性材料よりなる第2金属テープ2が積層された構成となる。そのため、酸化物超電導線材10において、酸化物超電導層13が超電導状態から常電導状態に遷移しようとしたときに、良導電性材料より構成された第2金属テープ2が銀層14とともに、酸化物超電導層13の電流が転流するバイパスとして機能することができ、酸化物超電導線材10が安定化されるので好ましい。
なお、酸化物超電導線材10を超電導限流器に使用する場合は、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両方が、抵抗溶接可能な金属材料より構成されることが好ましい。
【0048】
次に、図3(a)に如く第2金属テープ2と超電導積層体5と第1金属テープ1を積層した積層体を、第2金属テープ2側を下にして、水平面を有する台座(図示略)の上にセットする。次いで、図3(b)に示すように、第1金属テープ1の一方の端部1aと他方の端部1aに、銅等の良導電性材料よりなる一対のテーパー状のローラー電極20、20を対向配置する。ここで、ローラー電極20は周面にテーパー部20aを有し、一方から他方へと拡径するように断面テーパー形状となったローラーである。このローラー電極20を、ローラー電極20の径が小さい側を超電導積層体5側とし、径が大きい側を第1金属テープ1の端部1a側となるようにして、図3(b)に示す如く配置する。なお、図3(b)においては、ローラー電極20のテーパー部20aの傾斜を誇張して示しているが、実際にはテーパー部20aの傾斜は緩やかであり、図3(c)に示すような構造のシーム溶接部7を形成できるような形状のものを使用する。
【0049】
続いて、ローラー電極20のテーパー部20aを第1金属テープ1の端部1aに適度な加圧で接触させて、第1金属テープ1を第2金属テープ2側へと折り曲げて、曲げ部1Kを形成し、かつ、第1金属テープ1の端部1aと第2金属テープ2の端部同士が重なり合った状態とする。そして、シーム溶接用のローラー電極20、20にパルス電流を印加しながら、ローラー電極20、20を超電導積層体5の長手方向に沿って回転走行させて第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aをシーム溶接(パラレルシーム溶接)する(第3工程)。シーム溶接装置としては、従来公知のものを使用できる。
【0050】
本実施形態において、前述の如く第1金属テープ1および第2金属テープ2のうち、少なくともいずれかは抵抗溶接可能な金属材料より構成されているが、第3工程のシーム溶接は、抵抗溶接可能な金属材料から構成された金属テープがローラー電極20に接触する状態で行う必要がある。
抵抗溶接可能な金属材料よりなる金属テープがローラー電極20に接触しない状態でシーム溶接を行うと、ローラー電極20から金属テープに電流が印加されても、金属テープでの抵抗発熱が小さい、又は抵抗発熱の放熱が速すぎるために、金属テープが十分に加熱されず、第1金属テープ1と第2金属テープ2が接合されない。
【0051】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法において、第1金属テープ1および第2金属テープ2が抵抗溶接可能な金属材料よりなる場合は、図3に示す積層体が上下逆の状態であってもシーム溶接できる。しかし、第2金属テープ2が前記した良導電性材料からなる場合、特に、Cu等は良導電性かつ低電気抵抗であり抵抗溶接には向かない。そのため、この場合には抵抗溶接可能な金属材料よりなる第1金属テープ1を用い、図3(b)に示す如く第1金属テープ1がロール電極20と接触する状態でシーム溶接を行う必要がある。
【0052】
第3工程のシーム溶接において、ローラー電極20に印加する電流値は、第1金属テープ1および第2金属テープ2の材質や厚さによって適宜調整すればよい。また、ローラー電極20による加圧も、第1金属テープ1および第2金属テープ2の材質や厚さによって適宜調整すればよい。例えば、第1金属テープ1として厚さ50μmのステンレス製テープを、第2金属テープ2として厚さ50μmの銅製テープを使用する場合、圧力10〜20MPa程度で加圧しながら、電流値100〜500A程度の電流を印加することによりシーム溶接を行うことができる。ローラー電極20の回転走行速度も適宜調整可能である。
【0053】
以上の工程により、図3(c)に示す如く第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aがシーム溶接部7により接合され、超電導積層体5が第1金属テープ1および第2金属テープ2により被覆された酸化物超電導線材10を製造できる。
【0054】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、超電導積層体5を第1金属テープ1および第2金属テープ2で挟み、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両側の端部1a、2aをシーム溶接して連続的に接合する構成である。そのため、第1金属テープ1と第2金属テープ2の端部1a、2aを隙間なく接合することができ、超電導積層体5の周面全てが外部から遮蔽された構造の酸化物超電導線材を製造できる。従って、本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法によれば、酸化物超電導層13への水分の浸入を抑え、酸化物超電導層13が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる酸化物超電導線材を提供できる。また、シーム溶接により第1金属テープ1と第2金属テープ2を接合することにより、形成されるシーム溶接部7の接合強度が強いので、機械的強度が高い酸化物超電導線材を提供できる。
【0055】
本実施形態の酸化物超電導線材の製造方法は、予めテープ状に加工された金属テープ1、2を使用している。そのため、金属テープ1、2にはピンホールなどの欠陥部は無いので、製造される酸化物超電導線材は、超電導積層体5を外部から完全に遮蔽することができ、酸化物超電導層13に水分が浸入して超電導特性が劣化することがない。
【0056】
以上、本発明の酸化物超電導線材およびその製造方法の実施形態について説明したが、上記実施形態において、酸化物超電導線材の各部は一例であって、本発明の範囲を逸脱しない範囲で適宜変更することが可能である。
例えば、上記実施形態では、超電導積層体5の基材11側に配された第1金属テープ1が超電導積層体5の側面側に曲げられた構造の酸化物超電導線材10を例示したが、本発明はこの例に限定されない。図4は本発明に係る酸化物超電導線材の他の実施形態を示す断面図である。図4において、上記実施形態の酸化物超電導線材10と同一の構成要素には同一の符号を付し、説明を省略する。
【0057】
図4に示す酸化物超電導線材10Bは、超電導積層体5の銀層14側に配された第2金属テープ2が超電導積層体5の側面側に曲げられて平面形状の第1金属テープ1の端部1aにシーム溶接されている点で、上記実施形態の酸化物超電導線材10とは異なっている。
このような構成の酸化物超電導線材10Bも、上記第1実施形態の酸化物超電導線材10と同様に、酸化物超電導層13を含む酸化物超電導積層体5の周面全てが外部から遮蔽された構成が実現できるため、酸化物超電導層13への水分の浸入を抑え、酸化物超電導層13が水分によりダメージを受けて超電導特性が劣化することを防ぐことができる。
【0058】
本実施形態の酸化物超電導線材10Bは、第2金属テープ2が抵抗溶接可能な金属材料より構成される場合には、図3に示す製造工程において、超電導積層体5と第1金属テープ1と第2金属テープ2が積層された積層体を上下逆の状態とし、第2金属テープ2がローラー電極20と接触する状態でシーム溶接を行うことにより製造できる。
本実施形態の酸化物超電導積層体10Bにおいて、第2金属テープ2が前記した良導電性材料からなり、第1金属テープ1が抵抗溶接可能な金属材料より構成されている場合、図5に示すようなシーム溶接を行うことにより、酸化物超電導線材10Bを製造できる。
図5に示すシーム溶接法は、第1金属テープ1の端部1aと第2金属テープ2の端部2aを重ね合わせた状態とし、端部1a、2aを両側から挟み込むように一対のローラー電極20B、20Bを対向配置させて溶接する方法である。図5に示す溶接法の場合、第1金属テープ1および第2金属テープ2のうち、少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料より構成されていれば、第1金属テープ1と第2金属テープ2の端部1a、2aを溶接してシーム溶接部7により接合することができる。なお、図5に示すシーム溶接法は、上記実施形態の酸化物超電導線材の製造方法の第3工程で使用できるのは勿論である。
【0059】
また、本発明の酸化物超電導線材は、上記した酸化物超電導線材10、10Bに限定されず、第1金属テープ1と第2金属テープ2の両方が超電導積層体5の側面側に曲げられている構造でもよい。その場合、図5に示すシーム溶接法を用いて酸化物超電導線材を製造できる。
【実施例】
【0060】
以下、実施例を示して本発明をさらに詳細に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。
【0061】
「実施例」
幅10mm、厚さ0.1mmのハステロイC276(米国ヘインズ社製商品名)製の金属基材の上に、IBAD法により1.2μm厚のGdZr(GZO)なる組成の中間層を形成し、さらにこの中間層の上にPLD法により1.0μm厚のCeOなる組成のキャップ層を成膜した。次に、このキャップ層の上にPLD法により1.0μm厚のGdBaCu7−xなる組成の酸化物超電導層を形成し、さらにこの酸化物超電導層の上にスパッタ法により10μm厚の銀層を形成した。得られた積層体を長手方向に沿って裁断することにより、幅5mm、長さ10m、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0=100Aの超電導積層体を作製した。
【0062】
次に、第1金属テープとして厚さ50μm、幅5.5mmのステンレス製テープ(熱伝導率16.3W/(m・K)、電気抵抗7.2×10−7Ω・m)を用い、第2金属テープとして片面に厚さ5μmのスズめっき(融点230℃、接合層)が形成された厚さ50μm、幅6.0mmの銅製テープ(熱伝導率394W/(m・K)、電気抵抗1.7×10−8Ω・m)を用い、銅製テープのスズめっき上に銀層を下にして上記で作成した超電導積層体を積層し、240℃で加熱して銅製テープと銀層を接合層を介して接合させた後、図3(a)に示すように、超電導積層体の基材上にステンレス製テープを積層した。
続いて、図3(b)に示すように、銅製テープとステンレス製テープの幅方向の両側の端部をパラレルシーム溶接により溶接して、図3(c)に示す構造の酸化物超電導線材を作製した。なお、シーム溶接は次の条件で行った。
ローラー電極の材質:銅、電流値:500A、溶接時間10ms、冷却時間30ms、溶接速度5mm/s、加圧力:100g。
【0063】
作製した酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で100時間保持した後、酸化物超電導線材の超電導特性を測定したところ、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Icは100Aであり超電導特性は劣化していなかった。
【0064】
「比較例1」
実施例と同様の方法で、幅5mm、長さ10m、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0=100Aの超電導積層体を作製した。
次いで、作製した超電導積層体を硫酸銅水溶液のめっき浴に浸漬させて、電気めっきにより超電導積層体の外周に厚さ20μmの銅のめっき層を形成することにより、酸化物超電導線材を作製した。
【0065】
作製した酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で72時間保持した後、酸化物超電導線材の超電導特性を測定したところ、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Icは10Aであり超電導特性が劣化していた。比較例1の酸化物超電導線材のめっき層を観察したところ、ピンホール欠陥部が形成された箇所があり、この欠陥部から水分が浸入して酸化物超電導層が劣化したと考えられる。
【0066】
「比較例2」
実施例と同様の方法で、幅5mm、長さ10m、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Ic0=100Aの超電導積層体を作製した。
次に、作成した超電導積層体の銀層の上に厚さ100μm、幅5mmの銅製テープを半田付けして貼り合わせることにより、酸化物超電導線材を作製した。
【0067】
作製した酸化物超電導線材を、温度121℃、湿度100%、2気圧の雰囲気中で48時間保持した後、酸化物超電導線材の超電導特性を測定したところ、液体窒素温度(77K)における臨界電流値Icは0Aであり超電導特性が劣化していた。比較例2の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層の側面が露出していたため、この露出部から水分が浸入して酸化物超電導層が劣化したと考えられる。
【0068】
実施例および比較例1、2の酸化物超電導線材の耐久試験結果を図6に示す。図6は、試験時間に対して、試験前の臨界電流値Ic0に対する試験後の臨界電流値Icの割合Ic/Ic0をプロットしたものである。縦軸Ic/Ic0が1.0に近いほど耐久性が高いことを示す。
図6の結果より、本発明に係る実施例の酸化物超電導線材は、酸化物超電導層への水分の浸入を抑えることができることが明らかである。
【産業上の利用可能性】
【0069】
本発明は、例えば超電導モータ、限流器など、各種電力機器に用いられる酸化物超電導線材に利用することができる。
【符号の説明】
【0070】
1…第1金属テープ、1a…端部、2…第2金属テープ、2a…端部、5…超電導積層体、7…シーム溶接部、9…接合層、10、10B…酸化物超電導線材、11…基材、12…中間層、13…酸化物超電導層、14…銀層、20、20B…ローラー電極。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層とがこの順に積層されてなる超電導積層体を準備する第1工程と、前記超電導線積層体よりも幅広の第1金属テープおよび第2金属テープにより該超電導積層体を前記基材側と前記銀層側から挟む第2工程と、前記第1金属テープと前記第2金属テープの幅方向端部をシーム溶接する第3工程を備え、前記第1金属テープおよび前記第2金属テープの少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料よりなることを特徴とする酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項2】
前記第2工程において、抵抗溶接可能な金属材料よりなる前記第1金属テープを前記基材側に配し、良導電性材料よりなる前記第2金属テープを前記銀層側に配し、
前記第3工程において、前記第1金属テープがシーム溶接用のローラー電極に接するようにすることを特徴とする請求項1に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項3】
前記銀層上に導電性の接合層を介して前記第1金属テープまたは前記第2金属テープを配することを特徴とする請求項1または2に記載の酸化物超電導線材の製造方法。
【請求項4】
基材と中間層と酸化物超電導層と銀層とがこの順に積層されて超電導積層体が構成され、前記超電導積層体が前記基材側に配され該超電導積層体より幅広の第1金属テープと前記銀層側に配され該超電導積層体より幅広の第2金属テープにより挟まれており、前記第1金属テープと前記第2金属テープの幅方向端部がシーム溶接部により接合されてなり、前記第1金属テープおよび前記第2金属テープの少なくともいずれかが抵抗溶接可能な金属材料よりなることを特徴とする酸化物超電導線材。
【請求項5】
前記第1金属テープが抵抗溶接可能な金属材料よりなり、前記第2金属テープが良導電性材料よりなり、前記銀層上に導電性の接合層を介して前記第2金属テープが配されてなることを特徴とする請求項4に記載の酸化物超電導線材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2012−150981(P2012−150981A)
【公開日】平成24年8月9日(2012.8.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−8680(P2011−8680)
【出願日】平成23年1月19日(2011.1.19)
【出願人】(000005186)株式会社フジクラ (4,463)
【Fターム(参考)】