説明

酸化物超電導電流リード

【課題】熱侵入量を低減し、コンパクト化及び製造容易な電流リードを提供する。
【解決手段】所定の面積を有する配向NiーW基板上に中間層を形成した複合基板上に、TFA−MOD法によりYBCO酸化物超電導層及び安定化層を被覆して酸化物超電導体を作成した後、これに打ち抜き加工を施してミアンダ形状の電流経路を形成する。このミアンダ形状の電流経路の複数本を両端部に電気的絶縁材料からなる低熱伝導部材を介して一対の電極A,Bが接続された支持部材の表面に載置し、その両端部1a、1bを電極A、Bにそれぞれ接続した後、絶縁板及び絶縁シートにより固定するとともに、金属ケースに収容して電流リードを作成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、超電導を応用した極低温機器、例えば、大電流を必要とする超電導マグネット、超電導ケーブルや超電導変圧器等に電源から電流を供給するための酸化物超電導電流リードに関する。
【背景技術】
【0002】
超電導応用機器、例えば、超電導マグネットを運転する場合、マグネットを超電導状態とするために極低温に冷却する必要があり、この冷却したマグネットを励磁するためには電源から超電導コイルに電流を供給するための電流リードが必要となる。この場合、極低温機器への熱侵入は極力抑える必要があるが、電流リードからの熱侵入が最も大きい。
【0003】
電流リードは良導電体であることが必要であるが、電気抵抗が小さくかつ熱伝導率の大きいCuやAlなどの金属を使用すると、電流リード自体のジュール発熱に加え外部からの熱侵入により超電導マグネットの冷却効率が悪くなり、超電導状態を維持するための冷却コストが膨大になるという問題があった。
【0004】
この問題を解決するためには、超電導マグネットに用いる電流リードとして、導電性と低熱伝導性を両立させる必要があり、超電導マグネットでは電流リード部分も冷却されるため、熱伝導率が小さくジュール熱を生じない酸化物超電導体を電流リードとして使用することにより、電流を供給しつつ、熱侵入量を低く抑えることが可能となる
即ち、酸化物超電導体を用いた電流リードは、液体窒素温度において高い電流密度が得られることから、大電流を必要とする超電導機器等に容易に大電流を供給することが可能であるとともに、熟伝導率が低いため外部からの熟流入を低減することが可能であり、液体ヘリウム等の冷媒のロスの低減や冷凍機の冷却効率の向上が実現可能となる。
【0005】
この場合、超電導電流リードに使用される超電導体として、Bi(2223)系あるいはBi(2212)系等のBi系とYBaCuに代表される希土類系酸化物超電導体のバルク体を棒状あるいは円筒状に成型したものや、超電導体部分を臨界電流密度(Jc)の高い銀あるいは銀合金で被覆した銀シース線材が用いられてきており、銀マトリックス中に超電導フィラメントの多数本を配置したテープ状の電流リードが知られている(例えば、特許文献1及び2参照。)。
【0006】
一方、電流リードとして、金属基板上に酸化物超電導層を設けたテープ状の超電導体を用いて酸化物超電導体と銀テープとを交互に積層したテープ状の超電導電流リードが知られている(例えば、特許文献3参照。)。
【0007】
さらに、金属基板上に形成された中間層と、中間層の上に順次形成された酸化物超電導層及び安定化層を有するテープ状酸化物超電導線材が知られており、このテープ状酸化物超電導線材は、高い臨界電流値を有する上、金属基板として通常使用されているNi基合金基板は、銀あるいは銀合金と比較すると、その熱伝導率は1/4程度と小さく、また、このNi基合金基板の機械的強度は非常に大きいこともあり、酸化物超電導電流リードへの適用に非常に適した線材であり、このようなテープ状酸化物超電導線材を支持部材の外周に巻回した電流リードが知られている(例えば、特許文献4参照。)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開平9−115356号公報
【特許文献2】特開平5−218513号公報
【特許文献3】特開平5−243044号公報
【特許文献4】特開2008−305765号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
以上のように、酸化物超電導体を用いた各種の電流リードが知られているが、酸化物超電導体のバルク体用いた電流リードは、熱絶縁性には優れているが、通電容量の増加に伴いバルク体の大型化が必要となるため、その都度製造工程を変える必要がある上、製造工程及び機械的強度の観点から小断面積又はコンパクトな電流リードを製造することが困難であるという問題がある。
【0010】
また、銀合金シース線材を用いた電流リ−ドは通電容量の増減に対しては使用する線材の本数を調節するだけで解決するが、結晶の配向性を高めるためには圧延加工を施してテープ状に形成する必要があり、そのため、ある程度の厚さの銀あるいは銀合金シースが必要となり、シース材が熱伝導率の非常に高い銀あるいは銀合金であるため、熱絶縁性がバルク体を用いた電流リードに比較して低く、電流リード自体の熱伝導率が大きくなるという難点がある。このため、線材の使用量を減少するとともに長尺化することが必須となり、コンパクト化が困難である。
【0011】
一方、酸化物超電導体と銀テープとを交互に積層したテープ状の超電導電流リードは、電流リード自体の熱伝導率が大きくなるという問題があり、また、テープ状酸化物超電導線材を支持部材の外周に巻回した電流リードにおいては、安定化材に銀等の熱伝導率が高い金属を用いているため、熱侵入量の低減には長尺化が必要となるが、テープ状酸化物超電導線材が支持部材の外周に巻回されているため、上記と同様に熱侵入経路を長くすることには限界があり、電流リードのコンパクト性が失われるという問題がある。
【0012】
本発明は、上記の問題を解決するためになされたもので、製造が容易で、かつ、熱侵入量を低く抑えるために、小断面積で長尺化、即ち、熱侵入経路を長くすることが可能で、電流リード自体の熱伝導率も小さい酸化物超電導電流リードを提供することをその目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
以上の目的を達成するために、本発明の酸化物超電導電流リードは、超電導機器と電力供給源とを接続するための電流リードであって、この電流リードは、支持部材の両側に接続された一対の電極と、この両電極間に電気的に接続された電流経路とを備え、両電極間の電流経路を、MOD法により基板上に中間層を介して酸化物超電導層が形成されたミアンダ形状を有する酸化物超電導体により形成するようにしたものである。
【0014】
以上のミアンダ形状は、電子機器の回路基板等の伝送経路に用いられているジグザグ、蛇行あるいはつづら折り形状をさす。
【0015】
また、このミアンダ形状の酸化物超電導体からなる電流経路を、近接して平行に配置された奇数の直線部とこの奇数の直線部の隣接する端部間を順次接続する接続部により形成することもできる。
【0016】
以上の発明における支持部材は、平板状、円柱状又は円筒状等の任意の形状とすることができるが、電流経路であるミアンダ形状の酸化物超電導体を支持できる形状であることが必要である。
【0017】
また支持部材は、機械的強度を有することが必要であるため、SUS、Cu、Al又はAg合金等の金属部材、好ましくはGFRP、ステンレス合金、ニッケル基合金又はチタン合金等の非磁性体で、かつ低熱伝導率材料により形成される。
【0018】
上記の支持部材が金属部材で形成される場合には、その両端部にGFRP等の低熱伝導率を有する電気的絶縁材料を介して無酸素銅等からなる電極が電気的に接続される。
【0019】
上記の両電極間に、電流経路となるMOD法により形成されたミアンダ形状を有する酸化物超電導体の両端部が半田付け等により電気的に接続される。酸化物超電導体は、その安定化層を支持部材に密着あるいは接合して配置されるか、あるいは酸化物超電導体の基板を支持部材上に密着あるいは接合して配置されるが、電気的絶縁テープを介して支持部材上に載置してもよい。
【0020】
以上の発明における酸化物超電導体は、基板上に中間層を介して形成されたREBaCu(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、x≦2及びy=6.2〜7である。以下、REBCOと称する。)系超電導体により形成することが好ましく、この超電導薄膜の上に安定化層が被覆される。
【0021】
上記のREBCO系超電導体は、大面積化が可能であれば、気相法であるパルスレーザー(PLD)法、化学蒸着(CVD)法、金属有機酸塩あるいは有機金属化合物を原料としたMOD法のいずれを用いて成膜することができるが、MOD法(Metal Organic Deposition Processes:金属有機酸塩堆積法)、即ち、金属成分の有機化合物が均一に溶解した原料溶液を基板上に塗布した後、これを加熱して熱分解させることにより基板上に薄膜を形成する方法により形成することが好ましい。
【0022】
塗布方法はスピンコート法、ディップコート法、インクジェット法、スプレー法などが挙げられるが、連続して溶液を基板上に塗布可能なプロセスであればこの例によって制約されるものではない。尚、1回当りの塗布厚は0.01〜3.0μmとし、0.1〜1.0μmとするのが望ましい。
【0023】
MOD法においては、面内配向性の高い金属基板上に面内配向度と方位を向上させた中間層を1層あるいは複数層形成し、この中間層の結晶格子をテンプレートとして用いることによって、超電導層の結晶の面内配向度と方位を向上させることができ、非真空プロセスであることから低コストで高速成膜が可能であるため長尺又は大面積の平板状酸化物超電導線材の製造に適し、また、結晶が2軸配向しているため、Bi系銀シース線材に比べ、臨界電流密度(Jc)が高く、液体窒素温度での磁場特性に優れるとともに、高臨界電流(Ic)値を得るための厚膜化が容易であるいう利点を有する。
【0024】
以上のMOD法のうち、フッ素を含む有機酸塩(例えば、TFA塩:トリフルオロ酢酸塩)を出発原料とし、水蒸気雰囲気中で熱処理を行うことにより、フッ化物の分解を経由して超電導体を得る方法(以下、TFA−MOD法と称する。)を用いることが好ましく、この場合の原料溶液は、RE、Ba及びCuの金属有機酸塩の少なくとも一つはF元素を含み、特にBaの金属有機酸塩がF元素を含む溶液を用いることが好ましい。
【0025】
例えば、(イ)REを含む金属有機酸塩溶液として、REを含むトリフルオロ酢酸塩、ナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩のいずれか1種以上を含む溶液、特に、REを含むトリフルオロ酢酸塩溶液、(ロ)Baを含む金属有機酸塩溶液として、Baを含むトリフルオロ酢酸塩の溶液及び(ハ)Cuを含む金属有機酸塩溶液として、Cuを含むナフテン酸塩、オクチル酸塩、レブリン酸塩、ネオデカン酸塩のいずれか1種以上を含む溶液が用いられる。
【0026】
このTFA−MOD法の採用により、塗布膜の仮焼後に得られるフッ素を含むアモルファス前駆体と水蒸気との反応によりHFガスを発生しつつ超電導膜が成長する界面にHFに起因する液相を形成し、基板界面から超電導体をエピタキシャル成長させることができる。
【0027】
本発明において、REBCO系超電導体中のBaのモル比を1.3<y<1.7の範囲内とすることが好ましい。Baのモル比をその標準モル比(2)より小さくすることにより、Baの偏析が抑制され、結晶粒界でのBaべ一スの不純物の析出が抑制される結果、良好な電流経路を得ることができる。
【0028】
REBCO系超電導体は、超電導体を構成する金属元素を含む原料溶液を中間層上に塗布し、仮焼熱処理を施す工程を複数回繰り返して、結晶化熱処理後に所定の膜厚を有するように積層して形成される。
【0029】
本発明において使用される基板としては、2軸配向性の多結晶基板又は無配向の多結晶基板のいずれも用いることができる。配向性Ni基板としては、冷間で強圧延加工したNi基板を真空中あるいは還元雰囲気中で熱処理を施して高配向させたRABiTS(商標:rolling-assisted biaxially textured-substrates)を用いることができ、この配向性Ni基板の上に、例えばCeZrの液相エピタキシャル層の薄膜及びCeOの液相エピタキシャル層の薄膜が順次形成される。
【0030】
一方、無配向の多結晶基板を用いる場合には、IBAD法(Ion Beam Assisted Deposition)を用いることができる。このIBAD法を用いた複合基板は、非磁性で高強度のテープ状Ni系基板(ハステロイ等)に対して斜め方向からイオンを照射しながら、ターゲットから発生した粒子を堆積させて形成した高配向性を有し超電導体を構成する元素との反応を抑制する中間層(CeO、Y、YSZ等)を設けたもので、上記の中間層を2層構造としたもの(CeO又はY/YSZ又はZrx2等:Rは、Y、Nd、Sm、Gd、Ei、Yb、Ho、Tm、Dy、Ce、La又はErを示す。)もよく適合する(特開平4−329867号、特開平4−331795号,特願2000−333843号)。
【0031】
以上のNi基合金としては、NiにW、Mo、Cr、Fe、Cu、V、Sn及びZnから選択された1以上の元素を含むものを用いることができる。
【発明の効果】
【0032】
本発明においては、電流経路がMOD法によりミアンダ形状を有する酸化物超電導体により形成されていることにより、小断面積で長尺の電流経路の形成が可能となり、熱侵入経路を長くすることできるため、熱侵入量を低く抑えることができ、かつ、その製造も容易であるとともに、そのコンパクト化、即ち、電流リードの長さを変えることなく熱侵入量を低減させることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】本発明の電流リードに用いられるミアンダ形状の電流経路の一実施例を示す平面図である。
【図2】本発明の電流リードに用いられる酸化物超電導体の軸方向に垂直な断面図である。
【図3】本発明の電流リードの一実施例を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0034】
本発明においては、まず、所定の面積(後述する物理的加工に必要な面積)を有するNi−W基板上にMOD法あるいは気相法により中間層を2層成膜し、この中間層上にTFA−MOD法によりREBCO系超電導体の仮焼膜を形成する。この工程を複数回繰り返して所定の膜厚の仮焼膜を得た後、水蒸気雰囲気下で結晶化熱処理を施して中間層上に超電導体を形成する。この場合、IBAD法により基板上に中間層を設けた複合基板を用い、この複合基板上にTFA−MOD法によりREBCO系超電導体の仮焼膜を形成することもできる。
【0035】
次いで、基板上に中間層を介して形成された平板状の酸化物超電導体に物理的手段を施してミアンダ形状の電流経路となる導体を作成する。
【0036】
上記の物理的手段としては、基板上に中間層を介して形成された平板状の酸化物超電導体を上部からパンチでプレスすることにより、ミアンダ形状の輪郭形状にせん断加工する打ち抜き加工や、ダイヤモンドカッターにより平板状の酸化物超電導体をミアンダ形状に成形する切込み加工又は平板状の酸化物超電導膜体にレーザー加工装置を用いてミアンダ形状に物理的エッチングを施すレーザー加工のいずれかを用いることが可能である。このレーザー加工は、酸化物超電導体にレーザーを照射することにより被照射部を分解又は溶融させ超電導相を破壊して非超電導相に変質させ、レーザーが照射されない部分をもって電流経路を形成するものである。
【0037】
ミアンダ形状の電流経路となる導体は、通常、基板上に中間層を介して酸化物超電導層を形成した後、物理的手段を施して形成されるが、場合によっては、基板に物理的手段を施してミアンダ形状の基板を作成した後、この上に中間層及び酸化物超電導層を形成する方法を採用することもできる。
【0038】
以上のミアンダ形状の電流経路は、図1に示すように、両端部に電極A、Bに接続される接続端部1a、1bと、この接続部間に形成される近接して平行に配置された奇数の直線部2及び直線部の隣接する端部間を順次接続する接続部3からなり、同図(a)においては、直線部が5本の例を、同図(b)においては、直線部が3本の電流経路10、11の例をそれぞれ示している。この場合の電流経路は、主として電極A、B間方向に平行である。
【0039】
図1(c)は、電流経路が、主として電極A、B間方向に直角な例を示したもので、両端部に電極A、Bに接続される接続端部1a、1bと、この接続部間に形成される近接して平行に配置され、電極A、B間方向に直角な奇数の直線部4及びこの直線部の隣接する端部間を順次接続する接続部5からなり、直線部が7本の電流経路12の例を示している。
【0040】
以上のミアンダ形状の電流経路となる導体を、両端部に電気的絶縁材料からなる低熱伝導部材を介して一対の電極が接続された支持部材の表面に接合するか、あるいは載置し、必要に応じて絶縁板又は絶縁シートにより固定するとともに、その両端部を電極にそれぞれ接続する。以上の電流リードは、両端部の電極を除いて全体が金属ケース内に収容される。
【0041】
以上述べたように、電流リードの電流経路をミアンダ形状とすることにより、熱侵入経路を長くすることができ、熱侵入量を著しく抑制することが可能となるとともに、ループを形成しないため、交流損失を小さくすることができる。
【0042】
以下、本発明の実施例について説明する。
【実施例】
【0043】
実施例1
図2に示すように、所定の面積を有する配向NiーW基板21上に、CeZr層22a及びCeO層22bからなる中間層22を順次形成した複合基板23を用い、この複合基板上に原料溶液を塗布し、仮焼熱処理を施した。
この複合基板23上の第1中間層であるCeZr層22aは、バッファ層としての機能を有し、超電導層との反応を抑制して超電導特性の低下を防止し、一方、第2中間層であるCeO層22bは、超電導層との格子整合性を維持するために配置される。
原料溶液として、Y及びBaのトリフルオロ酢酸塩とCuのナフテン酸塩をY:Ba:Cu=1:1.5:3となるように2−オクタノン中に溶解した混合溶液を用いた。
仮焼熱処理は、最高加熱温度400℃で施し、結晶化熱処理後の超電導層(YBCO層)4の膜厚が1.5μmとなるように、塗布〜加熱〜室温までの炉冷を10回繰り返した。
【0044】
次いで、複合基板23上の仮焼膜を水蒸気分圧下でYBCO超電導体の結晶化熱処理を施した。この結晶化熱処理は、室温から最高熱処理温度(結晶化熱処理温度)730℃までの昇温過程と結晶化熱処理温度における恒温過程及びこれに続く室温までの炉冷過程により構成され、炉内雰囲気圧力は50Torr未満に保持された。
【0045】
このようにして複合基板上に形成したYBCO酸化物超電導層24の上に、Agからなる安定化層25を被覆して平板状の酸化物超電導体30を作成した。この酸化物超電導体30のIc値を測定した結果、210A/cm−widthの値を示した。
【0046】
以上のようにして作成した平板状の酸化物超電導体30に打ち抜き加工を施して図1(a)に示すミアンダ形状の電流経路10を形成した。この電流経路の断面積は、6×10−6であり、熱伝導率は、43.173W/m・Kであった。
【0047】
このミアンダ形状の電流経路10の14本を図3に示すように(同図では、省略して3本の電流経路10のみを示している)、両端部に電気的絶縁材料からなる低熱伝導部材42、42を介して一対の電極A,Bが接続された支持部材41の表面に載置し、その両端部1a、1bを電極A、Bにそれぞれ接続した後、絶縁板及び絶縁シート(図示せず)により支持部材41に固定するとともに、金属ケース(図示せず)に収容して電流リード50を作成した。この場合の電極A、B間の距離は0.2mであり、このミアンダ形状の電流経路10の長さは、1mである。
【0048】
以上の電流リード50の熱侵入量を、低温側温度20K、高温側温度77Kで通電電流2000Aの下で測定した結果、0.207W/本の値を示した。
【0049】
実施例2
実施例1と同様の方法により酸化物超電導体30を作成し、次いで、平板状の酸化物超電導体に打ち抜き加工を施して図1(b)に示すミアンダ形状の電流経路11を形成した。この電流経路の断面積は、6×10−6であり、熱伝導率は、43.173W/m・Kであった。
【0050】
このミアンダ形状の電流経路11の14本を用いて、実施例1と同様の方法により電流リードを作成した。この場合の電極A、B間の距離は0.2mであり、このミアンダ形状の電流経路11の長さは、0.6mである。
【0051】
以上の電流リード50の熱侵入量を、低温側温度20K、高温側温度77Kで通電電流2000Aの下で測定した結果、0.345W/本の値を示した。
【0052】
比較例1〜5
実施例1と同様の方法により、断面積6×10−6のテープ状の酸化物超電導体を作成した。このテープ状線材のIc値を測定した結果、210A/cm−widthの値を示し、熱伝導率は、43.173W/m・Kであった。
【0053】
このテープ状の酸化物超電導体の14本を用いて、実施例1と同様の方法により電流リードを作成した。この場合の電極A、B間の距離は0.2mであり、電流経路の長さも0.2mである。
【0054】
以上の電流リードの熱侵入量を、通電電流2000Aの下で測定した結果を低温側温度及び高温側温度とともに表1に示した。
【0055】
【表1】

【0056】
比較例6
比較例1と同様の方法により、断面積6×10−6のテープ状の酸化物超電導体を作成した。このテープ状線材のIc値を測定した結果、210A/cm−widthの値を示し、熱伝導率は、43.173W/m・Kであった。
【0057】
このテープ状の酸化物超電導体の14本を用いて、比較例1と同様の方法により電流リードを作成した。この場合の電極A、B間の距離は0.6mであり、電流経路の長さも0.6mである。
【0058】
以上の電流リードの熱侵入量を、低温側温度20K、高温側温度77K、通電電流2000Aの下で測定した結果、0.345W/本の値を示した。
【0059】
比較例7
比較例1と同様の方法により、断面積6×10−6のテープ状の酸化物超電導体を作成した。このテープ状線材のIc値を測定した結果、210A/cm−widthの値を示し、熱伝導率は、43.173W/m・Kであった。
【0060】
このテープ状の酸化物超電導体の14本を用いて、比較例1と同様の方法により電流リードを作成した。この場合の電極A、B間の距離は1.0mであり、電流経路の長さも1.0mである。
【0061】
以上の電流リードの熱侵入量を、低温側温度20K、高温側温度77K、通電電流2000Aの下で測定した結果、0.207W/本の値を示した。
【0062】
以上の実施例及び比較例の結果から明らかなように、従来のテープ状線材を用いた電流リード(比較例1〜7)においては、熱侵入量を低減するために、電極間距離(電流経路の長さ)を大きくする必要があるため、電流リードのコンパクト化が困難であるが、本発明による電流リードにおいては、電流経路をMOD法により形成されたミアンダ形状を有する酸化物超電導体により形成することにより、電流リードのコンパクト化が可能であり、その製造も容易である。
【産業上の利用可能性】
【0063】
本発明による酸化物超電導電流リードは、電源から超電導応用機器へ電流を供給するための電流リードに使用することができる。
【符号の説明】
【0064】
1a、1b 接続端部
2、4 直線部
3、5 接続部
10、11、12 電流経路
21 配向NiーW基板
22 中間層
22a CeZr層(第1中間層)
22b CeO層(第2中間層)
23 複合基板
24 YBCO酸化物超電導層
25 Ag(安定化層)
30 酸化物超電導膜体
41 支持部材
42 熱伝導部材
50 電流リード
A、B 電極

【特許請求の範囲】
【請求項1】
超電導機器と電力供給源とを接続するための電流リードであって、前記電流リードは、支持部材の両側に接続された一対の電極と、前記両電極間に電気的に接続された電流経路とを備え、前記両電極間の電流経路は、MOD法により基板上に中間層を介して酸化物超電導層が形成されたミアンダ形状を有する酸化物超電導体により形成されていることを特徴とする酸化物超電導電流リード。
【請求項2】
超電導機器と電力供給源とを接続するための電流リードであって、前記電流リードは、支持部材の両側に接続された一対の電極と、前記両電極間に電気的に接続された電流経路とを備え、前記両電極間の電流経路は、近接して平行に配置された奇数の直線部と前記奇数の直線部の隣接する端部間を順次接続する接続部からなり、前記電流経路は、MOD法により基板上に中間層を介して酸化物超電導層が形成された酸化物超電導体により形成されていることを特徴とする酸化物超電導電流リード。
【請求項3】
電流経路を形成する酸化物超電導体は、両電極間に複数本の電流経路を形成する酸化物超電導体が電気的に接続されていることを特徴とする請求項1又は2記載の酸化物超電導電流リード。
【請求項4】
電流経路は、平板上の酸化物超電導体に、物理的手段を施すことによりミアンダ形状に形成されていることを特徴とする請求項1乃至3いずれか1項記載の酸化物超電導電流リード。
【請求項5】
酸化物超電導体は、REBaCu(REは、Y、Nd、Sm、Eu、Gd、Tb、Dy、Ho、Er、Tm及びYbから選択された1又は2種以上の元素を示し、x≦2及びy=6.2〜7である。以下、REBCOと称する。)系超電導体からなることを特徴とする請求項1乃至4いずれか1項記載の酸化物超電導電流リード。
【請求項6】
REBCO系酸化物超電導体は、TFA―MOD法により形成されたYBCO系超電導体であることを特徴とする請求項1乃至5いずれか1項記載の酸化物超電導電流リード。
【請求項7】
Baのモル比は1.3<Ba<1.7の範囲であることを特徴とする請求項6記載の酸化物超電導電流リード。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2011−146292(P2011−146292A)
【公開日】平成23年7月28日(2011.7.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−7051(P2010−7051)
【出願日】平成22年1月15日(2010.1.15)
【出願人】(306013120)昭和電線ケーブルシステム株式会社 (218)
【Fターム(参考)】