説明

酸味コーティング食品

【課題】乾燥時にベタツキがなく、糖衣層を実質的に必要としない、酸味料がコーティングされた食品及びその製造方法の提供。
【解決手段】水に増粘剤を溶解した掛け液を、対象とする食品に掛けた後、以下の(a)と(b)を含む粉体原料を掛けて当該食品表面に接着後、乾燥することを特徴とする酸味料のコーティング方法。(a) リンゴ酸粉末(b) 難溶性ミネラル含有粉末、α化されていないスターチ粉末、増粘剤粉末、難溶性有機酸粉末から選ばれる1種以上

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸味料がコーティングされた食品及びその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
食品に酸味を付けるために、各種酸味料が使用されている。酸味料は対象とする食品中に混合して使用するのが一般的であるが、食品中に混合せず、その表面にコーティングする方法も用いられている。食品表面に局所的に酸味料が存在することにより、酸味が速やかに発現され、少量で強い酸味となるといった効果が得られる。
【0003】
酸味料のコーティング方法としては水溶液又は油脂に混合し、該混合液を被覆した後、乾燥、冷却等により固化させることが考えられる。油脂に混合してコーティングした場合、酸味料が油脂中に存在することから酸味の発現が遅れる他、高温では油脂が融けてべたつく。一方、酸味料を混合した水溶液としてコーティングした場合、乾燥しても乾きが悪くべたついた状態となり、コーティングされたものが折り重なった状態になっているとブロッキングを起こしてしまう。
【0004】
特許文献1及び2には酸を配合した糖衣組成物が開示されている。これらの方法で酸をコーティングするには糖質を必要とするので、上記“水溶液としてコーティングした場合”に記載したようにブロッキングを起こしやすく、また糖衣層が存在することが必須となり組成や食感が変わってしまうという問題があった。
【特許文献1】特許3562660号公報
【特許文献2】特開平9−313109号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は上記の問題を解決し、ベタツキがなく、糖衣層を実質的に必要としない、酸味料がコーティングされた食品、及びその製造方法を提供するものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、水に増粘剤を溶解した掛け液を対象とする食品に掛けた後、リンゴ酸粉末と他に1種以上の粉末を含む粉体原料を掛けて当該食品表面に接着後、乾燥することにより達成される。すなわち本発明は以下の項目に示されるものである。
1.水に増粘剤を溶解した掛け液を、対象とする食品に掛けた後、以下の(a)と(b)を含む粉体原料を掛けて当該食品表面に接着後、乾燥することを特徴とする酸味料のコーティング方法。
(a) リンゴ酸粉末
(b) 難溶性ミネラル含有粉末、α化されていないスターチ粉末、増粘剤粉末、難溶性有機酸粉末から選ばれる1種以上
2.掛け液が、さらに糖質を溶解したものである前記1に記載の酸味料のコーティング方法。
3.粉体原料に含まれるリンゴ酸の含有量が40〜90重量%、クエン酸及び酒石酸の含有量の合計が0〜20重量%であり、かつリンゴ酸とクエン酸及び酒石酸の含有量の合計が60〜90重量%である前記1又は2のいずれかに記載の酸味料のコーティング方法。
4.粉体原料に含まれるリンゴ酸以外の粉末が、アジピン酸及び/又はフマル酸である前記1〜3のいずれかに記載の酸味料のコーティング方法。
5.乾燥が、静置乾燥である前記1〜4のいずれかに記載の酸味料のコーティング方法。
6.前記1〜5のいずれかに記載の方法により酸味料をコーティングされた食品。
【発明の効果】
【0007】
本発明により、糖衣層を全く、またはわずかにしか必要とせず、しかもベタツキなく食品表面に酸味料をコーティングすることができる食品が得られるので、製造中にブロッキングを起こさず、組成や食感をほとんど変えることなく、速やかで鮮烈な酸味を発現させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0008】
酸味の発現が速く、良質な酸味を与える酸味料としてはリンゴ酸、クエン酸、酒石酸が一般的であるが、本発明に使用される酸味料としてはリンゴ酸が好ましい。クエン酸及び酒石酸は、粉体原料の20重量%を越えて使用するとベタツキを起こすため、リンゴ酸との併用においてクエン酸及び酒石酸の合計が粉体原料の20重量%以下であるならば使用できる。また、易溶性の糖質、粉末香料、高甘味度甘味料等の原料が粉体原料の20重量%以下であっても使用できる。リンゴ酸粉末以外の粉体原料とは、その使用条件下において水に難溶性もしくは溶解速度の遅い粉末原料であり、具体的には炭酸カルシウム、塩化カルシウム、卵カルシウム、骨カルシウム、酸化マグネシウム、塩化マグネシウム、炭酸マグネシウム等の難溶性ミネラル含有粉末、α化されていないスターチ粉末、アラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、ローカストビーンガム、アルギン酸、キサンタンガム、ゼラチン等の増粘剤粉末、アジピン酸、フマル酸等の難溶性有機酸粉末が挙げられ、中でも酸味をより強くするため、アジピン酸、フマル酸粉末が好ましい。また、これらリンゴ酸以外の粉末は、1種でも、2種以上を混合して使用してもかまわない。なお、粉末の大きさに特に制限はないが、粒径が大きすぎるといったん付着しても表面から剥がれ落ちてしまうので、ここでいう粉末とはおよそ粒径300μm以下である。
【0009】
本発明の掛け液は、水にバインダーとしてアラビアガム、ジェランガム、カラギーナン、キサンタンガム、ローカストビーンガム、アルギン酸、ゼラチン等の増粘剤を溶解したものであり、特にアラビアガムは取り扱いやすいため好ましい。さらに砂糖、パラチノース、マンニトール、キシリトール、マルチトール、エリスリトール、トレハロース等の糖質を添加することもできる。また、掛け液にリンゴ酸を一部溶解しておいてもかまわない。
【0010】
本発明における酸味料のコーティングには回転釜を使用するのが好ましく、チョコレート、錠菓、チューインガム、キャンディ等の食品に掛け液を掛けた後、粉体原料を掛けて食品表面に接着させる。糖衣掛けの場合は、糖液や粉体原料を繰り返し何度も掛けて糖衣層を形成させるが、本発明ではこのコーティング操作は1度でよい。したがって掛け液に糖質を添加した場合であっても、実質的に糖衣層を形成せず、組成や食感にほとんど影響を与えない。
【0011】
そして粉体原料を食品表面に接着させた後、乾燥して掛け液の水分を充分飛ばすことが必要である。回転釜に乾燥した空気を送り込んで乾燥しても良いが、製品に割れ、欠け、剥がれ等のダメージを与えないためにも、充分に乾燥させるには静置しての長時間乾燥が好ましい。本発明によれば、静置乾燥しても折り重なった食品同士がブロッキングすることはない。
【0012】
試験例1
表1の配合にて常法により直径10mmの碁石型の錠菓を作成した。
【0013】
【表1】

次に該錠菓300gを直径30cmの回転釜に投入し、釜を回転させながら6gの掛け液(マルチトール72重量部、アラビアガム3重量部、水25重量部)を錠菓に掛けた。
【0014】
掛け液が錠菓全体に行き渡ったら、20gの粉体原料を掛けて釜を回転させ、充分粉体原料を接着させた後、粉体原料がコーティングされた錠菓を取り出し、雰囲気温度50℃、湿度10%にて8時間静置乾燥させ、酸味コーティング錠菓を得た。表2、表3に、得られた酸味コーティング錠菓に使用された粉体原料の配合量と、酸味強度、べたつき、ブロッキングについての評価を示す。なお表中の配合量は重量%を示す。また、コーンスターチはα化していないものを使用した。
【0015】
【表2】

【0016】
【表3】

粉体原料に含まれるリンゴ酸の含有量が40〜90重量%、クエン酸及び酒石酸の含有量の合計が0〜20重量%であり、かつリンゴ酸とクエン酸及び酒石酸の含有量の合計が60〜90重量%の場合が良好であった。またブドウ糖のような易溶性原料は粉体原料の20重量%以下であるならば使用できること、粉体原料中のリンゴ酸以外の粉末は1種でも、2種以上を混合して使用してもよいことが確認された。
【0017】
試験例2
表4の配合にて、常法により直径8mmの球状のイチゴ風味チョコレートを作成した。
【0018】
【表4】

該チョコレート300gを30cm径の回転釜に投入し、釜を回転させながら6gの掛け液をチョコレートに掛けた。
【0019】
掛け液がチョコレート全体に行き渡ったら、20gの粉体原料(リンゴ酸90重量部、フマル酸10重量部)を掛けて釜を回転させ、充分粉体原料を接着させた後、粉体原料がコーティングされたチョコレートを取り出し、雰囲気温度20℃、湿度30%にて静置乾燥させ、酸味コーティングチョコレートを得た。表5に、得られた酸味コーティングチョコレートに使用された掛け液の配合量と、乾燥時間、コーティングの剥離有無についての評価を示す。なお表中の配合量は重量%を示す。
【0020】
【表5】

水に増粘剤を溶解させたものを掛け液とすることで、乾燥時間を短縮することができ、コーティングの剥離も防止されることがわかる。
【産業上の利用可能性】
【0021】
本発明は、キャンディ、チューインガム、錠菓、チョコレート等の菓子を中心とした低水分の食品の酸味付けに利用できる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
水に増粘剤を溶解した掛け液を、対象とする食品に掛けた後、以下の(a)と(b)を含む粉体原料を掛けて当該食品表面に接着後、乾燥することを特徴とする酸味料のコーティング方法。
(a) リンゴ酸粉末
(b) 難溶性ミネラル含有粉末、α化されていないスターチ粉末、増粘剤粉末、難溶性有機酸粉末から選ばれる1種以上
【請求項2】
掛け液が、さらに糖質を溶解したものである請求項1に記載の酸味料のコーティング方法。
【請求項3】
粉体原料に含まれるリンゴ酸の含有量が40〜90重量%、クエン酸及び酒石酸の含有量の合計が0〜20重量%であり、かつリンゴ酸とクエン酸及び酒石酸の含有量の合計が60〜90重量%である請求項1又は2のいずれか一項に記載の酸味料のコーティング方法。
【請求項4】
前記(b)が、アジピン酸及び/又はフマル酸である請求項1〜3のいずれか一項に記載の酸味料のコーティング方法。
【請求項5】
乾燥が、静置乾燥である請求項1〜4のいずれか一項に記載の酸味料のコーティング方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれか一項に記載の方法により酸味料をコーティングされた食品。

【公開番号】特開2006−141256(P2006−141256A)
【公開日】平成18年6月8日(2006.6.8)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−333975(P2004−333975)
【出願日】平成16年11月18日(2004.11.18)
【出願人】(000006091)明治製菓株式会社 (180)
【Fターム(参考)】