説明

酸洗廃液の処理方法及び装置

【課題】濃縮工程の前段で中和液中の金属イオン濃度を数ppm以下に低減するとともにSS濃度(浮遊物質濃度)を低減する酸洗廃液の処理方法及び装置の提供。
【解決手段】鋼帯の硝フッ酸酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を逆浸透膜にて濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含む酸洗廃液の処理方法及び装置において、第2工程と第3工程の間で、前記中和液をpH10〜11に調整し、孔径0.1μm以下の精密ろ過膜にて精密ろ過する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗廃液の処理方法に関し、詳しくは、ステンレス鋼帯等の鋼帯を酸洗処理したときに発生する酸洗廃液の処理方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
ステンレス鋼板は、耐食性や耐熱性などの機能の他に、表面の美麗さ(光沢、白色度等)も製品価値を左右する重要なポイントになっている。このため、ステンレス鋼板を製造するときには、良好な表面品質を得るために、ステンレス鋼帯の熱間圧延工程や焼鈍工程などでステンレス鋼帯の表面に発生したスケールを除去する脱スケール処理を行う必要がある。
【0003】
ステンレス鋼帯の表面に発生したスケールを除去する方法としては、硝酸溶液や硝フッ酸溶液(フッ酸と硝酸の混合溶液)などの酸洗液を用いてステンレス鋼帯を酸洗処理する方法が一般的に用いられている。特に、硝フッ酸はステンレス鋼の酸洗能力が最も高く、短時間で美麗な鋼板表面を得られることが知られている。また、酸洗処理の前には、酸洗によるスケール除去効果を高めるために、ショットブラスト、グラインダー、メカニカルブラシ等による機械的なスケール除去やベンディング、テンションレベラー、スキンパス等によるスケール層へのクラック付与、あるいは塩浴(溶融アルカリ塩)浸漬処理や中性塩電解処理によるCr系酸化物の変質などが適宜行なわれる。
【0004】
硝フッ酸等を用いてステンレス鋼帯を酸洗処理するとフッ素や硝酸を含んだ酸洗廃液が発生するが、酸洗廃液に含まれるフッ素は日本国内におけるフッ素の排出基準値(公共用水域で8mg/リットル、海域で15mg/リットル)を満たしていない場合が多い。また、酸洗廃液に含まれる硝酸もフッ素の場合と同様に排水基準値(亜硝酸性窒素及び硝酸性窒素の合計が100mg/リットル以下)を満たしていない場合が多い。このため、ステンレス鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液は、通常、水酸化カルシウム(消石灰)で中和処理された後、フッ素含有スラッジとして埋め立て処理されるのが一般的であるが、酸洗廃液にはFe、Cr、Ni等の有価金属やHNO3,HF等の酸が含まれているため、これらを回収して再利用することは有用である。
【0005】
酸洗廃液に含まれる有価金属や酸を回収する方法としては、酸洗廃液にフッ酸または硝フッ酸を添加した後、酸洗廃液を酸回収用イオン交換膜電気透析装置により透析脱酸処理し、透析した酸を回収する一方、脱酸処理された液を中和処理し、生じた沈殿物を分離処理し、分離された溶液をバイポーラ膜電気透析装置により酸とアルカリとに分離して回収する方法が知られている(特許文献1参照)。
【0006】
しかしながら、特許文献1に記載された方法では、アルカリ溶液で中和処理して得られた中和液をバイポーラ膜電気透析装置に直接供給して酸とアルカリを回収している。このため、バイポーラ膜電気透析装置に供給される中和液の塩濃度が低い場合にはバイポーラ膜電気透析装置のセル電圧が上昇し、中和液から酸とアルカリを効率的に回収することが困難となる場合があった。
【0007】
また、特許文献1に記載の方法では酸洗廃液にフッ酸または硝フッ酸を添加して有価金属や酸を回収しているため、処理容量の大きい中和処理槽や電気透析装置を必要とし、設備の大型化を招くという問題もあった。
更に、フッ酸および硝酸を加えて濃度を上げることにより電気透析の効率を上げているが、酸濃度が大きいために膜の寿命が短いこと、またスラッジは再利用されていないという問題がある。
【0008】
この問題を解決するための手段が提案されている(特許文献2参照)。これを、以下、先行技術という。
上記先行技術は、鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含むことを特徴とする酸洗廃液の処理方法であり、
また、鋼帯の酸洗処理で発生した酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る脱酸処理装置と、この脱酸処理装置で得られた前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して中和液を得る脱遊離酸液中和処理装置と、この脱遊離酸液中和処理装置で得られた中和液を塩溶液と水とに分離する逆浸透膜装置と、この逆浸透膜装置で得られた塩溶液を酸溶液とアルカリ溶液とに分離するバイポーラ膜電気透析装置と、このバイポーラ膜電気透析装置で得られた酸溶液を減圧蒸留する減圧蒸留装置とを備えてなることを特徴とする酸洗廃液処理装置である。
【0009】
前記第1工程は前記酸洗廃液を陰イオン交換樹脂に接触させて前記遊離酸を回収する工程であることが好ましい。また、前記第2工程は前記脱遊離酸液をアルカリ溶液でpH10以上に中和処理し、沈殿した有価金属スラッジを水または希薄アルカリ液で洗浄する工程であることが好ましい。さらに、前記第3工程は前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を濃縮する工程であることが好ましい。さらにまた、前記第5工程は前記第4工程で得られた酸溶液を製鉄所で発生する未利用の廃熱を利用して減圧蒸留する工程であることが好ましい。
【0010】
また、前記第1工程で回収された遊離酸は前記第4工程で得られた酸溶液と共に前記第5工程で減圧蒸留されてもよい。また、前記第1工程で回収された遊離酸は前記鋼帯の酸洗処理に再利用されることができる。さらに、前記第2工程で回収された有価金属は、前記鋼帯の原料として再利用されることができる。さらにまた、前記第4工程で得られたアルカリ溶液は、前記脱遊離酸液の中和処理に再利用されることができる。
【0011】
また、前記塩溶液を電気透析しないときは、通常運転時の9/10〜1/100の電流を前記バイポーラ膜電気透析装置に通電しておくことが好ましい。また、前記第3工程は前記中和液を逆浸透膜装置に供給して前記中和液を塩溶液と水とに分離する工程であってもよい。この場合、前記逆浸透膜装置で得られた塩溶液の塩濃度を塩濃度測定器で測定し、この塩濃度測定器の測定値が予め設定された基準濃度以下のときは前記塩溶液を前記逆浸透膜装置に戻して再濃縮することが好ましい。
【0012】
そして、先行技術によれば、アルカリ溶液で中和処理して得られた中和液をバイポーラ膜電気透析装置に供給する前に中和液の塩濃度を高めることができるとされ、これにより、バイポーラ膜電気透析装置のセル電圧が上昇することを防止できるので、中和液から酸とアルカリを効率的に回収することができる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特公平7−112558号公報
【特許文献2】特開2006−131982号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
上記先行技術において、特に硝フッ酸酸洗廃液処理の場合、中和工程(第2工程)で得られた中和液中には微量な金属イオンが残留していることがある。この微量な金属イオンは、その後の工程において水酸化物として析出し、濃縮工程(第3工程)では逆浸透膜が閉塞する原因となりうる。また、電気透析工程(第4工程)においても、水酸化物が膜表面乃至膜内部に析出し膜の閉塞および電界電圧(セル電圧)の上昇原因となりうる。
【0015】
そこで、濃縮工程の前段で中和液中の金属イオン濃度を数ppm以下に低減するとともにSS濃度(浮遊物質濃度)を低減する必要があり、この点が課題として残されていた。
【課題を解決するための手段】
【0016】
本発明は、先行技術において、濃縮工程の前にpH10〜11に調整した中和液を0.1μm以下の精密ろ過膜で精密ろ過する処理を付加したことにより、上記課題を解決した。
すなわち本発明は、鋼帯の硝フッ酸酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を逆浸透膜にて濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含む酸洗廃液の処理方法において、第2工程と第3工程の間で、前記中和液をpH10〜11に調整し、孔径0.1μm以下の精密ろ過膜にて精密ろ過することを特徴とする酸洗廃液の処理方法である。
【0017】
また本発明は、鋼帯の硝フッ酸酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を逆浸透膜にて濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含む酸洗廃液の処理装置において、第2工程と第3工程の間で、前記中和液をpH10〜11に調整し、孔径0.1μm以下の精密ろ過膜にて精密ろ過する装置を有することを特徴とする酸洗廃液の処理装置である。
【発明の効果】
【0018】
本発明によれば、逆浸透膜の閉塞が抑制されて、該閉塞による濃縮効率悪化を防止でき、かつ、電気透析膜の閉塞も抑制されて、該閉塞に起因するセル電圧上昇による透析効率悪化を防止できることに加え、これら膜の交換頻度の低減効果もある。
【図面の簡単な説明】
【0019】
【図1】本発明の一実施形態に係る酸洗廃液の処理方法を示すフローチャートである。
【図2】図1の実施形態に好ましく用いうる酸洗廃液処理装置を示す概略構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0020】
図1は、本発明の一実施形態に係る酸洗廃液の処理方法を示すフローチャートである。又、図2は、図1の実施形態に好ましく用いうる酸洗廃液処理装置を示す概略構成図である。本発明において、図1における第1〜第5の各工程ならびに図2の装置における酸洗廃液タンク1、送液ポンプ2、脱酸処理装置3、陰イオン交換樹脂3a、アルカリ溶液タンク4、脱遊離酸液中和処理装置5、逆浸透膜装置6、塩濃度測定器7、バイポーラ膜電気透析装置9、アルカリ溶液回収ライン10、減圧蒸留装置11については、先行技術と同様であり、特許文献2の[0014]〜[0033]に詳しく記載されている通りである。
【0021】
本発明では、先行技術に加えて、図1に示すように、第2工程と第3工程の間で中和液の精密ろ過を行う。そのために好ましくは、図2に示すように、逆浸透膜装置6の前段に精密ろ過膜装置12を設置する。このとき、精密ろ過される中和液はpH10〜11に調整しておかねばならない。このpH範囲内の中和液とすることで、微量の金属イオンを水酸化物として析出させ、精密ろ過膜で捕捉することができる。中和液のpHが10未満又は11超であると、微量の金属イオンを水酸化物として析出させることが困難であり、本発明の効果が得られない。尚、pH10〜11の調整は、アルカリ溶液タンク4から脱遊離酸液中和処理装置5に供給されるNaOH,NaCO,KOH等のアルカリ溶液の供給量を加減することにより行う。
【0022】
一方、精密ろ過膜は、孔径が50〜10000nm(0.05〜10μm)であるろ過膜を指す(Wikipedia参照)が、本発明では、精密ろ過膜のうちでも特に孔径が0.1μm以下(即ち、0.05〜0.1μm)と小さいものを用いるに限る。孔径が0.05μm未満のろ過膜(限外ろ過膜と呼ばれる)を用いた場合は、ろ過膜が短時間で閉塞し、頻繁な交換が必要となって不利である。又、孔径0.1μm超の精密ろ過膜では、第3工程(濃縮)における膜交換頻度の低減効果に乏しく、且つ、第4工程(バイポーラ膜電気透析)でのセル電圧の上昇抑制効果及び膜交換頻度の低減効果に乏しい。
【0023】
尚、精密ろ過は、ろ過膜を2系統設け、1系統ずつ交互に使用し、不使用側の系統を膜交換する方式とすれば、第3工程以降を中断させることなく精密ろ過膜装置の膜交換ができて好ましい(好適形態A)。
【実施例】
【0024】
SUS304(18Cr−8Ni)の熱延鋼帯の硝フッ酸酸洗廃液を処理するにあたり、本発明例では図1の方法で処理した(図2の装置を使用)。脱遊離酸液中和処理装置5および精密ろ過膜装置12の中和液pHは10〜11に管理し、精密ろ過膜は孔径0.08μmのポリエチレン製ろ過膜を、上述の好適形態Aの形態で用いた。
比較例では本発明例の図1において精密ろ過を行わず、これ以外は本発明例と同様とした方法(図2から精密ろ過膜装置を削除した形態の装置を使用)で処理した。尚、比較例では脱遊離酸液中和処理装置5の中和液pHは10〜12に管理した。
【0025】
本発明例と比較例とで、装置運転時間:1000時間における、(項目1)バイポーラ膜電気透析装置9がセル電圧上昇して効率が20%ダウンした回数、(項目2)バイポーラ膜電気透析装置9のセル電圧が規格電圧を超えたため透析膜交換した回数、(項目3)逆浸透膜装置6が膜閉塞したため逆浸透膜交換した回数を夫々比較した。その結果、各項目とも、本発明例の値は比較例の値の30%以下へと低減した。
【符号の説明】
【0026】
1 酸洗廃液タンク
2 送液ポンプ
3 脱酸処理装置
3a 陰イオン交換樹脂
4 アルカリ溶液タンク
5 脱遊離酸液中和処理装置
6 逆浸透膜装置
7 塩濃度測定器
8 塩溶液再濃縮ライン
9 バイポーラ膜電気透析装置
10 アルカリ溶液回収ライン
11 減圧蒸留装置
12 精密ろ過膜装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯の硝フッ酸酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を逆浸透膜にて濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含む酸洗廃液の処理方法において、第2工程と第3工程の間で、前記中和液をpH10〜11に調整し、孔径0.1μm以下の精密ろ過膜にて精密ろ過することを特徴とする酸洗廃液の処理方法。
【請求項2】
鋼帯の硝フッ酸酸洗処理で発生した酸洗廃液から遊離酸を回収すると共に脱遊離酸液を得る第1工程と、前記脱遊離酸液をアルカリ溶液で中和処理して、前記脱遊離酸液から有価金属を回収すると共に中和液を得る第2工程と、前記中和液を逆浸透膜にて濃縮して塩溶液を得る第3工程と、前記塩溶液をバイポーラ膜電気透析装置により分離して酸溶液とアルカリ溶液とを得ると共に、残余の塩溶液を前記中和液と混合する第4工程と、前記酸溶液を減圧蒸留して前記鋼帯の酸洗処理に利用可能な濃度まで前記酸溶液を濃縮する第5工程とを含む酸洗廃液の処理装置において、第2工程と第3工程の間で、前記中和液をpH10〜11に調整し、孔径0.1μm以下の精密ろ過膜にて精密ろ過する装置を有することを特徴とする酸洗廃液の処理装置。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2013−17951(P2013−17951A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−153589(P2011−153589)
【出願日】平成23年7月12日(2011.7.12)
【出願人】(000001258)JFEスチール株式会社 (8,589)
【出願人】(503361709)株式会社アストム (46)
【出願人】(000143972)株式会社ササクラ (138)
【Fターム(参考)】