説明

酸洗設備

【課題】酸洗槽周辺設備の腐食及び酸洗槽付近での作業の困難性を軽減することが可能な酸洗設備を提供する。
【解決手段】鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備1であって、酸性薬液を貯留し、例えばポリプロピレンによって形成された耐酸性樹脂製の酸洗槽10と、この酸洗槽10の内部に配設されて洗浄液を放出する洗浄ノズル30と、酸洗槽10を貫通して酸洗槽10の外部から洗浄ノズル30に洗浄液を供給する配管32とを備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸洗設備に関する。
【背景技術】
【0002】
鋼帯の表面に形成されたスケールを除去する設備として、酸性薬液が貯留された連続酸洗設備が使用される。酸性薬液としては、例えば、塩酸や硫酸が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した90℃程度の高温となっている。
【0003】
酸性薬液を貯留する従来の酸洗槽は、酸洗槽の外形を形作る鉄皮タンクと、鉄皮タンクの内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたライニング材と、ライニング材の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガとで構成されている。ライニング材は、酸性薬液による鉄皮タンクの腐食を防止する。レンガは、酸性薬液からライニング材及び鉄皮タンクに伝わる熱を遮断して、熱によりライニング材及び鉄皮タンクが変形したり破損したりすることを防いでいる(例えば、特許文献1)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】実開平5−45071号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
酸洗槽に貯留された酸性薬液からは、塩化水素や硫化水素などの酸ヒュームが発生する。酸ヒュームが酸洗槽から漏れると周辺の設備を腐食するおそれが高い。また、高温の酸ヒュームが酸洗槽から大量に漏れると、酸洗槽付近での作業が困難となる。そのため、従来は、酸洗槽の隙間を可能な限り塞ぐことにより酸ヒュームを酸洗槽内に閉じ込めたり、連続酸洗設備と他の設備とを別の建屋に収容することにより酸ヒュームを他の設備に到達させないようにしたりしている。
【0006】
しかしながら、定期的に点検または修理したり、緊急の際に不定期的に点検または修理したりする際には、作業員が酸洗槽の蓋部を開放する必要がある。従来の連続酸洗設備では、レンガ、ライニング材及び鉄皮タンクの層間等に酸性薬液が残るという構造的に不可避の問題があるため、酸ヒュームの発生源である酸性薬液を酸洗槽から完全に除去することは現実的に不可能なほど困難で時間がかかる。それ故、酸洗槽の蓋部が開放されたときには、酸ヒュームが少なからず拡散し、周辺の設備を腐食させてしまうだけでなく、酸洗槽付近での作業に困難を伴うといった問題がある。
【0007】
本発明は、酸洗槽周辺設備の腐食及び酸洗槽付近での作業の困難性を軽減することが可能な酸洗設備を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明の第1の酸洗設備は、鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、酸洗槽の内部に配設されて洗浄液を放出する洗浄ノズルと、酸洗槽を貫通して酸洗槽の外部から洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管と、を備える。
【0009】
本発明の第1の酸洗設備によれば、耐酸性樹脂製の酸洗槽を貫くように配設された配管から、酸洗槽内部に配設された洗浄ノズルに洗浄液を供給するように構成されているため、酸洗槽の蓋部が開放される前に、酸ヒュームを発生させる酸性薬液を洗い流すことが可能となる。これにより、酸洗槽の蓋部の開放による酸ヒュームの拡散を抑制することができ、酸洗槽周辺設備の腐食及び酸洗槽付近での作業の困難性が軽減される。
【0010】
また、従来のように酸洗槽内部にレンガを敷き詰めている場合には、酸洗工程においてレンガの気泡に酸性薬液がしみ込んでいる。更に、従来のようにライニング材及び鉄皮タンクなどを積層した構造を有している場合には、層間に酸性薬液が残る。つまり、従来の酸洗設備では、酸洗槽内を洗浄しても酸性薬液を除去することができなかったため、酸洗槽内を洗浄しても残存した酸性薬液からの酸ヒュームの発生を防ぐことができない。
【0011】
この点、本発明の第1の酸洗設備によれば酸洗槽を耐酸性樹脂製とすることにより、単層で形成することができ、酸性薬液をほぼ残さずに洗浄することが可能となる。その結果、洗浄後に酸洗槽の蓋部が開放されたとしても、従来の酸洗槽のような酸ヒュームの発生を抑制することが可能となる。耐酸性樹脂製の酸洗槽としてはポリプロピレン製の酸洗槽が例示される。
【0012】
なお、酸洗槽内の底面に傾斜を設け、当該底面の位置レベルが最も低い部位に、洗浄により発生した廃液を酸洗槽の外部に排出する廃液口が備えられていることが好ましい。これにより、重力の作用によって酸洗槽内に廃液が残存することなく酸洗槽の外部に排出することができる。
【0013】
また、従来のようなレンガを敷き詰めた酸洗槽や、レンガ以外の積層構造を有する酸洗槽では、酸洗槽を貫いて洗浄液用の配管を挿入すると、酸洗槽を構成するレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクをすべて貫くように加工しなければならず、加工が困難である。更に、洗浄液用の配管を酸洗槽内のレンガ又はレンガ以外の積層部分に強固に据え付けることが容易でないため、使用時に洗浄液用の配管が破損するおそれがある。また、洗浄液用の配管を酸洗槽内のレンガ又はレンガ以外の積層構造に強固に据え付けることが容易でないため、最適な位置に洗浄液用の配管を固定することができず、洗浄性能が低くなる可能性がある。
【0014】
この点、酸洗槽を例えばポリプロピレンのような耐酸性樹脂製とすることにより単層で形成することができ、従来よりも酸洗槽を加工することが容易となるため、酸洗槽を貫いて洗浄用の配管を挿入することが容易となる。またこれに加えて、洗浄用の配管を最適な位置に据え付けやすくなる。
【0015】
本発明の第2の酸洗設備は、第1の酸洗設備において、酸洗槽から洗浄液と酸性薬液とを含む廃液を排出する廃液路と、廃液路に排出される廃液のph値を計測することにより酸洗槽に残された酸性薬液の量を間接的に検出する残量検出手段とを更に備える。
【0016】
本発明の第2の酸洗設備によれば、酸洗槽内部を洗浄しながら酸洗槽内に残された酸性薬液の残量を検出することにより、酸洗槽の蓋部が開放される前に酸ヒュームの拡散量を予測することが可能となる。従って、酸洗槽内の酸性薬液が十分に洗い流されたことを確認してから酸洗槽の蓋部を開放することにより、酸ヒュームの拡散による周辺機器への影響を従来の酸洗設備より著しく減らすことが可能となる。
【発明の効果】
【0017】
本発明の酸洗設備によれば、酸洗槽周辺設備の腐食及び酸洗槽付近での作業の困難性を軽減することができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】図1は、一実施形態に係る連続酸洗設備の概略構成図である。
【図2】図2は、従来の酸洗槽の断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0019】
図1は、一実施形態に係る連続酸洗設備1の概略構成図である。図1に示すように、連続酸洗設備1は、酸洗槽10、廃液ダクト11、廃液ピット12、洗浄ユニット13、残量検出ユニット14、及び、操作室15により構成されている。
【0020】
本実施形態の酸洗槽10は、ポリプロピレン(PP:polypropylene)を材料として略直方体形状に形成されている。酸洗槽10は、従来のようにレンガ、ライニング材及び鉄皮タンクを積層して形成されているのではなく、ポリプロピレンにより単層で形成されている。酸洗槽10の略長方形板状の底部20は水平面に対して若干傾斜するよう配設されている。酸洗槽10の底部20の4つの直線状の端縁部から略垂直に4つの壁部21が立設されている。4つの壁部21の全上端部により長方形状に囲われた酸洗槽10上部の開口22は、蓋部23により開閉可能に覆われている。
【0021】
表面にスケールが形成された鋼帯は、表面に形成されたスケールを除去すべく、内部に酸性薬液が貯留された酸洗槽10内を搬送される。酸性薬液としては、例えば、塩酸、硫酸、硝酸、フッ化水素酸(フッ酸)が使用され、酸性薬液はスケール除去に適した90℃程度の高温となっている。
【0022】
酸洗槽10の壁部21の下部には廃液ダクト11につながった廃液口24が備えられている。酸洗槽10の底部20は上述したように傾斜しており、位置レベルの最も低い底部20の面と廃液口24の最下面とが面一、または、位置レベルの最も低い底部20の面よりも廃液口24の最下面の位置レベルの方が低くなるように、廃液口24が備えられている。
【0023】
また、酸洗槽10の底部20及び壁部21の各内面は、酸洗槽10内の流体を重力によって自然に廃液口24に誘導するように滑らかに形成されている。廃液ダクト11は、流体を酸洗槽10から廃液ピット12に誘導するように配設されている。廃液口24は開閉可能に構成されており、酸洗槽10から酸性薬液を適宜抜き取ることができる。酸洗槽10から酸性薬液を抜き取る工程は、定期的に実施されるとともに、製造ラインの緊急停止時などにおいて不定期的に実施される。
【0024】
図2の概略断面図に例示した従来の酸洗槽50は、酸洗槽50の外形を形作る鉄皮タンク51と、鉄皮タンク51の内面を覆う耐熱性及び耐酸性を備えたゴム製のライニング材52と、ライニング材52の内面に敷き詰められた耐熱性及び耐酸性を備えたレンガ53と吸引ダクト54とにより構成されている。このような従来の酸洗槽50において、酸洗槽50の内側で最も下に位置する底面55付近に破線で示すような孔56を形成する場合、レンガ53、ライニング材52及び鉄皮タンク51の複数層を全て貫通するように孔56を形成しなければならず、加工が困難である。更に、加工した孔56周辺の強度が弱くなるおそれがあるため、孔56を通すことは現実的ではない。そのため、従来は、酸洗槽50の上部開口から酸洗槽50の内部の底面55まで、酸性薬液をポンプ等によって吸引するために吸引ダクト54が配設されていた。しかし、従来のこのような構成によると、吸引ダクト54の吸引口57を酸洗槽50の底面55付近まで低く配置しても、底面55と吸引口57との間に酸性薬液が残ることを避けられない。
【0025】
この点、本実施形態の連続酸洗設備1では、酸洗槽10の底部20が傾斜しているとともに、酸洗槽10の壁部21の下端に廃液口24が備えられている(位置レベルの最も低い底部20の面と廃液口24の最下面とが面一、または、位置レベルの最も低い底部20の面よりも廃液口24の最下面の位置レベルの方が低くなるように廃液口24が備えられている)。更に、酸洗槽10の底部20及び壁部21の各内面が、酸洗槽10内の流体を重力によって自然に廃液口24に誘導するように滑らかに形成されているため、酸洗槽10内面に付着した酸性薬液を従来よりも残りにくくすることができる。
【0026】
ただし、重力によって酸性薬液を廃液口24に導くだけでは、底部20、壁部21及び蓋部23の各内面を含む酸洗槽10の内面に酸性薬液が残る。本実施形態の連続酸洗設備1は、酸性薬液を抜き取った後に酸洗槽10の内面及び鋼帯を洗浄するために、洗浄ユニット13を備えている。
【0027】
洗浄ユニット13は、酸洗槽10内部に配設された複数の洗浄ノズル30と、酸洗槽10の外部に配置されて洗浄液を送り出すポンプ31と、ポンプ31から送り出される洗浄液を洗浄ノズル30に供給する複数の配管32と、各配管32の流量を調整するバルブ33とにより構成されている。複数の洗浄ノズル30は、底部20、壁部21及び蓋部23の各内面に、できるだけ万遍なく洗浄液をかけることができるように適宜配設されている。ポンプ31及びバルブ33は、操作室15から操作可能となっている。なお、洗浄液は、水であってもよいし、種々の薬品が含まれた流体であってもよい。
【0028】
洗浄ノズル30が酸洗槽10の内部に配設されているのに対し、ポンプ31は酸洗槽10の外部に配設されている。そのため、配管32は、酸洗槽10の壁部21を貫くように配設されている。酸洗槽10に単に穴を開けるだけでは酸洗槽10の内部から酸洗槽10の外部に酸性薬液及び酸ヒュームが漏れるおそれがある。そのため、本実施形態の酸洗槽10では、配管32と壁部21とを隙間が無いように結合している。配管32と壁部21との結合方法としては、配管32と壁部21とを溶着する方法、配管32と壁部21との間に他の部材を充てんする方法、配管32と壁部21とを隙間なく密着させる方法などが例示される。
【0029】
洗浄工程において、酸洗槽10の酸性薬液を抜き取った後、洗浄ノズル30から洗浄液を放出させることによって、酸洗槽10の内部に残った酸性薬液を洗い流す。洗浄液によって洗い流された酸性薬液と洗浄液とを混合した廃液は、廃液ダクト11を通じて廃液ピット12に排出される。
【0030】
廃液ダクト11の途中には、残量検出ユニット14が配設されている。残量検出ユニット14は、酸洗槽10から廃液ピット12に向かう廃液の一部を分流させる分岐管40と、分岐管40によって分流された廃液を一時的に貯留する計測槽41と、計測槽41に貯留された廃液のph値を測定するPH計42とにより構成されている。PH計42で測定されたph値は、操作室15に伝達される。計測槽41に流れ込んだ流体は、最終的に廃液ピット12に排出される。
【0031】
滑らかに形成された酸洗槽10の内面には、従来の酸洗槽の内面のように酸性薬液が残留する箇所がほとんど存在しないため、洗浄時間が増加すると、酸洗槽10内に残留している酸性薬液が徐々に減少していく。酸洗槽10内に残留している酸性薬液が減少すると、廃液に含まれる酸性薬液の量が減少する。廃液に含まれる酸性薬液の量が減少すると、廃液のph値が洗浄液のph値に近づく。すなわち、洗浄時間が増加すると、廃液のph値が酸性薬液のph値から徐々に洗浄液のph値に近づく。従って、残量検出ユニット14において、廃液のph値を計測することにより酸洗槽10内に残存する酸性薬液の残量を間接的に検出することができる。
【0032】
操作室15では、ph値が所定範囲に入ったときに自動的に洗浄完了と判定し、ランプなどの報知装置によって蓋部23を開放してもよいことを報知するようにしてもよい。あるいは、作業者がph値を確認して蓋部23の開閉を許可するようにしてもよい。酸洗槽10内の酸性薬液の残量とph値との関係は、シミュレーション、実験及び事前検証などに基づいて、操作室15の記憶装置に予めデータとして記憶されている。洗浄完了と判断するph値は予め固定されていてもよく、適宜入力できるように形成されていてもよい。
【0033】
洗浄ユニット13を使用して酸洗槽10内を洗浄しながら、残量検出ユニット14を使用して酸洗槽10における酸性薬液の残量を把握することにより、酸洗槽10を開ける前に酸ヒュームの拡散量を予測することが可能となる。従って、酸性薬液が十分に洗い流されたことを確認してから酸洗槽10の蓋部23を開放することが可能となり、更に、酸ヒュームの拡散による周辺機器への影響を従来の連続酸洗設備より著しく減らすことが可能となる。
【0034】
更に、酸性薬液より低温の洗浄液によって酸洗槽10を洗浄することにより、酸洗槽10の温度を素早く下げることができるため、酸洗槽10の内部での作業が比較的容易になる。しかも、ポリプロピレン製の酸洗槽10は、従来の酸洗槽より柔軟に伸縮するため、急速に温度を低下させても従来よりも破損するおそれが少ない。
【0035】
本実施形態の連続酸洗設備1によれば、酸ヒュームによる酸洗槽周辺装置の腐食と酸洗槽付近での作業の困難性を軽減しながら迅速に酸洗槽10を開放することが可能となる。
【産業上の利用可能性】
【0036】
本発明は、本発明の趣旨を逸脱しない範囲において種々の連続酸洗設備に適用することができる。
【符号の説明】
【0037】
1 連続酸洗設備
10 酸洗槽
11 廃液ダクト
12 廃液ピット
13 洗浄ユニット
14 残量検出ユニット
15 操作室
20 底部
21 壁部
22 開口
23 蓋部
24 廃液口
30 洗浄ノズル
31 ポンプ
32 配管
33 バルブ
40 分岐管
41 計測槽
42 PH計
50 酸洗槽
51 鉄皮タンク
52 ライニング材
53 レンガ
54 吸引ダクト
55 底面
56 孔
57 吸引口

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋼帯を酸性薬液によって酸洗する酸洗設備であって、
前記酸性薬液を貯留する耐酸性樹脂製の酸洗槽と、
前記酸洗槽の内部に配設されて洗浄液を放出する洗浄ノズルと、
前記酸洗槽を貫通して前記酸洗槽の外部から前記洗浄ノズルに洗浄液を供給する配管と、を備える
ことを特徴とする酸洗設備。
【請求項2】
前記酸洗槽から前記洗浄液と前記酸性薬液とを含む廃液を排出する廃液路と、
前記廃液路に排出される前記廃液のph値を計測することにより前記酸洗槽に残された前記酸性薬液の量を間接的に検出する残量検出手段と、を更に備える、
請求項1に記載の酸洗設備。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−236458(P2011−236458A)
【公開日】平成23年11月24日(2011.11.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−107439(P2010−107439)
【出願日】平成22年5月7日(2010.5.7)
【出願人】(000004581)日新製鋼株式会社 (1,178)
【Fターム(参考)】