説明

酸素センサの異常診断装置

【課題】検出素子の外層部に拡散層を有する酸素センサに好適な異常診断装置を提供する。
【解決手段】検出素子に、正の直流電圧を印加した状態で周波数fの異なる複数の交流電圧を印加し、各周波数に対応した複数のインピーダンスを検出する。そしてこれらインピーダンスのデータのうち、高周波数側から低周波数側に向かって数えて3つめの円弧R3に相当するデータがあるか否かを判断し、この判断結果に基づき酸素センサが正常か異常かを判定する。正常センサの場合と異常センサの場合とで、3つめの円弧R3に相当するデータの有無に違いがあることを利用して、酸素センサの正常・異常を診断する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は酸素センサの異常診断装置に係り、特に、検出素子の外層部に拡散層を有する酸素センサに好適な異常診断装置に関する。
【背景技術】
【0002】
触媒を利用した排気ガス浄化システムを備える内燃機関では、触媒による排気ガスの有害成分の浄化を有効に行うため、内燃機関で燃焼される混合気の空気と燃料との混合割合、すなわち空燃比のコントロールが不可欠である。こうした空燃比の制御を行うため、内燃機関の排気通路に、排気ガスの酸素濃度を検出する酸素センサを設け、その検出結果より空燃比を求めて、検出された空燃比を所定の目標空燃比に近づける空燃比フィードバック制御を実施するようにしている。
【0003】
典型的な酸素センサは、排気通路内に突出するように配設された筒型の検出素子を備えている。検出素子は、その内面を大気に露呈するとともに、その外面は排気ガスに曝されている。また検出素子は、内外の表面に電極が被覆された固体電解質を有している。固体電解質は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質であり、酸素センサ用としては例えばジルコニアが利用されている。
【0004】
検出素子の内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気ガス側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて検出素子の内外表面の電極で電子の移動が生じ、その結果、検出素子に起電力が発生する。
【0005】
こうして酸素センサは、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。
【0006】
一方、自動車の分野では、排気エミッションが悪化した車両の走行を未然に防止するため、車載状態(オンボード)で触媒やセンサの異常を診断することが各国法規等で要請されている。そこで酸素センサについても様々な診断装置が提案されるに至っている。
【0007】
例えば特許文献1には、検出素子の交流インピーダンスに基づいて抵抗成分と静電容量成分とを算出し、算出された抵抗成分と静電容量成分とを個別に基準値と比較し、この比較結果の組み合わせに基づいて検出素子の異常を診断する装置が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0008】
【特許文献1】特開2009−025102号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
酸素センサの中には、検出素子の外層部に、ガスの拡散速度を律速する拡散層を有するものがある。本発明者らは、鋭意研究の結果、このような酸素センサの異常時に発生する固有の現象を利用して、酸素センサの異常診断を行えることを見出した。
【0010】
そこで本発明の目的は、検出素子の外層部に拡散層を有する酸素センサに好適な異常診断装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明の一形態によれば、
検出素子の外層部に、ガスの拡散速度を律速する拡散層を有した酸素センサの異常診断装置であって、
前記検出素子に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数のインピーダンスを検出する検出手段と、
前記複数のインピーダンスのデータのうち、高周波数側から低周波数側に向かって数えて3つめの円弧に相当するデータがあるか否かを判断し、この判断結果に基づき前記酸素センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸素センサの異常診断装置が提供される。
【0012】
このように検出素子の複数のインピーダンスを検出すると、得られたデータでは、正常センサの場合と異常センサの場合とで、3つめの円弧に相当するデータの有無に違いがあることが判明した。従ってこの特性を利用して、酸素センサの正常・異常を好適に診断することができる。
【0013】
好ましくは、前記判定手段は、前記3つめの円弧に相当するデータがあると判断したとき前記酸素センサを正常と判定し、前記3つめの円弧に相当するデータがないと判断したとき前記酸素センサを異常と判定する。
【0014】
好ましくは、前記判定手段は、前記3つめの円弧に相当するデータがないと判断したとき、前記複数のインピーダンスのデータのうち高周波数側から低周波数側に向かって数えて2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであるか否かを判断し、この判断結果に基づき異常の種類を特定する。
【0015】
これにより、酸素センサの正常・異常を判別するのみならず、異常の場合にその異常の種類ないし箇所も好適に特定することができる。
【0016】
好ましくは、前記判定手段は、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであると判断したとき、前記異常の種類として前記検出素子の割れを特定する。
【0017】
好ましくは、前記判定手段は、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータでないと判断したとき、前記異常の種類として前記拡散層の目詰まりを特定する。
【0018】
好ましくは、前記判定手段は、所定の低周波数領域で検出されたインピーダンスと所定範囲との比較により、前記3つめの円弧に相当するデータがあるか否かを判断する。
【0019】
好ましくは、前記判定手段は、所定の低周波数領域で検出されたインピーダンスと所定範囲との比較により、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであるか否かを判断する。
【0020】
本発明の他の形態によれば、
検出素子の外層部に、ガスの拡散速度を律速する拡散層を有した酸素センサの異常診断装置であって、
前記検出素子に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数の正印加インピーダンスを検出すると共に、前記検出素子に、負の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数の負印加インピーダンスを検出する検出手段と、
前記複数ずつの正印加および負印加インピーダンスの各周波数毎の差または比を算出し、これら差または比に基づき前記酸素センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸素センサの異常診断装置が提供される。
【0021】
このように検出素子の複数ずつの正印加および負印加インピーダンスの差または比を算出すると、正常センサの場合と異常センサの場合とで差または比に違いがあることが判明した。従ってこの特性を利用して、酸素センサの正常・異常を好適に診断することができる。
【0022】
好ましくは、前記判定手段は、所定の低周波数領域における前記差または比が所定範囲内にあると判断したとき前記酸素センサを正常と判定し、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲内にないと判断したとき前記酸素センサを異常と判定する。
【0023】
好ましくは、前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲内にないと判断したとき、前記低周波数領域における差または比と前記所定範囲との比較結果に基づき異常の種類を特定する。
【0024】
これにより、酸素センサの正常・異常を判別するのみならず、異常の場合にその異常の種類ないし箇所も好適に特定することができる。
【0025】
好ましくは、前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲より小さいと判断したとき、前記検出素子の割れを特定する。
【0026】
好ましくは、前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲より大きいと判断したとき、前記拡散層の詰まりを特定する。
【発明の効果】
【0027】
本発明によれば、検出素子の外層部に拡散層を有する酸素センサに好適な異常診断装置を提供することができるという、優れた効果が発揮される。
【図面の簡単な説明】
【0028】
【図1】本発明の実施形態に係る内燃機関を示す概略図である。
【図2】酸素センサの取付状態を示す部分断面図である。
【図3】酸素センサの検出素子の拡大断面図である。
【図4】酸素センサの出力特性を示すグラフである。
【図5】図3のV部詳細図であり、検出素子に対する電源回路の構成を模式的に示す。
【図6】検出素子に印加される電圧の波形を示すタイムチャートである。
【図7】複数のインピーダンスの検出データを示すグラフであり、正常な酸素センサの場合を示す。
【図8】複数のインピーダンスの検出データを示すグラフであり、検出素子の割れが生じている異常な酸素センサの場合を示す。
【図9】複数のインピーダンスの検出データを示すグラフであり、拡散層に目詰まりが生じている異常な酸素センサの場合を示す。
【図10】第1実施例の異常診断処理に関するフローチャートである。
【図11】第1実施例の異常診断処理の変形例に関するフローチャートである。
【図12】図7のデータに基づき作製された差および比と周波数との関係を示すグラフである。
【図13】図8のデータに基づき作製された差および比と周波数との関係を示すグラフである。
【図14】図9のデータに基づき作製された差および比と周波数との関係を示すグラフである。
【図15】第2実施例の異常診断処理に関するフローチャートである。
【図16】第2実施例の異常診断処理の変形例に関するフローチャートである。
【発明を実施するための形態】
【0029】
本発明の実施形態に係る内燃機関の構成を図1を参照して説明する。本実施形態の内燃機関(エンジン)10は自動車用であり、火花点火式内燃機関、具体的にはガソリンエンジンである。内燃機関10の吸気通路11には、その通路面積を可変とするスロットルバルブ15(本実施形態では電子制御式)が設けられ、その開度制御により、エアクリーナ14を通じて吸入される空気の量が調整される。吸入された空気の量(吸入空気量)はエアフローメータ16により検出される。吸気通路11に吸入された空気は、スロットルバルブ15下流に設けられたインジェクタ17より噴射された燃料と混合された後、エンジン本体12内の燃焼室に送られ、そこで燃焼される。
【0030】
燃焼室での燃焼により生じた排気ガスが送られる排気通路13には、排気ガス中の有害成分を浄化する三元触媒18が設けられ、その上流側に酸素センサ19が設けられている。
【0031】
三元触媒18は、これに供給される排気ガスの空燃比が理論空燃比近傍の狭い範囲(ウインドウ)でのみ、排気ガス中の主要有害成分(HC、CO、NOx)のすべてを効率的に浄化する。こうした三元触媒18を有効に機能させるには、燃焼室に供給される混合気の空燃比を上記ウインドウの中心に合わせこむ、厳密なコントロールが必要となる。
【0032】
この空燃比の制御は、電子制御ユニット(以下「ECU」という)22により行われる。ECU22は、例えば図示しない双方向性バスにより相互に接続されたCPU、ROM、RAM、B(バッテリバックアップ).RAM、不揮発性メモリ、入力ポート、出力ポート、A/D変換器およびD/A変換器を具備する。ECU22には、上記エアフローメータ16や酸素センサ19、及びアクセルペダルの踏み込み量(アクセル開度)を検出するアクセル開度センサ21、機関回転速度を検出する回転速度センサ23を始めとする各種センサ類の検出信号が入力されている。そしてECU22は、それらセンサ類の検出信号より把握される内燃機関10や車両の運転状況に応じて、上記スロットルバルブ15やインジェクタ17等を駆動制御して、上記の空燃比フィードバック制御を行っている。空燃比フィードバック制御の概要は次の通りである。
【0033】
まずECU22は、アクセル開度や機関回転速度の検出結果に応じて把握される吸入空気量の要求量を求め、それに応じた吸入空気量が得られるようにスロットルバルブ15の開度を調整する。その一方、エアフローメータ16により検出される吸入空気量の実測値に対して、理論空燃比が得られるだけの燃料量を求め、それによりインジェクタ17からの燃料噴射量を調整する。これにより、燃焼室12で燃焼される混合気の空燃比を、ある程度に理論空燃比に近づけることはできる。ただし、それだけでは上記要求される高精度の空燃比制御には不十分である。
【0034】
そこでECU22は、上記酸素センサ19の検出結果より把握される空燃比の実測値に基づいて、インジェクタ17からの燃料噴射量をフィードバック補正し、要求される空燃比制御の精度を確保している。
【0035】
以上のように、この排気ガス浄化システムでは、酸素センサ19の検出結果に応じて燃料噴射量をフィードバック補正する、いわゆる空燃比フィードバック制御を実施することで、混合気の空燃比を理論空燃比近傍に保持し、高い排気ガス浄化率を確保している。
【0036】
図2及び図3に示すように、酸素センサ19は、排気通路13内に突出するように配設された筒型の検出素子31を備えている。検出素子31は、その内面を大気(空気)に露呈するとともに、その外面は、穿孔されたセンサカバー32を通して流過する排気ガスに曝される。また検出素子31は、内外の表面に電極33A,33Bが被覆された固体電解質37を有する。固体電解質37は、酸素がイオン化した状態でその内部を移動可能な固形物質であり、酸素センサ用としては例えばジルコニアが利用されている。
【0037】
検出素子31の内側の大気室34は、センサ内に設けられた図示しない大気通路と、センサボディに形成された大気穴35とを通じて外部と連通され、且つ大気が導出入可能となっている。大気室34には、検出素子31を加熱して早期に活性化させるためのヒータ36が設けられ、ヒータ36はECU22によって通電制御される。
【0038】
検出素子31の内側の大気と外側の排気ガスとの酸素分圧に差が生じると、その分圧の差を縮小すべく、酸素分圧の高い側(通常は大気側)の酸素がイオン化して固体電解質37を通り、酸素分圧の低い側(通常は排気側)へと移動する。酸素分子はイオン化する過程で4価の電子を受け取り、イオン化した状態から分子に戻る過程で4価の電子を放出する。そのため、上記の酸素の移動に応じて内外の電極間で電子の移動が生じ、その結果、検出素子31に起電力が発生する。
【0039】
こうして酸素センサ19は、大気と排気ガスとの酸素分圧の差に応じて起電力を発生し、より具体的には、排気ガスの酸素濃度が少なくなるほど(つまり検出素子31外部の排気ガスの空燃比がリッチであるほど)大きな起電力を発生する。ここで酸素イオンが内側の電極33Aから検出素子31を通って外側の電極33Bに向かうことから、電流の向きは逆となり、両電極に接続された外部装置に対しては内側の電極33Aが正極、外側の電極33Bが負極となる。以下、内側の電極33Aを大気電極、外側の電極33Bを排気電極ともいう。
【0040】
ちなみに、酸素センサには他にも、板形状の検出素子を用いたものや、検出素子にジルコニア以外の素材を用いたものなど、様々なタイプの酸素センサがある。そしてその多くは、上記例示したセンサと同様の検出原理により排気ガスの酸素分圧を検出する構成となっている。すなわち、基準ガス(大気)と排気ガスとを隔離するよう配設された検出素子が、基準ガスに対する排気ガスの酸素分圧の差に応じて起電力を発生する構成となっている。本発明はこのような様々なタイプの酸素センサに適用可能である。
【0041】
酸素センサ19の出力特性を図4に例示する。示されるように、酸素センサ19の出力電圧は理論空燃比A/Fs(例えば14.6)を境にスイッチング的に変化し、酸素センサ19に供給される排気ガス(雰囲気ガス)の空燃比A/Fが理論空燃比A/Fsよりもリーンな領域(A/F>A/Fs、以下リーン空燃比ともいう)では0.1V程度の小さい電圧を示し、理論空燃比A/Fsよりもリッチな領域(A/F<A/Fs、以下リッチ空燃比ともいう)では0.9V程度の比較的高い電圧を示す。ここでは、0.45Vのセンサ出力をリッチ・リーン判定閾値として予め定め、実際のセンサ出力電圧を当該閾値と比較して空燃比がリッチかリーンかを判断している。なお、酸素センサ19の上記各領域でのセンサ出力電圧の大きさは、検出素子31の温度状態に応じて変化することがある。
【0042】
なお、理論空燃比での燃焼(ストイキ燃焼)のみを目的とした空燃比フィードバック制御を行う内燃機関では、本実施形態のように、理論空燃比を境に出力電圧がスイッチング的に変化する特性の酸素センサが用いられることが多い。こうしたセンサは、理論空燃比よりもリッチ、及び理論空燃比よりもリーンのいずれかといった低い分解能しか持たないものの、上記ストイキ燃焼のみを行うには、それで十分なことが多い。一方、希薄空燃比での燃焼を行うなど、より広範囲の空燃比での燃焼を行う内燃機関では、排気ガスの空燃比に応じてその出力値が線形的に変化する特性の、より分解能の高い酸素センサが用いられることもある。本発明はこのような酸素センサ、あるいはA/F(空燃比)センサに対しても適用可能である。
【0043】
ところで、図3および図5に示すように、検出素子31の排気電極33Bの外側には、内側から外側に向かって、拡散層38と、触媒層39と、トラップ層40とが順次積層されている。これら拡散層38、触媒層39およびトラップ層40により、排気電極33Bの外側に形成された、或いは排気電極33Bとその外側のガスとの間に介設された外層部41が形成されている。
【0044】
拡散層38は、ガスの拡散速度を律速するものであり、アルミナ(Al23)や酸化マグネシウムMgO等の多孔質から形成されている。ガスが排気電極33Bに向かって拡散層38を透過する際、ガスに抵抗が与えられ、ガスが律速される。
【0045】
触媒層39は、ガス中の未燃成分(特にH2)を酸化させて除去し、センサの出力ズレを抑制するためのものである。触媒層39は、アルミナ等の多孔質に、Pt、Pd、Rh等の触媒貴金属粒子を担持させて構成されている。
【0046】
トラップ層40は、その内側の各層を保護すると共に、排気電極33Bにガス以外の物質が到達するのを防止するためのものである。トラップ層40はアルミナ等の多孔質から形成されている。
【0047】
なお、ここでは拡散層38の他に触媒層39を分離して設けたが、触媒層39を省略してもよい。この場合、拡散層38に触媒貴金属粒子を担持させ、拡散層38に触媒層39の機能を持たせてもよい。またトラップ層40を省略してもよい。
【0048】
次に、酸素センサ19の異常診断について説明する。本実施形態では、ECU22により検出素子31のインピーダンスを検出し、この検出されたインピーダンスに基づき酸素センサ19の正常または異常を判断する所謂インピーダンス法を採用する。
【0049】
[第1実施例]
以下に述べる第1実施例においては、検出素子31に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加し、各周波数に対応した複数のインピーダンスを検出する。
【0050】
このインピーダンス検出方法を図示して説明する。図5には、検出素子31に正の直流電圧と交流電圧とを印加可能な電源回路の構成が模式的に示されている。また図6には、検出素子31に印加される電圧の波形が示されている。
【0051】
図5から分かるように、ここでは、大気電極33Aに直流電源Bの正(+)極を接続し、排気電極33Bに直流電源Bの負(−)極を接続した状態を、「検出素子31に正の直流電圧を印加した状態」と定義する。正の直流電圧を印加した状態では、図示されるように、排気電極33Bから大気電極33Aに向かって酸素O2がポンピングされる。
【0052】
図6に示すように、正の直流電圧を印加した状態で、交流電源Cから所定周波数の交流電圧が1周期分だけ重畳的に印加される。図示例の場合、正の直流電圧の大きさは+0.4Vであり、交流電圧はその振幅を±0.2Vとするものである。但しこれらの値は任意に変更可能である。
【0053】
ECU22は、交流電圧印加時における酸素センサ19への入力電圧Vおよび酸素センサ19からの出力電流Iの変化を検出して、検出素子31のインピーダンスを算出する。
【0054】
なお、上述とは逆の「検出素子31に負の直流電圧を印加した状態」とは、排気電極33Bに直流電源Bの正(+)極を接続し、大気電極33Aに直流電源Bの負(−)極を接続した状態と定義する。この状態では、大気電極33Aから排気電極33Bに向かって酸素O2がポンピングされる。例えば、−0.4Vの負の直流電圧を印加した状態で交流電圧を同様に印加すると、電圧値は−0.4Vを基準に±0.2V変化する。
【0055】
こうして、交流電圧の周波数を所定周波数ずつ変化させながら、その都度検出素子31のインピーダンスを算出していくと、図7に示すような複数のインピーダンスの検出データが得られる。なお図7は正常センサの場合における結果を示す。黒四角のプロットが、正の直流電圧を印加した状態で交流電圧を印加したとき(便宜上「+直流電圧印加時」ともいう)に得られたデータであり、白四角のプロットが、負の直流電圧を印加した状態で交流電圧を印加したとき(便宜上「−直流電圧印加時」ともいう)に得られたデータである。周波数fを次第に高くするにつれ、プロットはインピーダンス実数部(横軸)の高い側から低い側に(図の右側から左側に)移動する。
【0056】
ところで、検出素子31に正の直流電圧を印加した場合、拡散層38により、排気電極33Bに到達する酸素量が制限される。他方、検出素子31に負の直流電圧を印加した場合だと、大気電極33A側には拡散層38が無いため、酸素量が制限されることがない。
【0057】
一方、図7の+直流電圧印加時のデータについては、高周波数側(図の左側)から数えて1つめの円弧R1と、2つめの円弧R2と、3つめの円弧R3とが存在する。1つめの円弧R1は、固体電解質37に起因する円弧であり、2つめの円弧R2は、大気電極33Aおよび排気電極33Bの電極界面に起因する円弧である。そして3つめの円弧R3は、拡散層38に起因する円弧である。これに対し、図7の−直流電圧印加時のデータについては、1つめの円弧R1と2つめの円弧R2は存在するが、3つめの円弧R3は存在しない。
【0058】
このような違いが生じる理由は、+直流電圧印加時には拡散層38により酸素量が制限されるため、インピーダンスが大きくなるのに対し、−直流電圧印加時にはそのような制限がないため、インピーダンスも大きくならないからである。
【0059】
図8には、検出素子31に割れが生じている異常な酸素センサ19の場合のインピーダンス検出データを示す。この場合、+直流電圧印加時であっても、1つめの円弧R1と2つめの円弧R2しか現れず、拡散層38に起因する3つめの円弧R3は現れない。その理由は、拡散層38の割れにより酸素量を制限する能力が低下するため、+直流電圧印加時であっても酸素量を制限できないからである。また、電極界面に起因する2つめの円弧R2は半円を示す。なお、正常センサの場合と同様、−直流電圧印加時にも3つめの円弧R3は現れない。
【0060】
図9には、検出素子31の拡散層38に目詰まりが生じている異常な酸素センサ19の場合のインピーダンス検出データを示す。+直流電圧印加時、1つめの円弧R1と2つめの円弧R2は現れるが、拡散層38に起因する3つめの円弧R3は現れず、且つ電極界面に起因する2つめの円弧R2が半円を示さない。その理由は、拡散層38の目詰まりが電極界面にも影響を及ぼし、酸素量が減少するため、電極界面に起因する2つめの円弧R2が大きくなるからである。なお、拡散層38の目詰まりの原因は、排気ガスに含まれる煤、鉛、マンガン、硫黄等である。
【0061】
従って、以上の結果に鑑みて次の通り結論づけることができる。すなわち、+直流電圧印加時に得られた複数のインピーダンスのデータの中に、拡散層38に起因する3つめの円弧R3に相当するデータがあるときには、酸素センサ19を正常と判断することができる。また、3つめの円弧R3に相当するデータがないときには、酸素センサ19を異常と判断することができる。
【0062】
また、3つめの円弧R3に相当するデータがないとき(センサ異常であるとき)に、2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであるときには、センサ異常の種類として、検出素子31の割れ(以下単に素子割れともいう)を特定することができる。
【0063】
さらに、3つめの円弧R3に相当するデータがないとき(センサ異常であるとき)に、2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータでないときには、センサ異常の種類として、拡散層38の目詰まりを特定することができる。
【0064】
こうして、酸素センサ19の正常・異常を判別できるのみならず、異常の場合にその異常の種類ないし箇所も特定することができ、拡散層38を有する酸素センサ19に好適な異常診断装置を提供することが可能である。
【0065】
次に、ECU22が実行する本実施例の異常診断処理を図10を参照して説明する。
【0066】
ステップS101では、診断を実施するのに必要な所定の前提条件が成立しているか否かが判断される。例えば、酸素センサ19の検出素子31が十分高温となっており、酸素センサ19が活性化している場合に前提条件成立となる。例えばECU22は、酸素センサ19の出力電圧がリッチ・リーン間で所定回数反転したこと検出したとき、酸素センサ19が活性化したと判断する。
【0067】
前提条件が成立していなければステップS101が繰り返し実行され、前提条件が成立したならばステップS102に進む。
【0068】
ステップS102では、検出素子31に正の直流電圧が印加される。このときの印加電圧は例えば+0.4Vである。
【0069】
次いでステップS103では、検出素子31に所定周波数の交流電圧が重畳的に印加される。交流電圧としては、例えば実効値(RMS)で0.01Vの交流電圧が用いられる。
【0070】
そしてステップS104で、交流電圧印加時における検出素子31のインピーダンスが検出される。すなわち、ECU22は、酸素センサ19に対する交流電圧Vn(n=1,2,・・・)印加時点から、交流電圧Vnの周波数fnに応じた遅延時間の経過後に、酸素センサ19の出力電流Inを読み込む。そして、交流電圧Vnと出力電流Inとに基づいて、インピーダンスZnを算出する。
【0071】
ステップS105では、インピーダンスの検出を行うべき全周波数のポイントで、インピーダンスの検出を終えたか否かが判断される。すなわち、ここでは10mHz〜1MHzの周波数範囲内において、1桁当たり5ポイントの周波数でそれぞれインピーダンスを検出するようにしている。具体的には、10mHz〜100mHzの間の予め定められた5ポイント(5つの周波数)でそれぞれインピーダンスを検出し、100mHz〜1Hzの間の予め定められた5ポイント(5つの周波数)でそれぞれインピーダンスを検出する(以下同様)。周波数の変更の仕方は、ここでは徐々に増加する方法としているが、徐々に減少する方法としてもよい。
【0072】
全ポイントでインピーダンスの検出を終えたと判断されない場合、ステップS103に戻って、周波数の増加および交流電圧の印加と、インピーダンス検出とが繰り返し実行される。こうして、図7等に示したような、全ポイントにおける複数のインピーダンスがやがて検出されることとなる。
【0073】
全ポイントでインピーダンスの検出を終えたならばステップS106に進む。ステップS106では、全ポイントにおける複数のインピーダンスのデータの中に、図7に示したような拡散層起因の3つめの円弧R3に相当するデータがあるか否かが判断される。具体的には、ECU22は、インピーダンス虚数部の変化から頂点が幾つあるかを判断し、頂点が三つある場合には3つめの円弧R3に相当するデータがあると判断し、頂点が二つしかない場合には3つめの円弧R3に相当するデータがないと判断する。
【0074】
なお、ECU22は、周波数が隣り合う一対のデータのインピーダンス虚数部の大小を次々と比較していくことで頂点を決定する。
【0075】
3つめの円弧R3に相当するデータがあると判断されたとき、ステップS107に進んで、酸素センサ19は正常と判定される。
【0076】
他方、3つめの円弧R3に相当するデータがないと判断されたときには、ステップS108に進む。ステップS108では、電極界面起因の2つめの円弧R2に相当するデータが、半円を形成するデータであるか否かが判断される。
具体的には、ECU22は、所定の低周波数領域内(例えば10mHz〜100mHz)の全ポイントにおけるインピーダンスデータのインピーダンス虚数部が、ゼロ近傍の値となっているとき、半円を形成するデータであると判断する。より具体的には、ECU22は、当該全ポイントのインピーダンス虚数部が、ゼロ近傍の所定値(例えば−15)より大きいとき、半円を形成するデータであると判断する。
【0077】
なおここでいう低周波数領域とは、正常センサ(図7)の場合に3つめの円弧R3が現れる周波数領域のことである。本実施例では、周波数の最も低いポイントから数えて5つめまでのデータが低周波数領域内に属する。
【0078】
ここで図8,図9を参照して、縦軸のインピーダンス虚数部は、その値がマイナス方向に大きくなるにつれ縦軸の上側に向かっている。よってインピーダンス虚数部が例えば−15より大きいとは、図8,図9においては、縦軸の−15より下側の部分を指す。図8に示すように、2つめの円弧R2が半円を形成する場合、低周波数領域内の全ポイントにおけるインピーダンス虚数部が所定値より大きくなる。逆に、図9に示すように、2つめの円弧R2が半円を形成しない場合、低周波数領域内の全ポイントにおけるインピーダンス虚数部が所定値より小さくなる。
【0079】
代替的に、2つめの円弧R2が半円か否かは、前記低周波数領域内における所定の1ポイントのインピーダンス虚数部が所定値より大きいか否かによっても判断することができる。或いは、前記低周波数領域内における全ポイントのインピーダンス虚数部の平均値が所定値より大きいか否かによっても判断することができる。
【0080】
ステップS108で、2つめの円弧R2に相当するデータが半円を形成するデータであると判断された場合、ステップS109に進んで、酸素センサ19は異常と判定され、且つその異常の種類として検出素子31の割れが特定される。
【0081】
他方、ステップS108で、2つめの円弧R2に相当するデータが半円を形成するデータでないと判断された場合、ステップS110に進んで、酸素センサ19は異常と判定され、且つその異常の種類として拡散層38の目詰まりが特定される。
【0082】
図11には異常診断処理の変形例を示す。この変形例は図10に示した基本例と比較して、ステップS106,S108がステップS206,S208に置き換えられたこと以外、基本例と同様である。よって同様のステップについては説明を省略し、図中の符号を100番台から200番台に変更するに止める。
【0083】
ステップS206は、3つめの円弧R3に相当するデータがあるか否かの判断を、別の方法で行う点で、ステップS106と相違する。すなわち、ステップS206においてECU22は、前記低周波数領域内(例えば10mHz〜100mHz)の全ポイントにおけるインピーダンスデータのインピーダンス絶対値の平均値(これを便宜上Zで表示する)が、所定範囲(例えばZ1=250Ωより大きくZ2=500Ωより小さい範囲)内にあるとき、3つめの円弧R3に相当するデータがあると判断する。
【0084】
なお、インピーダンス絶対値に代わって、インピーダンス実数部またはインピーダンス虚数部を用いてもよい。また平均値に代わって所定の1ポイントにおける値を用いてもよい。
【0085】
Z1<Z<Z2が成立するときには、3つめの円弧R3に相当するデータがあるとみなし、ステップS207に進んで酸素センサ19が正常と判定される。
【0086】
他方、Z1<Z<Z2が成立しないときにはステップS208に進む。ステップS208も、2つめの円弧R2に相当するデータが半円を形成するデータであるか否かの判断を、別の方法で行う点で、ステップS108と相違する。すなわち、ステップS208においてECU22は、前記低周波数領域内の全ポイントにおけるインピーダンスデータのインピーダンス絶対値の平均値Zが、前記所定範囲の下限値Z1以下であるとき、半円を形成するデータであると判断する。このときにはステップS209に進んで酸素センサ19が素子割れ異常であると判定する。
【0087】
他方、ステップS208においてECU22は、前記平均値Zが下限値Z1以下でないとき、すなわち前記平均値Zが前記所定範囲の上限値Z2以上であるとき、半円を形成するデータでないと判断する。このときにはステップS210に進んで酸素センサ19が拡散層目詰まり異常であると判定する。
【0088】
[第2実施例]
以下に述べる第2実施例においては、検出素子31に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加し、各周波数に対応した複数のインピーダンス(これを正印加インピーダンスと称する)を検出する。また検出素子31に、負の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加し、各周波数に対応した複数のインピーダンス(これを負印加インピーダンスと称する)を検出する。ここで両インピーダンスの検出時に使用する周波数は同じである。
【0089】
図7〜図9において、+直流電圧印加時の黒四角のプロットが、正印加インピーダンスのデータであり、−直流電圧印加時の白四角のプロットが、負印加インピーダンスのデータである。
【0090】
図7に示す正常センサの場合、低周波数領域において正印加インピーダンスが負印加インピーダンスより大きくなり、両者の差および比が大きくなる。ここで正印加インピーダンスをZp、負印加インピーダンスをZnで表すと、両者の差ΔZはΔZ=Zp−Znで定義され、両者の比ZaはZa=Zp/Znで定義される。
【0091】
図12は、図7のデータに基づき作製された差ΔZおよび比Zaと周波数fとの関係を示したグラフである。ここで正印加インピーダンスおよび負印加インピーダンスは絶対値とされている。図12から、低周波数領域において両者の差ΔZおよび比Zaが大きくなるのが明らかである。
【0092】
こうなる理由は、前述したように、+直流電圧印加時には拡散層38により酸素量が制限されるため、インピーダンスが大きくなるのに対し、−直流電圧印加時にはそのような制限がないため、インピーダンスも大きくならないからである。
【0093】
図13も同様に、図8のデータに基づき作製された、差ΔZおよび比Zaと周波数fとの関係を示したグラフである。素子割れセンサの場合、正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとは全周波数域でそれ程変わらず、両者の差ΔZは全周波数域で小さい。また両者の比Zaも全周波数域でほぼ一定の1である。
【0094】
こうなる理由は、前述したように、拡散層38の割れにより酸素量を制限する能力が低下するため、+直流電圧印加時であっても−直流電圧印加時と同様に酸素量を制限できないからである。
【0095】
図14も同様に、図9のデータに基づき作製された、差ΔZおよび比Zaと周波数fとの関係を示したグラフである。拡散層目詰まりセンサの場合、低周波数領域において、正印加インピーダンスが正常センサのときよりも顕著に負印加インピーダンスより大きくなり、両者の差ΔZおよび比Zaが正常センサのときよりも顕著に大きくなる。
【0096】
こうなる理由は、拡散層38の目詰まりによって、+直流電圧印加時に正常センサのときよりも大きく酸素量が制限されるため、+直流電圧印加時に−直流電圧印加時よりも顕著にインピーダンスが大きくなるからである。
【0097】
そこで本実施例では、上記の特性を有効に活用して、複数ずつの正印加および負印加インピーダンスの各周波数毎の差ΔZまたは比Zaに基づき酸素センサ19が正常か異常かを判定する。また異常と判定した場合、検出素子31の割れまたは拡散層38の目詰まりを特定する。
【0098】
こうして、酸素センサ19の正常・異常を判別できるのみならず、異常の場合にその異常の種類ないし箇所も特定することができ、拡散層38を有する酸素センサ19に好適な異常診断装置を提供することが可能である。
【0099】
図15に、ECU22が実行する本実施例の異常診断処理の内容を示す。ここで示す方法は差ΔZを用いる方法である。
【0100】
ステップS301〜S305は前記ステップS101〜S105と同様である。ステップS305で全ポイントの正印加インピーダンスの検出を終えたと判断された場合、こんどはステップS306〜S309で全ポイントの負印加インピーダンスの検出が行われる。なお、順序を逆にし、全ポイントの負印加インピーダンスを検出した後に全ポイントの正印加インピーダンスを検出してもよい。また、1周波数当たりの正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとを検出し、周波数を順次変えていくていく方法を採用してもよい。
【0101】
ステップS306では、検出素子31に負の直流電圧が印加される。このときの印加電圧は例えば−0.4Vである。
【0102】
ステップS307では、前記ステップS103と同様、検出素子31に所定周波数の交流電圧が重畳的に印加される。
【0103】
ステップS308では、前記ステップS104と同様、交流電圧印加時における検出素子31のインピーダンスが検出される。
【0104】
ステップS309では、前記ステップS105と同様、全ポイントで負印加インピーダンスの検出を終えたか否かが判断される。終えてなければステップS306〜S308が繰り返し実行され、周波数を順次増加(減少でもよい)しつつ、インピーダンスが検出される。
【0105】
全ポイントで負付加インピーダンスの検出を終えたならばステップS310に進む。ステップS310では、正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとの絶対値同士の差ΔZが、各周波数毎に、全ポイントに対して算出される。なお正印加インピーダンスと負印加インピーダンスについては、絶対値の代わりに実数部を用いることも可能である。
【0106】
次いでステップS311では、所定の低周波数領域における差ΔZが所定範囲内にあるか否かが判断される。具体的には、ECU22は、10mHz〜100mHzの低周波数領域における、正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとの絶対値同士の差の平均値(便宜上これをΔZで表す)が、Z3=50Ωより大きく且つZ4=500Ωより小さい範囲内にあるか否かを判断する。なお、平均値の代わりに、低周波数領域内の所定の1ポイントの値を用いてもよい。
【0107】
Z3<ΔZ<Z4が成立するときには、ステップS312に進んで、酸素センサ19は正常と判定される。
【0108】
他方、Z3<ΔZ<Z4が成立しないときにはステップS313に進む。ステップS313においては、前記差の平均値ΔZが前記所定範囲の下限値Z3と比較される。前記差の平均値ΔZが下限値Z3以下と判断されたときには、ステップS314に進んで、酸素センサ19は素子割れ異常であると判定される。
【0109】
他方、ステップS313において、前記差の平均値ΔZが下限値Z3以下でない、すなわち前記所定範囲の上限値Z4以上であると判断されたときには、ステップS315に進んで、酸素センサ19は拡散層目詰まり異常であると判定される。
【0110】
図16には異常診断処理の変形例を示す。この変形例は比Zaを用いる方法であり、図15に示した基本例と比較して、ステップS310,S311,S313がステップS410,S411,S413に置き換えられたこと以外、基本例と同様である。よって同様のステップについては説明を省略し、図中の符号を300番台から400番台に変更するに止める。
【0111】
ステップS410では、正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとの絶対値同士の比Zaが、各周波数毎に、全ポイントに対して算出される。なお前記同様、絶対値の代わりに実数部を用いてもよい。
【0112】
ステップS411では、所定の低周波数領域における比Zaが所定範囲内にあるか否かが判断される。具体的には、ECU22は、前記低周波数領域(10mHz〜100mHz)における、正印加インピーダンスと負印加インピーダンスとの絶対値同士の比の平均値(便宜上これをZaで表す)が、Z5=1.1より大きく且つZ6=3より小さい範囲内にあるか否かを判断する。なお平均値の代わりに所定の1ポイントの値を用いてもよい。
【0113】
Z5<Za<Z6が成立するときには、ステップS412に進んで、酸素センサ19は正常と判定される。
【0114】
他方、Z5<Za<Z6が成立しないときにはステップS413に進む。ステップS413においては、前記比の平均値Zaが前記所定範囲の下限値Z5と比較される。前記比の平均値Zaが下限値Z5以下であると判断されたときには、ステップS414に進んで、酸素センサ19は素子割れ異常であると判定される。
【0115】
他方、ステップS413において、前記比の平均値Zaが下限値Z5以下でない、すなわち前記所定範囲の上限値Z6以上であると判断されたときには、ステップS415に進んで、酸素センサ19は拡散層目詰まり異常であると判定される。
【0116】
以上、本発明の実施形態について詳細に述べたが、本発明の実施形態は他にも様々なものが考えられる。例えば内燃機関は自動車用以外であってもよく、その用途や形式に特に制限はない。酸素センサも内燃機関以外への適用が可能である。前記実施形態における各数値は任意に変更が可能である。
【0117】
本発明の実施形態は前述の実施形態のみに限らず、特許請求の範囲によって規定される本発明の思想に包含されるあらゆる変形例や応用例、均等物が本発明に含まれる。従って本発明は、限定的に解釈されるべきではなく、本発明の思想の範囲内に帰属する他の任意の技術にも適用することが可能である。
【符号の説明】
【0118】
19 酸素センサ
31 検出素子
38 拡散層
41 外層部
f 周波数
R3 3つめの円弧
R2 2つめの円弧
ΔZ 差
Za 比

【特許請求の範囲】
【請求項1】
検出素子の外層部に、ガスの拡散速度を律速する拡散層を有した酸素センサの異常診断装置であって、
前記検出素子に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数のインピーダンスを検出する検出手段と、
前記複数のインピーダンスのデータのうち、高周波数側から低周波数側に向かって数えて3つめの円弧に相当するデータがあるか否かを判断し、この判断結果に基づき前記酸素センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸素センサの異常診断装置。
【請求項2】
前記判定手段は、前記3つめの円弧に相当するデータがあると判断したとき前記酸素センサを正常と判定し、前記3つめの円弧に相当するデータがないと判断したとき前記酸素センサを異常と判定する
ことを特徴とする請求項1に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項3】
前記判定手段は、前記3つめの円弧に相当するデータがないと判断したとき、前記複数のインピーダンスのデータのうち高周波数側から低周波数側に向かって数えて2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであるか否かを判断し、この判断結果に基づき異常の種類を特定する
ことを特徴とする請求項2に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項4】
前記判定手段は、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであると判断したとき、前記異常の種類として前記検出素子の割れを特定する
ことを特徴とする請求項3に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項5】
前記判定手段は、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータでないと判断したとき、前記異常の種類として前記拡散層の目詰まりを特定する
ことを特徴とする請求項3または4に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項6】
前記判定手段は、所定の低周波数領域で検出されたインピーダンスと所定範囲との比較により、前記3つめの円弧に相当するデータがあるか否かを判断する
ことを特徴とする請求項1〜5のいずれか一項に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項7】
前記判定手段は、所定の低周波数領域で検出されたインピーダンスと所定範囲との比較により、前記2つめの円弧に相当するデータが半円を形成するデータであるか否かを判断する
ことを特徴とする請求項3〜5のいずれか一項に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項8】
検出素子の外層部に、ガスの拡散速度を律速する拡散層を有した酸素センサの異常診断装置であって、
前記検出素子に、正の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数の正印加インピーダンスを検出すると共に、前記検出素子に、負の直流電圧を印加した状態で周波数の異なる複数の交流電圧を印加することにより、各周波数に対応した複数の負印加インピーダンスを検出する検出手段と、
前記複数ずつの正印加および負印加インピーダンスの各周波数毎の差または比を算出し、これら差または比に基づき前記酸素センサが正常か異常かを判定する判定手段と、
を備えることを特徴とする酸素センサの異常診断装置。
【請求項9】
前記判定手段は、所定の低周波数領域における前記差または比が所定範囲内にあると判断したとき前記酸素センサを正常と判定し、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲内にないと判断したとき前記酸素センサを異常と判定する
ことを特徴とする請求項8に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項10】
前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲内にないと判断したとき、前記低周波数領域における差または比と前記所定範囲との比較結果に基づき異常の種類を特定する
ことを特徴とする請求項9に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項11】
前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲より小さいと判断したとき、前記検出素子の割れを特定する
ことを特徴とする請求項10に記載の酸素センサの異常診断装置。
【請求項12】
前記判定手段は、前記低周波数領域における差または比が前記所定範囲より大きいと判断したとき、前記拡散層の詰まりを特定する
ことを特徴とする請求項10または11に記載の酸素センサの異常診断装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【公開番号】特開2011−185614(P2011−185614A)
【公開日】平成23年9月22日(2011.9.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−48150(P2010−48150)
【出願日】平成22年3月4日(2010.3.4)
【出願人】(000003207)トヨタ自動車株式会社 (59,920)
【Fターム(参考)】