説明

酸素センサ検査方法

【課題】安価かつ簡易な手法にて出荷前や使用中でも酸素センサの良否を検査する酸素センサ検査方法を提供する。
【解決手段】所定期間のセンサ出力挙動を比較用センサ出力として予め取得する比較用センサ出力取得工程と、所定期間のセンサ出力挙動を検査用センサ出力として取得する検査用センサ出力取得工程と、比較用センサ出力と検査用センサ出力とを比較することにより酸素センサの良否を検査する検査工程と、を有する酸素センサ検査方法とした。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、ボイラー燃焼管理等に用いられる酸素センサ検査方法に関する。
【背景技術】
【0002】
ジルコニア等のセラミック固体電解質体をセンサ素子として用いる酸素センサは、ボイラーや自動車エンジン等の燃焼管理や制御に広く用いられている。
この酸素センサの測定原理としては、酸素ガス濃淡による起電力を測定する濃淡電池方式と、酸素拡散律速構造としたセンサ素子に所定範囲の電圧を印加することによって発生する一定電流を測定する限界電流方式が知られている。濃淡電池方式の場合、ジルコニア等のセラミック固体電解質の両面に一対の多孔質電極、例えば白金系電極を形成してセンサ素子とし、測定側と基準側との酸素濃度の差によって生ずる電位差を基に、酸素濃度を測定する。
【0003】
このセンサ素子の形状として、有底円筒形、平板形等がある。電極の形成方法としては、電極材として白金系ペーストを用いた場合、刷毛等の塗布治具による手塗り、スクリーン印刷等が挙げられる。その他の手法としては、無電解メッキ等の液相法や蒸着等の気相法が挙げられる。
【0004】
一例として濃淡電池方式の酸素センサについて図を参照しつつ説明する。図3は濃淡電池式の酸素センサの構造図、図4はセンサ素子の構造図である。この酸素センサ100は、図3で示すように、センサ素子10(後述する図4参照)、筐体20、ヒータ30、保温材40、フィルタ50、フランジ60、端子台70、端子箱80が所定の位置に配置される。
【0005】
このうちセンサ素子10の詳細について図を参照しつつ説明する。センサ素子10は、図4で示すように、基材11、基準電極12、測定電極13、基準電極用リード線14、測定電極用リード線15、接着剤16を備える。このセンサ素子10は、有底円筒形のセンサ素子である。
【0006】
基材11は、例えば酸素イオン伝導性をもつ部分安定化ジルコニア等の固体電解質体である。基材11は、図4でも明らかなように、有底円筒状に形成される。
基準電極12は、基材11の内壁面に沿って密着された状態で内側に形成される電極であり、基準ガス(大気)に晒される側に形成される電極である。基準電極12は、多孔質電極、例えば白金系ペーストを塗布した後に焼成して白金系電極として形成する。
測定電極13は、基材11の外壁面に沿って密着された状態で外側に形成される電極であり、測定対象ガスに晒される側に形成される電極である。測定電極13も、多孔質電極、例えば白金系ペーストを塗布した後に焼成して白金系電極として形成する。
【0007】
基準電極用リード線14は、例えば先端が輪状に形成された白金線であり、基準電極12に電気的に接続される。
測定電極用リード線15は、例えば先端が輪状に形成された白金線であり、測定電極13に電気的に接続される。
接着剤16は、これら基準電極用リード線14および測定電極用リード線15を基材11に固着する。
【0008】
このようなセンサ素子10を有する酸素センサ100では、測定原理上、測定対象ガスが通流する領域と、基準ガスが通流する領域と、を区画して気密性を確保する必要がある。そこで、図3で示すように、筐体20および端子箱80によりセンサ素子10は外界から遮断される。さらに筐体20および端子箱80に内においてフランジ60を介して空間が二分される。フランジ60にセンサ素子10とヒータ30とがともに接着されて、二分された空間に連通している。筐体20には、校正ガスポート21、配線ポート22が設けられている。校正ガスポート21から導入される測定対象ガスは、筐体20とフランジ60とにより仕切られる内部空間であってセンサ素子10とヒータ30とにより形成される環状の領域を流れ、センサ素子10の外側の測定電極へ到達する。また、配線ポート22から導入される基準ガス(大気)はフランジ60と端子箱80により仕切られる内部空間であって基準ガスが通流する領域と連通しており、センサ素子10の内側の基準電極へ到達する。
【0009】
続いてこのようなセンサ素子10を搭載する濃淡電池式の酸素センサ100の測定原理について説明する。濃淡電池式のセンサ素子10をヒータ30により加熱し、固体電解質である基材11がイオン伝導性を発現する温度(例えば800℃)まで昇温すると、測定対象ガスに晒される測定電極13側(外周側)と、基準ガス(大気)に晒される基準電極12側(内周側)と、の酸素濃度の差によって電位差が生じる。電位差は以下の理論式により表される。
【0010】
【数1】

【0011】
ただし、
E:センサ出力(mV)、
X:測定側酸素濃度(vol%)、
B:ブランク電圧、
である。ここにブランク電圧とは測定側と基準側との両側にともに同じ基準ガス(大気)を流通した時のセンサ出力である。この上記数1により、測定側と基準側との電位差であるセンサ出力Eや予め測定されているブランク電圧Bを用いて酸素濃度Xを測定することができる。従来技術の酸素センサ100はこのようなものである。
【0012】
また、濃淡電池式酸素センサの他の従来技術として、例えば、特許文献1(特開平9−133649号公報、発明の名称「直接挿入形ジルコニア式酸素計検出器」)に記載の発明が知られている。
特許文献1に記載の従来技術の直接挿入形ジルコニア式酸素計検出器も先に説明した原理と同様に検出を行うものである。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0013】
【特許文献1】特開平9−133649号公報(段落番号[0002]〜[0005],図3)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0014】
酸素センサの良否を示す指標として、センサ出力の直線性や応答性が挙げられる。この直線性や応答性を劣化させる原因として(1)酸素センサ100が内蔵するセンサ素子10の内部抵抗の増大、(2)酸素センサ100の気密性の低下、(3)酸素センサ100のガス置換性の低下が挙げられる。以下、(1),(2),(3)について説明する。
【0015】
(1)酸素センサ100が内蔵するセンサ素子10の内部抵抗の増大
センサ素子10の内部抵抗の増大は、センサ素子10の製造不良や使用中の電極劣化によって引き起こされる。そこで、内部抵抗値が酸素センサ100の検査指標の一つとなっている。出荷前や使用中に内部抵抗を測定し、例えば100Ωを超過した場合には、製造不良やセンサ異常と判定して、出荷停止や保守アラーム出力等の対応を行う。
【0016】
(2)酸素センサ100の気密性の低下
上記のようにセンサ素子10の内部抵抗が正常値の場合であっても、酸素センサ100の気密性の低下によりセンサ出力の直線性や応答性が劣化する。
酸素センサ100の気密性の低下は、酸素センサ100の機械的構造不良や製造不良に起因するものと考えられる。例えば、部材接着ミス等の製造工程上の問題、または、熱衝撃によって生ずる接着部クラック等の使用中の問題、により機械的構造が劣化して気密性が低下する。気密性が低下すると、例えば本来測定対象ガスが触れるべきセンサ素子10の外表面まで基準ガス(大気)が侵入して両電極間の酸素濃度差が小さくなり、センサ出力の直線性や応答性が低下する。なお、酸素センサ100の気密性を調査するには、ヘリウムリーク試験機等の特殊な装置が必要である。
【0017】
(3)酸素センサ100のガス置換性の低下
上記のようにセンサ素子10の内部抵抗が正常値の場合や酸素センサ100の気密性に異常がない場合であっても、酸素センサ100のガス置換性の低下により、センサ出力の直線性や応答性が劣化する。
酸素センサ100のガス置換性の低下は、酸素センサ100の機械的構造不良や製造不良によりガス流路(特にヒータ30とセンサ素子10との間の流路)が狭められて測定対象ガスが十分に通流しない点などに起因すると考えられる。特に酸素センサ100の製造工程における組立バラツキによって、酸素センサ100のガス置換性が低下して、センサ出力の直線性や応答性が低下する。このガス置換性については現状では評価する手法がなく、不良原因を特定できなかった。
【0018】
まとめると、
(a)センサ素子10の内部抵抗が正常値か否かを判断しただけでは酸素センサ100の良否を判別できないという問題があった。
(b)ヘリウムリーク試験機等の特殊な装置を用いてリーク試験を行って気密性が良いという良好な結果が得られたとしても流路が狭い等のガス置換性の問題により酸素センサ100が依然不良である場合があるという問題があった。
(c)濃淡電池式の酸素センサ100を出荷試験装置に固定するとリーク試験による気密性の検査が行えなくなり、また、ボイラー等に設置された後の使用中の状態では良否の検査ができないという問題があった。
【0019】
従来でも測定できる(1)酸素センサ100が内蔵するセンサ素子10の内部抵抗の増減に加え、従来技術では検査が困難であった(2)酸素センサ100の気密性の低下、(3)酸素センサ100のガス置換性の低下、を検査できるようにし、これら(1),(2),(3)を全て考慮した検査方法を確立したいという要請があった。
【0020】
そこで、本発明は上記した問題に鑑みてなされたものであり、その目的は、安価かつ簡易な手法にて出荷前や使用中でも酸素センサの良否を検査する酸素センサ検査方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0021】
本発明の請求項1に係る酸素センサ検査方法は、
固体電解質の内外表面に基準電極および測定電極を配して構成されるセンサ素子を内蔵し、このセンサ素子の基準電極に基準ガスを、また、測定電極に測定対象ガスを通流させて酸素濃度差に応じたセンサ出力により酸素濃度を測定するための酸素センサを検査する酸素センサ検査方法において、
準備工程としては、
基準ガスを基準電極に、また、酸素濃度が検出下限未満である検査ガスを測定電極に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を比較用センサ出力として予め取得する比較用センサ出力取得工程を有し、
検査工程としては、
基準ガスを基準電極に、また、前記検査ガスを測定電極に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を検査用センサ出力として取得する検査用センサ出力取得工程と、
比較用センサ出力と検査用センサ出力とを比較することにより酸素センサの良否を判別する判定工程と、
を有することを特徴とする。
【0022】
また、本発明の請求項2に係る酸素センサ検査方法は、
請求項1に記載の酸素センサ検査方法において、
前記判定工程では、
比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間とを比較し、基準用センサ出力の飽和レベルへの到達時間よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサは気密性およびガス置換性が不良であると判定することを特徴とする。
【0023】
また、本発明の請求項3に係る酸素センサ検査方法は、
請求項1に記載の酸素センサ検査方法において、
前記判定工程では、
比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間に基づいて基準時間を設定し、検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と基準時間とを比較し、基準時間よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサは気密性およびガス置換性が不良であると判定することを特徴とする。
【0024】
また、本発明の請求項4に係る酸素センサ検査方法は、
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の酸素センサ検査方法において、
前記検査ガスを飽和レベルへの到達時間経過後に排気することを特徴とする。
【発明の効果】
【0025】
本発明によれば、安価かつ簡易な手法にて出荷前や使用中でも酸素センサの良否を検査する酸素センサ検査方法を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】検査ガス(窒素ガス)流通時の時間−センサ出力線図である。
【図2】酸素センサの酸素濃度−センサ出力線図である。
【図3】濃淡電池式の酸素センサの構造図である。
【図4】センサ素子の構造図である。
【発明を実施するための形態】
【0027】
続いて、本発明を実施するための形態について図を参照しつつ以下に説明する。ここで、検査原理について説明する。まず、酸素センサ100に対して、図3に示した酸素センサ100の校正ガスポート21から検査ガスとして窒素ガスを所定時間(10分間)流通させる。この時のセンサ出力の挙動は、図1のNo.2の波線のグラフで示すような挙動となる。なお、この酸素センサ100は予めヘリウムリーク試験機を用いる試験が行われ、充分な気密性がある点が確認されているものとする。
【0028】
この検査ガス(窒素ガス)の流通の様子であるが、図3で示すように、まず、校正ガスポート21からヒータ30の外周の流路を経てセンサ素子10の先端まで通流していく。この期間ではセンサ出力は変化せず、図1のNo.2のグラフの最初から60秒までの間のようにほぼ0(mV)を維持する。
【0029】
続いて、図3に戻るが、センサ素子10の先端(フィルタ50側)に検査ガス(窒素ガス)が到達する。測定電極13(図4参照)周辺の雰囲気は、大気に代えて、酸素を含まない検査ガス(窒素ガス)に置換されるため、センサ出力は図1のNo.2のグラフのように約10秒間で約60(mV)〜70(mV)程度まで立ち上がる。
【0030】
続いて、図3に戻るが、センサ素子10とヒータ30との間の円環状の空隙内へも検査ガス(窒素ガス)が到達する。センサ素子10とヒータ30との間に存在している雰囲気が大気に代えて次第に検査ガス(窒素ガス)に置換されることにより検査ガス(窒素ガス)とセンサ素子10との接触面が増大していく。このように検査ガス(窒素ガス)とセンサ素子10との接触面が増大してにつれて、センサ出力は図1のNo.2のグラフのように緩やかに上昇し、600秒(10分)経過後には飽和状態となる。この飽和状態とは検査ガス(窒素ガス)がセンサ素子10とヒータ30との間の領域へ行き渡った状態である。このNo.2のグラフのような基準を得る。
【0031】
次に、実験的に上記NO.2のような特性が得られた酸素センサ100に対して機械構造を調整して、現状よりも流路(特に図3のセンサ素子10とヒータ30との間の円環状の空隙)が全外周で均一で狭くならないように厳密に調整してガス置換性を向上させる。
そして再度酸素センサ100の校正ガスポート21から検査ガスとして窒素ガスを所定時間(10分間)流通させる。この時のセンサ出力の挙動は、図1のNo.1の実線のグラフで示すような挙動となる。
【0032】
例えば、No.2センサの飽和レベル到達時間が約10分であるのに対し、機械構造を調整してガス置換性を向上させたNo.1センサの飽和レベル到達時間は約3分である。これは、No.1センサの調整結果を反映しており、ガス置換性を向上させたことにより、検査ガス(窒素ガス)が全領域に充満するまで時間が短縮したためと推定される。
この結果、ガス置換性が向上するとセンサ出力の立ち上がり時間が短縮する傾向にあることを本発明者は知見した。換言すればガス置換性が劣化するとセンサ出力の立ち上がり時間が長くなる傾向にあることを本発明者は知見した。なお、No.1およびNo.2センサは飽和レベルが約200mVと同等であり、これはガス置換性を向上させても飽和レベル(気密性)自体は変化しないことを示している。
【0033】
次に、実験的に上記NO.2のような特性が得られた酸素センサ100に対して機械構造を調整して気密性およびガス置換性を緩くする。詳しくは気密を若干弱めるものとする。さらに検査ガスが流れる流路(特にセンサ素子10とヒータ30との間の環状の空隙)を一部狭めてガス置換性を劣化させるものとする。例えば、同心状にあったセンサ素子10とヒータ30に対し、ヒータ30はそのままにセンサ素子10の中心軸をずらして偏心するようにセンサ素子10を移動させるようなものである。この酸素センサ100はヘリウムリーク試験機を用いる試験により所定の気密漏れの不合格であることが確認されているものとする。
そして再度酸素センサ100の校正ガスポート21から検査ガスとして窒素ガスを所定時間(10分間)流通させる。この時のセンサ出力の挙動は、図1のNo.3の一点鎖線のグラフで示すような挙動となる。
【0034】
例えば、センサ出力挙動においては、NO.2およびNO3では4分経過前までは両者同様の挙動を示した。これは、測定電極13周辺の検査ガスの流路(筐体20とヒータ30とで形成される空隙)におけるガス置換性はNO.2およびNO3ともに同等なためである。しかしがら、4分経過後ではNo.3センサの飽和レベルは約150mVとNo.2センサよりも小さかった。これはヒータ30とセンサ素子10との間の空隙に存在する大気の置換性不良に起因し、接触する検査ガスのガス量が少なくなったためと考えられる。また、気密性の低下により大気も流入することとなり、検査ガスの濃度が増大しないためと考えられる。
この結果、気密性および置換性が大幅に劣化すると飽和レベルも少なくなる傾向にあることを本発明者は知見した。
【0035】
したがって、検査原理としては、飽和状態におけるセンサ出力値(以降、飽和レベルと表記)が小さくなるか、または、飽和レベルには到達するがこの到達に要する時間が長くなったときは、酸素センサの気密性やガス置換性が劣化したものであり、不良であると判定するというものである。以下、このような判定原理にしたがって判定するものとする。
【0036】
続いてこの判定原理に加え、具体的な基準値について検討する。図2にNo.2センサおよびNo.3センサの直線性を示す。飽和レベル到達時間が600秒(10分)というように長いNo.2センサではあるが、図2で示すように、No.2センサの直線性は理論値に近く良好である。
しかしながら、特に置換性を敢えて劣化させて飽和レベルを低くしたNo.3センサは酸素濃度0.1%以下で理論値との乖離が大きくなり、直線性不良であった。
【0037】
また、飽和レベルは酸素センサ100の検出下限を表していると考えられ、理論式と飽和レベルの値を用いると、No.1センサおよびNo.2センサの検出下限は約50ppm、No.3センサのそれは約500ppmと求められる。この飽和レベルはNo.3センサのように低下させないことが好ましい。
【0038】
したがって、酸素センサ100の検査に用いる判定原理および基準値としては、No.2センサのように、酸素センサ100に検査ガス(例えば窒素ガス)を通流させたとき、飽和レベルの管理基準を200mV程度(例えば200mV以上)、飽和レベル到達時間の管理基準を10分とし、上記の管理基準未達の場合には、出荷停止や保守アラーム出力等の対応を行うこととする。
以上のように、出荷試験あるいは使用中の校正時に、校正ガスポート21から検査ガス(窒素ガス)を所定時間流通させることにより、酸素センサ100の構造や性能を検証することが可能となる。
【0039】
なお、酸素センサ100の内部に検査ガスとして酸素を含まない窒素ガスを長時間通流させると、センサ素子10の基材11を構成する固体電解質であるジルコニアが還元されて変性する恐れがある。そこで、検査ガスとして酸素を含むが酸素濃度をセンサ検出下限未満のガス(例えば10ppmO/Nガス)としても良い。また、上記の観点から、試験時間は酸素センサ100の構造に関係なく飽和レベルが確認可能な時間、すなわち10分以内とし、10分を超えると検査ガスを直ちに排気することが好ましい。
【0040】
続いて上記判定原理による検査について説明する。まず酸素センサ100の検査用の基準を取得する(準備工程)。
詳しくは、基準ガスを基準電極12に、また、酸素濃度が検出下限未満である検査ガス(窒素ガス)を測定電極13に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を比較用センサ出力として予め取得する(比較用センサ出力取得工程)。
予め良品の酸素センサ100を用いて基準となる比較用センサ出力値を取得する。
この工程で得られた比較用センサ出力により酸素センサ100の飽和レベルおよび飽和レベル到達時間が取得され、今後の検査に用いられる基準とされる。上記のように飽和レベル200mV以上および飽和レベル到達時間を10分とする。
【0041】
続いて、他の酸素センサ100を製造後に検査する場合や、または、酸素センサ100を一定期間使用した後に良否を検査する場合について説明する(検査工程)。
【0042】
詳しくは、基準ガスを基準電極12に、また、検査ガス(窒素ガス)を測定電極13に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を検査用センサ出力として取得する(検査用センサ出力取得工程)。
この工程で得られた検査用センサ出力により検査対象となる酸素センサ100の飽和レベルおよび飽和レベル到達時間が取得される。
【0043】
比較用センサ出力と検査用センサ出力とを比較することにより酸素センサ100の良否を判別する(判定工程)。詳しくは、比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間とを比較し、基準用センサ出力の飽和レベル(例えば200mV)への到達時間(例えば10分)よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサ100は気密性やガス置換性が不良であると判定する。
【0044】
例えば図1のNo.1センサのように短時間で飽和レベル(例えば200mV)に到達している酸素センサ100は気密性およびガス置換性が良好であると判定できる。また、図1のNo.2センサのように基準用センサ出力の飽和レベル(例えば200mV)への到達時間(例えば10分)と同程度の到達時間で飽和レベルに到達した酸素センサ100も気密性およびガス置換性が良好であると判定できる。なお、基準用センサ出力の飽和レベルへの到達時間(例えば10分)内に飽和レベル(例えば200mV)に達しない図1のNo.3センサは管理基準に到達しない。このように飽和レベルへ到達しないか飽和レベルに到達するも時間を要するものに当てはまるNo.3センサは、管理基準に到達しないものであって気密性やガス置換性に問題がある、と判定される。
このようにして検査がなされる。
【0045】
そして、検査ガスを飽和レベルへの到達時間(例えば10分)経過後に排気する(排気工程)。検査終了後に還元性の検査ガスが直ちに排気され、固体電解質であるセンサ素子10が保護される。また、この後に酸素センサ100が内蔵するセンサ素子10の内部抵抗が増加していないで所定値以内であることを検出すれば、酸素センサ100は良品であると判定され、検査は終了する。酸素センサ検査方法はこのようなものである。
【0046】
続いて他の形態の酸素センサ検査方法について説明する。
先の形態では、比較用センサ出力取得工程にて、上記のように飽和レベルを200mV以上とし、また、飽和レベル到達時間を10分としていた。本形態では、飽和レベルは同じ200mV以上であるが、飽和レベル到達時間を10分よりも厳格な基準とするため、飽和レベル到達時間に代えて基準時間を採用している。基準時間は5分としている。これは気密性やガス置換性が極めて高いNO.1の酸素センサ100の飽和レベル到達時間の3分よりも若干緩い基準であるが、気密性やガス置換性が通常品程度のNO.2の酸素センサ100の飽和レベル到達時間の10分よりも厳しい基準であり、不良品はもちろんのこと若干の経年変化により不良品になる恐れのあるものを検査により検出・排除する。基準時間は例えばこの3分から10分までの間の時間で任意に決定したものである。上記の管理基準未達の場合には、出荷停止や保守アラーム出力等の対応を行うこととする。このように飽和レベル到達時間(10分)よりも敢えて厳しい基準時間(例えば5分)を採用することで高い品質の確保を目指す。
【0047】
まず酸素センサ100の検査用の基準を取得する(準備工程)。
詳しくは、基準ガスを基準電極12に、また、酸素濃度が検出下限未満である検査ガスを測定電極13に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を比較用センサ出力として予め取得する(比較用センサ出力取得工程)。
予め良品の酸素センサ100を用いて基準となる比較用センサ出力値を取得する。
この工程で得られた比較用センサ出力により酸素センサ100の飽和レベルおよび飽和レベル到達時間が取得され、今後の検査に用いられる基準とされる。上記のように飽和レベル200mV以上および飽和レベル到達時間を10分とする。
【0048】
続いて、他の酸素センサ100を製造後に検査する場合や、または、酸素センサ100を一定期間使用した後に良否を検査する場合について説明する(検査工程)。
【0049】
詳しくは、基準ガスを基準電極12に、また、検査ガスを測定電極13に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を検査用センサ出力として取得する(検査用センサ出力取得工程)。
続いて、比較用センサ出力と検査用センサ出力とを比較することにより酸素センサ100の良否を判別する(判定工程)。詳しくは、比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間に基づいて基準時間(例えば5分)を設定し、検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と基準時間(例えば5分)とを比較し、基準時間(例えば5分)よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサは気密性やガス置換性が不良であると判定する。
【0050】
例えば図1のNo.1センサのように基準時間内(5分以内)で飽和レベルに到達している酸素センサ100は気密性およびガス置換性が良好であると判定できる。しかしながら、図1のNo.2センサのように基準時間を超える到達時間(例えば10分)で飽和レベルに到達した酸素センサ100は気密性やガス置換性が不良であると判定できる。また、基準用センサ出力の飽和レベルへの到達時間(例えば5分)内に飽和レベルに達しない図1のNo.3センサも管理基準に到達しない。このように飽和レベルへ到達しないか飽和レベルに到達するも時間を要するものに当てはまるNo.2センサやNo.3センサは、管理基準に到達しないものであって気密性やガス置換性に問題がある、と判定される。
このようにして検査がなされる。
【0051】
続いて、検査ガスを基準時間(例えば5分)経過後に排気する(排気工程)。検査終了後に還元性の検査ガスが直ちに排気され、固体電解質であるセンサ素子10が保護される。また、この後に酸素センサ100が内蔵するセンサ素子10の内部抵抗が増加していないで所定値以内であることを検出すれば、酸素センサ100は良品であると判定され、検査は終了する。酸素センサ検査方法はこのようなものとしても良い。
【0052】
以上、本発明の酸素センサ検査方法について説明した。
このように本発明によれば、酸素濃度が検出下限未満である検査ガスを、酸素センサ内に所定時間流通させたときのセンサ出力挙動を指標として、酸素センサの構造や性能を検証することが可能となった。
また、電気的な出力であるセンサ出力の変化により気密性の低下やガス置換性の低下を判別できるようにしたため、酸素センサの取り付け後で使用中においても可能な検査方法であり、利便性を高めることが可能となった。
また、従来の内部抵抗の管理基準と合わせることにより、従来よりも高いレベルの品質管理を行うことが可能となった。
また、検査自体はセンサ出力の計測のみであり、従来技術のようなヘリウムリーク試験装置も不要として安価な検査方法の提供が可能となった。
【産業上の利用可能性】
【0053】
本発明の酸素センサ検査方法は、工場出荷前の酸素センサは勿論のこと、特にボイラー等の機器に取り付けた後の酸素センサの検査など検査全般に適用することができる。
【符号の説明】
【0054】
100:(濃淡電池方式)酸素センサ
10:センサ素子
11:基材
12:基準電極
13:測定電極
14:基準電極用リード線
15:測定電極用リード線
16:接着剤
20:筐体
21:校正ガスポート
22:配線ポート
30:ヒータ
40:保温材
50:フィルタ
60:フランジ
70:端子台
80:端子箱

【特許請求の範囲】
【請求項1】
固体電解質の内外表面に基準電極および測定電極を配して構成されるセンサ素子を内蔵し、このセンサ素子の基準電極に基準ガスを、また、測定電極に測定対象ガスを通流させて酸素濃度差に応じたセンサ出力により酸素濃度を測定するための酸素センサを検査する酸素センサ検査方法において、
準備工程としては、
基準ガスを基準電極に、また、酸素濃度が検出下限未満である検査ガスを測定電極に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を比較用センサ出力として予め取得する比較用センサ出力取得工程を有し、
検査工程としては、
基準ガスを基準電極に、また、検査ガスを測定電極に通流させて所定期間のセンサ出力挙動を検査用センサ出力として取得する検査用センサ出力取得工程と、
比較用センサ出力と検査用センサ出力とを比較することにより酸素センサの良否を判別する判定工程と、
を有することを特徴とする酸素センサ検査方法。
【請求項2】
請求項1に記載の酸素センサ検査方法において、
前記判定工程では、
比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間とを比較し、基準用センサ出力の飽和レベルへの到達時間よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサは気密性およびガス置換性が不良であると判定することを特徴とする酸素センサ検査方法。
【請求項3】
請求項1に記載の酸素センサ検査方法において、
前記判定工程では、
比較用センサ出力の飽和レベルへの到達時間に基づいて基準時間を設定し、検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間と基準時間とを比較し、基準時間よりも検査用センサ出力の飽和レベルへの到達時間が長い場合に検査対象の酸素センサは気密性およびガス置換性が不良であると判定することを特徴とする酸素センサ検査方法。
【請求項4】
請求項1〜請求項3の何れか一項に記載の酸素センサ検査方法において、
前記検査ガスを所定期間経過後に排気することを特徴とする酸素センサ検査方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2010−210252(P2010−210252A)
【公開日】平成22年9月24日(2010.9.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−53489(P2009−53489)
【出願日】平成21年3月6日(2009.3.6)
【出願人】(591083244)富士電機システムズ株式会社 (1,717)
【Fターム(参考)】