説明

酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置

【課題】化学洗浄中に発生する微細な固形物を除去し、「洗浄中の酸の消費」,「腐食」、「洗浄後にボイラ本体の滞留部への固形物の残留」を低減し、洗浄後のボイラを清浄度の良い状態にすることができる酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置を提供する。
【解決手段】ボイラ1に対しライン2から洗浄液が供給される。ボイラ1から流出した洗浄液は、ライン3によって遠心分離機4に導入され、粗固形物が分離される。遠心分離機により粗固形物が分離された液の一部は、そのままライン5、ポンプ9を経てライン2に送られる。遠心分離機で処理された液の残部は、ライン6を経てフィルター又は膜7にて微固形物の除去処理が行われた後、ライン8、ポンプ9を経てライン2に送られる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置に係り、詳しくは、酸素処理適用ボイラの化学洗浄の際に発生する固形物を液から効率よく除去することができる酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置に関する。
【背景技術】
【0002】
火力発電所等のボイラで使用する水は、以前は脱気により脱酸素処理した水が使用された。酸素を除去するために、機械的な手法(脱気器)と、薬品を使用する揮発性処理(ヒドラジン等の添加)が併用された。これに対し、近年では、給水の中に酸素を注入する酸素給水処理が行われている。
【0003】
酸素給水処理は、ボイラ水に酸素を微量注入し、耐食性の良い酸化鉄皮膜を形成して、防食するためのものである。すなわち、酸素を注入することにより、ボイラ管の内面スケールの最外層は、保護性の高い鉄酸化物(ヘマタイト:Fe)で被覆され、ボイラ管が保護される。酸素が過剰に存在すると、孔食(局部腐食)を生じるため、酸素は通常極微量(20〜200ppb)で管理されている。
【0004】
ボイラ管の内面には、運転中に給水から持ち込まれる鉄および管材料起因の腐食により、スケールが生成する。スケール生成量が多くなると、ボイラ差圧が生じ、運転に支障をきたしたり、水壁管の過熱により管材の劣化が生じる懸念がある。この問題を解決する為に、定期的に付着スケール除去のために化学洗浄を実施している。
【0005】
化学洗浄は、酸(無機酸もしくは有機酸)によりスケールを溶解除去する酸洗浄工程と、その後の水洗浄工程と、その後の防錆処理工程とによって行われる。この酸洗浄工程では、酸溶液をボイラに循環通水する。この酸洗浄工程において、スケールはすべて溶解状態となるのではなく、一部のスケールは剥離して固形物となり、洗浄液中に分散した状態となる。
【0006】
このように生成した固形物は、「洗浄中の酸を消費する」,「腐食を上昇させる」原因となるので、循環液中から除去する。この循環液中から固形物を除去する方法としては、遠心分離機を用いた方法がある(特開平7−96261,特開平7−90651)。
【0007】
特開平7−96261,特開平7−90651では、洗浄液を被洗浄部に循環させながら化学洗浄する方法において、洗浄液の循環路の遠心分離機に循環洗浄液を導入して、液中の固形物を含む濃縮液と清浄液に分離する。濃縮液は、さらに固液分離し、固形分は系外に排出する。分離液は清浄液とともに循環経路に戻す。
【0008】
また、固形物の分離効率を向上させるために、一度遠心分離機に循環洗浄液を導入して得られた濃縮液を第2の遠心分離機に導入して、濃縮液をさらに固液分離し、固形物を系外に排出するとともに、分離液は清浄水とともに循環路に戻す。
【0009】
給水処理が揮発性処理の場合、遠心分離機によって循環液中から固形物を十分に除去することが可能であるが、給水処理が酸素処理の場合、循環液中には粒径が小さい固形物も多く含まれるため、遠心分離機では固形物を効率よく除去することができない。これは、酸素処理により生成するスケールが、結晶構造が非常に小さなヘマタイトよりなるところから、洗浄中に発生する固形物も小さな粒径となるためである。さらに、ヘマタイトは洗浄液に難溶解性であるので、揮発性処理の場合と比較して、洗浄中に溶解せずに剥離し固形物化する量が多い。なお、表1に酸素処理および揮発性処理ボイラの化学洗浄時固形物粒子径および量の一例を示す。
【0010】
【表1】

【0011】
表1の通り、酸素処理ボイラでは20μm未満の固形物が71〜79%であるのに対し、揮発性処理の場合20μm以上の固形物が90%以上である。また、生成する固形物量も、酸素処理のボイラの方が揮発性処理のボイラよりも約2倍以上多い。
【0012】
表2に、酸素処理ボイラの化学洗浄スラッジの性状の一例を示す。表2は、酸素処理ボイラ化学洗浄時に発生した固形物をX線回折で分析した結果を示している。表2の通り、相対強度としてFeが『強い』、α−Feが『強い』、α−FeOOHが『非常に弱い』との結果であった。
【0013】
【表2】

【0014】
特開平9−118993には、薬液洗浄と水洗浄を組合わせたプラントの化学洗浄において、該プラントに循環洗浄が可能な洗浄液循環経路を設け、濾過、イオン交換処理、吸着処理等により洗浄液を浄化して循環使用することが記載されている。
【0015】
しかしながら、酸素処理適用ボイラ化学洗浄時においては、生成する固形物の量が非常に多いため、フィルターのみによる濾過処理では逆洗やフィルター交換等が頻繁に必要となり、実用的ではない。
【0016】
酸素処理のボイラは、洗浄時に生成する固形物量が多いので、「洗浄中の酸を消費する」,「腐食を促進する」といった悪影響に加え、洗浄後にボイラ本体の滞留部に固形物が残留する可能性がある。この固形物の残留により、ボイラ運転再開時に水質が基準値を満たすのに時間を要したり、運転再開後に固形物起因による水壁管等の閉塞・膨出が生じるおそれがある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0017】
【特許文献1】特開平7−96261
【特許文献2】特開平7−90651
【特許文献3】特開平9−118993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0018】
本発明は、化学洗浄中に発生する微細な固形物を除去し、「洗浄中の酸の消費」、「ボイラ腐食」、「洗浄後にボイラ本体の滞留部への固形物の残留」を低減し、洗浄後のボイラを清浄度の良い状態にすることができる酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0019】
本発明(請求項1)の酸素処理適用ボイラの洗浄方法は、給水処理に酸素処理を適用しているボイラを洗浄する方法であって、該ボイラに液を循環供給すると共に、液から固形物を除去手段で除去する酸素処理適用ボイラの洗浄方法において、該液から固形物を除去するに際し、まず遠心分離機による粗固形物の除去処理を行い、その後、フィルター又は膜濾過により微固形物の除去処理を行うことを特徴とするものである。
【0020】
請求項2の酸素処理適用ボイラの洗浄方法は、請求項1において、循環している液の全量について遠心分離機による粗固形物の除去処理とフィルター又は膜による微固形物の除去処理とを行うことを特徴とするものである。
【0021】
請求項3の酸素処理適用ボイラの洗浄方法は、請求項1において、循環している液の全量を遠心分離機で粗固形物の除去処理を行い、遠心分離機処理後の液の一部についてフィルター又は膜による微固形物の除去処理を行うことを特徴とするものである。
【0022】
請求項4の酸素処理適用ボイラの洗浄方法は、請求項1ないし3のいずれか1項において、前記粗固形物の平均粒径が20μm以上であることを特徴とするものである。
【0023】
本発明(請求項5)の酸素処理適用ボイラの洗浄装置は、給水処理に酸素処理を適用しているボイラを洗浄する装置であって、該ボイラに液を循環供給すると共に、液から固形物を除去手段で除去する酸素処理適用ボイラの洗浄装置において、該液から固形物を除去する手段として、まず粗固形物の除去処理を行う遠心分離機と、その後、微固形物の除去処理を行うフィルター又は膜濾過装置とを備えたことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の酸素処理適用ボイラの洗浄方法及び装置では、酸素処理適用ボイラの化学洗浄時に発生する固形物のうち粗固形物をまず遠心分離機で除去し、その後、フィルター又は膜に通液して微固形物を除去するので、微細な固形物も効率よく除去することができる。また、フィルターや膜の逆洗や交換頻度も少なくて足りる。
【0025】
本発明によれば、洗浄時の固形物に起因したエロージョンによる腐食が低減される;ボイラ本体に残留する固形物量を減少させることができる;ボイラ起動時の水洗水量の減少及び洗浄時間の短縮を図ることができる;固形物残留によるボイラ水壁管等の閉塞および閉塞による噴破リスクを低減できる;等の効果が得られる。
【図面の簡単な説明】
【0026】
【図1】本発明方法を説明するフロー図である。
【図2】比較例の結果を示すグラフである。
【図3】実施例の結果を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0027】
以下、本発明についてさらに詳細に説明する。第1図は本発明方法及び装置の一例を示すフロー図である。
【0028】
ボイラ1に対しライン2から洗浄液が供給される。ボイラ1から流出した洗浄液は、ライン3によって遠心分離機4に導入され、粗固形物が分離される。遠心分離機4により粗固形物が分離された液の一部は、そのままライン5、ポンプ9を経てライン2に送られる。遠心分離機4で処理された液の残部は、ライン6を経てフィルター又は膜濾過器(第1図では「膜」と略記)7にて微固形物の除去処理が行われた後、ライン8、ポンプ9を経てライン2に送られる。遠心分離機4で分離された粗固形物を含む濃縮液は、固形物分離槽10に送られ、沈降分離などの固液分離手段で固液分離処理される。分離された液分は、ポンプ11,9を経てライン2に送られる。このように、ボイラ洗浄液を遠心分離機4で処理した後、フィルター又は膜濾過器7により濾過処理することにより、ライン2から循環される液中の固形物濃度が十分に低いものとなる。また、フィルターや膜の差圧上昇を抑制し、長期にわたって安定して効率良く微細な固形物を除去することが可能となる。フィルターで除去する固形物量が低減できるので、差圧上昇によるフィルター交換頻度、逆洗タイプでは逆洗回数を低減することが可能となる。膜についても、逆洗回数を低減することが可能である。
【0029】
本発明方法及び装置は、酸洗浄工程だけでなく、その後の水洗・防錆までのすべての工程に適用することができる。なお、酸洗浄工程のみ、水洗工程のみ、防錆工程のみ、いずれか2工程のみ等のように、一部の工程にのみ適用することも可能である。
【0030】
遠心分離機4としては、粒径が20μm以上の固形物を遠心分離できる特性のものが好適である。即ち、本発明において、遠心分離機で分離される粗固形物の平均粒径は20μm以上、例えば20〜200μm程度であることが好ましい。なお、固形物の粒径は、レーザ回折・散乱法により粒度分布を測定した値である。
【0031】
微固形物を除去するフィルター又は膜としては、各種のものを用いることが可能性である。フィルターとしては、カートリッジ方式の金属フィルター(SUS製)、ナイロン6製フィルターなどを用いることができる。フィルターとしては、逆洗タイプのものが、繰り返し使用できるのでの好ましい。膜としては、中空糸膜で高温(例えば55℃以上)でも使用できるものが好適であるが、これに限定されない。フィルター及び膜濾過装置の容量は、ボイラ洗浄時の液量および流量によって設定するのが好ましい。
【0032】
遠心分離機4が20μm以上の固形物を除去する性能を有するものである場合、フィルター又は膜は、20μm以下の濾過精度を有しているものが良い。1〜5μm程度の孔径のフィルター又は膜を適用することにより99%以上の固形物を除去することができる。なお、事前にボイラから流出する洗浄液中の固形物の濃度及び粒径分布を測定しておき、それに応じて適切な濾過精度のフィルター又は膜を選択するのが好ましい。
【0033】
第1図では、遠心分離機4で処理した液の一部(例えば50〜75%程度)をフィルター又は膜濾過器7でさらに処理し、残部についてはそのまま循環させているが、遠心分離機4で処理した液の全量についてフィルター又は膜濾過器7で処理して循環させるようにしてもよい。
【実施例】
【0034】
以下、比較例及び実施例について説明する。
【0035】
[比較例1]
第1図に示すフローにおいて、油焚火力発電所のボイラ1の酸洗浄時にボイラから流出する洗浄液を遠心分離機4によってのみ処理し、粗固形物を除去した。遠心分離機4の流入口及び吐出口でそれぞれサンプルを採取し、固形物濃度を測定した。結果を第2図に示す。第2図の通り、固形物濃度は洗浄開始後増加し、126〜167mg/lで推移した。固形物の除去効率は0〜58%と低い値であった。
【0036】
[実施例1]
比較例1において、遠心分離処理後の液を孔径1,5,10又は20μmのフィルターに通液し、濾液の固形物濃度を測定した。その結果を第3図に示す。第3図の通り、固形物除去率は1μm,5μmフィルターでは99%以上、10μmフィルターでは82%、20μmフィルターでは31%であった。このように、フィルターを用いることにより、固形物の濃度が十分に低減されることが確認された。
【符号の説明】
【0037】
1 ボイラ
4 遠心分離機
7 フィルター又は膜

【特許請求の範囲】
【請求項1】
給水処理に酸素処理を適用しているボイラを洗浄する方法であって、
該ボイラに液を循環供給すると共に、液から固形物を除去手段で除去する酸素処理適用ボイラの洗浄方法において、
該液から固形物を除去するに際し、まず遠心分離機による粗固形物の除去処理を行い、その後、フィルター又は膜濾過により微固形物の除去処理を行うことを特徴とする方法。
【請求項2】
請求項1において、循環している液の全量について遠心分離機による粗固形物の除去処理とフィルター又は膜による微固形物の除去処理とを行うことを特徴とする酸素処理適用ボイラの洗浄方法。
【請求項3】
請求項1において、循環している液の全量を遠心分離機で粗固形物の除去処理を行い、遠心分離機処理後の液の一部についてフィルター又は膜による微固形物の除去処理を行うことを特徴とする酸素処理適用ボイラの洗浄方法。
【請求項4】
請求項1ないし3のいずれか1項において、前記粗固形物の平均粒径が20μm以上であることを特徴とする酸素処理適用ボイラの洗浄方法。
【請求項5】
給水処理に酸素処理を適用しているボイラを洗浄する装置であって、
該ボイラに液を循環供給すると共に、液から固形物を除去手段で除去する酸素処理適用ボイラの洗浄装置において、
該液から固形物を除去する手段として、まず粗固形物の除去処理を行う遠心分離機と、その後、微固形物の除去処理を行うフィルター又は膜濾過装置とを備えたことを特徴とする酸素処理適用ボイラの洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【公開番号】特開2012−24735(P2012−24735A)
【公開日】平成24年2月9日(2012.2.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−168324(P2010−168324)
【出願日】平成22年7月27日(2010.7.27)
【出願人】(390027188)栗田エンジニアリング株式会社 (26)
【Fターム(参考)】