説明

酸素消費電極およびその製造方法

【課題】 本発明の課題は、液体について高い不浸透性および気体の貫流が達成することができ、気体側からの電気接触が可能となる、低い厚みを有し、および要求される疎水性を得る多層酸素消費カソードを製造する。
【解決手段】酸素含有気体に面する側およびアルカリ性電解質に面する側を有し、少なくとも1つの支持体、および触媒および疎水性物質を含む少なくとも2つの層であって、気体側に面する最外層が、電解質側に面する最外層より低い触媒の割合を有し、疎水性物質の割合が、触媒および疎水性物質の全量を基準として8重量%を越えない層を含んでなる、多層酸素消費電極。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シート状ガス拡散電極として構成され、通常、導電性支持体および触媒活性成分を有するガス拡散層を含むそれ自体既知の酸素消費電極から進展する。
【背景技術】
【0002】
工業規模上での電解セル中の酸素消費電極の操作のための種々の提案が、先行技術から基本的に知られている。基本的な考えは、電解(例えば塩素アルカリ電解において)の水素発生カソードを酸素消費電極(カソード)に置き換えることである。可能なセル設計および溶液の概説は、Moussallem等による出版物、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、38(2008年)、第1177〜1194頁に見出し得る。
【0003】
酸素消費電極(以下、略して、OCEとも称する)は、工業的電解において用いられるために一連の要件を充足しなければならない。従って、触媒および用いる全ての他の材料が、約32重量%の濃度を有する水酸化ナトリウム溶液におよび通常80〜90℃の温度で純酸素に化学的に安定性でなければならない。高度の機械安定性は、電極が通常2m(工業寸法)を越える電極面積を有する電解槽に設置されおよび操作されるので、同様に要求される。さらなる特性は、以下の通りである:高い電気伝導性、小さい層厚み、大きい内部表面積および高い電解触媒の電気化学活性、ならびに気体および液体が互いに分離されたままである不浸透性。長期安定性および低い製造コストは、工業的に使用可能な酸素消費電極が満たさなければならない更なる特定の要件である。
【0004】
本発明は、特に、複数の層において構成され、および触媒またはPTFE濃度について気体側および電解質側の間で差異を有し、および湿潤法により製造することができる酸素消費電極に関する。先行技術の酸素消費カソードは、電気化学法における種々の配置、例えば燃料電池における発電においてまたは塩化ナトリウムの水溶液からの塩素の電解調製において用いられる。酸素消費カソードを用いる塩素アルカリ電解の詳細な説明は、Journal of Applied Electrochemistry、第38巻(9)、第1177〜1194頁(2008年)に見出し得る。酸素消費カソードを有する電解セルの例は、文献EP1033419B1、DE19622744C1およびWO2008006909A2に見出し得る。
【0005】
酸素消費カソードは通常、支持体要素、例えば多孔質金属から構成される板または金属ワイヤーから構成される織物メッシュ、および電気化学活性コーティングからなる(DE3710168)。電気化学活性コーティングは、多孔質であり、親水性および疎水性の成分からなる。疎水性成分は、電解液の浸透を困難にし、従って、酸素の触媒活性位置への輸送について自由である適切な細孔を保持する。親水性成分は、電解質の触媒活性位置への浸透、および水酸化物イオンの外側への輸送が可能となる。疎水性成分として、例えばポリテトラフルオロエチレン(PTFE)が用いられる。疎水性表面は、通常、純水で湿らすことにより140℃を越える接触角を有する。
【0006】
酸素消費カソードの製造では、原則として、乾燥および湿潤の間で区別することができる。
【0007】
乾燥法では、触媒およびポリマー成分(例えばPTFE)の粉末混合物が製造され(例えばDE2941774に記載のように)、次いで電気導電性支持体要素上に分布された粒子へ製粉され、および室温で圧縮される。このような方法は、例えばEP1728896A2に記載されている。銀酸化物/銀は、好ましい触媒として記載され、ポリテトラフルオロエチレン(PTFE)は、バインダーとして記載されて、ニッケルワイヤー製金網は、支持体として記載されている。
【0008】
湿潤製造工程の場合には、触媒およびポリマー成分からなる、分散媒、好ましくは水中におけるペーストまたは懸濁液を用いる。懸濁液を製造するために、さらなる界面活性物質を、懸濁液またはペーストの安定性を向上させるために添加することが可能である。加工性を向上させるために、増粘剤を懸濁液に添加することができる。次いで、ペーストは、スクリーン印刷法またはカレンダー法により電流分配器へ適用されるが、より低い粘度の懸濁液は通常、噴霧される。
【0009】
ペーストまたは懸濁液を、過剰の分散媒の除去後に穏やかに乾燥させ、ポリマーの融点の領域の温度でプレスする(Journal of Applied Electrochemistry、第38巻(9)、第1177〜1194頁(2008年)。酸素消費カソードは、支持体に適用された単一層から構成されてよい。該支持体は、この場合、多くの役割、まず、完成OCCの機械安定性の提供および/または触媒活性層内の電流の分布を果たすことができる。
【0010】
しかしながら、既知の単一層電極は、液体または気体の貫流に敏感である欠点を有する。これは、特に工業電解層において決定的に重要である。ここで、気体は、気体空間から電解質空間へ移動してはならず、電解質は、電解質空間から気体空間へと移動してはならない。工業電解層では、酸素消費カソードは、例えば170ミリバールの工業電解セルの底で優勢な静水圧に耐えなければならない。ガス拡散電極は、細孔系を有するので、少量の液体は常に、気体空間へ移動し、気体は液体空間へ移動する。その量は、電解槽のセル設計に依存する。OCCは、10〜60ミリバールの気体空間および液体空間の間で異なる圧力で気体不浸透性/液体不浸透性であるべきである。ここで、気体不浸透性とは、気泡の電解質空間への侵入が肉眼で確認することができないことを意味する。液体不浸透性とは、10g/(時間×cm)を越える液体の量が、OCC(gは、液体の質量であり、hは1時間であり、cmは幾何学的電極表面積である)により移動することを意味する。
【0011】
しかしながら、非常に多い液体がOCCを通過する場合、液体は、気体側に面する側上を下流として流れることができる。これは、OCCへの気体の接続を妨げ、これにより、OCCの性能について悪影響を及ぼす(酸素の供給不足)液体皮膜の形成が生じる。非常に多い気体が電解質空間に移動する場合、気泡は、電解室空間から取り出されなければならない。いずれの場合にも、気体は、電極領域および被膜領域の一部を覆い、これは、出力密度において、従ってセルの定電流操作において、電流密度の部分的上昇およびセルを越えるセル電圧の望ましくない上昇へのシフトを生じさせる。
【0012】
上記の要件プロファイルを満たす単一層酸素消費カソードは、これまで知られていない。利用できる酸素消費カソードを工業電解槽において操作するために、セル設計は、これまで、酸素消費カソードの不足に適合させてきた。例えば、DE19622744C1に記載の通り、気孔により気体空間を分割することにより電極の液体流の静水高さを補い、静水圧に適合した気圧を各気孔において設定する、圧力補正を有する電解槽が開発されてきた。しかしながら、これらは、高い費用およびセルの構築における材料の使用とは別に、電極面積が失われず、多くの電解要素またはより広い電極面積が、電解セルの同一の電力を得ることを要求するという欠点を有する。しかしながら、これらは、高い費用およびセルの構築における材料の使用とは別に、電極面積も失われず、多くの電解要素またはより広い電極面積が、電解槽の同一の電力を得るのに必要であるという欠点を有する。
【0013】
湿潤法により製造された単一層OCCは、特に、不満足な気体不浸透性および電解質不浸透性のため工業電解槽に用いることができないことが見出された。
【0014】
多層酸素消費カソードは、基本的に、乾燥または湿潤ペースト法により製造することができる。EP1728896によれば、多層酸素消費カソードは、乾燥法により製造される。ここで、PTFE含有量が3〜15重量%で変化する粉末層が製造される。異なるPTFE含有量を有する層の配置について説明されていない。記載の方法の欠点は、層を任意に薄くすることができないことである。この結果、該構造を有する多層酸素消費カソードは比較的厚く、これは、電解中に増加したセル電圧を生じさせ、材料の増加量に起因して高い製造コストを招く。
【0015】
US46024261は同様に、乾燥法により製造された多層酸素消費カソードを開示する。開示された最も良好な2層電極は、少なくとも0.89mmの厚みを有する。開示のPTFE含有量は、少なくとも10重量%〜50重量%の範囲である。このような高いPTFE含有量は、電極中における電気導電性ネットワークを形成しない活性触媒粒子を生じさせ、従って触媒物質の全量を、電気化学反応に利用できない。これは、電解セルの効率を低下し、従って、セル電圧を上昇させる。
【0016】
US5584976は、銀基材の両側にセルを適用することにより製造される多層酸素消費カソードを開示する。ここで、気体側に直面する最外層は、疎水性物質から完全に作られ、純粋な多孔質PTFE層は、ここに開示される。これらの多層酸素消費カソードに開示のセル電圧は、2.3〜2.4V(3kA/mの電流密度で)の範囲であり、従って非常に高い。
【0017】
疎水性層におけるPTFE含有量が比較的高く、従って高いセル電圧を生じさせるか、または製造方法が、厚い電極を生じさせ、従って比較的高いセル電圧を生じさせることは、これらの多層酸素消費カソード全てに共通する。
【0018】
特に気体側に直面する側が高いPTFE含有量を有する場合、電極は、特にセル構造に用いることができない。従って、例えば低下するフィルムセル技術におけるOCCの接触は、弾性マットまたは類似する構造により気体側から行われる。従って、例えばOCCの接触は、流下薄膜セル技術(DE3401636A1またはWO0157290A1)において、弾性マットまたは類似する構造により気体側からもたらされる。しかしながら、高いPTFE含有量は、セルの電気伝導性を著しく上昇させ、従って、より高いセル電圧を生じさせる、より高いオーム抵抗が存在するか、または接触が全くできないため、その結果、OCCの導入が、電解セル中において極めて複雑である。
【0019】
Bidault等(2010年、Int.J.of Hydrogen Energy、「An improved Cathode for alkaline fuel cells」、第35巻、第1783〜1788頁)は、酸素消費カソードの厚みが、電極の性能全体に極めて大きく影響を与えることができることを研究により示すことができた。2層電極をニッケル形態で用いる測定では、アノードに面する層は、めっきされた銀から構成された。気体空間に面する層は、多孔質炭素/PTFE混合物から構成された。これらの電極は、厚みを0.7mmから0.5mmに下げることが、半電池電位を100mV向上させることが可能であることを示した。0.5mm未満の層厚みは、ここで用いる2層構造において、十分な電解質不浸透性でなく、気体空間へ貫流する電解質が生じる電極を生じさせる。
【0020】
本発明は、新規な多層触媒コーティングを有する、アルカリ性媒体中での酸素の還元のための酸素消費電極、ならびに電解装置に関する。本発明はさらに、酸素消費電極のための製造方法および塩素アルカリ電解または燃料電池におけるその使用に関する。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0021】
【特許文献1】欧州特許第1033419号明細書
【特許文献2】独国特許出願公開第19622744号明細書
【特許文献3】国際公開第2008006909号パンフレット
【特許文献4】独国特許第3710168号明細書
【特許文献5】独国特許第2941774号明細書
【特許文献6】欧州特許出願公開第EP1728896号明細書
【特許文献7】米国特許第46024261号明細書
【特許文献8】米国特許第5584976号明細書
【特許文献9】独国特許第3401636号明細書
【特許文献10】国際公開第0157290号パンフレット
【非特許文献】
【0022】
【非特許文献1】Moussallem、「Chlor−Alkali Electrolysis with Oxygen Depolarized Cathodes: History, Present Status and Future Prospects」、J.Appl.Electrochem、第38巻、2008年、第1177〜1194頁
【非特許文献2】Journal of Applied Electrochemistry、第38巻(9)、2008年、第1177〜1194頁
【非特許文献3】Bidault、「An improved Cathode for alkaline fuel cells」、Int.J.of Hydrogen Energy、第35巻、第1783〜1788頁、2010年
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0023】
本発明の課題は、低い厚みを有し、および要求される疎水性を得る多層酸素消費カソードを製造することであり、その結果、液体について高い不浸透性および気体の貫流が達成することができ、気体側からの電気接触が可能となる。
【課題を解決するための手段】
【0024】
先行技術から既知の欠点を解消する可能な方法は、請求項1の本発明の特徴部分による酸素消費カソードの多層構造である。
【発明を実施するための形態】
【0025】
本発明の実施態様は、特に電気伝導性である少なくとも1つの支持体、触媒を含有する層および疎水性層を含み、該電極が酸素含有気体に面する側およびアルカリ性電解質に面する側を有し、該電極が、異なった触媒含有量を有し、気体側に面する最外部の層が、電解質側に面する最外部より低い触媒の割合を有する触媒を含有する含有する少なくとも2つの異なった層を有し、疎水性物質の割合が疎水性中において8重量%を越えないことを特徴とする、水性アルカリ媒体中における酸素の還元のための多層シート状酸素消費電極を提供する。
【0026】
他の実施態様は、電極が、少なくとも1つの支持体、および触媒を含む少なくとも2つの層、および気体側に面する最外層が、電解質側に面する最外層より低い触媒の割合を有し、疎水性物質の割合が、触媒および疎水性物質の全量を基準として8重量%を越えない疎水性物質を含む酸素含有気体に面する側およびアルカリ性電解質に面する側を有する多層酸素消費電極である。
【0027】
本発明のさらに他の実施態様は、
a)触媒活性物質の粒子、分散媒および疎水性ポリマーの粒子を含む成分を分散または混合することにより少なくとも2つの懸濁液を製造する工程であって、該少なくとも2つの懸濁液は、疎水性ポリマーの異なった割合を有する、工程
b)少なくとも2つの懸濁液を、1以上の工程において支持体に噴霧して、触媒を異なった割合で含む少なくとも2つの層を製造する工程であって、該支持体を100℃〜160℃の範囲の温度に加熱し、それにより、少なくとも部分的に分散媒を除去する、工程、
c)工程b)後に得られた電極を、0.04〜0.4t/cm2の圧力下で、60〜200℃の温度にて加熱プレスする工程、
d)次いで、電極を少なくとも200℃の温度で焼結する工程
を含む、酸素消費電極を製造するための方法である。
【0028】
本発明のさらなる他の実施態様では、酸素消費カソードとして本明細書に記載の任意の実施態様に従う酸素消費電極を含有する塩素アルカリ電解装置である。
【0029】
本発明のさらなる他の実施態様は、本明細書に記載の任意の実施態様による酸素消費電極を含有する燃料電池である。
【0030】
本発明のさらなる他の実施態様は、本明細書に記載の任意の実施態様による酸素消費電極を含有する金属/空気電池である。
【0031】
新規な多層酸素消費電極は、既知のOCEより気体または電解質の貫流に対してより不浸透性である。技術的解決を達成するこのアプローチは、層または疎水性コーティングを、電解質が、そこで細孔中へ浸透しないように製造することである。ここで、さらなる層を、電解質および反応水が触媒へ浸透することができ、電気化学反応が起こり得るように、親水性にする。これにより、液体は、電極中へ片側で浸透することができるが、気体側へ電極を貫流することができないことが確保される。同時に、気体も浸透することができるが、電解質側へ貫流することができない。
【0032】
好ましい酸素消費電極は、触媒が触媒活性成分として銀を含有することを特徴とする。
【0033】
多層酸素消費電極の好ましい実施態様は、少なくとも2つの触媒含有層が存在し、気体側に面する側上の層が、92〜98重量%の触媒含有量を有し、電解質側に面する層は、95〜99.9重量%の触媒含有量を有し、100%に対する触媒層のバランスは、疎水性ポリマーに基づくことを特徴とする。
【0034】
酸素消費電極の特に好ましい実施態様は、少なくとも3つの触媒含有層が存在し、気体側に面する最外層が92〜98重量%の触媒含有量を有し、電解質側に面する最外層が95〜99.9%の触媒含有量を有すること、および気体側に面する最外層の触媒含有量を越え、かつ電解質側に面する最外層の触媒含有量未満の触媒含有量を有する中間層が存在することを特徴とする。
【0035】
本発明の好ましい実施態様では、疎水性層が、疎水性ポリマー、特にフッ素置換ポリマー、好ましくはPTFEを含む。
【0036】
酸素消費電極の特定の変形は、電極が100mg/cm〜300mg/cm、好ましくは140mg/cm〜250mg/cmの範囲の触媒活性成分の全投与量を有することを特徴とする。
【0037】
酸素消費電極の支持体は、有利には、ニッケル、銀、またはニッケルおよび銀の組み合わせである。
【0038】
特に、酸素消費電極の支持体は、ガーゼ、編織布、形成ループニット、引張ループニット、不織布またはフォーム、好ましくは編織布の形態である。
【0039】
新規な酸素消費電極の厚みは、好ましくは0.2〜0.8mmであり、触媒含有層の厚みは、0.4mmを越えない。
【0040】
本発明のOCCは、異なった特性、すなわち異なった、非常に低いPTFE含有量を有する層を、目標とした方法により適用することを可能とし、同時に電解セル中で操作することができる電極を極めて低いセル電圧で操作することができる電極を生じさせる、湿潤ペースト法または噴霧法により製造することができる。
【0041】
湿潤法により得られる電極は概して、以下の工程:
1.触媒およびPTFE、必要に応じて増粘剤、安定剤および界面活性剤の懸濁液/ペーストの製造工程、
2.懸濁液/ペーストの支持体への適用工程、
3.乾燥、任意の焼結工程、
4.任意の、工程2および3を繰り返す工程、
5.任意の、工程4からのOCCの任意に高温での圧縮工程、
6.焼結工程
により製造することができる。
【0042】
本発明は、
a)少なくとも触媒活性物質の粒子、好ましくは銀粒子、および分散媒、好ましくは有機溶媒または水、特に好ましくは水、疎水性ポリマーの異なった割合を有する疎水性ポリマーの粒子からなる成分を分散または混合することにより少なくとも少なくとも2つの懸濁液を製造する工程、
b)該懸濁液を、1以上の工程において支持体に噴霧して、変動層、好ましくはニッケル支持体を製造する工程であって、該支持体を、100℃〜160℃、好ましくは100〜145℃の範囲の温度に加熱し、分散媒を少なくとも部分的に除去する工程、
c)工程b)後に得られた電極を、特に、0.1〜3t/cmの範囲の圧力下で、好ましくは0.1〜0.25t/cmの範囲で、110℃〜140℃の範囲の温度で、特に好ましくは130℃にて加熱プレスする工程、
d)次いで、少なくとも200℃の温度で、好ましくは少なくとも250℃で、特に好ましくは少なくとも300℃の温度で、電極を焼結する工程
により新規な酸素消費電極を製造するための方法をさらに提供する。
【0043】
従って、好ましいのは、触媒を含有する層を、銀粒子を含有する懸濁液を支持体に適用し、該懸濁液を乾燥し、該層をプレスし、次いで形成された電極を焼結することにより製造されることを特徴とする、上記の新規な酸素消費電極である。
【0044】
上記方法の特に好ましい変形では、懸濁液のために粉末形態で用いられる銀は、<8μmのD90および<1μmのD10を有する銀粒子の粒度分布を有する(Stiessにより「Mechanische Verfahrenstechnik − Partikeltechnologie 1」、2009年、第3版、Springer−Verlag、第32頁以降に記載の通り決定)。
【0045】
懸濁液のための銀粒子のタップ密度は、特に好ましくは2〜6g/cm、好ましくは3〜5g/cmの範囲(DIN ISO 3953)である。
【0046】
BET法により決定の新規な方法に用いる銀粉末の平均表面積は、極めて特に好ましくは0.3〜2.5m/g、好ましくは0.50〜1.5m/gの範囲である。
【0047】
例えば、Ferro(Hanau)からの等級SF9ED、331,311の銀粉末または銀をPTFE上に沈殿させたEP115845A2に記載の触媒を用いることが可能である。異なった銀粉末を、異なった層に用いることができる。ここでは、該層は、異なったPTFE含有量を有することができる。
【0048】
触媒は、例えば疎水性ポリマーを含有する懸濁液、例えば市販のPTFE懸濁液と共に混合する。懸濁液を安定化および増粘させるために、例えばメチルセルロースを添加する。懸濁液のメチルセルロース含有量は、例えば0.5%である。懸濁液のメチルセルロース含有量は、例えば0.5%である。あるいは、ポリビニルアルコール(PVA)およびポリアクリレート(PA)は、好ましい増粘剤として有用であると見出された。
【0049】
懸濁液は、洗浄剤をさらに含むことができる。例えば、洗浄剤は、イオン界面活性剤または非イオン界面活性剤、例えば商品名群Tweenとして一般に知られている物質または商品名群Tritonとして既知の物質である。好ましいのは、洗浄剤を用いることであり、特に好ましくはTriton−X 100である。
【0050】
例えば、電極は、懸濁液を支持体、例えばニッケルガーゼ、銀めっきニッケルガーゼまたは銀ガーゼに適用することにより製造する。これは、噴霧法によりまたはドクター刃法またはKisscoater法またはスクリーン印刷法のような他の従来法により達成することができる。本発明の電極の異なった層は、まず1つの層を支持体に適用して構成する。この中間層は、例えば2〜8重量%のPTFE含有量を有する。
【0051】
この中間層は、支持体が任意のギャップを有さなくなるような厚みを有する。電極の触媒投与の20〜80%が、通常、この層に組み込まれる。
【0052】
メッシュの隙間がほんの僅かであるニッケルガーゼからなる支持体を用いる場合、噴霧工程および乾燥工程の循環は、不浸透性電極を製造するのにほとんど要求されない。
【0053】
次いで、懸濁液を、好ましくは、電解質に面する電極の側に、溶媒の除去が0.2〜5重量%、好ましくは0.5〜2重量%のPTFE含有量となるような量で塗布する。該層は、適切に薄くすることができる。投与量は、通常、全電極の触媒投与の2〜40重量%である。
【0054】
2〜8重量%のPTFE含有量は、特に好ましくは、気体側に面する電解質の側上で製造する。投与量は通常、全電極の触媒投与の2〜40重量%である。
【0055】
全電極の投与は、好ましくは少なくとも100mg/cm、特に好ましくは140mg/cmの銀であり、より多くの投与は、セル電圧および気体および液体に対する不浸透性についての性能に関してさらなる優位性を与えない。
【0056】
このようにして適用された層は、加熱しながらまたは加熱基材上に置きながら、特に有利に支持体に適用される。温度は、特に60℃を越え、特に好ましくは100℃を越えるべきであり(水性分散体を用いる場合)、好ましくは200℃を越えるべきではない。
【0057】
電極完成後、まず、電極を焼結する前にプレスする。これは、プレス工具、例えば水圧ポンチを用いてまたはローラーを用いて圧縮することにより行うことができる。プレスを、水圧ポンチを用いて行う場合、プレス力は、好ましくは0.04t/cmの最小値〜0.4t/cmを越えず、好ましくは0.08〜0.3t/cmである。プレスを、高温、例えば60〜200℃の温度、好ましくは80〜150℃の温度で行うことができる。
【0058】
プレス後、電極を焼結する。焼結は、好ましくは、少なくとも200℃、好ましくは少なくとも250℃、特に好ましくは少なくとも300℃、とりわけ400℃までの温度で行う。焼結は、用いる任意の増粘剤および/または洗浄剤の残存量を除去することを可能にするので、特に有利である。従って、これらの材料は、電極中に残渣としてまたは表面上に皮膜として残存することがなく、従って、例えば電極のオーム抵抗を低下させることがない。同様に、好ましく用いるフッ素化ポリマーは、通常、顕著な蒸気圧をこれらの温度で有するか、またはかなりの量にこれらの温度で未だ分解しないので、単に軟化し、金属粉末と共に安定性皮膜を与える。
【0059】
焼結法は、例えば、電極を、1つの操作において室温から約340℃の目的とする温度に少なくとも2K/分で加熱することにより行うことができる。特定の温度水準での滞留時間を有する傾斜状温度上昇も可能である。300〜350℃、好ましくは330〜345℃の温度を達成するために、電極を、例えば、以下のように加熱する:室温から、電極を、2℃/分の最小値から200℃までの温度上昇で加熱し、次いで15分間該温度で保持し、次いで2℃/分の最小値から250℃の温度上昇でさらに加熱し、次いで15分間該温度で再び保持し、再び、2℃/分の最小値から300℃に加熱し、15分間保持し、次いで、2℃/分で最終温度に加熱し、同様に15分間保持する。次いで、該電極を、10〜200℃/分で冷却し、冷却後、用いる状態になる。
【0060】
本発明の方法は、まず、液体または気体の貫流に対して高い安定性を有し、次に低いセル電圧を2.0Vの領域で4Ka/mで有する多層酸素消費電極を製造することを可能とする。
【0061】
本発明の酸素消費電極を、例えば、酸素消費電極とイオン交換膜の間のアルカリギャップを有するセルにおける、またはイオン交換膜との直接接触における、または親水性物質をイオン交換膜と酸素消費電極の間のギャップに有する、US6117286A1に記載の方法と比較し得るセルにおける塩素アルカリ電解において、用いることができる。
【0062】
新規な酸素消費電極は、好ましくは、カソードとして、特に、アルカリ金属塩化物、好ましくは塩化ナトリウムまたは塩化カリウム、特に好ましくは塩化ナトリウムの電解のための電解セルにおいてカソードとして接続する。
【0063】
あるいは、酸素消費電極は、好ましくは燃料電池においてカソードとして接続することができる。このような燃料電池の好ましい例は、アルカリ性燃料電池である。
【0064】
従って、本発明は、さらに、アルカリ性媒体中における酸素の還元のための、電解、特に塩素アルカリ電解中における酸素消費カソードとしての、または燃料電池中における電極としての、または金属/空気電池中における電極としての新規な酸素消費電極の使用を提供する。
【0065】
新規なOCEは、特に好ましくは塩素アルカリ電解中に、特に塩化ナトリウム(NaCl)の電解に用いる。
【0066】
本発明は、さらに、酸素消費カソードとして記載の新規な酸素消費電極を有する、特に塩素アルカリ電解のための電解装置を提供する。
【0067】
本発明は、制限されることなく、実施例により説明される。
【0068】
上記の全ての参照は、全ての有用な目的のためにその全体の参照により組み込まれる。
【0069】
本発明を具体化するある特定の構造を示し、および記載したが、これらは、根本的な本発明の概念の精神および範囲から逸脱することなく、種々の変形および再配列がなされ得ることは当業者には明らかであり、本明細書に示され、記載された特定の形態に制限されない。
【実施例】
【0070】
酸素消費カソード、3層、触媒含有量99重量%(電解質側)、98重量%(中間)、97重量%(気体側)の製造
【0071】
Ferroからの銀触媒、SF9ED、PTFE懸濁液(TF5035R、58 重量%、Dyneon(商標))、非イオン性界面活性剤(Triton−X 100、Fluka Chemie AG)および増粘剤としてのヒドロキシエチルメチルセルロース(Walocel MKX 70000 PP 01、Wolff Cellulosics GmbH&Co.KG)からなる水性懸濁液を、銀およびPTFEの種々の含有量で製造した。97重量%の銀含有量および3重量%のPTFE含有量を有する懸濁液の製造を、適切な量に検量することにより行う。98重量%および99重量%の銀含有量を有する懸濁液の製造を同様に行った。90gの銀粉末、53.7gの水および1.5gの界面活性剤を、150gの増粘性溶液(水中に1重量%のメチルセルロース)に添加した。回転子−固定子系(分散ユニットS25N−25F、IKAを有するUltra−Turrax T25)において13500分−1で5分間(溶液の過剰な加熱を避けるため、いずれの場合の1分間の分散の間に2分停止)の懸濁液の分散後、4.8gのPTFE懸濁液を、凝集を避けるために撹拌しながらゆっくり添加した。
【0072】
こうして製造した懸濁液を、ニッケルガーゼ(製造業者:Haver&Boecker、106×118μmガーゼ、63μmワイヤー厚み)上に何度も噴霧した。充填を、触媒充填の50%を中間に適用し、いずれの場合にも25%の触媒充填を電極側および電極の気体側上適用した。噴霧の間、ニッケルガーゼを100℃の温度で維持した。触媒の170g/cmの所望の全充填を達成した後、電極を2つの金属板の間に固定し、130℃の温度および0.14t/cmの圧力で加熱プレスした。次いで、電極を、3K/分にて空気中で加熱し、340℃で15分間焼結した。
【0073】
こうして製造された酸素消費カソード(OCC)を、DuPONTからのN982WXイオン交換膜を用いて塩化ナトリウム溶液の電解中に用いた。4kA/mの電流密度、90℃の電解質温度、3mmのOCCおよびイオン交換膜間の水酸化ナトリウム溶液ギャップおよび32重量%の水酸化ナトリウム濃度でのセル電圧は、2.09Vであった。電解質は、酸素の電解質側への貫流を200ミリバールの酸素圧まで示さず、気体側へのアルカリの貫流を1mの静水高さまで示さなかった。塩素アルカリ電解のための市販の貴金属被覆チタン電極をアノードとして用いた。
【0074】
実施例2
種々の銀含有量を有する酸素消費カソード単一層:a)93重量%、b)97重量%、c)98重量%(比較例)
3つの単一層酸素消費カソードを、実施例1に記載の方法により製造した。しかしながら、残存固体を基準としてa)93重量%、b)97重量%またはc)98重量%の銀含有量を有する1つだけの分散体を用いた。全ての3つの電極は、塩化ナトリウム溶液の電解において、実施例1に記載の条件下で、100mV増加したセル電圧を示し、酸素の200ミリバールで重大な気体の貫流を示し、液体の貫流を1mの静水高さにて示した。
【0075】
実施例3
酸素消費カソード、2層、触媒含有量:第1層(電解質に面する)99%、第2層(気体側に面する)88%(比較例)
2層酸素消費カソードを、実施例1に記載の方法により製造したが、電解質に面する層に99重量%および気体に面する層に88重量%の触媒含有量を生じさせる異なった触媒の割合を有する2つの分散体のみを用いた。120mV高いセル電圧を、塩化ナトリウム溶液の電解において、実施例1に記載の条件下で得た。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
酸素含有気体に面する側およびアルカリ性電解質に面する側を有し、
少なくとも1つの支持体、および
触媒および疎水性物質を含む少なくとも2つの層であって、気体側に面する最外層が、電解質側に面する最外層より低い触媒の割合を有し、疎水性物質の割合が、触媒および疎水性物質の全量を基準として8重量%を越えない層
を含んでなる、多層酸素消費電極。
【請求項2】
触媒は、触媒活性成分として銀を含む、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項3】
気体側に面する側上での層が、92〜98重量%の触媒を含み、電解質側に面する層は、95〜99.9重量%の触媒を含み、100%に対する層のバランスは、疎水性物質に基づく、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項4】
触媒を含む少なくとも2の層は、銀粒子を含む懸濁液を支持体に適用し、該懸濁液を乾燥し、該層をプレスし、次いで形成した電極を焼結することにより製造される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項5】
銀粒子は、懸濁液のための粉末形態であり、8μm未満のD90および1μm未満のD10の粒度分布を有する、請求項4に記載の酸素消費電極。
【請求項6】
銀粒子は、2〜6g/cmのタップ密度を有する、請求項4に記載の酸素消費電極。
【請求項7】
銀粉末は、BET法により決定された平均表面0.3〜2.5m/gを有する、請求項5に記載の酸素消費電極。
【請求項8】
触媒を含む少なくとも3つの層が存在し、気体側に面する最外層は92〜98重量%の触媒を含み、電解質側に面する最外層は95〜99.9%の触媒を含み、中間層は、気体側に面する最外層の触媒含有量を越え、かつ電解質側に面する最外層の触媒含有量未満の触媒含有量を含む、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項9】
疎水性物質は、疎水性ポリマーを含む、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項10】
疎水性物質は、PTFEである、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項11】
電極は、100〜300mg/cmの触媒活性成分の全充填を有する、請求項4に記載の酸素消費電極。
【請求項12】
支持体は、ニッケル、銀およびこれらの混合物からなる群から選択される物質に基づく、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項13】
支持体は、ガーゼ、編織布、形成ループニット、引張ループニット、不織布およびフォームからなる群から選択される、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項14】
電極は、厚み0.2〜0.8mmを有する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項15】
触媒を含む少なくとも2つの層は、0.4mm以下の厚みを有する、請求項1に記載の酸素消費電極。
【請求項16】
酸素消費電極を製造するための方法であって、
a)触媒活性物質の粒子、分散媒および疎水性ポリマーの粒子を含む成分を分散または混合することにより少なくとも2つの懸濁液を製造する工程であって、該少なくとも2つの懸濁液は、疎水性ポリマーの異なった割合を有する、工程、
b)前記少なくとも2つの懸濁液を、1以上の工程において支持体に噴霧して、触媒を異なった割合で含む少なくとも2つの層を製造する工程であって、該支持体を100℃〜160℃の範囲の温度に加熱し、それにより、少なくとも部分的に分散媒を除去する工程、
c)工程b)後に得られた電極を、0.04〜0.4t/cmの圧力下で、60〜200℃の温度にて加熱プレスする工程、
d)次いで、電極を少なくとも200℃の温度で焼結する工程
を含む、方法。
【請求項17】
請求項1に記載の酸素消費電極を含む、燃料電池。
【請求項18】
請求項1に記載の酸素消費電極を含む、金属/空気電池。
【請求項19】
請求項1に記載の酸素消費電極を、酸素消費カソードとして含む、塩素アルカリ電解装置。

【公開番号】特開2012−1814(P2012−1814A)
【公開日】平成24年1月5日(2012.1.5)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−133152(P2011−133152)
【出願日】平成23年6月15日(2011.6.15)
【出願人】(504037346)バイエル・マテリアルサイエンス・アクチェンゲゼルシャフト (728)
【氏名又は名称原語表記】Bayer MaterialScience AG
【Fターム(参考)】