説明

重合体、気体分離膜、及び重合体の製造方法

【課題】酸素透過係数及び酸素/窒素選択透過性の両方に優れる重合体等を提供する。
【解決手段】下記式(1)で表される繰り返し単位を含有する重合体。[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表し、Rは、下記式(2)で表され、mは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。]



【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合体、これを用いた気体分離膜、及び、重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
高分子の応用範囲の拡大に伴い、気体分離能など、様々な機能を備えた機能性高分子が検討されている。気体分離能を有する機能性高分子としては、フェニル基に置換基を導入した置換ジフェニルアセチレン重合体が知られている(特許文献1参照)。またこの置換基としてC11基を持つジフェニルアセチレン重合体の気体分離膜の検討も行われている(非特許文献1参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0003】
【特許文献1】特開平5−271338号公報
【非特許文献】
【0004】
【非特許文献1】Hu, Y., Shiotsuki, M., Sanda, F.,Masuda, T. Polymer Journal, 39, 968-971(2007).
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記の特許文献1においては、シクロアルキル基をフェニル基の置換基とする置換ジフェニルアセチレン重合体についての検討はなく、その気体分離機能、すなわち、酸素透過係数と、酸素透過係数/窒素透過係数で定義される酸素/窒素選択透過性については知られていない。また非特許文献1において、C11基をフェニル基の置換基とするジフェニルアセチレン重合体(poly(1a))が開示されているが、その酸素透過係数は230×10-10であり十分でない。
【0006】
そこで本発明は、酸素透過係数及び酸素/窒素選択透過性の両方に優れる重合体等を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者等が鋭意検討した結果、ジフェニルアセチレン重合体のフェニル基の置換基として、特定の官能基を有するシクロアルキル基を導入することで、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、の両方に優れる重合体が実現することを見出し、本発明に想到した。
【0008】
本発明の重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含有する。
【0009】
【化1】

【0010】
式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表し、Rは、下記式(2)で表され、mは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0011】
【化2】

【0012】
式(2)中、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも一つのXはハロゲン原子を含む一価の基であり、pは0以上10以下の整数である。
【0013】
本発明の重合体は、上述の繰り返し単位を含有することにより、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、を高度に両立できる。
【0014】
ここで、少なくとも一つのXはハロゲノ基であることが好ましく、少なくとも一つのXはフルオロ基であることがより好ましい。
また、全てのXがハロゲノ基であることが好ましく、全てのXがフルオロ基であることがより好ましい。これらにより、重合体と酸素との親和性が高まり、酸素/窒素選択透過性が向上すると言う効果があり、また重合体の耐熱性も向上する。
【0015】
また、上記Rは、無置換フェニル基、又は、下記式(3)で表される置換フェニル基であることが好ましい。
【0016】
【化3】

【0017】
式(3)中、Rは、任意の一価の基を表し、nは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0018】
上記Rがこのような構造であると、酸素透過能力、及び、重合体の酸素/窒素選択透過性が一層向上し、また、重合体の経時変化を抑えることもできる。
【0019】
上記Rは、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基、又はトリアルキルゲルミル基であることが好ましい。
【0020】
上記Rがこのような構造であると、酸素透過能力、及び、重合体の酸素/窒素選択透過性がより一層向上し、また、重合体の経時変化を抑えることもできる。
【0021】
上記Rは、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、又はトリアルキルシリル基であることがより好ましく、フルオロ基又はトリメチルシリル基であることが更に好ましく、トリメチルシリル基であることが特に好ましい。Rをこのようにすることで、重合体の酸素透過能力、及び、酸素/窒素選択透過性がより一層向上し、また、重合体の経時変化を抑えることもでき、さらには、種々の有機溶媒に溶解し易いことから、製膜性にも優れる。
【0022】
また、Rが無置換フェニル基であることも好ましく、この場合、重合体が溶媒に溶け難いことから、溶媒に対する耐性の高い気体分離膜を実現しやすい。
【0023】
本発明に係る重合体の製造方法は、下記式(C)で表される繰り返し単位を含有する重合体に対して、下式(D)に示すジ(ハロゲノシクロアルキルカルボキシ)パーオキサイド、及び/又は、下式(E)に示す(ハロゲノシクロアルキル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートを接触させる工程を含む、重合体の製造方法である。
【化4】


[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表す。]
【化5】


[(D)式において、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも1つのシクロアルキル基において少なくとも一つのXはハロゲン原子を含み、pは0以上10以下の整数であり、2つのシクロアルキル基においてpは互いに同一でも異なってもよい。]
【化6】


[(E)式において、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも一つのXはハロゲン原子を含み、pは0以上10以下の整数であり、TfOは、トリフルオロメタンスルホン酸イオンを示す。]
これによれば、上述の重合体を好適に得ることができる。
【発明の効果】
【0024】
本発明によれば、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、の両方に優れる重合体を提供することができる。
【発明を実施するための形態】
【0025】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
【0026】
[重合体]
本実施形態の重合体は、下記式(1)で表される繰り返し単位を含有する。
【0027】
【化7】


重合体において複数含まれる式(1)で表される繰り返し単位は、互いにRとフェニル基との位置が左右反転していてもよい。また、重合体において複数含まれる式(1)で表される繰り返し単位は、それぞれ独立にシス型であってもトランス型であってもよい。シス型、トランス型については、重合体膜のラマン分光測定などにより、同定することができる。
【0028】
(官能基R
式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表す。
【0029】
なお、本明細書において、芳香族炭化水素基とは、芳香族炭化水素の芳香環を構成する炭素原子に結合した水素原子1個を除いた残りの原子団を意味し、芳香族ヘテロ環基とは、芳香族へテロ環式化合物の芳香族ヘテロ環を構成する炭素原子又はヘテロ原子に結合した水素原子1個を除いた残りの原子団を意味する。なお、芳香族へテロ環式化合物とは、芳香族環式構造を持つ有機化合物のうち、環を構成する元素として、炭素原子だけでなく、酸素原子、硫黄原子、窒素原子、リン原子、ホウ素原子、ケイ素原子、セレン原子、テルル原子、ヒ素原子などのヘテロ原子を含むものをいう。
【0030】
式(1)のRのハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられる。中でも、フルオロ基、クロロ基が好ましい。
【0031】
式(1)のRの置換されていてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、1−メチルプロピル基、イソペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、1,1−ジメチルペンチル基、2−メチルペンチル基、又はそれらの水素の一部並びに全部がハロゲノ基で置換されたものが挙げられる。置換されたアルキル基としては、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、ジクロロメチル基、ジクロロエチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基、ブロモプロピル基、ジブロモメチル基、ジブロモエチル基、モノフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−1−メチルプロピル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロイソペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノナニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基などがその具体例として示される。中でも、パーフルオロ置換体が好ましい。
【0032】
式(1)のRの置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、非置換の芳香族炭化水素基及びハロゲノ基、アルコキシ基、アルキル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルゲルミル基で置換された芳香族炭化水素基が挙げられる。
【0033】
芳香族炭化水素基には、縮合環を持つもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合又は2価の有機基で結合したものも含まれる。芳香族炭化水素基の炭素原子数は、通常6〜60であり、好ましくは6〜30であり、より好ましくは6〜20である。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、C〜C12のアルコキシフェニル基、C〜C12のアルキルフェニル基、トリアルキルシリルフェニル基、トリアルキルゲルミルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられ、中でもフェニル基、C〜C12のアルキルフェニル基、トリアルキ
ルシリルフェニル基が好ましい。
【0034】
式(1)のRの置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基としては、非置換の1価の芳香族へテロ環基及びアルキル基などの置換基で置換された1価の芳香族へテロ環基が挙げられる。
【0035】
1価の芳香族へテロ環基の炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含めないで、通常4〜60であり、好ましくは4〜30であり、より好ましくは4〜20程度である。1価の芳香族へテロ環基としては、チオフェンイル基、C〜C12のアルキルチオフェンイル基、ピロイル基、フリル基、ピリジル基、C〜C12のアルキルピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジニル基などが挙げられる。
【0036】
式(1)のRのトリアルキルシリル基としては、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−イソプロピルシリル基、ジメチル−イソプロピルシリル基、ジエチル−イソプロピルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、ヘプチルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、オクチルジエチルシリル基、2−エチルヘキシルジメチルシリル基、ノニルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルシリル基、ドデシルジメチルシリル基などが挙げられる。
【0037】
式(1)のRのトリアルキルゲルミル基としては、トリメチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、トリ−イソプロピルゲルミル基、ジメチル−イソプロピルゲルミル基、ジエチル−イソプロピルゲルミル基、ペンチルジメチルゲルミル基、ヘキシルジメチルゲルミル基、ヘプチルジメチルゲルミル基、オクチルジメチルゲルミル基、オクチルジエチルゲルミル基、2−エチルヘキシルジメチルゲルミル基、ノニルジメチルゲルミル基、デシルジメチルゲルミル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルゲルミル基、ドデシルジメチルゲルミル基などが挙げられる。
【0038】
上記Rは、無置換フェニル基、又は、下記式(3)で表される置換フェニル基であることが好ましい。
【0039】
【化8】

【0040】
式(3)中、Rは、任意の一価の基を表し、nは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0041】
上記Rがこのような構造であると、酸素/窒素選択透過性が一層向上し、また、重合体の経時変化を抑えることもできる。
【0042】
また、Rは、(3)式のベンゼン環を構成する炭素原子の内の重合体の主鎖に結合する炭素原子に対してパラ位、メタ位、オルト位のいずれに結合していてもよく、適宜選択可能である。
【0043】
式(3)のRの任意の1価の基としては、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基、又はトリアルキルゲルミル基が好ましい。
【0044】
上記Rがこのような構造であると、酸素/窒素選択透過性がより一層向上し、また、重合体の経時変化を抑えることもできる。
【0045】
式(3)のRのハロゲノ基としては、フルオロ基、クロロ基、ブロモ基、ヨード基が挙げられ、好ましくは、フルオロ基、クロロ基が挙げられる。
【0046】
式(3)のRの置換されていてもよいアルキル基としては、メチル基、エチル基、プロピル基、ブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、イソプロピル基、イソブチル基、ターシャリーブチル基、1−メチルプロピル基、イソペンチル基、1−メチルブチル基、2−メチルブチル基、1,1−ジメチルプロピル基、1−メチルペンチル基、1,1−ジメチルペンチル基、2−メチルペンチル基、又はそれらの水素の一部又は全部がハロゲノ基で置換されたものが挙げられる。置換されたアルキル基としては、クロロメチル基、クロロエチル基、クロロプロピル基、ジクロロメチル基、ジクロロエチル基、トリクロロメチル基、ブロモメチル基、ブロモエチル基、ブロモプロピル基、ジブロモメチル基、ジブロモエチル基、モノフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、トリフルオロメチル基、パーフルオロエチル基、パーフルオロプロピル基、パーフルオロイソプロピル基、パーフルオロイソブチル基、パーフルオロ−1−メチルプロピル基、パーフルオロペンチル基、パーフルオロブチル基、パーフルオロイソペンチル基、パーフルオロヘキシル基、パーフルオロヘプチル基、パーフルオロオクチル基、パーフルオロノナニル基、パーフルオロデシル基、パーフルオロウンデシル基、パーフルオロドデシル基などがその具体例として示される。中でも、パーフルオロ置換体が好ましい。
【0047】
式(3)のRの置換されていてもよい芳香族炭化水素基としては、非置換の芳香族炭化水素基及びハロゲノ基、アルコキシ基、アルキル基、トリアルキルシリル基、トリアルキルゲルミル基で置換された芳香族炭化水素基が挙げられる。芳香族炭化水素基には、縮合環を持つもの、独立したベンゼン環又は縮合環2個以上が単結合又は2価の有機基で結合したものも含まれる。芳香族炭化水素基の炭素原子数は、通常6〜60であり、好ましくは6〜30であり、より好ましくは6〜20である。芳香族炭化水素基としては、例えば、フェニル基、C〜C12のアルコキシフェニル基、C〜C12のアルキルフェニル基、トリアルキルシリルフェニル基、トリアルキルゲルミルフェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基、1−アントラセニル基、2−アントラセニル基、9−アントラセニル基、ピレニル基、ペリレニル基、ペンタフルオロフェニル基などが挙げられ、中でもフェニル基、C〜C12のアルキルフェニル基、トリアルキルシリルフェニル基が好ましい。
【0048】
式(3)のRの置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基としては、非置換の1価の芳香族へテロ環基及びアルキル基などの置換基で置換された1価の芳香族へテロ環基が挙げられる。1価の芳香族へテロ環基の炭素原子数は、置換基の炭素原子数を含めないで、通常4〜60であり、好ましくは4〜30であり、より好ましくは4〜20程度である。1価の芳香族へテロ環基としては、チオフェンイル基、C〜C12のアルキルチオフェンイル基、ピロイル基、フリル基、ピリジル基、C〜C12のアルキルピリジル基、ピリダジル基、ピリミジル基、ピラジニル基などが挙げられる。
【0049】
式(3)のRのトリアルキルシリル基としては、具体的にはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−イソプロピルシリル基、ジメチル−イソプロピルシリル基、ジエチル−イソプロピルシリル基、ペンチルジメチルシリル基、ヘキシルジメチルシリル基、ヘプチルジメチルシリル基、オクチルジメチルシリル基、オクチルジエチルシリル基、2−エチルヘキシルジメチルシリル基、ノニルジメチルシリル基、デシルジメチルシリル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルシリル基、ドデシルジメチルシリル基などが挙げられ、好ましくは、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、トリ−イソプロピルシリル基、ジメチル−イソプロピルシリル基、ジエチル−イソプロピルシリル基が挙げられ、より好ましくはトリメチルシリル基、トリエチルシリル基が挙げられる。
【0050】
式(3)のRのトリアルキルゲルミル基としては、具体的にはトリメチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、トリ−イソプロピルゲルミル基、ジメチル−イソプロピルゲルミル基、ジエチル−イソプロピルゲルミル基、ペンチルジメチルゲルミル基、ヘキシルジメチルゲルミル基、ヘプチルジメチルゲルミル基、オクチルジメチルゲルミル基、オクチルジエチルゲルミル基、2−エチルヘキシルジメチルゲルミル基、ノニルジメチルゲルミル基、デシルジメチルゲルミル基、3,7−ジメチルオクチル−ジメチルゲルミル基、ドデシルジメチルゲルミル基などが挙げられ、好ましくは、トリメチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基、トリ−イソプロピルゲルミル基、ジメチル−イソプロピルゲルミル基、ジエチル−イソプロピルゲルミル基が挙げられ、より好ましくはトリメチルゲルミル基、トリエチルゲルミル基が挙げられる。
【0051】
酸素/窒素選択透過性、重合体の経時変化抑制効果、重合体の製膜性の観点からは、Rは、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、又はトリアルキルシリル基であることが好ましく、フルオロ基又はトリメチルシリル基であることがより好ましく、トリメチルシリル基であることが更に好ましい。特に、トリアルキルシリル基、なかでも、トリメチルシリル基を有すると、重合体が溶媒に溶けやすくなり、フィルムの製膜性に極めて優れる。
【0052】
また、Rが、無置換フェニル基であることも好ましい。この場合、重合体が溶媒に溶け難いことから、溶媒に対する耐性の高い気体分離膜を実現しやすいと言う効果がある。
【0053】
(官能基R
は、下記式(2)で表される。また、式(1)中のmは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。
【0054】
【化9】

【0055】
式(2)中、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも一つのXはハロゲン原子を含む一価の基であり、pは0以上10以下の整数である。
【0056】
ハロゲン原子を含む一価の基としては、例えば、ハロゲノ基、ハロゲノアルキル基、ハロゲノ芳香族環、ハロゲノ芳香族へテロ環等が挙げられる。
【0057】
ハロゲノ基としては、フルオロ基(−F)、クロロ基(−Cl)、ブロモ基(−Br)、ヨード基(−I)等が挙げられる。
【0058】
ハロゲノアルキル基としては、フルオロアルキル基、クロロアルキル基等が挙げられる。フルオロアルキル基としては、炭素数1〜15のパーフルオロアルキル基、モノフルオロメチル基、モノフルオロエチル基、トリフルオロエチル基等が挙げられる。また、クロロアルキル基としては、クロロメチル基、クロロエチル基、ジクロロエチル基、クロルプロピル基、トリクロロメチル基等が挙げられる。
【0059】
また、Xであって、かつ、ハロゲン原子を含まない一価の基であるものとしては、特に限定されず、例えば、水素原子、アルキル基、分岐アルキル基、芳香族炭化水素基、芳香族ヘテロ環基等が挙げられる。
【0060】
ここで、少なくとも一つのXはハロゲノ基であることが好ましい。特に、少なくとも一つのXはフルオロ基であることが好ましい。これにより、重合体と酸素の親和性が高まり、酸素/窒素選択透過性が向上すると言う効果があり、また重合体の耐熱性も向上する。
【0061】
さらに、式(2)中、全てのXがハロゲノ基であることが好ましく、特に、全てのXがフルオロ基であることが好ましい。これにより、重合体と酸素の親和性がより高まり、酸素/窒素選択透過性がより向上すると言う効果があり、また重合体の耐熱性もより向上する。
【0062】
式(2)におけるpは、0以上10以下であり、酸素透過係数及び酸素/窒素選択透過性を向上させる観点及び水分の透過を抑制する観点から、2以上5以下であることがより好ましく、より好ましくは、3である。
【0063】
本発明の重合体は、上述の繰り返し単位を含有することにより、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、の両方に優れる。本発明の重合体がこのような特性を示す理由は必ずしも明らかではないが、本発明者らは、ハロゲン原子を少なくとも1つ含む(2)式のシクロアルキル基の存在によりファンデアワールス力が低下し、自由体積が大きくなることがその一因であると考えている。
【0064】
本実施形態の重合体は、式(1)で表される繰り返し単位以外の繰り返し単位を含有することもできるが、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、をより高度に両立させる観点からは、式(1)で表される繰り返し単位の含有量は、全繰り返し単位に対して、1重量%以上であることが好ましく、10重量%以上100重量%以下であることがより好ましく、50重量%以上100重量%以下であることが更に好ましい。
【0065】
また、製膜性の観点から、上記重合体の重量平均分子量(M)は、1×10以上5×10以下であることが好ましく、1×10以上2×10以下であることがより好ましく、1×10以上1×10以下であることが更に好ましい。また、同様の観点から、上記重合体の数平均分子量(M)は、1×10以上2×10以下であることが好ましく、1×10以上1×10以下であることがより好ましく、1×10以上5×10以下であることが更に好ましい。また、上記重合体の分子量分布の程度を表す分散比(M/M)は、1.0以上10.0以下であることが好ましく、1.1以上8.0以下であることがより好ましく、1.1以上5.0以下であることが更に好ましい。本発明において、重合体の重量平均分子量(M)、数平均分子量(M)及び分散比(M/M)は、溶媒としてテトラヒドロフランを用いたクロマトグラフィーにより、ポリスチレン換算で求める。カラムとしては、Shodex製KF−800シリーズの「GPC KF−807L」を用いればよい。
【0066】
さらに、熱安定性の観点から、上記重合体の5%重量減少温度(Td5)は、380℃以上550℃以下であることが好ましく、390℃以上500℃以下であることがより好ましく、400℃以上490℃以下であることが更に好ましい。ここで、重合体の5%重量減少温度は、熱重量測定(装置としては、示差熱・熱重量測定装置、島津製作所製、型式:DTG−60/60H)によって測定された値をいう。測定時の昇温速度は10℃/分とし、窒素雰囲気下で昇温する。
【0067】
以上、本発明の重合体について説明したが、当該重合体は、酸素透過能力と、酸素/窒素選択透過性と、の両方に優れることから、様々な用途に展開可能である。例えば、以下の用途の気体分離膜として用いることができる。
(1)空気から窒素を除去して、酸素富化空気や酸素を製造するガス精製装置。
(2)空気から酸素を除去して、窒素富化空気や窒素を製造するガス精製装置。
(3)燃料電池などの空気取り入れ機構。
【0068】
なお、これらの用途は例示に過ぎず、本発明の適用可能範囲はこれらに限定されるものではない。また、膜として用いる場合、その膜厚に特に制限はないが、窒素及び水蒸気の透過を抑制し、酸素透過性を確保する観点からは、0.1μm以上100μm以下であることが好ましく、より好ましくは0.1μm以上50μm以下である。
【0069】
[重合体の製造方法]
上述の重合体は、例えば、下記式(A)で表されるモノマーを重合する方法や、下記式(B)で表されるモノマーを重合して得た重合体に対して、必要に応じRを付加する方法などによって製造することができる。
【0070】
【化10】

【0071】
式(A)及び(B)で表されるモノマーの重合は、例えば、遷移金属触媒の存在下において、40〜100℃で、2〜24時間反応させる方法により行われる。
【0072】
また、式(B)で表されるモノマーを重合して得た、式(C)で表される重合体に対するRの付加は、例えば、当該重合体をジ(パーフルオロシクロアルキルカルボキシ)パーオキサイド等の、下式(D)に示す、ジ(ハロゲノシクロアルキルカルボキシ)パーオキサイドと接触させる方法により行える。具体的には、ジ(ハロゲノシクロアルキルカルボキシ)パーオキサイドを含む溶液に式(C)で表される重合体を浸漬する方法が好ましい。
【化11】


【化12】


ここで、式(D)において、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも1つのシクロアルキル基において少なくとも一つのXはハロゲン原子を含み、pは0以上10以下の整数であり、2つのシクロアルキル基においてpは互いに同一でも異なってもよい。Xの例示は上述と同様である。両方のシクロアルカン基において、Xのうちの少なくとも一つはハロゲン原子を含む一価の基であることが好ましい。
【0073】
また、式(C)で表される重合体に対するRの付加は、(パーフルオロシクロアルキル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナート等の、下式(E)に示す(ハロゲノシクロアルキル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートと接触させる方法によっても行える。具体的には、(ハロゲノシクロアルキル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートのクロロホルム及びアセトニトリル混合溶媒等に浸漬する方法が好ましい。
【化13】


ここで、式(E)において、X、pは、(2)式と同じである。また、TfOは、トリフルオロメタンスルホン酸イオンを示す。
【0074】
[気体分離膜の製造方法]
上述の重合体からなる気体分離膜は、例えば、上記式(1)で表される繰り返し単位を含有する重合体を溶媒に混合し、膜形成用塗布液を調製した後、当該塗布液を基板上に塗布し溶媒を蒸発させる方法などにより形成できる。
【0075】
ここで、膜形成用塗布液の調製に用いる溶媒としては、上記重合体の溶解能を有するものが好ましい。このような溶媒としては、例えば、トルエン、アニソール、クロロベンゼン、ジクロロベンゼン、クロロホルム、テトラヒドロフランなどの有機溶媒等が挙げられる。
【0076】
また、上記の膜形成方法のほかに、重合体を溶融して製膜する方法を選択することも可能である。
【0077】
また、上述の式(D)、式(E)を用いて(1)式の重合体を得る場合には、式(C)の重合体を製膜してから、膜状の重合体(C)に対して式(D),式(E)を接触させることも好適である。
【0078】
以上、本発明の好適な実施形態について説明したが、本発明はこれに限定されるものではない。
【実施例】
【0079】
以下、本発明を実施例及び比較例に基づいて具体的に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。
【0080】
[実施例1]
窒素雰囲気下、五塩化タンタル(143mg,0.399mmol)のトルエン(17.1mL)溶液に、テトラ−n−ブチルスズ(215μL,6.55×10−2mmol)を加え、80℃で10分間攪拌した。別途用意した4−トリメチルシリルジフェニルアセチレン(1.07g,4.27mmol)のトルエン溶液(4.27mL)を上述のトルエン溶液に添加し、80℃で3時間攪拌し、生成物Aを得た。さらに、クロロホルム(400mL)を加え、生成物Aを溶解し、アセトン/クロロホルム混合液(アセトン:クロロホルム=1:5(体積比))2400mLに、上記生成物Aの溶解したクロロホルム溶液を加えることにより、目的とする重合体を沈殿させた。ろ過により沈殿物を回収し、一晩減圧乾燥を行い、赤褐色重合体を収率67.8%(0.725g)で得た。得られた
重合体は、トルエン、クロロホルム、テトラヒドロフラン(以下、「THF」ということがある。)などの一般的な有機溶媒に可溶であった。
【0081】
得られた重合体のH NMRスペクトルは非常にブロードなピークを示した。また、13C NMRを観測することは困難であった。IRスペクトルは以下に示すとおりである。:IR(Film) ν=3053(νC−H)cm−1,3016〜2897(νPh−H)cm−1,1596(νC=C)cm−1,1492〜1387(νPh C=C)cm−1,1247(δSiC−H)cm−1,1117(νSi−CH3)cm−1,854(1,4−Ph)cm−1,834(νSi−CH3)cm−1,689(νSi−Ph)cm−1,552(νPh C−H)cm−1
【0082】
また、得られた重合体のM、M、M/M、及び、5%重量減少温度(Td5)はそれぞれ、M:11.3×10,M:5.89×10,M/M:1.92,Td5:399℃であった。
【0083】
得られた重合体についてトルエン溶液を調製し(1.0wt%)、ガラスシャーレにキャストし室温でゆっくりと溶媒を蒸発させた。溶媒を蒸発させ乾燥した後、膜をはがし、自立した重合体膜を得た。また、マイクロメータにより求めたこの重合体膜の厚みは69μmであった。重合工程での主な反応式を以下に示す。
【0084】
【化14】

【0085】
続いて、得られた重合体膜(29.0mg)を、窒素雰囲気下、ジ(パーフルオロシクロヘキシルカルボキシ)パーオキサイド(3.77g,5.80mmol)のパーフルオロ(1,3−ジメチルシクロヘキサン)2mLに、室温で5分間浸漬させた。膜を上記溶液から取り出し、さらにメタノールに1時間浸漬後、室温で乾燥し、実施例1の重合体膜を得た。浸漬工程での主な反応式を以下に示す。
【化15】

【0086】
マイクロメータにより求めたこの膜の厚みは87μmであった。IRスペクトルは以下に示すとおりである。:IR(KBr) ν=3057(νC−H)cm−1,3016(νPh−H)cm−1,2955(νC−H)cm−1, 1248(δSiC−H)cm−1,1203(νC−F)cm−1,1117(νSi−CH3)cm−1,855(νSi−CH3)cm−1
【0087】
得られた重合体膜は、IRスペクトルからCF結合由来のピークが1200cm−1に確認された。
【0088】
[比較例1]
厚み50μmのポリジメチルシロキサン膜を準備した。
【0089】
[比較例2]
厚み12.5μmの四フッ化エチレン・六フッ化プロピレン共重合体膜を準備した。
【0090】
[重合体膜の評価(気体透過試験)]
実施例1及び比較例1,2の重合体膜を、気体透過率測定装置(GTRテック社製、GTR−30X)を用いて、23℃、湿度60%における酸素及び窒素の気体透過係数(PO2,PN2、単位:cm(STP)・cm/cm・sec・cmHg)を測定した。また、測定したPO2,PN2より、酸素/窒素選択透過性を示すαO2/N2=PO2/PN2)を算出した。実施例1及び比較例1,2の膜の評価結果を表1に示す。
【0091】
【表1】

【0092】
以上の結果から、実施例1の重合体膜は、比較例1、2の重合体膜と比較して、高い酸素透過係数、及び、高い酸素/窒素選択透過性を両立できることを確認した。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(1)で表される繰り返し単位を含有する重合体。
【化1】


[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表し、Rは、下記式(2)で表され、mは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。]
【化2】


[式(2)中、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも一つのXはハロゲン原子を含む一価の基であり、pは0以上10以下の整数である。]
【請求項2】
少なくとも一つのXはハロゲノ基である請求項1記載の重合体。
【請求項3】
少なくとも一つのXはフルオロ基である請求項1記載の重合体。
【請求項4】
全てのXがハロゲノ基である、請求項2に記載の重合体。
【請求項5】
全てのXがフルオロ基である、請求項3に記載の重合体
【請求項6】
前記Rが、無置換フェニル基、又は、下記式(3)で表される置換フェニル基である請求項1〜5の何れか記載の重合体。
【化3】


[式(3)中、Rは、任意の一価の基を表し、nは1以上5以下の整数であり、Rが複数ある場合、Rは互いに同じでも異なっていてもよい。]
【請求項7】
前記Rが式(3)で表される置換フェニル基であり、前記Rが、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基、又はトリアルキルゲルミル基である請求項6に記載の重合体。
【請求項8】
前記Rが式(3)で表される置換フェニル基であり、前記Rが、ハロゲン原子、置換されていてもよいアルキル基、又はトリアルキルシリル基である請求項6に記載の重合体。
【請求項9】
前記Rが式(3)で表される置換フェニル基であり、前記Rが、フルオロ基又はトリメチルシリル基である請求項6のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項10】
前記Rが式(3)で表される置換フェニル基であり、前記Rが、トリメチルシリル基である請求項6のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項11】
前記Rが無置換フェニル基である請求項1〜5のいずれか一項に記載の重合体。
【請求項12】
前記請求項1〜11の重合体からなる気体分離膜。
【請求項13】
下記式(C)で表される繰り返し単位を含有する重合体に対して、下式(D)に示すジ(ハロゲノシクロアルキルカルボキシ)パーオキサイド、及び/又は、下式(E)に示す(ハロゲノシクロアルキル)フェニルヨードニウムトリフルオロメタンスルホナートを接触させる工程を含む、重合体の製造方法。
【化4】


[式(1)中、Rは、水素原子、ハロゲノ基、置換されていてもよいアルキル基、置換されていてもよい芳香族炭化水素基、置換されていてもよい芳香族ヘテロ環基、トリアルキルシリル基又はトリアルキルゲルミル基を表す。]
【化5】


[(D)式において、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも1つのシクロアルキル基において少なくとも一つのXはハロゲン原子を含み、pは0以上10以下の整数であり、2つのシクロアルキル基においてpは互いに同一でも異なってもよい。]
【化6】


[(E)式において、Xは互いに同一でも異なってもよい一価の基であり、少なくとも一つのXはハロゲン原子を含み、pは0以上10以下の整数であり、TfOは、トリフルオロメタンスルホン酸イオンを示す。]

【公開番号】特開2011−38051(P2011−38051A)
【公開日】平成23年2月24日(2011.2.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−189201(P2009−189201)
【出願日】平成21年8月18日(2009.8.18)
【出願人】(304027279)国立大学法人 新潟大学 (310)
【出願人】(000002093)住友化学株式会社 (8,981)
【Fターム(参考)】