説明

重合体ラテックス、水性インク用樹脂及び水性インク用樹脂組成物

【課題】一般紙及び光沢紙に適用した場合に、光学濃度、光沢の均一性及び画像の鮮明性に優れ、しかも耐擦性、吐出性及び保存安定性にも優れた水性インクを得るための水性インク用樹脂及び水性インク用樹脂組成物並びにこの水性インク用樹脂に適した重合体ラテックスを提供する。
【解決手段】アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体のラテックス。この重合体からなる水性インク用樹脂。この水性インク用樹脂、着色剤及び水性媒体を含有してなる水性インク用樹脂組成物。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重合体ラテックス、この重合体からなる水性インク用樹脂及びこれを含有してなる水性インク用樹脂組成物に関する。
より詳しくは、本発明は、特に、一般紙のみならず光沢紙に印刷した場合に、優れた光沢を示す水性インクを得るための水性インク用樹脂及び水性インク用樹脂組成物並びにこの水性インク用樹脂に適した重合体ラテックスに関する。
【背景技術】
【0002】
インクジェット方式による記録は、インクの液滴を吐出して記録紙上に付着させることによりドットを形成して記録を行なう方法である。この方式により印字品質の高い記録を可能とするために、インク、記録媒体及びプリンターの各観点から様々な検討が行なわれている。
【0003】
例えば、特許文献1には、エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びこれと共重合可能なその他の単量体を、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物又は共重合性界面活性剤の存在下で重合して得られる特定の酸価を有する共重合体を、塩基性物質により中和してなる水溶性樹脂と着色剤とを含有する水溶性樹脂よりなる水性インクが開示されている。
この水性インクは、長期間貯蔵しても粘度変化が起こり難く、網点再現性及び耐擦性に優れた画像を与える。
また、特許文献2には、少なくとも、水性媒体と、分散剤なしに水に分散及び/又は溶解が可能な自己分散型顔料と、最低造膜温度が30〜60℃の範囲内である樹脂と、水に対する特定の溶解度を有する有機溶剤とを、含んでなる水性インク組成物が開示されている。
この水性インク組成物は、特に、普通紙、再生紙又はコート紙に対して高い印字品質と高い光学濃度を有し、しかも定着性が高い、と記載されている。
【0004】
ところで、インクジェット記録媒体は、その表面状態により、マット(艶消し)調媒体と光沢媒体とに分類される。より銀塩写真に近い画像品質が要求される場合には、光沢媒体が用いられる。
光沢媒体の製法としては、例えば、基材の少なくとも片面に1層以上のインク受容層を設け、このインク受容層上に光沢発現層として顔料及び結着剤を含有する塗工液を塗布した後、塗工層が湿潤状態にあるうちに、この塗工層を鏡面仕上げの金属面に圧着するキャストコート法が知られている。
【0005】
しかしながら、このキャストコート法による光沢紙に、上記特許文献1、2等に記載の水性インクを適用しても、画像の鮮明性や、印刷部分の光沢感に劣る。
このように、インクジェット記録方式において、良好なインク吸収性を保ちながら、高光沢であり、更に耐擦性等の光沢発現層表面の機械的強度等にも優れ、優れた画質と均一な光沢感を有する画像を得る方法は、未だ確立されていないのが現状である。
【0006】
【特許文献1】特開2004−115589号公報
【特許文献2】国際公開第02/32971号パンフレット
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
従って、本発明の目的は、一般紙及び光沢紙に適用した場合に、光学濃度、光沢の均一性、画像の鮮明性及び耐擦性に優れ、しかも、吐出安定性及び保存安定性にも優れた水性インクを得るための水性インク用樹脂及び水性インク用樹脂組成物並びにこの水性インク用樹脂に適した重合体ラテックスを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは、上記課題を解決するために、水性インク用樹脂の組成について鋭意検討を重ねた結果、特定のアルカリ可溶性重合体の存在下に、(メタ)アクリル酸アルキルエステル単量体を重合して得られる重合体を水性インク用樹脂として用いればよいことを見出し、この知見に基づいて本発明を完成するに至った。
【0009】
かくして本発明によれば、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体ラテックスが提供される。
【0010】
また、本発明によれば、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体からなる水性インク用樹脂が提供される。
本発明の水性インク用樹脂において、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体と単量体(B)との重量比率(前者/後者)が、10/100〜40/100であることが好ましい。
また、本発明の水性インク用樹脂において、単量体(A)中のスルホン酸基含有単量体の含有割合が0.5重量%以上であることが好ましい。
【0011】
更に、本発明によれば、上記本発明の水性インク用樹脂、着色剤及び水性媒体を含有してなる水性インク用樹脂組成物が提供される。
【発明の効果】
【0012】
本発明の水性インク用樹脂又は水性インク用樹脂組成物を用いて吐出安定性及び保存安定性に優れた水性インクを得ることができる。この水性インクを用いることによって、一般紙及び光沢紙に適用した場合に、光学濃度、光沢均一性、画像の鮮明性、耐擦性等に優れた画像を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
本発明の重合体ラテックスは、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)(以下、単に「単量体(A)」ということがある。)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)(以下、「水性インク用樹脂用単量体(B)」ということがある。また、これを略称して「単量体(B)」ということがある。)を重合して得られる重合体を含有してなる。
【0014】
まず、本発明で用いる単量体(B)について説明する。
単量体(B)は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びその誘導体を包含する。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体の誘導体としては、エステル、アミド、ニトリル及び塩を挙げることができる。
【0015】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体は、特に限定されず、その具体例としては、アクリル酸、メタクリル酸等のα,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体;イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体;フマル酸モノブチル、マレイン酸モノブチル、マレイン酸モノ−2−ヒドロキシプロピル等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸の部分エステル単量体;無水マレイン酸、無水イタコン酸、無水シトラコン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸無水物単量体;等を挙げることができる。なかでも、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体が好ましく、メタクリル酸がより好ましい。
【0016】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルの具体例としては、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸イソブチル、(メタ)アクリル酸n−アミル、(メタ)アクリル酸イソアミル、(メタ)アクリル酸n−ヘキシル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸n−オクチル等の(メタ)アクリル酸アルキルエステルを挙げることができる。
(メタ)アクリル酸アルキルエステルは、そのアルキル基が水酸基、エポキシ基等の官能基を置換基として有するものでもよく、その具体例としては、(メタ)アクリル酸2−ヒドロキシエチル、(メタ)アクリル酸ヒドロキシプロピル、(メタ)アクリル酸グリシジル等を挙げることができる。
なお、本発明において、「(メタ)アクリル酸」は、アクリル酸及び/又はメタクリル酸を意味する。
【0017】
また、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルの他の具体例としては、イタコン酸、マレイン酸、フマル酸、ブテントリカルボン酸等のα,β−エチレン性不飽和多価カルボン酸単量体の完全エステル、例えば、イタコン酸ジメチル、マレイン酸ジエチル、フマル酸ジブチル等を挙げることができる。
【0018】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体のアミド誘導体の具体例としては、(メタ)アクリルアミド、N−メチロール(メタ)アクリルアミド、N−ブトキシメチル(メタ)アクリルアミド等を挙げることができる。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体のニトリル誘導体の具体例としては、(メタ)アクリロニトリル、マレオニトリル、フマロニトリル等を挙げることができる。
【0019】
これらのα,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体は、単独で用いても、2種以上組み合わせて用いてもよい。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体の中でも、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルが好ましく、(メタ)アクリル酸アルキルエステルがより好ましく、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸ブチル及び(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシルが更に好ましく、メタクリル酸メチル及びアクリル酸ブチルが特に好ましく使用できる。
【0020】
単量体(B)中のα,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体の含有割合は、好ましくは80重量%以上、より好ましくは90重量%以上、更に好ましくは95重量%以上、特に好ましくは100重量%である。
【0021】
単量体(B)は、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体と共重合可能なその他の単量体を含んでいてもよい。
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体と共重合可能な他の単量体の具体例としては、芳香族ビニル単量体、α,β−エチレン性不飽和エーテル単量体、共役ジエン単量体、カルボン酸ビニルエステル単量体等を挙げることができる。これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0022】
芳香族ビニル単量体は、特に限定されず、その具体例としては、スチレン、α−メチルスチレン、p−メチルスチレン、m−メチルスチレン、p−t−ブチルスチレン、クロロメチルスチレン、p−t−ブトキシスチレン、ジメチルアミノメチルスチレン、ジメチルアミノエチルスチレン、ビニルトルエン等を挙げることができる。
【0023】
α,β−エチレン性不飽和エーテル単量体の具体例としては、アリルグリシジルエーテル、メタリルグリシジルエーテル等の不飽和グリシジルエーテル単量体を挙げることができる。
カルボン酸ビニルエステル単量体の具体例としては、酢酸ビニル、カプロン酸ビニル等を挙げることができる。
共役ジエン単量体の具体例としては、1,3−ブタジエン、イソプレン、2,3−ジメチル−1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン等を挙げることができる。
【0024】
α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体と共重合可能なその他の単量体の含有割合は、単量体(B)全量に対して、通常、20重量%以下、好ましくは10重量%以下、更に好ましくは5重量%以下であり、使用しないことが望ましい。
【0025】
単量体(B)は、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、それを重合して得られる重合体のガラス転移温度が、−15〜+20℃の範囲になるような組成に調整することが好ましい。
【0026】
本発明において、単量体(B)の重合は、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に行なうことが必要である。
【0027】
単量体(A)は、スルホン酸基含有単量体を含んでなる。
スルホン酸基含有単量体は、スルホン酸基を含有するα,β−エチレン性不飽和単量体であれば、特に限定されない。
その具体例としては、エチレンスルホン酸、アリルスルホン酸、メタリルスルホン酸、スチレンスルホン酸等を挙げることができる。
これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
また、これらの単量体は、酸の形であってもよく、また、アルカリ金属塩やアンモニウム塩等のような塩の形であってもよい。
【0028】
単量体(A)中のスルホン酸基含有単量体の含有割合は、特に限定されないが、通常、0.5重量%以上、好ましくは1〜50重量%、より好ましくは5〜30重量%である。この割合が上記範囲にあれば、本願発明の効果がより容易に発現される。
【0029】
単量体(A)は、スルホン酸基含有単量体と共重合可能な他の単量体を含有してもよい。
スルホン酸基含有単量体と共重合可能な他の単量体としては、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体、及び、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体と共重合可能な他の単量体が挙げられる。これらの単量体は、1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
中でも、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体が好ましく、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体及びα,β−エチレン性不飽和カルボン酸エステルがより好ましく、α,β−エチレン性不飽和モノカルボン酸単量体及び(メタ)アクリル酸アルキルエステルが更に好ましく、メタクリル酸及びメタクリル酸メチルが特に好ましい。
【0030】
スルホン酸基含有単量体と共重合可能な他の単量体の含有割合は、単量体(A)全量に対して、通常、99.5重量%以下、好ましくは99〜50重量%、より好ましくは95〜70重量%である。
スルホン酸基含有単量体と共重合可能な他の単量体としてα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体を併用する場合、スルホン酸基含有単量体とα,β−エチレン性不飽和カルボン酸単量体との合計量を、単量体(A)全量に対して、好ましくは70重量%以下、より好ましくは60重量%以下、更に好ましくは50重量%以下となるように調節する。
【0031】
本発明で用いるアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物は、水溶性高分子化合物であって、分子量1,000当り、アルコール性水酸基を5〜25個含有しているものをいう。
その具体例としては、ポリビニルアルコール及びその各種変性物等のビニルアルコール系重合体;酢酸ビニルとアクリル酸、メタクリル酸又は無水マレイン酸との共重合体のけん化物;アルキルセルロース、ヒドロキシアルキルセルロース、アルキルヒドロキシアルキルセルロース等のセルロース誘導体;アルキル澱粉、カルボキシルメチル澱粉、酸化澱粉等の澱粉誘導体;アラビアゴム、トラガントゴム;ポリアルキレングリコール;等を挙げることができる。中でも、工業的に品質が安定したものを入手しやすい点から、ビニルアルコール系重合体が好ましい。
【0032】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の重量平均分子量は、特に限定されないが、通常、1,000〜500,000、好ましくは2,000〜300,000である。分子量が1,000より小さいと、分散安定効果が低くなる恐れがあり、逆に500,000より大きいとこれの存在下で重合するときの粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0033】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の使用量は、安定的に単量体(A)の重合を行なえる範囲であれば特に限定されないが、単量体(A)100重量部に対して、好ましくは3〜20重量部、より好ましくは5〜15重量部である。この使用量が3重量部未満であると分散安定効果が低下し、重合時に凝集物が発生する恐れがあり、逆に20重量部より多くなると、重合系の粘度が高くなり、重合が困難になる恐れがある。
【0034】
単量体(A)の重合方法は、特に限定されないが、通常、重合開始剤を使用し、水中で行なう。
重合開始剤は、特に限定されず、無機過酸化物、有機過酸化物、アゾ化合物等を使用することができる。
無機過酸化物重合開始剤の具体例としては、過硫酸ナトリウム、過硫酸カリウム、過硫酸アンモニウム等の過硫酸塩;過リン酸カリウム等の過リン酸塩;過酸化水素;等を挙げることができる。
有機過酸化物重合開始剤の具体例としては、ジイソプロピルベンゼンハイドロパーオキサイド、クメンハイドロパーオキサイド、t−ブチルハイドロパーオキサイド、1,1,3,3−テトラメチルブチルハイドロパーオキサイド等のハイドロパーオキサイド;ジ−t−ブチルパーオキサイド、イソブチリルパーオキサイド、ベンゾイルパーオキサイド等のパーオキサイド;等を挙げることができる。
アゾ化合物重合開始剤の具体例としては、アゾビスイソブチロニトリル、アゾビス−2,4−ジメチルバレロニトリル、アゾビスイソ酪酸メチル等を挙げることができる。
中でも、過硫酸塩が好ましく、とりわけ、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが好ましい。
これらの重合開始剤は、1種類を単独で使用しても2種類以上を組み合わせて使用してもよい。
【0035】
重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、単量体(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜5重量部、より好ましくは0.8〜4重量部である。
また、これらの重合開始剤は還元剤との組み合わせで、レドックス系重合開始剤として使用することもできる。還元剤は特に限定されず、その具体例としては、硫酸第一鉄、ナフテン酸第一銅等の還元状態にある金属イオンを含有する化合物;メタンスルホン酸ナトリウム等のスルホン酸化合物;ジメチルアニリン等のアミン化合物;等が挙げられる。これらの還元剤は単独で又は2種以上を組み合わせて用いることができる。
還元剤の使用量は、還元剤によって異なるが、重合開始剤1重量部に対して0.03〜10重量部であることが好ましい。
【0036】
単量体(A)の重合に際して、乳化剤としての界面活性剤は、使用する必要がなく、使用しない方が好ましい。
界面活性剤を使用しないことにより、最終的に得られる水性インク用樹脂の耐水性や成膜性が良くなるといった利点が生じる。
【0037】
単量体(A)の重合に際して、連鎖移動剤を併用することが好ましい。連鎖移動剤の使用により、単量体(A)の重合をより安定的に行なうことができる、得られる重合体ラテックスの粘度を下げることができるといった利点が生じる。
【0038】
連鎖移動剤は、特に限定されないが、その具体例としては、α−メチルスチレンダイマー;メルカプタン化合物;スルフィド化合物;ニトリル化合物;チオグリコール酸エステル;β−メルカプトプロピオン酸エステル;等が挙げられる。
メルカプタン化合物の具体例としては、t−ドデシルメルカプタン、n−ドデシルメルカプタン等を挙げることができる。
スルフィド化合物の具体例としては、ジメチルキサントゲンジスルフィド、ジイソプロピルキサントゲンジスルフィド等を挙げることができる。
ニトリル化合物の具体例としては、2−メチル−3−ブテンニトリル、3−ペンテンニトリル等を挙げることができる。
チオグリコール酸エステルの具体例としては、チオグリコール酸メチル、チオグリコール酸プロピル、チオグリコール酸オクチル等を挙げることができる。
β−メルカプトプロピオン酸エステルの具体例としては、β−メルカプトプロピオン酸メチル、β−メルカプトプロピオン酸オクチル等を挙げることができる。
これらの中でもチオグリコール酸エステルが好ましく、チオグリコール酸オクチルがより好ましい。
これらの連鎖移動剤は1種類を単独で使用してもよく、2種類以上を併用してもよい。
連鎖移動剤の使用量は、単量体(A)100重量部に対して、好ましくは0.5〜20重量部、より好ましくは1〜15重量部である。
【0039】
単量体(A)の重合は、例えば、以下のようにして行なうことができる。
攪拌機付容器に、単量体(A)、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物、所望により連鎖移動剤、及びイオン交換水を投入して攪拌混合して、単量体(A)の乳化分散体を調製する。
別の攪拌機付反応器に、イオン交換水を投入し、昇温して重合開始剤を添加した後、上記の乳化分散体を、所定時間に亘り、連続的に添加しながら重合する。
【0040】
単量体(A)の重合に際して、イオン交換水の使用量は、特に限定されないが、重合後の固形分濃度が、通常、5〜30重量%となるように調節する。
単量体(A)を重合するときの温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃である。重合時間は、特に限定されないが、重合転化率が、通常、90重量%以上、好ましくは93重量%以上、より好ましくは95%重量%以上となるように調節する。
【0041】
以上のようにして、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体を含有するラテックスが得られる。
このスルホン酸基アルカリ可溶性重合体は、アルカリ可溶性であり、pHを調整することによって水溶液とすることができる。
【0042】
本発明においては、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合する。
この場合、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体は、塩基性化合物で中和し、水溶液の状態で使用することが好ましい。
塩基性化合物としては、後述する水性インク用樹脂組成物のpH調整に用いるのと同様のものを用いることができる。中でも、アンモニアが好ましい。塩基性化合物の使用量は、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体中の酸基のモル数とほぼ当量程度である。
【0043】
スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体と単量体(B)との重量比率(前者/後者)は、好ましくは10/100〜40/100となる範囲であり、より好ましくは15/100〜35/100となる範囲である。
【0044】
単量体(B)の重合方法は、特に限定されないが、通常、重合開始剤を使用し、水中で行なう。
重合開始剤としては、前記単量体(A)の重合に用いるものと同様のものが使用できる。中でも、無機過酸化物重合開始剤が好ましく、過硫酸塩がより好ましく、過硫酸カリウム及び過硫酸アンモニウムが特に好ましい。
重合開始剤の使用量は、その種類によって異なるが、単量体(B)100重量部に対して、好ましくは0.05〜5重量部、より好ましくは0.1〜2重量部である。
【0045】
単量体(B)の重合に際して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体が分散安定化剤として機能するので、乳化剤としての界面活性剤は、使用する必要がなく、使用しない方が好ましい。
界面活性剤を使用しないことにより、最終的に得られる水性インク用樹脂の耐水性や成膜性が良くなるといった利点が生じる。
【0046】
単量体(B)の重合に際して、連鎖移動剤を併用してもよい。
連鎖移動剤としては、前記単量体(A)の重合に用いるものと同様のものが使用できる。その使用量は、単量体(B)を重合して得られる重合体の分子量を好ましい範囲に調節するよう、適宜選択すればよい。
【0047】
単量体(B)の重合は、例えば、以下のようにして行なうことができる。
攪拌機付反応器に、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体及びイオン交換水を投入し、昇温して重合開始剤を添加した後、単量体(B)を、所定時間に亘り、連続的に添加しながら重合する。
攪拌機付反応器中でスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体を得た後、引き続き、同一反応器に、追加の重合開始剤及び単量体(B)を添加して重合することもできる。
【0048】
単量体(B)の重合に際して、イオン交換水の使用量は、特に限定されないが、重合後の固形分濃度が、通常、10〜40重量%となるように調節する。
単量体(B)を重合するときの温度は、特に限定されないが、通常、0〜100℃、好ましくは30〜90℃である。重合時間は、特に限定されないが、重合転化率が、通常、90重量%以上、好ましくは93重量%以上、より好ましくは95%重量%以上となるように調節する。
【0049】
以上のようにして、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体のラテックスが得られる。この重合体は、水性インク用樹脂として有用である。
【0050】
本発明の重合体ラテックスの平均粒子径は、好ましくは50〜300nm、より好ましくは80〜150nmの範囲にある。
平均粒子径が上記範囲内にあるとき、これを用いて得られる得られる水性インク用樹脂組成物の保存安定性と吐出性とのバランスがより優れたものになる。
本発明の重合体ラテックスを構成する重合体のテトラヒドロフラン可溶成分の重量平均分子量は、好ましくは5,000〜200,000、より好ましくは50,000〜200,000の範囲にある。上記範囲にあれば、この重合体を水性インク用樹脂組成物に用いた場合に、光沢性と耐擦性とのバランスに優れる印刷物が得られる。
また、本発明の重合体ラテックスを構成する重合体は、メチルエチルケトンを溶媒としたとき、通常、10〜55重量%のゲル含量を有する。
【0051】
本発明の重合体ラテックスを、公知の方法で凝固乾燥処理することにより、固形の重合体として取り出すこともできる。
【0052】
本発明の水性インク用樹脂は、アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体からなる。
【0053】
本発明の水性インク用樹脂組成物は、上記本発明の水性インク用樹脂、着色剤及び水性媒体を含有してなる。
【0054】
着色剤としては、水溶性染料又は水不溶性顔料を使用することができるが、画像濃度が高く、耐光性及び耐水性に優れる印刷物が得られる点で、水不溶性顔料が好ましい。
水溶性染料としては、従来公知のものを使用することができる。
水不溶性顔料としては、従来公知の無機顔料及び有機顔料を使用することができる。
無機顔料の具体例としては、酸化チタン、酸化鉄、カーボンブラック等を挙げることができる。
有機顔料の具体例としては、アゾ染料;アゾレーキ、不溶性アゾ顔料、縮合アゾ顔料、キレートアゾ顔料等のアゾ顔料;フタロシアニン顔料、ペリレン顔料、ペリノン顔料、アントラキノン顔料、キナクリドン顔料、ジオキサジン顔料、チオインジゴ顔料、イソインドリノン顔料、キノフラロン顔料等の多環式顔料;塩基性染料型キレート、酸性染料型キレート等の染料キレート;ニトロ顔料;ニトロソ顔料;アニリンブラック;等を使用することができる。
これらの着色剤の量は、特に限定されないが、水性インク用樹脂100重量部に対して、通常、1〜500重量部、好ましくは10〜400重量部、より好ましくは100〜300重量部である。この範囲にあれば、本願発明の効果がより容易に発現される。
【0055】
本発明において、水性媒体とは、水及び水との混和性を有する溶媒をいう。
好ましい水性媒体は、後述する水溶性ないし水混和性の有機溶媒と水との混合物である。両者の混合比は、重量比で、好ましくは10:90〜90:10、より好ましくは20:80〜80:20である。
【0056】
水溶性ないし水混和性の有機溶媒は、特に限定されないが、水溶性ないし水混和性の各種アルコール、ケトン、エーテル、エステル、アミン等を使用することができる。
その具体例としては、メタノール、エタノール、n−プロピルアルコール、イソプロピルアルコール、n−ブタノール、sec−ブタノール、t−ブタノール、イソブタノール、n−ペンタノール、エチレングリコール、プロピレングリコール、ジエチレングリコール、ペンタメチレングリコール、トリメチレングリコール、2−ブテン−1,4−ジオール、2−エチル−1,3−ヘキサンジオール、2−メチル−2,4−ペンタンジオール、グリセリン、ジプロピレングリコール、テトラエチレングリコール、トリエチレングリコール等のアルコール;トリプロピレングリコールモノメチルエーテル、ジプロピレングリコールモノエチルグリコール、ジプロピレングリコールモノメチルエーテル、トリエチレングリコールモノメチルエーテル、ジエチレングリコールモノブチルエーテル、ジエチレングリコールモノエチルエーテル、ジエチレングリコールモノメチルエーテル等のエーテルアルコール;N−メチル−2−ピロリドン、1,3−ジメチル−2−イミダゾリジノン、2−ピロリドン等のケトン;等が挙げられる。
これらの中でも、水性インク用樹脂組成物としての使用環境を考慮すると、沸点が100℃以上のものが好ましい。
【0057】
本発明の水性インク用樹脂組成物において、水性媒体の量は、水性インク用樹脂100重量部に対して、50〜2,000重量部であることが好ましく、100〜1,500重量部であることがより好ましい。
【0058】
本発明の水性インク用樹脂組成物は、そのpHが7以上であることが好ましく、7以上、且つ、9以下であることがより好ましい。
pHをこの範囲内に保つことにより、水性インク用樹脂組成物及びこれから得られる水性インクは、保存安定性及び吐出安定性に優れたものとなり、また、光沢濃度、光沢均一性、画像の鮮明性及び耐擦性に優れた画像を与える。
【0059】
水性インク用樹脂組成物のpHを上記の範囲とするためには、水性インク用樹脂組成物に塩基性化合物を配合すればよい。
塩基性化合物は、特に限定されないが、アンモニア又はアミンを使用することが好ましい。
アミンとしては、第三級アミンが好ましく、その具体例としては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリエタノールアミン、ジメチルエタノールアミン、ジエチルエタノールアミン、トリイソプロパノールアミン、ブチルジエタノールアミン等を挙げることができる。これらは、1種類を単独で使用しても2種以上を併用しても構わない。
塩基性化合物としては、このほか、水酸化カリウム、水酸化ナトリウム、水酸化リチウム等の、アルカリ金属水酸化物を使用することもできる。
これらの塩基性化合物の使用量は、pHを上記範囲に設定できるように選定すればよく、特に限定されない。
【0060】
本発明の水性インク用樹脂組成物は、その他、必要に応じて、防腐剤、防かび剤、酸化防止剤等を含有していてもよい。
【0061】
本発明の水性インク用樹脂組成物は、必須成分としての、本発明の水性インク用樹脂、着色剤及び水性媒体を混合することによって得ることができる。
本発明の水性インク用樹脂組成物は、本発明の重合体ラテックスを凝固乾燥して得られた固形状の重合体からなる水性インク用樹脂を水性媒体に再溶解し、それと着色剤と混合することによって得ることもできるが、好適には、水性インク用樹脂としての重合体を含有してなる本発明の重合体ラテックスを水性媒体及び着色剤と混合することによって得ることができる。
混合の順序、混合方法や混合に用いる機器には、特に限定はない。
【0062】
本発明の水性インク用樹脂組成物は、例えば、水性グラビアインク、水性フレキソインク、インクジェット記録用水性インクとして好適に使用できる。また、水性塗料として使用することも可能である。
【実施例】
【0063】
以下に実施例を挙げて本発明を更に具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に限定されるものではない。なお、実施例中の「%」及び「部」は特に断りのない限り、質量基準である。
また、各特性の評価方法は以下のとおりである。
【0064】
(重合体ラテックスの平均粒子径)
重合体ラテックスの電子顕微鏡写真に写る重合体ラテックス粒子を無作為に300個選び、その粒子径の数平均を求める。
(重合体ラテックスのpH)
pH計(HORIBA社製、商品名「pH METER M−12」)を用いて、20℃の条件で測定する。
【0065】
(重合体のガラス転移温度)
重合体ラテックスまたは水溶液を、アルミ皿上に採取し、常温で乾燥後、更に40℃で真空乾燥して重合体試料を得る。この試料について、高感度示差走査熱量計(セイコー電子工業社製、「RDC220」)を用いて、昇温速度10℃/分で測定する。
(重合体の重量平均分子量)
ガラス転移温度測定用試料と同様にして、重合体試料を得る。この試料について、テトラヒドロフランを溶離液とするゲルパーミエーション(GPC)測定により、標準ポリスチレン換算分子量として求める。
【0066】
(重合体のゲル含量)
固形分濃度を20%に調整したラテックスまたは水溶液を枠付きガラス板に流延し、25℃で4日間静置してフィルムとする。得られたフィルムから、一定量を精秤して(重量W0)、80メッシュの金網のカゴに入れて、温度20℃としたメチルエチルケトン(MEK)に浸漬する。48時間後にカゴを引き上げ、25℃で2日間、真空乾燥した後、MEKに溶解せずにカゴ内に残存しているフィルムを精秤する(重量W1)。重量W0及びW1から、下記式(1)に従い、ゲル含量を求める。
ゲル含量(%)=(W1/W0)×100 (1)
【0067】
(水性インク用樹脂組成物の調製)
CAB−O−JET−300(キャボット社製15%分散液)顔料分散液34部、グリセリン20部、ジエチレングリコールモノイソブチルエーテル5部、特殊アニオン界面活性剤(オレイルアルコール系。第一工業製薬社製、商品名「ハイテノール18E」)0.5部、重合体ラテックス(固形分濃度30%)8.5部、リン酸水素二アンモニウム0.5重量部及び純水30部を十分混合し、pHが8になるように10%水酸化リチウム水溶液を用いて調整する。更に、0.8μmフィルターで加圧ろ過して、水性インク用樹脂組成物を得る。
【0068】
(水性インク用樹脂組成物の保存安定性評価)
水性インク用樹脂組成物を50℃のオーブンに10日間放置し、放置前後のインクについて、固形物の粒子径を光散乱法粒度分布計(日機装社製、商品名「マイクロトラック」)によって測定し、放置前後の粒子径増大の程度を調べ、下記の基準に従って評価する。粒子径増大の程度が少ないほど、粒子の凝集が少なく、保存安定性が優れていることになる。
○:初期からの平均粒子径増大が300nm未満である。
×:初期からの平均粒子径増大が300nm以上である。
【0069】
(吐出安定性)
水性インク用樹脂組成物をインクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、商品名「EM−930C」)に充填して、一般環境下で、べた印刷及び罫線を含むパターンの連続印刷を行なう。このとき、印刷中にノズルの抜けやインクの飛行曲がり等による印字の乱れがあった場合に、記録装置に付属の復帰操作(クリーニング)をその都度行なう。
このようにして、連続100頁を印刷するのに必要となった上記クリーニングの回数を記録し、その回数により、以下の基準で判定する。
◎:クリーニングを全く必要としなかった。
○:クリーニング回数が1〜2回であった。
△:クリーニング回数が3〜4回であった。
×:5回以上のクリーニングが必要であった。
【0070】
(普通紙印刷時の光学濃度)
水性インク用樹脂組成物を圧電素子式オンデマンド型インクジェット記録装置(セイコーエプソン社製、商品名「EM−930C」)に充填し、「普通紙−きれい」モードで、中性普通紙(富士ゼロックス社製、商品名「ゼロックスP」)に、文字印刷及びべた印刷を行なう。
印刷後、記録物を一般環境下に1時間放置した後、グレタグ濃度計(グレタグマクベス社製)を用いて、べた部分の光学濃度を測定する。
光学濃度測定値に基づいて、下記の基準で光学濃度レベルを判定する。
◎:光学濃度が1.3以上
○:光学濃度が1.2以上、1.3未満
△:光学濃度が1.1以上、1.2未満
×:光学濃度が1.1未満
【0071】
(光沢紙印刷時の印字の光沢均一性)
水性インク用樹脂組成物を、インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、商品名「PX−V700」)に搭載する。25℃/相対湿度40%の環境下で、写真用紙(セイコーエプソン社製、商品名「写真用紙<光沢>」)に写真画像パターンを印字し、その非印字領域と印字領域における光沢性の差を目視により評価し、下記の基準で判定する。
○:光沢性にほとんど差がなく、全く問題がない。
△:光沢性に若干差があるが、実用上、問題がない。
×:光沢性に差があり、印字領域において光沢性が劣ることが確認できる。
【0072】
(画像の鮮明性)
インクジェットプリンター(セイコーエプソン社製、商品名「EM−900」)を用い、ヘッドの駆動電圧、周波数及びパルス幅を変えて、下記の各紙に文字印刷及びベタ印刷を行なう。
印字条件は、Mjが35pl、Vjが20m/秒、周波数が1kHz、記録密度は360dpiで、ワンパス印字とする。
印字乾燥後、印字部と非印字部との境界の滲み、色調、画像濃度を目視及び反射型カラー分光測色濃度計(X−Rite社製)を用いて、総合的に調べ、下記基準に従って判定する。
(用いた印刷用紙)
商品名「マイペーパー」(NBSリコー社製)
再生紙(NBSリコー社製、商品名「紙源S」)
商品名「Xerox4024紙」(富士ゼロックスオフィスサプライ社製)
(判定基準)
◎:3種類の印刷用紙全てについて、滲みの発生がなく、印刷が鮮明である。
○:3種類の印刷用紙のうち、一部の用紙(再生紙)に、ひげ状の滲みの発生がある。
△:3種類の印刷用紙全てについて、ひげ状の滲みの発生がある。
×:3種類の印刷用紙全てについて、文字の輪郭がはっきりしないほど、滲みが発生している。
【0073】
(耐擦性)
上記光沢紙における印字の光沢性試験と同じ条件で、写真用紙(セイコーエプソン社製、商品名「PM写真用紙<光沢>」)に印刷する。
画像サンプル表面をプラスチック製消しゴムを使用して、一定圧力で(素手で普通に)5往復擦り、その後の画像の状態を目視し、下記の基準に従って判定する。
○:擦った後も、擦る前と同じ状態を維持している。
△:擦った後に若干の滲みが発生している。
×:文字の輪郭がはっきりしないほど滲みが発生している。
【0074】
(実施例1)
(スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の調製)
メタクリル酸メチル22.0部、メタクリル酸4.5部、スチレンスルホン酸ナトリウム3.5部、平均重合度500、鹸化度約87〜89モル%のポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「PVA205」)1.5部、チオグリコール酸オクチル(連鎖移動剤)2.35部及びイオン交換水180部を、単量体混合物調製容器中で、攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器(重合器)にイオン交換水220部を仕込み、80℃に昇温し、0.5部の過硫酸アンモニウムを40部の水に溶解して得た水溶液を添加後、前記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃で90分間、後反応を継続して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(1)の水分散液を得た。次いで、得られたスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(1)の水分散液に、重合体中の酸基と当モル量となるアンモニア(28%水溶液)を添加して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(1)の中和物水溶液を得た。なお、重合転化率は、98%以上であった。
【0075】
(重合体(水性インク用樹脂)ラテックスの調製)
固形分換算で30部に相当する量の前記スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(1)の中和物水溶液を反応器に仕込み、その後、80℃に加熱し、5%過硫酸カリウム水溶液12.6部を反応器に添加した。80℃に保持された反応器に、メタクリル酸メチル45部及びアクリル酸ブチル55部からなる単量体の混合物を、3時間かけて連続添加して重合させた。重合は、単量体混合物の添加終了後、更に2時間継続した。その後、30℃に冷却して、重合体ラテックス(1)(水性インク用樹脂ラテックス(1))を得た。
得られた重合体ラテックス(1)のpHは、7.5で、その粒子径は117nmであった。また、重合体(1)(水性インク用樹脂(1))のガラス転移温度は4℃、重量平均分子量は120,000、ゲル含量は26%であった。
この重合体ラテックス(1)(水性インク用樹脂ラテックス(1))を用いて水性インク用樹脂組成物(1)を調整し、その特性を評価した。結果を表1に示す。
【0076】
(実施例2〜3)
単量体の組成及びポリビニルアルコールの使用量を表1に示すように変えるほかは、実施例1と同様にして、それぞれ、重合体ラテックス(水性インク用樹脂ラテックス)(2)〜(3)を得た。その特性を表1に示す。
これらの重合体ラテックス((水性インク用樹脂ラテックス)(2)〜(3))を用いて、実施例1と同様にして、水性インク用樹脂組成物(2)〜(3)を得た後、それらの各特性を評価した。その結果を、表1に示す。
【0077】
(比較例1)
ポリビニルアルコール1.5部に代えてポリオキシエチレンアルキルエーテル硫酸エステル型反応性乳化剤(第一工業製薬社製、商品名「アクアロンKH1025」)2.0部を使用するほかは、実施例1と同様にして、重合体ラテックス(C1)(水性インク用樹脂ラテックス(C1))を得た。その特性を表1に示す。
重合体ラテックス(C1)(水性インク用樹脂ラテックス(C1))を用いて、実施例1と同様にして、水性インク用樹脂組成物(C1)を得た後、その特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0078】
(比較例2)
メタクリル酸メチルの量を22.0部から22.5部に変え、スチレンスルホン酸ナトリウムを使用せず、メタクリル酸の量を7.5部とするほかは、実施例1と同様にして、重合体ラテックス(C2)(水性インク用樹脂ラテックス(C2))を得た。その特性を表1に示す。
重合体ラテックス(C2)(水性インク用樹脂ラテックス(C2))を用いて、実施例1と同様にして、水性インク用樹脂組成物(C2)を得た後、その特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0079】
(比較例3)
メタクリル酸メチル50.0部、メタクリル酸3.5部、アクリル酸ブチル42.0部、スチレンスルホン酸ナトリウム4.5部、平均重合度500、鹸化度約87〜89モル%のポリビニルアルコール(クラレ社製、商品名「PVA205」1.5部、チオグリコール酸オクチル(連鎖移動剤)2.35部及びイオン交換水180部を、単量体混合物調製容器中で、攪拌混合して、単量体混合物の分散物を調製した。
別の攪拌機付き反応器(重合器)にイオン交換水220部を仕込み、80℃に昇温し、0.5部の過硫酸アンモニウムを40部の水に溶解して得た水溶液を添加後、前記単量体混合物の分散物を2時間かけて連続添加して重合させた。連続添加終了後、80℃で90分間、後反応を継続して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(C3)の水分散液を得た。次いで、得られたスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(C3)の水分散液に、重合体中の酸基と当モル量となるアンモニア(28%水溶液)を添加して、スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体(C3)の中和物水溶液を得た。なお、重合転化率は、98%以上であった。
重合体ラテックス(1)(水性インク用樹脂ラテックス(1))に代えて、固形分濃度を30%に調整したスルホン酸基含有アルカリ可溶性共重合体(C3)を用いる以外は、実施例1と同様にして、水性インク用樹脂組成物(C3)を得た後、その特性を評価した。その結果を表1に示す。
【0080】
表1から、以下のことがわかる。
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物(ポリビニルアルコール)を使用せず反応性乳化剤を用いて得たスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られた重合体からなる水性インク用樹脂を含有してなる水性インク用樹脂組成物(C1)は、保存安定性及び吐出安定性には問題がないものの、光沢紙印刷時の印字の光沢性、普通紙印刷時の光学濃度、画像鮮明性及び耐擦性の全てにおいて劣る(比較例1)。
【0081】
【表1】

【0082】
スルホン酸基含有単量体を含有しない単量体(A)を重合して得た重合体の存在下にα,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られた重合体からなる水性インク用樹脂を含有してなる水性インク用樹脂組成物(C2)は、吐出安定性に劣り、光沢紙印刷時の印字の光沢性及び画像鮮明性にも劣る(比較例2)。
【0083】
更に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)をスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に重合するのではなく、単量体(A)及び単量体(B)(全単量体)をアルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物(ポリビニルアルコール)の存在下に重合して得られた重合体からなる水性インク用樹脂を含有してなる水性インク用樹脂組成物(C3)は、保存性及び吐出性に劣り、印刷画像の特性にも劣る(比較例3)。
【0084】
これらに対して、本発明の規定を満足する重合体ラテックスを用いた水性インク用樹脂組成物((1)〜(3))は、保存安定性及び吐出安定性に優れている。また、これを用いて得られる画像は、光沢紙印刷時の印字の光沢性、普通紙印刷時の光学濃度、画像の鮮明性及び耐擦性の全てにおいて優れている(実施例1〜3)。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体ラテックス。
【請求項2】
アルコール性水酸基含有水溶性高分子化合物の存在下にスルホン酸基含有単量体を含んでなる単量体(A)を重合して得られるスルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体の存在下に、α,β−エチレン性不飽和カルボン酸化合物単量体を含んでなる単量体(B)を重合して得られる重合体からなる水性インク用樹脂。
【請求項3】
スルホン酸基含有アルカリ可溶性重合体と単量体(B)との重量比率(前者/後者)が、10/100〜40/100である請求項2に記載の水性インク用樹脂。
【請求項4】
単量体(A)中のスルホン酸基含有単量体の含有割合が0.5重量%以上である請求項2又は3に記載の水性インク用樹脂。
【請求項5】
請求項2〜4のいずれか1項に記載の水性インク用樹脂、着色剤及び水性媒体を含有してなる水性インク用樹脂組成物。

【公開番号】特開2008−63475(P2008−63475A)
【公開日】平成20年3月21日(2008.3.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2006−243790(P2006−243790)
【出願日】平成18年9月8日(2006.9.8)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】