説明

重合体粒子の製造方法

【課題】本発明の目的は、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造する方法を提供する。
【解決手段】少なくとも1種以上の重合性単量体を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、当該重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得る懸濁工程、及び当該懸濁液を重合開始剤の存在下で懸濁重合させることにより重合体粒子を得る工程を含む重合体粒子の製造方法であって、上記懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤が、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子であることを特徴とする重合体粒子の製造方法である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、懸濁重合法による重合体粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
これまで、懸濁重合法による重合体粒子の製造方法としては、トナーの技術分野において代表的に多用されてきた。近年、トナーの技術分野においては、高解像度且つ高画質である画像印刷に対する要求水準の高まりに伴い、トナーの粒径を小粒径化し、粒径分布をよりシャープに調節するための様々な試みがなされている。
【0003】
一般に、懸濁重合法によるトナーは、先ず、重合性単量体、着色剤等を含有する重合性単量体組成物を調製し、当該重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得て、当該懸濁液を重合開始剤の存在下で懸濁重合させることにより製造される。
【0004】
懸濁重合法によるトナーの製造方法において、トナーの粒径は、懸濁液を得る工程において形成される、重合性単量体組成物の液滴径で概ね決まることから、当該液滴径を所望の小粒径化された径にコントロールするために、水系分散媒体中に含有させる分散安定化剤の種類や添加量等についての検討が様々行われてきた。
【0005】
例えば、特許文献1では、分散安定化剤として、イオン交換水250部に塩化マグネシウム7.4部を溶解した塩化マグネシウム水溶液に、イオン交換水50部に水酸化ナトリウム6.8部を溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を加えて調製された水酸化マグネシウムのコロイド分散液を用いて、体積平均粒径Dvが6.6〜6.8μmのトナーを製造する方法が記載されている。
【0006】
また、特許文献1では、分散安定化剤として調製された水酸化マグネシウムのコロイド分散液は、コロイドの粒径分布をSALD粒径分布測定器(島津製作所社製)で測定したところ、粒径はD50(個数粒径分布の50%累積値)が0.35μmで、D90(個数粒径分布の90%累積値)が0.62μmであったことが記載されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2007−148033号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献1では、懸濁重合法によって、トナーの粒径を小さくするための試みはなされているが、比較的大粒径を有する重合体粒子を製造する方法については、全く検討がなされていない。
【0009】
本出願人は、体積平均粒径Dvが20μm以上の比較的大粒径の重合体粒子が求められることが期待される技術分野(例えば、「蓄熱材用マイクロカプセル粒子」の技術分野)において、これまでトナーの技術分野で培った技術を更に応用させて、汎用性が高い重合体粒子の製造方法についての検討を行った。
【0010】
本発明は、上記実状を鑑みて成し遂げられたものであり、本発明の目的は、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造することができる方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成すべく鋭意検討したところ、懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤として、特定の粒径を有する水酸化マグネシウム粒子を水系分散媒体中に含有させることにより、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造することができることを見出し、これらの知見に基づいて本発明を完成するに到った。
【0012】
すなわち本発明の重合体粒子の製造方法は、少なくとも1種以上の重合性単量体を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、当該重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得る懸濁工程、及び当該懸濁液を重合開始剤の存在下で懸濁重合させることにより重合体粒子を得る工程を含む重合体粒子の製造方法であって、
上記懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤が、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子であることを特徴とするものである。
【0013】
前記重合体粒子の製造方法において、前記重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体組成物が、蓄熱材として融点が5〜150℃のワックスを含有し、当該ワックスの含有量が、重合性単量体100重量部に対して、5〜200重量部であることが好ましい。
【0014】
前記重合体粒子の製造方法において、前記重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体組成物が、蓄熱材として融点が5〜150℃のワックスを含有し、当該ワックスの含有量が、重合性単量体100重量部に対して、5〜200重量部である場合には、
上記重合性単量体組成物中の重合性単量体が、架橋性の重合性単量体を含み、当該架橋性の重合性単量体の成分比率が、重合性単量体全量の10重量%以上であることが好ましい。
【0015】
前記重合体粒子の製造方法において、前記懸濁液を得る懸濁工程において、水系分散媒体が、塩化マグネシウムを含有することが好ましい。
【発明の効果】
【0016】
上記の如き本発明の重合体粒子の製造方法によれば、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造することができる方法が提供される。
【図面の簡単な説明】
【0017】
【図1】図1は、実施例1で得られた重合体粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】図2は、実施例4で得られた重合体粒子の走査電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0018】
本発明の重合体粒子の製造方法は、少なくとも1種以上の重合性単量体を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、当該重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得る懸濁工程、及び当該懸濁液を重合開始剤の存在下で懸濁重合させることにより重合体粒子を得る工程を含む重合体粒子の製造方法であって、
上記懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤が、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子であることを特徴とするものである。
【0019】
(1)重合性単量体組成物の調製工程
本工程においては、少なくとも1種以上の重合性単量体、必要に応じて、その他の添加物等を、攪拌、混合し、均一に分散させて、重合性単量体組成物を調製する。
【0020】
本発明の重合体粒子の製造方法によれば、その他の添加物として、重合性単量体組成物中に、蓄熱材を含有させることができる。蓄熱材を含有させることによって、重合性単量体組成物を調製し、後述する(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)、(3)懸濁重合工程、(4)分離・洗浄、濾過、脱水、及び乾燥工程を経て蓄熱材用マイクロカプセル粒子が得られる。
ここで、「蓄熱材用マイクロカプセル粒子」とは、カプセル壁と、それに内包された蓄熱材とからなるカプセル粒子のことをいう。
以下において、「蓄熱材用マイクロカプセル粒子」を作製する方法の一例を説明する。
【0021】
先ず、カプセル壁となる樹脂を構成する、少なくとも1種以上の重合性単量体を、保温しながら攪拌、混合し、均一に分散させた後、蓄熱材を加え、攪拌、混合し、分散又は溶解して、重合性単量体組成物を調製する。
【0022】
ここで、少なくとも1種以上の重合性単量体を保温する温度は、蓄熱材を重合性単量体に好適に溶解させ易くする観点から、重合性単量体の成分、及び蓄熱材の種類等に応じて適宜調整するが、20〜60℃に設定することが好ましく、25〜50℃に設定することがより好ましい。
【0023】
本発明においては、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体として、所望のカプセル壁を形成する観点から、「架橋性の重合性単量体」を含む重合性単量体を用いることが好ましい。
【0024】
ここで、「架橋性の重合性単量体」とは、重合可能な官能基を、分子内に2つ以上もつ架橋性の重合性単量体のことをいう。
なお、重合可能な官能基としては、炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)が好ましい。
【0025】
「架橋性の重合性単量体」としては、例えば、ジビニルベンゼン、ジビニルビフェニル、ジビニルナフタレン等のビニル系架橋性の重合性単量体;ジアリルフタレート、トリアリルイソシアヌレート等のアリル系架橋性の重合性単量体;エチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ジエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、テトラエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、ポリエチレングリコールジ(メタ)アクリレート、1,3−ブチレングリコールジ(メタ)アクリレート、トリメチロールプロパントリ(メタ)アクリレート等の(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体;等が挙げられる。これらの架橋性の重合性単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0026】
上記架橋性の重合性単量体の中でも、好適なカプセル壁が形成され易いことから、(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体、及びビニル系架橋性の重合性単量体が好ましく用いられ、(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体がより好ましく、なかでも、エチレングリコールジメタクリレートが特に好ましい。
【0027】
本発明において、架橋性の重合性単量体の成分比率は、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体全量の10重量%以上であることが好ましく、30重量%以上であることがより好ましく、50重量%以上であることがさらに好ましい。
【0028】
上記架橋性の重合性単量体の成分比率が、上記下限未満である場合には、カプセル壁としての強度が十分に得られず、カプセル壁は破壊され易くなり、蓄熱材を漏洩させてしまう原因になる場合がある。
【0029】
なお、ここでいう「蓄熱材の漏洩」とは、カプセル壁が破壊されて蓄熱材が外部へ漏出する場合や、蓄熱材とカプセル壁を構成する樹脂との相溶性が高過ぎて、カプセル壁から外部へ蓄熱が滲出する場合等の蓄熱材を好適に内包させた状態を維持することができなくなった際に生じる不具合のことを指していう。
【0030】
本発明においては、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体として、「架橋性の重合性単量体」と共に、「単官能の重合性単量体」を併用して用いることもできる。
【0031】
ここで、「単官能の重合性単量体」とは、重合可能な官能基を、分子内に1つのみ有する重合性単量体のことをいう。
なお、重合可能な官能基としては、炭素−炭素不飽和二重結合(C=C)等が好ましい。
【0032】
「単官能の重合性単量体」としては、例えば、スチレン、ビニルトルエン、α−メチルスチレン等のモノビニル芳香族系単官能の重合性単量体;(メタ)アクリル酸、(メタ)アクリル酸メチル、(メタ)アクリル酸エチル、(メタ)アクリル酸プロピル、(メタ)アクリル酸ブチル、(メタ)アクリル酸2−エチルヘキシル、(メタ)アクリル酸ジメチルアミノエチル等の(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体;エチレン、プロピレン、ブチレン等のオレフィン系単官能の重合性単量体;等が挙げられる。これらの単官能の重合性単量体は、それぞれ単独で、或いは2種以上を組み合わせて用いることができる。
【0033】
上記単官能の重合性単量体の中でも、好適なカプセル壁が形成され易いことから、モノビニル芳香族系単官能の重合性単量体、及び(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体が好ましく用いられ、なかでも、スチレン、及びメチルメタクリレートが特に好ましい。
【0034】
本発明において、単官能の重合性単量体の成分比率は、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体全量の90重量%以下であることが好ましく、70重量%以下であることがより好ましく、10重量%以上50重量%以下であることがさらに好ましい。
【0035】
蓄熱材としては、一般に蓄熱材として用いられているものであれば、特に限定されないが、所望の蓄熱効果が得られ易いことから、特定の融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)を有するワックスを特定量用いることが好ましい。
【0036】
本発明で蓄熱材として用いるワックスとしては、例えば、ポリプロピレンワックス、ポリエチレンワックス、石油ワックス、フィッシャートロプシュワックス、多官能脂肪酸エステル化合物等が代表的に挙げられるが、多官能脂肪酸エステル化合物が好ましく用いられる。
【0037】
ここで、「多官能脂肪酸エステル化合物」とは、「高級脂肪酸(R−COOH)」のカルボキシル基(−COOH)と「多価アルコール(R'−OH)」の水酸基(−OH)とが脱水縮合することによりできたエステル結合(R−COO−R')を、分子内に2つ以上もつエステル化合物のことをいう。
【0038】
「多官能脂肪酸エステル化合物」の原料となる「高級脂肪酸(R−COOH)」とは、炭素数が12以上の脂肪酸のことをいい、直鎖飽和高級脂肪酸、直鎖不飽和高級脂肪酸、分岐飽和高級脂肪酸、及び分岐不飽和高級脂肪酸とに大別される。これらの中でも直鎖飽和高級脂肪酸が好ましく用いられる。
【0039】
このような直鎖飽和高級脂肪酸としては、例えば、ラウリン酸(C12)、ミリスチン酸(C14)、パルミチン酸(C16)、ステアリン酸(C18)、アラキン酸(C20)、ベヘン酸(C22)、リグノセリン酸(C24)、セロチン酸(C26)、モンタン酸(C28)、及びメリシン酸(C30)等が挙げられる。
【0040】
これらの「多官能脂肪酸エステル化合物」の原料となる「高級脂肪酸(R−COOH)」は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、所望の蓄熱効果が得られ易いことから、炭素数が12〜28の直鎖飽和高級脂肪酸が好ましく用いられ、炭素数が12〜22の直鎖飽和高級脂肪酸がより好ましく用いられ、炭素数が14〜18の直鎖飽和高級脂肪酸が更に好ましく用いられる。
【0041】
「多官能脂肪酸エステル化合物」の原料となる「多価アルコール(R'−OH)」とは、分子内に水酸基(−OH)を、2つ以上もつ2価以上のアルコールのことをいう。
【0042】
2価アルコールとしては、例えば、エチレングリコール、ネオペンチルグリコール、ジエチレングリコール、ポリエチレングリコール、プロピレングリコール、ジプロピレングリコール、ポリプロピレングリコール、1,4−ブタンジオール、1,6−ヘキサンジオール、及び1,4−シクロヘキサンジメタノール等が挙げられる。
【0043】
3価アルコールとしては、例えば、グリセリン、トリメチロールプロパン、1,2,4−ブタントリオール、及び1,2,6−ヘキサントリオール等が挙げられる。
【0044】
4価アルコールとしては、例えば、ジグリセリン、ペンタエリスリトール、ジトリメチロールプロパン、及びテトラヒドロキシシクロヘキサン等が挙げられる。
【0045】
5価アルコールとしては、例えば、トリグリセリン、キシリトール、アラビトール、及びペンタヒドロキシベンゼン等が挙げられる。
【0046】
6価アルコールとしては、例えば、ジペンタエリスリトール、テトラグリセリン、ソルビトール、及びマンニトール等が挙げられる。
【0047】
7価アルコールとしては、例えば、ペンタグリセリン等が挙げられる。
【0048】
8価アルコールとしては、例えば、ショ糖、ヘキサグリセリン、及びトリペンタエリスリトール等が挙げられる。
【0049】
これらの「多官能脂肪酸エステル化合物」の原料となる「多価アルコール(R'−OH)」は、それぞれ単独で、あるいは2種以上を組み合わせて用いることができる。
これらの中でも、所望の蓄熱効果が得られ易いことから、4価以上の多価アルコールが好ましく用いられ、6価以上の多価アルコールがより好ましく用いられ、なかでも、ジペンタエリスリトール、及びヘキサグリセリンが特に好ましく用いられる。
【0050】
本発明において、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)は、5〜150℃であることが好ましく、10〜120℃であることがより好ましく、20〜80℃であることが更に好ましい。
ここで、「融点(Tm)」とは、示差走査熱量計(DSC)によるDSC曲線において、ピークのトップの温度として定義される値のことをいう。
【0051】
なお、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの融点(Tm)は、示差走査熱量分析機を用いて測定される値であり、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量分析機(型式名:EXSTAR DSC 6220)を用いて測定することができる。
【0052】
上記ワックスの融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)が、上記下限未満である場合には、蓄熱材の相転移に伴う吸熱反応の効果が得られ難くなる場合がある。一方、上記ワックスの融点(Tm)(蓄熱材の相転移温度)が、上記上限を超える場合には、蓄熱材の相転移に伴う発熱反応の効果が得られ難くなる場合がある。
【0053】
本発明において、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの数平均分子量(Mn)は、1,300〜4,000であることが好ましく、1,400〜3,000であることがより好ましく、1,500〜2,000であることが更に好ましい。
【0054】
上記ワックスの数平均分子量(Mn)が、上記下限未満である場合には、カプセル壁を形成する樹脂と蓄熱材との相溶性が高くなり過ぎ、特に、高温環境下に長時間曝すと、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。一方、上記ワックスの数平均分子量(Mn)が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体と蓄熱材との相溶性が低くなり過ぎ、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0055】
本発明において、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの重量平均分子量(Mw)は、1,300〜12,000であることが好ましく、1,400〜8,000であることがより好ましく、1,500〜3,000であることが更に好ましい。
【0056】
上記ワックスの重量平均分子量(Mw)が、上記下限未満である場合には、カプセル壁を形成する樹脂と蓄熱材との相溶性が高くなり過ぎ、特に、高温環境下に長時間曝すと、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。一方、上記ワックスの重量平均分子量(Mw)が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体と蓄熱材との相溶性が低くなり過ぎ、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0057】
本発明において、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの数平均分子量(Mn)と重量平均分子量(Mw)との比である分子量分布(Mw/Mn)は、1〜3であることが好ましく、1〜2であることがより好ましく、1〜1.5であることが更に好ましい。
【0058】
上記ワックスの分子量分布(Mw/Mn)が、上記上限を超える場合には、蓄熱材の低分子量成分が、カプセル壁から外部へ滲出し易くなり、蓄熱材を好適に内包させた状態を維持することが難しくなる場合がある。
【0059】
なお、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの重量平均分子量(Mw)及び数平均分子量(Mn)は、ゲルパミエーションクロマトグラフ(GPC)法によって、GPC測定装置を用いて測定され、ポリスチレン換算して求められる値であり、例えば、東ソー社製のGPC測定装置(商品名:HLC−8220GPC)を用いて測定することができる。
【0060】
本発明において、蓄熱材として好ましく用いられるワックスの含有量は、カプセル壁となる樹脂を構成する重合性単量体100重量部に対して、5〜200重量部であることが好ましく、20〜150重量部であることがより好ましく、30〜120重量部であることが更に好ましい。
【0061】
上記ワックスの含有量が、上記下限未満である場合には、蓄熱材としての機能を十分に発揮させることができず、蓄熱性能に劣る場合がある。一方、上記ワックスの含有量が、上記上限を超える場合には、重合性単量体組成物の調製工程において、蓄熱材が重合性単量体に溶解し難くなり、カプセル壁を好適に形成させることができず、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0062】
(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)
本工程においては、水系分散媒体中に、本発明で特定する分散安定化剤(個数平均粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子)を含有させて、分散安定化剤の分散液を調製し、当該調製した分散液中に、上記(1)重合性単量体組成物の調製工程により得られた重合性単量体組成物を懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を得る。
ここで、「懸濁」とは、水系分散媒体中で重合性単量体組成物の液滴を形成させることをいう。
【0063】
本工程においては、水系分散媒体に対する、本発明で特定する分散安定化剤(個数平均粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子)の分散性を向上させて、水酸化マグネシウムを均一分散させるのに要する時間を短縮し、分散安定化剤の分散液を好適に調製する観点から、水系分散媒体中に、塩化マグネシウムを含有させることが好ましい。
【0064】
本発明において、水系分散媒体中に、本発明で特定する分散安定化剤を含有させて、分散安定化剤の分散液を調製する方法としては、特に限定されないが、例えば、攪拌翼を備えた攪拌槽において、予め、水系分散媒体に、塩化マグネシウムを溶解させた塩化マグネシウム水溶液に、本発明で特定する分散安定化剤を、攪拌しつつ徐々に加え、均一に分散させる方法が好ましく挙げられる。
【0065】
水系分散媒体としては、水単独でもよいが、低級アルコール、及び低級ケトン等の水に溶解可能な溶剤を併用することもできる。
【0066】
攪拌槽に備えられる攪拌翼としては、例えば、傾斜パドル翼、平パドル翼、プロペラ翼、アンカー翼、ファドラー翼、タービン翼、ブルマージン翼、マックスブレンド翼(住友重機械工業社製)、フルゾーン翼(神鋼パンテック社製)、リボン翼、スーパーミックス翼(住友重機械工業社製)、A310翼(LIGHTIN社製)、A320(LIGHTIN社製)、インターミグ翼(エカート社製)等が挙げられる。
これらの攪拌翼の中でも、本発明で特定する分散安定化剤を、均一に分散させ易いことから、傾斜パドル翼が好ましく用いられる。
【0067】
また、本発明において、上記のように調製された分散安定化剤の分散液中で、重合性単量体組成物の液滴を形成する方法としては、特に限定されないが、例えば、分散安定化剤の分散液に、重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで撹拌を行い、重合開始剤を加え、強攪拌が可能な装置を用いて高剪断攪拌することによって、液滴形成する方法が挙げられる。
【0068】
強攪拌が可能な装置としては、例えば、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダー MDN303V)、高速乳化・分散機(特殊機化工業社製、商品名:T.K.ホモミクサー MARK II型)等が挙げられる。
【0069】
本発明においては、分散安定化剤として、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子を用いることによって、水系分散媒体中で、所望の径を有する重合性単量体組成物の液滴を安定して形成することができ、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造することができる。
【0070】
なお、本発明で分散安定化剤として用いる、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径はそのまま維持され、0.5〜10μmである。
【0071】
本発明において、分散安定化剤として用いる水酸化マグネシウム粒子の個数平均一次粒径は、0.5〜10μmであり、好ましくは0.6〜8μm、より好ましくは0.7〜5μm、更に好ましくは0.8〜4μmである。
【0072】
上記水酸化マグネシウム粒子の個数平均一次粒径が、上記下限未満である場合には、水系分散媒体中で、液滴が小粒径化され易く、比較的小粒径の重合体粒子しか得られない場合がある。一方、上記水酸化マグネシウム粒子の個数平均一次粒径が、上記上限を超える場合には、凝集状態の重合体しか得られない場合がある。
【0073】
本発明において、分散安定化剤として用いる水酸化マグネシウム粒子としては、種々の市販品を用いることができ、例えば、協和化学工業社製の「キスマ5Q−S」(:商品名、個数平均一次粒径:1μm);宇部マテリアル社製の「UD653」(:商品名、個数平均一次粒径:3.1μm);タテホ化学社製の「エコーマグPZ−1」(:商品名、個数平均一次粒径:1.2μm);等が挙げられる。
【0074】
本発明では、分散安定化剤として用いる水酸化マグネシウム粒子を、重合性単量体100重量部に対して、好ましくは2〜25重量部、より好ましくは4〜20重量部、更に好ましくは5〜15重量部の割合で用いる。
【0075】
上記水酸化マグネシウム粒子の使用量が、上記下限未満である場合には、水系分散媒体中で、重合性単量体組成物を均一に分散させる効果が十分に得られず、液滴を安定して形成することができず、凝集状態の重合体しか得られない場合がある。一方、上記水酸化マグネシウム粒子の使用量が、上記上限を超える場合には、水系分散媒体中で、重合性単量体組成物を均一に分散させる効果が過度に進み過ぎ、液滴が小粒径化され、比較的小粒径の重合体粒子しか得られない場合がある。
【0076】
(3)懸濁重合工程
本工程においては、上記(2)懸濁液を得る懸濁工程により得られた懸濁液を、重合開始剤の存在下で、加熱し、懸濁重合させることにより、重合体粒子の水分散液を得る。
【0077】
本発明において、重合開始剤を添加する時機は、特に限定されないが、例えば、重合性単量体組成物の液滴が形成される前段階の重合性単量体組成物中に直接添加されてもよく、或いは、分散安定化剤の分散液に、重合性単量体組成物を投入し、当該重合性単量体組成物の液滴が安定するまで攪拌を行った後に添加されてもよい。
【0078】
重合開始剤としては、例えば、過硫酸カリウム、及び過硫酸アンモニウム等の無機過硫酸塩;4,4'−アゾビス(4−シアノバレリック酸)、2,2'−アゾビス(2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド、2,2'−アゾビス(2−アミジノプロパン)ジヒドロクロライド、2,2'−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニトリル)、及び2,2'−アゾビスイソブチロニトリル等のアゾ化合物;ジ−t−ブチルパーオキシド、ベンゾイルパーオキシド、t−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ヘキシルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート、t−ブチルパーオキシピバレート、ジイソプロピルパーオキシジカーボネート、ジ−t−ブチルパーオキシイソフタレート、及びt−ブチルパーオキシイソブチレート等の有機過酸化物;等が挙げられる。これらの中でも、有機過酸化物が好ましく用いられる。
【0079】
重合開始剤の添加量は、重合性単量体100重量部に対して、0.1〜20重量部であることが好ましく、0.3〜15重量部であることがより好ましく、1.0〜10重量部であることが更に好ましい。
【0080】
懸濁重合の温度は、特に限定されないが、50〜100℃であることが好ましく、60〜95℃であることがより好ましい。
懸濁重合に要する時間は、重合性単量体の成分、及び重合開始剤の種類により変動するが、1〜20時間であることが好ましく、2〜15時間であることがより好ましい。
【0081】
重合性単量体組成物の液滴を安定に分散させた状態で懸濁重合を行うために、本工程においても上記(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)に引き続き、攪拌による分散処理を行いながら重合反応を進行させてもよい。
【0082】
(4)分離・洗浄、濾過、脱水、及び乾燥工程
本工程においては、上記(3)懸濁重合工程により得られた重合体粒子の水分散液を、分離・洗浄、濾過、及び脱水といった一連の操作を必要に応じて数回繰り返し行い、得られた固形分を乾燥させて、重合体粒子を得る。
【0083】
上記(3)懸濁重合工程により得られた重合体粒子の水分散液中には、本発明で特定する分散安定化剤が残存するため、重合体粒子の水分散液を攪拌しながら、酸を滴下し、pHを好ましくは6.5以下、より好ましくは6.0以下に調整して、重合体粒子の水分散液中に残存する分散安定化剤を、酸で溶解して除去する酸洗浄を行うことが好ましい。
【0084】
重合体粒子の水分散液に滴下する酸としては、硫酸、塩酸、硝酸等の無機酸、及び蟻酸、酢酸等の有機酸を用いることができるが、本発明で特定する分散安定化剤の除去効率が大きいことや製造設備への負担が小さいことから、無機酸が好ましく用いられ、なかでも、硫酸がより好ましく用いられる。
【0085】
(重合体粒子)
本発明の重合体粒子の製造方法においては、懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤として、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子を用いることによって、水系分散媒体中で、所望の径を有する重合性単量体組成物の液滴を安定して形成することができ、懸濁重合法によっても、比較的大粒径の重合体粒子を製造することができる。
【0086】
本発明の重合体粒子の製造方法によれば、上記(1)重合性単量体組成物の調製工程において、重合性単量体組成物中に、蓄熱材を含有させて、重合性単量体組成物を調製し、上述した(2)懸濁液を得る工程(液滴形成工程)、(3)懸濁重合工程、(4)分離・洗浄、濾過、脱水、及び乾燥工程を経て、比較的大粒径の蓄熱材用マイクロカプセル粒子を製造することができる。
【0087】
(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)
以下において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の粒径特性について述べる。
本発明において、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)は、20〜200μmであることが好ましく、20〜100μmであることがより好ましく、25〜80μmであることが更に好ましい。
【0088】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)が、上記下限未満である場合には、懸濁重合法で製造し難いばかりでなく、表面積が大きくなることによって蓄熱の持続性が悪くなる場合がある。一方、上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)が、上記上限を超える場合には、カプセル壁が相対的に薄くなるため、カプセル壁が破損し易くなり、蓄熱材の漏洩が生じ易くなる場合がある。
【0089】
蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)と個数平均粒径(Dn)との比である粒径分布(Dv/Dn)は、1.0〜1.3であることが好ましく、1.0〜1.25であることがより好ましい。
【0090】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の粒径分布(Dv/Dn)が、上記上限を超える場合には、小粒径粒子の割合が増えて、上記した様に蓄熱の持続性が悪くなる場合がある。
【0091】
なお、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の体積平均粒径(Dv)、及び個数平均粒径(Dn)は、粒径測定機を用いて測定される値であり、例えば、ベックマン・コールター社製の粒径測定機(商品名:マルチサイザー)を用いて測定することができる。
【0092】
蓄熱材用マイクロカプセル粒子の平均円形度は、0.94〜0.995であることが好ましく、0.95〜0.995であることがより好ましく、0.96〜0.995であることが更に好ましい。
【0093】
本発明の重合体粒子の製造方法により作製される蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)は、10J/g以上であることが好ましく、15J/g以上であることがより好ましい。
なお、蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)は、示差走査熱量分析機を用いて測定される値であり、例えば、セイコーインスツル社製の示差走査熱量分析機(型式名:EXSTAR DSC 6220)を用いて測定することができる。
【0094】
上記蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(Q)が、上記下限未満である場合には、蓄熱材としての機能を十分に発揮させることができず、蓄熱性能に劣る場合がある。
【0095】
以上、蓄熱材を含有する重合体粒子の製造方法について説明したが、蓄熱材を含有しない場合でも、蓄熱材を除くほかは前述と同様の製造方法によって、蓄熱材を含有しない重合体粒子を製造することができる。
【実施例】
【0096】
以下に、実施例及び比較例を挙げて、本発明を更に具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例のみに限定されるものではない。なお、部及び%は、特に断りのない限り重量基準である。
本実施例及び比較例において行った試験方法は以下のとおりである。
【0097】
(1)分散安定化剤
(1−1)個数平均一次粒径
分散安定化剤の個数平均一次粒径は、各粒子の電子顕微鏡写真を撮影し、その写真を画像処理解析装置(ニレコ社製、商品名:ルーゼックスIID)により、フレーム面積に対する粒子の面積率:最大2%、トータル処理粒子数:100個の条件下で、粒子の投影面積に対応する円相当径を算出し、その算術平均の値を求めた。
【0098】
(2)蓄熱材の融点(Tm)
測定試料(蓄熱材)を、試料用ホルダーに6〜8mgを計量し、示差走査熱量分析機(セイコーインスツル社製、型式名:EXSTAR DSC 6220)を用いて、−20℃〜100℃まで10℃/分で昇温する条件で測定を行ない、DSC曲線を得た。当該DSC曲線のピークのトップを融点(Tm)として求めた。
【0099】
(3)重合体粒子の粒径特性
(3−1)体積平均粒径(Dv)
重合体粒子を約0.1g秤量し、ビーカーに取り、分散剤としてアルキルベンゼンスルホン酸水溶液(富士フィルム社製、商品名:ドライウエル)0.1mlを加え、更に専用電解液(ベックマン・コールター社製、商品名:アイソトンII−PC)を10〜30ml加え、超音波分散機で20W、3分間分散処理させた後、粒径測定機(ベックマン・コールター社製、商品名:マルチサイザー)を用いて、アパーチャー径;100μm、媒体;アイソトンII−PC、測定粒子個数;100,000個の条件下で、重合体粒子の体積平均粒径(Dv)を測定した。
【0100】
(3−2)走査電子顕微鏡(SEM)観察
重合体粒子に白金蒸着を行って、電界放射型走査電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名:S−4700)を用いて、加速電圧を5kVにし、5,000倍に拡大し、重合体粒子の表面形状を観察した。
【0101】
(4)蓄熱材用マイクロカプセル粒子の潜熱量(J/g)
精秤した測定試料(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)を、示差走査熱量計(セイコーインスツル社製、型式名:EXSTAR DSC 6220)に導入し、昇温速度:10℃/分、温度領域:0℃〜100℃の条件で測定を行ない、DSC曲線を得た。
得られたDSC曲線とベースラインとの差の積分値を潜熱量(Q)として、潜熱量(Q)を、精秤した測定試料の重量で除し、単位重量当たりの潜熱量に換算して求めた。
【0102】
(実施例1)
[重合性単量体組成物の調製工程]
単官能重合性単量体として(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体であるメチルメタクリレート50部、及び架橋性の重合性単量体として(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体であるエチレングリコールジメタクリレート50部を、室温下(25℃)で、攪拌、混合し、均一に分散させて、重合性単量体組成物を調製した。
【0103】
[懸濁液を得る懸濁工程]
他方、傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水215部に塩化マグネシウム8.2部を溶解させた塩化マグネシウム水溶液に、分散安定化剤として水酸化マグネシウム粒子(協和化学工業社製、商品名:キスマ5Q−S、個数平均一次粒径:1μm)10部を、攪拌しつつ徐々に加え、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製した。
【0104】
ここで、水酸化マグネシウム粒子を、塩化マグネシウム水溶液に加えた際、水酸化マグネシウム粒子が水溶液中で不均一に存在していた状態から、不均一状態を脱して均一に分散された状態(均一分散状態)に変わるまでを目視にて観察し、この状態変化に要する時間を計ったところ、5分であった。
【0105】
なお、水酸化マグネシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径の大きさは、そのまま維持され、個数平均一次径は1μmであった。
【0106】
上記により調製した分散安定化剤の分散液に、室温下(25℃)で、上記重合性単量体組成物を投入し、液滴が安定するまで撹拌を行い、ここに、重合開始剤としてt−ブチルパーオキシ−2−エチルヘキサノエート(日油社製、商品名:パーブチルO)3部を加え、インライン型乳化分散機(荏原製作所社製、商品名:エバラマイルダー MDN303V)を用いて、15,000rpmの回転数で30分間高剪断攪拌して、重合性単量体組成物の液滴形成を行い、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を得た。
【0107】
[懸濁重合工程]
上記により得られた懸濁液(重合性単量体組成物分散液)を、傾斜パドル翼を備えた重合反応器内に移送して、昇温を開始し、温度を90℃に維持しながら、重合反応を4時間継続させ、その後、重合反応器を、室温まで冷却し、重合体粒子の水分散液を得た。
【0108】
[洗浄処理工程、及び乾燥工程]
上記により得られた重合体粒子の水分散液を、室温下(25℃)で、攪拌しながらpHが6となるまで硫酸を滴下し、重合体粒子の水分散液中に残存する分散安定化剤を、酸で溶解して除去する酸洗浄を行った。
【0109】
次いで、濾過分離を行い、得られた固形分に新たにイオン交換水500部を加えて再スラリー化させて、水洗浄処理(洗浄、濾過、脱水)を数回繰り返し行い、得られた固形分を真空乾燥機の容器内に入れ、40℃で8時間、真空乾燥を行い、実施例1の重合体粒子を作製し、試験に供した。
【0110】
なお、実施例1で得られた重合体粒子の表面形状を、電界放射型走査電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名:S−4700)を用いて観察し、そのSEM写真を図1に示した。
【0111】
(実施例2)
実施例1の重合性単量体組成物の調製工程において、単官能重合性単量体として(メタ)アクリル系単官能の重合性単量体であるメチルメタクリレート50部、及び架橋性の重合性単量体として(メタ)アクリル系架橋性の重合性単量体であるエチレングリコールジメタクリレート50部を、50℃に保温しながら攪拌、混合し、均一に分散させた後、蓄熱材として多官能脂肪酸エステル化合物であるジペンタエリスリトールヘキサミリステート(数平均分子量Mn=1,840、融点Tm:64℃)10部を加え、攪拌、混合し、溶解して、重合性単量体組成物を調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例2の重合体粒子(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)を作製し、試験に供した。
【0112】
なお、実施例2の分散安定化剤の分散液の調製工程において、水酸化マグネシウム粒子を、塩化マグネシウム水溶液に加えた際、水酸化マグネシウム粒子が水溶液中で不均一に存在していた状態から、不均一状態を脱して均一に分散された状態(均一分散状態)に変わるまでを目視にて観察し、この状態変化に要する時間を計ったところ、5分であった。
【0113】
また、水酸化マグネシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径の大きさは、そのまま維持され、個数平均一次径は1μmであった。
さらに、実施例2で作製した重合体粒子(蓄熱材用マイクロカプセル粒子)の潜熱量を測定したところ、26J/gであった。
【0114】
(実施例3)
実施例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、実施例1と同様の傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水215部に塩化マグネシウムを加えずに、分散安定化剤として水酸化マグネシウム粒子(協和化学工業社製、商品名:キスマ5Q−S、個数平均一次粒径:1μm)7部を、攪拌しつつ徐々に加え、実施例1と同様の条件で、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例3の重合体粒子を作製し、試験に供した。
【0115】
なお、実施例3の分散安定化剤の分散液の調製工程において、水酸化マグネシウム粒子を、水系分散媒体であるイオン交換水に加えた際、水酸化マグネシウム粒子が水系分散媒体中で不均一に存在していた状態から、不均一状態を脱して均一に分散された状態(均一分散状態)に変わるまでを目視にて観察し、この状態変化に要する時間を計ったところ、30分であった。
また、水酸化マグネシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径の大きさは、そのまま維持され、個数平均一次径は1μmであった。
【0116】
(実施例4)
実施例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、実施例1と同様の傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水215部に塩化マグネシウムを加えずに、分散安定化剤として水酸化マグネシウム粒子(宇治マテリアル社製、商品名:UD653、個数平均一次粒径:3.1μm)10部を、攪拌しつつ徐々に加え、実施例1と同様の条件で、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして実施例4の重合体粒子を作製し、試験に供した。
【0117】
なお、実施例4の分散安定化剤の分散液の調製工程において、水酸化マグネシウム粒子を、水系分散媒体であるイオン交換水に加えた際、水酸化マグネシウム粒子が水系分散媒体中で不均一に存在していた状態から、不均一状態を脱して均一に分散された状態(均一分散状態)に変わるまでを目視にて観察し、この状態変化に要する時間を計ったところ、30分であった。
また、水酸化マグネシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径はそのまま維持され、個数平均一次径は3.1μmであった。
【0118】
また、実施例4で得られた重合体粒子の表面形状を、電界放射型走査電子顕微鏡(日立製作所社製、商品名:S−4700)を用いて観察し、そのSEM写真を図2に示した。
【0119】
(比較例1)
実施例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、実施例1と同様の傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水215部に塩化マグネシウム8.2部を溶解させた塩化マグネシウム水溶液に、分散安定化剤として炭酸カルシウム粒子(白石カルシウム社製、商品名:ソフトン2200、個数平均一次粒径:1μm)10部を、攪拌しつつ徐々に加え、実施例1と同様の条件で、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして比較例1の重合体粒子を作製しようとしたが、凝集状態の重合体しか得られなかった。
【0120】
なお、比較例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、炭酸カルシウム粒子を、水系分散媒体であるイオン交換水に加えた際、炭酸カルシウム粒子が水系分散媒体中で不均一に存在していた状態から、不均一状態を脱して均一に分散された状態(均一分散状態)に変わるまでを目視にて観察し、この状態変化に要する時間を計ったところ、20分であった。
また、炭酸カルシウム粒子は、水系分散媒体中で、その粒子径はそのまま維持され、個数平均一次径は1μmであった。
【0121】
(比較例2)
実施例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、実施例1と同様の傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水165部に塩化マグネシウム24.5部を溶解させた塩化マグネシウム水溶液に、水系分散媒体であるイオン交換水50部に水酸化ナトリウム13.7部を溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を、攪拌しつつ徐々に加え、実施例1と同様の条件で、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして比較例2の重合体粒子を作製し、試験に供した。
【0122】
なお、比較例2の分散安定化剤の分散液の調製工程において、生成した水酸化マグネシウムのコロイド分散液の一部を採取し、水酸化マグネシウムコロイドの粒径分布を、粒径分布測定器(島津製作所社製、商品名:SALD)を用いて測定したところ、コロイド粒径は、D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.28μmであった。
【0123】
(比較例3)
実施例1の分散安定化剤の分散液の調製工程において、実施例1と同様の傾斜パドル翼を備えた攪拌槽において、室温下(25℃)で、水系分散媒体であるイオン交換水165部に塩化マグネシウム2.5部を溶解させた塩化マグネシウム水溶液に、水系分散媒体であるイオン交換水50部に水酸化ナトリウム1.4部を溶解させた水酸化ナトリウム水溶液を、攪拌しつつ徐々に加え、実施例1と同様の条件で、均一に分散させて、分散安定化剤の分散液を調製したこと以外は、実施例1と同様にして比較例3の重合体粒子を作製しようとしたが、凝集状態の重合体しか得られなかった。
【0124】
なお、比較例3の分散安定化剤の分散液の調製工程において、生成した水酸化マグネシウムのコロイド分散液の一部を採取し、水酸化マグネシウムコロイドの粒径分布を、粒径分布測定器(島津製作所社製、商品名:SALD)を用いて測定したところ、コロイド粒径は、D50(個数粒径分布の50%累積値)が0.28μmであった。
【0125】
(結果)
各実施例及び比較例で作製した重合体粒子の試験結果を、表1に示す。
【0126】
【表1】

【0127】
(結果のまとめ)
表1に記載されている試験結果より、以下のことが分かる。
比較例1の製造方法では、分散安定化剤として炭酸カルシウム粒子を含む分散液を用いたことに起因し、懸濁液を得る懸濁工程において、重合性単量体組成物の液滴形成を好適に行うことができず、凝集状態の重合体しか得られなかった。
【0128】
比較例2の製造方法では、分散安定化剤としてコロイドの粒径が小さい水酸化マグネシウムを含むコロイド分散を用いたことに起因し、懸濁液を得る懸濁工程において、重合性単量体組成物の液滴を均一に分散させることはできたものの、小粒径の重合体粒子しか得られなかった。
【0129】
比較例3の製造方法では、分散安定化剤としてコロイドの粒径が小さい水酸化マグネシウムを比較例2の1/10の量含むコロイド分散を用いたことに起因し、懸濁液を得る懸濁工程において、重合性単量体組成物の液滴形成を好適に行うことができず、凝集状態の重合体しか得られなかった。
【0130】
これに対して、実施例1〜4の製造方法では、分散安定化剤として特定の粒径範囲を有する水酸化マグネシウム粒子を用いて分散液を調製したことに起因し、重合性単量体組成物の液滴形成を好適に行うことができ、その表面形状をSEM写真によっても確認した結果、本発明で所望する比較的大粒径の重合体粒子が得られた。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも1種以上の重合性単量体を含有する重合性単量体組成物を調製する工程、当該重合性単量体組成物を、分散安定化剤を含有する水系分散媒体中に懸濁させて、重合性単量体組成物の液滴が分散した懸濁液を得る懸濁工程、及び当該懸濁液を重合開始剤の存在下で懸濁重合させることにより重合体粒子を得る工程を含む重合体粒子の製造方法であって、
上記懸濁液を得る懸濁工程において、分散安定化剤が、個数平均一次粒径が0.5〜10μmの水酸化マグネシウム粒子であることを特徴とする重合体粒子の製造方法。
【請求項2】
前記重合性単量体組成物を調製する工程において、重合性単量体組成物が、蓄熱材として融点が5〜150℃のワックスを含有し、当該ワックスの含有量が、重合性単量体100重量部に対して、5〜200重量部であることを特徴とする請求項1に記載の重合体粒子の製造方法。
【請求項3】
前記重合性単量体組成物中の重合性単量体が、架橋性の重合性単量体を含み、当該架橋性の重合性単量体の成分比率が、重合性単量体全量の10重量%以上であることを特徴とする請求項2に記載の重合体粒子の製造方法。
【請求項4】
前記懸濁液を得る懸濁工程において、水系分散媒体が、塩化マグネシウムを含有することを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の重合体粒子の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−74289(P2011−74289A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−228780(P2009−228780)
【出願日】平成21年9月30日(2009.9.30)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】