説明

重合性キラル化合物、重合性液晶組成物、液晶性高分子及び光学異方体

【課題】左螺旋を誘起する新規な重合性キラル化合物、左螺旋性液晶性高分子、及び光学異方体を提供する。
【解決手段】下記式(I)で示される左螺旋を誘起する重合性キラル化合物、該化合物を重合して得られる左螺旋性液晶性高分子、光学異方体。


〔式中、Y〜Yは、−O−C(=O)−等を表し、A及びAは炭素数6〜20の芳香族基を表し、Zは炭素数2〜10のアルケニル基等を表す。〕

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、左螺旋を誘起する新規な重合性キラル化合物、該重合性キラル化合物を含有する左螺旋性重合性液晶組成物、該重合性液晶組成物を重合して得られる左螺旋性液晶性高分子、及び、該液晶性高分子を構成材料とする光学異方体に関する。
【背景技術】
【0002】
コレステリック規則性を持つ樹脂層(以下、「コレステリック樹脂層」ということがある。)は、コレステリック規則性の螺旋回転方向と一致する回転方向の円偏光を反射する特性(以下、この特性を「選択反射特性」という。)を有している。
目的に応じた光学異方体を製造するためには、その目的に応じた回転方向の円偏向を分離する必要がある。そのためには左右両螺旋回転方向のコレステリック規則性を得る必要がある。
【0003】
選択反射帯域を近赤外線の波長域に持つコレステリック樹脂層を含んでなる円偏光分離シートを形成できれば、入射する赤外線のうち、特定方向の円偏光のみを反射することが可能になる。左右両螺旋回転方向のコレステリック規則性を得ることができれば、例えば100%反射型の薄膜赤外線反射フィルムを得ることが可能となる。
【0004】
従来、選択反射帯域を可視光の波長域に持つコレステリック樹脂層を形成するために種々のキラル剤が検討されている。
例えば、特許文献1には、式:(Z11−Y11−A11−O−CO−O−M11−Y12r1〔式中、A11は橋かけ基、M11はメソゲン基、Y11及びY12は、化学結合、−O−、−S−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CO−N(R)−、又は、−N(R)−CO−、Rは水素原子又はC1〜C4アルキル基、Xはr1価のキラル基、r1は2〜6の整数、Z11は、(α1)少なくとも1つは、重付加反応に関与することができる反応性基であり、(α2)少なくとも2つは、重付加反応に関与することができる反応性基を持つ置換基である。(β1)条件(α1)又は(α2)が満足される限り、水素原子又は非反応性基である。〕で示されるキラル化合物が開示されている。
【0005】
特許文献2には、式:(Z12−Y13−A12−Y14−M12−Y15r2〔式中、A12はスペーサー、M12はメソゲン基、Y13〜Y15は、化学結合又は−O−、−S−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CO−NR−、又は、−NR−CO−、Rは水素原子又はC1〜C4アルキル基、Xはr2価のキラル基、r2は2〜6の整数、Z12は、(α3)少なくとも1つは、イソシアネート、イソチオシアネート、シアネート、チイラン、アジリジン、カルボキシル、ヒドロキシル又はアミノ基を含有する基、(β2)残余の基は、水素原子又は非反応性基である。〕で示されるキラル化合物が開示されている。
【0006】
特許文献3には、式:(Z13−Y16−[A13r3−Y17−M13−Y18−)r4〔式中、A13はスペーサー、M13は、−O−、−CO−、−CO−O−、−O−CO−O−、又は、−CO−O−を介して結合し、非置換又はC1〜C4アルキル、メトキシ、エトキシ、フッ素、塩素、臭素、C1〜C20アルコキシカルボニル又はC1〜C20アルキルカルボニルにより置換された2つのフェニレン基を有するメソゲン基、Y16〜Y18は、直接結合、−O−、−S−、−CO−O−、−O−CO−、−O−CO−O−、−CO−N(R)−、又は、−N(R)−CO−、Rは、水素又はC1〜C4アルキル、Z13は重合可能な基であり、r3は0又は1、r4は2〜6の整数、Xはキラルな基を表す。〕で示される化合物が開示されている。またこの文献には、左螺旋を誘起する化合物も例示されている。
【0007】
特許文献4には、式:Z14−Y19−(A14r5−Y20−M14−Y21−X−Y22−(A15r6−Y23−Z15〔式中、A14及びA15は、1〜30個のC原子の鎖長のスペーサーであり、Y19〜Y23は化学結合、−O−、−S−、−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−CH=CH−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−、−CH−O−、−O−CH−、−CH=N−、−N=CH−、又は、−N=N−であり、Rは水素、C1〜C4アルキル、M14はメソゲン基、Z14及びZ15は水素、C1〜C4アルキル、重合性基又は重合性基を有する基であり、Xはジアンヒドロソルビット、ジアンヒドロマンニット及びジアンヒドロイデットからなる群から選択されたジアンヒドロヘキシット基であり、r、rは0又は1である。〕で示されるキラルドーパントが開示されている。
また、特許文献5には、下記化1で示される化合物に代表されるイソソルビト誘導体が、キラルドーパントとして有用である旨が開示されている。
【0008】
【化1】

【0009】
(式中、R及びRは、F、Cl、Br、I、CN、SCN、SF、直鎖状又は分枝状の炭素数30以下で、未置換か、F、Cl、Br、I又はCNでモノ−もしくはポリ−置換されており、隣接していない1又は2以上のCH基が、−O−、−S−、−NH−、−NR−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCO−O−、−S−CO−、−CO−S−、−CH=CH−、又は−C≡C−であり、O及び/又はS原子が互いに直接結合しないように置換されてもよいアルキル基、又はPs−Sp−Xeであり、Rは、水素又は炭素数1〜4のアルキル基であり、Psは重合可能な基であり、Spはスペーサー基又は単結合であり、Xは、−O−、−S−、−OCH−、−CHO−、−CO−、−COO−、−OCO−、−OCO−O−、−CO−NR−、−NR−CO−、−OCH−、−CHO−、−SCH−、−CHS−、−CH=CH−COO−、−OOC−CH=CH−、又は単結合であり、Rは水素又は炭素数1〜4のアルキル基である。)
【0010】
しかしながら、これらの文献に記載された化合物の多くは、右螺旋を誘起する重合性キラル化合物であり、左螺旋を誘起する重合性キラル化合物ではなかった。
唯一、左螺旋を誘起する重合性キラル化合物が特許文献3に例示されている。しかしながら、この文献に記載されている化合物は螺旋捻れ力(HTP)の記載がないものか、低いHTPしか発現しないものがほとんどである。なかには、HTP=63と高い化合物も例示されているが、使用に際しては、溶解性が低い課題を有しているだけでなく、経済面でも多工程で高コストである問題点を有していた。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0011】
【特許文献1】特開平9−20781号公報
【特許文献2】特開平9−31077号公報
【特許文献3】特開平11−193287号公報
【特許文献4】特開2000−309589号公報
【特許文献5】特開2003−137887号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明は上述した実情に鑑みてなされたものであり、合成が容易で、左螺旋を誘起する新規な重合性キラル化合物、該重合性キラル化合物を含有する左螺旋重合性液晶組成物、該重合性液晶組成物を重合して得られる液晶性高分子、及び該液晶性高分子を構成材料とする光学異方体を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0013】
本発明者らは上記課題を解決すべく鋭意研究した結果、後述する式(I)で表される特定の重合性キラル化合物は、溶解性及び相溶性に優れ、実用的なHTPを有する左螺旋を誘起することを見出し、本発明を完成させるに至った。
【0014】
かくして本発明によれば、下記(1)〜(6)の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物、(7)左螺旋性重合性液晶組成物、(8)の左螺旋性液晶性高分子、及び、(9)の光学異方体が提供される。
(1)下記式(I)
【0015】
【化2】

【0016】
〔式中、Y〜Yはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は、−NR−O−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
は、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20の2価の脂肪族基を表す。該脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、Rは、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
及びAはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基を表し、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
Qは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は下記式(2)
【0017】
【化3】

【0018】
(式中、Y、Yは、前記Y〜Yと同じ意味を表し、Aは前記A〜Aと同じ意味を表し、Gは前記Gと同じ意味を表し、Zは前記Zと同じ意味を表す。また、AとAは一緒になって結合して環を形成していてもよい。)で表される基を表す。
aは0又は1を表し、bは1又は2を表す。〕
で示される左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
(2)前記式(I)中、A〜Aが、それぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基、又は置換基を有していてもよいナフチレン基である、(1)に記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
(3)前記式(I)中、Z及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=C(Cl)−、CH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、CH=C(CH)−CHCH−、(CHC=CH−CH−、CH−CH=CH−、CH−CH=CH−CH−、CH=CH−CH−CH−、又は、(CHC=CH−CH−CH−である、(1)又は(2)に記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【0019】
(4)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)、−(CH−、又は−(CH−を表し、Z及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、又は、CH=C(Cl)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、下記(a1)、(a2)又は(a3)
【0020】
【化4】

【0021】
〔式中、X〜X18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−NR(R)、又は、−O−C(=O)−NR(R)を表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕で表される基である、(1)〜(3)のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
(5)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、又は、CH=C(CH)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、前記(a1)又は(a2)で表される基である、
(1)〜(4)のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
(6)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZが、CH=CH−を表し、
Qが、水素原子又はメチル基を表し、
が、前記(a1)で表される基であり、
aは0であり、bは1である、(1)〜(5)のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
(7)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の重合性化合物、及び、重合可能な液晶化合物を含有する左螺旋性重合性液晶組成物。
(8)前記(1)〜(6)のいずれかに記載の重合性キラル化合物、又は、(7)に記載の左螺旋性重合性液晶組成物を重合して得られる左螺旋性液晶性高分子。
(9)前記(8)に記載の左螺旋性液晶性高分子を構成材料とする光学異方体。
【発明の効果】
【0022】
本発明の重合性キラル化合物は、溶解性及び相溶性に優れ、実用的なHTPを有する左螺旋を誘起するキラルドーパントとして有用である。
本発明の重合性キラル化合物、又は本発明の重合性液晶組成物を重合することにより、実用的なHTPを有する左螺旋性(左円偏光のみを選択反射する)液晶性高分子を得ることができる。
【発明を実施するための形態】
【0023】
1)左螺旋を誘起する重合性キラル化合物
本発明の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物(以下、「本発明の重合性キラル化合物」ということがある。)は、前記式(I)で表される化合物である。ここで、「左螺旋を誘起する」とは、重合性液晶化合物に混合されることで、左螺旋性のコレステリック相を発現させる性質を有することを意味する。
【0024】
前記式(I)中、Y〜Yはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は、−NR−O−を表す。ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
これらの中でも、−O−、−O−C(=O)−、及び、−C(=O)−O−が好ましい。
【0025】
は、水素原子;メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、sec−ブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、イソペンチル基、ネオペンチル基、n−へキシル基等の炭素数1〜6のアルキル基;を表す。なかでも、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0026】
は、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基を表す。
の炭素数1〜20の2価の脂肪族基としては、鎖状構造を有する脂肪族基であっても、脂環式構造を有する脂肪族基であってもよい。これらの中でも、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、置換基を有していてもよい、鎖状構造を有する炭素数1〜20の2価の脂肪族基が好ましく、炭素数1〜20のアルキレン基、炭素数2〜20のアルケニレン基等の、鎖状構造を有する炭素数1〜20の2価の脂肪族基がより好ましく、メチレン基、エチレン基、トリメチレン基、プロピレン基、テトラメチレン基、ペンタメチレン基、ヘキサメチレン基、オクタメチレン基等の、炭素数1〜12のアルキレン基がさらに好ましく、ヘキサメチレン基〔−(CH−〕が特に好ましい。
【0027】
の脂肪族基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられる。これらの中でも、フッ素原子、メトキシ基、エトキシ基が好ましい。
【0028】
また、前記脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい。
ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合は除かれる。
これらの中でも、−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、及び、−C(=O)−が好ましい。
【0029】
ここで、Rは、前記Rと同様の、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。Rとしては、水素原子又はメチル基であることが好ましい。
【0030】
これらの基が介在する脂肪族基の具体例としては、−CH−CH−O−CH−CH−、−CH−CH−S−CH−CH−、−CH−CH−O−C(=O)−CH−CH−、−CH−CH−C(=O)−O−CH−、−CH−O−C(=O)−O−CH−CH−、−CH−CH−NR−C(=O)−CH−CH−、−CH−CH−C(=O)−NR−CH−、−CH−NR−CH−CH−、−CH−C(=O)−CH−等が挙げられる。
【0031】
及びAはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基を表す。
前記芳香族基としては、1つのベンゼン環を有する、2価の単環芳香族基や、2つ以上、通常、2〜4個のベンゼン環を有する、2価の多環芳香族基が挙げられる。
【0032】
及びAとしては、具体的には、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20のアルキレン基、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいナフチレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基が挙げられる。
これらの中でも、A及びAが、それぞれ独立して、下記(a1)、(a2)、又は(a3)で表されるいずれかの基であることが好ましく、(a1)又は(a2)で表される基であることがより好ましく、A及びAがともに、(a1)で表される基であることが特に好ましい。
【0033】
【化5】

【0034】
上記式中、X〜X18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−NR(R)、又は、−O−C(=O)−NR(R)を表す。
【0035】
は、水素原子、又は、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。
の、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基の炭素数1〜10のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基である。
【0036】
前記置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基の置換基としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等のハロゲン原子;メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、sec−ブトキシ基、t−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−へキシルオキシ基等の炭素数1〜6のアルコキシ基;等が挙げられる。
【0037】
また、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)
【0038】
〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
〜Rの炭素数1〜6のアルキル基としては、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、s−ブチル基、イソブチル基、t−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基等が挙げられ、好ましくは、メチル基、エチル基、n−プロピル基及びイソプロピル基である。
【0039】
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
また、置換基のハロゲン原子としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子等が挙げられ、塩素原子が好ましい。
【0040】
のハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基の具体例としては、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=C(Cl)−、CH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、CH=C(CH)−CHCH−、(CHC=CH−CH−、CH−CH=CH−、CH−CH=CH−CH−、CH=CH−CH−CH−、又は、(CHC=CH−CH−CH−等が挙げられる。
【0041】
これらの中でも、本発明の所望の効果をより良好に発現させる観点から、炭素数2〜6のアルケニル基が好ましく、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=C(Cl)−、CH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、CH=C(CH)−CHCH−、(CHC=CH−CH−、CH−CH=CH−、及び、CH−CH=CH−CH−がより好ましく、CH=CH−、及び、CH=C(CH)−が更に好ましく、CH=CH−が特に好ましい。
【0042】
Qは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、下記式(2)
【0043】
【化6】

【0044】
で表される基を表す。
式(2)中、Y及びYは前記Y〜Yと同じ意味を表し、Aは前記A、Aと同じ意味を表し、Gは前記Gと同じ意味を表し、Zは前記Zと同じ意味を表す。
【0045】
また、AとAは一緒になって結合して環を形成していてもよい。
かかる環としては、ベンゼン環;シクロペンタン環、シクロヘキサン環、シクロヘプタン環、シクロオクタン環等のシクロアルキル環;下記式で表されるフルオレン環;等が挙げられる。
【0046】
【化7】

【0047】
aは0又は1を表し、bは1又は2を表す。中でも、aが0又は1であり、bが1である組合せが好ましく、aが0、bが1である組合せがより好ましい。
【0048】
これらの中でも、本発明においては、前記式(I)で表される左螺旋を誘起する重合性キラル化合物として、
(α)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)、−(CH−、又は−(CH−を表し、
及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、又は、CH=C(Cl)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、前記(a1)、(a2)又は(a3)で表される基である化合物が好ましく、
(β)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、又は、CH=C(CH)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、前記(a1)又は(a2)で表される基である化合物がより好ましく、
(γ)前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZがCH=CH−を表し、
Qが水素原子又はメチル基を表し、
及びAが、前記(a1)で表される基である化合物が更に好ましい。
【0049】
本発明の重合性キラル化合物の好ましい具体例を以下に示す。本発明の重合性キラル化合物は、以下のものに限定されるものではない。
【0050】
【化8】

【0051】
上記式中、R10〜R13はそれぞれ独立して、水素原子;ハロゲン原子、炭素数1〜6のアルキル基、炭素数1〜6のハロアルキル基、炭素数1〜6のアルコキシ基、炭素数1〜6のアルコキシ−カルボニル基、ニトロ基、シアノ基等の置換基を表す。これらの置換基はベンゼン環の任意の位置に結合していてもよい。また、同一又は相異なる複数の置換基がベンゼン環に結合していてもよい。
14は水素原子または炭素数1〜6のアルキル基を表す。
n、mはそれぞれ独立して、1〜20の整数を表す。
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は下記式(2A)
【0052】
【化9】

【0053】
で表される基を表す(式中、R10、R14、nは前記と同じ意味を表す。)。
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は下記(2B)
【0054】
【化10】

【0055】
で表される基を表す(式中、R11、R12、R14、nは前記と同じ意味を表す。)。
は、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は下記(2C)
【0056】
【化11】

【0057】
で表される基を表す(式中、R13、R14、m、nは前記と同じ意味を表す。)。
(左螺旋を誘起する重合性キラル化合物の製造方法)
本発明の重合性キラル化合物はいずれも、−O−、−S−、−NH−C(=O)−、−C(=O)−NH−、−NH−C(=O)−NH−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−等の種々の化学結合を形成する公知の方法(例えば、サンドラー・カロ官能基別有機化合物合成法[I]、[II] 廣川書店、1976年発行参照)を組み合わせて製造することができる。
【0058】
本発明の重合性キラル化合物は、典型的には、エーテル結合(−O−)、エステル結合(−C(=O)−O−)、アミド結合(−C(=O)NH−)、及び酸クロライド(−COCl)の形成反応を任意に組み合わせて、所望の構造を有する複数の公知化合物を適宜結合・修飾することにより製造することができる。
【0059】
エーテル結合の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(i)式:D1−hal(halはハロゲン原子を表す。以下にて同じ。)で表される化合物と、式:D2−OMet(Metはアルカリ金属(主にナトリウム)を表す。以下にて同じ。)で表される化合物とを混合して縮合させる。なお、式中、D1及びD2は任意の有機基を表す(以下にて同じ。)。この反応は一般的にウイリアムソン合成と呼ばれる。
(ii)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
(iii)式:D1−E(Eはエポキシ基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して縮合させる。
(iv)式:D1−OFN(OFNは不飽和結合を有する基を表す。)で表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物を、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム等の塩基存在下、混合して付加反応させる。
(v)式:D1−halで表される化合物と、式:D2−OMetで表される化合物とを、銅あるいは塩化第一銅存在下、混合して縮合させる。この反応は一般的にウルマン縮合と呼ばれる。
【0060】
エステル結合及びアミド結合の形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(vi)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、脱水縮合剤(N,N−ジシクロヘキシルカルボジイミド等)の存在下に脱水縮合させる。
(vii)式:D1−COOHで表される化合物にハロゲン化剤を作用させることにより、式:D1−CO−halで表される化合物を得、このものと式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、塩基の存在下に反応させる。
(viii)式:D1−COOHで表される化合物に酸無水物を作用させることにより、混合酸無水物を得た後、このものに、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物を反応させる。
(ix)式:D1−COOHで表される化合物と、式:D2−OH又はD2−NHで表される化合物とを、酸触媒あるいは塩基触媒の存在下に脱水縮合させる。
【0061】
酸クロライドの形成は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(x)式:D1−COOHで表される化合物に三塩化リンあるいは五塩化リンを作用させる。
(xi)式:D1−COOHで表される化合物に塩化チオニルを作用させる。
(xii)式:D1−COOHで表される化合物に塩化オキサリルを作用させる。
(xiii)式:D1−COOAg(Ag:銀元素)で表される化合物に塩素を作用させる。
(xiv)式:D1−COOHで表される化合物に赤色酸化第二水銀の四塩化炭素溶液を作用させる。
【0062】
また、本発明の重合性キラル化合物の製造(特に、非対称な構造を有する重合性キラル化合物の製造)においては、中間体に存在する水酸基を保護することで、合成を容易にし、収率を向上させることができる場合がある。
水酸基を保護する方法としては、公知の方法(例えば、Greene’s Protective Groups in Organic Synthesis 第3版 出版:Wiley−Interscience、1999年発行参照)を利用して製造することができる。
【0063】
水酸基の保護は、例えば、以下のようにして行うことができる。
(xv)式:D1D2D3−Si−halで表される化合物と、式:D4−OHで表される化合物とを、イミダゾール、ピリジン等の塩基存在下、混合して反応させる。なお、式中、D3、D4は任意の有機基を表す。
(xvi)3,4−ジヒドロ−2H−ピラン等のビニルエーテルと、式:D2−OHで表される化合物を、パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ピリジン塩、塩化水素等の酸存在下、混合して反応させる。
(xvii)式:D1−C(=O)−halで表される化合物と、式:D4−OHで表される化合物とを、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基存在下、混合して反応させる。
(xviii)式:D1−C(=O)−O−C(=O)−D2で表される酸無水物と、式:D3−OHで表される化合物とを混合して反応させる、あるいは水酸化ナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下、混合して反応させる。
(xix)D1−halで表される化合物と式:D2−OHで表される化合物とを、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン等の塩基存在下、混合して反応させる。
(xx)式:D1−O−CH−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを、水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基存在下、混合して反応させる。
(xxi)D1−O−CH−C(=O)−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを、炭酸カリウム、水酸化ナトリウム等の塩基存在下、混合して反応させる。
(xxii)式:D1−O−C(=O)−halで表される化合物と、式:D2−OHで表される化合物とを、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基存在下、混合して反応させる。
【0064】
脱保護は、保護基の構造、種類によって、公知の方法を利用することができる。
(xxiii)テトラブチルアンモニウムフルオライド等フッ素イオンを混合して脱保護させる。
(xxiv)パラトルエンスルホン酸、パラトルエンスルホン酸ピリジン塩、塩化水素、酢酸等の酸存在下、混合して脱保護させる。
(xxv)水素化ナトリウム、水酸化ナトリウム、水酸化カリウム、炭酸ナトリウム、炭酸カリウム、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基存在下、混合して脱保護させる。
(xxvi)Pd−C等の触媒存在下、水素添加することにより脱保護させる。
【0065】
本発明の重合性キラル化合物は、具体的には、例えば、次のようにして得ることができる。
(製造方法1)前記式(I)で表される化合物のうち、Qが、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基である化合物(IA)は、以下に示す方法により製造することができる。
【0066】
【化12】

【0067】
上記式中、A、A、Y、Y、Y、G、Z、a及びbは、前記と同じ意味を表す。Q’は水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基を表す。また、Yは、式:Z−Lで表される化合物と反応して、式:−Y−Zで表される基を生成する基である。例えば、Yが水酸基(OH)であり、式:Z−Lで表される化合物が、Z−COOHで表されるカルボン酸、又は、Z−C(=O)Clで表される酸クロリドである場合には、式:−Y−Zで表される基は、−O−C(=O)−Zで表される基である。また、Yがカルボキシル基(COOH)であり、式:Z−Lで表される化合物が、Z−OHで表されるアルコールである場合には、式:−Y−Zで表される基は、−C(=O)−O−Zで表される基である。
【0068】
すなわち、式(III)で表される化合物に、所望により塩基触媒の存在下、式(IV)で表される化合物を反応させて、式(V)で表される中間体を得た後(工程1)、このものに、式(VI)で表される化合物を反応させることにより、目的とする式(IA)で表される化合物(本発明の重合性キラル化合物)を得る(工程2)ことができる。
【0069】
工程1において、式(IV)で表される化合物の使用量は、式(III)で表される化合物に対して、通常、1〜3倍モルである。
工程1に用いる塩基触媒としては、トリエチルアミン、ピリジン、ジイソプロピルエチルアミン等が挙げられる。塩基触媒の使用量は、式(III)で表される化合物1モルに対し、通常、0.1〜0.5モルである。
【0070】
工程1は、適当な有機溶媒中で行うことができる。
用いる有機溶媒としては、メタノール、エタノール、n−プロパノール、イソプロパノール、n−ブタノール等のアルコール系溶媒;ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
【0071】
工程1の反応は、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。
反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
以上のようにして、式(V)で表される化合物を含む反応液を得る。
【0072】
本発明においては、得られた反応液から、式(V)で表される化合物を単離・精製し、単離・精製した式(V)で表される化合物を、次の工程2に供してもよいし、式(V)で表される化合物を単離することなく、式(V)で表される化合物を含む反応液をそのまま工程2に供してもよい。
【0073】
工程2において、式(VI)で表される化合物の使用量は、式(V)で表される化合物に対して、通常、1〜3倍モルである。
【0074】
工程2は、適当な有機溶媒中で行うことができる。
用いる有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
【0075】
工程2における反応は、より具体的には、式(V)で表される化合物の末端置換基であるYと、式(VI)で表される化合物とが反応して、式:−Y−Zで表される基を生成する反応である。この反応は、置換基Yと(VI)で表される化合物の種類に応じて、式:−Y−Zで表される基を生成させる公知の反応を適宜採用することができる。
例えば、式(V)中、Yが水酸基(OH)である化合物と、式:Z−COOHで表されるカルボン酸とを、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピルカルボジイミド塩酸塩(WSC)等の脱水剤と4−ジメチルアミノピリジンの存在下に、脱水反応を行うことにより、末端に、式:−O−C(=O)−Zで表される基を有する式(IA)で表される目的物を得ることができる。
【0076】
(製造法2)前記式(I)で表される化合物のうち、Qが、下記式(2)
【0077】
【化13】

【0078】
(式中、A、Y、Y、G、及びZは、前記と同じ意味を表す。)で表される基である化合物(IB)は、次のようにして製造することができる。
【0079】
【化14】

【0080】
(式中、A、A、A、Y、Y、Y、Y、Y、G、G、Z、Z、a及びbは、前記と同じ意味を表す。)
すなわち、式(III)で表される化合物に、所望により、トリエチルアミン、ピリジン等の塩基触媒の存在下、式(VII)で表される化合物を反応させて、目的とする式(IB)で表される化合物(本発明の重合性キラル化合物)を得ることができる。
【0081】
この反応は、適当な有機溶媒中で行うことができる。
用いる有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
反応は、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。
反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0082】
また、前記式(IB)で表される化合物は、前記式(III)で表される化合物と、式(VIII)
【0083】
【化15】

【0084】
(式中、A、A、A、Y、Y、Y、G、G、Y、a及びbは、前記と同じ意味を表す。また、式中、2つのYは互いに同一であっても相異なっていてもよい。)で表される化合物を反応させることにより、式(IX)
【0085】
【化16】

【0086】
(式中、A、A、A、Y、Y、Y、G、G、Y、a及びbは、前記と同じ意味を表す。また、式中、2つのYは互いに同一であっても相異なっていてもよい。)で表される化合物を得、次いで、このものに、式:Z−L(式中、Zは前記と同じ意味を表し、Lは前記Lと同じ意味を表す。)及び式:Z−L(式中、Zは前記と同じ意味を表し、Lは前記Lと同じ意味を表す。)で表される化合物を反応させることにより、目的とする式(IB)で表される化合物を得ることもできる。この場合、ZとZが同一である場合には、2倍量の式:Z−Lで表される化合物を使用すればよい。
【0087】
上記式(IX)で表される化合物を得る反応、及び式(IX)で表される化合物から式(IB)で表される化合物を得る反応は、前記式(V)で表される中間体を得る反応、及び、式(V)で表される化合物から式(IA)で表される化合物を得る反応と同様にして実施することができる。
【0088】
前記式(2)で表される化合物の好ましい具体例としては、次のものが挙げられる。本発明は以下のものに限定されるものではない。
【0089】
【化17】

【0090】
(式中、p、qはそれぞれ独立して、1〜20の整数を表し、rは0又は1を表す。)
前記式(2)で表される化合物の更に好ましい具体例としては、次のものが挙げられる。
【0091】
【化18】

【0092】
出発原料である式(III)で表される化合物は、次のようにして製造することができる。
【0093】
【化19】

【0094】
すなわち、ヒドロラジン1水和物の有機溶媒溶液に、式(VI)で表される(−)−メントンの有機溶媒溶液を添加し、全容を攪拌することにより、式(III)で表される化合物を得ることができる。
【0095】
ヒドラジン1水和物の使用量は、(−)−メントン1モルに対して、通常0.5モル〜5モルである。
用いる有機溶媒としては、ジエチルエーテル、テトラヒドロフラン、1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン等のエーテル系溶媒;酢酸エチル、酢酸プロピル、プロピオン酸メチル等のエステル系溶媒;ベンゼン、トルエン、キシレン等の芳香族炭化水素系溶媒;n−ペンタン、n−ヘキサン、n−ヘプタン等の脂肪族炭化水素系溶媒;N,N−ジメチルホルムアミド、N−メチルピロリドン、ヘキサメチルリン酸トリアミド等のアミド系溶媒;ジメチルスルホキシド、スルホラン等の含硫黄系溶媒;及びこれらの2種以上からなる混合溶媒;等が挙げられる。
反応は、−10℃から用いる溶媒の沸点までの温度範囲で円滑に進行する。
反応時間は、反応規模にもよるが、通常、数分から数時間である。
【0096】
いずれの場合においても、反応終了後は、有機合成化学における通常の後処理操作を行い、所望により、カラムクロマトグラフィー、再結晶法、蒸留法等の公知の分離・精製手段を施すことにより、目的物を単離することができる。
目的物の構造は、NMRスペクトル、IRスペクトル、マススペクトル等の測定、元素分析等により、同定することができる。
【0097】
以上のようにして得られる本発明の重合性キラル化合物は、溶解性及び相溶性に優れ、後述するように、重合性液晶化合物に混合されることで、左螺旋性のコレステリック相を発現させることができる。
【0098】
2)左螺旋性重合性液晶組成物
本発明の左螺旋性重合性液晶組成物(以下、「本発明の重合性液晶組成物」ということがある。)は、本発明の重合性キラル化合物の少なくとも一種、及び重合可能な液晶化合物を含有するものである。
本発明の重合性液晶組成物を構成する重合性液晶化合物は、本発明の重合性キラル化合物を混合することで、左螺旋性のコレステリック相を発現し得る。
【0099】
本発明の重合性液晶組成物に用いる重合可能な液晶化合物の具体例としては、特開平11−130729号公報、特開平8−104870号公報、特開2005−309255号公報、特開2005−263789号公報、特表2002−533742号公報、特開2002−308832号公報、特開2002−265421号公報、特開昭62−070406号公報、特開平11−100575号公報、WO08/133290号パンフレット、特開2008−291218号公報、特開2009−167378号公報、特願2008−170835号等に記載される化合物等が挙げられる。本発明では、特開2008−291218号公報に開示されている化合物が好ましい。
本発明において、重合可能な液晶化合物は、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0100】
本発明の重合性液晶組成物において、重合性キラル化合物の配合割合は、重合可能な液晶化合物100質量部に対し、通常、0.1〜100質量部、好ましくは0.5〜10質量部、更に好ましくは1〜8質量部である。
【0101】
本発明の重合性液晶組成物においては、重合可能な液晶化合物の他、重合性非液晶化合物を含有していてもよい。
重合性非液晶化合物は、得られる左螺旋性液晶高分子の相転移温度を調整する目的で添加される。
重合性非液晶化合物は、一般的には、重合性単量体であって、このもの自体を重合させても液晶性高分子を得ることができないものである。
用いる重合性非液晶化合物としては、特に限定されないが、本発明の目的を達成する観点から、下記式で表される化合物が好ましい。
【0102】
【化20】

【0103】
重合性非液晶化合物を用いる場合、その配合量は、重合性液晶化合物と重合性非液晶化合物の質量比で、[重合性液晶化合物:重合性非液晶化合物]=[60:40]〜[95:5]、好ましくは、[70:30]〜[90:10]である。
【0104】
本発明の重合性液晶組成物には、通常、重合開始剤を配合するのが好ましい。
用いる重合開始剤としては、用いる重合性液晶化合物に存在する重合性基の種類に応じて適宜なものを選択して使用すればよい。例えば、重合性基がラジカル重合性であればラジカル重合開始剤を、アニオン重合性であればアニオン重合開始剤を、カチオン重合性であればカチオン重合開始剤を、それぞれ使用すればよい。
【0105】
ラジカル重合開始剤としては、熱ラジカル発生剤と光ラジカル発生剤のいずれも使用可能であるが、光ラジカル発生剤を使用するのが好適である。
【0106】
光ラジカル発生剤としては、ベンゾイン、ベンゾインメチルエーテル及びベンゾインプロピルエーテル等のベンゾイン;アセトフェノン、2,2−ジメトキシ−2−フェニルアセトフェノン、2,2−ジエトキシ−2−フェニルアセトフェノン、1,1−ジクロロアセトフェノン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−メチル−1−[4−(メチルチオ)フェニル]−2−モルフォリノ−プロパン−1−オン及びN,N−ジメチルアミノアセトフェノン等のアセトフェノン;2−メチルアントラキノン、1−クロロアントラキノン及び2−アミルアントラキノン等のアントラキノン;2,4−ジメチルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン、2−クロロチオキサントン及び2,4−ジイソプロピルチオキサントン等のチオキサントン;アセトフェノンジメチルケタール及びベンジルジメチルケタール等のケタール;ベンゾフェノン、メチルベンゾフェノン、4,4−ジクロロベンゾフェノン、4,4−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、ミヒラーズケトン及び4−ベンゾイル−4−メチルジフェニルサルファイド等のベンゾフェノン;2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等が挙げられる。
【0107】
光ラジカル発生剤の具体例としては、例えば、チバスペシャリティーケミカルズ社製の、商品名:Irgacure907、商品名:Irgacure184、商品名:Irgacure369、及び商品名:Irgacure651等が挙げられる。
【0108】
アニオン重合開始剤としては、例えば、アルキルリチウム化合物;ビフェニル、ナフタレン、ピレン等の、モノリチウム塩又はモノナトリウム塩;ジリチウム塩やトリリチウム塩等の多官能性開始剤;等が挙げられる。
【0109】
また、カチオン重合開始剤としては、例えば、硫酸、リン酸、過塩素酸、トリフルオロメタンスルホン酸等のプロトン酸;三フッ化ホウ素、塩化アルミニウム、四塩化チタン、四塩化スズのようなルイス酸;芳香族オニウム塩又は芳香族オニウム塩と、還元剤との併用系;が挙げられる。
これらの重合開始剤は一種単独で、又は二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0110】
本発明の重合性液晶組成物において、重合開始剤の配合割合は、重合性液晶化合物100質量部に対し、通常、0.1〜30質量部、好ましくは0.5〜10質量部である。
【0111】
また、前記重合性液晶化合物、及び必要に応じて用いられる他の共重合可能な単量体等との(共)重合を行うに際しては、必要に応じて、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、酸化防止剤等の機能性化合物を存在させてもよい。
【0112】
本発明の重合性液晶組成物には、表面張力を調整するために、界面活性剤を配合するのが好ましい。当該界面活性剤としては、特に限定はないが、通常、ノニオン系界面活性剤が好ましい。当該ノニオン系界面活性剤としては、市販品を用いればよく、例えば、分子量が数千程度のオリゴマーであるノニオン系界面活性剤、例えば、セイミケミカル社製KH−40等が挙げられる。本発明の重合性液晶組成物において、界面活性剤の配合割合は、重合性液晶化合物100質量部に対し、通常、0.01〜10質量部、好ましくは0.1〜2質量部である。
【0113】
本発明の重合性液晶組成物を偏光フィルムや配向膜の原料、又は印刷インキ及び塗料、保護膜等の用途に利用する場合には、その目的に応じて、上記成分の他、後述の他の共重合可能な単量体、金属、金属錯体、染料、顔料、蛍光材料、燐光材料、レベリング剤、チキソ剤、ゲル化剤、多糖類、紫外線吸収剤、赤外線吸収剤、抗酸化剤、イオン交換樹脂、酸化チタン等の金属酸化物等のその他の添加剤を配合してもよい。本発明の重合性液晶組成物において、その他の添加剤の配合割合は、重合性液晶化合物100質量部に対し、通常、各々0.1〜20質量部である。
【0114】
本発明の重合性液晶組成物は、通常、重合性液晶化合物、本発明の重合性キラル化合物、重合開始剤、ノニオン系界面活性剤、及び所望によりその他の添加剤の所定量を適当な有機溶媒に溶解させることにより調製することができる。
【0115】
用いる有機溶媒としては、シクロペンタノン、シクロヘキサノン、メチルエチルケトン等のケトン類;酢酸ブチル、酢酸アミル等の酢酸エステル類;クロロホルム、ジクロロメタン、ジクロロエタン等のハロゲン化炭化水素類;1,2−ジメトキシエタン、1,4−ジオキサン、シクロペンチルメチルエーテル、テトラヒドロフラン、テトラヒドロピラン、1,3−ジオキソラン等のエーテル類;等が挙げられる。
これらの有機溶媒は、一種単独で、或いは二種以上を組み合わせて用いることができる。
【0116】
以上のようにして得られる重合性液晶組成物は、後述するように、左螺旋性(左捻れ)の、コレステリック液晶層やコレステリック液晶性高分子の製造原料として有用である。
【0117】
3)左螺旋性液晶性高分子
本発明の左螺旋性液晶性高分子(以下、「本発明の液晶性高分子」ということがある。)は、本発明の、重合性キラル化合物又は重合性液晶組成物を(共)重合して得られる高分子である。
ここで、「(共)重合」とは、通常の(共)重合反応のほか、(共)架橋反応を含む広い意味での化学反応を意味するものとする。
【0118】
重合開始剤の存在下に、本発明の重合性キラル化合物又は重合性液晶組成物を(共)重合することにより、本発明の液晶性高分子を容易に得ることができる。得られる液晶性高分子は左螺旋性のコレステリック液晶性高分子である。本発明においては、(共)重合反応をより効率的に行う観点から、前記したような重合開始剤、特に光重合開始剤を用いるのが好ましい。以下、本発明の重合性液晶組成物を用いる態様を例にして説明する。
【0119】
具体的には、本発明の重合性液晶組成物を、例えば、前記配向処理を施す方法に従って得られた、配向機能を有する支持体上に塗布し、コレステリック相を保持した状態で均一に配向させ、重合させることによって、本発明の液晶性高分子を得ることができる。
【0120】
用いる支持体としては、有機、無機を問わず、公知慣用の材質の基板を使用することができる。当該基板の材質としては、例えば、ポリシクロオレフィン〔例えば、ゼオネックス、ゼオノア(登録商標;日本ゼオン社製)、アートン(登録商標;JSR社製)、及びアペル(登録商標;三井化学社製)〕、ポリエチレンテレフタレート、ポリカーボネート、ポリイミド、ポリアミド、ポリメタクリル酸メチル、ポリスチレン、ポリ塩化ビニル、ポリテトラフルオロエチレン、セルロース、三酢酸セルロース、ポリエーテルスルホン、シリコン、ガラス、方解石等が挙げられる。基板の形状としては、平板の他、曲面を有するものであっても良い。これらの基板は、必要に応じて、電極層、反射防止機能、反射機能を有していてもよい。
【0121】
上記方法において、一様な配向状態を形成するためには、通常のツイステッド・ネマチック(TN)素子又はスーパー・ツイステッド・ネマチック(STN)素子で使用されているプレチルト角を与えるポリイミド薄膜を使用すると、重合性液晶化合物の配向状態の制御を容易にすることができる。
【0122】
一般に、配向機能を有する支持体に液晶化合物を接触させた場合、液晶化合物は支持体表面で支持体を配向処理した方向に沿って配向する。液晶化合物が支持体表面と水平に配向するか、傾斜あるいは垂直して配向するかは、支持体表面への配向処理方法による影響が大きい。
例えば、インプレーンスイッチング(IPS)方式の液晶表示素子に使用するようなプレチルト角のごく小さな配向膜を支持体上に設ければ、ほとんど水平に配向した重合性液晶層が得られる。
【0123】
また、TN型液晶表示素子に使用するような配向膜を支持体上に設けた場合は、少しだけ配向が傾斜した重合性液晶層が得られ、STN方式の液晶表示素子に使用するような配向膜を使うと、大きく配向が傾斜した重合性液晶層が得られる。
【0124】
本発明の重合性液晶組成物を、プレチルト角を有する水平配向機能を有する支持体に接触させたときは、支持体表面から空気界面付近まで一様又は連続的に角度が変化して傾斜配向した光学異方体を得ることができる。
【0125】
また、分子内に光二量化反応する官能基を有する有機薄膜や光で異性化する官能基を有する有機薄膜(以下「光配向膜」と略す。)に、偏光又は非偏光を照射する方法等(光配向法)を用いれば、パターン状に配向方向が異なる領域が分布した基板をも作製することができる。
【0126】
初めに、光配向膜を設置した支持体上に光配向膜の吸収帯にある波長の光を照射し、一様な配向が得られる支持体を準備する。その後、当該支持体にマスクを被せ、マスクの上から光配向膜の吸収波長にある第1の照射と異なる状態の光、例えば偏光状態が異なる光あるいは照射角度及び方向が異なる光を照射して、照射部分だけに第1の照射で得られた部分と異なる配向機能を持たせる。
【0127】
以上のようにして得られたパターン状に配向機能の異なる領域が分布した支持体に重合性液晶組成物を接触させれば、支持体の配向機能に応じてパターン状に配向方向の異なる領域が分布する。この状態で光照射による重合を行えば、配向パターンを有する液晶性高分子膜を得ることができる。
【0128】
特に、前記支持体として、パターン状に配向方向の異なる領域が分布している略水平配向機能を有する支持体を使用すれば、位相差膜として特に有用な液晶性高分子膜を得ることができる。
【0129】
そのほか、配向パターンを得る方法として、AFM(原子間力顕微鏡)の触針で配向膜をラビングする方法、光学異方体をエッヂングする方法等の光配向膜を用いない方法も採用可能であるが、光配向膜を利用する方法が簡便であり好ましい。
【0130】
本発明の重合性液晶組成物を支持体上に塗布する方法としては、バーコーティング、スピンコーティング、ロールコーティング、グラビアコーティング、スプレーコーティング、ダイコーティング、キャップコーティング、ディッピング法等の公知慣用のコーティング法が挙げられる。このとき、塗工性を高めるために、本発明の重合性液晶組成物に公知慣用の有機溶媒を添加してもよい。この場合は、本発明の重合性液晶組成物を支持体上に塗布後、自然乾燥、加熱乾燥、減圧乾燥、減圧加熱乾燥等で有機溶媒を除去するのが好ましい。
【0131】
塗布後、本発明の重合性液晶組成物中の液晶化合物をコレステリック相を保持した状態で均一に配向させることが好ましい。具体的には、液晶の配向を促すような加熱処理を行うことにより、配向をより促進することができる。加熱処理の温度は、通常50〜150℃であり、70〜140℃であることが好ましい。また、加熱処理の時間は、通常0.5〜15分であり、2〜10分であることが好ましい。
【0132】
熱処理法としては、例えば、本発明の重合性液晶組成物を支持体上に塗布後、該液晶組成物のC(固相)−N(ネマチック相)転移温度(以下、「C−N転移温度」と略す。)以上に加熱して、該重合性液晶組成物を液晶相又は等方相液体状態にする。そこから、必要に応じ徐冷してコレステリック相を発現する。このとき、一旦液晶相を呈する温度に保ち、液晶相ドメインを充分に成長させてモノドメインとすることが望ましい。
【0133】
また、本発明の重合性液晶組成物を支持体上に塗布後、本発明の重合性液晶組成物のコレステリック相が発現する温度範囲内で温度を一定時間保つような加熱処理を施しても良い。加熱処理時間は特に限定されないが、通常1〜60分、好ましくは2〜30分である。
【0134】
加熱温度が高過ぎると重合性液晶化合物が好ましくない重合反応を起こして劣化するおそれがある。また、冷却しすぎると、重合性液晶組成物が相分離を起こし、結晶の析出、スメクチック相のような高次液晶相を発現し、配向処理が不可能になることがある。
このような加熱処理をすることで、単に塗布するだけの塗工方法と比べて、配向欠陥の少ない均質な液晶性高分子膜を作製することができる。
【0135】
また、このようにして均質な配向処理を行った後、液晶相が相分離を起こさない最低の温度、即ち過冷却状態となるまで冷却し、該温度において液晶相を配向させた状態で重合させることにより、配向秩序が高く、透明性に優れる液晶性高分子膜を得ることができる。
【0136】
重合性液晶組成物を重合させる方法としては、活性エネルギー線を照射する方法や熱重合法等が挙げられるが、加熱を必要とせず、室温で反応が進行することから活性エネルギー線を照射する方法が好ましい。なかでも、操作が簡便なことから、紫外線等の光を照射する方法が好ましい。
【0137】
照射時の温度は、重合性液晶組成物が液晶相を保持できる温度とし、重合性液晶化合物又は重合性液晶組成物の熱重合の誘起を避けるため、可能な限り30℃以下とすることが好ましい。尚、重合性液晶化合物及び重合性液晶組成物は、通常、昇温過程において、C−N転移温度から、N(ネマチック相)−I(等方性液体相)転移温度(以下、「N−I転移温度」と略す。)範囲内で液晶相を示す。一方、降温過程においては、熱力学的に非平衡状態をとるため、C−N転移温度以下でも凝固せず液晶状態を保つ場合がある。この状態を過冷却状態という。本発明においては、過冷却状態にある重合性液晶化合物又は重合性液晶組成物も液晶相を保持している状態に含めるものとする。紫外線照射強度は、通常1W/m〜10kW/mの範囲、好ましくは5W/m〜2kW/mの範囲である。
【0138】
また、マスクを使用して特定の部分のみを紫外線照射で重合させた後、該未重合部分の配向状態を、電場、磁場又は温度等をかけて変化させ、その後該未重合部分を重合させると、異なる配向方向をもった複数の領域を有する液晶性高分子膜を得ることができる。
【0139】
また、マスクを使用して特定の部分のみを紫外線照射で重合させる際に、予め未重合状態の重合性液晶組成物に電場、磁場又は温度等をかけて配向を規制し、その状態を保ったままマスク上から光を照射して重合させることによっても、異なる配向方向をもった複数の領域を有する液晶性高分子膜を得ることができる。
【0140】
本発明の重合性液晶組成物を(共)重合させて得られる液晶性高分子は、支持体から剥離して単体で使用することも、支持体から剥離せずにそのまま光学異方体として使用することもできる。
【0141】
特に、本発明の重合性液晶組成物を(共)重合して得られる液晶性高分子膜は、コレステリック液晶膜であり、極めて高い反射率を有するため、液晶表示素子における偏光子として好適である。
【0142】
これに加えて積層法によりこのような液晶性高分子膜を複数積層させ、かつ選択される液晶性高分子膜の選択波長を適切に選択することにより、可視スペクトルの全ての光をカバーする多層偏光子を得ることもできる(EP0720041号公報参照。)。
【0143】
また、このような多層の偏光子の代わりに、適切な化合物及び加工条件と組合せていわゆる広域バンド偏光子(broad−band polarizer)として使用することもできる。このための実施方法としては、例えば、WO98/08135号パンフレット、EP0606940号公報、GB2312529号公報、WO96/02016号パンフレット等に記載された方法が挙げられる。
【0144】
さらに、本発明の重合性液晶組成物を用いてカラーフィルターを製造することもできる。このために、当業者に慣用の塗布方法によって、必要とされる波長を適切に施与することができる。
【0145】
さらにまた、コレステリック液晶の熱変色性を利用することもできる。温度の調整により、コレステリックな層の色彩が赤色から緑色を経由して青色へと推移する。マスクを用いて特定の帯域を定義された温度で重合することができる。
【0146】
以上のようにして得られる本発明の液晶性高分子は、本発明の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物を用いるものであるため、左螺旋性(左捻れ)の選択反射特性を有する。
左螺旋性であることは、例えば、分光光度計測定において、左円偏光を選択反射することから確認される。
【0147】
本発明の液晶性高分子の螺旋捻れ力(HTP)は、12以上であるのが好ましい。
HTPは、下記式により求められる。
【0148】
【数1】

【0149】
式中、P、C、n、λは、下記の意味を表す。
P:液晶性高分子のヘリカルピッチの長さ(μm)
C:重合性液晶化合物に対するキラル剤の濃度(質量%)
n:重合性液晶化合物の平均屈折率
λ:液晶性高分子の選択反射帯域の中心値(μm)
【0150】
中心波長λは、分光光度計で液晶性高分子の透過スペクトルを測定し、選択反射の値として求めることができる。
【0151】
また、本発明の液晶性高分子の数平均分子量は、通常500〜1,000,000、好ましくは500〜500,000、更に好ましくは5,000〜300,000である。該数平均分子量がかかる範囲にあれば、高い膜硬度が得られ、取り扱い性にも優れるため望ましい。液晶性高分子の数平均分子量は、単分散のポリスチレンを標準試料とし、テトラヒドロフラン(THF)を溶離液としてゲル・パーミエーション・クロマトグラフィー(GPC)により測定することができる。
【0152】
本発明の液晶性高分子は、架橋点が分子内で均一に存在すると推定される。本発明の重合性液晶化合物を(共)重合して得られるものであるから、架橋効率が高く、硬度が高い。
【0153】
本発明の液晶性高分子は、その配向性、屈折率、誘電率、磁化率等の物理的性質の異方性を利用して、位相差板、液晶表示素子用配向膜、偏光板、視野角拡大板、カラーフィルター、ローパスフィルター、光偏光プリズム、各種光フィルター等の光学異方体の構成材料として用いることができる。
【0154】
4)光学異方体
本発明の第4は、本発明の液晶性高分子を構成材料とする光学異方体である。
本発明の光学異方体としては、位相差板、液晶表示素子用配向膜、偏光板、視野角拡大板、カラーフィルター、ローパスフィルター、光偏光プリズム、各種光フィルター等が挙げられる。
【0155】
本発明の光学異方体は、本発明の重合性液晶組成物を重合して得られる液晶性高分子を構成材料としているので、均一で高品質な液晶配向性を有している。
【実施例】
【0156】
本発明を実施例によりさらに詳細に説明するが、本発明は以下の実施例に限定されるものではない。なお、部及び%は特に断りのない限り質量基準である。
なお、カラムクロマトグラフィーに用いた展開溶媒の比(括弧内に示す溶媒比)は容積比である。
【0157】
(実施例1)重合性キラル化合物1の製造
【0158】
【化21】

【0159】
ステップ1:中間体A(化合物(III))の合成
【0160】
【化22】

【0161】
温度計を備えた3つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン1水和物4.9g(97.9mmol)を1−プロパノール15mlに溶解させた。この溶液に、(−)−メントン1.5g(9.7mmol)をテトラヒドロフラン(THF)15mlに溶解させた溶液を、室温下でゆっくりと滴下した。
滴下終了後、60℃にて4.5時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、反応液を飽和重曹水100mlに投入し、クロロホルム50mlで3回抽出した。抽出したクロロホルム層を10%の重曹水50mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、白色固体1.6gを得た。構造はH−NMRで同定した。
【0162】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):4.92(brs,2H)、2.57(dd,1H,J=4.5,14.0Hz)、2.16(qq,1H,J=6.5,7.0Hz)、1.89−1.80(m,3H)、1.76−1.71(m,1H)、1.58(dd,1H,J=10.0,14.0Hz)、1.38−1.32(m,1H)、1.21(d,1H,J=6.0Hz)、0.99(d,3H,J=6.5Hz)、0.90(d,3H,J=7.0Hz)、0.89(d,3H,J=6.5Hz)
【0163】
ステップ2:中間体Bの合成
【0164】
【化23】

【0165】
4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)ベンズアルデヒド、温度計を備えた4つ口反応器に窒素気流中、先のステップ1で合成した中間体A 3.0g(17.8mmol)をTHF30mlに溶解させた。この溶液に4−(6−ヒドロキシヘキシルオキシ)ベンズアルデヒド(3)3.96g(17.8mmol)、トリエチルアミン0.5mlを添加し、60℃にて3時間攪拌した。反応終了後、室温まで冷却した後、反応液を飽和重曹水150mlに投入し、クロロホルム100mlで3回抽出した。抽出したクロロホルム層を10%の重曹水50mlで洗浄し、無水硫酸ナトリウムで乾燥した。硫酸ナトリウムをろ別した後、ロータリーエバポレーターにてクロロホルムを減圧留去して、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:THF=1:1)により精製し、淡黄色固体として中間体Bを1.15g得た。
構造はH−NMRで同定した。
【0166】
H−NMR(400MHz,CDCl,TMS,δppm):8.19(s,1H)、7.68(d,2H,J=8.7Hz)、6.90(d,2H,J=8.7Hz)、3.99(t,2H,J=6.4Hz)、3.75−3.69(m,3H)、3.08(dd,1H、J=4.1,13.3Hz)、2.33−2.25(m,1H)、2.00−1.79(m,7H)、1.64−1.42(m,7H)、1.25−1.17(m,1H)、1.00−0.91(m,9H)
【0167】
ステップ3:重合性キラル化合物1の合成
【0168】
【化24】

【0169】
温度計を備えた4つ口反応器に、窒素気流中、先のステップ2で得た中間体B 1.14g(3.07mmol)、アクリル酸332mg(4.61mmol)、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)112mg(0.92mmol)をN−メチルピロリドン15mlに溶解した。この溶液に、1−エチル−3−(3−ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド塩酸塩(WSC)1.18g(6.14mmol)を室温にて加えた。その後、室温にて13時間反応を行った。反応終了後、反応液を水100mlに投入し、クロロホルム50mlで3回抽出を行った。分液操作によりクロロホルム層を分取し、得られたクロロホルム層を無水硫酸マグネシウムで乾燥させた後、ろ過を行い硫酸マグネシウムを除去した。クロロホルム層をロータリーエバポレーターにて濃縮し、淡黄色固体を得た。この淡黄色固体をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(n−ヘキサン:THF=3:2)により精製し、淡黄色固体として重合性キラル化合物1を0.5g得た。構造はH−NMRで同定した。
【0170】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):8.20(s,1H)、7.70(d,2H,J=7.5Hz)、6.91(d,2H,J=7.5Hz)、6.40(dd,1H,J=1.5,17.5Hz)、6.12(dd,1H,J=10.5,17.5Hz)、5.82(dd,1H,J=1.5,10.5Hz)、4.18(t,2H,J=7.0Hz)、4.00(t,2H,J=6.5Hz)、3.09(ddd,1H,J=1.0,4.0,13.3Hz)、2.34−2.27(m,1H)、2.01−1.94(m,3H)、1.89−1.79(m,4H)、1.75−1.69(m,2H)、1.55−1.43(m,5H)、1.25−1.18(m,1H)、0.99−0.95(m,9H)
【0171】
(実施例2)重合性キラル化合物2の製造
【0172】
【化25】

【0173】
ステップ1:中間体Cの合成
【0174】
【化26】

【0175】
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、4−(6−アクリロイルオキシ−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(4)10.0g(34.21mmol)をTHF100mlに溶解させた。室温下、この溶液にメタンスルホニルクロリド4.11g(35.92mmol)を加え、トリエチルアミン3.81g(37.63mmol)をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)0.21g(1.71mmol)、1,3−ジヒドロキシアセトンダイマー(5)1.42g(7.87mmol)を投入し、トリエチルアミン3.46g(34.21mmol)を滴下した。室温にて2時間反応させた後、反応液に蒸留水500ml、飽和食塩水200mlを加え、クロロホルム500mlで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリウムをロ別し、ロ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(THF:クロロホルム:n−ヘキサン =0.5:4.5:5)により精製することで、中間体Cを5.13g、収率51%で得た。構造はH−NMRで同定した。
【0176】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):1.42−1.57(m,8H)、1.67−1.76(m,4H)、1.79−1.87(m,4H)、4.02(t,4H,J=6.4Hz)、4.18(t,4H,J=6.7Hz)、5.04(s,4H)、5.82(dd,2H,J=10.5,1.5Hz)、6.12(dd,2H,J=17.4,10.5Hz)、6.40(dd,2H,J=17.4,1.5Hz)、6.92(d,4H,J=9.0Hz)、8.03(d,4H,J=9.0Hz)
【0177】
ステップ2:重合性キラル化合物2の合成
【0178】
【化27】

【0179】
2つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン1水和物1.18g(23.49mmol)をイソプロパノール20mlに溶解させた。次に、(−)−メントン725mg(4.70mmol)をTHF10mlに溶解させ、先に調製したヒドラジン溶液中に滴下した。室温にて10時間反応させた後、反応液に蒸留水100ml、飽和食塩水30mlを加え、クロロホルム200mlで抽出した。有機層を硫酸ナトリウムで乾燥させ、ロータリーエバポレーターで濃縮した(Step2a)。
次に、その濃縮物にテトラヒドロフラン30mlを加えて溶解させ、前ステップで合成した中間体C 3.0g(4.70mmol)を加え、加熱還流条件下10時間反応させた。反応終了後、反応液に蒸留水200ml、飽和食塩水50mlを加え、クロロホルム300mlで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリウムをロ別し、ロ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(THF:クロロホルム:n−ヘキサン =0.25:4.75:5)により精製することで、重合性キラル化合物2を1.37g、収率37%で得た(Step2b)。構造はH−NMRで同定した。
【0180】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):0.88−2.90(m,34H)、3.99(t,2H,J=6.5Hz)、4.00(t,2H,J=6.5Hz)、4.17(t,4H,J=6.7Hz)、5.12(s,2H)、5.19(s,2H)、5.82(dd,2H,J=10.5,1.2Hz)、6.12(dd,2H,J=17.4,10.5Hz)、6.40(dd,2H,J=17,4,1.2Hz)、6.84(d,2H,J=9.0Hz)、6.85(d,2H,J=9.0Hz)、7.91(d,2H,J=9.0Hz)、7.95(d,2H,J=9.0Hz)
【0181】
(実施例3)重合性キラル化合物3の製造
【0182】
【化28】

【0183】
ステップ1:中間体Dの合成
【0184】
【化29】

【0185】
2つ口反応器に、窒素気流中、ヒドラジン1水和物325mg(6.48mmol)をイソプロパノール10mlに溶解させた。次に、(−)−メントン1.0g(6.48mmol)をテトラヒドロフラン10mlに溶解させ、先に調製したヒドラジン溶液中に滴下した。室温にて5時間反応させた(Step1a)。
次いで、反応液に5−ホルミルサリチル酸メチル1168mg(6.48mmol)を加えてさらに2時間反応させた。反応終了後、反応液に蒸留水50ml、飽和食塩水30mlを加え、酢酸エチル300mlで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリムをロ別し、ロ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(THF:クロロホルム:n−ヘキサン =0.5:3:6.5)により精製することで、中間体Dを1.25g、収率58%で得た(Step1b)。
構造はH−NMRで同定した。
【0186】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):0.82−2.39(m,17H)、3.03−3.10(m,1H)、3.98(s,3H)、7.03(d,1H,J=8.7Hz)、7.97(dd,1H,J=8.7,2.0Hz)、8.15(d,1H,J=2.0Hz)、8.18(s,1H),11.0(s,1H)
【0187】
ステップ2:重合性キラル化合物3の合成
【0188】
【化30】

【0189】
温度計を備えた3口反応器に、窒素気流中、4−(6−アクリロイルオキシ−ヘクス−1−イルオキシ)安息香酸(4)1.26g(4.322mmol)をTHF20mlに溶解させた。室温下、この溶液にメタンスルホニルクロリド516mg(4.502mmol)を加え、トリエチルアミン474mg(4.682mmol)をゆっくりと滴下した。2時間攪拌した後、4−(ジメチルアミノ)ピリジン(DMAP)44mg(0.360mmol)、先のステップで合成した中間体D1.19g(3.601mmol)を投入し、トリエチルアミン401mg(3.962mmol)を滴下した。室温にて2時間反応させた後、反応液に蒸留水200ml、飽和食塩水50mlを加え、酢酸エチル300mlで抽出した。有機層を無水硫酸ナトリウムで乾燥させ、硫酸ナトリウムをロ別し、ロ液をロータリーエバポレーターで濃縮した後、濃縮物をシリカゲルカラムクロマトグラフィー(THF:クロロホルム:n−ヘキサン =0.5:4.5:5)により精製することで、重合性キラル化合物3を1.12g、収率51%で得た。構造はH−NMRで同定した。
【0190】
H−NMR(500MHz,CDCl,TMS,δppm):0.84−2.39(m,25H)、2.97−3.07(m,1H)、3.75(s,3H)、4.05(t,2H,J=6.2Hz)、4.18(t,2H,J=6.7Hz)、5.82(dd,1H,J=10.5,1.5Hz)、6.12(dd,1H,J=17.4,10.5Hz)、6.40(dd,1H,J=17.4,1.5Hz)、6.97(d,2H,J=9.0Hz)、7.25(d,1H,J=8.2Hz)、8.03(dd,1H,J=8.2,2.0Hz)、8.15(d,2H,J=9.0Hz)、8.23(s,1H)、8.36(d,1H,J=2.0Hz)
【0191】
(実施例4〜6)
(1−1:配向膜を有する透明樹脂基材の調製)
脂環式オレフィンポリマーからなるフィルム(株式会社オプテス製、商品名「ゼオノアフィルムZF16−100」)の両面をコロナ放電処理した。5%のポリビニルアルコールの水溶液を当該フィルムの片面に♯2のワイヤーバーを使用して塗布し、塗膜を乾燥し、膜厚0.1μmの配向膜を形成した。次いで当該配向膜をラビング処理し、配向膜を有する透明樹脂基材を作製した。
【0192】
(1−2:コレステリック高分子硬化膜の形成)
上記で得た重合性キラル化合物1〜3、下記重合性液晶化合物、下記重合性非液晶化合物、有機溶媒としての、シクロペンタノン及び1,3−ジオキソラン、界面活性剤(AGCセイミケミカル社製、商品名「サーフロンKH−40」)、並びに、光重合開始剤(BASF社製、商品名「イルガキュア1919」)を、表1に示す配合割合で使用材料の各成分を混合し、固形分約40%のコレステリック液晶組成物を調製した。このコレステリック液晶組成物を♯6のワイヤーバーを使用して、上記(1−1)で作製した配向膜を有する透明樹脂基材の、配向膜を有する面に塗布した。塗膜を130℃で2分間配向処理することにより、乾燥膜厚5μmのコレステリック液晶層を形成させた。得られた塗布膜に水銀ランプで2000mJ/cmに相当する紫外線を照射して厚さ約3μmのコレステリック高分子硬化膜を得た。
【0193】
【表1】

【0194】
重合性液晶化合物:
【0195】
【化31】

【0196】
重合性非液晶化合物:
【0197】
【化32】

【0198】
(1−3:HTPの測定)
分光光度計(大塚電子社製、瞬間マルチ測光システム MCPD−3000)でコレステリック高分子硬化膜の透過スペクトルを測定し、選択反射の中心波長λを調べた。以下の式により、螺旋捻り力HTP(μm−1)を、式:HTP=1/(P×C)=n/(λ×C)により求めた。
なお、Pはコレステリック高分子硬化膜のヘリカルピッチの長さ(μm)、Cは重合性液晶化合物に対するキラル剤の濃度(質量部/100)、nは重合性液晶化合物の平均屈折率、λはコレステリック高分子硬化膜の選択反射帯域の中心値(μm)である。
結果を表2にまとめて示す。
【0199】
(1−4:コレステリック高分子硬化膜の螺旋方向の測定)
上記(1−3)で透過スペクトルを測定する際に、入射光を右円偏光と左円偏光のそれぞれを使用し、各円偏光に対する選択反射の有無を調べた。螺旋方向は、右円偏光を選択反射するものが右捩れ、左円偏光を選択反射するものは左捩れである。選択反射が確認できたものは○、選択反射を確認できなかったものは×とし、結果を表2にまとめて示す。
【0200】
【表2】

【0201】
表2から、実施例4〜6の液晶硬化膜は、左円偏光のみを選択的に反射する性質を有し、HTPの値が7.62〜9.57μm−1と実用的なレベルにあった。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記式(I)
【化1】

〔式中、Y〜Yはそれぞれ独立して、化学的な単結合、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−O−C(=O)−NR−、−NR−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−NR−、−O−NR−、又は、−NR−O−を表し、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
は、置換基を有していてもよい、炭素数1〜20の2価の脂肪族基を表す。該脂肪族基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−又は−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、Rは水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。
及びAはそれぞれ独立して、置換基を有していてもよい炭素数1〜20の2価の脂肪族基、又は、置換基を有していてもよい炭素数6〜20の芳香族基を表し、
は、ハロゲン原子で置換されていてもよい炭素数2〜10のアルケニル基を表す。
Qは、水素原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜6のアルキル基、又は、下記式(2)
【化2】

(式中、Y及びYは、前記Y〜Yと同じ意味を表し、Aは前記A、Aと同じ意味を表し、Gは前記Gと同じ意味を表し、Zは前記Zと同じ意味を表す。また、AとAは一緒になって結合して環を形成していてもよい。)で表される基を表す。
aは0又は1を表し、bは1又は2を表す。〕
で示される左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項2】
前記式(I)中、A〜Aがそれぞれ独立して、置換基を有していてもよいフェニレン基、置換基を有していてもよいビフェニレン基、又は、置換基を有していてもよいナフチレン基である
請求項1に記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項3】
前記式(I)中、Z及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、CH=C(Cl)−、CH=CH−CH−、CH=C(CH)−CH−、CH=C(CH)−CHCH−、(CHC=CH−CH−、CH−CH=CH−、CH−CH=CH−CH−、CH=CH−CH−CH−、又は、(CHC=CH−CH−CH−である
請求項1又は2に記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項4】
前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−O−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−が2以上隣接して介在する場合を除く。)、−(CH−、又は−(CH−を表し、Z及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、CH=C(CH)−、又は、CH=C(Cl)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、下記(a1)、(a2)又は(a3)
【化3】

〔式中、X〜X18はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−NR(R)、又は、−O−C(=O)−NR(R)を表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕で表される基である
請求項1〜3のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項5】
前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZがそれぞれ独立して、CH=CH−、又は、CH=C(CH)−を表し、
〜Aがそれぞれ独立して、下記(a1)又は(a2)
【化4】

〔式中、X〜X10はそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、−C(=O)−OR、−O−C(=O)−OR、−NR−C(=O)−R、−C(=O)−NR(R)又は、−O−C(=O)−NR(R)を表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表し、Rがアルキル基である場合、当該アルキル基には、−O−、−S−、−O−C(=O)−、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−O−、−NR−C(=O)−、−C(=O)−NR−、−NR−、又は、−C(=O)−が介在していてもよい(ただし、−O−、又は、−S−がそれぞれ2以上隣接して介在する場合を除く。)。ここで、R〜Rはそれぞれ独立して、水素原子又は炭素数1〜6のアルキル基を表す。〕で表される基である
請求項1〜4のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項6】
前記式(I)中、Y〜Yがそれぞれ独立して、−C(=O)−O−、−O−C(=O)−、又は、−O−を表し、
及びGがそれぞれ独立して、−(CH−、又は、−(CH−を表し、
及びZが、CH=CH−を表し、
Qが、水素原子又はメチル基を表し、
が、下記(a1)
【化5】

(式中、X〜Xはそれぞれ独立して、水素原子、ハロゲン原子、置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基、シアノ基、ニトロ基、−OR、−O−C(=O)−R、又は、−C(=O)−ORを表す。ここで、Rは、水素原子又は置換基を有していてもよい炭素数1〜10のアルキル基を表す。)で表される基を表し、
aは0であり、bは1である
請求項1〜5のいずれかに記載の左螺旋を誘起する重合性キラル化合物。
【請求項7】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合性キラル化合物、及び、重合可能な液晶化合物を含有する左螺旋性重合性液晶組成物。
【請求項8】
請求項1〜6のいずれかに記載の重合性キラル化合物、又は、請求項7に記載の左螺旋性重合性液晶組成物を重合して得られる左螺旋性液晶性高分子。
【請求項9】
請求項8に記載の左螺旋性液晶性高分子を構成材料とする光学異方体。

【公開番号】特開2012−136641(P2012−136641A)
【公開日】平成24年7月19日(2012.7.19)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−290080(P2010−290080)
【出願日】平成22年12月27日(2010.12.27)
【出願人】(000229117)日本ゼオン株式会社 (1,870)
【Fターム(参考)】