説明

重合触媒および芳香族ビニル化合物重合体の製造方法

【課題】活性が高い触媒であって、芳香族ビニル化合物の重合反応においては高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られ、芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応においては高度のシンジオタクチック構造とともに、オレフィン系化合物やジエン系化合物から構成される長い連鎖を有する共重合体が得られる触媒を提供すること。
【解決手段】特定の配位子および周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を有する遷移金属化合物を特定条件下で処理することで得られる重合触媒である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重合触媒および当該触媒を使用する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関し、詳しくは、特定の配位子および周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を有する遷移金属化合物を特定条件下で処理することで得られる重合触媒および当該触媒を使用する芳香族ビニル化合物重合体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、ランタノイド系列の金属を有する遷移金属化合物を用いる重合触媒において、種々の興味深い特性が見出されている(特許文献1、非特許文献1〜3)。例えば、オレフィン系化合物およびジエン系化合物の共重合反応において、当該触媒が優れた共重合性を示すことが知られている。また、スチレン等の芳香族ビニル化合物の重合反応において、高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られることが知られている。
【0003】
芳香族ビニル化合物重合体の立体規則性はその物性に大きく影響することが知られている。例えば、シンジオタクチック構造を有する芳香族ビニル化合物重合体は、高い融点、結晶性、高弾性率、耐熱性、耐薬品性等の特性を示し、種々の用途において用いられている。しかしながら、用途によってはさらなる物性改良が必要な場合があり、例えば靭性の向上等が挙げられる。
【0004】
新たな特性を有する芳香族ビニル化合物重合体を得る方法として、例えば、エチレンやαオレフィン等のオレフィン系化合物を用いて共重合反応を行う方法が挙げられる。この場合、オレフィン系化合物から構成される連鎖が長くなることで重合体の物性が大きく変わることが期待されるが、上記文献が開示する触媒を使用して共重合反応を行っても、当該連鎖を長くすることは困難であった。また、触媒によっては活性が低く、実用上問題があった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0005】
【特許文献1】国際公開第2006/004068号パンフレット
【非特許文献】
【0006】
【非特許文献1】J. Am.Chem.Soc., 126, 12240(2004), (E.Kirillov, C.Lehmann, A.Razavi, J.Carpentier)
【非特許文献2】J. Am.Chem.Soc., 126, 13910(2004), (Y.Luo, J.Baldamus,Z.Hou)
【非特許文献3】J. Carpentier, Chem.Eur.J., 13, 5548(2007), (A..Rodrigues, E..Kirillov, C.Lehmann, A.Razavi)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
本発明は上記事情に鑑みなされたもので、活性が高い触媒であって、芳香族ビニル化合物の重合反応においては高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られ、芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応においては高度のシンジオタクチック構造とともに、オレフィン系化合物やジエン系化合物から構成される長い連鎖を有する共重合体が得られる触媒を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0008】
本発明者らは鋭意研究を重ねた結果、特定の配位子および周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を有する遷移金属化合物を特定条件下で処理することで得られる重合触媒によって前記課題が解決することを見出した。本発明はかかる知見に基づいて完成したものである。
すなわち本発明は、
1. 下記の(A)成分と(C)成分をモル比〔(C)/(A)〕40以上で接触させて得られる接触生成物(I)と下記の(B)成分を接触させて得られる重合触媒、
(A)成分:下記の一般式(I)または(II)で表される遷移金属化合物
【0009】
【化1】

【0010】
[R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はシリル含有基を表す。Mは周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を表す。X、Vはσ配位子を表し、XやVが複数ある場合には複数のX、Vは同じでも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合し多座配位子を形成してもよい。Y、Wはルイス塩基を表す。XとYが結合して多座配位子を形成してもよく、VとWが結合して多座配位子を形成してもよい。aはMの価数、bは0または1を表す。]
(B)成分:前記接触生成物(I)と反応してイオン性錯体を形成させる、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物
(C)成分:有機金属化合物
2. 芳香族ビニル化合物を原料モノマーとして使用する重合反応用の触媒である前記1に記載の重合触媒、
3. 原料モノマーが芳香族ビニル化合物であり、触媒として前記1または2に記載の重合触媒を使用する、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法、
4. 原料モノマーが芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物であり、触媒として前記1または2に記載の重合触媒を使用する、共重合体の製造方法を提供するものである。
【発明の効果】
【0011】
本発明によれば、活性が高い触媒であって、芳香族ビニル化合物の重合反応においては高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られ、芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応においては高度のシンジオタクチック構造とともに、オレフィン系化合物やジエン系化合物に由来する長い連鎖を有する共重合体が得られる触媒が提供される。当該触媒を使用することで、芳香族ビニル化合物重合体の物性が改良され、種々の用途に用いることができる。
【発明を実施するための形態】
【0012】
〔重合触媒〕
本発明の重合触媒は、下記の(A)成分と(C)成分をモル比〔(C)/(A)〕40以上で接触させて得られる接触生成物(I)と下記の(B)成分を接触させることで得られる触媒である。
(A)成分:特定の遷移金属化合物
(B)成分:前記接触生成物(I)と反応してイオン性錯体を形成させる、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物
(C)成分:有機金属化合物
以下において、各成分について更に詳しく説明する。
【0013】
本発明における(A)成分は、以下の一般式(I)または(II)で表される遷移金属化合物である。
【0014】
【化2】

【0015】
(I)式および(II)式中、R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はシリル含有基を表す。Mは周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を表す。X、Vはσ配位子を表し、XやVが複数ある場合には複数のX、Vは同じでも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合し多座配位子を形成してもよい。Y、Wはルイス塩基を表す。XとYが結合して多座配位子を形成してもよく、VとWが結合して多座配位子を形成してもよい。aはMの価数、bは0または1を表す。
【0016】
1〜R11で表されるハロゲン原子の具体例としては、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、プロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、ペンチル基、ヘキシル基、シクロヘキシル基、オクチル基等のアルキル基;ビニル基、プロペニル基、シクロヘキセニル基等のアルケニル基等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数6〜20の芳香族炭化水素基の具体例としては、例えば、ベンジル基、フェネチル基、フェニルプロピル基等のアラルキル基;トリル基、ジメチルフェニル基、トリメチルフェニル基、エチルフェニル基、プロピルフェニル基、ブチルフェニル基、トリ−t−ブチルフェニル基等のアルキル置換フェニル基;フェニル基、ビフェニル基、ナフチル基、メチルナフチル基、アントラセニル基、フェナントニル基等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数1〜20のアルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数6〜20のアリーロキシ基の具体例としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数1〜20のチオアルコキシ基の具体例としては、例えば、チオメトキシ基等が挙げられる。
1〜R11で表される炭素数6〜20のチオアリーロキシ基の具体例としては、例えば、チオフェノキシ基等が挙げられる。
1〜R11で表されるアミノ基の具体例としては、例えば、ジメチルアミノ基、ジフェニルアミノ基等が挙げられる。
1〜R11で表されるアミド基の具体例としては、例えば、N−メチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基等が挙げられる。
1〜R11で表されるシリル含有基の具体例としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基等が挙げられる。
【0017】
Mで表される周期律表第3族金属の具体例としては、スカンジウム、イットリウムが挙げられる。
Mで表されるランタノイド系列の金属の具体例としては、ランタン、サマリウム、ネオジム、プラセオジム、ガドリニウム、テルビウム、セリウム、ホルミウム、ルテチウム等が挙げられる。
本発明においてMは好ましくは周期律表第3族の金属であり、より好ましくはスカンジウムである。
【0018】
X、Vで表されるσ配位子の例として、例えば、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリールオキシ基、炭素数1〜20のアミド基、炭素数1〜20のシリル含有基、炭素数1〜20のホスフィド基、炭素数1〜20のスルフィド基、炭素数1〜20のアシル基等が挙げられる。
ハロゲン原子の具体例としては、例えば、フッ素原子、塩素原子、臭素原子、ヨウ素原子等が挙げられる。
炭素数1〜20の炭化水素基の具体例としては、例えば、メチル基、エチル基、n−プロピル基、イソプロピル基、n−ブチル基、イソブチル基、tert−ブチル基、n−ヘキシル基、n−デシル基等のアルキル基、アリル基、イソプロペニル基等のアルケニル基、フェニル基、1−ナフチル基、2−ナフチル基等のアリール基、ベンジル基、N,N−ジメチルアミノベンジル基等のアラルキル基等が挙げられる。
炭素数1〜20のアルコキシ基の具体例としては、例えば、メトキシ基、エトキシ基、n−プロポキシ基、イソプロポキシ基、n−ブトキシ基、イソブトキシ基、sec−ブトキシ基、tert−ブトキシ基、n−ペンチルオキシ基、n−ヘキシルオキシ基、n−ヘプチルオキシ基、n−オクチルオキシ基、n−ノニルオキシ基、n−デシルオキシ基等が挙げられる。
炭素数6〜20のアリールオキシ基の具体例としては、例えば、フェノキシ基等が挙げられる。
炭素数1〜20のアミド基の具体例としては、例えば、N−メチルアミド基、N,N−ジメチルアミド基等が挙げられる。
炭素数1〜20のシリル含有基の具体例としては、例えば、トリメチルシリル基、トリエチルシリル基、t−ブチルジメチルシリル基、トリメチルシリルメチル基、ビス(トリメチルシリル)メチル基等が挙げられる。
炭素数1〜20のホスフィド基の具体例としては、例えば、ジフェニルホスフィド基等が挙げられる。
炭素数1〜20のスルフィド基の具体例としては、例えば、フェニルスルフィド基等が挙げられる。
炭素数1〜20のアシル基の具体例としては、例えば、アセチル基、プロピオニル基、ブチリル基等が挙げられる。
【0019】
Y、Wで表されるルイス塩基の例として、例えば、アミン類、エーテル類、ホスフィン類、チオエーテル類等が挙げられる。
アミン類の具体例としては、例えば、ジメチルアニリンが挙げられる。
エーテル類の具体例としては、例えば、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテルが挙げられる。
ホスフィン類の具体例としては、例えば、トリメチルホスフィンが挙げられる。
チオエーテル類の具体例としては、ジエチルスルフィドが挙げられる。
【0020】
(I)式、(II)式で表される遷移金属化合物の具体例としては、例えば以下の式で表される化合物が挙げられる。
【0021】
【化3】

【0022】
一般式(I)または(II)で表される遷移金属化合物は、例えば、以下の式(III)
【0023】
【化4】

【0024】
で表されるジアザ−ジエニル構造を有する配位子と目的の遷移金属を含有する遷移金属化合物との反応で調製することができる。
本発明の(I)式で表される遷移金属化合物を調製する際は、有機溶媒中加熱条件下で行う。この際に、配位子は目的の遷移金属を含有する遷移金属化合物に対して1.0のモル比で使用することが重要である。
本発明の(II)式で表される遷移金属化合物を調製する際は、有機溶媒中低温条件下で行う。この際に、上記と同様の当量比で反応を行う。
上記の接触操作は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。好ましい有機溶媒としては、ヘキサンが挙げられる。
また、(I)式化合物と(II)式化合物の作り分けは(I)式および(II)式中のR1〜R11を選択することで可能となる。
【0025】
本発明における(B)成分は、(A)成分と(C)成分の接触生成物(I)と反応してイオン性錯体を形成させる、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物(本明細書において、イオン性化合物Aと略称することがある。)である。
イオン性化合物Aとしては、非配位性アニオンと置換又は無置換のトリアリールカルベニウムイオンからなるイオン性化合物や、非配位性アニオンと置換又は無置換のアニリニウムイオンからなるイオン性化合物が挙げられる。
【0026】
非配位性アニオンとしては、例えば、以下の式(IV)で表される非配位性アニオンを挙げることができる。
(BZ1234- (IV)
式(IV)中、Z1〜Z4は、それぞれ水素原子、ジアルキルアミノ基、アルコキシ基、アリールオキシ基、炭素数1〜20のアルキル基、炭素数6〜20のアリール基(ハロゲン置換アリール基を含む)、アルキルアリール基、アリールアルキル基、置換アルキル基及び有機メタロイド基又はハロゲン原子を表す。
【0027】
式(IV)で表される非配位性アニオンの具体例としては、テトラキス(フルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ジフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(テトラフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、テトラキス(トリフルオロメチルフェニル)ボレート、テトラ(トルイル)ボレート、テトラ(キシリル)ボレート、(トリフェニル,ペンタフルオロフェニル)ボレート、〔トリス(ペンタフルオロフェニル),フェニル〕ボレート、トリデカハイドライド−7,8−ジカルバウンデカボレート等を挙げることができる。
【0028】
置換又は無置換のトリアリールカルベニウムイオンとしては、例えば、式(V)で表わされるトリアリールカルベニウムイオンを挙げることができる。
〔CR121314+ (V)
式(V)中、R12、R13及びR14は、それぞれフェニル基,置換フェニル基,ナフチル基及びアントラセニル基等のアリール基であって、それらは互いに同一であっても、異なっていてもよい。
【0029】
上記置換フェニル基の例としては、例えば、式(VI)で表わされる基が挙げられる。
65-k15k (VI)
式(VI)中、R15は、炭素数1〜10のヒドロカルビル基、アルコキシ基、アリーロキシ基、チオアルコキシ基、チオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基及びハロゲン原子を表し、kは1〜5の整数である。kが2以上の場合、複数のR15は同一であってもよく、異なっていてもよい。
【0030】
式(V)で表される置換又は無置換のトリアリールカルベニウムイオンの具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウム、トリ(トルイル)カルベニウム、トリ(メトキシフェニル)カルベニウム、トリ(クロロフェニル)カルベニウム、トリ(フルオロフェニル)カルベニウム、トリ(キシリル)カルベニウム、〔ジ(トルイル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(メトキシフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔ジ(クロロフェニル),フェニル〕カルベニウム、〔トルイル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔メトキシフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム、〔クロロフェニル,ジ(フェニル)〕カルベニウム等が挙げられる。
【0031】
置換又は無置換のアニリニウムイオンとしては、例えば、式(VII)で表わされるアニリニウムイオンを挙げることができる。
〔L−R16+ (VII)
(VII)式中、Lは、アニリン、N−メチルアニリン、ジフェニルアミン,N,N−ジメチルアニリン、メチルジフェニルアミン、p−ブロモ−N,N−ジメチルアニリン,p−ニトロ−N,N−ジメチルアニリン等の芳香族アミンを表す。R16は芳香族アミンの窒素原子と結合する基であり、水素原子,炭素数1〜20のアルキル基,炭素数6〜20のアリール基,アルキルアリール基又はアリールアルキル基を表し、R16の具体例としてはメチル基,エチル基,ベンジル基,トリチル基などを挙げることができる。
【0032】
式(VII)で表される置換又は無置換のアニリニウムイオンの具体例としては、例えば、N,N−ジメチルアニリニウム、N,N−ジエチルアニリニウム等が挙げられる。
【0033】
本発明のイオン性化合物Aの具体例としては、トリ(フェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メチルフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、トリ(4−メトキシフェニル)カルベニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジメチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート、N,N−ジエチルアニリニウムテトラキス(ペンタフルオロフェニル)ボレート等が挙げられる。
本発明において、(B)成分として用いられるイオン性化合物Aは1種を単独で用いてもよく、2種以上を組合わせて用いてもよい。
【0034】
本発明における(C)成分は有機金属化合物であり、好ましいものとして有機アルミニウム化合物や有機亜鉛化合物が挙げられる。
【0035】
有機アルミニウム化合物としては、例えば、トリメチルアルミニウム、トリエチルアルミニウム、トリ−n−プロピルアルミニウム、トリイソプロピルアルミニウム、トリ−n−ブチルアルミニウム、トリイソブチルアルミニウム、トリ−t−ブチルアルミニウム等のトリアルキルアルミニウム類、ジメチルアルミニウムクロリド、ジエチルアルミニウムクロリド、ジ−n−プロピルアルミニウムクロリド、ジイソプロピルアルミニウムクロリド、ジ−n−ブチルアルミニウムクロリド、ジイソブチルアルミニウムクロリド、ジ−t−ブチルアルミニウムクロリド等のジアルキルアルミニウムハライド類、ジメチルアルミニウムメトキサイド、ジメチルアルミニウムエトキサイド等のジアルキルアルミニウムアルコキサイド類、ジメチルアルミニウムハイドライド、ジエチルアルミニウムハイドライド、ジイソブチルアルミニウムハイドライド等のジアルキルアルミニウムハイドライド等が挙げられる。
これらの有機アルミニウム化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0036】
有機亜鉛化合物としては、ジメチル亜鉛、ジエチル亜鉛、ジn−プロピル亜鉛、ジイソプロピル亜鉛等のジアルキル亜鉛が挙げられる。これらの有機亜鉛化合物は、一種を単独で用いてもよく、二種以上を組み合わせて用いてもよい。さらに有機亜鉛化合物と有機アルミニウム化合物と組合わせて用いてもよい。
【0037】
〔重合触媒の調製方法〕
本発明の重合触媒を調製する際は、まずは、前記(A)成分と前記(C)成分を接触させて接触生成物(I)を調製する。この際に(C)成分を過剰に用いることが重要であり、モル比〔(C)/(A)〕が40以上である。モル比が40未満であると、触媒活性が低下するとともに、触媒の保存安定性が悪くなる。当該観点からより好ましくは50〜300である。
次に、前記接触生成物(I)に前記(B)成分を接触させることで接触生成物(II)(本発明の重合触媒)が得られる。(B)成分は、(A)成分の遷移金属化合物に対して、通常、1.0〜2.5のモル比で使用される。
上記の接触操作は、窒素ガス等の不活性ガス雰囲気下で行うことが望ましい。通常は、溶媒を用いて接触操作を行う。好ましい溶媒としては、トルエンが挙げられる。接触させる際の温度は、通常5〜70℃であり、好ましくは5〜35℃である。
重合体を製造する場合、重合触媒は、予め触媒調製槽において調製したものを使用してもよいし、重合反応器内において調製したものをそのまま使用してもよい。
【0038】
〔重合体の製造方法〕
本発明の重合触媒は、芳香族ビニル化合物を原料モノマーとして使用する重合反応(単独重合反応や共重合反応)に特に好適に用いられる。前記単独重合反応の例としては、芳香族ビニル化合物一種の単独重合反応が挙げられる。また、前記共重合反応の例としては、芳香族ビニル化合物二種以上の共重合反応や芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応が挙げられる。なお、本明細書において、これらの反応で得られる重合体、すなわち芳香族ビニル化合物から構成される連鎖を有する重合体を、芳香族ビニル化合物重合体と表す。
【0039】
芳香族ビニル化合物の具体例としては、例えば、スチレン、p−メチルスチレン、p−エチルスチレン、p−プロピルスチレン、p−イソプロピルスチレン、p−ブチルスチレン、p−tert−ブチルスチレン、p−フェニルスチレン、o−メチルスチレン、o−エチルスチレン、o−プロピルスチレン、o−イソプロピルスチレン、m−メチルスチレン、m−エチルスチレン、m−イソプロピルスチレン、m−ブチルスチレン、メシチルスチレン、2,4−ジメチルスチレン、2,5−ジメチルスチレン、3,5−ジメチルスチレン、4−ブテニルスチレン、p−クロロスチレン、m−クロロスチレン、o−クロロスチレン、p−ブロモスチレン、m−ブロモスチレン、o−ブロモスチレン、p−フルオロスチレン、m−フルオロスチレン、o−フルオロスチレン、o−メチル−p−フルオロスチレン、p−メトキシスチレン、o−メトキシスチレン、m−メトキシスチレン、ビニル安息香酸エステル等を挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0040】
オレフィン系化合物の具体例としては、例えば、エチレン、プロピレン、1−ブテン、1−ペンテン、1−ヘキセン、1−ヘプテン、1−オクテン、1−ノネン、1−デセン、4−フェニル−1−ブテン、6−フェニル−1−ヘキセン、3−メチル−1−ブテン、4−メチル−1−ブテン、3−メチル−1−ペンテン、4−メチル−1−ペンテン、3−メチル−1−ヘキセン、4−メチル−1−ヘキセン、5−メチル−1−ヘキセン、3,3−ジメチル−1−ペンテン、3,4−ジメチル−1−ペンテン、4,4−ジメチル−1−ペンテン、ビニルシクロヘキサン、ヘキサフルオロプロペン、テトラフルオロエチレン、2−フルオロプロペン、フルオロエチレン、1,1−ジフルオロエチレン、3−フルオロプロペン、トリフルオロエチレン、3,4−ジクロロ−1−ブテン等を挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0041】
ジエン系化合物の具体例としては、例えば、1,3−ブタジエン、1,3−ペンタジエン、1,4−ペンタジエン、1,3−ヘキサジエン、1,4−ヘキサジエン、1,5−ヘキサジエン、2,4−ジメチル−1,3−ペンタジエン、2−メチル−1,3−ヘキサジエン、2,4−ヘキサジエン、シクロヘキサジエン、ジシクロペンタジエン等を挙げることができる。これらは一種を単独で用いてもよく、二種以上を組合わせて用いてもよい。
【0042】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法においては、前記重合触媒を用いて予備重合を行うことができる。その方法には特に制限はなく、公知の方法で行うことができる。予備重合に用いるモノマーについては特に制限はなく、前記したものを用いることができる。予備重合温度は、通常−20〜200℃、好ましくは−1℃〜130℃である。予備重合において、溶媒としては、不活性炭化水素、脂肪族炭化水素、芳香族炭化水素、モノマーなどを用いることができる。
【0043】
本発明の芳香族ビニル化合物重合体の製造方法において用いられる重合方式としては特に制限がないが、塊状重合や溶液重合等を好適に採用することができる。塊状重合法による場合は無溶媒であり、溶液重合法による場合に用いる溶媒としては、不活性溶媒が好適である。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素、シクロヘキサン等の脂環式炭化水素、ペンタン、ヘキサン、ヘプタン等の脂肪族炭化水素が挙げられる。重合温度は、通常、0〜200℃、好ましくは0〜120℃の範囲である。また、重合時の圧力は、通常、0.01〜30MPa、好ましくは0.01〜3MPaの範囲である。
【0044】
本発明の重合触媒は活性が高く、重合体の生産性が向上する。また、芳香族ビニル化合物の重合反応においては高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られ、例えば芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が80%以上となる。さらに、芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応においては高度のシンジオタクチック構造とともに、オレフィン系化合物やジエン系化合物から構成される長い連鎖を有する重合体が得られ、例えば芳香族ビニル化合物から構成される繰り返し単位連鎖の立体規則性[rrrr]が60%以上であり、DSCにおいてオレフィン系化合物やジエン系化合物から構成される連鎖に由来する融点を観測できる共重合体が得られる。
【実施例】
【0045】
次に、本発明を実施例により更に詳細に説明するが、本発明はこれらの例によって何ら限定されるものではない。
【0046】
実施例1
(1)Sc錯体Aの合成
トリス(トリメチルシリルメチル)スカンジウムTHF錯体(0.5mmol)にヘキサン2mLを加え、室温下で配位子a、0.5mmolを含んだヘキサン溶液8mLを加えた。50℃で11時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、黄白色粉末199mgを得た。1H−NMR測定の結果、Sc錯体Aであることを確認した。
【0047】
【化5】

【0048】
(2)スチレン重合
加熱乾燥した30mLのワインボトル型バイアル瓶に、窒素雰囲気下、室温でスチレン5mL、トリイソブチルアルミニウム0.79μmolを加え、インナーキャップ及びアルミシールにより封印した。このワインボトル型バイアル瓶を60℃のウオーターバスに入れた後、上記(1)で得られたSc錯体A、0.1μmolとトリn−ブチルアルミニウム5μmolを接触させ30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.12μmolを25℃で接触させた触媒を用いて5分後に重合を行った。1時間後、反応生成物にメタノールを投入し攪拌した後にろ別し、得られたポリマーを200℃で3時間乾燥した。0.3gのシンジオタクチックポリスチレンが得られた。立体規則性は98%以上であった。
【0049】
(3)エチレン/スチレン共重合
加熱乾燥した1Lオートクレーブに、窒素雰囲気下、室温で脱水トルエン190ml、スチレン200mL、トリイソブチルアルミニウム0.5mmolを加え、60℃に昇温した。昇温後、エチレン(0.2MPa)を入れた。上記(1)で得られたSc錯体A、0.025mmolとトリイソブチルアルミニウム1.25mmolを接触させ30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.03mmolを接触させた。5分後にこの触媒をオートクレーブに入れ、重合を行った。1時間後、反応生成物にメタノールを投入し攪拌した後にろ別し、得られたポリマーを200℃で3時間乾燥した。スチレン部82.5モル%、エチレン部17.5モル%のシンジオタクチックポリスチレン共重合体が1.3g得られた。スチレン部の立体規則性は98%以上であった。
DSC測定において、125、237、257℃にTmが観測され、エチレン連鎖が長いことが分かった。
【0050】
実施例2
(1)Sc錯体Bの合成
トリス(トリメチルシリルメチル)スカンジウムTHF錯体(0.3mmol)にヘキサン2mLを加え、−35℃で配位子b、0.3mmolを含んだヘキサン溶液8mLを加えた。室温にて11時間撹拌した。溶媒を減圧留去し、黄白色粉末37mgを得た。1H−NMR測定の結果、Sc錯体Bであることを確認した。
【0051】
【化6】

【0052】
(2)スチレン重合
加熱乾燥した30mLのワインボトル型バイアル瓶に、窒素雰囲気下、室温でスチレン5mL、トリイソブチルアルミニウム0.79μmolを加え、インナーキャップ及びアルミシールにより封印した。このワインボトル型バイアル瓶を60℃のウオーターバスに入れた後、上記(1)で得られたSc錯体B、0.1μmolとトリn−ブチルアルミニウム5μmolを接触させ30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.12μmolを25℃で接触させた触媒を用いて5分後に重合を行った。1時間後、反応生成物にメタノールを投入し攪拌した後にろ別し、得られたポリマーを200℃で3時間乾燥した。0.3gのシンジオタクチックポリスチレンが得られた。立体規則性は98%以上であった。
【0053】
(3)エチレン/スチレン共重合
加熱乾燥した1Lオートクレーブに、窒素雰囲気下、室温で脱水トルエン190ml、スチレン200mL、トリイソブチルアルミニウム0.5mmolを加え、60℃に昇温した。昇温後、エチレン(0.2MPa)を入れた。上記(1)で得られたSc錯体B、0.025mmolとトリイソブチルアルミニウム1.25mmolを接触させ30分後にジメチルアニリニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.03mmolを接触させた。5分後にこの触媒をオートクレーブに入れ、重合を行った。1時間後、反応生成物にメタノールを投入し攪拌した後にろ別し、得られたポリマーを200℃で3時間乾燥した。スチレン部96.1モル%、エチレン部3.9モル%のシンジオタクチックポリスチレン共重合体が2.3g得られた。Mw=56,000、スチレン部の立体規則性は98%以上であった。DSC測定において、125、242、260℃にTmが観測され、エチレン連鎖が長いことが分かった。
【0054】
比較例1
加熱乾燥した1リットルオートクレーブに、窒素雰囲気下、室温で脱水トルエン367mL、トリイソブチルアルミニウム0.9mmol、スチレン25mlを加えた。攪拌しながら温度を70℃にした後、(1,2,3,4‐テトラヒドロ‐1‐フルオレンニル)ビス(N,N−ジメチルアミノベンジル)スカンジウム0.009mmolとトリフェニルカルベニウムテトラキスペンタフルオロフェニルボレート0.009mmolを予め混合した溶液7.5mlを加えた。続いてエチレンで圧力を0.1MPaに保ちながら15秒間重合した。その結果、スチレン/エチレン共重合体8.2gを得た。活性は244Kg/gSc/hrであった。
得られたポリマーの組成はエチレンが11モル%、スチレンが89モル%、DSC測定において、融点は253℃であり、ポリエチレン部に起因する融点は現れなかった。重量平均分子量Mwは75,6000、分子量分布Mw/Mnは2.4、スチレン連鎖の立体規則性(ペンタッドラセミ分率[rrrr])は99.0%以上であった。
【産業上の利用可能性】
【0055】
本発明によれば、活性が高い触媒であって、芳香族ビニル化合物の重合反応においては高度のシンジオタクチック構造を有する重合体が得られ、芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物の共重合反応においては高度のシンジオタクチック構造とともに、オレフィン系化合物やジエン系化合物から構成される長い連鎖を有する共重合体が得られる触媒が提供される。当該触媒を使用することで、芳香族ビニル化合物重合体の物性が改良され、種々の用途に用いることができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
下記の(A)成分と(C)成分をモル比〔(C)/(A)〕40以上で接触させて得られる接触生成物(I)と下記の(B)成分を接触させて得られる重合触媒。
(A)成分:下記の一般式(I)または(II)で表される遷移金属化合物
【化1】

[R1、R2、R3、R4、R5、R6、R7、R8、R9、R10およびR11はそれぞれ独立に、水素原子、ハロゲン原子、炭素数1〜20の脂肪族炭化水素基、炭素数6〜20の芳香族炭化水素基、炭素数1〜20のアルコキシ基、炭素数6〜20のアリーロキシ基、炭素数1〜20のチオアルコキシ基、炭素数6〜20のチオアリーロキシ基、アミノ基、アミド基、カルボキシル基又はシリル含有基を表す。Mは周期律表第3族金属またはランタノイド系列の金属を表す。X、Vはσ配位子を表し、XやVが複数ある場合には複数のX、Vは同じでも異なっていてもよく、また、互いに任意の基を介して結合し多座配位子を形成してもよい。Y、Wはルイス塩基を表す。XとYが結合して多座配位子を形成してもよく、VとWが結合して多座配位子を形成してもよい。aはMの価数、bは0または1を表す。]
(B)成分:前記接触生成物(I)と反応してイオン性錯体を形成させる、非配位性アニオンとカチオンからなるイオン性化合物
(C)成分:有機金属化合物
【請求項2】
芳香族ビニル化合物を原料モノマーとして使用する重合反応用の触媒である請求項1に記載の重合触媒。
【請求項3】
原料モノマーが芳香族ビニル化合物であり、触媒として請求項1または2に記載の重合触媒を使用する、芳香族ビニル化合物重合体の製造方法。
【請求項4】
原料モノマーが芳香族ビニル化合物並びにオレフィン系化合物および/またはジエン系化合物であり、触媒として請求項1または2に記載の重合触媒を使用する、共重合体の製造方法。

【公開番号】特開2011−12169(P2011−12169A)
【公開日】平成23年1月20日(2011.1.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−157284(P2009−157284)
【出願日】平成21年7月1日(2009.7.1)
【出願人】(000183646)出光興産株式会社 (2,069)
【Fターム(参考)】