説明

重質炭化水素油の水素化処理方法

【課題】 硫黄分、金属分が通常の原油よりも多いAPI度が30以下である重質原油より得られる重質炭化水素油を原料油として硫黄分が1質量%以下の低硫黄重油を製造する場合には、従来技術では反応温度を増加させなければならないだけでなく、活性劣化速度が著しく速くなり、触媒寿命を大幅に短くしてしまうため、実質的にその処理は不可能であり、API度の低い安価な重質原油を有効に活用することができないという問題点があった。
【解決手段】 API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油100容量部に対し、API度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油を30〜1000容量部混合した混合油を水素化処理することにより、脱メタル率を低下させることなく、触媒活性の失活速度を抑制し、硫黄分1質量%以下の低硫黄重油を効率良く製造することが可能となった。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は重質炭化水素油の水素化処理方法に関する。詳細には、API度が30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油を原料油として用いて、脱メタル率を低下させることなく、硫黄分が1質量%以下の低硫黄重油を安価に製造することができる水素化処理方法に関する。
【背景技術】
【0002】
硫黄分、金属分が多い原油の重質炭化水素油を、脱メタル触媒と脱硫触媒の2種類の水素化処理触媒を充填した固定床反応器に通すことによって、原料油の硫黄分を減少させて低硫黄重油を製造する方法が知られている。
重質炭化水素油(原料油)を水素化処理触媒に接触させると脱硫反応が起こり、原料油中の硫黄分、すなわち、ベンゾチオフェン類、ジベンゾチオフェン類、メルカプタン類、チオエーテル類、ジチオエーテル類などの有機硫黄化合物から硫黄分が除去できる。また、脱硫反応の他に、原料油中のニッケル、バナジウム、鉄、ナトリウムなどのメタル分を除去する脱メタル反応や、分解反応、脱窒素反応も同時に起こる。しかし、これらの反応の進行に伴い、コーク分やメタル分が2次的に生成し、水素化処理触媒の細孔内や外表面に堆積する。これらの堆積物は水素化処理触媒上の活性点を被毒し、脱硫活性などの触媒活性の低下を引き起こす。さらにまた、これらの堆積物は触媒の細孔内に堆積し、細孔を塞ぎ、触媒活性の低下を引き起こす。一般に、原油のAPI度が小さくなるほど、その原油から得られる重質炭化水素油中に含まれる硫黄化合物やニッケル、バナジウムなどの金属量は多くなり、触媒活性低下速度を加速する。このため、API度の小さな原油から得られる重質炭化水素油を処理する場合は、処理量を大幅に低下させる必要があった。また、この重質炭化水素油中のメタルを含有する分子はサイズが大きく反応性が低いため、脱メタル率も低下し、後段装置に悪影響を与える。
【0003】
低硫黄重油の用途としては、電力用、ボイラー用、船舶用および工業用炉用などがあるが、従来の技術では、硫黄分、金属分が通常の原油よりも多いAPI度が30以下である重質原油より得られる重質炭化水素油を原料油として低硫黄重油を採取しようとした場合、反応温度を増加させなければならないだけでなく、触媒活性劣化速度が著しく速くなり、触媒寿命を大幅に短くしてしまうため、硫黄分が1質量%以下の低硫黄重油を製造する場合には、実質的にその処理は不可能であった。その結果として、API度の低い安価な重質原油を有効に活用することができないという問題点があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
本発明者らは、上記の課題について鋭意研究した結果、本発明を完成したもので、API度が30以下である重質原油から得た重質炭化水素油に、API度が35以上である軽質原油から得た重質炭化水素油を特定量混合した混合油を水素化処理することにより、従来処理が不可能であったAPI度が30以下である重質原油より得られる重質炭化水素油の処理を可能にし、脱メタル率を低下させることなく、触媒活性の失活速度を抑制し、硫黄分1質量%以下の低硫黄重油を効率良く製造する方法を見出したものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
すなわち、本発明は、API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油100容量部に対し、API度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油を30〜1000容量部混合した混合油を水素化処理し、硫黄分1質量%以下の低硫黄重油を製造することを特徴とする重質炭化水素油の水素化処理方法に関する。
【0006】
また本発明は、水素分圧が7〜25MPa、LHSVが0.01〜10h−1、反応温度が250〜450℃、水素/油比が500〜8,000SCF/BBLの条件下に水素化処理することを特徴とする前記記載の水素化処理方法に関する。
【0007】
さらに本発明は、アルミナを主成分とする触媒担体に周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を0.03〜10mol%および周期律表第VIB族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を0.1〜10mol%担持させて得られる表面積1.0×10〜1.0×10/m、細孔容積0.20〜0.60m/mなる触媒を1つ以上積層させた触媒を使用することを特徴とする前記記載の水素化処理方法に関する。
【発明の効果】
【0008】
本発明の方法によれば、実質的に処理が不可能であったAPI度が30以下の重質原油から、脱メタル率を低下させることなく硫黄分1質量%以下の低硫黄重油を採取することが可能となる。このため、安価な重質原油処理量を増やすことができ、製油所の経済性を大幅に向上できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
以下、本発明の好適な実施形態について詳細に説明する。
本発明において使用されるAPI度30以下の重質原油とは、下記式で算出されるAPI度の値が30以下の原油をいう。
API度=141.5/(比重60/60°F)−131.5
なお、上式における比重とは、JIS K 2249に規定する「原油及び石油製品の密度試験方法ならびに密度・質量・容量換算表」に準拠して測定される比重を意味する。
本発明において使用される重質原油はAPI度が30以下のものであり、好ましくは29以下、より好ましくは28以下のものである。API度が30を超えると、その原油から得られる重質炭化水素油の反応性が高くなるため、本発明の方法を適用しなくても処理することができるからである。
本発明において使用されるAPI度30以下の重質原油としては、具体的には、カフジ原油、アラビアンヘビー原油、アルライヤン原油などを挙げることができる。
【0010】
本発明においてAPI度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油とは、API度30以下の重質原油を、例えば、常圧蒸留若しくは減圧蒸留した際に得られる、通常、蒸留温度300℃以上の留分を70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む残渣物を言う。
なお、API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油の性状として、特に限定されないが、代表的な性状としては下記のとおりである。
比重(15/4℃):0.9700〜1.100
硫黄分:4.0〜8.0質量%
金属分(Ni+V):70〜200質量ppm
残炭分:10〜20質量%
なお、本発明でいう蒸留温度とは、JIS K 2254に規定する「石油製品―蒸留試験方法」の「6.減圧法蒸留試験方法」に準拠して測定される温度を意味する。
【0011】
本発明において使用されるAPI度35以上の軽質原油とは、前述の式で算出されるAPI度の値が35以上の原油をいう。
本発明において使用される軽質原油はAPI度が35以上であり、好ましくは35.5以上、より好ましくは36以上のものである。API度が35未満となると、その原油から得る重質炭化水素油の反応性が低下する点で劣化速度の抑制効果を与えないとした不都合が生じ好ましくない。
本発明において使用されるAPI度35以上の軽質原油としては、具体的には、アラビアンエキストラライト原油、ローアーザクム原油、マーバン原油などを挙げることができる。
【0012】
本発明においてAPI度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油とは、API度35以上の軽質原油を、例えば、常圧蒸留若しくは減圧蒸留した際に得られる、通常、蒸留温度300℃以上の留分を70質量%以上、好ましくは80質量%以上、より好ましくは90質量%以上、さらに好ましくは95質量%以上含む残渣物を言う。
なお、重質炭化水素油の性状として、特に限定されないが、代表的な性状としては下記のとおりである。
比重(15/4℃):0.9100〜0.9500
硫黄分:1.1〜3.0質量%
金属分(Ni+V):3〜30質量ppm
残炭分:2〜8質量%
【0013】
本発明は、API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油100容量部に対し、API度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油を30〜1000容量部、好ましくは40〜900容量部、より好ましくは100〜700容量部を混合する。API度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油が、API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油100容量部に対して1000容量部よりも多くなると、重質原油から得られる重質炭化水素油の割合が小さくなり、本発明の効果が発揮されないため好ましくない。また、30容量部よりも少なくなると、劣化速度の抑制効果が現れなくなり好ましくない。
【0014】
なお、本発明の効果に悪影響を与えない限りにおいて、この混合油に、API度30超〜35未満の中質原油から得られる重質炭化水素油が含有されていても差し支えない。その含有割合は特に限定されないが、本発明の効果を十分に発揮するには、全体を100容量部としたときに30容量部以下であることが望ましい。
また、中質炭化水素油の性状として、特に限定されないが、代表的な性状としては下記のとおりである。
比重(15/4℃):0.9500〜0.9700
硫黄分:3.0〜4.0質量%
金属分(Ni+V):30〜70質量ppm
残炭分:8〜10質量%
【0015】
次に、この混合油を水素化処理する。
本発明における水素化処理の条件は、特に限定されないが、水素分圧は7〜25MPaであることが好ましく、より好ましくは9〜22MPa、さらに好ましくは10〜21MPaである。入り口の水素分圧が7MPa未満の場合は、触媒上のコーク生成が激しくなり過ぎるため触媒寿命が短くなる懸念がある。一方、その水素分圧が25MPaを超える場合は、反応塔や周辺機器等の建設費が急激に上昇し、経済的に実用性が失われる懸念がある。
また、LHSVは0.01〜10h−1であることが好ましく、より好ましくは0.02〜8h−1、さらに好ましくは0.04〜6h−1の範囲で行うことができる。LHSVが0.01h−1未満の場合は、反応塔の建設費が莫大になり、経済的に実用性が失われる懸念があり好ましくない。一方、LHSVが10h−1を超える場合は、触媒活性が十分に発揮されない懸念があり好ましくない。
反応形式は特に限定されないが、通常は、固定床、移動床等の種々のプロセスから選ぶことができるが、固定床が好ましい。
【0016】
本発明の水素化処理に使用される触媒としては特に限定されないが、アルミナを主成分とする担体に周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも一種の金属を0.03〜10mol%および周期律表第VIB族金属から選ばれる少なくとも一種の金属を0.1〜10.0mol担持させて得られる表面積1.0×10〜1.0×10/m、細孔容積0.20〜0.60m/mなる触媒を1つ以上積層させた触媒系を用いることが好ましい。
【0017】
該担体としては、例えば、アルミナ、アルミナ−シリカ、アルミナ−ボリア、アルミナ−チタニア、アルミナ−ジルコニア、アルミナ−マグネシア、アルミナ−シリカ−ジルコニア、アルミナ−シリカ−チタニア、あるいは各種ゼオライト、セビオライト、モンモリロナイト等の各種粘土鉱物などの多孔性無機化合物をアルミナに添加した担体が挙げられる。
【0018】
周期律表第VIB族金属としてはクロム、モリブデン、タングステンが好ましく用いられる。また第VIII族金属としては、鉄、コバルト、ニッケルが好ましく用いられる。
これらの金属は通常組み合わせて用いられる。具体的には、ニッケル−モリブデン、コバルト−モリブデン、ニッケル−タングステン、ニッケル−コバルト−モリブデン、タングステン−コバルト−ニッケルが好ましく用いられる。また、これらの金属は、好ましくは金属酸化物、金属硫化物として担持される。
本発明において、触媒の製造方法は公知の方法を用いることができる。例えば、浸漬法、含浸法、共沈法等があげられる。
【0019】
本発明の方法により製造される重油の硫黄分は1質量%以下であり、好ましくは0.8質量%以下、より好ましくは0.6質量%以下の範囲にある。
生成重油の硫黄分が1質量%を超えるような場合は、API度の小さな重質原油から得た重質炭化水素油を処理しても、もともと触媒活性の劣化速度は小さいため、API度の大きな軽質原油から得た重質炭化水素油を混合する必要がなく、本発明を適用する必要は無い。
また、本発明の方法により製造される低硫黄重油の硫黄分の下限は特に限定されないが、本発明の効果を生かすには0.05質量%以上であることが好ましく、0.1質量%以上であることがより好ましい。硫黄分を0.05質量%よりもさらに脱硫しようとすると、原料油性状によらず触媒の劣化速度が急増するため好ましくない。
なお、本発明における硫黄分(硫黄含有量)とは、JIS K 2541―1992に規定する「原油及び石油製品―硫黄分試験方法」の「6.放射線式励起法」に準拠して測定される硫黄含有量を意味する。
【実施例】
【0020】
以下に実施例及び比較例を挙げ本発明をさらに具体的に説明するが、本発明はこれらの実施例に何ら限定されるものではない。
【0021】
(実施例1)
表1に示す、重質原料油1(API度が30以下の重質原油から得た重質炭化水素油)100容量部に、軽質原料油1(API度が35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油)400容量部を混合して、表2に示す触媒系を使用して、水素分圧17MPa、水素/油比5000SCF/BBL、LHSV0.24h−1、生成油硫黄分0.3質量%の条件下で水素化処理を行った。その結果を表3に示した。
【0022】
(実施例2)
重質原料油1と軽質原料油1を、100容量部:233容量部で混合した原料油を使用した以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0023】
(実施例3)
重質原料油1と軽質原料油1を、100容量部:100容量部で混合した原料油を使用した以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0024】
(実施例4)
表1に示す、重質原料油2(API度が30以下の重質原油から得た重質炭化水素油)100容量部と、軽質原料油2(API度が35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油)100容量部を混合した原料油を使用した以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0025】
(比較例1)
原料油として表1に示す重質原料油1を使用した以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0026】
(比較例2)
原料油として表1に示す重質原料油1を使用し、LHSVを0.12h−1にした以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0027】
(比較例3)
原料油として表1に示す重質原料油2を使用し、LHSVを0.12h−1にした以外は、実施例1と同一の反応条件および触媒を使用して水素化処理を行った。その結果を表3に併記した。
【0028】
【表1】

【0029】
【表2】

【0030】
【表3】

【0031】
表3の結果から明らかなとおり、本発明の方法によれば、API度が30以下の重質原油から得た重質炭化水素油に、API度が35以上の軽質原油から得た重質炭化水素油を所定量混合した原料油を水素化処理することにより、触媒の劣化速度を大幅に抑制できることが分かる。なお、1年運転を可能にするには触媒活性劣化速度は0.20 ℃/日以下とする必要がある。いずれの場合も、平均脱メタル率も通常要求される80%以上を維持している。
それに対して、比較例1のAPI度が24.9の重質原油から得た重質炭化水素油では、劣化速度は0.9℃/日と極めて高く、脱メタル率も70%まで低下する。
また、比較例2に示すように、API度が24.9の重質原油から得た重質炭化水素油の通油量を半分にした場合でも、劣化速度は0.42℃/日と高く、脱メタル率も75%まで低下する。
また、比較例3に示すように、API度が27.7の重質原油から得た重質炭化水素油を用いた場合でも、劣化速度は0.38℃/日と高く、脱メタル率も74%まで低下する。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
API度30以下の重質原油より得られる重質炭化水素油100容量部に対し、API度35以上の軽質原油より得られる重質炭化水素油を30〜1000容量部混合した混合油を水素化処理し、硫黄分1質量%以下の低硫黄重油を製造することを特徴とする重質炭化水素油の水素化処理方法。
【請求項2】
水素分圧が7〜25MPa、LHSVが0.01〜10h−1、反応温度が250〜450℃、水素/油比が500〜8,000SCF/BBLの条件下に水素化処理することを特徴とする請求項1に記載の水素化処理方法。
【請求項3】
アルミナを主成分とする触媒担体に周期律表第VIII族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を0.03〜10mol%および周期律表第VIB族金属から選ばれる少なくとも1種の金属を0.1〜10mol%担持させて得られる表面積1.0×10〜1.0×10/m、細孔容積0.20〜0.60m/mなる触媒を1つ以上積層させた触媒を使用することを特徴とする請求項1又は2に記載の水素化処理方法。

【公開番号】特開2006−63203(P2006−63203A)
【公開日】平成18年3月9日(2006.3.9)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−248123(P2004−248123)
【出願日】平成16年8月27日(2004.8.27)
【出願人】(000004444)新日本石油株式会社 (1,898)
【Fターム(参考)】