説明

重金属汚染土壌の浄化方法

【課題】
分級および排水処理を効率化し、さらに従来法では廃棄していた土粒子に対してもその浄化が可能な重金属汚染土壌の浄化方法を提供することにある。
【解決手段】
放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材を重金属と水性媒体の混合後に回収し、重金属捕集剤に吸着した重金属の溶離を希酸例えば希塩酸で洗浄することより再生する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、重金属で汚染された土壌をより効率的に浄化することができる重金属汚染土壌の浄化方法に関する。
【背景技術】
【0002】
土壌汚染対策法の施行を契機に土壌汚染が判明する事例が増加している。環境省の調査結果では重金属の汚染事例が最も多いことが報告されている。
【0003】
重金属汚染土壌に対するわが国の浄化対策としては、汚染土壌を不溶化処理する方法や汚染土壌の封じ込め工法、遮水工法、覆土工法といった方法があるが、これらの対策を実施しても汚染物質は除去されたわけではなく、対策後においても土地利用の制限を受けたり、不動産取引ではマイナス要因となることが多い。また汚染土壌を搬出し、汚染されていない土壌と置き換える対策も講じられているが、汚染土壌を受け入れる最終処分場が不足するのは明らかである。そこで、欧州を中心に実績のある土壌洗浄工法が注目され、わが国にも導入されている。
【0004】
土壌洗浄工法とは、水または適当な溶媒により土壌を洗浄し汚染物質を液中に溶かし出し、分離する方法である。その典型例は、汚染土壌に加水することにより土壌を所定の粒径毎に分離し、重金属が多く含有される細かい土粒子を廃棄し、粗い土粒子は洗浄して汚染物を除去し、埋め戻すことにより再利用し、汚染土壌の量を減容化する工法である。この工法では、重金属が多く含有される細かい土粒子が少ないほど効果的な浄化工法となる。
【0005】
土壌洗浄工法は、重金属汚染土壌を洗浄、分級する工程と土壌を洗浄した水や土壌の脱水後の重金属を含んだ水を浄化する排水処理工程からなるが、土粒子に付着した汚染物質を水で洗浄するためや、例えば0.075mmなどの小さい粒径の土砂まで分級するために大量の水を必要とし、そのために重金属を含んだ大量の水が生じる。土壌洗浄工法では一般的にこの水を浄化して再利用するが、浄化するためには、pHの調整や重金属の種類に応じた薬剤やキレート材が必要となる。したがって、洗浄、分級の設備の他に洗浄水の浄化にともなう処理のための設備が非常に大掛かりとなり、かつ薬剤、キレート材といった材料費のコストがかかり、浄化の単価が高くなる。特に、重金属が多く含有されやすい土粒子が多いほど廃棄する土壌が多くなり、廃棄するためのコストも大きくなる。わが国では火山灰土のような細かい土粒子が堆積している地域が多く、実用性に乏しいという問題があった。
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の目的は、上記の問題点を解決することにあり、特に、分級および排水処理を効率化し、さらに従来法では廃棄していた土粒子に対してもその浄化が可能な重金属汚染土壌の浄化方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、例えば、海水中に溶在するウラン資源を採取するための吸着材として知られていた基材(例:ポリエチレン不織布)に放射性グラフト重合法で結合されたポリマー鎖(例:ポリアクリロニトリル鎖、ポリアクリロニトリルーメタクリル鎖)の部分をアミドキシム化してなる吸着材[「日本海水学会誌」53,p.180―184(1999年)参照]が、水性媒体中のカドミウム等の金属を迅速かつ効果的に吸着し、しかもその吸着金属を希酸での洗浄によって容易に脱離、解放するという知見に基づいている。
【0008】
したがって、本発明は、重金属汚染土壌と水性媒体とを混合して得られたスラリー状混合物を放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材に接触させて、重金属汚染土壌から溶離した有害金属を上記捕集材に吸着させ;スラリー状混合物を脱水して土壌と水性媒体を分別し;上記捕集材によって吸着された重金属を希酸で溶離することで回収し、;他方、上記分別された浄化土壌を系外へ取り出す;諸工程を含む重金属汚染土壌から重金属を除去する方法を提供する。
【0009】
本発明方法において、重金属汚染土壌から重金属の溶出を促進するために水性媒体として塩酸や有機酸水溶液といった酸を含む溶液を用いても良い。
【0010】
本発明方法において、重金属汚染土壌と水性媒体および繊維状重金属捕集材を同時に混合する方法では、重金属汚染土壌から水性媒体に溶離した重金属を放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材が迅速に吸着するため、汚染土壌から水性媒体に溶出する重金属濃度が低く保たれるため、溶出する効率が良い。
【0011】
本発明方法における、重金属と水性媒体の混合および放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材の接触操作においては、重金属汚染土壌が環境省告示第19号に準じて行った土壌含有量試験にしたがって測定される重金属汚染土壌の含有量が、土壌汚染対策法で定められた含有量基準以下になるまで低減される時間にわたり実施する。
【0012】
本発明方法において放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材は、放射線グラフト重合法により繊維基材に重合性モノマー(アクリル酸、アクリロニトリル、グリシジルメタクリレート等)をグラフト側鎖として導入し、その側鎖に重金属の種類に応じたキレート形成基及びイオン交換基を導入して得られたものである。キレート形成基及びイオン交換基としては、イミノジ酢酸、ジメチルアミン、トリメチルアミン、エタノールアミン、ジエタノールアミン、トリエタノールアミン、エタノールジアミン、アミドキシム、ホスホン、スルホン、カルボキシル等の重金属イオン吸着性官能基を単独または組み合わせて導入したものが挙げられる。
【0013】
本発明方法で、放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材は重金属と水性媒体の混合後に回収し、重金属捕集剤に吸着した重金属の溶離を希酸例えば希塩酸で洗浄することより再生することができる。
【発明の効果】
【0014】
本発明によれば、重金属で汚染された土壌をより効率的に浄化することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0015】
本発明により、所定の粒径より小さい汚染土壌はそれ以下の粒径に分級する必要はなく、かつ放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材により土壌の浄化と洗浄後の水性媒体の浄化が行えるので、分級および排水処理を効率化できる。また従来の土壌洗浄工法では廃棄していた細粒土も浄化できるため、埋め戻し材料として有効利用ができ、コストダウンが可能となる。
【0016】
図1に従来の土壌洗浄工法の一例を、図2に本発明方法の一例を示す。図1の浄化法では、例えば粒径40mm以上といった大塊およびガラを取り除いた汚染土壌に加水して洗浄装置1で洗浄し、選別装置Aにより選別して粒径Aより大きい清浄土を得る。ついで粒径Aより小さい粒径Bで分級し、粒径Bより大きい清浄土を得る。選別装置Bを通過した重金属が濃縮した土砂は脱水装置により重金属が濃縮した汚染土と重金属を含む汚染水に分けられ、重金属濃縮汚染土は廃棄物として処理し、汚染水は水処理をして再利用する。この方法は一例であり、洗浄の工程や分級に採用する粒径やその方法は種々のものがあるが、一般には最終の選別の粒径は0.075mmのシルト分に相当する場合が多く、このような細かい粒径からなる土壌は重金属が濃縮して多く含まれるため、汚染土として廃棄する。したがって、廃棄土を少なくするには、精密な分級が必要であり、洗浄・分級装置が増加する。また重金属を含んだ洗浄水は一般には、重金属に応じてpHの調整や重金属の種類に応じた薬剤、キレート材や各反応槽、処理槽が必要となり、設備が非常に大掛かりとなる。
【0017】
図2に本発明例の一例を示す。まず、例えば40mm以上といった大塊およびガラを取り除く。次に回収が可能なグラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材が装填された抽出洗浄・分級装置Cに、水性媒体を加えて重金属汚染土壌と水性媒体のスラリー状混合物に前記重金属捕集材を接触させながら、粒径Cによる選別を行って、粒径Cより大きい清浄土を得る。粒径Cより小さい土砂については、脱水を行って清浄土を得る。重金属が吸着した前記重金属捕集材は回収後に希塩酸で洗浄し、再利用する。なおこれらの清浄土は、水性媒体として酸溶液を用いる場合、土壌のpHが低いため、重金属が溶出しやすいケースも考えられるが、この場合には清浄水によるすすぎ洗いを行うか、少量の生石灰を混合し、土砂の乾燥を促進するとともにpHを中性域まで上昇させ、重金属の溶出を防ぐ方法も考えられる。
【0018】
本発明においては、従来の土壌洗浄法のように廃棄土を少なくするために精密な分級を行う必要がないため、洗浄・分級に要する装置が簡素化される。さらに従来技術では廃棄していた細かい粒径の土壌も洗浄でき、洗浄後の粗い粒径の土壌と混合して利用することにより良質な埋め戻し土として再利用が可能となり、廃棄物の減少になるとともにコストダウンが可能となる。また重金属汚染土壌および水性媒体からなるスラリーと上記重金属捕集材を接触させることにより、土壌と水性媒体の双方の浄化が可能となるので、水性媒体の浄化に必要な設備がコンパクト化され、よりコストダウンが可能となる。
【実施例1】
【0019】
重金属捕集材は、市販の土木用脱水シート(繊維径40μmのポリプロピレン製不織布)に、放射線グラフト重合法を用いてアクリロニトリルをグラフトし、ヒドロキシルアミンを反応させて3.5mmol/gのアミドキシム基を導入して作製した。このアミドキシム型キレート樹脂を2.5%の水酸化カリウム水溶液中に入れ、80℃で1時間アルカリ処理した。アルカリ処理後に洗浄液が中性になるまで水洗いし、重金属を吸着する捕集材を得た。
【0020】
カドミウムと鉛をそれぞれ200mg/kg含有する粒径2mm以下の粗砂20gに水性媒体50gおよび1辺1cmの正方形の形状とした上記捕集材1.2gを加えて振とう機で1時間振とうした。水性媒体は1モルのリンゴ酸と1モルの水酸化ナトリウムを1:1で混合した溶液を用いた。この混合溶液のpHは3.9であった。上記捕集材に吸着したカドミウムと鉛は1モル硝酸を用いて溶離した。
【0021】
表―1に振とう後の土壌のカドミウムと鉛含有量、上記捕集材に吸着したカドミウム、鉛吸着量、水性媒体に溶離したカドミウム、鉛濃度を示す。なお、表中の値は土壌1kg当たりの重金属量の絶対値で表す。
【表1】

【0022】
処理前のカドミウムおよび鉛含有量は200mg/kgと土壌含有量基準である150mg/kgを超えていたが、水性媒体と混合することによりカドミウムが40mg/kg、鉛が60mg/kgに低減され、土壌含有量基準150mg/kg以下に低減した。また上記重金属捕集材により吸着したカドミウムは153mg/kg、鉛は110mg/kgを吸着した。上記捕集材の吸着量はカドミウムで約77%、鉛では55%と高い吸着率を示し、水性媒体の濃度もカドミウムは12mg/kg、鉛は13mg/kgと低い値を示す。その結果、水性媒体も毎回洗浄する必要はなく、装置のコンパクト化およびコストダウンにつながる。
【実施例2】
【0023】
カドミウムと鉛をそれぞれ333、367mg/kg含有する粒径0.075mm以下の粘性土20gに水性媒体50gおよび1辺1cmの正方形の形状とした上記捕集材1.2gを加えて振とう機で1時間振とうした。水性媒体は1モルのリンゴ酸と1モルの水酸化ナトリウムを1:1で混合した溶液を用いた。浸透後の土壌の含有量はカドミウムが47mg/kg、鉛が133mg/kgに低減し、0.075mm以下の細粒土でもカドミウム、鉛は、土壌環境基準以下に低減し、有効利用が可能となる。
【実施例3】
【0024】
繊維径25μmのポリエチレン製長繊維を脱酸素容器に入れ、コバルト-60γ線を10kGy照射し、脱酸素したグリシジルメタクリレート(GMA)の含浸グラフト重合を行った。GMAグラフト繊維のグリシジル基にイミノジ酢酸を反応させて4.0mmol/gのイミノジ酢酸基と親水性水酸基を導入した。イミノジ酢酸基を導入したポリエチレン長繊維1.5gを1辺1cm正三角形のサランネット製テトラパックに充填した捕集材容器を鉛、亜鉛、ニッケルをそれぞれ200mg/kg含有する粒径0.075mm以下の粘性土20gに水性媒体50gとともに加えて振とう機で1時間振とうした。水性媒体は1モルのリンゴ酸と1モルの水酸化ナトリウムを1:1で混合した溶液を用いた。浸透後の土壌の含有量は鉛が30mg/kg、亜鉛が33mg/kgにニッケルが35mg/kgに低減し、0.075mm以下の細粒土でも重金属は土壌環境基準以下に低減し、効率的な重金属の除去効果が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】従来の土壌洗浄法の一実施例を示す図である。
【図2】本発明の土壌洗浄法の一実施例を示す図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
重金属汚染土壌と水性媒体とを混合して得られたスラリー状混合物を放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材に接触させて、重金属汚染土壌から溶離した重金属を上記捕集材に吸着させ;スラリー状混合物を土壌と水性媒体に分別し;上記捕集材によって吸着された重金属を希酸で溶離することで回収し、;他方、上記分別された浄化土壌を系外へ取り出す;諸工程を含む重金属汚染土壌から重金属を除去する方法。
【請求項2】
放射線グラフト重合法により作製した繊維状重金属捕集材は、有害金属の種類に応じたキレート形成基を繊維に導入した重金属捕集材である請求項1に記載の方法。
【請求項3】
吸着された重金属を希酸を用いて溶離することにより除去した後の繊維状重金属捕集材をアルカリで洗浄、中和して、再生し、次いで重金属吸着のために再使用する請求項1に記載の方法。
【請求項4】
重金属捕集材がスラリー状混合物と分離可能な形状をもつ請求項1ないし3に記載の方法。
【請求項5】
重金属溶離用の希酸として塩酸、硝酸、燐酸などの鉱酸を単独又は混合物で用いる請求項1ないし4のいずれかに記載の方法。
【請求項6】
重金属分離後の清浄土壌に塩基性土壌及び/又は生石灰を添加して、中和する工程を含む請求項1ないし5のいずれかに記載の方法。
【請求項7】
重金属汚染土壌と混合する水性媒体が無機酸あるいは有機酸水溶液の単独又は混合物である請求項1ないし6のいずれかに記載の方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2006−255515(P2006−255515A)
【公開日】平成18年9月28日(2006.9.28)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−72981(P2005−72981)
【出願日】平成17年3月15日(2005.3.15)
【出願人】(590002482)株式会社NIPPOコーポレーション (130)
【出願人】(502017364)株式会社 環境浄化研究所 (4)
【Fターム(参考)】