説明

野生型及び変異型MT−SP1による、VEGF及びVEGF受容体の切断

【課題】血管新生に関与することが知られているVEGF、又はVEGF受容体を切断する野生型、及び変異型の膜型セリンプロテアーゼ−1(MT−SP1)ポリペプチドを提供する。
【解決手段】切断する標的分子に対する特異性が改変され、VEGF又はVEGFRにおける一定の基質配列を切断することができる、変異型MT−SP1プロテアーゼ、及び、前記プロテアーゼを使用した、癌等の血管新生に関連する病態を治療する方法。

【発明の詳細な説明】
【発明の背景】
【0001】
血管新生のプロセスは、悪性腫瘍、糖尿病性網膜症及び黄斑変性を含む病態の中心をなすものである。癌が血管新生依存性であることは、腫瘍増殖の著しい阻害を、腫瘍の直接的な治療ではなく、内皮成長因子の血管内皮成長因子(VEGF)の選択的阻害によって実現することができる実験によって近年支持されている。VEGFは、胚形成期及び成人期に通常生成される内皮細胞特異的マイトジェンである。VEGFは、腫瘍成長を含む種々の正常及び病的プロセスにおける血管新生の重要なメディエーターとして機能する。腫瘍の血管新生は、腫瘍が転移する可能性がある段階への腫瘍の進行の主要なプロセスである。3個の高親和性同族VEGF受容体(VEGFR):VEGFR−1/Flt−1、VEGFR−2/KDR、及びVEGFR−3/Flt−4が同定されている。
【0002】
VEGFRは、血管の成長中にシグナル分子として機能する細胞表面受容体チロシンキナーゼである。前臨床試験では、VEGFを標的とする抗血管新生剤が極めて多様な腫瘍型(固形組織及び造血組織)の強力かつ広範囲の阻害剤となることが一般的に観察されているが、これは、癌が、由来組織に関わりなく広範囲で血管新生に依存していることと合致する。可溶性Flk1及びFlt1を発現するアデノウイルスの単回静脈内注射を肝臓に行い、高い血漿レベルを発現させ、内皮細胞上の元の受容体からVEGFを隔離する。これらの循環VEGF受容体は、角膜マイクロポケットアッセイにおいて血管新生の全身性阻害をもたらし、重要なことに、皮下、正所性、トランスジェニックモデルで確立された肺、前立腺、大腸、脳及び膵臓腫瘍において腫瘍血管新生及び腫瘍増殖の強力かつ広範囲の阻害をもたらす。例えば、Kuo et al.2001 PNAS98:4605〜10を参照のこと。近年、抗血管新生療法の有効性が、転移性大腸癌を有する患者を治療するために抗VEGFモノクローナルAVASTIN(商標)(Genentech)を使用する、無作為第III相試験において実証されているが、このことは、ヒト腫瘍形成におけるこの治療戦略の理論的根拠となる。
【発明の概要】
【0003】
自然界は、特異性、阻害及び加水分解が生理的環境に完全に適合するように、ヒトゲノムにおける数百のプロテアーゼを精緻に設計している。いくつかのプロテアーゼは癌において減少することが示されているが、今日まで、腫瘍形成から身体を防御する際に機能する天然プロテアーゼは知られていない。しかしながら、癌増殖に必要なタンパク質を加水分解するようにプログラムされたプロテアーゼの、明瞭な適用例が存在する。本発明は、構造に基づくタンパク質工学技術、及びポジショナルスキャニング合成コンビナトリアルライブラリー(PSSCL)アッセイを組み合わせて、広範囲の領域のVEGF−R2ストークに全体的に適合する、特異性を有する新規なセリンプロテアーゼを提供する。PSSCLプロファイリングは、設計された各プロテアーゼの完全な基質特異性プロファイル又は「フィンガープリント」を単一のアッセイで作り出す独自の技術である。現在、この技術を用いて、標的基質に対する高い特異性を有し、野生型基質に対する活性をほとんど又は全く有しない、治療上有用なプロテアーゼを同定することが可能である。設計過程では、改変された特異性プロファイルを有する数百のプロテアーゼが生じる。この技術は、特異性の構造上の特徴を調べる、従来にない機会を提供する。PSSCLを用いてプロテアーゼをスクリーニングすることによって、セリンプロテアーゼの選択性及び触媒効率の決定因子を確認することができる。それらは、セリンプロテアーゼの機能に関する基本原則だけでなく、治療上有用な分子を設計するための他の情報を見出す機会も提供する。
【0004】
本発明は、疾患に関与することが知られているタンパク質を切断するプロテアーゼを使用するための、組成物及び方法を提供する。特に、血管新生に関与することが知られているVEGF又はVEGF受容体を切断する野生型及び変異型の膜型セリンプロテアーゼ−1(MT−SP1)ポリペプチドを提供する。癌及び他の血管新生関連病態(黄斑変性、炎症及び糖尿病を含む。これらに限定されない。)のin vivo治療用の薬剤として使用する合成修飾型タンパク質を提供する。
【0005】
本発明はまた、修飾型プロテアーゼがVEGF又はVEGF受容体タンパク質を特異的に切断するように基質配列特異性を改変する、プロテアーゼの修飾方法を提供する。標的VEGF又はVEGFRの切断が広範囲の癌の治療に供され、そのような治療は連続的な腫瘍増殖に必要な血管新生の減少又は阻害をもたらす。本発明の一実施形態では、この修飾型プロテアーゼはセリンプロテアーゼである。本発明の他の実施形態では、この修飾型プロテアーゼは変異型MT−SP1である。
【0006】
本発明の一実施形態は、プロテアーゼ配列のライブラリーを作製し、これを、所望の基質配列でVEGF又はVEGFRを切断する修飾型プロテアーゼのスクリーニングに使用することを含む。この実施形態の一態様では、ライブラリーの各メンバーは、プロテアーゼライブラリーの異なる各メンバーに施された変異の少なくとも1つを有するプロテアーゼスキャフォールドである。プロテアーゼスキャフォールドの残部は、野生型MT−SP1プロテアーゼと同一又は類似の配列を有する。プロテアーゼライブラリーの各メンバーの切断活性は、VEGF又はVEGFR標的タンパク質に由来する所望の基質配列を使用して測定する。その結果、所望の基質配列に関して最大の切断活性を有するプロテアーゼが検出される。
【0007】
この実施形態の他の態様では、プロテアーゼスキャフォールドに施される変異の数は1、2〜5(例えば、2、3、4又は5)、5〜10(例えば、5、6、7、8、9又は10)、又は10〜20(例えば、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20)である。好ましい実施形態では、変異は基質特異性の増大を生じる。特定の実施形態では、変異は、スキャフォールドにおいて、S1、S2、S3及びS4部位の少なくとも1つの部位に位置する。この実施形態のいくつかの態様では、変異型プロテアーゼの活性は、野生型プロテアーゼの活性の少なくとも10倍、100倍、又は1000倍大きい。関連態様では、その増大は基質特異性の増大である。
【0008】
本発明の他の実施形態では、ライブラリーのメンバーは無作為のアミノ酸配列から構成されており、ライブラリーの各メンバーの、プロテアーゼによる切断活性を測定する。この型のライブラリーは、本明細書では基質ライブラリーと呼ぶ。プロテアーゼによって最も効率よく切断される基質配列が検出される。この実施形態の特定の態様では、基質ライブラリー中の基質配列は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸長である。
【0009】
本発明の他の実施形態では、基質ライブラリーのメンバーは無作為のアミノ酸配列から構成されており、ライブラリーの各メンバーの、プロテアーゼによる切断選択性を測定する。プロテアーゼによって最も選択的に切断される基質配列が検出される。この実施形態の特定の態様では、基質ライブラリー中の基質配列は、4、5、6、7、8、9、10、11、12、13、14、15、16、17、18、19又は20アミノ酸長である。
【0010】
この実施例の一実施形態では、何個の異なる基質配列を、プロテアーゼが所定の活性で切断するか、を観察することによって、特異性を測定する。所定の活性で少ない基質配列を切断するプロテアーゼは、多くの基質配列を切断するプロテアーゼより高い特異性を有する。
【0011】
この実施形態の一態様では、基質配列はVEGF又はVEGFR標的タンパク質の一部分である。特定の実施形態では、基質ライブラリーペプチドは、P1、P2、P3及びP4部位のVEGF又はVEGFR残基を含む。この実施形態の他の態様では、検出する基質配列の、本発明のMT−SP1変異体による切断効率は、野生型MT−SP1の切断活性の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、又は少なくとも1000倍大きい。この実施形態の他の態様では、基質配列を切断する際の本発明のMT−SP1変異体の配列特異性は、基質ライブラリーの他のメンバーに対する本発明のMT−SP1変異体の切断活性の少なくとも2倍、少なくとも5倍、少なくとも10倍、少なくとも100倍、又は少なくとも1000倍大きい。野生型及び変異型の標的特異性のプロファイリングは、PCT国際公開第01/94332号パンフレット(参照されることにより本明細書に組み込まれる。)に記載の方法に従って、ポジショナルスキャニング基質コンビナトリアルライブラリー(PSSCL)により行うことができる。
【0012】
他の実施形態では、本発明は、癌、黄斑変性、炎症、糖尿病等のVEGF又はVEGFR関連病態を有する患者を治療する方法を提供する。この方法は、VEGF又はVEGFRの切断が病態を治療するように、VEGF又はVEGFRタンパク質を切断するプロテアーゼを患者に投与することを含む。関連実施形態では、設計したプロテアーゼを投与することによる癌の治療は、少なくとも1の他の抗癌剤を用いる治療と組み合わせる。この実施形態の一態様では、プロテアーゼはMT−SP1変異体である。この実施形態の他の態様では、プロテアーゼは野生型MT−SP1である。
【0013】
病態を有する患者、例えば、本発明の方法によって治療される患者は、哺乳動物、特にヒトである。
【0014】
特に断らない限り、本明細書で使用する全ての技術用語及び科学用語は、本発明が属する分野の当業者によって一般的に理解されている意味と同じ意味を有する。本明細書に記載のものと類似又は均等の方法及び物質は、本発明を実施又は試験する際に使用することができるが、以下では、好適な方法及び物質を記載する。本明細書で言及する全ての刊行物、特許出願、特許、及び他の参照文献は、参照されることにより、そのまま本明細書に組み込まれる。衝突する場合は、本明細書(定義を含む。)によって調整される。更に、本明細書に記載の物質、方法及び実施例は単なる例示であり、本発明を制限するものではない。
【0015】
本発明の他の特徴及び利点は、以下の詳細な記載及び特許請求の範囲から明らかであろう。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】1カラム精製法によって精製した後、連続的な透析工程を通じてリフォールディングさせたMT−SP1、のバンドを示す、SDS−PAGEゲルの顕微鏡写真である。MT−SP1変異体は、細菌中で発現させ、封入体から精製した。各プロテアーゼは高い触媒活性を保持し、また、純度>99%であり、結晶学的研究に適している。
【図2A】野生型MT−SP1のPSSCLプロファイルを示すグラフである。MT−SP1のプロファイルは、特異性がやや広く、P4及びP3位において、Arg又はLys以外の種々のアミノ酸が受け入れられることを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2B】MT−SP1変異体 CB18のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2C】MT−SP1変異体 CB38のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2D】MT−SP1変異体 CB159のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2E】MT−SP1変異体 CB83のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2F】MT−SP1変異体 CB155のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2G】MT−SP1変異体 CB151のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図2H】MT−SP1変異体 CB152のPSSCLプロファイルを示すグラフであり、狭い特異性プロファイルを示している。活性は、各アミノ酸活性を、各サブライブラリー中の最良アミノ酸の活性で割ることによって、y軸に相対蛍光単位で表す。
【図3】VEGFR2−Fcが野生型及び変異型MT−SP1によって効率よく切断されることを示す、タンパク質ゲルの写真である。
【図4A】P1−Lys固定ライブラリー中のヒトMT−SP1の、P2におけるPSSCL基質特異性プロファイルを示すグラフである。各伸長位置に関するライブラリー形式はプロファイルの上方に列挙する。活性は、x軸上の各アミノ酸について、y軸にpM/秒で表す。
【図4B】P1−Lys固定ライブラリー中のヒトMT−SP1の、P3におけるPSSCL基質特異性プロファイルを示すグラフである。各伸長位置に関するライブラリー形式はプロファイルの上方に列挙する。活性は、x軸上の各アミノ酸について、y軸にpM/秒で表す。
【図4C】P1−Lys固定ライブラリー中のヒトMT−SP1の、P4におけるPSSCL基質特異性プロファイルを示すグラフである。各伸長位置に関するライブラリー形式はプロファイルの上方に列挙する。活性は、x軸上の各アミノ酸について、y軸にpM/秒で表す。
【図5】増加する種々のレベルの血清存在下の、トリプシン及びMT−SP1プロテアーゼの経時的活性を示すグラフである。
【図6】テトラペプチド合成基質Ac−RQAR−AMC及びAc−RRVR−AMCに対する、MT−SP1及び変異体CB18、CB38、CB83、CB151、CB152、CB155及びCB159の特異性定数を示すグラフである。変異体はx軸に、特異性定数はy軸に示す。
【図7A】濃度を増大させたMT−SP1及び変異体CB18、CB83及びCB152で処理した内皮細胞の増殖量を示すグラフである。
【図7B】MT−SP1、CB18及びCB83の存在下の、HUVEC細胞中におけるVEGFR2の切断を示す、ウエスタンブロットの写真である。
【図7C】MT−SP1、CB18及びCB83を用いて処理した際にHUVECにより放出された可溶性細胞外VEGFR2の量を示すグラフである。
【図8】マウスが許容可能な、MT−SP1、CB18及びCB152の最大用量を示すグラフである。
【図9】MT−SP1及びCB18の投与による血管新生の阻害の程度を示すグラフである。
【図10】マウスマイルスアッセイにおける、MT−SP1、CB18及びCB152による血管透過性の阻害を示すグラフである。
【図11】選択的な変異体CB152ではなく、野生型MT−SP1によるVEGFの切断を示す、タンパク質ゲルの写真である。
【発明の詳細な説明】
【0017】
セリンプロテアーゼは、適合性の高いタンパク質スキャフォールドを有する。これらのプロテアーゼの基質認識性は多様であり、「高度に特異的」から「完全に非特異的」まで広範囲に渡る。これらの特異性の違いにも関わらず、活性部位中に切断性ペプチドを正確に取り込む基質結合ポケットからなる触媒機構はよく保存されている。この大きなプロテアーゼファミリーの配列特異性は、触媒機構が依然よく保存されているメンバー間で多岐に渡る可能性がある。これは、基質特異性が、基質ペプチドと酵素との間の直接的局所的接触(第1領域の残基)によってだけでなく、広範囲の因子(第2領域の残基)によっても決定されることによる。第1領域及び第2領域の基質結合力は、主としてB−バレルドメイン間のループによって決定される。これらのループはタンパク質のコアの要素ではないので、フォールディングの完全性は維持され、他方、進化の過程では、必要な代謝又は制御環境が分子レベルで満たされるように、新規の基質特異性を有するループの変異体を選択することができる。
【0018】
研究室の実験は、セリンプロテアーゼが高度の適合性を有する酵素スキャフォールドであるという理論を支持する。例えば、サブチリシンは、酵素の基質特異性、熱安定性、pHプロファイル、触媒効率、酸化安定性及び触媒機能を含む、ほぼ全ての面で再設計されている。
【0019】
今日までに、構造誘導型合理的設計法を用いてプロテアーゼの基質特異性を改変する試みがいくつか存在している。有名な一例は、Wells及び同僚の研究室によるものである。Ballinger et al.,Biochemistry.1996 Oct 22;35(42);13579〜85を参照のこと。この参照文献の著者は、P1位の疎水性残基に対する特異性が低い酵素であるサブチリシンを使用して、基質結合ポケットに3点変異を導入することによって、三塩基残基に対する特異性を根本的に改変した。得られた変異体は、元の疎水性基質と比較して、三塩基基質に対して、1000倍を超える特異性を有していた。総じて、プロテアーゼの特異性の改変に関する研究は、基質特異性の根本的な改変が可能であることを示唆する。本発明は、標的特異性が改変された、セリンプロテアーゼMT−SP1の特定の変異体、及びそれらを使用して疾患を治療する方法を開示する。
【0020】
(用語の定義)
本発明を詳細に説明する前に、本明細書で使用するいくつかの用語を定義する。
【0021】
用語「対立遺伝子変異体」は、染色体上の同一遺伝子座を占める遺伝子の2個以上の代替形のいずれかを指す。対立遺伝子変異体は変異を通じて自然に生じるものであるが、集団内で表現型の多型を生じる可能性がある。遺伝子の変異体は、サイレント(コードするポリペプチドに変化なし)であっても、また、改変アミノ酸配列を有するポリペプチドをコードしていてもよい。本明細書では、用語「対立遺伝子変異体」は、遺伝子の対立遺伝子変異体によってコードされたタンパク質を指すためにも使用する。
【0022】
用語「ポリヌクレオチド分子の相補体」は、基準配列と比較して、相補的な塩基配列を有し、逆配向性のポリヌクレオチド分子を指す。例えば、配列5’ATGCACGG3’は5’CCGTGCAT3’と相補的である。
【0023】
用語「縮重ヌクレオチド配列」は、(ポリペプチドをコードする基準ポリヌクレオチド分子と比較して、)1つ又は複数の縮重コドンを含むヌクレオチドの配列を指す。縮重コドンは、ヌクレオチドの異なるトリプレットを含むが、同じアミノ酸残基をコードする(すなわち、GAU及びGACトリプレットは各々、Aspをコードする)。
【0024】
「DNAコンストラクト」は、天然で見られない形式で組み合わせて並列させたDNAのセグメントを含む、一本鎖又は二本鎖の線状又は環状DNA分子である。DNAコンストラクトは、人為的な操作の結果として存在するものであり、操作した分子のコピー(クローン等)を含む。
【0025】
「DNAセグメント」は、特定の属性を有するより大きなDNA分子の一部分である。例えば、特定のポリペプチドをコードするDNAセグメントは、5’から3’方向に読むと、当該ポリペプチドのアミノ酸の配列をコードしているより大きなDNA分子(プラスミド、プラスミド断片等)の一部分である。
【0026】
用語「発現ベクター」は、宿主細胞における転写を引き起こす他のセグメントと作動可能な形で連結した、ポリペプチドをコードするセグメントを含むDNAコンストラクトを指す。このような他のセグメントとしては、プロモーター及びターミネーター配列が挙げられ、場合により、1つ又は複数の複製起点、1つ又は複数の選択マーカー、エンハンサー、ポリアデニル化シグナル等が挙げられる。発現ベクターは、一般にプラスミド又はウイルスDNAに由来するが、両者の構成要素を含んでもよい。
【0027】
用語「単離した」は、ポリヌクレオチド分子に適用する場合、ポリヌクレオチドが生来の遺伝環境から除去され、他の異質な、又は望ましくないコード配列を含まず、遺伝子操作されたタンパク質の生成系内で使用するのに適した形であることを指す。このような単離分子は、生来の環境から分離された分子であり、cDNA及びゲノムクローン、並びに合成ポリヌクレオチドを含む。本発明の単離DNA分子は、元々存在する5’及び3’非翻訳領域(プロモーター、ターミネーター等)を含むことができる。付随領域を同定することは、当業者には容易であろう(例えば、Dynan及びTijan,Nature316:774〜78、1985を参照のこと)。用語「単離した」は、タンパク質に適用する場合、生来の環境以外の状態(例えば、血液及び動物組織とは別の環境)で、タンパク質が存在することを指す。好ましい形態では、単離タンパク質は、他のタンパク質、特に動物起源の他のタンパク質を実質的に含まない。タンパク質は、高純度に精製された形で、すなわち、少なくとも90%、好ましくは95%以上、より好ましくは99%以上の純度で提供されることが好ましい。
【0028】
用語「作動可能に連結した」は、DNAセグメントの場合、意図する目的のために協奏的に機能するように(例えば、転写がプロモーター中で始まり、コードセグメントを経由してターミネーターまで進行するように)、セグメントが配置されていることを指す。
【0029】
用語「オルソログ(ortholog)」は、1つの種から得られるポリペプチド又はタンパク質のうち、異なる種に由来のポリペプチド又はタンパク質に機能的に対応するものを指す。オルソログ間の配列の違いは、種分化の結果である。
【0030】
用語「ポリヌクレオチド」は、5’端から3’端に読まれるデオキシリボヌクレオチド又はリボヌクレオチド塩基の一本鎖又は二本鎖ポリマーを指す。ポリヌクレオチドはRNA及びDNAを含む。また、天然原料から単離したものでも、in vitroで合成したものでも、或いは天然分子及び合成分子を組み合わせて調製したものでもよい。ポリヌクレオチド分子の長さは、本明細書では、ヌクレオチド(「nt」と略す。)又は塩基対(「bp」と略す。)で表す。用語「ヌクレオチド」は、文脈上許容される限り、一本鎖分子及び二本鎖分子の両方について使用する。この用語を二本鎖分子に適用する場合、全体長を示すために用いられるが、用語「塩基対」と同等であることは理解されよう。二本鎖ポリヌクレオチドの2本の鎖の長さが若干異なる可能性があること、それらの末端が互い違いである可能性があること、それ故、二本鎖ポリヌクレオチド分子内の全てのヌクレオチドが対形成できるわけではないこと、は当業者によって理解されよう。このような非対末端は一般に、20nt長を超えない。
【0031】
用語「プロモーター」は、RNAポリメラーゼの結合、及び転写の開始を引き起こすDNA配列を含む遺伝子の一部分を指す。プロモーター配列は、一般に(常にではない)、遺伝子の5’非コード領域中に見られる。
【0032】
「プロテアーゼ」は、ペプチド、ポリペプチド及びタンパク質中のペプチド結合を切断する酵素である。「プロテアーゼ前駆体」又は「酵素原」は、一般に、他のプロテアーゼによる切断を受けて活性化する、比較的不活性な形態の酵素である。
【0033】
用語「分泌シグナル配列」は、より大きなポリペプチドの構成要素として、自身が合成される細胞の分泌経路に当該ポリペプチドを誘導するポリペプチド(「分泌ペプチド」)、をコードするDNA配列を指す。より大きなポリペプチドは一般に、分泌経路を移動中に切断されて、分泌ペプチドを除去する。
【0034】
用語「基質配列」は、プロテアーゼにより切断される配列を指す。
【0035】
用語「標的タンパク質」は、基質配列においてプロテアーゼにより切断されるタンパク質を指す。
【0036】
用語「スキャフォールド(scaffold)」は、種々の変異が施される野生型又は既存の変異型プロテアーゼを指す。一般にこれらの変異は、スキャフォールドの特異性及び活性を改変する。既存の変異型プロテアーゼの一例は、ある生物が属する種の野生型プロテアーゼのアミノ酸配列と比較して1つ又は複数の位置で変異している、当該生物中に存在するプロテアーゼである。
【0037】
「単離」又は「精製」ポリペプチド又はタンパク質、又は生物学的に活性なその一部分は、タンパク質が由来する細胞又は組織に由来する細胞物質又は他の混入タンパク質を実質的に含まない。或いは、化学的に合成される場合は、化学物質前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない。用語「細胞物質を実質的に含まない」は、タンパク質を単離し、又は組換えにより生成させる細胞の構成要素から当該タンパク質を分離する、タンパク質の調製を包含する。一実施形態では、用語「細胞物質を実質的に含まない」は、約30%(乾燥重量)未満の非プロテアーゼタンパク質(本明細書では「混入タンパク質」とも呼ぶ)、より好ましくは約20%未満の非プロテアーゼタンパク質、更に好ましくは約10%未満の非プロテアーゼタンパク質、最も好ましくは約5%未満の非プロテアーゼタンパク質、を有するプロテアーゼタンパク質の調製を包含する。プロテアーゼタンパク質又は生物学的に活性なその一部分が組換えにより生成される場合、それはまた、培養基を実質的に含まないことが好ましい。すなわち、培養基は、プロテアーゼタンパク質調製物の体積の約20%未満、より好ましくは約10%未満、最も好ましくは約5%未満である。
【0038】
用語「化学物質前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、タンパク質の合成に関与する化学物質前駆体又は他の化学物質から当該タンパク質を分離する、プロテアーゼタンパク質の調製を包含する。一実施形態では、用語「化学物質前駆体又は他の化学物質を実質的に含まない」は、約30%(乾燥重量)未満の化学物質前駆体又は他の化学物質、より好ましくは約20%未満の化学物質前駆体又は他の化学物質、更に好ましくは約10%未満の化学物質前駆体又は他の化学物質、最も好ましくは約5%未満の化学物質前駆体又は他の化学物質、を有するプロテアーゼタンパク質の調製を包含する。
【0039】
用語「選択性」又は「特異性」は、標的基質部位と、標的部位でない他の基質部位と、の切断効率を示す割合である。例えば、これに限定されないが、MT−SP1の場合、標的部位はRRVRであり、非標的部位はRQARである。
【0040】
用語「ペプチド」は、2〜40アミノ酸長のポリペプチドを指す。
【0041】
(治療標的セリンプロテアーゼの基質特異性)
治療剤によるヒトの疾患の治療は、大抵の場合、細胞プログラムに特定の改変を加えるために、小分子を使用し、又はインシュリン、EPO等のタンパク質を供給することを含む。開発中の重要な新たなクラスの治療剤は、疾患関連分子を標的化するような新たな基質特異性を有するように設計されたクラスのプロテアーゼである。現在、重要な細胞表面分子を攻撃するように特異性がプログラムされたプロテアーゼの三次元構造を決定する方法がいくつか開発されている。標的様ペプチドと複合体形成する設計型プロテアーゼに関する構造データは、特異性を決定する直接的相互作用及び第2殻側鎖相互作用を理解するための基盤を与える。三次元構造とプロテアーゼの活性及び特異性との相関関係は、学問的に興味深く、また、臨床的にも長期に渡って関心を集めてきた。本発明は、改変された特異性を有するプロテアーゼの活性における第2殻部位の改変の重要性を示し、更に、新規のMT−SP1変異体、及びそれらを使用して疾患を治療する方法を提供する。例えば、Perona、et al.,(1995)Biochemistry34(5):1489〜99を参照のこと。
【0042】
本発明は、癌等の疾患を維持するのに重要なタンパク質を標的化するようにプログラムされた疾患特異的プロテアーゼの使用方法、及びそれを設計及び試験する方法を提供する。これらのプロテアーゼは、例えば、腫瘍増殖を妨げて、腫瘍血管新生を阻害することによって、血管新生が原因的又は貢献的な役割を果たす、癌及び他の疾患(例えば、黄斑変性、炎症又は糖尿病。これらに限定されない。)を治療する重要な新たな手法を生み出す。
【0043】
本発明は更に、癌等の疾患を維持するのに重要なVEGF及びVEGFRを標的化するようにプログラムされた標的特異的プロテアーゼの使用方法、及びそれを設計及び試験する方法を提供する。これらのプロテアーゼは、例えば、腫瘍増殖を妨げて、腫瘍血管新生を阻害することによって、血管新生が原因的又は貢献的な役割を果たす、癌及び他の疾患(例えば、黄斑変性、炎症又は糖尿病。これらに限定されない。)を治療する重要な新たな手法を生み出す。
【0044】
本発明は更に、アポトーシスを調節するのに重要なタンパク質を標的化するようにプログラムされた血管新生特異的プロテアーゼの使用方法、及びそれを設計及び試験する方法を提供する。これらのプロテアーゼは、例えば、腫瘍増殖を妨げて、腫瘍血管新生を阻害することによって、血管新生が原因的又は貢献的な役割を果たす、癌及び他の疾患(例えば、黄斑変性、炎症又は糖尿病。これらに限定されない。)を治療する重要な新たな手法を生み出す。
【0045】
プロテアーゼの特異性決定因子に関する方法が提供されるが、それによって、癌若しくは炎症の維持、又は黄斑変性若しくは糖尿病の進行に重要なタンパク質を無力化するプロテアーゼの設計が可能となる。構造に基づく突然変異誘発及びスクリーニングの組合せを使用して、標的プロテアーゼを設計する。疾患関連タンパク質を攻撃する設計型標的プロテアーゼは、バイオテクノロジー産業における全く新たな部門を形成する。ヒトの疾患における新たな治療物質として選択的プロテアーゼを作製する方法も提供する。動物の疾患モデルにおけるコンセプト実験の開発及び証拠は、プロテアーゼの基質選択性、及びこのクラスの酵素の認識に関する理解をもたらし、ヒトの疾患を治療するための本発明のプロテアーゼの投薬及び投与に関する有用な情報を提供する。
【0046】
本開示は、プロテアーゼ療法剤、それらを生成する方法、及びそれらと共に用いる有用な試薬を提供する。これらの方法は、プロテアーゼを使用して、心臓血管疾患、炎症障害、癌等の、増加しつつある健康上の関心事に対処する。
【0047】
一実施形態では、本発明は、血管内皮成長因子受容体2(VEGF−R2)を標的化する、新規の、拡張した基質特異性を有するセリンプロテアーゼの三次元構造、活性及び特異性を特徴付ける。これらのプロテアーゼは、タンパク質工学技術を用いて開発し、独自の強力なプロテアーゼプロファイリング技術を用いて選択した。MT−SP1野生型プロテアーゼスキャフォールドから構築したものであり、癌の治療における新たな治療物質となる。
【0048】
血管内皮成長因子(VEGF)及びその受容体によるシグナルは、癌における病的血管新生及び腫瘍脈管構造の急速な発達に関与する。このシグナル経路を遮断する薬剤は、腫瘍血液供給の増大及び維持を妨げて、全身的な腫瘍の死を引き起こす。転移性大腸癌を有する患者における抗VEGF抗体AVASTIN(商標)の近年の成功により、VEGFが、癌の抗血管新生療法における標的となることが確認されている。これらの有望な結果にも関わらず、依然として、抗VEGF治療において腫瘍の進行が発生している。
【0049】
どのようにAVASTIN(商標)抗体がVEGFと結合し、VEGFとその受容体との結合を妨げるかの機構。ノックダウンの実験は、VEGF機能の阻害により、血管新生が阻害されることを示す。従って、VEGFR−2を介した血管新生シグナルの阻害は、新規の標的性を有する設計型プロテアーゼを開発する上で理想的な開発途上の治療分野である。
【0050】
VEGF/VEGFR−2複合体を特異的に切断し、そのシグナルを不活性化させるプロテアーゼを用いる治療は、血管新生シグナルを減弱させ、遊離VEGFレベルを低下させる一群の可溶性の受容体を生じる。変異型プロテアーゼは、VEGF受容体の重要な領域を認識するin vitro特異性を有する。この領域は、一実施形態では、6個を超えるアミノ酸領域、Flk−1/KDRストークである。その触媒性及び小さなサイズにより、設計型プロテアーゼは、競合標的結合タンパク質に優る利点を有する新たな治療剤となる。その利点は、優れた腫瘍浸透性、優れた標的浸潤性、高い有効性、及び恐らく低い用量にある。特に、それらのプロテアーゼは結合、加水分解及び放出を行うので、単一のプロテアーゼであっても、数百〜数千の基質VEGF受容体を切断して不活性化させ、相当程度の治療効果の増幅をもたらす。更に、野生型MT−SP1もVEGFRを切断するが、これを本発明に従って使用しても、VEGFRが切断される。
【0051】
(VEGF−R2及び血管新生の病態)
血管内皮成長因子(VEGF)は、特異的細胞表面受容体(VEGFR)と結合し、それを介してシグナル伝達を行い、血管新生を制御するサイトカインである。血管新生は、新しい血管が既存の脈管構造から生じるプロセスである。病的血管新生は、疾患に伴う増大した血管新生のことであり、固形腫瘍の増殖[McMahon,Oncologist.2000;5 Suppl 1:3〜10]、黄斑変性、糖尿病等の事象を含む。癌において、固形腫瘍は、増殖及び転移のために、絶えず増大する血液供給を必要とする。低酸素血症又は腫瘍形成突然変異は、腫瘍及び周囲の間質細胞中のVEGF及びVEGFRのmRNAのレベルを増大させ、既存の血管の伸長、及び新しい血管網の形成を引き起こす。湿潤型黄斑変性では、異常な血管が黄斑の下に増殖形成される。これらの血管は、黄斑に血液及び体液を漏出し、光受容体細胞を損傷する。糖尿病では、眼への血液の欠如が失明を引き起こす可能性もある。眼の周辺の毛細血管の増殖がVEGFで刺激されると、正確に機能しない異常な血管が生じる。
【0052】
VEGFの3つのチロシンキナーゼファミリーの受容体が同定されている(VEGF−R−1/Flt−1、VEGF−R−2/Flk−1/KDR、VEGF−R−3/Flt−4)。KDR(マウス相同体はFlk−1である。)は、内皮細胞でのみ発現される、400〜800pMのKを有するVEGFの高親和性受容体である[Waltenberger,J Biol Chem.1994 Oct 28;269(43):26988〜95]。VEGF及びKDRの関係は、病的血管新生に必要な重要な内皮細胞特異的シグナル経路として同定されている[Kim,Nature.1993 Apr 29;362(6423):841〜4;Millauer,Nature.1994 Feb 10;367(6463):576〜9;Yoshiji,Hepatology.1999 Nov;30(5):1179〜86]。リガンド結合による受容体の二量体化は、細胞質ドメインの自己リン酸化、並びに、細胞質を経由して核内にシグナルを伝達して、細胞増殖プログラムを改変する結合パートナーの動因を引き起こす。可溶性VEGF−R2を用いた腫瘍の治療は腫瘍増殖を阻害し[Lin,Cell Growth Differ.1998 Jan;9(1):49〜58]、リン酸化の化学的阻害は腫瘍細胞をアポトーシス状態にする[Shaheen,Cancer Res.1999 Nov 1;59(21):5412〜6]。
【0053】
VEGF受容体及びFlk−1/KDRを特異的に標的化する治療剤は、単独で、また、細胞毒性治療剤と組み合わせて[Klement,J Clin Invest.2000 Apr;105(8):R15〜24]、病的血管新生を阻害する。また、ヒト及びマウス固形腫瘍の多数のマウスモデルにおいて、腫瘍サイズの低下を示している[Prewett,Cancer Res.1999 Oct 15;59(20):5209〜18;Fong,Neoplasia.1999 Apr;1(1):31〜41.Erratum in:Neoplasia 1999 Jun;1(2):183]。小分子阻害剤及び抗体を用いた試験により、VEGF受容体ファミリーが強力な抗血管新生標的であることが確認されているが、依然として、より有効な治療剤が必要とされている。
【0054】
VEGFRは、7個の免疫グロブリン(Ig)様ドメインの細胞外領域、膜貫通領域、及び2個の細胞質チロシンキナーゼドメインから構成される。最初の3個のIg様ドメインは、リガンドの結合を制御することが示されている。他方、ドメイン4〜7は、リガンド不在下の正確な二量体化及びシグナル伝達の阻害に関与している。設計型プロテアーゼによる選択的タンパク質分解の標的として、下記の有望な標的特性を有する。
・タンパク質分解を受けやすいアミノ酸の不安定領域
・ヒト、ラット及びマウス種間の高い配列同一性
・切断時のシグナル伝達の下方制御
・リガンドと非生産的に結合可能な可溶性受容体のタンパク質分解による生成
【0055】
膜貫通領域前のストーク領域(stalk region)、及びIg様ドメイン間の非構造化ループを含む、VEGF−R2のいくつかの領域は、特異的タンパク質分解のために利用することができる。
【0056】
(MT−SP1プロテアーゼ)
本発明は、所定の基質配列の標的タンパク質を切断するMT−SP1プロテアーゼ、及び特定の変異体を生成させ、スクリーニングする方法、並びに、それらを使用して疾患を治療する方法を提供する。プロテアーゼは、標的タンパク質中のアミノ酸又はアミノ酸基質配列を認識するタンパク質分解酵素である。基質配列を認識することによって、プロテアーゼは標的タンパク質中のペプチド結合の加水分解又は切断を触媒する。標的タンパク質のこのような加水分解は、標的配列の完全長配列の状態で、ペプチド結合の位置に応じて、標的タンパク質を不活性化させることができる。MT−SP1プロテアーゼの特異性は、タンパク質工学によって改変することができる。1つ又は複数のタンパク質中の基質配列を認識するようにプロテアーゼを設計する場合、(i)それは、ペプチド結合の加水分解を触媒して、標的タンパク質を不活性化させることによって、その機能を改変し、また、(ii)標的タンパク質は、特定の1つ又は複数の疾患に関する分子介入地点となり、設計型プロテアーゼは、タンパク質分解媒介型不活性化を通じて治療効果を生じる。特に、MT−SP1プロテアーゼは、膜貫通ドメインとサイトカイン又は成長因子結合ドメインとの間の特定の標的受容体を切断するように設計することが可能である。それによって、タンパク質受容体と細胞の表面又はループ領域とを結合させるように働くストーク領域が、ポリペプチド鎖中の球状ドメインから分離される。
【0057】
一実施形態では、MT−SP1プロテアーゼによって切断される標的タンパク質はある病態に関与するが、ここで、所定の基質配列における標的タンパク質の切断は、その病態の治療として働く。
【0058】
プロテアーゼは、血管新生の調節を担う細胞表面分子を切断する。細胞表面分子が腫瘍血管新生におけるVEGFRシグナル分子である場合、切断は癌の広がりを妨げる。例えば、VEGFR分子由来の細胞表面ドメインの切断は、細胞外シグナル、特に細胞増殖シグナルを伝達する能力を不活性化させることができる。腫瘍に栄養を与える血管新生なしでは、癌細胞は増殖できないことが多い。従って、一実施形態では、本発明のMT−SP1プロテアーゼは、癌の治療に使用される。更に、VEGFRの切断を利用して、黄斑変性、炎症、糖尿病等の他の病態における血管新生を調節することができる。一実施形態では、細胞周期の進行に関与する標的VEGFRタンパク質の切断は、細胞周期を前進させることができる当該タンパク質の能力を不活性化させる。細胞周期の進行なしでは、癌細胞は増殖できない。従って、VEGF又はVEGFRを切断する本発明のMT−SP1プロテアーゼは、細胞周期依存性の病態(例えば癌)の治療に有用である。
【0059】
プロテアーゼは、腫瘍形成を担う可溶性タンパク質も切断する。VEGFの切断は、VEGF受容体を介したシグナル伝達を妨げ、血管新生を減少させ、その結果、血管新生が関与する疾患(癌、黄斑変性、炎症、糖尿病等)を減少させる。更に、VEGFシグナルは、いくつかの細胞型において細胞周期の調節を担う。従って、VEGFを切断する本発明のMT−SP1プロテアーゼは、細胞周期依存性の病態(例えば癌)の治療において有用である。
【0060】
いくつかの実施形態では、表1中の1つ又は複数の標的タンパク質を切断し、それによって、そのタンパク質の活動を不活性化させるように、設計型MT−SP1プロテアーゼを設計する。MT−SP1プロテアーゼを使用してタンパク質を不活性化させることにより、そのタンパク質に関連する病態を治療することができる。
【0061】
【表1】

【0062】
プロテアーゼスキャフォールドは、表2に開示するMT−SP1タンパク質である。
【0063】
【表2】

【0064】
配列番号1の野生型MT−SP1ポリペプチドを表3に示し、TADG−15として表す。
【0065】
【表3】

【0066】
TADG−15として表す配列番号1の野生型MT−SP1ポリペプチドと、配列番号2のMT−SP1プロテアーゼドメインと、を比較したClustalWアラインメントを表4に示す。突然変異誘発の標的であるMT−SP1プロテアーゼドメインの残基は太字で示す。MT−SP1プロテアーゼドメインは、前領域(pro−region)及び触媒ドメインから構成される。配列の触媒活性部分は、自己活性化部位(RQAR)の後で開始し、配列VVGGを有する。
【0067】
【表4−1】

【0068】
【表4−2】

【0069】
配列番号2の野生型MT−SP1プロテアーゼドメインと、ヒトキモトリプシンと、を比較したClustalWアラインメントを表5に示す。突然変異誘発の標的であるMT−SP1プロテアーゼドメインの残基は、キモトリプシンに従ってナンバリングする。
【0070】
【表5】

【0071】
pQEクローニングベクター内に含まれる、野生型MT−SP1プロテアーゼドメインの触媒ドメイン(配列番号2)をコードするDNA配列を表6に示す。
【0072】
【表6】

【0073】
(MT−SP1変異体の設計)
MT−SP1を含むほぼ全ての態様のプロテアーゼは、酵素基質の配列特異性、熱安定性、pHプロファイル、触媒効率、酸化安定性、及び触媒機能を含めて再設計することができる。
【0074】
野生型MT−SP1プロテアーゼは、基質特異性を改変する種々の変異を導入するためのスキャフォールドとして、本発明の方法に従って使用される。特に、セリンプロテアーゼの基質配列特異性の決定因子は、プロテアーゼがペプチド基質配列のP1〜P4残基と接触する、活性部位中のS1〜S4位に由来する。活性部位のS1〜S4ポケット間の相互作用が(たとえあるとしても)ほとんど存在しない場合もあり、その場合、各ポケットは、他のポケットと独立して、ペプチド基質配列上の対応する残基を認識し、これと結合する。従って、特異性の決定因子は、一般に、他のポケットの特異性に影響を与えずに、1ポケット中で変化する。
【0075】
例えば、特定の結合部位の残基又は特定の配列に対して低い特異性を有するMT−SP1プロテアーゼでは、基質配列の結合ポケットに点変異を施すことによって特異性を改変する。生成するMT−SP1変異体が、1つの部位又は特定の配列に対して、野生型の2倍以上増大した特異性を有する場合もある。他の実施形態では、生成する変異型MT−SP1は、1つの部位又は特定の配列に対して、野生型の5倍以上増大した特異性を有する。他の実施形態では、生成するMT−SP1変異体は、1つの部位又は特定の配列に対して、野生型の10倍以上増大した特異性を有する。他の実施形態では、生成するMT−SP1変異体は、1つの部位又は特定の配列に対して、野生型の100倍以上増大した特異性を有する。他の実施形態では、生成するMT−SP1変異体は、1つの部位又は特定の配列に対して、野生型の1000倍以上増大した特異性を有する。
【0076】
この例の一実施形態では、野生型プロテアーゼにおける数と比較して、いくつの異なる基質配列を、変異型プロテアーゼが所定の活性で切断するか、を観察することによって特異性を測定する。変異型プロテアーゼが野生型より少ない基質配列を切断する場合、変異型プロテアーゼは野生型より高い特異性を有する。野生型プロテアーゼより10倍高い特異性を有する変異体は、野生型プロテアーゼより10倍少ない基質配列を切断する。
【0077】
当分野で知られている方法、及び本明細書で詳細に説明する方法を用いて作製、スクリーニングされる、種々の変異を有するMT−SP1スキャフォールドのライブラリーも、本発明によって企図される。ライブラリーをスクリーニングして、メンバーの基質配列の特異性を確認する。MT−SP1スキャフォールドライブラリーの特異性の試験は、基質ペプチド配列にメンバーを曝すことによって行う。基質配列を切断することを可能にする変異を有するMT−SP1メンバーが確認される。十分に多様なスキャフォールドの変異を有するMT−SP1スキャフォールドライブラリーが構築され、その結果、種々の基質ペプチド配列が、MT−SP1スキャフォールドライブラリーの種々のメンバーによって切断される。従って、任意の標的タンパク質に特異的なプロテアーゼを生成することができる。
【0078】
変異によってMT−SP1スキャフォールドプロテアーゼの活性及び特異性に影響を与える、特定のプロテアーゼ残基をここに記載する。MT−SP1はセリンプロテアーゼである。セリンプロテアーゼは、キモトリプシンと同じファミリーのメンバーである。本発明の一実施形態では、改変された特異性を有するMT−SP1変異体を、構造に基づく設計手法によって生成させる。各プロテアーゼは、活性部位ポケット上に並び、基質と直接接触する一連のアミノ酸を有する。キモトリプシンファミリーの中では、基質・酵素間の骨格相互作用は完全に保存されているが、側鎖相互作用は大きく異なる。活性部位のS1〜S4ポケットを含むアミノ酸の同一性が、特定のポケットの基質特異性を決定する。1つのセリンプロテアーゼのアミノ酸を、同じフォールディングの他のアミノ酸と置換すれば、特異性は互いに相手方のものに改変される。セリンプロテアーゼのスキャフォールド残基は、キモトリプシン番号を用いて特定する。例えば、S2ポケット中の99位における、より小さなアミノ酸への変異は、P2基質位置中のより大きな疎水性残基に対する選好性を付与する。この選択的突然変異誘発のプロセス、及び基質ライブラリーのスクリーニングを順に用いて、種々の疾患に関与するタンパク質に対する新規の基質特異性を有するプロテアーゼを生成、同定することができる。
【0079】
S1〜S4ポケットを含むプロテアーゼのアミノ酸は、4〜5オングストロームの基質内に側鎖を有するアミノ酸である。これらのアミノ酸の、プロテアーゼ基質との相互作用は、基質と直接接触することから、一般に、「第1殻」相互作用と呼ばれる。第1殻アミノ酸を最終的な位置を決定する「第2殻」及び「第3殻」相互作用も存在する。本発明は、本発明の変異型プロテアーゼの特異性及び反応率を改変するための、第2及び第3殻相互作用を経るアミノ酸の変異も企図する。
【0080】
キモトリプシンファミリーのメンバーは、キモトリプシンと配列及び構造相同性を共有している。キモトリプシン番号に基づくと、活性部位残基はAsp102、His57、及びSer195である。線状アミノ酸配列は、キモトリプシンのアミノ酸配列と並べて、キモトリプシンのβシート構造に従ってナンバリングすることができる。βシート構造間のループ中で挿入及び欠失が生じるが、構造ファミリーにおいて、主要なシート構造は保存されている。セリンプロテアーゼは、保存されたβシート構造の様式で基質と相互作用する。保存された水素結合が、基質・酵素間に6個まで存在する可能性がある。キモトリプシンファミリーの全てのセリンプロテアーゼは、N末端に、触媒活性に必要な保存領域を有する。それは一般にIIGG、VVGG又はIVGG(それぞれ配列番号5、6及び7)である。このカルテット中の最初のアミノ酸をキモトリプシンのナンバリングに従ってナンバリングする場合、ILe16と呼ばれる。このナンバリングは、先行領域の長さを反映するものではない。また、一実施形態では、本明細書に記載の変異体は、ラットMT−SP1スキャフォールド上に存在する。他の実施形態では、本明細書に記載の変異体は、ヒトスキャフォールド上に存在する。本明細書に記載のキモトリプシンのナンバリング及び残基は、ラット及びヒトMT−SP1スキャフォールドに適用する。ヒト及びラット変異体は、本発明の発現系を使用して作製することができる。他種から単離又はクローニングしたMT−SP1スキャフォールドも、本発明に包含される。
【0081】
(MT−SP1構造の決定因子)
セリンプロテアーゼ基質認識部位を、Schecter及びBerger,Biochem.Biophys.Res.Commun.27(1967)157〜162の方法に従って標識する。標識番号は、切断性結合のN末端側基質アミノ酸に関してはP1、P2、...Pnと、切断性結合のN末端側基質アミノ酸に関してはP1’、P2’、...Pn’と増大する。酵素上の対応する基質認識ポケットは、Sn...S2、S1、S1’、S2’、...Sn’と標識する。従って、例えば、P2はS2と、P1はS1と、P1’はS1’と相互作用する。
【0082】
MT−SP1スキャフォールド中のアミノ酸は、セリンプロテアーゼキモトリプシンとのアラインメントに従ってナンバリングする。Blow,D.M.,(1976)Acc.Chem.Res.9,145〜152を参照のこと。
【0083】
セリンプロテアーゼに関しては、主要配列中の次のアミノ酸が特異性の決定因子である。195、102、57(触媒トリアード);189、190、191、192及び226(P1);57、58と64との間のループ、及び99(P2);192、217、218(P3)、Cys168とCys182との間のループ、215及び97〜100(P4)。セリンプロテアーゼの189位は、P1特異性を決定するポケットの底部に埋もれた残基である。改変された基質認識プロファイルを有する変異型プロテアーゼを作製するために、基質選択性に貢献する三次元構造中のアミノ酸(特異性の決定因子)を、突然変異誘発の標的とする。セリンプロテアーゼに関しては、ファミリーのメンバーの多数の構造が、拡張した基質特異性に貢献する表面残基を規定している(Wang et al.,Biochemistry2001 Aug28;40(34):10038〜46;Hopfner et al.,Structure Fold Des.1999 Aug15;7(8):989〜96;Friedrich et al.,J Biol Chem.2002 Jan18;277(3):2160〜8;Waugh et al.,Nat Struct Biol.2000 Sep;7(9):762〜5)。
【0084】
MT−SP1の構造決定因子を、キモトリプシンのナンバリングに従って表7に列挙する。Cys168−Cys182、及び60のループの欄見出しの下の数字は、2アミノ酸間のループ中のアミノ酸の数を示す。Cys191−Cys220の欄見出しの下のyes/no表示は、ジスルフィド結合がこのプロテアーゼに存在するかどうかを示す。これらの領域は、キモトリプシン様セリンプロテアーゼのファミリー内で多様であり、それら自体が構造決定因子となる。
【0085】
【表7】

【0086】
MT−SP1、キモトリプシン、トリプシン及びトロンビンのP1〜P4基質位置に関する、ポジショナルスキャニング合成コンビナトリアルライブラリー(PSSCL)の結果を表8に示す。表8では、「Hyd」は任意の疎水性アミノ酸(すなわちグリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファン)を表す。「Xxx」は任意のアミノ酸を表す。
【0087】
【表8】

【0088】
(変異型MT−SP1コンストラクト)
所定のサブサイト(S1〜S4)の、所定のアミノ酸に対する基質選好性を改変するために、結合ポケットの内側に位置する構造決定因子を個別に、又は組み合わせて変異させる。異なる各メンバーが、互いに異なる特異性、及び1つ又は複数の互いに異なる変異を有する、得られるプロテアーゼ変異体のセット、並びにコード配列及びそれを生成する発現ベクターは、本発明の重要な態様を構成する。本発明の一実施形態では、ポケットの内側に位置する残基を、20個の候補アミノ酸の各々に変異させる飽和突然変異誘発技術を用いる。Kunkleの方法(In:Current Protocols in Molecular Biology,Ausubel et al.(eds.)John Wiley and Sons,Inc.,Media Pa.)を用いて、これを実施することができる。簡潔には、所望のコドンで無作為化NNS又はNNKを含む突然変異誘発オリゴヌクレオチドプライマーを合成する。プライマーを一本鎖DNA鋳型にアニーリングさせ、DNAポリメラーゼを加えて、鋳型の相補系を合成する。連結後、二本鎖DNA鋳型を大腸菌に導入して増幅する。或いは、市販の標準的な部位特定的変異導入キット(QuikChange(Stratagene)等)を使用して、1アミノ酸置換を施す。他の一実施形態では、MT−SP1の部位特異的アミノ酸変異の方法として当分野で一般に知られている任意の方法を用いて、VEGF、VEGFR又は他の標的タンパク質を切断する変異体を同定するためにスクリーニングすることができる、本発明のMT−SP1変異体のセットを調製することができる。
【0089】
MT−SP1は、1個の膜貫通ドメイン、2個のCUBドメイン、4個のLDLR受容体、及びセリンプロテアーゼドメインを含むモザイクタンパク質である。MT−SP1のプロテアーゼドメインは、細菌又は酵母菌中にミリグラム量で発現させ、精製されている。ポジショナルスキャニング基質コンビナトリアルライブラリー(PSSCL)によるプロファイリングにより、MT−SP1がトリプシン様活性を有し、P1位の塩基性残基に対する強い選好性を示すことが明らかとなった。MT−SP1の拡張したP2〜P4特異性を表9に示す。
【0090】
【表9】

【0091】
このように、MT−SP1は特異性のスイッチを有するようであり、MT−SP1は、正に帯電した残基をP4位に、または、正に帯電した残基をP3位に受け入れる。MT−SP1のプロテアーゼドメインの結晶構造は解明されているが、それは、基質特異性プロファイルの構造上の根拠を提供するものである。
【0092】
抗血管新生療法用の、VEGFシグナルを減弱させるのに有用な新規の変異体を開発するために、MT−SP1ポリペプチドを、選択的にVEGF受容体2(KDR)を切断し、不活性化させるように設計する。野生型MT−SP1のプロテアーゼドメイン(本明細書ではMT−SP1と呼ぶ。)及びその変異体をクローニングし、発現させ、精製し、PSSCLによってプロファイリングする。PCT国際公開第01/94332号パンフレット(参照されることにより、そのまま本明細書に組み込まれる。)を参照のこと。次いで、野生型及び変異型MT−SP1を、後述の実施例に更に記載、例示のように、精製VEGF受容体の切断に関してアッセイする。
【0093】
精製VEGF受容体を切断することができるMT−SP1変異体を、VEGFシグナルに起因する細胞増殖の停止を引き起こす、内皮細胞上の受容体の切断に関してアッセイする。例えば、Yilmaz et al.,2003 Biochem.Biophys.Res.Commun.306(3):730〜736;Gerber et al.,1998 J Biol Chem.273(46):30336〜43を参照のこと。次いで、有望な変異体を、マウスマイクロポケット角膜アッセイ及び腫瘍異種移植片を用いて、動物の血管新生及び腫瘍増殖モデルにおいて試験する。例えば、Kuo et al.,PNAS,2001, 98:4605〜4610を参照のこと。
【0094】
QuikChange PCR(Stratagene)を用いて、製造者のプロトコールに従ってMT−SP1の変異体を作製した。得られた種々の変異型MT−SP1ポリペプチド(変異体)の非制限的な例を表10に示し、対応するCB番号を表11に示す。キモトリプシン番号を用いて同定したMT−SP1野生型残基は左欄に示し、MT−SP1の変異体は右欄に示す。Asp60b及びArg60cは、キモトリプシンに存在しないMTSP中の挿入部分の一部である。従って、このループ中の全残基は、キモトリプシンのナンバリングによる残基60に割り当てる。
【0095】
【表10】

【0096】
【表11】

【0097】
表11では、キモトリプシンのナンバリングを用いて変異体を同定する。従って、W215Yは、キモトリプシンのナンバリングに従うMT−SP1の215位のトリプトファンが、その位置でチロシンに置換されることを意味する。
【0098】
任意の所与の実施形態において、変異型MT−SP1ポリペプチド(「変異体」)は、ポリペプチド当たり1個の変異を含むことができ、また、ポリペプチド当たり2個以上の変異残基を任意の組合せで含むことができる。野生型残基の置換の例を表10に示す。例示的な一実施形態では、172位のLeu残基をAsp残基で置換し、変異体はL172Dとして表す。他の例示的な実施形態では、Asp60b残基をAla、Arg、Ile又はPheのいずれか1つで置換する。他の例示的な実施形態では、変異型MT−SP1はY146F、L172D、N175D及びD217Fの少なくとも1つを含み、場合により、2、3、4個以上のそのような残基置換を含む。
【0099】
(MT−SP1変異体の発現及び精製)
一実施形態では、活性形でプロテアーゼを発現させる。他の実施形態では、不活性、酵素原形でプロテアーゼを発現させる。一実施形態では、大腸菌、Pichia pastoris,S.cerevisiae、バキュロウイルス発現系等の異種発現系によって、プロテアーゼを発現させる。好ましい実施形態では、哺乳動物の細胞培養物発現系において、プロテアーゼを発現させる。哺乳動物の細胞培養物としては、ラット、マウス、又は、好ましくはヒト細胞に由来するものが挙げられる。タンパク質は細胞内環境で発現させることができ、また、培地中に排出(分泌)することができる。プロテアーゼは、in vitro発現系で発現させることもできる。
【0100】
変異型MT−SP1プロテアーゼを精製するために、カラムクロマトグラフィーを使用することができる。ニッケルカラムによる精製用の6−Hisタグを含むように、プロテアーゼを設計してもよい。プロテアーゼのpIに応じて、カチオン又はアニオン交換カラムをプロテアーゼの精製に使用することができる。免疫吸着法、ゲル濾過法、又は当分野で使用されている任意の他の精製法によって、精製を実施することもできる。プロテアーゼは、プロテアーゼ自体が分解しないようにその触媒活性を最小化する低pHバッファー中に保存することができる。これは実施例2に更に示す。
【0101】
(MT−SP1変異体を特徴付けするためのライブラリーの合成)
多くの方法を用いて、本発明のペプチド及びライブラリーを調製することができることを、当業者は理解しているであろう。適切な実施形態を実施例3に更に示す。
【0102】
(MT−SP1変異体の特異性の変化の測定)
本発明の方法を用いて生成するMT−SP1変異体中の必須アミノ酸は、当分野で知られている方法、例えば、活性部位残基の部位特定的変異導入若しくは飽和突然変異誘発、又は本明細書に開示する方法、に従って同定する。一方法では、特異性の重要な決定因子であることが示されているS1〜S4ポケットを形成する残基を、単独で、又は組み合わせて候補アミノ酸に変異させる。例えば、Legendre et al.,JMB(2000)296:87〜102を参照のこと。得られる変異体の基質特異性は、ACCポジショナルスキャニングライブラリーを使用して、また、1基質動態アッセイによって決定する。例えば、Harris et al.,PNAS,2000, 97:7754〜7759を参照のこと。
【0103】
既知の突然変異誘発法及びスクリーニング法、本明細書に開示する方法、又は当分野で既知の方法等を使用して、複数のアミノ酸置換を行い、試験する。例えば、Reidhaar−Olson及びSauer 1988 Science 241:53〜57又はBowie及びSauer 1989 Proc.Natl.Acad.Sci.USA 86:2152〜2156を参照のこと。簡潔には、これらの著者は、ポリペプチド中の2つ以上の位置を同時に無作為化し、機能性ポリペプチドを選択し、次いで、突然変異誘発ポリペプチドの塩基配列を決定して、各位置における可能な置換の範囲を決定する方法を開示している。使用可能な他の方法としては、ファージディスプレー系の方法(例えば、Legendre et al.,JMB、2000:296:87〜102;Lowman et al.,Biochem.30:10832〜10837, 1991;Ladner et al.,米国特許第5,223,409号;Huse,PCT国際公開第92/06204号パンフレット)、及び領域特異的変異導入(Derbyshire et al.,Gene 46:145, 1986;Ner et al.,DNA7:127, 1988)が挙げられる。
【0104】
前に開示した突然変異誘発法を高スループット、自動スクリーニング法と組み合わせて、宿主細胞中のクローニングされた突然変異誘発ポリペプチドの活性を検出することができる。タンパク質分解活性を有するタンパク質又はその前駆体をコードする突然変異誘発DNA分子を宿主細胞から回収し、最新機器を使用して迅速に塩基配列を決定する。これらの方法は、当該ポリペプチド中の個々のアミノ酸残基の重要性の迅速な決定を可能にし、未知の構造のポリペプチドに適用することができる。
【0105】
一実施形態では、当分野の文献に記載されているのと同様に、プロテアーゼファージディスプレーを使用して、特定の基質配列に対する多様な親和性に関して、本発明の変異型プロテアーゼのライブラリーをスクリーニングする。例えば、Legendre et al.,JMB,2000:296:87〜102及びCorey et al.,Gene,1993 Jun 15;128(1):129〜34を参照のこと。
【0106】
本発明は、酵素活性を有する本発明のプロテアーゼを検出し、定量化する方法も提供する。この方法は:(a)プロテアーゼの作用でペプチド基質配列から蛍光成分が放出され、それによって蛍光成分が得られるような方法で、サンプル及びプロテアーゼを接触させること、及び(b)サンプルにおいて、サンプル中の酵素活性を有するプロテアーゼの存在の指標である蛍光の検出可能な変化が生じるかどうかを観察することを含む。
【0107】
一実施形態では、これらの方法を用いて、VEGF又はVEGFR中の標的配列を特異的に切断するMT−SP1変異体、及び好ましくは酵素活性を有するプロテアーゼを選択する。他の実施形態では、これらの方法を用いて、MT−SP1変異体の配列特異性を決定する。MT−SP1変異体の特異性を決定するのに適した方法は、実施例3〜5に更に示す。
【0108】
実施例1〜5に示す方法を反復して、又は並行して行って、伸長した結合サブサイトP2、P3及びP4の各々において所望の特異性及び選択性を有する変異型プロテアーゼを作製することができる。セリンプロテアーゼの変異により、活性部位(S1〜S4)を形成する各サブサイトが互いに独立に機能し、1つのサブサイトにおける特異性の改変が隣接サブサイトの特異性にほとんど影響を及ぼさないことが明らかとなっている。従って、伸長した結合部位中の基質特異性及び選択性の設計は、段階的に実施することができる。
【0109】
次いで、基質ライブラリーによって決定される、所望の特異性プロファイルと一致する変異型プロテアーゼを、所望の切断配列に対応する個々のペプチド基質を使用してアッセイする。種々の変異型プロテアーゼをアッセイして、変異型プロテアーゼが、完全長タンパク質の状態で存在する場合に所望の配列を切断することも確認する。標的タンパク質の活性をアッセイして、その機能が切断事象によって損なわれていることも確認する。切断事象については、精製した完全長タンパク質と変異型プロテアーゼとをインキュベートした後、SDS−PAGEによって調べる。他の実施形態では、変異を組み合わせて複数のプロテアーゼの特異性を得る。1部位において特異性を生じる、スキャフォールドの1残基における変異を、スキャフォールド上の他の部位における他の変異と、同一プロテアーゼ内で組み合わせて、特異性組合せ型プロテアーゼを作製する。
【0110】
同じスキャフォールド上の別個の部位における任意の数の変異を用いて、特異性組合せ型プロテアーゼを作製することができる。一実施形態では、MT−SP1スキャフォールドは、配列番号1の野生型MT−SP1のアミノ酸配列と95%同一であるポリペプチドを含み、そのポリペプチドは171、174、180、215、192、218、99、57、189、190、226、146、172、175、41、58、59、60、61、62、63、97、98、100、102、151、169、170、171A、173、176、177、178、179、181、191、195、224又は217位の1つ又は複数の位置に少なくとも1つの変異を有する。ここで、位置のナンバリングは、キモトリプシン用のものである。
【0111】
これらの部位は以下のSポケットに属する。
S1’:146、151
S1:189、190、226、191、195
S2:99、41、57、58、59、60、61、62、63、97、98、100、102
S3:192、218、146
S4:171、174、179、180、215、99、172、175、97、98、169、170、171A、173、176、177、178、181、224、217
【0112】
他の例示的な実施形態では、変異は、172位における、ロイシンのアスパラギン酸への置換であるL172Dである。他の実施形態では、変異は、146位における、チロシンのフェニルアラニンへの置換であるY146Fである。他の実施形態では、変異は、175位における、アスパラギンのアスパラギン酸への置換であるN175Dである。他の実施形態では、変異は、217位における、アスパラギン酸のフェニルアラニンへの置換であるD217Fである。一実施形態では、少なくとも1つの残基が、配列番号1の野生型MT−SP1ポリペプチド配列と比較して置換されている。本明細書には他のMT−SP1変異体が示されるが、これは本発明を限定するものではない。
【0113】
切断及び不活性化の標的となるタンパク質は、以下の基準によって同定することができる。1)タンパク質が病態に関与する;2)タンパク質が病態の治療の重要な介入点である強力な証拠が存在する;3)タンパク質分解によるタンパク質の切断が、恐らくその機能を害する。これらの基準によって、VEGF及びVEGFRは、本発明のプロテアーゼ媒介療法の優れた標的となる。標的タンパク質内の切断部位は、以下の基準によって同定する。1)切断部位がタンパク質の露出表面に位置する;2)原子構造又は構造予測アルゴリズムにより測定して、切断部位が二次構造を欠く(すなわち、βシート又はαヘリックス中ではない)領域中に位置する(これらの領域はタンパク質の表面上のループ、又は細胞表面受容体上のストークである傾向がある);又は3)既知の機能に基づいてタンパク質を不活性化させると予測される部位に、切断部位が位置する。切断配列は、例えば、多くのセリンプロテアーゼの拡張した基質特異性と合致する4残基長であるが、それより長くても短くてもよい。
【0114】
本発明の一実施形態では、標的タンパク質支援型触媒を使用して、標的VEGF又はVEGFRタンパク質に特異的なプロテアーゼを作製する。プロテアーゼの基質配列結合部位中の1点変異は、プロテアーゼの特異性を改変し、プロテアーゼの基質配列特異性を変化させることができる。従って、1つ又はごく少数の変異を用いて、基質配列特異性を改変することができる。
【0115】
プロテアーゼスキャフォールド又はその対立遺伝子変異体とほぼ相同であり、野生型タンパク質、スキャフォールドのタンパク質分解活性を保持するが、それとは特異性が異なる種々のポリペプチドを、当業者は、前に開示した方法を用いて同定及び/又は調製することができる。一実施形態では、これらのポリペプチドは、MT−SP1のスキャフォールドアミノ酸配列をベースとする。場合により、このようなポリペプチドは、独立してフォールディングされた結合ドメインを形成する付加的なアミノ酸残基を含む標的部分を含むことができる。このようなドメインとしては、サイトカイン受容体の細胞外リガンド結合ドメイン(例えば、1つ又は複数のフィブロネクチン型IIIドメイン)、免疫グロブリンドメイン、DNA結合ドメイン(例えば、He et al.,Nature 378:92〜96, 1995を参照のこと)、親和性タグ等が挙げられる。このようなポリペプチドは、前に概略的に開示した他のポリペプチドセグメントを含むこともできる。
【0116】
(プロテアーゼポリペプチド)
本発明のプロテアーゼ変異体及びプロテアーゼライブラリーは、本明細書に記載の1つ又は複数のプロテアーゼのアミノ酸配列を有するポリペプチドを含む。本発明は、そのプロテアーゼ活性及び生理機能を依然として保持しながら、MT−SP1と比較して、MT−SP1の対応する残基と異なる残基を有する変異型プロテアーゼ、及びそれらの機能断片も提供する。好ましい実施形態では、本発明のMT−SP1変異体の変異は、本明細書で詳細に説明するプロテアーゼのS1〜S4領域内で起こる。
【0117】
一般に、プロテアーゼ様機能を保つプロテアーゼ変異体は、配列中の特定の位置の残基が他のアミノ酸によって置換されている任意の変異体を含み、野生型又は親のタンパク質配列に対して、親のタンパク質の2残基間に他の1つ又は複数の残基を挿入すること、及び親の配列から1つ又は複数の残基を欠失させることによって生成される変異体を更に含む。任意のアミノ酸置換、挿入又は欠失が、本発明の方法、変異体、及び変異体ライブラリーによって企図される。好ましい状況では、置換は、前述したのと同様の保存的置換である。
【0118】
本発明の一態様は、単離プロテアーゼ、及びその生物学的に活性な一部分、並びにその誘導体、断片、アナログ又は相同体に関する。抗プロテアーゼ抗体を産生するための免疫原として使用するのに適したポリペプチド断片も提供する。一実施形態では、組換えDNA技術によって本発明のプロテアーゼを生成する。組換え発現体の代替として、前述したのと同様の標準的なペプチド合成技術を用いて、プロテアーゼタンパク質又はポリペプチドを化学的に合成することができる。
【0119】
プロテアーゼタンパク質の生物学的に活性な一部分は、完全長プロテアーゼタンパク質のアミノ酸配列と相同的であるか、又はそれらに由来するが、完全長プロテアーゼタンパク質より少ないアミノ酸を有し、完全長プロテアーゼタンパク質の少なくとも1つの活性を示すアミノ酸配列を含むペプチドを含む。典型的には、生物学的に活性な一部分は、プロテアーゼタンパク質の少なくとも1つの活性を有するドメイン又はモチーフを含む。プロテアーゼタンパク質の生物学的に活性な一部分は、例えば、10、25、50、60、70、80、90、100、110、120、130、140、150、160、170、180、190、200、210、220、230、240、250、260、270、280、290、300以上のアミノ酸残基長のポリペプチドであり、アミノ酸長は1〜855の全整数のアミノ酸長に及ぶ。ここで、野生型完全長MT−SP1は855アミノ酸長(配列番号1)とみなされ、成熟状態は855アミノ酸長未満である。一般に、ポリペプチドの「断片」又は「一部分」は、完全長ポリペプチドより少なくとも1つ少ないアミノ酸残基を含む。1つ又は複数の欠失アミノ酸をN末端、C末端又は内側部分から除去することができる。
【0120】
更に、タンパク質の他の領域が欠失している、タンパク質の他の生物学的に活性な一部分は、組換え技術によって調製することができ、天然プロテアーゼの1つ又は複数の機能活性に関して評価することができる。
【0121】
一実施形態では、プロテアーゼは、MT−SP1のアミノ酸配列、又はMT−SP1スキャフォールドの変異体の1つを有する。従って、本明細書に記載のように、プロテアーゼタンパク質は、MT−SP1又はその変異体の1つと実質的に相同であり、MT−SP1の機能活性を保持するが、自然発生的な対立遺伝子変異又は突然変異誘発により、アミノ酸配列が異なり、特異性が異なる可能性がある。代表的なMT−SP1変異体を本明細書の表10及び11に開示する。
【0122】
2個以上の配列間の相同性の決定:
2個のアミノ酸配列又は2個の核酸の相同率を決定するために、配列を、それらの重なりが最適化されるようにアラインメントする(例えば、第2のアミノ酸又は核酸配列との最適アラインメントのために、第1のアミノ酸又は核酸配列の配列中にギャップを導入することができる)。次いで、対応するアミノ酸位置又はヌクレオチド位置のアミノ酸残基又はヌクレオチドを比較する。第1配列中の位置が第2配列中の対応する位置と同じアミノ酸残基又はヌクレオチドによって占められているとき、それらの分子はその位置において相同的である(すなわち、本明細書において、アミノ酸又は核酸の「相同性」は、アミノ酸又は核酸の「同一性」に等しい)。
【0123】
核酸又はアミノ酸配列の相同性は、2配列間の同一性の程度として決定することができる。GCGプログラムパッケージ中に含まれるGAPソフトウエア等の、当分野で知られているコンピュータプログラムを使用して、相同性を決定することができる。Needleman及びWunsch,1970,J Mol Biol 48:443〜453を参照のこと。核酸配列比較用の設定、すなわち、5.0のGAP作製ペナルティー及び0.3のGAP伸長ペナルティー、を用いるGCGGAPソフトウエアを使用すると、前述した類似の核酸配列のコード領域は、好ましくは少なくとも70%、75%、80%、85%、90%、95%、98%又は99%の同一性を示す。
【0124】
用語「配列同一性」は、2個のポリヌクレオチド又はポリペプチド配列が、特定の比較領域において、残基毎の単位で同一である程度を指す。用語「配列同一性のパーセント」は、その比較領域において最適にアラインメントされる2個の配列を比較し、2個の配列中の同一の核酸塩基(例えば、核酸の場合A、T、C、G、U、又はI)が存在する位置の数を決定して、一致する位置の数を得、その一致する位置の数を比較領域(すなわち、ウィンドウサイズ)中の位置の全数で割り、その結果に100を掛けることによって得られる。本明細書で使用する用語「実質的に同一」は、ポリヌクレオチド配列の特性を示し、ポリヌクレオチドは、比較領域における基準配列と比較して、少なくとも80パーセントの配列同一性、好ましくは少なくとも85パーセントの配列同一性、しばしば90〜95パーセントの配列同一性、より通常は少なくとも99パーセントの配列同一性、を有する配列を包含する。
【0125】
キメラ及び融合タンパク質:
本発明は、プロテアーゼキメラ又は融合タンパク質も提供する。本明細書で使用するプロテアーゼ「キメラタンパク質」又は「融合タンパク質」は、非プロテアーゼポリペプチドと作動可能に連結したプロテアーゼポリペプチドを含む。「プロテアーゼポリペプチド」は、本明細書に記載のMT−SP1等のスキャフォールドの1つ、又はMT−SP1スキャフォールドの変異体の1つに対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指し、他方、「非プロテアーゼポリペプチド」は、スキャフォールドの1つと実質的に相同ではないタンパク質、例えば、そのスキャフォールドと異なり、かつ、同種又は異種の生物に由来するタンパク質、に対応するアミノ酸配列を有するポリペプチドを指す。プロテアーゼ融合タンパク質内では、プロテアーゼポリペプチドは、親の、又はスキャフォールドプロテアーゼタンパク質全体又はその一部分に対応する可能性がある。一実施形態では、プロテアーゼ融合タンパク質は、プロテアーゼタンパク質の少なくとも1つの生物学的に活性な一部分を含む。他の実施形態では、プロテアーゼ融合タンパク質は、プロテアーゼタンパク質の少なくとも2つの生物学的に活性な一部分を含む。更に他の実施形態では、プロテアーゼ融合タンパク質は、プロテアーゼタンパク質の少なくとも3つの生物学的に活性な一部分を含む。融合タンパク質内では、用語「作動可能に連結した」は、プロテアーゼポリペプチド及び非プロテアーゼポリペプチドが互いにインフレームで融合することを示すことを指す。非プロテアーゼポリペプチドは、プロテアーゼポリペプチドのN末端又はC末端と融合させることができる。
【0126】
一実施形態では、融合タンパク質は、プロテアーゼ配列がGST(グルタチオンS−トランスフェラーゼ)配列のN末端と融合したGSTプロテアーゼ融合タンパク質である。このような融合タンパク質は、組換えプロテアーゼポリペプチドの精製を容易にすることができる。
【0127】
他の実施形態では、融合タンパク質は、プロテアーゼ配列が免疫グロブリンG由来のFcドメインのN末端と融合しているFc融合体である。このような融合タンパク質は、in vivoでより優れた薬力学的性質を有する可能性がある。
【0128】
他の実施形態では、融合タンパク質は、そのN末端に異種シグナル配列を含むプロテアーゼタンパク質である。いくつかの宿主細胞(例えば、哺乳動物宿主細胞)では、プロテアーゼの発現及び/又は分泌は、異種シグナル配列を使用することによって増大させることができる。
【0129】
本発明のプロテアーゼキメラ又は融合タンパク質は、標準的な組換えDNA技術によって生成することができる。例えば、異なるポリペプチド配列をコードするDNA断片は、従来の技術に従って、例えば、連結用の平滑末端又は交互末端の利用、適切な末端を与えるための制限酵素による消化、必要に応じた粘着末端の充填、望ましくない接合を避けるためのアルカリホスファターゼ処理、及び酵素による消化によって、インフレームで1つに連結させる。他の実施形態では、自動式DNA合成装置を含む従来の技術によって、融合遺伝子を合成することができる。或いは、遺伝子断片のPCR増幅をアンカープライマーを用いて行って、2つの連続した遺伝子断片間に相補的なオーバーハング(overhang)を生成させ、更に、これをアニーリング、再増幅して、キメラ遺伝子配列を作製することができる(例えば、Ausubel et al.(eds.)CURRENT PROTOCOLS IN MOLECULAR BIOLOGY,John Wiley & Sons,1992を参照のこと)。更に、融合部分(例えば、GSTポリペプチド)を既にコードしている多くの発現ベクターが市販されている。プロテアーゼコード核酸は、融合部分がプロテアーゼタンパク質とインフレームで連結するように、このような発現ベクターにクローニングすることができる。
【0130】
プロテアーゼアゴニスト及びアンタゴニスト:
本発明は更に、プロテアーゼアゴニスト(すなわち、模倣体)又はプロテアーゼアンタゴニストとして機能する、プロテアーゼタンパク質の変異体に関する。プロテアーゼタンパク質の変異体は、突然変異誘発(例えば、プロテアーゼタンパク質の離散的な点変異又は切断)によって生成させることができる。プロテアーゼタンパク質のアゴニストは、天然に存在する形のプロテアーゼタンパク質の生物学的活性とほぼ同じ活性、又はその一部を有する。例えば、アゴニストプロテアーゼは、タンパク質内の基質配列を切断することによって、標的タンパク質(例えば、細胞表面受容体)を活性化させる。プロテアーゼタンパク質のアンタゴニストは、例えば、プロテアーゼタンパク質と同じ標的タンパク質を切断することによって、天然に存在する形のプロテアーゼタンパク質の1つ又は複数の活性を阻害することができる。従って、限られた機能の変異体で処理することによって、特異的な生物学的効果を誘導することができる。一実施形態では、天然に存在する形のタンパク質の生物学的活性の一部を有する変異体を用いた個体の治療は、天然に存在する形のプロテアーゼタンパク質を用いた治療と比較して、個体における副作用が少ない。
【0131】
抗癌剤と組み合わせたプロテアーゼ療法:
血管内皮成長因子(VEGF)及びその受容体によるシグナルは、癌における病的血管新生及び腫瘍脈管構造の急速な発達に関与する。このシグナル経路を遮断する薬剤は腫瘍血液供給の増大及び維持を妨げ、全身的な腫瘍の死を引き起こす。転移性大腸癌を有する患者における抗VEGF抗体AVASTIN(商標)の近年の成功により、VEGFが、癌の抗血管新生療法における標的となることが確認されている。これらの有望な結果にも関わらず、依然として、腫瘍の進行が抗VEGF治療において発生している。VEGF機能に影響を与える抗体の機構、及び抗体がどのようにして腫瘍増殖を妨げるかの機構は知られていない。ノックダウンの実験は、VEGF機能を阻害すると、血管新生が阻害されることを示す。従って、VEGFR−2を介した血管新生シグナルの阻害は、新規の標的性を有する設計型プロテアーゼを開発する上で理想的な開発途上の治療分野である。
【0132】
その触媒性及び小さなサイズにより、設計型プロテアーゼは、競合標的結合タンパク質に優る利点を有する新たな治療剤となる見込みがある。予想される利点としては、優れた腫瘍浸透性、優れた標的浸潤性、高い有効性、及び恐らく低い用量が挙げられるが、これらに限られない。特に、それらのプロテアーゼは結合、加水分解及び放出を行うので、単一のプロテアーゼであっても、数百〜数千の基質VEGF受容体を切断して不活性化させ、相当程度の治療効果の増幅をもたらす。
【0133】
一実施形態では、単独で、又は少なくとも1つの抗癌剤と組み合わせて投与される、VEGF/VEGFR−2複合体のシグナルを特異的に切断し、不活性化させる治療有効量のプロテアーゼ、例えば、本明細書に記載のプロテアーゼMT−SP1又はMT−SP1変異体を、その必要のある個体に投与することを含む、癌等の病態の治療法を提供する。抗血管新生療法は、固形癌及び造血器悪性腫瘍の両方に対して有効であることが証明されている。例えば、Ribatti et al.,2003 J Hematother Stem Cell Res.12(1),11〜22を参照のこと。従って、抗血管新生療法剤として与えられる本発明の組成物は、造血器及び固形組織悪性腫瘍の両方の治療を容易にする。本発明において提供する組成物及び治療法は、単独で、又は当業者に知られている任意の他の適切な抗癌治療剤と組み合わせて投与することができる。例えば、本発明のMT−SP1及びMT−SP1変異体は、AVASTIN(商標)投与が治療利点をもたらす任意の療法において、AVASTIN(商標)と組み合わせて、又はAVASTIN(商標)に代えて投与することができる。
【0134】
一実施形態では、抗癌剤は少なくとも1つの化学療法剤である。関連実施形態では、プロテアーゼの投与は、少なくとも1つの放射線療法と組み合わせる。併用療法の実施は、血管新生シグナルを減弱させ、遊離VEGFレベルを低下させる一群の可溶性の受容体を生じる。特定の実施形態では、本発明の変異型MT−SP1プロテアーゼは、受容体の重要な領域、すなわち、6個を超えるアミノ酸領域、Flk−1/KDRストークに適合するin vitro特異性を有する。
【0135】
本発明のMT−SP1変異ポリペプチドは、2個以上の治療剤を含有する組成物の形で投与することができる。治療剤は、例えば、治療用放射性核種、薬剤、ホルモン、ホルモンアンタゴニスト、受容体アンタゴニスト、他の物質によって活性化される酵素又は酵素原、オートクリン、サイトカイン、又は当業者に知られている任意の適切な抗癌剤であってもよい。一実施形態では、MT−SP1又はMT−SP1変異体と同時投与する抗癌剤はAVASTIN(商標)である。本発明の方法では、毒素を使用することもできる。本発明において有用な他の治療剤には、抗DNA、抗RNA、放射標識オリゴヌクレオチド、アンチセンスオリゴヌクレオチド等、抗タンパク質及び抗クロマチン細胞毒性剤又は抗菌剤がある。他にも当業者に知られている治療剤があるが、本発明に従ったこのような治療剤の使用は特に企図されている。
【0136】
抗癌剤は、アルキル化剤、代謝拮抗剤、ホルモン剤、抗生物質、抗体、抗癌性生物物質、グリーベック、コルヒチン、ビンカアルカロイド、L−アスパラギナーゼ、プロカルバジン、ヒドロキシウレア、マイトタン、ニトロソウレア又はイミダゾールカルボキサミド等の多数の化学療法剤の1つであってもよい。適切な物質は、チューブリンの脱分極を助長するか、或いは腫瘍細胞増殖を妨げる物質である。本発明の範囲内であるとみなされる化学療法剤には、米国食品医薬品庁及び米国保健省によって編集された、Orange Book of Approved Drug Products With Therapeutic Equivalence Evaluationsに列挙された抗癌剤があるが、これらに限定されない。前述の化学療法剤以外に、本発明のMT−SP1プロテアーゼも、放射線療法剤と共に投与することができる。当分野で既知の他の治療剤は、本発明の範囲内であると企図される。
【0137】
治療剤は化学療法剤であってもよい。化学療法剤は当分野で既知であり、タキサン、ナイトロジェンマスタード、エチレンイミン誘導体、スルホン化アルキル、ニトロソウレア、トリアゼン;葉酸アナログ、ピリミジンアナログ、プリンアナログ、ビンカアルカロイド、抗生物質、酵素、プラチナ配位錯体、置換尿素、メチルヒドラジン誘導体、副腎皮質抑制物質、又はアンタゴニストを少なくとも含む。より詳細には化学療法剤は、ステロイド、プロゲスチン、エストロゲン、抗エストロゲン、又はアンドロゲンの非制限的な群より選択される1つ又は複数の物質であってもよい。更により詳細には、化学療法剤は、アザリビン、ベロマイシン、ブリオスタチン−1、ブスルファン、カルムスチン、クロラムブシル、シスプラチン、CPT−11、シクロホスファミド、シタラビン、ダカルバジン、ダクチノマイシン、ダウノルビシン、デキサメタソン、ジエチルスチルベストール、ドクソルビシン、エチニルエストラジオール、エトポシド、フルオロウラシル、フルオキシメステロン、ゲムシタビン、カプロン酸ヒドロキシプロゲステロン、L−アスパラギナーゼ、ロイコボリン、ロムスチン、メクロレタミン、酢酸メドロプロゲステロン、酢酸メゲストロール、メルファラン、メルカプトプリン、メトトレキセート、ミトラマイシン、マイトマイシン、マイトタン、フェニル酪酸、プレドニソン、プロカルバジン、セムスチンストレプトゾシン、タモキシフェン、タキサン、タキソール、プロピオン酸テストステロン、サリドマイド、チオグアニン、チオテパ、ウラシルマスタード、ビンブラスチン又はビンクリスチンであってもよい。化学療法剤の任意の組合せの使用も企図される。化学療法剤の投与は、MT−SP1又はMT−SP1変異ポリペプチドの投与の前、最中又は後であってもよい。
【0138】
本発明のプロテアーゼとの組合せ投与又は同時投与用に適した他の治療剤は、放射性同位体、ホウ素付加物、免疫調節物質、毒素、感光剤又は色素、癌化学療法薬、抗ウイルス薬、抗真菌薬、抗細菌薬、抗原虫薬及び化学的感受性物質からなる群より選択される(米国特許第4,925,648号及び4,932,412号を参照のこと)。適切な化学療法剤は、例えば、REMINGTONのPHARMACEUTICAL SCIENCES,第19版(Mack Publishing Co.1995)、及びGoodman及びGilmanのTHE PHARMACOLOGICAL BASIS OF THERAPEUTICS(Goodman et al.,Eds.Macmillan Publishing Co.,ニューヨーク,1980及び2001年版)に記載されている。実験薬等の他の適切な化学療法剤は、当業者に知られている。更に、適切な治療用放射性同位体は、α−エミッター、β−エミッター、γ−エミッター、オージェ電子エミッター、α粒子を放出する中性子捕捉物質、及び電子の捕捉によって崩壊する放射性同位体からなる群より選択される。放射性同位体は、225Ac、198Au、32P、125I、131I、90Y、186Re、188Re、67Cu、177Lu、213Bi、10B、及び211Atからなる群より選択されることが好ましい。
【0139】
2個以上の治療剤を本発明のプロテアーゼと組み合わせて使用するとき、それらは同じクラス若しくは型であってよく、又は異なるクラス若しくは型であってもよい。例えば、治療剤は、異なる数個の放射性核種、又は1個の薬剤及び放射性核種を含むことができる。
【0140】
他の実施形態では、個々のエネルギー放出の結果、異なる距離で有効である、異なる数個の同位体を、本発明のプロテアーゼと組み合わせて、第1及び第2の治療剤として使用する。このような物質を使用してより有効な腫瘍の治療を実現することができ、このような物質は、通常の臨床状態で異なるサイズの多数の腫瘍を示す患者において有用である。
【0141】
数個の利用可能な同位体が、極めて小さな腫瘍塊及び単細胞を治療するのに有用である。これらの状況では、薬剤又は毒素が、本発明のプロテアーゼとの同時投与用のより有用な治療剤である可能性がある。従って、本発明のいくつかの実施形態では、同位体は薬剤、毒素、及び中性子捕捉物質等の非同位体種と組み合わせて使用し、本発明のプロテアーゼと同時投与する。細胞に対する細胞毒性作用を有する多くの薬剤及び毒素が知られており、本発明のプロテアーゼと組み合わせて使用することができる。Merck Index、Goodman及びGilman、及び前術の参照文献等の、薬剤及び毒素に関する部分にも記載されている。
【0142】
細胞内のタンパク質合成に干渉する薬剤を、本発明の治療法においてプロテアーゼと組み合わせて使用することもできる。このような薬剤は、当業者に知られており、ピューロマイシン、シクロヘキシミド及びリボヌクレアーゼを含む。
【0143】
本発明の治療法は、癌の治療に使用することができる。放射性同位体、薬剤及び毒素は、癌細胞によって生成されるか、それに付随するマーカー、と特異的に結合する抗体又は抗体断片と複合させることができ、このような抗体複合体を使用して、放射性同位体、薬剤又は毒素を腫瘍部位に向け、その治療効率を増大させ、副作用を最小にすることができることはよく知られている。これらの物質及び方法の例は、Wawrzynczak及びThorpe(Introduction to the Cellular and Molecular Biology of Cancer,L.M.Franks及びN.M.Teich,eds,Chapter18,pp.378〜410,オックスフォード大学出版,オックスフォード,1986)、Immunoconjugates:Antibody Conjugates in Radioimaging and Therapy of Cancer(C.W.Vogel,ed.,3〜300,オックスフォード大学出版,ニューヨーク,1987)、Dillman,R.O.(CRC Critical Reviews in Oncology/Hematology 1:357,CRC Press,Inc.,1984)、Pastan et al.(Cell47:641, 1986)、Vitetta et al.(Science238:1098〜1104, 1987)及びBrady et a1.(Int.J.Rad.Oncol.Biol.Phys.13:1535〜1544, 1987)に総説されている。癌等の疾患の治療用の免疫複合体の使用の他の例は、特に米国特許第4,331,647号、4,348,376号、4,361,544号、4,468,457号、4,444,744号、4,460,459号、4,460,561号、4,624,846号、4,818,709号、4,046,722号、4,671,958号、4,046,784号、5,332,567号、5,443,953号、5,541,297号、5,601,825号、5,635,603号、5,637,288号、5,677,427号、5,686,578号、5,698,178号、5,789,554号、5,922,302号、6,187,287号及び6,319,500号に開示されている。
【0144】
更に、本発明の治療法は、本発明のプロテアーゼを、いくつかの細胞毒性剤の副作用を予防、緩和又は無効化するための他の化合物又は技術と組み合わせて使用する方法を含む。このような組合せの例としては、例えば、米国特許第4,624,846号に記載されているような、迅速なクリアランスのためのIL−1及び抗体の投与がある。抗癌剤と(例えば、細胞毒性成分として、放射性同位体、薬剤又は毒素と)組み合わせたメインの治療剤及びMT−SP1変異体の投与後3〜72時間、このような投与を実施することができる。これを使用して循環からの複合体、薬剤又は毒素のクリアランスを増大させることができ、治療剤によって引き起こされる骨髄等の造血器の毒性を緩和又は無効化することができる。
【0145】
本発明の他の態様では、前述のように、癌治療剤は、2個以上の殺腫瘍性物質の組合せ、例えば、薬剤及び放射性同位体、又は、中性子活性化療法用に放射性同位体及びボロン−10物質、又は薬剤及び生物応答調節物質、又は、融合分子複合体及び生物応答調節物質を含んでもよい。サイトカインをこのような治療計画に組み込んで、その各成分の有効性を最大にすることができる。
【0146】
同様に、β又はαエミッターである放射性同位体と結合した、いくつかの抗白血病及び抗リンパ球抗体は、これらの物質が腫瘍細胞のみを対象としない場合、造血性(例えば、骨髄性)副作用を誘導する可能性がある。このことは特に、腫瘍細胞が循環中である場合、及び造血器官中に存在する場合に観察される。少なくとも1つの造血性サイトカイン(例えば、成長因子、コロニー刺激因子、G−CSF及びGM−CSF)の同時及び/又は後投与は、抗癌効果を増大させながら、造血性副作用を低下させ、又は改善するのに好ましい。
【0147】
例えば、Harbert,Nuclear Medicine Therapy,ニューヨーク,Thieme Medical Publishers,1087,pp.1〜340に記載されているように、種々の放射性核種療法を癌等の病態の治療に使用することができることは、当分野でよく知られている。これらの療法を経験している臨床医であれば、容易に、そのような療法に、本明細書に記載のサイトカインアジュバント療法を適合させて、その造血性副作用を緩和することができる。同様に、MT−SP1又はMT−SP1変異体と同時投与する細胞毒性剤を用いる療法を、例えば、癌、感染疾患又は自己免疫疾患の治療用、及び臓器移植拒絶治療用に使用することができる。このような治療は、同位体又は放射標識抗体を用いる放射性同位体療法と類似の原理によって規律されている。従って、当業者は、サイトカイン使用に関する記載を適用して、メインの抗癌療法の前、最中及び/又は後にサイトカインを投与することによって、骨髄抑制等の造血性副作用を緩和することができる。
【0148】
(医薬組成物)
プロテアーゼと組み合わせた各治療用MT−SP1又は他の治療剤の、逐次的或いはほぼ同時の投与は、経口経路、静脈内経路、筋肉内経路、及び粘膜組織を介した直接的な吸収だけには限られないが、これらを含む任意の適切な経路によって影響を受ける可能性がある。MT−SP1等の治療剤は同じ経路によって、或いは異なる経路によって投与することができる。
【0149】
例えば、MT−SP1は静脈内注射によって投与することができ、一方で他の治療剤の組合せは経口投与することができる。或いは、例えば、他の治療剤を静脈内注射によって投与することができる。治療剤を投与する順序は、狭義には重要ではない。
【0150】
MT−SP1の投与は、他の生物学的に活性な成分及び非薬剤治療剤(例えば、外科手術又は放射線治療剤)と、或いは非薬剤治療剤のみ又はMT−SP1と更に組み合わせて、前述の他の治療剤の投与を伴うこともできる。併用療法が非薬剤治療を更に含む場合、治療剤と非薬剤治療剤の組合せの同時作用由来の有益な影響が得られる限り、任意の適切な時間で非薬剤治療を実施することができる。例えば、適切な場合、非薬剤治療を治療剤の投与から一時的に除去するとき、恐らく数日間或いは更に数週間、有益な影響が依然として得られる。
【0151】
従って、MT−SP1等の薬理学的に活性な物質は、同時に、逐次的に、或いは組み合わせて患者に投与することができる。逐次的に投与する場合、投与間の時間は一般に0.1〜約48時間まで変化する。MT−SP1等の治療剤を使用するとき、それらは同一の薬剤として許容可能な担体中に存在することができ、それ故同時に投与することができることは理解されよう。それらは、同時に摂取される従来の経口剤形等の個別の薬剤担体中に存在することができる。
【0152】
血管新生状態用の治療剤には、MT−SP1及びAVASTIN(商標)がある。一実施形態では、この状態は癌である。
【0153】
癌、炎症、糖尿病又は黄斑変性用の治療剤には、MT−SP1がある。他の実施形態では、この治療剤は前に定義した他の治療剤を更に含む。
【0154】
特異的な治療計画の一部分としての、MT−SP1及び少なくとも1つの第2の物質の投与に起因する利点には、治療剤の組合せから生じる薬物動態的又は薬力学的同時作用があるが、これだけには限られない。一実施形態では、治療剤の同時作用は追加的なものである。他の実施形態では、治療剤の同時作用は相乗的なものである。
【0155】
他の実施形態では、治療剤の同時作用が一方又は両方の物質の治療計画を改善する。
【0156】
本発明は更に、癌等の血管新生状態を有する患者を治療するためのキットであって、同じ又は別のパッケージ中に、その状態の症状を治療し、又は少なくとも部分的に緩和するのに治療上有効な用量のMT−SP1(例えばAVASTIN(商標))、及びそれを使用するための説明書、を含むキットに関する。
【0157】
本発明は、癌症状を低下させるのに適している。これらの癌症状には、血尿、排尿時の痛み又は灼熱、頻尿、混濁尿、骨の痛み又は患部周辺の膨張、骨折、衰弱、疲労、体重減少、反復感染、悪心、嘔吐、便秘、排尿に関する問題、脚部の衰弱又は麻痺、持続する隆起及び打撲、目まい、昏眠状態、異常な眼の動き又は視力の変化、衰弱、腕又は脚の感覚の消失或いは歩行困難、発作又は痙攣、人格、記憶又は話し方の変化、午前中に悪化し日中に和らぐ傾向があり、悪心又は嘔吐を伴う可能性がある頭痛、乳房の腫瘍又は肥大、乳頭からの放出、乳房の皮膚の変化、熱感、又は腕の下の肥大リンパ節、直腸出血(便中の赤血又は黒便)、腹部痙攣、下痢と交互の便秘、体重減少、食欲消失、衰弱、顔面蒼白、背面又は側面の鈍痛又は痛み、高血圧又は赤血球数の異常を時折伴う腎臓領域の腫瘍、衰弱、蒼白、熱及びインフルエンザ様症状、打撲及び長期の出血、肥大リンパ節、脾臓、肝臓、骨及び関節の痛み、頻繁な感染、体重減少、夜間の発汗、あえぎ、数ヶ月続く咳、線状血液の混じった痰、胸部の持続的な痛み、肺中うっ血、頸部の肥大リンパ節、出血、或いはサイズ、形状、色又は肌合いの変化を含む皮膚の黒アザ又は他の隆起の変化、頸部、腕内側、又はそ径部中のリンパ節の痛みのない膨張、持続的な熱、疲労感、説明不可能な体重減少、皮膚のかゆみ及び発疹、皮膚中の小さな腫瘍、骨の痛み、腹部の膨張、肝臓又は脾臓肥大、口内腫瘍、唇の潰瘍、数週間内で治癒しない舌又は口内、もはや十分に適合しない義歯、口部の痛み、出血、口臭、歯の緩み、話し方の変化、腹部の膨張、異常な膣出血、消化不良、上腹部の痛み、説明不可能な体重減少、背面中心付近の痛み、脂肪食品の不耐性、皮膚の黄化、腹部の塊、肝臓及び脾臓の肥大、尿道封鎖による排尿困難、尿を保持する膀胱、特に夜間の頻繁な緊急排尿感の発生、完全に空ではない膀胱、灼熱又は痛みを伴う排尿、血尿、膀胱の圧痛、骨盤又は背中の鈍痛、消化不良又は胸焼け、腹部の不快感又は痛み、悪心及び嘔吐、下痢又は便秘、食後の鼓張、食欲の消失、衰弱及び疲労、出血嘔吐血液又は便中の血液、異常な膣出血、閉経後の女性における水性血液の排出、痛みを伴う排尿、性交中の痛み、及び骨盤領域の痛みがある。
【0158】
好ましくは、癌症状が疑われるか或いは観察される限り治療を続けるべきである。
【0159】
本発明は、黄斑変性症を低下させるのに適している。これらの黄斑変性症は、視界、視界を形成する線のぼやけ、及び視力の段階的又は早急な消失を含む。
【0160】
本発明は、糖尿病症状を低下させるのに適している。これらの糖尿病症状は、視力の消失及び失明を含む。
【0161】
患者が(治療)から利益を得るかどうかを評価するために、定量的な方法で、再発の頻度の低下、或いは持続的進行、又は改善の時間の増大によって患者の症状を調べ、治療前後の患者の状態の測定値を比較する。治療が適切であれば、患者の状態は改善されているであろう。再発の測定数又は頻度は低下し、或いは持続的進行の時間は増加しているであろう。
【0162】
各薬剤に関して、用量は治療の成功及び患者の健康の重要部分である。各場合、性別、年齢、体重、身長、病態等のパラメータに従って、指定の範囲内で、医師は所与の患者に関する最適用量を決定しなければならない。
【0163】
本発明の医薬組成物は、治療有効量のMT−SP1を含む。化合物の量は治療する患者に依存する。患者の体重、疾患の重度、投与形式及び担当医の判断は、適量を決定する際に考慮に入れなければならない。治療有効量のMT−SP1又は他の治療剤の決定は、十分に当業者の能力内にある。
【0164】
患者を治療するために、医薬品パッケージの添付文書に記載の範囲外の用量を使用することが必要となる場合がある。このような例は担当医には明らかであろう。必要があれば、医師は更に、個々の患者の応答に合わせて、どのように、いつ治療を中断、調節又は中止するかを知ることができる。
【0165】
(製剤化(個別又は同時)及び投与)
本発明の化合物は個別に投与するか、或いは適切な同時配合剤形で同時配合する。併用療法で使用する化合物を含む化合物を、薬剤として許容可能な塩又は医薬組成物の形で患者に投与する。医薬組成物の形で投与する化合物は、治療有効量が組成物中に存在するように、適切な担体又は賦形剤と混合させる。用語「治療有効量」は、所望の終点(例えば、癌に伴う症状の低下)を得るのに必要とされる化合物の量を指す。
【0166】
種々の調製物を使用して、MT−SP1等の治療剤を含む医薬組成物を配合することができる。配合及び投与に関する技術は、Remington:The Science and Practice of Pharmacy,第20版,Lippincott Williams & Wilkins,フィラデルフィア,PAに見出すことができる。錠剤、カプセル、ピル、粉末、顆粒、糖衣錠、ゲル、スラリー、軟膏、溶液、座薬、注射液、吸入薬及びエアロゾルは、このような配合物の例である。配合物は局所又は全身方式で、或いはデポー剤又は徐放式で投与することができる。組成物の投与は種々の方法で実施することができる。本発明の組成物及び併用療法剤は、本明細書に記載の安定化剤を含む種々の医薬賦形剤、担体及び/又は被包性配合物と組み合わせて投与することができる。
【0167】
医薬組成物又は薬理学的組成物の調製法は、本明細書の開示に鑑みて当業者には明らかであろう。典型的には、このような組成物は、注射可能物質(液体溶液又は懸濁液)、注射前に液体に溶かしたり懸濁させるのに適した固体、経口投与用の錠剤又は他の固体、或いは徐放性カプセルとして調製することができる。また、クリーム、ローション、うがい薬、吸入薬等を含む現在使用されている他の任意の形態で調製することができる。
【0168】
ヒトに投与するために、調製物はFDAによって要求される無菌性、発熱性、一般的安全性及び純度標準を満たさなければならない。
【0169】
単独での、又は併用療法での化合物の投与は、例えば、皮下、筋肉内又は静脈内注射、或いは任意の他の適切な投与経路であってもよい。特に好都合な本発明の化合物の投与の頻度は1日1回である。
【0170】
配合時には、薬理学的に有効であるような量で、投薬配合に適合性がある形式で治療剤を投与する。配合物は記載する注射溶液等の種々の剤形で容易に投与されるが、薬剤放出カプセル等を使用することもできる。この文脈において、活性成分の量及び投与する組成物の体積は、治療する宿主動物に依存する。投与に必要とされる活性化合物の正確な量は実践者の判断に依存し、各個体に特有である。
【0171】
典型的には、活性化合物を分散させるのに必要とされる最小体積の組成物を利用する。投与に適した養生法は変わる可能性もあるが、最初に化合物を投与し、結果を調べ、次いで、他の間隔で他の調節用量を与えることによって表される。
【0172】
担体は、例えば、水、エタノール、ポリオール(例えば、グリセロール、プロピレングリコール、及び液状ポリエチレングリコール等)、これらの適切な混合物、及び植物油を含む溶媒又は分散媒であってもよい。例えば、レシチン等のコーティングを使用することによって、分散系の場合は必要とされる粒径を保つことによって、及び界面活性剤を使用することによって、適切な流動性を保つことができる。種々の抗菌剤及び抗真菌剤、例えば、パラベン、クロロブタノール、フェノール、ソルビン酸、チメロサール等によって、微生物の作用を防止することができる。多くの場合、等張剤、例えば、糖類又は塩化ナトリウムを含むことが好ましい。吸収を遅らせる物質、例えば、モノステアリン酸アルミニウム及びゼラチンを組成物中に使用することによって、注射用組成物の長時間の吸収をもたらすことができる。
【0173】
溶液中に使用するのに適した防腐剤は、塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロロブタノール、チメロサール等を含む。適切なバッファーは、ホウ酸、炭酸水素ナトリウム及び炭酸水素カリウム、ホウ酸ナトリウム及びホウ酸カリウム、炭酸ナトリウム及び炭酸カリウム、酢酸ナトリウム、第2リン酸ナトリウム等を、pH約6〜8、好ましくはpH約7〜7.5にpHを保つのに十分な量含む。適切な浸透剤は、デキストラン40、デキストラン70、デキストロース、グリセリン、塩化カリウム、プロピレングリコール、塩化ナトリウム等であり、点眼液と当量の塩化ナトリウムは、0、9プラス又はマイナス0.2%の範囲内である。適切な抗酸化剤及び安定化剤には、重硫酸ナトリウム、メタ重亜硫酸ナトリウム、チオ硫酸ナトリウム、チオウレア等がある。適切な湿潤剤及び清澄化剤には、ポリソルベート80、ポリソルベート20、ポロキサマー282及びチロキサポールがある。適切な粘性増大物質には、デキストラン40、デキストラン70、ゼラチン、グリセリン、ヒドロキシエチルセルロース、ヒドロキシメチルプロピルセルロース、ラノリン、メチルセルロース、ペトロラタム、ポリエチレングリコール、ポリビニルアルコール、ポリビニルピロリドン、カルボキシメチルセルロース等がある。
【0174】
本発明の化合物及び併用療法剤は、水性又は非水性溶媒中に溶解、懸濁又は乳濁させることによって配合することができる。植物油(例えば、ゴマ油、ピーナッツ油)又は類似の油、合成脂肪酸グリセリド、高級脂肪酸及びプロピレングリコールのエステルは、非水性溶媒の例である。ハンクスの溶液、リンガーの溶液等の水溶液、又は生理食塩水バッファーを使用することもできる。いずれの場合も、その形は滅菌状態でなければならず、容易な注射性が存在する程度に流動性がなければならない。その形は製造及び保存条件下で安定性がなければならず、細菌及び真菌等の微生物の汚染作用に対して保存されなければならない。
【0175】
遊離塩基又は薬理学的に許容可能な塩としての活性化合物の溶液は、ヒドロキシプロピルセルロース等の界面活性剤を適切に混合した水中で調製することができる。グリセロール、液状ポリエチレングリコール、及びこれらの混合物中、並びに油中に分散系を調製することもできる。通常の保存条件及び使用条件下では、これらの調製物は、微生物の増殖を防止するための防腐剤を含む。
【0176】
前述の種々の他の成分を含む適切な溶媒中に、必要とされる量の活性化合物を導入し、必要に応じて次に濾過滅菌することによって、滅菌注射溶液を調製する。一般には、基本分散媒及び前述の成分由来の必要とされる他の成分を含む滅菌媒体中に、種々の滅菌活性成分を導入することによって分散系を調製する。滅菌注射溶液の調製用の滅菌粉末の場合、好ましい調製法は真空乾燥及び凍結乾燥技術であり、これらは活性成分及び事前に滅菌濾過したその溶液由来の任意の他の所望の成分の粉末を生成する。
【0177】
皮下又は筋肉内注射用の一層、或いは十分濃縮された溶液の調製も企図される。この点において、溶媒としてのDMSOの使用は好ましい、何故なら、これは極めて迅速な浸透をもたらし、小さな領域への高濃度の活性化合物又は物質を送達するからである。
【0178】
併用療法の1つ又は2つの活性成分を経口的に投与する場合、それは当分野でよく知られている薬剤として許容可能な担体と組み合わせることによって製剤化することができる。担体は、例えば、錠剤、ピル、カプセル、溶液、懸濁液、徐放性配合物;患者による経口摂取用の粉末、液体又はゲルとして、化合物を配合することができる。化合物と固形賦形剤を混合すること、場合によっては生成した混合物を粉砕し、適切な助剤を加え、粒状混合物を処理することを含む種々の方法で、経口使用配合物を得ることができる。以下のリストは、経口配合物中に使用することができる賦形剤の例:ラクトース、スクロース、マンニトール又はソルビトール等の糖類;トウモロコシデンプン、コムギデンプン、ジャガイモデンプン、ゼラチン、トラガカントゴム、メチルセルロース、ヒドロキシプロピルメチルセルロース、ナトリウムカルボキシメチルセルロース及びポリビニルピロリドン(PVP)等のセルロース調製物を含む。経口配合物には通常使用される賦形剤、例えば、薬剤等級のマンニトール、ラクトース、デンプン、ステアリン酸マグネシウム、ナトリウムサッカリン、セルロース、炭酸マグネシウム等がある。
【0179】
いくつかの明確な実施形態では、経口医薬組成物は不活性希釈剤又は吸収性の食用担体を含む。また、組成物は、硬質又は軟質殻のゼラチンカプセル中に封入することができる。また、組成物は錠剤に圧縮することができる。また、組成物は、食品と共に直接取り込ませることができる。経口療法投与用に、活性化合物を賦形剤と共に取り込ませ、摂取用錠剤、口腔用錠剤、トローチ、カプセル、エリキシル剤、懸濁液、シロップ、ウエファー等の形で使用することができる。このような組成物及び調製物は、少なくとも0.1%の活性化合物を含まなければならない。組成物及び調製物の割合は当然ながら変化する可能性があり、単位重量の約2〜約75%、或いは好ましくは25〜60%であることが好都合である可能性がある。このような治療上有用な組成物中の活性化合物の量は、適切な用量が得られるような量である。
【0180】
錠剤、トローチ、ピル、カプセル等は、以下のものも含むことができる:結合剤、トラガカントゴム、アカシア、トウモロコシデンプン、又はゼラチン等;賦形剤、リン酸2カルシウム等;崩壊剤、例えば、トウモロコシデンプン、ジャガイモデンプン、アルギン酸等;潤滑剤、ステアリン酸マグネシウム等;及び甘味剤、スクロース、ラクトース又はサッカリン等を加えることができ、或いは着香剤、ペパーミント、冬緑油、又はチェリー香料等。用量単位形がカプセルであるとき、それは前述の型の物質以外に、液状担体を含むことができる。種々の他の物質がコーティングとして存在することができ、或いは他の場合は、用量単位の物理的な形を変更することができる。例えば、錠剤、ピル、又はカプセルはセラック、糖又は両方でコーティングすることができる。エリキシル剤のシロップは活性化合物、甘味剤としてスクロース、防腐剤としてメチル及びプロピルパラベン、色素及び香料、チェリー又はオレンジ香料等を含むことができる。
【0181】
他の投与形式に適した他の配合物には座薬がある。座薬用に、従来の結合剤及び担体は、例えば、ポリアルキレングリコール又はトリグリセリドを含むことができ;0.5%〜10%、好ましくは1%〜2%の範囲で活性成分を含む混合物から、このような座薬を形成することができる。
【0182】
本発明の方法によって治療される個体は、哺乳動物、より好ましくはヒトである。これらの方法の、以下に記載の性質及び適用例は、本質的にヒトに関するものであるが、それらは、非ヒト動物(類人猿、サル、イヌ、マウス等)に適用することもできる。従って、本発明は、獣医学の分野でも使用することができる。
【0183】
以下の実施例は、本発明を限定するものではなく、専ら本発明の種々の態様を例示するためのものである。
【実施例】
【0184】
[実施例1.十分理解されている開始スキャフォールドに基づいて、改変された基質特異性を有する設計型MT−SP1プロテアーゼをクローニング及び特徴付けする方法]
セリンプロテアーゼMT−SP1を、VEGF及びVEGFRの特異的タンパク質分解に対する突然変異誘発用のスキャフォールドプロテアーゼとして選択した、これは部分的には、セリンプロテアーゼMT−SP1が生化学的及び構造技術[Harris,Recent Results Cancer Res.1998;152:341〜52]を用いて十分に特徴付けされているためである。
【0185】
MT−SP1は、多数の細胞外タンパク質−タンパク質相互作用ドメインを有する膜結合セリンプロテアーゼである。プロテアーゼドメインは、完全に異なるP1−LysPSSCLを使用してのみプロファイリングされており(図4A〜4C)、(塩基性)−(非塩基性)−Ser−Arg又は(非塩基性)−(塩基性)−Ser−Arg/Lysの増大した特異性が明らかとなっている。MT−SP1のX線結晶構造によって、P2特異性を示す可能性がある60のループ中の活性及び9個のアミノ酸挿入を制御すると考えられる構成要素が明らかになる。
【0186】
MT−SP1の変異体を作製し、特徴付けしている。以下に記載のように、種々のプロテアーゼ変異体を発現させ精製している。活性及び特異性を確認するための初期活動を実施しており、サンプルの結果は図1〜11に示す。
【0187】
[実施例2.MT−SP1の発現及び精製]
表11に示すように、変異型MT−SP1ポリペプチド(「変異体」)は、ポリペプチド当たり1個の変異を含む可能性があり、或いは任意の組合せで2個以上の変異残基を含む可能性がある。
【0188】
野生型及び変異型MT−SP1を、N末端6ヒスチジンタグ、プロドメイン、及びプロテアーゼドメインを含むpQE細菌発現ベクター(Qiagen)にクローニングし、生成したコンストラクトはBL21大腸菌細胞に形質転換する。細胞は100mLの培養物中で0.6のODまで増殖させ、封入体中のプロテアーゼの発現は、1mMの最終濃度までIPTGを加えることによって誘導する。4〜6時間後、細菌は遠心分離によってペレット状にし、ペレットは50mMのトリスpH8、500mMのKCl、及び10%グリセロール(バッファーA)に再懸濁させる。細胞は超音波処理によって溶解させ、6000×gでの遠心分離によってペレット状にする。ペレットは50mMのトリスpH8、6Mの尿素、100mMのNaCl及び1%の2−メルカプトエタノール(バッファーB)に再懸濁させる。膜及びオルガネラは10,000×gでの遠心分離によってペレット状にし、上清はニッケルNTAカラム(Qiagen)を通過させる。カラムは50mMのトリスpH8、6Mの尿素、100mMのNaCl、20mMのイミダゾール、1%の2−メルカプトエタノール及び0.01%のTween20(バッファーD)で洗浄する。カラムは、Tween20を含まないバッファーDで再度洗浄する。次いで、プロテアーゼを、50mMのトリスpH8、6Mの尿素、100mMのNaCl、1%の2−メルカプトエタノール及び250mMのイミダゾール(バッファーE)を含むカラムから溶出させる。次いで、プロテアーゼを〜1mLの体積に濃縮し、1Lの50mMのトリスpH8、3Mの尿素、100mMのNaCl、1%の2−メルカプトエタノール、及び10%のグリセロール中、4℃で一晩透析する。最後に、プロテアーゼを、50mMのトリスpH8、100mMのNaCl、及び10%のグリセロール中、4℃で一晩透析する。最後の透析工程において、プロテアーゼは自己切断によって自己活性化状態になり、6ヒスチジンタグ及びプロドメインが除去される。
【0189】
結果:
この細菌発現系を使用して、種々のミリグラム量を得る。プロテアーゼは封入体中で生成され、1カラム精製法によって精製し、更に、連続的な透析工程によってリフォールディングさせる(図1)。一旦リフォールディングすると、プロドメイン及びプロテアーゼドメインの間の接合部、配列RQAR/VVGGでの切断によって、プロテアーゼは自己活性化する。
【0190】
[実施例3.野生型及び変異型MT−SP1を特徴付けするための、コンビナトリアルライブラリーの合成及びスクリーニング]
(固定P1アミノ酸法)
個々のP1置換Fmoc−アミノ酸ACC−樹脂(約25mg、0.013mmol)を、Multi−Chem96ウエル反応装置のウエルに加えた。樹脂含有ウエルはDMF(0.5mL)を用いて溶媒化した。20%ピペリジンを溶かしたDMF溶液(0.5mL)を加え、次に30分間攪拌した。反応ブロックのウエルを濾過し、DMF(3×0.5mL)で洗浄した。無作為のP2位を導入するために、Fmoc−アミノ酸(4.8mmol、10当量/ウエル;Fmoc−アミノ酸、mol%:Fmoc−Ala−OH、3.4;Fmoc−Arg(Pbf)−OH,6.5;Fmoc−Asn(Trt)−OH、5.3;Fmoc−Asp(O−t−Bu)−OH、3.5;Fmoc−Glu(O−t−Bu)−OH、3.6;Fmoc−Gln(Trt)−OH、5.3;Fmoc−Gly−OH、2.9;Fmoc−His(Trt)−OH、3.5;Fmoc−Ile−OH、17.4;Fmoc−Leu−OH、4.9;Fmoc−Lys(Boc)−OH、6.2;Fmoc−Nle−OH、3.8;Fmoc−Phe−OH、2.5;Fmoc−Pro−OH、4,3;Fmoc−Ser(O−t−Bu)−OH、2.8;Fmoc−Thr(O−t−Bu)−OH、4.8;Fmoc−Trp(Boc)−OH、3.8;Fmoc−Tyr(O−t−Bu)−OH、4.1;Fmoc−Val−OH、11.3)の等張性混合物(Ostresh,J.M.et al.,(1994)Biopolymers 34:1681〜9)を、DICI(390μL、2.5mmol)、及びHOBt(340mg、2.5mmol)をDMF(10mL)に溶かしたものを用いて事前に活性化させた。溶液(0.5mL)を各ウエルに加えた。反応ブロックは3時間攪拌し、濾過し、DMF(3×0.5mL)で洗浄した。無作為のP3及びP4位を同じ方法で導入した。P4アミノ酸のFmocを除去し、DMF(3×0.5mL)で樹脂を洗浄し、AcOH(150μL、2.5mmol)の0.5mLキャッピング溶液、HOBt(340mg、2.5mmol)及びDICI(390μL、2.5mmol)をDMF(10mL)に溶かしたもので処理した。4時間の攪拌後、樹脂をDMF(3×0.5mL)、CHCl(3×0.5mL)で洗浄し、95:2.5:2.5のTFA/TIS/HOの溶液で処理した。1時間のインキュベートの後、反応ブロックを開き、96ディープウエルのタイタープレートに置き、ウエルは他の切断溶液(2×0.5mL)で洗浄した。回収プレートを濃縮させ、基質含有ウエルはEtOH(0.5mL)で希釈し、2回濃縮した。個々のウエルの含有物は、CHCN:HO混合物から凍結乾燥させた。各ウエル中の基質の合計量は、1種の基質の収率に基づいて0.0063mmol(50%)であると見積もって推定した。
【0191】
(P1別種アミノ酸法)
Fmoc−Clで7−アミノクマリン−4−酢酸を処理することによって、7−アミノクマリン−4−酢酸を調製した。7−アミノクマリン−4−酢酸(10.0g、45.6mmol)とHO(228ml)を混合させた。NaHCO(3.92g、45.6mmol)を少量加え、次にアセトン(228ml)を加えた。溶液は氷浴で冷却し、Fmoc−Cl(10.7g、41.5mmol)を1時間の行程で攪拌しながら加えた。氷浴を除去し、溶液は一晩攪拌した。アセトンは回転蒸発によって除去し、生成したゴム状の固体は濾過によって回収し、ある程度の量のヘキサンで洗浄した。リンクアミドAM樹脂と7−Fmoc−アミノクマリン−4−酢酸の縮合によって、ACC−樹脂を調製した。リンクアミドAM樹脂(21g、17mmol)はDMF(200ml)を用いて溶媒化した。混合物は30分間攪拌させ、濾過用カニューレを用いて濾過し、20%ピペリジンを溶かしたDMF(200ml)を加えた。25分間攪拌した後、樹脂を濾過しDMF(3回、各々200ml)で洗浄した。7−Fmoc−アミノクマリン−4−酢酸(15g、34mmol)、HOBt(4.6g、34mnol)、及びDMF(150ml)を加え、次にジイソプロピルカルボジイミド(DICI)(5.3ml、34mmol)を加えた。混合物は一晩攪拌し、濾過し、洗浄し(DMF、3回、200ml;テトラヒドロフラン、3回、200ml;MeOH、3回、200ml)、Pで乾燥させた。Fmoc分析により測定して、樹脂の置換レベルは0.58mmol/g(>95%)であった。
【0192】
P1別種ライブラリー合成:
個々のP1置換Fmoc−アミノ酸ACC−樹脂(〜25mg、0.013mmol)を、MultiChem96ウエル反応装置のウエルに加えた。樹脂含有ウエルはDMF(0.5mL)を用いて溶媒化した。濾過後、20%ピペリジンを溶かしたDMF溶液(0.5mL)を加え、次に30分間攪拌した。反応ブロックのウエルを濾過し、DMFで洗浄した(0.5mLで3回)。無作為のP2位を導入するために、Fmoc−アミノ酸[4.8mmol、10当量/ウエル;Fmoc−アミノ酸、mol%:Fmoc−Ala−OH、3.4;Fmoc−Arg(Pbf)−OH,6.5;Fmoc−Asn(Trt)−OH、5.3;Fmoc−Asp(O−t−Bu)−OH、3.5;Fmoc−Glu(O−t−Bu)−OH、3.6;Fmoc−Gln(Trt)−OH、5.3;Fmoc−Gly−OH、2.9;Fmoc−His(Trt)−OH、3.5;Fmoc−Ile−OH、17.4;Fmoc−Leu−OH、4.9;Fmoc−Lys(Boc)−OH、6.2;Fmoc−Nle−OH、3.8;Fmoc−Phe−OH、2.5;Fmoc−Pro−OH、4,3;Fmoc−Ser(O−t−Bu)−OH、2.8;Fmoc−Thr(O−t−Bu)−OH、4.8;Fmoc−Trp(Boc)−OH、3.8;Fmoc−Tyr(O−t−Bu)−OH、4.1;Fmoc−Val−OH、11.3]の等張性混合物を、DICI(390μL、2.5mmol)、及びHOBt(340mg、2.5mmol)をDMF(10ml)に溶かしたものを用いて事前に活性化させた。溶液(0.5ml)を各ウエルに加えた。反応ブロックは3時間攪拌し、濾過し、DMFで洗浄した(0.5mlで3回)。無作為のP3及びP4位を同じ方法で導入した。P4アミノ酸のFmocを除去し、DMFで樹脂を洗浄し(3×0.5mL)、AcOH(150μL、2.5mmol)の0.5mLキャッピング溶液、HOBt(340mg、2.5mmol)、及びDICI(390μL、2.5mmol)をDMF(10ml)に溶かしたもので処理した。4時間の攪拌後、樹脂をDMF(0.5mlで3回)、CHCl(0.5mlで3回)で洗浄し、95:2.5:2.5のTFA/TIS/HOの溶液で処理した。1時間のインキュベートの後、反応ブロックを開き、96ディープウエルのタイタープレートに置き、ウエルは他の切断溶液で洗浄した(0.5mlで2回)。回収プレートを濃縮させ、基質含有ウエル中の物質はEtOH(0.5ml)で希釈し、2回濃縮した。個々のウエルの含有物は、CHCN/HO混合物から凍結乾燥させた。各ウエル中の基質の合計量は、1種の基質の収率に基づいて0.0063mmol(50%)であると見積もって推定した。
【0193】
両方のライブラリーを使用するスクリーニング法:
ミリグラム量のP1置換ACC樹脂は、記載する方法によって合成することができる。Fmoc−アミノ酸置換ACC樹脂は96ウエルの反応ブロックの57ウエル中に置き:サブライブラリーは19アミノ酸の第2の固定位置(P4、P3、P2)によって示した(システインは削除し、ノルロイシンはメチオニンで置換した)。基質の合成、キャッピング、及び切断は、P2、P3及びP4サブライブラリーに関するもの以外、前項に記載のものと同じであり、等張性混合物ではなく、個々のアミノ酸(5当量のFmoc−アミノ酸モノマー、5当量のDICI、及び5当量のHOBtをDMFに溶かしたもの)を、空間的に示すP2、P3又はP4位に導入した。
【0194】
完全別種及びP1固定コンビナトリアルライブラリーの調製は、前述したのと同様に行った。ライブラリーは250μMの最終濃度まで96ウエルプレート中に等分した。変異型プロテアーゼは、50nM〜1μMの濃度にMTSP活性バッファー(50mMのNa Hepes、pH8.0、100mMのNaCl、0.01%のTween−20)中に希釈した。Ac−QGR−AMCに対する初期活性を使用して、50nMの野生型ラットMT−SP1とほぼ等しい濃度に変異型プロテアーゼの濃度を調節した。P1−Argライブラリーにおける酵素活性を、Spectra−Max Delta蛍光光度計(Molecular Devices)において30℃で1時間アッセイした。励起及び発光を、それぞれ380nm及び460nmにおいて測定した。
【0195】
(ライブラリーの合成及び蛍光性スクリーニング)
P1別種ライブラリー:
A(i).合成:
前に示したのと同様のP1別種ライブラリーを合成した。種々のMT−SP1変異体の特異性を、野生型MT−SP1と比較して特徴付けた。
【0196】
A(ii).ライブラリーの酵素アッセイ:
タンパク質分解酵素の濃度を、280nmにおいて測定した吸光度によって決定した(Gill,S.C.et at.(1989)Anal Biochem 182:319〜26)。触媒活性を有するトロンビン、プラスミン、トリプシン、uPA、tPA、及びキモトリプシンの割合を、MUGB又はMUTMACを用いた活性部位の滴定により定量化した(Jameson,G.W.et al.(1973)Biochemical Journal 131:107〜117)。
【0197】
PSSCL由来の基質をDMSOに溶かした。各約1.0×10−9molのP1−Lys、P1−Arg、又はP1−Leuサブライブラリー(361化合物)を、0.1μMの最終濃度で96ウエルのマイクロ蛍光プレート(Dynex Technologies,Chantilly,Va.)の57ウエルに加えた。各約1.0×10−10molのP1別種サブライブラリー(6859化合物)を、各化合物0.01μMの最終濃度で96ウエルプレートの20ウエルに加えた。酵素(0.02nM〜100nM)を加えることによって加水分解反応を開始させ、Perkin Elmer LS50B発光分光計、380nmでの励起及び450nm又は460nmでの発光を用いて蛍光性を調べた。セリンプロテアーゼのアッセイは、50mMのトリスpH8、100mMのNaCl、0.5mMのCaCl、0.01%のTween20、及び1%のDMSO(基質由来)を含むバッファーにおいて25℃で行った。システインプロテアーゼ、パパイン及びクルザインのアッセイは、100mMの酢酸ナトリウム、pH5.5、100mMのNaCl、5mMのDTT、1mMのEDTA、0.01%のBrij−35、及び1%のDMSO(基質由来)を含むバッファーにおいて25℃で行った。
【0198】
B.137,180の基質配列のP1別種ライブラリーを用いたプロテアーゼのプロファイリング:
全アミノ酸が基質配列中のP1部位に結合する可能性を試験するために、P1別種テトラペプチドライブラリーを作製した。P1別種ライブラリーは、システインが除かれ、ノルロイシンが含まれる全アミノ酸として、P1位のみが系統的に一定に保たれている20ウエルからなる。P2、P3及びP4位は、ウエル当たり合計6,859基質配列の全アミノ酸の等モル混合物からなる。いくつかのセリン及びシステインプロテアーゼをプロファイリングして、最適P1アミノ酸の同定における、このライブラリーの適用可能性を試験した。キモトリプシンは、大きな疎水性アミノ酸に対する予想された特異性を示した。トリプシン及びトロンビンは、P1塩基性アミノ酸(Arg>Lys)に対する選好性を示した。プラスミンも、塩基性アミノ酸(Lys>Arg)に対する選好性を示した。P1−Asp特異性を有する唯一の知られている哺乳動物セリンプロテアーゼであるグランザイムBは、他の酸性アミノ酸、Gluを含む全ての他のアミノ酸中のアスパラギン酸に対して異なる選好性を示した。ヒト好中球エラスターゼに関するP1プロファイルは、アラニン及びバリンに対する標準的な選好性を有する。システインプロテアーゼ、パパイン及びクルザインは、これらの酵素に関して知られている広範囲のP1基質配列特異性を示したが、アルギニンに対する適度な選好性が存在する。MT−SP1野生型プロテアーゼは、Arg又はLysを好んだ。
【0199】
C.P1一定ライブラリーを用いたMT−SP1プロテアーゼのプロファイリング:
P1一定テトラペプチドライブラリーを、前に開示したのと同様に作製する。P1一定ライブラリーは、システインが除かれ、ノルロイシンが含まれる全アミノ酸として、P1位のみが系統的に一定に保たれている20ウエルからなる。P2、P3及びP4位は、ウエル当たり合計6,859基質配列の全アミノ酸の等モル混合物からなる。いくつかのセリン及びシステインプロテアーゼをプロファイリングして、最適P1アミノ酸の同定における、このライブラリーの適用可能性を試験した。MT−SP1は、P1におけるアミノ酸Arg及びLysを好む。
【0200】
[実施例4.PSSCLによる、MT−SP1変異体の拡張した特異性の決定]
P1−Arg固定PSSCLライブラリーをDMSO中に再懸濁させ、ウエル当たり5〜10ナノモルの濃度で不透明黒色の96ウエルプレート中に配列させる。変異型プロテアーゼは、5nM〜5μMの濃度で50mMのトリスpH8、50mMのNaCl、及び0.01%のTween20(MTSP活性化バッファー)中に希釈する。100マイクロリットルのプロテアーゼ溶液を各ウエルに加え、Spectramax蛍光プレートリーダー(Molecular Devices)を使用して、ACC脱離基の蛍光を380nmでの励起及び460nmでの発光によって測定する。P4〜P2伸長サブサイトの各々における変異型プロテアーゼの特異性は、P4〜P2PSSCライブラリー中の各配列アミノ酸の蛍光性によって測定する。
【0201】
結果:
PSSCLによるスクリーニングにより、野生型MT−SP1が、P4及びP3位において、塩基性アミノ酸(Arg、Lys)に対する選好性を有することを確認されたが、これは、Takeuchi et al.,Y.Biol.Chem.,Vol.275,Issue34, 26333〜26342, 2000年8月25日による公開データと合致する。しかしながら、PSSCLプロファイルは更に、その特異性がやや広く、P4及びP3位において、Arg又はLys以外の種々のアミノ酸が受け入れられることを明らかにしている(図2A)。基質特異性を狭めた変異体をいくつか作製し(上記を参照)、それを、VEGF受容体において同定した、切断部位の候補部位に向けた(下記を参照)。1つの変異体、L172D(CB18)は非常に狭い特異性プロファイルを示し、Arg又はLysが、P4及びP3位中の他のアミノ酸より好まれる(図2B)。候補となる切断配列は、L172D(RRXR)に関する特異性プロファイルがよく合致するVEGFR2(RRVR)中で同定している。MT−SP1の変異体は、P1−ArgPSSCLを用いてプロファイリングしている(特異的変異体に関して、表11参照)。全ての変異体が、1つ又は複数の基質配列位置において選択性の増大を示している。代表的なプロファイルを図2A〜Hに示す。
【0202】
[実施例5.プロテアーゼファージディスプレーを使用する、ペプチド配列特異的標的切断が可能であるMT−SP1変異体の選択]
ファージミドを、(i)M13ファージの形態形成に必要な全ての遺伝子を有し、(ii)ファージの複製起点と相互作用して、一本鎖DNAの生成を開始させるパッケージシグナルを有し、(iii)破壊されたファージの複製起点を有し、(iv)アンピシリン耐性遺伝子を有する、ように構築する。
【0203】
非効率的なファージの複製起点と完全なプラスミドの複製起点との組合せは、ファージとしてではなく、プラスミドとして(RF、複製形、DNAとして)、宿主細菌中でベクターが増殖することを助長する。従って、宿主を殺傷せずに維持することができる。更に、プラスミド起点を有することは、ファージミドの効率的なファージ様増殖とは無関係に複製可能であることを意味する。アンピシリン耐性遺伝子によりベクターを増幅させることができるが、これは、ファージ粒子中へのファージミドDNAのパッケージ化を増大させる。
【0204】
MT−SP1変異体遺伝子と遺伝子3又は遺伝子8M13コートタンパク質の融合体は、標準的なクローニング法を使用して構築することができる(Sidhu,Methods in Enzymology,2000,V328,p333)。次いで、MT−SP1をコードする遺伝子内の変異体のコンビナトリアルライブラリーを、p3又はp8M13コートタンパク質との融合体としてM13の表面上に提示し、当該標的切断に対応する固定、アルデヒド含有ペプチドに対して作用させる。アルデヒド成分はプロテアーゼの切断性結合を切断するプロテアーゼの能力を阻害するが、この成分がペプチドのプロテアーゼ認識に干渉することはない。固定標的ペプチドに対する特異性を有する変異型プロテアーゼ提示ファージは、標的ペプチドコーティングプレートと結合すると思われ、一方で非特異的ファージは洗浄除去する。連続的な周期の作用によって、標的配列に対する増大した特異性を有するプロテアーゼを単離することができる。従って、アルデヒドを含まない標的配列を合成することができ、単離したファージを、ペプチドの特異的加水分解について試験することができる。
【0205】
[実施例6.VEGFR2のストーク領域におけるMT−SP1変異体切断の確認]
VEGF受容体2(VEGF−R2/KDR)のポリペプチド配列を、細胞外(配列番号8)及び細胞内(配列番号9)ドメインの各配列について表12に示す。MT−SP1の天然のP4〜P1基質特異性とほぼ一致する配列は太字で示す。2つの配列、すなわち、箱で囲った配列RVRK、及び二重下線を引いた配列RRVRは、L172D及び野生型MT−SP1の認識プロファイルと合致する。
【0206】
【表12】

【0207】
マウスIgG(2.5μg)のFcドメインと融合したVEGF−R2(Flk1)の精製細胞外ドメインは、1μMのMT−SP1と共に再懸濁させ、変異型プロテアーゼは17.1uLのMTSP活性化バッファーに再懸濁させた。反応混合物は37℃で2時間インキュベートし、PNGaseFを用いて脱グリコシル化させ、SDS−PAGE電気泳動によって分離した。完全長Flk1−Fc及び切断産物は、クーマシーブリリアントブルーを用いた染色、及びエドマンのプロトコールによって塩基配列決定したN末端によって同定した。精製VEGFR2−Fcは、受容体の細胞外ストーク領域中の配列RRVR/KEDEで野生型及び変異型MT−SP1によって切断する。従って、本発明は、ストーク領域中のVEGFRを切断することができるプロテアーゼを提供し、本発明の一実施形態では、血管新生が原因的又は貢献的役割を果たす癌、黄斑変性又は他の疾患の治療の必要がある患者に、このようなプロテアーゼを投与する。
【0208】
[実施例7.精製VEGF受容体の切断のアッセイ]
マウスIgG(3〜10μg)のFcドメインと融合したVEGF−R2の精製細胞外ドメインは、MTSP活性化バッファー(20μL)に再懸濁させる。変異型プロテアーゼは100nM〜1μMの最終濃度に加える。反応混合物を37℃で1〜2時間インキュベートし、更に、SDS−PAGE電気泳動によって分離させる。クマシーブルー染色、銀染色、及び/又はウエスタンブロットによってバンドを目に見える状態にする。
【0209】
結果:
精製VEGFR2−Fcは、野生型及び変異型MT−SP1により効率よく切断される(図3)。変異型プロテアーゼによる切断によって、〜80kDa及び30kDaの見かけの分子量を有する切断産物が生成するが、VEGFR2中の切断部位候補の分析により、MT−SP1変異体がVEGFR2の(膜隣接)ストーク領域を標的化することが示唆される。変異体L172Dは完全長VEGFR2を切断するが、野生型と比較して低い割合で切断する。いくつかの変異体(N175D及びD217F)は、野生型より高い有効性で受容体を切断する。プロテアーゼ変異体又は野生型は、いずれもFcドメインを切断しない。
【0210】
[実施例8.内皮細胞由来VEGF受容体の切断のアッセイ]
ヒト臍帯血管内皮細胞(HUVEC)をCambrexから購入し、2%のウシ胎児血清(FCS)及び抗真菌薬−抗生物質を含む完全なサプリメントを有するEBM−2(内皮細胞基本培地、Cambrex)中で培養した。生存アッセイ用に、一晩96ウエルプレートで、EBM−2中に2×10細胞/mlの密度で細胞を平板培養した。翌日、24時間でDMEM+10%のFCSと培地を交換することによって、細胞を血清枯渇状態にした。次いで、プロテアーゼを10〜1000nMの種々の濃度で加え、プロテアーゼの存在下で2時間、細胞をインキュベートした。VEGFを20ng/mLの最終濃度で加え、細胞は72時間インキュベートした。その72時間の最後に、製造者のプロトコールに従ってMTTアッセイ(Sigma)によって細胞数を測定した。
【0211】
内皮細胞の表面からのVEGF受容体の切断を目に見える状態にするために、細胞は24ウエルプレート内で70%の集合状態まで増殖させ、この時点で培地を除去し、200uLのDMEM及び10%のFCSを各ウエルに加えた。試験するプロテアーゼは10〜1000nMの最終濃度で加えた。細胞はプロテアーゼの存在下で1〜3時間インキュベートし、培地を除去した。細胞は1mLの氷冷PBSで洗浄し(3回)、ピペット先端を使用してプレートからはがし取った。再懸濁させた細胞は5000rpmで遠心分離に施し、上清は除去した。ドライアイス上での3回の凍結解凍サイクルによって、50uLの溶解バッファー(PBS+0.1%のNP40)中に細胞を溶解させた。細胞溶液は15,000rpmで遠心分離に施して膜及びオルガネラを除去し、30uLの上清はSDSゲル電気泳動によって分離した。タンパク質はPVDF膜に移し、細胞内ドメインを認識する抗VEGFR2抗体(Chemicon)を用いてプローブ処理した。
【0212】
タンパク質分解切断による内皮細胞の表面からの可溶性VBGF受容体の放出は、サンドウィッチELISAを使用して検出した。HUVECは24ウエルプレート内で増殖させ、前述したのと同様にプロテアーゼを用いて処理した。3時間のインキュベーションの後、100uLの培地を除去し、プロテアーゼ阻害剤Pefabloc(Roche)を1mg/mLの最終濃度まで加えた。次いで、培地を、VEGFR2の細胞外ドメインを認識するモノクローナル抗体(MAB3573,R&DSystems、PBS中に1:125希釈)で処理したMaxisorpプレート(Nunc)に加えた。1時間のインキュベーションの後、プレートはPBS+0.01%のTween20(PEST)で洗浄し、これも細胞外ドメインを認識するビオチン化ポリクローナル抗体(BAF357,R&DSystems、1:500希釈)で処理した。1時間のインキュベーションの後、プレートはPBSTで洗浄し、更に、ストレプトアビジン結合ホースラディッシュペルオキシダーゼ(Upstate)で処理した。プレートは1時間インキュベートし、更に、PBSTで洗浄し、製造者のプロトコールに従ってTMB基質(Amersham)を使用して染色した。
【0213】
結果:
野生型MTSP、及びCB18、CB83及びCB152を含むより特異的な変異体は、用量依存式の内皮細胞のVEGF依存性の増殖を効果的に阻害した(図7A)。図7Bは、MTSP変異体が内皮細胞の表面上のVEGF受容体を切断することを示すが、これは、MTSP変異体が、VEGF受容体を不活性化させることによって、VEGF依存性の細胞増殖を阻害するという予想と合致する。HUVECをバッファー対照又はMTSP変異体と共にインキュベートし、更に、細胞抽出物を、VEGFR2の細胞内ドメインを認識する抗体でプローブ処理するウエスタンブロットを示す。野生型MTSP及び変異体は完全長受容体(上側バンド)を切断して、切断形(下側バンド)を生成させる。更に、切断受容体の細胞外ドメイン(外部ドメイン)は、図7C中のELISAによって示されるように培地中で検出することができ;放出外部ドメインはMTSP及び変異体で処理したサンプル中では検出可能であるが、対照中では検出可能ではない。
【0214】
[実施例9.角膜マイクロポケットモデル]
急性最大許容量を測定するために、漸増量の精製した野生型及び変異型MTSPを、C57BL/6マウスに静脈内注射した。マウスは毒性及び死の外見的徴候を観察した。
【0215】
角膜マイクロポケットアッセイ用に、C57BL/6マウスはアベルチンを用いて腹腔内麻酔し、眼はプロパラカインHCl(Allergan,Irvine,CA)で局所処理した。VEGF−A165を含むヒドロン/スクラルフェートペレット(100ug、R&D Systems)を、走査顕微鏡(Zeiss)下で両目の縁から1mmの所に角膜マイクロポケットに注入し、次にマイクロナイフ(Medtroni Xomed,Jacksonville,FL)を使用して腔内直線的角膜切開術を施した。角膜マイクロポケットはvon Graefeナイフ#3(2×30mm)を用いて縁を切開し、次にペレットを注入し、エリスロマイシンを局所施用した。8日後、細隙灯生体顕微鏡及び式2π×(容器長/10)×(時計時間)を使用することによって血管新生を定量化する。不均一な分散をとる両側t検定を使用することによってP値を測定した(マイクロソフトエクセル)。第0日から始めて第7日まで12時間間隔で1日2回、種々の用量のプロテアーゼを腹腔内注射した。
【0216】
結果:
野生型MT−SP1はマウスに十分な耐性があり、急性最大許容量(MTD)は50mg/kgであると決定した(図8)。有意なことに、プロファイリングライブラリー中で狭い特異性を有することが示された(図2参照)いくつかのMT−SP1変異体は、十分な耐性があり(すなわち、低い毒性を有していた)、高い最大許容量をもたらした。例えば、CB18及びCB152は、野生型MT−SP1に関して死を引き起こした用量で耐性があった。これは、選択性を狭くすることはプロテアーゼ薬剤の毒性を低下させるための機構となり得ることを示す。
【0217】
野生型MT−SP1及び変異体は、マウス角膜マイクロポケットモデルにおいてVEGF誘導型血管新生を阻害するそれらの能力に関して試験した。前に大まかに述べたように、VEGFのペレットは通常血管であるマウスの角膜に注入し、血管新生の量は8日後に定量化した。マウスを野生型又は変異型MT−SP1のいずれかで治療すると、血管新生は用量依存式に阻害された(図9)。MTD(50mg/kg)での野生型MT−SP1によるマウスの治療は、42%の血管新生の阻害をもたらした。CB18の場合、低い毒性のために高濃度で投与することが可能であり、高用量(80mg/kg)では75%の阻害を得た。従って、野生型MT−SP1がVEGF誘導型血管新生を阻害する際に有効であっても、それを高レベルで投与することができた事実のために、CB18を用いて優れた有効性を得た。
【0218】
[実施例10.血管透過性に関するマイルスアッセイ]
血管新生以外に、VEGFは血管の浸透も誘導し、周辺組織への流体の漏出を引き起こす。VEGF誘導型の血管透過はマイルスアッセイを使用して測定した。簡潔には、ヌード(無胸腺)マウスに、尾部静脈注射によって0.5%のエバンスブルー色素(100uL、PBS中、Sigma)を注射した。色素注射後1時間で、100ngのVEGFを20uLのPBSに溶かしたものを、マウスの背面の2点に皮内注射した。色素の漏出によるVEGF注射部位における青い斑点の出現によって、血管透過を目に見える状態にする。青い斑点の領域を測定することによって半定量的に、血管透過の程度を測定することができる。それらが血管透過を阻害したかどうかを決定するために、野生型MT−SP1及び変異体を、色素注射の直後に種々の用量で腹腔内注射し、血管透過の量は色素漏出の領域を測定することによって決定した。
【0219】
結果:
野生型及び変異型MT−SP1の注射は、血管透過の用量依存式の阻害をもたらした(図10)。試験した最高用量で、野生型MT−SP1は80%まで血管透過を阻害した。同様に、CB18とCB152の両方が血管透過を阻害し、CB152は低い10mg/kg用量で野生型より高い有効性を示した(野生型の25%阻害と比較してCB152の60%阻害)。それらの最高用量で、3つ全てのプロテアーゼはAVASTIN(商標)、大腸癌用に認められた抗VEGF抗体に匹敵する有効性を有していた。
【0220】
[実施例11.腫瘍異種移植片モデル]
ネズミルイス肺癌(LLC)細胞を、C57BL/6マウスの背面正中線上、或いはDMEM/10%FCS/ペニシリン/ストレプトマイシン(PNS)/L−グルタミン中に継代する。T241ネズミ線維肉腫はDMEM/10%FCS/PNS/L−グルタミン中で増殖させ、ヒト膵臓BxPc3腺癌はRPMI培地1640/10%FCS/PNS中で増殖させる。腫瘍細胞(10)は、ネズミ腫瘍に関してはC57BL/6マウス(8〜10週齢)の背面正中線、ヒト腫瘍に関しては重症複合免疫不全(SCID)マウスに皮下注射し、100〜200mmに増殖させて(典型的には10〜14日間)腫瘍摂取を実証し、10pfuのプロテアーゼコードアデノウイルス又は対照アデノウイルスAdFcを静脈内注射によって尾部静脈に投与する。式0.52×長さ(mm)×幅(mm)(長さの短い方を幅とする。)を使用することによって、10〜14日間のカリパス測定によってmmの腫瘍サイズを計算する。例えば、Kuo et al.,PNAS,2001, 98:4605〜4610を参照のこと。一定でない分散をとる両側t検定(マイクロソフトエクセル)を使用することによって、P値を測定した。
【0221】
結果:
VEGFR2の切断が受容体を不活性化させると仮定すると、精製タンパク質又はアデノウイルスによってコードされるタンパク質としての、治療有効量のプロテアーゼの全身送達は、LLC腫瘍増殖の阻害をもたらす。腫瘍増殖の阻害の失敗は、内因性プロテアーゼ阻害剤(セルピン)によるプロテアーゼの不活性化によるものである可能性がある。このような事象では、セルピンとプロテアーゼの共有結合は、SDS−PAGEによりプロテアーゼのサイズの増大として検出可能である。それをセルピン不活性耐性にする変異を、プロテアーゼに施すことができる。
【0222】
[実施例12.VEGFR切断]
図1に示すように、スキャフォールドプロテアーゼ及び変異体を、酵母菌又は細菌発現系において多数のミリグラム量、活性プロテアーゼとして首尾良く発現させた。例えば、Harris,1998及びTakeuchi,2000に記載のプロトコールを参照のこと。MT−SP1を設計して、Flk−1/KDRを選択的に切断する変異体を得た。
【0223】
表11に示す他のMT−SP1変異体は、前述したのと同様にクローニングし発現させた。図1に示すように、MT−SP1変異体は細菌中で発現させ、封入体から精製した。各プロテアーゼが高い触媒活性を保持し、それは>99%の純度であり、それらは結晶学試験に適したものとなる。
【0224】
表13は、野生型及び変異型MT−SP1の予測される標的切断配列を示す。この表では、「Hyd」は任意の疎水性アミノ酸(すなわち、グリシン、アラニン、バリン、ロイシン、イソロイシン、フェニルアラニン、チロシン又はトリプトファン)を表し、「Xxx」は任意のアミノ酸を表す。
【0225】
【表13】

【0226】
[実施例13.VEGFRストーク領域配列RRVRに対する増大した選択性を有する1、2及び3個の変異からなる変異体]
RRVR標的切断配列に対する増大した選択性を示すPSSCLプロファイルによって、多数の変異体を特徴付けした(図2A〜H)。それらは、どのサブサイト:P2又はP3及びP4プロファイルが変異によって最も影響を受けたかに基づいて、2つのサブクラスに分けた。Ala、Ile及びValへのPhe99の変異は、Valに対するプロテアーゼのP2選択性を増大させ、基質を含むAlaの特異性を低下させた。この影響は、変異体F99VMT−SP1(CB38)及びF99I/L172D/Q175DMT−SP1(CB159)において見られる(図2C及びD)。例えばPhe99からTrp、Asn、Asp、Ala又はArgへの変異は、基質を含むAla、Ser、Trp、Lys及びIleに対するP2選択性を増大させた。P2選択性に影響を与えた他の変異は、Met80からGlu及びAlaへの変異、Trp215からTyr及びPheへの変異であった。
【0227】
Arg及びGluへのGln192の変異はP3選択性のみを改変した。Tyr146(Asp)、Leu172(Asp)、Gln175(Asp)、Lys224(Phe)及びMet180(Glu)における変異は、変異体L172D(CB18)と同様に、P3及びP4の基質を含むArg及びLysに対する変異体の選択性を増大させた(図2B)。これらの個々の変異を一緒に分類することによって、非常に選択的なP3及びP4プロファイルを有する変異型プロテアーゼ、変異体L172D/Q175D(CB83)及びY146D/K224F(CB155)等を与えた(図2E及びF)。
【0228】
結果:
個別に確認した変異を分類してP2及びP3/P4におけるプロテアーゼ選択性を狭めることによって、P3及びP4位においてArg及びLys残基に対する4倍を超える選択性、及び改変されたP2特異性を有する多数の変異体を作製した。2つの変異体F99V/L172D/Q175D(CB151)及びF99V/K224F(CB152)は、P3及びP4サブサイトにおいて他のアミノ酸よりArg及びLysに少なくとも3倍を超えて選択的であり、P2サブサイトにおいてAlaよりValに2倍選択的である(図2G及びH)。PSSCLにおけるこれらの特性は、所望のRRVR配列に対するMT−SP1プロテアーゼの選択性を改変する際の、表10からの変異の有効性を示す。
【0229】
[実施例14.RRVR及びRQAR基質の優先的切断に関するスクリーニング]
基質ライブラリーによって決定した、所望の特異性プロファイルが一致する変異型プロテアーゼを、所望の切断配列に対応する個々のペプチド基質を使用してアッセイして、選択性の変化の程度を決定した。2つの基質:Ac−RRVR−AMC及びAc−RQAR−AMCを表した。基質のプロファイリングによって決定した第2の配列、RQARがMT−SP1の好ましい配列である。それは更に完全長プロテアーゼ中の配列と一致し、プロテアーゼ活性化のために切断されるはずである。
【0230】
ミカエリス−メンテンの運動定数を、標準的な運動法によって測定した。簡潔には、Costar96ウエル黒色半領域アッセイプレートのウエル中の50μLの合計体積のMT−SP1活性バッファー中に、1mM〜2μMの一連の12の濃度に基質を希釈する。溶液は5分間で30℃に温め、0.1nM〜20nMのプロテアーゼ溶液50μLを、アッセイのウエルに加えた。435nmにおいてカットオフフィルターを使用して、380nmの励起波長、450nmの放射波長において、蛍光分光光度計(Molecular Devices Gemini XPS)で蛍光を測定した。30秒間隔で得た読み取り値を用いて、30分間蛍光の増大率を測定した。基質濃度の逆数と基質切断の速度の逆数をグラフ化し、ラインウィーバー−バークの式(1/速度=(K/Vmax)(1/[S])+1/Vmax;Vmax=[E]*kcat)に適合することによって、運動定数kcat、K及びkcat/Kを計算した。特異性定数(kcat/K)は、特定のプロテアーゼによって基質がどの程度十分に切断されるかの指標である。
【0231】
結果:
野生型MT−SP1及び7個の変異体の特異性定数(kcat/K)(図6)は、PSSCLから誘導したRQAR及びRRVRの相対選択性の半定量的結果が、個々の基質に関して測定すると一致することを示す。野生型プロテアーゼ、MT−SP1は、RRVR基質の2倍を超えてRQAR基質を好む。6個の変異型プロテアーゼのうちの5個が、RQARより標的配列RRVRを好む。2個の変異体、CB152及びCB159は、8倍を超えてRQARよりRRVRを好む。唯一の例外はCB38であり、そのプロファイルは選択性がP4サブサイトのみであったことを示唆した。RQAR及びRRVRの相対的選好性以外に、個々の基質の運動定数測定は、各変異体に関する基質切断の有効性を定義する。変異体CB155及びCB159は、それぞれ2.2及び2.3×10−1−1でAc−RRVR−AMC基質を切断する(図6)。これらの割合は野生型、MT−SP1の3倍以内である。
【0232】
[実施例15.個々の基質の切断に関するスクリーニング]
例えば、基質ライブラリーによって決定した、所望の特異性プロファイルが一致する変異型プロテアーゼを、所望の切断配列に対応する個々のペプチド基質を使用してアッセイする。個々の運動定数測定は、Spectra−Max Delta蛍光計(Molecular Devices)を使用して行う。各プロテアーゼは、アッセイバッファー中に50nM〜1μMで希釈する。全てのACC基質はMeSOで5μM〜500μMに希釈し、一方、AMC[DEFINED]基質は20μM〜2000μMに希釈する。各アッセイは、5%未満のMeSOを含む。合計10分間、それぞれ380nm及び460nmの励起波長及び発光波長で、15秒毎に酵素活性を調べる。全てのアッセイは1%のDMSO中で行う。
【0233】
[実施例16.完全長タンパク質の切断に関するスクリーニング]
変異型プロテアーゼをアッセイして、それらは完全長タンパク質の状態で存在すると所望の配列を切断することを確かめ、標的タンパク質の活性をアッセイして、その機能が切断事象によって損なわれたことを確認する。精製完全長タンパク質と変異型プロテアーゼのインキュベーション後に、SDS−PAGEによって切断事象を調べる。タンパク質は標準的なクマシーブルー染色を使用して、放射標識タンパク質を使用するオートラジオグラフィーによって、又は適切な抗体を使用するウエスタンブロットによって目に見える状態にする。或いは、標的タンパク質が細胞表面受容体である場合、その標的タンパク質を発現する細胞を変異型プロテアーゼに曝す。細胞を溶かし、SDS−PAGEによってタンパク質を分離し、更に、ウエスタンブロットによる視覚化によって切断事象を調べる。或いは、タンパク質分解によって放出される可溶性受容体をELISAにより定量化する。
【0234】
VEGFの切断:
血管内皮成長因子(VEGF)は、胚形成及び成人期中に通常生成される内皮細胞特異的マイトジェンである。VEGFは、腫瘍成長を含む種々の正常及び病的プロセスにおける血管新生の、重要なメディエーターである。3個の高親和性同族VEGF受容体:VEGFR−1/Flt−1、VEGFR−2/KDR及びVEGFR−3/Flt−4が同定されている。
【0235】
MT−SP1が受容体以外にシグナル分子も切断するかどうかを判定するために、165アミノ酸組換え型のVEGF、VEGF165をSDS−PAGEによってアッセイした。VEGF165はPBS中で0.2μg/μLの濃度に再構築し、5μMの最終濃度に希釈した。プロテアーゼを含まない溶液、及び100nMのMT−SP1又はCB152を含む溶液を、5時間37℃においてVEGFと共にインキュベートした。生成したタンパク質切断産物は脱グリコシル化させ、SDS−PAGEによって分離し、銀染色した(図11)。MT−SP1はアッセイ条件下でVEGF165を効率よく切断するが、一方より選択的な変異体CB152はそうではない。この結果は、野生型MT−SP1を使用して、2つの異なる機構:マイトジェンの切断及び受容体の切断によるVEGFシグナルを遮断することができることを示す。CB152、VEGFR2のストーク領域中のRRVR配列に対する狭い選択性を有する変異体は、VEGFを切断しないが、VEGFRは切断し、低い毒性のために高濃度で投与することができる。
【0236】
VEGFRの切断:
125I−VEGFR(40,000cpm)は種々の濃度のプロテアーゼと共にインキュベートし、サンプルはSDS−PAGEサンプルバッファー中で煮沸し、12%ポリアクリルアミドゲル上で調べる。ゲルは乾燥させ、−70℃においてx線フィルム(Kodak)に曝す。
【0237】
VEGFR結合アッセイ:
125I−VEGFR又はPMNを、前と同様に種々の濃度のプロテアーゼと共にインキュベートする。プロテアーゼに曝した125I−VEGFRと通常のPMNの結合、又は通常の125I−VEGFRとプロテアーゼに曝したPMNの結合は、シンチレーションを使用して定量化する。簡潔には10個の細胞を、プロテアーゼ阻害剤の存在下において96ウエルフィルタープレート(Millipore)中で、種々の濃度の125I−VEGFRと共にインキュベートする。細胞を真空吸引によって3回洗浄し、30μLのシンチレーション流体(Wallac)を各ウエルに加える。(van Kessel et al.,J.Immunol.(1991)147:3862〜3868及びPorteau et al.,JBC(1991)266:18846〜18853から適合させた)Wallac Microbetaシンチレーションカウンターで、シンチレーション数を計数する。
【0238】
[実施例17.血清中のMT−SP1の活性の測定]
MT−SP1及びトリプシンの活性を、高濃度のウシ胎児血清の存在下においてアッセイした。血清中に存在する高濃度のマクロ分子プロテアーゼ阻害剤は、それをプロテアーゼがin vivoで活性化されるかどうかを試験するための優れたin vitro系にする。MTSP及びトリプシンは、100μLの最終体積中に高血清濃度(0〜10%)で、それぞれ100nM及び80nMでダルベッコの改変イーグル培地(DMEM)中に再懸濁させた。蛍光ペプチド基質(Leu−Val−Arg−アミノメチルクマリン)を15μMの最終濃度まで加え、380nmの励起波長及び460nmの発光波長で、蛍光プレートリーダー(Molecular Devices)において蛍光を検出した。
【0239】
図5に示すように、400秒後まで全基質を使用する酵素で、トリプシンは0%血清中で非常に強い活性を示す。しかしながら、最低濃度の血清(2.5%)中でさえも、恐らくマクロ分子プロテアーゼ阻害剤の結合のために、トリプシン活性は劇的に低下する。他方でMT−SP1は、全ての濃度の血清中でほぼ同じ活性を示し、MT−SP1を不活性化させる内因性プロテアーゼ阻害剤は血清中に存在しないことを示唆する。
【0240】
(均等物)
特定の実施形態を本明細書で詳細に開示してきたが、これは単なる例示目的で行ったものであり、添付の特許請求の範囲の限定を目的とするものではない。特に、特許請求の範囲により定義される本発明の精神及び範囲から逸脱せずに、種々の代用、変更及び修飾を本発明に施すことが可能であることは、本発明者が想定するところである。スクリーニング法、プロテアーゼスキャフォールド、又はライブラリー形式の選択は、本明細書に記載の実施形態に関する知識を有する当業者には日常的なことであると考えられる。他の態様、利点及び変更形態は特許請求の範囲内にあると考えられる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
スキャフォールド膜型セリンプロテアーゼ−1(MT−SP1)ポリペプチド中に少なくとも1個の変異を有する変異型MT−SP1プロテアーゼであって、
変異型MT−SP1ポリペプチドの基質特異性又は活性はスキャフォールドMT−SP1ポリペプチドと比較して改変されており、
スキャフォールドMT−SP1ポリペプチドは野生型MT−SP1のアミノ酸配列と少なくとも95%又は完全に同一であり、ここで、野生型MT−SP1のアミノ酸配列は配列番号1の配列又はその触媒活性部分又はその種変異配列であり、
変異型MT−SP1は、アミノ酸位置41、58、59、60b、60c、61、62、63、97、98、100、146、151、169、170、172、173、175、176、177、178、179、181及び224から選択される位置に変異を有し、ここで、位置のナンバリングはキモトリプシンのナンバリングに従う、
変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項2】
MT−SP1スキャフォールドポリペプチドは配列番号1の配列からなる、請求項1に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項3】
MT−SP1スキャフォールドポリペプチドは配列番号2の配列からなる、請求項1に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項4】
D60bI、D60bF、D60bR、D60bA、R60cI、R60cF、R60cD、R60cA、R60cW、F97N、F97D、F97E、F97A、F97W、F97R、Y146F、Y146N、Y146D、Y146E、Y146A、Y146W、Y146R、L172N、L172D、L172E、L172A、L172V、L172F、L172R、Q175D、Q175E、Q175A、Q175V、Q175F、Q175R、K224A、K224F、K224V及びK224Dから選択される変異を含む、請求項1〜3のいずれか一項に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項5】
D60bI、D60bF、D60bR、D60bA、R60cI、R60cF、R60cD、R60cA、R60cW、F97N、F97D、F97E、F97A、F97W、F97R、F99Y、F99W、F99N、F99D、F99E、F99A、F99V、F99R、Y146F、Y146N、Y146D、Y146E、Y146A、Y146W、Y146R、L172N、L172D、L172E、L172A、L172V、L172F、L172R、Q175D、Q175E、Q175A、Q175V、Q175F、Q175R、M180E、M180Y、M180R、M180A、Q192A、Q192V、Q192D、Q192R、Q192F、W215F、W215Y、W215I、W215D、W215R、D217A、D217V、D217F、D217E、D217R、K224A、K224F、K224V及びK224Dから選択される変異を含む、請求項4に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項6】
L172D/Q175D、F99V/L172D、F99V/L172D/Q175D、F99V/K224F、F99V/Y146D、Y146D/K224F、Y146D/L172D/Q175D、F99V/Y146D/L172D/Q175D、F99I/L172D/Q175D、F99L/L172D/Q175D、F99T/L172D/Q175D、F99A/L172D/Q175D、F99I/K224F、F99L/K224F、F99T/K224F、F99V/Y146D/K224F、F99I/Y146D/K224F、F99L/Y146D/K224F及びF99T/Y146D/K224Fから選択される変異を含む、請求項1〜5のいずれか一項に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項7】
野生型膜型セリンプロテアーゼ−1(MT−SP1)中に変異を有する変異型MT−SP1プロテアーゼであって、
野生型MT−SP1のアミノ酸配列は配列番号1若しくは配列番号2の配列又はその触媒活性部分であり、
変異は、F99Y、F99W、D217A、D217V、D217F、F99N、F99D、F99E、F99A、F99V、F99R、D217E、D217R、W215F、W215Y、W215I、W215D、W215R、Q192A、Q192V、Q192D、Q192R、Q192F、M180E、M180Y、M180R、M180A及びF99V/M180Eから選択され、ここで、位置のナンバリングはキモトリプシンのナンバリングに従う、
変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項8】
血管内皮成長因子(VEGF)又はVEGF受容体(VEGFR)を切断する、請求項1〜7のいずれか一項に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼ。
【請求項9】
請求項1〜8のいずれか一項に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼを含む組成物。
【請求項10】
医薬組成物である、請求項9に記載の組成物。
【請求項11】
請求項8に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼを含む医薬組成物の使用であって、血管内皮成長因子(VEGF)又はVEGF受容体(VEGFR)を切断するための使用。
【請求項12】
請求項8に記載の変異型MT−SP1プロテアーゼを含む医薬組成物であって、血管内皮成長因子(VEGF)又はVEGF受容体(VEGFR)を切断するための医薬組成物。
【請求項13】
VEGF又はVEGFRの切断は血管新生を阻害し又は細胞増殖を抑制する、請求項11又は12に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項14】
VEGF又はVEGFRの切断は腫瘍特異的血管新生を阻害する、請求項11〜13のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項15】
VEGF又はVEGFRの切断は患者の血管新生関連病態の治療をもたらす、請求項11〜13のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項16】
病態が黄斑変性、癌、炎症及び糖尿病から選択される、請求項15に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項17】
変異型MT−SP1は標的VEGFR上のP4−P3−P2−P1の基質認識部位を切断し、P4−P3−P2−P1部位はVEGFR上の4アミノ酸の配列を含む、請求項13〜16のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項18】
変異型MT−SP1は、野生型MT−SP1基質認識部位と比較してVEGFRの基質認識部位に対してより選択的である、請求項17に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項19】
P4−P3−P2−P1の基質認識部位は、RRVR、KVGR、RVRK、RKTK、KTKK及びKTTRから選択されるアミノ酸配列を含む、請求項17に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項20】
P4−P3−P2−P1の基質認識部位はRRVRのアミノ酸配列を含む、請求項19に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項21】
変異型MT−SP1は、L172D、Y146F、N175D、D217F、F99V及びK224Fから選択される変異を含む、請求項13〜20のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項22】
変異型MT−SP1は変異K224F及びF99Vを含む、請求項21に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項23】
VEGFRがVEGF−R2/flk−1/KDRである、請求項13〜22のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。
【請求項24】
組成物が更に抗癌剤を含む、請求項13〜23のいずれか一項に記載の使用又は医薬組成物。

【図1】
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【図2A】
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【図2B】
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【図2C】
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【図2D】
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【図2E】
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【図2F】
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【図2G】
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【図2H】
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【図3】
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【図4A】
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【図4B】
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【図4C】
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【図5】
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【図6】
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【図7A】
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【図7B】
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【図7C】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2011−250789(P2011−250789A)
【公開日】平成23年12月15日(2011.12.15)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2011−148609(P2011−148609)
【出願日】平成23年7月4日(2011.7.4)
【分割の表示】特願2007−508491(P2007−508491)の分割
【原出願日】平成17年4月12日(2005.4.12)
【出願人】(506343416)カタリスト バイオサイエンシーズ, インコーポレイテッド (2)
【Fターム(参考)】