説明

野菜工場

【課題】単一の施設内で品種や栽培時期、生育段階の異なる野菜を同時に栽培する場合に有効な野菜工場を提供する。
【解決手段】水槽3の水面との間に適当な空間を設けてクレート5を設置し、その開口上面に板状の制御パネル6を搭載する。クレート5は、四隅に脚部51を設け、脚部51にはクレート5を水平かつ一定の高さに保つアジャスタ52を付設する。制御パネル6は、下面にLEDランプ61、ファン62、カメラ63を設け、上面に炭酸ガスセンサ64、温度センサ65、湿度センサ66、RFユニット67を設置する構成で、クレート5の側面に取り付けた左右のフレーム7で上下動可能に支持する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、閉鎖的な空間内で光や温度などの生育環境を人工的に制御して作物を計画的に生産する野菜工場に関する。
【背景技術】
【0002】
野菜工場は、環境の調節が可能な閉鎖された空間において、光、温度、湿度、炭酸ガス濃度、照度、養液濃度、pHなど植物成長に影響を与える生育環境を人工的に制御することで、露地栽培に比べ天候不順などの自然環境や病虫害などに左右されることなく、高品質の無農薬野菜を一年中安定栽培し、安定価格で、安定供給できるメリットがある。
また、これまでの年1回の収穫に比べ、野菜の成長能力を最大限に引き出すので、年数回の収穫が可能になり、さらに多段で栽培するため単位面積当たりの栽培効率を大幅に向上させることができる。
【0003】
一方、植付け時期や収穫時期、成長速度が異なる種類の野菜を同時に栽培していくような場合、品種や栽培時期、生育段階によって好適な栽培環境が異なるので、それに応じて栽培環境を適切にコントロールする必要がある。
特に野菜の成長能力を最大限に引き出すためには光合成速度を高める必要があり、この光合成速度は、光条件、温度、湿度、炭酸ガス濃度などに依存することが知られている。
そのため効率よく良好に野菜を育成するためには、栽培環境を細かく見極め、それに応じて光条件、温度、湿度、炭酸ガス濃度などを細かく制御する必要がある。
しかしながら従来の野菜工場は、図4乃至図5に示すように、1つの栽培室10に照明機器20、換気装置30、ヒータ40、クーラ50、加湿器60、給水装置70、炭酸ガス供給装置80、その他の環境調整機器を配備して栽培室10内の採光や換気、温度調整や湿度調整、その他栽培植物の生育に最適な環境条件を設定し、一元的に維持管理するための制御を行っていた(特許文献1、2参照)。そのため単一の施設内で品種や栽培時期、生育段階の異なる野菜を同時に栽培するのが困難であった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2000−139219号公報
【特許文献2】特開平10−191787号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
解決しようとする問題点は以上のような点であり、本発明は、単一の施設内で品種や栽培時期、生育段階の異なる野菜を同時に栽培する場合に有効な野菜工場を提供することを目的になされたものである。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明は、養液を湛水する水槽と、植物を植栽するクレートと、植物の栽培環境を制御するパネルとで栽培ユニットを構成し、この栽培ユニットを栽培室内に多数設置してユニット毎に個別に栽培環境を維持管理することを最も主要な特徴とする。
【発明の効果】
【0007】
本発明は、単体で人工栽培可能な栽培ユニットを栽培室内に多数設置してユニット毎に個別に栽培環境を維持管理するので、単一の施設内で品種や栽培時期、生育段階の異なる野菜を同時に効率よく良好に栽培できるようになる。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明を実施した野菜工場の構成図である。
【図2】一部を断面で示す栽培ユニットの正面図である。
【図3】細部を省略したクレートと制御パネルの斜視図である。
【図4】従来例1の野菜工場の構成図である。
【図5】従来例2の野菜工場の構成図である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
以下、本発明の実施の形態について説明する。
【0010】
図1に、本発明を実施した野菜工場の構成図を示す。
野菜工場は、温度、湿度、炭酸ガスなどを所定値に調整する空調設備Aを有する栽培室1内に多段に形成した栽培棚2を設置し、各段に一定の水位で養液aを湛水する水槽3を載置する。
養液aは、タンクTからポンプPにより不純物を除去するフィルタ槽Fを経由して最上段に位置する水槽3に供給され、次に左右の排水管4を通して下段の水槽3に順次供給され、最後に最下段に位置する水槽3の排水管4を通してタンクTに還流する。
【0011】
タンクTに還流した養液aは、pHセンサS1、ECセンサS2、水温センサS3によってpH値、濃度、水温がそれぞれ検知され、それらが調整された後、再度ポンプPによって各段の水槽3に供給される。これにより所定pH値、所定濃度、所定水温の養液aが満遍なく全ての水槽3に行き渡り、生長むらのない均一な野菜が生育される。
排水管4は、その入口部分が水槽3の底面から所定の高さに設定され、養液aの水位が一定に保てるようになっている。
養液aをこのようにポンプPで連続的あるいは間欠的に循環させることで養液中の溶存酸素量を多量にし、根の呼吸作用が十分行えるようにする。
【0012】
水槽3は上面を開放し、図2に示すように、水面との間に適当な空間を設けて栽培ユニットの一方を構成するクレート(枠箱)5を設置し、その開口上面に栽培ユニットの他方を構成する板状の制御パネル6を搭載する。これによりクレート5の開口上面に半閉鎖空間を設ける。
【0013】
栽培ユニットは、単体で人工栽培可能であり、栽培面積の広さに応じてユニット数を増減させる。また、移動可能で、栽培棚2の一端側から所定期日毎に搬入され、栽培過程に応じて栽培棚2内を移動し、収穫期日が来ると栽培棚2の他端側から搬出される。
【0014】
クレート5は、四隅に脚部51を設け、脚部51にはクレート5を水平かつ一定の高さに保つアジャスタ52を付設する。アジャスタ52を調節することでクレート5に植栽された植物の根部が養液aに浸るように保持される。
【0015】
制御パネル6は、下面にLEDランプ61、ファン62、カメラ63を設け、上面に炭酸ガスセンサ64、温度センサ65、湿度センサ66、RFユニット67を設置する構成で、クレート5の側面に取り付けた左右のフレーム7で上下動可能に支持する。制御パネル6を上下にスライドすることで、作物の成長に応じて制御パネル6の高さを調節し、成長阻害やLEDランプ61の近接照射による葉焼けを防止する。
【0016】
LEDランプ61は、蛍光灯などに比べ消費電力が少ないのが特徴で、野菜の種類毎や生育状況に応じて適した波長のLEDを選択できるよう、波長の異なるLEDをいくつか組み合わせて配置する。
【0017】
ファン62は、クレート5と制御パネル6の間に設けられた半閉鎖空間の空気を強制的に吸引排気し、それによって空間内の空気を所定温度、所定湿度、所定炭酸ガス濃度に調節する。
【0018】
カメラ63は、撮影した映像をもとに栽培ユニット毎の生育状況を視覚的に把握する。
これにより栽培ユニット毎の手入れの必要性や収穫時期の見極めが、栽培室1に入らなくても遠隔操作で簡単にできるようになる。そのため特に多品種や収穫時期の異なる作物を同時栽培する場合などに有効である。
【0019】
炭酸ガスセンサ64、温度センサ65、湿度センサ66は、クレート5と制御パネル6の間に設けられた半閉鎖空間内の炭酸ガス濃度、温度、湿度を検知し、植物の光合成速度は空間内の炭酸ガス濃度と温度に依存することから、それらが最適になるよう空調設備Aやファン62を制御して空間内を所定炭酸ガス濃度、所定温度に調節する。
同様に野菜の種類毎や生育状況に応じて必要な温度、湿度が保たれるよう空間内を所定温度、所定湿度に調節する。
【0020】
RFユニット67は、カメラ63で撮影した映像や、炭酸ガスセンサ64、温度センサ65および湿度センサ66の観測データを中央の制御コンピュータに無線送信する。
【0021】
クレート5は、図3に示すように、養液aが流通できるように底面を通気通水性の網状または多孔板で形成し、内部にスポンジ質、砂質、礫質、粘土質、繊維質またはそれらをミックスした性質の培地bを入れて植物を支持する。
栽培ユニットは、水槽3の養液a層とクレート5の培地b層により2層構造を形成し、養液a層と培地b層の間に空間を設けることにより、空気中の酸素を取り入れて根腐れを防止する。
【符号の説明】
【0022】
1 栽培室
2 栽培棚
3 水槽
4 排水管
5 クレート
51 脚部
52 アジャスタ
6 制御パネル
61 LEDランプ
62 ファン
63 カメラ
64 炭酸ガスセンサ
65 温度センサ
66 湿度センサ
67 RFユニット
7 フレーム
10 栽培室
20 照明機器
30 換気装置
40 ヒータ
50 クーラ
60 加湿器
70 給水装置
80 炭酸ガス供給装置
A 空調設備
F フィルタ槽
P ポンプ
T タンク
a 養液
b 培地

【特許請求の範囲】
【請求項1】
養液を湛水する水槽と、
植物を植栽するクレートと、
植物の栽培環境を制御するパネルと、
で栽培ユニットを構成し、
この栽培ユニットを栽培室内に多数設置してユニット毎に個別に栽培環境を維持管理することを特徴とする野菜工場。
【請求項2】
前記パネルには
LEDランプを含む人工照明手段、
ファンを含む送風換気手段、
カメラを含む撮像手段、
炭酸ガスセンサ、温度センサ、湿度センサを含む栽培環境の観測手段、
撮像データおよび/または観測データの無線送信手段、
のうちのいずれかを備えることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。
【請求項3】
前記養液の
酸性度を検知するpHセンサ、
肥料濃度を検知するECセンサ、
水温を検知する水温センサ
のうちのいずれかを備えることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。
【請求項4】
前記パネルは前記クレートの開口上面に上下動可能に取り付けられることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。
【請求項5】
前記クレートは前記水槽水面との間に適当な空間を設けて設置されることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。
【請求項6】
前記栽培ユニットは単体で人工栽培可能であり、
栽培面積の広さに応じてユニット数を増減させることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。
【請求項7】
前記栽培ユニットは移動可能であり、
植物の栽培過程に応じて搬入、移動、搬出がなされることを特徴とする請求項1記載の野菜工場。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2010−279269(P2010−279269A)
【公開日】平成22年12月16日(2010.12.16)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−133803(P2009−133803)
【出願日】平成21年6月3日(2009.6.3)
【出願人】(503398886)株式会社感性デバイシーズ (12)
【出願人】(599143759)知恵の輪有限会社 (4)
【出願人】(000141794)株式会社宮入バルブ製作所 (12)
【Fターム(参考)】