説明

金型の温度制御方法及び金型の温度制御装置

【課題】
金型を安定して所望の温度に冷却できる金型の温度制御方法及び金型の温度制御装置を提供すること。
【解決手段】
放射温度計4を用いて可動型3の成形面における所定部位の表面温度を測定しながら液体離型剤を固定型2及び可動型3の該所定部位に噴霧し、測定された表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に該所定部位に対する液体離型剤の噴霧を停止する構成としたこと。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の温度制御方法及び金型の温度制御装置に関する。
【背景技術】
【0002】
後述の特許文献1に記載の装置では、あらかじめ決められた温度測定ルートに従って離型剤を噴霧する直前の金型の表面温度を温度センサー(放射温度計)で実測し、実測された表面温度が目標温度と異なる箇所では、実測温度と目標温度との温度差に応じて離型剤の噴霧量を調整しながら目標温度となるように温度矯正を行う。
【0003】
後述の特許文献2に記載の装置では、金型の表面付近に温度センサー(熱電対)を埋め込み、あらかじめ記憶された相関式に基づいて、温度センサーの温度から金型の表面温度を算出する。金型の表面温度があらかじめ定めた目標温度よりも高い場合は、金型表面に離型剤を噴霧して冷却し、金型表面温度が目標温度に達すると離型剤の噴霧を停止する。
【特許文献1】特開平6−315749号公報
【特許文献2】特開平9−122870号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
特許文献1に記載の装置においては、離型剤の噴霧装置毎に噴霧能力(噴霧量)が変化したり、条件設定時の噴霧ノズルにおける絞り弁の調整量のバラツキ等によって噴霧量が変化したりする。したがって、噴霧直前の金型の表面温度を実測し目標温度との温度差に応じて離型剤の噴霧時間を正確に制御しても、実際に金型に噴霧される総量は一定しないので、金型の表面温度を一定にすることは困難である。また、温度を測定するタイミングと離型剤を噴霧するタイミングとの間にズレがあるため、離型剤を噴霧する際の温度が、測定した温度からずれる可能性がある。その結果、目標温度まで高精度に冷却することは困難である。さらに、文献1の技術においては、離型剤を噴霧した結果、実際に目標温度になったかどうか確認することができない。
【0005】
一般に、金型の型温は、その成形面の形状つまり製品形状によって各部の温度が異なるため、離型剤の噴霧による設定温度への復帰時間は各部で異なる。一方、鋳造サイクルタイムの効率アップを図る観点からすれば、次回の鋳造開始時には各部における型温を速やかにかつ一定時間内に設定温度に復帰させることが望ましい。しかし、特許文献2に記載の装置においては、金型の型温を検出する温度センサーは1つしか設けられていない。従って、金型特定領域の型温に基づいて金型全体の離型剤の噴霧時間を設定するだけであるから、各部における型温を速やかに一定時間内に設定温度に復帰させることができない。また、温度センサーを噴霧ノズルの数に対応して設けて各部の型温を個別に検出し、各部の離型剤の噴霧時間を個々に設定して型温を速やかにかつ一定時間内に復帰させることも考えられるが、この場合、多くの数の温度センサーを必要とし、かつ金型に対する上記温度センサーの取り付け構造が複雑化する。
【0006】
よって、本発明は上記の問題点に鑑みてなされたものであり、金型を安定して所望の温度に冷却できる金型の温度制御方法及び金型の温度制御装置を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
上記課題を解決するために、本発明にて講じた技術的手段の第1は、請求項1に記載のように、鋳造に用いられる金型の成形面に液体離型剤を塗布する際に、放射温度計を用いて該成形面における所定部位の温度を測定しながら液体離型剤を該所定部位に噴霧し、測定された前記所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に該所定部位における前記液体離型剤の噴霧を停止することを特徴とする金型の温度制御方法である。
【0008】
さらに、請求項2に記載のように、前記成形面は、前記所定部位として互いに連続する第1の所定部位と第2の所定部位とを有し、前記第1の所定部位の温度を測定しながら液体離型剤を該第1の所定部位に噴霧し、測定された該第1の所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した後、前記第2の所定部位における温度の測定を開始するとともに該第2の所定部位への液体離型剤の噴霧を開始してもよい。
【0009】
また、上記課題を解決するために、本発明にて講じた技術的手段の第2は、請求項4に記載のように、金型の成形面の所定部位における温度を測定する放射温度計と、少なくとも前記所定部位に向けて液体離型剤を噴霧するノズルと、前記所定部位における表面温度を測定しながら前記ノズルから前記液体離型剤を噴霧させるとともに、測定された前記表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に前記液体離型剤の噴霧を停止する制御手段と、備えることを特徴とする金型の温度制御装置である。
【0010】
さらに、請求項5に記載のように、前記成形面において前記所定部位として互いに連続する第1の所定部位と第2の所定部位とで前記ノズルを走査するアームをさらに有し、前記制御手段は、前記第1の所定部位の表面温度を測定しながら該第1の所定部位に対して前記液体離型剤を噴霧し、測定された該第1の所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した後、前記第2の所定部位における温度の測定を開始するとともに該第2の所定部位への液体離型剤の噴霧を開始するものでもよい。この場合、請求項6に記載のように、 前記放射温度計は前記ノズルとともに前記アームに備えられているのがよい。
【0011】
また、本発明の第1及び第2においては、好ましくは、前記放射温度計の測定波長は3〜5マイクロメートルであると良い。
【発明の効果】
【0012】
本発明に係る金型の温度制御方法及び装置は、放射温度計を用いて成形面の所定部位における表面温度を測定しながら液体離型剤を該所定部位に噴霧し、測定された表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に、該所定部位における液体離型剤の噴霧を停止する。この構造においては、所定部位の表面温度が所定温度に達するまで液体離型剤が噴霧されるので、ノズルから噴霧される液体離型剤の噴霧量にばらつきがあっても、成形面の所定部位が安定して所望の温度に冷却される。また、所定部位における温度を測定するタイミングと所定部位に離型剤を噴霧するタイミングとの間にズレがほとんどない。そのため、離型剤を噴霧する際の温度と、測定した温度とのズレがほとんどなく、目標温度まで高精度に冷却することができる。さらに、離型剤を噴霧した結果、実際に目標温度になったかどうかを容易に推定することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明を実施するための最良の形態を、図面を基に説明する。
【0014】
図1は、本発明に係る金型の温度制御装置1の構成を示す図である。ダイカストマシンの金型は、固定型2と可動型3とで構成され、可動型2が固定型3に対して型締め手段(図示なし)にて開閉される。金型の温度制御装置1は、固定型2及び可動型3の表面(成形面)の温度をモニター(測定、監視)しながら、固定型2及び可動型3の表面に液体離型剤(以下、離型剤)を噴霧するものである。
【0015】
金型の温度制御装置1は、固定型2や可動型3の型温(表面温度)を測定する放射温度計4と、スプレー本体5と、ロボットアーム6(アーム)と、制御手段7とを備えている。スプレー本体5は、ロボットアーム6の先端に取り付けられている。スプレー本体5には、固定型2及び可動型3の表面に離型剤を局所的に噴射するノズル51が設けられている。これにより、成形面の所定部位に向けて離型剤を噴霧することができる。スプレー本体5は、離型剤供給手段(図示なし)と接続している。離型剤のスプレー本体5への供給は、制御手段7によって制御される。スプレー本体5に供給された離型剤は、固定型2及び可動型3の表面に向けてノズル51から噴霧される。放射温度計4は、物体が放射している赤外線(放射エネルギー)を測定することによって温度を測定する公知のものである。本実施形態においては、容易に入手可能な汎用品を、放射温度計4として適用できる。放射温度計4は、図1に示す様にノズル51とともにロボットアーム6に備えられている。具体的には、放射温度計4は、スプレー本体5に取り付けられている。あるいは、放射温度計4は、図2に示す様に固定型2の上部に設置してもよい。また、両図における放射温度計4は可動型3の型温を測定するよう設置してあるが、固定型2の型温も測定するよう複数設置しても良い。
【0016】
図3乃至図5は、測定波長の異なる放射温度計を用いてテストプレート表面の温度を測定した結果を示すグラフで、実際の金型に離型剤を噴霧した状態を模擬したものである。なお、これらのグラフには、熱電対による温度の測定結果も併せて示されている。測定波長2μm(感度波長1.5〜2.5μm程度)の放射温度計を用いた場合、離型剤の蒸気の影響により、冷却周辺に高温度部があると高温部からの赤外線が蒸気で散乱して放射温度計に入り込み、実際よりも高温の値を示す(図3参照)。測定波長8〜14μmの放射温度計を用いた場合、離型剤の蒸気の影響は受けないが、テストプレート表面上の離型剤被膜の温度を測定している(図4参照)。ところが、測定波長4μm(感度波長3〜5μm程度)の放射温度計を用いた場合、離型剤の蒸気の影響も少なく、離型剤被膜の温度ではなく、離型剤被膜下のテストプレートの温度を測定している(図5参照)。したがって、測定波長4μm(感度波長3〜5μm程度)の放射温度計4や赤外線カメラ(サーモグラフィー)を使用すれば、離型剤噴霧中の金型の温度を精度よく測定できることがわかる。
【0017】
次に、金型の温度制御装置1における温度制御方法について説明する。温度制御とは、ワーク取り出し工程と型締め工程の間に行われる制御であって、固定型2あるいは可動型3の表面温度をあらかじめ定めた所定温度まで冷却するための制御をいう。
【0018】
ダイカストマシンにおいて、射出完了後に型が開いて、固定型2あるいは可動型3からワークが取り出されると、スプレー本体5を備えたロボットアーム6が固定型2と可動型3の間に移動する。そして、スプレー本体5を備えたロボットアーム6は、あらかじめ組み込まれた噴霧経路にしたがって、成形面上を走査される。まず、ロボットアーム6により、スプレー本体5は第1のスプレーポイントに移動し、離型剤の噴霧を開始する。これにより、固定型2及び可動型3の表面(成形面)のうち第1の所定部位に向けて離径剤が噴霧される。離型剤が噴霧されている間、可動型3の表面のうち離型剤が噴霧されている部分(第1の所定部位)の局部的な温度は、放射温度計4によってモニター(測定、監視)されている。そして、図6に示す様にモニターされた温度が予め定めた目標温度T1に達した場合に、制御手段7が離型剤の噴霧を停止する。そして、スプレー本体5を備えたロボットアーム6が次の(第2の)スプレーポイントに移動し、離型剤の噴霧を再度開始する。これにより、固定型2及び可動型3の表面(成形面)のうち、第2の所定部位に向けて離型剤の噴霧が開始される。これ以降、前述の温度制御が同様に行われる。
【0019】
当然、金型の部位によっては、図6の破線のように高温部もあり、噴霧時間を部位によって最適に制御できる。また、噴霧部位の金型内部は冷却されていないので、図6に示すように、固定型2と可動型3の表面温度は伝搬する内部の温度によって上昇し温度T2となる。この温度T2は品質よく鋳造するのに適した温度である。従って、次のサイクルで射出され鋳造されたワークの品質劣化を防止できる。また、固定型2と可動型3が所定の温度T2まで冷却されるので、焼き付き等によるマシントラブルを防止することができ、稼働率向上を図ることができる。ところで、鋳造開始時には、固定型2と可動型3の表面温度が目標温度T1よりも低い場合がある。このとき制御手段7は、最低塗布制御をおこなう。この最低塗布制御は、固定型2と可動型3からワークを取り出せるのに必要最低限な量の離型剤を塗布するための制御であって、ワークの離型性を確保して、固定型2と可動型3を保護するために行われる。
【0020】
本実施形態に係る金型の温度制御装置1は、放射温度計4を用いて金型の成形面の所定部位における表面温度を測定しながら液体離型剤を該所定部位に噴霧し、測定された表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に、所定部位に対する液体離型剤の噴霧を停止する。この構造においては、金型の表面温度が所定温度に達するまで液体離型剤がノズル51から噴霧されるので、ノズル51から噴霧される液体離型剤の噴霧量にばらつきがあっても、金型が安定して所望の温度に冷却される。
【0021】
さらに、第1の所定部位における表面温度を測定しながら該第1の所定部位に対して離型剤を噴霧し、測定された該第1の所定部位における表面温度が所定温度に達した後、第2の所定部位への離型剤の噴霧を開始するので、成形面の所定部位毎に表面温度のばらつきがあっても、各所定部位の温度を所定の温度まで冷却することができる。さらに、各所定部位の温度をリアルタイムで測定しているので、それぞれの所定部位における目標温度と実際の温度とのズレを可及的に抑制することができる。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】金型の温度制御装置1の構成を示す図。
【図2】金型の温度制御装置1の構成を示す図。
【図3】放射温度計によるテストプレート表面の温度測定結果を示すグラフ。
【図4】放射温度計によるテストプレート表面の温度測定結果を示すグラフ。
【図5】放射温度計によるテストプレート表面の温度測定結果を示すグラフ。
【図6】金型における表面温度の変化を示す図。
【符号の説明】
【0023】
1 金型の温度制御装置
4 放射温度計
7 制御手段
51 ノズル

【特許請求の範囲】
【請求項1】
鋳造に用いられる金型の成形面に液体離型剤を塗布する際に、放射温度計を用いて該成形面における所定部位の温度を測定しながら液体離型剤を該所定部位に噴霧し、測定された前記所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に該所定部位における前記液体離型剤の噴霧を停止することを特徴とする金型の温度制御方法。
【請求項2】
前記成形面は、前記所定部位として互いに連続する第1の所定部位と第2の所定部位とを有し、
前記第1の所定部位の温度を測定しながら液体離型剤を該第1の所定部位に噴霧し、測定された該第1の所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した後、該第2の所定部位への液体離型剤の噴霧を開始することを特徴とする請求項1に記載の金型の温度制御方法。
【請求項3】
前記放射温度計の測定波長は3〜5マイクロメートルであることを特徴とする請求項1又は2に記載の金型の温度制御方法。
【請求項4】
金型の成形面の所定部位における温度を測定する放射温度計と、
少なくとも前記所定部位に向けて液体離型剤を噴霧するノズルと、
前記所定部位における表面温度を測定しながら前記ノズルから前記液体離型剤を噴霧させるとともに、測定された前記表面温度が予め定めた所定温度に達した場合に前記液体離型剤の噴霧を停止する制御手段と、
を備えることを特徴とする金型の温度制御装置。
【請求項5】
前記成形面において前記所定部位として互いに連続する第1の所定部位と第2の所定部位とで前記ノズルを走査するアームをさらに有し、
前記制御手段は、前記第1の所定部位の表面温度を測定しながら該第1の所定部位に対して前記液体離型剤を噴霧し、測定された該第1の所定部位の表面温度が予め定めた所定温度に達した後、該第2の所定部位への液体離型剤の噴霧を開始することを特徴とする請求項4に記載の金型の温度制御装置。
【請求項6】
前記放射温度計は前記ノズルとともに前記アームに備えられていることを特徴とする請求項5に記載の金型の温度制御装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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