説明

金型及びこれを用いる成形装置並びに方法

【課題】型の成形面中心部と周辺部の温度を略同じに一定に保つ。
【解決手段】熱電対を取り付けるための測温穴25を、成形面19に近くで、かつ中心部から周辺部にずれた位置に設ける。制御部は、熱電対から得られる温度信号に基づいて加熱手段の加熱能力を制御する。型16の周辺部は、加熱手段に近くかつ中心部より熱応答性が高いため、ハンチング現象の少ない安定した温度に制御される。周辺部の温度を安定した温度に制御することで、所定時間経過後に、型16の中心部は周辺部と略同じ温度で一定に維持することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型及びこれを用いる成形装置並びに方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
プレス成形を用いて光学レンズを製造するレンズ成形装置が知られている。プレス成形とは、高精度な成形面を有する一対の型間に成形素材を載置し、一対の型及び成形素子を加熱手段でガラス転移点以上の温度まで加熱した後、プレス成形を行って成形面の形状を転写して光学レンズを成形するものである。
【0003】
加熱手段としては、誘導加熱方式を用いるものや、赤外線ランプを用いるものがある。これらは、一対の型の周りを取り囲むようにプレス方向に並べて複数配されている。プレス成形では、成形されたレンズの冷却に際して、上型と下型との間に温度差があると、内部応力が発生し、成形表面の割れ等の品質不良を発生させるという問題がある。このため、熱電対などの温度センサを一対の型の軸上(中心部)の成形面近くに取り付け、成形面近くの温度をそれぞれ測定し、その測定温度に基づいて一対の型が予め決めた目標温度になるように各々の加熱手段の能力を個別に制御をしている(例えば特許文献1)。
【特許文献1】特開平6−263463号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
しかしながら、金型の外周から加熱する場合、金型中心部の温度が一定になるように加熱手段の加熱能力を制御すると、図5に示すように、加熱手段に近くかつ中心部より応答性の高い金型周辺部の温度には、上下に変動するハンチング現象が生じる。このため、金型周辺部を中心部と同じ温度に保つことができない。成形面の中で温度分布が生じると、成形された光学レンズに内部歪みが生じたり光学面の形状精度が悪くなるおそれがある。
【0005】
本発明は、上記のような問題点を解決するためになされたもので、型温度を周辺部と中心部とで略同じ温度に保ち、品質の高い成形品を形成することができる金型及びこれを用いる成形装置並びに方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明では、金型の一部を構成する型の内部のうちの型中心から外方向に寄った周辺部に、温度センサを取り付けるための測温穴を設けたものである。そして、型内部のうちの周辺部の温度を基に、型の温度が予め決めた温度になるように加熱手段の加熱能力を制御するものである。型周辺部の温度に基づいて型周辺部の温度が一定になるように加熱手段を制御すると、型周辺部の温度が一定になった後、型の周辺部から中心部へ熱が伝達されるため、所定時間経過後に型中心部の温度が周辺部の温度と略等しくなる。これにより、型の成形面内の温度勾配を無くし、一定の温度に維持することができる。
【0007】
測温穴としては、型中心から外方向に寄った周辺部でかつ成形面に近い位置に形成するのが望ましい。温度センサとしては、熱電対を用いるのが、耐熱性が高いので望ましい。加熱手段は、型を加熱するためのものであり、型の一部を加熱する加熱手段や型の周りを取り囲むように配し型全体を加熱する加熱手段であってもよい。後者の加熱手段としては、金型の外周から非接触で加熱する手段、例えば高周波誘導加熱手段や赤外線ランプを用いるのが望ましい。
【発明の効果】
【0008】
本発明によれば、型中心から外方向に寄った周辺部に測温穴を設けたから、周辺部の測温穴に取り付けられる温度センサから得られる温度信号に基づいて型周辺部の温度が一定になるように加熱手段を制御すると、周辺部の温度が一定になった後、周辺部から中心部へ熱が伝達され、所定時間経過後に型中心部の温度が周辺部の温度と略等しくなる。これにより、型の成形面内の温度勾配を無くし、一定の温度に維持することができる。よって、例えば光学レンズに内部歪みが生じたり、光学面の形状精度が悪くなるような不都合を確実に防止し、高品質の成形品を成形することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0009】
本発明の実施形態であるレンズ成形装置10は、図1に示すように、金型11、加熱手段12、及び、制御部14等を備えている。金型11は、上・下型15,16、及び、胴型17とで構成される。上・下型15,16には、対向する面に、成形素材(例えばプリフォーム硝材)を成形するための成形面18,19がそれぞれ形成されている。胴型17及び上型15は、プレス方向に移動する移動型になっており、下型16は固定型である。胴型17は、上・下型15,16の中心を揃え、かつ、上・下型15,16の間隔を位置決めして成形品(光学ガラス)の中心厚を調節する。加熱手段12は、一対の型15,16の周りを取り巻くように配されている。本実施形態では、加熱手段12として、高周波誘導加熱方式の加熱手段を用いている。よって、加熱手段12は、誘導コイルを、上・下型15,16の周りを取り囲むように配した構成になっている。
【0010】
下型16には、胴型17に当接する段部20が外周に形成されて、大径の第1筒21とこれよりも小径な第2筒22とからなる二段筒形状になっている。第1筒21の内部には、肉厚を薄くして加熱応答性を高めるために、空洞部23が形成されている。この空洞部23の底には、熱電対24を取り付けるために断面円形の測温穴25がプレス方向と平行に形成されている。測温穴25は、成形面19に近く、かつ、第2筒22の中心部から周辺部寄りにずれた位置に形成されている。
【0011】
熱電対24は、周知のシース熱電対であり、熱電能の異なる二種類の金属線を端部同士で接合して、2つの接合点を異なる温度にすると、一方の方向に電流が流れ、熱起電力が生じるゼーベック効果を利用した温度センサである。
【0012】
熱電対24は、先端部(温接点)が測温穴25の底に挿入されており、導線部分が空洞部23を通して下型16の外部に取り出され、後端部(冷接点)がアンプ27を介して制御部14に接続されている。アンプ27は、熱電対24から得られる温度信号を増幅する。制御部14は、アンプ27から得られる温度信号に基づいて、一対の型15,16及び成形素材が予め決めた目標温度になるように、高周波電源28を介して加熱手段12の能力を制御する。高周波電源28は、加熱手段12に供給する電力を調整する。
【0013】
上型15は、成形面18を除いて下型16と同じ形状になっている。この内部にも、周辺部寄りでかつ成形面18寄りに測温穴30が設けられており、測温穴30に熱電対31が取り付けられている。この熱電対31の後端部がアンプ33を介して制御部14に接続されている。
【0014】
測温穴25は、図2にも示すように、第2筒22の周辺部寄りでかつ成形面19に近くに形成されている。図3に示すように、熱電対24は、正確な測定を行なうために、その先端部24aが測温穴25の底に接触して取り付けられる。熱電対24は、ステンレス製などの保護管32に収納される。本実施形態では、周辺部から測温穴25の底中心までの径方向長さL、及び、成形面19を形成した面19aから測温穴25の底までの軸方向長さHが、下型16の中心軸から測温穴25の底中心までの径方向長さWよりも短い長さとなる位置に、測温穴25を形成している。なお、図1では、測温穴25が180度ずれた向きで上・下型15,16を組み合わせているが、上・下型15,16を測温穴25が対向する向きになるように組み合わせてもよい。
【0015】
レンズ成形は、大別して、成形素材の供給工程、加熱工程、プレス工程、徐冷工程、急冷工程、及び、成形品の取出し工程の順で行われる。これら一連のサイクルを繰り返し行うことで連続的に成形品を成形する。なお、図示していないが、本実施形態のレンズ成形装置10は、内部を気密状態に維持することができる成形室に内蔵されている。
【0016】
成形素材の供給工程では、成形素材の供給工程では、上型15が上方に退避しており、胴型17は下型16に組み込まれている。成形室のシャッタを開いて成形素材を下型16の成形面19に移載する。
【0017】
加熱工程では、一対の型15,16及び成形素材を加熱する。このとき、制御部14は、一対の熱電対24,31から得られる温度信号に基づいて加熱手段12の加熱能力を制御する。一対の熱電対24,31は、一対の型15,16の中心部よりも周辺部寄りの温度を測定し、制御部14は、一対の熱電対24,31から得られる温度信号に基づいて、一対の型15,16の周辺部寄りの温度が一定になるように加熱手段12の加熱能力を制御する。
【0018】
このように型15,16の周辺部の温度を基準にして、周辺部の温度をハンチング現象の少ない安定した温度に制御すると、一対の型15,16の周辺部と中心部が一体構造であるので、周辺部の熱が中心部に向けて伝達され、図4に示すように、所定時間経過後に、一対の型15,16の周辺部と中心部との温度が略同じになる。これにより、一対の型15,16の径方向での温度勾配がなくなり、一対の型15,16の温度を一定の温度に保つことができる。
【0019】
一対の型15,16及び成形素材が目標温度(ガラス転移点以上の温度)になると、所定時間経過後に、プレス工程が行われる。プレス工程では、上型15を下降して胴型17に組み込むとともに、図示していない加圧手段により上型15を下型16に向けて加圧する。これにより、上・下型15,16の成形面18,19の形状が成形素材に転写されて成形品が成形される。なお、加熱・プレス工程では、型15〜17の酸化を防止するために、成形室内の雰囲気をチッ素ガスなどの不活性ガス雰囲気に保っている。
【0020】
徐冷工程では、不活性ガスを一対の型15,16及びその周りに供給して、一対の型15,16及び成形品をガラス転移点以下の温度まで徐々に冷却する。この徐冷工程では、成形面18,19の曲率半径等の形状の違いにより成形面18,19の冷える速度が異なる。この徐冷過程での温度変化は、上・下型15,16に内蔵した熱電対24,31によりリアルタイムで制御部14に取り込まれ、一対の型15,16の温度が経過時間毎に予め決めた設定温度になるように制御部14が加熱手段12,13の加熱能力を制御する。
【0021】
このときも、上・下型15,16の周辺部寄りに取り付けられた熱電対24,31から得られる測定温度に基づいて加熱手段12,13の加熱能力を制御するため、ハッチング現象の少ない安定した制御をすることができる。このため、一対の型15,16に温度分布が生じない状態を維持しながら徐冷することができる。これにより、一対の型15,16間の温度差及び一対の型15,16のそれぞれの内部の温度差によって生ずる内部応力の発生が防止され、表面に割れ等がない高品質の成形品を製造することができる。なお、徐冷工程では、不活性ガスを型15,16及びその周りに供給せずに、降温する速度が緩やかになるように加熱手段12,13の加熱能力のみで徐冷を行っても良い。また、降温の勾配を最大にするために、加熱手段12,13の駆動を停止し、不活性ガスの供給のみで徐冷を行ってもよい。さらに、加熱手段12,13の駆動、及び不活性ガスの供給を停止して自然冷却させてもよい。
【0022】
一対の型15,16及び成形品の温度がガラス転移点以下の温度になると、徐冷工程を終了して、急冷工程を行う。急冷工程では、不活性ガスを一対の型15,16及びその周りに供給して一対の型15,16及び成形品を取り出し可能な温度(成形品を型から離型する温度)まで冷却する。この冷却工程の最後又は後で、上型15、及び、胴型17を順に上方に退避させる。そして、成形品取り出し工程では、成形室のシャッタを開いて、成形品を下型16の成形面19からロボットアームによって取り出す。
【0023】
以上説明した実施形態では、下型16を固定にし、胴型17及び上型15を移動する構造としているが、胴型17を固定とし上・下型15,16を移動させる構造でもよいし、上型15を固定とし胴型17及び下型16を移動させる構造でもよい。また、一対の型15,16及び胴型17とからなる金型を用いているが、胴型17を省略し一対の型15,16のみで構成される金型を用いて成形してもよい。さらに、加熱手段として加熱手段12,13を用いているが、赤外線ランプなどを用いもよい。さらにまた、測温穴25を上・下型15,16にそれぞれ形成しているが、いずれか一方の型のみに形成し、その測温穴に設けた温度センサに基づいて加熱手段の加熱能力を制御してもよい。また、加熱応答性を高めるために、第1筒21の内部に空洞部23が形成されているが、さらに加熱応答性を高めるために、第2筒22の内部にも空洞部を設けてもよい。この場合、第2筒22のうちの成形面19に繋がる側面の厚み内に、測温穴25をプレス方向に向けて形成すればよい。
【0024】
上記各実施形態では、ガラス素材からガラス成形品を得る実施形態としているが、本発明ではこれに限らず、例えば樹脂材料を用いて樹脂成形品を得る成形装置でもよく、さらに、成形品としては、レンズ以外のものでもよい。さらにまた、本発明は、加熱成形にも利用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0025】
【図1】本発明の実施形態であるレンズ成形装置の構成を示す断面図である。
【図2】下型を示す斜視図であり、半分を破断して示している。
【図3】測温穴の底の部分を示す拡大断面図である。
【図4】本発明での温度制御を行った場合の型温度を示すグラフである。
【図5】従来技術で説明したレンズ成形装置での温度制御を行った場合の型温度を示すグラフである。
【符号の説明】
【0026】
10 レンズ成形装置
15 上型
16 下型
12 加熱手段
14 制御部
18,19 成形面
24,31 熱電対
25,30 測温穴

【特許請求の範囲】
【請求項1】
型の内部に配した温度センサから得られる温度信号に基づいて加熱手段の加熱能力を、前記型の温度が予め決めた温度になるように制御する成形方法において、
前記型の内部のうちの型中心から外方向に寄った周辺部の温度を基に、前記加熱手段の加熱能力を制御することを特徴とする成形方法。
【請求項2】
型の温度が予め決めた温度になるように加熱手段の加熱能力を制御するために用いられる温度センサが取り付けられる金型において、型の内部のうちの型中心から外方向に寄った周辺部に、前記温度センサを取り付けるための測温穴を設けたことを特徴とする金型。
【請求項3】
型の内部に配した温度センサから得られる温度信号に基づいて加熱手段の加熱能力を、前記型の温度が予め決めた温度になるように制御する成形装置において、
前記型の内部のうちの型中心から外方向に寄った周辺部に、前記温度センサを取り付けるための測温穴を設けたことを特徴とする成形装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−234161(P2009−234161A)
【公開日】平成21年10月15日(2009.10.15)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−85788(P2008−85788)
【出願日】平成20年3月28日(2008.3.28)
【出願人】(306037311)富士フイルム株式会社 (25,513)
【Fターム(参考)】