説明

金型表面の凹凸模様加工方法

【課題】耐食皮膜の形成に要する時間、ひいては凹凸模様の形成に要する時間を大幅に短縮することのできる金型表面の凹凸模様加工方法を提供する。
【解決手段】突部及び凹部からなる微細な凹凸模様を金型の表面に加工する方法である。この加工方法では、金型の表面(可動型21における成形凹部22の内底面27)について凹凸模様の突部が形成される予定の箇所に耐食皮膜34を形成し、上記表面(内底面27)について耐食皮膜34により被覆されず露出している箇所をエッチングにより腐食除去した後、洗浄により耐食皮膜34を溶解除去する。上記耐食皮膜34の形成に際しては、インクジェットのインクヘッド47のノズル群48から耐食皮膜形成用の溶剤61を噴射させ、同溶剤61を、前記表面(内底面27)について前記凹凸模様の突部が形成される予定の箇所に付着させる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金型の表面にシボ模様等の微細な凹凸模様を加工する方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車用内装品等の一態様として、大部分が合成樹脂によって形成され、かつその合成樹脂の表面にシボ模様、木目模様等といった微細な凹凸模様が擬似的に表現(再現)されたものがある。この凹凸模様は、自動車用内装品の樹脂成形時に一緒に形成される。すなわち、表面に凹凸模様を有する金型が用いられ、キャビティに溶融樹脂が充填される際に、その溶融樹脂に対し金型表面の凹凸模様が転写される。この転写により、自動車用内装品の表面には、金型の凹凸模様とは逆の凹凸関係を有する凹凸模様が形成される。
【0003】
上記凹凸模様は、大まかには次の工程1〜工程4を経て金型の表面に形成される。
工程1:金型の表面に付着している油、埃等が洗浄により除去される。
工程2:金型の表面において、凹凸模様の突部が形成される予定の箇所に対し防食処理が施される。より詳しくは、同箇所に、エッチング液により腐食されず、かつ洗浄液に可溶な耐食皮膜が形成される。
【0004】
工程3:金型の表面において、耐食皮膜により被覆されず表面の露出している箇所がエッチング液により腐食除去される。金型表面において、上記のようにして腐食除去された箇所が凹凸模様の凹部となる。
【0005】
工程4:洗浄液により上記耐食皮膜が溶解除去され、この箇所が凹凸模様の突部となる。
上記工程2において耐食皮膜を形成する方式としては、感光式、転写式等が知られている。例えば、前者の方式(感光式)では、金型表面にレジスト(耐酸性を有する感光剤)が塗布される。凹凸模様の突部に対応する箇所に孔を有するパターンフィルムが用意される。このパターンフィルムの孔の部分を通して光がレジストに照射されると、レジストにおいて光の照射された箇所が感光される。さらに、水洗されることにより、レジストにおいて感光されていない箇所が溶解除去されて金型表面が露出する一方、感光された箇所が上記耐食皮膜として金型表面に残る。
【0006】
また、後者の方式(転写式)では、例えば特許文献1に記載されているように、所定の溶剤に可溶な耐酸レジストが用いられて、転写紙に任意の模様の第2レジストパターンが印刷される。所定の溶剤に不溶な耐酸レジストが用いられて、上記転写紙上に、第2レジストパターンとは異なる第1レジストパターンが印刷される。そして、上記転写紙上に印刷された2つのレジストパターンが金型表面に転写される。
【0007】
なお、凹凸模様に高低差を設ける場合には、上記工程1〜工程4の処理が繰り返し行われる。
【特許文献1】特開平9−263973号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
ところが、上記従来の凹凸模様の加工方法では、工程2の実施に際し、感光式、転写式のいずれの方式であっても、上述したように多数の処理を経なければならず、多大な時間を要しているのが実情である。
【0009】
特に、高低差を有する凹凸模様を加工する場合には、上記多くの処理からなる工程2を含め、上記工程1〜工程4の一連の処理が繰り返し行われるため、凹凸模様の加工に要する時間がより一層長くなる。
【0010】
本発明は、このような実情に鑑みてなされたものであって、その目的は、耐食皮膜の形成に要する時間、ひいては凹凸模様の形成に要する時間を大幅に短縮することのできる金型表面の凹凸模様加工方法を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0011】
上記の目的を達成するために、請求項1に記載の発明は、突部及び凹部からなる微細な凹凸模様を金型の表面に加工する方法であって、前記金型の表面について前記凹凸模様の突部が形成される予定の箇所を、耐食性を有し、かつ洗浄液に可溶な耐食皮膜により被覆し、前記表面について前記耐食皮膜により被覆されていない箇所をエッチング液により腐食除去した後、前記洗浄液により前記耐食皮膜を溶解除去することにより、前記表面に前記凹凸模様を形成するようにした金型表面の凹凸模様加工方法において、前記耐食皮膜の形成に際し、インクジェットのノズルから、耐食皮膜形成用の溶剤を噴射させ、同溶剤を、前記表面について前記凹凸模様の前記突部が形成される予定の箇所に付着させることを要旨とする。
【0012】
ここで、凹凸模様としては、皮革の表面に見られるしわ模様、いわゆるシボ模様が代表的であるが、そのほかにも、木目、岩目、砂目、梨地、幾何学模様等、高低差(凹凸)のある微細な模様も凹凸模様に含まれる。
【0013】
上記の加工方法によれば、金型の表面の一部(凹凸模様の突部が形成される予定の箇所)を耐食皮膜により被覆する際、インクジェットのノズルから溶剤が噴射される。この溶剤が、金型の表面について凹凸模様の突部が形成される予定の箇所に精度よく付着し、同箇所に、所望の形状をなす耐食皮膜が形成される。この耐食皮膜により上記箇所が被覆される。
【0014】
続いて、金型の表面について、上記耐食皮膜により被覆されず露出している箇所がエッチング液により腐食除去されて窪みとなる。この際、耐食皮膜は、凹凸模様の突部が形成される予定の箇所をエッチング液による腐食から保護する。金型の表面において上記窪みとなった箇所により凹凸模様の凹部が構成される。その後、洗浄液により上記突部上の耐食皮膜が溶解除去される。金型表面について、耐食皮膜の溶解除去された箇所により凹凸模様の突部が構成される。このようにして金型表面に凹凸模様が形成される。
【0015】
凹凸模様を加工する上記一連の工程において、従来では多くの処理を要した耐食皮膜の形成のために、請求項1に記載の発明では、インクジェットのノズルから溶剤を噴射させ、これを金型表面において凹凸模様の突部が形成される予定の箇所に付着させるだけですむ。従って、耐食皮膜の形成に要する時間を短縮し、もって凹凸模様の形成に要する全体の時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0016】
請求項2に記載の発明は、請求項1に記載の発明において、前記エッチング液による腐食除去に際し、インクジェットのノズルから前記エッチング液を噴射させ、同エッチング液を、前記表面について前記耐食皮膜により被覆されず露出している箇所に付着させることを要旨とする。
【0017】
上記の加工方法によれば、エッチング液による腐食除去に際し、インクジェットのノズルからエッチング液が噴射される。このエッチング液が、金型表面について耐食皮膜により被覆されず露出している箇所に精度よく付着する。この付着したエッチング液により、上記金型表面の露出箇所のみが腐食除去されて窪みとなり、凹凸模様の凹部が形成される。
【0018】
このように、エッチング液による腐食除去についても、インクジェットのノズルからエッチング液を噴射させることで実現することができる。上述した耐食皮膜の形成に要する時間に加え、腐食除去に要する時間についても短縮を図ることができ、凹凸模様の形成に要する全体の時間をより一層短縮することが可能となる。また、金型表面において腐食除去に関わる箇所にのみ、すなわち必要な箇所にのみエッチング液が付着されるため、エッチング液の不要な消費を抑制することができる効果もある。
【0019】
請求項3に記載の発明は、請求項2に記載の発明において、前記エッチング液による腐食除去に際し、同エッチング液に対し耐食性を有する材料により形成されたノズルから前記エッチング液を噴射させることを要旨とする。
【0020】
上記の加工方法によれば、エッチング液による腐食除去に際し、エッチング液は、同エッチング液に対し耐食性を有する材料によって形成されたノズルを通過する。そのため、ノズルは、こうした材料とは異なる材料によって形成された場合に比べ、エッチング液による腐食の影響を受けにくくなる。
【0021】
請求項4に記載の発明は、請求項1〜3のいずれか1つに記載の発明において、前記ノズル及び前記金型の両方を変位させて、前記ノズルに対する前記金型の相対位置を変更することにより、前記ノズルから前記金型の表面までの距離を略一定に維持し、この状態で前記ノズルからの噴射を実行することを要旨とする。
【0022】
上記の加工方法によれば、インクジェットのノズルから溶剤(請求項1)又はエッチング液(請求項2、請求項3)が噴射される際には、ノズルに対する金型の相対位置が変更されることで、ノズルから金型の表面までの距離が略一定に維持される。このため、常に、金型表面から略一定距離離れた箇所に位置するノズルから溶剤又はエッチング液が噴射されることとなる。その結果、金型表面において凹凸模様の加工対象となる箇所が平面でなくても、意図した箇所に確実に溶剤又はエッチング液を付着させることができる。
【0023】
また、上記相対位置の変更に際しては、ノズル及び金型の両方が変位させられる。そのため、ノズルを固定し、金型のみを変位させる場合に比べ、金型をゆっくり変位させることで上記相対位置を変えることが可能となる。小型の金型のみならず大型の金型に対しても高い精度で表面に溶剤又はエッチング液を付着させることができるようになる。
【発明の効果】
【0024】
本発明の加工方法によれば、インクジェットのノズルから溶剤を噴射させるといった簡単な処理により耐食皮膜を形成することができ、その耐食皮膜の形成に要する時間、ひいては凹凸模様の形成に要する時間を大幅に短縮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
(第1実施形態)
以下、本発明を、自動車用内装品を成形するための金型の表面に微細な凹凸模様を加工する方法に具体化した第1実施形態について、図1〜図10を参照して説明する。
【0026】
まず、金型によって成形される自動車用内装品について説明する。この自動車用内装品は、車両に取付けられる内装品のうち、シボ模様(皮革模様)、木目模様、梨地模様等といった、微細な突部及び凹部からなる凹凸模様を、意匠面である外表面に有するものである。例えば、コンソールリッド(肘掛け、小物入れ等の蓋)、センターコンソール、アームレスト等がこれに該当する。ここでは、図1及び図2の少なくとも一方に示すように、シボ模様からなる凹凸模様13が上面12に設けられたコンソールリッド11を例に説明する。コンソールリッド11の上面12は、幅方向における中央部分が最も高くなるように上方へ僅かに膨らむ凸状の曲面をなしている。上面12の凹凸模様13は、突起14と、その突起14の頂部よりも40〜80μm程度高さの低い凹所15とがそれぞれ多数設けられて構成されている。
【0027】
上記凹凸模様13は、コンソールリッド11において、(i)その上面12に立体的な質感を付与する、(ii)上面12に傷を付きにくくする、又は傷が付いても目立たなくする、(iii )上面12を滑りにくくする、等を目的として形成される。
【0028】
上記コンソールリッド11は、図3に示す射出成形用の金型16によって成形される。この金型16は、図3において二点鎖線で示す固定型17と、同図3において実線で示す可動型21とを備えて構成されている。可動型21は、図3の上下方向への移動可能に設けられており、上方へ移動することにより固定型17に接触し、下方へ移動することにより固定型17から離間するように構成されている。固定型17及び可動型21は、いずれも鋼材、亜鉛合金、アルミニウム合金等によって形成されている。
【0029】
固定型17には成形突部18が設けられ、可動型21には成形凹部22が設けられている。そして、可動型21が固定型17に接触(型締め)された状態では、成形凹部22内に成形突部18が入り込み、成形突部18及び成形凹部22間に、上記コンソールリッド11を成形するための空間であるキャビティ23が形成される。このキャビティ23に溶融樹脂が充填されて冷却硬化されると、所望のコンソールリッド11が図1に対し上下を逆にした態様で成形される。
【0030】
次に、図4〜図6を参照して、上記可動型21の成形凹部22について説明する。なお、図4及び図5において方向を特定するために、図4及び図5中、右下の箇所と左上の箇所とを結ぶ方向を「X方向」といい、右上の箇所と左下の箇所とを結ぶ方向を「Y方向」といい、上下方向をZ方向というものとする。X方向及びY方向はいずれも水平方向の一態様であり、Z方向は鉛直方向である。
【0031】
成形凹部22は、可動型21の上面24において開口している。成形凹部22はX方向についてはY方向についてよりも若干長く、Z方向については浅い形状をなしている。成形凹部22のY方向についての両内側面25,25、及びX方向についての両内側面26,26は、いずれも平面によって構成されている。これに対し、成形凹部22において、コンソールリッド11の上記上面12を形成するための内底面27は、Y方向についての中間部分で最も深く、同Y方向の両内側面25,25に近づくに従い深さが浅くなるように、下方へ僅かに膨らむ凹状の曲面をなしている。上記成形凹部22の内底面27及び内側面25,26は可動型21の表面の一部をなしている。
【0032】
成形凹部22の内底面27には、金型16を用いてコンソールリッド11を射出成形するときに、そのコンソールリッド11の上面12に上述した凹凸模様13を転写するため凹凸模様31が設けられている。図2及び図10に示すように、凹凸模様31は、上記コンソールリッド11の上面12における凹凸模様13のうち、凹所15を成形するための突部32と、突起14を成形するための凹部33とがそれぞれ多数設けられることによって構成されている。
【0033】
上記凹凸模様31は、次の工程1〜工程4を経ることで可動型21における成形凹部22の内底面27に形成される。
工程1:図6に示すように、可動型21の表面(少なくとも成形凹部22の内底面27)に付着している油脂、塵埃等の汚れ成分が脱脂洗浄により除去される。この処理は、汚れ成分が原因で、後述する工程2での耐食皮膜34の内底面27に対する密着性が低下するのを防止するために行われる。この工程1には、洗浄液による洗浄のほか、水洗、乾燥等の付帯した処理も含まれる。
【0034】
工程2:図7に示すように、成形凹部22の内底面27について、凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所に、エッチング液によって腐食されず(耐食性を有し)、かつ後述する工程4での洗浄液に対し可溶性を有する耐食皮膜34が形成される。この耐食皮膜34により上記箇所が被覆される。
【0035】
工程3:図8に示すように、成形凹部22の内底面27について、耐食皮膜34により被覆されず露出している箇所が、エッチング液により腐食除去されて窪み35となる。エッチング液としては、例えば、可動型21が鋼材によって形成されている場合には、添加剤の加えられた硝酸が適している。また、可動型21が銅系又は亜鉛系の金属材料によって形成されている場合には、添加剤の加えられた塩化第二鉄液がエッチング液として適している。エッチング液による腐食除去は、例えば、可動型21をエッチング液に浸漬して撹拌することによって行うことができる。
【0036】
上記エッチング液による腐食除去に際しては、図9に示すように上記耐食皮膜34が、凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所をエッチング液による腐食除去から保護する。そのため、成形凹部22の内底面27について耐食皮膜34により被覆された箇所は腐食除去されずに残る。そして、成形凹部22の内底面27において上記窪み35となった箇所により凹凸模様31の凹部33が構成される。
【0037】
工程4:図10に示すように、洗浄液により耐食皮膜34が溶解除去される。内底面27において、上記のように洗浄液により溶解除去された箇所が凹凸模様31の突部32となる。
【0038】
上記一連の工程中、工程1、工程3及び工程4の各内容については、従来と同様である。第1実施形態では、工程2の内容が従来と大きく異なる。この工程2の実施に際しては、図4及び図5に示す装置41が用いられる。
【0039】
装置41のテーブル42上には門形のフレーム43が立設されている。このフレーム43は、テーブル42上であってY方向に互いに離間した箇所に一対のコラム44,44を有している。フレーム43上の両コラム44,44間には、第1クロスレール45が支持されている。フレーム43及び第1クロスレール45間には、フレーム43に対し第1クロスレール45をY方向(水平方向)へ移動させる第1移動機構(図示略)が設けられている。
【0040】
また、第1クロスレール45の側方近傍には第2クロスレール46が支持されている。第1及び第2クロスレール45,46間には、第1クロスレール45に対し第2クロスレール46をX方向(水平方向)へ移動させる第2移動機構(図示略)が設けられている。
【0041】
さらに、第2クロスレール46には、インクジェットにおけるインクヘッド47が支持されている。第2クロスレール46及びインクヘッド47間には、第2クロスレール46に対しインクヘッド47をZ方向(鉛直方向)へ移動させるための第3移動機構(図示略)が設けられている。
【0042】
インクヘッド47には、上記耐食皮膜形成用の溶剤を貯留するための溶剤貯留室(図示略)と、その溶剤貯留室の開口を構成し、かつインクヘッド47の底面において露出する多数本のノズル群48(図7参照)とが設けられている。インクヘッド47では、溶剤貯留の壁を構成する圧電素子が振動させられて、ノズル群48の各ノズルから溶剤の粒滴が下方へ噴射される。このインクヘッド47におけるノズルの駆動方式には圧力パルス方式、電荷制御方式等、種々の方式がある。上述したインクヘッド47(圧電素子)の作動はコントローラ(図示略)によって制御される。ノズル群48から溶剤を一度に噴射して付着できる領域は、成形凹部22の内底面27に比べて狭い。
【0043】
なお、上述した第1〜第3の各移動機構は、例えばモータ、ボールねじ等により構成することができる。これらの各移動機構の作動により、インクヘッド47をX方向、Y方向及びZ方向にそれぞれ直線運動させることが可能である。
【0044】
上記テーブル42上には平板状の基台51が固定されている。基台51上において、Y方向に互いに離間した箇所には一対の第1軸受52,52が設けられている。両第1軸受52,52間には平板状の第1回動板53が配置されている。第1回動板53のY方向についての両側面にはそれぞれ第1シャフト54,54が固定されており、これらの第1シャフト54,54において、第1回動板53が上記両第1軸受52,52に回動可能に支持されている。これらの第1シャフト54,54の一方は、上記基台51上に固定された第1モータ55に駆動連結されている。この第1モータ55により、両第1シャフト54,54を中心として第1回動板53を回動させて、その傾きを調整することが可能である。
【0045】
第1回動板53上において、X方向に互いに離間した箇所には一対の第2軸受56,56が設けられている。両第2軸受56,56間には第2回動板57が配置されている。第2回動板57のX方向についての両側面にはそれぞれ第2シャフト58,58が固定されており、これらの第2シャフト58,58において、第2回動板57が上記両第2軸受56,56に回動可能に支持されている。これらの第2シャフト58,58の一方は、上記第1回動板53上に固定された第2モータ59に駆動連結されている。この第2モータ59により、両第2シャフト58,58を中心として第2回動板57を回動させて、その傾きを調整することが可能である。
【0046】
第2回動板57上には把持装置(図示略)が設けられており、可動型21が把持装置を介して第2回動板57に固定される。
装置41は、さらに、マイクロコンピュータを中心として構成された制御装置(図示略)を備えている。制御装置のメモリには、上記第1〜第3移動機構、第1モータ55及び第2モータ59の各作動(位置、速度等)を制御するための制御プログラムが記憶されている。そして、制御装置は、この制御プログラムに従って各移動機構及びモータ55,59の作動を制御する。
【0047】
この制御に応じて各移動機構及びモータ55,59が作動することにより、溶剤の噴射に際し、インクヘッド47がX方向、Y方向及びZ方向の少なくとも一方向へ移動させられる。また、可動型21が第1シャフト54及び第2シャフト58の少なくとも一方を中心として回動させられる。これらの移動及び回動により、ノズル群48の下端から成形凹部22の内底面27までの距離D(図7参照)が所定値に保たれる。ここでの所定値とは、上記距離Dについて、凹凸模様がにじんだりぼやけたりすることのない値に設定されている。
【0048】
上記装置41を用いて工程2を行う際には、可動型21を、その長手方向がX方向と一致するように第2回動板57上に装着する。
次に、可動型21の内底面27が下方へ僅かに膨らむ凹状の曲面となっていることから、第2モータ59により第2シャフト58を中心として第2回動板57をゆっくり回動させる。また、図7に示すように、ノズル群48の下端から内底面27までの距離Dが上記所定値となるように、第3機構によりインクヘッド47のZ方向の位置調整を行いながら、第1機構により第1クロスレール45をY方向へ移動させる。そして、この状態でノズル群48から上記耐食皮膜形成用の溶剤61を下方へ噴射させる。この溶剤61は、エッチング液によっては腐食されず、洗浄液に対して可溶性を有する液体からなる。溶剤61は、可動型21の内底面27について凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所に付着する。
【0049】
ここで、上記溶剤61の噴射に際し、上記のようにノズル群48に対する可動型21の相対位置が変更されることで、ノズル群48の下端から成形凹部22の内底面27までの距離Dが略一定に維持される。このため、常に、成形凹部22の内底面27から略一定距離Dだけ上方へ離れた箇所に位置するノズル群48から溶剤61が噴射されることとなる。その結果、成形凹部22の内底面27が平面でない(曲面である)ものの、意図した箇所に確実に溶剤61が付着される。
【0050】
上記内底面27に付着した溶剤61が乾燥されることで、可動型21の内底面27について凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所に、耐食皮膜34が所望の形状に綺麗に形成され、同箇所が耐食皮膜34によって被覆された状態となる。
【0051】
なお、インクヘッド47及び可動型21を変位させながらノズル群48から溶剤61を噴射させる処理は、耐食皮膜34が所定の厚みとなるまで複数回行われてもよい。
そして、上記のように耐食皮膜34が形成されると工程2が終了し、工程3(エッチング液を用いた腐食除去処理)へ移行される。
【0052】
以上詳述した第1実施形態によれば、次の効果が得られる。
(1)耐食皮膜34の形成のために多くの処理を要する従来技術とは異なり、第1実施形態では、インクジェットにおけるインクヘッド47のノズル群48から溶剤61を噴射させ、この溶剤61を、可動型21における成形凹部22の内底面27について、凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所に付着させるだけですむ。このため、耐食皮膜34の形成に要する時間を短縮し、もって凹凸模様31の形成に要する全体の時間を大幅に短縮することが可能となる。
【0053】
(2)ノズル群48に対する可動型21の相対位置を変更することにより、ノズル群48の下端から成形凹部22の内底面27までの距離Dを略一定に維持し、この状態でノズル群48から溶剤61を噴射させるようにしている。このため、可動型21において凹凸模様31の付される箇所が、下方へ僅かに膨らむように凹状に湾曲した内底面27であるものの、意図した箇所に確実に溶剤61を付着させることができる。
【0054】
(3)上記相対位置の変更に際しては、例えば特開平5−293955号公報に記載されているように、インクヘッド47を固定し、可動型21のみを変位させることも考えられる。この場合、可動型21が小型である場合には、成形凹部22の内底面27に精度よく溶剤61を付着させることが可能である。しかし、可動型21が大型である場合には、精度よく高速で可動型21を変位させるにも限度がある。結果として、小型の可動型21と同程度の溶剤61の付着(印刷)精度を確保することが難しくなる。
【0055】
この点、第1実施形態は上記相対位置の変更に際し、インクヘッド47及び可動型21の両方を変位させるようにしている。そのため、インクヘッド47を固定し、可動型21のみを変位させる上記の場合に比べ、可動型21をゆっくり変位させることで上記相対位置を変えることが可能となる。小型の可動型21のみならず大型の可動型21に対しても高い精度で溶剤61を付着させることができる。
【0056】
(4)第1実施形態では、成形凹部22の内底面27にのみ耐食皮膜34を形成する場合を例にとって説明したが、上記装置41を用いれば、上記内底面27に加え成形凹部22の内側面25,26に耐食皮膜34を形成することも可能である。これは、互いに直交する2つの軸(第1シャフト54、第2シャフト58)を中心とし、可動型21をそれらの軸の周りで回動させるとともに、インクヘッド47をX軸方向、Y軸方向及びZ軸方向へ変位させることにより、ノズル群48から内側面25,26までの距離Dを略一定に維持できるからである。
【0057】
そのため、いずれの内側面25,26に対しても所定の距離Dだけ上方へ離れた箇所に位置するノズル群48から溶剤61が噴射され、対象となる内側面25,26のどの箇所についても、凹凸模様31の突部32となる予定の箇所に溶剤61が確実に付着する。
【0058】
(第2実施形態)
次に、本発明を具体化した第2実施形態について、図11を参照して説明する。
第2実施形態は、上述した凹凸模様31の加工についての一連の処理のうち、工程3のエッチング液による腐食除去をインクジェットを用いて行う点で、工程2についてのみインクジェットを用いる第1実施形態と異なっている。
【0059】
この工程3は、少なくとも、工程2で用いられたインクヘッド47とは別のインクヘッド62を用いて行われる。装置41のインクヘッド62以外の構成部分は、工程2で用いられたものがそのまま用いられてもよい。この場合、工程2から工程3に移行する際に、インクヘッド47がインクヘッド62に交換される。これに代えて、工程3の実施に際し、工程2で用いられた装置41と略同一構成を有する(インクヘッド62が用いられた)別の装置が用いられてもよい。いずれの変更が行われる場合でも、インクヘッド62として、エッチング液に対し耐食性を有する材料により形成されたノズル群64が組み込まれたものが用いられる。このような材料としては、例えばセラミックス、ガラス等の無機材料が適している。このインクヘッド62の溶剤貯留室には、上記溶剤とは異なりエッチング液63が貯留されている。このインクヘッド62では、溶剤貯留の壁を構成する圧電素子が振動させられて、各ノズルからエッチング液63の粒滴が下方へ噴射される。
【0060】
この工程3の内容は、次の2点を除き上記工程2と同様である。
相違点1:ノズル群64から噴射される液体の種類が溶剤61からエッチング液63に替わる点。
【0061】
相違点2:成形凹部22の内底面27においてエッチング液63の付着される箇所が、凹凸模様31の突部32が形成される予定の箇所から、内底面27について耐食皮膜34により被覆されず露出している箇所に替わる点。
【0062】
なお、エッチング液63の噴射に際し、ノズル群64から内底面27までの距離Dを所定値に維持する点は工程2と同様である。この際、第1モータ55の制御を通じて、第1シャフト54,54を中心とした第1回動板53(可動型21)の回動が行われる。第2モータ59の制御を通じて、第2シャフト58を中心とした第2回動板57(可動型21)の回動が行われる。第1〜第3移動機構の各制御を通じて、第1クロスレール45のY方向への移動、第2クロスレール46のX方向への移動、インクヘッド47のZ方向の位置調整が行われる。
【0063】
このため、常に、成形凹部22の内底面27から略一定距離Dだけ上方へ離れた箇所に位置するノズル群64からエッチング液63が噴射される。その結果、成形凹部22(内底面27、内側面25,26)の意図した箇所に確実にエッチング液63が付着する。
【0064】
少なくとも内底面27に付着したエッチング液63により、同内底面27において耐食皮膜34により被覆されず露出している箇所のみが腐食されて窪み35となり、凹凸模様31の凹部33が形成される。
【0065】
なお、インクヘッド62及び可動型21を変位させながらノズル群64からエッチング液63を噴射させる処理は、窪み35が所定の深さとなるまで複数回行われてもよい。
そして、上記のように内底面27に窪み35が形成されると、工程3が終了し、工程4(洗浄処理)に移行される。
【0066】
以上詳述した第2実施形態によれば、上述した(1)〜(4)に加え、次の効果が得られる。
(5)エッチング液63による腐食除去に際し、インクヘッド62のノズル群64からエッチング液63を噴射させ、同エッチング液63を、成形凹部22の内底面27について耐食皮膜34により被覆されず露出している箇所にのみ付着させるようにしている。このため、上述した耐食皮膜34の形成に要する時間に加え、エッチング液63による腐食除去に要する時間についても短縮を図ることができ、凹凸模様31の形成に要する全体の時間をより一層短縮することができる。また、可動型21の成形凹部22において腐食除去に関わる箇所にのみ、すなわち必要な箇所にのみエッチング液63を付着させるだけでよいため、エッチング液63の不要な消費を抑制することができる。
【0067】
なお、本発明は次に示す別の実施形態に具体化することができる。
・上記ノズル群48,64に対する可動型21の相対位置の変更に際し、インクヘッド47,62を水平方向(X方向、Y方向)にのみ移動させ、金型(可動型21)を鉛直方向(Z方向)へ移動させてもよい。また、インクヘッド47,62をY方向にのみ移動させ、金型(可動型21)をX方向及び鉛直方向(Z方向)へ移動させてもよい。
【0068】
・ノズル群48,64から金型の表面(可動型21の内底面27、内側面25,26)までの距離Dは、必ずしも厳密に一定の値(所定値)に保たれなくてもよく、略一定に保たれてもよい。
【0069】
・可動型21を上記実施形態とは異なる姿勢で、例えば、内側面26,26がY方向に平行となり、内側面25,25がX方向に平行となる姿勢で、第2回動板57に装着してもよい。
【0070】
・本発明は、可動型21に代えて、又は加えて固定型17の表面に微細な凹凸模様31を加工する場合にも適用可能である。
・本発明は、自動車用内装品以外の車両の部品や、車両以外の用途に用いられる樹脂製品を成形するための金型において、微細な凹凸模様を加工する場合に広く適用可能である。
【0071】
その他、前記各実施形態から把握できる技術的思想について、それらの効果とともに記載する。
(A)請求項4に記載の金型表面の凹凸模様加工方法において、前記ノズルを水平方向及び鉛直方向へ直線復動させるとともに、前記金型を回動運動させるようにした。
【0072】
このように、インクジェットのノズルについての水平方向及び鉛直方向の直線運動と、金型についての回動運動とによって、ノズルから金型の表面までの距離を略一定に維持しつつ、ノズルに対する金型の相対位置を確実に変更することができる。
【図面の簡単な説明】
【0073】
【図1】本発明を具体化した第1実施形態におけるコンソールリッドの断面図。
【図2】コンソールリッドの上面における凹凸模様を拡大して示す断面図。
【図3】コンソールリッドの成形に用いられる金型を示す断面図。
【図4】凹凸模様の加工に際し、耐食皮膜の形成に用いられる装置を示す部分斜視図。
【図5】図4におけるA部を拡大して示す部分斜視図。
【図6】工程1が行われた後の可動型を示す断面図。
【図7】インクジェットのノズルから溶剤が成形凹部の内底面に向けて噴射される状態を示す断面図。
【図8】成形凹部の内底面において、耐食皮膜が形成されず露出している箇所が腐食される前の状態を示す断面図。
【図9】図8からさらに内底面が腐食除去された状態を示す断面図。
【図10】洗浄により耐食皮膜が内底面から溶解除去された状態を示す断面図。
【図11】本発明を具体化した第2実施形態を示す図であり、工程3の実施に際し、インクジェットのノズルからエッチング液が成形凹部の内底面に向けて噴射される状態を示す断面図。
【符号の説明】
【0074】
16…金型、21…可動型、27…内底面(金型の表面の一部を構成)、31…凹凸模様、32…突部、33…凹部、34…耐食皮膜、48,64…ノズル群、61…溶剤、63…エッチング液、D…距離。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
突部及び凹部からなる微細な凹凸模様を金型の表面に加工する方法であって、
前記金型の表面について前記凹凸模様の突部が形成される予定の箇所を、耐食性を有し、かつ洗浄液に可溶な耐食皮膜により被覆し、前記表面について前記耐食皮膜により被覆されていない箇所をエッチング液により腐食除去した後、前記洗浄液により前記耐食皮膜を溶解除去することにより、前記表面に前記凹凸模様を形成するようにした金型表面の凹凸模様加工方法において、
前記耐食皮膜の形成に際し、インクジェットのノズルから、耐食皮膜形成用の溶剤を噴射させ、同溶剤を、前記表面について前記凹凸模様の前記突部が形成される予定の箇所に付着させることを特徴とする金型表面の凹凸模様加工方法。
【請求項2】
前記エッチング液による腐食除去に際し、インクジェットのノズルから前記エッチング液を噴射させ、同エッチング液を、前記表面について前記耐食皮膜により被覆されず露出している箇所に付着させる請求項1に記載の金型表面の凹凸模様加工方法。
【請求項3】
前記エッチング液による腐食除去に際し、同エッチング液に対し耐食性を有する材料により形成されたノズルから前記エッチング液を噴射させる請求項2に記載の金型表面の凹凸模様加工方法。
【請求項4】
前記ノズル及び前記金型の両方を変位させて、前記ノズルに対する前記金型の相対位置を変更することにより、前記ノズルから前記金型の表面までの距離を略一定に維持し、この状態で前記ノズルからの噴射を実行する請求項1〜3のいずれか1つに記載の金型表面の凹凸模様加工方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【公開番号】特開2008−307713(P2008−307713A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−155500(P2007−155500)
【出願日】平成19年6月12日(2007.6.12)
【出願人】(000241463)豊田合成株式会社 (3,467)
【Fターム(参考)】