金型装置及びシリンダブロックの鋳造方法
【課題】ジャケット外方壁部を薄肉に形成できるシリンダブロックの鋳造技術を提供することを課題とする。
【解決手段】シリンダブロックを鋳造する金型装置30であって、キャビティ38から空気を排出する排気通路50がシリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口し、バルブピン60を弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、バルブピン60を弁開位置へ移動することで排気が可能であり、バルブピン60は鋳造後にキャビティ38へ突出させることによりシリンダブロックを押出す。
【効果】ジャケット外方壁部での湯廻りを良くしてジャケット外方壁部の薄肉化を実現すると共に、注湯時の排気機能及び離型時の押出し機能を得ることができる。
【解決手段】シリンダブロックを鋳造する金型装置30であって、キャビティ38から空気を排出する排気通路50がシリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口し、バルブピン60を弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、バルブピン60を弁開位置へ移動することで排気が可能であり、バルブピン60は鋳造後にキャビティ38へ突出させることによりシリンダブロックを押出す。
【効果】ジャケット外方壁部での湯廻りを良くしてジャケット外方壁部の薄肉化を実現すると共に、注湯時の排気機能及び離型時の押出し機能を得ることができる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックの鋳造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの要素の一つであるシリンダブロックは、ダイカストなどの鋳造法で製造される。シリンダブロックの鋳造技術として、各種の技術が提案されている(例えば、特許文献1(第7図参照)。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図14は従来の鋳造技術を説明する図であり、金型100のキャビティ101へ湯口102及び湯道103を介して注湯する。この際、隣接するボア形成用突部104、104の間に溜まる空気は、排気通路105を通じて上方に排出される。結果、隣接するボア形成用突部104、104の間の溶湯が良好に廻る。
【0004】
鋳造されたシリンダブロックの断面構造を図面に基づいて説明する。
図15に示すように、鋳造後のシリンダブロック106において、隣接するシリンダボア107、107の間はボア間壁部108で仕切られる。このボア間壁部108は、隣接するボア形成用突部(図14、符号104)の間での湯廻りが良好であれば、薄肉化が可能となる。
【0005】
ところで、シリンダボア107は円筒状の壁部で囲われている。円筒状の壁部には、ボア間壁部108が含まれると共にシリンダボア107の配列方向(矢印(a))と直交する方向(矢印(b))に存在する壁部109が含まれる。この壁部109にはウォータジャケット110が形成されるため、必然的に壁部109の総厚さが大きくなる。
【0006】
一方、シリンダブロック106の軽量化が求められ、その対策として壁部109の一層の薄肉化が求められる。
【0007】
ウォータジャケット110とシリンダブロック外面111との間に存在する壁であるジャケット外方壁部112は、特許文献1の技術では、薄肉化が困難である。
【0008】
そこで、ジャケット外方壁部の薄肉化が達成できる鋳造技術が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−282760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シリンダブロックのジャケット外方壁部を薄肉に形成できる鋳造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢で前記シリンダブロックを鋳造する金型装置であって、
キャビティへ溶湯を送る湯道が、前記キャビティの下方で且つ側方に一対設けられており、
前記キャビティから空気を排出する排気通路が、平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口するようにして前記金型装置に設けられ、
前記排気通路に、この排気通路の軸方向へ移動自在にバルブピンが挿入され、このバルブピンを弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、前記バルブピンを弁開位置へ移動することで排気が可能となっており、
前記バルブピンは、鋳造後に前記キャビティへ突出させることにより前記シリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、バルブピンは独立して移動できるようになっていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられ、押出板に前記バルブ駆動手段が取付けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢の金型を用いて前記シリンダブロックを製造するシリンダブロックの鋳造方法であって、
平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を前記金型を設けておき、前記金型内のキャビティの下方で且つ側方に一対設けられている湯道を介して前記キャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、
前記キャビティに前記溶湯が充満した後に、前記排気通路に移動自在に収納されているバルブピンを移動して前記排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、
前記溶湯が凝固した後に、前記金型を開き、前記バルブピンを前記シリンダブロックへ前進させ、前記バルブピンで前記シリンダブロックを前記金型から離す離型工程と、からなることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、この複数のバルブピンは、湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、前記入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、キャビティから空気を排出する排気通路が、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置、すなわちジャケット外方壁部の位置に開口するようにして金型装置に設けられる。この排気通路は、排気通路の軸方向へ移動自在なバルブピンによって開閉される。
【0017】
排気通路は、ジャケット外方壁部の位置に開口しているため、注湯工程において、ジャケット外方壁部では排気による減圧作用が働き、湯廻りが良くなる。湯廻りが良くなるので、ジャケット外方壁部を薄く形成することができる。
【0018】
また、バルブピンは、鋳造後にキャビティへ突出してシリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねているため、注湯時の排気機能と離型時のシリンダブロックの押出し機能の両方を得ることが可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、バルブピンは独立して移動できるようになっている。
【0020】
仮に、複数のバルブピンが同じ駆動手段で同時に移動する場合、キャビティ内の湯面が均一に上昇しない限り、閉じるタイミングが早すぎるバルブや反対に遅すぎるバルブが発生してしまい、排気効率が悪い。キャビティ内の湯面は、一般に不均一になり易い。
【0021】
本発明によれば、複数のバルブピンが独立して移動可能であるので、キャビティ内に溶湯が充填される過程で、最適なタイミングで各排気通路をバルブピンで閉じることができる。すなわち、各排気通路は、溶湯が到達する直前まで排気を行うことができるので、キャビティの排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティに充満させることができる。
【0022】
請求項3に係る発明では、バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられている。
バルブピンと専用押出ピンの総数が押出ピンとなる。すなわち、バルブピンと押出ピンを兼用させたので、専用押出ピンの数を減らすことができる。
【0023】
また、バルブピンとは別に、押出板及び押出駆動手段によって移動する専用押出ピンが設けられているので、バルブピン又はバルブ駆動手段に万一不具合が起きても、専用押出ピンによって、シリンダブロックを確実に金型から離すことができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を開き、湯道を介してキャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、キャビティに溶湯が充満した後に、バルブピンを移動して排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、溶湯が凝固した後に、金型を開き、バルブピンでシリンダブロックを金型から離す離型工程と、からなる。
【0025】
排気工程において、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路から、キャビティ内の空気を排出するので、ジャケット外方壁部では、排気による減圧作用が働き、湯廻りが良くなる。湯廻りが良くなるので、ジャケット外方壁部を薄く形成することができる。
【0026】
また、離型工程において、バルブピンは、鋳造後にキャビティへ突出してシリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねるので、注湯工程での排気機能と離型工程でのシリンダブロックの押出し機能の両方を得ることが可能となる。
【0027】
請求項5に係る発明では、複数のバルブピンは、湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされる。
【0028】
キャビティ内での湯面上昇速度は、湯道の末端側では速く、入口側では遅くなり、均一ではない。
本発明によれば、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、閉じ操作がなされるので、各排気通路は、溶湯が到達する直前まで排気を行うことができる。よって、キャビティの排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティに充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】シリンダブロックの斜視図である。
【図2】シリンダブロックの平面断面図である。
【図3】本発明に係る金型装置の断面図である。
【図4】ボアの配列方向に沿って切断した金型装置の断面図である。
【図5】バルブピン及び専用押出ピンの配置例を説明する図である。
【図6】図4の6−6線断面図である。
【図7】バルブピンの作用を説明する図である。
【図8】注湯工程を説明する図である。
【図9】排気通路閉じ工程の初期段階を説明する図である。
【図10】排気通路閉じ工程の途中段階を説明する図である。
【図11】排気通路閉じ工程の最終段階を説明する図である。
【図12】離型工程を説明する図である。
【図13】押出ピンの作用説明図である。
【図14】従来の金型装置の断面図である。
【図15】シリンダブロックの平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の鋳造対象物であるシリンダブロックを説明する。
図1に示すように、シリンダブロック10は、シリンダ部11と、このシリンダ部11の下部に設けられるクランクケース部12とからなり、多気筒(この例では4気筒)エンジンに用いられるものである。
【0032】
シリンダ部11は、平坦に形成されシリンダヘッドとの合されるガスケット面13と、このガスケット面13に一端が開口しピストン15を収納するシリンダボア16と、シリンダボア16の外壁の周りに形成されるウォータジャケット17と、を備えている。シリンダボアの軸線19は鉛直向きである。
【0033】
ガスケット面13に、シリンダヘッドをシリンダ部11に締結するための複数のボルト孔21が設けられている。
【0034】
図2に示すように、ウォータジャケット17とシリンダブロックの外面18の間に、ジャケット外方壁部22が形成されている。ジャケット外方壁部22は、各シリンダボア16に対してシリンダボア16を挟むように一対形成されており、薄肉の部分である。複数(この例では合計8箇所)のジャケット外方壁部22を薄肉化することによってシリンダブロック10の小型化・軽量化が図られる。
【0035】
次に、シリンダブロックの鋳造に供する金型装置を説明する。
図3に示すように、金型装置30は、固定型としての下型31と、軸線19に直交する方向へ移動可能な第1側型32及び第2側型33と、第1側型32及び第2側型33の移動方向と直角方向に移動可能な第3側壁(図4、符号34)及び第4側壁(図4、符号35)と、下型31に対面して配置される可動型としての上型37と、からなる。
【0036】
下型31は、溶湯が供給される湯口39と、この湯口39から両側方へ分岐しキャビティ38に溶湯を送る一対の湯道41と、この湯道41へ溶湯を送るプランジャ42と、一対の湯道41の間で立ち上がり第1側型32及び第2側型33との間でクランクケース部(図1、符号12)を形成する成形ブロック43と、を備える。
【0037】
上型37は、成形ブロック43に上から合わさりシリンダボア(図1、符号16)を形成するボア形成突部44と、このボア形成突部44の上半部の周りに隙間を有して設けられウォータジャケット(図1、符号17)を形成するジャケット形成部45と、を備える。ボア形成突部44の軸線(符号19に相当)は鉛直向きである。
【0038】
また、キャビティ38から空気を排出する排気通路50が、上型37の各ボア形成突部44に一対設けられている。排気通路50は、第1側型32及び第2側型33のそれぞれとジャケット形成部45との間に開口する排気孔51と、この排気孔51から側方に延びる第1通路52と、第1通路52から湯道41の軸方向と平行に延びる第2通路53と、第2通路53から上方に延びる第3通路54と、この第3通路54に接続されて空気を外部に排出する排出部56と、からなる。
【0039】
また、排気通路50には、排気孔51の軸方向に移動自在にバルブピン60が設けられている。このバルブピン60は、上下に移動することにより、排気孔51を開閉して排気を可能・不能とする機能を有する。各バルブピン60は、上型37の上方に設置される上押出板61及び下押出板62に移動自在に支持されると共に、上押出板61に固定されるバルブ駆動手段(例えばシリンダユニット)63によって上下に駆動される。
【0040】
図4に示すように、湯道41は、プランジャ42側の入口側64から、末端側65へ溶湯を流すように形成されている。成形ブロック43は、コネクティングロッドやクランクアームを回転させる空間を形成する第1成形部67と、クランク軸用の軸受部を形成する第2成形部68と、からなる。
【0041】
排気通路50及びバルブピン60は、湯道41の入口側64から末端側65へ所定のピッチ(この例では隣接するボア形成突部44、44のピッチと同一のピッチ)で配置されている。
【0042】
両端のバルブピン60のそれぞれ外方に、上下方向に移動自在に押出専用の専用押出ピン70が設けられている。専用押出ピン70の上端は、下押出板62に固定される一方、専用押出ピン70の下端は、上型37の成形面と一致している。
【0043】
上押出板61に、専用押出ピン70及びバルブピン60を駆動する押出板駆動手段(例えばシリンダユニット)71が設けられている。押出板駆動手段71は、上押出板61及び下押出板62を下方に駆動することにより、専用押出ピン70及びバルブピン60をキャビティ38に臨ませる方向へ移動させる。
【0044】
バルブ駆動手段63及び押出板駆動手段71は、制御部72に接続されており、制御部72によって各々独立して駆動制御される。
【0045】
次に、バルブピン60及び専用押出ピン70の配置例を説明する。
図5は、ガスケット面13上にバルブピン60及び専用押出ピン70の配置を示す図である。
バルブピン60は、各シリンダボア16を挟むように一対設けられており、合計8本である。これらのバルブピン60の数及び位置は、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の数及び位置と一致する。専用押出ピン70は、各バルブピン60の両側に一対設けられるものの他、さらに両端のシリンダボア16それぞれの外方近傍の2箇所に設けられており、合計20本である。
【0046】
このように、バルブピン60及び専用押出ピン70は、互いに干渉しないと共にボルト孔21にも干渉しないように、狭いガスケット面13に効率的に配置されている。なお、図では4気筒のシリンダブロック10にバルブピン60及び専用押出ピン70を配置したが、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の位置にバルブピン60を配置できれば、シリンダブロックの気筒数及びバルブピン60の本数は任意である。
【0047】
図6に示すように、バルブピン60は、待機状態で排気孔51の上端に位置しており、この状態でキャビティ38内の空気は、排気孔51及び第1通路52を通じて外部へ排出可能である。
【0048】
また、図7(a)に示すように、キャビティ38内の溶湯が排気孔51に接近すると、バルブ駆動手段(図4、符号63)によってバルブピン60が下方に移動して第1通路52を閉じ、排気が不能となる。したがって、排気通路(図3、符号50)を含む排気回路への溶湯の浸入を防ぐことができ、排気回路の詰まりを防止することができる。
【0049】
さらに、図7(b)に示すように、成形が終わると、バルブピン60は、バルブ駆動手段(図4、符号63)によってキャビティ38内に前進し、シリンダブロック10を押出して上型37から離す役割を果たす。
【0050】
以上に述べた金型装置を用いてシリンダブロックを製造する鋳造方法を、図8〜図13を用いて説明する。
鋳造方法は、注湯工程、排気通路閉じ工程及び離型工程からなる。
【0051】
鋳造は、固体金属と液体金属が混合した合金である半凝固金属(例えば、アルミニウムからなる半凝固金属)を溶湯として用いて行う。
図8に示すように、注湯工程では、プランジャ42が上昇して湯口39の溶湯が、矢印(1)で示すように、湯道41を介してキャビティ38内に供給される。このとき、全てのバルブピン60が排気孔51を開放させており、キャビティ38内の空気は、矢印(2)で示すように、排気孔51及び第1通路52を介して外部へ排出される。
【0052】
キャビティ38内に入った溶湯の湯面は均一に上昇するのではなく、末端側65での湯面上昇速度が速く、入口側64での湯面上昇速度が遅くなる。
【0053】
図9に示すように、末端側65で上昇する溶湯がキャビティ38の上端に達すると同時に、最も末端側65に位置するバルブピン60は、バルブ駆動手段(図4、符号63)によって下方に移動し、排気孔51を閉じる。このとき、他のバルブピン60は、排気孔51を開けており、キャビティ38内の空気は、矢印(2)で示すように排出される。
【0054】
図10に示すように、キャビティ38内への溶湯の充填がさらに進むと、末端側65に近いバルブピン60から順次排気孔51を閉じていく。閉じた排気孔51は、閉じる直前(溶湯が到達する直前)までキャビティ38内の空気を排気しており、排気による減圧作用が働き、ジャケット外方壁部(図2、符号22)を形成する狭い隙間においても溶湯が良好に廻る。
【0055】
ジャケット外方壁部(図2、符号22)の位置での湯廻り性が良いので、シリンダブロック10のジャケット外方壁部(図2、符号22)をより薄く形成することができる。したがって、流動性の悪い半凝固金属を使用しても、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の薄肉化を達成することができる。
【0056】
図11に示すように、最も入口側64のバルブピン60が排気孔51を閉じた直後に、溶湯が最も入口側64の排気孔51に達し、キャビティ38内に溶湯が充満され、排気通路閉じ工程が終わる。
【0057】
このように排気通路閉じ工程では、湯道の末端側65のバルブピン60を最初に閉じ、入口側64のバルブピン60を最後に閉じる要領で、キャビティ38における溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされる。湯道の末端側65では、キャビティ38内での湯面上昇速度が速く、入口側64で湯面上昇速度は遅くなるが、各排気通路50は、溶湯が到達する直前まで、より長く排気を行う。よって、キャビティ38の排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティ38に充填することができる。したがって、溶湯が冷えて溶湯の流動性が低下する前に、速やかに鋳造品を成形することができる。
【0058】
図12に示すように、離型工程では、溶湯が凝固した後、矢印(3)で示すように、第3側型34及び第4側型35が下型31上を移動し、鋳造品80より離れる。そして、上型37が、矢印(4)で示す方向に鋳造品80と共に移動して、型開きが終わる。
【0059】
図13に示すように、型開きを終えると、押出板駆動手段71が制御部72からの信号を受けて上押出板61及び下押出板62を下方(矢印(5)で示す方向)に移動させ、全ての専用押出ピン70及び全てのバルブピン60を鋳造品80へ前進させることによって、離型工程が終わる。
【0060】
このように離型工程では、バルブピン60は、鋳造後にキャビティ38へ突出して鋳造品80を押出す押出ピンを兼ねているので、専用押出ピン70の本数を減らすことができ、ガスケット面(図5、符号13)の狭い面においても、バルブピン60及び専用押出ピン70を配置することができる。
【0061】
仮に、排気専用の専用バルブピンと、押出し専用の押出ピンを金型に設けるとすると、必然的にピンの総数が多くなり、全てのピンを狭いガスケット面に配置するのは困難である。このため、注湯時の排気機能と離型時の押出機能の両方を得るのは難しい。
【0062】
更に、バルブピン60又はバルブ駆動手段63に万一不具合が起きても、バルブピン60とは別の専用押出ピン70及び押出板駆動手段71によって、鋳造品80をより確実に上型37から離すことができる。
【0063】
加えて、上押出板61にバルブ駆動手段63が取付けられているので、押出板駆動手段71により、専用押出しピン70とバルブピン60を同時に移動させることができる。よって、各ピンの動きに差が生じず、鋳造品80を良好に金型から離すことができる。
【0064】
尚、本発明のシリンダブロックの鋳造技術は、実施の形態では半凝固金属を用いる鋳造技術に適用したが、一般の溶融金属を用いる鋳造技術にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のシリンダブロックの鋳造技術は、半凝固金属を用いた鋳造に好適である。
【符号の説明】
【0066】
10…シリンダブロック、16…シリンダボア、17…ウォータジャケット、19…シリンダボアの軸線、30…金型装置、38…キャビティ、41…湯道、50…排気通路、60…バルブピン、61…上押出板、62…下押出板、63…バルブ駆動手段、64…入口側、65…末端側、70…専用押出ピン、71…押出板駆動手段。
【技術分野】
【0001】
本発明は、シリンダブロックの鋳造技術に関する。
【背景技術】
【0002】
エンジンの要素の一つであるシリンダブロックは、ダイカストなどの鋳造法で製造される。シリンダブロックの鋳造技術として、各種の技術が提案されている(例えば、特許文献1(第7図参照)。)。
【0003】
特許文献1を次図に基づいて説明する。
図14は従来の鋳造技術を説明する図であり、金型100のキャビティ101へ湯口102及び湯道103を介して注湯する。この際、隣接するボア形成用突部104、104の間に溜まる空気は、排気通路105を通じて上方に排出される。結果、隣接するボア形成用突部104、104の間の溶湯が良好に廻る。
【0004】
鋳造されたシリンダブロックの断面構造を図面に基づいて説明する。
図15に示すように、鋳造後のシリンダブロック106において、隣接するシリンダボア107、107の間はボア間壁部108で仕切られる。このボア間壁部108は、隣接するボア形成用突部(図14、符号104)の間での湯廻りが良好であれば、薄肉化が可能となる。
【0005】
ところで、シリンダボア107は円筒状の壁部で囲われている。円筒状の壁部には、ボア間壁部108が含まれると共にシリンダボア107の配列方向(矢印(a))と直交する方向(矢印(b))に存在する壁部109が含まれる。この壁部109にはウォータジャケット110が形成されるため、必然的に壁部109の総厚さが大きくなる。
【0006】
一方、シリンダブロック106の軽量化が求められ、その対策として壁部109の一層の薄肉化が求められる。
【0007】
ウォータジャケット110とシリンダブロック外面111との間に存在する壁であるジャケット外方壁部112は、特許文献1の技術では、薄肉化が困難である。
【0008】
そこで、ジャケット外方壁部の薄肉化が達成できる鋳造技術が必要となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0009】
【特許文献1】特開昭62−282760号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0010】
本発明は、シリンダブロックのジャケット外方壁部を薄肉に形成できる鋳造技術を提供することを課題とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
請求項1に係る発明は、ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢で前記シリンダブロックを鋳造する金型装置であって、
キャビティへ溶湯を送る湯道が、前記キャビティの下方で且つ側方に一対設けられており、
前記キャビティから空気を排出する排気通路が、平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口するようにして前記金型装置に設けられ、
前記排気通路に、この排気通路の軸方向へ移動自在にバルブピンが挿入され、このバルブピンを弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、前記バルブピンを弁開位置へ移動することで排気が可能となっており、
前記バルブピンは、鋳造後に前記キャビティへ突出させることにより前記シリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねていることを特徴とする。
【0012】
請求項2に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、バルブピンは独立して移動できるようになっていることを特徴とする。
【0013】
請求項3に係る発明は、バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられ、押出板に前記バルブ駆動手段が取付けられていることを特徴とする。
【0014】
請求項4に係る発明は、ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢の金型を用いて前記シリンダブロックを製造するシリンダブロックの鋳造方法であって、
平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を前記金型を設けておき、前記金型内のキャビティの下方で且つ側方に一対設けられている湯道を介して前記キャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、
前記キャビティに前記溶湯が充満した後に、前記排気通路に移動自在に収納されているバルブピンを移動して前記排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、
前記溶湯が凝固した後に、前記金型を開き、前記バルブピンを前記シリンダブロックへ前進させ、前記バルブピンで前記シリンダブロックを前記金型から離す離型工程と、からなることを特徴とする。
【0015】
請求項5に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、この複数のバルブピンは、湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、前記入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされることを特徴とする。
【発明の効果】
【0016】
請求項1に係る発明では、キャビティから空気を排出する排気通路が、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置、すなわちジャケット外方壁部の位置に開口するようにして金型装置に設けられる。この排気通路は、排気通路の軸方向へ移動自在なバルブピンによって開閉される。
【0017】
排気通路は、ジャケット外方壁部の位置に開口しているため、注湯工程において、ジャケット外方壁部では排気による減圧作用が働き、湯廻りが良くなる。湯廻りが良くなるので、ジャケット外方壁部を薄く形成することができる。
【0018】
また、バルブピンは、鋳造後にキャビティへ突出してシリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねているため、注湯時の排気機能と離型時のシリンダブロックの押出し機能の両方を得ることが可能となる。
【0019】
請求項2に係る発明では、バルブピンの数は複数であり、バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、バルブピンは独立して移動できるようになっている。
【0020】
仮に、複数のバルブピンが同じ駆動手段で同時に移動する場合、キャビティ内の湯面が均一に上昇しない限り、閉じるタイミングが早すぎるバルブや反対に遅すぎるバルブが発生してしまい、排気効率が悪い。キャビティ内の湯面は、一般に不均一になり易い。
【0021】
本発明によれば、複数のバルブピンが独立して移動可能であるので、キャビティ内に溶湯が充填される過程で、最適なタイミングで各排気通路をバルブピンで閉じることができる。すなわち、各排気通路は、溶湯が到達する直前まで排気を行うことができるので、キャビティの排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティに充満させることができる。
【0022】
請求項3に係る発明では、バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられている。
バルブピンと専用押出ピンの総数が押出ピンとなる。すなわち、バルブピンと押出ピンを兼用させたので、専用押出ピンの数を減らすことができる。
【0023】
また、バルブピンとは別に、押出板及び押出駆動手段によって移動する専用押出ピンが設けられているので、バルブピン又はバルブ駆動手段に万一不具合が起きても、専用押出ピンによって、シリンダブロックを確実に金型から離すことができる。
【0024】
請求項4に係る発明では、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を開き、湯道を介してキャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、キャビティに溶湯が充満した後に、バルブピンを移動して排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、溶湯が凝固した後に、金型を開き、バルブピンでシリンダブロックを金型から離す離型工程と、からなる。
【0025】
排気工程において、シリンダブロックの縁とウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路から、キャビティ内の空気を排出するので、ジャケット外方壁部では、排気による減圧作用が働き、湯廻りが良くなる。湯廻りが良くなるので、ジャケット外方壁部を薄く形成することができる。
【0026】
また、離型工程において、バルブピンは、鋳造後にキャビティへ突出してシリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねるので、注湯工程での排気機能と離型工程でのシリンダブロックの押出し機能の両方を得ることが可能となる。
【0027】
請求項5に係る発明では、複数のバルブピンは、湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされる。
【0028】
キャビティ内での湯面上昇速度は、湯道の末端側では速く、入口側では遅くなり、均一ではない。
本発明によれば、湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、閉じ操作がなされるので、各排気通路は、溶湯が到達する直前まで排気を行うことができる。よって、キャビティの排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティに充填することができる。
【図面の簡単な説明】
【0029】
【図1】シリンダブロックの斜視図である。
【図2】シリンダブロックの平面断面図である。
【図3】本発明に係る金型装置の断面図である。
【図4】ボアの配列方向に沿って切断した金型装置の断面図である。
【図5】バルブピン及び専用押出ピンの配置例を説明する図である。
【図6】図4の6−6線断面図である。
【図7】バルブピンの作用を説明する図である。
【図8】注湯工程を説明する図である。
【図9】排気通路閉じ工程の初期段階を説明する図である。
【図10】排気通路閉じ工程の途中段階を説明する図である。
【図11】排気通路閉じ工程の最終段階を説明する図である。
【図12】離型工程を説明する図である。
【図13】押出ピンの作用説明図である。
【図14】従来の金型装置の断面図である。
【図15】シリンダブロックの平面断面図である。
【発明を実施するための形態】
【0030】
本発明の実施の形態を添付図に基づいて以下に説明する。なお、図面は符号の向きに見るものとする。
【実施例】
【0031】
本発明の実施例を図面に基づいて説明する。
先ず、本発明の鋳造対象物であるシリンダブロックを説明する。
図1に示すように、シリンダブロック10は、シリンダ部11と、このシリンダ部11の下部に設けられるクランクケース部12とからなり、多気筒(この例では4気筒)エンジンに用いられるものである。
【0032】
シリンダ部11は、平坦に形成されシリンダヘッドとの合されるガスケット面13と、このガスケット面13に一端が開口しピストン15を収納するシリンダボア16と、シリンダボア16の外壁の周りに形成されるウォータジャケット17と、を備えている。シリンダボアの軸線19は鉛直向きである。
【0033】
ガスケット面13に、シリンダヘッドをシリンダ部11に締結するための複数のボルト孔21が設けられている。
【0034】
図2に示すように、ウォータジャケット17とシリンダブロックの外面18の間に、ジャケット外方壁部22が形成されている。ジャケット外方壁部22は、各シリンダボア16に対してシリンダボア16を挟むように一対形成されており、薄肉の部分である。複数(この例では合計8箇所)のジャケット外方壁部22を薄肉化することによってシリンダブロック10の小型化・軽量化が図られる。
【0035】
次に、シリンダブロックの鋳造に供する金型装置を説明する。
図3に示すように、金型装置30は、固定型としての下型31と、軸線19に直交する方向へ移動可能な第1側型32及び第2側型33と、第1側型32及び第2側型33の移動方向と直角方向に移動可能な第3側壁(図4、符号34)及び第4側壁(図4、符号35)と、下型31に対面して配置される可動型としての上型37と、からなる。
【0036】
下型31は、溶湯が供給される湯口39と、この湯口39から両側方へ分岐しキャビティ38に溶湯を送る一対の湯道41と、この湯道41へ溶湯を送るプランジャ42と、一対の湯道41の間で立ち上がり第1側型32及び第2側型33との間でクランクケース部(図1、符号12)を形成する成形ブロック43と、を備える。
【0037】
上型37は、成形ブロック43に上から合わさりシリンダボア(図1、符号16)を形成するボア形成突部44と、このボア形成突部44の上半部の周りに隙間を有して設けられウォータジャケット(図1、符号17)を形成するジャケット形成部45と、を備える。ボア形成突部44の軸線(符号19に相当)は鉛直向きである。
【0038】
また、キャビティ38から空気を排出する排気通路50が、上型37の各ボア形成突部44に一対設けられている。排気通路50は、第1側型32及び第2側型33のそれぞれとジャケット形成部45との間に開口する排気孔51と、この排気孔51から側方に延びる第1通路52と、第1通路52から湯道41の軸方向と平行に延びる第2通路53と、第2通路53から上方に延びる第3通路54と、この第3通路54に接続されて空気を外部に排出する排出部56と、からなる。
【0039】
また、排気通路50には、排気孔51の軸方向に移動自在にバルブピン60が設けられている。このバルブピン60は、上下に移動することにより、排気孔51を開閉して排気を可能・不能とする機能を有する。各バルブピン60は、上型37の上方に設置される上押出板61及び下押出板62に移動自在に支持されると共に、上押出板61に固定されるバルブ駆動手段(例えばシリンダユニット)63によって上下に駆動される。
【0040】
図4に示すように、湯道41は、プランジャ42側の入口側64から、末端側65へ溶湯を流すように形成されている。成形ブロック43は、コネクティングロッドやクランクアームを回転させる空間を形成する第1成形部67と、クランク軸用の軸受部を形成する第2成形部68と、からなる。
【0041】
排気通路50及びバルブピン60は、湯道41の入口側64から末端側65へ所定のピッチ(この例では隣接するボア形成突部44、44のピッチと同一のピッチ)で配置されている。
【0042】
両端のバルブピン60のそれぞれ外方に、上下方向に移動自在に押出専用の専用押出ピン70が設けられている。専用押出ピン70の上端は、下押出板62に固定される一方、専用押出ピン70の下端は、上型37の成形面と一致している。
【0043】
上押出板61に、専用押出ピン70及びバルブピン60を駆動する押出板駆動手段(例えばシリンダユニット)71が設けられている。押出板駆動手段71は、上押出板61及び下押出板62を下方に駆動することにより、専用押出ピン70及びバルブピン60をキャビティ38に臨ませる方向へ移動させる。
【0044】
バルブ駆動手段63及び押出板駆動手段71は、制御部72に接続されており、制御部72によって各々独立して駆動制御される。
【0045】
次に、バルブピン60及び専用押出ピン70の配置例を説明する。
図5は、ガスケット面13上にバルブピン60及び専用押出ピン70の配置を示す図である。
バルブピン60は、各シリンダボア16を挟むように一対設けられており、合計8本である。これらのバルブピン60の数及び位置は、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の数及び位置と一致する。専用押出ピン70は、各バルブピン60の両側に一対設けられるものの他、さらに両端のシリンダボア16それぞれの外方近傍の2箇所に設けられており、合計20本である。
【0046】
このように、バルブピン60及び専用押出ピン70は、互いに干渉しないと共にボルト孔21にも干渉しないように、狭いガスケット面13に効率的に配置されている。なお、図では4気筒のシリンダブロック10にバルブピン60及び専用押出ピン70を配置したが、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の位置にバルブピン60を配置できれば、シリンダブロックの気筒数及びバルブピン60の本数は任意である。
【0047】
図6に示すように、バルブピン60は、待機状態で排気孔51の上端に位置しており、この状態でキャビティ38内の空気は、排気孔51及び第1通路52を通じて外部へ排出可能である。
【0048】
また、図7(a)に示すように、キャビティ38内の溶湯が排気孔51に接近すると、バルブ駆動手段(図4、符号63)によってバルブピン60が下方に移動して第1通路52を閉じ、排気が不能となる。したがって、排気通路(図3、符号50)を含む排気回路への溶湯の浸入を防ぐことができ、排気回路の詰まりを防止することができる。
【0049】
さらに、図7(b)に示すように、成形が終わると、バルブピン60は、バルブ駆動手段(図4、符号63)によってキャビティ38内に前進し、シリンダブロック10を押出して上型37から離す役割を果たす。
【0050】
以上に述べた金型装置を用いてシリンダブロックを製造する鋳造方法を、図8〜図13を用いて説明する。
鋳造方法は、注湯工程、排気通路閉じ工程及び離型工程からなる。
【0051】
鋳造は、固体金属と液体金属が混合した合金である半凝固金属(例えば、アルミニウムからなる半凝固金属)を溶湯として用いて行う。
図8に示すように、注湯工程では、プランジャ42が上昇して湯口39の溶湯が、矢印(1)で示すように、湯道41を介してキャビティ38内に供給される。このとき、全てのバルブピン60が排気孔51を開放させており、キャビティ38内の空気は、矢印(2)で示すように、排気孔51及び第1通路52を介して外部へ排出される。
【0052】
キャビティ38内に入った溶湯の湯面は均一に上昇するのではなく、末端側65での湯面上昇速度が速く、入口側64での湯面上昇速度が遅くなる。
【0053】
図9に示すように、末端側65で上昇する溶湯がキャビティ38の上端に達すると同時に、最も末端側65に位置するバルブピン60は、バルブ駆動手段(図4、符号63)によって下方に移動し、排気孔51を閉じる。このとき、他のバルブピン60は、排気孔51を開けており、キャビティ38内の空気は、矢印(2)で示すように排出される。
【0054】
図10に示すように、キャビティ38内への溶湯の充填がさらに進むと、末端側65に近いバルブピン60から順次排気孔51を閉じていく。閉じた排気孔51は、閉じる直前(溶湯が到達する直前)までキャビティ38内の空気を排気しており、排気による減圧作用が働き、ジャケット外方壁部(図2、符号22)を形成する狭い隙間においても溶湯が良好に廻る。
【0055】
ジャケット外方壁部(図2、符号22)の位置での湯廻り性が良いので、シリンダブロック10のジャケット外方壁部(図2、符号22)をより薄く形成することができる。したがって、流動性の悪い半凝固金属を使用しても、ジャケット外方壁部(図2、符号22)の薄肉化を達成することができる。
【0056】
図11に示すように、最も入口側64のバルブピン60が排気孔51を閉じた直後に、溶湯が最も入口側64の排気孔51に達し、キャビティ38内に溶湯が充満され、排気通路閉じ工程が終わる。
【0057】
このように排気通路閉じ工程では、湯道の末端側65のバルブピン60を最初に閉じ、入口側64のバルブピン60を最後に閉じる要領で、キャビティ38における溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされる。湯道の末端側65では、キャビティ38内での湯面上昇速度が速く、入口側64で湯面上昇速度は遅くなるが、各排気通路50は、溶湯が到達する直前まで、より長く排気を行う。よって、キャビティ38の排気効率が高まり、より速く溶湯をキャビティ38に充填することができる。したがって、溶湯が冷えて溶湯の流動性が低下する前に、速やかに鋳造品を成形することができる。
【0058】
図12に示すように、離型工程では、溶湯が凝固した後、矢印(3)で示すように、第3側型34及び第4側型35が下型31上を移動し、鋳造品80より離れる。そして、上型37が、矢印(4)で示す方向に鋳造品80と共に移動して、型開きが終わる。
【0059】
図13に示すように、型開きを終えると、押出板駆動手段71が制御部72からの信号を受けて上押出板61及び下押出板62を下方(矢印(5)で示す方向)に移動させ、全ての専用押出ピン70及び全てのバルブピン60を鋳造品80へ前進させることによって、離型工程が終わる。
【0060】
このように離型工程では、バルブピン60は、鋳造後にキャビティ38へ突出して鋳造品80を押出す押出ピンを兼ねているので、専用押出ピン70の本数を減らすことができ、ガスケット面(図5、符号13)の狭い面においても、バルブピン60及び専用押出ピン70を配置することができる。
【0061】
仮に、排気専用の専用バルブピンと、押出し専用の押出ピンを金型に設けるとすると、必然的にピンの総数が多くなり、全てのピンを狭いガスケット面に配置するのは困難である。このため、注湯時の排気機能と離型時の押出機能の両方を得るのは難しい。
【0062】
更に、バルブピン60又はバルブ駆動手段63に万一不具合が起きても、バルブピン60とは別の専用押出ピン70及び押出板駆動手段71によって、鋳造品80をより確実に上型37から離すことができる。
【0063】
加えて、上押出板61にバルブ駆動手段63が取付けられているので、押出板駆動手段71により、専用押出しピン70とバルブピン60を同時に移動させることができる。よって、各ピンの動きに差が生じず、鋳造品80を良好に金型から離すことができる。
【0064】
尚、本発明のシリンダブロックの鋳造技術は、実施の形態では半凝固金属を用いる鋳造技術に適用したが、一般の溶融金属を用いる鋳造技術にも適用可能である。
【産業上の利用可能性】
【0065】
本発明のシリンダブロックの鋳造技術は、半凝固金属を用いた鋳造に好適である。
【符号の説明】
【0066】
10…シリンダブロック、16…シリンダボア、17…ウォータジャケット、19…シリンダボアの軸線、30…金型装置、38…キャビティ、41…湯道、50…排気通路、60…バルブピン、61…上押出板、62…下押出板、63…バルブ駆動手段、64…入口側、65…末端側、70…専用押出ピン、71…押出板駆動手段。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢で前記シリンダブロックを鋳造する金型装置であって、
キャビティへ溶湯を送る湯道が、前記キャビティの下方で且つ側方に一対設けられており、
前記キャビティから空気を排出する排気通路が、平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口するようにして前記金型装置に設けられ、
前記排気通路に、この排気通路の軸方向へ移動自在にバルブピンが挿入され、このバルブピンを弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、前記バルブピンを弁開位置へ移動することで排気が可能となっており、
前記バルブピンは、鋳造後に前記キャビティへ突出させることにより前記シリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねていることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記バルブピンの数は複数であり、前記バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、前記バルブピンは独立して移動できるようになっていることを特徴とする請求項1記載の金型装置。
【請求項3】
前記バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、前記専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられ、前記押出板に前記バルブ駆動手段が取付けられていることを特徴とする請求項2記載の金型装置。
【請求項4】
ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢の金型を用いて前記シリンダブロックを製造するシリンダブロックの鋳造方法であって、
平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を前記金型を設けておき、前記金型内のキャビティの下方で且つ側方に一対設けられている湯道を介して前記キャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、
前記キャビティに前記溶湯が充満した後に、前記排気通路に移動自在に収納されているバルブピンを移動して前記排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、
前記溶湯が凝固した後に、前記金型を開き、前記バルブピンを前記シリンダブロックへ前進させ、前記バルブピンで前記シリンダブロックを前記金型から離す離型工程と、からなることを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。
【請求項5】
前記バルブピンの数は複数であり、この複数のバルブピンは、前記湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、前記湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、前記入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、前記キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされることを特徴とする請求項4記載のシリンダブロックの鋳造方法。
【請求項1】
ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢で前記シリンダブロックを鋳造する金型装置であって、
キャビティへ溶湯を送る湯道が、前記キャビティの下方で且つ側方に一対設けられており、
前記キャビティから空気を排出する排気通路が、平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口するようにして前記金型装置に設けられ、
前記排気通路に、この排気通路の軸方向へ移動自在にバルブピンが挿入され、このバルブピンを弁閉位置へ移動することで排気が不能となり、前記バルブピンを弁開位置へ移動することで排気が可能となっており、
前記バルブピンは、鋳造後に前記キャビティへ突出させることにより前記シリンダブロックを押出す押出ピンを兼ねていることを特徴とする金型装置。
【請求項2】
前記バルブピンの数は複数であり、前記バルブピンの各々にバルブ駆動手段が備えられており、前記バルブピンは独立して移動できるようになっていることを特徴とする請求項1記載の金型装置。
【請求項3】
前記バルブピンとは別に、押出専用の専用押出ピン、前記専用押出ピンを支える押出板及びこの押出板を移動させる押出板駆動手段が設けられ、前記押出板に前記バルブ駆動手段が取付けられていることを特徴とする請求項2記載の金型装置。
【請求項4】
ウォータジャケット及びシリンダボアを有するシリンダブロックを鋳造対象とし、前記シリンダボアの軸線が鉛直向きになるような姿勢の金型を用いて前記シリンダブロックを製造するシリンダブロックの鋳造方法であって、
平面視で、前記シリンダブロックの縁と前記ウォータジャケットとの間の位置に開口する排気通路を前記金型を設けておき、前記金型内のキャビティの下方で且つ側方に一対設けられている湯道を介して前記キャビティへ溶湯を供給する注湯工程と、
前記キャビティに前記溶湯が充満した後に、前記排気通路に移動自在に収納されているバルブピンを移動して前記排気通路を閉じる排気通路閉じ工程と、
前記溶湯が凝固した後に、前記金型を開き、前記バルブピンを前記シリンダブロックへ前進させ、前記バルブピンで前記シリンダブロックを前記金型から離す離型工程と、からなることを特徴とするシリンダブロックの鋳造方法。
【請求項5】
前記バルブピンの数は複数であり、この複数のバルブピンは、前記湯道の入口側から末端側へ所定のピッチで配置されており、このようなバルブピンは、前記湯道の末端側のバルブピンを最初に閉じ、前記入口側のバルブピンを最後に閉じる要領で、前記キャビティにおける溶湯の充満状態に対応するように順に閉じ操作がなされることを特徴とする請求項4記載のシリンダブロックの鋳造方法。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【公開番号】特開2011−255391(P2011−255391A)
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−130130(P2010−130130)
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年12月22日(2011.12.22)
【国際特許分類】
【出願日】平成22年6月7日(2010.6.7)
【出願人】(000005326)本田技研工業株式会社 (23,863)
【Fターム(参考)】
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