説明

金属と樹脂からなる複合材料及びその製造方法並びにそれを用いた製品

【課題】弗素樹脂基材上に高導電率のスパッタCu膜を高密着力で密着させてなり、金属と樹脂からなる複合材料及びその製造方法並びにそれを用いた製品を提供するものである。
【解決手段】樹脂基材上に、Arガスを用いたスパッタによってCu層を設けた複合材料であり、Cu層の、樹脂基材に対して平行な面での平均結晶粒径を37nm以上としたものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は樹脂を基材としてCu膜を樹脂基材上に設けてなる複合材料において、スパッタ法をCu膜の製膜方法の一つとする場合、適切なスパッタCu膜の結晶粒径、製膜条件に関するものである。
【背景技術】
【0002】
スパッタ法によってCu層を樹脂上に設ける技術は、樹脂上に高導電層を設ける技術として良く利用されている。また、樹脂とCu層の間で高い密着性を得るための技術として、各種前処理や、Cu層の下に設ける密着層の材質に関する特許出願がある。
【0003】
【特許文献1】特開2004−154946号公報
【特許文献2】特開2000−45062号公報
【特許文献3】特開平5−342930号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
スパッタ法によって樹脂基材上にCu膜を作製する場合、スパッタ法のみで樹脂基材表面にCu膜を形成するケースと、スパッタ法で製膜したスパッタCu膜を下地層とし、その下地層上に電解めっきによってめっきCu膜を形成する場合の2通りが考えられる。
【0005】
Cu膜を表面に持つ樹脂材料の用途は、主として配線、あるいは電磁波シールドである。両用途において、Cu膜には高い導電率が必要とされる。スパッタ法のみでCu膜を形成する場合、前述のようにスパッタCu膜そのものに高導電率が求められる。また、電解めっき下地層としてスパッタCu膜を利用する際も、効率よく電解めっきを施すには、スパッタCu膜が高導電率を有している必要がある。
【0006】
したがって、スパッタCu膜が高導電性を発現する条件は、この種の製品において非常に重要な特性である。しかしながら、スパッタCu膜が高導電性を発現する条件は明確では無い。
【0007】
一方、弗素樹脂は低誘電率の樹脂であり、高周波領域下でも誘電損失が少ない材料であることから、高周波向け基板や同軸ケーブル絶縁体として広く利用されている。なかでも、フッ素樹脂は押出し成形可能な低誘電率樹脂であるため、その特性を活かし、同軸ケーブル絶縁体として広く使用されている。
【0008】
しかしながら、フッ素樹脂は濡れ性が低いことから、高い密着性が得づらい材料である。
【0009】
そこで本発明の目的は、弗素樹脂基材上に高導電率のスパッタCu膜を高密着力で密着させてなり、金属と樹脂からなる複合材料及びその製造方法並びにそれを用いた製品を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0010】
上記の目的を達成するために、請求項1の発明は、樹脂基材上にArガスを用いたスパッタによってCu層を設けた複合材料において、前記Cu層の、前記樹脂基材に対して平行な面での平均結晶粒径が37nm以上であることを特徴とする金属と樹脂からなる複合材料である。
【0011】
請求項2の発明は、前記スパッタによるCu層をシード層とし、そのスパッタCu層上に硫酸銅電解めっきによるめっきCu層を設けた請求項1記載の金属と樹脂からなる複合材料である。
【0012】
請求項3の発明は、前記樹脂基材と前記Cu層の間に、Ti、NiあるいはNi合金からなるスパッタ密着層を設けた請求項1又は2記載の金属と樹脂からなる複合材料である。
【0013】
請求項4の発明は、前記樹脂基材が弗素系樹脂からなる請求項1から3いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料である。
【0014】
請求項5の発明は、前記スパッタCu層の厚みが2800Å以上である請求項1から4いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料である。
【0015】
請求項6の発明は、単線あるいは撚り線からなる中心導体上に弗素樹脂層が設けられた同軸ケーブルコアを樹脂基材とし、その樹脂基材上に外部導体として請求項1から5いずれかに記載された複合材料の金属膜を設けたことを特徴とする同軸ケーブルである。
【0016】
請求項7の発明は、前記弗素樹脂層がPFAからなる請求項6記載の同軸ケーブルである。
【0017】
請求項8の発明は、樹脂基材上にArガスを用いたスパッタによってCu層を設けた複合材料の製造方法において、前記Cu層をスパッタ工程で製膜する際、被製膜物である前記樹脂基材の表面温度を150℃以上とすることを特徴とする金属と樹脂からなる複合材料の製造方法である。
【0018】
請求項9の発明は、前記スパッタ工程の際、先ずチャンバー内の真空度を5.0×10-5Torr以下に真空引きした後、チャンバー内の雰囲気を大気からArガスに置換する請求項8記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法である。
【0019】
請求項10の発明は、前記スパッタ工程の前処理として、Arあるいは酸素によるスパッタエッチングにより、樹脂基材の表面処理を行う請求項8又は9記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法である。
【0020】
請求項11の発明は、長尺品の前記樹脂基材を巻取りながらスパッタ製膜をする際、樹脂基材が巻取り装置、あるいは搬送装置中のプーリーの曲面に巻き付けられることによって生じる曲げ歪みが0.3%以下となるように、プーリー径の大きさを調整する請求項8から10いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法である。
【0021】
請求項12の発明は、請求項1から5いずれかに記載の複合材料の金属膜にエッチングを施し、金属膜の非エッチング領域を配線パターンに形成したことを特徴とする配線基板である。
【0022】
請求項13の発明は、請求項1から5いずれかに記載の複合材料を用いて構成したことを特徴とする電磁波シールドである。
【0023】
請求項14の発明は、請求項6又は7記載の同軸ケーブルを横一列に複数本配列し、それらの同軸ケーブルの列を上下から樹脂で挟み込んでなることを特徴とするフレキシブルフラットケーブルである。
【0024】
請求項15の発明は、前記樹脂がポリイミドからなる請求項14記載のフレキシブルフラットケーブルである。
【発明の効果】
【0025】
本発明は、スパッタCu膜の結晶粒径を規定したことで、Cuの高導電性を充分に引出すことができる。また、弗素樹脂、とくにPFAを樹脂基材としてスパッタCu膜の製膜を行う場合においても、樹脂基材とCu膜の間で高密着性を得ることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0026】
以下本発明の実施の形態を添付図面により説明する。
【0027】
本発明では、高い導電率を有するスパッタCu膜(スパッタCu層)の結晶粒径および製膜条件を明らかにする。また、本発明では、スパッタ法にてCu膜を弗素樹脂に高密着力で密着させることができる製膜条件を明らかにする。
【0028】
スパッタ法によって形成されるCu膜は、スパッタ電力、被製膜物(樹脂基材)表面の温度、ターゲット−被製膜物間距離、スパッタArガス圧によってその物性を大きく変える。
【0029】
Cuスパッタ膜の抵抗率上昇は、伝導電子である自由電子の散乱によって引き起こされる。この散乱は電子が結晶中で感じるポテンシャルの周期性が失われる際に起こる。散乱を引き起こす散乱因子は、主として不純物原子と、結晶の周期性を乱す欠陥構造であり、両因の増大にともない導電率は低下する。
【0030】
本発明者らは、スパッタ電力、被製膜物表面の温度、ターゲット−被製膜物間距離、スパッタArガス圧を変えて、様々なスパッタCu膜を作製し、その導電率と、金属組織および不純物の変化を、実験的に調査した。その結果、結晶粒径と酸化物の量に、スパッタCu膜の抵抗値が大きく依存することが明らかになった。
【0031】
図1に各導電率のスパッタCu膜表面のSEM観察図を、図2に薄膜X線回折実験からHall法によって求められた結晶粒径と導電率の関係を記す。ここで、図1(a)〜図1(d)の各スパッタCu膜の導電率は、それぞれ94%IACS、82%IACS、61%IACS、20%IACSである。また、図1(a)〜図1(d)、図2のスパッタCu膜の厚みは1μmである。
【0032】
図1(a)〜図1(d)に示すように、結晶粒径の大きさは図1(a)>図1(b)>図1(c)>図1(d)となっており、結晶粒径が大きくなるにつれて導電率が高くなっている。
【0033】
また、図2に示すように、結晶粒界が散乱因子になり自由電子の平均自由工程を遮ると仮定し、抵抗率の加算則によって計算から求められた計算値(図2中の線21)の傾向と実験結果の値(図2中の▲印)は良く一致する。図2中、線21の計算値は、Cuの比熱より求めた有効質量、室温での抵抗率、フェルミ速度より導かれたものである。この結果より、1μm厚のスパッタCu膜において50%IACS以上の導電率(図2中では3.44μΩcm以下の抵抗率)を得るには、Cu中の伝導電子の室温での平均自由工程37nm以上にする必要がある。よって、結晶粒径を37nm以上、好ましくは80nm以上とする必要があることが分かる。
【0034】
これらの結果から、小さな結晶粒が形成される条件、すなわち、Cu膜中の拡散が起こりづらい条件で製膜されたCu膜には粒界、空孔などの欠陥が多く、これらが自由電子に対する散乱因子となることで、自由電子の平均自由工程が短くなり導電率が低下すると考えられる。
【0035】
抵抗率はCu膜中の散乱因子だけではなく、Cu膜厚にも依存する。これは、Cu膜の表面、あるいはCu膜と被製膜物の界面に達した電子が、非弾性散乱を起こすことによる。膜厚と抵抗率の関係は、電子が表面、界面で非弾性散乱を起こす確率をP、表面、界面で起こる非弾性散乱の影響は、バルクにおける抵抗率、伝導電子の平均自由工程をそれぞれρ、L、膜の抵抗率をρ、厚みをtとすると、
ρ/ρ≒1+3L(P)/8t …(1)
で表されることが知られている(参考文献;金原あきら,「薄膜の基本技術」,東京大学出版会,1976)。
【0036】
ここで、(1)式の右辺第2項は、膜厚の抵抗率増大への寄与に関する項であり、この項を0.02以下にまで小さくすることをCuにおいて想定する。Cuの伝導電子の平均自由工程を370Å、非弾性散乱を起こす確率を0.4と仮定すると、この式の右辺第2項が0.02に成るのは、Cu膜の厚みtが約2800Å以下の時である。そのため、スパッタCu膜の膜厚は2800Å以上とする。
【0037】
結晶粒径の増大は2種類の拡散現象によって引き起こされる。スパッタリングによってターゲットから叩き出され、被製膜物上に飛来したCuの粒子は被製膜物上において表面拡散し、さらにバルク拡散によってCu膜中の欠陥を縮小、結晶粒径を拡大し、導電率の高い健全な組織を有するCu膜へと成長していく。この時、拡散に充分な温度と、拡散を妨げる不純物のCu膜中への混入を防ぐことが重要である。
【0038】
まず、結晶粒径が80nm以上のスパッタCu膜を作ることが可能な温度に関して述べる。本発明で述べる基板温度とは、被製膜物表面そのものの温度である。被製膜物表面の温度の上昇機構は、基板加熱によるものであっても、被製膜物表面に入射するスパッタ粒子、イオンからの熱エネルギであっても、スパッタリングターゲット表面の熱、プラズマの輻射熱であってもよい。
【0039】
図3に弗素樹脂上に基板温度の異なる条件で製膜されたCu膜表面のSEM観察図を示す。図3(a)〜図3(e)の各基板温度は、それぞれ20℃、60℃、100℃、150℃、220℃である。
【0040】
図3(a)〜図3(e)に示すように、基板温度が高くなるにつれて結晶粒径が大きくなっている。特に、基板温度を、Cuの再結晶温度である150℃以上とすることで、結晶粒径が著しく増大することが見て取れる。
【0041】
次に、Cu膜中の不純物について述べる。Cu膜中の不純物はチャンバー内の残留大気、噴出ガスに起因する。不純物を低減させる方法に関しては、製膜温度条件下において、チャンバー内の真空度が5.0×10-5Torr以下に達するまで真空引きをした後に、チャンバー内の雰囲気を大気からArに置換することが望まれる。また、さらに表面を清浄化するスパッタ工程の前処理としてArによるスパッタエッチングを行い、樹脂基材の表面処理(表面洗浄)を行うことが望ましい。
【0042】
チャンバー内の真空度が10-4Torr台の場合、基材表面に吸着された酸素によって、基材とCu膜の界面に銅酸化物(Cu2O)が多量に生成してしまい、導電性、密着性に悪影響を及ぼす。前記界面に生成されたCu2Oは硫酸によって溶出する性質を持つ。特に、スパッタ工程の後に、硫酸銅電解めっきの工程を設けた場合、界面のCu2Oの溶出と剥離を招き、致命的な不具合となってしまう。そのため、界面でのCu2O生成量をできるだけ少なく抑える必要がある。
【0043】
基材表面に吸着された酸素の影響は、他の製膜条件を変えても排除することは難しく、たとえスパッタエッチングによる表面洗浄を実施したとしても、即座に再度基板表面に酸素が吸着されてしまうため、大きな懸念事項となる。よって、これらの酸化物が招く不具合を確実に防ぐには、チャンバー内の真空度が前述の5.0×10-5Torr以下に達するまで真空引きをした後に、チャンバー内の雰囲気をArに置換するという条件が必要である。
【0044】
また、Cu膜中の不純物が多い場合、150℃以上の表面温度でスパッタCu膜中のCu結晶の成長が始まらない。この現象は、Cu膜中の不純物が結晶粒界における不整合性や、欠陥構造を増大させ、拡散を阻害させることによる。この場合、結晶粒が成長したとしても、Cu結晶中の不純物による散乱の影響から高い導電率は望めない。
【0045】
Ar置換前におけるチャンバー内の真空度以外に、不純物の混入をできるだけ低減する上で考えるべきこととして、スパッタ粒子の飛行時間がある。不純物が、スパッタ粒子の飛行中に混入することを防ぐ目的から、出きるだけスパッタ粒子の飛行時間が短くなるよう、高スパッタ電力で製膜することが望ましい。
【0046】
スパッタCu膜には樹脂基材との高い密着性も要求される。樹脂基材との高い密着性は、表面張力が強く、強い不動態酸化膜を形成する材料の方が得やすい。Cuの代表的酸化物であるCu2Oはもろく、粒界より酸化が内部に進行しやすいという欠点を持つため、スパッタCu膜の製膜に先立って、Ti、NiあるいはNi基合金のスパッタ膜を密着層として作製することが望ましい。
【0047】
本発明者らは、各種スパッタ製膜条件と密着力に関する調査を実施した結果、PFA樹脂基材上へのスパッタCu膜の密着力は、PFA樹脂基材の表面温度(基板温度)に大きく影響されることを見出した。表面温度の異なるPFA樹脂基材上に製膜したスパッタCu膜のPFA樹脂基材に対する密着性を、テープ剥離試験によって評価した結果を表1に示す。
【0048】
【表1】

【0049】
表1に示すように、基板温度が150℃以上で製膜したサンプル(実施例1,2)は、テープ剥離試験で剥離が観察されず、密着性は良好であった。これに対して、基板温度が150℃未満で製膜したサンプル(比較例1〜3)は、基板温度が低くなるにつれて密着性が低下してゆくことが観察された。
【0050】
また、PFA樹脂基材に対するスパッタTi膜の密着力についても、これと同様の兆候が観察されている。すなわち、PFA樹脂基材とスパッタCu膜の間に密着層としてスパッタTi膜を設ける際にも、基板温度を150℃以上とすることで、PFA樹脂基材に対するスパッタTi膜の密着力が良好となる。
【0051】
これらの現象は、拡散運動が樹脂基材界面に存在する空孔などの欠陥も縮小したことと、樹脂基材とCu膜の界面の拡散現象に起因すると考えられる。また、基板温度150℃以上で作製したスパッタCu膜は耐酸性も良好であることから、硫酸銅めっきによるめっきCu膜のシード層としても高密着力をしめすことが分かる。
【0052】
このような条件で作製された、高い導電率と高い密着性を有するCu膜の用途として、特許第3443784号公報、特開2002−203437号公報、特願2005−117060、特願2005−117061などに記載された同軸ケーブルの外部導体が挙げられる。例えば、図4に示すように、中心導体1の周りに設けた絶縁体2の周囲に設けられる外部導体3が挙げられる。この外部導体3の周りに外皮4を設けることで同軸ケーブル11が得られる。また、図5に示すように、図4に示した同軸ケーブル11を横一列に6本配列し、それらの同軸ケーブル11の列を上下から樹脂12,13で挟み込むことでフレキシブルフラットケーブルが得られる。ここで、フレキシブルフラットケーブルを構成する同軸ケーブルとしては、図4に示した同軸ケーブル11の他に、外皮なしの同軸ケーブル(最外層が外部導体3の同軸ケーブル)であってもよい。
【0053】
本実施の形態に係る樹脂材料における金属膜は、スパッタ法のみを利用又はスパッタ法と電解めっき法を利用して製膜しているため、特許第3010336号公報などに記載されている無電解めっきを使用する必要が無く、廃液処理が少ないことから、環境にやさしい製膜工程となる。ここで言う金属膜は、スパッタCu膜単体からなるもの、又はスパッタCu膜とめっきCu膜(めっきCu層)からなるものを示している。
【0054】
長尺の樹脂基材上にスパッタ法で金属膜を製膜する場合、ロール(例えば、搬送装置中のプーリー)toロール(例えば、巻取り装置中のプーリー)で巻取りながら製膜することが一般的である。前述したスパッタCu膜の曲げ特性を評価したところ、0.3%以上の曲げ歪みで抵抗率が10%程度増加することがわかった。この結果より、樹脂基材をロールtoロールでスパッタ装置中を流しながら、樹脂基材上にCu膜を製膜する際、巻き取りの曲げ歪みに伴う不要な抵抗の増大を招かぬために、曲げ歪み量を0.3%以下に抑える必要がある。よって、曲げ歪み量を0.3%以下に抑えるべく、金属膜の膜厚に応じて樹脂材料を巻き取るロール径(プーリー径)の大きさを調整する必要がある。
【0055】
また、シート状の樹脂材料における金属膜にエッチングを施し、金属膜の非エッチング領域を配線パターンに形成することで、配線基板として利用できる。さらに、シート状の樹脂材料は、そのままで電磁波シールドとして利用できる。
【0056】
また、本発明において、樹脂材料にCu膜を製膜した後、そのCu膜の上に更に樹脂を押出す、あるいは貼り付けても良い。
【実施例】
【0057】
(実施例1)
チャンバー内を真空引きしながら、弗素系樹脂からなるシートを基盤加熱によって230℃まで加熱した。その後、チャンバー内の真空度9.0×10-6Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.41Paにて、5秒おきに1秒間製膜する間欠製膜を行い、スパッタNi膜を100nm厚になるまで製膜した後、スパッタCu膜を500nm厚になるまで製膜した。このときのSEMで捉えたCu膜表面の結晶粒径は140nmであった。
【0058】
その後、スパッタCu膜をシード層とし、硫酸銅水溶液を用いた電解銅めっきによってCu膜を3μm厚になるまで製膜し、電磁波シールド材料として利用する。
【0059】
(実施例2)
チャンバー内を真空引きしながら、ポリイミドからなるシートを基盤加熱によって180℃まで加熱した。その後、チャンバー内の真空度9.0×10-6Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.35Paにて、5秒おきに1秒間製膜する間欠製膜を行い、スパッタNi80Cr20膜を50nm厚になるまで製膜した後、スパッタCu膜を500nm厚になるまで製膜した。このときのTEMで捉えたCu膜表面の結晶粒径は100nmであった。
【0060】
その後、スパッタCu膜をシード層とし、硫酸銅水溶液を用いた電解銅めっきによってCu膜を5μm厚になるまで製膜し、電磁波シールド材料として利用する。
【0061】
(実施例3)
厚さ50μmのPFAフィルムをチャンバー内で巻取りながらスパッタ製膜を行う。巻取りロールの直経は10cmとした。チャンバー内は真空度5×10-6Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.35Paに設定した。スパッタ製膜はPFAフィルムがターゲット前を通過する20秒間の間に行われ、スパッタCu膜の膜厚は0.8μmであった。この際、フィルム側に加熱機構は設けていないが、スパッタ電力を上げることに付随するスパッタ粒子のエネルギの向上、製膜物表面温度の向上を図り、結晶粒径を拡大させた。その結果、スパッタCu膜の、基材と平行な面の結晶粒径は、表面すれすれに入射させたX線による面内X線回折実験結果からHall plotによって求めたところ、80nmであった。
【0062】
このCu被膜樹脂材料を電磁波シールド材料として利用する。
【0063】
(実施例4)
撚り線からなる中心導体上にPFAからなる絶縁体層を押出して作製した外径100μmの同軸ケーブルコアに対し、真空度1×10-5Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.41Paにて、5秒おきに2秒間製膜する間欠製膜を行い、スパッタTi膜を100nm厚になるまで製膜した後、スパッタCu膜を500nm厚になるまで製膜した。このときのSEMで捉えたCu膜表面の結晶粒径は140nmであった。
【0064】
その後、スパッタCu膜をシード層とし、硫酸銅水溶液を用いた電解銅めっきによってCu膜を総厚6μmになるまで製膜し、同軸ケーブル外部導体とする。その後、この同軸ケーブル外部導体上にPFAを再び押出し被覆してジャケットとし、これを同軸ケーブルとして利用する。
【0065】
(実施例5)
単線からなる中心導体上にPTFEからなる絶縁体層を作製した外径100μmの同軸ケーブルコアに対し、Arガスによるスパッタエッチングによって表面洗浄を行った。
【0066】
その後、真空度8.0×10-6Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.40Paにて、5秒おきに1秒間製膜する間欠製膜を行い、スパッタCu膜を3μm厚になるまで製膜し、同軸ケーブル外部導体とした。このときのSEMで捉えたCu膜表面の結晶粒径は140nmであった。
【0067】
その後、この同軸ケーブル外部導体上にPFAを再び押出し被覆してジャケットとし、同軸ケーブルとした。この同軸ケーブルを横一列に配列し、それらの同軸ケーブルの列を上下からポリイミド樹脂によって挟み込み、シールド能力に優れたフレキシブルフラットケーブルとして使用する。
【0068】
(実施例6)
単線からなる中心導体上にPFAからなる絶縁体層を押出し成形によって作製した外径100μmの同軸ケーブルコアに対し、Arガスによるスパッタエッチングによって表面洗浄を行った。
【0069】
その後、真空度8.0×10-6Torrで雰囲気をArに置換し、Ar圧0.40Paにて、5秒おきに1秒間製膜する間欠製膜を行い、スパッタCu膜を3μm厚になるまで製膜し、同軸ケーブル外部導体とした。このときのSEMで捉えたCu膜表面の結晶粒径は140nmであった。
【0070】
その後、薄膜外部導体を表面に持つ同軸ケーブルを横一列に配列し、それらの同軸ケーブルの列を樹脂によって上下から挟み込み、フレキシブルフラットケーブルとして使用する。
【図面の簡単な説明】
【0071】
【図1】各導電率でのスパッタCu膜表面のSEM観察図である。
【図2】薄膜X線回折実験によって求められたスパッタ膜の抵抗率と結晶粒径の関係と、計算によって求めた結晶粒界が散乱因子になると仮定した場合のCuの抵抗率と結晶粒径の関係を示す図である。
【図3】各基板温度で作製したスパッタCu膜表面のSEM観察図である。
【図4】薄膜を外部導体に持つ同軸ケーブルの模式図である。
【図5】薄膜を外部導体に持つ同軸ケーブルを用いたフレキシブルフラットケーブルの模式図である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
樹脂基材上にArガスを用いたスパッタによってCu層を設けた複合材料において、前記Cu層の、前記樹脂基材に対して平行な面での平均結晶粒径が37nm以上であることを特徴とする金属と樹脂からなる複合材料。
【請求項2】
前記スパッタによるCu層をシード層とし、そのスパッタCu層上に硫酸銅電解めっきによるめっきCu層を設けた請求項1記載の金属と樹脂からなる複合材料。
【請求項3】
前記樹脂基材と前記Cu層の間に、Ti、NiあるいはNi合金からなるスパッタ密着層を設けた請求項1又は2記載の金属と樹脂からなる複合材料。
【請求項4】
前記樹脂基材が弗素系樹脂からなる請求項1から3いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料。
【請求項5】
前記スパッタCu層の厚みが2800Å以上である請求項1から4いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料。
【請求項6】
単線あるいは撚り線からなる中心導体上に弗素樹脂層が設けられた同軸ケーブルコアを樹脂基材とし、その樹脂基材上に外部導体として請求項1から5いずれかに記載された複合材料の金属膜を設けたことを特徴とする同軸ケーブル。
【請求項7】
前記弗素樹脂層がPFAからなる請求項6記載の同軸ケーブル。
【請求項8】
樹脂基材上にArガスを用いたスパッタによってCu層を設けた複合材料の製造方法において、前記Cu層をスパッタ工程で製膜する際、被製膜物である前記樹脂基材の表面温度を150℃以上とすることを特徴とする金属と樹脂からなる複合材料の製造方法。
【請求項9】
前記スパッタ工程の際、先ずチャンバー内の真空度を5.0×10-5Torr以下に真空引きした後、チャンバー内の雰囲気をArガスに置換する請求項8記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法。
【請求項10】
前記スパッタ工程の前処理として、Arあるいは酸素によるスパッタエッチングにより、樹脂基材の表面処理を行う請求項8又は9記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法。
【請求項11】
長尺品の前記樹脂基材を巻取りながらスパッタ製膜をする際、樹脂基材が巻取り装置、あるいは搬送装置中のプーリーの曲面に巻き付けられることによって生じる曲げ歪みが0.3%以下となるように、プーリー径の大きさを調整する請求項8から10いずれかに記載の金属と樹脂からなる複合材料の製造方法。
【請求項12】
請求項1から5いずれかに記載の複合材料の金属膜にエッチングを施し、金属膜の非エッチング領域を配線パターンに形成したことを特徴とする配線基板。
【請求項13】
請求項1から5いずれかに記載の複合材料を用いて構成したことを特徴とする電磁波シールド。
【請求項14】
請求項6又は7記載の同軸ケーブルを横一列に複数本配列し、それらの同軸ケーブルの列を上下から樹脂で挟み込んでなることを特徴とするフレキシブルフラットケーブル。
【請求項15】
前記樹脂がポリイミドからなる請求項14記載のフレキシブルフラットケーブル。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2007−146247(P2007−146247A)
【公開日】平成19年6月14日(2007.6.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−343647(P2005−343647)
【出願日】平成17年11月29日(2005.11.29)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】