説明

金属と樹脂の複合体及びその製造方法

【課題】本発明は、強力に接合できる金属と樹脂の複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【解決手段】本発明に係る金属と樹脂の複合体の製造方法は、形状化した金属基材を準備する工程と、化学エッチングにより前記金属基材の表層に平均直径が30〜55nmの多数の微細孔を形成する工程と、上記化学エッチングされた金属基材を射出成形金型内にインサートしてから、それを100〜350℃に加熱する工程と、前記金属基材の表面に溶融した結晶性を有する熱可塑性樹脂材料を注入して、前記金属基材を瞬時に冷却して樹脂材料を成形すると同時に、所望の金属と樹脂の複合体を獲得する工程と、を備える。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属と樹脂の複合体及びその製造方法に関し、特に強固に一体化接合される金属と樹脂の複合体及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属材料は、通常電子製品のハウジング或いは部品に用いられ、且つ溶接、粘着或いは機械的な連接方式(螺合及び係合等)を介して他の材料と接合される。溶接は、金属材料同士を接合することに最も常用な方法である。また、金属と樹脂とを接合する場合、主に粘着剤を中間層として両者を一体に接着する粘着方法を使用する。
【0003】
上記の粘着方法は、金属と樹脂との接合を実現できるが、以下の欠点も存在する。第一に、接着強度が低く、接合力が僅かに0.5MPaである。第二に、自動化できない。第三に、作動温度が粘着剤に制限されて、−50〜100℃の温度範囲内でしか正常に作動できない。第四に、光、熱及び湿気等の要素により、粘着剤は劣化して断裂し易い。第五に、大部分の粘着剤は毒性を有し、刺激性の気体を発散して、人々の健康に害を及ぼす。従って、粘着剤を使用せず、より合理的な接合方法が従来から研究されてきた。例えば、予め射出成形金型内にインサートしていた金属部品に溶融樹脂を射出して、樹脂成形品と金属部品とを接合する方法が提案された。しかし、既存の射出接合方法は、金属と樹脂との接合力が低いという課題がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0004】
従来の問題点に鑑みて、本発明は、強力に接合できる金属と樹脂の複合体及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明に係る金属と樹脂の複合体は、30〜55nmの平均直径を有する複数の微細孔が形成されている金属基材と、前記金属基材の複数の微細孔を有する表面に接合される樹脂部材と、を備えてなる。射出成形により結晶性を有する熱可塑性樹脂を前記金属基材の複数の微細孔に侵入させて、前記樹脂部材と前記金属基材とを強固に固着させる。
【0006】
また、本発明に係る金属と樹脂の複合体の製作方法は、金属基材を準備する工程と、前記金属基材を化学水溶液に浸漬して、その表面に平均直径が30〜55nmの複数の微細孔を形成する工程と、前記金属基材を射出成形金型内にインサートしてから、それを100〜350℃に加熱する工程と、前記射出成形金型内に溶融した結晶性を有する熱可塑性樹脂材料を注入してから瞬時に冷却して、樹脂部材を成形するとともに、所望の金属と樹脂の複合体を獲得する工程と、を備える。
【発明の効果】
【0007】
従来の技術と比較すると、本発明に係る金属と樹脂の複合体の製作方法は、化学水溶液処理を介して金属基材の表面に複数のナノレベルの微細孔を形成してから、前記金属基材を射出成形金型内にインサートして100〜350℃に加熱し、それから溶融した結晶型熱可塑性樹脂材料を金型キャビティに注入してから瞬時に冷却して、結晶型熱可塑性樹脂が前記金属基材の複数の微細孔に侵入し、且つ加熱すると膨張し、冷却すると収縮するため、本発明の金属と樹脂の複合体の接着力が大幅に向上される。
【図面の簡単な説明】
【0008】
【図1】本発明に係る金属と樹脂の複合体の断面図である。
【図2】本発明の金属基材の化学処理を経た後の電子顕微鏡写真である。
【発明を実施するための形態】
【0009】
図1に示したように、本発明の実施形態に係る金属と樹脂の複合体100は、金属基材11と、前記金属基材11の表面に被覆される酸化防止膜12と、前記酸化防止膜12の表面に形成される複数の樹脂部材13と、を備える。前記金属基材11の材質は、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼、銅或いは銅合金から選択された何れか一種である。
【0010】
図2に示したように、前記金属基材の表面には、複数のナノレベルの微細孔111が形成されている。複数の前記微細孔111は、前記金属基材11の表面に均一に分布されており、その平均直径は、30〜55nmである。前記微細孔111が存在するため、射出成型する際に、溶融した樹脂材料が前記微細孔111に侵入して固着されるので、前記樹脂部材13と前記金属基材11との接合力は増強される。前記微細孔111は、前記金属基材11に対する化学処理により形成される。
【0011】
前記酸化防止膜12は、有機膜であり、前記金属基材11が酸化されないように保護して、酸化膜の生成に起因する前記金属基材11と前記樹脂部材13との接合力の低下を防止する。
【0012】
前記樹脂部材13は、インジェクション・モールディング(Injection Molding)の方式で、前記酸化防止膜12の表面に形成される。前記樹脂部材13は、ポリフェニレンスルフィド(PPS)とガラス繊維との混合物、ポリアミド(PA)、ポリエチレンテレフタレート(PET)或いはポリブチレンテレフタレート(PBT)等の高流動性を有する結晶型熱可塑性樹脂である。前記樹脂部材13がポリフェニレンスルフィド(PPS)とガラス繊維との混合物である場合、その中のガラス繊維の重量比は20〜50重量%である。
【0013】
本発明の実施形態に係る金属と樹脂の複合体の製造方法は、以下の工程を備える。
【0014】
第1の工程では、アルミニウム合金、マグネシウム合金、ステンレス鋼、銅或いは銅合金の何れか一種からなる形状化した金属基材11を準備する。
【0015】
第2の工程では、前記金属基材11を化学水溶液に浸漬して、それを洗浄する。この化学水溶液処理工程は、以下の処理ステップを備える。
【0016】
(i)脱ワックス(dewax)処理
前記金属基材11を脱ワックス機能を有する溶剤を含有する水溶液に浸漬して、それに対して脱ワックス処理を行う。浸漬する際に、脱ワックス溶剤の濃度を30〜80ml/Lとし、液温を55〜65℃として、5分以上浸漬する。それから前記金属基材11を精製水で水洗する。
(ii)脱脂処理
前記金属基材11を、脱脂剤を含有する水溶液に浸漬することにより、その表面に付着した油脂、微細な塵、切削屑等の異物を除く。この脱脂剤は、市販されている金属用脱脂剤であり、その濃度が90〜150g/Lである。浸漬する際に、液温を20〜30℃として1〜6分浸漬する。それから前記金属基材11を精製水で水洗する。
(iii)酸化膜除去処理
前記金属基材11を酸性酸化膜除去溶剤を含有する水溶液に浸漬することにより、その表面に形成された酸化膜を取り除く。通常、長時間の自然放置で、金属原材料或いは機械加工を経た金属基材の表面には酸化膜が形成される。この酸化膜は、金属材料の表面性能を変えて、金属と樹脂との接着力を低下させる恐れがあるので、それを取り除く必要がある。この工程で用いた酸性酸化膜除去溶剤は、市販されている金属用の30〜80ml/L濃度の酸性溶剤である。前記金属基材11を20〜30℃の酸性酸化膜除去溶剤を含有する水溶液に1〜10分浸漬した後、それを精製水で水洗する。
【0017】
前記金属基材11は、上記した一連の化学水溶液処理を経た後、電子顕微鏡で観察すると、その表面には平均直径が30〜55nmである複数の微細孔111が形成される(図2を参照)。
【0018】
第3の工程では、前記金属基材11を水溶性の抗酸化剤を含有する水溶液に浸漬して、前記金属基材11に対して酸化防止処理を行う。前記抗酸化剤は、市販されている金属用の有機抗酸化剤である。前記金属基材11を20〜30℃の抗酸化剤を含有する水溶液に1〜5分浸漬すると、その表面には有機酸化防止膜12が形成される。それから前記金属基材11をよく水洗してから乾燥する。
【0019】
第4の工程では、射出成形金型を用意して、上記乾燥された後の金属基材11を前記射出成形金型のキャビティ内にインサートし金型を閉じて、電磁感応の方式で前記金属基材11を100〜350℃まで加熱する。
【0020】
第5の工程では、加熱された後の金属基材11の表面に溶融した結晶型熱可塑性樹脂材料を注入してから、瞬時に冷却して、前記金属基材11の表面に樹脂部材13を接合させ、所望の金属と樹脂の複合体100を獲得する。
【0021】
前記金属と樹脂の複合体100を引っ張り破断試験したところ、その引っ張り強度は10MPaに達し、剪断破断応力は25MPaに達する。さらに、前記複合体100を冷熱衝撃テストを行った(48時間、−40〜85℃、4時間/サイクル、12サイクル)結果、前記複合体100の引張強度及び剪断強度が明らかに減少することはない。
【0022】
本発明の製造方法によれば、化学水溶液処理を介して前記金属基材11の表面に複数のナノレベルの微細孔111を形成してから、前記金属基材を射出成形金型内にインサートして100〜350℃に加熱し、それから溶融した結晶型熱可塑性樹脂材料を金型キャビティに注入してから瞬時に冷却して、結晶型熱可塑性樹脂が前記金属基材の複数の微細孔に侵入し、且つ加熱すると膨張し、冷却すると収縮するため、本発明の金属と樹脂の複合体100の接着力が大幅に向上される。
【0023】
以上、本発明の好適な実施形態について詳細に説明したが、本発明は前記実施形態に限定されるものではなく、本発明の範囲内で種々の変形、又は修正が可能であり、該変形、又は修正も本発明の特許請求の範囲内に含まれるものであることはいうまでもない。
【符号の説明】
【0024】
11 金属基材
12 酸化防止膜
13 樹脂部材
100 複合体
111 微細孔

【特許請求の範囲】
【請求項1】
30〜55nmの平均直径を有する複数の微細孔が形成されている金属基材と、
前記金属基材の複数の微細孔を有する表面に接合されている樹脂部材と、
を備えてなる金属と樹脂の複合体であって、
射出成形により結晶性を有する熱可塑性樹脂を前記金属基材の複数の微細孔に侵入させて、前記樹脂部材と前記金属基材とを強固に一体固着したことを特徴とする金属と樹脂の複合体。
【請求項2】
前記金属基材の複数の微細孔を有する表面には、有機酸化防止膜が形成されていることを特徴とする請求項1に記載の金属と樹脂の複合体。
【請求項3】
金属基材を準備する工程と、
前記金属基材を化学水溶液に浸漬して、その表面に平均直径が30〜55nmの複数の微細孔を形成する工程と、
前記金属基材を射出成形金型内にインサートしてから、それを100〜350℃に加熱する工程と、
前記射出成形金型内に溶融した結晶性を有する熱可塑性樹脂材料を注入してから瞬時に冷却して、樹脂部材を成形するとともに、所望の金属と樹脂の複合体を獲得する工程と、
を備える金属と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項4】
前記化学水溶液処理工程は、脱ワックス処理、脱脂処理及び酸化膜除去処理を備えることを特徴とする請求項3に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項5】
前記脱ワックス処理は、金属基材を液温が55〜65℃であり且つ濃度が30〜80ml/Lの脱ワックス溶剤を含有する水溶液に5分以上浸漬するステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項6】
前記脱脂処理は、金属基材を液温が20〜30℃であり且つ濃度が90〜150g/Lの脱脂剤を含有する水溶液に1〜6分浸漬するステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項7】
前記酸化膜除去処理は、金属基材を液温が20〜30℃であり且つ濃度が30〜80ml/Lの酸性酸化膜除去溶剤を含有する水溶液に1〜10分浸漬するステップを含むことを特徴とする請求項4に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法。
【請求項8】
前記金属と樹脂の複合体の製造方法は、化学水溶液処理を経た後、前記金属基材に対して酸化防止処理を行う工程をさらに備えることを特徴とする請求項3に記載の金属と樹脂の複合体の製造方法。

【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−6392(P2012−6392A)
【公開日】平成24年1月12日(2012.1.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−137332(P2011−137332)
【出願日】平成23年6月21日(2011.6.21)
【出願人】(505177003)深▲セン▼富泰宏精密工業有限公司 (138)
【出願人】(508155310)富士康(香港)有限公司 (185)
【Fターム(参考)】