説明

金属の研磨方法

【課題】本発明は、表面粗さの低い金属を得るための新規な研磨方法を提供する。
【解決手段】金属の研磨方法であって、
(1)前記研磨方法は、研磨液中に研磨対象金属を浸漬し、前記研磨液に紫外線を照射しながら、前記研磨対象金属を研磨する方法であり、
(2)前記研磨液は、下記化学式(I)


で示される蛍光材料の水溶液に、酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種を懸濁させてなることを特徴とする研磨方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属の研磨方法に関する。
【背景技術】
【0002】
精密機器の高性能化、小型化が進むにつれ、それらに組み込まれる電子部品や光学部品の表面粗さに対する要求は一段と厳しいものになっており、例えば、1nm又は原子オーダーの最大高さ粗さが要求されている。また、LSIにおいては、今まで以上に小型化が求められている。しかしながら、半導体チップの多層化、高集積度化にともなう配線断面微少化により、配線抵抗が増大し、それに伴う断線(エレクトロマイグレーション)、高温時のストレスによる断線(ストレスマイグレーション)等の問題が生じている。これらの問題を解決するために、銅配線、Low−k配線および銅デュアルダマシンプロセス等が導入されている。そこでは、軟質の純金属の鏡面加工がますます重要な課題になっている。例えば、液晶ディスプレイのバックライト用の電極もまた、その電子放出性能が表面粗さに大きく関係し、できる限り平滑であることが求められている。
【0003】
超平滑な表面を得ることを目的として、EEM(Elastic Emission Machining)、フロートポリッシング、CMP(Chemical Mechanical Polishing)等の多くの方法が提案されている(非特許文献1〜3)。
【0004】
しかしながら、これらの方法には、加工精度に限界があるため、より平滑な表面を得るために更なる改良が必要である。
【非特許文献1】Y. CHIWAYA and T. TANAKA: Study of Ultraviolet Ray-Assisted Machining(6th Report)-A Trial of Polishing using Ultraviolet-Excited Liquid, Proceedings of 2004’s JSPE Fall Annual Meeting, (2004) 657 (in Japanese).
【非特許文献2】Y. CHIWAYA and T. TANAKA: Fundamental Verification of Ultra violet-Exited Abrasion and Polishing Characteristics of Copper-Study of Luminescence Machining, Key Engineering Materials, 291-292 (2005), pp343-348.
【非特許文献3】大吉利吉, 磯野吉正, 田中武司:紫外線励起によるマシニングの研究(第1報)−基本原理と基礎的現象の検証, 精密工学会1999年度関西支部定期学術講演会講演論文集, 31.
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
本発明は、表面粗さの低い金属を得るための新規な研磨方法を提供することを主目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
本発明者は、上記目的を達成すべく鋭意研究を重ねた結果、特定の研磨液を用い、且つ、特定の操作を行うことにより、上記目的を達成することを見出し、本発明を完成するに至った。
【0007】
即ち、本発明は、下記の研磨方法に係る。
1. 金属の研磨方法であって、
(1)前記研磨方法は、研磨液中に研磨対象金属を浸漬し、前記研磨液に紫外線を照射しながら、前記研磨対象金属を研磨する方法であり、
(2)前記研磨液は、下記化学式(I)
【0008】
【化1】

【0009】
で示される蛍光材料の水溶液に、酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種を懸濁させてなることを特徴とする研磨方法。
2. 前記研磨液中の前記蛍光材料の濃度が、0.15〜0.25重量%である、項1に記載の研磨方法。
3. 紫外線の波長が254nmである、項1又は2に記載の研磨方法。
4. 紫外線が真空紫外線である、項1又は2に記載の研磨方法。
5. 前記研磨液に紫外線を照射する時間が4〜8時間である、項1〜4のいずれかに記載の研磨方法。
6. 前記研磨液の温度が40℃以上である、項1〜5のいずれかに記載の研磨方法。
7. 前記研磨液のpHが2以上である、項1〜6のいずれかに記載の研磨方法。
8. 研磨対象金属が、銅である項1〜7のいずれかに記載の研磨方法。
9. 研磨対象金属が、液晶ディスプレイのバックライト用電極である項1〜8のいずれかに記載の研磨方法。
【0010】
本発明の研磨方法は、金属の研磨方法であって、
(1)前記研磨方法は、研磨液中に研磨対象金属を浸漬し、前記研磨液に紫外線を照射しながら、前記研磨対象金属を研磨する方法であり、
(2)前記研磨液は、下記化学式(I)
【0011】
【化2】

【0012】
で示される蛍光材料の水溶液に、酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種を懸濁させてなることを特徴とする。
【0013】
本発明の研磨方法は、研磨液中の酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種(以下、「金属酸化物粒子」と略記する場合がある)が研磨対象金属と接触することにより該金属を研磨する(機械的研磨)。すなわち、本発明の研磨方法において、前記金属酸化物粒子は、前記対象金属に対して機械的引掻き作用を奏する。しかし、前記金属酸化物粒子の接触による研磨のみでは前記金属の表面粗さが大きくなる。
【0014】
本発明の研磨方法では、さらに、紫外線による上記蛍光材料の励起反応によって、前記機械的研磨によって研磨された金属の表面をさらに研磨する(化学的研磨)。
【0015】
<研磨対象金属>
本発明の研磨方法は、種々の金属に対して適用できる。例えば、Cu、Mo、W、Nb、Ni等が挙げられる。これら金属を1種又は2種以上で含む合金でもよい。
特に、本発明の研磨方法によれば、超平滑な金属を得ることができる。例えば表面が超平滑な液晶ディスプレイのバックライト用電極を好適に得ることができる。前記電極には、電子の放出を容易に起こさせることが求められている。そのため、前記電極には超平滑性が要求される。
【0016】
前記金属の形状、大きさ、表面粗さ(Ra)等については、本発明の研磨方法を実施できる範囲であればよく限定されない。特に、本発明の研磨方法は、表面粗さが数十nmまで前加工した金属の鏡面加工に好適に適用できる。
【0017】
前加工は、常法により行うことができる。例えば、研磨装置MA−150を用いて#400から#6000の酸化アルミニウム砥粒でラッピングを行った後、必要に応じて、粒径1.0μm、さらに、粒径0.3μmの酸化アルミニウム砥粒懸濁液ポリシングすることにより、前加工を行うことができる。
【0018】
<研磨液>
本発明の研磨方法にて使用する研磨液は、上記蛍光材料の水溶液に、酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種を懸濁させた混合液である。
【0019】
上記蛍光材料としては、市販品であってもよいし、公知の方法によって合成したものであってもよい。市販品としては、例えばCathilon Brilliant Flavine GFH(585 %)(保土ヶ谷化学工業株式会社製)を用いることができる。
【0020】
上記蛍光材料は、紫外線照射により黄色に発光するが、かかる発光により前記金属酸化物粒子を励起させることはほとんどない。
【0021】
上記蛍光材料は、水溶性の化合物であり、水に溶解させて、水溶液として用いる。上記蛍光材料の水溶液は、透明度が高いため、紫外線照射を利用した研磨処理を好適に行える。
【0022】
前記混合液中の上記蛍光材料の濃度は、特に限定されないが、0.15〜0.25重量%が好ましく、0.18〜0.22重量%がより好ましい。上記蛍光材料の濃度が0.18〜0.22重量%の場合、Ra値の低い(表面が平滑な)金属処理物を好適に得ることができる。
【0023】
前記酸化アルミニウムは、1重量%以下であれば不純物を含んでいても良い。
【0024】
前記酸化アルミニウム粒子の粒径は、特に限定されないが、0.5〜0.001μmが好ましく、0.1〜0.01μmがより好ましい。前記酸化アルミニウム粒子の粒径が0.5〜0.01μmの場合、上記機械的研磨が好適に行われ、効率的に本発明の研磨方法を遂行できる。
【0025】
前記酸化アルミニウム粒子としては、公知の又は市販のものを用いることができる。
【0026】
前記酸化アルミニウム粒子は、紫外線を透過しやすい。そのため、本発明の研磨方法において、前記蛍光材料に紫外線を投射しやすくなる。これにより、前記蛍光材料の励起反応を引き起こしやすくなる。また、前記酸化アルミニウム粒子は、紫外線が照射されると極めて弱い光励起を起こすものと考えられる。かかる光励起によって前記蛍光材料は軽く分解されるものと考えられる。
【0027】
酸化チタン粒子は、380nm以下の波長の紫外線を照射されると、電子と正孔を作る。前記電子は還元作用を示す。また、前記正孔は強い酸化反応を示す。従って、本発明の研磨方法において、紫外線を照射することよって酸化チタン粒子の表面に生成した電子及び正孔がさらに前記蛍光材料の分解反応を促進させ、かかる分解反応によって生じた硝酸、酸素イオン等が研磨対象金属の腐食を加速させる。このことから、本発明の研磨方法において、金属酸化物粒子として酸化チタン粒子を用いる場合、酸化されにくいNi,Mo,W,Nb等の鏡面加工処理を好適に行うことができる。よって、本発明の研磨方法によれば、例えば液晶ディスプレイのバックライト用の電極の鏡面加工を効果的に行うことができる。
【0028】
前記酸化チタン粒子の粒径は、特に限定されないが、0.1〜0.007μmが好ましく、0.1〜0.01μmがより好ましい。前記酸化チタン粒子の粒径が0.1〜0.007μmの場合、上記機械的研磨が好適に行われ、効率的に本発明の研磨方法を遂行できる。また、前記酸化チタン粒子の光触媒作用をより大きくし、前記蛍光材料の分解反応をより好適に行うことができる。さらに、前記酸化チタン粒子の表面積が大きく、結晶欠陥が少ないため、電子と正孔の再結合を効果的に防止できる。
【0029】
前記酸化チタン粒子としては、公知の又は市販のものを用いることができる。
【0030】
前記研磨液中における前記金属酸化物粒子の含有量は、1〜30重量%が好ましく、5〜20重量%がより好ましい。前記金属酸化物粒子の含有量が5〜20重量%の場合、効率的に研磨対象金属を研磨することができる。
【0031】
前記研磨液のpHは、上記蛍光材料の濃度等に応じて異なるが、2以上が好ましく、2〜7がより好ましく、3〜5が最も好ましい。pHが2以上の場合、金属表面のRa値を好適に低下させることができる。pHの調整方法としては、例えば前記水溶液に市販のpH標準校正液を添加する方法が挙げられる。
【0032】
上記研磨液は、例えば、上記蛍光材料の水溶液に上記金属酸化物粒子を添加し、撹拌することにより調製できる。
【0033】
<研磨方法>
本発明の研磨方法では、上記研磨液中に上記研磨対象金属を浸漬し、該研磨液に紫外線を照射しながら、該研磨対象金属を研磨する。本発明の研磨方法は、機械的研磨及び化学的研磨を一工程で行う方法である。
【0034】
上記研磨液の温度は、40℃以上が好ましく、40〜50℃がより好ましい。上記研磨液の温度が40℃以上の場合、Ra値をより低下させることができる。
【0035】
照射する紫外線の波長は、本発明の研磨方法を好適に遂行できる範囲内であれば特に限定されない。例えば、上記蛍光材料を好適に励起することができ、また、照射装置として安価で且つ汎用されているものを用いることができる点で、254nmが好ましい。
【0036】
また、本発明の研磨方法では、紫外線として真空紫外線(例えば波長58.4nmの紫外線)を照射することもできる。この場合、真空設備が必要になる。
【0037】
本発明の研磨方法は、例えばバレル研磨やポリッシングに適用できる。
【0038】
ポリッシングにより本発明の研磨方法を行う際、例えば図1の装置を用いることができる。図1の装置は、研磨機及び紫外線照射装置を備えたものであり、研磨機の下部から紫外線を照射して本発明の研磨方法を実行することができる。本明細書では、図1の装置を「紫外線照射型研磨装置」と呼ぶことがある。
【0039】
以下、本発明の研磨方法について、図1の紫外線照射型研磨装置を用いて研磨対象金属を研磨する場合を代表例として具体的に説明する。
【0040】
図1の装置は、太陽歯車及び試料ホルダを備えた太陽歯車機構を有し、その外側に、遊星歯車及び試料ホルダを備えた遊星歯車機構を2つ有し、前記太陽歯車機構の上部には、モータ及び減速機を有する。前記太陽歯車及び遊星歯車の歯数は、特に限定されない。例えば、太陽歯車の回転数が100r.m.pの場合に、研磨対象金属の軌跡が太陽歯車の周りを1周するごとに12.64°ずつずれるように歯数を決めることが好ましい。
【0041】
さらに、図1の装置には、研磨液を溜める空間が設けられ、該空間の底には、研磨パッド(図示せず)が敷かれた石英ガラスが設置されている。
【0042】
前記研磨パッドとしては、公知のものを用いることができるが、上記金属酸化物粒子の種類及び粒径に応じて適宜選択するのがよい。
【0043】
例えば、粒径が0.3μmの酸化アルミニウム粒子を用いる場合、研磨パッドとして軟質ポリオレフィンを用いることが好ましい。前記軟質ポリオレフィンとしては、例えば、商品名「Povic−T」アキレス株式会社製等が挙げられる。
【0044】
また、粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子及び/又は粒径0.1μmの酸化チタン粒子を用いる場合、研磨パッドとしてコーデユロイを用いることが好ましい。
【0045】
本発明の研磨方法は例えば下記のように行われる。
【0046】
まず、前記2つの遊星歯車の試料ホルダにそれぞれ研磨対象金属を設置する。その際、前記金属の研磨面が研磨パッドと接触するように取り付けることが望ましい。また、研磨対象金属を取り付ける際、該金属の高さが均一になるようにマイクロメータにより測定して行うことが好ましい。
【0047】
次いで、前記空間内に、前記研磨液を充填する。前記研磨液を充填する量は、特に限定されない。
【0048】
該研磨液を充填するのに先立って、該研磨液の温度を例えば40℃以上に調整してもよい。研磨液の温度調整には、加熱ヒータ等の公知の装置を用いればよい。また、紫外線照射により石英ガラスの温度が上昇するため、石英ガラスの熱を利用して該研磨液の温度を調整してもよい。
【0049】
そして、紫外線を、石英ガラスの下側から照射する。照射された紫外線は、石英ガラスを透過し、研磨パッドを通って、研磨対象金属の研磨面に到達する。紫外線の照射には、公知の紫外線照射装置を用いればよい。図1の装置の場合、例えば波長が254nmの紫外線を照射できる装置を用いることができる。
【0050】
真空紫外線を照射する場合、真空装置を別途設け、真空装置内で本発明の研磨方法を行う必要がある。真空紫外線としては、例えば58.4nmの波長の紫外線がある。
【0051】
紫外線を照射する時間は、4〜8時間が好ましく、5〜7時間がより好ましい。紫外線を照射する時間が4〜8時間の場合、Ra値をより低減できる。
【0052】
前記研磨液に紫外線を照射することにより、下記1)〜3)の現象が生じると推測できる。
1)上記蛍光材料の蛍光中心(正イオン)の周りにある酸素原子が励起され、イオン化する。イオン化した酸素原子は研磨対象金属を酸化し、該金属の含有成分(例えばCu等)を溶出させる。
2)蛍光材料の発光現象により生じた正孔が、研磨対象金属の原子から電子を引き抜き、該金属をイオン化する。イオン化した該金属は、研磨液(水溶液)中で酸化され、含有成分(例えばCu等)が溶出する。
3)金属酸化物粒子(特に酸化チタン粒子)が紫外線により励起され、その表面に電子と正孔が生じる。そして、その電子及び正孔の酸化還元反応により研磨対象金属の含有成分(例えばCu等)を溶出させる。この場合、紫外線により励起された光触媒が蛍光材料の蛍光中心(正イオン)に存在する多種の原子を酸化還元することにより蛍光材料を分解する。蛍光材料を分解することにより、蛍光材料中の炭素、水素、窒素等は酸化物となる。特に窒素は硝酸になる。これら酸化物によって研磨対象金属の腐食反応をさらに加速させる。
【0053】
その他、蛍光材料の分解反応により酸素イオン、活性酸素等も生成し、これら酸素イオン等もまた前記腐食反応に寄与するものと考えられる。
【0054】
本発明の研磨方法によれば、例えば、超平滑な液晶ディスプレイのバックライト用電極を好適に製造できる。
【発明の効果】
【0055】
本発明の研磨方法によれば、研磨対象金属を好適に研磨でき、表面粗さを低い(平滑な)金属を得ることができる。具体的に、本発明の研磨方法によれば、Ra値が5nm以下(特に1〜5nm)の金属を得ることができる。
【0056】
本発明の研磨方法は、電子部品及び光学部品、特に、液晶ディスプレイのバックライトの電極を作製する際の鏡面加工処理方法として最適な方法である。
【発明を実施するための最良の形態】
【0057】
以下に、実施例等を示し本発明の特徴とするところをより一層明確にする。ただし、本発明は実施例等に限定されるものではない。
【0058】
参考例1〜4
蛍光材料の濃度等が表面粗さに及ぼす影響について調べた。
【0059】
なお、表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)(製品名「SPA300」セイコー電子工業株式会社製)を用いて、処理物の処理面を10回測定し、平均値として求めた値である。
【0060】
また、金属表面の写真は、原子間力顕微鏡(AFM)(製品名「SPA300」セイコー電子工業(株)製)を用いて撮影したものである。
(研磨対象金属の調製)
酸素含有量が0.005%以下で純度99.96%の純銅(ニラコ株式会社製)から、直径15mmで厚さ3.5mmの円板を切り出した。なお、該純銅は、結晶粒の大きさが約50μmの多結晶である。
【0061】
前記円板を真空中723Kで360分間焼鈍した。得られた焼鈍物に対して#400から#6000の酸化アルミニウム砥粒でラッピングを行い、さらに、粒径1.0μmから0.05μmの酸化アルミニウム砥粒の懸濁液でポリシングすることにより、平面度±0.5μm、表面粗さRa約8nm(Rz約90nm)の研磨対象金属を作製した。
【0062】
(参考例1)
蛍光材料の濃度が表面粗さに及ぼす影響について確認した。
【0063】
具体的には、上記一般式(I)で表される水溶性蛍光材料(Cathilon Brilliant Flavine GFH(585 %))の水溶液(水温:313K、pH:5)に、前記研磨対象金属を液面から前記研磨対象金属の液面側までの距離が10mmとなるように浸漬し、該水溶液に波長254nmの紫外線を12時間照射して、前記研磨対象金属を表面処理した場合の処理物の表面粗さを求めた。
【0064】
その際、前記水溶性蛍光材料の濃度が、0.05重量%、0.1重量%、0.15重量%、0.2重量%、0.3重量%又は0.5重量%の場合について前記処理物のRa値を求めた。
【0065】
水溶液中の前記蛍光材料の濃度を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を図2に示す。
【0066】
なお、参考のため、図2のグラフには、紫外線を照射しない以外は、本参考例と同様にして表面処理を行った場合の処理物表面のRa値についても併せて示している。
【0067】
図2から、前記蛍光材料の濃度が0.15〜0.25重量%の場合、好適に表面粗さの低い表面処理物を製造できることがわかる。
【0068】
(参考例2)
紫外線の照射時間が表面粗さに及ぼす影響について確認した。
具体的には、水溶性蛍光材料の濃度を0.3重量%とし、紫外線照射時間を3時間、6時間、9時間又は12時間とした以外は、上記参考例1と同様の方法により、表面粗さを求めた。
【0069】
紫外線照射時間を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を図3に示す。
【0070】
なお、参考のため、図3のグラフには、紫外線を照射しない以外は、本参考例と同様にして表面処理を行った場合の処理物表面のRa値についても併せて示している。
【0071】
図3から、紫外線照射時間が4〜8時間の場合、好適に表面粗さの低い表面処理物を製造できることがわかる。
【0072】
(参考例3)
蛍光材料の水溶液の温度が表面粗さに及ぼす影響について確認した。
【0073】
具体的には、水溶性蛍光材料の濃度を0.15重量%とし、水溶液の温度を30℃、35℃、40℃、45℃又は50℃とした以外は、上記参考例1と同様の方法により表面粗さを求めた。
【0074】
水溶液の温度を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を図4に示す。
【0075】
なお、参考のため、図4のグラフには、紫外線を照射しない以外は、本参考例と同様にして表面処理を行った場合の処理物表面のRa値についても併せて示している。
【0076】
図4から、水溶液(研磨液)の温度が40℃以上の場合、好適に表面粗さの低い表面処理物を製造できることがわかる。
【0077】
(参考例4)
蛍光材料の水溶液のpHが表面粗さに及ぼす影響について確認した。
【0078】
具体的には、水溶性蛍光材料の濃度を0.15重量%とし、水溶液のpHを1、3、5、7又は9とした以外は、上記参考例1と同様の方法により表面粗さを求めた。
【0079】
なお、前記カチロン水溶液のpHを1に調整するために、前記水溶液に少量の塩酸を添加した。また、水溶液のpHを3、5、7又は9に調整するために、前記水溶液に市販のpH標準校正液を添加した。
【0080】
水溶液のpHを横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を図5に示す。
【0081】
なお、参考のため、図5のグラフには、紫外線を照射しない以外は、本参考例と同様にして表面処理を行った場合の処理物表面のRa値についても併せて示している。
図5から、水溶液(研磨液)のpHが2以上の場合、好適に表面粗さの低い表面処理物を製造できることがわかる。
【0082】
実施例1
(研磨対象金属)
酸素含有量が0.005%以下で純度99.96%の純銅(ニラコ株式会社製)から、直径15mmで厚さ3.5mmの円板を切り出した。なお、該純銅は、結晶粒の大きさが約50μmの多結晶である。
【0083】
前記円板を真空中723Kで360分間焼鈍した。得られた焼鈍物の片面を#6000の酸化アルミニウム砥粒でラッピングすることにより、表面粗さRaが26nmの研磨対象金属を作製した。
【0084】
(研磨液)
上記一般式(I)で表される水溶性蛍光材料(Cathilon Brilliant Flavine GFH(585 %))の水溶液(濃度:20重量%)に、粒径0.3μmの酸化アルミニウム粒子を添加し、撹拌することにより、懸濁液(水溶性蛍光材料の濃度:0.5重量%、酸化アルミニウム粒子の含有量:20重量%、pH:7)を得た。得られた懸濁液(スラリー)を研磨液とした。
【0085】
(研磨処理)
得られた研磨対象金属を、ラッピングした面が研磨パッド側になるよう図1の紫外線照射研磨装置(以下、「URIP」と略記する)の2つの遊星歯車の試料ホルダに設置し、該研磨対象金属を研磨液に浸漬させ、該研磨液に254nmの紫外線(紫外線照射強度:0.1mW/cm)を照射することにより研磨した。なお、紫外線ランプとしては、製品名「R−52G」(UVA株式会社製)を、紫外線強度計としては、製品名「UVR−400」(アズワン株式会社製)を用いた。
【0086】
具体的な研磨条件は、下記の通りである。
研磨液の温度:25℃
研磨パッド:Povic−T
押付け圧力(kPa):29.67
太陽歯車回転数(r.p.m):173
太陽歯車の歯数:20
遊星歯車の歯数:40
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図6に示す(図6の△)。
【0087】
なお、研磨面粗さRaは、表面粗さ測定器(製品名「SV−600」株式会社ミツトヨ製)を用いて研磨面を5回測定し、その平均値を求めた値である。
【0088】
比較例1
(研磨対象金属)
実施例1と同様にして、表面粗さRaが26nmの研磨対象金属を作製した。
【0089】
(研磨液)
粒径0.3μmの酸化アルミニウム粒子を水に添加し、撹拌することにより、懸濁液(水溶性蛍光材料の濃度:0重量%、酸化アルミニウム粒子の含有量:20重量%、pH:7)を得た。得られた懸濁液を研磨液とした。
【0090】
(研磨処理)
前記研磨液を用いる以外は、実施例1と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0091】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図6に示す(図6の○)。
【0092】
比較例2
(研磨対象金属)
実施例1と同様にして、表面粗さRaが26nmの研磨対象金属を作製した。
【0093】
(研磨液)
実施例1と同様にして、研磨液を調製した。
【0094】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、実施例1と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0095】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図6に示す(図6の▲)。
【0096】
比較例3
(研磨対象金属)
実施例1と同様にして、表面粗さRaが26nmの研磨対象金属を作製した。
【0097】
(研磨液)
実施例1と同様にして、研磨液を調製した。
【0098】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、比較例1と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さを求めた。
【0099】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図6に示す(図6の●)。
【0100】
実施例2
(研磨対象金属)
得られた焼鈍物の片面を#6000の酸化アルミニウム砥粒でラッピングする代わりに、粒径1.0μmの酸化アルミニウム粒子を用いてポリッシングする以外は、実施例1と同様の方法により研磨対象金属を作製した。研磨対象金属のポリッシングされた面のRa値は18nmであった。
【0101】
(研磨液)
粒径0.3μmの酸化アルミニウム粒子の代わりに、0.1μmの酸化アルミニウム粒子を添加する以外は、実施例1と同様の方法により、懸濁液(水溶性蛍光材料の濃度:0.5重量%、酸化アルミニウム粒子の含有量:20重量%、pH:7)を得た。得られた懸濁液を研磨液とした。
【0102】
(研磨処理)
得られた研磨対象金属を、ポリッシングした面が研磨パッド側になるよう図1のURIPの2つの遊星歯車の試料ホルダに設置し、該研磨対象金属を研磨液に浸漬させ、該研磨液に254nmの紫外線(紫外線照射強度:0.1mW/cm)を照射することにより研磨した。なお、紫外線ランプ及び紫外線強度計としては、実施例1と同様のものを用いた。
【0103】
具体的な研磨条件は、研磨パッドとしてコーデユロイを用いる以外は、実施例1と同様である。
【0104】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図7に示す(図7の△)。
【0105】
なお、表面粗さRaは、原子間力顕微鏡(AFM)(製品名「SPA300」セイコー電子工業株式会社製)を用いて、研磨面を10回測定し、平均値として求めた値である。
【0106】
比較例4
(研磨対象金属)
実施例2と同様にして、表面粗さRaが18nmの研磨対象金属を作製した。
【0107】
(研磨液)
粒径0.1μmの酸化アルミニウム粒子を水に添加し、撹拌することにより、懸濁液(水溶性蛍光材料の濃度:0重量%、酸化アルミニウム粒子の含有量:20重量%、pH:7)を得た。得られた懸濁液を研磨液とした。
【0108】
(研磨処理)
前記研磨液を用いる以外は、実施例2と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0109】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図7に示す(図7の○)。
【0110】
比較例5
(研磨対象金属)
実施例2と同様にして、表面粗さRaが18nmの研磨対象金属を作製した。
【0111】
(研磨液)
実施例2と同様にして、研磨液を調製した。
【0112】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、実施例2と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0113】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図7に示す(図7の▲)。
【0114】
比較例6
(研磨対象金属)
実施例2と同様にして、表面粗さRaが18nmの研磨対象金属を作製した。
【0115】
(研磨液)
実施例2と同様にして、研磨液を調製した。
【0116】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、比較例4と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さを求めた。
【0117】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図7に示す(図7の●)。
【0118】
実施例3
(研磨対象金属)
得られた焼鈍物の片面を#6000の酸化アルミニウム砥粒でラッピングする代わりに、粒径0.3μmの酸化アルミニウム粒子を用いてポリッシングする以外は、実施例1と同様の方法により研磨対象金属を作製した。研磨対象金属のポリッシングされた面のRa値は12nmであった。
【0119】
(研磨液)
実施例2と同様にして、研磨液を調製した。
【0120】
(研磨処理)
得られた研磨対象金属を、ポリッシングした面が研磨パッド側になるよう図1のURIPの2つの遊星歯車の試料ホルダに設置し、該研磨対象金属を研磨液に浸漬させ、該研磨液に254nmの紫外線(紫外線照射強度:0.1mW/cm)を照射することにより研磨した。なお、紫外線ランプ及び紫外線強度計としては、実施例1と同様のものを用いた。
【0121】
具体的な研磨条件は実施例2と同様である。
【0122】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図8に示す(図8の△)。
【0123】
なお、表面粗さの測定・算出方法は実施例2と同様である。
【0124】
比較例7
(研磨対象金属)
実施例3と同様にして、表面粗さRaが12nmの研磨対象金属を作製した。
【0125】
(研磨液)
比較例4と同様にして、研磨液を調製した。
【0126】
(研磨処理)
実施例3と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0127】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図8に示す(図8の○)。
【0128】
比較例8
(研磨対象金属)
実施例3と同様にして、表面粗さRaが12nmの研磨対象金属を作製した。
【0129】
(研磨液)
実施例2と同様にして、研磨液を調製した。
【0130】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、実施例3と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さRaを求めた。
【0131】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図8に示す(図8の▲)。
【0132】
比較例9
(研磨対象金属)
実施例3と同様にして、表面粗さRaが12nmの研磨対象金属を作製した。
【0133】
(研磨液)
実施例2と同様にして、研磨液を調製した。
【0134】
(研磨処理)
紫外線を照射しない以外は、比較例7と同様の方法により研磨処理を行い、研磨面粗さを求めた。
【0135】
研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を図8に示す(図8の●)。
【図面の簡単な説明】
【0136】
【図1】図1は、紫外線照射型研磨装置を示す図である。
【図2】図2は、蛍光材料の濃度を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を示す図である。
【図3】図3は、紫外線照射時間を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真を示す図である。
【図4】図4は、水溶液の温度を横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真示す図である。
【図5】図5は、水溶液のpHを横軸とし、処理物の表面粗さRaを縦軸とした場合のグラフ及び処理物表面のAFM写真示す図である。
【図6】図6は、実施例1及び比較例1〜3における研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を示すグラフである。
【図7】図7は、実施例2及び比較例4〜6における研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を示すグラフである。
【図8】図8は、実施例3及び比較例7〜9における研磨時間に対する研磨面粗さ(表面粗さ)の変化を示すグラフである。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属の研磨方法であって、
(1)前記研磨方法は、研磨液中に研磨対象金属を浸漬し、前記研磨液に紫外線を照射しながら、前記研磨対象金属を研磨する方法であり、
(2)前記研磨液は、下記化学式(I)
【化1】

で示される蛍光材料の水溶液に、酸化アルミニウム粒子及び酸化チタン粒子の少なくとも1種を懸濁させてなることを特徴とする研磨方法。
【請求項2】
前記研磨液中の前記蛍光材料の濃度が、0.15〜0.25重量%である、請求項1に記載の研磨方法。
【請求項3】
紫外線の波長が254nmである、請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項4】
紫外線が真空紫外線である、請求項1又は2に記載の研磨方法。
【請求項5】
前記研磨液に紫外線を照射する時間が4〜8時間である、請求項1〜4のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項6】
前記研磨液の温度が40℃以上である、請求項1〜5のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項7】
前記研磨液のpHが2以上である、請求項1〜6のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項8】
研磨対象金属が、銅である請求項1〜7のいずれかに記載の研磨方法。
【請求項9】
研磨対象金属が、液晶ディスプレイのバックライト用電極である請求項1〜8のいずれかに記載の研磨方法。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2008−307659(P2008−307659A)
【公開日】平成20年12月25日(2008.12.25)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−159445(P2007−159445)
【出願日】平成19年6月15日(2007.6.15)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り ▲1▼発行者名 社団法人砥粒加工学会 刊行物名 砥粒加工学会誌 Vol.51,No.4,2007 発行年月日 平成19年4月1日 ▲2▼発行者名 社団法人精密工学会 刊行物名 精密工学会誌 vol.73,No.4,2007 発行年月日 平成19年4月5日
【出願人】(593006630)学校法人立命館 (359)
【Fターム(参考)】