説明

金属イオンキレート剤、それらの製造方法およびそれらの使用

本発明は、金属イオンキレート剤として、または汚染防止剤として用いることができる、一般式(I):


を有する化合物、式(II)を有する前駆体化合物および式(III)を有するラベルされた化合物に関する。本発明はまた、薬物としての化合物(I)、(II)または(III)の使用ならびにウィルソン病およびアルツハイマー病のような神経変性疾患を診断、予防および治療するためのそれらの使用に関する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属イオンキレート剤としてまたは汚染除去剤として用いることができる式(I)の新規化合物、式(I)の化合物の前駆体である剤として用いることができる式(II)または(IIa')の新規化合物、および式(III)のラベルされた化合物にも関し、薬剤としての式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の使用、ならびにウィルソン病およびアルツハイマー病のような神経変性疾患の診断、予防および治療、ならびに銀、カドミウム、コバルト、銅、水銀、ニッケル、金、鉛および亜鉛イオンのような金属イオン中毒の診断、予防および治療のためのそれらの使用にも関する。
【背景技術】
【0002】
ウィルソン病のような銅輸送調節異常に関する疾患は、銅を排泄することができる唯一の臓器である肝臓に銅の蓄積をもたらす。したがって、銅は生命に欠かせない元素であるが、それは、遊離状態でフェントン酸化反応を誘発することができ、その結果、極めて毒性であることが証明される。
【0003】
具体的には、ウィルソン病は、銅トランスポーターの欠乏に関する遺伝病であり、そのことが生命体の種々の部位に銅の蓄積(正常レベルの20倍まで)をもたらし、それ自身が肝臓および神経系の損傷を通して現れる。神経的障害は、性格の変更を伴って現れることもあり、それは、大きな気分変動を伴う情動過多、うつ病症候群および精神病的状態を引き起こす。
【0004】
ウィルソン病は、銅の細胞内および細胞外の輸送に関与する、それゆえこの金属の濃度の調節および胆汁へのその排泄を可能にするATPアーゼ型の膜貫通タンパク質をコードするATP7B遺伝子の変異によって誘発される。もし前記タンパク質が不足すると、その時は細胞内に前記金属が蓄積する。一般的な法則として、肝臓損傷が、神経損傷に数年先行する。
【0005】
ウィルソン病に罹患している患者の50%近くが、神経学的または精神学的症候にかかっている。磁気共鳴映像法(MRI)は、あらゆる臨床的症候がない場合でも、いくつかの脳組織の障害を示し、該障害の大きさが、疾患の進展の度合いと相関するように思われる。
【0006】
劇症肝炎の極めて重篤な場合、または肝臓への本質的に重篤な障害の場合は、肝臓移植が考えられる。
【0007】
現在、その目的が生命体に蓄積された銅の毒性を除去することを含む治療がある。
【0008】
これらの治療は、一生続けられなければならないし、決して中断されてはならない。それらは、生命体中への銅吸収を減少するか、またはこの金属の排泄を増加するキレート薬剤に基づく。治療は、有害な副作用の出現を検出するために、定期的なモニタリングがされなければならない。
【0009】
既存の治療は、種々の活性成分、例えば
− D-ペニシラミン(Pen)、それは銅の尿中排泄を増加する(G.J. Brewer, DDT, 2005, 10, pp. 1103-1109)。D-ペニシラミンは認識された有効性を有するが、その副作用は、それが他の分子に置き換えられることを引き起こす傾向にある。さらに、いくつかの数の最近の論文は、D-ペニシラミンでウィルソン病の悪化を言及しており、この適応におけるその処方を制限することを提案している;
【0010】
− トリエチレンテトラミン(Trien)、それは、D-ペニシラミンより多くの場合良好な忍容性のある銅キレート剤である;
− テトラチオモリブデン酸アンモニウム(TTM)アニオン、食物と一緒に吸収され、それは消化管で銅イオンと結合し、該イオンの吸収を抑制する;
− 亜鉛、タンパク質のメタロチオネインの産生を活性化し、メタロチオネインは腸壁の細胞(腸細胞)で銅イオンと結合し、このイオンが血流に移行することを抑制する(B. Sarkar, Chem. Rev., 1999, 99, 2535-2544)
を用いる。
【0011】
現在、治療は、最も広く用いられているD-ペニシラミンに基づく薬剤であり、その作用機序はまだ十分に理解されていない。
そのSH官能基により、D-ペニシラミンは、
− 銅および亜鉛、ならびに水銀および鉛とキレートし、それらの尿中排泄を増加する、
− 特定の分子:コラーゲン、弾性線維、免疫グロブリンのジスルフィド ブリッジを減少し、それらの生物活性を変更する、
− 他の硫黄含有分子、特にシステインと結びついて、それによりジスルフィドブリッジを形成する
ことができる。
【0012】
硫黄のようなソフト原子の存在が、水銀(II)または銅(I)のような「ソフトイオン」と呼ばれる金属イオンのより効率的なキレート化を可能にすることが実際に思われる。
【0013】
それらの薬理学的特性の類似性のために、それらの作用がD-ペニシラミンと関連させることができる他の薬剤:
− ピリチノール、それは、ジスルフィド ブリッジによって結合された2つの部分から構成される対称分子である。生命体中で、ピリチノールは、それぞれが-SH基を有する2つの分子に開裂される。しかしながら、ピリチノールは、D-ペニシラミンのそれらと同じタイプの適用および副作用で関節リウマチの治療に用いられている、
− チオプロニン、それは、関節リウマチおよびシステイン結石の維持療法に用いられる
も存在する
【0014】
しかしながら、D-ペニシラミンおよび類似の作用様式を有する薬剤のかなりの数の副作用:
− あまり重篤でない初期の皮膚粘膜の副作用:紅斑、口内炎、
− 重篤な後期の皮膚粘膜の副作用:中毒疹、天疱瘡、皮膚筋炎、
− 血液学的副作用:血小板減少症、白血球減少症、顆粒球減少症、溶血性貧血、治療される患者の血液学的モニタリングを必要とすること、
− 消化器の副作用:無味覚症、
− 腎の副作用:タンパク尿
がある。
【0015】
金属はまた、亜鉛および銅の恒常性の調節異常が本質的な役割を果たす、アルツハイマー病のような神経変性疾患の診断、予防および治療に対して興味のある治療標的であることが考えられる。銅Cu(II)は、APPタンパク質およびAβペプチドによって錯体化され、銅Cu(I)に還元され、次いで、銅Cu(I)は、鉄および亜鉛とともにアミロイド斑に蓄積する(E. Gaggelli, H. Kozlowski, D. Valensin, G. Valensin, Chem. Rev., 2006, 106, pp. 1995-2044)。
【0016】
銅は、2つの異なった酸化状態で存在することができる:Cu(I)は酸化状態 +Iを有し、還元性媒体中で安定であり、銅Cu(II)は酸化状態 +IIを有し、酸化性媒体中で安定である。ヒトの細胞中に存在する銅は、主に銅Cu(I)である。
【0017】
それゆえ、D-ペニシラミン(Pen)以外の分子もまた、インビボで銅をキレート化するために用いられる。例えば、それらは、2,3-ジメルカプトコハク酸(DMSA)および2,3-ジメルカプト-1-プロパンスルホン酸(DMPS)(O. Andersen, Chem. Rev., 1999, 99, pp. 2683-2710)、2,3-ジメルカプトプロパノール(BAL)、トリエチレンテトラミン(Trien)、テトラチオモリブデン酸アンモニウム(TTM)アニオン(G.J. Brewer, F.K. Askari, J. Hepatol., 2005, 42, pp. S13-S21)ならびにエチレンジアミン四酢酸(EDTA)であり、次の半ば展開された式に対応する:
【0018】
【化1】

【0019】
これらの化合物は、銅Cu(I)および/または銅Cu(II)に対する既知のキレート剤であり、銅の腸吸収を阻止する。
【0020】
しかしながら、これらの化合物は、有害な副作用をもたらし、すでに進行した段階で疾患が検出(初期でない検出)され、かなりの銅の細胞内蓄積がある患者の治療を不可能にする。
【0021】
さらに、TrienおよびEDTAのようないくつかのキレート剤は、多くの金属イオンをキレートする非常に強力なキレート剤であり、それらの主な欠点の一つがそられの選択性の欠如である。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0022】
したがって、現在、より選択的、特に細胞内銅Cu(I)に関して選択的で、かつ特に低毒性で、その副作用が現在用いられている分子の副作用より激しくないキレート剤に対する要求が存在する。
【課題を解決するための手段】
【0023】
本発明者らは、以下に記載の本発明の新規な化合物が、以前開発された分子に比べて、神経変性疾患ならびに銀、カドミウム、コバルト、銅、水銀、ニッケル、金、鉛および亜鉛イオンのような金属イオン中毒の診断、予防および治療に対して、特に選択性の観点でより良好な代替手段とみられることを、驚くべきことに見出した。
【0024】
したがって、本発明は、金属イオンキレート剤としてまたは汚染除去剤として用いることができる式(I)の新規な化合物、本発明の式(I)の化合物の前駆体である剤として用いることができる式(II)または(IIa')の新規な化合物、および式(III)のラベルされた化合物に関する。本発明の対象物はまた、薬剤としての式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の使用、ならびにウィルソン病およびアルツハイマー病のような神経変性疾患の診断、予防および治療のためのそれらの使用でもある。
【0025】
したがって、本発明の化合物は、遺伝的または環境的因子により高い危険性を示す個体の神経変性疾患の診断および予防に用いられることができる。
【0026】
それゆえ、本発明の対象物は、金属イオンキレート剤として用ることができる式(I)の新規な化合物であり、式(I)の該化合物は、1,4,7-トリアザシクロノナン-1,4,7-トリ酢酸(NOTA)の誘導体であり、NOTAは多くの産業または医薬適用において錯体化金属イオンとして既に知られている。
【0027】
NOTAは、式C12H21N3O6の環状有機化合物であり、それは、その中の3つの等距離のCH2基がN-CH2-COOH基で置換されたシクロノナンから誘導される。NOTAは六座配位子であり、そのことは、それが、金属イオンに結合できる6つの原子を有することを意味する。このキレート剤はまた、洗剤組成物中および水処理用に非常に広く用いられる。
【0028】
したがって、本発明の第一の対象物は、次の式:
【化2】

【0029】
[式中、
− R1、R'1およびR"1基は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わし、好ましくは、R1、R'1およびR"1基は水素原子であり、
− R2、R'2およびR"2基は、同一または異なっていてもよく、-OH、-OR、-NHRおよび-NRR'基(ここで、RおよびR'は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わす)から選択され、好ましくは、R2、R'2およびR"2基は、-NH2、-OHまたは-OR基(ここで、Rは、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わし、さらに好ましくはエチル基である)である]
の化合物に関する。
【0030】
フェニルアラニンまたはトリプトファン残基を有するNOTA-誘導キレート剤およびグリシン、ロイシン、フェニルアラニンまたはアスパラギン酸を有するNTA-誘導キレート剤は、先行技術(Dalton Trans., 2004, No. 9, 1410-1417; Aust. J. Chem., 2008, 61, 297302)にも記載されている。遊離のチオールが存在するこれらの化合物は、それにもかかわらず、特定のイオン(特に、Cd2+ およびCu2+)に対して弱い親和性を示し、不十分な選択性を示す。
【0031】
本発明はまた、少なくとも次の工程を含む、式(I)の化合物の製造方法にも関する:
(i) ジメチルホルムアミド、ジクロロメタン、クロロホルム、メタノールまたはエタノールのような極性溶媒の存在下、好ましくは-10℃〜30℃の間の温度で、通常は12〜48時間の間、ニトリロトリ酢酸(NTA)の1当量を式:
【化3】

の3当量と反応させ、
【0032】
(ii) 任意に、酸官能基を得るために、工程(i)で得られる生成物の-COR2官能基を、水酸化リチウム(LiOH)、水酸化ナトリウム(NaOH)または水酸化カリウム(KOH)のような強塩基の添加により加水分解し、加えられる強塩基の量は、好ましくは4当量に等しく、
(iii) チオール-SH官能基を得るために-S-(保護基)官能基を脱保護し、該脱保護は、保護基がトリフェニルメタンC(C6H5)3であるとき、トリフルオロ酢酸のような強酸の大過剰の添加により、好ましくは20℃〜40℃の間の温度で、通常は15分〜1時間の間で行うことができる。
【0033】
チオール官能基に対する保護基は、当業者によく知られており、参考ハンドブック T.W. GreeneおよびP.G. WutsによるProtective groups in Organic Synthesis, 第3版, Wiley, 1999に挙げられているものから選択することができる。最も好ましい保護基は、トリフェニルメタン基 -C(C6H5)3、tert-ブチル基 -C(CH3)3、チオ-tert-ブチル基 -S-C-(CH3)3、3-ニトロ-2-ピリジンスルホニル基(Npys)およびアセトアミドメチル基 -CH2NHCOCH3から選択され、これらの基のそれぞれは、上記の参考書に記載された独自の脱保護様式を有する。
【0034】
本発明の化合物が、構造(I)に相当するとき、R2、R'2およびR"2基は、-NH2もしくは-OH基または-OR基(ここで、Rは、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わす)であるのが有利である。さらに好ましくは、Rはエチル基である。
【0035】
次に、本発明の式(I)の化合物の製造方法は、次の反応スキームにより一般化される(R1 = R'1 = R"1):
【化4】

【0036】
[ここで、
− Raは、ハロゲン原子、好ましくは塩素または臭素原子、ヒドロキシ-OH基および-OCORa'基(ここで、Ra'は、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わし、好ましくは、Ra'はメチルまたはエチル基である)から選択され、
− Rbは、ハロゲン原子、好ましくは塩素または臭素原子、パラ-トルエンスルホネートのようなトシレートおよびメタンスルホネートまたはトリフルオロメタンスルホネートのようなメシレートから選択される脱離基である]。
【0037】
【化5】

【0038】
本発明はまた、少なくとも次の工程を含む、式(I)の化合物の製造方法にも関する:
(i) 炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(Na2CO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)およびジイソプロピルエチルアミン ((CH3)2HC)2-N-CH2CH3)もしくはトリエチルアミン(N(CH2CH3)3)のような3級アミンのような弱塩基の存在下、溶媒(該溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドおよび水から選択されることが可能である)媒体中、好ましくは、-10℃〜10℃の間の温度で、通常は30分〜2時間の間、分子RbCHR1C(O)Ra(RaおよびRbは前記で定義されたとおりである)の1当量を、式:
【0039】
【化6】

のシステイン誘導体の1当量と反応させ、
【0040】
(ii) 炭酸水素カリウム(KHCO3)、炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)、炭酸カリウム(K2CO3)、炭酸ナトリウム(Na2CO3)およびジイソプロピルエチルアミン((CH3)2HC)2-N-CH2CH3)もしくはトリエチルアミン(N(CH2CH3)3)のような3級アミンのような弱塩基の存在下、溶媒(該溶媒は、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドから選択されることが可能である)媒体中、1,4,7-トリアザシクロノナン(TCN)の1当量を、工程(i)で得られる式:
【0041】
【化7】

のブロモアセトアミド誘導体の3当量と反応させ、
【0042】
(iii) チオール-SH官能基を得るために-S-(保護基)官能基を脱保護し、該脱保護は、保護基がトリフェニルメタンC(C6H5)3であるとき、トリフルオロ酢酸のような強酸の大過剰の添加により、好ましくは20℃〜40℃の間の温度で、通常は15分〜1時間の間で行うことができる。
【0043】
本発明のもう一つの対象物は、メンデレエフの周期律表の金属イオンに対するキレート剤として、より好ましくは、R.G. Pearson, J. Am. Chem. Soc., 1963, vol. 85, pp. 3533-3539に定義されるソフトおよび中間イオンに対するキレート剤として、さらに好ましくは、Ag(I)、Cd(II)、Co(II)、Cu(I)、Hg(II)、Ni(II)、Au(I)、Pb(II)およびZn(II)イオン、具体的には細胞内銅(I)イオンに対するキレート剤としての、本発明の式(I)の化合物の使用に関する。
【0044】
本発明の式(I)の化合物のもう一つの可能な使用は、金属で汚染された水の汚染を除去するための汚染除去剤としてのそれらの使用である。本発明の式(I)の化合物が汚染除去剤として用いられるとき、汚染除去は、好ましくは、還元性媒体中で行われる。媒体の限界pH値は、錯体化される金属イオンに依存する。したがって、Hg(II)およびCu(I)イオンに対して、還元性媒体のpHは、好ましくは1以上であり、Zn(II)、Pb(II)およびCd(II)イオンに対して、還元性媒体は、好ましくは4以上または6以上である。
【0045】
本発明はまた、次の式(II)に相当する、式(I)の化合物の前駆体である剤として使用できる化合物にも関する:
【化8】

【0046】
[式中、基Aは:
・窒素原子であるか、または
・次の式に相当する環:
【化9】

【0047】
(ここで、置換は窒素原子上でおこる)
のいずれかを表し、
− R1、R'1、R"1、R2、R'2およびR"2基は、前記の式(I)と同じ意味を有し、
− R3、R'3およびR"3基は、同一または異なっていてもよく、それが前駆体の剤を保護することを可能にし、一方、同時にマスクされた錯体化の性質を有するものであり、基-S-Wまたは-S-E-Lを表わす、ここで、
Sは硫黄原子であり、
Wは、1〜12個の炭素原子を含む、任意に置換されたアルキル基であり、
Eは、1〜12個の炭素原子を含む、任意に置換されたアルキル基、および好ましくは1〜8個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールのようなポリオールから選択されるスペーサーアームであり、
Lは、生物学的リガンド、好ましくは、グルコース、ガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミンのような糖から選択される肝または神経細胞リガンドである]。
【0048】
したがって、前駆体の剤として用いられる本発明の式(II)の化合物は、それらのマスクされたチオール官能基によりマスクされた錯体化の性質を有するプロドラッグに例えられることもできる。
【0049】
本発明の式(II)の化合物の製造方法は、次の反応スキームにより一般化される:
【化10】

【0050】
ここで、Vは、トシル、フェニル、ピリジンおよびニトロピリジン基から選択される、S-Sジスルフィド ブリッジの形成を活性化する基であり、特にオルト-ニトロフェニルおよびトリル基、ならびに特にパラ-トリルおよび2-ピリジンスルホニル基、ならびに特に3-ニトロ-2-ピリジンスルホニル基(Npys)、および任意に置換された、あらゆる他の類似の芳香族基である。
【0051】
本発明の式(II)の化合物は、次の反応にしたがって、還元性媒体中で、式(I)の化合物に変換される:
【化11】

【0052】
該反応は、チオール官能基の除去を可能にし、その結果、生命体中、具体的には標的細胞中でのキレート剤の放出を可能にする。
【0053】
式(I)の化合物を得るための還元剤は、エタンジチオール(EDT)、グルタチオン(GSH)またはジチオトレイトール(DTT)のようなチオール官能基を持っている分子、アスコルビン酸もしくはその塩、またはトリ(2-カルボキシエチル)ホスフィン(TCEP)のようなホスフィン官能基を持っている分子である。
【0054】
したがって、キレート剤の放出は、生命体中、例えば約1 mM存在するグルタチオンが還元剤の役割を果たすことができる肝細胞中、または例えば約200〜400 μM存在するアスコルベートも還元剤の役割を果たすことができる脳内中のインビボでの還元により行われる。
【0055】
式(II)の化合物の基Aが窒素原子を表すとき、該化合物は、特定の式(IIa):
【化12】

によって表すことができる。
【0056】
一つの好ましい態様によれば、式(IIa)の化合物は、次の特定の式(IIa1):
【化13】

に相当し、
【0057】
ここで、
− R1、R'1およびR"1基は水素原子であり、
− R2、R'2およびR"2基は-NH2基であり、
− 同一または異なっていてもよい、R3、R'3およびR"3基は、基-S-E-L
(ここで、
Sは硫黄原子であり、
Eは、3個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールを表し、
LはN-アセチルガラクトサミンを表す)
を表す。
【0058】
式(II)の化合物の基Aがシクロノナンから誘導される環を表すとき、該化合物は、特定の式(IIb):
【化14】

の構造で表すことができる。
【0059】
本発明の対象物は、次の式(IIa'):
【化15】

【0060】
(式中、
− R1、R'1、R"1、R2、R'2、R"2、R3、R'3およびR"3基は、前記の式(II)のときと同じ意味を有し、
− R4、R'4、R"4、R5、R'5およびR"5基は同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表す)
に相当する化合物でもある。
【0061】
本発明の対象物は、次の式(III):
【化16】

【0062】
[式中、基A'は:
・窒素原子であるか、または
・次の式に相当する環:
【化17】

【0063】
(ここで、置換は窒素原子上で起こる)
のいずれかを表し、
− R2、R'2、R"2、R3、R'3 よびR"3基は、前記の式(II)のときと同じ意味を有し、
− 基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'およびZ"は同一または異なっていてもよく、水素原子、基-(CH2)n-NH-CO-ラベル、基-(CH2)n-NH-C(S)NH-ラベル、基-(CH2)n-NH-SO2-ラベル、基-(CH2)n-N=C-ラベル、または基-(CH2)n-NH-Ar-ラベルもしくは-(CH2)n-トリアゾール-ラベル(ここで、Arは、フェニル、トリアゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラジジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジンから選択されるアリール基であり、nは1〜12の間である)を表す、但し、該基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'またはZ"の少なくとも一つは、基-(CH2)n-NH-CO-ラベル、-(CH2)n-NH-C(S)NH-ラベル、-(CH2)n-NH-SO2-ラベル、-(CH2)n-N=C-ラベルまたは-(CH2)n-NH-Ar-ラベルもしくは-(CH2)n-トリアゾール-ラベルである]
に相当するラベルされた化合物でもある。
【0064】
一つの有利な態様によれば、式(III)の化合物は、次の特定の式(III1):
【化18】

に相当し、
【0065】
ここで、
− R1、R'1およびR"1基は水素原子であり、
− R2、R'2およびR"2基は-NH2 基であり、
− R3、R'3およびR"3基は、基-S-E-L
(ここで、
Sは硫黄原子であり、
Eは、3個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールを表し、
LはN-アセチルガラクトサミンを表す)
を表し、
−基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'またはZ"の少なくとも一つは、-(CH2)4-カルボキシテトラメチルローダミ基を表し、その他の基は水素原子を表す。
【0066】
「ラベル」の用語は、適当な方法により検出されることができる物を意味することが意図され、本発明に関して用いられるラベルは、通常、興味ある生物学的分子をラベルするのに生物学の分野において、特に、診断を行うこと、ガレヌス製剤研究を行うこと、あるいは活性な化合物の代謝をモニターすることの関連で当業者によって用いられるラベルに相当する。ラベル化は、性質上、直接的であってもよく、この場合、ラベルは「直接的ラベル」と呼ばれ、少なくとも一つの検出可能な物理的性質を有するか、または、ラベル化は、性質上、間接的であってもよく、この場合、ラベルは「間接的ラベル」と呼ばれ、第3の物と選択的に反応することができ、そのことは、第3の物が、少なくとも一つの検出可能な物理的性質を有すること(例えば蛍光活性を有する抗体)、または、例えば第3の物の分解生成物が、蛍光のような少なくとも一つの検出可能な物理的性質を有するときに、反応工程の最後に物理学的性質が検出される反応工程に関与することのいずれかを可能にする。間接的ラベル化は、しばしば蛍光活性を有する抗体またはナノ粒子を用いて行われる。この場合、式(III)の化合物の間接的ラベルは、第3の物に対する親和性を有する。
【0067】
したがって、本発明のラベルは、複合体または結晶のような、性質上、有機的である化学物であるか、または性質上、無機的である化学物のいずれかであってもよく、そのことは、結晶が有機層で任意にコーティングされることを可能にし、性質上、無機的であるこの化学物は、それが導入される生体系を乱さないように、一般的に十分に小さい大きさ、通常、ナノメーターのスケールである。
【0068】
直接的または間接的に検出可能な物理的性質は、例えば磁気共鳴映像法による、磁場のような電磁気源に対して特異的である反応性、または例えば蛍光体で蛍光画像による、集中させることができる光照射に対して特異的である反応性、あるいは例えば同位元素を用いて、核照射に対して特異的である反応性であってもよい。
【0069】
最も好ましいラベルは、直接的ラベルであり、具体的には蛍光体である。通常、それらは有機蛍光体またはナノ粒子である。
【0070】
本発明に関して用いられる蛍光体は、そのΠ-Π遷移が、高い蛍光量子収率およびモル吸収係数によって特徴付けられる芳香族蛍光化合物であってもよく、そのことは、該蛍光体が、ローダミン、フルオレセイン、ピロニン、クマリン、ベンゾフェノン、アントロン、フルオレノン、ピリジン、キノリン、アクリジン、ナフタレン、アントラセン、ナフタセン、ペンタセン、キサンテンおよびそれらの誘導体から選択されることを可能にする。
【0071】
ラベルの種々のグループおよび種々の関連する検出技術は、当業者に知られており、教科書のAnti-Cancer Agents in Medicinal Chemistry, 2008, 8, 497-522に記載されている。具体的には、Cytometry Part A 69A: 863-871 (2006)に挙げられている蛍光体および文献のAnal. Bioanal. Chem., 384: 620-630 (2006)に挙げられているナノ粒子を参照することができる。
【0072】
したがって、本発明の式(III)のラベルされた化合物は、該化合物によって生命体中に取り込まれる過程を、発光により視覚化するために用いられることができる。
【0073】
本発明のもう一つの対象物は、医薬として、本発明の式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の適用のための、特に、ウィルソン病およびアルツハイマー病のような神経変性疾患の診断、予防および/または治療を対象とした医薬の製造のための、本発明の式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の使用に関する。実際、銅または亜鉛のような特定の金属イオンのキレート化が、神経変性疾患の治療、具体的には、アルツハイマー病(Buch A., Current Opinion in Chemical Biology 2000, 4:184-191, Hui Hung Y.ら, J. Biol. Inorg. Chem (2010) 15:61-76)の治療に不可欠であることを証明することができる。
【0074】
本発明のさらなる対象物は、銀、カドミウム、コバルト、銅、水銀、ニッケル、金、鉛および亜鉛イオン、より好ましくは細胞内銅Cu(I)イオンでの中毒、重篤な炎症、腎不全、出血、中枢神経系の重篤な神経障害を一般的にもたらすそのようなイオンでの中毒の診断、予防および/または治療を対象とした医薬の製造のための、式(I)、(II)、(IIa')または(III)の使用に関する。その結果、鉛中毒(saturnism)の用語が、鉛中毒の場合に用いられ、水銀中毒(hydrargyriaまたはhydrargyrism)の用語が、水銀中毒の場合に用いられる。
【0075】
最後に、本発明の対象物はまた、活性成分として、少なくとも一つの前記で定義された式(I)、(II)、(IIa')および(III)および少なくとも一つの医薬的に許容な担体を含む医薬組成物でもある。
【0076】
該医薬組成物は、固形の形態の組成物(錠剤、ゲルカプセル、カプセル等)および液体の形態の組成物(溶液、懸濁液または乳液)の両方を含み、経口、局所または非経口の投与に適した賦形剤を含む。
【0077】
本発明による化合物または組成物の投与は、好ましくは、経口的または非経口的(点滴または特に注射によって静脈内に)に行われる。
【0078】
化合物の用量は、好ましくは、1日当たり、物2 g未満であり、選択される製剤、投与の方法および治療される中毒または疾患により変化する。年齢、体重、身長、性別およびまた特定の生物学的パラメータ(排泄速度、他の医薬との組み合わせ、アレルギー等)のようなその他の因子も、考慮される。
【0079】
上記の取り決めに加えて、本発明はまた、次のさらなる記載から現れるその他の取り決めも含み、それは、本発明の化合物の錯体化の性質を示す実施例および添付の図面にも関する。
【図面の簡単な説明】
【0080】
【図1】図1は、298 Kの温度で、pH = 7.4の20 mMリン酸緩衝液中での、NTA(CysOC2H5)3 (化合物3)のCu(CH3CN)PF6 でのUV定量法を表す。
【図2】図2は、Cu(BCS)2 錯体のUV吸収により測定された、次の実験条件下:[IIa1] = [4] = 50 μμMおよび[Cu(I)] = 48 μM、20 mMリン酸緩衝液、pH 7.4中でのBCSを用いて検出された遊離の銅の量の変化を表す。
【図3】図3は、HepG2 肝細胞中への化合物(III1)の浸透を表す。化合物(III1)は、細胞外培地中、0.2 μMおよび2 μMの化合物(III1)の濃度で、2時間後、ローダミン蛍光体を用い、蛍光顕微鏡検査法(×63倍率)により視覚化される。
【図4】図4は、HepG2 肝細胞中への化合物(III1)の浸透を表す。化合物(III1)は、細胞外培地中、0.2 μMおよび2 μMの化合物(III1)の濃度で、ローダミン蛍光体を用い、蛍光顕微鏡検査法(×63倍率)により視覚化される。
【実施例】
【0081】
出発原料
【表1】

【0082】
出発原料は、さらに精製することなく用いられた。
水溶液は、Millipore Milli-Q(登録商標)カートリッジ(抵抗率 18 MΩ・cm)を用いる逆浸透により濾過精製することによって得られた超純水を用いて調製された。
【0083】
特徴付けの方法
1/ 薄層クロマトグラフィー (TLC)
TLCは、シリカ60 F254 ゲル(供給業者:Merck)で行われる。
2/ フラッシュ クロマトグラフィー
フラッシュ クロマトグラフィーは、粒径40〜63 μmのシリカ60 ゲル(供給業者:Merck)で行われる。
【0084】
3/ 高速液体クロマトグラフィー (HPLC)
HPLCクロマトグラフィーは、RP18カラム(分析カラム L = 250 mm, φ = 4.6 mmおよび p = 5 μm;分取カラム L = 250 mm, φ = 50 mmおよびp = 10 μm)を備えたVWRシステムで行われる。
用いられた流速は、214 nmでのUV検出を用い、分析カラムに対しては1 ml/分および分取カラムに対しては75 ml/分である。
溶出条件は次のとおりである:
− 溶媒A:水/トリフルオロ酢酸(TFA) (99.925/0.075)の混合物、
− 溶媒B = CH3CN/水/トリフルオロ酢酸(TFA) (90/10/0.1)。
【0085】
4/ NMR分析
1Hおよび13C NMRスペクトルは、Mercury Varian 400 スペクトロメータおよびBruker Avance 500 スペクトロメータで記録された。
ケミカルシフトは、内部基準として溶媒を用いてppmで示される。
【0086】
5/ マススペクトル
マススペクトルは、電子源を備えたFinigan LCQ-イオントラップ装置で記録された。
元素分析は、Service Central d'Analyse [Central Analysis Service] (Solaize, France)により行われた。
【0087】
6/ UV-可視分光法
UV-可視スペクトルは、Varian Cary 50 分光光度計で記録された。
7/ 円偏光二色性
円偏光二色性スペクトルは、Chirascan分光光度計(Applied Photophysics(登録商標))を用いて記録された。
【0088】
1/ 合成
分子HCysC(C6H5)3OC2H5の合成:
HCysC(C6H5)3OC2H5 分子は、刊行物Bolzatiら, Bioconjugate chem., 2003, 14, 1231に記載の手順にしたがって、L-システインを用いて合成された。
【0089】
実施例 1:化合物 1:NTA(CysC(C6H5)3OC2H5)3の合成
20 mlのジメチルホルムアミド(DMF)中のHCysC(C6H5)3OC2H5 (1.200 g, 3.06 mmol)の溶液に、ニトリロ酢酸(0.196 g, 1.03 mmol)を加える。次いで、混合物を0℃の温度に冷却し、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.587 g, 3.06 mmol)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.414 g, 3.06 mmol)を連続して加える。次いで、反応混合物を、アルゴン下、室温で24時間混合する。
【0090】
溶媒の蒸発後、次いで、残渣を100 mlの酢酸エチルに溶解する。次いで、有機相を2×50 mlの水、次いで50 mlの炭酸水素ナトリウム(NaHCO3)飽和溶液および2×50 mlの塩化ナトリウム(NaCl)飽和溶液で洗浄する。
次いで、有機相を硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥し、次いで減圧(20 mbar)下に濃縮する。
得られる生成物(1.391 g)をシリカゲル クロマトグラフィー(100 ml, 溶出液:80/20 CH2Cl2/酢酸エチル)で精製し、白色粉末の形態で化合物 1 (1.103 g, 収率 = 82%)を得る。
【0091】
1H NMR(CD3CN, 400 MHz, 298 K): δ = 1.05 (t, J = 7.0 Hz, 9H, CH3); 2.39および2.68 (ABX, JBX = 4.1 Hz, JAX = 8.0 Hz, JAB = 12.7 Hz, 6H, CH2S); 3.17および3.29 (AB, JAB = 15.0 Hz, 6H, CH2CO); 3.84および3.96 (ABX3, JAX = 7.0 Hz, JBX = 7.0 Hz, JAB = 10.9 Hz, 6H, CH2CH3); 4.34 (td, J = 4.0および8.2 Hz, 3H, CH); 7.13-7.17 (m, 30H, SC(C6H5)3); 7.22 (d, J = 7.4 Hz, 15H, SC(C6H5)3); 7.56 (d, J = 8.6 Hz, 3H, NH)
【0092】
13C NMR (CD3CN, 100 MHz, 298 K): δ = 14.39 (CH3); 33.69 (CH2S); 52.11 (CH); 57.97 (CH2CO); 62.21 (CH2CH3); 129.90-127.16 ((C6H5)3); 144.70 (C(C6H5)3); 171.66および170.70 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 1310.8および[M + TEAH+]+ = 1411.8, ES-MS値は、検出されるイオンの電荷についての質量に相当する。
元素分析 C78H78N4O9S2・2H2O (1347.70 g/mol)に対する計算値(%として):C, 69.51; H, 6.13; N, 4.16; 実測値:C, 69.42; H, 6.05; N, 3.9
【0093】
実施例 2:化合物 2:NTA(CysC(C6H5)3OH)3の合成
化合物 1 (0.310 g, 0.236 mmol)を、6 mlのエタノールに溶解し、水酸化リチウム(LiOH)を加える(0.95 ml, 0.95 mmol)。次いで、反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで蒸発する。次いで、得られる残渣を6 mlの水に溶解し、1 mol/lでの塩酸(HCl)をpH = 4〜5まで加える。
次いで、水層を15 mlの酢酸エチルで抽出する。
次いで、得られる生成物(0.242 g, 収率 = 83%)を、さらに精製することなく用いる。
【0094】
1H NMR (DMSO-d6, 400 MHz, 298 K): 2.37-2.46 (m, 6H, CH2SC); 3.32 (s, 6H, CH2CO); 4.17-4.21 (m, 3H, CH); 7.20-7.37 (m, 45H, C(C6H5)3); 8.46 (d, J = 7.4 Hz, 3H, NH)
13C NMR (DMSO-d6, 100 MHz, 298 K): δ = 34.03 (CH2S); 52.34 (CH); 60.68 (CH2CO); 130.00-127.67 ((C6H5)3); 145.16 (C(C6H5)3); 172.02および171.61 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + Na+]+ = 1249.2
【0095】
実施例 3:化合物 3:NTA(CysOC2H5)3の合成
アルゴン下、15 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)中の化合物 1 (0.640 g, 0.49 mmol)に、トリフルオロ酢酸(1.81 ml, 24.4 mmol)およびトリエチルシラン(0.47 ml, 2.9 mmol)を連続して加える。
室温で30分間撹拌後、混合物を蒸発させる。
次いで、得られる生成物(0.627 g)をHPLC:tR = 12.7分 (直線勾配 50/50〜0/100, 15分でA/B)により精製する。
得られる化合物 3は、油状の白色固体(0.110 g, 収率 = 49%)である。
【0096】
1H NMR (CD3CN, 500 MHz, 298 K): δ = 1.25 (t, J = 7.1 Hz, 9H, CH3); 1.97 (t, J = 8.8 Hz, 3H, SH); 2.95および3.00 (ABXY, JAX = 4.6 Hz, JBX = 6.1 Hz, JBY = 9.0, JAY = 9.3 Hz, JAB = 14.0 Hz, 6H, CH2SH); 3.48および3.52 (AB, JAB = 16.3 Hz, 6H, CH2CO); 4.18および4.22 (ABX3; JAX = 7.1 Hz, JBX = 7.1 Hz, JAB = 10.8 Hz, 6H, CH2-CH3); 4.70 (ddd, J = 4.7, 6.2および8.0 Hz, 3H, CH); 7.71 (d, J = 8.0 Hz, 3H, NH)
13C NMR (CD3CN, 100 MHz, 298 K): δ = 14.97 (CH3); 27.40(CH2SH); 55.81 (CH); 59.75 (CH2CO); 63.02 (CH2CH3); 171.61および172.02 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 585.0および[M + Na+]+ = 607.3
【0097】
実施例 4:化合物 4:NTA(CysNH2)3の合成
10 mlのジメチルホルムアミド(DMF)中のCysC(C6H5)3(NH2) (0.401 g, 1.10 mmol)の溶液に、ニトリロ酢酸(0.068 g, 0.357 mmol)を加える。次いで、混合物を0℃の温度に冷却し、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.212 g, 1.10 mmol)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.150 g, 1.11 mmol)を連続して加える。次いで、反応混合物を、アルゴン下、室温で24時間混合する。
【0098】
溶媒の蒸発後、次いで、残渣を25 mlの水で洗浄し、次いで濾過する。次いで、固体を100 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)に溶解する。次いで、有機相を3×50 mlの水および1×50 mlの塩化ナトリウム(NaCl)飽和溶液で洗浄する。次いで、それを硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥し、次いで減圧(20 mbar)下に濃縮し、白色の粉末の形態で、NTA(CysC(C6H5)3(NH2)3) (0.404 g, 収率 = 92%)を得る。
【0099】
1H NMR(CD3CN, 400 MHz, 298 K): δ = 2.37-2.44 (m, 6H, CH2S); 3.14および3.19 (AB, JAB = 16.4, 6H, CH2CO); 4.00-4.06 (m, 3H, CH); 5.70 (s, 3H, NH2); 6.24 (s, 3H, NH2); 7.16-7.32 (m, 45H, SC(C6H5)3); 7.85 (d, J = 7.2 Hz, 3H, NH)
13C NMR (CD3CN, 100 MHz, 298 K): δ = 38.89 (CH2S); 57.78 (CH); 63.18 (CH2CO), 132.37-134.89 ((C6H5)3); 150.03 (C(C6H5)3); 176.15および178.074 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + Na+]+ = 1246.2および[M + K+]+ = 1262.2.
元素分析 C72H69N7O6S3・H2O (1242.57 g/mol)に対する計算値(%として):C, 69.60; H, 5.76; N, 7.89; O, 9.01; S, 7.74; 実測値: C, 69.60; H, 5.72; N, 7.95; O, 8.65; S, 7.83
【0100】
アルゴン下、15 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)中の化合物NTA(CysC(C6H5)3(NH2)3) (0.437 g, 0.357 mmol)にトリフルオロ酢酸(1.4 ml, 17.84 mmol)およびトリエチルシラン(0.54 ml, 2.14 mmol)を、連続して加える。
室温で50分間撹拌後、混合物を蒸発させる。
次いで、得られる生成物(0.600 g)を、HPLC:tR = 16.4分 (直線勾配 50/50〜0/100, 15分でA/B)により精製する。
化合物 4 は白色の固体(0.065 g, 収率 = 37%)である。
【0101】
1H NMR (D2O, 500 MHz, 298 K): δ = 2.87 (ABX, JAX = 4.9, JBX = 7.5, JAB = 14.2, 6H, CH2SH); 3.55 (s, 6H, CH2CO); 4.45 (dd, J = 7.5, 3H, CH).
13C NMR (D2O, 100 MHz, 298 K): δ = 28.18 (CH2SH); 57.93 (CH); 60.85 (CH2CO); 175.98および177.04 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 498.1
【0102】
実施例 5:化合物 5:エチル 2-(2-ブロモアセトアミド)-3-(トリエチルチオ)プロパノエートの合成
化合物 5 を文献(Synthesis, 2003 (11), 1699-1704)に記載の手順に従って合成する。
0℃の温度で、10 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)中のHCysC(C6H5)3OC2H5 (0.996 g, 2.54 mmol)および10 mlの重炭酸カリウム(KHCO3)の10% 水溶液の混合物に、1 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)中のブロモアセチルブロマイド (0.235 ml, 2.69 mmol)の溶液を加える。
次いで、反応混合物を0℃の温度で1時間撹拌する。
沈殿による分離後、水相を3×16 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)で洗浄する。
有機相を硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥し、次いで真空下に濃縮する。
次いで、色が黄色である化合物 5 (1.29 g, 収率 = 99%)を、さらに精製することなく用いる。
【0103】
1H NMR (CD3CN, 400 MHz, 298 K): δ = 1.29 (t, J = 3.6 Hz, 3H, CH3); 2.62および2.74 (ABX, JAX = 4.8 Hz, JBX = 6.0 Hz, JAB = 12.4 Hz, 2H, CH2SC(C6H5)3); 3.86 (s, 2H, BrCH2CO); 4.23 (q, J = 7.0 Hz, 2H, CH2CH3); 4.56 (td, J = 2.4 and 7.2 Hz, 1H, CH); 6.95 (d, J = 8.0 Hz, 1H, NH); 7.24-7.35 (m, 10H, SC(C6H5)3); 7.43 (d, J = 7.6 Hz, 5H, SC(C6H5)3)
【0104】
実施例 6:化合物 6:NOTA(CysC(C6H5)3OC2H5)3の合成
60 mlの無水アセトニトリル(CH3CN)中の化合物 5 (2.90 g, 5.66 mmol)の溶液に、1,4,7-トリアザシクロノナン四塩酸塩(0.423 g, 1.77 mmol)および炭酸カリウム(K2CO3) (1.56 g, 11.31 mmol)を連続して加える。
次いで、アルゴン下、反応混合物を室温で16時間撹拌する。
溶媒の蒸発後、残渣を180 mlの酢酸エチル(CH3COOC2H5)および100 mlの水の混合物に溶解する。
有機相を2×70 mlの水および70 mlの塩化ナトリウム(NaCl)飽和溶液で洗浄し、硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥し、次いで減圧(20 mbar)下に濃縮する。
得られる生成物(2.66 g)をシリカゲル クロマトグラフィー(40 ml, 溶出液:100/0〜96/4の範囲のCH2Cl2/エタノール勾配)により精製し、白色の粉末の形態で、化合物 6 (1.99 g, 収率77%)を得る。
【0105】
1H NMR (CD3CN, 400 MHz, 298 K): δ = 1.21 (t, J = 7.0 Hz, 19H, CH3); 2.58および2.67 (ABX, JAX = 4.9 Hz, JBX = 5.5 Hz, JAB = 12.1 Hz, 6H, CH2S); 2.82 (s, 12H, N-CH2-CH2-N); 3.11 (s, 6H, CH2CO); 4.14 (q, J = 7.0 Hz, 6H, CH2-CH3); 4.32-4.37 (m, 3H, CH), 7.17-7.27 (m, 30H, SC(C6H5)3); 7.33 (d, J = 7.4 Hz, 15H, SC(C6H5)3); 7.50 (d, J = 8.2 Hz, 3H, NH)
13C NMR (CD3CN, 100 MHz, 298 K): δ = 14.41 (CH3); 34.20 (CH2SC); 51.10 (CH); 57.12および61.98 (N-CH2-CH2-N); 63.01 (CH2CH3); 66.93 (CH2CO), 128.25-129.71 ((C6H5)3); 144.53 (C(C6H5)3); 171.08および170.57 (2*CO)
ES-MS: m/z: [M + H+]+ = 1423.42および[M + Cl-]- = 1457.08
元素分析 C84H90N6O9S3・H2O (1441.85 g/mol)としての計算値(%): C, 69.97; H, 6.43; N, 5.83; S, 6.67; 実測値: C, 69.75; H, 6.36; N, 5.77; S, 7.02
【0106】
実施例 7:化合物 7:NOTA(CysOC2H5)3の合成
アルゴン下、17 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)中の化合物 8 (0.480 g, 0.337 mmol)に、トリフルオロ酢酸(1.25 ml, 16.85 mmol)およびトリエチルシラン(0.325 ml, 2.02 mmol)を連続して加える。
室温で、30分間撹拌後、混合物を蒸発させる。
次いで、得られる生成物(703 mg)をHPLC (tR = 15.6分 (直線勾配 80/20〜0/100, 15分でA/B))により精製する。
得られる化合物 7 は、油状の固体(0.199 g, 収率 = 84%)である。
【0107】
1H NMR (CD3CN, 400 MHz, 298 K): δ = 1.26 (t, J = 7.3 Hz, 9H, CH3); 2.85-3.06 (m, 18H, CH2SHおよびN-CH2-CH2-N); 3.68 (s, 6H, CH2CO); 4.13-4.24 (m, 6H, CH2-CH3); 4.67 (td, J = 4.4および7.3 Hz, 3H, CH); 7.45 (d, J = 8.1 Hz, 3H, NH)
13C NMR (CD3CN, 100 MHz, 298 K): δ = 14.99 (CH3); 27.31 (CH2SH); 50.41および51.33 (N-CH2-CH2-N); 56.29 (CH); 58.93 (CH2CO); 63.13 (CH2CH3); 170.49および171.38 (2*CO)
ES-MS (m/z): [M + H]+ = 697.6
【0108】
実施例 8:中間体化合物 8 (本発明の式(II)の化合物の前駆体)の合成
【化19】

【0109】
中間体化合物 8 の合成スキームは、次のとおりである:
【化20】

【0110】
化合物 9:パーアセチル D-ガラクトサミンの合成 (Bioconj. Chem, 2006 (17), 1537-1544)
4.1 mlの無水酢酸および6.3 mlのピリジンに、N-アセチル-D-ガラクトサミン(1.08 g, 4.87 mmol)を溶解する。アルゴン下、反応混合物を25時間撹拌する。溶媒の蒸発後、残渣を200 mlの酢酸エチルに溶解する。有機相をクエン酸の10%水溶液(3×100 ml)で洗浄し、次いでNaHCO3 (1×100 ml)の飽和溶液および水(1×100 ml)で洗浄し、次いでNa2SO4 で乾燥し、減圧下に濃縮する。得られる粗生成物 9 (1.80 g, 95%)をさらに精製することなく用いる。
【0111】
1H NMR (CDCl3, 500 MHz, 298 K): ( = 1.95 (s, 3H, CH3); 2.04 (s, 6H, CH3); 2.18 (2*s, 6H, CH3); 4.07, 4.12 (ABX, JBX = 6.6, JAX = 6.9, JAB = 11.2, 2H, H-6); 4.21-4.23 (m, 1H, H-5); 4.74 (ddd, J = 3.6, 9.2, 11.5, 1H, H-2); 5.23 (dd, 3J = 3.2, 11.5, 1H, H-3); 5.37 (d, 3J = 9.2, 1H, NH); 5.43 (d, 3J = 2.1, 1H, H-4); 6.22 (d, 3J = 3.6, 1H, H-1)
13C NMR (CDCl3, 100 MHz, 298 K): ( = 21.00 (CH3*2); 21.28 (CH3*2); 23.53 (CH3); 47.33 (CH, C-2); 61.60 (CH2, C6); 67.01 (CH, C-4); 68.15 (CH, C-3); 68.87 (CH, C-5); 91.69 (CH, C-1); 169.07 (CO); 170.30 (CO); 170.522 (CO); 170.68 (CO); 171.53 (CO)
ES-MS (m/z): [M + Na+]+ = 412.2
【0112】
化合物 10の合成(Glycoconjugate Journal, 2004 (21), 227-241):
化合物 9 (1.8 g, 4.63 mmol)を、モレキュラーシーブ(4 Å)での無水ジクロロメタン(21 ml)に溶解する。アルゴン下、室温で、トリメチルシリル トリフレート(2.85 ml, 15.74 mmol)を加える。50℃で15時間撹拌後、0℃でトリエチルアミン(1.2 ml, 16.33 mmol)を加える。次いで、反応混合物をジクロロメタン(200 ml)に溶解する。次いで、この有機相をNaHCO3の飽和溶液(1×100 ml)、次いで水(1×100 ml)で洗浄し、最後にNa2SO4で乾燥し、減圧下に濃縮する。得られる生成物 10 (2.1 g)をさらに精製することなく用いる。
【0113】
1H NMR (CDCl3, 500 MHz, 298 K): ( = 2.06 (s, 3H, CH3); 2.07 (s, 6H, CH3); 2.12 (s, 3H, CH3); 3.98-4.02 (m, 1H, H-2); 4.11, 4.20 (ABX, JAX = 5.8, JBX = 7.0, JAB = 11.2, 2H, H-6); 4.23-4.27 (m, 1H, H-2); 4.91 (dd, 3J = 3.3, 7.4, 1H, H-3); 5.46 (t, 3J = 3.0, 1H, H-4); 5.99 (d, 3J = 6.8, 1H, H-1)
13C NMR (CDCl3, 100 MHz, 298 K): ( = 20.73-21.01 (COCH3*3およびCH3); 61.73 (CH2, C6); 63.73 (CH, C2); 65.46 (CH, C4); 69.70 (CH, C5); 72.00 (CH, C3); 101.68 (CH, C1); 169.87-170.32 (NCOおよびCO*3)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 330.2; [M + Na+]+ = 352.2
【0114】
化合物 11の合成(Glycoconjugate Journal, 2004 (21), 227-241):
化合物 10 (4.63 mmol)を、モレキュラーシーブ(4 Å)での無水ジクロロメタン(25 ml)に溶解し、アルゴン下、室温で、2-(2-(2-クロロエトキシ)エトキシ)エタノール(1 ml, 6.88 mmol)を加える。30分間撹拌後、トリメチルシリル トリフレート(0.57 ml, 1.713 mmol)を加える。反応混合物を室温で一晩撹拌後、0℃でトリエチルアミン(0.46 ml, 3.33 mmol)を加える。次いで、混合物を濾過し、次いでジクロロメタン(200 ml)で希釈し、有機相をNaHCO3の飽和溶液(1×100 ml)、次いで水(1×100 ml)で洗浄し、Na2SO4で乾燥し、最後に減圧下に濃縮する。得られる組成生物 11 (2.6 g)をシリカゲル クロマトグラフィー(溶出液: EtOAc/AcOH/EtOH: 8/0.2/0.2)で精製し、化合物 11 (1.0 g, 43%)を得る。
【0115】
1H NMR (CDCl3, 500 MHz, 298 K): ( = 1.99 (s, 6H, CH3*2); 2.05 (s, 3H, CH3); 2.16 (s, 3H, CH3); 3.63-3.91 (m, 13H, CH2およびH-5); 4.12, 4.17 (ABX, JAX = 6.5, JBX = 6.9, JAB = 11.2, 2H, H-6); 4.27 (ddd, 3J = 2.0, 9.1, 11.1, 1H, H-2); 4.80 (d, J = 8.6, 1H, NH); 5.00 (dd, 3J = 3.4, 11.2, 1H, H-3); 5.32-5.33 (m, 1H, H-4); 6.22 (d, 3J = 9.4, 1H, H-1)
13C NMR (CDCl3, 100 MHz, 298 K): ( = 20.70 (NHCOCH3); 20.81 (3*COCH3); 43.08 (CH2Cl); 50.73 (CH, C2); 61.75 (CH2, C6); 66.85 (CH, C4); 68.70 (CH2); 70.47, 70.77, 70.84, 71.255, 71.493 (CH2*4およびCH, C3); 72.05 (CH, C5); 102.61 (CH, C1); 170.53, 170.69, 170.76, 170.84 (CO*4)
ES-MS (m/z): [M + Na+]+ = 520.3
【0116】
化合物 8の合成:
水(6 ml)中の化合物 11 (0.413 g, 0.829 mmol)の溶液に、チオ尿素(0.139 g, 1.820 mmol)を加える。アルゴン下、反応混合物を還流で24時間撹拌する。中間体化合物 12を含む得られる溶液を、さらに精製することなく用いる。
【0117】
化合物 12に対する1H NMR (D2O, 400 MHz, 298 K): ( = 2.00 (s, 3H, CH3); 2.02 (s, 3H, CH3); 2.10 (s, 3H, OCH3); 2.23 (s, 3H, OCH3); 3.37 (t, J = 4.9, 2H, CH2S); 3.72-4.25 (m, 15H, H-2, H-4, H-5, H-6, 5 x CH2); 5.11 (d, J = 2.7, J = 11.1, 1H, H-3); 5.41 (m, 1H, H-1)
【0118】
中間体 12を含む前記溶液をメタノールで希釈し、20 mlのMeOH/水混液(v/v: 2/1)を得、アルゴン下で維持する。水酸化ナトリウムの1 M水溶液の添加により、この溶液のpHを9.6で9時間維持する。次いでpHを、HClの1 M水溶液を加えることによりpH = 7に戻し、次いで減圧下に濃縮する。次いで、粗生成物 13をさらに精製することなく用いる。
【0119】
化合物 13に対する1H NMR (D2O, 400 MHz, 298 K): ( = 1.82 (t, J = 8.0, 1H, SH); 2.04 (s, 3H, NHCH3); 2.62 (t, J = 7.0, 2H, CH2-SH); 3.52 (t, J = 5.5, 2H, CH2); 3.55-3.93 (m, 15H, 5 x CH2およびH-2, H-3, H-4, H-6); 3.96-4.00 (m, 1H, CH, H-5); 4.44 (d, J = 8.5, 1H, CH, H-1)
【0120】
粗化合物 13を無水メタノール(22 ml)に再溶解し、得られる溶液にアルドリチオール(0.552 g, 2.5 mmol)を加える。アルゴン下、反応混合物を室温で1時間撹拌し、次いで減圧下に濃縮する。次いで、得られる生成物をHPLCにより精製する。得られる中間体化合物 8は、白色の固体(0.075 g, 19%)である。
【0121】
化合物 8に対する1H NMR (D2O, 400 MHz, 298 K); ( = 2.03 (s, 3H, CH3); 3.06 (t, J = 5.8, 2H, CH2SH); 3.57-4.02 (m, 15H, CH2およびCH); 4.51 (d, J = 8.4, 1H, CH, H-1); 7.33 (t, J = 6.0, 1H, CH, Haro); 7.89 (m, 2H, CH, Haro); 8.42 (d, J = 4.8, 1H, CH, Haro)
化合物 8に対する13C NMR (D2O, 100 MHz, 298 K): ( = 23.10 (CH3); 39.87 (CH2S-S); 54.35 (CH, C-2); 62.55 (CH2, C6); 69.69-71.64 (CH, C-4, CH2*5); 73.60 (CH, C-3); 76.78 (CH, C-5); 103.17 (CH, C-1); 121.23-122.40 (CHpyr); 161.77 (Cpyr); 174.16 (CONH)
ES-MS (m/z): [M + Na+]+ = 501.3; [M + H+]+ = 479.3
【0122】
実施例 9:化合物(IIa1)の合成
【化21】

【0123】
DMF(5 ml)中の化合物 4 (0.0137 g, 0.0275 mmol)の溶液に、DMF(5 ml)中の化合物8 (0.045 g, 0.0941 mmol)の溶液を加える。反応混合物を、室温で5時間撹拌し、次いで減圧下に濃縮する。次いで、得られる生成物をHPLCにより精製する。得られる化合物(IIa1)は、白色の固体(0.0157 g, 35%)である。
【0124】
1H NMR (D2O, 500 MHz, 298 K): ( = 2.04 (s, 9H, CH3NH), 2.96 (t, J = 6.0, 6H, CH2S-S); 3.01 (dd, J = 10.1, 3H, CHCH2S); 3.28 (dd, J = 4.0, 3H, CHCH2S); 3.56 (s, 6H, CH2CO); 3.70-3.73 (m, 33H, CH2およびCH, H-3); 3.77 および3.83 (ABX, JAX = 6.4, JBX = 6.8, JAB = 11.7, 6H, CH2, H-6); 3.88-3.93 (m, 6H, CH, H-4, H-2); 3.9-4.02 (m, 3H, CH, H-5); 4.50 (d, J = 8.5, 3H, CH, H-1); 4.72-4.75 (m, 3H, CH)
13C NMR (D2O, 100 MHz, 298 K): ( = 22.27 (CH3NH*3); 37.19 (CH2S-S*3); 52.40 (CH*3, C-4); 60.97 (CH2CO*3); 67.83-75.14 (CH*9: C-2, C-3, C-5, CH2*42, C-6); 101.53 (CH*3, C-1); 173.20, 174.67, 174.68 (CO*3, CONH2*3, CONHAc*3)
ES-MS (m/z): [M + NA+]+ = 1621.3
【0125】
実施例 10:次の式(IIa1')に相当する化合物の合成
【化22】

【0126】
化合物(IIa1')を、次の化合物 14に中間体化合物 8を反応させる以外は、化合物(IIa1)に対する上記のそれと同じ手順にしたがって合成する:
【化23】

【0127】
化合物 14を、出発物としてシステインの代わりにペニシラミンを用いる以外は、化合物 13と同じ方法で得る。
【0128】
実施例 11:化合物(III1)の合成
【化24】

【0129】
化合物(III1)を、市販のNα,Nα-ビス(カルボキシメチル)-L-リジンから出発し、次に詳述される反応スキームにしたがって合成する。
【化25】

【0130】
化合物 15の合成:
0℃で、アセトニトリル/水混合物(3 ml, v/v 1/1)中のNα,Nα-ビス(カルボキシメチル)-L-リジン(0.100 g, 0.383 mmol)の溶液に、ジ-tert-ブチル ジカーボネート(0.251 g, 1.15 mmol)およびNaHCO3 (0.165, 1.96 mmol)を加える。反応混合物を室温で24時間撹拌し、次いで減圧下に濃縮する。次いで、残渣を水(15 ml)に再溶解し、ジエチルエーテル(6×10 ml)および酢酸エチル(6×10 ml)で抽出する。水相をKHSO4の5%水溶液でpH = 2.0に酸性化する。水相を酢酸エチル(6×10 ml)で抽出する。有機相をNa2SO4で乾燥し、減圧下に濃縮する。得られる粗生成物(0.157 g, 64%)をさらに精製することなく用いる。
【0131】
1H NMR (D2O, 400 MHz, 298 K): ( = 1.44 (s, 9H, CH3); 1.47-1.58 (m, 4H, CH2); 1.83-2.02 (m, 2H, CH2); 3.10 (t, J = 5.8, 2H, CH2); 3.97-4.01 (m, 1H, CHCO); 4.01 (s, 4H, CH2CO)
ES-MS (m/z): [M - H+]- = 361.3
【0132】
化合物 16の合成:
10 mlのDMF中のCysC(C6H5)3(NH2) (0.485 g, 1.338 mmol)の溶液に、DMF(12 ml)中で溶液の化合物 15 (0.157 g, 0.433 mmol)を加える。次いで、混合物を0℃に冷却し、N-エチル-N'-(3-ジメチルアミノプロピル)カルボジイミド(0.254 g, 1.64 mmol)および1-ヒドロキシベンゾトリアゾール水和物(0.180 g, 1.33 mmol)を連続して加える。次いで、アルゴン下、反応混合物を室温で16時間撹拌する。溶媒の蒸発後、次いで、残渣を25 mlの水で洗浄し、次いで濾過する。次いで、固体を50 mlのジクロロメタン(CH2Cl2)に溶解する。次いで、有機相を3×25 mlの水および1×25 mlの塩化ナトリウム(NaCl)の飽和溶液で洗浄する。次いで、有機相を硫酸ナトリウム(Na2SO4)で乾燥し、次いで減圧(20 mbar)下に濃縮し、トリチル化された中間体(0.584 g)を得る。
得られるトリチル化された化合物を無水ジクロロメタン(3.5 ml)に再溶解する。トリフルオロ酢酸(TFA) (3.1 ml, 41.4 mmol)およびトリエチルシラン(Et3SiH) (0.412 ml, 2.53 mmol)を加える。室温で1時間撹拌後、混合物を蒸発させる。次いで、得られる生成物をHPLCにより精製する。得られる化合物 16は白色の固体(0.171 g, 72%)である。
【0133】
1H NMR (D2O, 500 MHz, 298 K): ( = 1.31-1.50 (m, 2H, CH2lys); 1.64-1.77 (m, 4H, 2 x CH2lys); 2.83-3.99 (m, 8H, 3 x CH2( およびCH2lys); 3.45-3.47 (m, 1H, CHCO); 3.59 (AB, JAB = 17.2, 4H, CH2CO); 4.47 (dd, J = 7.9, 1H, C); 4.51 (dd, J = 7.3, 2H, C)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 569.3
【0134】
化合物 17の合成:
化合物(IIa1)の合成に対して行われた同じ手順にしたがって、化合物 17を20%の収率で得る。
【0135】
1H NMR (D2O, 500 MHz, 298 K): ( = 1.32-1.47 (m, 2H, CH2lys); 1.57-1.76 (m, 4H, CH2lys); 1.95 (s, 9H, CH3NH); 2.88 (t, J = 6.0, 6H, CH2-S); 2.91-3.49 (m, 9H, CH2lys, 3 x CH2(, CHCO); 3.59-3.77 (m, 39H, 5 x CH2, H-6, H-3); 3.81-3.86 (m, 6H, H-4, H-2); 3.92, 3.95 (ABX, JAX = 2.7, JBX = 2.8, JAB = 5.5, 3H, H-5); 4.43 (d, J = 8.5, 4H, H1); 4.41-4.43 (m, 1H, H-1); 4.65-4.77 (s, 3H, C)
ES-MS (m/z): [M + H+]+ = 1670.5
【0136】
式(III1)の化合物の合成:
DMF(0.8 ml)中の化合物 17 (0.0114 g, 0.0068 mmol)の溶液に、DMF(0.7 ml)中のカルボキシテトラメチルローダミン N-スクシニミジルエステル(TAMRA) (0.0081 g, 0.0154 mmol)の溶液を加える。N,N-ジイソプロピルエチルアミン(DIPEA) (0.002 ml, 0.0111 mmol)でpHを8〜9に調整する。反応混合物を4時間撹拌し、次いで減圧下に濃縮する。得られる粗生成物をHPLC(溶出液:水/アセトニトリル)により精製する。生成物をピンクの固体(m = 0.0012 g, 8%)の形態で得る。
ES-MS (m/z): [M + Na+]2+/2 = 1053.6.
【0137】
2/ 銅 Cu(I)錯体の特徴付け
2/1- UV-可視分光法および円偏光二色性
Cu(I)錯体の形成は、UV分光法によりモニターした。チオレート→ Cu(I)電荷移動バンドが260 nm辺りにはっきりと現れる。このバンドは、2つの化合物NTA(CysOC2H5)3およびNOTA(CysOC2H5)3に対して2当量まで増加する。それゆえ、得られるCu(I)錯体は、3つのシステインを含むこれらのリガンド(L)に対して2:1 (Cu:L)の全体理論値を有する。
【0138】
図1は、7.4のpHでのリン酸緩衝液中の、Cu(CH3CN)PF6 (Cu(I))でのNTA(CysOC2H5)3 (化合物3)のUV定量法の例を示す。
続く同じタイプの定量法の円偏光二色性は、Cu(I)の0〜2当量の間の2つの錯体の連続形成を示す。NTA(CysOC2H5)3に対して、形成される最初の錯体は、Cu-Cu相互作用の特徴的な(300 nmを超えた)バンドを有しない。それゆえ、この最初の錯体は単核の化合物である。1〜2当量の間で形成される2番目の錯体は、340 nmにバンドを有し、それゆえ多核のCu(I)銅化合物である。
NOTA(CysOC2H5)3に関しては、多核の錯体のみを示す。
【0139】
手順:
キレート剤中の-SHチオール官能基は、空気中で酸化される能力を有するので、全ての溶液はアルゴン雰囲気下、グローブボックス中で調製された。次いで、脱酸素され、Millipore Milli-Q(登録商標)システムで精製された水を用いて、リン酸緩衝溶液(pH = 7.4) 20 mMおよびアセトニトリル(v/v: 9/1)を含むように、それぞれの実験の前にリガンド溶液を調整した。
【0140】
リガンド溶液の最終濃度は、P.W. Riddles, R.L. Blakeley, B. Zerner, Methods Enzymol., 1983, 91, pp. 49-60に記載のEllman手順にしたがって、リガンド中の遊離のチオール官能基の濃度を測定することにより決定された。この方法は、指示薬として5,5'-ジチオビス-2-ニトロ安息香酸(DNTB)を用い、リガンド中に存在するそれぞれの遊離のチオール基は、1当量のTNB2- 412 nm (TNB2-) = 14 150 M-1・cm-1, ε412 nm は412 nmでのTNB2-のモル吸光係数である)を生じる。リガンド溶液の濃度は、30〜100 μmの間である。
【0141】
Cu(I)銅の溶液を、脱酸素されアセトニトリル中にCu(CH3CN)4PF6の適当な量を溶解することにより調製した。最終濃度は、過剰のバソクプロインジスルホン酸ナトリウム(Na2BCS)を加え、Cu(BCS)23- の吸光度(λmax = 483 nm, ε = 13 300 M-1・cm-1)を測定することにより決定される。
【0142】
UV-可視スペクトルは、Varian Cary 50 スペクトロメータおよびChirascanスペクトロメータ(Applied Photophysics(登録商標))での円偏光二色性による滴定を用いて記録された。調製されたリガンド溶液の2.5 mlを、1 cmの経路長を有するUVセル中に移し、漏れ止めセプタム栓で閉じる。アセトニトリル中の溶液のCu(I)の0.1当量に相当する一定量を、チオール官能基の酸化を避けるために、密封シリンジで(Hamilton(商標))によりUVセルに加える。
【0143】
2/2 - 錯体の分子性:拡散係数
錯体の形成は、500 MHzでの1H NMRによってもモニターされた。
化合物 3 NTA(CysOC2H5)3 (リガンドLで示される)に関して、次の錯体が形成されることが、明らかに考えられる:
・ 単核の錯体:L + Cu(I) → CuL2-
・ 多核の錯体:CuL2- + Cu(I) → (Cu2L-)n
【0144】
これらの錯体に対する拡散係数も測定された(表II参照)。これらの変換拡散係数は、化合物の分子量に関連しており、それらは、錯体の分子性を評価することを可能にする(P. Rousselot-Pailley, O.Seneque, C. Lebrun, S. Crouzy, D. Boturyn, P. Dumy, M. Ferrand, P. Delangle, Inorg. Chem., 2006, 45, pp.5510-5520)。それらは、化合物 3 NTA(CysOC2H5)3を用いて形成された錯体は、実際はCuL、次いでCu6L3であり、一方、化合物7 NOTA(CysOC2H5)3に関しては、多分子種Cu8L4が観察されることを示している。
【0145】
【表2】

【0146】
手順:
NMRスペクトルは、3-軸-グラジエント 5 mmの間接的プロトンプローブを備えたBruker Avance 500 MHz スペクトロメータで記録された。拡散係数測定は、双極系列(双極刺激スピンエコー系列) (A. Jershow, N. Muller, J. Magn. Reson., 1997, 125, pp. 372-375)を用いて行われた。
【0147】
拡散係数は、次の式を用いて得られた:
【数1】

【0148】
[式中:
− I(δ,Δ,g)は、フォースgのグラジエント パルスで得られる強度であり、
− I0 は、脈動パルスの非存在下で得られる強度であり、
− δ は、グラジエント パルスの長さであり、
− Δ は、拡散時間であり、
− γ は、磁気回転比(プロトンに対して、γ = 26.7520×107 rad・T-1・s-1)である]。
【0149】
拡散係数測定に対して用いられたΔおよびδ値は、それぞれ100 msおよび2 msであった。
実験において、gは2.95〜41.2 G・cm-1に増加された。
リガンド試料は、D2OおよびCD3CN (v/v:9/1)の溶液中で調製された、pH = 7.4のリン酸緩衝液20 mM中で、〜1 mMの濃度に調製された。次いで、CD3CN中のCu(CH3CN)4PF6 の溶液の一定量が、リガンド試料に加えられた。
【0150】
2/3- 親和定数
合成されたキレート剤のCu(I)に対する親和性は、キレート剤のこのイオンを錯体化するための能力を定量化することを可能にするので、データの重要な一つである。
親和定数は、Cu(I)に対して強い親和性を有する既知の競争相手のバソクプロイン ジスルホネート(BCS)を用いて測定された。バソクプロイン ジスルホネートは、次の反応により既知の安定なCu(I)錯体を形成する:
【0151】
【数2】

(P. Rousselot-Pailley, O. Seneque, C. Lebrun, S. Crouzy, D. Boturyn, P. Dumy, M. Ferrand, P. Delangle, Inorg. Chem., 2006, 45, pp. 5510-5520; Z. Xiao, F. Loughlin, G.N. George, G.J. Howlett, A.G. Wedd, J. Am. Chem. Soc., 2004, 126, pp. 3081-3090)。
【0152】
これらのリガンドによって錯体化されるCu(I)の50%を置き換えるのに必要な、添加されるバソクプロイン ジスルホネート(BCS)の量が、Cu(I)に対する親和性の一次指標である。このパーセントが高いほど、Cu(I)に対する硫黄含有リガンドの親和性は高い。これらのデータはすぐに、研究された3つのリガンドが、それらの増加するCu(I)に対する親和性によって分類されることができることを示している:
化合物 3 NTA(CysOH)3 < 化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3 < 化合物 3 NTA(CysOC2H5)3 〜 化合物 5 NTA(CysNH2)3
【0153】
これらの競争実験は、これらの新規なキレート剤のCu(I)に対する親和性を定量化することを可能にした: 20 mMリン酸緩衝液中、pH = 7.4でのCu(I)に対する、次で定義される見掛けの錯体化定数が、表IIIに示される。
【0154】
【数3】

【0155】
【表3】

【0156】
− 化合物 3 NTA(CysC2H5)3、および化合物 5 NTA(CysNH2)3は、Cu(I)に対して非常に高い親和性を有する(Kapp = 1019)、
−化合物 3 NTA(CysOC2H5)3で表される類似の中性のリガンドと比較して、酸官能基を含む化合物、化合物 3 NTA(CysOH)3に対する親和性は弱い
ことは、疑いもなく明らかである。
【0157】
手順:
Cu(I)銅と本リガンドとの錯体は、それらの親和定数を測定する目的で、バソクプロイン ジスルホネート(BCS)を用いて、定量的に測定される。錯体は、20 mMでのリン酸緩衝溶液、pH = 7.4/ アセトニトリル (v/v:9/1)中のリガンド溶液にCu(I)銅の0.5、0.9または1.8当量を含むアセトニトリル(CH3CN)の溶液を加えることによって調製される。次いで、錯体の形成は、アルゴン下、10分間混合物を撹拌することにより行われる。
【0158】
次いで、同じ緩衝溶液中のバソクプロイン ジスルホネート(BCS)の溶液の一定量が、リガンド-銅錯体に加えられる。
次いで、UV-可視スペクトルが記録され、他の一定量の添加前に、吸光度安定性が確認される。
【0159】
3/ 他の金属イオンの錯体の特徴付け
一般的に、金属 Mとn個のリガンド Lからの錯体の形成は:
【数4】

と記載される。
【0160】
この反応に関連する、見掛けの錯体化定数log Kappは、
Kapp = [ML]/[M][L]tot
[ここで、
− [ML] は、錯体の濃度であり、
− [M] は、金属の濃度であり、そして
− [L]tot は、遊離リガンド(そのプロトン化された形態は何でも)の濃度である]
である。
この定数は、固体または溶媒を何も示すことなく、活性の代わりに平衡にあるイオンの濃度を示すことによって、近似的に表される。
【0161】
いくつかの既知のキレート剤に対する見掛けの錯体化定数は、次の表IVに示される。
【表4】

【0162】
2つの金属間の選択性 M/M' は、金属 M'に対するリガンドの選択性に対する、金属 Mに対するその選択性に相当し、この選択性は、
log (Kapp(M)/Kapp(M')) = log Kapp(M) - log Kapp(M')
に等しい。
【0163】
提示されるキレート剤は、Hg(II)、Cd(II)およびPb(II)のような特定の毒性イオンの錯体化にも有利である。化合物 3 NTA(CysOC2H5)3の場合、行われた研究を通して、それが最も強力なCu(I)-キレート剤であることが判る。化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3に対して得られるいくつかのデータも、次に示される。
【0164】
3/1 - 化合物 3 NTA(CysOC2H5)3に行われた研究
次のS- → M 電荷移動バンドの出現を対象とするUV定量法は、錯体の化学量論が、Cd(II)、Zn(II)、Pb(II)およびHg(II)に対して1:1 (M:L)であることを示すことを可能にした。Hg(II)錯体のみが、いくつかの金属イオンを多分含む別の錯体(Hg3L2)に、その後変化した。
【0165】
Pb(II)との親和定数が、特異値分解アルゴリズムを用い、最小二乗分析によりデータを適合するSPECFITプログラムを用い、そしてPb(II)に対する緩衝液の親和性を考量に入れる、P. Rousselot-Pailley, O. Seneque, C. Lebrun, S. Crouzy, D. Boturyn, P. Dumy, M. Ferrand, P. Delangleによる論文, Inorg. Chem., 2006, 45, pp. 5510-5520に記載の手順にしたがって、pH = 7で20mM ビス-トリス緩衝液 (2-ビス(2-ヒドロキシエチル)アミノ-2-(ヒドロキシメチル)-1,3-プロパンジオール)中、Pb(II)を用いるリガンドの定量分析によって測定された。
【0166】
続いて、Cd(II)、Zn(II)およびCa(II)イオンとの親和定数が、次の競争反応:
PbL + M → Pb + ML
による、Pb(II)錯体を第2の金属イオンで滴定することにより測定された。
【0167】
チオレート リガンドに対して非常に高い親和性を有するHg(II)に対して、我々は、次の反応:
HgL + EDTA → L + HgEDTA
による、既知の親和定数(表IV参照)を有するEDTAでの競争を行った。
【0168】
【表5】

【0169】
手順:
本手順は、上記の項2/1-中に付随のそれと同じである。
金属溶液を、pH = 7、20 mM ビス-トリス緩衝溶液中、対応する塩(CaCl2、CdCl2、PbCl2またはZnCl2)を用いて調製し、比色分析指示薬の存在下、5 mM EDTA溶液で滴定した。
【0170】
滴定に対して、Ca(II)、Cd(II)またはZn(II)溶液の一定量を、pH = 7、20 mM ビス-トリス緩衝溶液中に、1当量のリガンドと3当量のPb(II)を用いて得られるペプチド/鉛錯体を含むUVセルに加える。実験は、ペプチド/鉛錯体に対応するシグナルが消えるまでか、またはペプチド/鉛錯体のシグナルが10%未満になるまで行われる。Ca(II)に関して、リガンドに対して1000当量のCa(II)が加えられても、鉛錯体のスペクトルに変化は観察されなかった。
【0171】
スペクトルは、上記のようにSPECFITプログラムを用いて分析された。
ビス-トリス緩衝溶液は、安定でかつ溶解性のPb(II)との錯体を形成し、それゆえに、Pb(OH)2 の形成および沈殿を抑えるので、選択された (J.C. Payne, M.A. terHorst, H.A. Godwin, J. Am. Chem. Soc, 1999, 121, pp. 6850-6855)。さらに、ビス-トリス緩衝溶液に対する金属イオンの親和性は知られているので、それは、調整におけるパラメータとして盛り込まれた (logβ1 = Ca(II)に対して2.25、Cd(II)に対して2.47 、Zn(II)に対して2.38およびPb(II)に対して4.32 (K.H. Scheller, T.H. Abel, P.E. Polanyi, P.K. Wenk, B.E. Fischer, H. Sigel, Eur. J. Biochem., 1980, 107, pp. 455-466))。
【0172】
Ca(II)での滴定に対して、Pb(II)錯体に対するLMCTバンドにおける変化は、実証されなかった。したがって、データは、1%未満のPb(II)でシミュレートされ、見掛けの親和定数に対する上限logβCaNTACys(OC2H5)3 < 3を得ることを可能にした。
【0173】
水銀の溶液を、水にHgCl2を溶解することによって調製する。pH = 7.4、20 mM リン酸緩衝溶液中のリガンド溶液に、この水銀溶液の一定量を、0.9当量まで加えることによりHgL錯体を形成する。続いて、290 nmでのHg(II)に対するLMCTバンドの変化を、Na2EDTAの5 mM溶液での滴定により追跡する。このバンドの変化は、添加されるEDTAの63当量まで観察されない。これらのデータは、EDTAによって置き換えられる5%未満のHg(II)でシミュレートされ、見掛けの親和定数logβHgNTACys(OC2H5)3 > 22.5を得る。
【0174】
3/2- 化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3で行われた研究
化合物 3に対すると同じ手順が、我々に、次の親和性を評価することを可能にした:
【表6】

【0175】
比較結果
同様の条件(pH = 7、298 Kの温度)で測定された、先行技術を代表する3つの化合物の見掛けの安定度定数、具体的には、Plushらによる論文、Dalton Trans., 2004, No. 9, 1410-1417に記載の化合物 1、2および3の安定度定数を、次の表VI'に転載する。
【0176】
要約すれば、Plushらによる論文の化合物 1および2は、フェニルアラニン残基を有するNOTA誘導体であり、Plushらによる論文の化合物 3は、トリプトファン残基を有するNOTA誘導体である。
【0177】
【表7】

【0178】
「ソフト」金属に結合することができる硫黄原子を有するシステイン アミノ酸での本発明のキレート剤の官能基化は、先行技術の既知の化合物と比較して、Cd(II)のような「ソフト」金属イオンに対してより良好な親和性を生じる。
【0179】
他の既知のキレート剤と比較した、本発明のキレート剤の有利性
表VIIは、本発明のキレート剤を用いて測定された親和定数を示す。メタロシャペロン、Atx1 (Cu(I)銅輸送に関与するタンパク質)のCu(I)銅-結合ループのモデルペプチド(PC)を用いて測定された値も、細胞内で自然にCu(I)をキレートするタンパク質との比較のために示される。
【0180】
PC リガンドは、アミノ酸配列中に挿入された2つのシステインの2つのチオレート官能基によって金属イオンに結合するMxCxxC。化合物 3 NTA(CysOC2H5)3; 化合物 5 NTA(CysNH2)3; および化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3中への3つのシステインの導入は、潜在的に競争する必須イオン、Ca(II)およびZn(II)に対して、非常に高い選択性の安定な錯体を得ることを可能にした。
【0181】
【表8】

【0182】
比較結果:
亜鉛と比較された銅に対する選択性が、先行技術を代表的する3つの化合物、すなわちPlushらによる論文、Dalton Trans., 2004, No. 9, 1410-1417に記載の化合物 1、2および3に対しても測定され、その結果を次の表VII'に転載する。
【0183】
【表9】

【0184】
「ソフト」金属に結合することができる硫黄原子を有するシステイン アミノ酸での本発明のキレート剤の官能基化は、先行技術の既知の化合物と比較して、大幅に改善されたCu/Zn選択性を生じる。
【0185】
本発明のキレート剤の有利性を示すために、我々はまた、得られ、表VIIにリストアップされたデータを、リストアップされた既知の市販のキレート剤に対して知られているデータ(表IV参照)と比較した。
【0186】
化合物 3 NTA(CysOC2H5)3に対して
Cu(I)およびHg(II)イオンに対する化合物 3 NTA(CysOC2H5)3の親和性は、非常に高い。このリガンドは、EDTAおよびTrienより良好に銅と錯体化し、表にされた他のキレート剤より高い親和性を有する、非常に効果的なHg(II)-錯体化剤である。
【0187】
インビボでのキレート剤の使用に対して重要な点は、Ca(II)およびZn(II)のような必須イオンに対する選択性である。再度その点で、化合物 3 NTA(CysOC2H5)3に対して測定された選択性は、既知のキレート剤のそれらよりずっと大きい。
【0188】
化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3に対して:
このリガンドを用いて、わずかのデータが測定された。それにもかかわらず、化合物 7 NOTA(CysOC2H5)3とCu(I)との間の強い親和性ならびにまた亜鉛に比べて銅に対する有利な選択性が注目される。それゆえ、その性質は、EDTAおよびTrienに比べて非常に有利である。
【0189】
本発明の化合物は、細胞内媒体中で有利な酸化状態を有する、Cu(I)の選択的な錯体化に対してそれらを非常に有望にさせる親和性および選択性を有し、そのことが、ウィルソンまたはアルツハイマー病のような疾患を対象とすることができる。これらの化合物はまた、水銀中毒の場合の水銀の選択的錯体化に対する候補品にもなる。
【0190】
4/ 細胞媒体中での銅を錯体化するための、式(II)および(III)の化合物の使用
4/1- 細胞内媒体を模倣する、還元性媒体中での式(II)の化合物のチオール官能基の遊離化
我々は、式(IIa1)の化合物が、非還元性媒体中で銅を錯体化しなかったかったが、ところが、それは還元性媒体中では強く、すなわち化合物 4と同じほど強く前記の銅を錯体化することを実験的に立証した。この結果は、式(II)の化合物が、標的とされる細胞中でのみで、金属-キレート剤であり、その結果、循環血液のような細胞外媒体中では金属の望まない錯体化に関連する副作用をほとんど示さないことを示す。
【0191】
実験結果:
遊離の銅(I)の濃度を測定するために、BCSを用いた。
検出される遊離の銅の量を、添付の図2に要約したように、種々の条件下で測定した。化合物(IIa1)が単独のとき、それは銅を錯体化しない(BCSを用いて100% 検出される)、そのことは、チオール官能基が分子のジスルフィド ブリッジ(S-S)によりマスクされている事実によって説明される。
一方、遊離のチオール官能基を再生すようにジスルフィド ブリッジ(S-S)を還元することができる、GSHまたはTCEPのような還元剤の存在下では、式(IIa1)の化合物は、BCSを用いて検出される銅の量が8および2%まで低下するので、効果的な銅-キレート剤(化合物 4)になる。
【0192】
4/2- 肝細胞における実験
肝細胞中へのキレート剤の侵入:
HEPG2、WIF-BまたはCAN10肝細胞への式(III1)に相当するキレート剤の侵入は、次の顕微鏡による赤色領域でのローダミン蛍光によって研究される。侵入速度論が、侵入時間を測定するために行われる。細胞外媒体中の式(III1)のキレート剤の初期濃度の取り込み時間への影響も分析される。
【0193】
式(III1)の化合物が、細胞外媒体中0.2 μMおよび2 μMの濃度に対して、2時間後、HEPG2肝細胞内へ浸透したことが示された。実際、添付の図3は、細胞中のローダミンの赤色発光特性の出現を示す。蛍光は、図4で観察されるように7時間後により強くなり、このことは、式(III1)の分子の取り込みが、2時間〜7時間の間、継続することを意味する。
【0194】
細胞中での銅の錯体化:
ウィルソン膜タンパク質(またはATP7B)の場所は、WIF-B肝細胞中の細胞内銅濃度に依存すること示されている(Guoら, J. Am. Physiol Gastrointest Liver Physiol 289: G904-G916, 2005参照)。それゆえ、このタンパク質は、緑色領域に蛍光がある抗体でラベルすることにより、細胞内銅の存在または非存在の指示薬として用いられる。
【0195】
それゆえ、ATP7Bの場所を、蛍光顕微鏡により記録することができる。銅の非存在下、このタンパク質は、ゴルジ領域に位置する、一方、過剰の銅で、それは、頂端膜に移動し、その結果、この過剰な金属を排出するために小管に移動する。銅-豊富な媒体での肝細胞中の式(IIa1)のキレート剤の存在および非存在で得られる画像比較は、インビトロでの非常に効果的なキレート剤である化合物(IIa1)が、小細胞中(in cellulo)、試験される肝細胞中で、銅-キレート剤でもあるかどうかを調べることを可能にする。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
次の式(I):
【化1】

[式中、
− R1、R'1およびR"1基は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わし、
− R2、R'2およびR"2基は、同一または異なっていてもよく、-OH、-OR、-NHRおよび-NRR'基(ここで、RおよびR'は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わす)から選択される]
の化合物。
【請求項2】
R1、R'1およびR"1基が水素原子である、請求項1に記載の式(I)の化合物。
【請求項3】
R2、R'2およびR"2基が、-NH2、-OHまたは-OR基(ここで、Rは水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表す)である、請求項1および2のいずれかに記載の式(I)の化合物。
【請求項4】
R2、R'2およびR"2基が、-OR基(ここで、Rはエチル基である)である、請求項3に記載の式(I)の化合物。
【請求項5】
少なくとも次の工程:
(i) 炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよびジイソプロピルエチルアミンもしくはトリエチルアミンのような3級アミンのような弱塩基の存在下、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリル、ジメチルホルムアミドおよび水から選択されることができる溶媒媒体中、好ましくは-10℃〜10℃の間の温度で、通常は30分〜2時間の間、分子RbCHR1C(O)Ra
[ここで、
− Ra は、ハロゲン原子、好ましくは塩素または臭素原子、ヒドロキシ-OH基および-OCORa'基(ここで、Ra'は、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わし、好ましくは、Ra'はメチルまたはエチル基である)から選択され、
− Rb は、ハロゲン原子、好ましくは塩素または臭素原子、パラ-トルエンスルホネートのようなトシレートならびにメタンスルホネートおよびトリフルオロメタンスルホネートのようなメシレートから選択される脱離基である]
の1当量を、式:
【化2】

のシステイン誘導体の1当量と反応させ、
(ii) 炭酸水素カリウム、炭酸水素ナトリウム、炭酸カリウム、炭酸ナトリウムおよびジイソプロピルエチルアミンもしくはトリエチルアミンのような3級アミンのような弱塩基の存在下、ジクロロメタン、クロロホルム、酢酸エチル、アセトニトリルおよびジメチルホルムアミドから選択されることができる溶媒媒体中、1,4,7-トリアザシクロノナンの1当量を、工程(i)で得られる式:
【化3】

のブロモアセトアミド誘導体の3当量と反応させ、
(iii) チオール-SH官能基を得るために-S-(保護基)官能基を脱保護し、該脱保護は、保護基がトリフェニルメタンC(C6H5)3であるとき、トリフルオロ酢酸のような強酸の大過剰の添加により、好ましくは20℃〜40℃の間の温度で、通常は15分〜1時間の間で行うことができる
を含むことを特徴とする、請求項1〜4のいずれか一つにより定義される式(I)の化合物の製造方法。
【請求項6】
メンデレエフの周期律表の金属イオンに対するキレート剤として、好ましくは、Ag(I)、Cd(II)、Co(II)、Cu(I)、Hg(II)、Ni(II)、Au(I)、Pb(II)およびZn(II)イオンに対するキレート剤としての、請求項1〜4のいずれか一つに記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項7】
汚染除去剤としての、請求項1〜4のいずれか一つに記載の式(I)の化合物の使用。
【請求項8】
次の式(II):
【化4】

[式中、基Aは:
・窒素原子であるか、または
・次の式に相当する環:
【化5】

(ここで、置換は窒素原子上でおこる)
のいずれかを表し、
− R1、R'1、R"1は、同一または異なっていてもよく、水素または1〜12個の炭素原子を有する任意に置換されたアルキル基を表し、
− R2、R'2およびR"2基は、同一または異なっていてもよく、-OH、-OR、-NHRおよび-NRR'基(ここで、RおよびR'は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わす)から選択され、
− R3、R'3およびR"3基は、同一または異なっていてもよく、基-S-Wまたは-S-E-Lを表わす、ここで、
Sは硫黄原子であり、
Wは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基であり、
Eは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基、および好ましくは1〜8個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールのようなポリオールから選択されるスペーサーアームであり、
Lは、生物学的リガンド、好ましくは、グルコース、ガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミンのような糖から選択される肝または神経細胞リガンドである]
に相当する、請求項1〜4のいずれか一つで定義される式(I)の化合物の前駆体である剤として使用できる化合物。
【請求項9】
R1、R'1およびR"1基が水素原子である、請求項8に記載の式(II)の化合物。
【請求項10】
R2、R'2およびR"2基が、-NH2、-OHまたは-OR基(ここで、R は、水素原子または1〜12個の炭素原子を有する任意に置換されたアルキル基である)である、請求項8および9のいずれかに記載の式(II)の化合物。
【請求項11】
R2、R'2およびR"2基が-OR基(ここで、Rはエチル基である)である、請求項10に記載の式(II)の化合物。
【請求項12】
次の特定式(IIa):
【化6】

に相当する、請求項8〜11のいずれか一つに記載の式(II)の化合物。
【請求項13】
− R1、R'1およびR"1基が水素原子であり、
− R2、R'2およびR"2基が-NH2 基であり、
− 同一または異なっていてもよい、R3、R'3およびR"3基が、基-S-E-L
(ここで、
Sは硫黄原子であり、
Eは、3個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールを表し、
LはN-アセチルガラクトサミンを表す)
を表す、請求項12に記載の式(IIa)の化合物。
【請求項14】
次の特定式(IIb):
【化7】

に相当する、請求項8〜11のいずれか一つに記載の式(II)の化合物。
【請求項15】
次の式(IIa'):
【化8】

[式中、
− R1、R'1、R"1、R4、R'4、R"4、R5、R'5およびR"5基は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を有する任意に置換されたアルキル基を表し、
− R2、R'2およびR"2基は、同一または異なっていてもよく、-OH、-OR、-NHRおよび-NRR'基(ここで、RおよびR'は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表す)から選択され、
− R3、R'3およびR"3基は、同一または異なっていてもよく、基-S-Wまたは-S-E-Lを表わす、ここで、
Sは硫黄原子であり、
Wは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基であり、
Eは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基、および好ましくは1〜8個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールのようなポリオールから選択されるスペーサーアームであり、
Lは、生物学的リガンド、好ましくは、グルコース、ガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミンのような糖から選択される肝または神経細胞リガンドである]
の化合物。
【請求項16】
次の式(III):
【化9】

[式中、
基A'は:
・窒素原子であるか、または
・次の式に相当する環:
【化10】

(ここで、置換は窒素原子上で起こる)
のいずれかを表し、
− R2、R'2およびR"2基は、同一または異なっていてもよく、-OH、-OR、-NHRおよび-NRR'基(ここで、RおよびR'は、同一または異なっていてもよく、水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表わす)から選択され、
− R3、R'3およびR"3基は、同一または異なっていてもよく、基-S-Wまたは-S-E-L:
(ここで、
Sは硫黄原子であり、
Wは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基であり、
Eは、1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基、および好ましくは1〜8個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールのようなポリオールから選択されるスペーサーアームであり、
Lは、生物学的リガンド、好ましくは、グルコース、ガラクトースおよびN-アセチルガラクトサミンのような糖から選択される肝または神経細胞リガンドである)
を表し、
− 基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'およびZ"は同一または異なっていてもよく、水素原子、基-(CH2)n-NH-CO-ラベル、基-(CH2)n-NH-C(S)NH-ラベル、基-(CH2)n-NH-SO2-ラベル、基-(CH2)n-N=C-ラベル、または基-(CH2)n-NH-Ar-ラベルもしくは-(CH2)n-トリアゾール-ラベル(ここで、Arは、フェニル、トリアゾール、オキサジアゾール、オキサゾール、イミダゾール、チアジアゾール、ピロール、テトラゾール、フラン、チオフェン、ピラゾール、ピラゾリン、ピラジジン、チアゾール、イソチアゾール、ピリジン、ピリミジン、ピペリジン、ピラン、ピラジンおよびピリダジンから選択されるアリール基であり、nは1〜12の間である)を表す、但し、該基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'またはZ"の少なくとも一つは、基-(CH2)n-NH-CO-ラベル、-(CH2)n-NH-C(S)NH-ラベル、-(CH2)n-NH-SO2-ラベル、-(CH2)n-N=C-ラベルまたは-(CH2)n-NH-Ar-ラベルもしくは-(CH2)n-トリアゾール-ラベルである]
の化合物。
【請求項17】
R2、R'2およびR"2基が、-NH2、-OHまたは-OR基(ここで、Rは水素原子または1〜12個の炭素原子を含む任意に置換されたアルキル基を表す)である、請求項16に記載の式(III)の化合物。
【請求項18】
R2、R'2およびR"2基が、-OR基(ここで、Rはエチル基である)である、請求項17に記載の式(III)の化合物。
【請求項19】
− R1、R'1およびR"1基が水素原子であり、
− R2、R'2およびR"2基が-NH2基であり、
− R3、R'3およびR"3基が基-S-E-L:
(ここで、
Sは硫黄原子であり、
Eは、3個のオキシエチレンOE単位を有するポリエチレングリコールを表し、
LはN-アセチルガラクトサミンを表す)
を表し、
− 基X、X'、X"、Y、Y'、Y"、Z、Z'またはZ"の少なくとも一つが、-(CH2)4-カルボキシテトラメチルローダミン基であり、その他の基が水素原子を表す、
請求項16および17のいずれかに記載の式(III)の化合物。
【請求項20】
医薬としてそれらの使用のための、請求項1〜4または8〜13または14〜16のいずれか一つで定義される式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物。
【請求項21】
ウィルソン病およびアルツハイマー病のような神経変性疾患の診断、予防および/または治療を意図した医薬の製造のための、請求項1〜4または8〜19のいずれか一つで定義される、式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の使用。
【請求項22】
銀、カドミウム、コバルト、銅、水銀、ニッケル、金、鉛または亜鉛イオンのような金属イオン中毒の診断、予防および/または治療を意図した医薬の製造のための、請求項1〜4または8〜19のいずれか一つで定義される、式(I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の使用。
【請求項23】
活性成分として、請求項1〜4または8〜19のいずれか一つで定義される式 (I)、(II)、(IIa')または(III)の化合物の少なくとも一つおよび医薬的に許容な担体の少なくともと一つを含むことを特徴とする医薬組成物。

【図1】
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【図3】
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【図4】
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【図2】
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【公表番号】特表2012−520271(P2012−520271A)
【公表日】平成24年9月6日(2012.9.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−553486(P2011−553486)
【出願日】平成22年3月11日(2010.3.11)
【国際出願番号】PCT/FR2010/000202
【国際公開番号】WO2010/103204
【国際公開日】平成22年9月16日(2010.9.16)
【出願人】(510120333)
【氏名又は名称原語表記】COMMISSARIAT A L’ENERGIE ATOMIQUE ET AUX ENERGIES ALTERNATIVES
【住所又は居所原語表記】25, rue Leblanc, Batiment  Le Ponant D , 75015 PARIS, France
【Fターム(参考)】