説明

金属イオン交換クレーを用いてヘテロ芳香族化合物からアシルヘテロ芳香族化合物を調製する方法

【課題】 薬剤、医薬および調味料に対する重要な中間体として使用できるアシルヘテロ芳香族化合物の調整方法に関する。
【解決手段】フラン、チオフェンおよびピロールの中から選択されるヘテロ芳香族化合物をアシル化剤としての炭素数2〜5の酸無水物と、触媒としてFe3+、Zn2+、Cu2+、Al3+、La3+−交換クレー等の金属イオン交換クレーを使用して0〜130℃の温度範囲で1〜24時間反応させること、および従来方法によりアシルヘテロ芳香族化合物を分離して高純度の生成物を得ることを含んで構成される調整法。

【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はヘテロ芳香族化合物から、製薬、医薬品、食料に対するフレーバーに対する重要な中間体であるアシルヘテロ芳香族化合物を調製するための改良された方法に関する。特に、本発明は、高純度でアシルヘテロ芳香族化合物を、ヘテロ芳香族から、アシル化剤として炭素数2〜5の酸無水物を使用して、金属交換クレーの存在下で調製する方法に関する。
【0002】特に、本発明が関するのは、アシルヘテロ芳香族化合物を、ヘテロ芳香族化合物からエコフレンドリーに調製する方法であって、この方法は、アシル化剤として酸無水物および触媒として金属イオン交換クレーを用い、フリーデル−クラフツ試薬として、化学量論量の腐食性および毒性の塩化アルミニウムおよび他のルイス酸やプロトン性酸を使用しない。このアシル化生成物は、製薬、医薬品、フレーバー、芳香剤に対する価値ある中間体である。
【0003】2−アセチルチオフェンを普通に調製するには、フリーデル−クラフツアセチル化によりチオフェンを酢酸、塩化アセチル、または無水酢酸を用いてルイス酸またはプロトン性酸の存在下で処理する。この生成物を蒸留して精製する。通常、この生成物は1〜2%の3−アセチルチオフェンを不純物として含んでいる。たいていの目的に対しては、98〜99%の2−アセチルチオフェンで充分間に合う。
【0004】
【従来の技術】Finan氏等による刊行物「Journal Chemical Society」(2728,1963年)を参照すると、ここでは、2−アセチルフラン誘導体をフランからBF3Et2Oを用いて調製している。これの欠点はBF3・Et2Oは高価で扱い難いことである。
【0005】米国特許第4,266,066号を参照すると、ここでは、アセチル化化合物を調製するのに、カルボン酸ハロゲン化物、特にカルボン酸塩化物をアルミニウム−アルキル化合物と20〜100℃で反応させている。この反応混合物は常法で処理され、適宜、水を用いて分解され、その後、蒸留される。上記方法の欠点は、化学量論量のアルミニウム化学物や反応後に多量の固体廃棄物を出す有害な材料を使用することおよび危険な分離法を用いてアルミナゲルから前記生成物を得ることである。
【0006】独国特許Ger.Offen.DE 3,618,964およびHoelderich等による刊行物「Studies in Surface Science and Catalysis」49A,49,1989を参照すると、ここでは、ゼオライト触媒の存在下で、アシル化剤を用いたヘテロ芳香族化合物の蒸気相アシル化方法が記載されている。これの主な欠点はアシルヘテロ芳香族化合物の収率が23〜41%と悪いことと、蒸気相反応により多くのエネルギーが要ることである。
【0007】カーク・オスマーによる「Encyclopedia of Chemical Technology」24巻,第IV版,38頁,1997を参照すると、ここでは、チオフェンのアシル化を行う際に、酸無水物を用い、リン酸またはAlCl3 、SnCl4、ZnCl2のような他の触媒を酸塩化物と共に存在させる。これの欠点は、全反応から0.5〜2.0%の3−異性体を生じることである。ユーザーの規格に適合させるために、3−異性体の量を最小限にする触媒系を見出す試みが熱心に続けられてきた。
【0008】米国特許第5,371,240号を参照すると、ここでは3−アセチルチオフェン混入2−アセチルチオフェンを選択的求電子置換法、つまり臭素化、続く分別蒸留で除去する。これの欠点は純粋な生成物を得るために、付加的な段階、つまり臭素化が要ることである。
【0009】Fripiat等による刊行物「Journal of Catalysis」182,257,1999を参照すると、ここでは、塩化ブチリルを用いたチオフェンのアシル化をゼオライトの存在下で行い、液相中で定量的な収率を得る。これの欠点は合成ゼオライトが高価であることである。
【0010】フリ−デル−クラフツアシル化に対して従来のルイス酸金属塩化物を使用する際の固有の欠点はこれらが再生できず、かつ形成されたカルボニル生成物との錯体化のために化学量論量以上を必要とすることである。得られた中間錯体を加水分解により分解処理すると多量の廃棄物を生じ、かつ分離には時間と費用がかかる。
【0011】アシルヘテロ芳香族化合物の調製に対して、実に種々のアプローチがなされてきた。したがって、アシルヘテロ芳香族化合物の調製法に対して必要なことは、操作が簡単で、毒性および/または腐食性のない培地で行えることである。さらに、触媒は分離が簡単であり、再利用できることが必要である。
【0012】
【発明が解決しようとする課題】本発明の主な目的はチオフェン、フランおよびピロールから選択されるヘテロ芳香族化合物からアシルヘテロ芳香族化合物を調製する方法を改良することであり、この方法は、アシル化剤として炭素数2〜5の酸無水物を用い金属イオン交換クレーの存在下で0〜130℃の範囲の温度にて1〜24時間反応させ、アシルヘテロ芳香族化合物を常法で分離し、高純度の生成物を得る。この方法には上記のような欠点がない。
【0013】本発明の他の目的は、より安価で天然に産出する金属イオン交換クレーを触媒として利用することである。本発明の他の目的は、交換用に選択される金属イオンはFe3+、Zn2+、Cn2+、Al3+、La3+であることである。本発明の他の目的は、選択されるヘテロ芳香族化合物はチオフェン、フランおよびピロールであることである。
【0014】更に、本発明の他の目的は、使用される触媒の量はアシル化剤に対して1〜30重量%であることである。更に、本発明の他の目的は、炭素数2〜5の酸無水物をアシル化剤として使用することである。更に、本発明の他の目的は、ヘテロ芳香族化合物とアシル化剤の比を5:1〜1:5にすることである。更に、本発明の他の目的は、前記反応を0〜130℃の範囲の温度で1〜24時間行うことである。
【0015】
【課題を解決するための手段】本発明の新規性が存在するのは、天然に産出するモンモリロナイトおよび酸処理されたモンモリナイトからイオン交換法により容易に得られる金属イオン交換クレーを使用して、フラン、チオフェン、およびピロール等のヘテロ芳香族化合物をアシル化し、これにより、初めて、選択的に2−アシルヘテロ芳香族化合物を>99%という優れた収率で得ることにある。このようにして得られた2−アシルヘテロ芳香族化合物には、位置異性体である3−アシルヘテロ芳香族化合物が全くない。これは可溶なルイス酸を使用するアシル化法では普通に生じる異物である。このように本発明は高純度で所望の異性体を提供する。この異性体は特定の薬剤や医薬に対する中間体として使用される。可溶なルイス酸とは違って、ここで使用する固体触媒は溶出液を生じない。本発明法で使用する触媒は、安価であり、穏和な反応条件で数回再利用できるので、本発明にかかる方法はエコフレンドリーであるのみならず、経済的に実施できる。
【0016】従って、本発明は薬剤、医薬、調味料に対する重要な中間体であるアシルヘテロ芳香族化合物の改良した調製法を提供する。この方法は、フラン、チオフェンおよびピロールから選択されたヘテロ芳香族化合物をアシル化剤として炭素数2〜5の酸無水物と、触媒として金属イオン交換クレーを使用して0〜130℃の温度で1〜24時間反応させること、および前記アシルヘテロ芳香族化合物を従来法により分離して高純度の生成物を得ることを含んで構成される。
【0017】
【発明の実施の形態】本発明の一態様では、使用される触媒は金属イオン交換クレーである。本発明の一態様では、使用される触媒は金属イオン交換クレーであり、これは天然のモンモリロナイトまたは酸処理したモンモリロナイトから容易に得られる。本発明の一態様では、使用される金属イオン交換クレーはFe3+、Zn2+、Cu2+、Al3+、La3+-交換クレーである。本発明の一態様では、金属イオン交換クレーはより安価で天然のクレーから調製される。本発明の一態様では、交換用に使用される金属イオンはFe3+、Zn2+、Cu2+、Al3+、La3+である。本発明の一態様では、使用されるアシル化剤は炭素数2〜5の酸無水物、すなわち無水酢酸から無水吉草酸までの中から選択される。本発明の一態様では、この反応は好ましくは20〜80℃で2〜12時間行われる。本発明の一態様では、この反応は>99%の高収率で選択的に、2-アシルヘテロ芳香族化合物を生成する。本発明の一態様では、得られた2-アシルヘテロ芳香族化合物はさらに生成することなく直接使用して、特定の薬剤および医薬を調製できる。本発明の一態様では、ヘテロ芳香族化合物対アシル化剤の比は5:1であり、反応のために選択される溶媒はヘテロ芳香族化合物であり、自己溶媒である。
【0018】天然のモンモリロナイトおよび酸処理したモンモリロナイトから陽イオン交換法によって容易に得られる金属イオン交換クレーを使用して、フラン、チオフェン、およびピロール等のヘテロ芳香族化合物をアシル化することにより、2-アシルヘテロ芳香族化合物を>99%の高収率で得る。クレー中に支配的に存在するルイス酸は、酸無水物、すなわちフリーデル-クラフツ求電子置換に対して必要な酸無水物から効果的にアシル陽イオン求電子試薬を生じる。 2-アシルヘテロ芳香族化合物の選択的形成は、ここで使用され、容易に求電子試薬を生じるクレー触媒の強ルイス酸によりもたらされる好ましい電子的効果のためである。可溶なルイス酸と違って、ここで使用される固体の触媒はいかなる溶出液も生じない。この触媒は安価で穏やかな条件下で数回にわたり再使用できるので、本発明の方法はエコフレンドリーのみならず、経済的である。金属イオン交換クレーを実施例において調製し、これらを使用し、実施例に記載したようにして酸無水物を用いてヘテロ芳香族化合物をアシル化した。
【0019】
【実施例】実施例1触媒の調製a)K 10モンモリロナイト合成に使用したモンモリロナイトを、(Fluka Grade K10)から0.8当量の交換容量で得た。
b) Fe3+-交換モンモリロナイト触媒1リットルのFeCl3 (1.0 M) の水溶液に、攪拌下に80g のK 10 モンモリロナイトを添加した。モンモリロナイトK 10 の交換容量を飽和にするために、16〜30時間攪拌を継続した。このクレー懸濁液を遠心分離し、上澄み液を捨てた。このクレー触媒を濾過し、蒸留水で洗浄し、廃液からClイオンが消失するまでこの洗浄を繰り返した。このクレーを一晩オーブン中で120℃にて乾燥し、最後に乳鉢ですりつぶした。
c) Zn2+-交換触媒実施例bにおけると同様の方法で、1MのZnCl2溶液と80gのK10モンモリロナイトを攪拌して、Zn2+-交換触媒を調製した。
【0020】実施例2ピロール(40ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下室温にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率0.9gで得た。
【0021】実施例3ピロール(40ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下80℃にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率1.0gで得た。
【0022】実施例4ピロール(40ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびK 10モンモリロナイト触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下80℃にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を樹緒流し、粗生成物を収率0.6gで得た。
【0023】実施例5ピロール(40ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびZn2+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下80℃にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率0.9gで得た。
【0024】実施例6チオフェン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下室温にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率0.7gで得た。
【0025】実施例7チオフェン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下80℃にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を濃縮し、粗生成物を収率1.2gで得た。
【0026】実施例8チオフェン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびZn2+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下80℃にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率1.1gで得た。
【0027】実施例9フラン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下室温にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率1.0gで得た。
【0028】実施例10フラン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびFe3+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下室温にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率0.9gで得た。
【0029】実施例11フラン(50ミリモル)、無水酢酸(10 ミリモル)、およびZn2+-交換クレー触媒(0.5 g)の混合物を丸底フラスコ (50ミリリットル)中で窒素雰囲気下室温にて攪拌した。この反応完了後(G.C.が後続)、この反応混合物を濾過し、この反応混合物を蒸留し、粗生成物を収率0.8gで得た。
【0030】
【表1】


【0031】
【発明の効果】1 アシルヘテロ芳香族化合物の、新規でエコフレンドリーな製造方法である。
2 腐蝕性の、化学量論量の塩化アルミニウムおよび他のルイス酸およびプロトン性酸触媒が不要である。
3 交換金属イオンは高収率下での、ヘテロ芳香族化合物のアシル化に対する触媒として初めて使用される。
4 2-アシルヘテロ芳香族化合物に対する選択性は触媒としてのクレー存在下で99%より高い。
5 可溶なルイス酸を使用するアシル化方法で通常生成される3-アシルヘテロ芳香族化合物が生成されない。
6 本発明において得られた2-アシルヘテロ芳香族化合物は特定の薬剤および医薬の調製に対して直接使用できる。
7 作業手順は簡単である。
8 本発明の触媒は数回使用できるので、処分に関して問題は生じない。この触媒は数回使用され、安定した活性を示す。
9 本発明は処分問題がないので、環境に対して安全である。
10 本発明の方法は経済的である。

【特許請求の範囲】
【請求項1】 製剤、医薬品、フレーバーに対する重要な中間体として有用なアシルヘテロ芳香族化合物の調製法であって、前記調製法が、フラン、チオフェンおよびピロールから選択されるヘテロ芳香族化合物を、アシル化剤としての炭素数2〜5の酸無水物と、触媒としての金属イオン交換クレーを用いて、0〜130℃で1〜24時間反応させること、および常法によりアシルヘテロ芳香族化合物を分離させ、高純度で生成物を得ることを含んで構成される調製法。
【請求項2】 使用される前記触媒が金属イオン交換クレーである請求項1記載の調製法。
【請求項3】 前記金属イオン交換クレーがFe3+、Zn2+、Cu2+、Al3+、La3+-交換クレーから選択される請求項1記載の調製法。
【請求項4】 前記金属イオン交換クレーが、より安価でかつ天然産のクレーから調製される請求項1記載の調製法。
【請求項5】 使用される前記触媒が、天然のモンモリロナイトまたは酸処理モンモリロナイトから容易に得られる金属イオン交換クレーである請求項1記載の調製法。
【請求項6】 使用される炭素数2〜5の酸無水物が無水酢酸から吉草酸までの中から選択される請求項1記載の調製法。
【請求項7】 前記反応が好ましくは20〜80℃で2〜12時間行われる請求項1記載の調製法。
【請求項8】 ヘテロ芳香族化合物とアシル化剤の比が5:1である請求項1記載の調製法。
【請求項9】 前記反応に対して選択される溶媒が自己溶媒としてのヘテロ芳香族化合物である請求項1記載の調製法。
【請求項10】 前記反応により2−アシルヘテロ芳香族化合物が99%を超える高収率で選択的に得られる請求項1記載の調製法。
【請求項11】 得られる前記2−アシルヘテロ芳香族化合物はさらに精製することなく、特定の薬剤および医薬を得るために、直接使用できる請求項1記載の調製法。

【公開番号】特開2001−288166(P2001−288166A)
【公開日】平成13年10月16日(2001.10.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】有
【出願番号】特願2000−97964(P2000−97964)
【出願日】平成12年3月31日(2000.3.31)
【出願人】(595023873)カウンシル・オブ・サイエンティフィック・アンド・インダストリアル・リサーチ (69)
【Fターム(参考)】