金属ガスケット
【課題】増厚部の構造によってシール圧の均等化を図ることが可能な金属ビードを提供する。
【解決手段】基板1の中央側に燃焼室孔2が開口していると共に、その燃焼室孔2外周を囲繞するようにして第1増厚部3が設けられている。基板1の外周側には複数のボルト孔5が開口している。上記第1増厚部は、ボルト孔5近傍の板幅に比べてボルト孔5間に位置する板幅が狭い。
【解決手段】基板1の中央側に燃焼室孔2が開口していると共に、その燃焼室孔2外周を囲繞するようにして第1増厚部3が設けられている。基板1の外周側には複数のボルト孔5が開口している。上記第1増厚部は、ボルト孔5近傍の板幅に比べてボルト孔5間に位置する板幅が狭い。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に介挿され且つボルト締結されることで、燃焼ガス、水圧、及びオイル圧等をシールする機能を有するシリンダヘッドガスケットとして有用な金属ガスケットに関するもので、特に増厚部の構造に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属ガスケットとしては、例えば特許文献1に記載されるガスケットがある。すなわち、燃焼室孔周縁部にグロメットを装着若しくは基板の燃焼室孔端部を折り返すことで、各燃焼室孔を囲繞するように硬質の増厚部をそれぞれ形成する。さらに、燃焼室孔及び増厚部を共に囲繞するようにして内側シールラインが設定され、そのシールラインに沿って、上記増厚部の増厚側に上記基板を凸状に屈曲したフルービードからなる金属ビードを形成している。また、上記内側シールラインよりも外周側に複数のボルト孔が開口し、そのボルト孔を介してボルトで基板を締め付けることで、上記増厚部に高いシール圧を発生させてボア内のガスをシールする。さらに、上記増厚部によってビードの圧縮量を規制すると共に、当該増厚部によってビードの板厚方向の変形量が抑えられることで、エンジンの運転で発生する振動振幅で入力される繰り返し応力によるビードの疲労破壊が防止される。
【0003】
すなわち、ボルトを締め付けることでエンジンに組み込まれた金属ガスケットは、シールラインに沿って設けられたビードのバネ応力と締め付けボルトの軸力とで均衡している。エンジンの剛性にもよるが、通常、ボルト近傍はエンジンの接合面とガスケットとが密着するが、ボルトから離れた燃焼室周りは僅かでは有るがエンジンの接合面とガスケットとの間に隙間が発生し易い。この隙間は、シールライン位置では、基板に成型した金属ビードの反発ばね力でシール圧力を発生してシールしているが、基板平坦部には常に隙間が発生している。そして、この隙間は、エンジン稼動時の爆発瞬時に押し広げられて増大するが、爆発が終わると、その反動で初期静止時の位置より更に下がることで小さくなる。この現象が繰り返されることで、剛性薄板金属板からなる基板に成型した金属ビードの曲げアール部に疲労亀裂が発生し破壊に繋がる原因となる。
【0004】
この現象を防止するため、特許文献1では、ガスケットをエンジンに締め付けてエンジンの剛性によりガスケットに成型した金属ビードのバネ応力と均衡する時に発生する隙間寸法より大きくなるように基板の燃焼室孔側平坦部にシム板を固着した増厚部で、燃焼室周囲の面圧の多くを受け止めると共に、エンジン稼動時に発生する振動振幅を抑えることで亀裂による疲労破壊を防止する。更にエンジンを改良し燃焼室孔を拡大して排気量を増大して行くにつれて燃焼室孔間が狭くなるので、当該境界部にビードを配設すると増厚部を設ける幅が不足することから、増厚部の幅をボア中心線を結ぶライン上が1番狭く徐々に広くして上記境界部におけるビードの配設場所及びビードの作動範囲を確保している。
【特許文献1】実開昭63−180769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記増厚部の幅が一定の場合には、ボルト締付け時に、増厚部に掛かる延在方向に沿った荷重の分布は、ボルト孔近傍とボルト孔間とでは異なることから、当該増厚部における延在方向に沿って発生するシール圧が均等でない。
なお、上記従来技術では、燃焼室孔間で増厚部の幅が狭くなっているが、上述のように、これは当該燃焼室孔間の幅が狭いから狭くしているだけであり、積極的に延在方向に沿った増厚部のシール圧を均等化するためではない。
本発明は、上記のような点に着目したもので、増厚部の構造によってシール圧の均等化を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、少なくとも燃焼室孔および複数のボルト孔が開口した薄肉金属板からなる、従来技術製品より硬度が低い基板に対し、上記燃焼室孔端部を囲繞して他の部分よりも板厚が厚い増厚部を設けると共に、少なくとも上記燃焼室孔及び増厚部の外周を囲うようにして内周側シールラインを設定し、その内周側シールラインに沿って形成されるビードを、上記基板を凸状若しくは凹凸状に屈曲してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して上記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成から構成し、かつ上記内周側シールラインよりも外周側に上記複数のボルト孔が配置される金属ガスケットにおいて、
【0007】
上記増厚部は、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、延在方向に沿った少なくとも2箇所の位置において幅に変化を持たせて構成されることを特徴とするものである。
これは、基板硬度を低下させて振動振幅による疲労破壊を防止すると共にビードの表裏両面に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成で従来技術の線シールラインから面シールラインにすると共に、シールラインも金属コンタクトから軟質ゴムビードラインとなりビード全体のバネ応力は従来技術より低減させており燃焼室孔端部周囲の増厚部には従来技術製品より多くの荷重が掛かりボルト近傍とボルト孔間、さらに燃焼室孔間の面圧差は更に拡大しているために、上述のような増厚部の幅に変化を付けている。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔近傍に比べてボルト孔間で狭いことにより実現することを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した構成に対し、複数の燃焼室孔が開口した金属ガスケットにおいて、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔間の幅に比べて隣接する燃焼室孔間で同等か同等以下に狭いことでも実現することを特徴とするものである。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記増厚部の延在方向に沿った板厚に、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、変化を持たせることを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記複数のボルト孔の少なくとも1つのボルト孔に対し、当該ボルト孔を囲繞する第2の増厚部を備え、該第2の増厚部の幅は、燃焼室側よりも基板外周側の方が広いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明を採用すると、ボルト締付け時に、燃焼室孔周囲に設けた増厚部における延在方向に沿ったシール圧をより簡易に均等化することが可能である。
なお、本発明の金属ガスケットは、燃焼室孔周囲の増厚部に最大の荷重を掛けて、高温高圧の燃焼ガスを1次シールする。また、他のシールラインは冷却水や潤滑油をシールするが、これらのシール圧力は本発明にあっては例えば10kg/cm2 以下に設定でき、かつ上記シールラインは弾力性の有る弾性シール材で面シールするために、ガスケット係数を抑えることができることから、全体の荷重を減少することが可能、つまり、ボルトの軸力を減少することができ、益々、軽量・小型化して剛性が低下する傾向にあるエンジンに効果を発揮できるガスケットとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係わる金属ガスケットKを示す平面図である。
先ず、その構成について説明する。
基板1を、ステンレス鋼板や軟鋼板などの薄肉金属板から構成する。低価格品等を対象とした場合には基板1を硬度の低い軟鋼板から構成すると良い。本実施形態では、後述のようにビードを金属ビードとゴムビードとの合成によるビード構造とすることから、ビードのシール圧を低く設定することが可能である結果、金属ビードのバネに関与する基板1の剛性をその分、低く設定することが可能である。つまり、硬度が低い軟鋼板を使用してもビードによる十分なシール面圧確保が可能となっている。さらに、シールラインが軟質シール材による面シールであるためにガスケット係数を低く抑えることが出来て、全体のビードによるシール面圧を軽減でき、締付け軸力の低減が図られる結果、低いシール圧で目的のシールを行うことが可能となる。
【0012】
上記基板1の略中央部には、図1に示すように、長手方向に並ぶ複数の燃焼室孔2が開口している。その燃焼室孔2の端縁全周には、図1〜図3に示すように、その端部を上側に折り返したり、別の金属板を基板1の上面に固着させたりしてなる硬質の第1増厚部3が形成されている。図1に示す第1増厚部3は端部を折り返して形成した場合を例示している。
【0013】
その各燃焼室孔2及び増厚部3の外周を無端環状に囲繞するようにして第1シールラインSL1(内周側シールライン)が配置される。
さらに、基板1における第1シールラインSL1よりも外周側に、水孔4、ボルト孔55及びオイル孔6が開口している。複数の水孔4は、上記燃焼室孔2に沿って設けられている。そして、本実施形態では、その水孔4の外周側に沿って当該複数の水孔4を囲繞するようにして第2シールラインSL2が配置されると共に、基板外縁に沿って第3シールラインSL3が配置されている。これによって、ボルト孔5及びオイル孔6は、第2及び第3シールラインSL2,SL3にシールされることとなる。なお、第2シールラインSL2及び第3シールラインSL3の一部のラインは共有化されている。なお、本実施形態で示すシールラインの配置は一例である。
また、上記各ボルト孔5の外周を囲繞するようにして第2増厚部7が配置されると共に、基板1の外端部の一部、具体的には、ボルト孔5間の位置する部分に第3増厚部8が形成されている。
【0014】
上記第1シールラインSL1に沿って形成されるビードは、図2及び図3に示すように、上側に向けてのみ凸状となるように基板1を板厚方向に屈曲してなるフルビード状の金属ビード10と、その金属ビード10の上下両面にモールド成形で形成された弾性シール材11a、11bからなるゴムビードとの合成から構成される。上記金属ビード10のビード高さは、上記第1増厚部3よりも若干高く設定される。上記凸部裏側の弾性シール材11aは、基板1の下面と略面一となるように当該凸部裏側の凹部に充填されている。金属ビード10の凸部表面側に形成される弾性シール材11bの高さは、当該金属ビード10の高さと同等か若しくは若干高い高さに設定されている。上記凸部側の弾性シール材11bの高さは、金属ビード10の高さの0.9〜1.1倍の範囲の高さが好ましい。もっとも、第1増厚部3で規制されるゴムビードの最大圧縮変形量が圧縮破壊を起こす量(例えば40%以上)よりも小さく且つ目的とするバネ力が発揮可能であれば、上記範囲に限定されない。他のシールラインSL2,SL3に沿って配置されるビードのゴムビードについても同様である。
【0015】
また、第2及び第3シールラインSL2,SL3に沿って形成されるビードは、図3に示すように、上側に向けてのみ凸状となるように基板1を板厚方向に屈曲してなるハーフビード状の金属ビード12と、その金属ビード12の上下両面にモールド成形で形成された弾性シール材13a、13bからなるゴムビードとの合成から構成される。上記凸部裏側の弾性シール材13aは、基板1の下面と略面一となるように当該凸部裏側の凹部に充填されている。金属ビード12の凸部表面側に形成される弾性シール材13bの高さは、当該金属ビード12の高さと同等か若しくは若干高い高さに設定されている。
【0016】
次に、本発明の特徴である増厚部の構造について説明する。
3種類の増厚部の板厚は、 第1増厚部3 > 第2増厚部7 ≧ 第3増厚部8 の関係にある。
燃焼室孔2を囲繞する第1増厚部3は、図1に示すように、その幅が、少なくとも2箇所において延在方向に沿って部分的に変化していて、ボルト孔5の近傍3aに対し、相対的にボルト孔間3bに位置する一部の幅が狭くなっている。具体的には、ボルト孔5の近傍3aの幅に対し、ボルト孔間3bでは、外径側を切り欠いた形状とすることで板幅を狭く設定している。
【0017】
さらに、燃焼室孔孔2間に位置する第1増厚部3の部分3cについても、板幅がボア中心線を結んだ中央部が一番狭く、ボルト孔に向かって徐々に広くなるように外径側を同一幅に切り欠いた形状となっていて、上記ボルト孔間3bの幅と同等か同等以下の幅となっている。
また、ボルト孔5周囲の第2増厚部7は、図4及び図5に示すように、外周輪郭が円形状であるが、ボルト孔5の中心に対し、複数のボア中心を結んだ線から離れる方向に、つまり燃焼室孔2から離れる方向(基板外周側)に当該第2増厚部7の中心を偏心させることで、上記燃焼室孔2から遠い側7bの板幅が燃焼室孔2側7aに比べて相対的に広くなるように設定されている。
なお、図5では、板を接合することで第2増厚部7を形成する場合を例示しているが、図6のようにボルト孔5の端部を折り返して第2増厚部7を形成しても良い。
【0018】
次に、上記構成の金属ガスケットの作用・効果などについて説明する。
上記構成の金属ガスケットKを、エンジンを構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に装填し、ボルト孔5を貫通する締付けボルト(不図示)で締め付けると、各ビードのゴムビードが圧縮変形し、金属ビード10,12と共にシールラインSL1、SL2、SL3に沿って所定のシール圧を発生してシールする。
【0019】
また、燃焼室孔2の周囲の第1増厚部3を、一番面圧が高いシール部分とすることで、ボアでの爆発燃焼圧の高圧をシールすると共に、第1増厚部3の周囲に成形した第1シールラインSL1を形成するビードの過大な荷重変形を防止する。すなわち、燃焼室孔2の端部周囲に第1増厚部3を構成して高い面圧を発生させ、高温、高圧の燃焼ガス圧を1次シールする。さらに、第1シールラインSL1に沿ったビードによって、燃焼室側からの燃焼ガスの2次シールを行うと共に外側からの冷却水が燃焼室側に漏れるのを防止する。
【0020】
すなわち、本実施形態では、高圧ガス圧をシールする燃焼室孔周りの第1増厚部3は他の増厚部7,8より板厚を厚く形成している。さらに、増厚部は、上述のように燃焼室孔2周囲の他にボルト孔5の周囲と基板1の外周端部に必要に応じて設け、各増厚部の板厚の関係を、第1増厚部3>第2増厚部7≧第3増厚部8の関係とし、また、増厚部の総面積でボルト軸力の大半を受け持っている。そして、本実施形態では、増厚部の受け持つ荷重が最高で単位当たり25kg/mm2 以下となるように設計している。エンジンがアルミニウム製の場合には、それ以上の荷重ではアルミエンジンの接合面における増厚部と接触する面を陥没させる恐れあるが、上記最高で単位当たり25kg/mm2 以下に規制することで、上記陥没を抑えることができる。
【0021】
なお、上記第1増厚部3>第2増厚部7≧第3増厚部8とする、各増厚部間の板厚差は、エンジンの剛性などによって増減して、増厚部の受け持つ荷重が最高で単位当たり25kg/mm2 以下となるように設計する。
ここで、最近のエンジンは小型軽量化が進みエンジン剛性は低下傾向にある一方、エンジンパワーは逆に増大しているために内筒圧は高くなり、ボルト締め付け軸力を少なく抑えてエンジン変形を抑えることが好ましい。
【0022】
これに対し、本実施形態の金属ガスケットでは、上述のようにビードの面圧を低く抑えることができる分、増厚部への面圧が相対的に増加し、締付け荷重を主として各増厚部で受ける構造となってボルト締め付け軸力を抑えることができる。特に板厚が厚い第1増厚部3で締付け荷重を受けることとなる。このとき、締付け荷重は、相対的にボルト孔5近傍で大きく、ボルト孔5から離れると小さくなるが、当該ボルト孔5間に位置する第1増厚部3の幅を相対的に小さくすることで、当該ボルト孔5間の増厚部3bでの単位当たり面積の面圧が、ボルト近傍に位置する増厚部3aの面圧に近づき、第1増厚部3における延在方向に沿った面圧がより均等化になる。このように、各シール部に必要な面圧を適切に配分出来る構造となっている。
【0023】
さらに、燃焼室孔2の周囲の第1増厚部3の板厚に延在方向に沿って変化をもたせ、例えばボルト近傍は薄くボルト間は厚くなるように板厚差を付けて燃焼室孔周囲である第1増厚部3の面圧の均等化をさらに向上させても良い。
更に、第1増厚部3の幅を相対的に小さくすると共に同時に板厚も同時に延在方向に沿って変化をもたらせることで効果は一層顕著になる。
【0024】
なお、本実施形態では、ボルト孔5周囲の第2増厚部7の板厚が燃焼室孔周囲の第1増厚部3の板厚より低いことで、シリンダブロックの接合面に対し、シリンダヘッドの接合面を僅かに湾曲変形(外周側が下方に傾く)することで、上述のように燃焼室孔周囲増厚部の面圧を増大させている。
このように、シリンダヘッドの接合面が僅かに傾くことで、ボルト周りの第2増厚部7の延在方向(円周方向)に沿った板幅が同一幅の場合には、相対的に基板外周側(燃焼室から離隔した側)の面圧が大きくなる。これに対し、本実施形態では、ボルト孔5周囲の第2増厚部7はボルト孔5の中心と偏心させて、幅の広い方をボア中心線を結んだ線から離隔する側に配置することで、エンジンにガスケットが締め付けられた際に、増厚部間の板厚差分によるシリンダヘッドの接合面の傾斜による基板外周側の荷重が高くなっても、板幅が広くなることで基板外周側の面圧が低下して、第2増厚部7における基板外周側の面圧が過大となることによるエンジンシール面の陥没を防止若しくは抑えることが可能となる。
【0025】
また、ガスケット外周端部に設ける第3増厚部8はボルト孔5位置より外側に有り、燃焼室孔側は燃焼爆発する圧力で拡大することで振動振幅が発生してボルト自体も微小に延ばされるが、その時ボルトを中心に外周端部側振動は縮小に動き、外周に第3増厚部8が無いとエンジンの熱変形も手伝い外周端部内側にあるビードが過圧縮になる恐れがある。これに対し、第3増厚部8を設けることでこの過圧縮を防止若しくは抑えることが可能となる。
【0026】
また、上述のように、金属ビード10,12の剛性を小さく抑えることができるので、基板1に硬度の低い金属薄板を使用できる。その結果、基板に成型したビードが振動振幅することによる疲労をより小さく抑えることとなる。
また、上記ビードは、硬度の低い金属薄板を基板に使用し、基板に成型した金属ビード10,12の上下両面に弾力性ある軟質の弾性シール材をモールド成型して面シールに必要な幅と面圧を確保することで、加工面粗さを吸収して、低いガスケット係数で完全シールすることが出来る。さらに、シールライン幅内にある鋳造時に発生する微小な巣穴を覆い、シールに必要な面圧の確保が出来る。
【0027】
すなわち、当該ガスケットのシールに必要な面圧は、金属ビード10,12及び弾性シール材の弾力で発生させているために、基板1を構成する金属の硬度を高くする必要が無いことから、金属ビード10,12のビード部の曲げR部での疲労破壊を発生させない。すなわち、金属ビード10,12とゴムビードの合成反発力でシール面圧を確保出来るので、基板1を構成する金属板として高い硬度の材料は必要なく、逆に、材料硬度を落とすことにより金属ビード10,12成形時の曲げR部がエンジンの振動振幅による疲労破壊を起こすことが防止され、また高い硬度を必要としないことから材料単価の安い軟鋼製品も使用可能になる。また、上記金属ビード10,12及びゴムビードの合成からなるシールのためのビードにあっては、接合面との接触が軟質の弾性シール材であることから、接合面に微小な凹凸や疵があっても確実にシールすることが可能となる。更に鋳造時に発生する鋳巣孔があっても弾性シール材の面幅内であれば確実にシールすることが出来る。
【0028】
ここで、上記説明では、図1のように、第1増厚部3の一部を切り欠いて同一幅で狭くなるようにして板幅を変化するようにしているが、これに限定されない。図7に示すように、ボルト孔間3bについて、直線上に切り落とすように幅を相対的に狭くしても良い。 ここで、ボルト孔5周囲に設ける第2増厚部7は外周輪郭が円形に限定されない。面積でボルト孔5の外周側に内側より大きく確保してボルト周囲の増厚部内でアルミニュウム製エンジンの陥没を防止できれば、楕円形や矩形など他の形状となっていても良い。図8に第2増厚部7の変形例を示す。
【0029】
また、上記実施形態では、第1シールラインのSL1の金属ビード10をフルビードで形成した場合を例示しているが、図9に示すように、金属ビード10をハーフビードで形成しても良い。
また、図10に示すように、第1増厚部3を薄板を接合することで構成しても良い。
また、図11に、全てのシールラインの金属ビード10,12をハーフビードとする場合を示す。
【0030】
また、上記実施形態では、説明を容易にするために一気筒のエンジンに使用される金属ガスケットで説明したが、多気筒エンジンや水冷エンジンに使用される金属ガスケットでも同じ効果を得ることが出来る。
また、上記実施形態では、金属ビード10,12として、基板の一方の面側にのみ凸状となる形状で例示しているが、表裏両面に向けて凹凸状となるように成形されていても良い。但し、ビード幅が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る金属ガスケットを示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】図1におけるB−B断面図である。
【図4】第2増厚部を示す平面図である。
【図5】第2増厚部を示す断面図である。
【図6】第2増厚部の別例を示す断面図である。
【図7】第1増厚部の別例を示す平面図である。
【図8】第2増厚部の別例を示す平面図である。
【図9】第1シールラインの金属ビードをハーフビードとした例を示す断面図である。
【図10】第1増厚部を薄板で構成する例を示す断面図である。
【図11】全ての金属ビードをハーブビードとした場合を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
K 金属ガスケット
SL1、SL2、SL3 シールライン
1 基板
2 燃焼室孔
3 第1増厚部
3a ボルト孔近傍
3b ボルト孔間
3c 燃焼室孔間
4 水孔
5 ボルト孔
6 オイル孔
7 第2増厚部
7a 燃焼室孔側
7b 基板外周側
8 第3増厚部
10,12 金属ビード
11a、11b、13a、13b 弾性シール材
【技術分野】
【0001】
本発明は、内燃機関を構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に介挿され且つボルト締結されることで、燃焼ガス、水圧、及びオイル圧等をシールする機能を有するシリンダヘッドガスケットとして有用な金属ガスケットに関するもので、特に増厚部の構造に特徴を有するものである。
【背景技術】
【0002】
従来、この種の金属ガスケットとしては、例えば特許文献1に記載されるガスケットがある。すなわち、燃焼室孔周縁部にグロメットを装着若しくは基板の燃焼室孔端部を折り返すことで、各燃焼室孔を囲繞するように硬質の増厚部をそれぞれ形成する。さらに、燃焼室孔及び増厚部を共に囲繞するようにして内側シールラインが設定され、そのシールラインに沿って、上記増厚部の増厚側に上記基板を凸状に屈曲したフルービードからなる金属ビードを形成している。また、上記内側シールラインよりも外周側に複数のボルト孔が開口し、そのボルト孔を介してボルトで基板を締め付けることで、上記増厚部に高いシール圧を発生させてボア内のガスをシールする。さらに、上記増厚部によってビードの圧縮量を規制すると共に、当該増厚部によってビードの板厚方向の変形量が抑えられることで、エンジンの運転で発生する振動振幅で入力される繰り返し応力によるビードの疲労破壊が防止される。
【0003】
すなわち、ボルトを締め付けることでエンジンに組み込まれた金属ガスケットは、シールラインに沿って設けられたビードのバネ応力と締め付けボルトの軸力とで均衡している。エンジンの剛性にもよるが、通常、ボルト近傍はエンジンの接合面とガスケットとが密着するが、ボルトから離れた燃焼室周りは僅かでは有るがエンジンの接合面とガスケットとの間に隙間が発生し易い。この隙間は、シールライン位置では、基板に成型した金属ビードの反発ばね力でシール圧力を発生してシールしているが、基板平坦部には常に隙間が発生している。そして、この隙間は、エンジン稼動時の爆発瞬時に押し広げられて増大するが、爆発が終わると、その反動で初期静止時の位置より更に下がることで小さくなる。この現象が繰り返されることで、剛性薄板金属板からなる基板に成型した金属ビードの曲げアール部に疲労亀裂が発生し破壊に繋がる原因となる。
【0004】
この現象を防止するため、特許文献1では、ガスケットをエンジンに締め付けてエンジンの剛性によりガスケットに成型した金属ビードのバネ応力と均衡する時に発生する隙間寸法より大きくなるように基板の燃焼室孔側平坦部にシム板を固着した増厚部で、燃焼室周囲の面圧の多くを受け止めると共に、エンジン稼動時に発生する振動振幅を抑えることで亀裂による疲労破壊を防止する。更にエンジンを改良し燃焼室孔を拡大して排気量を増大して行くにつれて燃焼室孔間が狭くなるので、当該境界部にビードを配設すると増厚部を設ける幅が不足することから、増厚部の幅をボア中心線を結ぶライン上が1番狭く徐々に広くして上記境界部におけるビードの配設場所及びビードの作動範囲を確保している。
【特許文献1】実開昭63−180769号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
上記増厚部の幅が一定の場合には、ボルト締付け時に、増厚部に掛かる延在方向に沿った荷重の分布は、ボルト孔近傍とボルト孔間とでは異なることから、当該増厚部における延在方向に沿って発生するシール圧が均等でない。
なお、上記従来技術では、燃焼室孔間で増厚部の幅が狭くなっているが、上述のように、これは当該燃焼室孔間の幅が狭いから狭くしているだけであり、積極的に延在方向に沿った増厚部のシール圧を均等化するためではない。
本発明は、上記のような点に着目したもので、増厚部の構造によってシール圧の均等化を図ることを課題としている。
【課題を解決するための手段】
【0006】
上記課題を解決するために、本発明のうち請求項1に記載した発明は、少なくとも燃焼室孔および複数のボルト孔が開口した薄肉金属板からなる、従来技術製品より硬度が低い基板に対し、上記燃焼室孔端部を囲繞して他の部分よりも板厚が厚い増厚部を設けると共に、少なくとも上記燃焼室孔及び増厚部の外周を囲うようにして内周側シールラインを設定し、その内周側シールラインに沿って形成されるビードを、上記基板を凸状若しくは凹凸状に屈曲してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して上記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成から構成し、かつ上記内周側シールラインよりも外周側に上記複数のボルト孔が配置される金属ガスケットにおいて、
【0007】
上記増厚部は、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、延在方向に沿った少なくとも2箇所の位置において幅に変化を持たせて構成されることを特徴とするものである。
これは、基板硬度を低下させて振動振幅による疲労破壊を防止すると共にビードの表裏両面に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成で従来技術の線シールラインから面シールラインにすると共に、シールラインも金属コンタクトから軟質ゴムビードラインとなりビード全体のバネ応力は従来技術より低減させており燃焼室孔端部周囲の増厚部には従来技術製品より多くの荷重が掛かりボルト近傍とボルト孔間、さらに燃焼室孔間の面圧差は更に拡大しているために、上述のような増厚部の幅に変化を付けている。
【0008】
次に、請求項2に記載した発明は、請求項1に記載した構成に対し、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔近傍に比べてボルト孔間で狭いことにより実現することを特徴とするものである。
次に、請求項3に記載した発明は、請求項2に記載した構成に対し、複数の燃焼室孔が開口した金属ガスケットにおいて、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔間の幅に比べて隣接する燃焼室孔間で同等か同等以下に狭いことでも実現することを特徴とするものである。
【0009】
次に、請求項4に記載した発明は、請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した構成に対し、上記増厚部の延在方向に沿った板厚に、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、変化を持たせることを特徴とするものである。
次に、請求項5に記載した発明は、請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した構成に対し、上記複数のボルト孔の少なくとも1つのボルト孔に対し、当該ボルト孔を囲繞する第2の増厚部を備え、該第2の増厚部の幅は、燃焼室側よりも基板外周側の方が広いことを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0010】
本発明を採用すると、ボルト締付け時に、燃焼室孔周囲に設けた増厚部における延在方向に沿ったシール圧をより簡易に均等化することが可能である。
なお、本発明の金属ガスケットは、燃焼室孔周囲の増厚部に最大の荷重を掛けて、高温高圧の燃焼ガスを1次シールする。また、他のシールラインは冷却水や潤滑油をシールするが、これらのシール圧力は本発明にあっては例えば10kg/cm2 以下に設定でき、かつ上記シールラインは弾力性の有る弾性シール材で面シールするために、ガスケット係数を抑えることができることから、全体の荷重を減少することが可能、つまり、ボルトの軸力を減少することができ、益々、軽量・小型化して剛性が低下する傾向にあるエンジンに効果を発揮できるガスケットとなる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0011】
次に、本発明の実施形態について図面を参照しつつ説明する。
図1は、本実施形態に係わる金属ガスケットKを示す平面図である。
先ず、その構成について説明する。
基板1を、ステンレス鋼板や軟鋼板などの薄肉金属板から構成する。低価格品等を対象とした場合には基板1を硬度の低い軟鋼板から構成すると良い。本実施形態では、後述のようにビードを金属ビードとゴムビードとの合成によるビード構造とすることから、ビードのシール圧を低く設定することが可能である結果、金属ビードのバネに関与する基板1の剛性をその分、低く設定することが可能である。つまり、硬度が低い軟鋼板を使用してもビードによる十分なシール面圧確保が可能となっている。さらに、シールラインが軟質シール材による面シールであるためにガスケット係数を低く抑えることが出来て、全体のビードによるシール面圧を軽減でき、締付け軸力の低減が図られる結果、低いシール圧で目的のシールを行うことが可能となる。
【0012】
上記基板1の略中央部には、図1に示すように、長手方向に並ぶ複数の燃焼室孔2が開口している。その燃焼室孔2の端縁全周には、図1〜図3に示すように、その端部を上側に折り返したり、別の金属板を基板1の上面に固着させたりしてなる硬質の第1増厚部3が形成されている。図1に示す第1増厚部3は端部を折り返して形成した場合を例示している。
【0013】
その各燃焼室孔2及び増厚部3の外周を無端環状に囲繞するようにして第1シールラインSL1(内周側シールライン)が配置される。
さらに、基板1における第1シールラインSL1よりも外周側に、水孔4、ボルト孔55及びオイル孔6が開口している。複数の水孔4は、上記燃焼室孔2に沿って設けられている。そして、本実施形態では、その水孔4の外周側に沿って当該複数の水孔4を囲繞するようにして第2シールラインSL2が配置されると共に、基板外縁に沿って第3シールラインSL3が配置されている。これによって、ボルト孔5及びオイル孔6は、第2及び第3シールラインSL2,SL3にシールされることとなる。なお、第2シールラインSL2及び第3シールラインSL3の一部のラインは共有化されている。なお、本実施形態で示すシールラインの配置は一例である。
また、上記各ボルト孔5の外周を囲繞するようにして第2増厚部7が配置されると共に、基板1の外端部の一部、具体的には、ボルト孔5間の位置する部分に第3増厚部8が形成されている。
【0014】
上記第1シールラインSL1に沿って形成されるビードは、図2及び図3に示すように、上側に向けてのみ凸状となるように基板1を板厚方向に屈曲してなるフルビード状の金属ビード10と、その金属ビード10の上下両面にモールド成形で形成された弾性シール材11a、11bからなるゴムビードとの合成から構成される。上記金属ビード10のビード高さは、上記第1増厚部3よりも若干高く設定される。上記凸部裏側の弾性シール材11aは、基板1の下面と略面一となるように当該凸部裏側の凹部に充填されている。金属ビード10の凸部表面側に形成される弾性シール材11bの高さは、当該金属ビード10の高さと同等か若しくは若干高い高さに設定されている。上記凸部側の弾性シール材11bの高さは、金属ビード10の高さの0.9〜1.1倍の範囲の高さが好ましい。もっとも、第1増厚部3で規制されるゴムビードの最大圧縮変形量が圧縮破壊を起こす量(例えば40%以上)よりも小さく且つ目的とするバネ力が発揮可能であれば、上記範囲に限定されない。他のシールラインSL2,SL3に沿って配置されるビードのゴムビードについても同様である。
【0015】
また、第2及び第3シールラインSL2,SL3に沿って形成されるビードは、図3に示すように、上側に向けてのみ凸状となるように基板1を板厚方向に屈曲してなるハーフビード状の金属ビード12と、その金属ビード12の上下両面にモールド成形で形成された弾性シール材13a、13bからなるゴムビードとの合成から構成される。上記凸部裏側の弾性シール材13aは、基板1の下面と略面一となるように当該凸部裏側の凹部に充填されている。金属ビード12の凸部表面側に形成される弾性シール材13bの高さは、当該金属ビード12の高さと同等か若しくは若干高い高さに設定されている。
【0016】
次に、本発明の特徴である増厚部の構造について説明する。
3種類の増厚部の板厚は、 第1増厚部3 > 第2増厚部7 ≧ 第3増厚部8 の関係にある。
燃焼室孔2を囲繞する第1増厚部3は、図1に示すように、その幅が、少なくとも2箇所において延在方向に沿って部分的に変化していて、ボルト孔5の近傍3aに対し、相対的にボルト孔間3bに位置する一部の幅が狭くなっている。具体的には、ボルト孔5の近傍3aの幅に対し、ボルト孔間3bでは、外径側を切り欠いた形状とすることで板幅を狭く設定している。
【0017】
さらに、燃焼室孔孔2間に位置する第1増厚部3の部分3cについても、板幅がボア中心線を結んだ中央部が一番狭く、ボルト孔に向かって徐々に広くなるように外径側を同一幅に切り欠いた形状となっていて、上記ボルト孔間3bの幅と同等か同等以下の幅となっている。
また、ボルト孔5周囲の第2増厚部7は、図4及び図5に示すように、外周輪郭が円形状であるが、ボルト孔5の中心に対し、複数のボア中心を結んだ線から離れる方向に、つまり燃焼室孔2から離れる方向(基板外周側)に当該第2増厚部7の中心を偏心させることで、上記燃焼室孔2から遠い側7bの板幅が燃焼室孔2側7aに比べて相対的に広くなるように設定されている。
なお、図5では、板を接合することで第2増厚部7を形成する場合を例示しているが、図6のようにボルト孔5の端部を折り返して第2増厚部7を形成しても良い。
【0018】
次に、上記構成の金属ガスケットの作用・効果などについて説明する。
上記構成の金属ガスケットKを、エンジンを構成するシリンダブロックの接合面とシリンダヘッドの接合面との間に装填し、ボルト孔5を貫通する締付けボルト(不図示)で締め付けると、各ビードのゴムビードが圧縮変形し、金属ビード10,12と共にシールラインSL1、SL2、SL3に沿って所定のシール圧を発生してシールする。
【0019】
また、燃焼室孔2の周囲の第1増厚部3を、一番面圧が高いシール部分とすることで、ボアでの爆発燃焼圧の高圧をシールすると共に、第1増厚部3の周囲に成形した第1シールラインSL1を形成するビードの過大な荷重変形を防止する。すなわち、燃焼室孔2の端部周囲に第1増厚部3を構成して高い面圧を発生させ、高温、高圧の燃焼ガス圧を1次シールする。さらに、第1シールラインSL1に沿ったビードによって、燃焼室側からの燃焼ガスの2次シールを行うと共に外側からの冷却水が燃焼室側に漏れるのを防止する。
【0020】
すなわち、本実施形態では、高圧ガス圧をシールする燃焼室孔周りの第1増厚部3は他の増厚部7,8より板厚を厚く形成している。さらに、増厚部は、上述のように燃焼室孔2周囲の他にボルト孔5の周囲と基板1の外周端部に必要に応じて設け、各増厚部の板厚の関係を、第1増厚部3>第2増厚部7≧第3増厚部8の関係とし、また、増厚部の総面積でボルト軸力の大半を受け持っている。そして、本実施形態では、増厚部の受け持つ荷重が最高で単位当たり25kg/mm2 以下となるように設計している。エンジンがアルミニウム製の場合には、それ以上の荷重ではアルミエンジンの接合面における増厚部と接触する面を陥没させる恐れあるが、上記最高で単位当たり25kg/mm2 以下に規制することで、上記陥没を抑えることができる。
【0021】
なお、上記第1増厚部3>第2増厚部7≧第3増厚部8とする、各増厚部間の板厚差は、エンジンの剛性などによって増減して、増厚部の受け持つ荷重が最高で単位当たり25kg/mm2 以下となるように設計する。
ここで、最近のエンジンは小型軽量化が進みエンジン剛性は低下傾向にある一方、エンジンパワーは逆に増大しているために内筒圧は高くなり、ボルト締め付け軸力を少なく抑えてエンジン変形を抑えることが好ましい。
【0022】
これに対し、本実施形態の金属ガスケットでは、上述のようにビードの面圧を低く抑えることができる分、増厚部への面圧が相対的に増加し、締付け荷重を主として各増厚部で受ける構造となってボルト締め付け軸力を抑えることができる。特に板厚が厚い第1増厚部3で締付け荷重を受けることとなる。このとき、締付け荷重は、相対的にボルト孔5近傍で大きく、ボルト孔5から離れると小さくなるが、当該ボルト孔5間に位置する第1増厚部3の幅を相対的に小さくすることで、当該ボルト孔5間の増厚部3bでの単位当たり面積の面圧が、ボルト近傍に位置する増厚部3aの面圧に近づき、第1増厚部3における延在方向に沿った面圧がより均等化になる。このように、各シール部に必要な面圧を適切に配分出来る構造となっている。
【0023】
さらに、燃焼室孔2の周囲の第1増厚部3の板厚に延在方向に沿って変化をもたせ、例えばボルト近傍は薄くボルト間は厚くなるように板厚差を付けて燃焼室孔周囲である第1増厚部3の面圧の均等化をさらに向上させても良い。
更に、第1増厚部3の幅を相対的に小さくすると共に同時に板厚も同時に延在方向に沿って変化をもたらせることで効果は一層顕著になる。
【0024】
なお、本実施形態では、ボルト孔5周囲の第2増厚部7の板厚が燃焼室孔周囲の第1増厚部3の板厚より低いことで、シリンダブロックの接合面に対し、シリンダヘッドの接合面を僅かに湾曲変形(外周側が下方に傾く)することで、上述のように燃焼室孔周囲増厚部の面圧を増大させている。
このように、シリンダヘッドの接合面が僅かに傾くことで、ボルト周りの第2増厚部7の延在方向(円周方向)に沿った板幅が同一幅の場合には、相対的に基板外周側(燃焼室から離隔した側)の面圧が大きくなる。これに対し、本実施形態では、ボルト孔5周囲の第2増厚部7はボルト孔5の中心と偏心させて、幅の広い方をボア中心線を結んだ線から離隔する側に配置することで、エンジンにガスケットが締め付けられた際に、増厚部間の板厚差分によるシリンダヘッドの接合面の傾斜による基板外周側の荷重が高くなっても、板幅が広くなることで基板外周側の面圧が低下して、第2増厚部7における基板外周側の面圧が過大となることによるエンジンシール面の陥没を防止若しくは抑えることが可能となる。
【0025】
また、ガスケット外周端部に設ける第3増厚部8はボルト孔5位置より外側に有り、燃焼室孔側は燃焼爆発する圧力で拡大することで振動振幅が発生してボルト自体も微小に延ばされるが、その時ボルトを中心に外周端部側振動は縮小に動き、外周に第3増厚部8が無いとエンジンの熱変形も手伝い外周端部内側にあるビードが過圧縮になる恐れがある。これに対し、第3増厚部8を設けることでこの過圧縮を防止若しくは抑えることが可能となる。
【0026】
また、上述のように、金属ビード10,12の剛性を小さく抑えることができるので、基板1に硬度の低い金属薄板を使用できる。その結果、基板に成型したビードが振動振幅することによる疲労をより小さく抑えることとなる。
また、上記ビードは、硬度の低い金属薄板を基板に使用し、基板に成型した金属ビード10,12の上下両面に弾力性ある軟質の弾性シール材をモールド成型して面シールに必要な幅と面圧を確保することで、加工面粗さを吸収して、低いガスケット係数で完全シールすることが出来る。さらに、シールライン幅内にある鋳造時に発生する微小な巣穴を覆い、シールに必要な面圧の確保が出来る。
【0027】
すなわち、当該ガスケットのシールに必要な面圧は、金属ビード10,12及び弾性シール材の弾力で発生させているために、基板1を構成する金属の硬度を高くする必要が無いことから、金属ビード10,12のビード部の曲げR部での疲労破壊を発生させない。すなわち、金属ビード10,12とゴムビードの合成反発力でシール面圧を確保出来るので、基板1を構成する金属板として高い硬度の材料は必要なく、逆に、材料硬度を落とすことにより金属ビード10,12成形時の曲げR部がエンジンの振動振幅による疲労破壊を起こすことが防止され、また高い硬度を必要としないことから材料単価の安い軟鋼製品も使用可能になる。また、上記金属ビード10,12及びゴムビードの合成からなるシールのためのビードにあっては、接合面との接触が軟質の弾性シール材であることから、接合面に微小な凹凸や疵があっても確実にシールすることが可能となる。更に鋳造時に発生する鋳巣孔があっても弾性シール材の面幅内であれば確実にシールすることが出来る。
【0028】
ここで、上記説明では、図1のように、第1増厚部3の一部を切り欠いて同一幅で狭くなるようにして板幅を変化するようにしているが、これに限定されない。図7に示すように、ボルト孔間3bについて、直線上に切り落とすように幅を相対的に狭くしても良い。 ここで、ボルト孔5周囲に設ける第2増厚部7は外周輪郭が円形に限定されない。面積でボルト孔5の外周側に内側より大きく確保してボルト周囲の増厚部内でアルミニュウム製エンジンの陥没を防止できれば、楕円形や矩形など他の形状となっていても良い。図8に第2増厚部7の変形例を示す。
【0029】
また、上記実施形態では、第1シールラインのSL1の金属ビード10をフルビードで形成した場合を例示しているが、図9に示すように、金属ビード10をハーフビードで形成しても良い。
また、図10に示すように、第1増厚部3を薄板を接合することで構成しても良い。
また、図11に、全てのシールラインの金属ビード10,12をハーフビードとする場合を示す。
【0030】
また、上記実施形態では、説明を容易にするために一気筒のエンジンに使用される金属ガスケットで説明したが、多気筒エンジンや水冷エンジンに使用される金属ガスケットでも同じ効果を得ることが出来る。
また、上記実施形態では、金属ビード10,12として、基板の一方の面側にのみ凸状となる形状で例示しているが、表裏両面に向けて凹凸状となるように成形されていても良い。但し、ビード幅が広くなる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】本発明に基づく実施形態に係る金属ガスケットを示す平面図である。
【図2】図1におけるA−A断面図である。
【図3】図1におけるB−B断面図である。
【図4】第2増厚部を示す平面図である。
【図5】第2増厚部を示す断面図である。
【図6】第2増厚部の別例を示す断面図である。
【図7】第1増厚部の別例を示す平面図である。
【図8】第2増厚部の別例を示す平面図である。
【図9】第1シールラインの金属ビードをハーフビードとした例を示す断面図である。
【図10】第1増厚部を薄板で構成する例を示す断面図である。
【図11】全ての金属ビードをハーブビードとした場合を示す断面図である。
【符号の説明】
【0032】
K 金属ガスケット
SL1、SL2、SL3 シールライン
1 基板
2 燃焼室孔
3 第1増厚部
3a ボルト孔近傍
3b ボルト孔間
3c 燃焼室孔間
4 水孔
5 ボルト孔
6 オイル孔
7 第2増厚部
7a 燃焼室孔側
7b 基板外周側
8 第3増厚部
10,12 金属ビード
11a、11b、13a、13b 弾性シール材
【特許請求の範囲】
【請求項1】
少なくとも燃焼室孔および複数のボルト孔が開口した薄肉金属板からなる基板に対し、上記燃焼室孔端部を囲繞して他の部分よりも板厚が厚い増厚部を設けると共に、少なくとも上記燃焼室孔及び増厚部の外周を囲うようにして内周側シールラインを設定し、その内周側シールラインに沿って形成されるビードを、上記基板を凸状若しくは凹凸状に屈曲してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して上記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成から構成し、かつ上記内周側シールラインよりも外周側に上記複数のボルト孔が配置される金属ガスケットにおいて、
上記増厚部は、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、延在方向に沿った少なくとも2箇所の位置において、幅に変化を持たせることで構成されることを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔近傍に比べてボルト孔間で狭いことにより実現することを特徴とする請求項1に記載した金属ガスケット。
【請求項3】
複数の燃焼室孔が開口した金属ガスケットにおいて、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔間の幅に比べて隣接する燃焼室孔間で同等か同等以下に狭いことでも実現することを特徴とする請求項2に記載した金属ガスケット。
【請求項4】
上記増厚部の延在方向に沿った板厚に、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、変化を持たせることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
【請求項5】
上記複数のボルト孔の少なくとも1つのボルト孔に対し、当該ボルト孔を囲繞する第2の増厚部を備え、該第2の増厚部の幅は、燃焼室側よりも基板外周側の方が広いことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
【請求項1】
少なくとも燃焼室孔および複数のボルト孔が開口した薄肉金属板からなる基板に対し、上記燃焼室孔端部を囲繞して他の部分よりも板厚が厚い増厚部を設けると共に、少なくとも上記燃焼室孔及び増厚部の外周を囲うようにして内周側シールラインを設定し、その内周側シールラインに沿って形成されるビードを、上記基板を凸状若しくは凹凸状に屈曲してなる金属ビードと、その金属ビードの凸部側表面及び凸部裏側の凹部に固着して上記金属ビードと共に板厚方向に弾性変形する弾性シール材からなるゴムビードとの合成から構成し、かつ上記内周側シールラインよりも外周側に上記複数のボルト孔が配置される金属ガスケットにおいて、
上記増厚部は、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、延在方向に沿った少なくとも2箇所の位置において、幅に変化を持たせることで構成されることを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔近傍に比べてボルト孔間で狭いことにより実現することを特徴とする請求項1に記載した金属ガスケット。
【請求項3】
複数の燃焼室孔が開口した金属ガスケットにおいて、上記増厚部の幅の変化は、相対的に、ボルト孔間の幅に比べて隣接する燃焼室孔間で同等か同等以下に狭いことでも実現することを特徴とする請求項2に記載した金属ガスケット。
【請求項4】
上記増厚部の延在方向に沿った板厚に、当該増厚部の延在方向に沿ったシール面圧が均等化するように、変化を持たせることを特徴とする請求項1〜請求項3のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
【請求項5】
上記複数のボルト孔の少なくとも1つのボルト孔に対し、当該ボルト孔を囲繞する第2の増厚部を備え、該第2の増厚部の幅は、燃焼室側よりも基板外周側の方が広いことを特徴とする請求項1〜請求項4のいずれか1項に記載した金属ガスケット。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【公開番号】特開2006−125436(P2006−125436A)
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−311109(P2004−311109)
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成18年5月18日(2006.5.18)
【国際特許分類】
【出願日】平成16年10月26日(2004.10.26)
【出願人】(000230261)日本メタルガスケット株式会社 (27)
【Fターム(参考)】
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