説明

金属ガスケット

【課題】 隣接するシリンダボア間における主ビードの外側部分において、部分的な面圧強化対策を行うことができて、シリンダボアに対する優れたシール性能を発揮できる金属ガスケットを提供する。
【解決手段】 単数又は複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットの金属構成板10のいずれかにおいて、シリンダボア2の周囲に設けた主ビード21を、シリンダボア間のシール部に蛇行部分21aを有して形成すると共に、シリンダボア間で隣接する前記蛇行部分21aの間にフルビードで形成される補助ビード31を1本以上配置して構成する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、エンジンのシリンダヘッドやシリンダブロック等の二つのエンジン部材の間に挟持してシールを行う金属ガスケットに関するものである。
【背景技術】
【0002】
シリンダヘッドガスケットは、自動車のエンジン(内燃機関)のシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)の間に挟まれた状態で、ヘッドボルトにより締結され、燃焼ガス、オイル、冷却水等の流体をシールする役割を持っている。
【0003】
最近は、エンジン軽量化の手段として、エンジン材料のアルミニウム合金化や肉薄化が進み、エンジンの低剛性化が急速に進行している。その結果、最近の多気筒エンジンのヘッドガスケットのシーリングの状況を観察してみると、局所的な燃焼ガスも漏れによる不具合が傾向的に多くなってきている。この主な要因として、エンジンの局所的な低剛性化や温度分布の不均一化の増大があげられる。
【0004】
つまり、エンジンの低剛性化や温度分布の不均一化の増大に伴って、ガスケットの締付け時のシリンダボア周りのシール面圧の不均一化が大きくなり、面圧の高い部分と低い部分の差が大きくなって、低い部分からのガス漏れが発生する。
【0005】
このシリンダボア間のガス漏れを解決するには大きく分けて二つの方法があり、一つはエンジン側の該当部分の劣悪なシール条件を改善する方法であり、もう一つは劣悪シール条件下にも耐えられるガスケット構造を提供する方法である。
【0006】
このガスケット側の対策として、従来では、このようなガス漏れに対しては、撓みなどにより部分的に低下している面圧を補強するために、シリンダボア(燃焼室)周囲のシール部の面圧全体を増加させたり、ビードの材質をスプリング性の有るものに変えたりして対応している。また、シム等の補強板を用いる方法も一般的に用いられている。
【0007】
一方、平面視で波形の波形ビード(蛇行したビード)により、シリンダボア周りやその他のシール穴のシール性能を向上させている金属ガスケットも周知技術となっている(例えば、特許文献1参照。)。
【0008】
この蛇行ビードの技術をシリンダボア間に適用し、主シールビードを平面視(水平方向)で蛇行させて形成した蛇行部分をシリンダボア間に配置することが考えられる。
【0009】
この構成を有する金属ガスケットを適用するエンジンが、シリンダボア間が狭いエンジンである場合には、隣接するシリンダボアをシールするビードが互いに接近するので、ガスケットが締めつけられた時に、この隣接するビードの下部が互いに当接して押し合う状態になる。そのため、エンジン運転中に起きるシリンダヘッド等のエンジン部材の垂直方向への繰り返し挙動により、パッシングを受けてもビードの下部がずれ難くなるので、適度のシール面圧を保持できる。
【0010】
しかしながら、シリンダボア間が広いエンジンの場合には、主ビードの蛇行部分の間の距離が広くなり、両蛇行部分の間に大きな隙間ができる。この隙間のために、面圧維持が難しくなると共に、エンジン運転中のシリンダヘッドの垂直方向の繰り返し挙動が加わった時に、蛇行部分のビード下部が隙間方向に徐々にずれて、ビードのへたり(クリープリクラクゼーション)を大きくし、シール性を弱体化させるという問題がある。
【特許文献1】特許第3057445号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
本発明はこの問題を解決するためになされたものであり、本発明の目的は、隣接するシリンダボア間における主ビードの外側部分において、部分的な面圧強化対策を行うことができて、シリンダボアに対する優れたシール性能を発揮できる金属ガスケットを提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0012】
上記の目的を達成するための本発明に係る金属ガスケットは、単数又は複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットの金属構成板のいずれかにおいて、シリンダボアの周囲に設けた主ビードを、シリンダボア間のシール部に蛇行部分を有して形成すると共に、シリンダボア間で隣接する前記蛇行部分の間にフルビードで形成される補助ビードを1本以上配置して構成される。
【0013】
あるいは、複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットにおいて、一つの金属構成板のシリンダボアの周囲に設けた主ビードを、シリンダボア間のシール部に蛇行部分を有して形成すると共に、他の金属構成板のシリンダボア間の前記蛇行部分の間に対向する部分にフルビードで形成される補助ビードを1本以上配置して構成される。
【0014】
また、上記の金属ガスケットにおいて、前記主ビードの凸部と、前記補助ビードの凸部とが向かい合うように、前記金属構成板同士を隣接して積層して構成される。
【0015】
これらの構成により、比較的広いシリンダボア間における主ビードの外側部分、即ち、蛇行部分同士の間に、主ビードとは別の補助ビードを配置することにより、主ビードが圧縮された時、蛇行部分の主ビードの根本の部分が、補助ビードの根本の部分と押し合う状態になるので、蛇行部分のビードの下部がずれるのを防止することができる。そのため、蛇行部分のビードがつぶれ難くなり、圧縮抵抗が主ビードだけの時より著しく増大する。従って、シリンダボア間の部分的な面圧低下に対応して部分的な面圧強化をすることができる。
【0016】
そして、この補助ビードは単数又は複数で、普通の直線又は単曲線のフルビード、又は、蛇行ビードでもよく、必要とされるシール面圧等の状況に応じて選択し配置されるが、上記の金属ガスケットにおいて、前記1本以上の補助ビードのうちの1本以上に蛇行部分を形成すると、シリンダボア間がより広い場合にも少ない補助ビード数で対応できる。
【0017】
また、上記の金属ガスケットにおいて、前記補助ビードの蛇行部分の形状を、前記主ビードの蛇行部分の形状と異ならせて形成したり、前記補助ビードの蛇行部分のうねりの大きさを、前記主ビードの蛇行部分のうねりの大きさよりも小さく形成したり、前記補助ビードにおいて、ビード高さ、ビード幅、ビードの断面形状の内の少なくとも一つを、前記主ビードの蛇行部分と異ならせて形成したりすると、よりきめ細かく、シール面圧を設定できるようになる。
【発明の効果】
【0018】
本発明の金属ガスケットによれば、隣接するシリンダボア間における主ビードの外側部分、即ち、蛇行部分同士の間に、補助ビードを配置することによって、蛇行部分の主ビードの根本の部分が、補助ビードの根本の部分と押し合う状態になるので、蛇行部分のビードの下部がずれるのを防止でき、シリンダボア間の部分的な面圧低下に対応した部分的な面圧強化ができ、シリンダボアに対する優れたシール性能を発揮することができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0019】
次に、図面を参照して本発明に係る金属ガスケットの実施の形態について説明する。なお、図1〜図8は、模式的な説明図であり、構成をより理解し易いように、シリンダボア用穴の大きさ、ビードの大きさ、蛇行状ビード等の寸法を実際のものとは異ならせて、誇張して示している。
【0020】
本発明に係る金属ガスケットは、エンジンのシリンダヘッドとシリンダブロック(シリンダボディ)のエンジン部材の間に挟持されるシリンダヘッドガスケットであって、シリンダボアの高温・高圧の燃焼ガス、及び、冷却水通路や冷却オイル通路等の冷却水やオイル等の流体をシールする。
【0021】
この金属ガスケットは、軟鋼板、ステンレス焼鈍材(アニール材)、ステンレス調質材(バネ鋼板)等で形成される金属構成板(金属基板)を単数又は複数有して構成される。また、シリンダブロック等のエンジン部材の形状に合わせて製造され、図1に示すようなシリンダボア(燃焼室用穴)2、冷却水やエンジンオイルの循環のための液体穴3、締結ヘッドボルト用のヘッドボルト穴4等が形成される。
【0022】
図1〜図3に示す第1の実施の形態の金属ガスケット1は、多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケット1を構成する金属構成板の一つの金属構成板10において、シリンダボア2の周囲にフルビードで設けた主ビード21を、シリンダボア2間のシール部で蛇行させて形成すると共に、シリンダボア2間で隣接する蛇行部分21aの間にフルビードで形成される補助ビード31を配置して構成される。図1及び図2では、直線上の補助ビード31が1本設けられた構成となっており、図3では、直線上の補助ビード31が2本設けられた構成となっている。
【0023】
これらの構成により、エンジンのシリンダボア間の広いガスケットの構造に対して、主ビード21の蛇行部分(うねり部分)21aの外側部分、即ち、隣接する蛇行部分21a同士の間に、補助ビード31を配置しているので、主ビード21が圧縮された時、この補助ビード31により、圧縮抵抗が主ビード21だけの時よりも増大する。そのため、シリンダボア間の部分的な面圧低下に対応した部分的な面圧強化ができ、シリンダボアに対する優れたシール性能を発揮することができる。また、エンジンのシリンダボア2間が極端に広い場合には、補助ビード31の本数を増した構成とすることにより適切な対応ができる。
【0024】
図4〜図6に示す第2の実施の形態の金属ガスケットは、第1の実施の形態の金属ガスケットで設けた補助ビード31を蛇行させて構成される。この第2の実施の形態の金属ガスケットにおいては、補助ビード31の蛇行部分の形状を主ビード21の蛇行部分21aと同じ形状、同じ大きさで形成してもよいが、より適切な面圧分布を得ることができるように、補助ビード31の蛇行部分のビード高さ、ビード幅、ビードの断面形状の内の少なくとも一つを、主ビード21の蛇行部分21aと異ならせて形成してもよい。
【0025】
これらの補助ビード31を蛇行させ、更には、蛇行状の補助ビード31のうねりの大きさを小さくしたり、この蛇行した補助ビード31を複数設けることにより、圧縮抵抗を強化し、両側の主ビード21がへたる(クリープ)のを防ぐことができる。これらの構造はシール条件の難しいディーゼルエンジンに適している。
【0026】
そして、図4の構成では、1本の補助ビード31を蛇行させて、圧縮抵抗を強化している。また、図5の構成では、補助ビード31の蛇行部分のうねりを小さく形成している。更に、図6では、蛇行部分を有する補助ビード31を2本設けている。
【0027】
特に、図5の構成では、補助ビード31は1本であるが両側の主ビード21の蛇行部分21aよりも蛇行部分のうねりを細かくして、圧縮抵抗をより強化して両側の主ビード21の蛇行部分21aのへたり(クリープリラクゼーション)を少なくするようサポートしている。この図5の構成のように、補助ビード31の蛇行のうねりを小さくすると狭い場所にも配置できるようになるため、シリンダボア間の幅が、図6の構造の場合等よりやや狭い状態の時に適する。
【0028】
図7に示す第3の実施の形態の金属ガスケットは、第1の実施の形態の金属ガスケットにおける主ビード21の蛇行部分21aを、シリンダボア間のみ主ビード21の全体的な形状を示す円周線より外側に寄せて、即ち、蛇行部分21a同士を接近させて、蛇行部分21aの間を狭くすると共に、直線状の補助ビード31を一本配置して、シリンダボア間のシール部の圧縮抵抗を調整したものである。
【0029】
このようにエンジンのシリンダボア間隔が広く、蛇行部分21aの間が広く空いて、通常補助ビード31を複数本通さねばならない場合に、複数本の補助ビード31を通すと、シリンダボア間のシール部の圧縮抵抗が強すぎて、シリンダボア周囲全体の面圧バランスが大きく損なわれることがあるが、この図7に示すような構造を採用することにより、この問題を解決できる。
【0030】
図8に示す第4の実施の形態の金属ガスケットは、主ビード21が第1の金属構成板10に形成されると共に、補助ビード31が別の金属構成板11に形成される。この双方の金属構成板10、11を主ビード21の凸部と、補助ビード31の凸部とが向かい合うように組み合わせて一体のシールビードとしている。
【0031】
つまり、複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットにおいて、一つの金属構成板10のシリンダボア2の周囲に設けた主ビード21を、シリンダボア間のシール部で蛇行させると共に、他の金属構成板11のシリンダボア間の前記主ビード21の蛇行部分21aの間にフルビードで形成される補助ビード31を1本以上配置し、更に、主ビード21の凸部と、補助ビード31の凸部とが向かい合うように、金属構成板10、11同士を隣接して積層する。
【0032】
この構成により、エンジンのシリンダボア間の広いガスケットの構造に対して、主ビード21の蛇行部分(うねり部分)21aの外側部分、即ち、蛇行部分21a同士の間に、補助ビード31を配置しているので、主ビード21が圧縮された時、蛇行部分21aの主ビードの根本の部分が、補助ビード31の根本の部分と根本同士が押し合う状態になって主ビード21がつぶれ難くなり、また、蛇行部分のビードの下部がずれるのを防止することができるので、圧縮抵抗が主ビード21だけの時より著しく増大し、シリンダボア間の部分的な面圧低下に対応して部分的な面圧強化をすることができる。
【0033】
また、この構造は補助ビード31が別の金属構成板10に形成されているので、その形状、板厚,位置などの選択が広くでき、又、両側の主ビード21の蛇行部分21aの制約を受け難いので、補助ビードの設計上の自由度が大きく、その効果を最大に引き出せるような設計ができ、優れたシール性能が期待できる。また、エンジンのシリンダボア2間が極端に広い場合には、補助ビードの本数を増すことにより適切な対応ができる。
【0034】
上記の各補助ビード31は、図1では、シリンダボア2及び主ビード21を囲むビードの一部として、つまり、シリンダボア2に対する2重ビードの外側の一部として形成されているが、本発明は、この構成に限定するものではなく、シリンダボア間のシール部のみに設け、必ずしも、2重ビードの外側の一部として形成されなくてもよい。
【0035】
なお、図1〜図7は、金属構成板が二枚以上で、シリンダボア部分が折り返し部(グロメット)を有して構成されている。シリンダボア2の直近外側の線(円又は円弧)はこの折り返し部の外周縁部を示す。
【図面の簡単な説明】
【0036】
【図1】本発明に係る第1の実施の形態の金属ガスケットを示す平面図である。
【図2】本発明に係る第1の実施の形態の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図3】本発明に係る第1の実施の形態の他の構成の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図4】本発明に係る第2の実施の形態の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図5】本発明に係る第2の実施の形態の他の構成の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図6】本発明に係る第2の実施の形態の他の構成の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図7】本発明に係る第3の実施の形態の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【図8】本発明に係る第4の実施の形態の金属ガスケットを示す部分平面図である。
【符号の説明】
【0037】
1 金属ガスケット
2 シリンダボア
10,11 金属構成板
21 主ビード
21a 主ビードの蛇行部分
31 補助ビード

【特許請求の範囲】
【請求項1】
単数又は複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットの金属構成板のいずれかにおいて、シリンダボアの周囲に設けた主ビードを、シリンダボア間のシール部に蛇行部分を有して形成すると共に、シリンダボア間で隣接する前記蛇行部分の間にフルビードで形成される補助ビードを1本以上配置したことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項2】
複数の金属構成板からなる多気筒エンジン用のシリンダヘッドガスケットにおいて、一つの金属構成板のシリンダボアの周囲に設けた主ビードを、シリンダボア間のシール部に蛇行部分を有して形成すると共に、他の金属構成板のシリンダボア間の前記蛇行部分の間に対向する部分にフルビードで形成される補助ビードを1本以上配置したことを特徴とする金属ガスケット。
【請求項3】
前記主ビードの凸部と、前記補助ビードの凸部とが向かい合うように、前記金属構成板同士を隣接して積層したことを特徴とする請求項2記載の金属ガスケット。
【請求項4】
前記1本以上の補助ビードのうちの1本以上に蛇行部分を形成したことを特徴とする請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属ガスケット。
【請求項5】
前記補助ビードの蛇行部分の形状を、前記主ビードの蛇行部分の形状と異ならせて形成したことを特徴とする請求項4に記載の金属ガスケット。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【公開番号】特開2006−138343(P2006−138343A)
【公開日】平成18年6月1日(2006.6.1)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−326370(P2004−326370)
【出願日】平成16年11月10日(2004.11.10)
【出願人】(000198237)石川ガスケット株式会社 (57)
【Fターム(参考)】