説明

金属ガラス材エッチング方法及びエッチング液

【課題】塑性変形が非常に少ないので、冷間成形加工が非常に困難であるZr基非晶質、準結晶、ナノ結晶、金属ガラス合金からなる合金材、例えば、リボン材や薄板材を加工して、任意の形状の製品、例えば、微細構造など付与された加工部品などを製造するエッチング技術の開発が求められている。
【解決手段】Zr基アモルファス合金材を塩素イオン中でエッチング加工することにより、特には塩化第二鉄を含有するエッチング液でエッチング加工することにより、金属ガラス合金のエッチング製品を得る。Zr基金属ガラス合金の薄板材やリボン材を用い、生体医療用材料、微小構造部品、例えば、微小伝動部品の歯車、バネ材、人工骨固定材などを容易に製造することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ガラス材のエッチング方法及びそのためのエッチング液に関する。特に、本発明は、非晶質Zr基合金、準結晶Zr基合金、ナノ結晶Zr基合金、及び/又は金属ガラスZr基合金からなる合金材のエッチング方法及びそのためのエッチング液に関する。
【背景技術】
【0002】
物質は、固体の状態では、規則正しく原子が配列している結晶又は原子が不規則に配置され、何ら規則性の無いアモルファスに分けることができる。ガラス又はガラス物質とは、液体を冷却せしめて固体状態にした時に、液体状態での原子の配列した状態のまま固体化した物質を指している。こうした非結晶化せしめられた物質は、アモルファス物質(非晶質物質: amorphous materials)とも呼ばれる。
結晶は、空間格子の概念に基づく並進対称性の認められるものであるのに対して、アモルファスの構造は、並進性が全くない。しかし、局部的な構造を考えると、特殊な格子を用い回転操作を加えることで原子配置の状況を理解することも可能な場合がある。
大部分の金属は、液体状態のものを通常の速度で冷却すると、結晶化して、原子が三次元的に規則正しく並ぶようになる、すなわち、点と線の集まりである空間格子で表され、結晶に対する空間格子は、結晶格子と呼ばれる。金属ガラスは、それぞれの原子が本質的にはでたらめに配列されているようにされたものである。また、正20面体対称性を有する合金相の発見〔D. Shechtman et al., Phys. Rev. Lett., 53: 1951 (1984): 非特許文献1〕を契機として、従来の結晶学の周期的な並進対称性を有している結晶の概念を拡張して、準周期的な対称性を持つ構造が認識されるに至り、準結晶(quasicrystal)と名づけられた。
【0003】
非晶質金属(アモルファス金属)、金属ガラス、準結晶金属などは、溶融金属が拡散・再配列することなく、液体構造を維持したまま凝固させることで生成させるという手法が行われ、このため金属溶湯を急速冷却させて製造することがなされている。こうした中、バルク金属ガラス形成合金が見出された〔特開平3-158446号公報(特許文献1)〕。こうして得られるバルク金属ガラス(bulk metallic glasses)は、比較的遅い冷却速度でもガ
ラス化するため様々な形状に加工することが可能であり、また、熱を与えることで明瞭な軟化現象を示すので、強さとしなやかさを併せ持つ新しい材料として注目されている。
こうした非晶質金属や金属ガラスなどは、粘り強く強度があり、錆びにくい、磁化しやすいなどの優れた特性を有することから、機械部品の材料などとして期待されている。特に、金属ガラスは超小型精密部材などの次世代金属材料として期待されている。こうした中、とりわけ、非晶質Zr基合金、準結晶Zr基合金、ナノ結晶Zr基合金、金属ガラスZr基合金は、高強度、高疲労特性などを持つことが知られており、微小構造部品用素材として有望視されている。
【0004】
【特許文献1】特開平3-158446号公報
【非特許文献1】D. Shechtman et al., Phys. Rev. Lett., 53: 1951 (1984)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
非晶質金属(アモルファス金属)、金属ガラス、準結晶金属などは、耐食性が非常に大きく、微細加工のために使用されるエッチング加工が、現在までの技術では、大変困難であることが知られている。例えば、通常の結晶金属合金の表面では、結晶粒界、欠陥などがたくさんあることから、そうしたところから局所的に腐食が進行し、エッチングが可能となるのであるが、金属ガラス合金では、そうした結晶粒界、欠陥などは存在せず、腐食
、すなわち、エッチングができない。
【0006】
特に、Zr基非晶質、準結晶、ナノ結晶、金属ガラス合金は、塑性変形が非常に少ないので、冷間成形加工は非常に困難である。特に、リボン材や薄板材を金型により打ち出し成形した場合、材料自身の硬度が高いし、ガラスのような脆性を有しているので、加工は実質上不可能である。この問題を解決するため、エッチングによる加工法が提案されているが、従来のエッチング液はFe基やCu基の金属材料に汎用されるものであって、Zr基アモルファス合金に対して、どのようなものが有効であるかとか、エッチング条件などは不明であった。Zr基非晶質、準結晶、ナノ結晶、金属ガラス合金は、高強度、高弾性、高硬度、高疲労特性、高耐磨耗性であり、その特性を利用して、薄板材やリボン材により微小構造部品を作成するなどの応用が求められている。例えば、微小伝動部品の歯車、バネ材、人工骨固定材などに適用する加工技術の開発が求められている。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、上記課題を解決すべく、鋭意研究工夫を行ってきた結果、Zr基金属ガラス合金を塩素イオン中でエッチング加工することにより、金属ガラス合金のエッチング製品を得ることに成功し、本発明を完成させた。
【0008】
本発明は、次なる態様を提供している。
〔1〕 Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金及びZr基金属ガラス合金からなる群から選択されたZr基合金材を塩素イオン中でエッチング加工することを特徴とするエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔2〕 エッチング加工速度を0.05〜10mm/minとすることを特徴とする上記〔1〕に記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔3〕 塩化第二鉄濃度が20g〜92g/100ml又はモル濃度1.2M〜5.7Mであるエッチング液によりエッチング加工することを特徴とする上記〔1〕又は〔2〕に記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔4〕 塩素イオン含有エッチング液が、塩化第二鉄を含有するエッチング液であることを特徴とする上記〔1〕〜〔3〕のいずれか一記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔5〕 塩化第二鉄濃度が20g〜92g/100mlであるエッチング液によりエッチング加工することを特徴とする上記〔4〕に記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔6〕 塩素イオン含有エッチング液のpH値が6.0〜8.4であることを特徴とする上記〔1〕〜〔5〕のいずれか一記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔7〕 緩和剤により塩素イオン含有エッチング液を調整することを特徴とする上記〔1〕〜〔6〕のいずれか一記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
〔8〕 緩和剤が、NaH2PO4であることを特徴とする上記〔7〕に記載のエッチングZr
基合金製品の製造方法。
〔9〕 Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金及びZr基金属ガラス合金からなる群から選択されたZr基合金材用エッチング液であって、塩素イオンを含有していることを特徴とするエッチングZr基合金製品の製造用エッチング液。
〔10〕 塩素イオン含有エッチング液が、塩化第二鉄を含有するエッチング液であることを特徴とする上記〔9〕に記載のエッチングZr基合金製品の製造用エッチング液。
〔11〕 緩和剤として、NaH2PO4を含有するエッチング液であることを特徴とする上記
〔10〕に記載のエッチングZr基合金製品の製造用エッチング液。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金、Zr基金属ガラス合金からなる合金材をエッチング加工して、当該合金のエッチング部品を製造することができる。かくして、Zr基金属ガラス合金の超小型精密部品を製造することが可能となる。
高強度、高弾性、高硬度、高疲労特性、高耐磨耗性などを有するアモルファス相構造を持つZr基金属ガラス合金材を使用して、例えば、薄板材やリボン材を用い、生体医療用材料、微小構造部品、例えば、微小伝動部品の歯車、バネ材、人工骨固定材などを容易に製造することができる。
本発明のその他の目的、特徴、優秀性及びその有する観点は、以下の記載より当業者にとっては明白であろう。しかしながら、以下の記載及び具体的な実施例等の記載を含めた本件明細書の記載は本発明の好ましい態様を示すものであり、説明のためにのみ示されているものであることを理解されたい。本明細書に開示した本発明の意図及び範囲内で、種々の変化及び/又は改変(あるいは修飾)をなすことは、以下の記載及び本明細書のその他の部分からの知識により、当業者には容易に明らかであろう。本明細書で引用されている全ての特許文献及び参考文献は、説明の目的で引用されているもので、それらは本明細書の一部としてその内容はここに含めて解釈されるべきものである。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明では、Zr基非晶質合金(Zr-based amorphous alloys)、Zr基準結晶合金(Zr-based
quasicrystalline alloys)、Zr基ナノ結晶合金(Zr-based nanocrystalline alloys)及びZr基金属ガラス合金(Zr-based glassy alloys)からなる群から選択されたZr基合金材を塩素イオン中でエッチング加工することを特徴とするエッチングZr基合金製品の製造方法を提供している。本発明で、エッチング液として有用な強酸の種類の選択、適切なエッチング速度(腐蝕速度)の選択、エッチング液濃度の選択、エッチング液pH値の選択などの解明に成功して、至適なZr基金属ガラス合金材のエッチング技術並びにエッチングZr基金属ガラス合製品を提供している。
【0011】
本発明の被加工物としては、Zr基合金であって(1)三成分以上の多元系からなり、(2)三成分の原子寸法比が互いに約12%以上異なっている、そして(3)三成分が互いに負の混合
熱を有しているといった条件を満たす特定成分の金属合金で、例えば、Zrに加えて、Cu, Ag, Auなどの銅族元素、Ni, Fe, Coなどの鉄族元素、Pd, Pt, Rh, Irなどの白金族元素、クロム族元素、チタン族元素、希土類元素(ランタノイド及びアクチノイドを含む)、Alなどのアルミニウム族元素などを含有していてよいものが挙げられる。さらに、上記(1)
〜(3)の条件を満足する三成分以外の元素(例えば、遷移金属、ランタノイド及びアクチ
ノイドを含む希土類元素、典型金属元素、典型非金属元素であってよい)を少量添加することにより、金属ガラス内部に微小なナノ結晶、ナノ準結晶などを形成せしめたりしたものが包含されてよい。典型的な場合、径1nm以上のナノ結晶、ナノ準結晶などが析出せし
められているといった、部分的な結晶化ガラスのものであってよい。
【0012】
該Zr基合金としては、例えば、Zr-Al-Co系合金, Zr-Al-Co-Fe系合金, Zr-Al-Co-Ni系合金, Zr-Al-Co-Cu系合金, Zr-Al-Cu系合金, Zr-Al-Cu-Ni系合金, Zr-Ti-Al-Ni-Cu系合金, Zr-Nb-Al-Ni-Cu系合金, Zr-Al-Ni-Cu-Pd系合金, Fe-Cu-Ni-Zr-B系合金, Fe-Cu-Ni-Zr-Nb-B系合金, Co-Fe-Zr-B系合金, Zr-Al-TM系合金, Ti-Zr-TM系合金(ここで、TMは、遷移金属、例えば、VI〜VIII族遷移金属から選択されたものである)などが挙げられる。Zr-Al-TM
系合金は、例えば、A. Inoue et al., Materials Transactions, JIM, 31(3), pp.177-183 (1990); A. Inoue et al., J, Non-Cryst. Solids, 156-158, p.473 (1993)などに記載があり、Ti-Zr-TM系合金は、例えば、K. Amiya et al., Mater. Sci. Eng., A179/A180, p.692 (1994)などに記載がある。
【0013】
過冷却液体領域の温度幅の広い、そしてアモルファス合金を与えるZr基合金の基本となる組成は、特開平3-158446号公報(特公平7-122120号公報)に開示され、一般式: ZraMbAlc (式中、Mは、Ni, Cu, Fe, Co及びMnからなる群から選択された少なくとも一種の元素
で、a, b, cは原子パーセント(at%)を示し、25≦a≦85、5≦b≦70、0<c≦35であり、Zrは、一部Hfで置換されていてもよい)の組成を有しており、少なくとも50パーセント(体
積率)の非晶質相からなる合金である。また、好ましいアモルファス合金を与えるZr基合金となる組成は、一般式: ZraCubAlc (式中、a, b, cは原子パーセントを示し、25≦a≦85、5≦b≦70、0<c≦35である)の組成を有しており、少なくとも50パーセント(体積率)の非晶質相からなる合金である。
【0014】
該Zr-Al-Cu系合金のZrの一部を少量のNiで置き換えた合金は、耐酸化性が向上せしめられており、一方、そのNiに変えて一部を少量のAg, Au, Pt, Pdなどの貴金属からなる群から選択されたもので置き換えたものでは、疲労強度が向上せしめられており、例えば、Pdを含有するものでは非常に大きな疲労強度上昇が得られる。
本発明の被加工物としては、例えば、一般式: ZrdCueAlfNig、ZrhCuiAlj、又はZrkCulAlmAgn (式中、d, e, f, g, h, i, j, k, l, m, nは原子パーセントを示し、42≦d≦68、25≦e≦35、5≦f≦15、2≦g≦8、40≦h≦70、25≦i≦45、5≦j≦15、45≦k≦71、25≦l≦35、2≦m≦10、2≦n≦10である)の組成のもので、実質上金属ガラスであるものが挙げられ、具体例としては、Zr55Cu30Al10Ni5、Zr60Cu30Al10、Zr60Cu30Al5Ag5などのものが好ま
しい。
【0015】
Zr65Cu15Al10Ni10合金組成にTi, Hf, V, Nb, Cr, Mo, Fe, Co, Pd又はAgを配合した合
金は、例えば、A. Inoue et al., Materials Transactions, JIM, 36(12), pp.1420-1426
(1995)などに記載があり、Zr55Cu30Al10Ni5は、例えば、A. Inoue et al., Materials Transactions, JIM, 37(2), pp.185-187 (1996)などに記載がある。また、Zr50Cu40Al10は、例えば、J. M. Pelletier et al., Materials Transactions, 48(6), pp.1359-1362 (2007)などに記載がある。また、(Zr0.5Cu0.4Al0.1)100-XTaX (X=0, 3, 6, 9, 12 at%))は
、例えば、K. Okazaki et al., Materials Transactions, 47(10), pp.2571-2575 (2006)などに記載がある。さらに、Zr55Cu(30-X)Al10Ni5NbX (X=0, 1, 3, 5 at%))は、例えば、D. Okai et al., Materials Science and Engineering A 449-451: pp.548-551 (2007)などに記載がある。
アモルファス合金材の組織構造は、X線回折分析、光学顕微鏡検査(OM)、エネルギー分
散X線分光分析(EDX)とリンクされた走査型電子顕微鏡検査などにより試験・確認できるし、示差走査熱量測定法(DSC)などを使用して温度の測定を行うこともできる。さらに、材
料の機械的特性、例えば、破断エネルギー(Es)、ビッカース硬さ(Hv)などの硬さ、引張強さ(σf)、圧縮強さなどを測定して、その性状を確認できる。
Zr基金属ガラス合金は、耐食性が高い。耐食性を示す分極曲線を図6に示す。図6より、Zr基金属ガラス合金は、優れた耐食性を示すことが知られているステンレススチールのSS316、Ti6Al4V合金よりも良い耐食性を示すことがわかる(すなわち、腐蝕を受け難いことがわかる)。
【0016】
本発明の被加工物としては、アモルファス相構造を有するZr基合金材料であり、当該分野で知られているアモルファス材製造法あるいはその改変法で得られたものを使用できる。アモルファス材の製造は、例えば、所定の金属や合金を溶融し、液体状態から急冷凝固させて行うことができる。材料金属や合金を溶融し、液体状態から急冷凝固して急冷金属(合金)粉末を得てから、該生成急冷金属粉末を結晶化温度以下で所定形状に固化して真密度化することで、アモルファス材を得るものであってもよい。アモルファス材は、溶融金属を急冷凝固し、直接所定形状にすることにより得られたものであってよい。アモルファス材は、例えば、メルトスピニング法、単ロール法、双ロール法、プラナーフロー鋳造法などで製造でき、薄い帯状材(リボン状材)などであってもよい。急冷粉末を固化成形する技術としては、例えば、CIP、HIP、ホットプレス、熱間押出し、放電プラズマ燒結法なども包含されてよい。また、ガスの差圧又は重力を利用して冷却された鋳型に瞬時に鋳込んで、金属溶湯の移動速度を速くして大きな冷却速度を得て金属ガラス材を得ることによるものであってよい。
【0017】
本発明の被加工物としては、箔状、薄板状、板状、丸棒状、パイプ状、角棒状、角パイプ状、異形棒状、異形パイプ状、被膜状などのいずれの形状のものであってもよい。板状の金属ガラス素材の場合、好ましくは、約10μm〜10mmの板厚のもの、より好ましくは、
約50μm〜5mmの板厚のもの、あるいは、約100μm〜1mmの板厚のものを使用できるが、特
に制限されるものではない。
本発明では、上記被加工物、すなわち、Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金及びZr基金属ガラス合金からなる群から選択されたZr基合金材を塩素イオン中でエッチング加工し、Zr基金属ガラス合金などからなるエッチング製品を製造する方法が提供される。
【0018】
本発明で、従来、エッチング(腐蝕, etching)ができなかったZr基非晶質、準結晶、
ナノ結晶、金属ガラス合金をエッチング加工できる方法が見出された。本エッチング加工法は、当該金属合金材を塩素イオン存在下の液体媒体中で行うことができる。液体媒体としては、水を好適に使用できるが、水と有機溶媒(アルコール、アセトン、エーテル、有機酸などが包含されてよい)との混合物などであることも可能である。塩素イオン源としては、塩素イオン(Clイオン)を含有している無機化合物や有機化合物を利用でき、例えば、塩化水素、塩酸、金属の塩化物、例えば、塩化第二鉄(塩化鉄(III), ferric chloride;
FeCl3)、塩化第二銅(CuCl2)など、塩酸含有の塩化メチレンなどが挙げられる。
【0019】
本発明のエッチング加工では、塩化第二鉄の水溶液及び/又は塩化第二鉄の水懸濁液、さらには、塩酸含有の塩化第二鉄の水溶液及び/又は塩化第二鉄の水懸濁液を好適に使用できる。塩化第二鉄溶液の濃度は、特に制限されるものではないが、例えば、約10g/100mL〜飽和水溶液(92g/100mL)、好ましくは約20g/100mL〜92g/100mL、より好ましくは約35g/100mL〜92g/100mL、さらに好ましくは約40g/100mL〜92g/100mLである。本エッチングでは、塩化第二鉄濃度が20g〜92g/100ml又はモル濃度1.2M〜5.7Mであるエッチング液で金属材料を処理してエッチング加工することができる。
本エッチングでは、塩素イオン濃度は、特に制限されるものではないが、適宜、適切なものとしたエッチング液で金属材料を処理してエッチング加工することができる。エッチング加工速度は、適宜、適した速度に調整して実施できるが、例えば、0.05〜10mm/minのエッチング加工速度、さらには1.6〜10mm/minのエッチング加工速度とすることができる
。本エッチングは、好ましくは、1.6〜3.0mm/minのエッチング加工速度で行うこともできる。
【0020】
本発明の塩素イオン含有エッチング液(腐蝕液)のpH値は、適宜、適した値とすることができるが、例えば、pH6.0〜8.4が好適であり、pH6.5〜7.5であってもよい。pHの調節は、塩酸などの酸、水酸化ナトリウムなどのアルカリを使用して行うことができる。
本発明では、緩和剤により塩素イオン含有エッチング液を調整することができる。該緩和剤としては、リン酸塩などを使用でき、例えば、NaH2PO4及び/又はその水和物を利用
できる。例えば、FeCl3・H2Oの飽和水溶液と希釈水とNaH2PO4・H2Oの溶液を混合することで得られる液、塩酸と希釈水とNaH2PO4・H2Oの溶液を混合することで得られる液、塩酸含有塩化メチレンとNaH2PO4の溶液との混合液などをエッチング液として使用できる。NaH2PO4・H2Oのエッチング液中での濃度は、適宜、最適な値を選択できるが、例えば、0.01〜1.5%(w/v)、好ましくは0.1〜1.0%(w/v)、さらに好ましくは、0.5〜10%(w/v)である。
エッチングにあたっては、加工する材料に応じて、エッチング液の種類、粘度、濃度、温度、pH、処理時間、使用する加工装置などを適宜選択して、最適な結果を得るようにすることができる。また、加工断面形状や寸法も考慮し、適宜、最適な結果が得られるよう、エッチング液の種類、粘度、濃度、温度、pH、処理時間、液攪拌の有無、液攪拌の速度・頻度、使用する加工装置などを適宜選択することも好ましい。
【0021】
金属材料のフォトエッチング加工の工程は、通常、製品の設計図に従い、レジストマス
ク版のデータ、例えば、CAD/CAMデータを作成し(アートワーク工程)、被加工物たる金
属板を洗浄し、サビ、油膜などの汚れを取り除き(洗浄工程)、エッチング液に侵されない感光性の膜(レジスト)を被加工物材料の表面に形成し(コーティング工程)、一方、CADデータなどのデータを描画データに編集して、レーザープロッターなどの描画加工装
置で描画し、エッチングマスクを作製し(マスク製作工程)、エッチングマスクをコーティング済みの被加工物材料にかぶせて露光し(露光工程)、エッチングマスクで光が当った部分(感光部)を残して、レジストと取り除き(現像工程)、次に、被加工物材料をエッチング液で処理し、レジスト膜の無い部分を溶解・除去する(腐蝕する)などし(エッチング加工工程)、最後に、レジスト膜を剥離し、洗浄、研磨まどの後処理を行い(後処理工程)、エッチング製品を得るといったものである。
【0022】
本発明の典型的な態様では、例えば、板状の金属ガラス素材の少なくとも一方の面に感光性樹脂を塗布しレジスト膜を形成するレジスト膜形成工程と、前記レジスト膜に所定パターンの露光を行なうパターン露光工程と、前記金属素材に現像を行ないレジスト膜から所定パターンに従って一部金属面を露出させる現像工程と、前記金属素材をエッチングして、金属露出部分をエッチングする工程と、前記エッチング工程後にレジスト膜を剥膜する剥膜工程とを少なくとも有するフォトエッチング法を用いたエッチング金属ガラス部品の製造方法である。
レジスト膜形成工程では、例えば、ラミネーター、ディップコーターなどの装置でレジストをコートすることがなされる。液状のフォトレジストでは、例えば、スピンコート、ロールコート、スプレーコートなどによりコートでき、電着レジストでは、例えば、電解メッキによってコートをすることができ、また、ドライフィルムレジストでは、例えば、ラミネートすることでコートを実施でき、高粘度レジストを使用する場合、例えば、ディスペンサー、カーテンコーター、ディップコーターなどでコートを行うことができる。また、レジストは金属板の表面と裏面に施して、両面をエッチングするようにしてあってもよいし、あるいは、片面だけエッチングするようにしてあってもよい。レジストとしては、当該分野で知られたものを使用することができ、例えば、カゼインやポリビニルアルコールと重クロム酸アンモニウムからなる水溶性の感光樹脂、銀塩ゼラチン乳剤とポリエステル、その他の感光性樹脂組成物などが挙げられる。
現像工程の後では、任意に、ポストベーク処理をして、レジストのエッチング液に対する耐久性を高めることもできる。
【0023】
本エッチングする工程は、液温が75〜90℃の塩化第二鉄液を用い前記金属素材をエッチングして、金属露出部分をエッチングするものであってもよいし、液温が5〜50℃の塩化
第二鉄液を用い前記金属素材をエッチングして、金属露出部分をエッチングするものであってもよい。もちろん、液温が40〜75℃の塩化第二鉄液を用い前記金属素材をエッチングして、金属露出部分をエッチングするものであってもよい。
金属素材として、例えば、板厚0.2mmのZr55Cu30Al10Ni5(at%)金属ガラス組織を有する
合金板を使用し、その両面を脱脂、整面、洗浄処理した後、その両面に水溶性の感光性樹脂を塗布乾燥し、レジスト膜を形成する。次いで、露光用パターンマスクを介して、当該合金板の両方の面に蝕刻像のネガパターンを露光する。もちろん、当該合金板の一方の面だけに蝕刻像のネガパターンを露光するものであってもよい。その後、温水などの水で、未露光未硬化のレジスト膜を溶解する現像処理を行い、該合金板の表面にパターンを付したレジスト膜を得る。
【0024】
その後、レジスト膜に対して硬膜処理及びバーニング処理を施し、エッチングを行う。エッチングは、両面を行ってもよいし、片面だけ行ってもよいし、あるいは、片面ずつ二段階で行うものであってもよい。エッチングは、塩化第二鉄を含有するエッチング液に浸漬する方法(ディップ法)でも、該エッチング液をスプレーする方法(スプレー法)のいずれであってもよい。かくして、レジスト膜より露出した金属材料面にエッチング液を接
触させて、蝕刻が進行する。次いで、該合金板を水洗洗浄及び乾燥される。必要に応じて、得られたエッチング合金板はエッチング防止層を形成せしめた後、第二エッチング工程に付すこともできる。最後に、レジスト膜、必要であればエッチング防止層を剥がし、水洗乾燥し、エッチング製品を得る。
【0025】
本フォトエッチング加工は、精密なカッティングを施すことが可能で、複雑な孔、溝加工が容易で深さ調整もでき、高価な金型が不要で、各種のZr基金属ガラス合金材料に応用でき、また、凹凸加工が可能で板厚の半分を残すことも出来て調整も可能であり、加工変質がなく、設計者の意図したとおりの特性が得られる。本フォトエッチング加工は、2段
、3段といった、ハーフエッチングの組み合わせにより3次元のエッチング加工する手法も包含される。また、フォトエッチングで製作された金属板を、複数枚重ねて拡散接合し、高アスペクト製品や複雑な断面形状を持つ製品を製作することも可能である。
【0026】
拡散接合とは、高温・高圧・高真空下の条件コントロールにおいて、接着剤などを一切用いず、また、材料を溶解させることなく、材料間の原子移動のみにより互いに接合させる技術を指す。拡散接合には、好適に、拡散接合装置、例えば、量産拡散接合装置を使用することもできる。当該拡散接合技術で、密着力・耐熱性に極めて優れ、従来の熱圧着加工とは原理的に異なり、曲げても剥離することがない製品を得ることができる。該製品は、例えば、リークに対するリスクとも無縁であり、加熱による反りの発生もないという利点を有する。また、樹脂などによる接着法とは異なり、高温・真空環境においてもガスなどの発生がない。さらに、大型量産装置の複数台導入により、安定供給はもとより、量産時においては、大きなコストパフォーマンスを発揮する。かくして、切削や機械加工では不可能であった形状を実現可能である。また、フォトエッチング品と機械加工品の拡散接合も可能である。
本発明で得られたエッチング製品は、切削加工(特殊切削加工を含む)、精密スポット溶接、レーザ加工、ワイヤー加工、放電加工、精密プレス加工、エレクトロフォーミング(EF)加工などの従来の機械加工などど組み合わせて、製品製造に利用されてよい。
本フォトエッチング加工技術では、異形孔の貫通や中空も形成でき、フォトエッチングで製作した楕円孔、矩形孔などを必要な厚みまで積層することで機械加工では困難な深い孔やテーパー孔などの形成も可能である。
【0027】
本フォトエッチング加工法は、以下の用途に適用できる。すなわち、その用途・実例としては、電気部品、例えば、モーターコア、トランスコア、プリントモーターなど、電子部品、例えば、磁気ヘッドコア、フロッピー(登録商標)ジンバル、シールド部品など、プリンター部品、例えば、プリンターイタバネ、レーザーグリッド、スチールベルトなど、光学機器、例えば、カメラシャッター、絞りバネ、光学スリットなど、精密部品、例えば、時計歯車、メタルフィルター、ダイス・金型、スパイラル状スプリング、細目フライなど、建築部品、例えば、建築用装飾加工板、滑り止め板など、家庭用電気部品、例えば、カートリッジ部品、電気剃刀外刃、シャドーマスクなど、計測器部品、目盛りガラス板、エンコーダー、生体医療用部品、家庭用園芸部品、例えば、スプレー各種、ヒーター各種など、美術工芸部品、装飾部品・製品、アート部品・製品などが挙げられる。
【0028】
本フォトエッチング加工技術の使用される業界としては、例えば、鉄鋼・非鉄金属、食品・薬品製造業、医療機器・用具、臨床検査機器、金属加工・アセンブリ、精密機器、産業用電子機器、その他、自動車、分析機器、民生用電子機器、工業材料・素材、伝送機器、物流・輸送機器、半導体・液晶、化学・石油、通信機器、広告・デザイン・販売促進、OA機器、機械、研究機関(民間・公共)、燃料電池や水素製造装置などの環境対応製品などが挙げられる。
また、拡散接合技術とフォトエッチング加工技術とを適用すると、従来の加工品と置き換えることが可能であり、例えば、「長寿命化」、「小型軽薄・軽量化」、「高性能・高
効率化」などが図れるし、装置自体の環境負荷を小さくすることが可能である。また、従来の接着法・溶接法などの接合方法と比較し、接合後の洗浄・後処理が不要となるなど、工程の環境負荷軽減にも寄与する。本拡散接合技術は、介在物を一切用いず、金属間の原子移動のみで接合させるため、製造工程においても環境保護に対応するものである。
【0029】
本フォトエッチング加工法で、例えば、中空構造立体積層製品、例えば、各種デバイス用ヒートシンク、熱交換器関連部品、燃料電池関連部品、各種セパレーター、インクジェット用ノズル、流路内臓金型、各種気体・液体制御流路など、積層製品、例えば、QFN/CSP/BGA用リードフレーム、各種キャビティー、搬送トレイ、精密メタルマスク、大型又は
小型メッシュプレート、各種位置決め用治具、各種吸着板、粘性流体押出治具、マイクロリアクター用流路、各種整列用治具、自在テーパー、斜め孔形状、高アスペクト比隔壁など、その他の切削・機械加工では不可能な形状のものなど、異種金属同士の接合物などが得られる。
【0030】
本フォトエッチング加工製品は、例えば、半導体パッケージ用ヒートスプレッダ、CPU
ソケット、吸着ノズル、各種搬送用トレイ・冶具、各種メッシュ板(多孔板)、各種安全弁、PDP用各種大判エッチング製品(電磁波シールド・背面板・印刷用マスク)、蒸着及
びスパッタリング用大型マスク、長尺リニアスケール、目盛板、ロータリーエンコーダー用ディスク・マスク、各種セパレーター、各種MEMS関連製品、高精度調整用スペーサー・ワッシャー、有機EL用マスク、面状発熱体、立体樹脂上の各種金属薄膜加工、サーマルヘッドなどの用途に有用である。
【0031】
本発明の技術は、バルク金属ガラスに適用されて優れた性能を有する製品を得ることが可能である。バルク金属ガラスは、超急冷を必要とせずに容易にガラス状構造の固体金属バルク材料を与えるもので、この材料は2〜300℃の加熱で容易に粘性流動変形が可能となり、ダイキャストや押し出し成形などの方法で成形加工可能であるので便利である。ガラス状構造は、材料内部での高稠密充填、新規な局所原子配列、長範囲への均質相互作用という特徴を持った構造であり、結晶のスベリ面がなく、組織の均一性に優れることから、機械強度、耐食性、表面平滑性、精密鋳造性などにおいて、結晶化金属材料にはない優れた特性を示し、有用であり、さらに、微量の不純物元素の添加で、内部にナノ微結晶・準結晶を析出させたナノ結晶化金属ガラス合金は、それぞれ特徴的な改善特性を有し有用である。
【0032】
以下に実施例を掲げ、本発明を具体的に説明するが、この実施例は単に本発明の説明のため、その具体的な態様の参考のために提供されているものである。これらの例示は本発明の特定の具体的な態様を説明するためのものであるが、本願で開示する発明の範囲を限定したり、あるいは制限することを表すものではない。本発明では、本明細書の思想に基づく様々な実施形態が可能であることは理解されるべきである。全ての実施例は、他に詳細に記載するもの以外は、標準的な技術を用いて実施したもの、又は実施することのできるものであり、これは当業者にとり周知で慣用的なものである。
【実施例1】
【0033】
金属ガラスZr基合金材料は、Zr55Cu30Al10Ni5(at%)の金属ガラス組織を有する合金を使用した。試料としては、金属ガラス板30×30×0.2mmサイズのものに、ポジ型フォトレジ
ストを塗布して厚さ10μmの感光層を形成し、テストパターンの露光、現像などの一連の
パターニング処理を行って、Zr基金属ガラス合金箔上に、テストパターンを形成した。テストパターンは直径2mmの穴、間隔は4mm、計16個とした。
エッチング液は、表1に示すように、塩酸系、硝酸、硫酸系、フッ酸系の4種類を用意した。塩酸系エッチング液としては、塩化第二鉄水溶液(FeCl3:蒸留脱イオン水=40g:100mL)で、pH6.8に調整したものを使用した。硝酸エッチング液は、20%硝酸水溶液で、硫酸系
エッチング液は、10%硫酸水溶液で、フッ酸系エッチング液は、30%フッ酸水溶液である。
各エッチング液をバケットに入れ、そこにテストパターンを形成した金属ガラス試料を浸漬し、液温は室温から約50℃までに制御してエッチング処理した。十分に蝕刻されるまでエッチングは行った。
次に、レジストパターンを専用の剥離液で剥離処理して、金属ガラス板エッチングサンプルを作製し、エッチングパターンの断面形状解析を含めた品質評価を行った。解析には、走査型電子顕微鏡などを使用した。結果を表1に示す。
【0034】
【表1】

【0035】
フォトエッチングの品質判断基準の一つは、加工寸法の公差である。工業生産の多くの場合、素材の厚さに対して±15%の許容差が受け入れられていることから、図1に示すように、素材の厚さ:tと、サイドエッチング量(横方向にエッチングされる幅の値):Aを使用して、
○(良好)= A<t×±15%
×(不良)= A>t×±15%
とした。
塩酸系エッチング液として、塩化第二鉄の濃度を様々な濃度とした塩化第二鉄水溶液を使用した場合、様々な濃度の塩酸水溶液を使用した場合、そして様々な濃度の硝酸、硫酸系、フッ酸系エッチング液を使用して行った結果も、表1と同様の結果であった。
【実施例2】
【0036】
金属ガラスZr基合金材料は、Zr55Cu30Al10Ni5(at%)の金属ガラス組織を有する合金を使用した。試料としては、金属ガラス板30×30×0.2mmサイズのものに、ポジ型フォトレジ
ストを塗布して厚さ10μmの感光層を形成し、テストパターンの露光、現像などの一連の
パターニング処理を行って、Zr基金属ガラス合金箔上に、テストパターンを形成した。テストパターンは直径2mmの穴、間隔は4mm、計16個とした。
エッチング液は、塩化第二鉄水溶液を使用し、塩化第二鉄の濃度を表2に示すように様々な濃度としたものを使用した。
各エッチング液をバケットに入れ、そこにテストパターンを形成した金属ガラス試料を浸漬し、液温は室温から約50℃までに制御し、エッチング速度(腐蝕速度)を表2に示すように様々な速度としてエッチング処理した。十分に蝕刻されるまでエッチングは行った。
次に、レジストパターンを専用の剥離液で剥離処理して、金属ガラス板エッチングサンプルを作製し、エッチングパターンの断面形状解析を含めた品質評価を行った。解析には、走査型電子顕微鏡などを使用した。結果を表2に示す。エッチングの品質判断基準は、実施例1と同様にして行った。
【0037】
【表2】

【0038】
エッチング液として、塩化第二鉄水溶液を使用し、塩化第二鉄の濃度を表3に示すように様々な濃度とし、そしてエッチング液のpHを、表3に示すように様々な値としてエッチング処理した以外は、上記と同様にしてエッチングを行った。結果を表3に示す。
【0039】
【表3】

【実施例3】
【0040】
金属ガラスZr基合金材料として、Zr55Cu30Al10Ni5(at%)の金属ガラス組織を有する合金を使用し、リボン材(厚さ40μm)の試料に、ポジ型フォトレジストを塗布して厚さ10μmの感光層を形成し、テストパターンの露光、現像などの一連のパターニング処理を行って、Zr基金属ガラス合金箔上に、テストパターンを形成した。
エッチング液は、塩化第二鉄水溶液を使用し、塩化第二鉄の濃度を表4に示すように様々な濃度としたものを使用した。
各エッチング液をバケットに入れ、そこにテストパターンを形成した金属ガラス試料を浸漬し、液温は室温から約50℃までに制御し、エッチング速度(腐蝕速度)及びエッチング時間(腐蝕時間)を表4に示すように様々な値としてエッチング処理した。十分に蝕刻
されるまでエッチングを行った。
次に、レジストパターンを専用の剥離液で剥離処理して、金属ガラス板エッチングサンプルを作製し、エッチングパターンの断面形状解析を含めた品質評価を行った。解析には、走査型電子顕微鏡などを使用した。結果を表4に示す。エッチングの品質判断基準は、実施例1と同様にして行った。
【0041】
【表4】

【実施例4】
【0042】
実施例2と同様にして調製したテストパターンを形成した金属ガラス試料を使用して、緩和剤を添加することによるエッチング効果を調べた。緩和剤の濃度としては約1%となるように添加した。NaH2PO4が有効であることが判明した。試験の結果を、表4に示す。エッチングの品質判断基準は、実施例1と同様にして行った。緩和剤として、NaH2PO4を添
加した場合、得られたエッチングサンプルは、優れたフォトエッチング品質を示し、エッチングの表面形状、外観などの仕上がりも非常に良好であった。
【0043】
【表5】

【実施例5】
【0044】
金属ガラスZr基合金材料は、Zr60Cu30Al10(at%)の金属ガラス組織を有する合金を使
用した。試料としては、金属ガラス板30×30×0.28mmサイズのものに、ポジ型フォトレジストを塗布して厚さ10μmの感光層を形成し、パターンの露光、現像などの一連のパター
ニング処理を行った。パターンは図5に示すように、骨固定器具の穴と模様のものとした。エッチング液は、塩化第二鉄水溶液(塩化第二鉄の濃度92g/100mL)を使用し、緩和剤
として、NaH2PO4をその濃度が約0.5%となるようして、使用した。
エッチング液のpHを約6.0に調整し、バケットに入れ、そこにパターンを形成した金属
ガラス試料を浸漬し、液温は室温から約40℃までに制御し、約5分間程度エッチングした。
次に、レジストパターンを専用の剥離液で剥離処理して、金属ガラス板エッチングサン
プルを作製し、エッチングパターンの断面形状解析を含めた品質評価を行った。エッチングの品質は、優れたものであった。図5には、エッチング金属ガラス製品である骨固定具用部品を示す。
【0045】
本発明のエッチング法で得られた製品は、優れたフォトエッチング品質を示し、エッチングの表面形状、外観などの仕上がりも非常に良好であった。
本発明のエッチング技術、すなわち、塩化第二鉄を含有するエッチング液で、Zr基金属ガラス合金材料Zr55Cu30Al10Ni5をフォトエッチング加工して得られた製品の例を、図2
〜4に示す。Zr基金属ガラス合金は、強度1600〜1700MPa、ヤング率90GPa、硬度500Hvと
いった基礎物性を示し、高強度・高弾性を有する構造材料として期待されるもので、それを使用し、本発明のエッチング法で金属ガラス製微小モーター用部品、すなわち、ロータリーエンコーダー(図2)が製作された。ロータリーエンコーダーは、各種モーターに組み合わせて使用され、主に主軸に装着され、シャフトの回転数や回転角度、スピードなどを測定するための信号を送る光センサーの間に配置され、光を透過したり、遮断することで、パルス信号を取り出すための部品である。図3には、本発明のエッチング法で得られた金属ガラス製品、すなわち、板バネを示す。本板バネは、部品を止めるための、押さえ板とクッションとを兼ね備えたようなものである。図4には、エッチング金属ガラス製品(板材部品)を示す。
【産業上の利用可能性】
【0046】
本発明を利用することで、金属ガラスを素材とした超高強度材料部品、超弾性伸び材料部品、超ソフト磁性材料部品、低減衰音響材料部品などへの応用の途が開拓可能となる。特に、エッチング技術の利点を利用できることとなり、超微細機械部品、生体医療用製品をはじめとした、微細加工された製品、複雑な形状の製品を、アモルファス金属合金材を使用して製造することが可能となり、様々な用途、様々な分野での適用・応用の途を拓くことになる。
本発明は、前述の説明及び実施例に特に記載した以外も、実行できることは明らかである。上述の教示に鑑みて、本発明の多くの改変及び変形が可能であり、従ってそれらも本件添付の請求の範囲の範囲内のものである。
【図面の簡単な説明】
【0047】
【図1】エッチングされる金属板の素材の厚さ:tとサイドエッチング量(横方向にエッチングされる幅の値):Aとを示す断面図である。
【図2】本発明のエッチング法で得られた金属ガラス製品(微小モーター用部品)を示す。金属ガラスは、Zr-Cu-Ni-Al合金である。
【図3】本発明のエッチング法で得られた金属ガラス製品(微小部品)を示す。金属ガラスは、Zr-Cu-Ni-Al合金である。
【図4】本発明のエッチング法で得られた金属ガラス製品(板材部品)を示す。金属ガラスは、Zr-Cu-Ni-Al合金である。
【図5】本発明の方法で得られたエッチング金属ガラス製品(骨固定具用部品)を示す。金属ガラスは、Zr基金属ガラス合金である。
【図6】金属材料の分極曲線(電流密度-電位曲線)を示す。リン酸塩緩衝液(PBS, pH7.4; 8.0g/L NaCl, 0.2g/L KCl, 0.14g/L NaH2PO4, 0.2g/L KH2PO4含有水溶液)中で測定。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金及びZr基金属ガラス合金からなる群から選択されたZr基合金材を塩素イオン中でエッチング加工することを特徴とするエッチングZr基合金製品の製造方法。
【請求項2】
エッチング加工速度を0.05〜10mm/minとすることを特徴とする請求項1に記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
【請求項3】
塩化第二鉄濃度が20g〜92g/100ml又はモル濃度1.2M〜5.7Mであるエッチング液によりエッチング加工することを特徴とする請求項1又は2に記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
【請求項4】
塩素イオン含有エッチング液のpH値が6.0〜8.4であることを特徴とする請求項1〜3のいずれか一記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
【請求項5】
緩和剤により塩素イオン含有エッチング液を調整することを特徴とする請求項1〜4のいずれか一記載のエッチングZr基合金製品の製造方法。
【請求項6】
Zr基非晶質合金、Zr基準結晶合金、Zr基ナノ結晶合金及びZr基金属ガラス合金からなる群から選択されたZr基合金材用エッチング液であって、塩素イオンを含有していることを特徴とするエッチングZr基合金製品の製造用エッチング液。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2009−52078(P2009−52078A)
【公開日】平成21年3月12日(2009.3.12)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−218968(P2007−218968)
【出願日】平成19年8月24日(2007.8.24)
【出願人】(592200338)日本素材株式会社 (29)
【出願人】(504157024)国立大学法人東北大学 (2,297)
【Fターム(参考)】