説明

金属ナノロッド複合体およびその製造方法

【課題】 CTABの除去等のプロセスを行う必要がなく、生体への適用が可能である金属ナノロッド複合体、および、金属ナノロッド複合体を製造する方法を提供する。
【解決手段】 複数のペプチドと結合した金属ナノロッドを含む金属ナノロッド複合体であって、前記ペプチドは、アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含み、前記ペプチドは、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基によって前記金属ナノロッドに結合していることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノロッド複合体およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
金属微粒子に光を照射すると、プラズモン共鳴に由来する吸収現象が生じる。例えば、球状の金微粒子の場合には、530nm付近に吸収域を有している。一方、ロッド状の金微粒子(金ナノロッド)では、短軸に起因する530nm付近の吸収に加え、長軸に起因する長波長側の光吸収が増大する。長波長側、例えば、生体組織への透過性が高い近赤外領域に光吸収を有している金属ナノロッドは、様々な分野に応用が期待されている。金属ナノロッドの合成方法として、電気化学的方法、化学的方法および光化学的方法が、従来から知られている。電気化学的方法は、アノードより溶出する金属イオンをカソードで還元し、界面活性剤の作用でロッド状微粒子に成長させる方法であるが、処理量が製造装置の大きさに依存するため大量生産には不向きである。化学的方法は、成長核となる微細な金属種結晶を調製し、別の成長液に種結晶を浸漬してロッド状微粒子に成長させる方法であるが、種の可使時間の問題や金属微粒子成長が複数段階となるなど作業が煩雑である。光化学的方法は、界面活性剤含有溶液中の金属イオンに紫外線を照射し、ロッド状微粒子に成長させる方法であるが、光照射面のみの反応なので大量生産に向かない。これらの問題点を解決するために、ヘキサデシルトリメチルアンモニウムブロミド(CTAB)等の4級アンモニウム塩をもつ界面活性剤が形成するミセル構造を利用して、還元剤を用いて金イオンを金ナノロッドに変換する方法が開発されている(例えば、特許文献1参照)。
【0003】
金属ナノロッドは、生体内の近赤外イメージングへの応用が検討されている。前記方法で得られる金属ナノロッドはCTABが表面に吸着した状態で水中に安定して分散したものであるが、CTABは、高い細胞毒性を示す。そのため、前記金属ナノロッドは、そのままでの生体内への適用はできない。したがって、前記金属ナノロッドの分散安定性を保ちつつ、水中に残存する余剰のCTABを除去して、さらに分散剤や標的部位への移行シグナルによって金属表面を再修飾する必要があった(例えば特許文献2参照)。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2004−292627号公報
【特許文献2】特開2010−53111号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
そこで、本発明は、CTABの除去等のプロセスを行う必要がなく、生体への適用が可能である金属ナノロッド複合体を提供することを目的とする。また、本発明は、CTAB等の界面活性剤、種結晶および光化学反応を使用することなく、金属ナノロッド複合体を製造する方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0006】
前記目的を達成するために、本発明の金属ナノロッド複合体は、
複数のペプチドと結合した金属ナノロッドを含む金属ナノロッド複合体であって、
前記ペプチドは、アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含み、
前記ペプチドは、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基によって前記金属ナノロッドに結合していることを特徴とする。
【0007】
また、本発明の金属ナノロッド複合体の製造方法は、
アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含むペプチドと、金属化合物とを含む反応液を調製する反応液調製工程と、
前記反応液中で前記ペプチドの集合体を形成するペプチド集合体形成工程と、
前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液中で、前記ペプチドと結合した金属ナノロッドを生成させる金属ナノロッド生成工程とを含むことを特徴とする。
【発明の効果】
【0008】
本発明によると、CTABの除去等のプロセスを行う必要がなく、生体への適用が可能である金属ナノロッド複合体を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、CTAB等の界面活性剤、種結晶および光化学反応を使用する必要がなくなるため、前記金属ナノロッド複合体を効率よく、低コストで製造することができる。
【図面の簡単な説明】
【0009】
【図1】図1は、実施例1および実施例2で得られた試料(金属ナノロッド複合体)の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図1(a)は実施例1、図1(b)は実施例2の試料のTEM像である。
【図2】図2は、比較例1および比較例2で得られた試料の透過型電子顕微鏡(TEM)像である。図2(a)は比較例1、図2(b)は比較例2の試料のTEM像である。
【図3】図3は、実施例および比較例で得られた反応後の反応液の吸収スペクトルである。図3(a)は実施例1、図3(b)は比較例1、図3(c)は比較例2の反応後の反応液の吸収スペクトルである。
【図4】図4は、実施例および比較例における、金属粒子形成の推定メカニズムを説明する図である。
【発明を実施するための形態】
【0010】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基が、L体のアミノ酸残基であることが好ましい。
【0011】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基が、リシン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸および2,3−ジアミノプロピオン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0012】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基が、バリン、イソロイシン、フェニルアラニンおよびナフチルアラニンから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。
【0013】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記ペプチドが、水溶液中でβシート構造を形成するものであることが好ましい。
【0014】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記ペプチドのアミノ酸残基数が、5残基〜30残基の範囲内であることが好ましい。
【0015】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記ペプチドが、下記(P1)のペプチドであることが好ましい。
(P1)配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド
配列番号1:Ala−Ile−Ala−Lys−Ala−Xaa−Lys−Ile−Ala
前記配列番号1のアミノ酸配列において、Xaaは、L−α−2−ナフチルアラニン(Nal(2))である。
【0016】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記金属ナノロッドが、金、パラジウム、白金から選ばれる少なくとも1つの金属を含むことが好ましい。
【0017】
本発明の金属ナノロッド複合体において、前記金属ナノロッドのアスペクト比が2〜100の範囲内であることが好ましい。
【0018】
本発明の金属ナノロッド複合体の製造方法において、前記金属ナノロッド生成工程が、前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液を還元剤の共存下で化学還元する工程であることが好ましい。
【0019】
本発明の金属ナノロッド複合体の製造方法における、前記反応液調製工程において、
前記反応液の前記ペプチド濃度に対する前記金属化合物の濃度の比率を、0.01〜100の範囲内とすることが好ましい。
【0020】
本発明の金属ナノロッド複合体は、前記本発明の金属ナノロッド複合体の製造方法によって製造されたことを特徴とする。
【0021】
つぎに、本発明について詳細に説明する。ただし、本発明は、以下の記載により制限されない。
【0022】
本発明の金属ナノロッド複合体は、例えば、分散媒に相溶する側鎖をもつアミノ酸および金属表面に結合する側鎖をもつアミノ酸を配置したペプチドを用いることによってペプチド集合体を形成し、それを形状規定場(鋳型)として鎖状の金属微粒子(金属ナノロッド)を合成して製造することができるので、細胞毒性を有する界面活性剤を使用せずに製造することができる。
【0023】
金属ナノロッドを合成するための形状規定場を提供し、金属ナノロッドの分散安定化に寄与するペプチドとしては、金属と親和性のあるアミノ基含有側鎖のアミノ酸および集合体安定化のための疎水性基含有側鎖のアミノ酸配置した、βシート構造を形成可能な5残基程度から30残基程度のペプチドが好ましい。前記ペプチドは、さらに、親水性向上のための親水性基含有側鎖のアミノ酸を含むことが好ましい。前記親水性基含有側鎖のアミノ酸は、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸であってもよい。前記ペプチドのアミノ酸残基数は、8〜20残基の範囲内にあることがより好ましい。ここで、βシート構造とは、隣り合ったペプチド鎖の間で、一方の主鎖のN−H部分が、隣接する他方の主鎖のC=Oの部分と、水素結合を形成し、全体として平面構造を形成する構造をいう。
【0024】
前記ペプチドは、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基として、リシン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸および2,3−ジアミノプロピオン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。例えば、リシンは、金と親和性を有しており、好ましい。なお、従来、金との結合に、システイン等の硫黄原子を有するアミノ酸を用いる検討がされているが、ペプチドが自己組織的に形成する集合体を形状規定場(鋳型)として鎖状の金属微粒子(金属ナノロッド)を合成する製造方法においては、アミノ基含有側鎖のアミノ酸を用いることが好ましい。
【0025】
また、前記ペプチドは、前記疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基として、バリン、イソロイシン、フェニルアラニンおよびナフチルアラニンから選ばれる少なくとも1つを含むことが好ましい。前記βシート構造を形成する場合、アミノ酸のβ位に枝分かれ構造を有する基や、フェニル基やナフチル基のような、嵩高い基を有することが好ましい。
【0026】
前記ペプチドは、標的部位への移行シグナルを結合したペプチドであることも好ましい。なお、前記標的部位としては、ガン細胞表層の受容体タンパク質などが挙げられる。例えば、ガン細胞表層の受容体タンパク質を標的部位とし、前記部位への移行シグナルを結合したペプチドを用いた金属ナノロッド複合体は、ガン細胞表層に選択的に集積する。前記選択的に集積した金属ナノロッド複合体に、近赤外光を照射すると、フォトサーマル効果(吸収した光エネルギーを効率よく熱に変換する効果)を発現する。近赤外光は、生体組織への透過性が高いので、体内に存在する金属ナノロッド複合体を、体外から照射する近赤外光で、選択的に加熱することができる。したがって、体外からの近赤外光照射によって前記金属ナノロッド複合体が集積したガン細胞付近のみを加熱できるので、目的とするガン細胞を選択的に死滅させることが可能となる。
【0027】
生体内の標的部位に集積させるためには、前記ペプチドは、L体のアミノ酸残基を有していると、生体組織との親和性がよいため好ましい。特に、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基がL体のアミノ酸残基であることが好ましい。
【0028】
前記ペプチドは、例えば、疎水性基含有側鎖のアミノ酸と親水性基含有側鎖のアミノ酸とが交互に配置され、水溶液中でβシート構造を形成したときに、両親媒性となるものを好適に用いることができる。また、アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基は、側鎖のNHが、βシート構造における親水性面と疎水性面との両方に配置されていることが好ましい。これにより、前記アミノ基含有側鎖の窒素部分と金属とを結合させ、かつ、ペプチドの親水性を向上させることができる。
【0029】
前記ペプチドと、金属化合物とを含む反応液を用いることにより、金属ナノロッド複合体を製造することができる。前記ペプチドは、前記反応液中で、集合体を形成し、集合体内部に疎水空間を形成することができるが、前記疎水空間が、金属ナノロッドの形状規定場(鋳型)となる。前記疎水空間が形成される際に、前記疎水空間中に金属化合物(金属イオン)が取り込まれ、前記疎水空間中では前記金属イオンの局所濃度が高くなる。前記集合体内部において、金属イオンは、外部から添加される還元剤、あるいは、前記ペプチドによって、金属へと還元され、簡易な工程で目的とする金属ナノロッドを得ることができる。なお、前記疎水空間の形状を変えることで、その形状に応じた金属微粒子(ナノロッド)を得ることができる。この金属ナノロッドは、前記形状規定場を形成するペプチドと結合した金属ナノロッド複合体の形で得ることができる。前記金属化合物として塩化金酸を用いた場合は、金ナノロッド複合体を形成することができるが、これに限られない。金は、生体内での安定性の点から好ましく用いることができる。パラジウムや白金等、他の金属を用いた場合でも、同様のプロセスで金属ナノロッド複合体を製造することができる。
【0030】
前記ペプチドとしては、例えば、下記(P1)のペプチドを用いることができる。
(P1)配列番号1のアミノ酸配列からなる、または前記アミノ酸配列を含むペプチド
配列番号1:Ala−Ile−Ala−Lys−Ala−Xaa−Lys−Ile−Ala
前記配列番号1のアミノ酸配列において、Xaaは、L−α−2−ナフチルアラニン(Nal(2))である。前記ペプチド(P1)としては、例えば、N末端がアセチル化され、C末端がアミド化された、下記化学式で表わされるペプチドが挙げられるが、末端基はこれらに限定されるものではない。前記ペプチドを用いることで、CTAB等の界面活性剤を用いることなく、容易に金属ナノロッド複合体を製造することができる。
【化1】

【0031】
金属ナノロッドとしては、アスペクト比が1より大きく、長軸長さが600nm程度以下であって、局在表面プラズモン共鳴の吸収波長が700〜2000nmの範囲の金ナノロッドであると、フォトサーマル療法等の用途に好適に使用できる。金属ナノロッドの長軸長さは、10〜200nmの範囲内であることがより好ましく、さらに好ましくは、20〜100nmの範囲内である。また、前記アスペクト比が2〜100の範囲内であることが好ましく、より好ましくは、5〜20の範囲内である。金属ナノロッドの大きさや形状を変えることによって、吸収特性等の光学特性を調整することができ、光源や対象物に合わせた金属ナノロッド複合体とすることができる。
【0032】
金ナノロッドの性質を利用して、金ナノロッドをガン細胞等の標的部位へ選択的に集積し、近赤外光照射によって光から熱へのエネルギー変換によりガン細胞を死滅させるフォトサーマル療法が有用視されている。従来の金ナノロッドは、ロッド形状規定のためにCTAB等の界面活性剤による被覆が必須であったため、フォトサーマル療法への適用のためには細胞毒性を有する前記界面活性剤を金ナノロッド表面から除去した後、分散剤および標的部位への移行シグナルによって金表面を再修飾する必要があった。しかし、上述のとおり、本発明の金属ナノロッド複合体は、ロッド形成時において用いる前記ペプチドが、分散剤として働くとともに、標的部位への移行シグナルも含むことができるため、製造における簡素化および効率化が可能となる。
【0033】
ここで、前記ペプチドとして、標的部位への移行シグナルを結合したペプチドを併用すれば、前記工程のみで、標的部位へのターゲティングが可能なフォトサーマル治療用物質を得ることができる。
【0034】
本発明の金属ナノロッド複合体の製造方法は、アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含むペプチドと、金属化合物とを含む反応液を調製する反応液調製工程と、前記反応液中で前記ペプチドの集合体を形成するペプチド集合体形成工程と、前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液中で、前記ペプチドと結合した金属ナノロッドを生成させる金属ナノロッド生成工程とを含むことを特徴とする。前記反応液調製工程、前記ペプチド集合体形成工程、および、前記金属ナノロッド生成工程は、別々に行ってもよいし、同時に行ってもよい。
【0035】
前記反応液調製工程において、前記反応液の前記ペプチド濃度(mol/L)に対する前記金属化合物の濃度(mol/L)の比率は、0.01〜100の範囲内とすることが好ましい。前記比率は、より好ましくは、0.1〜10の範囲内であり、さらに好ましくは、0.2〜5の範囲内である。前記ペプチド濃度に対する前記金属化合物の濃度の比率が大きすぎると、ペプチドは塩化金酸により短時間のうちに酸化されて特定の集合体を形成しにくくなる。また、前記ペプチド濃度に対する前記金属化合物の濃度の比率が小さすぎると、塩化金酸はペプチドにより短時間のうちに還元されて結晶成長が起こり難くなる。
【0036】
前記金属ナノロッド生成工程は、前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液を還元剤の共存下で化学還元する工程とすることが好ましい。前記還元剤としては、例えば、シアノトリヒドロほう酸ナトリウム(NaBHCN)、テトラほう酸ナトリウム(NaBH4)、アスコルビン酸、クエン酸、トリエタノールアミン等を用いることができる。また、前記ペプチド自体が還元剤として働く場合、本工程で新たに還元剤を加える必要はない。
【実施例】
【0037】
つぎに、本発明の実施例について説明する。なお、本発明は、下記の実施例によってなんら限定および制限されない。また、各実施例および各比較例における各種特性および物性の測定および評価は、下記の方法により実施した。
【0038】
(透過型電子顕微鏡による観察)
微粒子の観察は、透過型電子顕微鏡(日本電子株式会社製、商品名JMS2100)を使用して行った。イオンスパッター(日本電子株式会社製、商品名JFC−1100E)を用いて親水化したコロジオン膜付メッシュ(日新EM株式会社製)を、試料に1分間浸透させ、2%リンタングステン酸を1分間のせて染色し、超純水で洗浄して1時間真空乾燥し、200kVの加速電圧のもとで測定を行った。
【0039】
[実施例1]
下記化学式のペプチド(Ac−Ala−Ile−Ala−Lys−Ala−Nal(2)−Lys−Ile−Ala−NH、Nal(2)はL−α−2−ナフチルアラニン)のトリフルオロエタノールストック溶液から終濃度が100μmol/Lになるようにペプチドをマイクロチューブに採取して乾燥後、超純水を100μL加えて50℃で2分間超音波処理し、ペプチド分散液を調製した。前記ペプチド分散液を滅菌フィルター(φ0.2μm)に通し、ろ液に100μmol/Lの塩化金酸水溶液を100μL加え、1日間40℃でインキュベーションを行った後、25℃で6日間静置した。得られた溶液に、800μmol/Lのシアノトリヒドロほう酸ナトリウム(NaBHCN)水溶液を5μL加えて1時間還元する操作を5回繰り返した(還元剤の添加量は合計25μLとなる)。
【0040】
【化1】

【0041】
得られた試料をTEM観察したところ、長軸の長さが50〜600nm、アスペクト比が2〜20のロッド状の金粒子(金ナノロッド)が確認できた。TEM写真(図1(a))では、前記金ナノロッドの周りに、リンタングステン酸による有機物(ペプチド)起因の染色箇所が見られる。このTEM写真からは、金ナノロッドの周りにはペプチドが存在し、金ナノロッド複合体が得られていることがわかる。
【0042】
[実施例2]
実施例1と同じペプチドのトリフルオロエタノールストック溶液から終濃度が100μmol/Lになるようにペプチドをマイクロチューブに採取して乾燥後、超純水を100μL加えて50℃で2分間超音波処理し、ペプチド分散液を調製した。前記ペプチド分散液を滅菌フィルター(φ0.2μm)に通し、ろ液に100μmol/Lの塩化金酸水溶液を100μL加え、1日間40℃でインキュベーションを行った後、25℃で6日間静置した。得られた試料をTEM観察したところ、実施例1と同様に、長軸の長さが50〜600nm、アスペクト比が2〜20のロッド状の金粒子(金ナノロッド)が確認できた。TEM写真(図1(b))からは、前記金ナノロッドの周りに、ペプチドが存在し、金ナノロッド複合体が得られていることがわかる。前記ペプチドを用いた場合には、NaBHCNを使用することなく、還元が可能であった。
【0043】
[比較例1]
実施例1と同じペプチドのトリフルオロエタノールストック溶液から終濃度が100μmol/Lになるようにペプチドをマイクロチューブに採取して乾燥後、超純水を100μL加えて50℃で2分間超音波処理し、ペプチド分散液を調製した。前記ペプチド分散液を滅菌フィルター(φ0.2μm)に通し、1日間40℃でインキュベーションを行った後、25℃で6日間静置し、ペプチド集合体を形成した。このペプチド分散液に塩化金酸を添加し、NaBHCNで還元した。ペプチド、塩化金酸およびNaBHCNの濃度は実施例1と同じである。得られた試料をTEM観察したところ、ペプチド集合体の中に球状の金粒子が確認できた(図2(a))。ロッド状の金粒子は得られなかった。
【0044】
[比較例2]
実施例1と同様にペプチドモノマーと塩化金酸を混合し、その直後にNaBHCNで還元した。得られた溶液を1日間40℃でインキュベーションを行い、25℃で6日間静置した。ペプチド、塩化金酸およびシアノトリヒドロほう酸ナトリウムの濃度は実施例1と同じである。得られた試料をTEM観察したところ、ペプチド集合体の中に球状の金粒子が確認できた(図2(b))。ロッド状の金粒子は得られなかった。
【0045】
図3(a)に実施例1、図3(b)に比較例1、図3(c)に比較例2で得られた試料の吸収スペクトルをそれぞれ示す。比較例1および比較例2では、540nm付近に吸収ピークが確認できた。このピークは、金ナノ粒子の表面プラズモンに由来するものと考えられる。一方、実施例1では、540nm付近では、はっきりしたピークが検出されず、長波長側にブロードな吸収帯を示した。これは、アスペクト比が大きい棒状の金ナノ粒子(金ナノロッド)が形成されたことによるものである。このように長波長側の吸収を有するので、実施例1で得られた試料は、フォトサーマル治療用物質としての適用が可能である。
【0046】
図4に、実施例および比較例における金属粒子形成の推定メカニズムを示す。図4(a)は実施例、図4(b)は比較例1、図4(c)は比較例2における推定メカニズムである。実施例においては、集合体となったペプチド中の疎水空間に塩化金酸が取り込まれ、前記疎水空間内で金に還元されることで、集合体の形状(鋳型)に応じた形状の金属ナノロッド複合体が形成されたものと考えられる。比較例においては、ペプチドの形状が鋳型とはならず、球状の金属粒子が形成されたと考えられる。ただし、本推測は、本発明を限定するものではない。
【産業上の利用可能性】
【0047】
本発明によると、CTABの除去等のプロセスを行う必要がなく、生体への適用が可能である金属ナノロッド複合体を提供することができる。また、本発明の製造方法によると、前記金属ナノロッド複合体を効率よく、低コストで製造することができる。本発明で提供される金属ナノロッド複合体は、フォトサーマル治療用物質、バイオイメージング用物質等として使用することができ、その用途は限定されず、前述の用途に加えあらゆる分野で使用することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
複数のペプチドと結合した金属ナノロッドを含む金属ナノロッド複合体であって、
前記ペプチドは、アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含み、
前記ペプチドは、前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基によって前記金属ナノロッドに結合していることを特徴とする、金属ナノロッド複合体。
【請求項2】
前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基が、L体のアミノ酸残基であることを特徴とする、請求項1記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項3】
前記アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基が、リシン、オルニチン、2,4−ジアミノブタン酸および2,3−ジアミノプロピオン酸からなる群から選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1または2記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項4】
前記疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基が、バリン、イソロイシン、フェニルアラニンおよびナフチルアラニンから選ばれる少なくとも1つを含むことを特徴とする、請求項1から3のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項5】
前記ペプチドが、水溶液中でβシート構造を形成するものであることを特徴とする、請求項1から4のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項6】
前記ペプチドのアミノ酸残基数が、5残基〜30残基の範囲内であることを特徴とする、請求項1から5のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項7】
前記ペプチドが、下記(P1)のペプチドであることを特徴とする請求項1から6のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
(P1)配列番号1のアミノ酸配列を含むペプチド
配列番号1:Ala−Ile−Ala−Lys−Ala−Xaa−Lys−Ile−Ala
前記配列番号1のアミノ酸配列において、Xaaは、L−α−2−ナフチルアラニン(Nal(2))である。
【請求項8】
前記金属ナノロッドが、金、パラジウム、白金から選ばれる少なくとも1つの金属を含むことを特徴とする、請求項1から7のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項9】
前記金属ナノロッドのアスペクト比が2〜100の範囲内であることを特徴とする、請求項1から8のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体。
【請求項10】
アミノ基含有側鎖のアミノ酸残基および疎水性基含有側鎖のアミノ酸残基を含むペプチドと、金属化合物とを含む反応液を調製する反応液調製工程と、
前記反応液中で前記ペプチドの集合体を形成するペプチド集合体形成工程と、
前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液中で、前記ペプチドと結合した金属ナノロッドを生成させる金属ナノロッド生成工程とを含むことを特徴とする、
金属ナノロッド複合体の製造方法。
【請求項11】
前記金属ナノロッド生成工程が、
前記ペプチドの集合体が形成された前記反応液を還元剤の共存下で化学還元する工程であることを特徴とする、請求項10記載の金属ナノロッド複合体の製造方法。
【請求項12】
前記反応液調製工程において、
前記反応液の前記ペプチド濃度に対する前記金属化合物の濃度の比率を、0.01〜100の範囲内とすることを特徴とする、請求項10または11記載の金属ナノロッド複合体の製造方法。
【請求項13】
請求項10から12のいずれか一項に記載の金属ナノロッド複合体の製造方法によって製造されたことを特徴とする金属ナノロッド複合体。


【図3】
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【図4】
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【図1】
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【図2】
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【公開番号】特開2012−188362(P2012−188362A)
【公開日】平成24年10月4日(2012.10.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−51229(P2011−51229)
【出願日】平成23年3月9日(2011.3.9)
【出願人】(597065329)学校法人 龍谷大学 (120)
【Fターム(参考)】