説明

金属ナノ構造体から作られる透明導電体におけるヘーズの改善のための金属ナノ構造体の精製

相対的に高アスペクト比のナノ構造体および低アスペクト比の形状のナノ構造体を含む粗製の複合反応混合物から金属ナノワイヤを単離および精製する方法、ならびに精製されたナノ構造体から作られる導電性フィルムが提供される。さらに別の実施形態は、少なくとも200オーム/sqの抵抗を有する、複数の銀ナノワイヤの導電性ネットワーク、および導電性フィルム1平方ミリメートル当たり1500個を超えない10未満のアスペクト比を有するナノ構造体を含む導電性フィルムを提供する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
関連出願への相互参照
本出願は、米国特許法§119(e)の下、2009年8月24日に出願された米国仮特許出願第61/274,974号の利益を主張する。この仮出願は、その全体が本明細書において参照として援用される。
【0002】
背景
技術分野
本開示は、金属ナノ構造体の精製、および該構造体から作られる低ヘーズの透明導電体に関する。
【背景技術】
【0003】
関連技術の説明
透明導電体は、光学的に透明で導電性のあるフィルムである。透明導電体は、ディスプレイ、タッチパネル、光電池(PV)、各種の電子ペーパー、静電遮蔽、加熱または反射防止用コーティング(例えば、ウィンドウ)などの領域で広範な用途がある。種々の技術により、導電性ナノ構造体などの1種または複数の導電性媒質をベースにした透明導電体が製造されている。一般に、導電性ナノ構造体は、長距離相互接続性により導電性ネットワークを形成する。
【0004】
最終用途に応じて、例えば、シート抵抗、光学的透明度、およびヘーズを含む所定の性能パラメーターを有する透明導電体を作り出すことができる。これらの性能パラメーターは、一般に、導電性ナノ構造体の形態および単分散性に直接的に関連している。
【0005】
現在、金属ナノ構造体を調製するのに利用可能な合成方法は、典型的には、一連のナノ構造体形態をもたらすが、その形態がすべて望ましいとは限らない。したがって、当技術分野では、特定の望ましい形態の金属ナノ構造体を単離および濃縮する必要性がある。
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
簡単な要旨
相対的に高アスペクト比のナノ構造体および低アスペクト比の形状のナノ構造体を含む粗製の複合反応混合物から金属ナノワイヤを単離および精製する方法、ならびに精製されたナノ構造体から作られる導電性フィルムが提供される。
【課題を解決するための手段】
【0007】
一実施形態は、
(a)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体を含む、ナノ構造体の粗混合物であって、ポリオール溶媒中に懸濁されている粗混合物を準備するステップ、
(b)水を粗混合物と合わせることによって第1の希釈粗混合物を準備するステップ、
(c)希釈粗混合物をケトンと合わせることによって合わせられたケトン混合物を準備するステップ、
(d)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体を含む沈殿物、および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を準備するステップであって、沈殿物の準備が、合わせられたケトン混合物の沈降を可能にすることを含む、ステップ、および
(e)沈殿物から、10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を除去するステップ
を含む、金属ナノワイヤを単離する方法を提供する。
【0008】
さらなる特定の実施形態において、該方法は、
(f)(d)の沈殿物を水に再懸濁して第2の希釈粗混合物を準備するステップ、および
(g)ステップ(c)〜(f)を繰り返すステップ
をさらに含み得る。
【0009】
種々の実施形態において、10以上のアスペクト比を有するナノ構造体は、銀ナノワイヤである。
【0010】
種々の実施形態において、ケトンはアセトンである。
【0011】
さらなる実施形態は、
10以上のアスペクト比を有する複数のナノ構造体、
液体担体
を含むインク組成物であって、10以上のアスペクト比を有するナノ構造体が、
(a)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体を含む、ナノ構造体の粗混合物であって、ポリオール溶媒中に懸濁されている粗混合物を準備するステップ、
(b)水を粗混合物と合わせることによって第1の希釈粗混合物を準備するステップ、
(c)希釈粗混合物をケトンと合わせることによって合わせられたケトン混合物を準備するステップ、
(d)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体を含む沈殿物、および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を準備するステップであって、沈殿物の準備が、合わせられたケトン混合物の沈降を可能にすることを含む、ステップ、
(e)沈殿物から、10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を除去するステップ、
(f)(d)の沈殿物を水に再懸濁して第2希釈粗混合物を準備するステップ、および
(g)ステップ(c)〜(f)を繰り返すステップ
によって精製される、インク組成物を提供する。
【0012】
さらに別の実施形態は、少なくとも200オーム/sqの抵抗を有する、複数の銀ナノワイヤの導電性ネットワーク、および導電性フィルム1平方ミリメートル当たり1500個を超えない10未満のアスペクト比を有するナノ構造体を含む導電性フィルムを提供する。
【0013】
さらなる実施形態において、このような導電性フィルムは、0.5%を超えないヘーズを有する。
【0014】
さらなる実施形態では、少なくとも600オーム/sqの抵抗、および導電性フィルム1平方ミリメートル当たり500個を超えない10未満のアスペクト比を有するナノ構造体を有する導電性フィルムが提供される。
【0015】
さらなる実施形態において、このような導電性フィルムは、0.25%を超えないヘーズを有する。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は、本開示の実施形態によるアセトン洗浄(複数可)によって金属ナノワイヤを精製する工程を示す。
【図2】図2は、単位面積の透明導電体中のナノ構造体の計数値を示し、10未満のアスペクト比を有するナノ構造体が視覚的に識別され、計数される。
【発明を実施するための形態】
【0017】
発明の詳細な説明
本明細書では、種々の形態のナノ構造体からなる混合物から特定形態のナノ構造体を単離および精製する方法が提供される。特に、精製された金属ナノ構造体は、実質的にすべて、10以上のアスペクト比を有する。
【0018】
本明細書中で使用する場合、「導電性ナノ構造体」または「ナノ構造体」は、一般に、導電性のあるナノサイズの構造体を指し、その少なくとも1つの次元は、500nm未満、より好ましくは250nm未満、100nm、50nm、または25nmである。典型的には、ナノ構造体は、元素状金属(例えば、遷移金属)または金属化合物(例えば、酸化金属)などの金属性材料で作られる。金属性材料は、バイメタル材料、あるいは2種以上の金属を含む合金であってもよい。適切な金属としては、限定はされないが、銀、金、銅、ニッケル、金メッキされた銀、白金、およびパラジウムが挙げられる。
【0019】
ナノ構造体は、任意の形状またはジオメトリーを取り得る。所定のナノ構造体の形態は、ナノ構造体の直径と比較した長さの比率であるそのアスペクト比によって、単純化された方式で規定することができる。例えば、特定のナノ構造体は、等方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比=1)。典型的な等方性ナノ構造体としては、ナノ粒子が挙げられる。好ましい実施形態において、ナノ構造体は、異方的に形づくられる(すなわち、アスペクト比≠1)。異方性ナノ構造体は、典型的には、その長さに沿った縦軸を有する。典型的な異方性ナノ構造体としては、本明細書中で定義されるようなナノワイヤ、ナノロッド、およびナノチューブが挙げられる。
【0020】
ナノ構造体は、中身が詰まっていても、中空でもよい。中身が詰まったナノ構造体としては、例えば、ナノ粒子、ナノロッド、およびナノワイヤが挙げられる。「ナノワイヤ」は、典型的には、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比を有する長く細いナノ構造体を指す。典型的には、ナノワイヤは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。「ナノロッド」は、典型的には、10を超えないアスペクト比を有する短く幅広の異方性ナノ構造体である。
【0021】
中空のナノ構造体としては、例えば、ナノチューブが挙げられる。典型的には、ナノチューブは、10を超える、好ましくは50を超える、より好ましくは100を超えるアスペクト比(長さ:直径)を有する。典型的には、ナノチューブは、500nmを超える、1μmを超える、または10μmを超える長さである。
【0022】
目標の導電率を達成するには、ナノ構造体が長いほど必要とされ得るものが少ないので、より高アスペクト比のナノ構造体(例えば、ナノワイヤ)は、より低アスペクト比(10を超えない)のナノ構造体と比較して有利である可能性がある。また、導電性フィルム中のナノ構造体が少ないほど、より高い光学的透明度およびより低いヘーズにつながる可能性があり、双方のパラメーターとも、ディスプレイ技術において広範な範囲の応用を見出している。
【0023】
金属ナノ構造体の合成および精製
溶液をベースにした合成(「ポリオール」法とも呼ばれる)は、金属ナノ構造体の大規模製造においてかなり実際的である。例えば、Sun, Y.ら、Science、298巻、2176頁、2002年;Sun, Y.ら、Nano Lett.、2巻、165頁、2002年;Sun, Y.ら、Adv. Mater.、14巻、833頁、2002年;Kim, F.ら、Angew. Chem. Int. Ed.、116巻、3759頁、2004年;および米国特許出願公開第2005/0056118号を参照されたい。ポリオール法は、ポリ(ビニルピロリドン)(「PVP」)の存在下での、少なくとも2つのヒドロキシル基を含む有機化合物であるポリオール(例えば、エチレングリコール)による金属ナノ構造体の前駆体(例えば、金属塩)の還元を伴う。典型的には、ポリオールは、還元剤および溶媒の二重の機能を果たす。典型的なポリオールとしては、限定はされないが、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、およびグリセロールが挙げられる。
【0024】
概して、形成されるナノ構造体の形状およびサイズは、PVPおよび金属塩の相対量、PVPおよび金属塩の濃度、反応時間、および反応温度を含むパラメーターによって影響される。さらに、前記反応混合物に適切なイオン性添加物(例えば、テトラブチルアンモニウムクロリドまたはテトラブチルアンモニウムブロミド)を添加すると、生じるナノワイヤの収率および単分散性が増大することが見出された。この合成は、本明細書中にその全体で組み込まれる、出願人らの共有で同時係属の米国特許出願第11/766552号中により詳細に記載されている。
【0025】
ポリオール法は、主としてナノワイヤを生じるように最適化できるが、実際には、ナノ構造体の複合の集合が、粗反応生成物として形成される。例えば、ナノワイヤに加えて、ナノ粒子、ナノ立方体、ナノロッド、ナノ角錐、および多重双晶粒子を含む種々の形態の金属ナノ構造体も得られていた可能性がある。この問題は、合成成分中の痕跡量の汚染物質によってもたらされると思われる、その方法の不十分な再現性によってさらにひどくなる。例えば、Wiley, B.ら、Nano Lett.、4巻(9号)、1733〜1739頁、2004年を参照されたい。
【0026】
本明細書中で考察するように、その中でナノ構造体が導電性ネットワークを形成する透明導電体を形成するには、ナノワイヤ以外のナノ構造体の量を低減することが望ましいことがある。なぜなら、後者は導電率に効果的に寄与しない可能性があり、かつそれらの存在がヘーズに寄与する可能性があるからである。本明細書中で使用する場合、「低アスペクト比のナノ構造体」または「汚染物質」としては、例えば、相対的に幅広および/または短い(例えば、ナノ粒子、ナノロッド)および相対的に小さいアスペクト比(<10)を有するナノ構造体が挙げられる。これらの低アスペクト比のナノ構造体の一部またはすべては、暗視野顕微鏡写真でのそれらの明るい外観のため、導電性フィルム中の「明るいオブジェクト」として認識される可能性がある。したがって、明るいオブジェクトは、導電性フィルムのヘーズを有意に増加させる可能性がある。
【0027】
粗生成物からなる混合物中の低アスペクト比のナノ構造体からナノワイヤを単離することは、困難であるか、あるいは非効率的であることがわかっている。特に、典型的な単離方法は沈降を伴い、これはナノ構造体の沈殿を可能し、同時に、ポリオールおよびPVPを含む液相が上清液を形成する。しかし、低アスペクト比のナノ構造体は、ナノワイヤと共沈殿し、分離することがほとんど不可能になるのが通常である。加えて、共沈殿したナノワイヤおよび低アスペクト比のナノ構造体は、液相中に再懸濁させるのが困難であることが多く、さらなる精製のどんな努力をも妨害する。さらに、特定のポリオール溶媒は、非常に粘性があるので(例えば、グリセロール)、認識される任意の量のナノ構造体が沈殿できる前に、長い沈降工程が必要とされる可能性がある。
【0028】
したがって、一実施形態では、金属ナノワイヤおよび10未満のアスペクト比を有する金属ナノ構造体(例えば、ナノ粒子およびナノロッド)を含む粗反応混合物から金属ナノワイヤを単離する、合成後の精製方法が提供される。特に、該精製方法は、10未満のアスペクト比を有する金属ナノ構造体の実質的にすべてを選択的および累進的に除去する、ケトン(例えば、アセトン)による1回または複数の洗浄サイクルを導入する。該方法は、ナノワイヤが多数を占める沈殿の急速な形成、さらなる精製のためのナノワイヤ沈殿の容易な再懸濁、および上清液中の低アスペクト比(例えば、10を超えない)のナノ構造体の選択的再分布を可能にすることによって、ナノワイヤ精製で一般的に直面する困難に対処する。
【0029】
より具体的には、該方法は、
(a)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体を含む、ナノ構造体の粗混合物であって、ポリオール溶媒中に懸濁されている粗混合物を準備するステップ、
(b)水を粗混合物と合わせることによって第1の希釈粗混合物を準備するステップ、
(c)希釈粗混合物をケトンと合わせることによって合わせられたケトン混合物を準備するステップ、
(d)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体を含む沈殿物、および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を準備するステップであって、沈殿物の準備が、合わせられたケトン混合物の沈降を可能にすることを含む、ステップ、および
(e)沈殿物から、10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を除去するステップ
を含む。
【0030】
好ましくは、該方法は、さらに、
(f)(d)の沈殿物を水に再懸濁して第2希釈粗混合物を準備するステップ、および
(g)ステップ(c)〜(f)を繰り返すステップ
を含む。
【0031】
本明細書中で使用する場合、「粗混合物」は、ナノワイヤ、および任意レベルの低アスペクト比のナノ構造体(このような低アスペクト比のナノ構造体を除去または低減する場合)を含む。特定の実施形態において、粗混合物は、なんらかの精製が行われる前の、金属ナノワイヤの合成直後の反応混合物である。他の実施形態において、粗混合物は、少なくとも1回のケトン洗浄によって精製されたナノワイヤを含むことができ、さらに精製される。
【0032】
該方法は、限定はされないが、ナノワイヤおよびナノチューブなどの比較的高い異方性を有する任意のナノ構造体に適用できるが、銀ナノワイヤを精製するのに好ましい。ポリオール溶媒は、例えば、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、およびグリセロールでよい。
【0033】
ケトンは、好ましくは、低沸点で、全部で8個を超えない炭素を有する単純なケトンである。典型的なケトンとしては、限定はされないが、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、2または3−ペンタノンが挙げられる。好ましいケトンはアセトンである。洗浄サイクルで使用されるケトンの量は、変更することができる。その量は、典型的には、粗混合物中の懸濁溶媒(例えば、水)の1、2、3、4、5または6重量倍を超える。
【0034】
図1は、銀ナノワイヤを精製するための、このような方法の実施形態を例示する流れ図(100)である。銀ナノワイヤは、はじめに、反応中に適切な試薬(例えば、銀塩、PVPおよびグリセロール)を混合することによって合成される(ブロック102)。その後、反応物を110℃まで加熱し、約14時間反応させる(ブロック104)。反応物を、次いで、室温まで冷却し、主としてナノワイヤからなり汚染物質を伴う粗混合物とし、ここで、水を添加して希釈粗混合物を形成する(ブロック106)。その後、粗生成物を過剰量のアセトン(例えば、重量で2倍以上多いアセトン)中に添加し、あるレベルの汚染物質を伴ったナノワイヤを沈殿させる(ブロック108)。上清液は、水、グリセロールおよびアセトンを含み、これらは、混和性であり、上清液中への汚染物質の再分布を促進すると思われる均一液相を形成する。次いで、アセトン相(上清液)を廃棄する(ブロック110)。ナノワイヤ沈殿物を水に再懸濁し(ブロック112)、ブロック108、110および112に示すステップを繰り返す(例えば、10回)。したがって、各アセトン洗浄サイクルは、沈殿物が累進的にますます多くのナノワイヤを含み、かつ低アスペクト比のナノ構造体が累進的に無視できるまで、沈殿物および上清液中にそれぞれナノワイヤおよび汚染物質の再分布を作り出す。
【0035】
導電性フィルム
本明細書中で考察するように、「導電性フィルム」または「透明導電体」は、相互接続ナノ構造体のネットワークによって形成された薄いフィルムである。導電性フィルムの導電率は、オーム/平方またはオーム/sqまたは「Ω/□」によって表される「フィルム抵抗率」または「シート抵抗」によって測定されることが多い。フィルム抵抗は、少なくともナノ構造体の表面装填密度(すなわち、単位平方面積当たりの導電性ナノワイヤの数)、サイズ/形状、およびナノ構造体の構成要素の固有電気特性の関数である。本明細書中で使用する場合、薄いフィルムは、それが10Ω/□を超えないシート抵抗を有する場合に、導電性と見なされる。好ましくは、シート抵抗は10Ω/□、3,000Ω/□、1,000Ω/□、または100Ω/□を超えない。典型的には、金属ナノ構造体によって形成された導電性ネットワークのシート抵抗は、10Ω/□〜1000Ω/□、100Ω/□〜750Ω/□、50Ω/□〜200Ω/□、100Ω/□〜500Ω/□、100Ω/□〜250Ω/□、10Ω/□〜200Ω/□、10Ω/□〜50Ω/□、または1Ω/□〜10Ω/□の範囲にある。
【0036】
光学的には、導電性フィルムは、「光透過率」および「ヘーズ」によって特徴付けることができる。透過率は、媒質を通って伝達される放射光の百分率を指す。放射光は、約250nm〜800nmの間の波長を有する紫外(UV)または可視光を指す。種々の実施形態において、導電性フィルムの光透過率は、少なくとも50%、少なくとも60%、少なくとも70%、少なくとも80%、少なくとも85%、少なくとも90%、または少なくとも95%である。導電性フィルムは、光透過率が少なくとも85%である場合に、「透明」と見なされる。ヘーズは、光拡散の指標である。それは、放射光から分離される、および透過中に散乱される光量の百分率を指す(すなわち透過ヘーズ)。主として媒質(例えば、導電性フィルム)の特性である光透過率と異なり、ヘーズは、製造に関するものであることが多く、典型的には、表面粗さおよび包埋粒子、または媒質組成の不均一性によってもたらされる。種々の実施形態において、透明導電体のヘーズは、10%を超えず、8%を超えず、5%を超えず、1.5%を超えず、または1%を超えない。
【0037】
低アスペクト比のナノ構造体からナノワイヤを単離することによって、それから形成される導電性フィルム中の明るいオブジェクトを最小化、または排除することが可能である。したがって、特定の実施形態において、相対的に低い抵抗および低いヘーズなどの性能パラメーターの特定の集合のためには、低アスペクト比のナノ構造体数を、単位面積内のこのようなナノ構造体の計数値によって特徴付けることができる特定の閾値レベル未満に制限することが重要である。
【0038】
したがって、一実施形態は、少なくとも200オーム/sqの抵抗、および導電性フィルムのミリメートル平方面積につき1500個を超えない低アスペクト比のナノ構造体を有する導電性フィルムを提供する。特定の実施形態において、導電性フィルムは、0.5%を超えないヘーズを有する。
【0039】
別の実施形態は、少なくとも600オーム/sqの抵抗、および導電性フィルム1平方ミリメートル当たり500個を超えない低アスペクト比のナノ構造体を有する導電性フィルムを提供する。特定の実施形態において、導電性フィルムは、0.25%を超えないヘーズを有する。
【0040】
低アスペクト比のナノ構造体の数または計数値は、暗視野方式で拡大(例えば、×100)下に導電性フィルムを可視化することによって確かめることができる。低アスペクト比のナノ構造体が少ないほど、所定の装填密度に対してより高い導電率を期待することができる。
【0041】
このような導電性フィルムを調製するには、精製ナノワイヤの液状分散液を、基板上に堆積させ、続いて乾燥または硬化工程を行うことができる。液状分散液は、「インク組成物」または「インク製剤」とも呼ばれる。インク組成物は、典型的には、多数のナノワイヤおよび液体担体を含む。
【0042】
インク組成物は、基板上に形成される最終導電性フィルムの装填密度の指標である、全ナノ構造体(例えば、ナノワイヤ)の所望濃度に基づいて調製することができる。
【0043】
液体担体は、例えば、水、ケトン、アルコール、またはこれらの混合物を含む、任意の適切な有機または無機の溶媒または溶媒群でよい。ケトンをベースにした溶媒は、例えば、アセトン、メチルエチルケトンなどでよい。アルコールをベースにした溶媒は、例えば、メタノール、エタノール、イソプロパノール、エチレングリコール、ジエチレングリコール、トリエチレングリコール、プロピレングリコールなどでよい。
【0044】
インク組成物は、ナノ構造体の凝集または腐食を防止または低減し、かつ/または基板上へのナノ構造体の固定化を促進する1種または複数の薬剤をさらに含むことができる。これらの薬剤は、典型的には、非揮発性であり、界面活性剤、粘度改質剤、腐食抑制剤などが挙げられる。
【0045】
特定の実施形態において、インク組成物は、ナノ構造体の凝集を低減するのに役立つ界面活性剤を含む。適切な界面活性剤の代表例には、ZONYL(登録商標)FSN、ZONYL(登録商標)FSO、ZONYL(登録商標)FSA、ZONYL(登録商標)FSH(DuPont Chemicals、ウィルミントン、デラウェア州)をはじめとするZONYL(登録商標)界面活性剤、およびNOVEC(商標)(3M社、セントポール、ミネソタ州)などのフルオロ界面活性剤が含まれる。その他の典型的な界面活性剤としては、アルキルフェノールエトキシレートをベースにした非イオン性界面活性剤が挙げられる。好ましい界面活性剤としては、例えば、TRITON(商標)(×100、×114、×45)などのオクチルフェノールエトキシレート、およびTERGITOL(商標)(Dow Chemical Company、ミッドランド、ミシガン州)などのノニルフェノールエトキシレートが挙げられる。さらなる典型的な非イオン性界面活性剤としては、DYNOL(登録商標)(604、607)(Air Products and Chemicals,Inc.、アレンタウン、ペンシルヴェニア州)などのアセチレンをベースにした界面活性剤、およびn−ドデシルβ−D−マルトシドが挙げられる。
【0046】
特定の実施形態において、インク組成物は、基板上にナノ構造体を固定する結合剤として働く1種または複数の粘度改質剤を含む。適切な粘度改質剤の例には、ヒドロキシプロピルメチルセルロース(HPMC)、メチルセルロース、キサンタンガム、ポリビニルアルコール、カルボキシメチルセルロース、およびヒドロキシエチルセルロースが含まれる。
【0047】
個々の実施形態において、界面活性剤の粘度改質剤に対する比率は、好ましくは約80〜約0.01の範囲にあり、粘度改質剤の金属ナノワイヤに対する比率は、好ましくは約5〜約0.000625の範囲、または2〜0.5の範囲、または10〜0.1の範囲、または0〜2の範囲にあり、金属ナノワイヤの界面活性剤に対する比率は、好ましくは約560〜約5の範囲にある。インク組成物の成分比率は、使用される基板および塗布方法に応じて改変することができる。インク組成物に対して好ましい粘度範囲は、約1〜100cPの間である。前記実施形態の任意の1つにおいて、金属ナノワイヤは、好ましくは銀ナノワイヤであり得る。
【0048】
基板は、その上にナノワイヤを堆積させる任意の材料でよい。基板は、剛性または可撓性であってよい。好ましくは、基板は、また、光学的に透明、すなわち、材料の光透過率は、可視領域(400nm〜700nm)で少なくとも80%である。
【0049】
剛性基板の例には、ガラス、ポリカーボネート、アクリルなどが含まれる。特に、アルカリ不含ガラス(例えば、ホウ珪酸塩)、低アルカリガラス、および零膨張ガラス−セラミックなどの特殊ガラスを使用することができる。特殊ガラスは、液晶ディスプレイ(LCD)を含む、薄いパネルディスプレイシステムにとりわけ適している。
【0050】
可撓性基板の例には、限定はされないが、ポリエステル(例えば、ポリエチレンテレフタレート(PET)、ポリエステルナフタレート、およびポリカーボネート)、ポリオレフィン(例えば、直鎖、分枝、および環状ポリオレフィン)、ポリビニル(例えば、ポリ塩化ビニル、ポリ塩化ビニリデン、ポリビニルアセタール、ポリスチレン、ポリアクリレートなど)、セルロースエステル基材(例えば、セルローストリアセテート、セルロースアセテート)、ポリスルホン(ポリエーテルスルホンなど)、ポリイミド、シリコーン、およびその他の従来からのポリマーフィルムが含まれる。
【0051】
インク組成物は、例えば、同時係属の米国特許出願第11/504,822号中に記載の方法により、基板上に堆積させることができる。
【0052】
スピンコーティングは、基板上に均一なフィルムを堆積させるための典型的な技術である。装填量、回転速度、および時間を制御することによって、種々の厚さの薄いフィルムを形成することができる。懸濁流体の粘度、剪断挙動、およびナノワイヤ間の相互作用が、堆積されるナノワイヤの分布および相互接続性に影響を及ぼす可能性があることが理解されよう。
【0053】
例えば、本明細書に記載のインク組成物は、400〜2000rpmの速度のガラス基板上に60秒間、1000rpm/sの加速度でスピンコートすることができる。薄いフィルムを、さらに、50℃で90秒間、および140℃で90分間ベーキングすることを含む特定の後処理にかけることができる。加熱を伴う、または伴わない加圧処理をさらに採用して、フィルムの最終仕様を調節することができる。
【0054】
当業者が理解するように、例えば、狭いチャネルによって計量される沈降流、ダイフロー、傾斜流、スリットコーティング、グラビアコーティング、マイクログラビアコーティング、ビーズコーティング、浸漬コーティング、スロットダイコーティングなどの、その他の堆積技術を採用することができる。印刷技術を使用して、インク組成物を基板上にパターンを伴って、または伴わないで直接的に印刷することもできる。例えば、インクジェット、フレキソ印刷、およびスクリーン印刷を採用することができる。
【実施例】
【0055】
(実施例1)
アセトン洗浄による精製
清浄なガラス瓶中の500gのグリセロールに、7.5gのPVP、55mgのTBAC、2.5gの硝酸銀を添加した。瓶に蓋をし、混合物を110℃の対流オーブン中で約14時間加熱した。反応混合物を30℃まで冷却したら、500gのDIWを添加した。希釈した粗反応混合物を2kgのアセトンに添加すると、半固体状の暗褐色沈殿物が生じた。上清液を、デカンテーションによって、または中等度の多孔性焼結ガラスを通す濾過によって半固体状沈殿物から分離した。予想外に、この沈殿物中に含まれる銀ナノワイヤは、DIW中に容易に再懸濁することができた。したがって、次いで沈殿物を約200gのDIW中に再懸濁し、800gのアセトン中で再沈殿させた。これらの沈殿/再懸濁のステップを、淡黄褐色の綿毛状沈殿物が得られるまで数回繰り返した。この沈殿物をDIWに再懸濁し、小さなナノ粒子、大きな粒子、および明るい三角の銀結晶をほとんど含まない薄く長い銀ナノワイヤを主として含むことが見出された。一方、アセトン相は、主としてこれらの望ましくない粒子を少量の銀ナノワイヤと共に含んでいた。
【0056】
(実施例2)
精製ナノワイヤから作られる透明導電体
透明導電性の薄いフィルムを、水中に実施例1の精製銀ナノワイヤおよびHPMCを含むインク組成物をガラス基板上にスピンコーティングすることによって調製した。また、透明導電体の比較サンプルを、各合成中に使用されるそれぞれのポリオール溶媒および合成後のアセトン洗浄以外は、同様に合成された銀ナノワイヤを使用して同様に調製した。表1は、所定のシート抵抗率の場合、ナノワイヤにおける低アスペクト比のナノ構造体の数の減少およびより細い直径のため、グリセロール溶媒から得られた精製銀ナノワイヤから形成された透明導電体において、透過率およびヘーズが、かなり改善されていることを示す。
【0057】
【表1】

【0058】
(実施例3)
透明導電性フィルム中の明るいオブジェクトの計数値
導電性フィルムを、実施例2に記載のようにスピンコーティングにより調製した。低アスペクト比のナノ構造体の数は、精製銀ナノワイヤから形成された導電性フィルムをほぼ100×の倍率および暗視野方式の顕微鏡下で可視化することによって測定した。多数の枠で写真を撮影し、低アスペクト比のナノ構造体を計数した(図2)。低アスペクト比のナノ構造体(200)は、典型的には、銀ナノワイヤに比べて、より明るく、より短く、またはより幅広であった。特に、低アスペクト比のナノワイヤは、10未満のアスペクト比を有した。各枠の計数値を平均し、単位面積当たりに変換した。
【0059】
表2は、それぞれの抵抗、透過率およびヘーズに対応する、装填密度を異にする2種のフィルムにおける低アスペクト比のナノ構造体の計数値を示す。特に、フィルム2のヘーズは、低アスペクト比のナノ構造体の数が少なくともいくぶんはより少ないので、フィルム1のヘーズの50%である。
【0060】
【表2】

【0061】
本明細書中で言及されるおよび/または出願データシート中に挙げられた前記の米国特許、米国特許出願公開、米国特許仮出願、外国特許、外国特許出願、および非特許刊行物のすべては、参照によりその全体で本明細書に組み込まれる。
【0062】
例示の目的で本発明の具体的実施形態を本明細書中で説明してきたが、前記のことから、本発明の精神および範囲から逸脱することなく、種々の改変形態をもたらし得ることを認識されよう。したがって、本発明は、添付の特許請求の範囲によって限定される場合を除き、限定されない。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体を含む、ナノ構造体の粗混合物であって、ポリオール溶媒中に懸濁されている粗混合物を準備するステップ、
(b)水を前記粗混合物と合わせることによって第1の希釈粗混合物を準備するステップ、
(c)前記希釈粗混合物をケトンと合わせることによって合わせられたされたケトン混合物を準備するステップ、
(d)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体を含む沈殿物、および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を準備するステップであって、前記沈殿物の準備が、前記合わせられたケトン混合物の沈降を可能にすることを含む、ステップ、および
(e)前記沈殿物から、前記10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の前記少なくとも一部を含む前記上清液を除去するステップ
を含む、金属ナノワイヤを単離する方法。
【請求項2】
(f)(d)の沈殿物を水に再懸濁して第2の希釈粗混合物を準備するステップ、および
(g)ステップ(c)〜(f)を繰り返すステップ
をさらに含む、請求項1に記載の方法。
【請求項3】
前記10以上のアスペクト比を有するナノ構造体が銀ナノワイヤである、請求項2に記載の方法。
【請求項4】
前記ポリオール溶媒が、エチレングリコール、1,2−プロピレングリコール、1,3−プロピレングリコール、またはグリセロールである、請求項2に記載の方法。
【請求項5】
前記ポリオール溶媒がグリセロールである、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
前記ケトンが、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、2−ペンタノン、または3−ペンタノンである、請求項2に記載の方法。
【請求項7】
前記ケトンがアセトンである、請求項2に記載の方法。
【請求項8】
10以上のアスペクト比を有する複数のナノ構造体、および
液体担体
を含むインク組成物であって、前記10以上のアスペクト比を有するナノ構造体が、
(a)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体を含む、ナノ構造体の粗混合物であって、ポリオール溶媒中に懸濁されている粗混合物を準備するステップ、
(b)水を前記粗混合物と合わせることによって第1の希釈粗混合物を準備するステップ、
(c)前記希釈粗混合物をケトンと合わせることによって合わせられたされたケトン混合物を準備するステップ、
(d)10以上のアスペクト比を有するナノ構造体を含む沈殿物、および10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む上清液を準備するステップであって、前記沈殿物の準備が、前記合わせられたケトン混合物の沈降を可能にすることを含む、ステップ、
(e)前記沈殿物から、前記10を超えないアスペクト比を有するナノ構造体の少なくとも一部を含む前記上清液を除去するステップ、
(f)(d)の沈殿物を水に再懸濁して第2希釈粗混合物を準備するステップ、および
(g)ステップ(c)〜(f)を繰り返すステップ
によって精製される、インク組成物。
【請求項9】
粘度改質剤をさらに含む、請求項8に記載のインク組成物。
【請求項10】
界面活性剤をさらに含む、請求項8に記載のインク組成物。
【請求項11】
前記粘度改質剤および前記銀ナノワイヤが、10〜0.1のw/w比で存在する、請求項9に記載のインク組成物。
【請求項12】
前記粘度改質剤がHPMCである、請求項1に記載のインク組成物。
【請求項13】
前記ケトンが、アセトン、メチルエチルケトン(MEK)、2−ペンタノン、または3−ペンタノンである、請求項8に記載のインク組成物。
【請求項14】
少なくとも200オーム/sqの抵抗を有する、複数の銀ナノワイヤの導電性ネットワーク、および
導電性フィルム1平方ミリメートル当たり1500個を超えない10未満のアスペクト比を有するナノ構造体
を含む導電性フィルム。
【請求項15】
0.5%を超えないヘーズを有する、請求項14に記載の導電性フィルム。
【請求項16】
少なくとも600オーム/sqの抵抗、および前記導電性フィルム1平方ミリメートル当たり500個を超えない10未満のアスペクト比を有するナノ構造体を有する、請求項14に記載の導電性フィルム。
【請求項17】
0.25%を超えないヘーズを有する、請求項16に記載の導電性フィルム。

【図1】
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【図2】
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【公表番号】特表2013−502515(P2013−502515A)
【公表日】平成25年1月24日(2013.1.24)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2012−526929(P2012−526929)
【出願日】平成22年8月24日(2010.8.24)
【国際出願番号】PCT/US2010/046541
【国際公開番号】WO2011/066010
【国際公開日】平成23年6月3日(2011.6.3)
【出願人】(510230746)カンブリオス テクノロジーズ コーポレイション (9)
【Fターム(参考)】