金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含有する感光性組成物
【課題】金属ナノ粒子が有する大きな非線形光学効果を利用した回折格子を有する非線形光学薄膜素子を提供すること。
【解決手段】(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物並びに該感光性組成物を用いて得られる硬化物、光学薄膜及び回折格子又はホログラム。上記アンモニウム基含有分岐高分子化合物として、下記式(1)で表される高分子化合物が好適である。
【化1】
【解決手段】(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物並びに該感光性組成物を用いて得られる硬化物、光学薄膜及び回折格子又はホログラム。上記アンモニウム基含有分岐高分子化合物として、下記式(1)で表される高分子化合物が好適である。
【化1】
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子が有する3次非線形光学効果を利用した非線形光学素子およびその製造方法に関する。より詳細には、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物、並びに該組成物を用いた非線形光学薄膜及び非線形回折格子などの非線形光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数nm乃至数十nm程度の粒径を有する金属ナノ粒子は、バルク金属とは異なる種々の物理的、化学的特性を示すことが知られている。
これまでに、金属ナノ粒子をガラスや結晶、ポリマー等の光学的に透明なマトリクス中に分散させることにより、3次の非線形光学特性を発現させた種々の材料が報告されている。
【0003】
例えば金属超微粒子をポリマーマトリクスに添加することにより高屈折率化(特許文献1参照)や高速光学応答(特許文献2参照)を実現した複合材料や、金属超微粒子のプラズモン吸収を利用した金属超微粒子含有薄膜付き基板を用いた着色フィルター(特許文献3参照)などが提案されている。
また、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴周波数付近での局所電場の増強に起因する3次の光非線形性の増大効果を利用して、金、銀、銅などの金属ナノ粒子を無機材料マトリックス中に分散し、超高速光スイッチなどの純光学型デバイス応用を目指した報告がなされている(非特許文献1)。
【0004】
これら材料において、金属ナノ粒子は、マトリクス中に一様に分散しているか、又は、スパッタ法やパルスレーザ蒸着法により薄膜状(単層)の形態にある。しかしながら、金属ナノ粒子などの非線形光学効果の大きな物質を三次元空間で周期的に配列させた回折格子状の構造は、これまでには報告されていない。
なお、光スイッチ若しくは光変調器デバイス向けの非線形光学応答を示すポリマーに非線形効果を増強する目的で金属ナノ粒子を分散させた複合材料(特許文献4)が提案されているが、これはポリマー中に一様に分散させたものであって、金属ナノ粒子の回折格子は作製されていない。
【0005】
一方、石英基板上に二次元周期配列させた単一層の金ナノ微粒子アレイにおける非線形光学効果の報告がなされている(非特許文献2)。この二次元周期配列構造を作成するために、ナノ球リソグラフィー法と呼ばれる方法を用いている。すなわち、直径700nmのポリスチレン球を石英基板上に自己配列させて単層膜を形成し、その上からポリスチレン粒子間の隙間へ金ナノ微粒子ゾルを滴下することで、単一層の金ナノ微粒子二次元アレイを実現している。
【0006】
このようなリソグラフィー法を必要としない簡便な一段階の回折格子の作成方法として、重合性化合物、光重合開始剤、無機微粒子からなる感光性組成物を干渉露光により屈折率分布を形成し体積ホログラムを記録する方法(特許文献5参照)や、重合性化合物、光重合開始剤、ハイパーブランチポリマー等の有機微粒子からなる感光性組成物を干渉露光により体積ホログラムを記録する方法(特許文献6参照)の報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−327836号公報
【特許文献2】特開2000−250080号公報
【特許文献3】特開平8−292309号公報
【特許文献4】特開平2−8822号公報
【特許文献5】特許第3965618号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/101003号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Optics Letters 27, 1043 (2002)
【非特許文献2】Applied Surface Science 253,4673(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の金ナノ微粒子二次元アレイは、煩雑な工程が必要であり、しかも、高回折効率のために必要とされる数10ミクロン以上の厚みを有する格子構造を形成することは困難である。そして、金属ナノ粒子を三次元空間で周期的に配列させた回折格子状の構造に関する報告はこれまでになされていない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を重合性化合物中に均一に分散させた感光性組成物、並びに該組成物を用いることにより、金属ナノ粒子が有する大きな非線形光学効果を利用した硬化物、非線形光学薄膜、非線形回折格子及び非線形光学効果を有するホログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、官能基として、アンモニウム基を分子末端に有する分岐高分子化合物が、金属ナノ粒子と安定な複合体を形成することにより、該複合体の重合性化合物中への均一な分散を可能とし、そしてこれらを含む感光性組成物を干渉露光すると、金属ナノ粒子が周期的に配列し、屈折率の周期的な空間変調(屈折率変調)を有する回折格子又はホログラムを一段階で作成でき、そしてこの回折格子又はホログラムが入射光強度に依存した回折効率(=1次のブラッグ回折光強度/入射光強度)の特性をもつ、所謂、非線形ブラッグ回折特性を有することを見いだし、本発明を完成させた。
なお、ここで非線形ブラッグ回折とは、物質に光を照射した際、その物質の吸収係数や屈折率などの光学特性が光の強度に応じて変化(所謂、非線形光学効果)する現象を意味する。
【0012】
即ち、本発明は、第1観点として、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物。
第2観点として、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む非線形光学素子作成用の感光性組成物。
第3観点として、前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が、500乃至5,000,000の重量平均分子量を有し且つアンモニウム基を有する分岐高分子化合物が金属ナノ粒子に付着し又は配位して形成されてなる複合体である、第1観点又は第2観点記載の感光性組成物。
第4観点として、前記金属ナノ粒子が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子である、第1観点乃至第3観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第5観点として、前記金属ナノ粒子が平均粒径1nm乃至10nmのナノ粒子である、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第6観点として、前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が平均粒径3nm乃至100nmの粒子である、第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第7観点として、前記アンモニウム基含有分岐高分子化合物が式(1):
【化1】
[式中、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝
分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任
意の整数を表す。)を表すか、又は、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は
環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
X-は陰イオンを表し、
A1は式(2)
【化2】
(式中、
A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30の直鎖状
、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。]で表される分岐高分子化合物である、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第8観点として、前記式(1)中、A1が式(3):
【化3】
で表される基を表し、
X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートを表し、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化4】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、第7観点に記載の感光性組成物。
第9観点として、前記(a)重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第10観点として、前記(a)重合性化合物が、カチオン重合性の部位を有する化合物であり、前記(b)光重合開始剤が光酸発生剤である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第11観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を露光して得られる非線形光学効果を有する硬化物。
第12観点として、前記硬化物が、(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が粒子形態で分散している状態にある、第11観点記載の硬化物。
第13観点として、前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体との合計体積に占める(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積割合が、3体積%乃至60体積%である、第11観点又は第12観点記載の硬化物。
第14観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物からなる薄膜をパターン露光して形成される、前記金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布が露光前のものとは変化している非線形光学薄膜。
第15観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形回折格子。
第16観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形光学効果を有するホログラム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感光性組成物においては、そこに含まれる金属ナノ粒子が、アンモニウム基含有分岐高分子化合物と複合体を形成することにより、高分子マトリクス中で凝集することなく、一次粒子のまま分散することができる。
そして、本発明の感光性組成物にあっては、干渉露光などの光のパターンを用いて重合性化合物(感光性モノマー)を重合させることにより、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が空間的な密度分布をもって存在する構造を有する回折格子又はホログラムを任意且つ容易に作成することができる。
【0014】
さらに、本発明により得られる回折格子又はホログラムは、屈折率又は吸収係数が周期的に空間変調された回折格子又はホログラムであり、前述の非線形ブラッグ回折特性を有することから、入射光自身あるいは外部制御光などの光によるブラッグ回折光あるいは透過光の制御が可能となるという特徴を有する。
そして、このような非線形光学特性を持つ(透過型又は反射型)回折格子又はホログラムは、光リミッター素子や超高速光スイッチング、光相安定(多安定)性、連続光から光パルス列や不規則パルス光の発生など、入出力に光のみを使う全光学型の光機能素子等の用途において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、参考例で得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体のTHF溶液のUV−Visスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、参考例で得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体のTEM像を示す図である。
【図3】図3は、体積ホログラム記録媒体に対する二光束干渉露光を行う装置の概念図である。
【図4】図4は、実施例1における体積ホログラム記録媒体の回折効率の露光時間変化を表すグラフである。
【図5】図5は、測定試料に対するzスキャン法による非線形吸収および非線形屈折率を測定するための装置の概念図である。
【図6】図6は、zスキャン法によるオープンアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。z0は集光ビームの光軸方向の深度を表す定数である。
【図7】図7は、zスキャン法によるクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。z0は集光ビームの光軸方向の深度を表す定数である。
【図8】図8は、実施例2における測定試料のオープンアパーチャー検出の場合の透過率T0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図9】図9は、実施例2における測定試料のクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図10】図10は、実施例3における測定試料のオープンアパーチャー検出の場合の透過率T0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図11】図11は、実施例3における測定試料のクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の感光性組成物は、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0017】
[(a)重合性化合物]
本発明における重合性化合物は、後述する(b)光重合開始剤の作用によって重合する重合性の部位を分子内に一個以上、好ましくは一個乃至六個有する化合物であれば特に制限はない。
【0018】
前記重合性の部位を有する化合物としては、ラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物、あるいは、カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、ビニルチオエーテル構造、エポキシ環やオキセタン環等の環状エーテル構造等を有する化合物を挙げることができる。
なお、本発明における「重合性化合物」の意味するところは、所謂高分子物質でない化
合物である。従って、狭義の単量体化合物だけでなく、二量体、三量体、オリゴマーや反応性高分子をも包含するものである。
以下、重合性化合物の具体例を挙げるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0019】
上記のラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸;脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂肪族ポリヒドロキシ化合物及び脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂肪族ポリヒドロキシ化合物や芳香族ポリヒドロキシ化合物等の多価ヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸及び多価カルボン酸とのエステル化反応により得られるエステル化合物;脂肪族ポリアミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミド化合物等が挙げられる。
この中でも好ましいものとして、不飽和カルボン酸、また、上記不飽和カルボン酸との各種エステル化合物として、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有するエステル化合物が挙げられる。ここで炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基とはすなわち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等であり、これらの基はヒドロキシ基及びハロゲン等で置換されていても良い。
【0020】
前記不飽和カルボン酸としては、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0021】
前記脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(平均エトキシ付加量としては2.4モル、4モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(平均プロポキシ付加量としては4モル、10モル等が挙げられる)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ変性トリメチロールプロパントリアクリレート(平均エトキシ付加量としては3モル、6モル等が挙げられる)、プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物等が挙げられる。また、その他の脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリブタンジオールジアクリレート等のアルキレングリコールジアクリレート;ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセロールアクリレート等のアクリル酸エステル化合物を挙げることが出来る。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0022】
前記脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性水添ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ付加量は4モルが挙げられる。)等が挙げられる。その他の脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエ
ステル化合物としては、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0023】
前記芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ付加量としては3モル、4モル、10モル、20モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ−プロポキシ変性ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ、プロポキシ付加量としては18モル等が挙げられる)、エトキシ変性ビスフェノールFジアクリレート(平均エトキシ付加量としては4モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ビスフェノールFジアクリレート、エトキシ−プロポキシ変性ビスフェノールFジアクリレート等が挙げられる。その他の芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物としては、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールFジアクリレート、ヒドロキノンジアクリレート、レゾルシンジアクリレート、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、及びピロガロールトリアクリレート等及びこれらのエトキシ、プロポキシ変性物が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物(とりわけヒドロキノンジメタクリレート、レゾルシンジメタクリレート等)、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0024】
前記脂肪族ポリヒドロキシ化合物や芳香族ポリヒドロキシ化合物等の多価ヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸及び多価カルボン酸とのエステル化反応により得られるエステル化合物としては必ずしも単一物では無いが代表的な具体例を挙げれば、アクリル酸、フタル酸及びエチレングリコールの縮合物、アクリル酸、マレイン酸及びジエチレングリコールの縮合物、アクリル酸、安息香酸及びトリメチロールプロパンの縮合物、アクリル酸、テレフタル酸及びペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールの縮合物、アクリル酸、アジピン酸、ブタンジオール及びグリセリンの縮合物等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるエチレン性不飽和結合を有する化合物のその他の例としては、多価イソシアネートとヒドロキシアルキル不飽和カルボン酸エステルとの反応によって得ることができるウレタン化合物や、多価エポキシ化合物とヒドロキシアルキル不飽和カルボン酸エステルとの反応によって得ることができる化合物や、リン酸基を有する多価アクリレート及びメタクリレートを挙げることができる。さらに、例えば、エチレン−ビスアクリルアミド等のアクリルアミド化合物、フタル酸ジアリル等のアリルエステル化合物、及びジビニルフタレート等のビニル基含有化合物等が有用である。
本発明においては、エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、特にアクリル酸エステル化合物またはメタクリル酸エステル化合物が特に好ましい。
これらのエチレン性不飽和結合を有する化合物は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造を有する重合性化合物としては、例えば、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−ノルマルブチル−エーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、及びビニルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0027】
上記エポキシ環を有する重合性化合物としては、例えば、ジグリセロールポリジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−ターシャリーブチル−フェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、1,2:7,8−ジエポキシオクタン、1,6−ジメチロールパーフルオロヘキサンジグリシジルエーテル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)ジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルオキシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−3’,4’−エポキシ−1,3−ジオキサン−5−スピロシクロヘキサン、1,2−エチレンジオキシ−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメタン)、4’,5’−エポキシ−2’−メチルシクロヘキシルメチル−4,5−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−グリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、及びジ−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
上記オキセタン環を有する重合性化合物としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、及び3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン等のオキセタン環を一つ有する化合物、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ジ(1−エチル(3−オキセタニル))メチルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等のオキセタン環を二つ以上有する化合物を挙げることができる。
【0029】
これら重合性化合物は単独で用いても良いし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
[(b)光重合開始剤]
本発明における(b)光重合開始剤としては、後述するパターン露光によって前記(a)重合性化合物の重合を開始することができる機能を有する化合物であれば特に限定はない。
【0031】
前記(a)重合性化合物として、前記のラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物を使用する場合、光重合開始剤としてはパターン露光時に活性ラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤が好ましい。
また、前記(a)重合性化合物として前記のカチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、エポキシ環またはオキセタン環等を有する化合物を使用する場合、光重合開始剤としては干渉露光時にルイス酸あるいはブレンステッド酸を生成する光酸発生剤が好ましい。
【0032】
前記光ラジカル重合開始剤としては、パターン露光時に活性ラジカルを生成する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾイン系化合物、α−アミノアルキルフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、アゾ系化合物、アジド系化合物、ジアゾ系化合物、o−キノンジアジド系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、オキシムエステル系化合物、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン、ビイミダゾール化合物、チタノセン化合物、チオール化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、トリクロロメチルトリ
アジン化合物、あるいはヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物などのオニウム塩化合物等が用いられる。これら化合物のうち、特にチタノセン化合物が好ましい。光ラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
前記チタノセン化合物は、特に限定はされないが、具体的には、ジシクロペンタジエニル−チタン−ジクロリド、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビスフェニル、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,4,6−トリフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,6−ジフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,4−ジフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,6−ジフルオロフェニル)、及びビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等を挙げることができる。
【0034】
ベンゾイン系化合物としては、ベンゾインエチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1オン等を挙げることができる。
【0035】
α−アミノアルキルフェノン系化合物としては、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等を挙げることができる。
【0036】
チオキサントン系化合物としては、チオキサントン、1−クロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等を挙げることができる。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0038】
オキシムエステル系化合物としては、1,2−オクタンジオン−1−(4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム))、エタノン−1−(9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル)−1−(O−アセチルオキシム)等を挙げることが出来る。
【0039】
アジド系化合物としては、p−アジドベンズアルデヒド、p−アジドアセトフェノン、p−アジド安息香酸、p−アジドベンザルアセトフェノン、4,4’−ジアジドカルコン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフィド、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、及びα−シアノ−4,4’−ジベンゾスチルベン等を挙げることができる。
【0040】
アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン〕、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニ
トリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔2−(1−ヒドロキシブチル)〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕硫酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕等を挙げることができる。
【0041】
ジアゾ系化合物としては、1−ジアゾ−2,5−ジエトキシ−4−p−トリルメルカプトベンゼンボロフルオリド、1−ジアゾ−4−N,N−ジメチルアミノベンゼンクロリド、及び1−ジアゾ−4−N,N−ジエチルアミノベンゼンボロフルオリド等を挙げることができる。
【0042】
o−キノンジアジド系化合物としては、1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−4−スルホン酸ナトリウム塩、1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル、及び1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−4−スルホニルクロリド等を挙げることができる。
【0043】
ベンゾフェノン類としては、例えばベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,4−ジベンゾイルベンゼン、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0044】
ビスクマリンとしては、例えば3,3’−カルボニルビス(7−(ジエチルアミノ)−2H−クロメン−2−オン)等が挙げられ、これはみどり化学株式会社でBC(CAS[63226−13−1])として市販されている。
【0045】
ビイミダゾール化合物としては、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラキス(3,4,5−トリメトキシフェニル)1,2’−ビイミダゾール、及び2,2’−ビス(o−クロロフェニル)4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0046】
前記光酸発生剤としては、パターン露光時にルイス酸あるいはブレンステッド酸を生成する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ジアリルヨードニウム塩化合物、トリアリールスルホン酸塩化合物、ジアゾニウム塩化合物などのオニウム塩化合物、及び鉄アレーン錯体化合物等を挙げることができる。光酸発生剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
ジアリルヨードニウム塩化合物としては、例えば、ジフェニルヨードニウム、4,4’−ジクロロジフェニルヨードニウム、4,4’−ジメトキシジフェニルヨードニウム、4,4’−ジ−ターシャリーブチルジフェニルヨードニウム、(4−メチルフェニル)[4
−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、及び3,3'−ジニトロフェニルヨードニウム等のヨードニウムのテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、及びヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0048】
トリアリールスルホン酸塩化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウム、4−
ターシャリーブチル−トリフェニルスルホニウム、トリス(4−メチルフェニル)スルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、及び4−チオフェニルトリフェニルスルホニウム等のスルホニウムのテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、及びヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。
【0049】
鉄アレーン錯体化合物としては、ビスシクロペンタジエニル−(η6−イソプロピルベンゼン)−鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0050】
[(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体]
本発明に用いられる金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体(以降、単に複合体とも称する。)は、アンモニウム基含有分岐高分子化合物が、その有するアンモニウム基の作用により、金属ナノ粒子に接触又は近接した状態で両者が共存し、粒子状の形態を為すものであり、言い換えると、アンモニウム基含有分岐高分子化合物のアンモニウム基が金属ナノ粒子に付着又は配位した構造を有する複合体であると表現される。
従って、本発明において「金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体」には、上述のように金属ナノ粒子と分岐高分子化合物が結合して一つの複合体を形成しているものだけでなく、金属ナノ粒子とアンモニウム基含有分岐高分子化合物が結合部分を形成することなく、夫々独立して存在しているものも含まれていてもよい。
【0051】
前記複合体は、例えばアンモニウム基を有する分岐高分子化合物を溶解した液中に、金属塩の水溶液及び還元剤を添加して、金属イオンを還元することによって得られる。
【0052】
前記複合体における金属源(金属ナノ粒子)としては特に限定されず、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛及びビスマスが挙げられ、これらの金属の1種類でもよいし二種以上の合金でも構わない。好ましくは、金、銀、白金、銅、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム等を挙げることができる。さらに好ましくは、金、銀、白金、及び銅が挙げられる。
上記金属塩としては、塩化金酸、硝酸銀、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一白金、Pt(dba)2[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pt(cod)2[cod=1,5−シクロオクタジエン]、PtMe2(cod)、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジ
ウム、Pd2(dba)3(CHCl3)]、Pd(dba)2、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウム、Ru(cod)(cot)[cot=シクロオクタトリエン]、塩化イリジウム、酢酸イリジウム、Ni(cod)2等が挙げられる。
【0053】
上記還元剤としては、特に限定されるものではなく、種々の還元剤を用いることができ、得られる組成物の使用用途や、含有させる金属種等により還元剤を選択することが好ましい。用いることができる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどの水素化ホウ素金属塩、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩、ヒドラジン化合物、クエン酸及びその塩、コハク酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩等が挙げられる。
上記還元剤の添加量は、上記金属イオン1molに対して1乃至50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5乃至10molである。
【0054】
本発明において、金属ナノ粒子と複合体を形成するアンモニウム基を有する分岐高分子化合物としては、例えば、上記式(1)で示すものが挙げられる。
【化5】
上記式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。また、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任意の整数を表す。)
を表す。また、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基で
結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく、該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい。またX-は陰イオンを表し、X-として好ましいのはハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートである。また、式(1)中、A1は式(2)
【化6】
(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表す。
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。
【0055】
好ましくは、式(1)で表される分岐高分子化合物において、A1が式(3):
【化7】
で表される構造を表し、X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカン
スルホナートを表し、R1は水素原子又はメチル基を表し、そしてR2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化8】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、分岐高分子化合物が望ましい。
【0056】
R2、R3及びR4で表される炭素原子数1乃至20の直鎖状のアルキル基としては、メ
チル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等が挙げられる。枝分かれ状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。環状のアルキル基としては、シクロペンチル環、シクロヘキシル環構造を有する基等が挙げられる。炭素原子数7乃至20のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
R2、R3及びR4で表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ノルマ
ルプロピレン基、ノルマルブチレン基、ノルマルヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基等が挙げられる。枝分かれ状アルキレン基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3乃至30の単環式、多環式、架橋環式の環状構造の脂環式脂肪族基が挙げられる。具体的には、炭素原子数4以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ、ペンタシクロ構造等を有する基を挙げることができる。
さらに、式(1)で表される構造でR2、R3及びR4でが互いに結合し、それらと結合
する窒素原子と共に形成する環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ピピリジル環等が挙げられる。
【0057】
次に、分子末端にアミノ基を有する分岐高分子化合物の製造法について説明する。
分子末端にアンモニウム基を有する分岐高分子化合物は、例えば、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物にアミン化合物を反応させることによって得ることができる。
なお、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物は、国際公開第2008/029688号パンフレットの記載に従い合成することができる。
【0058】
分岐高分子化合物の合成反応で使用できるアミン化合物は、第一級アミンとしてN−メチルアミン、N−エチルアミン、N−n−プロピルアミン、N−イソプロピルアミン、N−n−ブチルアミン、N−n−イソブチルアミン、N−sec−ブチルアミン、N−tert−ブチルアミン、N−n−ペンチルアミン、N−n−ヘキシルアミン、N−n−ヘプチルアミン、N−n−オクチルアミン、N−n−ノニルアミン、N−n−デシルアミン、N−n−ウンデシルアミン、N−n−ドデシルミアン、N−n−トリデシルアミン、N−n−テトラデシルアミン、N−n−ペンタデシルアミン、N−n−ヘキサデシルアミン、N−n−ヘプタデシルアミン、N−n−オクタデシルアミン、N−n−ノナデシルアミン、N−n−エイコシルアミン等の脂肪族アミン、N−シクロペンチルアミン、N−シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、p−n−ブチルアニリン、p−t−ブチルアニリン、p−n−オクチルアニリン、p−n−デシルアニリン、p−n−ドデシルアニリン、p−n−テトラデシルアニリン等のアニリン、N−ベンジルアミン、N−(2−フェニルエチル)アミン等のアルキルフェノール、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン等のナフチルアミン、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン等のアミノアントラセン、1−アミノアントラキノン等のアミノアントラキノン、4−アミノビフェニル、2−アミノビフェニル等のアミノビフェニル、2−アミノフルオレンアミノフルオレ
ン、1−アミノ−9−フルオレノン、4−アミノ−9−フルオレノン等のアミノフルオレノン、5−アミノインダン等のアミノインダン、5−アミノイソキノリン等のアミノイソキノリン、9−アミノフェナントレン等のアミノフェナントレン等の芳香族アミンが挙げられる。更に、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,2−エチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,3−プロピレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,4−ブチレンンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,5−ペンタメチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N−(2−メトキシエチル)アミン、N−(2−エトキシエチル)アミン等のアミン化合物が挙げられる。
【0059】
第二級アミンとしては、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ−n−プロピルアミン、N,N−ジ−イソプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチルアミン、N,N−n−イソブチルアミン、N,N−ジ−sec−ブチルアミン、N,N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−エチルアミン、N−メチル−N−n−プロピルアミン、N−メチル−N−n−ブチルアミン、N−メチル−N−n−ペンチルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−n−ブチルアミン、N−エチル−N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−n−オクチルアミン、N−メチル−N−n−デシルアミン、N−メチル−N−n−ドデシルアミン、N−メチル−N−n−テトラデシルアミン、N−メチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−N−n−オクタデシルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−オクチルアミン、N,N−ジ−n−ヘキシルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N,N−ジドデシルアミン、N,N−ジヘキサデシルアミン、N,N−ジオクタデシルアミン等の脂肪族アミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、N,N−ジフェニルアミン、N,N−ジベンジルアミン等の芳香族アミン、フタルイミド、ピロール、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。更に、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アミン、N,N−ジ(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N,N−ジ(エトキシエチル)アミン、N,N−ジ(プロポキシエチル)アミン等が挙げられる。
【0060】
第三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチル−N−オクチルアミン、N,N−ジエチル−N−n−デシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−テトラデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−エイコシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン等の脂肪族アミン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、キノリン、1−メチルイミダゾール、4,4’−ピピリジル、4−メチル4,4’−ピピリジル等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。
【0061】
これらの反応で使用できるアミン化合物の使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物中のハロゲン原子の1モル当量に対して0.1乃至20倍モル当量、好ましくは0.5乃至10倍モル当量、より好ましくは1乃至5倍モル当量であればよい。反応の条件としては、反応時間は0.01乃至100時間、反応温度は0乃至300℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1乃至10時間で、反応温度が20乃至150℃である。
【0062】
分子末端のハロゲン原子とアミン化合物との反応は、水又は有機溶剤溶液中で、塩基の存在下又は非存在下で行なうことができる。使用する溶剤は、ハロゲン原子を有する分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能なものが好ましい。さらに、ハロゲン原子を有する分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能であるが、分子末端にアンモニウム基を有する分岐高分子化合物を溶解しない溶媒であれば、単離が容易となりさらに好適である。
有機溶剤としては、本反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、水及び酢酸等の有機酸系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の脂肪族炭化水素類等が使用できる。これらの溶剤は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、使用量は、ハロゲン原子を分子末端に有する分岐高分子化合物の質量に対して0.2乃至1,000倍質量、好ましくは1乃至500倍質量、より好ましくは5乃至100倍質量、最も好ましくは10乃至50倍質量の有機溶剤を使用することが好ましい。また、この反応では反応開始前には反応系内の酸素を十分に除去する必要があり、窒素、アルゴン等の不活性気体で系内を置換するとよい。反応条件としては、反応時間0.01乃至100時間、反応温度0乃至200℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1乃至5時間で、反応温度が20乃至150℃である。
【0063】
好適な塩基としては一般に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属水素化物及びアルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アミド、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩(例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば重炭酸ナトリウム)等の無機化合物、並びにアルカリ金属アルキル、アルキルマグネシウムハロゲン化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、ジメトキシマグネシウム等の有機金属化合物が使用される。特に好ましいのは、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムである。また、使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物の質量に対して0.2乃至10倍等量、好ましくは0.5乃至10等量、最も好ましくは1乃至5等量の塩基を使用することが好ましい。
【0064】
塩基の存在下で、第三級アミンを用いた場合は式(1)で表される分岐高分子化合物を得ることができる。
塩基の非存在下で、第一級アミン又は第二級アミン化合物と分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物と反応させて分子末端にアミン末端を有する分岐高分子化合物を得る際、それぞれに対応する分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の分岐高分子化合物が得られる。
また、塩基を用いて反応を行った場合においても、有機溶剤中で塩酸、臭化水素、ヨウ化水素等の酸の水溶液と混合することにより、対応する分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の分岐高分子化合物が得られる。
【0065】
なお、本発明で用いられるアンモニウム基を有する分岐高分子化合物は、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500乃至5,000,000であり、好ましくは1,000乃至1,000,000であり、より好ましくは2,000乃至500,000であり、最も好ましくは3,000乃至200,000である。また、分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0乃至7.0であり、又は1.1乃至6.0であり、又は1.2乃至5.0である。
【0066】
前記複合体の形成にあたり、金属塩とアンモニウム基を有する分岐高分子化合物との割合は、金属塩100質量部に対してアンモニウム基を有する高分子50乃至2,000質量部が好ましい。50質量部未満であると、上記金属ナノ粒子の分散性が不充分であり、2,000質量部を超えると、金属ナノ粒子に付着又は配位していないアンモニウム基を有する高分子の含有量が多くなり、金属ナノ粒子の特性を発現する物性等に不具合が生じ
やすくなる。より好ましくは、100乃至1,000質量部である。
【0067】
金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は平均粒径が3乃至100nmの粒子であることが好ましい。理由としては、複合体の平均粒径が100nmを超えると、散乱により薄膜の透過率が低下するためである。平均粒径としては、75nm以下が更に好ましく、3乃至30nmが特に好ましい。
また、金属ナノ粒子の平均粒径は1乃至10nmが好ましく、さらには1乃至5nmが好ましい。
【0068】
なお、複合体形成時に、前記アンモニウム基含有高分岐高分子化合物を溶解する溶液に用いる有機溶媒の例としては、前記分岐高分子化合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶剤は一種を用いてもよいし、二種又はそれ以上を混合して用いてもよい。
【0069】
本発明の感光性組成物を重合条件下、すなわち露光して得られる硬化物は、生成する(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は、粒子形態で分散している状態にある。
【0070】
そして、本発明の感光性組成物から得られる硬化物の回折効率や非線形効果は、該硬化物の構成成分の体積比によって決定されるため、重合した感光性組成物の全体積に対する(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積比が大きいほど、回折効率や非線形効果が大きくなる。但し、組成物中に分散できる金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の量には限界があり、あまり多いと分散が困難となる。これらのことを踏まえ、感光性組成物を重合させて硬化物となしたとき、前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の合計体積に占める前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の割合が、3体積%乃至60体積%であることが好ましく、10体積%乃至45体積%が最も好ましい。
【0071】
[本発明の感光性組成物を用いた硬化物、薄膜、回折格子及びホログラム]
本発明の感光性組成物を用いて薄膜又は回折格子等の光学素子を作るには、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む前記感光性組成物に、必要に応じて、増感剤及びバインダ樹脂とともに混合し、このまま無溶剤で支持体上に塗布するか、これらの混合物に溶剤または添加剤を加えて混合してもよく、これを支持体上に塗布、乾燥して感光層を形成する。感光層の厚さとしては、例えば1乃至1,000μmであり、または10乃至500μmであり、または15乃至200μmである。
続いて、感光層上に支持体、あるいは酸素遮断のための保護層を設けることもできる。
これら支持体や保護層は、本発明の感光性組成物で構成される感光層が露光重合することにより発現される非線形光学効果を利用するために、光を透過させる場合には透明な物質である必要がある。
【0072】
上記支持体としては、透明なガラス板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルムなどが用いられる。塗布方法としては、直接滴下する方法に加え、従来公知の方法、例えば、回転塗布、ワイヤーバー塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、ブレード塗布、及びカーテン塗布等を用いることができる。
【0073】
上記保護層としては、酸素による感度低下や保存安定性の劣化等の悪影響を防止するための公知技術、例えば、水溶性ポリマー等を塗布してを用いることもできる。
【0074】
なお、支持体への塗布時に溶剤を用いる場合、使用成分に対して十分な溶解度を持ち、良好な塗膜性を与える溶媒であれば特に制限はないが、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレートエチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル等のエステル系溶剤、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の高極性溶剤、あるいはこれらの混合溶剤、さらには、これらに芳香族炭化水素を添加したもの等が挙げられる。溶剤使用の割合は、本実施形態の感光性組成物の総量に対して、通常、質量比で1乃至20倍程度の範囲である。
【0075】
本発明の感光性組成物を用いてパターンを有する回折格子又はホログラムを形成するには、前述の通り、まず、当該組成物を樹脂フィルムなどの適当な支持体上に塗布し、塗布膜を形成し、次いで、その塗布膜にパターン露光を行い、非線形光学薄膜を得る。
パターン露光の方法としては、パターンを形成することのできる露光方法であれば特に制限はなく、例えば適当なマスクを通して露光するフォトマスク露光及びフェーズマスク露光、又は干渉露光等の方法が挙げられるが、非線形回折格子又はホログラムを得るには干渉露光が好適である。干渉露光の光源としては、一般に干渉性の高いレーザー光であり、前記(b)光重合開始剤に高感度であればよく、例えばアルゴンイオンレーザー(458nm、488nm、514.5nm)、クリプトンイオンレーザー(647.1nm)、Nd:YAGレーザー(532nm)、Nd:YVO4レーザー(532nm)、In
GaNレーザー(405nm)、He−Cdレーザー(325nm、442nm)等が使用される。
【0076】
本発明の感光性組成物は(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含んでなる。
したがって、該感光性組成物を露光すると、高い屈折率や高速光学応答などの非線形光学効果を有する硬化物が得られる。
そして、例えば、マスクを通して露光が行われると、露光された部分において重合性化合物の重合反応が起こり重合体となる。その結果、露光部分において重合性化合物の化学ポテンシャルが減少し、それを補うように非露光部から露光部へ重合性化合物の移動が起こる。
一方、露光部では重合性化合物の減少とともに、光重合に関与しない金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の化学ポテンシャルが増加するため、それを抑えるように金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は、露光部から非露光部への移動をする。
こうした各成分の移動は、光重合が完了するまで本質的に継続する。結果として、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布は固定され、露光部と非露光部での成分と密度差によってパターンが形成される。
すなわち、本発明の感光性組成物より形成されるパターンは、パターン露光によって感
光性組成物中の各成分の相互拡散が起こった結果、生じた各成分の空間分布の差を利用して形成されたものである。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
<参考例:白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の製造>
(1)Pt(dba)2の合成
実験化学講座 第四版 17巻p.420(丸善(株))を参考に、テトラクロロ白金酸カリウムから調製した。すなわち、三角フラスコにジベンジリデンアセトン(7.06g、30mmol)の熱エタノール溶液(500mL)と酢酸ナトリウム(0.25g)の水溶液(2mL)をテトラクロロ白金酸カリウム(4.16g、10mmol)の熱水溶液(250mL)にかき混ぜながら加えた。24時間加熱還流下に反応させ、暗紫色の結晶を析出させ、メンブレンフィルターで熱時に濾過し、アセトン(100mL)で洗浄
した。得られた固体を熱ジクロロメタン(200mL)に再度溶解し、再度熱時に濾過した。濾液を加熱還流4時間し、溶媒を留去し、得られた暗紫色の固体をアセトン(50mL)で洗浄し、減圧乾燥した。得率56%(3.96g)。
【0079】
(2):HPS−N+Br-(Dodecyl)3の合成
HPS−Br(1.96g、10mmol)とN(Dodecyl)3(7.83g、
15mmol)をTHF中(25mL)、窒素雰囲気下、一昼夜攪拌した。反応溶液をヘキサン(100mL)で再沈精製し、得られた固体を濾別、減圧乾燥した。得率70%(5.0g)。
【0080】
(3)白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の調製
参考例1で調製したPt(dba)2(220mg、0.3mmol)と参考例2で調
整したHPS−N+Br-(Dodecyl)3(120mg、0.6mmol)をTHF
(50mL)中、水素雰囲気下で一昼夜攪拌した。反応溶液を濾過し、不溶物を濾別した後、濾液をヘキサン(200mL)で再沈精製した。得られた固体を濾別した後、減圧乾燥し、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体(129mg)を得
た。
【0081】
得られた粉末(白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体)のTH
F溶液のUV−Visスペクトルを図1に示す。図1のUV−Visスペクトルにおいて、350nmよりも短波長域に白金ナノ粒子の表面プラズモン吸収があることが確認された。
また、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体中の白金含有量を求めた結果、22質量%であっ
た。この結果、得られたHPS−N+Br-(Dodecyl)3と白金ナノ粒子からなる複合体において、白金属核(白金ナノ粒子)の平均粒径は2〜3nmであった。
さらに、乾式密度計(Micromeritics社製、AccuPyc1330)より求められた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の密度は、1.5894(g/cm3)であった。
また得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体を、走査型透過型電子顕微鏡(TEM)により観察を行った。その結果を図2に示す。
【0082】
<実施例1>
[感光性組成物1の調製]
参考例で調製した白金ナノ粒子−HPS−N+Br−(Dodecyl)3複合体0.
0204gを、テトラヒドロフラン(THF)0.1020gに溶解し、重合性化合物としてトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製、製品名:NKエステル DCP)0.1318gを加え、均一に分散させた後、光重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・ジャパン(株)製、商品名:Irgacure784)0.0013gを加えて溶解し、感光性組成物1を調製した。
【0083】
[屈折率の測定]
波長546nmの光に対する、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の屈折率は1.66、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートから得られた重合体の屈折率は1.53であり、両者の屈折率の差は0.13であった。
なお、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の屈折率の測定は、以下の手順で行った。まず、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートに対してIrgacure784を1質量%溶解させた組成物を調製した。この組成物を、スライドグラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼ったスライドガラスの中央(スペーサに挟まれた領域)に滴下し、スライドグラスをかぶせ固定した。これに、波長532nmのLED光を露光強度3.4mW/cm2で30分
間一様露光して、フィルム形成した。得られたフィルムをスライドガラスから剥離し、アッベ屈折計((株)アタゴ社製、DR−M4型、干渉フィルタ:546nm)を用いて屈折率を測定した。
【0084】
[密度の測定]
前述したように、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の密度
は1.5894g/cm3であり、よって感光性組成物1から得られる硬化物における該
複合体の体積は0.0204/1.5894=0.0128cm3である。
トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の密度は1.213g/cm3であり、よって感光性組成物1から得られる硬化物における該重合体の体積は0.13
18/1.213=0.1087cm3である。
従って感光性組成物1から得られる硬化物において、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体とトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合状
態の体積に占める、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の割合
は、0.0128/(0.0128+0.1087)=0.105、即ち10.5体積%であった。
【0085】
また、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の質量に占める、
白金ナノ粒子の質量割合は、前述の結果より22質量%である。
そして、HPS−N+Br-(Dodecyl)3と白金原子の密度はそれぞれ1.26
g/cm3、21.45g/cm3であるから、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の体積に占める白金ナノ粒子の体積割合は、1.632体積%となる
。
従って、感光性組成物1から得られる硬化物において、白金ナノ粒子−HPS−N+B
r-(Dodecyl)3複合体とトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合状態の体積に占める白金ナノ粒子の体積割合は10.5×0.01632=0.17136体積%であった。
【0086】
[回折効率の測定]
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り、スライドガラス中央(スペーサに挟まれた領域)に上記感光性組成物1を滴下し、オーブン中、50℃で約30分間乾燥し、ホログラム記録層を形成した。その
後、スライドガラスをかぶせ、膜厚が約44μmの体積位相型ホログラム記録媒体を作製した。
本記録媒体に対し、図3に示す装置によって、二光束干渉露光を行い、体積ホログラムの記録を試みた。ホログラム記録媒体1に対し、波長532nmの連続光Nd:YVO4
レーザー2を用いて、露光強度100mW/cm2で二光束干渉露光(格子間隔1μm)
を行った。連続光Nd:YVO4レーザー2から出射した光は、ビームエキスパンダ3を
経てハーフミラー13で2本に分割され、それぞれミラー5〜11を経てホログラム記録媒体1に照射され、両光の干渉縞が記録されホログラムが形成される。
同時に、ホログラム記録媒体が感光しない波長632.8nmの連続光ヘリウムネオン(He−Ne)レーザー4をホログラム記録媒体に照射し回折光を光検出器で検出することによりホログラム形成過程をモニターし、回折効率を評価した。本サンプルの回折効率の時間による変化を表すグラフを図4に示す。回折効率は露光時間の経過と共に急激に増加し、約335秒で10%に達し、その後も高い回折効率が維持された。そして回折効率が約26%の体積位相型ホログラムが永続的に形成されることが確認できた。
【0087】
<実施例2>
[非線形吸収と非線形屈折率の測定]
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り、スライドガラス中央(スペーサに挟まれた領域)に、前記感光性組成物1(白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の割合:10.5体積
%)を滴下し、オーブン中、50℃で約30分間乾燥し、記録層を形成した。その後、スライドガラスをかぶせ、膜厚が約22μmの記録媒体を作製した。
この記録媒体に対し、波長532nmのLED光を露光強度3.4mW/cm2で30
分間、記録層全面に一様露光を行い、記録媒体を一様に光硬化させて、非線形吸収と非線形屈折率の測定のための測定試料とした。
図5に示す装置によって非線形吸収と非線形屈折率を測定した。
【0088】
波長532nmのNd:YVO4パルスレーザーから10Hzの繰り返しで出射する光
パルスビーム(光パルス幅約30ピコ秒)を焦点距離20cmの凸レンズにより集光し、その焦点距離の位置あるいはその前後の位置に測定試料を設置して、測定試料からの透過光パワーを測定した。測定試料中の光パルスビームの光強度の大きさは測定試料の設置する位置z(集光点から前は−z方向、後は+z方向)に強く依存するので、測定試料中で生じる光吸収変化(非線形光吸収)あるいは屈折率変化(非線形屈折率)による透過光パルスビームのパワーや波面の変化も設置する位置に強く依存する。このように非線形光学効果を受けて測定試料を透過した光パルスビームは、測定試料の後方に設置された可変な開口を有する光検出器により透過光パルスビームの全てあるいは中心部分を含む一部の光パワーが検出され、測定試料の位置zの関数として透過率T0(=透過光パルス検出パワー/入射光パルス全パワー)が測定される。図5に示すように、可変な開口が測定試料を透過した光パルスビームの全ての光パワーを検出するように開口を全開にする場合(オープンアパーチャー)には測定試料の非線形光吸収が、一部の光パワーを検出するように開口を開けた場合(クローズトアパーチャー)には非線形屈折率が精度良く測定できる。
このような非線形吸収および非線形屈折率の測定方法はM.Sheik−Bahaeらにより1990年に提案され、「zスキャン法(z−scan method)」として
知られている。その詳細は文献(IEEE J.Quantum Electronics 26,760(1990))に説明されているが、基本的な測定原理は次のように説明できる。光パルスビームはレンズの焦点位置でその光強度が一番高くなるため、そこに非線形光学効果を有する測定試料が設置されたときには集光された光パルスビームは非線形吸収を一番強く受ける。一方、測定試料がレンズの焦点位置以外に設置されている場合には測定試料中での光強度が低くなるために非線形吸収は低くなる。従って、図6に示すようにオープンアパーチャー検出の場合には、zの変化に対して透過率変化ΔT0(=T0
(非線形効果が生じる高光強度入射のとき)−T0(非線形光学効果が無視できる低光強
度入射のとき))はレンズの焦点位置を中心とした谷型(光強度が高いと非線形吸収も高くなる場合)あるいは山型(光強度が高いと非線形吸収が低くなる場合)の依存性となる。また、非線形屈折率が生じる場合には、非線形屈折率が正の場合(光強度が高いと非線形屈折率変化が増加する場合)には光パルスビーム断面において最も光強度が高い中心部分の屈折率がより増加するために測定試料が凸レンズの役割を果たすことになる。従って、集光点の前側(後側)に測定試料が設置されると、図5に示すように測定試料を透過後の光パルスビームのビーム幅は光検出器が設置された場所において拡がる(狭まる)ことになる。すなわち、クローズトアパーチャー検出の場合には図7に示すようにΔT0はz
の関数としてS字型となる。一方、非線形屈折率が負の場合(光強度が高いと非線形屈折率変化が減少する場合)にはΔT0はzの関数として逆S字型となる。
【0089】
本実施例では、空気中における集光点での光パルスビームの光強度を2.4GW/cm2としたときの測定試料に対する非線形光吸収の測定として、オープンアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を図8に示す。試料膜厚が薄いために非線形吸収特性は明確には確認することはできなかったが、図9に示すように、測定試料に対する非線形屈折率の測定としてクローズトアパーチャー検出の場合のzスキャン法による測定結果、ΔT0は逆S字型を示すことから測定試料は負の非線形屈折率特性を持つことが確認できた。
このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の実部として−1.1×10-10esuを得た。
【0090】
<実施例3>
[非線形吸収と非線形屈折率の測定]
非線形吸収特性を観測するために、参考例で調製した白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体0.0084gをTHF 0.5119gに1.0147体
積%の濃度で溶解した白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体分散
溶液を調製した。
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼りスライドガラスをかぶせ、厚み0.1mmのガラスセルを作製した。このガラスセルに毛管現象を利用して注入した測定試料溶液に対して、空気中における集光点での光パルスビームの光強度を2.1GW/cm2としたときの測定試料に対する非線形
光吸収の測定として、オープンアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を図10に示す。レンズ焦点値(z=0)でT0は最大となり負の非線形吸収特性を持つことが
確認できた。このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の虚部として−1.2×10-12esuを得た。図11には測定試料に対する非線形屈折率の測定とし
てクローズトアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を示す。ΔT0は逆S字
型を示すことから測定試料は負の非線形屈折率特性を持つことが確認できた。このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の実部の値として−1.2×10-11
esuを得た。
実施例2の結果と比較すると、実施例3においては符号が同じで値が1桁程度小さくなっており、これは白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の添加濃
度は同等であるものの、分散するホスト材料が異なっているため(実施例2ではポリマー、実施例3においてはTHF(液体))と考えられる。
【符号の説明】
【0091】
1 ホログラム記録媒体
2 連続光Nd:YVO4レーザー
3 ビームエキスパンダ
4 He−Neレーザー
5、6、7、8、9、10、11 ミラー
12 ビームサンプラー
13 ハーフミラー
14、15 半波長板
16、17 偏光プリズム
18、19、20 光検出器
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属ナノ粒子が有する3次非線形光学効果を利用した非線形光学素子およびその製造方法に関する。より詳細には、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物、並びに該組成物を用いた非線形光学薄膜及び非線形回折格子などの非線形光学素子およびその製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
数nm乃至数十nm程度の粒径を有する金属ナノ粒子は、バルク金属とは異なる種々の物理的、化学的特性を示すことが知られている。
これまでに、金属ナノ粒子をガラスや結晶、ポリマー等の光学的に透明なマトリクス中に分散させることにより、3次の非線形光学特性を発現させた種々の材料が報告されている。
【0003】
例えば金属超微粒子をポリマーマトリクスに添加することにより高屈折率化(特許文献1参照)や高速光学応答(特許文献2参照)を実現した複合材料や、金属超微粒子のプラズモン吸収を利用した金属超微粒子含有薄膜付き基板を用いた着色フィルター(特許文献3参照)などが提案されている。
また、金属ナノ粒子の表面プラズモン共鳴周波数付近での局所電場の増強に起因する3次の光非線形性の増大効果を利用して、金、銀、銅などの金属ナノ粒子を無機材料マトリックス中に分散し、超高速光スイッチなどの純光学型デバイス応用を目指した報告がなされている(非特許文献1)。
【0004】
これら材料において、金属ナノ粒子は、マトリクス中に一様に分散しているか、又は、スパッタ法やパルスレーザ蒸着法により薄膜状(単層)の形態にある。しかしながら、金属ナノ粒子などの非線形光学効果の大きな物質を三次元空間で周期的に配列させた回折格子状の構造は、これまでには報告されていない。
なお、光スイッチ若しくは光変調器デバイス向けの非線形光学応答を示すポリマーに非線形効果を増強する目的で金属ナノ粒子を分散させた複合材料(特許文献4)が提案されているが、これはポリマー中に一様に分散させたものであって、金属ナノ粒子の回折格子は作製されていない。
【0005】
一方、石英基板上に二次元周期配列させた単一層の金ナノ微粒子アレイにおける非線形光学効果の報告がなされている(非特許文献2)。この二次元周期配列構造を作成するために、ナノ球リソグラフィー法と呼ばれる方法を用いている。すなわち、直径700nmのポリスチレン球を石英基板上に自己配列させて単層膜を形成し、その上からポリスチレン粒子間の隙間へ金ナノ微粒子ゾルを滴下することで、単一層の金ナノ微粒子二次元アレイを実現している。
【0006】
このようなリソグラフィー法を必要としない簡便な一段階の回折格子の作成方法として、重合性化合物、光重合開始剤、無機微粒子からなる感光性組成物を干渉露光により屈折率分布を形成し体積ホログラムを記録する方法(特許文献5参照)や、重合性化合物、光重合開始剤、ハイパーブランチポリマー等の有機微粒子からなる感光性組成物を干渉露光により体積ホログラムを記録する方法(特許文献6参照)の報告がある。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2000−327836号公報
【特許文献2】特開2000−250080号公報
【特許文献3】特開平8−292309号公報
【特許文献4】特開平2−8822号公報
【特許文献5】特許第3965618号明細書
【特許文献6】国際公開第2006/101003号パンフレット
【非特許文献】
【0008】
【非特許文献1】Optics Letters 27, 1043 (2002)
【非特許文献2】Applied Surface Science 253,4673(2007)
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0009】
前述の金ナノ微粒子二次元アレイは、煩雑な工程が必要であり、しかも、高回折効率のために必要とされる数10ミクロン以上の厚みを有する格子構造を形成することは困難である。そして、金属ナノ粒子を三次元空間で周期的に配列させた回折格子状の構造に関する報告はこれまでになされていない。
【0010】
本発明は、上記の事情に鑑みなされたものであって、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を重合性化合物中に均一に分散させた感光性組成物、並びに該組成物を用いることにより、金属ナノ粒子が有する大きな非線形光学効果を利用した硬化物、非線形光学薄膜、非線形回折格子及び非線形光学効果を有するホログラムを提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0011】
本発明者らは、上記目的を達成するために鋭意検討した結果、官能基として、アンモニウム基を分子末端に有する分岐高分子化合物が、金属ナノ粒子と安定な複合体を形成することにより、該複合体の重合性化合物中への均一な分散を可能とし、そしてこれらを含む感光性組成物を干渉露光すると、金属ナノ粒子が周期的に配列し、屈折率の周期的な空間変調(屈折率変調)を有する回折格子又はホログラムを一段階で作成でき、そしてこの回折格子又はホログラムが入射光強度に依存した回折効率(=1次のブラッグ回折光強度/入射光強度)の特性をもつ、所謂、非線形ブラッグ回折特性を有することを見いだし、本発明を完成させた。
なお、ここで非線形ブラッグ回折とは、物質に光を照射した際、その物質の吸収係数や屈折率などの光学特性が光の強度に応じて変化(所謂、非線形光学効果)する現象を意味する。
【0012】
即ち、本発明は、第1観点として、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物。
第2観点として、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む非線形光学素子作成用の感光性組成物。
第3観点として、前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が、500乃至5,000,000の重量平均分子量を有し且つアンモニウム基を有する分岐高分子化合物が金属ナノ粒子に付着し又は配位して形成されてなる複合体である、第1観点又は第2観点記載の感光性組成物。
第4観点として、前記金属ナノ粒子が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子である、第1観点乃至第3観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第5観点として、前記金属ナノ粒子が平均粒径1nm乃至10nmのナノ粒子である、第1観点乃至第4観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第6観点として、前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が平均粒径3nm乃至100nmの粒子である、第1観点乃至第5観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第7観点として、前記アンモニウム基含有分岐高分子化合物が式(1):
【化1】
[式中、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝
分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任
意の整数を表す。)を表すか、又は、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は
環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
X-は陰イオンを表し、
A1は式(2)
【化2】
(式中、
A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30の直鎖状
、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。]で表される分岐高分子化合物である、第1観点乃至第6観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第8観点として、前記式(1)中、A1が式(3):
【化3】
で表される基を表し、
X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートを表し、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化4】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、第7観点に記載の感光性組成物。
第9観点として、前記(a)重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第10観点として、前記(a)重合性化合物が、カチオン重合性の部位を有する化合物であり、前記(b)光重合開始剤が光酸発生剤である、第1観点乃至第8観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
第11観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を露光して得られる非線形光学効果を有する硬化物。
第12観点として、前記硬化物が、(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が粒子形態で分散している状態にある、第11観点記載の硬化物。
第13観点として、前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体との合計体積に占める(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積割合が、3体積%乃至60体積%である、第11観点又は第12観点記載の硬化物。
第14観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物からなる薄膜をパターン露光して形成される、前記金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布が露光前のものとは変化している非線形光学薄膜。
第15観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形回折格子。
第16観点として、第1観点乃至第10観点のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形光学効果を有するホログラム。
【発明の効果】
【0013】
本発明の感光性組成物においては、そこに含まれる金属ナノ粒子が、アンモニウム基含有分岐高分子化合物と複合体を形成することにより、高分子マトリクス中で凝集することなく、一次粒子のまま分散することができる。
そして、本発明の感光性組成物にあっては、干渉露光などの光のパターンを用いて重合性化合物(感光性モノマー)を重合させることにより、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が空間的な密度分布をもって存在する構造を有する回折格子又はホログラムを任意且つ容易に作成することができる。
【0014】
さらに、本発明により得られる回折格子又はホログラムは、屈折率又は吸収係数が周期的に空間変調された回折格子又はホログラムであり、前述の非線形ブラッグ回折特性を有することから、入射光自身あるいは外部制御光などの光によるブラッグ回折光あるいは透過光の制御が可能となるという特徴を有する。
そして、このような非線形光学特性を持つ(透過型又は反射型)回折格子又はホログラムは、光リミッター素子や超高速光スイッチング、光相安定(多安定)性、連続光から光パルス列や不規則パルス光の発生など、入出力に光のみを使う全光学型の光機能素子等の用途において使用することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】図1は、参考例で得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体のTHF溶液のUV−Visスペクトルを示す図である。
【図2】図2は、参考例で得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体のTEM像を示す図である。
【図3】図3は、体積ホログラム記録媒体に対する二光束干渉露光を行う装置の概念図である。
【図4】図4は、実施例1における体積ホログラム記録媒体の回折効率の露光時間変化を表すグラフである。
【図5】図5は、測定試料に対するzスキャン法による非線形吸収および非線形屈折率を測定するための装置の概念図である。
【図6】図6は、zスキャン法によるオープンアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。z0は集光ビームの光軸方向の深度を表す定数である。
【図7】図7は、zスキャン法によるクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。z0は集光ビームの光軸方向の深度を表す定数である。
【図8】図8は、実施例2における測定試料のオープンアパーチャー検出の場合の透過率T0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図9】図9は、実施例2における測定試料のクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図10】図10は、実施例3における測定試料のオープンアパーチャー検出の場合の透過率T0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【図11】図11は、実施例3における測定試料のクローズトアパーチャー検出の場合の透過率変化ΔT0の設置位置依存性を表すグラフである。実線はzスキャン法の理論式によるフィッティング曲線である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
本発明の感光性組成物は、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む。以下、各成分について詳細に説明する。
【0017】
[(a)重合性化合物]
本発明における重合性化合物は、後述する(b)光重合開始剤の作用によって重合する重合性の部位を分子内に一個以上、好ましくは一個乃至六個有する化合物であれば特に制限はない。
【0018】
前記重合性の部位を有する化合物としては、ラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物、あるいは、カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、ビニルチオエーテル構造、エポキシ環やオキセタン環等の環状エーテル構造等を有する化合物を挙げることができる。
なお、本発明における「重合性化合物」の意味するところは、所謂高分子物質でない化
合物である。従って、狭義の単量体化合物だけでなく、二量体、三量体、オリゴマーや反応性高分子をも包含するものである。
以下、重合性化合物の具体例を挙げるが、これら化合物に限定されるものではない。
【0019】
上記のラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物としては、例えば、不飽和カルボン酸;脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂肪族ポリヒドロキシ化合物及び脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物;脂肪族ポリヒドロキシ化合物や芳香族ポリヒドロキシ化合物等の多価ヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸及び多価カルボン酸とのエステル化反応により得られるエステル化合物;脂肪族ポリアミン化合物と不飽和カルボン酸とのアミド化合物等が挙げられる。
この中でも好ましいものとして、不飽和カルボン酸、また、上記不飽和カルボン酸との各種エステル化合物として、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有するエステル化合物が挙げられる。ここで炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基とはすなわち、オキシエチレン基、オキシプロピレン基、オキシブチレン基等であり、これらの基はヒドロキシ基及びハロゲン等で置換されていても良い。
【0020】
前記不飽和カルボン酸としては、2−ヒドロキシ−3−フェノキシプロピルアクリレート、3−クロロ−2−ヒドロキシプロピルアクリレート、2−アクリロイロキシエチルコハク酸、2−アクリロイロキシエチルフタル酸等が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0021】
前記脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(平均エトキシ付加量としては2.4モル、4モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ペンタエリスリトールテトラアクリレート(平均プロポキシ付加量としては4モル、10モル等が挙げられる)、ジペンタエリスリトールペンタアクリレート、ジペンタエリスリトールヘキサアクリレート、エトキシ変性トリメチロールプロパントリアクリレート(平均エトキシ付加量としては3モル、6モル等が挙げられる)、プロピレングリコールジグリシジルエーテルのアクリル酸付加物等が挙げられる。また、その他の脂肪族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物としては、トリプロピレングリコールジアクリレート、トリメチロールプロパントリアクリレート、トリメチロールエタントリアクリレート、ジトリメチロールプロパンテトラアクリレート、1,6−ヘキサンジオールジアクリレート、ポリブタンジオールジアクリレート等のアルキレングリコールジアクリレート;ペンタエリスリトールジアクリレート、ペンタエリスリトールトリアクリレート、ペンタエリスリトールテトラアクリレート、グリセロールアクリレート等のアクリル酸エステル化合物を挙げることが出来る。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0022】
前記脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性水添ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ付加量は4モルが挙げられる。)等が挙げられる。その他の脂環族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエ
ステル化合物としては、トリシクロデカンジメタノールジアクリレート等が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0023】
前記芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物のうち、炭素原子数2乃至6のオキシアルキレン基を3乃至20個有する重合性化合物としては、エトキシ変性ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ付加量としては3モル、4モル、10モル、20モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ビスフェノールAジアクリレート、エトキシ−プロポキシ変性ビスフェノールAジアクリレート(平均エトキシ、プロポキシ付加量としては18モル等が挙げられる)、エトキシ変性ビスフェノールFジアクリレート(平均エトキシ付加量としては4モル等が挙げられる)、プロポキシ変性ビスフェノールFジアクリレート、エトキシ−プロポキシ変性ビスフェノールFジアクリレート等が挙げられる。その他の芳香族ポリヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸とのエステル化合物としては、ビスフェノールAジアクリレート、ビスフェノールFジアクリレート、ヒドロキノンジアクリレート、レゾルシンジアクリレート、p−ビス(β−メタクリロイルオキシエチルチオ)キシリレン、及びピロガロールトリアクリレート等及びこれらのエトキシ、プロポキシ変性物が挙げられる。また、これらのアクリル酸エステル化合物のアクリレート部分をメタクリレートに変えたメタクリル酸エステル化合物(とりわけヒドロキノンジメタクリレート、レゾルシンジメタクリレート等)、同様にイタコネートに変えたイタコン酸エステル化合物、クロトネートに変えたクロトン酸エステル化合物、及びマレエートに変えたマレイン酸エステル化合物等も挙げられる。
【0024】
前記脂肪族ポリヒドロキシ化合物や芳香族ポリヒドロキシ化合物等の多価ヒドロキシ化合物と不飽和カルボン酸及び多価カルボン酸とのエステル化反応により得られるエステル化合物としては必ずしも単一物では無いが代表的な具体例を挙げれば、アクリル酸、フタル酸及びエチレングリコールの縮合物、アクリル酸、マレイン酸及びジエチレングリコールの縮合物、アクリル酸、安息香酸及びトリメチロールプロパンの縮合物、アクリル酸、テレフタル酸及びペンタエリスリトール、ジペンタエリスリトールの縮合物、アクリル酸、アジピン酸、ブタンジオール及びグリセリンの縮合物等が挙げられる。
【0025】
本発明に用いられるエチレン性不飽和結合を有する化合物のその他の例としては、多価イソシアネートとヒドロキシアルキル不飽和カルボン酸エステルとの反応によって得ることができるウレタン化合物や、多価エポキシ化合物とヒドロキシアルキル不飽和カルボン酸エステルとの反応によって得ることができる化合物や、リン酸基を有する多価アクリレート及びメタクリレートを挙げることができる。さらに、例えば、エチレン−ビスアクリルアミド等のアクリルアミド化合物、フタル酸ジアリル等のアリルエステル化合物、及びジビニルフタレート等のビニル基含有化合物等が有用である。
本発明においては、エチレン性不飽和結合を有する化合物としては、特にアクリル酸エステル化合物またはメタクリル酸エステル化合物が特に好ましい。
これらのエチレン性不飽和結合を有する化合物は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0026】
上記カチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造を有する重合性化合物としては、例えば、ビニル−2−クロロエチルエーテル、ビニル−ノルマルブチル−エーテル、トリエチレングリコールジビニルエーテル、1,4−シクロヘキサンジメタノールジビニルエーテル、トリメチロールエタントリビニルエーテル、及びビニルグリシジルエーテル等を挙げることができる。
【0027】
上記エポキシ環を有する重合性化合物としては、例えば、ジグリセロールポリジグリシジルエーテル、ペンタエリスリトールポリグリシジルエーテル、1,4−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)シクロヘキサン、ソルビトールポリグリシジルエーテル、トリメチロールプロパンポリグリシジルエーテル、レゾルシンジグリシジルエーテル、1,6−へキサンジオールジグリシジルエーテル、ポリエチレングリコールジグリシジルエーテル、フェニルグリシジルエーテル、p−ターシャリーブチル−フェニルグリシジルエーテル、アジピン酸ジグリシジルエーテル、o−フタル酸ジグリシジルエーテル、ジブロモフェニルグリシジルエーテル、1,2:7,8−ジエポキシオクタン、1,6−ジメチロールパーフルオロヘキサンジグリシジルエーテル、4,4’−ビス(2,3−エポキシプロポキシパーフルオロイソプロピル)ジフェニルエーテル、2,2−ビス(4−グリシジルオキシフェニル)プロパン、3,4−エポキシシクロヘキシルメチル−3’,4’−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート、3,4−エポキシシクロヘキシルオキシラン、2−(3,4−エポキシシクロヘキシル)−3’,4’−エポキシ−1,3−ジオキサン−5−スピロシクロヘキサン、1,2−エチレンジオキシ−ビス(3,4−エポキシシクロヘキシルメタン)、4’,5’−エポキシ−2’−メチルシクロヘキシルメチル−4,5−エポキシ−2−メチルシクロヘキサンカルボキシレート、エチレン−グリコール−ビス(3,4−エポキシシクロヘキサンカルボキシレート)、ビス−(3,4−エポキシシクロヘキシルメチル)アジペート、及びジ−2,3−エポキシシクロペンチルエーテル等を挙げることができる。
【0028】
上記オキセタン環を有する重合性化合物としては、例えば、3−エチル−3−ヒドロキシメチルオキセタン、3−エチル−3−(フェノキシメチル)オキセタン、3,3−ジエチルオキセタン、及び3−エチル−3−(2−エチルヘキシロキシメチル)オキセタン等のオキセタン環を一つ有する化合物、1,4−ビス{[(3−エチル−3−オキセタニル)メトキシ]メチル}ベンゼン、ジ(1−エチル(3−オキセタニル))メチルエーテル、及びペンタエリスリトールテトラキス(3−エチル−3−オキセタニルメチル)エーテル等のオキセタン環を二つ以上有する化合物を挙げることができる。
【0029】
これら重合性化合物は単独で用いても良いし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0030】
[(b)光重合開始剤]
本発明における(b)光重合開始剤としては、後述するパターン露光によって前記(a)重合性化合物の重合を開始することができる機能を有する化合物であれば特に限定はない。
【0031】
前記(a)重合性化合物として、前記のラジカル重合性の部位であるエチレン性不飽和結合を有する化合物を使用する場合、光重合開始剤としてはパターン露光時に活性ラジカルを生成する光ラジカル重合開始剤が好ましい。
また、前記(a)重合性化合物として前記のカチオン重合性の部位であるビニルエーテル構造、エポキシ環またはオキセタン環等を有する化合物を使用する場合、光重合開始剤としては干渉露光時にルイス酸あるいはブレンステッド酸を生成する光酸発生剤が好ましい。
【0032】
前記光ラジカル重合開始剤としては、パターン露光時に活性ラジカルを生成する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ベンゾイン系化合物、α−アミノアルキルフェノン系化合物、チオキサントン系化合物、アゾ系化合物、アジド系化合物、ジアゾ系化合物、o−キノンジアジド系化合物、アシルホスフィンオキサイド系化合物、オキシムエステル系化合物、有機過酸化物、ベンゾフェノン類、ビスクマリン、ビイミダゾール化合物、チタノセン化合物、チオール化合物、ハロゲン化炭化水素化合物、トリクロロメチルトリ
アジン化合物、あるいはヨードニウム塩化合物、スルホニウム塩化合物などのオニウム塩化合物等が用いられる。これら化合物のうち、特にチタノセン化合物が好ましい。光ラジカル重合開始剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0033】
前記チタノセン化合物は、特に限定はされないが、具体的には、ジシクロペンタジエニル−チタン−ジクロリド、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビスフェニル、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,4,6−トリフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,6−ジフルオロフェニル)、ジシクロペンタジエニル−チタン−ビス(2,4−ジフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,3,4,5,6−ペンタフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,3,5,6−テトラフルオロフェニル)、ビス(メチルシクロペンタジエニル)−チタン−ビス(2,6−ジフルオロフェニル)、及びビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム等を挙げることができる。
【0034】
ベンゾイン系化合物としては、ベンゾインエチルエーテル、2,2−ジメトキシ−1,2−ジフェニルエタン−1−オン、1−ヒドロキシシクロヘキシルフェニルケトン、2−ヒドロキシ−2−メチル−1−フェニルプロパン−1オン等を挙げることができる。
【0035】
α−アミノアルキルフェノン系化合物としては、2−メチル−1−(4−(メチルチオ)フェニル)−2−モルフォリノプロパン−1−オン、2−ベンジル−2−ジメチルアミノ−1−(4−モルフォリノフェニル)−ブタノン−1等を挙げることができる。
【0036】
チオキサントン系化合物としては、チオキサントン、1−クロロチオキサントン、2−クロロチオキサントン、1−クロロ−4−プロポキシチオキサントン、2−メチルチオキサントン、2−イソプロピルチオキサントン、2,4−ジエチルチオキサントン等を挙げることができる。
【0037】
アシルホスフィンオキサイド系化合物としては、ビス(2,4,6−トリメチルベンゾイル)フェニルホスフィンオキサイド、2,4,6−トリメチルベンゾイルジフェニルホスフィンオキサイド等を挙げることができる。
【0038】
オキシムエステル系化合物としては、1,2−オクタンジオン−1−(4−(フェニルチオ)−2−(O−ベンゾイルオキシム))、エタノン−1−(9−エチル−6−(2−メチルベンゾイル)−9H−カルバゾール−3−イル)−1−(O−アセチルオキシム)等を挙げることが出来る。
【0039】
アジド系化合物としては、p−アジドベンズアルデヒド、p−アジドアセトフェノン、p−アジド安息香酸、p−アジドベンザルアセトフェノン、4,4’−ジアジドカルコン、4,4’−ジアジドジフェニルスルフィド、2,6−ビス(4’−アジドベンザル)−4−メチルシクロヘキサノン、及びα−シアノ−4,4’−ジベンゾスチルベン等を挙げることができる。
【0040】
アゾ系化合物としては、2,2’−アゾビス(2−アミノジプロパン)塩酸塩、4,4’−アゾビス(4−シアノ吉草酸)、2,2’−アゾビス〔N−(2−カルボキシエチル)−2−メチルプロピオンアミジン〕、ジメチル2,2’−アゾビスイソブチレート、2,2’−アゾビスイソブチロニトリル、2,2’−アゾビス(2,4−ジメチルバレロニ
トリル)、2,2’−アゾビス(2−メチルブチロニトリル)、1,1’−アゾビス(シクロヘキサン−1−カルボニトリル)、2,2’−アゾビス{2−メチル−N−〔2−(1−ヒドロキシブチル)〕プロピオンアミド}、2,2’−アゾビス〔2−メチル−N−(2−ヒドロキシエチル)プロピオンアミド〕、2,2’−アゾビス〔2−(5−メチル−2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕硫酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(3,4,5,6−テトラヒドロピリミジン−2−イル)プロパン〕塩酸塩、2,2’−アゾビス{2−〔1−(2−ヒドロキシエチル)−2−イミダゾリン−2−イル〕プロパン}塩酸塩、2,2’−アゾビス〔2−(2−イミダゾリン−2−イル)プロパン〕等を挙げることができる。
【0041】
ジアゾ系化合物としては、1−ジアゾ−2,5−ジエトキシ−4−p−トリルメルカプトベンゼンボロフルオリド、1−ジアゾ−4−N,N−ジメチルアミノベンゼンクロリド、及び1−ジアゾ−4−N,N−ジエチルアミノベンゼンボロフルオリド等を挙げることができる。
【0042】
o−キノンジアジド系化合物としては、1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−4−スルホン酸ナトリウム塩、1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−5−スルホン酸エステル、及び1,2−ナフトキノン−ジアジド(2)−4−スルホニルクロリド等を挙げることができる。
【0043】
ベンゾフェノン類としては、例えばベンゾフェノン、4,4’−ビスジエチルアミノベンゾフェノン、1,4−ジベンゾイルベンゼン、10−ブチル−2−クロロアクリドン、2−ベンゾイルナフタレン、4−ベンゾイルビフェニル、4−ベンゾイルジフェニルエーテル、3,3’,4,4’−テトラ(t−ブチルパーオキシカルボニル)ベンゾフェノン等を挙げることができる。
【0044】
ビスクマリンとしては、例えば3,3’−カルボニルビス(7−(ジエチルアミノ)−2H−クロメン−2−オン)等が挙げられ、これはみどり化学株式会社でBC(CAS[63226−13−1])として市販されている。
【0045】
ビイミダゾール化合物としては、2,2’−ビス(o−クロロフェニル)−4,5,4’,5’−テトラキス(3,4,5−トリメトキシフェニル)1,2’−ビイミダゾール、及び2,2’−ビス(o−クロロフェニル)4,5,4’,5’−テトラフェニル−1,2’−ビイミダゾール等を挙げることができる。
【0046】
前記光酸発生剤としては、パターン露光時にルイス酸あるいはブレンステッド酸を生成する化合物であれば特に限定されないが、例えば、ジアリルヨードニウム塩化合物、トリアリールスルホン酸塩化合物、ジアゾニウム塩化合物などのオニウム塩化合物、及び鉄アレーン錯体化合物等を挙げることができる。光酸発生剤は単独で用いてもよいし、必要に応じて二種以上を混合して用いてもよい。
【0047】
ジアリルヨードニウム塩化合物としては、例えば、ジフェニルヨードニウム、4,4’−ジクロロジフェニルヨードニウム、4,4’−ジメトキシジフェニルヨードニウム、4,4’−ジ−ターシャリーブチルジフェニルヨードニウム、(4−メチルフェニル)[4
−(2−メチルプロピル)フェニル]ヨードニウム、及び3,3'−ジニトロフェニルヨードニウム等のヨードニウムのテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、及びヘキサフルオロアンチモネート等が挙げられる。
【0048】
トリアリールスルホン酸塩化合物としては、例えば、トリフェニルスルホニウム、4−
ターシャリーブチル−トリフェニルスルホニウム、トリス(4−メチルフェニル)スルホニウム、トリス(4−メトキシフェニル)スルホニウム、及び4−チオフェニルトリフェニルスルホニウム等のスルホニウムのテトラフルオロボレート、ヘキサフルオロホスフェート、ヘキサフルオロアルセネート、及びヘキサフルオロアンチモネート等を挙げることができる。
【0049】
鉄アレーン錯体化合物としては、ビスシクロペンタジエニル−(η6−イソプロピルベンゼン)−鉄(II)ヘキサフルオロホスフェート等が挙げられる。
【0050】
[(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体]
本発明に用いられる金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体(以降、単に複合体とも称する。)は、アンモニウム基含有分岐高分子化合物が、その有するアンモニウム基の作用により、金属ナノ粒子に接触又は近接した状態で両者が共存し、粒子状の形態を為すものであり、言い換えると、アンモニウム基含有分岐高分子化合物のアンモニウム基が金属ナノ粒子に付着又は配位した構造を有する複合体であると表現される。
従って、本発明において「金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体」には、上述のように金属ナノ粒子と分岐高分子化合物が結合して一つの複合体を形成しているものだけでなく、金属ナノ粒子とアンモニウム基含有分岐高分子化合物が結合部分を形成することなく、夫々独立して存在しているものも含まれていてもよい。
【0051】
前記複合体は、例えばアンモニウム基を有する分岐高分子化合物を溶解した液中に、金属塩の水溶液及び還元剤を添加して、金属イオンを還元することによって得られる。
【0052】
前記複合体における金属源(金属ナノ粒子)としては特に限定されず、スカンジウム、チタン、バナジウム、クロム、マンガン、鉄、コバルト、ニッケル、銅、亜鉛、ガリウム、ゲルマニウム、イットリウム、ジルコニウム、ニオブ、モリブデン、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、銀、カドミウム、インジウム、スズ、アンチモン、ハフニウム、タンタル、タングステン、レニウム、オスミウム、イリジウム、白金、金、水銀、タリウム、鉛及びビスマスが挙げられ、これらの金属の1種類でもよいし二種以上の合金でも構わない。好ましくは、金、銀、白金、銅、ニッケル、ルテニウム、ロジウム、パラジウム、オスミウム及びイリジウム等を挙げることができる。さらに好ましくは、金、銀、白金、及び銅が挙げられる。
上記金属塩としては、塩化金酸、硝酸銀、硫酸銅、硝酸銅、塩化第一白金、Pt(dba)2[dba=ジベンジリデンアセトン]、Pt(cod)2[cod=1,5−シクロオクタジエン]、PtMe2(cod)、塩化パラジウム、酢酸パラジウム、硝酸パラジ
ウム、Pd2(dba)3(CHCl3)]、Pd(dba)2、塩化ロジウム、酢酸ロジウム、塩化ルテニウム、酢酸ルテニウム、Ru(cod)(cot)[cot=シクロオクタトリエン]、塩化イリジウム、酢酸イリジウム、Ni(cod)2等が挙げられる。
【0053】
上記還元剤としては、特に限定されるものではなく、種々の還元剤を用いることができ、得られる組成物の使用用途や、含有させる金属種等により還元剤を選択することが好ましい。用いることができる還元剤としては、例えば、水素化ホウ素ナトリウム、水素化ホウ素カリウムなどの水素化ホウ素金属塩、水素化アルミニウムリチウム、水素化アルミニウムカリウム、水素化アルミニウムセシウム、水素化アルミニウムベリリウム、水素化アルミニウムマグネシウム、水素化アルミニウムカルシウム等の水素化アルミニウム塩、ヒドラジン化合物、クエン酸及びその塩、コハク酸及びその塩、アスコルビン酸及びその塩等が挙げられる。
上記還元剤の添加量は、上記金属イオン1molに対して1乃至50molが好ましい。1mol未満であると、還元が充分に行われず、50molを超えると、対凝集安定性が低下する。より好ましくは、1.5乃至10molである。
【0054】
本発明において、金属ナノ粒子と複合体を形成するアンモニウム基を有する分岐高分子化合物としては、例えば、上記式(1)で示すものが挙げられる。
【化5】
上記式(1)において、R1は水素原子又はメチル基を表す。また、R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任意の整数を表す。)
を表す。また、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基で
結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく、該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい。またX-は陰イオンを表し、X-として好ましいのはハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートである。また、式(1)中、A1は式(2)
【化6】
(式中、A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30
の直鎖状、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表す。
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。
【0055】
好ましくは、式(1)で表される分岐高分子化合物において、A1が式(3):
【化7】
で表される構造を表し、X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカン
スルホナートを表し、R1は水素原子又はメチル基を表し、そしてR2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化8】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、分岐高分子化合物が望ましい。
【0056】
R2、R3及びR4で表される炭素原子数1乃至20の直鎖状のアルキル基としては、メ
チル基、エチル基、n−プロピル基、n−ブチル基、n−ペンチル基、n−ヘキシル基、n−ヘプチル基、n−オクチル基、n−ノニル基、n−デシル基、n−ウンデシル基、n−ドデシル基、n−トリデシル基、n−テトラデシル基、n−ペンタデシル基、n−ヘキサデシル基、n−ヘプタデシル基、n−オクタデシル基、n−ノナデシル基、n−エイコシル基等が挙げられる。枝分かれ状のアルキル基としては、イソプロピル基、イソブチル基、sec−ブチル基、tert−ブチル基等が挙げられる。環状のアルキル基としては、シクロペンチル環、シクロヘキシル環構造を有する基等が挙げられる。炭素原子数7乃至20のアリールアルキル基としては、ベンジル基、フェネチル基等が挙げられる。
R2、R3及びR4で表されるアルキレン基としては、メチレン基、エチレン基、ノルマ
ルプロピレン基、ノルマルブチレン基、ノルマルヘキシレン基等の直鎖状アルキレン基等が挙げられる。枝分かれ状アルキレン基としては、イソプロピレン基、イソブチレン基、2−メチルプロピレン基等が挙げられる。環状のアルキレン基としては、炭素原子数3乃至30の単環式、多環式、架橋環式の環状構造の脂環式脂肪族基が挙げられる。具体的には、炭素原子数4以上のモノシクロ、ビシクロ、トリシクロ、テトラシクロ、ペンタシクロ構造等を有する基を挙げることができる。
さらに、式(1)で表される構造でR2、R3及びR4でが互いに結合し、それらと結合
する窒素原子と共に形成する環としては、ピリジン環、ピリミジン環、ピラジン環、キノリン環、ピピリジル環等が挙げられる。
【0057】
次に、分子末端にアミノ基を有する分岐高分子化合物の製造法について説明する。
分子末端にアンモニウム基を有する分岐高分子化合物は、例えば、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物にアミン化合物を反応させることによって得ることができる。
なお、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物は、国際公開第2008/029688号パンフレットの記載に従い合成することができる。
【0058】
分岐高分子化合物の合成反応で使用できるアミン化合物は、第一級アミンとしてN−メチルアミン、N−エチルアミン、N−n−プロピルアミン、N−イソプロピルアミン、N−n−ブチルアミン、N−n−イソブチルアミン、N−sec−ブチルアミン、N−tert−ブチルアミン、N−n−ペンチルアミン、N−n−ヘキシルアミン、N−n−ヘプチルアミン、N−n−オクチルアミン、N−n−ノニルアミン、N−n−デシルアミン、N−n−ウンデシルアミン、N−n−ドデシルミアン、N−n−トリデシルアミン、N−n−テトラデシルアミン、N−n−ペンタデシルアミン、N−n−ヘキサデシルアミン、N−n−ヘプタデシルアミン、N−n−オクタデシルアミン、N−n−ノナデシルアミン、N−n−エイコシルアミン等の脂肪族アミン、N−シクロペンチルアミン、N−シクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、アニリン、p−n−ブチルアニリン、p−t−ブチルアニリン、p−n−オクチルアニリン、p−n−デシルアニリン、p−n−ドデシルアニリン、p−n−テトラデシルアニリン等のアニリン、N−ベンジルアミン、N−(2−フェニルエチル)アミン等のアルキルフェノール、1−ナフチルアミン、2−ナフチルアミン等のナフチルアミン、1−アミノアントラセン、2−アミノアントラセン等のアミノアントラセン、1−アミノアントラキノン等のアミノアントラキノン、4−アミノビフェニル、2−アミノビフェニル等のアミノビフェニル、2−アミノフルオレンアミノフルオレ
ン、1−アミノ−9−フルオレノン、4−アミノ−9−フルオレノン等のアミノフルオレノン、5−アミノインダン等のアミノインダン、5−アミノイソキノリン等のアミノイソキノリン、9−アミノフェナントレン等のアミノフェナントレン等の芳香族アミンが挙げられる。更に、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,2−エチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,3−プロピレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,4−ブチレンンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,5−ペンタメチレンジアミン、N−(tert−ブトキシカルボニル)−1,6−ヘキサメチレンジアミン、N−(2−ヒドロキシエチル)アミン、N−(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N−(2−メトキシエチル)アミン、N−(2−エトキシエチル)アミン等のアミン化合物が挙げられる。
【0059】
第二級アミンとしては、N,N−ジメチルアミン、N,N−ジエチルアミン、N,N−ジ−n−プロピルアミン、N,N−ジ−イソプロピルアミン、N,N−ジ−n−ブチルアミン、N,N−n−イソブチルアミン、N,N−ジ−sec−ブチルアミン、N,N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−エチルアミン、N−メチル−N−n−プロピルアミン、N−メチル−N−n−ブチルアミン、N−メチル−N−n−ペンチルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−n−ブチルアミン、N−エチル−N−n−ペンチルアミン、N−メチル−N−n−オクチルアミン、N−メチル−N−n−デシルアミン、N−メチル−N−n−ドデシルアミン、N−メチル−N−n−テトラデシルアミン、N−メチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N−メチル−N−n−オクタデシルアミン、N−エチル−N−イソプロピルアミン、N−エチル−N−オクチルアミン、N,N−ジ−n−ヘキシルアミン、N,N−ジオクチルアミン、N,N−ジドデシルアミン、N,N−ジヘキサデシルアミン、N,N−ジオクタデシルアミン等の脂肪族アミン、N,N−ジシクロヘキシルアミン等の脂環式アミン、N,N−ジフェニルアミン、N,N−ジベンジルアミン等の芳香族アミン、フタルイミド、ピロール、ピペリジン、ピペラジン、イミダゾール等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。更に、N,N−ジ(2−ヒドロキシエチル)アミン、N,N−ジ(3−ヒドロキシプロピル)アミン、N,N−ジ(エトキシエチル)アミン、N,N−ジ(プロポキシエチル)アミン等が挙げられる。
【0060】
第三級アミンとしては、トリメチルアミン、トリエチルアミン、トリプロピルアミン、トリブチルアミン、トリペンチルアミン、N,N−ジメチル−N−オクチルアミン、N,N−ジエチル−N−n−デシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−テトラデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ヘキサデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−オクタデシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−エイコシルアミン、N,N−ジメチル−N−n−ドデシルアミン等の脂肪族アミン、ピリジン、ピラジン、ピリミジン、キノリン、1−メチルイミダゾール、4,4’−ピピリジル、4−メチル4,4’−ピピリジル等の窒素含有複素環式化合物が挙げられる。
【0061】
これらの反応で使用できるアミン化合物の使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物中のハロゲン原子の1モル当量に対して0.1乃至20倍モル当量、好ましくは0.5乃至10倍モル当量、より好ましくは1乃至5倍モル当量であればよい。反応の条件としては、反応時間は0.01乃至100時間、反応温度は0乃至300℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1乃至10時間で、反応温度が20乃至150℃である。
【0062】
分子末端のハロゲン原子とアミン化合物との反応は、水又は有機溶剤溶液中で、塩基の存在下又は非存在下で行なうことができる。使用する溶剤は、ハロゲン原子を有する分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能なものが好ましい。さらに、ハロゲン原子を有する分岐高分子化合物とアミン化合物を溶解可能であるが、分子末端にアンモニウム基を有する分岐高分子化合物を溶解しない溶媒であれば、単離が容易となりさらに好適である。
有機溶剤としては、本反応の進行を著しく阻害しないものであれば良く、水及び酢酸等の有機酸系溶媒、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン、1,2−ジクロロベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、クロロホルム、ジクロロメタン、1,2−ジクロロエタン、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン、ジメチルホルムアミド、ジメチルアセトアミド、N−メチルピロリドン等の脂肪族炭化水素類等が使用できる。これらの溶剤は一種を用いてもよいし、二種以上を混合して用いてもよい。また、使用量は、ハロゲン原子を分子末端に有する分岐高分子化合物の質量に対して0.2乃至1,000倍質量、好ましくは1乃至500倍質量、より好ましくは5乃至100倍質量、最も好ましくは10乃至50倍質量の有機溶剤を使用することが好ましい。また、この反応では反応開始前には反応系内の酸素を十分に除去する必要があり、窒素、アルゴン等の不活性気体で系内を置換するとよい。反応条件としては、反応時間0.01乃至100時間、反応温度0乃至200℃から、適宜選択される。好ましくは反応時間が0.1乃至5時間で、反応温度が20乃至150℃である。
【0063】
好適な塩基としては一般に、アルカリ金属水酸化物及びアルカリ土類金属水酸化物、アルカリ金属酸化物及びアルカリ土類金属酸化物、アルカリ金属水素化物及びアルカリ土類金属水素化物、アルカリ金属アミド、アルカリ金属炭酸塩及びアルカリ土類金属炭酸塩(例えば炭酸リチウム、炭酸カリウム、炭酸カルシウム)、アルカリ金属重炭酸塩(例えば重炭酸ナトリウム)等の無機化合物、並びにアルカリ金属アルキル、アルキルマグネシウムハロゲン化物、アルカリ金属アルコキシド、アルカリ土類金属アルコキシド、ジメトキシマグネシウム等の有機金属化合物が使用される。特に好ましいのは、炭酸カリウム及び炭酸ナトリウムである。また、使用量は、分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物の質量に対して0.2乃至10倍等量、好ましくは0.5乃至10等量、最も好ましくは1乃至5等量の塩基を使用することが好ましい。
【0064】
塩基の存在下で、第三級アミンを用いた場合は式(1)で表される分岐高分子化合物を得ることができる。
塩基の非存在下で、第一級アミン又は第二級アミン化合物と分子末端にハロゲン原子を有する分岐高分子化合物と反応させて分子末端にアミン末端を有する分岐高分子化合物を得る際、それぞれに対応する分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の分岐高分子化合物が得られる。
また、塩基を用いて反応を行った場合においても、有機溶剤中で塩酸、臭化水素、ヨウ化水素等の酸の水溶液と混合することにより、対応する分岐高分子化合物の末端第二級アミン及び第三級アミンがプロトン化されたアンモニウム基末端の分岐高分子化合物が得られる。
【0065】
なお、本発明で用いられるアンモニウム基を有する分岐高分子化合物は、ゲル浸透クロマトグラフィーによるポリスチレン換算で測定される重量平均分子量Mwが500乃至5,000,000であり、好ましくは1,000乃至1,000,000であり、より好ましくは2,000乃至500,000であり、最も好ましくは3,000乃至200,000である。また、分散度Mw(重量平均分子量)/Mn(数平均分子量)としては1.0乃至7.0であり、又は1.1乃至6.0であり、又は1.2乃至5.0である。
【0066】
前記複合体の形成にあたり、金属塩とアンモニウム基を有する分岐高分子化合物との割合は、金属塩100質量部に対してアンモニウム基を有する高分子50乃至2,000質量部が好ましい。50質量部未満であると、上記金属ナノ粒子の分散性が不充分であり、2,000質量部を超えると、金属ナノ粒子に付着又は配位していないアンモニウム基を有する高分子の含有量が多くなり、金属ナノ粒子の特性を発現する物性等に不具合が生じ
やすくなる。より好ましくは、100乃至1,000質量部である。
【0067】
金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は平均粒径が3乃至100nmの粒子であることが好ましい。理由としては、複合体の平均粒径が100nmを超えると、散乱により薄膜の透過率が低下するためである。平均粒径としては、75nm以下が更に好ましく、3乃至30nmが特に好ましい。
また、金属ナノ粒子の平均粒径は1乃至10nmが好ましく、さらには1乃至5nmが好ましい。
【0068】
なお、複合体形成時に、前記アンモニウム基含有高分岐高分子化合物を溶解する溶液に用いる有機溶媒の例としては、前記分岐高分子化合物を溶解可能な溶剤であれば特に制限はない。例えば、ベンゼン、トルエン、キシレン、エチルベンゼン等の芳香族炭化水素類、テトラヒドロフラン、ジエチルエーテル等のエーテル系化合物、アセトン、メチルエチルケトン、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン等のケトン系化合物、ノルマルヘプタン、ノルマルヘキサン、シクロヘキサン等の脂肪族炭化水素類等が挙げられる。これらの溶剤は一種を用いてもよいし、二種又はそれ以上を混合して用いてもよい。
【0069】
本発明の感光性組成物を重合条件下、すなわち露光して得られる硬化物は、生成する(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は、粒子形態で分散している状態にある。
【0070】
そして、本発明の感光性組成物から得られる硬化物の回折効率や非線形効果は、該硬化物の構成成分の体積比によって決定されるため、重合した感光性組成物の全体積に対する(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積比が大きいほど、回折効率や非線形効果が大きくなる。但し、組成物中に分散できる金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の量には限界があり、あまり多いと分散が困難となる。これらのことを踏まえ、感光性組成物を重合させて硬化物となしたとき、前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の合計体積に占める前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の割合が、3体積%乃至60体積%であることが好ましく、10体積%乃至45体積%が最も好ましい。
【0071】
[本発明の感光性組成物を用いた硬化物、薄膜、回折格子及びホログラム]
本発明の感光性組成物を用いて薄膜又は回折格子等の光学素子を作るには、(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む前記感光性組成物に、必要に応じて、増感剤及びバインダ樹脂とともに混合し、このまま無溶剤で支持体上に塗布するか、これらの混合物に溶剤または添加剤を加えて混合してもよく、これを支持体上に塗布、乾燥して感光層を形成する。感光層の厚さとしては、例えば1乃至1,000μmであり、または10乃至500μmであり、または15乃至200μmである。
続いて、感光層上に支持体、あるいは酸素遮断のための保護層を設けることもできる。
これら支持体や保護層は、本発明の感光性組成物で構成される感光層が露光重合することにより発現される非線形光学効果を利用するために、光を透過させる場合には透明な物質である必要がある。
【0072】
上記支持体としては、透明なガラス板、アクリル板、ポリエチレンテレフタレートフィルム、ポリエチレンフィルムなどが用いられる。塗布方法としては、直接滴下する方法に加え、従来公知の方法、例えば、回転塗布、ワイヤーバー塗布、ディップ塗布、エアーナイフ塗布、ロール塗布、ブレード塗布、及びカーテン塗布等を用いることができる。
【0073】
上記保護層としては、酸素による感度低下や保存安定性の劣化等の悪影響を防止するための公知技術、例えば、水溶性ポリマー等を塗布してを用いることもできる。
【0074】
なお、支持体への塗布時に溶剤を用いる場合、使用成分に対して十分な溶解度を持ち、良好な塗膜性を与える溶媒であれば特に制限はないが、例えば、メチルセロソルブ、エチルセロソルブ、メチルセロソルブアセテート、エチルセロソルブアセテート等のセロソルブ系溶剤、プロピレングリコールモノメチルエーテル、プロピレングリコールモノエチルエーテル、プロピレングリコールモノブチルエーテル、プロピレングリコールモノメチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノエチルエーテルアセテート、プロピレングリコールモノブチルエーテルアセテート、ジプロピレングリコールジメチルエーテル等のプロピレングリコール系溶剤、酢酸メチル、酢酸エチル、酢酸アミル、酢酸ブチル、ジエチルオキサレート、ピルビン酸エチル、エチル−2−ヒドロキシブチレートエチルアセトアセテート、乳酸メチル、乳酸エチル、3−メトキシプロピオン酸メチル等のエステル系溶剤、ブタノール、ヘプタノール、ヘキサノール、ジアセトンアルコール、フルフリルアルコール等のアルコール系溶剤、メチルイソブチルケトン、シクロヘキサノン、メチルアミルケトン等のケトン系溶剤、N,N−ジメチルホルムアミド、N,N−ジメチルアセトアミド、N−メチル−2−ピロリドン等の高極性溶剤、あるいはこれらの混合溶剤、さらには、これらに芳香族炭化水素を添加したもの等が挙げられる。溶剤使用の割合は、本実施形態の感光性組成物の総量に対して、通常、質量比で1乃至20倍程度の範囲である。
【0075】
本発明の感光性組成物を用いてパターンを有する回折格子又はホログラムを形成するには、前述の通り、まず、当該組成物を樹脂フィルムなどの適当な支持体上に塗布し、塗布膜を形成し、次いで、その塗布膜にパターン露光を行い、非線形光学薄膜を得る。
パターン露光の方法としては、パターンを形成することのできる露光方法であれば特に制限はなく、例えば適当なマスクを通して露光するフォトマスク露光及びフェーズマスク露光、又は干渉露光等の方法が挙げられるが、非線形回折格子又はホログラムを得るには干渉露光が好適である。干渉露光の光源としては、一般に干渉性の高いレーザー光であり、前記(b)光重合開始剤に高感度であればよく、例えばアルゴンイオンレーザー(458nm、488nm、514.5nm)、クリプトンイオンレーザー(647.1nm)、Nd:YAGレーザー(532nm)、Nd:YVO4レーザー(532nm)、In
GaNレーザー(405nm)、He−Cdレーザー(325nm、442nm)等が使用される。
【0076】
本発明の感光性組成物は(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含んでなる。
したがって、該感光性組成物を露光すると、高い屈折率や高速光学応答などの非線形光学効果を有する硬化物が得られる。
そして、例えば、マスクを通して露光が行われると、露光された部分において重合性化合物の重合反応が起こり重合体となる。その結果、露光部分において重合性化合物の化学ポテンシャルが減少し、それを補うように非露光部から露光部へ重合性化合物の移動が起こる。
一方、露光部では重合性化合物の減少とともに、光重合に関与しない金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の化学ポテンシャルが増加するため、それを抑えるように金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体は、露光部から非露光部への移動をする。
こうした各成分の移動は、光重合が完了するまで本質的に継続する。結果として、金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布は固定され、露光部と非露光部での成分と密度差によってパターンが形成される。
すなわち、本発明の感光性組成物より形成されるパターンは、パターン露光によって感
光性組成物中の各成分の相互拡散が起こった結果、生じた各成分の空間分布の差を利用して形成されたものである。
【実施例】
【0077】
以下に実施例を掲げて本発明をさらに詳しく説明するが、本発明はこれら実施例のみに限定されるものではない。
【0078】
<参考例:白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の製造>
(1)Pt(dba)2の合成
実験化学講座 第四版 17巻p.420(丸善(株))を参考に、テトラクロロ白金酸カリウムから調製した。すなわち、三角フラスコにジベンジリデンアセトン(7.06g、30mmol)の熱エタノール溶液(500mL)と酢酸ナトリウム(0.25g)の水溶液(2mL)をテトラクロロ白金酸カリウム(4.16g、10mmol)の熱水溶液(250mL)にかき混ぜながら加えた。24時間加熱還流下に反応させ、暗紫色の結晶を析出させ、メンブレンフィルターで熱時に濾過し、アセトン(100mL)で洗浄
した。得られた固体を熱ジクロロメタン(200mL)に再度溶解し、再度熱時に濾過した。濾液を加熱還流4時間し、溶媒を留去し、得られた暗紫色の固体をアセトン(50mL)で洗浄し、減圧乾燥した。得率56%(3.96g)。
【0079】
(2):HPS−N+Br-(Dodecyl)3の合成
HPS−Br(1.96g、10mmol)とN(Dodecyl)3(7.83g、
15mmol)をTHF中(25mL)、窒素雰囲気下、一昼夜攪拌した。反応溶液をヘキサン(100mL)で再沈精製し、得られた固体を濾別、減圧乾燥した。得率70%(5.0g)。
【0080】
(3)白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の調製
参考例1で調製したPt(dba)2(220mg、0.3mmol)と参考例2で調
整したHPS−N+Br-(Dodecyl)3(120mg、0.6mmol)をTHF
(50mL)中、水素雰囲気下で一昼夜攪拌した。反応溶液を濾過し、不溶物を濾別した後、濾液をヘキサン(200mL)で再沈精製した。得られた固体を濾別した後、減圧乾燥し、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体(129mg)を得
た。
【0081】
得られた粉末(白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体)のTH
F溶液のUV−Visスペクトルを図1に示す。図1のUV−Visスペクトルにおいて、350nmよりも短波長域に白金ナノ粒子の表面プラズモン吸収があることが確認された。
また、誘導結合プラズマ発光分析装置(ICP−AES)により白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体中の白金含有量を求めた結果、22質量%であっ
た。この結果、得られたHPS−N+Br-(Dodecyl)3と白金ナノ粒子からなる複合体において、白金属核(白金ナノ粒子)の平均粒径は2〜3nmであった。
さらに、乾式密度計(Micromeritics社製、AccuPyc1330)より求められた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の密度は、1.5894(g/cm3)であった。
また得られた白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体を、走査型透過型電子顕微鏡(TEM)により観察を行った。その結果を図2に示す。
【0082】
<実施例1>
[感光性組成物1の調製]
参考例で調製した白金ナノ粒子−HPS−N+Br−(Dodecyl)3複合体0.
0204gを、テトラヒドロフラン(THF)0.1020gに溶解し、重合性化合物としてトリシクロデカンジメタノールジメタクリレート(新中村化学工業(株)製、製品名:NKエステル DCP)0.1318gを加え、均一に分散させた後、光重合開始剤としてビス(η5−2,4−シクロペンタジエン−1−イル)−ビス(2,6−ジフルオロ−3−(1H−ピロール−1−イル)−フェニル)チタニウム(チバ・ジャパン(株)製、商品名:Irgacure784)0.0013gを加えて溶解し、感光性組成物1を調製した。
【0083】
[屈折率の測定]
波長546nmの光に対する、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の屈折率は1.66、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートから得られた重合体の屈折率は1.53であり、両者の屈折率の差は0.13であった。
なお、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の屈折率の測定は、以下の手順で行った。まず、トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートに対してIrgacure784を1質量%溶解させた組成物を調製した。この組成物を、スライドグラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼ったスライドガラスの中央(スペーサに挟まれた領域)に滴下し、スライドグラスをかぶせ固定した。これに、波長532nmのLED光を露光強度3.4mW/cm2で30分
間一様露光して、フィルム形成した。得られたフィルムをスライドガラスから剥離し、アッベ屈折計((株)アタゴ社製、DR−M4型、干渉フィルタ:546nm)を用いて屈折率を測定した。
【0084】
[密度の測定]
前述したように、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の密度
は1.5894g/cm3であり、よって感光性組成物1から得られる硬化物における該
複合体の体積は0.0204/1.5894=0.0128cm3である。
トリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合体の密度は1.213g/cm3であり、よって感光性組成物1から得られる硬化物における該重合体の体積は0.13
18/1.213=0.1087cm3である。
従って感光性組成物1から得られる硬化物において、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体とトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合状
態の体積に占める、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の割合
は、0.0128/(0.0128+0.1087)=0.105、即ち10.5体積%であった。
【0085】
また、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の質量に占める、
白金ナノ粒子の質量割合は、前述の結果より22質量%である。
そして、HPS−N+Br-(Dodecyl)3と白金原子の密度はそれぞれ1.26
g/cm3、21.45g/cm3であるから、白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の体積に占める白金ナノ粒子の体積割合は、1.632体積%となる
。
従って、感光性組成物1から得られる硬化物において、白金ナノ粒子−HPS−N+B
r-(Dodecyl)3複合体とトリシクロデカンジメタノールジメタクリレートの重合状態の体積に占める白金ナノ粒子の体積割合は10.5×0.01632=0.17136体積%であった。
【0086】
[回折効率の測定]
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り、スライドガラス中央(スペーサに挟まれた領域)に上記感光性組成物1を滴下し、オーブン中、50℃で約30分間乾燥し、ホログラム記録層を形成した。その
後、スライドガラスをかぶせ、膜厚が約44μmの体積位相型ホログラム記録媒体を作製した。
本記録媒体に対し、図3に示す装置によって、二光束干渉露光を行い、体積ホログラムの記録を試みた。ホログラム記録媒体1に対し、波長532nmの連続光Nd:YVO4
レーザー2を用いて、露光強度100mW/cm2で二光束干渉露光(格子間隔1μm)
を行った。連続光Nd:YVO4レーザー2から出射した光は、ビームエキスパンダ3を
経てハーフミラー13で2本に分割され、それぞれミラー5〜11を経てホログラム記録媒体1に照射され、両光の干渉縞が記録されホログラムが形成される。
同時に、ホログラム記録媒体が感光しない波長632.8nmの連続光ヘリウムネオン(He−Ne)レーザー4をホログラム記録媒体に照射し回折光を光検出器で検出することによりホログラム形成過程をモニターし、回折効率を評価した。本サンプルの回折効率の時間による変化を表すグラフを図4に示す。回折効率は露光時間の経過と共に急激に増加し、約335秒で10%に達し、その後も高い回折効率が維持された。そして回折効率が約26%の体積位相型ホログラムが永続的に形成されることが確認できた。
【0087】
<実施例2>
[非線形吸収と非線形屈折率の測定]
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ10μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼り、スライドガラス中央(スペーサに挟まれた領域)に、前記感光性組成物1(白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の割合:10.5体積
%)を滴下し、オーブン中、50℃で約30分間乾燥し、記録層を形成した。その後、スライドガラスをかぶせ、膜厚が約22μmの記録媒体を作製した。
この記録媒体に対し、波長532nmのLED光を露光強度3.4mW/cm2で30
分間、記録層全面に一様露光を行い、記録媒体を一様に光硬化させて、非線形吸収と非線形屈折率の測定のための測定試料とした。
図5に示す装置によって非線形吸収と非線形屈折率を測定した。
【0088】
波長532nmのNd:YVO4パルスレーザーから10Hzの繰り返しで出射する光
パルスビーム(光パルス幅約30ピコ秒)を焦点距離20cmの凸レンズにより集光し、その焦点距離の位置あるいはその前後の位置に測定試料を設置して、測定試料からの透過光パワーを測定した。測定試料中の光パルスビームの光強度の大きさは測定試料の設置する位置z(集光点から前は−z方向、後は+z方向)に強く依存するので、測定試料中で生じる光吸収変化(非線形光吸収)あるいは屈折率変化(非線形屈折率)による透過光パルスビームのパワーや波面の変化も設置する位置に強く依存する。このように非線形光学効果を受けて測定試料を透過した光パルスビームは、測定試料の後方に設置された可変な開口を有する光検出器により透過光パルスビームの全てあるいは中心部分を含む一部の光パワーが検出され、測定試料の位置zの関数として透過率T0(=透過光パルス検出パワー/入射光パルス全パワー)が測定される。図5に示すように、可変な開口が測定試料を透過した光パルスビームの全ての光パワーを検出するように開口を全開にする場合(オープンアパーチャー)には測定試料の非線形光吸収が、一部の光パワーを検出するように開口を開けた場合(クローズトアパーチャー)には非線形屈折率が精度良く測定できる。
このような非線形吸収および非線形屈折率の測定方法はM.Sheik−Bahaeらにより1990年に提案され、「zスキャン法(z−scan method)」として
知られている。その詳細は文献(IEEE J.Quantum Electronics 26,760(1990))に説明されているが、基本的な測定原理は次のように説明できる。光パルスビームはレンズの焦点位置でその光強度が一番高くなるため、そこに非線形光学効果を有する測定試料が設置されたときには集光された光パルスビームは非線形吸収を一番強く受ける。一方、測定試料がレンズの焦点位置以外に設置されている場合には測定試料中での光強度が低くなるために非線形吸収は低くなる。従って、図6に示すようにオープンアパーチャー検出の場合には、zの変化に対して透過率変化ΔT0(=T0
(非線形効果が生じる高光強度入射のとき)−T0(非線形光学効果が無視できる低光強
度入射のとき))はレンズの焦点位置を中心とした谷型(光強度が高いと非線形吸収も高くなる場合)あるいは山型(光強度が高いと非線形吸収が低くなる場合)の依存性となる。また、非線形屈折率が生じる場合には、非線形屈折率が正の場合(光強度が高いと非線形屈折率変化が増加する場合)には光パルスビーム断面において最も光強度が高い中心部分の屈折率がより増加するために測定試料が凸レンズの役割を果たすことになる。従って、集光点の前側(後側)に測定試料が設置されると、図5に示すように測定試料を透過後の光パルスビームのビーム幅は光検出器が設置された場所において拡がる(狭まる)ことになる。すなわち、クローズトアパーチャー検出の場合には図7に示すようにΔT0はz
の関数としてS字型となる。一方、非線形屈折率が負の場合(光強度が高いと非線形屈折率変化が減少する場合)にはΔT0はzの関数として逆S字型となる。
【0089】
本実施例では、空気中における集光点での光パルスビームの光強度を2.4GW/cm2としたときの測定試料に対する非線形光吸収の測定として、オープンアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を図8に示す。試料膜厚が薄いために非線形吸収特性は明確には確認することはできなかったが、図9に示すように、測定試料に対する非線形屈折率の測定としてクローズトアパーチャー検出の場合のzスキャン法による測定結果、ΔT0は逆S字型を示すことから測定試料は負の非線形屈折率特性を持つことが確認できた。
このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の実部として−1.1×10-10esuを得た。
【0090】
<実施例3>
[非線形吸収と非線形屈折率の測定]
非線形吸収特性を観測するために、参考例で調製した白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体0.0084gをTHF 0.5119gに1.0147体
積%の濃度で溶解した白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体分散
溶液を調製した。
スライドガラスの両端部にスペーサとして厚さ50μmのポリエチレンテレフタレートフィルムを貼りスライドガラスをかぶせ、厚み0.1mmのガラスセルを作製した。このガラスセルに毛管現象を利用して注入した測定試料溶液に対して、空気中における集光点での光パルスビームの光強度を2.1GW/cm2としたときの測定試料に対する非線形
光吸収の測定として、オープンアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を図10に示す。レンズ焦点値(z=0)でT0は最大となり負の非線形吸収特性を持つことが
確認できた。このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の虚部として−1.2×10-12esuを得た。図11には測定試料に対する非線形屈折率の測定とし
てクローズトアパーチャー検出の場合のzスキャン法の測定結果を示す。ΔT0は逆S字
型を示すことから測定試料は負の非線形屈折率特性を持つことが確認できた。このような結果を異なる光強度に対して同様に測定し、それらの結果をzスキャン法の理論式にフィッティングした結果、3次の複素非線形電気感受率の実部の値として−1.2×10-11
esuを得た。
実施例2の結果と比較すると、実施例3においては符号が同じで値が1桁程度小さくなっており、これは白金ナノ粒子−HPS−N+Br-(Dodecyl)3複合体の添加濃
度は同等であるものの、分散するホスト材料が異なっているため(実施例2ではポリマー、実施例3においてはTHF(液体))と考えられる。
【符号の説明】
【0091】
1 ホログラム記録媒体
2 連続光Nd:YVO4レーザー
3 ビームエキスパンダ
4 He−Neレーザー
5、6、7、8、9、10、11 ミラー
12 ビームサンプラー
13 ハーフミラー
14、15 半波長板
16、17 偏光プリズム
18、19、20 光検出器
【特許請求の範囲】
【請求項1】
(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物。
【請求項2】
(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む非線形光学素子作成用の感光性組成物。
【請求項3】
前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が、500乃至5,000,000の重量平均分子量を有し且つアンモニウム基を有する分岐高分子化合物が金属ナノ粒子に付着し又は配位して形成されてなる複合体である、請求項1又は請求項2記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子である、請求項1乃至請求項3のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子が平均粒径1nm乃至10nmのナノ粒子である、請求項1乃至請求項4のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項6】
前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が平均粒径3nm乃至100nmの粒子である、請求項1乃至請求項5のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項7】
前記アンモニウム基含有分岐高分子化合物が式(1):
【化1】
[式中、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝
分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任
意の整数を表す。)を表すか、又は、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は
環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
X-は陰イオンを表し、
A1は式(2)
【化2】
(式中、
A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30の直鎖状
、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。]で表される分岐高分子化合物である、請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項8】
前記式(1)中、A1が式(3):
【化3】
で表される基を表し、
X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートを表し、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化4】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、請求項7に記載の感光性組成物。
【請求項9】
前記(a)重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物である、請求項1乃至請求項8のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項10】
前記(a)重合性化合物が、カチオン重合性の部位を有する化合物であり、前記(b)光重合開始剤が光酸発生剤である、請求項1乃至請求項8のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を露光して得られる非線形光学効果を有する硬化物。
【請求項12】
前記硬化物が、(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が粒子形態で分散している状態にある、請求項11記載の硬化物。
【請求項13】
前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体との合計体積に占める(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積割合が、3体積%乃至60体積%である、請求項11又は請求項12記載の硬化物。
【請求項14】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物からなる薄膜をパターン露光して形成される、前記金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布が露光前のものとは変化している非線形光学薄膜。
【請求項15】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形回折格子。
【請求項16】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形光学効果を有するホログラム。
【請求項1】
(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む感光性組成物。
【請求項2】
(a)重合性化合物、(b)光重合開始剤、及び(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体を含む非線形光学素子作成用の感光性組成物。
【請求項3】
前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が、500乃至5,000,000の重量平均分子量を有し且つアンモニウム基を有する分岐高分子化合物が金属ナノ粒子に付着し又は配位して形成されてなる複合体である、請求項1又は請求項2記載の感光性組成物。
【請求項4】
前記金属ナノ粒子が、金、銀、白金及び銅よりなる群より選択される少なくとも1種のナノ粒子である、請求項1乃至請求項3のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項5】
前記金属ナノ粒子が平均粒径1nm乃至10nmのナノ粒子である、請求項1乃至請求項4のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項6】
前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が平均粒径3nm乃至100nmの粒子である、請求項1乃至請求項5のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項7】
前記アンモニウム基含有分岐高分子化合物が式(1):
【化1】
[式中、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2、R3及びR4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20の直鎖状、枝
分かれ状又は環状のアルキル基、炭素原子数6乃至20のアリールアルキル基又は−(CH2CH2O)m−R5(式中、R5は水素原子又はメチル基を表し、mは2乃至100の任
意の整数を表す。)を表すか、又は、R2、R3及びR4が互いに直鎖状、枝分かれ状又は
環状のアルキレン基で結合し、それらと結合する窒素原子と共に環を形成してもよく(該アルキル基及びアリールアルキル基はアルコキシ基、ヒドロキシル基、アンモニウム基、カルボキシル基又はシアノ基で置換されていてもよい)、
X-は陰イオンを表し、
A1は式(2)
【化2】
(式中、
A2はエーテル結合又はエステル結合を含んでいても良い炭素原子数1乃至30の直鎖状
、枝分かれ状又は環状のアルキレン基を表し、
Y1、Y2、Y3及びY4は、それぞれ独立して、水素原子、炭素原子数1乃至20のアルキル基、炭素原子数1乃至20のアルコキシ基、ニトロ基、ヒドロキシル基、アミノ基、カルボキシル基又はシアノ基を表す。)で表される構造を表し、
nは、繰り返し単位構造の数であって、2乃至100,000の整数を表す。]で表される分岐高分子化合物である、請求項1乃至請求項6のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項8】
前記式(1)中、A1が式(3):
【化3】
で表される基を表し、
X-がハロゲン原子、PF6-、BF4-又はパーフルオロアルカンスルホナートを表し、
R1は水素原子又はメチル基を表し、
R2が炭素原子数1乃至20の直鎖状アルキル基、又は式(4):
【化4】
で表されるエーテル結合を含むアルキル基を表す、請求項7に記載の感光性組成物。
【請求項9】
前記(a)重合性化合物が、エチレン性不飽和結合を有する重合性化合物である、請求項1乃至請求項8のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項10】
前記(a)重合性化合物が、カチオン重合性の部位を有する化合物であり、前記(b)光重合開始剤が光酸発生剤である、請求項1乃至請求項8のうち何れか一項に記載の感光性組成物。
【請求項11】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を露光して得られる非線形光学効果を有する硬化物。
【請求項12】
前記硬化物が、(a)重合性化合物の重合体のマトリクス中に前記(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体が粒子形態で分散している状態にある、請求項11記載の硬化物。
【請求項13】
前記(a)重合性化合物の重合体と(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体との合計体積に占める(c)金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の体積割合が、3体積%乃至60体積%である、請求項11又は請求項12記載の硬化物。
【請求項14】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物からなる薄膜をパターン露光して形成される、前記金属ナノ粒子−アンモニウム基含有分岐高分子化合物複合体の空間分布が露光前のものとは変化している非線形光学薄膜。
【請求項15】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形回折格子。
【請求項16】
請求項1乃至請求項10のうち何れか一項に記載の感光性組成物を干渉露光し形成された非線形光学効果を有するホログラム。
【図1】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図2】
【公開番号】特開2011−53416(P2011−53416A)
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−201642(P2009−201642)
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成23年3月17日(2011.3.17)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年9月1日(2009.9.1)
【出願人】(504133110)国立大学法人電気通信大学 (383)
【出願人】(000003986)日産化学工業株式会社 (510)
【Fターム(参考)】
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