説明

金属ナノ粒子からなる金属材料およびその製造方法

【課題】触媒として機能し得る新規な形態の金属微粒子からなる金属材料を製造する方法を提供すること。
【解決手段】本発明により提供される金属材料の製造方法は、触媒として機能し得る金属元素を含むイオンを含有する水溶液を用意すること、上記用意した水溶液に、アミノ酸を添加すること、上記水溶液に還元剤を添加すること、および上記水溶液中に上記金属元素の微粒子を含む析出物を生じさせること、を包含する。好ましくは、上記金属微粒子を含む析出物をか焼することをさらに包含し、上記アミノ酸としてアラニン(例えばDL−アラニン)を用いる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、触媒として用いられ得る構造を備えた金属微粒子(金属ナノ粒子)からなる金属材料と、その製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
白金(Pt)、パラジウム、銀等の金属は、燃料電池(例えば固体高分子電解質形燃料電池)の電極反応や、自動車の排ガス成分の分解、浄化反応等を始めとする種々の化学反応を促進する不均一触媒として利用されている。不均一触媒は、多くの場合、触媒表面で触媒反応が進行する。このことから、粒子径(典型的には平均粒子径)が数ナノメートル〜数十ナノメートル程度(すなわちナノメートルサイズ)である金属ナノ粒子を触媒体として利用すれば、粉末状触媒体(すなわち該ナノ粒子の集合体)全体の表面積(すなわち反応面積)が従来のミクロンサイズの金属粒子を用いた場合と比較して増大し、触媒効率が向上するので触媒体として高い利用価値を有することが期待される。
【0003】
ところで、金属ナノ粒子は、その粒子の形態(形状)により導電性、耐熱性、触媒活性等の種々の物性(性能)が異なり得ることが知られている。このため、かかる金属ナノ粒子の製造にあたっては、平均粒子径をナノメートルサイズ(好ましくは数ナノメートルレベル)に制御するとともに、該金属ナノ粒子を使用目的(例えば触媒体)に対して好適な物性を有し得る形態で再現性高く生成し、その形態を長期にわたり安定的に維持し得るように製造することが好ましい。
【0004】
触媒として機能し得る金属ナノ粒子から構成される金属材料の製造方法として、種々の方法が提案されている。特に近年では、有機化合物(典型的には高分子化合物)を鋳型として所定形状の金属ナノ粒子を製造したり、あるいは、有機化合物で形成される構造(空間)内に収容された状態の金属材料(例えば界面活性剤として機能する複数の有機化合物と結合することで該有機化合物に取り囲まれた金属ナノ粒子)を製造する方法が提案されている。なお、非特許文献1〜3では、医学や薬学分野での利用を目的として、ポリペプチドまたは側鎖にアミノ酸を備えたポリマーが結合している金属材料が提案されている。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0005】
【非特許文献1】Partha S. Ghosh, et al., "Nanoparticles featuring amino acid-functionalized side chains as DNA receptors", Chem. Biol. Drug. Des. 2007, 70, p.13-18
【非特許文献2】Partha S. Ghosh, et al., "Binding of nanoparticle receptors to peptide α-helices using amino acid-functionalized nanoparticles", J. Pept. Sci., 2008, 14, 2, p.134-138
【非特許文献3】Costas Methenitis, et al., "Copper coordination by polymers with glycylglycine, phenylalanine or methionine in the side chain: potentiometric and viscosimetric study", Eur. Polym. J. 2003, 39, p.687-696
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
本発明の主な目的は、触媒として機能し得る新規な形態の金属微粒子から構成される金属材料を製造する方法を提供することである。また、このような方法を用いて得られる金属材料を提供することを他の目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明者は、従来のナノ粒子とは異なる新規な形状、特に触媒として好適に機能し得ると考えられる形状を備えた金属ナノ粒子、およびその製造方法を開発するべく、ある種のアミノ酸を用いて金属微粒子を製造する方法を検討したところ、かかるアミノ酸からなるポリペプチドを鋳型として金属微粒子が析出し、かかる析出物をか焼すると触媒体として用いられ得る多孔質構造を有する好適な金属材料を生成することができ、本発明を完成するに至った。
【0008】
すなわち、本発明により提供される触媒体として好適に機能し得る金属材料の製造方法は、触媒として機能し得る金属元素を含むイオンを含有する水溶液を用意すること、該用意した水溶液に、所定の種類のアミノ酸を添加すること、上記水溶液に還元剤を添加すること、および上記金属微粒子を含む析出物を生じさせること、を包含する。
本発明に係る金属材料の製造方法では、上記アミノ酸同士が結合してなるポリペプチドと上記金属元素を含むイオンとが結合(例えば、かかるポリペプチドの末端基におけるアミノ酸のアミノ基および/またはカルボキシル基と上記金属元素を含むイオンとの結合、またはポリペプチドと上記金属イオンとの水素結合)することにより、還元剤を添加すると上記ポリペプチドの周囲にナノメートルサイズの金属微粒子(金属ナノ粒子)を凝集、析出させることができる。このように金属微粒子が上記ポリペプチドの表面に析出した形態の金属微粒子から構成される金属材料は、触媒体として好ましく用いられ得る。
したがって、本発明に係る製造方法によると、触媒として機能し得る構造を備えた金属微粒子からなる金属材料を、上記のような工程により容易に製造することができる。
【0009】
ここで開示される金属材料の製造方法の好ましい一態様では、上記金属微粒子を含む析出物をか焼すること、をさらに包含する。
かかる構成の製造方法によると、上記のようにして得られた金属微粒子を含む析出物をか焼することにより、か焼後に残った金属微粒子は、上記ポリペプチドを鋳型とした繊維状(糸状)のような形状で表面積が大きい多孔質構造(海綿状に孔が形成された立体構造)を有し得る。このことにより、得られた金属材料は、該材料を構成する金属微粒子の表面積がより一層増大して触媒効率が向上するので、高触媒活性のより一層好適な触媒体として用いられ得る。
【0010】
ここで開示される金属材料の製造方法のより好ましい一態様では、上記還元剤として、金属水素化物を用いる。
かかる構成の製造方法によると、還元剤として金属水素化物(例えば水素化ホウ素ナトリウム)を用いることにより、金属微粒子を含む析出物をより好適に生じさせることができるので好ましい。
【0011】
ここで開示される金属材料の製造方法の別の好ましい一態様では、上記アミノ酸としてアラニンを用いる。
かかる構成の製造方法では、アラニン(CHCH(COOH)NH;例えばDL−アラニン)を用いることにより、生成する金属微粒子の鋳型となるポリペプチドをより好ましく形成することができる。また、かかるアラニンは、安価で入手可能であるとともに、炭素(C)、窒素(N)、および水素(H)元素のみからなる単純な構成であるため、通常のか焼条件でのか焼であれば有害物質の発生がなく環境への負荷も小さいので、好ましく用いることができる。
【0012】
また、ここで開示される金属材料の製造方法は、触媒活性の高い金属元素である白金に対して好ましく適用することができる。したがって、かかる製造方法によると、触媒として好適に用いられ得る形状の白金微粒子からなる白金材料を好ましく製造することができる。
【0013】
また、ここで開示される金属材料の製造方法の別の好ましい一態様では、上記アミノ酸を、上記金属元素を含むイオン1モルに対して1モル〜20モルの割合で添加する。
かかる構成の製造方法では、アミノ酸を上記のような配合比で添加することにより、より高い触媒活性を有する好適な金属材料を得ることができる。
【0014】
また、本発明は、他の側面として、ここで開示される製造方法を用いることにより製造される金属微粒子を提供することができる。
【図面の簡単な説明】
【0015】
【図1】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図2】サンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図3】サンプル11の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図4】サンプル11の異なる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図5】サンプル11の異なる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図6】サンプル1〜3のX線回折(XRD)スペクトルである。
【図7】サンプル11〜13のX線回折(XRD)スペクトルである。
【図8】サンプル4の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【図9】サンプル4の異なる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【発明を実施するための形態】
【0016】
以下、本発明の好適な実施形態を説明する。なお、本明細書において特に言及している事項(例えば、触媒として機能し得る金属元素を含むイオンを含有する水溶液にアミノ酸および/または還元剤を添加する方法)以外の事項であって本発明の実施に必要な事柄(例えば、生成した金属微粒子を含む析出物を取り出す方法)は、当該分野における従来技術に基づく当業者の設計事項として把握され得る。本発明は、本明細書に開示されている内容と当該分野における技術常識とに基づいて実施することができる。
【0017】
本発明に係る金属材料の製造方法は、アミノ酸が結合したポリペプチドを鋳型として形成された形状の金属微粒子であって触媒体として用いられ得る金属微粒子からなる金属材料を生成する方法である。かかる製造方法は、触媒として機能し得る金属元素を含むイオンを含有する水溶液を用意すること、該用意した水溶液にアミノ酸を添加すること、該水溶液に還元剤を添加すること、該水溶液中に上記金属元素の微粒子を含む析出物を生じさせること、および該金属微粒子を含む析出物をか焼すること、を包含することによって特徴づけられるものである。したがって、上記目的を達成し得る限りにおいて、その他の構成成分の内容や組成については、種々の基準に照らして任意に決定することができる。
【0018】
本発明に係る金属材料の製造方法では、該金属材料を構成する金属微粒子の構成元素として白金族元素、すなわち周期表の第5〜6周期、第8〜10族に位置する元素、すなわち、ルテニウム(Ru)、ロジウム(Rh)、パラジウム(Pd)、オスミウム(Os)、イリジウム(Ir)および白金(Pt)の少なくとも一種を用いることができる。かかる白金族元素の中でも不均一触媒として利用頻度が高く、燃料電池(典型的には固体高分子電解質形燃料電池(PEFC))における電極触媒や自動車の排ガス浄化用触媒として好適に用いられているPtがより好ましい。
以下では、特に限定することを意図しないが、Pt微粒子からなるPt材料を製造する場合を例として、本発明に係る金属材料の製造方法について詳細に説明する。
【0019】
まず、触媒として機能するPtを含むイオンを含有する水溶液を用意(典型的には調製)する。かかる水溶液としては、例えばPtのインゴットを所定の酸性媒体(例えば塩酸や王水)に溶解させたもの(例えば塩化白金(IV)水溶液)を用いることができる。好ましくは、上記水溶液の溶質(Pt源)として、後述のペプチド鎖と結合可能なPt化合物であって水系溶媒に対する溶解度が高いPtイオン化合物であり、より好ましくはPtを含む錯イオンから構成される白金錯体であり、さらに好ましくはかかる錯イオンが陰イオンである白金錯体である。このような白金錯体の一好適例として、塩化白金酸(典型的にはその六水和物;H[PtCl]・6HO)を好ましく用いることができる。以下、Pt源としてH[PtCl]を用いる場合を例として説明する。
【0020】
[PtCl]水溶液(以下、単に「Pt水溶液」ということもある。)を調製する。かかるPt水溶液の濃度としては、該Pt水溶液中のPt錯イオンが後述のポリペプチドと効率よく反応し得る量で存在する程度の濃度であることが好ましい。例えばPtイオン(すなわち[PtCl2−)が凡そ2.5mM〜260mM(より好ましくは凡そ50mM〜160mM、例えば凡そ100mM±30mM)となるように調製されることが好ましい。あるいは、H[PtCl]水溶液中のPtの含有率が凡そ0.05質量%〜5質量%(より好ましくは凡そ1質量%〜3質量%、例えば凡そ2質量%±0.5質量%)となるように調製されることが好ましい。なお、かかるH[PtCl]水溶液については、例えば上記濃度範囲よりも10倍程度高い濃度の水溶液を調製し、その後適宜上記濃度範囲に希釈してから用いてもよい。また、市販されている所定濃度の水溶液を用意し、この水溶液を所望の濃度に希釈してから用いてもよい。
【0021】
次に、上記Pt水溶液に、アミノ酸を添加する。ここで用いられるアミノ酸としては、水系溶媒に可溶であり、上記Pt水溶液中で互いにペプチド結合して容易にポリペプチドを形成し得るものが好ましい。このようなアミノ酸として、アラニンが挙げられる。アラニンの光学異性体についてはD体であってもL体であっても特に限定されず、両異性体が混在するDL−アラニンでもよい。アラニンは、安価で入手できるとともに、構成元素が炭素(C)、窒素(N)、および水素(H)元素のみの単純な構成であり、通常のか焼条件(例えば十分量の酸素雰囲気下で完全燃焼可能な条件)でのか焼であれば有害物質の発生がなく、また生分解可能であることから環境への負荷が小さく好ましい。アラニンは、常温下では固体(粉末状)であるので、粉末状のアラニンを上記Pt水溶液に添加してもよいし、あるいは所定量の水系溶媒に予めアラニンを溶解しておき、このアラニン水溶液を上記Pt水溶液に添加してもよく、添加方法に特に制限はない。
【0022】
上記アミノ酸の添加量については、上記Pt水溶液におけるPt含有イオン(すなわち[PtCl2−)1モルに対して、上記アミノ酸は1モル〜20モルの割合で添加することが好ましく、より好ましくは1モル〜15モル、特に好ましくは1モル〜10モルである。このような割合で上記アミノ酸を添加することにより、適当な長さのポリペプチドが形成され得るとともに、かかるポリペプチドの周囲に触媒体として機能し得る適当量のPtが凝集、析出し得るので好ましい。
【0023】
上記アミノ酸を上記のような添加量で上記Pt水溶液に添加し、上記Pt含有イオン[PtCl2−とアミノ酸との混合水溶液を調製する。ここで、上記アミノ酸を添加する際には、室温(典型的には常温とされる温度領域をいい、20℃±15℃を指すものとする。)下で上記Pt水溶液を攪拌しながら実施するのが好ましい。攪拌速度としては、添加したアミノ酸が十分にPt水溶液中に拡散して十分に溶解することができる限りにおいて特に制限されないが、例えば100rpm〜1000rpmが適当であり、好ましくは300rpm〜800rpmであり、例えば500rpm±100rpmである。
【0024】
また、上記Pt水溶液に上記アミノ酸を添加して混合水溶液を調製した後、例えば1時間〜100時間(より好ましくは50時間〜80時間、例えば70時間±5時間))程度の間、上記混合水溶液の攪拌を持続させることが好ましい。このように十分な攪拌を行った後は、上記混合水溶液を例えば90時間〜100時間の間で静置しておくことが好ましい。このような処理により、上記アミノ酸は互いにペプチド結合をしてポリペプチドを構成し、かかるポリペプチドに上記Pt含有イオン[PtCl2−が結合(例えば、かかるポリペプチドの末端基におけるアミノ酸のアミノ基との結合および/または上記ポリペプチドの側鎖との水素結合)し得る。この結果、上記Pt含有イオンは、かかるポリペプチドのポリペプチド鎖の周囲(該ポリペプチドが折りたたまれて立体構造を構成している場合には該立体構造の内部空間を含む)に存在することとなる。
【0025】
次に、上記混合水溶液に還元剤を添加する。還元剤としては、金属水素化物を好適に用いることができる。より好ましくは、水素化ホウ素化合物または水素化アルミニウム化合物であり、例えば水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)、水素化ジイソブチルアルミニウム(DIBAHまたはDIBAL‐Hと呼ばれる。)、あるいは水素化アルミニウムリチウム(LiAlH)が挙げられる。特に好ましくはNaBHである。かかる還元剤の添加量としては、上記Pt水溶液におけるPt含有イオン(すなわち[PtCl2−)1モルに対して、該還元剤が0.5モル〜2モル程度(例えば1モル±0.2モル)で添加されることが好ましい。かかる添加量が0.5モルよりも低い場合には、金属Pt微粒子の生成に長時間を要する虞がある。また、上記添加量が2モルより大幅に高い場合には、金属Pt微粒子が生成される還元反応以外に別の副反応が起こり得る虞がある。
また、かかる還元剤は、好ましくは水系溶媒に溶解して水溶液として上記混合水溶液に添加される。このような還元剤の水溶液は、一定の滴下速度(例えば凡そ2mL/分)で上記混合水溶液に添加(滴下)されることが好ましい。また、かかる滴下の際には、上記還元剤が良好に拡散し、上記混合水溶液中のPt含有イオンと該還元剤とが良好に反応し得るように、所定の攪拌速度(例えば50rpm〜250rpm)で上記混合水溶液を攪拌することが好ましい。このように還元剤水溶液を滴下していくと、徐々に上記混合水溶液の液色(黄金色)が消えていき、黒色の析出物が観察される。上記還元反応終了後、上記還元剤添加後の混合水溶液を1時間〜5時間(例えば3時間±1時間)程度静置することにより上記黒色析出物を完全に沈殿させる。例えば、少なくとも3週間〜1か月程度の長期にわたり上記混合水溶液を静置しておいても、上記析出物は安定的に存在し得る。以上のようにして、金属Pt微粒子を含む上記黒色析出物を、沈殿物として得ることができる。
沈殿物として得られた上記黒色析出物は、従来の沈殿物の取出し方法と同様の方法を用いることにより取り出すことができる。例えば、上記沈殿物を純水等で複数回(例えば3回〜6回)洗浄して副生成物その他塩類を除去した後に、残った残渣を乾燥する。このような工程を経て精製された金属Pt微粒子を含む析出物をここで開示されるPt材料として得ることができる。
【0026】
また、上記のようにして得られた金属Pt微粒子を含む析出物をか焼することにより、触媒体として用いられ得るより一層好適な形状を有するPt材料を製造することができる。すなわち、上記析出物を一般的な焼成炉を用いて300℃〜500℃(好ましくは350℃〜450℃、例えば400℃±10℃)の焼成温度でか焼する。ここで、昇温速度および降温速度条件については特に制限されないが、例えば、60℃/時間で上記最高温度(例えば400℃)まで昇温し、該最高温度を凡そ3時間維持した後、放冷すればよい。か焼時間(上記最高温度を維持する時間)は上記析出物の量によって適宜変えればよいが、例えば2.5g程度の析出物であれば3時間±1時間程度が適当である。
【0027】
このようにして得られたか焼後の上記析出物(すなわちか焼後のPt材料)は、SEM観察に基づく顕微鏡像によると、金属Pt微粒子から構成されており、かかる金属Pt微粒子は、上記ポリペプチドを鋳型とするような繊維状(糸状)に細長い形状を有し、またかかる糸状部分を微視的にみると海綿状に孔が形成された多孔質構造をなした二次粒子(集合体または凝集体)の形態で上記Pt材料を構成し得る。また、凡そ10nm以下の粒子径(シェラー(Scherrer)の式に基づくX線回折ピークの線幅から算出される粒子径)を有し得る金属Pt微粒子からなる上記Pt材料を得ることができる。なお、このような形態のPt材料には、上記Pt微粒子とともに一部上記ポリペプチドが含まれて(残存して)いてもよい。
【0028】
以下、本発明に関する実施例を図1〜図9を参照して説明するが、本発明を以下の実施例に示すものに限定することを意図したものではない。ここで、図1は以下に示す実施例の例2におけるサンプル1の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図2は、以下の実施例の例2におけるサンプル1のSEM写真である。図3は、以下の実施例の例4におけるサンプル11のSEM写真である。図4は、以下の実施例の例4におけるサンプル11の異なるSEM写真である。図5は、以下の実施例の例4におけるサンプル11のSEM写真である。図6は、以下の実施例の例5におけるサンプル1〜3のX線回折(XRD)スペクトルである。図7は、以下の実施例の例5におけるサンプル11〜13のX線回折(XRD)スペクトルである。図8は、以下の実施例の例6におけるサンプル4の走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。図9は、以下の実施例の例6におけるサンプル4の異なる走査型電子顕微鏡(SEM)写真である。
【0029】
<例1:か焼前のPt材料の作製>
以下のような手順でか焼前のPt材料を作製した。
まず、Pt源として、塩化白金酸(H[PtCl])(ノリタケ機材株式会社製品)を用意し、所定量を純水に溶解させることにより、濃度0.1MのH[PtCl]水溶液を100mL調製した。
次に、アミノ酸として、市販(Acros Organics株式会社製)のDL−アラニン(純度99%)を用意した。このアラニンを0.01モル分(0.89g)量り取り、これを上記H[PtCl]水溶液を攪拌しながら該水溶液に添加した。
次いで、室温条件下で、上記H[PtCl]とアラニンの混合水溶液を500rpmの攪拌速度で72時間攪拌した。
【0030】
次いで、還元剤として、市販(アジア パシフィック スペシャルティ ケミカルズ株式会社製)の水素化ホウ素ナトリウム(NaBH)を用意し、112mMのNaBH水溶液を調製した。このNaBH水溶液90mLを、滴下速度2mL/分で上記混合水溶液に所定量滴下した。このとき、上記混合水溶液を攪拌速度100rpm程度で攪拌させながら上記滴下を行った。かかる滴下により、混合水溶液の液色は黄金色が消失するとともに、黒色の析出物が生じた。その後、上記混合水溶液を3時間放置して、上記黒色析出物を沈殿させた。
沈殿した上記黒色析出物を純水で数回洗浄して精製した。このようにして、PtとアラニンとNaBHの配合比が1:1:1である「か焼前のPt材料」を得た。これをサンプル1とする。
上記H[PtCl]水溶液に対して、アミノ酸と還元剤の添加量が異なる以外は、上記手順と同様にして、PtとアラニンとNaBHの配合比が1:10:1であるか焼前のPt材料(サンプル2)、およびPtとアラニンとNaBHの配合比が1:5:1であるか焼前のPt材料(サンプル3)を作製した。
【0031】
<例2:サンプル1および2のSEM観察>
上記サンプル1に対して、走査型電子顕微鏡(SEM)の観察を実施した。この観察結果を図1および図2に示した。図1および図2に示されるように、サンプル1では、凹凸のある塊状、および繊維状のポリペプチド(図面における暗く写っている部分)の表面にPt微粒子(図面における白く写っている部分)が凝集して付着していることが確認された。なお、このSEM観察に基づくEDXによる元素分析を行ったところ、図1および図2において暗く写っている部分からは炭素(C)が主に検出されるとともに、白く写っている部分からはPtが検出されていた。
【0032】
<例3:か焼後のPt材料の作製>
か焼前のPt材料であるサンプル1を、焼成炉に入れ、60℃/時間で400℃まで昇温し、この温度を凡そ3時間維持した後、放冷した。このようにして上記サンプル1をか焼することにより「か焼後のPt材料」を作製した。この触媒体をサンプル11とした。上記サンプル2およびサンプル3についても、上記と同様にそれぞれか焼し、か焼後のPt材料であるサンプル12およびサンプル13を得た。
【0033】
<例4:サンプル11のSEM観察>
上記サンプル11に対して、SEMの観察を実施した。この観察結果を図3〜図5に示した。図3〜図5に示されるように、サンプル11では、金属Pt微粒子が凝集して繊維状(糸状)に細長い形状をなしており、かかる糸状部分を微視的にみると海綿状に孔が形成された多孔質構造を形成していることが分かった。なお、このSEM観察に基づくEDXによる元素分析の結果、Cが一部検出されており、上記アラニンからなるポリペプチドが若干残存し得ることがわかった。
【0034】
<例5:サンプル1〜3およびサンプル11〜13のXRD測定>
上記例1および例3においてそれぞれ得られたサンプル1〜3(か焼前のPt材料)およびサンプル11〜13(か焼後のPt材料)のX線回折(XRD)測定を実施した。サンプル1〜3の各XRDスペクトルを図6に、サンプル11〜13の各XRDスペクトルを図7に示した。なお、図6および図7の横軸は2θ、縦軸はピーク強度(任意単位)を示している。この結果、図6に示されるように、サンプル1〜3の全てからPtに由来するピーク(すなわち、Pt(111),(200),(220)および(311)に帰属するピーク)が検出され、金属Ptが存在していることが確認された。また、このXRDピークの線幅からシェラー(Scherrer)の式に基づいてかかる金属Ptの粒子径を算出したところ、約10nm以下であることがわかった。
【0035】
一方、サンプル11〜13についても、図7に示されるように、金属Pt微粒子が存在していることが確認された。ここで、図7に示される2本のピーク(すなわちPt(111)および(200)に帰属するピーク)の線幅が上記図6に示されるピークの線幅よりも小さくなっていた。このことにより、サンプル11〜13に係る金属Pt微粒子は焼結はしてないが、該微粒子の粒子径はサンプル1〜3に係る金属Pt微粒子の粒子径に比べて若干増大していることがわかった。
【0036】
<例6:Pt材料の安定性評価>
次に、上記例1におけるPt材料の作製手順において、黒色析出物が沈殿した混合水溶液を静置する時間を3時間から23日間に変更する以外は例1と同様にして、PtとアラニンとNaBHの配合比が1:10:1であるか焼前のPt材料(サンプル4)を作製した。このようにして得られたサンプル4のSEM観察を実施した。その結果を図8および図9に示した。図8および図9に示されるように、Pt微粒子はアラニンからなる細長い繊維状のポリペプチドの表面をコーティングするように付着していた。このことにより、上記混合水溶液を20日以上の長期にわたり静置しておいても、Pt微粒子が安定的にポリペプチドに凝集、付着したPt材料を好ましく得られることが確認された。
【0037】
上述のように、本実施例によると、Pt源としてのH[PtCl]水溶液に対して、アミノ酸としてアラニン、および還元剤としてNaBHを添加することにより、金属Pt微粒子をポリペプチドの周囲に凝集、析出した(ポリペプチドの表面に付着した)状態で容易に得ることができた。またこのような金属Pt微粒子を400℃でか焼することにより、上記ポリペプチドを鋳型とした繊維状のような形状で、微視的には海綿状に孔が形成された多孔質構造の金属ナノ粒子からなる金属Pt材料を作製することができた。このようにして得られた金属Pt材料は、上記のような触媒機能が高い高機能性構造を備えていることから、触媒活性が高い優れた触媒体として種々の工業分野で利用され得るものである。


【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を製造する方法であって、
触媒として機能し得る金属元素を含むイオンを含有する水溶液を用意すること、
前記用意した水溶液に、所定の種類のアミノ酸を添加すること、
前記水溶液に還元剤を添加すること、および
前記水溶液中に前記金属元素の微粒子を含む析出物を生じさせること、
を包含する、金属材料の製造方法。
【請求項2】
前記金属微粒子を含む析出物をか焼すること、をさらに包含する、請求項1に記載の製造方法。
【請求項3】
前記還元剤として、金属水素化物を用いる、請求項1または2に記載の製造方法。
【請求項4】
前記金属元素が白金である、請求項1〜3のいずれかに記載の製造方法。
【請求項5】
前記アミノ酸を、前記金属元素を含むイオン1モルに対して1モル〜20モルの割合で添加する、請求項1〜4のいずれかに記載の製造方法。
【請求項6】
請求項1〜5のいずれかに記載の方法を用いて製造された金属材料。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2011−21250(P2011−21250A)
【公開日】平成23年2月3日(2011.2.3)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−167802(P2009−167802)
【出願日】平成21年7月16日(2009.7.16)
【出願人】(000004293)株式会社ノリタケカンパニーリミテド (449)
【出願人】(500534843)カーティン ユニバーシティ オブ テクノロジー (5)
【氏名又は名称原語表記】CURTIN UNIVERSITY OF TECHNOLOGY
【住所又は居所原語表記】KENT STREET, BENTLEY WESTERN AUSTRALIA 6102 AUSTRALIA
【Fターム(参考)】