説明

金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒による環境調和型酸素酸化法

【課題】超臨界二酸化炭素を用い、有機媒体を一切用いず、環境に優しい、アルコールから、アルデヒド、ケトンそしてカルボン酸とエステル体を選択的に製造する方法を提供する。
【解決手段】1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を担持させた無機酸化物触媒を用いて、加圧した二酸化炭素の存在下で、酸素を酸化剤として、アルコール類を酸化させ、アルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体の酸化生成物をその転化率、収率及び選択率を高めて製造することからなる上記酸化生成物の製造方法、及びそのアルコールの酸素酸化反応用金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
【効果】副反応生成物の含有量が少ない酸化生成物を大量に製造することを可能にする、環境に優しい環境調和型酸化生成物の製造技術を提供することができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、二酸化炭素の存在下に、金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒を用いて、アルコール類を、酸素を酸化剤として、酸化させ、その酸化生成物を製造する方法に関するものであり、更に詳しくは、二酸化炭素の存在下、すなわち、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素ないし加圧二酸化炭素を反応媒体とすることで、有機溶媒を用いることなく、従来の方法に比べて、効率的に、選択的に、その酸化生成物を製造することを可能とする、環境にやさしい環境調和型酸素酸化法に関するものである。
【0002】
本発明は、環境問題等を抜本的に解消することが可能な次世代の化学合成技術として、その実用化が強く期待されている、超臨界流体、亜臨界流体等の加圧媒体を利用した有機化合物の合成技術の分野において、二酸化炭素の存在下に、アルコール類を、酸素を酸化剤に用いて、酸化させることにより、対応するケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル体等を効率的に、選択的に、合成することを可能にし、更に、副反応生成物の含有量が少ない酸化生成物を大量に製造することを可能にする、環境に優しい、アルコールからその酸化生成物を製造する技術を提供するものである。
【背景技術】
【0003】
酸素酸化あるいは空気酸化により、アルコールから、対応するアルデヒド、ケトン、カルボン酸等を製造する工業的プロセスは、例えば、Carbide & Carbon Corp.社によって、エタノールから、亜鉛、コバルト、クロムで活性化された触媒を用いて、脱水素反応により、アセトアルデヒドへ変換する方法が駆動している。しかし、この方法では、反応温度は、270℃〜300℃と高温であり、副生成物の生成を抑制するため、転化率は30%〜50%に抑えなくてはならないという欠点がある。
【0004】
また、Veba法では、脱水素化により発生する水素を、酸素存在下で燃焼させることで、必要な熱を得つつ、450℃〜500℃の高温で酸化を行っている。ただ、この場合も、エタノールの転化率は30%〜50%に抑制しながら、85%〜90%の選択率を得ている。また、アセトンの製造に関しては、クメン法の他に、イソプロパノールの酸化によるアセトン合成があり、銀触媒あるいは銅触媒の存在下、400℃〜600℃で、酸化脱水素を行う方法がある。
【0005】
また、実験室レベルでは、クロム酸化、過マンガン酸化等の方法があるが、これらの方法は、廃棄物が多く、明らかに、工業的な大量製造には不適当である。近年、環境対策が必須となり、これらの廃棄物を出す手法は使われなくなる一方、固体触媒による酸化方法が開発され、更に、有機媒体等を使用しない、水を媒体とする酸化方法が開発され、例えば、パラジウムや金を使った触媒による合成方法が報告されている。
【0006】
しかし、水中では、これらの触媒は、パラジウム等の金属のシンタリングや、溶出により、著しく不活性化し、寿命が短いことが欠点である。そのため、無溶媒条件による金担持触媒での酸化反応の報告があるが、この場合は、100℃以上の反応温度条件であるにも関わらず、収率が低いというのが現状である。
【0007】
一方、超臨界二酸化炭素を反応媒体に用いた反応は、近年、論文、特許出願件数ともに大幅に増大している。特に、二酸化炭素を超臨界状態で使用することで、二酸化炭素が、安全、無害、安価、かつ大量に存在する物質でもあることから、環境に優しい製造プロセスが構築できる上、反応時間、反応収率が大幅に改善できる特徴がある。しかも、酸化剤として、酸素あるいは空気を用いる場合、水や有機溶媒の場合、これらの気体の溶解度は非常に低いものの、超臨界二酸化炭素あるいは亜臨界二酸化炭素は、無限大に溶解する。
【0008】
更に、生成物は、超臨界二酸化炭素の抽出能を利用することで、容易に分離可能であり、圧力を下げることにより、二酸化炭素と生成物は簡単に分離できる。従って、超臨界二酸化炭素を反応媒体に用いた反応は、常圧条件に対して、高圧条件が要求されるため、特殊の技術開発を要するものの、超臨界二酸化炭素を反応溶媒として利用することによる多くの利点が得られることから、環境調和型製造技術を創成するにあたり、大変注目されている(特許文献1、2)。
【0009】
近年、ポリエチレングリコール(PEG)に分散させたパラジウムクラスター(Pd561phen60(OA)180)と超臨界二酸化炭素の2相系反応場を用いることにより、ベンジルアルコールから酸素酸化により、対応するベンズアルデヒドが、高い収率、選択率で得られることが報告されている。また、超臨界二酸化炭素中で、金担持無機酸化物触媒を用いることで、酸素酸化により、アルコールから、対応するアルデヒド、ケトン等を得ている。しかし、転化率は16%と非常に低く、収率、選択率も良いとは言えない(特許文献3、非特許文献1〜12)。
【0010】
金を用いたアルコールの酸化反応は、依然研究が盛んで有るが、従来の研究例では、金のサイズが、サブマイクロメートル〜マイクロメートルオーダーと大きく、担持する担体の検討も不十分であったため、超臨界二酸化炭素中であっても、触媒能を十分発揮することができなかったものと考えられる。そこで、当技術分野においては、超臨界二酸化炭素中であっても、金あるいは金属担持触媒の触媒能を十分に発揮することができる酸素酸化触媒を開発することが強く要請されていた。
【0011】
【特許文献1】特開平11−49722号公報
【特許文献2】特開平8−208618号公報
【特許文献3】特開2007−237116号公報
【非特許文献1】M.Haruta,N.Yamada,T.Kobayashi,S.Iijima,J.Catal.1989,115,301−309
【非特許文献2】F.Moreau,G.C.Bond,A.O.Taylor,J.Catal.2005,231,105−114
【非特許文献3】J.Guzman,S.Carrettin,J.C.Fierro−Gonzalez,Y.Hao,B.C.Gates,A.Corma,Angew.Chem.Int.Ed.2005,44,4778−4781
【非特許文献4】C.M.Yang,M.Kalwei,F.Schuth,K.J.Chao,Appl.Catal.A 2003,254,289−296
【非特許文献5】J.E.Bailie,G.J.Hutchings,Chem.Commun.1999,2151−2152
【非特許文献6】J.E.Bailie,H.A.Abdullah,J.A.Anderson,C.H.Rochester,N.V.Richardson,N.Hodge,J.G.Zhang,A.Burrows,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,Phys.Chem.Chem.Phys.2001,3,4113−4121
【非特許文献7】B.Chowdhury,J.J.Bravo−Suarez,M.Date,S.Tsubota,M.Haruta,Angew.Chem.Int.Ed.2006,45,412−415
【非特許文献8】M.D.Hughes,Y.J.Xu,P.Jenkins,P.McMorn,P.Landon,D.I.Enache,A.F.Carley,G.A.Attard,G.J.Hutchings,F.King,E.H.Stitt,P.Johnston,K.Griffin,C.J.Kiely,Nature 2005,437,1132−1135
【非特許文献9】F.Porta,L.Prati,J.Catal.2004,224,397−403
【非特許文献10】A.Abad,P.Concepcion,A.Corma,H.Garcia,Angew.Chem.Int.Ed.2005,44,4066−4069
【非特許文献11】P.Landon,P.J.Collier,A.F.Carley,D.Chadwick,A.J.Papworth,A.Burrows,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,Phys.Chem.Chem.Phys.2003,5,1917−1923
【非特許文献12】J.K.Edwards,B.E.Solsona,P.Landon,A.F.Carley,A.Herzing,C.J.Kiely,G.J.Hutchings,J.Catal.2005,236,69−79
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
このような状況の中で、本発明者らは、上記従来技術に鑑みて、金あるいは金属担持触媒の触媒能を十分に発揮することができる酸素酸化触媒を開発することを目標として鋭意研究を積み重ねた結果、金ナノ粒子あるいは金属ナノ粒子の合成法を検討し、それを、様々な無機酸化物に担持させ、超臨界二酸化炭素中でその触媒能を鋭意検討したところ、金ナノ粒子あるいは金属ナノ粒子(1nm〜100nm)を、酸化チタン等の無機酸化物に担持させることで、酸素酸化触媒能の非常に高い触媒が得られることを見出し、更に、様々な酸化反応に適応を試みたところ、通常、酸化されることで、カルボン酸が多く生成するアルコールの酸化反応において、対応するアルデヒドあるいはケトンを高選択的に得ることができることを見出し、本発明を完成するに至った。
【0013】
本発明は、有機媒体を用いず、超臨界二酸化炭素中で、高い触媒活性を示す環境調和型酸素酸化触媒を提供することを目的とするものである。また、本発明は、該酸素酸化触媒を用いて、各種アルコールから、対応する酸化物を高収率・高選択的に製造する方法を提供することを目的とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0014】
上記課題を解決するための本発明は、以下の技術的手段から構成される。
(1)1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を無機酸化物に担持させたことを特徴とするアルコールの酸素酸化反応用金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
(2)金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、又はロジウムの金属のナノ粒子を無機酸化物に担持させた、前記(1)に記載の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
(3)無機酸化物が、チタニア、アルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、イットリア、又は酸化亜鉛である、前記(1)又は(2)に記載の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
(4)1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を担持させた無機酸化物触媒を用いて、加圧した二酸化炭素の存在下で、酸素を酸化剤として、アルコール類を酸化させ、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体の酸化生成物を、その転化率、収率及び選択率を高めて製造することを特徴とする上記酸化生成物の製造方法。
(5)1nm以上から12nm以下の金属ナノ粒子担持金属酸化物触媒を用いる、前記(4)に記載の方法。
(6)金ナノ粒子担持金属酸化物触媒を用いる、前記(4)又は(5)に記載の方法。
(7)二酸化炭素が、超臨界、亜臨界又は加圧二酸化炭素である、前記(4)から(6)のいずれかに記載の方法。
(8)二酸化炭素が、圧力7.3MPa〜50MPa、温度31℃〜300℃の二酸化炭素である、前記(4)から(7)のいずれかに記載の酸化方法。
(9)無機酸化物が、チタニア、アルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、イットリア、又は酸化亜鉛である、前記(4)から(8)のいずれかに記載の方法。
(10)アルコール類が、一般式(1)
【0015】
【化1】

【0016】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボニル基、シアノ基、又はアミノ基を表し、また、R及びRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物である、前記(4)から(9)のいずれかに記載の方法。
【0017】
(11)アルデヒド又はケトン類が、一般式(2)
【0018】
【化2】

【0019】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、また、RとRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物である、前記(4)から(9)のいずれかに記載の方法。
【0020】
(12)カルボン酸が、一般式(3)
【0021】
【化3】

【0022】
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物である、前記(4)から(9)のいずれかに記載の方法。
【0023】
(13)エステル体が、一般式(4)
【0024】
【化4】

【0025】
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物である、前記(4)から(9)のいずれかに記載の方法。
【0026】
次に、本発明について更に詳細に説明する。
本発明は、アルコールの酸素酸化用金属ナノ粒子担持無機触媒であって、1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を無機酸化物に担持させたことを特徴とするものである。本発明では、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、又はロジウムの金属のナノ粒子を無機酸化物に担持させたこと、無機酸化物が、チタニア、アルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、イットリア、又は酸化亜鉛であること、を好ましい実施の態様としている。
【0027】
本発明は、アルコール類の酸化反応によりその酸化生成物である、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体を製造する方法であって、1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を担持させた無機酸化物触媒を用いて、加圧した二酸化炭素の存在下で、酸素を酸化剤として、アルコール類を酸化させ、アルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体の酸化生成物をその転化率、収率及び選択率を高めて製造することを特徴とするものである。
【0028】
本発明は、二酸化炭素、すなわち、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素又は加圧二酸化炭素条件下で、金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒の存在下、アルコール類を反応基質として、酸素を酸化剤として、酸化反応を進行させることにより、それぞれ、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体を製造することを特徴とするものである。
【0029】
本発明は、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素ないし加圧二酸化炭素を反応媒体とすることで、有機溶媒を用いることなく、従来のプロセスに比べて、温和な条件で、高い転化率、収率及び選択率で、アルコールの酸化生成物を製造することを可能とするものである。
【0030】
本発明は、二酸化炭素の存在下、従来、調整が困難であった、金ないしはパラジウム等の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒を存在させることで、従来の技術では、高温で行われていた酸化反応を改善し、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類を、高収率、選択率に製造する技術を提供するものである。本発明を実施するに当たっては、触媒の担体である無機酸化物、反応圧力、及び反応温度を適宜設定することにより、効率良く、目的化合物を製造することができる。
【0031】
本発明の酸化反応に用いる触媒としては、金属ナノ粒子を担持した金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒が挙げられる。通常、金属ナノ粒子として、金、銀、銅、白金、パラジウム、ニッケル、イリジウム、ロジウム、コバルト、オスミウム、ルテニウム、鉄、レニウム、マンガン等の金属ナノ粒子が用いられる。これらの中でも、金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、ロジウムが活性が高く、好ましくは金、銀、白金、パラジウム、更に好ましくは金、パラジウム、最も好ましくは金のナノ粒子が用いられる。
【0032】
また、その大きさは、ナノメートルオーダーである場合に、活性が著しく高くなり、好ましくは1nm以上100nm以下、更に好ましくは1nm以上、20nm以下、最も好ましくは1nm以上、12nm以下であり、これらの大きさにすることにより、これらの金属ナノ粒子担持触媒は、著しい酸素酸化触媒能を発揮する。
【0033】
そして、担体の無機酸化物としては、例えば、酸化チタン(チタニア)、酸化バナジウム、三酸化クロム、二酸化マンガン、酸化鉄、酸化コバルト、酸化ニッケル、酸化銅、酸化ジルコニウム(ジルコニア)、酸化ハフニウム、酸化亜鉛、酸化アルミニウム(アルミナ)、酸化シリコン(シリカ)、酸化ゲルマニウム、酸化マグネシウム(マグネシア)、酸化セレン、酸化ランタン、酸化イットリウム(イットリア)等が用いられる。
【0034】
これらの中でも、好ましくは酸化チタン、酸化ジルコニウム、酸化アルミニウム、酸化マグネシウム、酸化セレン、酸化亜鉛、酸化ランタン、酸化イットリウム、更に好ましくは酸化チタン、酸化アルミニウム、酸化ランタン、酸化亜鉛、最も好ましくは酸化チタン、酸化アルミニウムが用いられる。
【0035】
また、無機酸化物に担持する金属ナノ粒子の量は、担持量が多ければ多いほど良く、通常、0.1重量%以上10重量%以下が適当であるが、好ましくは1重量%以上5重量%以下、最も好ましくは1重量%以上2.5重量%以下であり、これらは、コスト的にも触媒の安定性に関しても好適である。
【0036】
本発明の合成反応に用いる、二酸化炭素としては、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素ないし加圧二酸化炭素が挙げられ、通常、圧力0.1MPa〜100MPa、温度0℃〜500℃の二酸化炭素が用いられる。好ましくは圧力7.3MPa以上50MPa以下、温度31℃以上150℃以下、更に好ましくは7.3MPa以上20MPa以下、温度31℃以上100℃以下の二酸化炭素が用いられる。
【0037】
また、酸化剤に用いる酸素は、必ずしも酸素のみを用いる必要はなく、空気や酸素とは別な気体と混合した酸素でも良い。例えば、酸素と、窒素、フッ素、塩素、臭素、アンモニア、アセチレン、メタン、エタン、プロパン、エチレン、プロピレン、ヘリウム、ネオン、アルゴン、クリプトン、キセノン等からなる1種類以上ガスとの混合ガスでも構わない。
【0038】
通常、10%以上の純度を持つ酸素が用いられるが、好ましくは空気に含まれる酸素の濃度以上の酸素が用いられる。本発明の酸化反応では、反応基質として、アルコール類に対して適応可能であり、目的とするアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはエステル体の種類等に応じて、好適な反応温度、反応圧力を適宜選定し、反応を遂行することができる。
【0039】
本発明の方法で用いる反応基質は、特に限定されるものではないが、アルコール類が、一般式(1)
【0040】
【化5】

【0041】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボニル基、シアノ基、又はアミノ基を表し、また、R及びRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物が挙げられる。
【0042】
反応基質として、具体的には、例えば、メタノール、エタノール、プロパノール、ブタノール、ペンタノール、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、ノナノール、デカノール、ドデカノール、トリデカノール、シクロペンタノール、シクロヘキサノール、シクロヘプタノール、シクロオクタノール、シクロノナノール、シクロデカノール、シクロドデカノール、ベンジルアルコール、メトキシベンジルアルコール、プロピルベンジルアルコール、クロロベンジルアルコール、フェニルプロパノール、インダノール等が挙げられる。
【0043】
アルデヒド類又はケトン類としては、一般式(2)
【0044】
【化6】

【0045】
(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、また、RとRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物が挙げられる。
【0046】
アルデヒド類として、例えば、脂肪族アルデヒド、脂肪族ジアルデヒド、トリアルデヒド、テトラアルデヒド、そして、それらのアルデヒド類の誘導体、脂肪族環状アルデヒド、脂肪族環状ジアルデヒド、トリアルデヒド、テトラアルデヒド、そして、それらのアルデヒド類の誘導体た挙げられる。また、ケトン類として、例えば、脂肪族ケトン、脂肪族ジケトン、トリケトン、テトラケトン、脂肪族環状ケトン、脂肪族環状のジケトン、トリケトン、テトラケトン、そして、それらのケトン類の誘導体、芳香族ケトン、芳香族ジケトン、トリケトン、テトラケトン等のケトン類、そして、それらのケトン類の誘導体が挙げられる。
【0047】
また、ビニルケトン類として、例えば、アルキルビニルケトン類、シクロアルキルビニルケトン類、アリールビニルケトン類、シクロアルキルビニルケトン類、アリールアルキルビニルケトン類、アリールシクロアルキルビニルケトン類及びそれらの誘導体が挙げられる。これらのケトン類とビニルケトン類との反応による、環状ケトン構造を有する環状化合物の合成プロセスが、本発明の代表的な反応例として挙げられる。
【0048】
カルボン酸類としては、一般式(3)
【0049】
【化7】

【0050】
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0051】
エステル体としては、一般式(4)
【0052】
【化8】

【0053】
(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物が挙げられる。
【0054】
本発明においては、上記反応基質、二酸化炭素、酸素、及び金属ナノ粒子担持触媒を、反応器に導入して、所定の反応時間で合成を実施する。このとき、例えば、従来公知の、高温高圧反応で用いられる反応プロセス及び装置を適宜適用することができる。例えば、好適には、バッチ式の高温高圧反応装置、又は連続式の流通式高温高圧反応装置を使用することができるが、本発明は、これらのプロセス又は装置については、特に限定されるものではない。
【0055】
本発明は、例えば、従来、アルコール類の酸化触媒として知られている、各種金属担持触媒、例えば、金担持触媒として、金ナノ粒子を担持させた金ナノ粒子担持触媒を用いること、すなわち、金属ナノ粒子を用いることを特徴とするものである。従って、本発明においては、従来、酸化触媒として知られている金属担持触媒であれば、その金属の種類に制限されることなく使用することができる。
【0056】
本発明の方法では、従来、高温で行われていたアルコール類からの酸化化合物の製造工程を、従来法に比べて、簡便で、効率よく、選択的に製造を実施することができる。また、アルコール類から、対応するケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル体等を効率的に、選択的に合成することができ、また、副反応生成物の含有量が少ない酸化生成物を大量に製造することができるので、製造コストを、大幅に低減することができる。また、従来、多量に排出されていた金属酸化物等については、本発明では、反応後に、金属酸化物等に対して、分離、中和処理、無害化処理等を施す必要がなく、また、廃水、廃物処理等を行う必要がないので、環境に優しい環境調和型製造技術を確立することが可能となる。
【0057】
酸素酸化は、酸化剤に、酸素あるいは空気を用いるため、安価で、対応する酸化生成物を得ることができる一方、反応温度が高く、しかも酸化反応の制御が難しく、転化率を抑えながら選択率重視で製造している場合が多い。これに対して、本発明は、超臨界二酸化炭素を用い、有機媒体を一切用いず、環境に優しい、アルコールから、対応するアルデヒド、ケトンそしてカルボン酸とエステル体を選択的に製造することを可能とする環境調和型製造方法を提供するものである。
【0058】
本発明は、環境問題等を抜本的に解消することが可能な、次世代の化学合成技術として強く期待されている、また、超臨界流体、亜臨界流体等の加圧媒体を利用した有機化合物の合成技術の分野において、二酸化炭素の存在下に、アルコール類を、酸素を酸化剤に用いて、酸化させることにより、対応するケトン、アルデヒド、カルボン酸、エステル体等を効率的で、選択的に合成することを可能にし、更に、副反応生成物の含有量が少ない酸化生成物を、大量に製造することを可能にする、環境に優しい新規環境調和型製造製造方法を提供するものとして有用である。
【発明の効果】
【0059】
本発明により、次のような効果が奏される。
(1)二酸化炭素、すなわち、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素ないし加圧二酸化炭素条件下で、金ないしはパラジウム等の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒の存在下、アルコール類を反応基質として、酸素を酸化剤として、酸化反応を進行させることにより、それぞれ、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはエステル体を製造することができる。
(2)本発明により、有機溶媒を用いることなく、従来のプロセスに比べ、温和な条件で、高い転化率で、高収率・高選択率で、アルコールの酸化化合物を製造する方法を提供することができる。
(3)特に、超臨界二酸化炭素あるいは亜臨界二酸化炭素を用いることで、触媒の劣化及び金属の溶出がなく、触媒を繰り返し利用することが可能である。
(4)従来法と比べて、酸化反応に高い選択性があり、目的とするアルコールの酸化生成物を、高い選択性で、高収率で合成することができる。
(5)反応温度は、100℃以下という温和な条件下でありながら、反応時間は、12時間以内という短時間で、酸化反応により、目的の生成物を得ることができる。
(6)バッチ式、流通式の両方にも適応可能である。
(7)反応工程において、分離・精製工程等を減らすことができ、操作は、圧力と温度を調整するのみであるため、従来法と比べて、反応工程は簡便である。
(8)有機溶媒、酸、アルカリ等を極力使用せずに反応を遂行できるため、生成物に不純物の混入する恐れが少ない。
(9)二酸化炭素は、常温で気体であるため、生成物との分離が容易である。
(10)廃水、廃物がほとんど発生しない合成方法であり、廃水、廃物の処理を必要としない、環境にやさしい環化化合物等の酸化生成物の合成方法を提供できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0060】
次に、本発明を実施例に基づいて具体的に説明するが、本発明は、これらの実施例によって何ら限定されるものではない。
【実施例1】
【0061】
本実施例では、合成条件を変えて実施した、金ナノ粒子担持酸化チタン触媒の合成方法の例を示す。800mLのHAuCl水溶液(2.1×10−3M)を、70℃に加熱し、0.5Mの水酸化ナトリウム水溶液を用いて、pHを8に調整した。その後、当該水溶液に酸化チタン(日本アエロジル社製P25)8gを加え、2時間激しく撹拌した。撹拌中、混合液のpHを、水酸化ナトリウムで適宜pH8に調整し、一定に保って撹拌後、冷却した。得られた懸濁液は、ろ過し、イオン交換水で洗浄した。得られた固体を、100℃で一晩乾燥させ、空気中で、300℃で、4時間焼成処理を行った。
【0062】
得られた固体を、透過型電子顕微鏡(TEM)で観察した。そのとき得られたTEM写真を図1に示す。これより、金ナノ粒子は、酸化チタンにほぼ均一に分散していることが分かり、また、その大きさは、2.7nm±0.8nmであることが分かった。更に、ICP発光分光分析を行い、金は、1.06重量%担持されたことが分かった。
【0063】
本実施例1と同様の方法で、上記混合液のpHを6、7、8、9に調整して、それぞれ、金ナノ粒子担持量を変えた金属ナノ粒子担持酸化チタン触媒を合成した。金ナノ粒子の担持量は、pH6のとき2.42重量%、pH7のとき1.45重量%、pH9のとき0.83重量%であった。また、実施例1と同様の方法で、得られた固体の焼成を、100℃、200℃、300℃、400℃、500℃の各温度で行った触媒も合成した。また、本実施例と同様の方法で、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、ロジウムの金属塩溶液を用いて、相当する金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒を合成し、以下の実施に供した。
【実施例2】
【0064】
(アルコール類の酸化反応)
本実施例では、実施例1で合成した金属ナノ粒子担持酸化チタン触媒を使用し、アルコール類として、ベンジルアルコールを基質に用いて、酸素を酸化剤として、当該アルコールを酸化させ、ベンズアルデヒド、安息香酸、ベンジルベンゾエートの製造を行った。50mLのステンレス製オートクレーブに金属ナノ粒子担持酸化チタンを、ベンジルアルコールに対して2mol%加え、2MPaの二酸化炭素で3回置換した。反応容器を90分以内に70℃まで加熱し、酸素を0.1MPa加えた。その後、ベンジルアルコール(1mmol)をポンプで導入し、続いて、二酸化炭素を、16.5MPaまで、二酸化炭素導入ポンプで加えた。
【0065】
反応溶液を、マグネチックスターラーで激しく撹拌し、5時間、70℃で反応させた。反応後、反応容器を氷浴で冷却し、ゆっくりと二酸化炭素圧力を抜いた。得られた反応生成物は、10mLのジエチルエーテルで抽出を行い、触媒をろ過した後、得られた溶液をガスクロマトグラフィー(GC)、GC−MSにかけて、生成物を確認し、アルコールの転化率、生成物の収率、選択率を求めた。合成した金属ナノ粒子担持酸化チタンの各種値、及びそれらを触媒に用いて、アルコールの酸化反応を行ったときの結果を、金ナノ粒子担持触媒を代表例として、表1に示す。ろ過して回収した触媒は、ジエチルエーテルで洗浄した後、300℃で2時間再焼成して、2回目以降の酸化反応に用いた。
【0066】
【表1】

【0067】
(各触媒とアルコール類の酸化反応の評価)
表1の結果から、金ナノ粒子のサイズは、500℃で焼成した触媒以外は、1.8nmから5.1nmの範囲にあり、pHが上昇するにつれ、平均粒子サイズは3.6nmから2.6nmに減少した。これは、担持量が増大した場合、ナノ粒子の凝集が起きるからであると思われる。なお、500℃で焼成した場合は、凝集が著しく起こり、金ナノ粒子サイズは7.9nmと著しく大きくなることが分かった。
【0068】
また、金担持量は、0.83重量%から2.42重量%の範囲で調整ができたが、反応時間1時間で検討したところ、それぞれの触媒で、転化率に大きな差は見られなかった。しかし、焼成温度を100℃〜500℃にした場合、300℃で焼成するときが最も転化率が高くなるが、高温では、金ナノ粒子のサイズが大きくなり、転化率は54%と大きく下がった。
【0069】
また、全体的に特徴的なのは、通常、酸素酸化する場合は、酸化反応が進み、カルボン酸も多く生成する場合があるが、本発明の方法では、殆どベンズアルデヒドまでの酸化で終了し、酸化しても直ぐに縮合が起こり、エステル体のベンジルベンゾエートが生成することが分かった。
【0070】
しかも、担持量が1.06重量%の金ナノ粒子担持酸化チタン触媒は、ベンズアルデヒドの選択率が98%と最も高く、担持量がそれ以下の触媒は、ほぼ同程度の選択率であったが、それより担持量が多い触媒は、逆に選択率が下がり、ベンジルベンゾエートの選択率が上昇した。更に、触媒の再利用のサイクルを検討したところ、8番の触媒を4回使用したが、ベンジルアルコールの転化率、ベンズアルデヒドの選択率は低くはならず、むしろ改善されていることが分かった。
【実施例3】
【0071】
本実施例では、実施例2で使用した金ナノ粒子担持酸化チタン触媒(表1の3番で使用した触媒)と、従来の2.5%金担持酸化チタン触媒、2.5%金/2.5%パラジウム担持酸化チタン触媒、2.5%パラジウム担持酸化チタン触媒を用いて、ベンジルアルコールの酸素酸化反応を検討した。その結果を図2に示す。これより、圧倒的に金ナノ粒子担持触媒は、転化率、選択率の面で優れていることが分かった。特に、従来用いられてきた2.5%金担持触媒に対し、金ナノ粒子担持触媒は、転化率で大幅な向上があることが分かった。なお、反応条件は、ベンジルアルコールは、1mmol、金/ベンジルアルコールは、2%(mol/mol)、酸素圧は、0.1MPa、全圧は、16.5MPa、反応温度は、70℃、反応時間は、5時間とした。
【実施例4】
【0072】
本実施例では、金属ナノ粒子を担持させる無機酸化物担体の違いについて具体的に検討を行った。金属ナノ粒子担持触媒の合成方法は、実施例1と同様であり、酸化チタン(TiO)の替わりに、各種無機酸化物として、アルミナ(Al)、マグネシア(MgO)、セリア(CeO)、酸化ランタン(Ln)、ジルコニア(ZnO)、酸化イットリウム(Y)、酸化亜鉛(ZnO)、炭素(C)を用いた。その結果を、金ナノ粒子を代表例として、図3に示す。生成物のベンズアルデヒド転化率が90%以上であったのは、担体が、酸化チタン、アルミナ及び酸化亜鉛の場合であった。
【0073】
しかし、アルミナの場合は、生成物のベンズアルデヒドの選択率が著しく低く、酸化亜鉛の場合でも、酸化チタンの場合に比べて、高くはない。生成物のベンズアルデヒドの選択率が85%以上あったのは、酸化チタン、セリア及び炭素であったが、セリアの場合は、転化率が低く、炭素の場合は、殆ど金ナノ粒子の活性が損なわれていた。
【0074】
これらを総合した結果、金属ナノ粒子担持触媒の酸素酸化に対する活性は、各種無機酸化物によって同じではなく、酸化チタン>ジルコニア=酸化ランタン>アルミナ>セリア>酸化イットリウム>ジルコニア>炭素>マグネシアの順番であった。以上の結果から、担体としては、酸化チタンが最も酸素酸化に適していることが分かった。なお、反応条件は、ベンジルアルコールは、1mmol、金/ベンジルアルコールは、2%(mol/mol)、酸素圧は、0.1MPa、全圧は、16.5MPa、反応温度は、70℃、反応時間は、5時間とした。
【実施例5】
【0075】
本実施例では、実施例2と同様の条件で、アルコール類の酸素酸化における反応時間の検討を行った。その結果を、金ナノ粒子を代表例として、図4に示す。反応開始から約6時間で、転化率が97%に達した。更に、生成したアルデヒド類の選択率は、6時間後でも95%であった。しかし、若干副生成物の生成も増えており、安息香酸とベンジルベンゾエートが合計で、5%生成した。興味あることに、最初の2時間は、安息香酸の生成は見られず、全てベンジルベンゾエートに変換されていた。なお、触媒として、金ナノ粒子担持酸化チタンを用いた。反応条件は、ベンジルアルコールは、1mmol、金/ベンジルアルコールは、2%(mol/mol)、酸素圧は、0.1MPa、全圧は、16.5MPa、反応温度は、70℃、反応時間は、5時間とした。
【実施例6】
【0076】
本実施例では、反応時間を1時間として、実施例2と同様の条件で、金属ナノ粒子担持酸化チタン触媒の量と反応転化率の関係を検討した。その結果を、金ナノ粒子を代表例として、図5に示す。触媒の添加量にほぼ比例して、転化率が上昇し、2.5mol%分の触媒量を加えることで、1時間で、酸化反応をほぼ終了させられることが判明した。一方、選択率は、何れも96%以上を維持していた。更に、触媒がない場合は、反応は、殆ど進行しないことも分かった。
【0077】
実施例2と同様の条件で、触媒として、金属ナノ粒子担持酸化チタンを用い、反応時間は、4時間、酸素分圧は、0.1MPaとして、各二酸化炭素圧力による転化率、選択率への影響を検討した。その結果を、金ナノ粒子を代表例として、図6に示す。酸素のみの場合、すなわち二酸化炭素の圧力が0MPaの場合、選択率は48%であったのに対して、二酸化炭素の圧力が16.5MPaでは、選択率が最大の96%に達し、超臨界二酸化炭素の効果による反応効率の向上が見られた。
【0078】
更に、超臨界二酸化炭素中では、生成したベンズアルデヒドの更なる酸化により生成する安息香酸やそのエステル体であるベンジルベンゾエートは、27%及び25%から2%ないし3%に抑えられることが分かった。しかし、更なる高圧条件では、ベンズアルデヒドの選択率は変わらないが、転化率が86%から75%にまで低下する。これは、二酸化炭素により、酸素が希釈された効果によるものと考えられる。
【0079】
なお、触媒としては、金ナノ粒子担持酸化チタンを用いた。反応条件は、ベンジルアルコールは、1mmol、金/ベンジルアルコールは、2%(mol/mol)、酸素圧は、0.1MPa、全圧は、16.5MPa、反応温度は、70℃、反応時間は、4時間とした(■:ベンジルアルコールの転化率;○酸化されたベンジルアルコール;□:ベンズアルデヒドの選択率;△:安息香酸の選択率;▽:ベンジルベンゾエートの選択率)。
【実施例7】
【0080】
本実施例では、実施例2と同様の実験条件で、様々なアルコール類を基質として、本発明の金属ナノ粒子担持触媒を用いて、酸素酸化反応を検討した。その結果を表2に示す。アルコールの転化率は、いずれも良い値を得たが、シクロヘキサノールと2−ブテン−1−オールとブタノールは、35%、57%、38%の転化率を示した。これらは、何れも脂肪族アルコールであり、一部に特異的なものであった。しかし、対応するケトンあるいはアルデヒドの選択率は、90%以上で得られたものが多いが、ブタノールから得られるアルデヒドの選択率は、38%と低い値を示した。
【0081】
【表2】

【産業上の利用可能性】
【0082】
以上詳述したように、本発明は、金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒による環境調和型酸素酸化法に係るものであり、本発明により、二酸化炭素、すなわち、超臨界二酸化炭素、亜臨界二酸化炭素ないし加圧二酸化炭素条件下で、金ないしはパラジウム等の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒の存在下、アルコール類を反応基質として、酸素を酸化剤として、酸化反応を進行させることにより、それぞれ、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはエステル体を製造することができる。本発明により、有機溶媒を用いることなく、従来のプロセスに比べ、温和な条件で、高い転化率で、高収率・高選択率で、アルコールの酸化化合物を製造する方法を提供することができる。本発明では、特に、超臨界二酸化炭素あるいは亜臨界二酸化炭素を用いることで、触媒の劣化及び金属の溶出がなく、触媒を繰り返し利用することが可能であり、従来法と比べて、酸化反応に高い選択性があり、目的とするアルコールの酸化生成物を、高い選択性で、高収率で合成することができる。
【0083】
本発明では、反応温度は、100℃以下という温和な条件下でありながら、反応時間は、12時間以内という短時間で、酸化反応により、目的の生成物を得ることができ、バッチ式、流通式の両方にも適応可能であり、反応工程において、分離・精製工程等を減らすことができ、操作は、圧力と温度を調整するのみであるため、従来法と比べて、反応工程は簡便である。本発明では、有機溶媒、酸、アルカリ等を極力使用せずに反応を遂行できるため、生成物に不純物の混入する恐れが少なく、二酸化炭素は、常温で気体であるため、生成物との分離が容易であり、廃水、廃物がほとんど発生しない合成方法であり、廃水、廃物の処理を必要としない、環境にやさしい環化化合物等の酸化生成物の合成方法を提供するものとして有用である。
【図面の簡単な説明】
【0084】
【図1】実施例1で得られた固体の透過型電子顕微鏡(TEM)観察の写真を示す。
【図2】担持無機酸化物による触媒活性の違い、及び金ナノ粒子と金を担持させた場合の触媒活性の違いを示す。金ナノ粒子、2.5%金、2.5%金/2.5%パラジウム、及び2.5%パラジウムを、酸化チタン(日本アエロジル社製P25)に担持した担持触媒を用いた。
【図3】超臨界二酸化炭素中におけるアルコール類の酸素酸化による転化率と、得られたアルデヒド類の選択率を示す。
【図4】アルコール類の酸素酸化における経時変化を示す。
【図5】金ナノ粒子担持酸化チタン触媒の量と反応転化率の関係を示す。
【図6】アルコール類の酸素酸化における圧力依存性を示す。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を無機酸化物に担持させたことを特徴とするアルコールの酸素酸化反応用金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
【請求項2】
金、銀、白金、パラジウム、ニッケル、ルテニウム、又はロジウムの金属のナノ粒子を無機酸化物に担持させた、請求項1に記載の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
【請求項3】
無機酸化物が、チタニア、アルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、イットリア、又は酸化亜鉛である、請求項1又は2に記載の金属ナノ粒子担持無機酸化物触媒。
【請求項4】
1nm以上から100nm以下の金属ナノ粒子を担持させた無機酸化物触媒を用いて、加圧した二酸化炭素の存在下で、酸素を酸化剤として、アルコール類を酸化させ、対応するアルデヒド類、ケトン類、又はカルボン酸類若しくはそのエステル体の酸化生成物を、その転化率、収率及び選択率を高めて製造することを特徴とする上記酸化生成物の製造方法。
【請求項5】
1nm以上から12nm以下の金属ナノ粒子担持金属酸化物触媒を用いる、請求項4に記載の方法。
【請求項6】
金ナノ粒子担持金属酸化物触媒を用いる、請求項4又は5に記載の方法。
【請求項7】
二酸化炭素が、超臨界、亜臨界又は加圧二酸化炭素である、請求項4から6のいずれかに記載の方法。
【請求項8】
二酸化炭素が、圧力7.3MPa〜50MPa、温度31℃〜300℃の二酸化炭素である、請求項4から7のいずれかに記載の酸化方法。
【請求項9】
無機酸化物が、チタニア、アルミナ、マグネシア、セリア、酸化ランタン、ジルコニア、イットリア、又は酸化亜鉛である、請求項4から8のいずれかに記載の方法。
【請求項10】
アルコール類が、一般式(1)
【化1】

(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、アリール基、カルボニル基、シアノ基、又はアミノ基を表し、また、R及びRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物である、請求項4から9のいずれかに記載の方法。
【請求項11】
アルデヒド又はケトン類が、一般式(2)
【化2】

(式中、R及びRは、それぞれ同一又は相異なる置換基であり、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表し、また、RとRが一緒になり、環状構造の一部を形成しても良い。)で表される化合物である、請求項4から9のいずれかに記載の方法。
【請求項12】
カルボン酸が、一般式(3)
【化3】

(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物である、請求項4から9のいずれかに記載の方法。
【請求項13】
エステル体が、一般式(4)
【化4】

(式中、Rは、アルキル基、アルケニル基、アルキニル基、又はアリール基を表す。)で表される化合物である、請求項4から9のいずれかに記載の方法。


【図2】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図1】
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【図3】
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【公開番号】特開2010−12437(P2010−12437A)
【公開日】平成22年1月21日(2010.1.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2008−176400(P2008−176400)
【出願日】平成20年7月6日(2008.7.6)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】