説明

金属フッ化物エキシマ光学素子の表面形成の改良

【課題】 金属フッ化物エキシマ光学素子の表面形成を改良する。
【解決手段】 本発明は、250nm未満の光学リソグラフィ、特に200nm未満のリソグラフィにおいて用いるのに適した改良コーティングされた金属フッ化物単結晶の光学素子に関する。本発明のコーティングされた素子は、リソグラフィ法において用いられるレーザ光源をはじめとするレンズ、窓、プリズムおよび他の素子であってもよい。本発明はまた、成形された光学素子が研磨されるときに形成される準ビールビー層を除去する方法に関する。コーティング前に準ビールビー層を除去することは、コーティングされたレンズの耐久性および光学的透過特性を向上する結果となる。コーティング材料は、250nm未満の電磁放射線の透過を妨げない任意の材料であってもよい。フッ素ドープ二酸化ケイ素が、好ましいコーティング材料である。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、250ナノメートル(nm)未満の電磁放射線の透過に用いることができる改良コーティングされた光学素子に関し、特に光学リソグラフィの領域における使用のために、耐久性がより増大し、透過率が向上した、改良コーティングされたアルカリ土類金属フッ化物光学素子およびそのような光学素子の作製方法に関する。
【背景技術】
【0002】
たとえば20mJ/cmを超えるパルスエネルギ密度(フルエンス)、数ナノメートルの範囲のパルス長を伴う高出力レーザを使用すると、レーザリソグラフィシステムにおいて用いられる光学素子が劣化する可能性がある。非特許文献1は、アルゴンイオンレーザにおける溶融シリカの表面劣化について記載している。つい最近、シリカ以外の基板から構成される窓材料を用いた、高いピークおよび平均出力193nmのエキシマレーザでは、光学窓の表面が劣化することが分かった。既存の光学材料が157nmレーザシステムで用いられる場合には、そのような劣化がさらに著しいことが問題である。既存の193nmレーザシステム用の窓またはレンズ材料のようなたとえばMgFなどを用いる解決法がいくつか提案されているが、そのような材料もまた時間と共に表面が劣化し、高価な窓を定期的に交換する必要性が生じると考えられている。さらに、窓の劣化に伴う問題点は、193nm未満の波長で動作するレーザシステムの到来で激化するとも考えられている。また、窓材料としてMgFの使用は、機械的な観点から見ればうまくいく可能性があるが、レーザビームの透過性能に悪影響を及ぼす色中心の形成という問題を生じる。
【特許文献1】米国特許第6,466,365号明細書
【特許文献2】米国特許第6,395,657 B2号明細書
【特許文献3】米国特許第6,309,461 B1号明細書
【特許文献4】米国特許第6,562,126 B2号明細書
【特許文献5】米国特許第6,332,922 B1号明細書
【特許文献6】米国特許第6,620,347号明細書
【特許文献7】米国特許第6,238,479 B1号明細書
【非特許文献1】T.M.ステファン(T.M.Stephen)ら著、論文「Degradation of Vacuum Exposed SiO2 Laser Windows」、SPIE 第1848号、106〜109頁(1992)
【非特許文献2】J.ワン(J.Wang)ら著、「Surface characterization of optically polished CaF2 crystal by quasi−Brewster angle technique」、SPIE Proc.、第5188号(2003)、106〜114頁
【非特許文献3】S.ゴガル(S.Gogall)ら著、「Laser damage or CaF2 (111) surfaces at 248nm」、Appl.Surface Science、96098(1996)、332〜340頁
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
エキシマレーザは、マイクロリソグラフィ業界に適した照射源である。結晶MgF、BaFおよびCaFなどのイオン材料は、その紫外線透過性および大きいバンドギャップエネルギのためにエキシマ光学部品に適した材料であるが、好ましい材料はCaFである。しかし、CaFの結晶およびCaFから作製される光学素子は、光学的に研磨することが困難である。さらに、たとえば、248nmおよび193nmの深紫外(「DUV」)領域およびたとえば157nmの真空紫外(「VUV」)領域で動作する強力なエキシマレーザを当てると、研磨されているがコーティングされていないCaFの表面は、劣化しやすい。20〜40mJ/cmのパルスエネルギ密度で193nm、2KHzまたは4KHzで動作するレーザの場合には、これらのイオン材料から作製される表面または光学素子は、たった数百万回のレーザパルスを受けた後に、機能しなくなることが周知である。損傷の原因は、研磨された表面の一番上の表面層におけるフッ素の消耗であると考えられる。特許文献1は、シリコンオキシフルオライドコーティング/材料の真空蒸着を用いて、劣化からCaFなどの金属フッ化物の表面を保護する方法について述べている。現在のところ、これは合理的な解決策であるが、マイクロリソグラフィ業界は絶えず、エキシマ光源およびエキシマレーザに基づくシステムと共に用いられる光学部品の性能の向上を求めている。したがって、レーザ性能の向上に関して予想される増大する業界の要求を考慮すると、光学素子の劣化問題を低減するか、または著しく耐久性を増大させ、その結果として既存の光学部品および今後の光学部品を用いることができる期間を長くする解決策を見つけることが望ましい。
【課題を解決するための手段】
【0004】
一態様において、本発明は、250nm未満のリソグラフィ、特に200nm未満のリソグラフィにおいて用いられる、化学式MFの金属フッ化物単結晶から作製されるコーティングされた光学素子に関する。尚、Mは、カルシウム、バリウム、マグネシウムまたはストロンチウムまたは上記の混合物である。
【0005】
別の態様において、本発明は、200nm未満の電磁放射線を用いる光学リソグラフィシステムにおいて用いるのに適したコーティングされたアルカリ土類金属フッ化物単結晶の光学素子に関し、上記の光学素子は、上記の電磁放射線が入射および出射する素子の表面の上に選択されたコーティング材料を有する成形された金属フッ化物単結晶を具備し、上記のコーティングは、コーティング材料を施す前に、表面に存在する準ビールビー層(quasi−Bielby layer)が実質的に除去された表面上にある。
【0006】
別の態様において、本発明は、レーザリソグラフィに有用なコーティングされたCaFに関する。特定の実施形態において、本発明は、250nm未満、特に200nm未満のレーザリソグラフィで窓、レンズおよび他の光学素子として用いるためのコーティングされた光路材料に関する。
【0007】
本発明によって用いられるコーティング材料は、電磁スペクトルのX線領域、赤外領域、紫外領域および可視領域において透過性である任意の材料であってよい。250nm未満の波長で動作する用途では、特にCaF光学素子のような金属フッ化物光学素子の好ましいコーティング材料は、窒化ケイ素、シリコンオキシナイトライド、MgF、ドープ高純度シリカおよびフッ素高純度シリカである。コーティングは一般に、当業界では周知の方法、たとえば、蒸着法、化学気相成長法(「CVD」)、プラズマ化学気相成長法(「PECVD」)およびスパッタ蒸着法をはじめとする他の「プラズマ」蒸着法によって光学材料の表面に蒸着される。
【0008】
本発明はさらに、250nm未満のレーザビーム、特に200nm未満のレーザビームによってレーザにより誘発される損傷に耐えるコーティングされた金属フッ化物単結晶の光学素子を作製する方法に関する。この方法は、コーティングされていないアルカリ土類金属フッ化物結晶または素子を形成するステップと、結晶または素子の表面を切削、研削および研磨するステップと、切削、研削および研磨の施された表面をエッチングして、準ビールビー層の表面にある不純物を除去するステップと、レーザにより誘発される損傷に耐えるコーティング材料を形成するために、選択された材料のコーティングによって金属フッ化物の素子の表面をコーティングするステップと、を含む。特に、本発明は、前述の方法によって作製されるCaF光学素子に関する。
【0009】
本発明はさらに、250nm未満の電磁放射線を用いて光学リソグラフィシステムにおいて用いるのに適したアルカリ土類金属フッ化物単結晶の光学素子を作製するための方法に関し、上記の方法は、
アルカリ土類金属フッ化物単結晶を得るステップと、
必要に応じて、切削ステップおよび研削ステップを用いて単結晶を光学素子に成形するステップと、
250nm未満の電磁放射線が入射および出射する成形された素子の表面を研磨するステップと、
研磨された表面をエッチングして、研磨により生じる準ビールビー層を除去するステップと、
選択された光学材料を用いてエッチングされた表面をコーティングするステップと、
コーティングされたアルカリ土類金属フッ化物単結晶の光学素子を形成するために、コーティングされた表面を研磨するステップと、を含み、
上記のアルカリ土類金属は、カルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムまたは上記のいずれかの混合物からなる群から選択される。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
以下の説明および図面において、CaFが、本発明によるコーティングされた光学素子を作製する具体的なアルカリ土類金属フッ化物単結晶材料として用いられる。しかし、本発明は、アルカリ土類金属フッ化物から作製される光学素子またはそのようなアルカリ土類金属フッ化物の混合物から作製される素子のすべてに適用することを留意すべきである。さらに、本発明は、切削、研削および研磨を施されるすべての光学素子の表面、たとえば、レーザ窓またはレンズの2つの面に適用する。
【0011】
本発明は、アルカリ土類金属フッ化物から作製されるコーティングされた光学素子、特に、フッ化カルシウムCaF、またはバリウム、マグネシウムまたはストロンチウムなどの1種類以上の他のアルカリ土類金属とフッ化カルシウムの混合物から作製されるコーティングされた光学素子およびそのような素子の作製方法に関する。本発明による光学素子では、透過特性および耐久性が向上している。
【0012】
光学リソグラフィ方法において用いるための金属フッ化物単結晶は、結晶ブランクの表面の切削、研削および研磨によって、光学素子に形成される。金属フッ化物がフッ化カルシウム、またはフッ化カルシウムと他のアルカリ土類金属の混合物であるとき、そのような結晶から作製される素子の研磨された表面では、小さいが測定可能な吸収があることが分かっている。たとえば光学リソグラフィ工程において、そのような素子の表面が強力なレーザビームに曝露されるとき、このわずかな吸収は光学素子に著しい加熱および熱勾配を生じる。CaFまたは他の金属フッ化物の光学素子における温度上昇は、素子からフッ素の消失を伴うと考えられる仕組みによって素子の損傷を加速する可能性がある。この損傷の結果、大きな熱膨張係数を有するという事実のために、素子は耐用年数が短く、特にCaFでは強い波面収差を生じる。波面収差は、光学リソグラフィシステムにおいて用いるような高精度のレンズ系における光学性能を損なう。本願明細書に記載される本発明は、200ナノメートル未満の波長で用いられるとき、吸収を生じる物質を除去するまたは最小限に抑えて、表面における透過性能および耐久性を向上させる結果となる。これにより、高い繰り返し率およびエネルギ密度で動作するエキシマレーザシステムにおいて用いられるときの耐用年数が向上した光学素子を生じる結果となる。
【0013】
CaFは一般に、その等方性および光学素子(構成部材)を形成することができる高純度材料としての利用可能性のために、DUVおよびVUVエキシマに基づくマイクロリソグラフィ用の好ましい光学材料である。一般に、構成部材の光軸は、<111>方向として選択される。<111>方向は、材料の好ましい劈開平面である(111)平面に垂直である。MgFおよびBaFなどの他のイオン結晶のように、CaFは機械的な切削動作および研削動作中にチッピングおよび劈開を生じやすく、熱衝撃を受けやすい。光学素子を成形するために必要な機械的動作は、表面損傷(「SSD」)として周知の深い破面を後に残し、次の微細研削作業および研磨作業によって除去することが極めて困難である。研磨された結晶表面のSSD評価のための偏光技術が開発された[非特許文献2参照]。
【0014】
一般に、光学ブランクが成形されるとき、鋸引き動作、研削動作および成形動作は、ダイヤモンドおよび/またはアルミナに基づく研磨剤および鋸を用いて行われる。続いて、結果として生じる成形素子は、各ステップにおいて指定された厚さの材料を除去するために、ますます細かい研磨剤を用いて、複数の研磨ステップに曝される。この手法は、ガラスまたはHPFS(高純度溶融シリカ)などのアモルファス材料に関して長年にわたって開発され、磁性流体仕上げ加工(MRF)法を用いると、たとえばCaFなどの結晶質に有用であることが分かっている。そのような技術によって研磨された表面のモルフォロジを評価するために、偏光法を用いたとき、偏光解析は相当のSSDが残っていることが多いことを明らかにした。たとえば、ダイヤモンドなどの硬質研磨剤は、脆性破壊によって基板の表面から材料を除去する。相当の力が結晶の中に印加されるため、大量の材料が取り除かれるときに、さらなる破壊または初期の動作による既存の破壊のさらなる伝搬を生じる。その結果、深い破面を有する粗い一番上の表面を生じる。
【0015】
研磨スラリは一般に水性であり、CaFは水中でわずかであるが有限の溶解度を有する。ある時点で、十分なCaFがスラリに溶解するようになり、研磨で除去された小さな粒子と共に、基板上に沈降する。したがって、ボイドを充填し、滑らかな一番上の表面を形成する。ガラスまたはシリカの研磨の場合には、粒子を含むこの滑らかな最上層は、ビールビー層として公知である。ガラスおよびシリカの場合には、きわめて小さいガラスまたはシリカが実際にスラリに溶解するが、これはCaF研磨には当てはまらない。CaFの場合には、研磨されるCaFの一番上の表面が相当滑らかに見えるが、これは単結晶材料ではなく、大部分は多結晶のCaFから構成される汚染層である。沈降層は準ビールビー層と呼んでもよく、スラリからの種々の汚染物質、特に多結晶のCaFと共に金属不純物を含む。図1は、マイクロラフネス(RMS)の一番上の表面20、SSD領域24、一番上の表面20とSSD領域24との間に位置する沈降層22(準ビールビー層)、非分散単結晶領域28、SSD領域24と非分散領域28との間に位置する結晶転移領域26を有する典型的な研磨されたCaF素子の概略のモルフォロジを示す。
【0016】
本発明によれば、研磨された光学素子の表面における準ビールビー層は、水洗浄、イオンエッチング、超音波洗浄または他の適切な溶剤による溶解などのエッチング方法を用いた処理によって除去される。CaFの場合には、エッチングは、脱イオン水を用いて容易に行われる。図2は、準ビールビー層30およびSSD構造32を明らかにするために、脱イオン水に半分沈められている研磨されたCaFの表面を示す。一旦、準ビールビー層が除去されると、素子の「研磨およびコーティングの施された」表面は特許文献1に教示されているような選択された材料または200nm未満の波長で動作する素子のコーティングに有用であることが当業界では周知の他のコーティング材料を用いてコーティングされ、特許文献1に記載された耐久性の向上した光学素子が作製される。
【0017】
CaF素子の準ビールビー層は相当多孔性であり、相当水溶性であり、200nm未満の波長に吸収されることが分かっている。図3は、室温の脱イオン水中における研磨されたCaF結晶の準ビールビー層の測定された溶解速度を示す。限界では、研磨された表面の溶解速度は、1.5nm/時で測定された劈開された表面の溶解速度に近づく。溶解速度は、材料、この場合には、脱イオン水処理を受けるCaFの表面の表面積に比例する。準ビールビー層の溶解により、表面構造(SSD)が明らかになる。さまざまな深さに対する準ビールビー層の脱イオン水除去速度R(z)は、式(1)によって表される。
【数1】

【0018】
式中、Rは劈開される試料から測定されたCaFのバルク溶解速度である。光学研磨から生じる沈降層の表面の影響は、RおよびDによって表される。Rは表面(すなわちz=0)における溶解速度であり、Dは沈降層の特性深さである。RおよびDは、実験データをフィッティングすることによって、決定することができる。上述したように、式(1)は、有効表面積または気孔率分布に比例する。
【0019】
図3に示された実験の結果は、室温で得た。正確な溶解速度分布を得るために、除去される深さの決定のための基準として研磨された表面を用いた。その結果、測定された除去速度は、式(2)によって記載したように、全体的な除去領域に関する平均速度または中間速度である。式(1)および(2)を用いて得られた結果が、図3に示されている。
【数2】

【0020】
結晶の表面から除去されるCaFの微結晶および研磨剤の入り込む場所(refuge)であることに加えて、準ビールビー層はまた、スラリからの不純物による汚染物質の入り込む場所でもある。これは、ToF−SIMS分析(飛行時間型二次イオン質量分析)によって検証された。このような不純物は、レーザシステムにおいて用いられるとき、素子による吸収を生じることになる。研磨されたCaFの表面における吸収は、非特許文献3によって248nmで報告されており、200nmの準波長で最悪となる。図4は、すべての研磨された表面における研磨手順によって生じた準ビールビー層を除去するために、本発明による脱イオン水による処理前および処理後の十分に研磨されたCaF結晶の測定された透過率を示す。透過率は150〜248nmの範囲で測定した。準ビールビー層が除去された後、透過率が増大したことから、準ビールビー層内の吸収が実証された。波長が減少するとき、脱イオン水によってエッチングされた試料とエッチングされていない試料との間の差は大きくなったことから、準ビールビー層は、波長が減少するとき、透過特性に著しい影響を及ぼすことが実証されたことに特に留意すべきである。図5aは、脱イオン水による処理前の研磨されたCaF結晶表面を示し、図5bは、脱イオン水処理後の結晶表面を示す。脱イオン水処理は準ビールビー層を除去し、SSDを明らかにする。
【0021】
本発明の方法は、当業界では周知の任意の方法、たとえば、ブリッジマン−ストックバーガー法によって成長された金属フッ化物単結晶と共に用いることができる。単結晶の成長および/またはアニーリングの方法はまた、特許文献2、特許文献3、特許文献4、特許文献5、特許文献6および特許文献7、および当業者には周知の他の特許および技術文献に記載されている。さらに、本発明の方法は、任意の配向を有する結晶、たとえば<100>、<110>および<111>の配向の結晶と共に用いることができる。一旦、単結晶が成長すると、当業界では周知の方法、たとえば、適切な形状に結晶を切削するためのダイヤモンド刃、最終的な形状にするためのダイヤモンド研削粉またはホイールを用いて切削および研磨し、次に、当業界では周知の任意の研磨方法、たとえば研磨剤として酸化アルミニウムを用いることによって表面を研磨した。研削および研磨は、SSDを最小限に抑えるような態様で実行するべきであるが、きわめて滑らかな一番上の表面の表面粗さ(TSR)を得ることにこだわる必要はなかった。光学材料がCaFである場合には、研磨ステップによって生じる沈降層を完全に溶解または除去することができるほど十分な時間の間、その研磨された表面を脱イオン水に浸漬し、または他の方法でエッチングした(たとえばイオンエッチングを用いてエッチングした)。水によるエッチングは、用いられる研磨方法に応じて、5〜120分の範囲の時間、室温で脱イオン水中に表面を浸漬することによって、またはシャワーヘッドまたは台所のシンクの水噴射装置から得られるような脱イオン水の緩やかな流れによって表面に噴射することによって、行うことができる。浸漬は、好ましい方法である。光学材料がフッ化バリウムまたはフッ化マグネシウムである場合には、水中ではこれらの材料の溶解度が低いことから、イオンエッチングまたは適切な溶剤を用いた類似の技術が、光学素子から準ビールビー層を除去するのに好ましい方法である。
【0022】
光学素子の表面に脱イオン水によるエッチングまたは他の方法によるエッチングを施した後、表面は材料の真空蒸着前に用いられる一般に許容される方法の1つを用いて洗浄した。そのような方法は、アセトンまたはアルコールドラグワイプ、フィルタリングされた空気または乾燥窒素を用いたドリップ乾燥またはブロー乾燥を伴うアルコールまたはアセトンによるすすぎなどが挙げられるが、これらに限定されるわけではない。次のステップにおいて、特許文献1に記載したような方法または250nm未満の波長で動作する光学素子と共に用いるのに有用である当業界で周知の他の方法で、密度の高いコーティング層を光学素子の洗浄された表面上に蒸着した。そのようなコーティング材料は、高純度二酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンオキシナイトライド、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、フッ素ドープ高純度シリカおよびたとえばアルミニウムなどのフッ素以外の物質をドープした高純度シリカが挙げられる。高純度酸化物材料が好ましく、フッ素ドープ高純度シリカが特に好ましいコーティング剤である。コーティング層は、10〜10,000nmの範囲の厚さに蒸着した。蒸着されたフィルムは、マイクロラフネスの幾分大きいエッチングされたMgFの表面またはBaFの表面または脱イオン水でエッチングされたCaFの表面を複製する。次に、蒸着されたコーティングは、所望の滑らかさを実現するために、光学的に研磨した。CaFの場合には、元の研磨された素子の0.3nmのマイクロラフネスが再度実現されたが、今度は準ビールビー層によって収容された汚染物質はない。通常、金属フッ化物の基板と蒸着されたフィルムとの間にわずかな屈折率の差があるため、この最終的な研磨ステップにおいてコーティング厚さの除去量を制御することに注意を払う必要がある。残る蒸着の所望の厚さは一般に、使用する波長に関して4分の1波長の光学厚さの整数倍である。
【0023】
本発明の実施形態において、上述したように、準ビールビー層を除去し、前述の段落で記載したように、同一のコーティング材料を用いて素子をコーティングする。しかし、コーティングが施された後、素子は光学リソグラフィシステムおよび特にリソグラフィシステムのレーザ部分においてそのまま用いられる。
【0024】
図6は、本発明のコーティングされた単結晶のモルフォロジを示す。これらの結晶は、化学式MFの金属フッ化物の単結晶上に、滑らかで透明な表面を形成するために、本発明の方法によって作製される。尚、Mは、カルシウム、バリウム、マグネシウムまたはストロンチウムまたは任意の比率のこれらのいずれかの混合物である。準ビールビー層は、CaFの場合には脱イオン水によるエッチングまたはBaFおよびMgFの場合にはイオンエッチングなどのエッチング方法を用いて最初に除去した。続いて、選択したコーティング材料の厚い層を、エッチングされた光学素子の表面上に蒸着した。蒸着された酸化物コーティング40は、下にある結晶のTSRを複製する。次に、蒸着された層を、AFM(原子間力顕微鏡)によって測定したとき、一般に0.1〜0.4nmの範囲でマイクロラフネスの表面粗さまで光学的に研磨するか、またはイオンエッチングする。真空蒸着層44が、図1に示された準ビールビー層20に取って代わる。図6において、数字46はSSDを有する下にある結晶を表し、数字48は下にあるバルク結晶に関連する。
【0025】
最後に、そのような位置では電界強度が増大するため、光学表面におけるレーザ損傷は、表面の鋭い縁でよりたやすく始まることが知られている。本発明の別の実施形態は、蒸着されたフィルム表面(研磨されていても研磨されていなくてもよい)から十分な量をイオンエッチングすることである。このようなエッチングにより、任意の表面の汚染物質を除去し、さらに表面の微細構造をアニーリング(回復)する。イオンエッチング後のこのようなアニーリング効果は、表面のAFMによる測定に基づくパワースペクトル密度(PSD)の計算によって確認された。
【0026】
本発明は一般に記載され、例によって詳細に記載されている。当業者は、本発明が開示された特定の実施形態に限定される必要はないことを理解されたい。本発明の範囲内で用いられると考えられる現在周知の等価な構成部材または開発される構成部材をはじめとして、以下の特許請求の範囲またはその等価物によって定義されるように、本発明の範囲を逸脱することなく修正および改変を行ってもよい。したがって、他の方法による変更が本発明の範囲を逸脱しない限り、変更は本願明細書に包含されるものと見なすべきである。
【図面の簡単な説明】
【0027】
【図1】研磨されたCaFの表面のモルフォロジを示す。
【図2】研磨されたCaFの沈降層および脱イオン水が明らかにしたSSDを示す。
【図3】脱イオン水を用いて研磨されたCaFの挙動を示す。
【図4】脱イオン水を用いた洗浄前および洗浄後の研磨されたCaF結晶の測定された透過率を示す。
【図5a】脱イオン水を用いた洗浄前のビールビー層がある状態の研磨されたCaFの表面を示す。
【図5b】脱イオン水を用いた洗浄後のビールビー層が除去された状態の研磨されたCaFの表面を示す。
【図6】水洗浄を行い、本発明によるコーティング材料を蒸着した後のCaF結晶のモルフォロジを示す。
【符号の説明】
【0028】
20 マイクロラフネスの一番上の表面
22 沈降層(準ビールビー層)
24 SSD領域
26 結晶転移領域
28 非分散単結晶領域
30 準ビールビー層
32 SSD構造
40 蒸着された酸化物コーティング
44 真空蒸着層
46 SSDを有する下にある結晶
48 下にあるバルク結晶

【特許請求の範囲】
【請求項1】
250nm未満の電磁放射線を用いる光学リソグラフィシステムにおいて用いるのに適したコーティングされたアルカリ土類金属フッ化物単結晶の光学素子であって、前記光学素子は、前記電磁放射線が入射および出射する前記素子の表面上に選択されたコーティング材料を有する成形された金属フッ化物単結晶を具備し、
前記コーティングが、前記コーティング材料の塗布前に前記表面にある準ビールビー層が実質的に除去された表面上にあることを特徴とする光学素子。
【請求項2】
前記アルカリ土類金属フッ化物が、フッ化カルシウム、フッ化バリウム、フッ化マグネシウムおよびフッ化ストロンチウム、前述の金属フッ化物のいずれかの混合物からなる群から選択されることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項3】
前記コーティング材料が、高純度二酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンオキシナイトライド、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、フッ素ドープ高純度シリカおよびアルミニウムドープ高純度シリカからなる群から選択されることを特徴とする請求項2に記載の光学素子。
【請求項4】
前記金属フッ化物がフッ化カルシウムであり、前記コーティング材料がフッ素ドープ高純度溶融シリカであることを特徴とする請求項3に記載の光学素子。
【請求項5】
前記コーティングが、10〜10,000ナノメートルの範囲の厚さに塗布されたことを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項6】
前記光学素子は、前記電磁放射線が前記素子に入射および出射する前記表面上に蒸着されたフッ素ドープシリカのコーティングを有するフッ化カルシウムの素子であることを特徴とする請求項1に記載の光学素子。
【請求項7】
250nm未満の電磁放射線を用いる光学リソグラフィシステムにおいて用いるのに適したアルカリ土類金属フッ化物単結晶の光学素子を作製する方法であって、前記方法が、
アルカリ土類金属フッ化物単結晶を得るステップと、
必要に応じて、切削ステップおよび研削ステップを用いて前記単結晶を光学素子に成形するステップと、
前記250nm未満の電磁放射線が入射および出射する前記成形素子の前記表面を研磨するステップと、
前記研磨から生じる前記準ビールビー層を除去するために、前記研磨された表面をエッチングするステップであって、前記エッチングが前のステップにおいて研磨された前記光学素子の表面の脱イオン水による洗浄またはイオンエッチングによって行われるステップと、
前記エッチングされた表面を選択された光学材料によってコーティングするステップと、を有してなり、
前記アルカリ土類金属がカルシウム、バリウム、マグネシウムおよびストロンチウムまたは前述のいずれかの混合物からなる群から選択されることを特徴とする方法。
【請求項8】
前記アルカリ土類金属がカルシウム、もしくはバリウム、マグネシウムまたはストロンチウムの少なくとも1種類とカルシウムの混合物であるとき、前記混合物におけるカルシウムの量は、他のアルカリ土類金属の総量より大きいという条件で、前記エッチングが前記準ビールビー層を除去するために脱イオン水による前記研磨された表面の洗浄によって行われることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項9】
前記アルカリ土類金属がバリウム、マグネシウムまたはストロンチウム、または前述の混合物、もしくはカルシウムとバリウム、マグネシウムまたはストロンチウムの少なくとも1種類の混合物であるとき、前記準ビールビー層を除去するための前記エッチングをイオンエッチングによって行い、
前記混合物がカルシウムとバリウム、マグネシウムまたはストロンチウムの少なくとも1種類の混合物であるとき、カルシウムの比率が存在する他のアルカリ土類金属の比率の和より小さいという条件であることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項10】
前記コーティング材料を、蒸着法、プラズマ支援型蒸着法、化学気相成長法、プラズマ化学気相成長法、スパッタ蒸着法および当業界では周知の他のプラズマ型蒸着法によって、前記光学素子の前記表面上に蒸着させることを特徴とする請求項7に記載の方法。
【請求項11】
前記エッチングされた素子をコーティングするステップは、高純度二酸化ケイ素、窒化ケイ素、シリコンオキシナイトライド、フッ化マグネシウム、酸化アルミニウム、フッ素ドープ高純度シリカおよびアルミニウムドープ高純度シリカからなる群から選択される材料によってコーティングするステップを含むことを特徴とする請求項7に記載の方法。


【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5a】
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【図5b】
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【図6】
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【公開番号】特開2006−72364(P2006−72364A)
【公開日】平成18年3月16日(2006.3.16)
【国際特許分類】
【外国語出願】
【出願番号】特願2005−251096(P2005−251096)
【出願日】平成17年8月31日(2005.8.31)
【出願人】(397068274)コーニング インコーポレイテッド (1,222)
【Fターム(参考)】