説明

金属フープ条の洗浄方法及び洗浄装置

【課題】環境負荷を軽減でき、メンテナンス性を向上でき、安全性が高く、かつ、低コストで必要十分に金属フープ条を洗浄できる金属フープ条の洗浄方法及び洗浄装置を提供する。
【解決手段】送り出しリール3から連続的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリール6に巻き取られる金属フープ条2の洗浄方法において、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し、このアルカリイオン水を貯留タンク10に貯留し、この貯留タンク10からのアルカリイオン水で前記送り出しリール3と前記巻き取りリール6の間の金属フープ条2を洗浄し、この洗浄に使用したアルカリイオン水から油を分離除去し、この油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、このアルカリイオン水をpH調整タンク13内に収容して大気放置することにより排水のpH値を下げるものである。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、送り出しリールから連続的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条の洗浄方法及び洗浄装置に関する。
【背景技術】
【0002】
従来より金属フープ条を洗浄するとき使用される洗浄液としては、炭化水素系洗剤、界面活性剤を含むアルカリ水溶性洗浄剤などが代表的であったが、洗浄力、安全性、環境負荷、経済性の面において一長一短があった。これら洗浄液の特徴を表1(各種洗浄液の比較)に示す。
【0003】
【表1】

【0004】
近年の環境物質に対する規制の強化に伴い、従来から使用されてきた有機溶剤系の洗浄剤の規制はもちろんのこと、VOC問題により一般的に普及している炭化水素系洗剤に関してもその使用に制限が出てきている。また、アルカリ水溶性洗浄剤についても、上述の洗浄剤と比較すると安全性、環境負荷の面では有利なものの、使用上の問題点も多く、特に洗浄液が固形化する特性による洗浄装置のメンテナンス性の悪化や、固形物による目詰まりの発生、洗浄対象物に液を十分に供給できないなどの問題があった。また、アルカリ廃液の処理についても、廃液処理に対する設備投資や廃液処理の外注委託等に伴うコストの問題や、アルカリ廃液を中和する為に取り扱う劇毒物への安全対策など、運用面での問題も多く存在する。
【0005】
その他の洗浄液についても洗浄能力や、液自体のコスト、廃液処理へのコストから、金属フープ条の洗浄への適用例は少なく、その実用性も乏しい。
【0006】
【特許文献1】特開2006−2219号公報
【特許文献2】特開2001−89879号公報
【特許文献3】特開2007−50373号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0007】
ところで、アルカリイオン水は、上述の洗浄液では問題がある安全性、環境負荷、経済性に特長を有しており、表1はそれらの問題を解決しうることを示している。しかしながら、これまでのアルカリイオン水の適用例は、プレス部品の洗浄や、バッチ処理による洗浄がほとんどであり、上述の問題解決への有効性を示す適用事例はなかった。これは、アルカリイオン水は、他の洗浄液と比較すると洗浄能力、乾燥性が若干劣るものの、プレス部品やバッチ洗浄では、洗浄能力は、従来の知見の応用の範囲で問題にはならなかったのに対し、洗浄槽に金属フープ条を連続的に通過させて洗浄するケースでは、槽内に流入する油分及び汚れ量が連続的に増加することとなり、従来の知見では所望の洗浄力が得られないことに起因していた。
【0008】
そこで、本発明の目的は、上記課題を解決し、環境負荷を軽減でき、メンテナンス性を向上でき、安全性が高く、かつ、低コストで必要十分に金属フープ条を洗浄できる金属フープ条の洗浄方法及び洗浄装置を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために本発明は、送り出しリールから連続的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条の洗浄方法において、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し、このアルカリイオン水を貯留タンクに貯留し、この貯留タンクからのアルカリイオン水で前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄し、この洗浄に使用したアルカリイオン水から油を分離除去し、この油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、このアルカリイオン水をpH調整タンク内に収容して大気放置することにより排水のpH値を下げるものである。
【0010】
前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄するとき、金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄したのち、金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとよい。
【0011】
前記金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄するとき、超音波により油の分離を促進すると共に、アルカリイオン水に水流を発生させて油の再付着を防止するとよい。
【0012】
前記金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.4MPa以上、シャワー流量を50L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃以上にするとよい。
【0013】
或いは、前記金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.1MPa以上、シャワー流量を10L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を80℃以上にするとよい。
【0014】
また、送り出しリールから連側的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条の洗浄装置において、所定のpH値のアルカリイオン水を生成するアルカリイオン水生成装置と、このアルカリイオン水生成装置から供給されるアルカリイオン水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクから供給されるアルカリイオン水を用いて前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄する洗浄槽と、この洗浄槽で使用されたアルカリイオン水の少なくとも一部を取り出し、このアルカリイオン水に混合された油を分離除去する油水分離装置と、この油水分離装置で油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、排水を大気放置によりpH値を下げるように調整するpH調整タンクとを備えたものである。
【0015】
前記洗浄槽は、前記金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄する第一洗浄槽と、この第一洗浄槽で洗浄された金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄する第二洗浄槽とからなるとよい。
【0016】
前記第一洗浄槽は、前記金属フープ条に付着した油の分離を促進するための超音波発生装置と、油の再付着を防止するための水流生成装置とを備えるとよい。
【0017】
前記第二洗浄槽は、そのシャワー圧力が0.4MPa以上、シャワー流量が50L/min以上であり、かつ、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度が60℃以上に設定されているとよい。
【0018】
前記第二洗浄槽は、そのシャワー圧力が0.1MPa以上、シャワー流量が10L/min以上であり、かつ、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度が80℃以上に設定されているとよい。
【発明の効果】
【0019】
本発明によれば、環境負荷を軽減でき、メンテナンス性を向上でき、安全性が高く、かつ、低コストで必要十分に金属フープ条を洗浄できる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0020】
本発明の好適実施の形態を添付図面を用いて説明する。
【0021】
図1に金属フープ条の洗浄装置の構成図を示し、図2に洗浄装置を有するクラッド材製造ラインの説明図を示す。
【0022】
図2に示すように、クラッド材製造ライン1は、金属フープ条2を巻回する複数の送り出しリール3と、これら送り出しリール3から送り出される複数の金属フープ条2を重ねて圧延してクラッド材4を形成する圧延機5と、圧延機5で形成されたクラッド材4を巻き取る巻き取りリール6とを備えて構成されている。圧延機5の上流側には、金属フープ条2の表面の酸化膜、不純物などを除去するためのブラッシング装置7が配設されており、ブラッシング装置7の上流側には、金属フープ条2の表面に付着した油や汚れを洗浄するための洗浄装置8が配設されている。
【0023】
この洗浄装置8には、洗浄液にアルカリイオン水を用いる点、アルカリイオン水の洗浄効果が最大になるように浸漬洗浄とシャワー洗浄を組み合わせている点、環境負荷、メンテナンス性を考慮して油水分離装置、放流用pH調整槽を適切に設置している点等の特徴がある。
【0024】
図1に示すように、金属フープ条2の洗浄装置8は、所定のpH値のアルカリイオン水を生成するアルカリイオン水生成装置9と、アルカリイオン水生成装置9から供給されるアルカリイオン水を貯留する貯留タンク10と、貯留タンク10から供給されるアルカリイオン水を用いて送り出しリール3と巻き取りリール6の間の金属フープ条2を洗浄する洗浄槽11と、洗浄槽11で使用されたアルカリイオン水の少なくとも一部を取り出し、このアルカリイオン水に混合された油を分離除去する油水分離装置12と、油水分離装置12で油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、排水を大気放置によりpH値を下げるように調整するpH調整タンク13とを備えて構成されている。
【0025】
アルカリイオン水生成装置9は、陽極と陰極との間にイオン透過膜を有する電解槽(図示せず)からなり、pH値8〜11のアルカリイオン水を生成できるようになっている。また、pH値が高いほど洗浄効果も高くなることが知られているが、アルカリイオン水生成装置9は、pH10のアルカリイオン水を生成するように設定されている。
【0026】
貯留タンク10は、洗浄槽11に供給するアルカリイオン水を貯留するためのものであり、図示しないポンプを介して洗浄槽11に接続されている。
【0027】
図4に示すように、洗浄槽11は、金属フープ条2をアルカリイオン水に浸漬して洗浄する第一洗浄槽14と、第一洗浄槽14で洗浄された金属フープ条2にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄する第二洗浄槽15とからなる。
【0028】
第一洗浄槽14は、粗洗浄を行うものであり、送り出しリール3から巻き取りリール6に送られる金属フープ条2を浸漬するための浸漬槽16を備える。また、浸漬槽16には、金属フープ条2に付着した油の分離を促進するための超音波発生装置17と、水が停滞することに起因する油の再付着を防止するための水流生成装置18とが設けられている。超音波発生装置17は、浸漬槽16内のアルカリイオン水に超音波を当てることにより、アルカリイオン水を介して金属フープ条2を振動させるように形成されている。水流生成装置18は、浸漬槽16内にアルカリイオン水を噴出させるノズル19を備え、ポンプ圧力0.1MPa程度の圧力にて浸漬槽16内に水の流れを作り、油の再付着を防止するようになっている。
【0029】
第二洗浄槽15は、仕上洗浄を行うものであり、ポンプ20を用いてシャワー洗浄を行うように構成されている。シャワーの具体的な条件としては、シャワー圧力(金属フープ条2に当たるときの圧力)を0.4MPa以上、シャワー流量を50L/min以上、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃以上に設定する。これらの条件は、実験により求めたものである。実験は、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃、シャワー流量を50L/minに設定し、シャワー圧力を0.2MPa、0.4MPa、0.6MPaの3つの場合に異ならせたときの残留油分を測定することで行った。また、実験は洗浄時間30秒(一次洗浄(第一洗浄槽14による洗浄)15秒、二次洗浄(第二洗浄槽15による洗浄)15秒、合計30秒)で行い、最終工程にて、洗浄後熱風ブロアにより乾燥を行った。実験結果は表2(アルカリイオン水のシャワー圧力と洗浄度の関係)に示す通りである。表2中の洗浄度は、アルカリ水溶性洗浄剤を用いる従来の洗浄方法で洗浄した材料の残留油分を100とした場合の指数であり、100を超えていれば洗浄能力不足、100以下であれば洗浄能力十分と判定した。
【0030】
【表2】

【0031】
また、シャワー圧力、シャワー流量及びアルカリイオン水の温度は一般に高いほど洗浄効果が上がることが知られているため、アルカリイオン水の洗浄効果がアルカリ水溶性洗剤よりも高くなる条件、すなわち、シャワー圧力0.4MPa以上、シャワー流量50L/min以上、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度60℃以上に設定した。表3(アルカリイオン水のシャワー流量と、洗浄度の関係)に示すように、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃、シャワー圧力を0.4MPaに設定し、シャワー流量を10、30、50の3つの場合に異ならせたときの残留油分を測定する実験も行ったが、シャワー圧力が0.4MPa、シャワー流量が50L/min、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度が60℃のとき、十分な洗浄能力が得られる点で実験結果は同じであった。
【0032】
【表3】

【0033】
また、シャワーの条件は、シャワー圧力を0.1MPa以上、シャワー流量を10L/min以上、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を80℃以上に設定してもよい。これらの条件は、上述と同様の実験により求めた。実験は、シャワー圧力を0.1MPa、シャワー流量を10L/minに設定し、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃、70℃、80℃の3つの場合に異ならせたときの残留油分を測定することで行った。実験結果は表4(アルカリイオン水の温度と洗浄度の関係)に示す通りである。
【0034】
【表4】

【0035】
上述の各実験の結果を考察すると、アルカリイオン水温度80℃以上、シャワー圧力0.4MPa以上、シャワー流量50L/min以上のとき、より高い洗浄効果が得られると考えられる。
【0036】
図1に示すように、油水分離装置12は、洗浄とは別系統の配管(図示せず)で貯留タンク10に接続されており、貯留タンク10との間でアルカリイオン水を常時循環させるようになっている。油水分離装置12は、油・汚れを濾過するためのフィルターを有し、フィルターに貯留タンク10との間で循環されるアルカリイオン水を通過させることによりアルカリイオン水から油・汚れを除去するように形成されている。油水分離装置12と貯留タンク10を接続する配管には図示しないポンプが設けられており、アルカリイオン水を強制的に循環させるようになっている。
【0037】
pH調整タンク13は、油水分離装置12に接続されており、アルカリイオン水を収容して大気放置することによりアルカリイオン水のpH値を下げるように構成されている。pH調整タンク13にはpH測定器21が設けられており、pH調整タンク13内のアルカリイオン水を排水するとき、pH測定器21で測定されるpHが所定値を下回るまで大気放置したのち、排水するようになっている。また、pH調整タンク13には、アルカリイオン水をアルカリイオン水生成装置9に戻すための配管22が接続されており、洗浄を繰り返すことでpH値が下がったアルカリイオン水をアルカリイオン水生成装置9に再度供給することでアルカリイオン水を再生できるようになっている。
【0038】
また、図5に示すように、貯留タンク10には、pH測定器23が設けられており、このpH測定器23には、制御装置24が接続されている。制御装置24は、pH測定器23で測定されるpH値が所定のpH値から所定範囲を超えて低下したか否かを判別し、低下が所定範囲内であるとき、貯留タンク10と油水分離装置12との間のアルカリイオン水の循環を維持し、低下が所定範囲を超えているとき、油水分離装置12で油を除去した処理水をpH調整タンク13へ送ったのち、アルカリイオン水生成装置9に戻すように構成されている。なお、図5では、油水分離装置12から貯留タンク10にアルカリイオン水を戻す流路と油水分離装置12からpH調整タンク13にアルカリイオン水を流す流路とにそれぞれ切換弁25を設け、これら切換弁25を制御装置24で常に一方が開かれ、他方が閉じられるように開閉制御することでアルカリイオン水の流れを切り換えるものとしたが、これに限るものではない。例えば1つの三方切換弁で流路を切り換えるものとしてもよく、他の弁等で流路を切り換えるものとしてもよい。
【0039】
次に、金属フープ条2の洗浄方法について述べる。
【0040】
まず、アルカリイオン水生成装置9に工業用水を供給し、アルカリイオン水を生成する。工業用水にはミネラル分が含まれているため、イオン透過膜を介して通電することにより所定のpH値(pH10)のアルカリイオン水を生成できる。
【0041】
次に、アルカリイオン水生成装置9で生成したアルカリイオン水を貯留タンク10に貯留し、ここから、ポンプにより洗浄槽11に供給し、洗浄対象である金属フープ条2の洗浄を行う。具体的には、第一洗浄槽14と第二洗浄槽15のそれぞれにアルカリイオン水を供給し、第一洗浄槽14で超音波発生装置17からの超音波で振動されるアルカリイオン水に金属フープ条2を浸漬して洗浄したのち、第二洗浄槽15で金属フープ条2にアルカリイオン水のシャワーを吹き付けて洗浄する。このとき、一般的には、アルカリイオン水自体の界面活性力不足による油分剥離力の能力不足と油分の再付着が問題となるが、第二洗浄槽15で金属フープ条2にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けるとき、洗浄能力がアルカリ水溶性洗浄剤を用いた従来の洗浄方法を上回るようにシャワー圧力、シャワー流量、アルカリイオン水の温度を管理して洗浄するため、必要十分な洗浄度で金属フープ条2を洗浄することができる。
【0042】
金属フープ条2は、銅、銅合金、ニッケル、ニッケル合金、鉄またはステンレスを含む鉄合金、或いはアルミニウム、アルミニウム合金、チタンまたはチタン合金を含む塑性加工が可能な金属からなる。
【0043】
洗浄槽11内で金属フープ条2の洗浄を行ったアルカリイオン水は、再び洗浄装置8の貯留タンク10に戻される。貯留タンク10内のアルカリイオン水は、洗浄用の配管系とは別系統にて、油水分離装置12に常時循環され、油分・汚れの除去がなされる。金属フープ条は、その通板量(洗浄装置8を通過した量)を積算され、所定の通板量に達するまで、すなわち、アルカリイオン水が一定の油分または、汚染状態になるまで油水分離装置12に循環されるアルカリイオン水が繰り返し使用される。
【0044】
また、貯留タンク10内のアルカリイオン水は、常にpH測定器23により、pH値を測定され、pH値の低下が所定範囲内のとき、貯留タンク10と油水分離装置12との間でのアルカリイオン水の循環が維持され、pH値の低下が所定範囲を超えているとき、油水分離装置12で処理されたアルカリイオン水がpH調整タンク13へ送られたのち、再びアルカリイオン水生成装置9に供給され、再生される。
【0045】
このように、pH値が低下したアルカリイオン水をアルカリイオン水生成装置9に循環させて再生することにより、新たに必要となる水量を、洗浄装置8内での蒸発分と、材料からの持ち出し分のみにすることができる。また、硬度の高い工業用水からアルカリイオン水を生成する場合、水の硬度を低下させるために用いる食塩の消費が増加することとなるが、pH調整タンク13の水を再利用してアルカリイオン水を生成する場合、硬度を下げる必要がなく、アルカリイオン水生成の負荷も軽減できる。
【0046】
このように、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し、このアルカリイオン水を貯留タンク10に貯留し、この貯留タンク10からのアルカリイオン水で前記送り出しリール3と前記巻き取りリール6の間の金属フープ条2を洗浄し、この洗浄に使用したアルカリイオン水から油を分離除去し、この油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、このアルカリイオン水をpH調整タンク13内に収容して大気放置することにより排水のpH値を下げるものとしたため、アルカリ水溶性洗浄剤等の洗浄剤を用いる従来の洗浄方法より環境負荷を軽減でき、メンテナンス性を向上でき、安全性が高く、かつ、低コストで必要十分に金属フープ条2を洗浄できる。なお、アルカリ水溶性洗浄剤等の洗浄剤に代えてアルカリイオン水を用いることによる環境負荷の軽減と、メンテナンス性の向上を含む経済性向上の効果は、表5(本発明の洗浄装置の効果)に示す通りである。
【0047】
【表5】

【0048】
また、金属フープ条2をアルカリイオン水に浸漬して洗浄したのち、金属フープ条2にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するため、金属フープ条2に付着した油や汚れを確実に除去できる。
【0049】
そして、金属フープ条2をアルカリイオン水に浸漬して洗浄するとき、超音波により油の分離を促進すると共に、アルカリイオン水に水流を発生させて油の再付着を防止するため、金属フープ条2から油や汚れを更に確実に除去できる。
【0050】
金属フープ条2にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.4MPa以上、シャワー流量を50L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃以上にするため、金属フープ条2に付着した油や汚れを確実かつ効率よく除去できる。
【0051】
また、金属フープ条2にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.1MPa以上、シャワー流量を10L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を80℃以上にしても、金属フープ条2に付着した油や汚れを確実かつ効率よく除去できる。
【0052】
なお、クラッド材製造ライン1に配設される洗浄装置8について述べたが、これに限るものではない。送り出しリールから連続的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条全般の洗浄に上述の洗浄装置8を用いることができる。例えば、図3に示すように、送り出しリール30から送り出されるクラッド材からなる金属フープ条31の表面に印刷装置32にて印刷を施したのち、金属フープ条31を巻き取りリール33で巻き取るクラッド材表面印刷ライン34に上述の洗浄装置8と同様の洗浄装置35を適用してもよい。
【図面の簡単な説明】
【0053】
【図1】本発明の好適実施の形態を示す洗浄装置の構成図である。
【図2】クラッド材製造ラインの説明図である。
【図3】クラッド材表面印刷ラインの説明図である。
【図4】図2の要部拡大図である。
【図5】図1の要部拡大図である。
【符号の説明】
【0054】
3 送り出しリール
6 巻き取りリール
8 洗浄装置
9 アルカリイオン水生成装置
10 貯留タンク
11 洗浄槽
12 油水分離装置
13 pH調整タンク
14 第一洗浄槽
15 第二洗浄槽
17 超音波発生装置
18 水流生成装置

【特許請求の範囲】
【請求項1】
送り出しリールから連続的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条の洗浄方法において、所定のpH値のアルカリイオン水を生成し、このアルカリイオン水を貯留タンクに貯留し、この貯留タンクからのアルカリイオン水で前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄し、この洗浄に使用したアルカリイオン水から油を分離除去し、この油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、このアルカリイオン水をpH調整タンク内に収容して大気放置することにより排水のpH値を下げることを特徴とする金属フープ条の洗浄方法。
【請求項2】
前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄するとき、金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄したのち、金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄することを特徴とする請求項1に記載の金属フープ条の洗浄方法。
【請求項3】
前記金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄するとき、超音波により油の分離を促進すると共に、アルカリイオン水に水流を発生させて油の再付着を防止することを特徴とする請求項2に記載の金属フープ条の洗浄方法。
【請求項4】
前記金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.4MPa以上、シャワー流量を50L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を60℃以上にすることを特徴とする請求項2又は3記載の金属フープ条の洗浄方法。
【請求項5】
前記金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄するとき、そのシャワー圧力を0.1MPa以上、シャワー流量を10L/min以上にすると共に、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度を80℃以上にすることを特徴とする請求項2又は3記載の金属フープ条の洗浄方法。
【請求項6】
送り出しリールから連側的に送り出され、所定の工程を経た後に巻き取りリールに巻き取られる金属フープ条の洗浄装置において、所定のpH値のアルカリイオン水を生成するアルカリイオン水生成装置と、このアルカリイオン水生成装置から供給されるアルカリイオン水を貯留する貯留タンクと、この貯留タンクから供給されるアルカリイオン水を用いて前記送り出しリールと前記巻き取りリールの間の金属フープ条を洗浄する洗浄槽と、この洗浄槽で使用されたアルカリイオン水の少なくとも一部を取り出し、このアルカリイオン水に混合された油を分離除去する油水分離装置と、この油水分離装置で油を分離除去したアルカリイオン水を排水するとき、排水を大気放置によりpH値を下げるように調整するpH調整タンクとを備えたことを特徴とする金属フープ条の洗浄装置。
【請求項7】
前記洗浄槽は、前記金属フープ条をアルカリイオン水に浸漬して洗浄する第一洗浄槽と、この第一洗浄槽で洗浄された金属フープ条にアルカリイオン水からなるシャワーを吹き付けて洗浄する第二洗浄槽とからなることを特徴とする請求項6記載の金属フープ条の洗浄装置。
【請求項8】
前記第一洗浄槽は、前記金属フープ条に付着した油の分離を促進するための超音波発生装置と、油の再付着を防止するための水流生成装置とを備えることを特徴とする請求項7記載の金属フープ条の洗浄装置。
【請求項9】
前記第二洗浄槽は、そのシャワー圧力が0.4MPa以上、シャワー流量が50L/min以上であり、かつ、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度が60℃以上に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の金属フープ条の洗浄装置。
【請求項10】
前記第二洗浄槽は、そのシャワー圧力が0.1MPa以上、シャワー流量が10L/min以上であり、かつ、シャワーとして噴射するときのアルカリイオン水の温度が80℃以上に設定されていることを特徴とする請求項7に記載の金属フープ条の洗浄装置。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【公開番号】特開2009−106848(P2009−106848A)
【公開日】平成21年5月21日(2009.5.21)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−281536(P2007−281536)
【出願日】平成19年10月30日(2007.10.30)
【出願人】(000005120)日立電線株式会社 (3,358)
【Fターム(参考)】