説明

金属二重管の製造方法

【課題】内管および外管の降伏強度にかかわらず、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることができる金属二重管の製造方法を提供する。
【解決手段】加工用ダイスとしてRダイス2を用いる冷間引抜きによって、外管1bの内面に内管1aの外面が接してなる金属二重管1を製造する方法であって、Rダイス2のアプローチ部2aの曲率半径を10mm〜90mmとし、空引きにより縮径加工を行うことにより、内管1aおよび外管1bの界面に面圧を発生させる金属二重管の製造方法である。同様に、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いても、そのアプローチ部の両角を8°〜30°とし、肉厚加工により縮径加工を行い、さらに中拡げプラグにより内管の拡径加工を行うことにより、内管および前記外管の降伏強度にかかわらず、金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属二重管の製造方法に関する。さらに詳しくは、本発明は、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることができる金属二重管の製造方法に関する。
【0002】
なお、別に記載がない限り、本明細書における用語の定義は次のとおりである。
「面圧」:内管と外管の界面に発生する圧力であって、後述する算出式を用いた方法により測定することができる。
【背景技術】
【0003】
高速増殖炉プラントでは、原子炉内の冷却に用いた高温の液体金属ナトリウムを蒸気発生器に導入し、水と熱交換して蒸気を発生させる。この際、上記の蒸気発生器を構成する伝熱管には、内管と外管とを機械的に密着させた二重壁構造の管材(以下、二重管という)が用いられる。蒸気発生器を構成する伝熱管に二重管を用いるのは、次の2つの理由による。
【0004】
蒸気発生器内では、伝熱管の内部に水が通され、その外部に液体金属ナトリウムが通される。このとき、伝熱管に肉厚方向へ貫通する亀裂が発生した場合に、液体金属ナトリウムが水と接触すると爆発的な反応を起こすので、極めて危険である。
【0005】
一重壁で構成されるソリッド管材は、内外面のいずれか一方面に発生した表面欠陥が他方面に伝播して肉厚方向に貫通した亀裂を発生しやすい。一方、二重管は、内管と外管とが機械的に接合している構成であるから、壁面に発生した亀裂が他方の壁面に直ちに伝播し内外管両方の肉厚を貫通する亀裂を発生する恐れがない。このため、蒸気発生器を構成する伝熱管に耐亀裂性に優れる二重管が用いられる。
【0006】
また、蒸気発生器を構成する伝熱管に二重管を用いた場合、亀裂が内管または外管のいずれかに発生すると、亀裂に伴い漏洩した流体が外管と内管とのわずかな隙間を通って管端に滲み出す。この管端への漏洩流体を検出することにより、二重管の破損を初期段階で検知できることから、蒸気発生器を構成する伝熱管に二重管が用いられる。
【0007】
一方、二重管は伝熱管として用いられるので、熱伝導性が優れていることが求められる。内管と外管に隙間が生じると、隙間に入り込んだ雰囲気が熱交換に介在することになり、熱伝導性が大きく損なわれる。蒸気発生器における使用温度は、450℃〜500℃となるが、この温度域を含めて広範囲の温度域での二重管の内管と外管の密着性を確保する必要がある。二重管の密着性を確保する方法として、外管に縮径方向の残留応力または内管に拡径方向の残留応力を生じさることにより、二重管に面圧を発生させ、内管と外管を密着させる方法が知られている。
【0008】
二重管における内管と外管の密着性の確保に関し、特許文献1では、内管と外管の隙間を0.02mm以下になるよう空引きやプラグ引きにより縮径加工して二重管とした後、中拡げプラグにより二重管の内管を拡径する金属二重管の製造方法が提案されている。特許文献1で提案される二重管の製造方法では、中拡げプラグにより二重管の内管を拡管し、内管を塑性変形により拡径させるのに対し、外管は弾性変形の範囲内で変形させることにより、外管に縮径方向の残留応力を生じさせて密着性を確保するとしている。
【0009】
特許文献1に提案される二重管の製造方法では、空引きやプラグ引きによる縮径加工を行った後、別の工程で中拡げプラグにより拡径を行う必要があることから、工程の増加による生産性の悪化が問題となる。
【0010】
特許文献2では、外管よりも降伏強度が高い内管を用いることにより、面圧を2kgf/mm2以上にする金属二重管の製造方法が提案されている。この金属二重管の製造方法は、次のステップからなる:
(1)外管よりも降伏強度が高い内管を外管に挿入する。
(2)テーパーダイスにより内管と外管を空引きにより縮径加工する。
(3)テーパーダイスの出口で縮径加工を終えると、テーパーダイスにより内管と外管に付与されていた外力が取り除かれることから、内管および外管は拡径する。この際、降伏強度の高い内管が、外管よりも大きく拡径することにより、内管に拡径方向の残留応力を生じさせる。
【0011】
特許文献2で提案される金属二重管の製造方法では、内管の降伏強度が外管よりも高い必要があり、内管と外管の降伏強度が等しい場合や内管の降伏強度が外管よりも低い場合は、二重管に面圧は生じず、密着性を確保することができない。
【0012】
特許文献3では、テーパーダイスと2段以上の段を設けた段付きプラグを用いて、内管と外管をプラグ引きにより縮径加工した後、テーパーダイスの出口にてプラグに設けられた段により内管を塑性変形により拡径させる。これにより、外管に縮径方向の残留応力を生じさせて密着性を確保する金属二重管の製造方法が提案されている。
【0013】
特許文献3で提案される金属二重管の製造方法では、複数段を設けた段付きプラグを用いることから、プラグの引抜き位置合わせが難しく、段付きプラグの位置ズレにより所定の二重管が得られない。そのため、段付きプラグの位置調整を頻繁に精度よく行う必要があり、不合格品の増加やプラグの位置調整による生産性の悪化が問題となる。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0014】
【特許文献1】特開昭58−41611号公報
【特許文献2】特開平3−234314号公報
【特許文献3】特開昭60−9517号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0015】
前述の通り、従来の金属二重管の製造方法においては、内管と外管の界面に面圧を発生させるために、適用する方法によっては、内管の降伏強度を外管の降伏強度より大きくする必要があったり、段付きプラグの位置調整が難しいことから、作業性や生産効率を著しく悪化させる問題がある。
【0016】
本発明は、このような状況に鑑みてなされたものであり、冷間引抜きによって、得られる金属二重管の内管と外管に面圧を発生させることができる金属二重管の製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0017】
上記問題を解決するため、種々の試験を行い、鋭意検討を重ねた結果、加工用ダイスとしてRダイスを用いる冷間引抜きにより、また、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる冷間引抜きにより、得られる二重管に所定強度の面圧を発生させることができることを明らかにした。
【0018】
図1は、冷間引抜き加工に用いられる加工用ダイスの断面形状を示す図であり、(a)はRダイス、(b)はテーパーダイスを示す。同図(a)に示すRダイス2は、管材をダイス孔中心に案内するための中心に向かって内径が縮小するアプローチ部2aと、一定の内径を有し管材の加工形状を決定する出口側のベアリング部2bと、逃げ部2cとを備えている。Rダイスのアプローチ部の形状は、曲率半径Rで規定される。
【0019】
図1(b)に示すテーパーダイス3は、管材をダイス孔中心に案内するための中心に向かって内径が縮小するテーパー状のアプローチ部3aと、一定の内径を有し管材の加工形状を決定する出口側のベアリング部3bと、逃げ部3cとを備えている。テーパーダイスのアプローチ部の形状は、両角αで規定される。
【0020】
加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合は、アプローチ部2aの曲率半径Rと、得られる二重管に発生する面圧値との間に相関がある。そして、アプローチ部2aの曲率半径Rを10〜90mmとすることにより、得られる二重管において、一定以上の面圧を発生させ、密着性を確保できることを知見した。
【0021】
一方、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合には、縮径による肉厚加工後、内管に拡径加工を施すことにより面圧を発生させることができる。具体的には、テーパーダイスのアプローチ部3aの両角を8°〜30°とし、肉厚加工により縮径加工を行ってのち、内管の拡径加工を行うことが必要である。
【0022】
以上の知見に基づき本発明は完成され、下記の(I)ないし(III)に示す金属二重管の製造方法を要旨とする:
【0023】
(I)加工用ダイスとしてRダイスを用いる冷間引抜きによって、外管の内面に内管の外面が接してなる金属二重管を製造する方法であって、
前記Rダイスのアプローチ部の曲率半径を10mm〜90mmとし、空引きにより縮径加工を行うことにより、
得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることを特徴とする金属二重管の製造方法。
【0024】
(II)加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる冷間引抜きによって、外管の内面に内管の外面が接してなる金属二重管を製造する方法であって、
前記テーパーダイスのアプローチ部の両角を8°〜30°とし、肉厚加工により縮径加工を行い、さらに中拡げプラグにより前記内管の拡径加工を行うことにより、
前記内管および前記外管の降伏強度にかかわらず、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることを特徴とする金属二重管の製造方法。
【0025】
(III)上記(I)または(II)の製造方法では、前記面圧の値が、下記する算出法を用いた測定において、20MPa以上であるのが望ましい。
【0026】
本発明において、上記(II)で規定する「内管および外管の降伏強度にかかわらず」とは、内管の降伏強度が外管よりも高い場合に限らず、内管と外管の降伏強度が等しい場合および内管の降伏強度が外管よりも低い場合の組み合わせであっても、二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることを意味する。
【0027】
本発明において「面圧(MPa)」は、算出式を用いた方法により測定した値で規定する。この算出式を用いた二重管の面圧の測定方法は、次のステップからなる:
(1)二重管の内周面に歪みゲージを貼り付ける。
(2)後述する図2に示すように、外管の除去部を切削加工により除去する。
(3)除去により生じる内管の周方向および軸方向の歪みを測定し、下記の(a)式および(b)式より面圧を算出する。
【0028】
σc=E/(1−μ2)×(εc+μεa) ・・・ (a)
P=(b2−a2)/2b2×σc ・・・ (b)
ただし、面圧をP(MPa)、内管の円周方向の応力をσc、内管のヤング率をE(GPa)、内管のポアソン比をμ、内管の円周方向の歪みをεc、内管の軸方向の歪みをεa、内管の内径をa(mm)、および内管の外径をb(mm)とする。
【0029】
図2は、算出式を用いた金属二重管の面圧測定において、切削加工により除去する断面部分を示す図である。同図に示す、内管1aと外管1bとからなる二重管1において、外管1bの対向する除去部1cを切削加工により除去する。その後、内管1aに発生する歪みを測定し、面圧を測定する。
【発明の効果】
【0030】
本発明の金属二重管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)Rダイスまたはテーパーダイスを用いた冷間引抜きによって、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることができる。テーパーダイスを用いる場合には、縮径加工ののち内管の拡径加工を行うことにより、内管および外管の降伏強度にかかわらず、面圧を発生させることができる。
(2)蒸気発生器を構成する伝熱管に適用した場合、熱交換効率に優れるとともに、亀裂に伴う漏洩流体を初期段階で検知できるので、安全性に優れる。
【図面の簡単な説明】
【0031】
【図1】冷間引抜き加工に用いられる加工用ダイスの断面形状を示す図であり、(a)はRダイス、(b)はテーパーダイスを示す。
【図2】算出式を用いた金属二重管の面圧測定において、切削加工により除去する断面部分を示す図である。
【図3】本発明の金属二重管の製造方法であって、加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合を説明する断面図である。
【図4】本発明の金属二重管の製造方法であって、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合を説明する断面図である。
【図5】中拡げプラグのテーパー部の詳細断面図である。
【図6】Rダイスのアプローチ部の曲率半径と得られる金属二重管の面圧との関係を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0032】
以下に、本発明の金属二重管の製造方法を、加工用ダイスとしてRダイスを用いて冷間引抜する場合と、テーパーダイスを用いて冷間引抜する場合に分けて説明する。
【0033】
[加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合]
図3は、本発明の金属二重管の製造方法であって、加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合を説明する断面図である。同図に示すRダイス2は、管材をダイス孔中心に案内するための中心に向かって内径が縮小するアプローチ部2aと、一定の内径を有し管材の加工形状を決定する出口側のベアリング部2bと、逃げ部2cとを備えている。
【0034】
本発明の金属二重管の製造方法では、内管1aを挿入した外管1bを、Rダイス2を用いて冷間引抜きで空引きすることにより、外管1bの内面と内管1aの外面とが接する二重管を製造する。この際、本発明の金属二重管の製造方法では、Rダイス2のアプローチ部2aの曲率半径Rは10mm〜90mmとし、冷間引抜きで縮径加工を行う。
【0035】
二重管の密着性を確保するためには、二重管の面圧を20MPa以上とするのが望ましい。後述するように、蒸気発生器の使用温度においても充分な密着強度を確保するためである。
【0036】
Rダイス2を用いて冷間引抜きする場合、アプローチ部の曲率半径が10mm未満であると、引抜き加工の際にアプローチ部で急激に外管が塑性変形し減肉するので、外管の残留応力が増加し、置き割れが発生するおそれがある。一方、アプローチ部の曲率半径が90mmを超えると、外管の塑性変形が確保できず内管との密着強度が不足する。このため、得られる二重管の面圧は20MPa未満となることがある。
【0037】
本発明の金属二重管の製造方法は、上述の通り、Rダイスのアプローチ部の曲率半径を10mm〜90mmとし、空引きにより縮径加工を行うことにより、得られる二重管に面圧を発生させることができる。
【0038】
[加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合]
図4は、本発明の金属二重管の製造方法であって、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合を説明する断面図である。同図に示すように、加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合は、縮径加工を行うテーパーダイス3と、内管の拡径加工を行う中拡げプラグ4とを用いる。
【0039】
中拡げプラグ4は、図示されない固定端に保持された支持棒4dにより、加工位置に固定されている。テーパーダイス3は、管材をダイス孔中心に案内するための中心に向かって内径が縮小するテーパー状のアプローチ部3aと、一定の内径を有し管材の加工形状を決定する出口側のベアリング部3bと、逃げ部3cとを備えている。
【0040】
図5は、中拡げプラグのテーパー部の詳細断面図である。中拡げプラグ4は、管の仕上げ内径を規定する仕上げ部4aと、内径を拡大するテーパー部4bと、管の中拡げ寸法を決定する中拡げ部4cとを備えている。
【0041】
本発明の金属二重管の製造方法では、内管1aを挿入した外管1bを、テーパーダイス3を用いて肉厚加工を施しつつ冷間引抜きすることにより、外管1bの内面と内管1aの外面が接する金属二重管を製造する。この際、本発明の金属二重管の製造方法では、前記図4に示すテーパーダイス3のアプローチ部3aの両角αを8°〜30°とし、肉厚加工により縮径加工を行い、さらに中拡げプラグ4により内管の拡径加工を行う必要がある。
【0042】
本発明の金属二重管の製造方法において、肉厚加工により縮径加工を行った後、さらに中拡げプラグにより内管の拡径加工を行うのは、内管および外管の降伏強度にかかわらず、例えば、内管の降伏強度が外管よりも低い場合であっても、外管に縮径方向の残留応力を生じさせ、内管と外管の密着性を確保するためである。すなわち、中拡げプラグにより二重管の内管の拡径加工を行う際に、内管を塑性変形により拡径させ、外管は弾性変形の範囲内で変形させることにより、外管に縮径方向の残留応力を生じさせることができる。
【0043】
本発明の金属二重管の製造方法において、アプローチ部の両角αを8°〜30°とするのは、その理由は明確でないが、この範囲を外れると、後工程で内管に中拡げ加工を施しても、二重管の内管と外管の界面に面圧が発生しないことによる。
【0044】
[蒸気発生器に用いられる二重管の面圧]
通常、蒸気発生器の使用温度は450℃〜500℃とされる。密着強度が不充分な二重管をこの温度範囲で使用した場合は、時間経過とともに面圧が低下し、内管と外管の密着性が不十分となり熱伝導性が悪化するおそれがある。
【0045】
そのため、本発明の金属二重管の製造方法では、加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合およびテーパーダイスを用いる場合ともに、得られる二重管の面圧値が、前述した算出式を用いた測定において、20MPa以上であることが望ましい。これにより、蒸気発生器に最適な二重管を得ることができる。
【実施例】
【0046】
(実施例1)
[加工用ダイスとしてRダイスを用いる場合]
本発明の金属二重管の製造方法により、加工用ダイスとしてRダイスを用いて冷間引抜きにより二重管を作製し、得られた二重管の面圧を測定することにより、本発明の効果を検証した。
【0047】
[試験方法]
前記図3に示すRダイスを用いて、冷間引抜きの空引き加工により二重管を作製した。その条件は下記の通りである。
内管の仕様:外径15.7mm、肉厚1.6mm、材質JIS−S45C、
降伏強度406.8MPa
外管の仕様:外径20.4mm、肉厚1.9mm、材質JIS−S45C、
降伏強度406.8MPa
Rダイス :ベアリング部直径19mm、
アプローチ部の曲率半径R20mm、40mmおよび80mm
【0048】
[評価指標]
得られた二重管を、本発明例1(曲率半径R20mm)、本発明例2(曲率半径R40mm)、本発明例3(曲率半径R80mm)および比較例4(曲率半径R100mm)に区分し、前述した算出法により、二重管の内管と外管の界面に発生した面圧を測定した。その測定結果を表1に示す。
【0049】
【表1】

【0050】
[試験結果]
表1に示す結果より、本発明で規定するRダイス(アプローチ部の曲率半径R10mm〜80mm)を用いて空引き加工した本発明例1ないし本発明例3は、それぞれ面圧が51MPa、88MPaおよび29MPaであり、充分な密着強度を確保することができた。
一方、本発明で規定するRダイス以外を用いて空引き加工した比較例4は、面圧は7MPaに留まり、密着性が得られなかった。
【0051】
図6は、Rダイスのアプローチ部の曲率半径と得られる金属二重管の面圧との関係を示す図である。同図では、本発明例1ないし本発明例3を○、比較例4を△で示した。同図より、アプローチ部の曲率半径を10mm〜90mmにすることにより、得られる二重管の面圧値を30MPa以上にできることが確認できた。
【0052】
(実施例2)
[加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる場合]
加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いて冷間引抜きにより縮径加工を行い、さらに中拡げプラグにより内管の拡径加工を行うことにより二重管を作製し、得られた二重管の面圧を測定することにより、本発明の効果を検証した。
【0053】
[試験方法]
前記図4に示すテーパーダイスおよび前記図5に示す中拡げプラグを用いて、冷間引抜きの肉厚加工により縮径加工を行い二重管を作製した。その条件は下記の通りである。
内管の仕様:外径15.7mm、肉厚1.6mm、材質JIS−S45C、
降伏強度406.8MPa
外管の仕様:外径20.4mm、肉厚1.9mm、材質JIS−S45C、
降伏強度406.8MPa
テーパーダイス:ベアリング部直径19mm、両角α25°
中拡げプラグ:仕上げ部の直径12.14mm、テーパー部両角βが10°、
中拡げ部高さh0.1mm
【0054】
上記の条件で作製された二重管を本発明例5とした。これと対比するために、上記中拡げプラグに替えて、仕上げ部の直径12.14mmのプラグを用い、冷間引抜きの肉厚加工により縮径加工を行い、その後内管の拡径加工を行うことなく二重管を作製し比較例6とした。前述した算出法により、それぞれの二重管に発生した面圧を測定した。
【0055】
[試験結果]
縮径加工の後に中拡げプラグにより拡径加工を行った本発明例5では、得られた面圧は109MPaであり、充分な密着強度を確保することができた。一方、縮径加工の後に拡径加工を行わなかった比較例6は、その面圧を測定できなかった。
【0056】
上記の[試験方法]では、内管と外管との降伏強度が等しい場合を示したが、同じテーパーダイスおよび中拡げプラグを用い、下記する内管の降伏強度と外管の降伏強度との組み合わせも確認したが同様の密着性を確認することができた。この場合に、冷間引抜き前の内管と外管との熱処理条件(温度)を変更した。
組み合わせ1:内管;材質JIS−S45C(降伏強度406.8MPa)
外管;材質JIS−S45C(降伏強度506.8MPa)
組み合わせ2:内管;材質JIS−S45C(降伏強度506.8MPa)
外管;材質JIS−S45C(降伏強度406.8MPa)
したがって、本発明の二重管の製造方法では、後工程で内管の拡径加工を行うことにより、内管および外管の降伏強度にかかわらず、得られる二重管の密着性が確保できることを確認できた。
【産業上の利用可能性】
【0057】
本発明の金属二重管の製造方法は、下記の顕著な効果を有する。
(1)Rダイスまたはテーパーダイスを用いた冷間引抜きによって、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることができる。テーパーダイスを用いる場合には、内管および外管の降伏強度にかかわらず、面圧を発生させることができる。
(2)蒸気発生器を構成する伝熱管に適用した場合、熱交換効率に優れるとともに、亀裂に伴う漏洩流体を初期段階で検知できるので、安全性に優れる。
したがって、本発明の製造方法によれば、高速増殖炉プラントの蒸気発生器に用いる伝熱管に好適な金属二重管を提供できる。
【符号の説明】
【0058】
1.金属二重管、 1a.内管、 1b.外管、 1c.除去部、
2.Rダイス、 2a.アプローチ部、 2b.ベアリング部、 2c.逃げ部、
3.テーパーダイス、 3a.アプローチ部、 3b.ベアリング部、
3c.逃げ部、 4.中拡げプラグ、 4a.仕上げ部、 4b.テーパー部、
4c.中拡げ部、 4d.支持棒、 α.アプローチ部の両角、
β.テーパー部の両角、 h.中拡げ部高さ、 R.曲率半径

【特許請求の範囲】
【請求項1】
加工用ダイスとしてRダイスを用いる冷間引抜きによって、外管の内面に内管の外面が接してなる金属二重管を製造する方法であって、
前記Rダイスのアプローチ部の曲率半径を10mm〜90mmとし、空引きにより縮径加工を行うことにより、
得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることを特徴とする金属二重管の製造方法。
【請求項2】
加工用ダイスとしてテーパーダイスを用いる冷間引抜きによって、外管の内面に内管の外面が接してなる金属二重管を製造する方法であって、
前記テーパーダイスのアプローチ部の両角を8°〜30°とし、肉厚加工により縮径加工を行い、さらに中拡げプラグにより前記内管の拡径加工を行うことにより、
前記内管および前記外管の降伏強度にかかわらず、得られる金属二重管の内管と外管の界面に面圧を発生させることを特徴とする金属二重管の製造方法。
【請求項3】
前記面圧の値が、下記(a)、(b)で示す算出式を用いた測定において、20MPa以上であることを特徴とする請求項1または2に記載の金属二重管の製造方法。
σc=E/(1−μ2)×(εc+μεa) ・・・ (a)
P=(b2−a2)/2b2×σc ・・・ (b)
ただし、面圧をP(MPa)、内管の円周方向の応力をσc、内管のヤング率をE(GPa)、内管のポアソン比をμ、内管の円周方向の歪みをεc、内管の軸方向の歪みをεa、内管の内径をa(mm)、および内管の外径をb(mm)とする。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【公開番号】特開2011−73059(P2011−73059A)
【公開日】平成23年4月14日(2011.4.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−190581(P2010−190581)
【出願日】平成22年8月27日(2010.8.27)
【出願人】(000002118)住友金属工業株式会社 (2,544)
【Fターム(参考)】