説明

金属化フィルムコンデンサ

【課題】金属化フィルムコンデンサの耐湿性を向上させることを目的とする。
【解決手段】この目的を達成するため本発明の金属化フィルムコンデンサは、一対の金属化フィルム1、2の金属蒸着電極4a、4bのうち少なくとも一方は、メタリコン電極と接触する側の一端に、中央領域よりも厚く形成された低抵抗部13a、13bを備え、この低抵抗部13a、13bは、Al−Zn−Mg合金からなるものとした。これにより本発明は、低抵抗部の酸化を抑制でき、容量変化を抑制できる。そしてその結果、メタリコン電極との密着性を維持しつつ耐湿性を高めることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は各種電子機器、電気機器、産業機器、自動車等に使用され、特に、ハイブリッド自動車のモータ駆動用インバータ回路の平滑用、フィルタ用、スナバ用に最適な金属化フィルムコンデンサに関するものである。
【背景技術】
【0002】
近年、環境保護の観点から、あらゆる電気機器がインバータ回路で制御され、省エネルギー化、高効率化が進められている。中でも自動車業界においては、電気モータとエンジンで走行するハイブリッド車(以下、HEVと呼ぶ)が市場導入される等、地球環境に優しく、省エネルギー化、高効率化に関する技術の開発が活発化している。
【0003】
このようなHEV用の電気モータは使用電圧領域が数百ボルトと高いため、この電気モータに関連して使用されるコンデンサとして、高耐電圧で低損失の電気特性を有する金属化フィルムコンデンサが注目されており、更に市場におけるメンテナンスフリー化の要望からも極めて寿命が長い金属化フィルムコンデンサを採用する傾向が目立っている。
【0004】
そして、この金属化フィルムコンデンサは、一般に金属箔を電極に用いるものと、誘電体フィルム上に設けた蒸着金属を電極に用いるものとに大別される。中でも、蒸着金属を電極(以下、金属蒸着電極と呼ぶ)とする金属化フィルムコンデンサは、金属箔のものに比べて電極の占める体積が小さく、小型軽量化が図れる。また金属蒸着電極特有の自己回復機能(欠陥部周辺の金属蒸着電極が蒸発・飛散し、コンデンサの機能が回復する性能を意味し、一般にセルフヒーリング性と呼ばれる。)により絶縁破壊に対する信頼性が高いことから、従来から広く用いられているものである。金属蒸着電極は、薄いほど蒸発・飛散しやすく、セルフヒーリング性が良くなるため、耐電圧が高くなる。
【0005】
図8はこの種の従来の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図、図9(a)、(b)は同金属化フィルムコンデンサに使用される一対の金属化フィルムを示した平面図である。図8と図9に示すように、金属蒸着電極101aと金属蒸着電極101bはポリプロピレンフィルム等の誘電体フィルム102a、102bの片面上に一端の絶縁マージン103a、103bを除いてアルミニウムを蒸着することで形成されている。この金属蒸着電極101aと101bは、誘電体フィルム102a、102bの絶縁マージン103a、103bの反対側の端部において亜鉛を溶射することで形成されたメタリコン104a、104bと接続されており、この構成により外部に電極を引き出している。
【0006】
また、上記金属蒸着電極101a、101bは、容量を形成する中央領域(有効電極部)の幅Wの略中央部から絶縁マージン103a、103bに向かう側に、オイル転写により形成された金属蒸着電極を有しない非蒸着のスリット105a、105bにより複数の分割電極106a、106bに夫々区分され、かつ、有効電極部の幅Wの略中央部から絶縁マージン103a、103bと反対側でメタリコン104a、104bに近い側に位置する誘電体フィルム102a、102bの片面全体に蒸着された金属蒸着電極101a、101bにヒューズ107a、107bで並列接続しているものである。
【0007】
金属蒸着電極101a、101bは、それぞれメタリコン104a、104bと接触する側の端部に、厚膜の低抵抗部108a、108bを形成することによって、接続抵抗を低減できる。この低抵抗部108a、108bは、それぞれの金属蒸着電極101a、101bを形成した後、端部のみにさらにアルミニウムや亜鉛を蒸着することで形成できる。
【0008】
亜鉛を用いる場合は、低抵抗部の融点が下がり、メタリコン104a、104bとの密着性をより高めることができ、低抵抗かつ高信頼性の金属化フィルムコンデンサを実現できる。
【0009】
なお、この出願の発明に関連する先行技術文献情報としては、例えば、特許文献1、2が知られている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0010】
【特許文献1】国際公開第2011/055517号
【特許文献2】特開2005−015848号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0011】
金属化フィルムコンデンサの電極は非常に薄いため、水分により酸化劣化しやすい。したがって通常は樹脂外装を用いて水分の浸入を防ぎ、耐湿性能を確保している。
【0012】
近年、金属化フィルムコンデンサには、小型化が強く求められており、樹脂外装の厚みを薄くする取組みがなされている。特に、車両に搭載された金属化フィルムコンデンサは、その設置箇所によって過酷な高温高湿環境に晒されることが多く、また、高耐圧性を確保するため蒸着膜厚を小さくする必要がある。したがってより高い耐湿性能が求められる。
【0013】
そこで本発明は、金属化フィルムコンデンサの耐湿性を向上させることを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0014】
この課題を解決するために本発明は、低抵抗部がAl−Zn−Mg合金からなるものである。
【発明の効果】
【0015】
本発明による金属化フィルムコンデンサは、耐湿性を向上させることができる。
【0016】
その理由は、低抵抗部をAl−Zn−Mg合金で形成したことにより、酸化劣化を抑制でき、容量変化を抑制できるからである。
【0017】
以上より本発明は、メタリコンとの密着性を損なうことなく、耐湿性を高めることができる。
【図面の簡単な説明】
【0018】
【図1】本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図
【図2】(a)、(b)本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサに使用される金属化フィルムの構成を示した平面図
【図3】本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの製造方法を示す図
【図4】本発明の実施例における金属蒸着電極の低抵抗部の組成を示す図
【図5】本発明の実施例における金属蒸着電極の中央領域の組成を示す図
【図6】各金属蒸着電極の、充放電回数とtanδ変化率(%)との関係を示す図
【図7】金属蒸着電極の抵抗値を測定する方法を示す図
【図8】従来の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図
【図9】(a)、(b)従来の金属化フィルムコンデンサに使用される金属化フィルムの構成を示した平面図
【発明を実施するための形態】
【0019】
以下、図1〜図2を用いて、本発明の実施例における金属化フィルムコンデンサの構成について説明する。
【0020】
図1は本実施例の金属化フィルムコンデンサの構成を示した断面図であり、図2(a)、図2(b)は本発明の金属化フィルムコンデンサに用いられる一対の金属化フィルムの平面図である。
【0021】
図1において、第1の金属化フィルム1はP極用、第2の金属化フィルム2はN極用の金属化フィルムである。そして、これら第1の金属化フィルム1および第2の金属化フィルム2を一対として、重ね合わせ、これを複数ターン巻回したものを素子として金属化フィルムコンデンサを形成している。ここで、第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2は、外部電極取り出しのため、幅方向に1mmずらしている。
【0022】
図1に示すように、第1の金属化フィルム1は誘電体となるポリプロピレンからなるフィルム3aの片面上に金属蒸着電極4aが形成されている。端部には第2の金属化フィルム2と絶縁するために絶縁マージン5aが設けられている。ここで、絶縁マージン5aは、2mmとした。
【0023】
この金属蒸着電極4aはメタリコン6aと接続されて電極を引き出す。メタリコン6aは、例えば亜鉛溶射により形成でき、金属蒸着電極4aの端面に形成される。
【0024】
金属蒸着電極4aは、図2(a)に示すように、容量を形成する中央領域(有効電極部)の幅W方向における略中央から絶縁マージン5aに向かう側に、縦マージン7aおよび横マージン8aを形成されている。縦マージン7aと横マージン8aは、オイル転写により形成され、金属蒸着電極4aが蒸着されていない。これにより金属蒸着電極4aは、メタリコン6a側が大電極部9aとなり、絶縁マージン5a側が縦マージン7aおよび横マージン8aにより複数に区分けされた分割小電極部10aとなる。
【0025】
この分割小電極部10aは図2(a)に示されるように、大電極部9aとヒューズ11aにて電気的に並列に接続されており、また隣接する分割小電極部10a同士もヒューズ12aにて電気的に並列に接続されている。
【0026】
ここで、大電極部9aは図2(a)に示されるように、フィルム3aの片面に有効電極部の幅Wの略中央部からメタリコン6aにかけて形成されている。各分割小電極部10aの幅は有効電極部の幅Wの約1/4で、フィルム3aの片面に有効電極部の幅Wの略中央部から絶縁マージン5aにかけて形成されている。なお、この分割小電極部10aは有効電極部(幅W)略中央部から絶縁マージン5aにかけて2つ設けた構成としたが、これに限らず3つ以上設けた構成としてもよい。
【0027】
実使用時において、絶縁の欠陥部分で短絡が生じた場合には短絡のエネルギーで欠陥部分周辺の金属蒸着電極4aが蒸発・飛散して絶縁が復活する。この自己回復機能により、第1の金属化フィルム1、第2の金属化フィルム2間の一部が短絡しても金属化フィルムコンデンサの機能が回復する。また、分割小電極部10aの不具合により分割小電極部10aに大量の電流が流れた場合には、ヒューズ11a、あるいはヒューズ12aが飛散することで不具合の生じている部分の分割小電極部10aの電気的接続が切断され、金属化フィルムコンデンサの電流は正常な状態に戻る。
【0028】
第2の金属化フィルム2は、第1の金属化フィルム1と同様、図1に示されるように、誘電体となるポリプロピレンのフィルム3bの片面上に一端の絶縁マージン5bを除いて金属蒸着電極4bが形成されている。ただし、第2の金属化フィルム2と第1の金属化フィルム1とではメタリコンに接続される方向が異なり、第2の金属化フィルム2は、第1の金属化フィルム1が接続されたメタリコン6aと対向して配置されたメタリコン6bに接続されている。また、金属蒸着電極4bは、容量を形成する中央領域(有効電極部)の幅Wにおける略中央部から絶縁マージン5bに向かう側に、金属蒸着電極を有しない非蒸着の縦マージン7bおよび横マージン8bにより大電極部9bと複数の分割小電極部10bに区分されている。
【0029】
この分割小電極部10bは、図2(b)に示されるように第1の金属化フィルム1の分割小電極部10aと同様の構成となっており、大電極部9bとヒューズ11bにて並列接続され、また分割小電極部10b同士もヒューズ12bにて並列接続されている。分割小電極部10b、ヒューズ11b、12bを備えることによる効果も第1の金属化フィルム1と同様である。
【0030】
なお本実施例では、金属蒸着電極4a、4bを大電極部9a、9b、分割小電極部10a、10bに区分けしたが、区分けしない場合も、コンデンサとして機能する。
【0031】
また本実施例ではフィルム3a、3bとしてポリプロピレンフィルムを用いたが、これ以外にもポリエチレンテレフタレート、ポリエチレンナフタレート、ポリフェニルサルファイド、ポリスチレンなどを用いてもよい。
【0032】
本実施例では、金属蒸着電極4a、4bのうち少なくとも一方は、メタリコン電極6a、6bと接触する側の一端に、中央領域よりも厚く形成された低抵抗部13a、13bを備える。この低抵抗部13a、13bは、アルミニウム、亜鉛、およびマグネシウムからなる合金(以下Al−Zn−Mg合金という)からなる。
【0033】
このような金属蒸着電極4a、4bは、図3に示すように、真空蒸着装置内において、フィルム3a、3bを巻き取ったローラー14からフィルム3a、3bをドラム15に密着させながら移動させ、ローラー16に巻き取りながら、アルミニウム、亜鉛、マグネシウムをそれぞれ真空蒸着することで形成している。
【0034】
(実施例1)
実施例1の金属化フィルムコンデンサは金属蒸着電極4a、4bのいずれもAl−Zn−Mg合金からなる低抵抗部13a、13bを備えている。
【0035】
さらに金属蒸着電極4a、4bの組成は、アルミニウムとマグネシウムの合金(Al−Mg合金)である。なお、本実施例1の第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2は、同一の電極材料、誘電体材料(ポリプロピレンのフィルム)を用いて同一の製造方法から形成されるものであるため、下記に述べる本実施例1の金属化フィルムの特徴は第1の金属化フィルム1と第2の金属化フィルム2に共通するものである。
【0036】
ここでマグネシウムはアルミニウムよりも金属−酸素結合1molあたりのギブスの標準生成エネルギーが小さい。したがってマグネシウムは、真空度や酸素導入により蒸着膜表面に拡散させることができる。
【0037】
図4はX線光電子分光(XPS)分析結果から求めた、低抵抗部の表面からの深さ(距離)換算値(nm)と原子濃度(atom%)との関係を示す。また図5は金属蒸着電極の中央領域における表面からの深さ換算値(nm)と原子濃度(atom%)との関係を示す。深さ換算値は、同条件における二酸化ケイ素膜のスパッタレートとアルミニウムのスパッタレートの比較から換算した。
【0038】
この結果から本実施例1では低抵抗部はAl−Zn−Mg合金からなり、中央領域はAl−Mg合金からなることがわかる。またいずれも表層から深さ換算値で0nmより深く5nm以内の範囲にMgの原子濃度のピーク値が存在する。さらにいずれも表層にO原子が存在し、酸化皮膜が形成されていることが分かる。すなわち本実施例1では、低抵抗部の表層にはAl−Zn−Mg合金の酸化膜が形成され、中央領域の表層にはAl−Mg合金の酸化膜が形成されている。
【0039】
本実施例1では、図4に示す低抵抗部のMgの原子濃度は、平均すると図5に示す中央領域のMgの原子濃度よりも低いものとした。
【0040】
一方、比較のための金属化フィルムコンデンサは、低抵抗部がAlとZnからなり、中央領域はAlからなる金属蒸着電極を用いた。低抵抗部は、下層が中央領域と一体のAl層であり、このAl層上にZnを蒸着して形成したものである。
【0041】
本実施例1および比較例の金属化フィルムコンデンサを用いて耐湿試験および短時間耐電圧試験を行った。
【0042】
耐湿試験は、85℃/85%r.h.の高温高湿度の条件下で500Vの電圧を900時間印加し続けた後のコンデンサの容量変化率(%)を求めたものである。すなわち容量変化率は(電圧印加後のコンデンサ容量Ct−電圧印加前のコンデンサ容量C0)/C0を百分率(%)で示すものである。
【0043】
短時間耐電圧試験は、サンプルの金属化フィルムとレファレンスの金属化フィルムとを用い、100℃雰囲気下、所定時間ごとに一定電圧ずつ昇圧し、コンデンサの容量変化率が−5%になる電圧(耐電圧)を測定し、その電圧から耐電圧性を求めたものである。耐電圧の変化率は(サンプルの耐電圧Vt−レファレンスの耐電圧V0)/V0を百分率(%)で示すものである。レファレンスの金属化フィルムは、蒸着膜表面を酸化させずにアルミニウムを蒸着した金属化フィルムを用いた。
【0044】
【表1】

【0045】
【表2】

【0046】
上記(表1)は本実施例1における金属蒸着電極の酸化膜の膜厚み(nm)と耐湿試験における容量変化率(%)および短時間耐電圧試験における耐電圧変化率(%)との関係を示すものである。また(表2)は比較例の金属蒸着電極の酸化膜の膜厚み(nm)と耐湿試験における容量変化率(%)および短時間耐電圧試験における耐電圧変化率(%)との関係を示すものである。各酸化膜の膜厚みは、それぞれの金属蒸着電極の中央領域を走査型電子顕微鏡写真で断面観察し、酸素量と膜厚の関係を導出したものである。
【0047】
(表1)、(表2)から分かるように、実施例1では比較例と比べて酸化膜の膜厚みが小さくても容量変化を抑えることができ、耐湿性に優れている。また本実施例1では、酸化膜の膜厚みが0.4nm以上で容量変化率が−10%以上となり、特に高い耐湿性を有する。比較例で容量変化率を−10%以上にする場合、酸化膜を20nm以上に厚くする必要があるが、本実施例1では20nmより薄い酸化膜で耐湿性を高めることができる。
【0048】
また実施例1では、酸化膜の膜厚みが5nm以下で耐電圧変化率が−4%以上となり、特に高い耐電圧性を有する。また酸化膜の膜厚みが5nmを越えた範囲でも、比較例と比べて耐電圧性が優れている。
【0049】
以上より本実施例1では、酸化膜の膜厚みが20nmより小さい範囲で比較例よりも優れた耐湿性および耐電圧性を有する。また酸化膜の膜厚みが0.4nm以上5nm以下の範囲で容量変化率−10%以上、耐電圧変化率−4%以上となり、特に高い耐湿性および耐電圧性を有する。
【0050】
その理由を以下に説明する。
【0051】
一つ目の理由として、金属蒸着電極の中央領域をAl−Mg合金としたことが挙げられる。
【0052】
すなわちマグネシウムはアルミニウムよりも水との反応が速いため、フィルム中の水分と反応し、酸化膜を形成する。このため、フィルム中の水分が低減し、蒸着膜の酸化劣化が抑制される。また、一旦酸化膜が形成された後は、これ以上酸化が起こりにくくなるため、金属蒸着電極の絶縁化を抑制し、容量変化を低減できる。
【0053】
したがって、本実施例1のように金属蒸着電極をアルミニウムとマグネシウムの合金で形成することにより、吸湿時に酸化膜が形成され易く、容量変化を抑制し、耐湿性を高めることができる。
【0054】
またAl−Mg合金の酸化膜は薄くても高い耐湿性を有するため、金属蒸着電極の膜厚を小さくすることができ、セルフヒーリング性を高く保つことができる。
【0055】
以上より本実施例1は、耐電圧特性を保ちつつ、耐湿性を高めることができる。
【0056】
またマグネシウムはアルミニウムよりも水との反応性が高いため、マグネシウム単体の酸化膜(MgO膜)もAl23膜より高い耐湿性を有するが、アルミニウムとマグネシウムの合金からなる酸化膜(MgAl24膜)は、MgO膜のような潮解性がないため、吸湿しても耐湿性の低下が小さい。従って表面にMgAl24膜を形成することによって、より高い耐湿特性を実現できる。
【0057】
二つ目の理由として、低抵抗部をAl−Zn−Mg合金としたことが挙げられる。これにより低抵抗部全体の酸化劣化を抑制し、耐湿性の向上に寄与したと考えられる。
【0058】
ここで参考文献(表面技術,vol.57,No1,pp.84-89(2006))によると、イオン液体を用いた浴で銅板にZn−Mg合金めっき膜を形成する場合、Znめっきのみの場合と比較し、耐食性が向上することが開示されている。またMgを一定量(上記参考文献では2.5mol%)以上含有させると、Znのみの場合と比較して耐食性が約20倍に向上することが開示されている。
【0059】
以上より本実施例1では、低抵抗部をAl−Zn−Mg合金としたことにより、低抵抗部をAl−Zn合金あるいはZnで形成する場合と比較し、耐食性、すなわち耐湿性を高めることができたと考えられる。
【0060】
またメタリコン電極やケースの隙間から水が浸入した際、外部環境に近接する低抵抗部は特に反応し易い。したがって本実施例1のように低抵抗部の耐湿性を高めることは、金属化フィルムコンデンサ全体の耐湿性を向上させる上で非常に有用である。また本実施例1では、低抵抗部の表層に近い領域にMgを多く析出させたことにより、より効率よく酸化劣化を抑制できたと考えられる。
【0061】
なお、低抵抗部におけるMgの原子濃度は、中央領域のMgの原子濃度よりも低くすることが望ましい。低抵抗部のMgの原子濃度を過剰に高くすれば、メタリコン電極との耐電流性が低下するからである。
【0062】
また低抵抗部、金属蒸着電極中におけるMgの原子濃度を、5atom%以下とすることが好ましい。図6は、Al−Zn−Mg合金中におけるMgの原子濃度を5atom%、10atom%、15atom%とした場合の650V電圧下での充放電回数とtanδ変化率を、Alのみの場合と比較したものである。これによりMg濃度が5atom%の場合、Alのみの場合よりtanδ変化率が小さいのに対し、10atom%、15atom%の場合、tanδ変化率が著しく上昇することが分かる。
【0063】
さらに低抵抗部の幅(メタリコン電極と接する端面からの距離d)は、広すぎると信頼性が低下するため、適宜調整する必要がある。
【0064】
【表3】

【0065】
上記(表3)は、金属蒸着電極において抵抗値が5Ω/□以上となる距離(メタリコン電極と接する端面からの距離d)と信頼性試験の結果を示す。前記距離d)は、図7の番号18に示すとおり、低抵抗部13a(13b)を形成した金属蒸着電極4a(4b)の端面17からプローブの4端子までの距離である。また、前記信頼性試験は、100℃で電圧750V印加時の2000時間後の容量変化を測定するものである。(表3)において、容量変化が−5%以上であれば信頼性が高い(○)と判断し、−5%より小さければ信頼性が低い(×)と判断した。これによると、抵抗値が5Ω/□以上となる距離が2.5mm以下の場合、信頼性を保つことができた。なお、本実施例では抵抗値の測定に株式会社三菱化学アナリテック製の抵抗率計ロレスタGP MCP−T610型を用い、定電流印加方式の4端子4探針法で測定した。
【0066】
なお、上記本実施例では、金属蒸着電極の中央領域をAl−Mg合金で形成したが、中央領域はAlのみで形成し、低抵抗部をAl−Zn−Mg合金とすることによっても、低抵抗部で耐湿性を高める効果を有する。
【0067】
また本実施例では、P極、N極の金属蒸着電極のいずれもAl−Zn−Mg合金からなる低抵抗部を形成したが、いずれか一方でもよい。
【産業上の利用可能性】
【0068】
本発明による金属化フィルムコンデンサは、優れた耐湿性を有しており、各種電子機器、電気機器、産業機器、自動車等に用いられるコンデンサとして好適に採用でき、特に高耐湿性、高耐電圧特性が求められる自動車用分野に有用である。
【符号の説明】
【0069】
1 第1の金属化フィルム
2 第2の金属化フィルム
3a、3b フィルム
4a、4b 金属蒸着電極
5a、5b 絶縁マージン
6a、6b メタリコン
7a、7b 縦マージン
8a、8b 横マージン
9a、9b 大電極部
10a、10b 分割小電極部
11a、11b ヒューズ
12a、12b ヒューズ
13a、13b 低抵抗部
14 ローラー
15 ドラム
16 ローラー

【特許請求の範囲】
【請求項1】
誘電体フィルム上に金属蒸着電極を形成した金属化フィルムを一対とし、この一対の金属化フィルムに形成された夫々の金属蒸着電極が誘電体フィルムを介して対向するように重ね合わせて巻回または積層した素子と、
この素子の両端面に形成された一対のメタリコン電極からなり、
前記一対の金属化フィルムの金属蒸着電極のうち少なくとも一方は、
前記メタリコン電極と接触する側の一端に、中央領域よりも厚く形成された低抵抗部を備え、
この低抵抗部はAl−Zn−Mg合金からなる、金属化フィルムコンデンサ。
【請求項2】
前記低抵抗部に含有されるMgは、表層から5nm以内の範囲に原子濃度のピーク値を有する、請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。
【請求項3】
前記低抵抗部が形成された前記金属化フィルムは、
前記中央領域がAl−Mg合金からなり、
前記低抵抗部におけるMgの原子濃度は、前記中央領域のMgの原子濃度よりも低い、請求項1に記載の金属化フィルムコンデンサ。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【公開番号】特開2013−21002(P2013−21002A)
【公開日】平成25年1月31日(2013.1.31)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−150653(P2011−150653)
【出願日】平成23年7月7日(2011.7.7)
【出願人】(000005821)パナソニック株式会社 (73,050)
【Fターム(参考)】