説明

金属多孔体の製造方法

【課題】 一方の表面から他方の表面へ気孔径が漸次増大した金属多孔体を容易に製造することができる方法を提供する。
【解決手段】 金属粒子と熱可塑性樹脂で形成された孔源粒子とが均一に分散した圧粉成形体を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱保持し、前記孔源粒子が溶融した溶滴を金属粒子12間から浮上させ、ある溶滴の浮上中に当該溶滴と他の溶滴とを融合一体化させ、平均径が漸次増大する溶滴13Aを溶滴の浮上方向に分布させた溶滴金属粒子複合体11Aを形成する加熱保持工程と、前記溶滴金属粉末複合体11Aを前記熱可塑性樹脂の融点超の温度で加熱して前記溶滴13Aを分解除去し、前記金属粒子12によって三次元網目状の骨格部を形成する分解除去工程と、前記骨格部を焼結して金属骨格を形成する焼結工程とを有する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極素材として好適な金属多孔体の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、自動車用や家庭用など小型の発電装置として固体高分子型燃料電池が注目を集めいている。固体高分子型燃料電池が注目されるようになったのは、一段と性能が向上した固体高分子電解質膜を用いることによって電池の出力密度が飛躍的に向上し、高効率という従来からの燃料電池の特性に加え、小型化、低温作動が可能となったからである。
【0003】
前記固体高分子型燃料電池の基本構造は、図1に示すように、電子を通さず水素イオンのみを通す固体高分子電解質膜1と、前記固体高分子電解質膜1に接触するようにその両側面に付設された、アノード(負極または燃料極と呼ばれることがある。)側ガス拡散電極2Aおよびカソード(正極または空気極と呼ばれることがある。)側ガス拡散電極2Bと、前記アノード側、カソード側ガス拡散電極2A,2Bの外側面に接触するように設けられたアノード側、カソード側セパレータ3A,3Bとを備えている。前記固体高分子型燃料電池の構造は1つの構成単位、すなわち単位電池(セル)となっており、この単位電池を数十〜数百枚直列につなぐことにより所要電力を得ている。
【0004】
前記アノード側ガス拡散電極2Aおよびカソード側ガス拡散電極2Bは、ガス透過性および導電性を有する材料で形成されており、前記固体高分子電解質膜1側にはPtまたはPt−Ru合金触媒が担持されている。また、前記固体高分子電解質膜1の外周部と前記セパレータ3A,3Bの外周部とはガスケット4,4を介して気密に連結されている。前記アノード側セパレータ3Aの内面には、水素(燃料)ガスの供給口、排出口に連通し、水素をアノード側ガス拡散電極2Aに供給するためのガス供給溝5Aが、一方カソード側セパレータ3Bの内面には空気(あるいは酸素ガス)の供給口、排出口に連通し、空気(酸素ガス)をカソード側ガス拡散電極2Bに供給するためのガス供給溝5Bが形成されている。なお、前記貴金属触媒は、ガス拡散電極側に限らず、固体高分子電解質膜側に担持させる場合もある。
【0005】
前記アノード側、カソード側ガス拡散電極(以下、両者を併せて単に「ガス拡散電極」と呼ぶ。)の素材として、従来、多孔性カーボンが用いられていたが、近年、特許第3211378号公報(特許文献1)に記載されているように、ガス拡散電極を発泡金属(金属多孔体)で形成することが提案されている。しかし、この発泡金属は気孔のサイズが厚さ方向に一様なものであり、ガス拡散性と接触相手部材との接触抵抗の低減とを両立させることが難しかった。そこで、特開2003−282068号公報(特許文献2)に記載されているように、ガス拡散電極の素材として低気孔率層と高気孔率層とを複合化した金属多孔体が提案された。
【0006】
前記特許文献2に記載された金属多孔体によって、接触抵抗の低減とガス拡散性の向上とがある程度両立するようになったが、気孔率が異なる多孔体が不連続に隣接されているため、その不連続境界部でガスの拡散が妨げられるという問題がある。
【0007】
このような問題に対して、特開2003−137670号公報には、金属粉末と、比較的粒径が大きく、比重の小さい樹脂ビーズを含むゲルキャスティングスラリーをキャビティ内に流し込んで、長時間放置したり、振動を付与したりすることにより樹脂ビーズをスラリー上部へ移動させ、得られた複合体を焼成することによって、一方向に気孔径や気孔率が連続的に変化する金属多孔体の製造方法が提案されている。
【特許文献1】許第3211378号公報
【特許文献2】特開2003−282068号公報
【特許文献3】特開2003−137670号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
しかしながら、特許文献3に記載された金属多孔体の製造方法では、固形の樹脂ビーズを金属粉末が混じったスラリー中で移動させることが難しく、一方向に樹脂ビースの分布が連続的に変化するように配置することは困難であり、その結果、一方向に気孔径や気孔率が連続的に変化する金属多孔体を製造し難いという問題がある。
本発明はかかる問題に鑑みなされたもので、一方の表面から他方の表面へ気孔径が漸次増大した金属多孔体を容易に製造することができる方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0009】
本発明の金属多孔質体の製造方法は、互いに連通した無数の気孔と、前記気孔の周りに形成された金属骨格とを有し、平均径が漸次増大する気孔が一方向に分布した金属多孔体の製造方法であって、金属粒子と熱可塑性樹脂で形成された孔源粒子とが均一に分散した圧粉成形体を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱保持し、前記孔源粒子が溶融した溶滴を金属粒子間から浮上させ、ある溶滴の浮上中に当該溶滴と他の溶滴とを融合一体化させ、平均径が漸次増大する溶滴を溶滴の浮上方向に分布させた溶滴金属粒子複合体を形成する加熱保持工程と、前記溶滴金属粉末複合体を前記熱可塑性樹脂の融点超の温度で加熱して前記溶滴を分解除去し、前記金属粒子によって三次元網目状の骨格部を形成する分解除去工程と、前記骨格部を焼結して金属骨格を形成する焼結工程とを有する。前記熱可塑性樹脂は融点が200℃以下のものが好ましい。
【0010】
本発明の製造方法によれば、加熱保持工程の際、熱可塑性樹脂によって形成された孔源粒子は溶融状態の溶滴となるため、溶滴同士が部分的に融合すると共に樹脂ビーズなどの固形の孔源粒子に比して金属粒子間を容易に移動することができる。このため、溶滴は比重差によって金属粒子間を浮上し、同様に浮上する溶滴と融合一体化し、漸次その平均径を増大させながら上方へ移動する。その結果、相互につながった状態で、平均径が漸次増大する溶滴が浮上方向に分布した溶滴金属粒子複合体が容易に得られる。溶滴の分布は加熱温度と保持時間を適宜設定するだけで概ね定まるため、所期の溶滴分布を有する溶滴金属粒子複合体を容易に得ることができる。この溶滴金属粒子複合体中の溶滴を保持温度より高い温度で分解除去し、金属粒子で形成された三次元網目状骨格部を焼結することにより、平均径が漸次増大する気孔が一方向に分布した金属多孔体を簡単、容易に製造することができ、例えば固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用素材の工業的製造方法として好適である。
【発明の効果】
【0011】
本発明の金属多孔体の製造方法によれば、加熱保持工程により熱可塑性樹脂により形成された孔源粒子が流動性に富んだ溶滴となり、相互に融合一体化して平均径が漸次増大する溶滴が一方向に分布した溶滴金属粒子複合体を容易に形成することができ、この複合体中の溶滴を保持温度より高い温度で分解除去し、金属粒子によって形成された三次元網目状骨格部を焼結することで、平均径が漸次増大する気孔が一方向に分布した金属多孔体を簡単容易に製造することができ、例えば固体高分子型燃料電池のガス拡散電極素材の製造方法として優れる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0012】
以下、図面を参照して、固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用金属多孔体の製造実施形態について説明する。
まず、図2に示すように、無数の金属粒子12と熱可塑性樹脂により形成された無数の孔源粒子13とが均一に分散した圧粉成形体11を製作する。この圧粉成形体11は、無数の金属粒子と孔源粒子とを均一に混合した混合粉末を成形金型に充填し、あるいは予め孔源粒子に金属粒子を付着させた複合粒子を準備し、これを成形金型に充填して圧粉成形することによって容易に製造することができる。圧粉成形に際して、必要に応じて熱可塑性樹脂の融点未満の温度で加熱することができ、これによって圧粉成形体の見かけ密度(粒子充填率)を向上させることができる。なお、ガス拡散電極用金属多孔体の場合、圧粉成形体の厚さは、1.5〜3.0mm程度とされる。
【0013】
前記金属粒子を形成する金属材料としては、導電性、耐食性に優れる金属が好ましく、Au、Ptなどの貴金属を用いることができるが、経済性を考慮するとニッケル、Cu、ステンレス鋼などが好ましい。前記熱可塑性樹脂としては、ポリエチレン、ポリプロピレン、ポリ塩化ビニル、ポリビニルアルコール、酢酸セルロース、ポリアミド、ポリアセタール、ポリエチレンテレフタレートなどを用いることができるが、融点が200℃以下のもの、例えばポリエチレン、ポリプロピレンは温度による流動性の制御が容易であるため好ましい。また、孔源粒子は、中実樹脂でも発泡樹脂でもよい。
【0014】
前記金属粒子と孔源粒子との配合割合は、製造対象の金属多孔体全体の気孔率(70〜90%程度)に対応して、孔源粒子が体積率で70〜90%程度になるように設定すればよい。また、孔源粒子のサイズは平均粒径で100〜300μm 程度のものを用いればよく、一方金属粒子は平均粒径で0.5〜10μm 程度のものを用いればよい。特に、孔源粒子に予め金属粒子を付着させた複合粒子の場合は、金属粒子は孔源粒子の平均粒径の5%程度以下のものが好ましい。
【0015】
次に、前記圧粉成形体11を加熱保持工程に供して、前記圧粉成形体11を前記熱可塑性樹脂の融点以上、かつ熱可塑性樹脂が気化する分解温度以下の温度、好ましくは融点より50〜100℃高い温度に保持して、孔源粒子を溶融させて溶滴となす。この溶滴は当初は隣接するもの同士が部分的につながった状態であるが、保持時間の経過に従って、あるものは金属粒子との比重差によって浮上し始め、浮上中に他の溶滴と融合一体化して漸次その平均径を増大する。溶滴の浮上性は、周りの金属粒子の配置状況によって千差万別であり、保持時間の経過により、全体として見れば、図3に示すように、浮上方向(上方)に沿って平均径が漸次増大するように溶滴13Aが分布した溶滴金属粒子複合体11Aが得られる。なお、図3では、作図の便宜上、溶滴13同士はつながっていないように見えるが、実際は溶融樹脂によってつながった状態となる。
【0016】
次に、前記加熱保持工程で得られた溶滴金属粒子複合体11Aは、分解除去工程に供され、前記熱可塑性樹脂の融点より高い分解温度で加熱保持して前記溶滴13Aを分解除去する。分解除去工程において、熱可塑性樹脂の融点以上の温度領域での昇温速度は、速すぎると溶滴が内部から急激に気化し、周りの金属粒子で形成された骨格構造が崩れるので、3℃/min 程度以下、好ましくは1℃/min 程度以下にするのがよい。もっとも、昇温速度が遅すぎると生産性が低下するので、生産性の観点からは、0.1℃/min 程度以上、好ましくは0.3℃/min 程度以上とするのがよい。また、分解温度もあまり高いと溶滴の分解、気化が急激となるため、沸点より50〜100℃程度高い温度に止めることが好ましい。前記分解除去工程により、図4に示すように、金属粒子構造体11Bの上面では、溶滴の気化に従って上面に開口したクレータ状の大きな気孔14Aが、内部では溶滴の大きさにほぼ対応した気孔14Bが相互に連通した状態で形成され、それらの周りに金属粉末によって三次元網目状の骨格部15が形成される。
【0017】
その後、焼結工程により、三次元網目状骨格部15を形成する金属粒子を焼結一体化する。これにより、一方向に平均径が漸次増大する気孔が分布し、それらの周りに三次元網目状の金属骨格が取り囲むように形成された金属多孔体が得られる。
【0018】
以下、本発明の製造方法を実施例によってより具体的に説明するが、本発明はかかる実施例によって限定的に解釈されるものではない。
【実施例】
【0019】
孔源粒子として平均粒径が250μm のポリエチレン粒子を用い、金属粒子として平均粒径が1μm のニッケル粒子を用い、前記ポリエチレン粒子の周りにニッケル粒子を付着させた複合粒子を準備し、これを成形金型に充填し、融点直下の温度で加熱して圧粉成形した。これにより、見かけ密度が80%程度、厚さが2mmのシート状圧粉成形体を得た。
【0020】
この圧粉成形体をアルミナ製のプレートに載置し、真空雰囲気でポリエチレンの融点(約120〜140℃)より50℃程度高い200℃程度の温度で加熱し、同温度で5hr保持した後冷却した。得られた溶滴金属粒子複合シートから試料を採取し、厚さ断面を観察したところ、下部に平均粒径250μm 程度の溶滴(凝固した溶滴、以下同様)が形成され、上方に沿って平均粒径が漸次増大し、上部では平均粒径が800μm 程度の溶滴が形成され、溶滴同士はポリエチレンの腕によってつながった状態であった。
【0021】
次に、前記溶滴金属粒子複合シートを融点以上の温度領域を0.67℃/min の緩やかな速度で昇温し、約500℃で5hr保持し、ポリエチレンの溶滴を分解気化させた後、1000℃でニッケル粒子を焼結した。これにより気孔の周りがニッケル粒子の焼結金属からなるニッケル多孔体が得られた。このニッケル多孔体の断面を観察したところ、前記溶滴分布に対応した漸次増大する平均粒径を有する気孔が分布しており、この金属多孔体全体の気孔率を測定したところ、85%であった。
【図面の簡単な説明】
【0022】
【図1】固体高分子型燃料電池の断面構造を示す模式図である。
【図2】圧粉成形体の断面構造を示す模式図である。
【図3】溶滴金属粒子複合体の断面構造を示す模式図である。
【図4】溶滴を分解除去した後の金属粒子構造体の断面構造を示す模式図である。
【符号の説明】
【0023】
2A,2B ガス拡散電極
11 圧粉成形体
11A 溶滴金属粒子複合体
12 金属粒子
13 孔源粒子
13A 溶滴
14A,14B 気孔
15 骨格部


【特許請求の範囲】
【請求項1】
互いに連通した無数の気孔と、前記気孔の周りに形成された金属骨格とを有し、平均径が漸次増大する気孔が一方向に分布した金属多孔体の製造方法であって、
金属粒子と熱可塑性樹脂で形成された孔源粒子とが均一に分散した圧粉成形体を前記熱可塑性樹脂の融点以上の温度で加熱保持し、前記孔源粒子が溶融した溶滴を金属粒子間から浮上させ、ある溶滴の浮上中に当該溶滴と他の溶滴とを融合一体化させ、平均径が漸次増大する溶滴を溶滴の浮上方向に分布させた溶滴金属粒子複合体を形成する加熱保持工程と、
前記溶滴金属粉末複合体を前記熱可塑性樹脂の融点超の温度で加熱して前記溶滴を分解除去し、前記金属粒子によって三次元網目状の骨格部を形成する分解除去工程と、
前記骨格部を焼結して金属骨格を形成する焼結工程とを有する金属多孔体の製造方法。
【請求項2】
前記熱可塑性樹脂はその融点が200℃以下である請求項1に記載した金属多孔体の製造方法。
【請求項3】
金属多孔体が固体高分子型燃料電池のガス拡散電極用素材である請求項1又は2に記載した金属多孔体の製造方法。



【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−32251(P2006−32251A)
【公開日】平成18年2月2日(2006.2.2)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2004−212653(P2004−212653)
【出願日】平成16年7月21日(2004.7.21)
【出願人】(000142595)株式会社栗本鐵工所 (566)
【出願人】(301021533)独立行政法人産業技術総合研究所 (6,529)
【Fターム(参考)】