説明

金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法

【課題】ブラシマークを回避するためにスクラバーレス操業技術を採用しつつ、CVJ圧力や電清添加剤濃度を安定的に維持し、十分な脱脂洗浄効果を安定的に得ることを可能として脱脂洗浄効果の向上を図った、金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法を提供すること。
【解決手段】金属帯をアルカリ水溶液に短時間浸して脱脂する化学洗浄工程と、該化学洗浄工程後に、電気分解により微粒金属粉や油分を分離する電解洗浄工程と、該電解洗浄工程後に、空気を加圧溶解した温水を金属帯に噴射して金属帯表面を洗浄するCVJ工程とを有する、金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法であって、化学洗浄および電解洗浄の各工程において使用される電清添加剤濃度と、CVJ工程においてスプレーノズルから噴射されるCVJ圧力が下記式で規定される値以上である。
(式1)Y=7.8/(X−1.86)+77.8
Y:CVJ圧力(kgf/cm
X:電清添加剤濃度(g/l)

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
金属帯生産工程においては、冷間圧延後に脱脂洗浄が行われている。この脱脂洗浄は、冷間圧延した冷延金属帯表面に付着している圧延油分や微粒金属粉などの汚れを除去して、金属帯表面を清浄にする工程であり、メッキなどの次工程において品質欠陥が生じないように、所定の油分および金属粉付着量以下になるように洗浄が行われている。
【0003】
従来の脱脂洗浄方法として、冷延金属帯表面を水酸化ナトリウムなどのアルカリ水溶液に短時間浸して脱脂した(化学洗浄)後、電気分解により微粒金属粉や油分を分離(電解洗浄)し、さらにブラシロールにより金属帯表面を払拭または研磨して仕上げ洗浄(スクラバー洗浄)する方法がある。しかし、このような脱脂洗浄方法では、ブラシロールにより金属帯表面に「ブラシマーク」と呼ばれる疵が混入し、該ブラシマークの混入が許容されない表面品位の厳格な自動車用外板などでは、歩留が悪化するため、有効なブラシマーク対策が求められる。
【0004】
例えば、特許文献1には、前記スクラバー洗浄の工程において、ブラシロールを用いない脱脂洗浄技術(以下、スクラバーレス操業技術という)として、アルカリ水溶液に圧縮空気を加圧溶解したアルカリ洗浄液を、金属帯に、スプレーノズルから噴射することにより、加圧溶解されている空気から生成する微細気泡の破裂エネルギーおよび洗浄液の衝突エネルギーによる物理的洗浄作用と、洗浄液中のアルカリ成分による化学的洗浄作用との相剰作用によって、金属帯に付着している汚れを除去する方法(以下、CVJ(キャビテーション・ジェット)という) が開示されている。
【0005】
このように、CVJを用いることでブラシロールが不要なスクラバーレス操業の実用化に前進が見られたが、ブラシロール部についてブラシロールを廃止してCVJのみとすると、通常のブラシロール洗浄に比べ洗浄性が劣り、アルカリ濃度変更や液温アップ等の従来の洗浄性向上の対策をとったり、CVJのスプレーノズルからの噴射圧力(以下、CVJ圧力という)を上げても洗浄性が回復しないという問題が発生した。
【0006】
加えて、洗浄性を維持しようとしてCVJ圧力を上昇させると、CVJノズルの個々および系全体の圧力が数日〜数十日で低下し、圧力維持のためにノズルの鋼管頻度増による多額のメンテナンス費用も発生するという問題もあった。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開平8−253883号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明の目的は前記問題を解決し、ブラシマークを回避するためにスクラバーレス操業技術を採用しつつ、十分な脱脂洗浄効果を長期間安定的に得ることを可能として脱脂洗浄効果の向上を図った、金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法を提供することである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するためになされた本発明の金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法は、金属帯をアルカリ水溶液に短時間浸して脱脂する化学洗浄工程と、該化学洗浄工程後に、電気分解により微粒金属粉や油分を分離する電解洗浄工程と、該電解洗浄工程後に、空気を加圧溶解した温水を金属帯に噴射して金属帯表面を洗浄するCVJ工程とを有する、金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法であって、化学洗浄および電解洗浄の各工程において使用される電清添加剤濃度と、CVJ工程においてスプレーノズルから噴射されるCVJ圧力が下記式で規定される値以上であることを特徴とするものである。
(式1)Y=7.8/(X−1.86)+77.8
Y:CVJ圧力(kgf/cm
X:電清添加剤濃度(g/l)
【0010】
請求項2記載の発明は、請求項1記載の金属帯洗浄工程のCVJ工程において、該電清添加剤は、液状に準備した状態で投入、調整されることを特徴とするものである。
【0011】
請求項3記載の発明は、請求項1または2において、バナジウムカーバイト皮膜処理を施したスプレーノズルを使用することを特徴とするものである。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法により、所定の電清添加剤濃度およびCVJ圧力を確保すれば安定的かつ十分な脱脂洗浄効果を得ることが可能となった。また、従来のスクラバーレス操業方法におけるスプレーノズルの摩耗による圧力低下も回避でき、安定的な圧力維持を達成できた。
【図面の簡単な説明】
【0013】
【図1】本発明のスクラバーレス操業方法を実施する装置の概要説明図である。
【図2】本発明と従来技術における、スクラバーレス操業可能範囲を示すグラフである。
【図3】バナジウムカーバイド皮膜処理のない従来CVJノズルの磨耗による圧力推移とバナジウムカーバイド皮膜処理のあるCVJノズルの磨耗による圧力推移の比較を示すグラフである。
【発明を実施するための形態】
【0014】
以下に本発明の好ましい実施形態を示す。
【0015】
図1には、本発明のスクラバーレス操業方法を実施する装置の概要説明図を示している。本発明のスクラバーレス操業方法は、アルカリ水溶液に短時間浸して脱脂する化学洗浄工程と、該化学洗浄工程後に、電気分解により微粒金属粉や油分を分離する電解洗浄工程と、該電解洗浄工程後に、空気を加圧溶解した温水を金属帯に噴射して金属帯表面を洗浄するCVJ工程とを有する。
【0016】
このような工程で、ブラシロールに代ってCVJ工程にて温水噴射による洗浄が行われた場合、なぜ洗浄性が劣り、CVJ操業条件、とくにCVJ圧力を上昇させても従来の洗浄性が確保できない理由を鋭意検討した結果、当該洗浄工程に用いる洗浄液に投入する界面活性用の電清添加剤とCVJ圧力との間に洗浄性を劣化させない特定の範囲があることが判明し、本発明に至ったものである。
【0017】
高効率液体電清添加剤の開発:
化学洗浄工程および電解洗浄工程で使用される水系洗浄剤は、主に洗浄剤として苛性ソーダ(NaOH)を用い、これに電清添加剤を加えて洗浄性を向上させている。電清添加剤は、カルボン酸塩および/またはリン酸塩をキレート剤としてアニオン系活性剤、ノニオン系活性剤の1種または2種を混合してなるものである。これらが作用することで、冷延鋼板に付着している無機系・有機系汚れを除去することが可能となる。中でも、界面活性剤を含む電清添加剤は、湿潤・浸透、ローリングアップと剥がし、 鹸化作用、可溶化と乳化、再付着の防止等、重要な役目を担っており、液中の電清添加剤濃度は、脱脂性において非常に重要な要素となる。
【0018】
この含む電清添加剤とCVJ圧力が図2のように特定の範囲にあれば、スクラバー洗浄の代わりにCVJを用いても、スクラバー洗浄と同等以上の洗浄性を確保することができる。この特定の範囲の境界線は、
(式1)Y=7.8/(X−1.86)+77.8
Y:CVJ圧力(kgf/cm
X:電清添加剤濃度(g/l)
で、上式により求められた値以上のCVJ圧力で洗浄することでスクラバー洗浄と同等以上の洗浄性を確保することができるものである。尚、図2の○▲×の評価は、
○:残存鉄分および残存油分共に5mg/m2未満
▲:残存鉄分および残存油分共に5mg/m2以上、10mg/m2以下
×:残存鉄分および残存油分共にいずれかが10mg/m2超
に分類して評価したもので、その分析方法は脱脂洗浄工程直後で、採取時間および分析機器の性能に応じて10〜1000mm四方の範囲を、ノルマルヘキサンを染み込ませた紙製ウェスで拭き取り、残存鉄分については紙製ウェスごと燃焼、灰化させ、得た灰を所定量の塩酸に混ぜて加熱した後に原子吸光にて分析する。残存油分は紙製ウェスからノルマルヘキサンを気化飛散させた後、所定量の抽出溶剤に紙製ウェスを浸して残存油分を抽出し、ろ過の後に赤外線吸光にて分析する。
【0019】
Yの値であるCVJ圧力の上限は洗浄性の面からは特に制限はないが、現状使用されるCVJ圧力の範囲は60〜120kgf/cm2の範囲が多く、120kgf/cm以上の仕様を得ようとすると設備コスト及び設置スペースが大きくなり、実現性に乏しくなる。CVJ圧力下限は図2および式1の切片からもわかるとおり、80kgf/cm以上が好ましい。尚、CVJ圧力はCVJのポンプ吐出圧である。
【0020】
またCVJ工程に用いる温水は、キャビテーション効果を確実に発揮させるために高温でない方が好ましく、40℃以下が好ましい。また電清添加剤の投入量は水系洗浄剤に1〜3g/l投入されることが好ましい。1gより少ない場合、CVJによる洗浄が劣化し、3g/l超ではその効果が飽和してしまい無駄となる。尚、電清添加剤濃度測定は次のように行う。まず使用しているアルカリ洗浄液を採取、ろ過し、ろ過液を50ml採取する。次にフッ化ソーダを1gを前記ろ過液に入れて撹拌、さらにフェノールフタレインを入れ、希塩酸で中和する。これにpH Bufferを30ml入れ、pHが3〜4の範囲であることを確認し、さらにメタノールを30ml入れる。このようにして出来た試液を60℃以上に加温し、添加剤に応じた指示液を用い滴定し、滴定量から濃度を換算する。
【0021】
電清添加剤投入制御最適化:
電清添加剤は従来粉末で循環タンク等に投入、混合、調整されるが、微量での調整になるため、その濃度を安定的に確保するために液状に準備した電清添加剤を投入することが好ましい。
【0022】
(CVJ工程)
上記の発明により従来と同等以上の金属帯の脱脂洗浄性が確保できたが、CVJ圧力が高いゆえにCVJノズルの磨耗が著しく早く、これにより図3にあるように従来ノズル(バナジウムカーバイト皮膜処理なし)では120日程度で15%もCVJ圧力が下がってしまい圧力を維持できなくなる。これを安定維持するために本発明では、バナジウムカーバイト皮膜処理を施したスプレーノズルを使用することにより、スプレーノズルの摩耗およびこれに伴うCVJ圧力低下を抑制してCVJ圧力を安定的に維持することが可能となった。
【0023】
TD-VC法は、高温塩浴処理(被加工物の形状に関係なく、内面の死角部位も含めて成膜加工が可能)であるTD法によって得られる バナジウムカーバイド(以後、VC)の極めて硬質な皮膜を形成することができ、加工物表面を摩耗や焼付きから守る技術として知られているが、本発明では、図3に示すように、該TD-VC法を、CVJノズルへ適用し、CVJ圧力の低下量を、120日後で従来と比べ30%程改善できた。



【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属帯をアルカリ水溶液に短時間浸して脱脂する化学洗浄工程と、該化学洗浄工程後に、電気分解により微粒金属粉や油分を分離する電解洗浄工程と、該電解洗浄工程後に、空気を加圧溶解した温水を金属帯に噴射して金属帯表面を洗浄するCVJ工程とを有する、金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法であって、
化学洗浄および電解洗浄の各工程において使用される電清添加剤濃度と、CVJ工程においてスプレーノズルから噴射されるCVJ圧力が下記式で規定される値以上であることを特徴とする金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法。
(式1)Y=7.8/(X−1.86)+77.8
Y:CVJ圧力(kgf/cm
X:電清添加剤濃度(g/l)
【請求項2】
CVJ工程において、該電清添加剤は、液状に準備した状態で投入、調整されることを特徴とする請求項1記載の金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法。
【請求項3】
バナジウムカーバイト皮膜処理を施したスプレーノズルを使用することを特徴とする請求項1または2記載の金属帯洗浄工程のスクラバーレス操業方法。


【図1】
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【図3】
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【図2】
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【公開番号】特開2011−149063(P2011−149063A)
【公開日】平成23年8月4日(2011.8.4)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2010−11869(P2010−11869)
【出願日】平成22年1月22日(2010.1.22)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】