説明

金属微粒子の製造方法

【課題】金属微粒子が溶媒中で凝集することなく安定に分散し、かつ、金属微粒子が孤立状態で分散した分散液を基材に塗布して焼成するときに、低温で金属微粒子表面から界面活性剤及びアミンを脱離させることができる金属微粒子の製造方法を提供する。
【解決手段】槽内に金属原料と界面活性剤及びイミンを含む溶媒とを収容し、減圧下でこの金属原料を加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して溶媒に導入することで、界面活性剤とイミンが加水分解して得られたアミンとで表面全体が被覆された金属微粒子が溶媒中に分散してなる金属微粒子含有液を得る。次いで、この金属微粒子含有液に極性溶媒を加えることで、金属微粒子を沈降させる。溶媒を取り除き、沈降した金属微粒子を回収する。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属微粒子の製造方法に関し、特に、インクジェット法にて金属配線や透明導電膜等の所定膜を形成するのに利用される金属微粒子の製造方法に関する。
【背景技術】
【0002】
半導体デバイスの製造工程において、金属配線膜や透明導電膜等の所定膜の形成に所謂インクジェット法を用いることが従来から知られている。このものでは、インジェット式の塗布装置を用い、金属微粒子が分散した分散液を基材表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥、焼成することで所定膜を得る。これによれば、リソグラフィー工程やエッチング工程等が省略でき、設備コストや生産コストを低減できるという利点がある。
【0003】
上記金属微粒子を製造する方法としては、ガス中蒸発法を用いることが例えば特許文献1で知られている。この方法では、槽内に金属原料と所定の有機溶媒とを収容し、減圧下の不活性ガス雰囲気中で、金属原料を蒸発させ、この蒸発させた金属蒸気を冷却捕集する際に、有機溶媒の蒸気を導入して金属が粒成長する段階においてその表面を有機溶媒と接触させ、得られる金属粒子が単独でかつ均一に有機溶媒中にコロイド状に分散した金属微粒子含有液を得る。そして、このように得られた金属微粒子含有液に、金属微粒子の分散安定性を改善するためにアルキルアミン、カルボン酸アミド、アミノカルボン酸塩の中から選ばれた少なくとも1種を添加、混合する。
【0004】
次に、低分子量の極性溶媒を加えて該金属微粒子を沈降させ、その上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる工程を複数回繰り返して有機溶媒を除去する。これにより、粒径100nm以下の金属微粒子が回収される。なお、このようにして得られた沈降物たる金属微粒子には、孤立状態の金属微粒子分散用の溶媒1種以上を加えて溶媒置換が行なわれ、金属微粒子が孤立状態で分散している分散液を得て、上記の如く、基板表面に塗布される。
【0005】
ところで、近年では、基材として、ガラス基板以外に樹脂や紙製等の多様なものが利用され、また、半導体デバイスの更なる性能向上や生産性向上等が求められている。このため、上記方法で形成する所定膜には一層の低抵抗化が求められ、しかも、分散液を乾燥、焼成する際には低温焼成化(例えば、150℃)が求められている。このような目的を達成するには、分散液中で金属微粒子を被覆する分散剤が低温で金属微粒子から脱離する必要がある。金属微粒子表面から分散剤が脱離すると、金属微粒子の表面が活性になり、金属微粒子同士が焼結・融着し、結果として、焼成後の膜は導電性を発現する。低温で金属微粒子から脱離する分散剤としては、炭素数が少なく低沸点の有機物系の分散剤が一般に用いられている。
【0006】
然し、炭素数が少ない低沸点の分散剤を用いた場合、金属微粒子の分散安定性が低下し、分散液中で金属微粒子が凝集して沈降する。このような分散安定性の低い分散液を塗布しても、均一な塗膜を形成することができず、結果として、低温で金属微粒子表面から分散剤を脱離させることができない。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0007】
【特許文献1】特開2002−121606号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0008】
本発明は、以上の点に鑑み、金属微粒子が溶媒中で凝集することなく安定に分散し、かつ、金属微粒子が孤立状態で分散した分散液を基材に塗布して焼成するときに、低温で金属微粒子表面から分散剤が脱離して微粒子同士が焼結することにより優れた導電性を発現する金属微粒子の製造方法を提供することをその課題とするものである。
【課題を解決するための手段】
【0009】
上記課題を解決するために、本発明の金属微粒子の製造方法は、槽内に金属原料と、界面活性剤及びイミンを含む溶媒とを収容し、減圧下でこの金属原料を加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して溶媒に接触させることで、当該溶媒中に金属微粒子が分散してなる金属微粒子含有液を得る工程と、金属微粒子含有液に極性溶媒を添加して金属微粒子を沈降させる工程と、溶媒を除去して沈降した金属微粒子を回収する工程と、を含むことを特徴とする。
【0010】
本発明によれば、減圧下で(不活性ガス雰囲気であってもよい)、金属原料を蒸発させ、この蒸発させたものを捕集し、金属の粒成長段階において溶媒に導入して接触させる。このとき、溶媒を界面活性剤及びイミンを含むものとし、金属微粒子の表面には何も吸着していないため、金属微粒子表面においてイミンが加水分解してアミンが生成し、当該溶媒に接触した金属微粒子がその表面全体に亘ってアミンと界面活性剤により覆われるようになる。これにより、本発明の金属微粒子は一層分散性の高いものとなり、当該金属微粒子は優れた分散安定性を発現するため、金属微粒子の凝集を確実に防止できる。さらに、金属微粒子を被覆する界面活性剤やアミンを低沸点のものとすれば、金属微粒子を孤立状態で分散させた分散液を基材に塗布して焼成する際、60℃以上150以下の低温での焼成によって金属微粒子表面から界面活性剤及びアミンのような分散剤を脱離させることができる。その結果、微粒子同士が焼結するため、焼成後の膜は優れた導電性を発現する。なお、本発明において、金属微粒子とは、粒径が100nm以下(代表的な粒径が1nm〜10nm)であるものをいう。また、本発明において、金属微粒子分散液は、金属微粒子インクや金属微粒子ペーストを含むものとする。
【0011】
本発明において、前記溶媒として、オレイン酸メチル、酢酸ベンジル、ステアリン酸エチル、フェニル酢酸エチル、グリセリド等の有機エステル類や、テトラデカン、ヘキサデカン、テルピネオールを好ましく用いることができる。
【0012】
本発明において、前記イミンとして、ケトンと、直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数4〜14のアミンとを脱水縮合して得られたものを用いることができる。このケトンとして、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルプロピルケトンから選択された少なくとも1種を好ましく用いることができる。また、このアミンとして、炭素数4のブチルアミン;炭素数5のペンチルアミン;炭素数6のヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;炭素数7のヘプチルアミン;炭素数8のオクチルアミン、2−エチルヘキシルアミン;炭素数9のノニルアミン;炭素数10のデシルアミン;炭素数12のドデシルアミン;及び炭素数14のテトラドデシルアミンから選択された少なくとも1種を好ましく用いることができる。アミンの炭素数が4未満であると、金属微粒子の分散安定性が低下することがあり、また、蒸発法により金属微粒子を生成させる場合には、金属微粒子を生成するための槽からアミンが排気され金属微粒子の表面を被覆できなくなることがある。一方、炭素数が14を超えると、焼成時に低温で金属微粒子表面からアミンが脱離し難くなり、焼成温度の上昇を招く。
【0013】
本発明において、前記界面活性剤として、直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数6〜12のカルボン酸を用いることができる。このカルボン酸としては、炭素数6のヘキサン酸、2−エチル酪酸;炭素数7のヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸;炭素数8のオクタン酸、ネオヘキサン酸、2−エチルヘキサン酸;炭素数9のノナン酸;炭素数10のネオオクタン酸、デカン酸;炭素数11のウンデカン酸;炭素数12のネオデカン酸、ドデカン酸;及び炭素数14のテトラデカン酸から選択された少なくとも1種のカルボン酸を好ましく用いることができる。カルボン酸の炭素数が6未満であると、金属微粒子の分散安定性が低下することがあり、また、蒸発法により金属微粒子を生成させる場合には、金属微粒子を生成するための槽からカルボン酸が排気され金属微粒子の表面を被覆できなくなることがある。一方、炭素数が12を超えると、焼成時に低温で金属微粒子表面からカルボン酸が脱離し難くなり、焼成温度の上昇を招く。
【0014】
本発明において用いられるイミンの量は、金属微粒子1gに対してイミンが0.01g〜1gとなるように設定することが好ましく、0.05g〜0.5gとなるように設定することがより好ましい。また、本発明において用いられるカルボン酸の量は、イミン1gに対してカルボン酸が0.1g〜10gとなるように設定することが好ましく、0.2g〜1.0gとなるように設定することがより好ましい。このようにイミン及びカルボン酸の量を設定すれば、金属微粒子の表面を被覆するアミンとカルボン酸の量をより一層適正に制御することが可能となる。
【0015】
本発明において用いられる金属は、Ag、Au、Cu、Ni、Pd、In、Sn、Rh、Ru、Pt、In及びSnから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金であり、目的・用途に応じて適宜選択することができる。
【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】本発明で得られた金属微粒子の電子顕微鏡写真。
【図2】(a)及び(b)は本発明の金属微粒子の熱重量−示差熱分析の結果を示すグラフ。
【発明を実施するための形態】
【0017】
以下、本発明の実施形態の金属微粒子の製造方法について、Ag微粒子を製造する場合を例に説明する。槽内に金属原料たるAg原料と、界面活性剤及びイミンを含む溶媒とを収容し、10Pa以下の減圧下で、このAg原料を高周波誘導加熱により加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して、槽内で当該溶媒に接触させる。このとき、溶媒に含まれるイミンが、Ag微粒子の表面において容易に加水分解してアミンが生成し、生成したアミンと界面活性剤とでAg微粒子の表面全体が覆われる。結果として、アミンと界面活性剤によって表面全体が覆われたAg微粒子が溶媒中に分散したAg微粒子含有液(生成液)が得られる。
【0018】
ここで、溶媒としては、オレイン酸メチル、酢酸ベンジル、ステアリン酸エチル、フェニル酢酸エチル、グリセリド等の有機エステル類や、テトラデカン、ヘキサデカン、テルピネオールを好ましく用いることができる。
【0019】
イミンとしては、ケトンとアミンとを脱水縮合させて得られたものを用いることができる。イミンを得るための原料となる該ケトンとしては、アセトン、メチルエチルケトン及びメチルプロピルケトンから選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。イミンを得るための原料となる該アミンとしては、直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数4〜14の脂肪族アミン又は芳香族アミンを用いることができる。具体的には、炭素数4のブチルアミン;炭素数5のペンチルアミン;炭素数6のヘキシルアミン、シクロヘキシルアミン、アニリン;炭素数7のヘプチルアミン;炭素数8のオクチルアミン、2−エチルへキシルアミン;炭素数9のノニルアミン;炭素数10のデシルアミン;炭素数12のドデシルアミン;及び炭素数14のテトラドデシルアミンから選択された少なくとも1種のアミンを用いることが好ましい。アミンの炭素数が4未満であると、金属微粒子の分散安定性が低下することがあり、また、蒸発法により金属微粒子を生成させる場合には、金属微粒子を得るために用いられる槽からアミンが排気され、金属微粒子の表面がアミンで被覆できなくなることがある。一方、アミンの炭素数が14を超えると、焼成時に低温で金属微粒子表面からアミンが脱離し難くなり、焼成温度の上昇を招く。
【0020】
界面活性剤としては、直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数6〜12のカルボン酸を用いることができる。具体的には、炭素数6のヘキサン酸、2−エチル酪酸;炭素数7のヘプタン酸、2−メチルヘキサン酸、シクロヘキサンカルボン酸;炭素数8のオクタン酸、ネオへキサン酸、2−エチルヘキサン酸;炭素数9のノナン酸;炭素数10のネオオクタン酸、デカン酸;炭素数11のウンデカン酸;炭素数12のネオデカン酸、ドデカン酸;及び炭素数14テトラデカン酸から選択された少なくとも1種を用いることが好ましい。カルボン酸の炭素数が6未満であると、金属微粒子の分散安定性が低下することがあり、また、蒸発法により金属微粒子を生成させる場合には、金属微粒子を生成するための槽からカルボン酸が排気され、金属微粒子の表面をカルボン酸で被覆できなくなることがある。一方、カルボン酸の炭素数が12を超えると、焼成時に低温で金属微粒子表面からカルボン酸が脱離し難くなり、焼成温度の上昇を招く。
【0021】
また、金属原料としては、例えば、Agの他に、Au、Cu、Ni、Pd、Rh、Ru、Pt、In及びSnから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金を、目的や用途に応じて適宜選択することができる。
【0022】
上記のように得られたAg微粒子含有液を槽の排出口から排出し、このAg微粒子含有液にアセトンのような極性溶媒を添加してAg微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる(以降、この作業を「洗浄工程」という)。この洗浄工程を複数回繰り返し、溶媒を除去して上記沈降したAg微粒子を回収する。回収したAg微粒子を孤立状態で分散させるための溶媒を加えてAg微粒子分散液を得る。Ag微粒子分散液を得るための溶媒としては、極性の弱い溶媒であって、主鎖の炭素数が6〜18である有機溶媒を用いることが好ましく、例えば、トルエン、ヘキサン、へプタン、オクタン、デカン、ウンデカン、ドデカン、トリデカン、テトラデカン、テトラデセン、ヘキサデカンのような長鎖式の炭化水素や、シクロヘキサン、シクロヘプタン、シクロオクタン、シクロドデセン、ベンゼン、エチルベンゼン、キシレン、トリメチルベンゼン、ドデシルベンゼンのような環式の炭化水素、ヘキサノール、ヘプタノール、オクタノール、デカノール、シクロヘキサノール、テルピネオールのようなアルコールを単独で又は混合して用いることができる。
【0023】
次いで、Ag微粒子分散液を加熱して所定の濃度(例えば、Ag微粒子インクとして用いる場合には60重量%、Ag微粒子ペーストとして用いる場合には80重量%)に濃縮する。そして、濃縮したAg微粒子分散液をインクジェット法により基材たるガラスの表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥し、60℃以上150℃以下の温度で焼成することでAg配線が形成される。基材としては、ガラス以外に、例えば、ポリイミド、PENフィルム、ポリカーボネイト、PETフィルムのほか、ガラス上にTFT(薄膜トランジスタ)が形成されているものを用いることができる。
【0024】
以上説明した実施形態では、槽内にて、減圧下で、Ag原料を蒸発させたものを捕集し、Agの粒成長段階において溶媒に導入して接触させるようにした。このとき、溶媒を界面活性剤とイミンを含むものとした。このため、イミンが金属微粒子の表面と接触する際に、イミンが加水分解してアミンに戻り、該アミンと界面活性剤とで金属微粒子表面が被覆される。このようにイミンを金属微粒子の表面に接触させると、イミンが加水分解されてアミンになる過程で金属微粒子の表面が被覆されるため、アミンを金属微粒子の表面に接触させる場合に比べて、金属微粒子の表面がより強固にアミンで被覆されるようになる。結果として、金属微粒子は凝集することなく分散安定性を向上できる。
【0025】
ここで、金属微粒子表面をアミンで被覆するために、槽内に最初からアミンを導入することが考えられる。然し、槽内で、アミンと、界面活性剤として用いるカルボン酸とを安定に共存させることは困難であり、アミンは界面活性剤であるカルボン酸と反応して塩やアミドを形成し易い。このようにアミンと界面活性剤であるカルボン酸との反応が起こると、金属微粒子表面とアミン及び界面活性剤との反応が阻害される。結果として、金属微粒子の表面全体がアミンと界面活性剤であるカルボン酸とにより被覆されず、金属微粒子の分散安定性が低下する。このような分散安定性が低下した分散液を用いてインクジェット法により塗膜を形成しようとすると、液滴を吐出させるインクジェットヘッドのノズルが閉塞するという不具合が生じる。
【0026】
それに対して、本実施形態では、槽内にイミンを導入しているため、アミンと、界面活性剤であるカルボン酸との不要な反応を回避できる。このため、金属微粒子表面とアミン及び界面活性剤との反応が阻害されず、上記の如く金属微粒子の表面全体がアミンと界面活性剤であるカルボン酸とにより被覆され、金属微粒子の分散安定性が向上する。
【0027】
また、界面活性剤として炭素数4〜12のカルボン酸を用い、イミンの原料としてアセトン、メチルエチルケトン及びメチルプロピルケトンから選択された少なくとも1種と炭素数4〜14のアミンを用いた場合に得られる金属微粒子も高い分散安定性を有するため、この金属微粒子を孤立状態で分散させた分散液を基材に塗布して焼成するときに、60℃以上150以下の低温で金属微粒子表面から界面活性剤及びアミンを脱離させることができる。
【0028】
以下、溶媒として、オレイン酸メチルにオクタン酸と後述のイミンとを含むものを用い、Ag原料を用いてAg微粒子を製造し、Ag微粒子を用いてインクジェット法により塗布可能なAg微粒子分散液を製造する場合について説明する。
【0029】
Ag微粒子の製造に先立ち、アセトンとドデシルアミンとを脱水縮合させて上記イミンを生成しておく。そして、真空槽内のルツボにAg原料を400g収容すると共に、真空槽内の底部に、溶媒としてオレイン酸メチル5kgにオクタン酸50g及び上記イミン50gを含むものを収容する。そして、真空槽内を真空引きし、真空槽内にHeガスを供給して真空槽内の圧力を10Pa以下に制御する。
【0030】
次いで、高周波誘導加熱によりAg原料を蒸発させ、蒸発したものを捕集し、Agの粒成長段階において上記溶媒に導入して接触させることで、溶媒中にAg微粒子が分散してなるAg微粒子含有液が得られる。このとき、Ag微粒子の表面においてイミンが容易に加水分解してドデシルアミンが生成し、Ag微粒子がその表面全体に亘ってドデシルアミンとオクタン酸により被覆される。この場合、Ag原料1gに対してイミンの量を0.01〜1gの範囲に設定すると共に、Ag原料1gに対して界面活性剤であるオクタン酸の量を0.1〜10gの範囲に設定すれば、Ag微粒子の平均粒径を2〜20nmに制御できる。
【0031】
真空槽から取り出したAg微粒子含有液にアセトンを添加してAg微粒子を沈降させ、上澄み液をデカンテーションなどにより流出させる(洗浄工程)。この洗浄工程を複数回繰り返し、溶媒を除去して上記沈降したAg微粒子を回収する。回収したAg微粒子にテトラデカンを加えてAg微粒子分散液を得る。
【0032】
次いで、Ag微粒子分散液を減圧加熱して60重量%の濃度に濃縮し、この濃縮したAg微粒子分散液をインクジェット法により基材たるガラスの表面に直接塗布し、この塗布した分散液を乾燥し、150℃の温度で焼成してAg配線を形成する。このとき、Ag微粒子分散液の分散安定性は高いため、インクジェットヘッドのノズルが閉塞することはない。
【0033】
以上説明した実施形態では、減圧下で、Ag原料を蒸発させたものを捕集し、Agの粒成長段階において、オレイン酸メチルにオクタン酸と上記イミン(アセトンとドデシルアミンを脱水縮合して得られるイミン)を含ませたものに導入して接触させるようにした。このとき、Ag微粒子表面においてイミンが加水分解してドデシルアミンが生成し、Ag微粒子がその表面全体に亘ってドデシルアミンとオクタン酸により被覆される。これにより、Ag微粒子の分散性を一層高めることができ、Ag微粒子の分散安定性を向上できる。
【0034】
また、Ag微粒子の表面全体を被覆するオクタン酸とドデシルアミンの炭素数は夫々8、12であり、しかも、上述したように該Ag微粒子は高い分散安定性を有するため、該Ag微粒子が孤立状態で分散した分散液を基材に塗布して焼成するときに、150℃以下という低温でオクタン酸及びドデシルアミンを脱離させることができる。
【0035】
次に、上記実施形態の効果を確認するために下記の実験(実験1)を行った。本実験1では、オクタン酸及び2-エチルヘキシルアミンにより表面全体が覆われたAg微粒子をテトラデカン中に孤立状態で分散させたAg微粒子分散液を加熱して60重量%の濃度に濃縮し、濃縮したAg微粒子分散液を基材表面にスピンコート法により塗布し、乾燥させた後、大気雰囲気中でホットプレートにより150℃の温度で1時間焼成することにより、表面が銀色光沢を帯びたAg膜を形成した(発明品1)。
【0036】
この発明品1(平均粒径:10.8nm、Ag微粒子に対する2-エチルヘキシルアミン及びオクタン酸の総重量比:19.4%)のSEM写真を撮像したところ、図1に示すように、Ag微粒子は凝縮することなく、高い分散性で分散していることが確認された。そして、発明品1の3箇所で表面抵抗と膜厚を測定し、その測定結果から比抵抗値を求めたところ、表1に示すように純粋なAgと同様の比抵抗値が得られた。これによれば、Ag膜の低抵抗化及び低温焼成化が実現できることが判る。尚、表面抵抗の測定には、三菱化学製のロレスターを用いた。
【0037】
【表1】

【0038】
次に、上記実験1と同様に、他の実験(実験2)を行った。本実験2では、2-エチルヘキサン酸及びオクチルアミンにより表面全体が覆われたAg微粒子を用いて形成したAg膜(発明品2)、トリメチル酢酸及びオクチルアミンにより表面全体が覆われたAg微粒子を用いて形成したAg膜(発明品3)、並びに、シクロヘキサンカルボン酸及びオクチルアミンにより表面全体が覆われたAg微粒子を用いたAg膜(発明品4)について、上記実験1と同様の方法で比抵抗値を求めたところ、表2に示すような比抵抗値が得られた。これによれば、Ag膜の低抵抗化及び低温焼成化が実現できることが判った。
【0039】
【表2】

【0040】
次に、上記発明品1〜発明品4と比較するため、オレイン酸(炭素数18)及びドデシルアミンを表面に吸着させたAg微粒子を用いて形成したAg膜(比較品1)、及びステアリン酸(炭素数18)及びオクチルアミンを表面に吸着させたAg微粒子を用いて形成したAg膜(比較品2)についても、上記実験1と同様に比抵抗値の測定を試みた(実験3)。然し、これら比較品1及び比較品2に係るAg膜は生焼けであり、全く導通せず、低温焼成化が図れないことが判った。
【0041】
次に、上記発明品1の焼成温度を50℃〜350℃の範囲で変化させ、示差熱−熱重量分析(TG−DTA分析)を行ったところ(実験4)、図2に示す結果が得られた。図2には、発明品1と比較するため、上記比較品1の結果を併せて示す。これによれば、発明品1のTG−DTAピークが比較例1のものよりも低温側でみられるため、低温焼成化が可能であることが確認された。
【0042】
なお、本発明は上記実施形態に限定されるものではなく、変形することができる。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
槽内に金属原料と、界面活性剤及びイミンを含む溶媒とを収容し、減圧下でこの金属原料を加熱して蒸発させ、この蒸発したものを捕集して溶媒に接触させることで、当該溶媒中に金属微粒子が分散してなる金属微粒子含有液を得る工程と、
金属微粒子含有液に極性溶媒を添加して金属微粒子を沈降させる工程と、
溶媒を除去して沈降した金属微粒子を回収する工程と、を含むことを特徴とする金属微粒子の製造方法。
【請求項2】
前記イミンは、ケトンと、直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数4〜14のアミンとを脱水縮合して得られたものであることを特徴とする請求項1記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項3】
前記界面活性剤が直鎖式、分岐鎖式及び環式から選択された少なくとも1種の構造を有する炭素数6〜12のカルボン酸であることを特徴とする請求項1又は請求項2記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項4】
金属微粒子1gに対するイミンの量を0.01g〜1gの範囲内で設定することを特徴とする請求項1乃至請求項3のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項5】
金属微粒子1gに対する界面活性剤の量を0.1g〜10gの範囲内で設定することを特徴とする請求項1乃至請求項4のいずれか1項に記載の金属微粒子の製造方法。
【請求項6】
前記金属微粒子の原料が、Ag、Au、Cu、Ni、Pd、In、Sn、Rh、Ru及びPtから選択された少なくとも1種の金属又はこれらの金属の少なくとも2種からなる合金であることを特徴とする請求項1乃至請求項5のいずれか1項記載の金属微粒子の製造方法。

【図2】
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【図1】
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【公開番号】特開2013−7076(P2013−7076A)
【公開日】平成25年1月10日(2013.1.10)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2011−139173(P2011−139173)
【出願日】平成23年6月23日(2011.6.23)
【出願人】(000231464)株式会社アルバック (1,740)
【Fターム(参考)】