説明

金属材の製造方法および金属材

【課題】添加材を混入させて硬度を上昇させる金属材の製造方法において、金属材の硬度を一層上昇させる製造方法及びこの製造方法により硬度を上昇させた金属材を提供する。
【解決手段】金属材10の表面部位に溝12を形成し添加材14を充填する。添加材14は最小部分の一次粒径が0.5μm未満の粒子であり、C60を適用できる。先端に本体より小径の円柱状のプローブ18を備えた回転ツール16を用意する。金属材10の添加材14を充填した溝12上に、回転ツール16のプローブ18を当接させつつ回転させ、さらに溝12の長手方向に沿って回転ツール16を移動させることにより、溝12に充填した添加材14を回転ツール16によって攪拌させ、添加材14を金属材10中に混入させることができる。これにより添加材14をより均一に混入でき、金属材10の結晶粒を微細化させて高強度化を図ることができる。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は金属材の製造方法に関し、特に金属材に添加材を混入することによって硬度を上昇させた金属材の製造方法およびこの製造方法によって製造された金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
従来、金属材に大きさが数〜数百nm程度の添加材を混入させることによって、金属材を強化する技術が提案されている。例えば、特許文献1には、Ti合金を溶解させ、溶解金属中にフラーレン(Fullerene)またはカーボンナノチューブ(Carbon Nanotube;CNT)を混入させた金属材をゴルフクラブヘッドのフェース部に用い、フェース部の強度を高めて、その薄肉化を可能とした技術が記載されている。また、非特許文献1には、粉末状にしたAl試料またはTi試料とカーボンナノチューブ粉末とを三軸振動式ミルによって混合し、ホットプレスを行った後に熱間押出することによって、複合材料を得ることが記載されている。
【特許文献1】特開2002−778号公報
【非特許文献1】大竹尚登、葛巻徹、光田好孝、「ナノカーボンコンポジット」、高分子、社団法人高分子学会、2003年12月、52巻、p888〜892
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0003】
しかしながら、上記のような添加材を混入させた金属材料に対しては、産業界からさらなる高強度化の要請がある。ところが、上記の手法により添加材を混入された金属材の機械的特性は、添加材となるフラーレン等の特性から期待されるほど向上せず、さらなる改善が望まれている。
【0004】
本発明は、斯かる実情に鑑み、添加材を混入することによって金属材の硬度を上昇させる金属材の製造方法において、金属材の硬度を一層向上させることができる金属材の製造方法およびこの製造方法によって硬度を上昇された金属材を提供しようとするものである。
【課題を解決するための手段】
【0005】
本発明は、最小部分の一次粒径が0.5μm未満である粒子からなる添加材を金属材の表面部位に供給し、表面部位に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させて、表面部位に添加材を混入させて硬度を上昇させた金属材の製造方法である。
【0006】
この構成によれば、最小部分の一次粒径が0.5μm未満である微細な粒子を添加材として金属材の表面部位に供給し、粒子を供給した表面部位に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる摩擦攪拌処理(Friction Stir Processing;FSP)を施すため、金属材中に添加材をより均一に混入することができる。また、摩擦攪拌処理における動的再結晶により、金属材の結晶粒が微細化される。このため、金属材の硬度を一層上昇させることができる。
【0007】
なお、本発明における粒子の「最小部分の…粒径」とは、粒子の直径を任意の部位で測定した場合における最小の径を意味する。例えば、外径が25nmであり長さが250nmの円筒状であるカーボンナノチューブの場合、粒径は25nmとなる。また、本発明における粒子の「一次粒径」とは、それぞれの粒子の粒ひとつひとつ(一次粒子)の径を意味し、「一次粒径が0.5μm未満」とは、一次粒子の径が0.5μm未満であれば良く、一次粒子同士が互いの凝集力によって凝集した二次粒子等、高次の凝集構造を取る物の径が0.5μm以上となる物をも含むものとする。
【0008】
この場合、添加材は炭素を含むことが、金属材の硬度を上昇させるために好適である。
【0009】
また、添加材はフラーレンを含むことが、金属材の硬度を上昇させるために一層好適である。
【0010】
加えて、粒子はC60を含むことが、金属材の硬度を上昇させるためにさらに好適である。
【0011】
一方、本発明の別の態様は、本発明の金属材の製造方法によって硬度を上昇された金属材である。この構成によれば、金属材は、最小部分の一次粒径が0.5μm未満である微細な粒子からなる添加材を摩擦攪拌処理によって表面部位に混入されており、添加材が金属材中に均一に混入され、かつ金属材の結晶粒が摩擦攪拌処理によって微細化されているため、その硬度を一層上昇された物とできる。
【発明の効果】
【0012】
本発明の金属材の製造方法によれば、金属材の硬度を一層上昇させることができる。また、本発明の金属材は、その強度を一層上昇された物とできる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0013】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。
【0014】
以下、金属材の製造方法について説明する。図1は、本発明に係る金属材の製造方法の一実施形態を示す斜視図である。図1(a)および(b)に示すように、本実施形態の金属材の製造方法では、金属材10の表面部位に供給した添加材14を、回転ツール16を用いた摩擦攪拌処理によって金属材10中に混入させる。金属材10としては、例えば、Al材、Fe材、Mg材を適用することができる。
【0015】
本実施形態では、まず図1(a)に示すように、金属材10の表面部位に溝12を形成し、その溝に添加材14を充填する。添加材14は、最小部分の一次粒径が0.5μm未満である粒子である。より具体的には、添加材14として、最小部分の一次粒径が0.5μm未満であって、炭素を含む黒鉛粉末やSiC粉末等のシリコンカーバイドや金属カーバイドを適用することができる。より好ましくは、添加材14として、カーボンナノチューブ(炭素繊維または炭素ファイバーと呼ばれることもある)を適用することができ、カーボンナノチューブとしては、外径が2nm以下の炭素原子からなる単層の円筒である単層カーボンナノチューブ(SingleWalled Carbon NanoTube;SWCNT)、炭素原子からなる二層の円筒である二層カーボンナノチューブ(DoubleWalled Carbon NanoTube;DWCNT)、および外径が20〜25nmであり長さが250nm以下の炭素原子からなる複数の円筒が入れ子状に多層をなしている多層カーボンナノチューブ(MultiWalled Carbon NanoTube;MWCNT)からなる群から選択される1または2種以上を適用することができる。さらに好ましくは、添加材14として、炭素原子が球状をなしているC60、C70、C76、C78、C82およびC84からなる群から選択される1または2種以上のフラーレン(炭素クラスターまたは球状炭素分子と呼ばれることもある)を適用することができ、最も好ましくは、添加材14として、炭素原子が直径0.7nm以下のサッカーボール状の球形をなしているC60を適用することができる。
【0016】
次に、図1(b)に示すような回転ツール16を用意する。回転ツール16は、略円筒状をなし、先端に本体より小径の略円柱状のプローブ18を備えている。なお、プローブは必ず必要なものではなく、場合によってはプローブを有しない略円筒状の回転ツールを用いても良い。回転ツール16の材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)、コバルト(Co)からなる超硬合金、またはSi等のセラミックスからなるものとすることができる。図1(b)に示すように、金属材10の添加材14を充填した溝12上に、回転ツール16のプローブ18を当接させつつ回転させ、さらに溝12の長手方向に沿って回転ツール16を移動させることにより、溝12に充填した添加材14を回転ツール16によって攪拌させ、添加材14を金属材10中に混入させることができる。なお、添加材を十分に混入させるため、回転ツール16を、添加材14を充填した溝12上で回転させつつ往復動させることもできる。あるいは、回転ツール16を移動させずに同じ場所で回転させ続けることによっても、添加材14を金属材10中に混入させることができる。この場合、添加材14を連続した複数箇所で混入させることにより、金属材10上の広い領域を強化することができる。
【0017】
以下、本実施形態の金属材の製造方法の作用効果について説明する。本実施形態においては、金属材10の表面部位に最小部分の一次粒径が0.5μm未満の粒子からなる添加材14を供給し、添加材14を摩擦攪拌処理により金属材10中に混入させる。このため、カーボンナノチューブ等の金属材10中に均一に分散しにくい物質を添加材14とした場合であっても、添加材14を金属材10中に均一に混入させることができる。さらに、摩擦攪拌処理における動的再結晶により、金属材10の結晶粒が微細化される。このため、金属材10の強度を一層向上させることができる。
【0018】
尚、本発明の金属材の製造方法は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。例えば、金属材10の表面部位に添加材14を供給する方法としては、図1(a)に示す方法の他、ノズルから添加材14を金属材10の表面に噴射する方法や、回転ツール16に設けた噴出孔から添加材14を金属材10の表面に噴出する方法を用いることができる。また、回転ツール16を構成する材料に添加材14を含有させておき、回転ツール16を金属材10に当接させつつ回転させることにより、回転ツール16を磨耗させつつ金属材10に添加材を供給することができる。この方法では、金属材10に添加材14をより均一に供給することができる。あるいは、添加材14を含有させた粘着テープを金属材10に貼付し、当該粘着テープ上に回転ツール16を当接させつつ回転させることによっても、金属材10に添加材を供給することができる。この方法では、金属材10上の強化したい部位に、一層容易に添加材14を供給することができる。
【0019】
さらに、本発明の金属材の製造方法では、2つの金属材同士を接合部において突き合わせるか、あるいは重ね合わるかした後に、接合部に添加材を供給し、回転ツールを接合部に挿入して回転させる摩擦攪拌接合(Friction Stir Welding;FSW)を行うことによっても、接合部周辺の金属材硬度を上昇させることができる。
【0020】
次に、本発明者が本発明の金属材の製造方法により、実際に金属材の硬度を上昇させた実験結果を説明する。
【0021】
実験例1
厚さ6mmのAZ31材(Alを3%、Znを1%含有するMg合金)を用意した。用意したAZ31材の表面に、図1(a)に示すような幅1mm、深さ2mmの溝12を形成した。形成した溝12に、図2に示すような炭素原子24が直径0.7nm以下のサッカーボール状の球形をなしているC60(22)を添加材14として充填した。図3に示すようにC60の集合体26は、直径10〜50μm程度の粒径となる。C60の充填後、図1(b)に示すように、直径4mm、長さ1.8mmのプローブ18を有し、本体の直径12mmのSKD61からなる回転ツール16によって摩擦攪拌処理を行った。回転ツールの回転速度は1500rpmとし、回転ツールの移動速度は50mm/minとした。
【0022】
図4は本実験例の摩擦攪拌処理を施した部位の状態を示す縦断面図であり、図5はC60を含む部位の状態を示す図である。図4および5により、回転ツール16によって攪拌された金属材10の表面に近い部位Aおよび表面から深い部位Bにおいては、金属材10中に白く見えるC60が混入していることが判る。一方、図4により、金属材10の表面から境界28より深い部位Cにおいては、金属材10中にC60が混入していないことが判る。
【0023】
図6は本実験例のC60を含まない部位の結晶粒を示す図であり、図7はC60を含む部位の結晶粒を示す図であり、図8はC60を含む部位と含まない部位との境界を示す図である。図6および8に示すように、C60が混入していない部位Cにおける金属材10の結晶粒径は20μm以上と大きいのに対し、図7および8に示すように、C60が混入している部位Bにおける結晶粒径は500nm以下と微細化されていることが判る。
【0024】
図9は、図4における各測定点の組成を示す表であり、各数値は原子%を示す。図9に示すように、部位Cにおいては炭素Cの含有量がAZ31母材と大きな差がないのに対し、部位AおよびBにおいては、炭素Cが多く含有されていることが判る。
【0025】
上記C60を混入させて摩擦攪拌処理を行ったAZ31材と、C60を混入させずに摩擦攪拌処理を行ったAZ31材と、摩擦攪拌処理を行っていないAZ31母材について硬度試験を行った。図10に示すようにC60を混入させて摩擦攪拌処理を行ったAZ31材は測定痕30が小さいのに対し、図11に示すようにC60を混入させずに摩擦攪拌処理を行ったAZ31材は測定痕30が大きいことが判る。さらに、図12に示すように、摩擦攪拌処理を行っていないAZ31母材の微小硬度が40〜50Hvであり、C60を混入させずに摩擦攪拌処理を行ったAZ31材の微小硬度が50〜60Hvであるのに対し、C60を混入させて摩擦攪拌処理を行ったAZ31材のC60が存在する領域(ナノ複合層)の微小硬度は最大で128Hvと硬度が大幅に向上していることが判る。
【0026】
上記と同様にして、添加材14として粒径0.5μm未満の黒鉛粉末とSiC粉末を用い、摩擦攪拌処理を行った。図13は本実験例におけるC60を含むAZ31材の結晶粒を示す図であり、図14は黒鉛粉末を含むAZ31材の結晶粒を示す図であり、図15はSiCを含むAZ31材の結晶粒を示す図である。また、図16は摩擦攪拌処理を施していないAZ31材の結晶粒を示す図であり、図17は摩擦攪拌処理を施したAZ31材の結晶粒を示す図である。図16に示すように、摩擦攪拌処理を施していないAZ31材の結晶粒径は平均で79.1μmと大きく、微小硬度も46Hvと低い。図17に示すように、摩擦攪拌処理を施すと結晶粒径は平均で12.9μmに微細化されるが、微小硬度は59Hvまでしか向上しない。一方、図14に示すように、黒鉛粉末を混入させて摩擦攪拌処理を行った場合は、結晶粒径は平均2.5μmまで微細化され、微小硬度は64Hvまで向上することが判る。また図15に示すように、SiCを混入させて摩擦攪拌処理を行った場合は、結晶粒径は平均6.0μmまで微細化され、微小硬度は74Hvまで向上することが判る。しかし、図13に示すように、C60を混入させて摩擦攪拌処理を行った場合に、結晶粒径は最も微細化され、微小硬度は128Hvと大幅に向上することが判る。
【0027】
実験例2
厚さ6mmのAZ31材(Alを3%、Znを1%含有するMg合金)を用意した。用意したAZ31材の表面に、図1(a)に示すような幅1mm、深さ2mmの溝12を形成した。形成した溝12に、図18に示すような外径が20〜25nmであり長さが250nm以下の炭素原子からなる複数の円筒が入れ子状に多層をなしている多層カーボンナノチューブ32を添加材14として充填した。多層カーボンナノチューブ32の充填後、図1(b)に示すように、直径4mm、長さ1.8mmのプローブ18を有し、本体の直径12mmのSKD61からなる回転ツール16によって摩擦攪拌処理を行った。回転ツールの回転速度は1500rpmとし、回転ツール16の移動速度は100mm/mm,50mm/minおよび25mm/minで行った。
【0028】
図19〜21は、それぞれ本実験例において回転ツール16の移動速度100mm/min,50mm/minおよび25mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。図19に示すように、回転ツール16の移動速度が100mm/minでは、多層カーボンナノチューブ32が凝集している部分が図中に黒く残るが、図20〜21に示すように、回転ツール16の移動速度が50mm/minおよび25mm/minでは、多層カーボンナノチューブ32がほぼ均一に分散されていることが判る。
【0029】
図22,24および26はそれぞれ本実験例において回転ツール16の移動速度100mm/min,50mm/minおよび25mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の平面図であり、図23,25および27はそれぞれの破線部における拡大図である。図22〜27に示すように、回転ツール16の移動速度が100mm/minから25mm/minへと遅くなるにつれて、図中で白く見える多層カーボンナノチューブが均一に分散されていることが判る。
【0030】
上記多層カーボンナノチューブを混入させて摩擦攪拌処理を行ったAZ31材と摩擦攪拌処理を行っていないAZ31母材について硬度試験を行った。図28に示すように摩擦攪拌処理を行っていないAZ31母材の微小硬度は41Hvであるのに対し、図29に示すように多層カーボンナノチューブを混入させて摩擦攪拌処理を行ったAZ31材の微小硬度は78Hvと向上していることが判る。
【0031】
図30はAZ31材の結晶粒を示す図であり、図31は多層カーボンナノチューブを混入させずに摩擦攪拌処理を施したAZ31材の結晶粒を示す図であり、図32は本実験例における多層カーボンナノチューブを混入させて摩擦攪拌処理を施したAZ31材の結晶粒を示す図であり、図33は図32の破線部分の拡大図である。図30および31に示すように、摩擦攪拌処理をほどこしただけでは結晶粒はあまり微細化されないが、図32および33に示すように、多層カーボンナノチューブを混入させて摩擦攪拌処理を施すことにより、結晶粒を極めて微細化できることが判る。
【0032】
実験例3
A5083材(Mgを約4.5%含有するAl合金)を用意した。用意したA5083材の表面に、図1(a)に示すような幅1mm、深さ2mmの溝12を形成した。形成した溝12にC60とC70との混合物(以下、MF(Mixed Fullerene)と呼ぶ)の粉末を添加材14として充填した。MFの充填後、図1(b)に示すように、直径4mm、長さ1.8mmのプローブ18を有し、本体の直径12mmのSKD61からなる回転ツール16によって摩擦攪拌処理を行った。回転ツール16の移動速度は50mm/minとし、回転速度は500rpm、1000rpm、1500rpm及び2000rpmで行った。
【0033】
また、同様にしてA5083材に溝12を形成した後、形成した溝12にMFをより高密度に充填するため、MFの粉末をスターチをバインダーとしてペースト状にしたMFペーストを添加材14として充填した。MFペーストの充填後、同様にして摩擦攪拌処理を行った。回転ツール16の移動速度は50mm/minとし、回転速度は1500rpmで行った。
【0034】
さらに、C1020材(純銅)を用意した。同様にしてC1020材に溝12を形成した後、形成した溝12にMFの粉末を添加材14として充填した。MFの充填後、同様にして摩擦攪拌処理を行った。回転ツール16の移動速度は50mm/minとし、回転速度は1500rpmで行った。また、同様に形成した溝にMFペーストを添加材14として充填したC1020材についても、同様にして摩擦攪拌処理を行った。
【0035】
図34〜37は、それぞれ本実験例において回転ツール16の回転速度500rpm,1000rpm,1500rpmおよび2000rpmで摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。図中のASは回転ツール16の前進側(Advancing Side)を示し、RSは回転ツール16の後退側(Retreating Side)を示す。図34〜37中で黒く見える領域にMFが分散している。図34〜37から、回転ツール16の回転速度が上昇するにつれて、MFが比較的均一に分散していることが判る。
【0036】
図38は、MFペーストを用いてA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。図38から、MFペーストを用いて摩擦攪拌処理を施した場合、図中で黒く見えるMFが分散している領域が密に存在していることが判る。また、図39は、図38の拡大図であり、A5083材の結晶粒を示すTEM(Transmission Electoron Microscope:透過電子顕微鏡)写真である。図中でMFをMF34として示す。図39より、母材であるA5083材の結晶粒がnmオーダーまで微細化されていることが判る。
【0037】
図40は、実験例3におけるMFを含むA5083材の硬度試験の結果を示すグラフ図であり、A5083材にMFを分散させた試料の表面から深さ方向への硬度分布を示す。図40より、A5083材にMFを分散させた場合、MFを含まないA5083母材と比較して著しく硬度が上昇していることが判る。図41は実験例3におけるMFを含まないA5083母材の硬度試験の様子を示す図であり、図42は実験例3におけるMFペーストを用いて摩擦攪拌処理を施されたA5083材の硬度試験の様子を示す図である。図41に示すようにMFを混入させずに摩擦攪拌処理を行ったA5083材は測定痕30が大きいのに対し、図42に示すようにMFを混入させて摩擦攪拌処理を行ったA5083材は測定痕30が小さいことが判る。
【0038】
図43は実験例3においてC1020材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図であり、図44は実験例3においてMFペーストを用いてC1020材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。図43及び44に示すように、図中で黒くMFが分散している領域が確認できる。
【0039】
図45は、実験例3における硬度試験で得られた試料の最大微小硬度を示すグラフ図である。図中でMF−P/A1050及びMF−P/A5083は、それぞれA1050材及びA5083材にMFペーストを用いて摩擦攪拌処理を施した試料を示す。また、図中でMF/C1020は、C1020材にMFの粉末を用いて摩擦攪拌処理を施した試料を示す。図45に示すように、A1050材、A5083材及びC1020材のいずれの試料についても、MFを分散させると硬度が上昇することが判る。
【図面の簡単な説明】
【0040】
【図1】本発明に係る金属材の製造方法の一実施形態を示す斜視図である。
【図2】実験例1で適用されるC60の分子構造を示す図である。
【図3】実験例1に適用されるC60の集合体を示す図である。
【図4】実験例1の摩擦攪拌処理を施した部位の状態を示す縦断面図である。
【図5】実験例1のC60を含む部位の状態を示す図である。
【図6】実験例1のC60を含まない部位の結晶粒を示す図である。
【図7】実験例1のC60を含む部位の結晶粒を示す図である。
【図8】実験例1のC60を含む部位と含まない部位との境界を示す図である。
【図9】図4における各測定点の組成を示す表である。
【図10】実験例1におけるC60を含むAZ31材の硬度試験の様子を示す図である。
【図11】実験例1におけるC60を含まないAZ31材の硬度試験の様子を示す図である。
【図12】実験例1における硬度試験の結果を示すグラフ図である。
【図13】実験例1におけるC60を含むAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図14】実験例1における黒鉛粉末を含むAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図15】実験例1におけるSiCを含むAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図16】実験例1におけるAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図17】実験例1における摩擦攪拌処理を施したAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図18】実験例2で適用されるカーボンナノチューブを示す図である。
【図19】実験例2において回転ツールの移動速度100mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図20】実験例2において回転ツールの移動速度50mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図21】実験例2において回転ツールの移動速度25mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図22】実験例2において回転ツールの移動速度100mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の平面図である。
【図23】図22の拡大図である。
【図24】実験例2において回転ツールの移動速度50mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の平面図である。
【図25】図24の拡大図である。
【図26】実験例2において回転ツールの移動速度25mm/minで摩擦攪拌処理を施した部位の平面図である。
【図27】図26の拡大図である。
【図28】実験例2における摩擦攪拌処理を行っていないAZ31材の硬度試験の様子を示す図である。
【図29】実験例2における多層カーボンナノチューブを含むAZ31材の硬度試験の様子を示す図である。
【図30】実験例2におけるAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図31】実験例2における摩擦攪拌処理を施したAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図32】実験例2における多層カーボンナノチューブを含むAZ31材の結晶粒を示す図である。
【図33】図32の拡大図である。
【図34】実験例3において回転ツールの回転速度500rpmでA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図35】実験例3において回転ツールの回転速度1000rpmでA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図36】実験例3において回転ツールの回転速度1500rpmでA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図37】実験例3において回転ツールの回転速度2000rpmでA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図38】実験例3においてMFペーストを用いてA5083材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図39】図38の拡大図である。
【図40】実験例3におけるMFを含むA5083材の硬度試験の結果を示すグラフ図である。
【図41】実験例3におけるMFを含まないA5083母材の硬度試験の様子を示す図である。
【図42】実験例3におけるMFペーストを用いて摩擦攪拌処理を行いMFを含むA5083材の硬度試験の様子を示す図である。
【図43】実験例3においてC1020材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図44】実験例3においてMFペーストを用いてC1020材の摩擦攪拌処理を施した部位の縦断面図である。
【図45】実験例3における硬度試験で得られた試料の最大微小硬度を示すグラフ図である。
【符号の説明】
【0041】
10…金属材、12…溝、14…添加材、16…回転ツール、18…プローブ、20…攪拌部、22…C60、24…炭素原子、26…C60の集合体、28…境界、30…測定痕、32…カーボンナノチューブ、34…MF。

【特許請求の範囲】
【請求項1】
最小部分の一次粒径が0.5μm未満である粒子からなる添加材を金属材の表面部位に供給し、前記表面部位に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させて、前記表面部位に前記添加材を混入させて硬度を上昇させた金属材の製造方法。
【請求項2】
前記添加材は炭素を含む、請求項1に記載の金属材の製造方法。
【請求項3】
前記添加材はフラーレンを含む、請求項1または2に記載の金属材の製造方法。
【請求項4】
前記添加材はC60を含む、請求項1〜3のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項5】
請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属材の製造方法によって硬度を上昇された金属材。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【図19】
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【図20】
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【図21】
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【図22】
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【図23】
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【図24】
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【図25】
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【図26】
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【図27】
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【図28】
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【図29】
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【図30】
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【図31】
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【図32】
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【図33】
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【図40】
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【図45】
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【図34】
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【図35】
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【図36】
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【図37】
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【図38】
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【図39】
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【図41】
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【図42】
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【図43】
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【図44】
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【公開番号】特開2007−302997(P2007−302997A)
【公開日】平成19年11月22日(2007.11.22)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−102132(P2007−102132)
【出願日】平成19年4月9日(2007.4.9)
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 平成18年3月23日 社団法人溶接学会発行の「溶接学会全国大会講演概要 第78集」に発表
【新規性喪失の例外の表示】特許法第30条第1項適用申請有り 2006年3月2日 インターネットアドレス「http://www.sciencedirect.com/science?_ob=ArticleURL&_udi=B6TXD−4JCSK6H−8&_user=10&_handle=V−WA−A−W−CY−MsSWYWW−UUA−U−AAVDVAVZCZ−AAVVEECVCZ−DEVVAABUU−CY−U&_fmt=summary&_coverDate=03%2F15%2F2006&_rdoc=50&_orig=browse&_srch=%23toc%235588%232006%23995809998%23618749!&_cdi=5588&view=c&_acet=C000050221&_version=1&_urlVersion=0&_userid=10&md5=c6272cb44bd850321cb79c746d663f29」に発表
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【出願人】(591030499)大阪市 (64)
【出願人】(302069734)本荘ケミカル株式会社 (12)
【Fターム(参考)】