金属材の製造方法及び金属材
【課題】金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能な金属材の製造方法及びこの方法で製造された金属材を提供する。
【解決手段】金属母材1a,1bとは異なる組成であり、且つ金属母材1a,1bとの化学反応を生じる添加材10を、金属母材1a,1bの一部である攪拌部20に配置し、攪拌部20に棒状の回転ツール100の先端を当接させつつ回転させる。これにより、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材1a,1bの所望の部位に対して添加材10の分散、拡散及び析出あるいは分散、拡散及び変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材1a,1bの所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。
【解決手段】金属母材1a,1bとは異なる組成であり、且つ金属母材1a,1bとの化学反応を生じる添加材10を、金属母材1a,1bの一部である攪拌部20に配置し、攪拌部20に棒状の回転ツール100の先端を当接させつつ回転させる。これにより、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材1a,1bの所望の部位に対して添加材10の分散、拡散及び析出あるいは分散、拡散及び変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材1a,1bの所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。
【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の製造方法及び金属材に関し、特に、回転ツールの先端を金属材に当接させつつ回転させる工程を含む金属材の製造方法及び当該製造方法により製造された金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料からなる被接合材同士を接合する摩擦攪拌接合が注目されている。この摩擦攪拌接合は、板状の被接合材の端部同士を突き合わせて接合部とし、当該接合部に棒状の回転ツールの先端を挿入して、回転ツールを回転させつつ接合部に沿って移動させることにより被接合材の接合を行う。このような摩擦攪拌接合では、鉄道車両や船舶といった大型構造物や突き合わせ部が長い板材などに適用する場合ギャップ(表面割れ状欠陥部)が発生してしまうことがある。ギャップとは被接合材の突き合わせ部の不整合により生じる隙間のことを指す。突き合わせ部に発生するギャップは接合部の欠陥の原因となるため突き合わせ部を平滑にする等の対策を講じて抑制する必要がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、表面割れ状欠陥部が生じた被補修材の表面割れ状欠陥部に被補修材と同じ組成の粉末状接合材料を充填し、接合工具(回転ツール)を被補修材の表面割れ状欠陥部に挿入して回転させつつ表面割れ状欠陥部に沿って移動させることにより、被補修材の表面割れ状欠陥部を補修する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−126971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アルミニウム(Al)と銅(Cu)とを主成分とする合金であるジュラルミンや、鉄(Fe)と炭素(C)との合金である炭素鋼等の金属母材に金属母材とは異なる組成の物質を添加して合金を製造することが行われている。ジュラルミンや高炭素鋼は優れた強度を有するが、硬いため加工が難しいことが欠点である。特に、ジュラルミンや高炭素鋼で大きな構造物を製造する場合、構造物の全ての部位にジュラルミンや高炭素鋼の大きな強度や硬度は必ずしも必要とはされず、構造物の一部の摺動面等の強度や硬度が大きければ足りる。そのため、ジュラルミンや高炭素鋼で構造物を製造する場合、強度や硬度が必要とされない箇所もジュラルミンや高炭素鋼等の硬く加工が難しい金属材を加工して製造することになり、製造労力の軽減の見地から改善が強く望まれている。
【0006】
本発明は、このような実情に考慮してなされたものであり、その目的は、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能な金属材の製造方法及びこの方法で製造された金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属母材を用意する工程と、金属母材とは異なる組成であり、且つ金属母材との化学反応を生じる添加材を、金属母材の一部である攪拌部に配置する工程と、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程とを含む金属材の製造方法である。
【0008】
この構成によれば、金属母材とは異なる組成であり、且つ金属母材との化学反応を生じる添加材を、金属母材の一部である攪拌部に配置し、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させるため、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材の所望の部位に対して添加材の分散、拡散、析出あるいは分散、拡散、変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。なお、例えば、上記「化学反応」とは、金属母材と添加材との界面に生成物が生成する事、添加材が金属母材中に固溶、析出及び変態の少なくともいずれかをする事、並びに金属母材が添加材中に固溶、析出及び変態の少なくともいずれかをする事等を指すものとする。また、添加材を金属母材の一部である攪拌部に配置する工程では、金属母材中に凹部を設け、当該凹部に添加材を配置する態様、金属母材同士を近接させて、その間に添加材を配置する態様、及び板状の金属母材同士を重ね合わせ、その間に添加材を配置する重ね合わせ接合と類似の態様のいずれも含むものとする。さらに、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程では、回転ツールの移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理も含まれるものとする。
【0009】
この場合、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び析出させることが好適である。
【0010】
この構成によれば、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び析出させることにより、特に金属母材がAlであり、添加材がCuである場合に、金属母材の所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0011】
あるいは、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び変態させることが好適である。
【0012】
この構成によれば、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び変態させることにより、特に金属母材がFeであり、添加材がCである場合に、金属母材の所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0013】
この場合、金属母材はAlを含むものとし、添加材はCuを含むものとすることが好適である。
【0014】
この構成によれば、金属母材はAlを含むものとし、添加材はCuを含むものとするため、AlとCuとの合金であるジュラルミンを金属母材の所望の部位に製造することが可能となる。
【0015】
また、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、攪拌部に回転ツールを少なくとも2回通過させることが好適である。
【0016】
この構成によれば、攪拌部に回転ツールを少なくとも2回通過させるため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。
【0017】
また、攪拌部は、金属母材の表面に対して幅wの凹部であり、回転ツールの先端の中央部は突出したプローブであり、プローブの径rは、r≧2wとすることが好適である。
【0018】
この構成によれば、回転ツールのプローブの径rが攪拌部の幅wに対して十分に大きいため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。なお、ここで、「金属母材の表面に対して幅wの凹部」とは、金属母材が一体の部材でその表面の凹部が幅wである他、金属部材が2個以上の部材であり、その2個以上の金属母材の距離が金属母材の表面でwである場合も含むものとする。
【0019】
また、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、攪拌部に金属母材及び添加材とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置するものとできる。
【0020】
本発明においては、金属母材と添加材との2種類の物質からなる金属材のみならず、3種類以上の物質からなる金属材も製造することが可能である。
【0021】
また、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材を攪拌部に配置することが好適である。
【0022】
この構成によれば、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材を攪拌部に配置するため、攪拌部において製造される金属材の組成を制御することがより容易になる。
【0023】
この場合、粉状又は粒状の添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更することが好適である。
【0024】
この構成によれば、粉状又は粒状の添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更するため、攪拌部において製造される金属材の組成を制御することがさらに容易になり、所望の性質の金属材を製造することがさらに容易となる。
【0025】
一方、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、添加材の端部を金属母材に対して当接又は近接させて、添加材の端部を当接又は近接させた箇所を攪拌部とし、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、攪拌部に回転ツールを当接させつつ回転させることにより、金属母材と添加材とを接合することが好適である。
【0026】
この構成によれば、添加材の端部を金属母材に対して当接又は近接させて、添加材の端部を当接又は近接させた箇所を攪拌部とし、攪拌部に回転ツールを当接させつつ回転させることにより、金属母材と添加材とを接合するため、金属母材と添加材とを接合させた上で、金属母材と添加材との接合部となる攪拌部を所望の組成の金属材とすることが可能となる。なお、この場合、添加材を金属母材の一部である攪拌部に配置する工程では、金属母材同士を近接させて、その間に添加材を配置する態様、及び板状の金属母材同士を重ね合わせ、その間に添加材を配置する重ね合わせ接合と類似の態様のいずれも含むものとする。さらに、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程では、回転ツールの移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理も含まれるものとする。
【0027】
この場合、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、添加材及び金属母材の両方の組成を含む中間材を添加材と金属母材との間に配置し、中間材を配置した箇所を攪拌部とすることが好適である。
【0028】
この構成によれば、添加材及び金属母材の両方の組成を含む中間材を添加材と金属母材との間に配置し、中間材を配置した箇所を攪拌部とするため、金属母材と中間材との生成物及び添加材と中間材との生成物が厚く生成されることが抑制されるため、より良好な攪拌部とすることが可能となる。
【0029】
加えて、本発明は、本発明の金属材の製造方法によって製造された金属材である。
【0030】
この構成によれば、所望の部位が所望の組成の金属である金属材とできる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の金属材の製造方法及び金属材によれば、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る回転ツールを示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る金属材の製造方法の添加材の配置を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る金属材の製造方法の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係る金属材の製造方法であってスポット型の添加材の配置を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る金属材の製造方法であってスポット型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型の添加材の配置を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図8】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型でスポット型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図9】攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図10】攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図11】重ね合わせ型で攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図12】第1実施形態に係る金属材の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図13】回転ツールによる1パス後の攪拌部を示す図である。
【図14】回転ツールによる2パス後の攪拌部を示す図である。
【図15】攪拌部のAl2Cuの結晶を示す図である。
【図16】攪拌部のAlCuの結晶を示す図である。
【図17】Al中のCu粒子を示す図である。
【図18】Al中のCu粒子の部位ごとの組成を示す表である。
【図19】ギャップ幅とパス数と攪拌部の具合との関係を示す表である。
【図20】攪拌部に配置した金属粉の組成と処理回数と攪拌部の硬度との関係を示す表である。
【図21】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図22】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図23】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図24】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図25】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図26】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図27】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図28】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図29】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図30】AlとCuとの状態図である。
【図31】AlとFeとの状態図である。
【図32】回転ツールの移動速度と回転速度とに対する攪拌部の具合を示すグラフである。
【図33】回転ツールの移動速度と回転速度とに対する攪拌部の具合を示す表である
【図34】第2実施形態に係る金属材の製造方法の添加材の配置を示す斜視図である。
【図35】第2実施形態に係る金属材の製造方法の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図36】第2実施形態に係る金属材の製造方法において中間材を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図37】第2実施形態に係る金属材の製造方法において中間材を添加材とした摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すような回転ツール100を用意する。回転ツール100は、略円筒状をなし、先端のショルダー101より小径の略円柱状のプローブ102を備えている。回転ツール100の材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金、またはSi3N4等のセラミックスからなるものとすることができる。
【0034】
本実施形態の金属材の製造方法では、金属母材1a,1bの表面部位に供給した添加材10を、回転ツール100を用いた摩擦攪拌処理によって金属母材1a,1b中に混入させる。金属母材1a,1bとしては、例えば、Al材、Fe材を適用することができる。
【0035】
本実施形態では、まず図2に示すように、金属母材1a,1b同士を距離wに近接させるか幅wの溝を形成して攪拌部20とし、攪拌部20に添加材10を充填する。ここで、回転ツール100のプローブ102の径rに対して、r≧2wとすることが攪拌部20の状態を良好にするために好ましい。添加材10は、金属母材1a,1bとの反応性を有する粉末状の金属あるいは非金属とし、例えば、Al、Cu、Fe、C、Mg等の粉状又は粒状の物質を適用することができる。添加材10は、異なる複数種類の物質を含むものとでき、当該複数の物質の割合を変更することにより、攪拌部20に形成される金属材の組成を変更することができる。加えて、攪拌部20の凹部のギャップの幅wと回転ツール100のプローブ径rとの比率を変化させることにより、攪拌部20に流動する金属母材1a,1bの量を変動させることで攪拌部20の組成を変化させることが可能となる。
【0036】
次に、図3に示すように、金属母材1a,1bの添加材10を充填した攪拌部20上に、回転ツール100のプローブ102を当接させつつ回転させ、さらに攪拌部20の長手方向に沿って回転ツール100を移動させることにより、攪拌部20に充填した添加材10を回転ツール100によって攪拌させ、添加材10を金属母材1a,1b中に混入させることができる。この場合、攪拌部20の長手方向に沿って2回以上、回転ツール100を通過させることが、攪拌部20の状態を良好にするために好ましい。
【0037】
また、図1に示すようなプローブ102を有する回転ツール100により摩擦攪拌処理を行う前に、図1に示す回転ツール100からプローブ102を除去した回転ツール100の先端を、金属母材1a,1bの添加材10を充填した攪拌部20上に当接させつつ回転させ、さらに攪拌部20の長手方向に沿って回転ツール100を移動させることにより、粉状又は粒状の添加材10を攪拌部20に十分に押付けて圧縮し、プローブ102を有する回転ツール100による摩擦攪拌処理の際に、攪拌部20から添加材10が漏れることを防止することができる。
【0038】
また、プローブ102を有する回転ツール100による摩擦攪拌処理の際は、必ずしも、プローブ102を攪拌部20の表面から深い部位まで挿入する必要はなく、攪拌部20の浅い表層部において摩擦攪拌処理を行っても良い。なお、添加材を十分に混入させるため、回転ツール100を、添加材10を充填した攪拌部20上で回転させつつ往復動させることもできる。
【0039】
あるいは、回転ツール100を移動させずに同じ場所で回転させ続けることによっても、添加材10を金属母材1a,1b中に混入させることができる。この場合、図4に示すように金属材1aの表面から窪んだ攪拌部20に添加材10を充填し、図5に示すように回転ツール100を金属母材1aの同じ位置で回転させ続けることにより、スポット型の摩擦攪拌処理を行っても良い。この場合、添加材10を連続した複数箇所で混入させることにより、金属母材1a,1b上の広い領域で所望の金属材を製造することができる。
【0040】
さらに、図6に示すように、板状の金属母材1a,1bを重ね合わせ、その間に添加材10を充填して攪拌部20とし、図7に示すように、回転ツール100を金属母材1aに当接させつつ回転させ、金属母材1a上を移動させることにより、攪拌部20を攪拌する重ね合わせ接合に類似した態様で摩擦攪拌処理を行っても良い。この場合も、図8に示すように、回転ツール100の移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理とすることができる。
【0041】
加えて、図2に示すような攪拌部20に対しては、図9に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を垂直方向にして積層させて配置しても良い。あるいは、図10に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を水平方向にして積層させて配置しても良い。添加材10a,10bの板厚及び数量を変更することにより、攪拌部20に形成される金属材の組成を変更することができる。図6に示すような重ね合わせ接合に類似した手法においても、図11に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を水平方向にして積層させて配置することができる。ただし、添加材10を粉状又は粒状とした方が金属母材1a,1bとの界面が大きくなり、界面における化学反応が促進されるため、添加材10を粉状又は粒状とした方が好適である。なお、添加材10の粉又は粒の大きさは、一般に細かくすることにより、界面における化学反応が促進されるため望ましいが、添加材10の粉又は粒が小さすぎると、例えば、添加材10がAl粉末の場合には、表面の酸化物により、不純物の混入に繋がるばかりか、金属母材1a,1b同士の接合もやや困難になる場合がある。さらに、本実施形態における摩擦攪拌処理にあたり攪拌部20に液体CO2や液体N2を用いることにより、冷却速度を増加させることも可能である。この場合には、後述するような好適な摩擦攪拌処理の条件範囲はより大きくなる。
【0042】
(実験例1:Al母材にCuを添加材として添加)
以下、異なる種類の金属母材1a,1bに対して異なる種類の添加材10を攪拌部20に攪拌させた実験例について説明する。金属母材1a,1bとして板状のA1050材を用意し、添加材10として100%の平均粒径106μmのCu粉末を用意した。図2に示すように、A1050材の金属母材1a,1bの端部同士を2mmの距離まで近接させて隙間を攪拌部20とし、当該攪拌部20に100%のCu粉末を充填した。図1に示すようなプローブ102のプローブ径6mm、プローブ長4.3mm、ショルダー101のショルダー径15mmの回転ツール100を用意した。この回転ツール100を図3に示すように攪拌部20に当接させつつ回転させ、攪拌部20に沿って移動させた。回転ツール100の移動速度は100mm/min、回転速度は1500rpm、傾斜角は3°とした。
【0043】
図12に示すように、攪拌部20付近は、回転ツール100の1パス(通過)後は攪拌部20の硬さが向上していることが判る。さらに、攪拌部20付近は、回転ツールの2パス後は攪拌部20における硬度の分布がより均一となっていることが判る。金属母材1a,1bの硬さは40.3Hvであるのに対し攪拌部では最大82.5Hvの硬さを示したことから、Cu粉末を攪拌部20に添加することにより、硬度が金属母材1a,1bの2倍以上となることが判る。
【0044】
1パス後の攪拌部20のSEM写真である図13、及び2パス後の攪拌部20のSEM写真である図14に示すように、すべての観察点で均一なCu粒子の分散が観察され、出発原料のCu粉末よりも粒径が小さくなっていることが確認された。このことより、摩擦攪拌処理が添加材10の微細化と均一分散に効果的であることが判る。しかしながら、Al中のCu粒子は1パス後もほぼ均一に分散しており、Cu粒子の均一分散という点だけでは2パス後の攪拌部20の硬度が均一に向上したことは説明できない。図13に示すように、このとき、HAZ部(熱影響部)での軟化が観察されるが、回転ツール100の移動速度を大きくしたり、下院店ツール100の回転速度を小さくすることで、これを抑制することができる。
【0045】
2パス後の攪拌部20のTEM写真である図15に示すように、2プロセス後のTEM像より、白色のAlマトリクス中に、ナノスケールの黒色の粒子が観察され、SADパターンの結果、この粒子はAl2Cuの組成をもつ金属間化合物であることが確認された。すなわち、本実施形態では、摩擦攪拌接合という1つの接合法を利用して、Alの金属母材1a,1b中にCu粒子の分散、拡散、析出といった3つの過程を実現することができる。なお、図16に示すように、Alの金属母材1a,1b中には、AlCuの形でも結晶が析出していることが判る。
【0046】
Alの金属母材1a,1b中のCu粒子のSEM写真である図17、及び当該Cu粒子の組成を示す図18にあるように、Alの金属母材1a,1b中のCu粒子はAl中で反応し、Cu粒子の周辺の位置P1からCu粒子の中心の位置P4に至るにつれて、Alに対するCuの割合が増加していることが判る。図17に示すように、Cu粒子中に異なる組成のいくつかの反応相の生成が観察された。図18は各反応層のEDS分析の結果を示す。2番の層である位置P2ではアルミニウムと銅が3対1の割合で、3番の層である位置P3では9対11の割合で存在しており、Cu粒子中にはAl−rich相とCu−rich相が形成されていることが確認された。すべての粒子で同様に反応相が形成されていることが示唆され、添加材10としてCu粉末を用いたことが、AlとCuの反応界面積を増加させ、Alマトリクス中への反応生成物の分散能を向上させたと考えられる。
【0047】
金属母材1a,1b同士の隙間(ギャップ幅)を2mm、3mm、4mmと変化させ、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にCuの添加材10を攪拌させた。図19に丸印で示すように、示すように、プローブ径6mmに対して、2分の1以下のギャップ幅3mmでは、2パス後に良好な攪拌部20が得られていることが判る。なお3プロセス後も、図16と同様のナノスケールの黒色の粒子が観察され、SADパターンの結果この粒子はAlCuの組成をもつ金属間化合物であることが確認された。粒子の粒径は200nm程度であることから均一な硬さの増加はナノオーダーの金属間化合物がAlマトリックス中に均一に分布したためであると考えられる。これは、摩擦攪拌処理による強ひずみとその過程で生じる熱が金属間化合物生成に寄与したと考えられる。
【0048】
金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、100%のCu粉末、混合比が3:7のCu粉末とAl粉末との混合粉末を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にCuの添加材10を攪拌させた。なお、Al粉末の平均粒径は89μmであった。図20の表及び図21〜23のグラフに示す30%のCu粉末を攪拌させた攪拌部20付近の硬度分布より、CuとAlとの混合粉末を添加材10として用いても、攪拌部20付近の硬度を向上させることができることが判る。この場合においても、2パス以上の加工を加えることにより、攪拌部20付近の硬度分布がより均一になることが判る。
【0049】
(実験例2:Al母材にSiCを添加材として添加)
Alの金属母材1a,1bとの反応性はないが、参考のため、混合比が1:9のCu粉末とSiC粉末との混合粉末を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にSiCの添加材10を攪拌させた。図24〜26のグラフに示すSiC粉末を攪拌させた攪拌部20付近の硬度分布より、SiC粉末を攪拌部20に攪拌することで、攪拌部20付近と周辺のAlの金属母材1a,1bとで硬度分布を均一にすることができることが判る。これにより、例えば、金属母材1a,1b同士を接合する際に、SiC粉末を接合部となる攪拌部20に添加材10として充填することにより、接合部である攪拌部20の硬度を周囲と均一に保つことが可能となる。
【0050】
(実験例3:Al母材にFeを添加材として添加)
金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、100%のFe粉末、を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にFeの添加材10を攪拌させた。図27〜29のグラフに示すFe粉末を攪拌させた攪拌部20付近のの硬度分布より、100%のFe粉末を添加材10として用いても、攪拌部20付近の硬度を向上させることができることが判る。この場合においても、2パス以上の加工を加えることにより、攪拌部20付近の硬度分布がより均一になることが判る。なお、100%のFe粉末を添加材10として用いた場合に、100%のCu粉末を添加材10として用いた場合に比べて攪拌部20周辺の硬度の上昇が低いのは、図30のAlとCuの状態図、及び図31のAlとFeの状態図に示すように、Cuに比べてFeの固溶度が低いためと考えられる。すなわち、Cuの場合は摩擦攪拌処理中にAl中に固溶し、冷却中に析出してAl2Cuとなるため、硬度が強くなる。一方、Feの場合は摩擦攪拌処理中に固溶しないため、Al中に小さく分散し、Fe粒子と、Fe粒子の界面に生成する金属間化合物とによりある程度は硬度が向上するが、Cuのように析出はしないため、上記のような結果になると考えれる。
【0051】
(実験例4:Fe母材にCを添加材として添加)
金属母材1a,1bとして板状のパーライト系鋳鉄を用意し、添加材10として100%の黒鉛粉末を用意した。回転ツールとしては、図1に示す回転ツールからプローブ102を除去したものを用意した。ショルダー径は25mmとした。金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、回転ツール100の移動速度及び回転速度を変更しつつ、上記と同様に攪拌部20に黒鉛の添加材10を攪拌させた。また、添加材10を添加しないパーライト系鋳鉄についても、摩擦攪拌処理による表面焼入れの効果を検証するため、同様に回転ツールにより表面を攪拌した。
【0052】
ここで、攪拌部20に対する入熱Tには、T∝(回転ツールの回転速度×回転ツールの攪拌部への荷重)/回転ツール移動速度、あるいはT∝(回転ツールの回転速度×回転ツールの攪拌部への荷重×回転ツールのショルダー径)/回転ツール移動速度の関係が成り立つ。
【0053】
ここで図32に示すように、黒鉛粉末の添加材10を添加しないパーライト系鋳鉄よりも、黒鉛粉末の添加材10を添加した攪拌部20を良好な状態とする回転ツールの回転速度、荷重及び移動速度の適正な範囲は、Fe中へのCの拡散が必要なため、狭くなる。この場合、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、あるいは、750000[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]を満たすように、攪拌を行なうことが攪拌部20を良好な状態とするために好ましい。図33に示した実験結果により、上記条件を満たすことにより、良好な攪拌部20を得ることができることが判る。
【0054】
また、上記の2式は、金属母材1a,1bとして、厚さ5mm、幅100mm、長さ300mmの板状の試料を用いた場合に対するものである。したがって、より厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、上限の値をそれぞれ金属母材1a,1bの板厚t[mm]に対して150000000×t/5、及び3750000×t/5とするのが望ましい。一方、より厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、下限である値をそれぞれ金属母材1a,1bの板厚t[mm]に対して30000000×t/5及び750000×t/5とするのが望ましい。
【0055】
この場合、上記の2式は、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5[r・kg/m]、及び750000[r・kg]<(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]≦3750000[r・kg]×t/5となる。
【0056】
一方、上記の2式は、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、及び750000×t/5[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]となる。
【0057】
さらに、上記4式は回転ツール100の前進角を3°とした場合に対するものであり、前進角θ[°]をこれより大きくした場合には、接触面積が小さくなりより局所的に加熱されるため、温度が上昇し、前進角θ[°]を小さくした場合には、温度が低下することが予測される。したがって、回転ツール100の前進角θ[°]が3°以上の場合には、上記2式の下限の値を30000000×cosθ/cos(3°)、及び750000×cosθ/cos(3°)とすることが望ましい。
【0058】
この場合、上記4式は、30000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5[r・kg/m]、及び750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×t/5[r・kg]となり、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、及び750000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]となる。
【0059】
また、前進角θ[°]が3°以下の場合には、上記4式の上限の値を150000000×cosθ/cos(3°)、3750000×cosθ/cos(3°)、150000000××t/5×cosθ/cos(3°)、及び3750000[r・kg]×t/5cosθ/cos(3°)とすることが望ましい。
【0060】
この場合、上記4式は、30000000×[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、750000×[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、及び750000[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg]となり、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、及び750000×t/5[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]となり
【0061】
なお、上記条件は特に1回目の回転ツール100の攪拌部20への通過の際に満たすことが好ましい。しかし、2回目の回転ツール100の攪拌部20への通過の際には、1回目の通過で攪拌部20が十分に攪拌されているため、攪拌部20の冷却速度の方が重要となる。攪拌部20の冷却速度は回転ツール100の移動速度に関連するため、2回目以降の回転ツール100の攪拌部20への通過の際には、上記条件には限らず、回転ツール100の移動速度は、0.6[m/min]以上、4[m/min]以下として攪拌を行なうことで、攪拌部20を、回転ツール100を1回のみ通過させるときよりも、さらに良好な状態とすることができる。つまり、1パス目が、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]とし、2パス目が、1500000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]とすることが好適である。
【0062】
あるいは、1パス目が、750000[r・kg]<(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]とし、2パス目が、37500[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]
【0063】
なお、以下、他の金属母材1a,1b及び添加材20の組合せについて述べる。
【0064】
(Alを金属母材とした他の添加材の組合せ)
上述したAlの金属母材1a,1bにCuの添加材20を攪拌させたAl−Cu系において、GPゾーン(Guinier-Preston zone)による強化を顕著にするには、さらに第3元素として、Mgを添加する方法がある。
【0065】
また、この他にも種々の組み合わせが可能であり、例えば、Alの金属母材1a,1bにSiの添加材20を攪拌させたAl−Si系においては、共晶点の12%Si付近の組成が特性も良く頻繁に使用される。しかし、この組み合わせにおいては、溶解、鋳造時にSiが過冷しやすく、粗大がSiが晶出しやすいことから、NaやSr等の添加による改良処理が必要であるが、本手法では、固体でプロセスが行われるため、このような問題は起こらないばかりか、回転ツール100による攪拌作用により、Siの微細化が図れ、非常に良好な機械的特性が得られる。
【0066】
この他にも、10%程度までのMgを添加することで、耐食性、強さ、伸びが向上することが可能である。α固溶体とβ相(Al3Mg2)とが451℃で共晶関係にあり、この組み合わせでは、低比重で被削性も向上する。
【0067】
2種類以上の粉末等を添加する場合を考えると、MgとSiを加えた、Al−Mg−Si系(例えば1質量%Mg、0.6質量%Si)、CuとMgを加えたAl−Cu−Mg系(例えば4質量%Cu、0.5質量%Mg)、さらにMnを加えたAl−Cu−Mg−Mn系(例えば、(4質量%Cu、0.5質量%Mg、0.5質量%Mn)(4.5質量%Cu,1.5質量%Mg,0.6質量%Mn)など)、さらにSiを加えたAl−Cu−Si−Mn−Mg系(例えば、4.4質量%Cu,0.8質量%Si,0.8質量%Mn,0.4質量%Mg)、ZnとMgを加えたAl−Zn−Mg系、Cu、Ni、Mgを加えたAl−Cu−Ni−Mg(例えば、4質量%Cu,2質量%Ni,1.5質量%Mg)系等が有効である。Mg2Si、CuAl2、Al5Cu2Mg、Al2CuMg、MgZn2、Al2Mg3Zn3等の化合物を微細に析出させることにより、高強度化できるが、本実施形態の処理においては、熱処理を行わなくても、条件の最適化をすることによりこれを達成することができるのが特長である。(もちろん、必要に応じて熱処理を併用するのは問題ない。)
【0068】
(Feを金属母材とした他の添加材の組合せ)
一方、鉄系材料においては、実施例の他に以下のような組み合わせも考えられる。例えば、鋳鉄において、焼き入れ性を向上させるのはCのみではなく、部分的に、Cr、Mo、Ni、V、Cu等添加して、焼き入れ性を向上させる方法もある。
【0069】
この他の鉄系材料においても、例えば、オーステナイト系鋼にCr、Mo、Si、Nb、V、W、Ti、Ta、Al等のフェライト安定化元素を添加して、部分的にフェライト化したり、逆にフェライト系鋼に、Ni、C、N、Mn、Co、Cu等のオーステナイト安定化元素を添加して、部分的にオーステナイト化することも可能である。また、それを急冷して、マルテンサイト化することもあり得る。
【0070】
このように、本実施形態の手法では、使用者のニーズに合わせて、大型構造物の一部の特性を容易にかつ安定的に変化させることが可能である。
【0071】
(Cuを金属母材とした他の添加材の組合せ)
Cu合金の場合には、回転ツール100にSKD61等の工具鋼を用いて行うことも可能であるが、耐久性を考えると、WC系合金の超硬合金等を用いることが望ましい。
【0072】
Znを添加することで、良好な機械的特性、耐食性、高耐高温酸化性を向上させ、光沢も良い表面が得られる。例えば、Znを30〜40%とするのが適量である。Znが38%以下であれば、面心立方格子型のα黄銅となり、それを超えると、(α+β)黄銅となる。一方、Znが35%を超えるとβ相が出現する可能性があり、β相が出現すると、硬さと強さを急激に増加させること可能である。
【0073】
複数元素を入れる例として、Cuを54〜62質量%、Znを30〜40質量%、Alを0〜4質量%、Mnを0〜5質量%、Feを0〜2質量%、Snを0〜1質量%、Pbを0〜0.5質量%、Niを0〜1質量%添加することにより、ブリネル硬さを110〜170、引張強度を450〜750MPa、0.2%耐力を220〜440MPa、伸びを35〜12%の範囲に変化させることが可能である。
【0074】
特にNiを添加すると(例えば、Cu48.6質量%、Zn39.5質量%、Mn0.33質量%、Fe2.8質量%、Al0.48質量%、Ni8.0質量%)、β相の多くない高強度合金が得られ、極めて剛性の高い合金が得られる。
【0075】
また、Znが増加すると、脱亜鉛腐食が生ずるが、これを防ぐ為には、Zn量を30質量%以下にするか、AsまたはSn等を1質量%程度の少量添加することで防ぐことが可能である。
【0076】
一方、Snを添加した場合には、Znを添加した場合と比較して、耐食性、耐摩耗性をさらに向上させることが可能である。Cu−Sn系は凝固温度範囲が非常に長く、一旦溶解すると、凝固時に偏析が起こりやすいが、本手法は固相で行われるため、このような問題は起こらないのが特長である。
【0077】
Snを添加することにより、耐食性が向上する。また、耐海水性も向上し、10質量%Snまでは、Sn量が増加するにつれ向上する。例えば、12質量%Snを添加することにより、700℃焼き鈍し材でも、ブリネル硬さを40から80へ、引張強度が250MPaから450MPaへ向上させることが可能である。また、Snを添加することによって、色が変色し、青銅となる。また、着色のために、3〜5質量%程度のPbを含有させるのも効果的である。
【0078】
Sn量が15質量%超えるとδ相が析出し、硬度を上昇させることが可能である。また、0.05〜0.5質量%のPを添加することにより、合金の硬さ、強さが増加し、耐摩耗性、弾性が改善される。通常は、このような組成で溶解、鋳造では偏析が起こりやすいが、本手法では、溶解を伴わないので、容易に作製することが可能である。一方、鉛を4〜22質量%入れると、潤滑性が向上する。この場合も、溶解法では逆偏析が起こりやすいが、本プロセスではそのような問題は生じない。
【0079】
また、本プロセスのみで硬化が十分でない場合には、熱処理を併用することもむろん可能である。例えば、Cu−20質量%Sn合金を200〜350℃で熱処理すると硬化し、例えば、750℃より焼き入れ後、300℃で焼き戻しすると、ブリネル硬さが161から212へ上昇する。
【0080】
さらに、複数元素の添加例として、NiとSnを添加した場合(例えば、Cu:Ni:Sn=89:9:2に調整すると)、スピノーダル分解を起こし、Ni3Snの析出し、Al−Cu系と同様な効果が得られる。さらに、これにZnを添加した場合、(例えば、Cu:Ni:Sn:Zn=88:5:5:2の場合)、引張強さは600MPa以上、ブリネル硬さは170以上となる。
【0081】
次に、Cuの金属母材にAlを添加した場合について述べる。Alを9.0〜15.6質量%添加すると、鋼と同様なパーライトと同様な層状共析組織になり、良好な機械的特性が得られ、急冷するとマルテンサイト、ベイナイト組織が得られる。
【0082】
これに、他の元素を添加し、3元系とするとさらに良い特性が得られる。例えば、Feが固溶限以上に添加するとκ相(FeAl)が析出するが、3.5質量%以上添加すると、β相の微細化に効果を発揮する。また、Niも4〜5質量%の添加で同様な効果が期待できる。NiとFeが共に4〜5質量%、Alが9.5〜9.8質量%とすると、最も良好な機械的特性が得られる。特に、強さ、耐摩耗性、耐食性、耐浸食性にすぐれ、特に耐浸食性に関しては、高Crステンレス鋳物より優れる。
【0083】
また、Cuに2.5質量%までのBe、おおよそ2質量%程度のBeを添加すると、γ(CuBe)が析出し、強さ、耐摩耗性、導電率が向上する。4質量%Beではブリネル硬さが500を超えることがある。
【0084】
(Mgを金属母材とした添加材の組合せ)
Mgに対しては、AlあるはZnあるいは両方を添加するのが有効である。これらでは、固溶強化の他に、Mg17Al12やAl2Mg3Zn3等の析出物によって、機械的特性の向上が図られる。また、2%程度のCaを添加することにより、難燃性へと変化する。
【0085】
(Tiを金属母材とした添加材の組合せ)
Tiには、Al、Sn、Mn、Fe、Cr、Mo、V等を添加すると、機械的特性を向上させることができる。これらは、チタンのα相を安定化させるものと、β相を安定化するものに分けられ、Alは前者に分類される。α相の強化を図るものは、固溶強化である。α相はちゅう密六方型結晶であるので、塑性変形能は低下するが、高温強さが向上し、クリープ特性が改善される(強いα+強いβ)。
【0086】
一方、β相を安定化した、例えば、7質量%Mn合金では、β相を強化し、α相の靱性をあまり損じないから、合金の加工性がよく、圧延して板材などにつくることに適する(強いβ+粘りがあるα)。
【0087】
合金の種類を列記すると以下の通りである。
α安定化型合金:Al、Sn、O、N
β共析型合金:Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Ag、Pb、Si、W
β固溶体型合金:Mo、V、Nb、Ta
α、β全率固溶体型合金:Zr
【0088】
また、β相から急冷させ、β相を残留させて熱処理効果が期待できる合金にFe、Mg、Cr、Mnなどである。本実施形態の処理では、条件を最適化することにより、熱処理なしで同様な効果が得られる。
【0089】
本実施形態によれば、金属母材1a,1bとは異なる組成であり、且つ金属母材1a,1bとの化学反応を生じる添加材10を、金属母材1a,1bの一部である攪拌部20に配置し、攪拌部20に棒状の回転ツール100の先端を当接させつつ回転させるため、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材1a,1bの所望の部位に対して添加材10の分散、拡散及び析出あるいは分散、拡散及び変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材1a,1bの所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。特に、摩擦攪拌接合の手法により、従来、熟練を要していた焼入れ作業等をより速く行なうことができる。特に、大型の金属構造物の一部の硬度を高めたいときに、本実施形態の方法は効果を発揮する。
【0090】
特に、本実施形態によれば、金属母材1a,1b中に添加材10を攪拌、拡散、及び析出させることにより、特に金属母材1a,1bがAlであり、添加材10がCuである場合に、金属母材1a,1bの所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0091】
あるいは、本実施形態によれば、金属母材中1a,1bに添加材10を攪拌、拡散、及び変態させることにより、特に金属母材1a,1bがFeであり、添加材10がCである場合に、金属母材1a,1bの所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0092】
さらに、本実施形態によれば、金属母材1a,1bはAlを含むものとし、添加材10はCuを含むものとするため、AlとCuとの合金であるジュラルミンを金属母材1a,1bの所望の部位に製造することが可能となる。
【0093】
また、本実施形態によれば、攪拌部20に回転ツール100を少なくとも2回通過させるため、攪拌部20の状態をより良好なものとすることができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、回転ツール100のプローブ102の径rがr≧2wと攪拌部の幅wに対して十分に大きいため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。
【0095】
さらに、本実施形態によれば、添加材10を金属母材1a,1bの攪拌部20に配置する工程では、攪拌部20に金属母材1a,1b及び添加材10とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置することにより、金属母材1a,1bと添加材10との2種類の物質からなる金属材のみならず、3種類以上の物質からなる金属材も製造することが可能である。
【0096】
また、本実施形態によれば、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材10を攪拌部20に配置するため、攪拌部20において製造される金属材の組成を制御することがより容易になる。
【0097】
加えて、本実施形態によれば、粉状の添加材10は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更するため、攪拌部20において製造される金属材の組成を制御することがさらに容易になり、所望の性質の金属材を製造することがさらに容易となる。
【0098】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。図34に示すように、本実施形態では、板状の金属母材1aと板状の添加材11とを端部同士で突き合せるか、近接させて攪拌部20とする。板状の金属母材1aあるいは板状の添加材11としては、上記第1実施形態と同様とすることができる。次に、図35に示すように、攪拌部20に回転ツール100を当接させつつ回転させ、回転ツール100を攪拌部20の長手方向に沿って移動させることにより、金属母材1aと添加材11とを接合する。これにより、金属母材1aと添加材20とを接合させた上で、金属母材1aと添加材11との接合部となる攪拌部20を所望の組成の金属材とすることが可能となる。なお、本実施形態の態様においても、図4及び図5に示すようなスポット型の摩擦攪拌処理、図6〜8に示したような重ね合わせ接合に類似の摩擦攪拌処理を行うものとできる。
【0099】
あるいは、図36に示すように、板状の金属母材1a及び板状の添加材11の間に、金属母材1a及び添加材11の両方の組成を含む中間材12を配置して、攪拌部20とし、図37に示すように、攪拌部20に対して摩擦攪拌処理を行っても良い。この態様では、添加材11及び金属母材1aの両方の組成を含む中間材12を添加材11と金属母材1aとの間に配置し、中間材12を配置した箇所を攪拌部20とするため、金属母材1aと中間材12との生成物及び添加材11と中間材12との生成物が厚く生成されることが抑制されるため、より良好な攪拌部20とすることが可能となる。
【0100】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0101】
1a,1b…金属母材、10,10a,10b…添加材、11…異種金属材、12…中間材、20…攪拌部、100…回転ツール、101…ショルダー、102…プローブ。
【技術分野】
【0001】
本発明は、金属材の製造方法及び金属材に関し、特に、回転ツールの先端を金属材に当接させつつ回転させる工程を含む金属材の製造方法及び当該製造方法により製造された金属材に関する。
【背景技術】
【0002】
近年、金属材料からなる被接合材同士を接合する摩擦攪拌接合が注目されている。この摩擦攪拌接合は、板状の被接合材の端部同士を突き合わせて接合部とし、当該接合部に棒状の回転ツールの先端を挿入して、回転ツールを回転させつつ接合部に沿って移動させることにより被接合材の接合を行う。このような摩擦攪拌接合では、鉄道車両や船舶といった大型構造物や突き合わせ部が長い板材などに適用する場合ギャップ(表面割れ状欠陥部)が発生してしまうことがある。ギャップとは被接合材の突き合わせ部の不整合により生じる隙間のことを指す。突き合わせ部に発生するギャップは接合部の欠陥の原因となるため突き合わせ部を平滑にする等の対策を講じて抑制する必要がある。
【0003】
そこで、例えば、特許文献1では、表面割れ状欠陥部が生じた被補修材の表面割れ状欠陥部に被補修材と同じ組成の粉末状接合材料を充填し、接合工具(回転ツール)を被補修材の表面割れ状欠陥部に挿入して回転させつつ表面割れ状欠陥部に沿って移動させることにより、被補修材の表面割れ状欠陥部を補修する技術が開示されている。
【先行技術文献】
【特許文献】
【0004】
【特許文献1】特開2003−126971号公報
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
ところで、アルミニウム(Al)と銅(Cu)とを主成分とする合金であるジュラルミンや、鉄(Fe)と炭素(C)との合金である炭素鋼等の金属母材に金属母材とは異なる組成の物質を添加して合金を製造することが行われている。ジュラルミンや高炭素鋼は優れた強度を有するが、硬いため加工が難しいことが欠点である。特に、ジュラルミンや高炭素鋼で大きな構造物を製造する場合、構造物の全ての部位にジュラルミンや高炭素鋼の大きな強度や硬度は必ずしも必要とはされず、構造物の一部の摺動面等の強度や硬度が大きければ足りる。そのため、ジュラルミンや高炭素鋼で構造物を製造する場合、強度や硬度が必要とされない箇所もジュラルミンや高炭素鋼等の硬く加工が難しい金属材を加工して製造することになり、製造労力の軽減の見地から改善が強く望まれている。
【0006】
本発明は、このような実情に考慮してなされたものであり、その目的は、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能な金属材の製造方法及びこの方法で製造された金属材を提供することにある。
【課題を解決するための手段】
【0007】
本発明は、金属母材を用意する工程と、金属母材とは異なる組成であり、且つ金属母材との化学反応を生じる添加材を、金属母材の一部である攪拌部に配置する工程と、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程とを含む金属材の製造方法である。
【0008】
この構成によれば、金属母材とは異なる組成であり、且つ金属母材との化学反応を生じる添加材を、金属母材の一部である攪拌部に配置し、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させるため、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材の所望の部位に対して添加材の分散、拡散、析出あるいは分散、拡散、変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。なお、例えば、上記「化学反応」とは、金属母材と添加材との界面に生成物が生成する事、添加材が金属母材中に固溶、析出及び変態の少なくともいずれかをする事、並びに金属母材が添加材中に固溶、析出及び変態の少なくともいずれかをする事等を指すものとする。また、添加材を金属母材の一部である攪拌部に配置する工程では、金属母材中に凹部を設け、当該凹部に添加材を配置する態様、金属母材同士を近接させて、その間に添加材を配置する態様、及び板状の金属母材同士を重ね合わせ、その間に添加材を配置する重ね合わせ接合と類似の態様のいずれも含むものとする。さらに、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程では、回転ツールの移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理も含まれるものとする。
【0009】
この場合、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び析出させることが好適である。
【0010】
この構成によれば、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び析出させることにより、特に金属母材がAlであり、添加材がCuである場合に、金属母材の所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0011】
あるいは、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び変態させることが好適である。
【0012】
この構成によれば、金属母材中に添加材を攪拌、拡散、及び変態させることにより、特に金属母材がFeであり、添加材がCである場合に、金属母材の所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0013】
この場合、金属母材はAlを含むものとし、添加材はCuを含むものとすることが好適である。
【0014】
この構成によれば、金属母材はAlを含むものとし、添加材はCuを含むものとするため、AlとCuとの合金であるジュラルミンを金属母材の所望の部位に製造することが可能となる。
【0015】
また、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、攪拌部に回転ツールを少なくとも2回通過させることが好適である。
【0016】
この構成によれば、攪拌部に回転ツールを少なくとも2回通過させるため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。
【0017】
また、攪拌部は、金属母材の表面に対して幅wの凹部であり、回転ツールの先端の中央部は突出したプローブであり、プローブの径rは、r≧2wとすることが好適である。
【0018】
この構成によれば、回転ツールのプローブの径rが攪拌部の幅wに対して十分に大きいため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。なお、ここで、「金属母材の表面に対して幅wの凹部」とは、金属母材が一体の部材でその表面の凹部が幅wである他、金属部材が2個以上の部材であり、その2個以上の金属母材の距離が金属母材の表面でwである場合も含むものとする。
【0019】
また、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、攪拌部に金属母材及び添加材とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置するものとできる。
【0020】
本発明においては、金属母材と添加材との2種類の物質からなる金属材のみならず、3種類以上の物質からなる金属材も製造することが可能である。
【0021】
また、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材を攪拌部に配置することが好適である。
【0022】
この構成によれば、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材を攪拌部に配置するため、攪拌部において製造される金属材の組成を制御することがより容易になる。
【0023】
この場合、粉状又は粒状の添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更することが好適である。
【0024】
この構成によれば、粉状又は粒状の添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更するため、攪拌部において製造される金属材の組成を制御することがさらに容易になり、所望の性質の金属材を製造することがさらに容易となる。
【0025】
一方、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、添加材の端部を金属母材に対して当接又は近接させて、添加材の端部を当接又は近接させた箇所を攪拌部とし、攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、攪拌部に回転ツールを当接させつつ回転させることにより、金属母材と添加材とを接合することが好適である。
【0026】
この構成によれば、添加材の端部を金属母材に対して当接又は近接させて、添加材の端部を当接又は近接させた箇所を攪拌部とし、攪拌部に回転ツールを当接させつつ回転させることにより、金属母材と添加材とを接合するため、金属母材と添加材とを接合させた上で、金属母材と添加材との接合部となる攪拌部を所望の組成の金属材とすることが可能となる。なお、この場合、添加材を金属母材の一部である攪拌部に配置する工程では、金属母材同士を近接させて、その間に添加材を配置する態様、及び板状の金属母材同士を重ね合わせ、その間に添加材を配置する重ね合わせ接合と類似の態様のいずれも含むものとする。さらに、攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程では、回転ツールの移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理も含まれるものとする。
【0027】
この場合、添加材を金属母材の攪拌部に配置する工程では、添加材及び金属母材の両方の組成を含む中間材を添加材と金属母材との間に配置し、中間材を配置した箇所を攪拌部とすることが好適である。
【0028】
この構成によれば、添加材及び金属母材の両方の組成を含む中間材を添加材と金属母材との間に配置し、中間材を配置した箇所を攪拌部とするため、金属母材と中間材との生成物及び添加材と中間材との生成物が厚く生成されることが抑制されるため、より良好な攪拌部とすることが可能となる。
【0029】
加えて、本発明は、本発明の金属材の製造方法によって製造された金属材である。
【0030】
この構成によれば、所望の部位が所望の組成の金属である金属材とできる。
【発明の効果】
【0031】
本発明の金属材の製造方法及び金属材によれば、金属母材の所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。
【図面の簡単な説明】
【0032】
【図1】第1実施形態に係る回転ツールを示す斜視図である。
【図2】第1実施形態に係る金属材の製造方法の添加材の配置を示す斜視図である。
【図3】第1実施形態に係る金属材の製造方法の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図4】第1実施形態に係る金属材の製造方法であってスポット型の添加材の配置を示す斜視図である。
【図5】第1実施形態に係る金属材の製造方法であってスポット型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図6】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型の添加材の配置を示す斜視図である。
【図7】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図8】第1実施形態に係る金属材の製造方法であって重ね合わせ型でスポット型の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図9】攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図10】攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図11】重ね合わせ型で攪拌部に複数種類の添加材を積層させた積層板を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図12】第1実施形態に係る金属材の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図13】回転ツールによる1パス後の攪拌部を示す図である。
【図14】回転ツールによる2パス後の攪拌部を示す図である。
【図15】攪拌部のAl2Cuの結晶を示す図である。
【図16】攪拌部のAlCuの結晶を示す図である。
【図17】Al中のCu粒子を示す図である。
【図18】Al中のCu粒子の部位ごとの組成を示す表である。
【図19】ギャップ幅とパス数と攪拌部の具合との関係を示す表である。
【図20】攪拌部に配置した金属粉の組成と処理回数と攪拌部の硬度との関係を示す表である。
【図21】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図22】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図23】攪拌部にCu粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図24】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図25】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図26】攪拌部にSiC粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図27】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる1パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図28】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる2パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図29】攪拌部にFe粉末を配置し回転ツールによる3パス後の攪拌部の硬度を示すグラフである。
【図30】AlとCuとの状態図である。
【図31】AlとFeとの状態図である。
【図32】回転ツールの移動速度と回転速度とに対する攪拌部の具合を示すグラフである。
【図33】回転ツールの移動速度と回転速度とに対する攪拌部の具合を示す表である
【図34】第2実施形態に係る金属材の製造方法の添加材の配置を示す斜視図である。
【図35】第2実施形態に係る金属材の製造方法の摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【図36】第2実施形態に係る金属材の製造方法において中間材を添加材として配置した様子を示す斜視図である。
【図37】第2実施形態に係る金属材の製造方法において中間材を添加材とした摩擦攪拌処理を示す斜視図である。
【発明を実施するための形態】
【0033】
以下、本発明の実施の形態について添付図面を参照して説明する。本実施形態では、図1に示すような回転ツール100を用意する。回転ツール100は、略円筒状をなし、先端のショルダー101より小径の略円柱状のプローブ102を備えている。回転ツール100の材質は、例えば、JISに規格されているSKD61鋼等の工具鋼や、タングステンカーバイト(WC)を主成分とする超硬合金、またはSi3N4等のセラミックスからなるものとすることができる。
【0034】
本実施形態の金属材の製造方法では、金属母材1a,1bの表面部位に供給した添加材10を、回転ツール100を用いた摩擦攪拌処理によって金属母材1a,1b中に混入させる。金属母材1a,1bとしては、例えば、Al材、Fe材を適用することができる。
【0035】
本実施形態では、まず図2に示すように、金属母材1a,1b同士を距離wに近接させるか幅wの溝を形成して攪拌部20とし、攪拌部20に添加材10を充填する。ここで、回転ツール100のプローブ102の径rに対して、r≧2wとすることが攪拌部20の状態を良好にするために好ましい。添加材10は、金属母材1a,1bとの反応性を有する粉末状の金属あるいは非金属とし、例えば、Al、Cu、Fe、C、Mg等の粉状又は粒状の物質を適用することができる。添加材10は、異なる複数種類の物質を含むものとでき、当該複数の物質の割合を変更することにより、攪拌部20に形成される金属材の組成を変更することができる。加えて、攪拌部20の凹部のギャップの幅wと回転ツール100のプローブ径rとの比率を変化させることにより、攪拌部20に流動する金属母材1a,1bの量を変動させることで攪拌部20の組成を変化させることが可能となる。
【0036】
次に、図3に示すように、金属母材1a,1bの添加材10を充填した攪拌部20上に、回転ツール100のプローブ102を当接させつつ回転させ、さらに攪拌部20の長手方向に沿って回転ツール100を移動させることにより、攪拌部20に充填した添加材10を回転ツール100によって攪拌させ、添加材10を金属母材1a,1b中に混入させることができる。この場合、攪拌部20の長手方向に沿って2回以上、回転ツール100を通過させることが、攪拌部20の状態を良好にするために好ましい。
【0037】
また、図1に示すようなプローブ102を有する回転ツール100により摩擦攪拌処理を行う前に、図1に示す回転ツール100からプローブ102を除去した回転ツール100の先端を、金属母材1a,1bの添加材10を充填した攪拌部20上に当接させつつ回転させ、さらに攪拌部20の長手方向に沿って回転ツール100を移動させることにより、粉状又は粒状の添加材10を攪拌部20に十分に押付けて圧縮し、プローブ102を有する回転ツール100による摩擦攪拌処理の際に、攪拌部20から添加材10が漏れることを防止することができる。
【0038】
また、プローブ102を有する回転ツール100による摩擦攪拌処理の際は、必ずしも、プローブ102を攪拌部20の表面から深い部位まで挿入する必要はなく、攪拌部20の浅い表層部において摩擦攪拌処理を行っても良い。なお、添加材を十分に混入させるため、回転ツール100を、添加材10を充填した攪拌部20上で回転させつつ往復動させることもできる。
【0039】
あるいは、回転ツール100を移動させずに同じ場所で回転させ続けることによっても、添加材10を金属母材1a,1b中に混入させることができる。この場合、図4に示すように金属材1aの表面から窪んだ攪拌部20に添加材10を充填し、図5に示すように回転ツール100を金属母材1aの同じ位置で回転させ続けることにより、スポット型の摩擦攪拌処理を行っても良い。この場合、添加材10を連続した複数箇所で混入させることにより、金属母材1a,1b上の広い領域で所望の金属材を製造することができる。
【0040】
さらに、図6に示すように、板状の金属母材1a,1bを重ね合わせ、その間に添加材10を充填して攪拌部20とし、図7に示すように、回転ツール100を金属母材1aに当接させつつ回転させ、金属母材1a上を移動させることにより、攪拌部20を攪拌する重ね合わせ接合に類似した態様で摩擦攪拌処理を行っても良い。この場合も、図8に示すように、回転ツール100の移動を伴わないスポット型の摩擦攪拌処理とすることができる。
【0041】
加えて、図2に示すような攪拌部20に対しては、図9に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を垂直方向にして積層させて配置しても良い。あるいは、図10に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を水平方向にして積層させて配置しても良い。添加材10a,10bの板厚及び数量を変更することにより、攪拌部20に形成される金属材の組成を変更することができる。図6に示すような重ね合わせ接合に類似した手法においても、図11に示すように、複数の板状の添加材10a,10bを攪拌部20に対して板面を水平方向にして積層させて配置することができる。ただし、添加材10を粉状又は粒状とした方が金属母材1a,1bとの界面が大きくなり、界面における化学反応が促進されるため、添加材10を粉状又は粒状とした方が好適である。なお、添加材10の粉又は粒の大きさは、一般に細かくすることにより、界面における化学反応が促進されるため望ましいが、添加材10の粉又は粒が小さすぎると、例えば、添加材10がAl粉末の場合には、表面の酸化物により、不純物の混入に繋がるばかりか、金属母材1a,1b同士の接合もやや困難になる場合がある。さらに、本実施形態における摩擦攪拌処理にあたり攪拌部20に液体CO2や液体N2を用いることにより、冷却速度を増加させることも可能である。この場合には、後述するような好適な摩擦攪拌処理の条件範囲はより大きくなる。
【0042】
(実験例1:Al母材にCuを添加材として添加)
以下、異なる種類の金属母材1a,1bに対して異なる種類の添加材10を攪拌部20に攪拌させた実験例について説明する。金属母材1a,1bとして板状のA1050材を用意し、添加材10として100%の平均粒径106μmのCu粉末を用意した。図2に示すように、A1050材の金属母材1a,1bの端部同士を2mmの距離まで近接させて隙間を攪拌部20とし、当該攪拌部20に100%のCu粉末を充填した。図1に示すようなプローブ102のプローブ径6mm、プローブ長4.3mm、ショルダー101のショルダー径15mmの回転ツール100を用意した。この回転ツール100を図3に示すように攪拌部20に当接させつつ回転させ、攪拌部20に沿って移動させた。回転ツール100の移動速度は100mm/min、回転速度は1500rpm、傾斜角は3°とした。
【0043】
図12に示すように、攪拌部20付近は、回転ツール100の1パス(通過)後は攪拌部20の硬さが向上していることが判る。さらに、攪拌部20付近は、回転ツールの2パス後は攪拌部20における硬度の分布がより均一となっていることが判る。金属母材1a,1bの硬さは40.3Hvであるのに対し攪拌部では最大82.5Hvの硬さを示したことから、Cu粉末を攪拌部20に添加することにより、硬度が金属母材1a,1bの2倍以上となることが判る。
【0044】
1パス後の攪拌部20のSEM写真である図13、及び2パス後の攪拌部20のSEM写真である図14に示すように、すべての観察点で均一なCu粒子の分散が観察され、出発原料のCu粉末よりも粒径が小さくなっていることが確認された。このことより、摩擦攪拌処理が添加材10の微細化と均一分散に効果的であることが判る。しかしながら、Al中のCu粒子は1パス後もほぼ均一に分散しており、Cu粒子の均一分散という点だけでは2パス後の攪拌部20の硬度が均一に向上したことは説明できない。図13に示すように、このとき、HAZ部(熱影響部)での軟化が観察されるが、回転ツール100の移動速度を大きくしたり、下院店ツール100の回転速度を小さくすることで、これを抑制することができる。
【0045】
2パス後の攪拌部20のTEM写真である図15に示すように、2プロセス後のTEM像より、白色のAlマトリクス中に、ナノスケールの黒色の粒子が観察され、SADパターンの結果、この粒子はAl2Cuの組成をもつ金属間化合物であることが確認された。すなわち、本実施形態では、摩擦攪拌接合という1つの接合法を利用して、Alの金属母材1a,1b中にCu粒子の分散、拡散、析出といった3つの過程を実現することができる。なお、図16に示すように、Alの金属母材1a,1b中には、AlCuの形でも結晶が析出していることが判る。
【0046】
Alの金属母材1a,1b中のCu粒子のSEM写真である図17、及び当該Cu粒子の組成を示す図18にあるように、Alの金属母材1a,1b中のCu粒子はAl中で反応し、Cu粒子の周辺の位置P1からCu粒子の中心の位置P4に至るにつれて、Alに対するCuの割合が増加していることが判る。図17に示すように、Cu粒子中に異なる組成のいくつかの反応相の生成が観察された。図18は各反応層のEDS分析の結果を示す。2番の層である位置P2ではアルミニウムと銅が3対1の割合で、3番の層である位置P3では9対11の割合で存在しており、Cu粒子中にはAl−rich相とCu−rich相が形成されていることが確認された。すべての粒子で同様に反応相が形成されていることが示唆され、添加材10としてCu粉末を用いたことが、AlとCuの反応界面積を増加させ、Alマトリクス中への反応生成物の分散能を向上させたと考えられる。
【0047】
金属母材1a,1b同士の隙間(ギャップ幅)を2mm、3mm、4mmと変化させ、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にCuの添加材10を攪拌させた。図19に丸印で示すように、示すように、プローブ径6mmに対して、2分の1以下のギャップ幅3mmでは、2パス後に良好な攪拌部20が得られていることが判る。なお3プロセス後も、図16と同様のナノスケールの黒色の粒子が観察され、SADパターンの結果この粒子はAlCuの組成をもつ金属間化合物であることが確認された。粒子の粒径は200nm程度であることから均一な硬さの増加はナノオーダーの金属間化合物がAlマトリックス中に均一に分布したためであると考えられる。これは、摩擦攪拌処理による強ひずみとその過程で生じる熱が金属間化合物生成に寄与したと考えられる。
【0048】
金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、100%のCu粉末、混合比が3:7のCu粉末とAl粉末との混合粉末を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にCuの添加材10を攪拌させた。なお、Al粉末の平均粒径は89μmであった。図20の表及び図21〜23のグラフに示す30%のCu粉末を攪拌させた攪拌部20付近の硬度分布より、CuとAlとの混合粉末を添加材10として用いても、攪拌部20付近の硬度を向上させることができることが判る。この場合においても、2パス以上の加工を加えることにより、攪拌部20付近の硬度分布がより均一になることが判る。
【0049】
(実験例2:Al母材にSiCを添加材として添加)
Alの金属母材1a,1bとの反応性はないが、参考のため、混合比が1:9のCu粉末とSiC粉末との混合粉末を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にSiCの添加材10を攪拌させた。図24〜26のグラフに示すSiC粉末を攪拌させた攪拌部20付近の硬度分布より、SiC粉末を攪拌部20に攪拌することで、攪拌部20付近と周辺のAlの金属母材1a,1bとで硬度分布を均一にすることができることが判る。これにより、例えば、金属母材1a,1b同士を接合する際に、SiC粉末を接合部となる攪拌部20に添加材10として充填することにより、接合部である攪拌部20の硬度を周囲と均一に保つことが可能となる。
【0050】
(実験例3:Al母材にFeを添加材として添加)
金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、100%のFe粉末、を添加材10として、回転ツール100のパス数を変化させて、上記と同様に攪拌部20にFeの添加材10を攪拌させた。図27〜29のグラフに示すFe粉末を攪拌させた攪拌部20付近のの硬度分布より、100%のFe粉末を添加材10として用いても、攪拌部20付近の硬度を向上させることができることが判る。この場合においても、2パス以上の加工を加えることにより、攪拌部20付近の硬度分布がより均一になることが判る。なお、100%のFe粉末を添加材10として用いた場合に、100%のCu粉末を添加材10として用いた場合に比べて攪拌部20周辺の硬度の上昇が低いのは、図30のAlとCuの状態図、及び図31のAlとFeの状態図に示すように、Cuに比べてFeの固溶度が低いためと考えられる。すなわち、Cuの場合は摩擦攪拌処理中にAl中に固溶し、冷却中に析出してAl2Cuとなるため、硬度が強くなる。一方、Feの場合は摩擦攪拌処理中に固溶しないため、Al中に小さく分散し、Fe粒子と、Fe粒子の界面に生成する金属間化合物とによりある程度は硬度が向上するが、Cuのように析出はしないため、上記のような結果になると考えれる。
【0051】
(実験例4:Fe母材にCを添加材として添加)
金属母材1a,1bとして板状のパーライト系鋳鉄を用意し、添加材10として100%の黒鉛粉末を用意した。回転ツールとしては、図1に示す回転ツールからプローブ102を除去したものを用意した。ショルダー径は25mmとした。金属母材1a,1b同士のギャップ幅を2mmとし、回転ツール100の移動速度及び回転速度を変更しつつ、上記と同様に攪拌部20に黒鉛の添加材10を攪拌させた。また、添加材10を添加しないパーライト系鋳鉄についても、摩擦攪拌処理による表面焼入れの効果を検証するため、同様に回転ツールにより表面を攪拌した。
【0052】
ここで、攪拌部20に対する入熱Tには、T∝(回転ツールの回転速度×回転ツールの攪拌部への荷重)/回転ツール移動速度、あるいはT∝(回転ツールの回転速度×回転ツールの攪拌部への荷重×回転ツールのショルダー径)/回転ツール移動速度の関係が成り立つ。
【0053】
ここで図32に示すように、黒鉛粉末の添加材10を添加しないパーライト系鋳鉄よりも、黒鉛粉末の添加材10を添加した攪拌部20を良好な状態とする回転ツールの回転速度、荷重及び移動速度の適正な範囲は、Fe中へのCの拡散が必要なため、狭くなる。この場合、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、あるいは、750000[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]を満たすように、攪拌を行なうことが攪拌部20を良好な状態とするために好ましい。図33に示した実験結果により、上記条件を満たすことにより、良好な攪拌部20を得ることができることが判る。
【0054】
また、上記の2式は、金属母材1a,1bとして、厚さ5mm、幅100mm、長さ300mmの板状の試料を用いた場合に対するものである。したがって、より厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、上限の値をそれぞれ金属母材1a,1bの板厚t[mm]に対して150000000×t/5、及び3750000×t/5とするのが望ましい。一方、より厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、下限である値をそれぞれ金属母材1a,1bの板厚t[mm]に対して30000000×t/5及び750000×t/5とするのが望ましい。
【0055】
この場合、上記の2式は、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5[r・kg/m]、及び750000[r・kg]<(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]≦3750000[r・kg]×t/5となる。
【0056】
一方、上記の2式は、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、及び750000×t/5[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]となる。
【0057】
さらに、上記4式は回転ツール100の前進角を3°とした場合に対するものであり、前進角θ[°]をこれより大きくした場合には、接触面積が小さくなりより局所的に加熱されるため、温度が上昇し、前進角θ[°]を小さくした場合には、温度が低下することが予測される。したがって、回転ツール100の前進角θ[°]が3°以上の場合には、上記2式の下限の値を30000000×cosθ/cos(3°)、及び750000×cosθ/cos(3°)とすることが望ましい。
【0058】
この場合、上記4式は、30000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5[r・kg/m]、及び750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×t/5[r・kg]となり、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]、及び750000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]となる。
【0059】
また、前進角θ[°]が3°以下の場合には、上記4式の上限の値を150000000×cosθ/cos(3°)、3750000×cosθ/cos(3°)、150000000××t/5×cosθ/cos(3°)、及び3750000[r・kg]×t/5cosθ/cos(3°)とすることが望ましい。
【0060】
この場合、上記4式は、30000000×[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、750000×[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]、5mmより厚さが厚い金属母材1a,1bに関しては、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、及び750000[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×t/5×cosθ/cos(3°)[r・kg]となり、5mmより厚さが薄い金属母材1a,1bに関しては、30000000×t/5[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000×cosθ/cos(3°)[r・kg/m]、及び750000×t/5[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000×cosθ/cos(3°)[r・kg]となり
【0061】
なお、上記条件は特に1回目の回転ツール100の攪拌部20への通過の際に満たすことが好ましい。しかし、2回目の回転ツール100の攪拌部20への通過の際には、1回目の通過で攪拌部20が十分に攪拌されているため、攪拌部20の冷却速度の方が重要となる。攪拌部20の冷却速度は回転ツール100の移動速度に関連するため、2回目以降の回転ツール100の攪拌部20への通過の際には、上記条件には限らず、回転ツール100の移動速度は、0.6[m/min]以上、4[m/min]以下として攪拌を行なうことで、攪拌部20を、回転ツール100を1回のみ通過させるときよりも、さらに良好な状態とすることができる。つまり、1パス目が、30000000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]とし、2パス目が、1500000[r・kg/m]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg])/回転ツール移動速度[m/min]<150000000[r・kg/m]とすることが好適である。
【0062】
あるいは、1パス目が、750000[r・kg]<(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]とし、2パス目が、37500[r・kg]≦(回転ツールの回転速度[rpm]×回転ツールの攪拌部への荷重[kg]×回転ツールのショルダー径[m])/回転ツール移動速度[m/min]<3750000[r・kg]
【0063】
なお、以下、他の金属母材1a,1b及び添加材20の組合せについて述べる。
【0064】
(Alを金属母材とした他の添加材の組合せ)
上述したAlの金属母材1a,1bにCuの添加材20を攪拌させたAl−Cu系において、GPゾーン(Guinier-Preston zone)による強化を顕著にするには、さらに第3元素として、Mgを添加する方法がある。
【0065】
また、この他にも種々の組み合わせが可能であり、例えば、Alの金属母材1a,1bにSiの添加材20を攪拌させたAl−Si系においては、共晶点の12%Si付近の組成が特性も良く頻繁に使用される。しかし、この組み合わせにおいては、溶解、鋳造時にSiが過冷しやすく、粗大がSiが晶出しやすいことから、NaやSr等の添加による改良処理が必要であるが、本手法では、固体でプロセスが行われるため、このような問題は起こらないばかりか、回転ツール100による攪拌作用により、Siの微細化が図れ、非常に良好な機械的特性が得られる。
【0066】
この他にも、10%程度までのMgを添加することで、耐食性、強さ、伸びが向上することが可能である。α固溶体とβ相(Al3Mg2)とが451℃で共晶関係にあり、この組み合わせでは、低比重で被削性も向上する。
【0067】
2種類以上の粉末等を添加する場合を考えると、MgとSiを加えた、Al−Mg−Si系(例えば1質量%Mg、0.6質量%Si)、CuとMgを加えたAl−Cu−Mg系(例えば4質量%Cu、0.5質量%Mg)、さらにMnを加えたAl−Cu−Mg−Mn系(例えば、(4質量%Cu、0.5質量%Mg、0.5質量%Mn)(4.5質量%Cu,1.5質量%Mg,0.6質量%Mn)など)、さらにSiを加えたAl−Cu−Si−Mn−Mg系(例えば、4.4質量%Cu,0.8質量%Si,0.8質量%Mn,0.4質量%Mg)、ZnとMgを加えたAl−Zn−Mg系、Cu、Ni、Mgを加えたAl−Cu−Ni−Mg(例えば、4質量%Cu,2質量%Ni,1.5質量%Mg)系等が有効である。Mg2Si、CuAl2、Al5Cu2Mg、Al2CuMg、MgZn2、Al2Mg3Zn3等の化合物を微細に析出させることにより、高強度化できるが、本実施形態の処理においては、熱処理を行わなくても、条件の最適化をすることによりこれを達成することができるのが特長である。(もちろん、必要に応じて熱処理を併用するのは問題ない。)
【0068】
(Feを金属母材とした他の添加材の組合せ)
一方、鉄系材料においては、実施例の他に以下のような組み合わせも考えられる。例えば、鋳鉄において、焼き入れ性を向上させるのはCのみではなく、部分的に、Cr、Mo、Ni、V、Cu等添加して、焼き入れ性を向上させる方法もある。
【0069】
この他の鉄系材料においても、例えば、オーステナイト系鋼にCr、Mo、Si、Nb、V、W、Ti、Ta、Al等のフェライト安定化元素を添加して、部分的にフェライト化したり、逆にフェライト系鋼に、Ni、C、N、Mn、Co、Cu等のオーステナイト安定化元素を添加して、部分的にオーステナイト化することも可能である。また、それを急冷して、マルテンサイト化することもあり得る。
【0070】
このように、本実施形態の手法では、使用者のニーズに合わせて、大型構造物の一部の特性を容易にかつ安定的に変化させることが可能である。
【0071】
(Cuを金属母材とした他の添加材の組合せ)
Cu合金の場合には、回転ツール100にSKD61等の工具鋼を用いて行うことも可能であるが、耐久性を考えると、WC系合金の超硬合金等を用いることが望ましい。
【0072】
Znを添加することで、良好な機械的特性、耐食性、高耐高温酸化性を向上させ、光沢も良い表面が得られる。例えば、Znを30〜40%とするのが適量である。Znが38%以下であれば、面心立方格子型のα黄銅となり、それを超えると、(α+β)黄銅となる。一方、Znが35%を超えるとβ相が出現する可能性があり、β相が出現すると、硬さと強さを急激に増加させること可能である。
【0073】
複数元素を入れる例として、Cuを54〜62質量%、Znを30〜40質量%、Alを0〜4質量%、Mnを0〜5質量%、Feを0〜2質量%、Snを0〜1質量%、Pbを0〜0.5質量%、Niを0〜1質量%添加することにより、ブリネル硬さを110〜170、引張強度を450〜750MPa、0.2%耐力を220〜440MPa、伸びを35〜12%の範囲に変化させることが可能である。
【0074】
特にNiを添加すると(例えば、Cu48.6質量%、Zn39.5質量%、Mn0.33質量%、Fe2.8質量%、Al0.48質量%、Ni8.0質量%)、β相の多くない高強度合金が得られ、極めて剛性の高い合金が得られる。
【0075】
また、Znが増加すると、脱亜鉛腐食が生ずるが、これを防ぐ為には、Zn量を30質量%以下にするか、AsまたはSn等を1質量%程度の少量添加することで防ぐことが可能である。
【0076】
一方、Snを添加した場合には、Znを添加した場合と比較して、耐食性、耐摩耗性をさらに向上させることが可能である。Cu−Sn系は凝固温度範囲が非常に長く、一旦溶解すると、凝固時に偏析が起こりやすいが、本手法は固相で行われるため、このような問題は起こらないのが特長である。
【0077】
Snを添加することにより、耐食性が向上する。また、耐海水性も向上し、10質量%Snまでは、Sn量が増加するにつれ向上する。例えば、12質量%Snを添加することにより、700℃焼き鈍し材でも、ブリネル硬さを40から80へ、引張強度が250MPaから450MPaへ向上させることが可能である。また、Snを添加することによって、色が変色し、青銅となる。また、着色のために、3〜5質量%程度のPbを含有させるのも効果的である。
【0078】
Sn量が15質量%超えるとδ相が析出し、硬度を上昇させることが可能である。また、0.05〜0.5質量%のPを添加することにより、合金の硬さ、強さが増加し、耐摩耗性、弾性が改善される。通常は、このような組成で溶解、鋳造では偏析が起こりやすいが、本手法では、溶解を伴わないので、容易に作製することが可能である。一方、鉛を4〜22質量%入れると、潤滑性が向上する。この場合も、溶解法では逆偏析が起こりやすいが、本プロセスではそのような問題は生じない。
【0079】
また、本プロセスのみで硬化が十分でない場合には、熱処理を併用することもむろん可能である。例えば、Cu−20質量%Sn合金を200〜350℃で熱処理すると硬化し、例えば、750℃より焼き入れ後、300℃で焼き戻しすると、ブリネル硬さが161から212へ上昇する。
【0080】
さらに、複数元素の添加例として、NiとSnを添加した場合(例えば、Cu:Ni:Sn=89:9:2に調整すると)、スピノーダル分解を起こし、Ni3Snの析出し、Al−Cu系と同様な効果が得られる。さらに、これにZnを添加した場合、(例えば、Cu:Ni:Sn:Zn=88:5:5:2の場合)、引張強さは600MPa以上、ブリネル硬さは170以上となる。
【0081】
次に、Cuの金属母材にAlを添加した場合について述べる。Alを9.0〜15.6質量%添加すると、鋼と同様なパーライトと同様な層状共析組織になり、良好な機械的特性が得られ、急冷するとマルテンサイト、ベイナイト組織が得られる。
【0082】
これに、他の元素を添加し、3元系とするとさらに良い特性が得られる。例えば、Feが固溶限以上に添加するとκ相(FeAl)が析出するが、3.5質量%以上添加すると、β相の微細化に効果を発揮する。また、Niも4〜5質量%の添加で同様な効果が期待できる。NiとFeが共に4〜5質量%、Alが9.5〜9.8質量%とすると、最も良好な機械的特性が得られる。特に、強さ、耐摩耗性、耐食性、耐浸食性にすぐれ、特に耐浸食性に関しては、高Crステンレス鋳物より優れる。
【0083】
また、Cuに2.5質量%までのBe、おおよそ2質量%程度のBeを添加すると、γ(CuBe)が析出し、強さ、耐摩耗性、導電率が向上する。4質量%Beではブリネル硬さが500を超えることがある。
【0084】
(Mgを金属母材とした添加材の組合せ)
Mgに対しては、AlあるはZnあるいは両方を添加するのが有効である。これらでは、固溶強化の他に、Mg17Al12やAl2Mg3Zn3等の析出物によって、機械的特性の向上が図られる。また、2%程度のCaを添加することにより、難燃性へと変化する。
【0085】
(Tiを金属母材とした添加材の組合せ)
Tiには、Al、Sn、Mn、Fe、Cr、Mo、V等を添加すると、機械的特性を向上させることができる。これらは、チタンのα相を安定化させるものと、β相を安定化するものに分けられ、Alは前者に分類される。α相の強化を図るものは、固溶強化である。α相はちゅう密六方型結晶であるので、塑性変形能は低下するが、高温強さが向上し、クリープ特性が改善される(強いα+強いβ)。
【0086】
一方、β相を安定化した、例えば、7質量%Mn合金では、β相を強化し、α相の靱性をあまり損じないから、合金の加工性がよく、圧延して板材などにつくることに適する(強いβ+粘りがあるα)。
【0087】
合金の種類を列記すると以下の通りである。
α安定化型合金:Al、Sn、O、N
β共析型合金:Mn、Cr、Fe、Ni、Co、Cu、Ag、Pb、Si、W
β固溶体型合金:Mo、V、Nb、Ta
α、β全率固溶体型合金:Zr
【0088】
また、β相から急冷させ、β相を残留させて熱処理効果が期待できる合金にFe、Mg、Cr、Mnなどである。本実施形態の処理では、条件を最適化することにより、熱処理なしで同様な効果が得られる。
【0089】
本実施形態によれば、金属母材1a,1bとは異なる組成であり、且つ金属母材1a,1bとの化学反応を生じる添加材10を、金属母材1a,1bの一部である攪拌部20に配置し、攪拌部20に棒状の回転ツール100の先端を当接させつつ回転させるため、摩擦攪拌接合の手法を利用した一つの方法で、金属母材1a,1bの所望の部位に対して添加材10の分散、拡散及び析出あるいは分散、拡散及び変態といった合金を製造する3つの過程を実現することができる。そのため、金属母材1a,1bの所望の部位を所望の組成の金属とすることが可能となる。特に、摩擦攪拌接合の手法により、従来、熟練を要していた焼入れ作業等をより速く行なうことができる。特に、大型の金属構造物の一部の硬度を高めたいときに、本実施形態の方法は効果を発揮する。
【0090】
特に、本実施形態によれば、金属母材1a,1b中に添加材10を攪拌、拡散、及び析出させることにより、特に金属母材1a,1bがAlであり、添加材10がCuである場合に、金属母材1a,1bの所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0091】
あるいは、本実施形態によれば、金属母材中1a,1bに添加材10を攪拌、拡散、及び変態させることにより、特に金属母材1a,1bがFeであり、添加材10がCである場合に、金属母材1a,1bの所望の部位をさらに優れた特性の金属とすることが可能となる。
【0092】
さらに、本実施形態によれば、金属母材1a,1bはAlを含むものとし、添加材10はCuを含むものとするため、AlとCuとの合金であるジュラルミンを金属母材1a,1bの所望の部位に製造することが可能となる。
【0093】
また、本実施形態によれば、攪拌部20に回転ツール100を少なくとも2回通過させるため、攪拌部20の状態をより良好なものとすることができる。
【0094】
また、本実施形態によれば、回転ツール100のプローブ102の径rがr≧2wと攪拌部の幅wに対して十分に大きいため、攪拌部の状態をより良好なものとすることができる。
【0095】
さらに、本実施形態によれば、添加材10を金属母材1a,1bの攪拌部20に配置する工程では、攪拌部20に金属母材1a,1b及び添加材10とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置することにより、金属母材1a,1bと添加材10との2種類の物質からなる金属材のみならず、3種類以上の物質からなる金属材も製造することが可能である。
【0096】
また、本実施形態によれば、粉状、粒状及び板状のいずれかの添加材10を攪拌部20に配置するため、攪拌部20において製造される金属材の組成を制御することがより容易になる。
【0097】
加えて、本実施形態によれば、粉状の添加材10は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更するため、攪拌部20において製造される金属材の組成を制御することがさらに容易になり、所望の性質の金属材を製造することがさらに容易となる。
【0098】
以下、本発明の第2実施形態について説明する。図34に示すように、本実施形態では、板状の金属母材1aと板状の添加材11とを端部同士で突き合せるか、近接させて攪拌部20とする。板状の金属母材1aあるいは板状の添加材11としては、上記第1実施形態と同様とすることができる。次に、図35に示すように、攪拌部20に回転ツール100を当接させつつ回転させ、回転ツール100を攪拌部20の長手方向に沿って移動させることにより、金属母材1aと添加材11とを接合する。これにより、金属母材1aと添加材20とを接合させた上で、金属母材1aと添加材11との接合部となる攪拌部20を所望の組成の金属材とすることが可能となる。なお、本実施形態の態様においても、図4及び図5に示すようなスポット型の摩擦攪拌処理、図6〜8に示したような重ね合わせ接合に類似の摩擦攪拌処理を行うものとできる。
【0099】
あるいは、図36に示すように、板状の金属母材1a及び板状の添加材11の間に、金属母材1a及び添加材11の両方の組成を含む中間材12を配置して、攪拌部20とし、図37に示すように、攪拌部20に対して摩擦攪拌処理を行っても良い。この態様では、添加材11及び金属母材1aの両方の組成を含む中間材12を添加材11と金属母材1aとの間に配置し、中間材12を配置した箇所を攪拌部20とするため、金属母材1aと中間材12との生成物及び添加材11と中間材12との生成物が厚く生成されることが抑制されるため、より良好な攪拌部20とすることが可能となる。
【0100】
尚、本発明は、上記した実施の形態に限定されるものではなく、本発明の要旨を逸脱しない範囲内において種々変更を加え得ることは勿論である。
【符号の説明】
【0101】
1a,1b…金属母材、10,10a,10b…添加材、11…異種金属材、12…中間材、20…攪拌部、100…回転ツール、101…ショルダー、102…プローブ。
【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属母材を用意する工程と、
前記金属母材とは異なる組成であり、且つ前記金属母材との化学反応を生じる添加材を、前記金属母材の一部である攪拌部に配置する工程と、
前記攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程と、
を含む金属材の製造方法。
【請求項2】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記金属母材中に前記添加材を攪拌、拡散、及び析出させる、請求項1に記載の金属材の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記金属母材中に前記添加材を攪拌、拡散、及び変態させる、請求項1に記載の金属材の製造方法。
【請求項4】
前記金属母材はAlを含むものとし、前記添加材はCuを含むものとする、請求項1又は2に記載の金属材の製造方法。
【請求項5】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記攪拌部に前記回転ツールを少なくとも2回通過させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項6】
前記攪拌部は、前記金属母材の表面に対して幅wの凹部であり、前記回転ツールの先端の中央部は突出したプローブであり、前記プローブの径rは、r≧2wとする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項7】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記攪拌部に前記金属母材及び前記添加材とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項8】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、粉状、粒状及び板状のいずれかの前記添加材を前記攪拌部に配置する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項9】
粉状の前記添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、前記複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更する、請求項8に記載の金属材の製造方法。
【請求項10】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記添加材の端部を前記金属母材に対して当接又は近接させて、前記添加材の端部を当接又は近接させた箇所を前記攪拌部とし、
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記攪拌部に前記回転ツールを当接させつつ回転させることにより、前記金属母材と前記添加材とを接合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項11】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記添加材及び前記金属母材の両方の組成を含む中間材を前記添加材と前記金属母材との間に配置し、前記中間材を配置した箇所を前記攪拌部とする、請求項10に記載の金属材の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属材の製造方法によって製造された金属材。
【請求項1】
金属母材を用意する工程と、
前記金属母材とは異なる組成であり、且つ前記金属母材との化学反応を生じる添加材を、前記金属母材の一部である攪拌部に配置する工程と、
前記攪拌部に棒状の回転ツールの先端を当接させつつ回転させる工程と、
を含む金属材の製造方法。
【請求項2】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記金属母材中に前記添加材を攪拌、拡散、及び析出させる、請求項1に記載の金属材の製造方法。
【請求項3】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記金属母材中に前記添加材を攪拌、拡散、及び変態させる、請求項1に記載の金属材の製造方法。
【請求項4】
前記金属母材はAlを含むものとし、前記添加材はCuを含むものとする、請求項1又は2に記載の金属材の製造方法。
【請求項5】
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記攪拌部に前記回転ツールを少なくとも2回通過させる、請求項1〜4のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項6】
前記攪拌部は、前記金属母材の表面に対して幅wの凹部であり、前記回転ツールの先端の中央部は突出したプローブであり、前記プローブの径rは、r≧2wとする、請求項1〜5のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項7】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記攪拌部に前記金属母材及び前記添加材とは異なる物質を少なくとも1種類以上さらに配置する、請求項1〜6のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項8】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、粉状、粒状及び板状のいずれかの前記添加材を前記攪拌部に配置する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項9】
粉状の前記添加材は複数の種類の粉状又は粒状の物質の混合物及び複数種類の板状の物質の積層物からなるものとし、前記複数の種類の物質の割合を変更することにより、製造される金属材の性質を変更する、請求項8に記載の金属材の製造方法。
【請求項10】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記添加材の端部を前記金属母材に対して当接又は近接させて、前記添加材の端部を当接又は近接させた箇所を前記攪拌部とし、
前記攪拌部に棒状の回転ツールを当接させつつ回転させる工程では、前記攪拌部に前記回転ツールを当接させつつ回転させることにより、前記金属母材と前記添加材とを接合する、請求項1〜7のいずれか1項に記載の金属材の製造方法。
【請求項11】
前記添加材を前記金属母材の前記攪拌部に配置する工程では、前記添加材及び前記金属母材の両方の組成を含む中間材を前記添加材と前記金属母材との間に配置し、前記中間材を配置した箇所を前記攪拌部とする、請求項10に記載の金属材の製造方法。
【請求項12】
請求項1〜11のいずれか1項に記載の金属材の製造方法によって製造された金属材。
【図1】
【図2】
【図3】
【図4】
【図5】
【図6】
【図7】
【図8】
【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図19】
【図20】
【図21】
【図22】
【図23】
【図24】
【図25】
【図26】
【図27】
【図28】
【図29】
【図31】
【図32】
【図33】
【図34】
【図35】
【図36】
【図37】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図30】
【図2】
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【図4】
【図5】
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【図9】
【図10】
【図11】
【図18】
【図19】
【図20】
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【図24】
【図25】
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【図28】
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【図32】
【図33】
【図34】
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【図36】
【図37】
【図12】
【図13】
【図14】
【図15】
【図16】
【図17】
【図30】
【公開番号】特開2010−227964(P2010−227964A)
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2009−77597(P2009−77597)
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
【公開日】平成22年10月14日(2010.10.14)
【国際特許分類】
【出願日】平成21年3月26日(2009.3.26)
【出願人】(504176911)国立大学法人大阪大学 (1,536)
【Fターム(参考)】
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