説明

金属材料の成形加工方法及び成形加工装置列

【課題】打ち抜き破面に加工が加わる成形品の歩留まりを向上させる。
【解決手段】上流側から順に、金属材料の打ち抜き加工手段9と、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定する測定手段(10に付属)と、打ち抜き後の金属材料を成形する成形手段11を有することを特徴とする金属材料の成形加工装置列と、測定された打ち抜き破面の情報から、打ち抜き金型の調整と製品の不良判定を行うことを特徴とする金属材料の成形加工方法。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は自動車、家電製品、建築構造物、船舶、橋梁、建設機械、各種プラント、ペンストック等で用いられる鉄、アルミニウム、チタン、マグネシウムおよびこれらの合金等からなる金属板の打ち抜き加工とその後の成形に関するものである。
【背景技術】
【0002】
自動車、家電製品、建築構造物等に用いられる金属板1(被加工材1)には、図1のような打ち抜きパンチ2(上側の打ち抜き金型)と打ち抜きダイ3(下側の打ち抜き金型)により打ち抜き加工が施される場合が多い。
図2に示すように打ち抜き破面は、被加工材1の表面(上面)がパンチ2により全体的に押し込まれて形成されるだれ4、パンチ2とダイ3のクリアランス内に被加工材1が引き込まれ局所的に引き伸ばされてだれ4の下方に形成されるせん断面5、パンチ2とダイ3のクリアランス内に引き込まれた被加工材1が破断してせん断面5の下方に形成される破断面15、および被加工材1の裏面(下面)に生じるばり6によって構成される。図3のごとく、せん断面は2層、3層となる場合もあり、このような破面は2次せん断面7、3次せん断面8と呼ばれる。
本発明において、図2に示すだれ4の板厚方向(図2においては上下方向)の長さをL1[mm]、せん断面5の板厚方向の長さをL2[mm]、破断面15の板厚方向の長さをL3[mm]、板厚をL[mm]としたとき、
だれ率=L1/L×100[%]、
せん断面率(2次、3次せん断面を含む)=L2/L×100[%]、
破断面率=L3/L×100[%]、
と定義する。
【0003】
非特許文献1に記載されているように、これら打ち抜き破面の特徴は、被加工材の材料特性、打ち抜き速度、打ち抜き荷重やクリアランス量、金型磨耗等の工具条件に影響されることが広く知られている。打ち抜き破面性状が影響しての割れ発生が問題となる加工として、伸びフランジ加工が挙げられるが、伸びフランジ特性は非特許文献2に記載されるように、打ち抜き工具のクリアランス量に依存することが公知であり、すなわち、前述の打ち抜き破面の特徴が大きく影響する。
【0004】
伸びフランジ加工のように、打ち抜き加工とその後の打ち抜き破面の成形を含む工程によって成形品が量産される工場では、成形不良による歩留まり悪化を防止するために、打ち抜き工具のクリアランス量の管理と、打ち抜き金型に設けられている打ち抜き刃の磨耗管理が行われることが多い。クリアランス量管理のためにはクリアランス量の測定が必要であるが、このような測定技術には、特許文献1記載の非接触式変位計で金型位置を測定してクリアランス量を測定する方法や、特許文献2記載のパンチ側面部に変形しやすい素材よりなる試験層を付着させてパンチをダイと嵌め合わせ、その後にパンチ側面部に残された試験層の状態からクリアランス量を測定する方法等が提案されている。刃の磨耗管理については、経験的に決定された打ち抜き回数後に工具交換が行われる場合が多く、これ以外には、測定された打ち抜き工具のアコースティックエミッションより刃の磨耗を推定し、工具交換を決定する方法が非特許文献3に記載されている。
【0005】
【特許文献1】特開2000−301398号公報
【特許文献2】特開平7−151536号公報
【非特許文献1】第96回塑性加工学講座「板材成形の基礎と応用」
【非特許文献2】塑性と加工,第46巻(2005),pp.625
【非特許文献3】日本機械学会論文集 C Vol.71 No.712 Page.3614-3621 (2005.12.25)
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0006】
以上の提案技術には、量産工場への適用を考えた場合、いくつかの課題が存在する。
打ち抜き破面の成形性に影響する因子はあくまでも被加工材打ち抜き破面の加工硬化や、破面形状による応力集中の度合いであり、加工条件は間接的な因子であるため、伸びフランジ成形品の歩留まりを上げるためにはクリアランス量や打ち抜き刃の磨耗のみの測定では不十分である。例えば、材料特性のばらつきや気温のような環境因子も影響する場合がある。また、前記クリアランス量、磨耗量管理のための提案技術は金型の改造、ライン停止のいずれかが必要であるため、これらの因子を全て測定する装置を設けるならば、多大な手間とコストがかかってしまう。
【0007】
本発明は、金属材料の打ち抜きから成形加工に至る量産ラインの停止と打ち抜き工具の改造を行うことなく、打ち抜き破面が成形される成形品の歩留まりを向上させることができる成形加工方法及び成形加工装置列を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0008】
上記課題を解決するために、本発明の要旨とするところは、以下のとおりである。
(1)金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、その測定結果に基づいて打ち抜き加工のクリアランス、打ち抜き速度、打ち抜き荷重の何れか1つ以上を制御することを特徴とする金属材料の成形加工方法。
(2)金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、前記測定値が所定値を超えたとき又は所定値を下回ったときの打ち抜き後の金属材料を外して、成形加工を行うことを特徴とする金属材料の成形加工方法。
(3)金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、前記測定値が予め定めた基準を超えたとき又は下回ったとき、打ち抜き金型の交換又は打抜き刃の再研削を行うことを特徴とする金属材料の成形加工方法。
(4)前記測定が、レーザー変位計によることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
(5)前記測定が、画像計測によることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
(6)前記測定が、接触式変位計によることを特徴とする(1)〜(3)の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
(7)上流側から順に、金属材料の打ち抜き加工手段と、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定する測定手段と、打ち抜き後の金属材料を成形する成形手段を有することを特徴とする金属材料の成形加工装置列。
(8)更に、打ち抜き加工手段は、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて打ち抜き加工手段のクリアランス、打ち抜き速度、打ち抜き荷重の何れか1つ以上を制御する制御手段を有することを特徴とする(7)記載の金属材料の成形加工装置列。
(9)更に、測定手段と成形手段の間に、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて、前記測定値が所定値を超えたとき又は所定値を下回ったときの打ち抜き後の金属材料を外す取り外し手段を有することを特徴とする(7)の金属材料の成形加工装置列。
(10)更に、測定手段と成形手段の間、又は成形手段の後に、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて、前記測定値が予め定めた基準を超えたとき又は下回ったとき、打ち抜き金型を交換する判定を行う判定手段を有することを特徴とする(7)記載の金属材料の成形加工装置列。
【発明の効果】
【0009】
本発明により、量産ラインの停止と打ち抜き工具の改造を行うことなく、打ち抜き破面が加工される成形品の歩留まりを向上させることができる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0010】
本発明は、金属材料の打ち抜きから成形加工に至る量産ライン上で、成形加工時に伸びフランジ変形を受ける前の、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率を測定することを特徴とする。
本発明において、伸びフランジ変形とは、成形加工により打ち抜き破面に引張応力が加わり変形することをいう。
また、本発明において、成形不良とは、成形加工に伴う伸びフランジ割れを言う。
【0011】
本発明者らは、打ち抜き破面の成形性に打ち抜き破面の特徴が影響するという従来知見から、打ち抜き加工工程(打ち抜きによる部材トリミング工程)と打ち抜き破面を含む打ち抜き後の金属材料(いわゆるブランク)の成形工程の間で簡易的に打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率を測定することができるならば、クリアランス量や刃の磨耗をオンライン上で測定することなく、より高精度にブランクの成形前に成形加工後の部材の不良判定(予測)を行うことや、打ち抜き金型の交換、クリアランス調整のタイミングを見積もれると考えた。このような観点から、当初、量産ライン上で、目視による打ち抜き破面の観測を試みたが、板厚1mm〜3mmに対して1mm以下の精度でせん断面、破断面等の破面形状の違いを見極めなければならず、目視による打ち抜き破面の不良判定は不可能であるとの結論に至った。
【0012】
実験レベルでのだれ率、せん断面率、破断面率の測定は、主に打ち抜き破面周辺のみを切り出した試験片に対して顕微鏡による破面観察が行われるが、試験片を作成するコストと時間の観点から量産ライン上でこのような観察を行うことは不可能である。
そこで、本発明者等が試行錯誤した結果、レーザー変位計、CCDカメラによる画像計測、接触式変位計のいずれかを使用することにより、打ち抜き加工工程から成形工程(伸びフランジ成形工程)へ被加工材が搬送される途中でのだれ率、せん断面率、破断面率の測定が可能であることを見出した。
【0013】
本発明においては、打ち抜き破面の測定結果が、実験や文献から得られた成形不良が生じる危険性がある破面の特徴(だれ率、せん断面率、破断面率)に近い場合に、打ち抜き加工のクリアランス、打ち抜き速度、打ち抜き荷重の何れか1つ以上の制御を行う(前記(1)に係る発明)。例えば、測定したせん断面率が成形良好と予測されるせん断面率基準より低かった場合にはクリアランス量を小さくすればよいし、打ち抜き速度を大きくしたり、打ち抜き荷重を大きくすることにより、簡易にせん断面率を制御でき、成形不良の低減を期待できる。また、だれ率が成形良好と予測されるだれ率基準より高かった場合に、クリアランス量を小さくしたり、打ち抜き速度を大きくしたり、打ち抜き荷重を大きくしたりしてもよい。あるいは、破断面率が成形良好と予測される破断面率基準より低かった場合に、クリアランス量を小さくしたり、打ち抜き速度を大きくしたり、打ち抜き荷重を大きくしたりしてもよい。さらには、クリアランス量、打ち抜き速度、打ち抜き荷重のいずれか2つ、あるいは3つを同時に制御しても良い。
【0014】
また、破面測定の結果から成形不良が生じる危険性が判定された被加工材に関しては、成形前にライン(加工工程)より取り除くことで、成形不良率を下げることができる(前記(2)に係る発明)。例えば、だれ率の測定値がだれ率について定めた所定値を超えたとき、せん断面率の測定値がせん断面率について定めた所定値を下回ったとき、破断面率の測定値が破断面率について定めた所定値を下回ったときに、被加工材を不良品と判定し、成形工程に運ばずに、成形加工装置列の外部に排出させるようにしても良い。
【0015】
破面測定の結果より、打ち抜き金型に設けられている打ち抜き刃の磨耗を検出することもでき、予め規定された磨耗量となった時点で打ち抜き金型の切れ刃管理または交換を実施することにより成形不良率を下げることができる(前記(3)に係る発明)。通常、打ち抜き金型の磨耗が進むとせん断面率は減り、だれ率が大きくなるので、成形不良が予測されるだれ率基準となった場合(だれ率の測定値が予め定めただれ率の基準を超えたとき)、又は、規定されたせん断面率を下回った場合(せん断面率の測定値が予め定めたせん断面率の基準を下回ったとき)に金型を交換すればよい。あるいは、打ち抜き刃の再研削を行うようにしても良い。また、破断面率の測定値が予め定めた破断面率の基準を下回ったときに、金型の交換又は打ち抜き刃の再研削を行うようにしても良い。
【0016】
続いて、破面測定に使用するセンサーについて述べる。
【0017】
レーザー変位計17をセンサーとして使用する場合、図6のように打ち抜き破面13をレーザー16で板厚方向に走査し、破面13の板厚方向と破面直交方向の位置座標を取得する(前記(4)に係る発明)。走査する箇所は2つ以上が望ましいが、形状にばらつきが少ない破面では1箇所でも充分である。取得した位置座標は図7のグラフ線のようになり、図2で例を示した打ち抜き破面形状にそのまま対応するので、容易にだれ率、せん断面率、破断面率を同定することが可能である。せん断面は垂直部(板厚方向に沿った部分、図7においてはグラフ線が縦の座標軸上にある部分)とし、だれとせん断面の境界は、垂直部から破面が離れる位置(グラフ線が縦の座標軸上にある部分と縦の座標軸から離隔している部分との境界、図7において2箇所あるうちの上部)とする。また、せん断面と破断面の境界は垂直部から破面が離れる位置(図7において2箇所あるうちの下部)とする。センサーの分解能については、被加工材1の板厚にもよるが、0.1mm以下が望ましい。更に好ましくは20μm以下であれば充分である。
【0018】
CCDカメラ等による画像計測を行う場合は、輝度値とRGB値による判定を行えばよい(前記(5)に係る発明)。市販の画像処理ソフトを用いれば、輝度値とRGB値の違いから、せん断面と破断面を区分でき、予め板厚を縦軸とする評価領域内でのせん断面と判断されるピクセル数と、破断面と判断されるピクセル数、および残りのピクセル数からその比率をだれ率として同定することができる。この手法ではばり率(ばりの板厚方向の長さが板厚に占める割合)の同定は困難であり、ばり率により打ち抜き後の成形不良や金型交換時期の判定を行う必要があり、かつ、ばり率が10%を超える打ち抜き条件である場合には他の測定手法を用いる方が望ましい。通常行われる打ち抜きでは、ばり率はだれ率、せん断面率、破断面率に比べて一桁以上小さいため、ばりによる測定誤差は無視しても構わない。図8に、キーエンス製デジタルマイクロスコープVHX-100に付属の画像処理ソフトにより測定した例を示す。
【0019】
接触式変位計については、レーザー変位計と同様、図9に示すように接触プローブ18で破面13を破面板厚方向に沿って(図9に示すライン19に沿って)走査し、破面13の板厚方向と破面直交方向の位置座標を取得する(前記(6)に係る発明)。走査する箇所、測定分解能についてもレーザー変位計の場合と同様である。
【0020】
続いて、本発明を実施する際の装置列構成について述べる。
【0021】
本発明における成形加工装置列は、例えば図4に示されるような構成となる。図4においては、打ち抜き加工工程(打ち抜き加工手段)9より被加工材1(金属材料)がロボットアーム10により成形工程(成形手段)11へ運ばれているが、このロボットアーム10の被加工材1を保持するクランプ部12に打ち抜き後の打ち抜き破面13のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定するセンサー(測定手段)が取り付けられており、打ち抜き破面上の成形による伸びフランジ割れの危険性がある箇所の破面測定が行われる(前記(7)に係る発明)。被加工材1の搬送手段は前記ロボットアーム10以外に、プレス機専用のトランスファーユニットでもよい。また被加工材1のクランプ方法はバキューム方式、マグネット吸着方式、メカクランプ方式のいずれでもよい(図示しない)。
【0022】
打ち抜き加工手段は、破面測定の結果を受けて打ち抜きのクリアランスを制御する制御手段を有し、制御手段として例えば図5に示すダイ固定・位置調整用のネジ14が挙げられる(前記(8)に係る発明)。ネジの調整については、マニュアルの調整で充分である。また、打ち抜き速度の調整を行う制御手段、打ち抜き荷重の調整を行う制御手段としては、通常のプレス装置の機能として組み込まれたものを使用すればよい。
【0023】
更に、測定手段と成形手段の間に、不良判定を受けた被加工材1を取り外す取り外し手段を設けても良く、取り外し手段は、ロボットアーム10で被加工材1を搬送する場合は不良判定品を成形工程11へ運ばない制御シーケンスを設ければよいし、ベルトコンベア上を被加工材1が流れる場合はアラームを流して人間の手で取り外す、または、図10のごとくベルトコンベア20の動きを変えて不良判定品が成形工程11へ流れないようにする制御シーケンスを設ければよい(前記(9)に係る発明)。
【0024】
更に、測定手段と成形手段の間、又は成形手段の後に、打ち抜き加工手段の金型交換(上側の打ち抜き金型であるパンチ2あるいは下側の打ち抜き金型であるダイ3の交換)を行うタイミングを判定する判定手段を設けても良く、判定手段としては、前述の打ち抜き破面測定値からパンチ2あるいはダイ3の磨耗量を推定するアルゴリズムを組み込んだコンピュータ(図示しない)を使用すればよい(前記(10)に係る発明)。
【0025】
なお、本発明案については、せん断面率に2次せん断面、3次せん断面を含んだものとしている。即ち、図3の左側に示したように、2次せん断面7を有する場合は、せん断面5の板厚方向の長さと2次せん断面7の板厚方向の長さとを合計したものをせん断面の長さL2として、せん断面率を算出しており、図3の右側に示したように、3次せん断面8を有する場合は、せん断面5の板厚方向の長さ、2次せん断面7の板厚方向の長さ、及び、3次せん断面8の板厚方向の長さを合計したものをせん断面の長さL2として、せん断面率を算出している。ただし、これらの成形不良、金型磨耗、クリアランス条件に対する因果関係が明白な場合には、2次せん断面率、3次せん断面率を別途定義し、前述の判定基準として用いても構わない(例えば、2次せん断面率がある値以上であればクリアランス調整を行う等)。
【実施例1】
【0026】
本発明の効果を確かめるため、図11に示す成形加工装置列による実験を行った。図11に示す成形加工装置列は、打ち抜き金型(パンチ2及びダイ3)が設置されたプレス機22(打ち抜き加工手段)と破面測定センサー24(測定手段)が組み込まれた被加工材搬送用のロボットハンド21(搬送手段)、伸びフランジ成形金型が設置されたプレス機23(成形手段)により構成される。本発明の効果を分かり易くするため、打ち抜き金型のダイ固定形式を図5のごとくネジ式とし、わざとネジ14の締め付けトルクを緩くすることで、ダイ3が金型ベッド27に対してガタつきやすい状態、即ち、打ち抜き中にクリアランスのばらつきが発生し易い条件に設定した(初期クリアランス量は0.14mm)。破面測定センサー24にはレーザー変位計を用いた。レーザー変位計は、ロボットハンド21に図12のように設置した。打ち抜き切断形状の平面図は図13に示す形状であり、最終製品形状が図18のようになるように伸びフランジ成形を行った。被加工材1には引張強度590MPa級、板厚1.2mmの高張力鋼板を使用した。この材料は事前の実験において、破断面率が41%以下となった際に伸びフランジ成形工程で割れが起こる危険性が高いと判断されたものである。打ち抜き金型のダイ3と金型ベッド27が一体である、クリアランスの狂いがほとんどない装置列を使用した事前実験では、クリアランス0.14mmで破断面率が41%以下となることはなく、500個の成形試験で伸びフランジ割れが生じる製品はなかった。
【0027】
本実施例では、測定工程で破断面率が41%以下となった際にクリアランス量を初期設定の0.14mmへ調整する方法(本発明例)と、打ち抜き破面の測定もクリアランス調整も行わない方法の2通りの方法(比較例)において各々500個の製品を成形し、その伸びフランジ割れの発生率を比較した。
【0028】
伸びフランジ割れ率の結果を図14に示す。図14に示されるように、本発明例では、伸びフランジ成形における成形不良率を比較例による値の10分の1以下とすることができた。本実施例ではクリアランス調整に時間がかかるものの、破面測定は数十msで完了することができ、頻繁にクリアランスが狂うことのない実際の量産ラインでの本発明の適用が有効であることが分かる。
【実施例2】
【0029】
本発明の効果を確かめるため、図11に示す成形加工装置列による実験を行った。装置列構成、ダイ固定条件、センサー、被加工材については実施例1と同様である。
本実施例では、500個の製品を成形する試験を行い、測定工程で破断面率が41%以下となった被加工材を不良品として判定し、その伸びフランジ割れ率を調べた。不良品として判定された被加工材は54個であり、そのうち伸びフランジ割れが生じた製品は51個であった(伸びフランジ割れ率は94.4%)。一方、不良品として判定されなかった残りの446個のうち、伸びフランジ割れが生じた製品は3個であった(伸びフランジ割れ率は0.67%)。この実施例より、本発明による不良品判定が正しく行えており、量産ラインでの歩留まり向上に効果があることが分かる。
【実施例3】
【0030】
本発明の効果を確かめるため、図11に示す成形加工装置列による実験を行った。装置列構成、センサー、被加工材については実施例1と同様である。打ち抜き金型のダイ3は金型ベッド27と一体とし、打ち抜き中にクリアランスが狂うことがないようにした。また、発明の効果を分かり易くするべく、打ち抜きパンチ2の素材にビッカース硬さ200Hv程度の焼入れなしのものを使用してパンチ刃先の磨耗を起こりやすくした。
本実施例では、打ち抜き破面測定工程で測定された破断面率が41%以下となった時点で打ち抜きパンチ2を交換する場合と交換しない場合の2通りの方法で500個の製品を成形する実験を行った。図15にそれぞれの場合の伸びフランジ割れ率を示す。図15より、金型交換を行わない場合に比べて、打ち抜き破面測定結果から金型交換を行う場合は伸びフランジ割れ発生率が10分の1以下となっていることが分かる。本発明が量産ラインでの歩留まり向上に有効であることが分かる。
【実施例4】
【0031】
本発明の効果を確かめるため、破面測定手段を図16に示すようにCCDカメラ25による画像計測とし、それ以外の条件が実施例2と同じである実験を行った。
不良品として判定された被加工材は48個であり、そのうち伸びフランジ割れが生じた製品は48個(伸びフランジ割れ率100%)であった。一方、不良品として判定されなかった残りの452個のうち、伸びフランジ割れが生じた製品は7個であった(1.55%の伸びフランジ割れ率)。この実施例より、本発明による不良品判定が正しく行えており、量産ラインでの歩留まり向上に効果があることが分かる。
【実施例5】
【0032】
本発明の効果を確かめるため、破面測定手段を図17に示すように接触式の変位計26とし、それ以外の条件が実施例2と同じである実験を行った。
不良品として判定された被加工材は62個であり、そのうち伸びフランジ割れが生じた製品は61個であった(伸びフランジ割れ率98.4%)。一方、不良品として判定されなかった残りの438個のうち、伸びフランジ割れが生じた製品は2個であった(伸びフランジ割れ率0.46%)。この実施例より、本発明による不良品判定が正しく行えており、量産ラインでの歩留まり向上に効果があることが分かる。
【図面の簡単な説明】
【0033】
【図1】打ち抜きによる切断加工を模式的に示した図である。
【図2】打ち抜きによる切断加工の被加工材端面を模式的に示す図である。
【図3】2次、3次せん断面をもつ打ち抜き破面を模式的に示す図である。
【図4】本発明の装置列例を示す図である。
【図5】ネジ締めによる打ち抜き工具のクリアランス調整機構例を示す図である。
【図6】レーザー変位計による打ち抜き破面測定を模式的に示す図である。
【図7】レーザー変位計により測定した打ち抜き破面形状を示した図である。
【図8】CCDカメラにより測定した打ち抜き破面形状を示した図である。
【図9】接触式変位計による打ち抜き破面測定を模式的に示す図である。
【図10】ベルトコンベア式搬送装置により、不良判定品と正常品を区分けする機構を模式的に示した図である。
【図11】実施例1〜5に使用した装置列を模式的に示した図である。
【図12】実施例1で使用した打ち抜き破面測定用のセンサー配置を模式的に示した図である。
【図13】実施例1〜5における打ち抜き切断形状を模式的に示した平面図である。
【図14】実施例1における成形成功率と成形不良率(伸びフランジ割れ率)を示したグラフである。
【図15】実施例3における成形不良率(伸びフランジ割れ率)と成形成功率を示したグラフである。
【図16】実施例4で使用した打ち抜き破面測定用のセンサー配置を模式的に示した図である。
【図17】実施例5で使用した打ち抜き破面測定用のセンサー配置を模式的に示した図である。
【図18】実施例1〜5における、伸びフランジ成形後の製品形状を示した図である。
【符号の説明】
【0034】
1 被加工材
2 打ち抜きパンチ
3 打ち抜きダイ
4 打ち抜き破面におけるだれ
5 打ち抜き破面におけるせん断面
6 打ち抜き破面におけるばり
7 打ち抜き破面における2次せん断面
8 打ち抜き破面における3次せん断面
9 本発明装置列における打ち抜き工程(手段)
10 本発明装置列における搬送工程(ロボットアーム)
11 本発明装置列における成形工程(手段)
12 搬送装置における被加工材1クランプ部
13 打ち抜き破面
14 ダイ固定・位置調整用のネジ(制御手段)
15 打ち抜き破面における破断面
16 レーザー光
17 レーザー変位計(測定手段)
18 接触式変位計の測定プローブ(測定手段)
19 打ち抜き破面上の接触式変位計により走査される部分
20 被加工材搬送用ベルトコンベア(取り外し手段)
21 被加工材搬送用ロボットハンド
22 打ち抜き用プレス装置
23 伸びフランジ成形用プレス装置
24 搬送装置に組み込まれたレーザー変位計(測定手段)
25 搬送装置に組み込まれたCCDカメラ(測定手段)
26 搬送装置に組み込まれた接触式変位計(測定手段)
27 打ち抜き金型ベッド

【特許請求の範囲】
【請求項1】
金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、その測定結果に基づいて打ち抜き加工のクリアランス、打ち抜き速度、打ち抜き荷重のいずれか1つ以上を制御することを特徴とする金属材料の成形加工方法。
【請求項2】
金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、前記測定値が所定値を超えたとき又は所定値を下回ったとき、打ち抜き後の金属材料を加工工程から取り除くことを特徴とする金属材料の成形加工方法。
【請求項3】
金属材料を打ち抜き加工した後、成形加工を行う方法において、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定し、前記測定値が予め定めた基準を超えたとき又は下回ったとき、打ち抜き金型の交換又は打抜き刃の再研削を行うことを特徴とする金属材料の成形加工方法。
【請求項4】
前記測定が、レーザー変位計によることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
【請求項5】
前記測定が、画像計測によることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
【請求項6】
前記測定が、接触式変位計によることを特徴とする請求項1〜3の何れか1項に記載の金属材料の成形加工方法。
【請求項7】
上流側から順に、金属材料の打ち抜き加工手段と、打ち抜き後の打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上を測定する測定手段と、打ち抜き後の金属材料を成形する成形手段を有することを特徴とする金属材料の成形加工装置列。
【請求項8】
更に、打ち抜き加工手段は、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて打ち抜き加工手段のクリアランス、打抜き速度、打抜き荷重の何れか1つ以上を制御する制御手段を有することを特徴とする請求項7記載の金属材料の成形加工装置列。
【請求項9】
更に、測定手段と成形手段の間に、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて、前記測定値が所定値を超えたとき又は所定値を下回ったときの打ち抜き後の金属材料を外す取り外し手段を有することを特徴とする請求項7記載の金属材料の成形加工装置列。
【請求項10】
更に、測定手段と成形手段の間、又は成形手段の後に、測定された打ち抜き破面のだれ率、せん断面率、破断面率のいずれか1つ以上に基づいて、前記測定値が予め定めた基準を超えたとき又は下回ったとき、打ち抜き金型を交換する判定を行う判定手段を有することを特徴とする請求項7記載の金属材料の成形加工装置列。

【図1】
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【図2】
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【図3】
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【図4】
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【図5】
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【図6】
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【図7】
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【図8】
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【図9】
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【図10】
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【図11】
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【図12】
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【図13】
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【図14】
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【図15】
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【図16】
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【図17】
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【図18】
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【公開番号】特開2008−264795(P2008−264795A)
【公開日】平成20年11月6日(2008.11.6)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2007−107321(P2007−107321)
【出願日】平成19年4月16日(2007.4.16)
【出願人】(000006655)新日本製鐵株式会社 (6,474)
【Fターム(参考)】