説明

金属磁性ナノ粒子群及びその製造方法

【課題】耐酸化性に優れ、様々な用途に適用できるようにその形態が制御された金属磁性ナノ粒子群及びその製造方法を提供する。
【解決手段】磁性金属で構成されるコア金属粒子11がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜12で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子10が個々に分散したもの(図1(a))、及び/または前記コア金属粒子11が前記金属酸化物の塊22の中で複数分散してなるもの(図1(b))を有し、耐酸化性に優れることを特徴とする。

【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明は、耐酸化性に優れた金属磁性ナノ粒子群及びその製造方法に関するものであり、高密度磁気記録媒体、電磁波遮蔽、スピン依存伝導現象を利用した電子デバイス、先端免疫検査システム、薬物輸送システム等に用いられる金属磁性ナノ粒子群及びその製造方法に関するものである。
【背景技術】
【0002】
磁性ナノ粒子は、高密度磁気記録媒体、電磁波遮蔽、スピン依存伝導現象を利用した電子デバイス、先端免疫検査システム、薬物輸送システム等、様々な次世代ナノテクノロジーデバイス実現に向けた重要な材料として注目されている。これらの磁性ナノ粒子の応用に向けて、磁性ナノ粒子群として均一な形状及び粒径を有する必要がある。特に、金属や合金系磁性材料は大きな磁気モーメントを示すため、その均一ナノ粒子化が望まれている。
【0003】
磁性ナノ粒子群の合成法に関して、液相合成法によると粒子形状及びサイズの均一化が可能であることが知られており、これまでに、Fe、Co、Niおよびこれらの合金材料について液相合成法による均一ナノ粒子化が報告されている(例えば、非特許文献1〜4、特許文献1参照。)。
【0004】
【非特許文献1】S.−J.Park,S.Kim,S.Lee,Z.G.Khim,K.Char,and T.Hyeon,J.Am.Chem.Soc.122,8581(2000)
【非特許文献2】S.Sun and C.B.Murray,J.Appl.Phys.85,4325(1999)
【非特許文献3】V.F.Puntes,K.M.Krishan,and A.P.Alivisatos,Science 291,2115(2001)
【非特許文献4】D.H.Chen and S.H.Wu,Chem.Mater.12,1354(2000).
【特許文献1】特開2000−54012号公報
【発明の開示】
【発明が解決しようとする課題】
【0005】
しかしながら、上記合成法により得られた金属磁性ナノ粒子群は、化学的な安定性が低く、ナノ粒子群はそれぞれ大気中で経時的に酸化され、その磁気モーメントは徐々に小さくなってしまう問題があった。したがって、このような経時劣化を起こすナノ粒子群を組み込んだシステムの信頼性には限界があった。
【0006】
本発明は、以上の従来技術における問題に鑑みてなされたものであり、耐酸化性に優れ、様々な用途に適用できるようにその形態が制御された金属磁性ナノ粒子群及びその製造方法を提供することを目的とする。
【課題を解決するための手段】
【0007】
前記課題を解決するために提供する本発明は、磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子が個々に分散したもの、及び/または前記コア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものを有し、耐酸化性に優れることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群である(請求項1)。
【0008】
ここで、請求項1の発明において、前記磁性金属は、Fe、CoおよびNiから選ばれる元素の単体、二元合金および三元合金、若しくはFe窒化物、Fe炭化物からなる群から選択されるものであることが好ましい。
【0009】
また、請求項1の発明において、前記金属酸化物は、Fe、Co、Ni、Mn、Zn、Si、Ti,Al、Zrから選ばれる少なくとも1つの元素からなる酸化物であることが好ましい。
【0010】
前記課題を解決するために提供する本発明は、磁性金属で構成されるコア金属粒子が、その表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなり、耐酸化性に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子及び前記磁性金属と異種の金属の有機金属化合物からなる金属前駆体Aを有機溶液中に混合する第1の工程と、調製した前記混合溶液を加熱して前記金属前駆体Aの熱分解により前記コア金属粒子の表面に金属を析出させる第2の工程と、析出した前記金属を酸化させて前記金属酸化物とする第3の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法である(請求項4)。
【0011】
ここで、請求項4の発明において、前記金属前駆体Aは、前記磁性金属と異種の金属のカルボニル錯体であることが好ましい。
また、前記金属前駆体A中の金属イオンとコア金属粒子とのモル比が0.4〜5の範囲内であることが好ましい。
さらに、前記第2の工程における加熱が、200℃〜300℃の温度範囲で行われることが好適である。
【0012】
前記課題を解決するために提供する本発明は、磁性金属で構成されるコア金属粒子が、その表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなり、耐酸化性に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子、前記磁性金属と異種の金属の塩からなる金属前駆体B及び反応開始剤を有機溶液中に混合する第1の工程と、調製した前記混合溶液を加熱して前記金属前駆体Bの還元反応により前記コア金属粒子の表面に金属を析出させる第2の工程と、析出した前記金属を酸化させて前記金属酸化物とする第3の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法である(請求項8)。
【0013】
ここで、請求項8の発明において、前記金属前駆体Bは、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトネート、鉄(III)アセチルアセトネート、塩化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトネート、コバルト(III)アセチルアセトネート、クエン酸コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトネート、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、マンガン(II)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネート、塩化亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトネート及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種または2種以上の金属塩であることが好ましい。
【0014】
また、請求項8の発明において、前記金属前駆体B中の金属イオンとコア金属粒子とのモル比が0.3〜5の範囲内であることが好ましい。
さらに、前記反応開始剤は、8〜22個の炭素原子を含む1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、スーパーハイドライド及びヒドラジンからなる群から選択される1種または2種以上の還元剤であることが好ましい。また、前記第2の工程における加熱が、100℃〜300℃の温度範囲で行われることが好適である。
【0015】
また、請求項4〜12のいずれか一の発明の前記第1の工程において、混合溶液に分散安定化剤を添加することにより、当該金属磁性ナノ粒子群の形態を制御することが好ましい。
【0016】
このとき、前記分散安定化剤は、式:R−X(式中、Rは6〜22個の炭素原子を含む直鎖、分岐または環状炭化水素鎖から選択される基であり、Xはカルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィン、スルホン酸、スルフィン酸、アミンからなる群から選択される基を表す。)
で表される1種または2種以上の有機化合物であることが好適である。
【0017】
また、前記分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1〜100として、磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子を個々に分散した状態で生成するとよい。
【0018】
また、前記分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1未満、または0として、磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子が個々に分散したもの、及び前記コア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものを生成するとよい。
【0019】
前記課題を解決するために提供する本発明は、磁性金属で構成されるコア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものであり、耐酸化成に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子、及び前記磁性金属と異種の金属のアルコキシドとカップリング剤とからなる金属酸化物前駆体を有機溶液中に混合する第1の工程と、前記金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応により前記コア金属粒子の表面に前記金属酸化物を析出させる第2の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法である(請求項17)。
【0020】
ここで、請求項17の発明において、前記金属アルコキシドは、Si、Ti、Al及びZrの何れかのイオンを含み、アルコキシ基を二個以上含んでなる群から選択される1種または2種以上のものであることが好ましい。
【0021】
また、請求項17の発明において、前記カップリング剤は、下記一般式(1)で表される群から選択される1種または2種以上のものであることが好ましい。
【0022】
【化2】

【0023】
なお、式中、AはSi及びTiイオンの何れかであり、X、X、Xはそれぞれアミノ基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの誘導体を含み、R、R、Rはそれぞれアルコキシ基、水酸基、及びハロゲンの何れかである。
【発明の効果】
【0024】
本発明の金属磁性ナノ粒子群によれば、耐酸化性に優れ、用途ごとにその用途に最適な形態の金属磁性ナノ粒子群を提供することができる。
また、本発明の金属磁性ナノ粒子群の製造方法によれば、上記金属磁性ナノ粒子群を様々な用途に適用できるように形態を制御して製造することが可能となる。
【発明を実施するための最良の形態】
【0025】
以下に、本発明に係る金属磁性ナノ粒子群の構成について説明する。
図1は、本発明に係る金属磁性ナノ粒子群の断面図である。
図1に示すように、本発明の金属磁性ナノ粒子群は、磁性金属で構成されるコア金属粒子11がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜12で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子10が個々に分散したもの(図1(a))、及び/または前記コア金属粒子11が前記金属酸化物の塊22の中で複数分散してなるもの(図1(b))を有し、耐酸化性に優れることを特徴とする。
【0026】
すなわち、図1(a)に示す金属磁性ナノ粒子群は、磁性金属で構成される複数のコア金属粒子11それぞれの表面が前記磁性金属と異種の金属からなる金属酸化物の皮膜12で被覆されることにより耐酸化性に優れるものである。また、金属磁性ナノ粒子10はそれぞれの表面が図示していない分散安定化剤層に周囲を囲まれていることにより溶液中に分散した状態で得られる。
【0027】
また、図1(b)に示す金属磁性ナノ粒子群は、図中コア金属粒子11を複数含んだ金属酸化物の塊22ひとつを一単位として、通常複数の塊22が溶液中で凝集、沈殿した状態で得られる。
【0028】
このため、上記いずれの金属磁性ナノ粒子群を用いる場合も、用途に応じて金属磁性ナノ粒子10及び/またはコア金属粒子11を複数含んだ金属酸化物の塊22を対象物の任意の場所に、あるいは任意の状態(分散させる、または集合させる)で含ませることが可能であり、それによって金属磁性ナノ粒子としての特性を効率的に引き出すことができる。
【0029】
コア金属粒子11は、磁性金属からなるナノメータ(nm)サイズの粒子であり、液相合成されたものであることが好ましい。液相合成法とは、金属塩、有機金属化合物などを液中に溶解させ、還元或いは分解等により、粒子を析出させる方法である。公知の液相合成法として、共沈法、アルコール還元法、有機金属化合物の熱分解、逆ミセル法、超音波法、エレクトライド還元法がある。各手法により合成された粒子群の形状及び粒径の均一性、収量、取り扱いの難易を考慮すると、本発明で使用されるコア金属粒子は、アルコール還元法或いは有機金属化合物の熱分解により得られた粒子群であることが望ましい。
【0030】
また、コア金属粒子11を構成する磁性金属は、Fe、CoおよびNiから選ばれる元素の単体、二元合金および三元合金、若しくはFe窒化物、Fe炭化物からなる群から選択されるものである。
【0031】
コア金属粒子11は、粒径は20nm以下であることが好ましい。また、粒径分散(%)=(標準偏差/平均粒径)×100(%)とした場合に、粒径分散が小さいほど、金属磁性ナノ粒子群を組み込んだ素子の高性能化が見込まれる。例えば、粒径分散は30%以下、好ましくは10%以下、更に好ましくは5%以下である。
【0032】
前記皮膜12及び塊22を構成する金属酸化物は、コア金属粒子11を構成する磁性金属とは異種の金属の酸化物であり、具体的にはFe、Co、Ni、Mn、Zn、Si、Ti,Al、Zrから選ばれる少なくとも1つの元素からなる酸化物である。
【0033】
金属酸化物の皮膜11の厚みは、1nm以上であることが好ましい。
また、図1(b)において、コア金属粒子11は、金属酸化物の塊21の表面から1nm以上内側に配置されていることが好ましい。
いずれの場合も、コア金属粒子11の表面に1nm以上の厚みの金属酸化物が存在することにより、コア金属粒子11の酸化を抑制することができる。
【0034】
次に、本発明に係る金属磁性ナノ粒子群の製造方法について説明する。
本発明の金属磁性ナノ粒子群は、(工程1)所定成分の混合溶液の調製工程、(工程2)金属または金属酸化物の析出工程、(工程3,4)その他の工程を経て製造される。
本発明では、(1)金属前駆体Aの熱分解を利用した製造方法、(2)金属前駆体Bの還元反応を利用した製造方法、(3)金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応を利用した製造方法があり、ぞれぞれの詳細を以下に説明する。
【0035】
(1)金属前駆体Aの熱分解を利用した製造方法
(S11)不活性雰囲気下において、有機溶媒中で、コア金属粒子11及びコア金属粒子11を構成する磁性金属と異種の金属の有機金属化合物からなる金属前駆体Aを混合し、混合溶液を調製する。
【0036】
金属前駆体Aとして、前記金属元素のカルボニル錯体を使用することが好ましい。この金属カルボニル錯体は、例えばFe(CO)、Co(CO)、[Co(CO)NO]、Ni(CO)、Mn(CO)10からなる群から選択される1種または2種以上のものである。
【0037】
ここで、金属カルボニル錯体中の金属イオンとコア金属粒子11とのモル比が0.4〜5の範囲内であることが好ましい。前記モル比が0.4未満である場合、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、金属磁性ナノ粒子群の耐酸化性は悪くなる。一方、前記モル比が5よりも大きい場合、金属元素析出速度が速すぎるため、金属単独析出が起こり、コア金属粒子11表面上への析出が阻害されてしまう。その結果、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0038】
なお、金属前駆体Aとしては、酢酸鉄(II)、鉄(II)アセチルアセトナト、鉄(III)アセチルアセトナト、酢酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトナト、コバルト(III)アセチルアセトナト、酢酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトナト、酢酸マンガン(II)、マンガン(II)アセチルアセトナト、マンガン(III)アセチルアセトナト、酢酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトナトからなる群から選択される1種または2種以上の金属塩を用いてもよい。
【0039】
有機溶媒は、200℃以上の沸点を有するものであることが好ましく、エーテルであることが望ましい。特に、ジフェニルエーテル、ジオクチルエーテル、ジベンジルエーテル等の高沸点溶媒が好適である。
【0040】
(S12)工程S11で調整した混合溶液を加熱し、金属前駆体Aの熱分解によりコア金属粒子11の表面に金属を析出させる。
【0041】
ここで、混合溶液の加熱は200〜300℃の温度範囲で行われることが望ましい。ここで、加熱温度は低い方が望ましい。加熱温度が低いほど、金属析出速度は遅くなり、コア金属粒子表面上への金属析出が促される。ただし、加熱温度が200℃よりも低い場合、金属前駆体Aの熱分解が起こらず、金属析出しない。一方、加熱温度が300℃よりも高い場合、金属析出速度が大きすぎるため、金属単独析出が起こり、コア金属粒子11表面上への析出が阻害されてしまう。その結果、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。また、加熱時間は5分〜2時間程度でよい。
【0042】
(S13)その後、混合溶液中に酸化剤(酸素あるいは過酸化物)を添加し、室温以上に保つことにより、析出した前記金属を酸化させて金属酸化物とする。これにより、図1(a)及び図1(b)の両形態の金属磁性ナノ粒子群が生成される。
なお、この酸化処理は後述のS14の後に行ってもよい。
【0043】
(S14)工程S13の生成物を分離、精製する。具体的には、工程S12の溶液にエタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加した後、デカンテーション或いは遠心分離により前記生成物を分離するとよい。また、分離された生成物について、エタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加して分離する操作を複数回繰り返して行い、生成物を精製する。
最後に、分離、精製された生成物を、トルエン或いはヘキサン等の無極性溶媒中に混ぜて金属磁性ナノ粒子群の製造が終了する。
【0044】
ここで、上記工程S11において、混合溶液に分散安定化剤として、式:R−X(式中、Rは6〜22個の炭素原子を含む直鎖、分岐または環状炭化水素鎖から選択される基であり、Xはカルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィン、スルホン酸、スルフィン酸、アミンからなる群から選択される基を表す。)で表される1種または2種以上の有機化合物を添加するとよい。
【0045】
分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1〜100に調整することが好ましい。これにより、上記分散安定化剤を添加することにより、金属磁性ナノ粒子群を図1(a)で示した形態のみに制御することもでき、同時に前記溶媒中への分散性を向上させることもできる。
【0046】
前記モル比が0.1未満である場合は、図1(b)で示した形態の金属磁性ナノ粒子群も含まれた凝集物が形成される。すなわち、分散安定化剤を併用する製造法においても、金属磁性ナノ粒子群を図1(a)及び図1(b)の両形態を含んだ、凝集物として製造することができる。このような金属磁性ナノ粒子群の形態は、用途に応じて最適な形態を選択すればよく、そのために適宜製造条件を調整すれば良い。
なお、前記モル比が100よりも大きい場合、金属析出速度が著しく小さくなってしまい、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0047】
また、上記のようにして得られた金属磁性ナノ粒子群を工程S11におけるコア金属粒子の代わりに用いて、工程S11〜S14を再度繰り返すことによって、金属酸化物の被覆を厚くすることも可能である。
【0048】
(2)金属前駆体Bの還元反応を利用した製造方法
(S21)不活性雰囲気下において、有機溶媒中で、コア金属粒子11、コア金属粒子11を構成する磁性金属と異種の金属の塩からなる金属前駆体B及び反応開始剤を混合し、混合溶液を調製する。
【0049】
金属前駆体Bは、例えば塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトネート、鉄(III)アセチルアセトネート、塩化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトネート、コバルト(III)アセチルアセトネート、クエン酸コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトネート、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、マンガン(II)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネート、塩化亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトネート及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種または2種以上の金属塩であることが好ましい。
【0050】
このとき、金属前駆体B中の金属イオンとコア金属粒子とのモル比が0.3〜5の範囲内であることが好ましい。前記モル比が0.3未満である場合、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、金属磁性ナノ粒子群の耐酸化性は悪くなる。一方、前記モル比が5よりも大きい場合、金属元素析出速度が速すぎるため、金属単独析出が起こり、コア金属粒子11表面上への析出が阻害されてしまう。その結果、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0051】
反応開始剤は、8〜22個の炭素原子を含む1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、スーパーハイドライド及びヒドラジンからなる群から選択される1種または2種以上の還元剤である。
【0052】
このとき、還元剤と金属前駆体B中の金属イオンとのモル比が0.1〜50の範囲内であることが好ましい。前記モル比が0.1未満である場合、金属析出速度が著しく遅くなってしまい、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。一方、前記モル比が50よりも大きい場合、金属元素析出速度が速すぎるため、金属単独析出が起こり、コア金属粒子表面上への析出が阻害されてしまう。その結果、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0053】
有機溶媒は、100℃以上の沸点を有するものであることが好ましい。
【0054】
(S22)工程S21で調整した混合溶液を加熱し、金属前駆体Bの還元反応によりコア金属粒子11の表面に金属を析出させる。
【0055】
ここで、混合溶液の加熱は100〜300℃の温度範囲で行われることが望ましい。ここで、加熱温度は低い方が望ましい。加熱温度が低いほど、金属析出速度は遅くなり、コア金属粒子表面上への金属析出が促される。ただし、加熱温度が100℃よりも低い場合、金属前駆体Bの還元反応が進まないため、工業的に不適である。一方、加熱温度が300℃よりも高い場合、金属析出速度が大きすぎるため、金属単独析出が起こり、コア金属粒子11表面上への析出が阻害されてしまう。その結果、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。また、加熱時間は5分〜2時間程度でよい。
【0056】
(S23)その後、混合溶液中に酸化剤(酸素あるいは過酸化物)を添加し、室温以上に保つことにより、析出した前記金属を酸化させて金属酸化物とする。これにより、図1(a)及び図1(b)の両形態の金属磁性ナノ粒子群が生成される。
なお、この酸化処理は後述のS24の後に行ってもよい。
【0057】
(S24)工程S23の生成物を分離、精製する。具体的には、工程S22の溶液にエタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加した後、デカンテーション或いは遠心分離により前記生成物を分離するとよい。また、分離された生成物について、エタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加して分離する操作を複数回繰り返して行い、生成物を精製する。
最後に、分離、精製された生成物を、トルエン或いはヘキサン等の無極性溶媒中に混ぜて金属磁性ナノ粒子群の製造が終了する。
【0058】
ここで、上記工程S21において、混合溶液に分散安定化剤として、式:R−X(式中、Rは6〜22個の炭素原子を含む直鎖、分岐または環状炭化水素鎖から選択される基であり、Xはカルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィン、スルホン酸、スルフィン酸、アミンからなる群から選択される基を表す。)で表される1種または2種以上の有機化合物を添加するとよい。
【0059】
また、分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1〜100に調整することが好ましい。これにより、上記分散安定化剤を添加することにより、金属磁性ナノ粒子群を図1(a)で示した形態のみに制御することもでき、同時に前記溶媒中への分散性を向上させることもできる。
【0060】
前記モル比が0.1未満である場合は、図1(b)で示した形態の金属磁性ナノ粒子群も含まれた凝集物が形成される。すなわち、分散安定化剤を併用する製造法においても、金属磁性ナノ粒子群を図1(a)及び図1(b)の両形態を含んだ、凝集物として製造することができる。このような金属磁性ナノ粒子群の形態は、用途に応じて最適な形態を選択すればよく、そのために適宜製造条件を調整すれば良い。
なお、前記モル比が100よりも大きい場合、金属析出速度が著しく小さくなってしまい、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0061】
また、上記のようにして得られた金属磁性ナノ粒子群を工程S21におけるコア金属粒子の代わりに用いて、工程S21〜S24を再度繰り返すことによって、金属酸化物の被覆を厚くすることも可能である。
【0062】
(3)金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応を利用した製造方法
(S31)不活性雰囲気下において、有機溶媒中で、コア金属粒子11、及び磁性金属と異種の金属のアルコキシドとカップリング剤とからなる金属酸化物前駆体を混合し、混合溶液を調製する。
【0063】
金属アルコキシドは、下記一般式(2)で表される群から選択される1種または2種以上のものであることが好ましい。
(R44-x ― B ― (R5x ・・・ (2)
なお、式中、BはSi、Ti、Al、及びZrの何れかであり、R4はアルキル基、フェニル基及びそれらの誘導体の何れかであり、R5はアルコキシ基である。x = 2,3,4の何れかである。
【0064】
このとき、金属アルコキシドとコア金属粒子のモル比は、0.3以上であることが好ましい。前記モル比が0.3未満である場合、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。前記モル比が大きいほど、より厚い金属酸化物の被覆層が形成される。
【0065】
カップリング剤は、下記一般式(1)で表される群から選択される1種または2種以上のものであることが好ましい。
【0066】
【化3】

【0067】
なお、式中、AはSi及びTiイオンの何れかであり、X、X、Xはそれぞれアミノ基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの誘導体を含み、R、R、Rはそれぞれアルコキシ基、水酸基、及びハロゲンの何れかである。
【0068】
このとき、カップリング剤とコア金属粒子のモル比は、0.1〜100の範囲内が好ましい。前記モル比が0.1未満である場合、コア金属粒子の表面修飾が不完全になり、該コア金属粒子の表面の一部あるいは全部が金属酸化物で被覆されないことがある。これにより、耐酸化性が悪くなる。一方、前記モル比が100よりも大きい場合、金属酸化物中に大量のカップリング剤が取り込まれ、ポーラスな金属酸化物被覆が形成されてしまう。細孔部分から酸素が進入してくるため、耐酸化性は悪くなる。
【0069】
有機溶媒は、トルエン或いはヘキサン等の無極性有機溶媒が好適である。
【0070】
(S32)工程S31で調整した混合溶液において、金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応によりコア金属粒子11の表面に前記金属酸化物を析出させる。具体的には、カップリング剤によってコア金属粒子の表面が修飾され、修飾された表面が反応起点となり、カップリング剤及び金属アルコキシドが加水分解及び脱水縮合されて、金属酸化物の被覆が形成される。
【0071】
このとき、混合溶液を室温以上に保つとよい。これにより、金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合が進行し、金属酸化物の被覆が形成される。また、加水分解を促進させるため、水分を含んだ不活性ガスをバブリングしても良い。
上記反応により、図1(b)の形態の金属磁性ナノ粒子群が生成される。
【0072】
(S33)工程S32の生成物を分離、精製する。具体的には、工程S32の溶液にエタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加した後、デカンテーション或いは遠心分離により前記生成物を分離するとよい。また、分離された生成物について、エタノール或いはアセトン等の極性有機溶媒を添加して分離する操作を複数回繰り返して行い、生成物を精製する。
最後に、分離、精製された生成物を、トルエン或いはヘキサン等の無極性溶媒中に混ぜて金属磁性ナノ粒子群の製造が終了する。
【0073】
ここで、上記工程S31において、混合溶液に分散安定化剤として、式:R−X(式中、Rは6〜22個の炭素原子を含む直鎖、分岐または環状炭化水素鎖から選択される基であり、Xはカルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィン、スルホン酸、スルフィン酸、アミンからなる群から選択される基を表す。)で表される1種または2種以上の有機化合物を添加するとよい。
【0074】
また、分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1〜100に調整することが好ましい。これにより、上記分散安定化剤を添加することにより、金属磁性ナノ粒子群の前記溶媒中への分散性を向上させることができる。
【0075】
前記モル比が0.1未満である場合は図1(b)の金属磁性ナノ粒子群が凝集した状態となり好ましくない。また、前記モル比が100よりも大きい場合、金属析出速度が著しく小さくなってしまい、充分な厚みの金属酸化物の被覆が出来ないため、耐酸化性は悪くなる。
【0076】
なお、工程33の生成物の分離、精製が終了した時点で、生成物を200〜700℃に加熱してもよい。加熱により、酸化物被覆内に存在する細孔が圧縮されて微細化するため、より耐酸化性に優れた被覆が形成される。但し、700℃よりも高い温度で加熱すると、酸化物の結晶化に伴い、亀裂が生じてしまう。亀裂部分から酸素が進入してくるため、耐酸化性は悪くなる。
【実施例】
【0077】
以下に、本発明の金属磁性ナノ粒子群の製造方法により金属磁性ナノ粒子群を作製した例を示す。なお、以下に示すものは例示であり、本発明はこれに限定されるものではない。
【0078】
(実施例1)
(1)金属前駆体Aの熱分解を利用した製造方法により、金属磁性ナノ粒子群を作製した。その詳細を以下に示す。
合成はAr雰囲気下で行った。コア金属粒子にはアルコール還元法により合成したCoナノ粒子群(平均粒径7.2nm、粒径分散22%)(0.33mmol)、金属前駆体AにはFe(CO)(0.55mmol)、分散安定化剤にはオレイン酸(0.55mmol)、有機溶媒にはジオクチルエーテル(10ml)を用いて、混合溶液を調整した。
つぎに、混合溶液を260℃で30分間加熱した。また室温まで冷却後、酸素バブリングすることにより、Co/Fe複合体である金属磁性ナノ粒子群を合成した。
最後に金属磁性ナノ粒子群を分離、精製後、トルエン中に混合した。このとき、金属磁性ナノ粒子群は優れた分散性を示した。得られた金属磁性ナノ粒子群のTEM像を図2に示す。Coコア金属粒子は個別にFe皮膜(厚さ2.2nm)で被覆されていることが確認された(図1(a)の形態)。
【0079】
得られた金属磁性ナノ粒子群の耐酸化性を、磁化経時変化測定により評価した。すなわち、金属磁性ナノ粒子群を大気暴露後直ちに振動試料型磁力計にセットし、外部磁場10 kOeにおける磁化経時変化を測定した。Coは酸化によって、CoO或いはCoに変化し、磁化が低下してしまう。室温、50℃、80℃において測定した磁化経時変化を図3(a)に示す。また、比較例1として上記コア金属粒子(アルコール還元法により合成したCoナノ粒子群(平均粒径7.2nm、粒径分散22%))の耐酸化性を測定した結果を図3(b)に示す。
【0080】
以上の結果、環境温度が高いほど磁化の劣化量は大きかったが、何れの環境温度においても、本実施例の金属磁性ナノ粒子群は比較例1よりも、耐酸化性の向上が確認された。
【0081】
なお、上記合成条件において、分散安定化剤を使用しなかった場合には、金属磁性ナノ粒子群として、図1(a)及び図1(b)の両形態を含んだ、凝集物として合成された。
【0082】
また、上記合成条件において、金属前駆体AとしてNi(CO)を使用した場合、Coコア金属粒子の表面がNiO皮膜で被覆された金属磁性ナノ粒子群が得られた(図1(a)の形態)。耐酸化性を評価した結果、上記金属磁性ナノ粒子群(図2)よりもCoの磁化低下量はさらに低く抑えられ、より優れた耐酸化性を示すことが分かった。
【0083】
(実施例2)
(2)金属前駆体Bの還元反応を利用した製造方法により、金属磁性ナノ粒子群を作製した。その詳細を以下に示す。
合成はAr雰囲気下で行った。コア金属粒子としてアルコール還元法により合成したCoナノ粒子群(平均粒径7.2nm、粒径分散22%)(0.33mmol)、金属前駆体BにはFeCl・4HO(0.55mmol)、分散安定化剤にはオレイン酸(0.55mmol)、反応開始剤には1,2−ヘキサデカンジオール(2.0mmol)、有機溶媒にはジフェニルエーテル(10ml)を用いて、混合溶液を調整した。
つぎに、混合溶液を250℃で30分間加熱した。また室温まで冷却後、酸素バブリングすることにより、Co/Fe複合体である金属磁性ナノ粒子群を合成した。
最後に金属磁性ナノ粒子群を分離、精製後、トルエン中に混合した。このとき、該金属磁性ナノ粒子群は優れた分散性を示した。得られた金属磁性ナノ粒子群についてTEM観察したところ、Coコア金属粒子は個別にFe皮膜(厚さ2.5nm)で被覆されていることが確認された(図1(a)の形態)。
磁化低下量はさらに低く抑えられ、より優れた耐酸化性を示すことが分かった。
【0084】
得られた金属磁性ナノ粒子群について、金属酸化物被覆していないCoコア金属粒子(平均粒径7.2nm、粒径分散22%)(比較例2)とともに上記磁化経時変化測定により耐酸化性の評価を行った。その結果、本実施例の金属磁性ナノ粒子群は比較例2よりも、耐酸化性の向上が確認された。
【0085】
なお、上記合成条件において、分散安定化剤を使用しなかった場合には、金属磁性ナノ粒子群として、図1(a)及び図1(b)の両形態を含んだ、凝集物として合成された。
【0086】
また、上記合成条件において、金属前駆体BとしてNi(CHCOO)・4HOを使用した場合、Coコア金属粒子の表面がNiO皮膜で被覆された金属磁性ナノ粒子群が得られた(図1(a)の形態)。耐酸化性を評価した結果、上記金属磁性ナノ粒子群よりもCoの磁化低下量はさらに低く抑えられ、より優れた耐酸化性を示すことが分かった。
【0087】
(実施例3)
(3)金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応を利用した製造方法により、金属磁性ナノ粒子群を作製した。その詳細を以下に示す。
合成はAr雰囲気下で行った。コア金属粒子としてアルコール還元法により合成したCoナノ粒子群(平均粒径6.2nm、粒径分散19%)(0.045mmol)、金属酸化物前駆体には3−アミノプロピルトリメトキシシラン(0.056mmol)とテトラエトキシシラン(0.044mmol)の組み合わせ、有機溶媒にはトルエン(11ml)を用いて、混合溶液を調整した。
つぎに混合溶液を室温に保ち、水分を含んだArガスをバブリングすることにより、Co/SiO複合体である金属磁性ナノ粒子群を合成した。
最後に、金属磁性ナノ粒子群を分離、精製後、トルエン中に混合した。ここで金属磁性ナノ粒子群は凝集物として得られた。得られた金属磁性ナノ粒子群のTEM像を図4に示す。アモルファスSiOの塊の中にCoコア金属粒子群が密に分散したグラニュラー構造が形成されていることが確認された(図1(b)の形態)。
【0088】
得られた金属磁性ナノ粒子群について、金属酸化物被覆していないCoコア金属粒子(平均粒径6.2nm、粒径分散19%)(比較例3)とともに、上記磁化経時変化測定により耐酸化性の評価を行った。図5に、室温における大気暴露直後からの磁化経時変化を示す(外部磁場:10kOe)。その結果、本実施例の金属磁性ナノ粒子群は比較例3よりも、耐酸化性の向上が確認された。
【0089】
また、上記金属磁性ナノ粒子群は、N雰囲気下500℃でアニールすることによって、Coの磁化低下量はさらに低く抑えられ、より優れた耐酸化性を示した。一方、N雰囲気下800℃でアニール後、Coの磁化低下量は多くなり、耐酸化性は悪くなった。
【0090】
なお、上記合成条件において、分散安定化剤としてオレイン酸を併用して合成した場合、図1(b)に示した形態を持つ金属磁性ナノ粒子群が合成され、トルエンに対して優れた分散性を示した。
【0091】
(実施例4)
(1)金属前駆体Aの熱分解を利用した製造方法により、金属磁性ナノ粒子群を作製した。その詳細を以下に示す。
合成はAr雰囲気下で行った。コア金属粒子としてアルコール還元法により合成したNiナノ粒子群(平均粒径15nm、粒径分散16%)(0.33mmol)、金属前駆体AにはCo(CO)(0.50mmol)、分散安定化剤にはオレイン酸(0.50mmol)、有機溶媒にはジフェニルエーテル(10ml)を用いて、混合溶液を調整した。
つぎに混合溶液を180℃で30分間加熱した。また室温まで冷却後、酸素バブリングすることにより、Ni/CoO複合体である金属磁性ナノ粒子群を合成した。
最後に、金属磁性ナノ粒子群を分離、精製後、トルエン中に混合した。ここで金属磁性ナノ粒子群は優れた分散性を示した。得られた金属磁性ナノ粒子群についてTEM観察したところ、Niコア金属粒子は個別にCoO被覆(厚さ2.1nm)されていることが確認された(図1(a)の形態)。
また、本実施例の金属磁性ナノ粒子群は、酸化物被覆していないNiコア金属粒子(平均粒径15nm、粒径分散16%)と比較して、Niの磁化低下量は低く抑えられ、耐酸化性の向上が確認された。
【0092】
(実施例5)
(2)金属前駆体Bの還元反応を利用した製造方法により、金属磁性ナノ粒子群を作製した。その詳細を以下に示す。
合成はAr雰囲気下で行った。コア金属粒子としてアルコール還元法により合成したFeナノ粒子群(平均粒径10nm、粒径分散19%)(0.33mmol)、金属前駆体BにはNi(CHCOO)・4HO(0.80mmol)、分散安定化剤にはオレイン酸(0.80mmol)、反応開始剤には1−オクタデカノール(3.0mmol)、有機溶媒にはジフェニルエーテル(10ml)を用いて、混合溶液を調整した。
つぎに、混合溶液を250℃で30分間加熱した。また室温まで冷却後、酸素バブリングすることにより、Fe/NiO複合体である金属磁性ナノ粒子群を合成した。
最後に金属磁性ナノ粒子群を分離、精製後、トルエン中に混合した。ここで金属磁性ナノ粒子群は優れた分散性を示した。得られた金属磁性ナノ粒子群についてTEM観察したところ、Feコア金属粒子は個別にNiO被覆(厚さ2.3nm)されていることが確認された(図1(a)の形態)。
また、本実施例の金属磁性ナノ粒子群は、金属酸化物被覆していないFeコア金属粒子(平均粒径10nm、粒径分散19%)と比較して、Feの磁化低下量は低く抑えられ、耐酸化性の向上が確認された。
【図面の簡単な説明】
【0093】
【図1】本発明に係る金属磁性ナノ粒子群の構成を示す断面図である。
【図2】実施例1の金属磁性ナノ粒子群のTEM観察像である。
【図3】実施例1の金属磁性ナノ粒子群の耐酸化性評価結果を示す図である。
【図4】実施例3の金属磁性ナノ粒子群のTEM観察像である。
【図5】実施例3の金属磁性ナノ粒子群の耐酸化性評価結果を示す図である。
【符号の説明】
【0094】
10・・・金属磁性ナノ粒子、11・・・コア金属粒子、12・・・金属酸化物の皮膜、22・・・金属酸化物の塊

【特許請求の範囲】
【請求項1】
磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子が個々に分散したもの、及び/または前記コア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものを有し、耐酸化性に優れることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群。
【請求項2】
前記磁性金属は、Fe、CoおよびNiから選ばれる元素の単体、二元合金および三元合金、若しくはFe窒化物、Fe炭化物からなる群から選択されるものであることを特徴とする請求項1に記載の金属磁性ナノ粒子群。
【請求項3】
前記金属酸化物は、Fe、Co、Ni、Mn、Zn、Si、Ti,Al、Zrから選ばれる少なくとも1つの元素からなる酸化物であることを特徴とする請求項1に記載の金属磁性ナノ粒子群。
【請求項4】
磁性金属で構成されるコア金属粒子が、その表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなり、耐酸化性に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、
不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子及び前記磁性金属と異種の金属の有機金属化合物からなる金属前駆体Aを有機溶液中に混合する第1の工程と、
調製した前記混合溶液を加熱して前記金属前駆体Aの熱分解により前記コア金属粒子の表面に金属を析出させる第2の工程と、
析出した前記金属を酸化させて前記金属酸化物とする第3の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項5】
前記金属前駆体Aは、前記磁性金属と異種の金属のカルボニル錯体であることを特徴とする請求項4に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項6】
前記金属前駆体A中の金属イオンとコア金属粒子とのモル比が0.4〜5の範囲内であることを特徴とする請求項4に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項7】
前記第2の工程における加熱が、200℃〜300℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項4に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項8】
磁性金属で構成されるコア金属粒子が、その表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなり、耐酸化性に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、
不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子、前記磁性金属と異種の金属の塩からなる金属前駆体B及び反応開始剤を有機溶液中に混合する第1の工程と、
調製した前記混合溶液を加熱して前記金属前駆体Bの還元反応により前記コア金属粒子の表面に金属を析出させる第2の工程と、
析出した前記金属を酸化させて前記金属酸化物とする第3の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項9】
前記金属前駆体Bは、塩化鉄(II)、塩化鉄(III)、酢酸鉄(II)、硝酸鉄(III)、硫酸鉄(II)、硫酸鉄(III)、鉄(II)アセチルアセトネート、鉄(III)アセチルアセトネート、塩化コバルト(II)、酢酸コバルト(II)、硝酸コバルト(II)、硫酸コバルト(II)、コバルト(II)アセチルアセトネート、コバルト(III)アセチルアセトネート、クエン酸コバルト(II)、塩化ニッケル(II)、酢酸ニッケル(II)、硝酸ニッケル(II)、硫酸ニッケル(II)、ニッケル(II)アセチルアセトネート、塩化マンガン(II)、酢酸マンガン(II)、酢酸マンガン(III)、硝酸マンガン(II)、硫酸マンガン(II)、マンガン(II)アセチルアセトネート、マンガン(III)アセチルアセトネート、塩化亜鉛(II)、酢酸亜鉛(II)、硝酸亜鉛(II)、硫酸亜鉛(II)、亜鉛(II)アセチルアセトネート及びこれらの誘導体からなる群から選択される1種または2種以上の金属塩であることを特徴とする請求項8に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項10】
前記金属前駆体B中の金属イオンとコア金属粒子とのモル比が0.3〜5の範囲内であることを特徴とする請求項8に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項11】
前記反応開始剤は、8〜22個の炭素原子を含む1価アルコール、2価アルコール、3価アルコール、スーパーハイドライド及びヒドラジンからなる群から選択される1種または2種以上の還元剤であることを特徴とする請求項8に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項12】
前記第2の工程における加熱が、100℃〜300℃の温度範囲で行われることを特徴とする請求項8に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項13】
前記第1の工程において、混合溶液に分散安定化剤を添加することにより、当該金属磁性ナノ粒子群の形態を制御することを特徴とする請求項4〜12のいずれか一に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項14】
前記分散安定化剤は、式:R−X(式中、Rは6〜22個の炭素原子を含む直鎖、分岐または環状炭化水素鎖から選択される基であり、Xはカルボン酸、ホスホン酸、ホスフィン酸、ホスフィン、スルホン酸、スルフィン酸、アミンからなる群から選択される基を表す。)
で表される1種または2種以上の有機化合物であることを特徴とする請求項13に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項15】
前記分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1〜100として、磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子を個々に分散した状態で生成することを特徴とする請求項13に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項16】
前記分散安定化剤とコア金属粒子とのモル比を0.1未満、または0として、磁性金属で構成されるコア金属粒子がその表面を前記磁性金属と異種の金属の金属酸化物の皮膜で被覆されてなる金属磁性ナノ粒子が個々に分散したもの、及び前記コア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものを生成することを特徴とする請求項13に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項17】
磁性金属で構成されるコア金属粒子が前記金属酸化物の塊の中で複数分散してなるものであり、耐酸化成に優れる金属磁性ナノ粒子群の製造方法であって、
不活性雰囲気下において、前記コア金属粒子、及び前記磁性金属と異種の金属のアルコキシドとカップリング剤とからなる金属酸化物前駆体を有機溶液中に混合する第1の工程と、
前記金属酸化物前駆体の加水分解及び脱水縮合反応により前記コア金属粒子の表面に前記金属酸化物を析出させる第2の工程とを備えることを特徴とする金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項18】
前記金属アルコキシドは、Si、Ti、Al及びZrの何れかのイオンを含み、アルコキシ基を二個以上含んでなる群から選択される1種または2種以上のものであることを特徴とする請求項17に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【請求項19】
前記カップリング剤は、下記一般式(1)で表される群から選択される1種または2種以上のものであることを特徴とする請求項17に記載の金属磁性ナノ粒子群の製造方法。
【化1】

なお、式中、AはSi及びTiイオンの何れかであり、X、X、Xはそれぞれアミノ基、カルボン酸基、リン酸基、スルホン酸基及びそれらの誘導体を含み、R、R、Rはそれぞれアルコキシ基、水酸基、及びハロゲンの何れかである。

【図1】
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【図3】
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【図5】
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【図2】
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【図4】
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【公開番号】特開2006−188727(P2006−188727A)
【公開日】平成18年7月20日(2006.7.20)
【国際特許分類】
【出願番号】特願2005−319(P2005−319)
【出願日】平成17年1月5日(2005.1.5)
【出願人】(000002185)ソニー株式会社 (34,172)
【Fターム(参考)】